民事信託支援業務と司法書士の責任―東京地裁令和3年9月17日判決を題材に

市民と法[1]の記事、橋谷聡一大阪経済大学教授「民事信託支援業務と司法書士の責任―東京地裁令和3年9月17日判決を題材に―」からです。

一方、本件において、Yは自らが説明すべき事実について認識していた、あるいは認識し得たのかについて疑問が残る。換言すれば、その専門性に基づく知見や自ら負う義務についての認識がーあくまでも結果論にすぎないがー欠如していたことを認識していたのであろうか。

 私見ですが、この点は認識していなかった可能性が高いのではないかと思います。理由としては、民間の民事信託・家族信託系の資格を持っている(研修を受けている)ので、講師からの情報を基に、これなら大丈夫と考えながら、自分の目の前の具体的な事件に対して、当てはめることをしなかっただけではないかなと感じます。

 例えば、信用金庫提携の士業が研修講師であれば、事前確認しなくとも、多少間違っていても、口座を開設出来るのではないか、などと考えてしまったのかなと思ったりします。

すなわち、形式ではなく実質をみるならば、相談・助言の段階から本件第1委任契約を含む「民事信託支援業務」の履行が開始されていた、あるいは少なくとも本件第1委任契約に直接つながる司法書士の相談業務が開始されていたとみるべきではないか。

 私は委任契約前の相談・助言と、その他の民事信託支援業務の切り離しは可能だと思います。ただし、個別具体的事件に当てはめたとき、実質的に一体と評価される可能性はあり得ると考えます。

しかし、信託について専門性を有するというYは、本件判決でいうところの信託口口座(広義)、信託口口座(狭義)について、いかなるものであり、何を目的としてどのように開設するのか、両者のメリット・デメリットをXに説明し、その意思を確認したうえで信託契約の締結を支援する義務を負っていたのではないか。

 義務を負っていたと思います。特にデメリット面に関して、平成30年当時は金融機関の口座は、事前確認をしていても、実際に開設をするまで分からない、ということは説明していても良かったのかなと思います。

ただ、本件では、AがXの意向を汲みつつではあるが、Xの意向がYに伝えられていた。裁判所はどの程度契約の内容が確定されていることを求めるのかとの点でいささか厳格にすぎる判断を下したとみえる。

 個人的には、原告の主張立証との関係が影響しているのではないかなと感じます。ただ、現時点で上手く言語化出来ません。

また、不法行為と構成しようが債務不履行と構成しようが、ある特定の司法書士が他の司法書士等、つまり、本件ならば、司法書士のみならず弁護士、行政書士等のように広狭あれども競合する業務を行う可能性がある他の専門職よりも自らの能力が高く、提供する業務の品質が優良であると依頼者が認識しうる広告をし、あるいは肩書を用いているなら、依頼者からの信頼に対する責任がさらに加重されることはやむを得ない。

私も名刺に、民事信託、と記載しているので責任は自覚しています。同時に、(一社)民事信託推進センターから除名処分された者でもあります(公開しています。)。そのことを踏まえて、依頼者は私に委任してくださっています。

あるいは、弁護士および司法書士等隣接法律専門職種がイニシアチブをとり信託が設定されるという状態が福祉型の信託を含む民事信託で生じているなら、それこそが背後に存在する重大な問題である。

 同意しますが、民事信託について知らない市民の場合、どのような情報提供に留めるのか、バランスの問題なのかなと思います。

今後、このような課題が顕在化した場合、重大な問題となるだろう。たとえば、受益者の依頼により民事信託支援業務を行う弁護士や司法書士等法律専門職種が、依頼者に対する説明とその理解の確認すらないままに信託契約において受託者の義務をあらかじめ軽減したり、一方では受益者のために信託監督人の地位にありながら受託者に利益が生じ忠実義務違反ともなりかねない信託事務の遂行について相談・助言等を行うという状況が生じないと断言できようか。

 この辺は、難しい点だと感じます。

例えば、一般社団法人民事信託監督人協会という法人がありますが、法人内部の士業が民事信託支援業務を行った民事信託について、法人が信託監督人になっている場合、記事のような点についてどのような整理がされているのか、分かりません。司法書士会内部での声を聴いたこともありません。

https://info.gbiz.go.jp/hojin/Search

 民事信託支援業務を行った士業個人が信託監督人に就く場合もあると思います。委託者からの信頼が厚く、請われて就任した場合もあると思います。このような場合、当初は委託者兼受益者のために業務を行うことが可能だと思います。しかし、受益者の判断能力が衰えてきたとき、信託の終了が近づいてきたとき、相続に向けてどのように財産を残すか受託者(兼残余財産の帰属者・残余財産の帰属権利者)が判断をするとき、第2次受益者の要望と受託者の判断が異なるとき、どのような立ち位置を取るのが適切なのか、分かりません。人間関係に引きずられる、受益者の要望や信託の目的ではなく、信託財産に属する財産全体の帰属先(出口)のことを考えて損か得かを助言してしまう、ということは私にも充分あると思います。

私は現在のところ、信託監督人への就任は断らせていただいています。

しかし、このように厳密に解釈すると、依頼の趣旨に沿い書類作成のために法律的に整序する相談を有償で行えるとしか解することができない。整序にとどまると考えると、司法書士が専門職としてよりよい方法を「提案」することを通じ、依頼者の要請に応えることはできないか、極めて狭い範囲にとどまり、かえって依頼者の利益を損なう可能性がある。

同意します。

貸金業法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=358AC1000000032

このような観点からは、無理にコンサルティング業務を進めるのではなく、上述の専門家らとともに相互補完的に民事信託支援業務にかかわるべきであろう。

同意です。

まぁ、あの論争のど真ん中で振り回されてる立場としては疲れますよ、正直。

今回は橋谷先生、渋谷陽一郎さん、いずれもいい味を出していました。


[1] 135号、2022年6月、民事法研究会、P22~

PAGE TOP