東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)」からです。

信託、そして、長期にわたる信託の指針となる信託契約の法律整序事務は、本当に難しい法技術である。

本当に、難しい、を抜かして読むと、読みやすくなると思います。

民事信託支援業務の意義は、さらに、機能的にみれば、司法書士が市民間の純粋な法律関係(契約関係)への正面からの関与・支援に踏み出した第1歩である実質が重要である。

 機能面からの一つの主張には、同意します。動機としては、記事に記載されている司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実、というものが大きかったのではないでしょうか。そして結果的に、機能面として司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実となっているのが現状ではないかと感じます。

私人間の水平的かつ長期の安定的な法律(契約)関係を築くための相談、助言、立合い、法律整序支援などを介して、市民の権利を保全する、という領域である。

水平的な法律(契約)関係について

平松直登「1998年人権法の「水平的効力」の諸相-<「公的機関」としての裁判所>の意義と私人間効力-」

https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/handle/10291/17703

司法書士は、民事信託支援業務を介して、市民間における水平的な契約関係の前提となる当事者間の対等性・公平性を担保し、その職務的独立性を担保し、その職務的独立性を維持しつつ、積極的に市民に対する情報提供やリスク説明を行う法的支援者の重責を、あえて担いつつある。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令に関して、触れないのは何故なのかなと思いました。

もっとも、司法書士の法律相談または法律整序相談の場合、書類作成業務などの受任の有無に関わらず、それ自体が独立した契約である側面もあり(法律相談契約または法律整序相談契約)、専門家責任の下、かような契約に適合しない助言の提供をもって、それを助言過誤であり、法律相談または法律整序相談の債務不履行である、という構成もありうる。

 1つの方法としては、受任前の相談を個別的相談として報酬をいただくことが考えられます。

 2つ目の方法としては、受任前の相談を個別的相談として、無償で行うことが考えられます。この場合は、その時に整理整序した法律関係や当事者の意向の整理などのメモに日付を入れ、依頼者から署名をいただき、司法書士・相談者の間で共有します。受任時の委任契約書においては、以前の相談と対価の関係にはない旨を記載します。

また、損害賠償責任が遅滞に陥るのは、債務不履行構成の場合、起源の定めのない債務として、履行の請求を受けた時点となる(民法412条3項)。その一方、不法行為構成の場合、発生と同時に遅滞に陥る(最判昭和37年9月4日民衆16巻9号1834頁)。それゆえ、この場合、不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利となりうる。

 この場合、が何を指しているのが私には分かりませんでしたが、遅延損害金の発生日をもって不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利、というのは疑問に思いました。債務不履行構成とどちらが立証がしやすいか、個別具体的な場面で評価されるのではないかと感じます。

本判決では、「民事信託支援業務における司法書士の活動状況」というタイトルが付されている(第3・1(1)エ)。―中略―裁判所も、かような業務名を事実認定している。

 原告から主張立証されているからではないでしょうか。判決を書くのに必要な前提事実について、訴訟当事者から主張立証が尽くされてそれが正当であるとき、裁判所が事実認定しないということがあるのでしょうか。私には分かりませんでした。

そして、2007年の信託法の改正の施行を迎えるが、それを契機として、司法書士集団として受託者となる方向性だけでなく、民事信託支援業務全般を含めた検討が開始されるに至った、ということができる。

 裏返すと、それまでは受託者となる方向を中心に検討・研究・意見・協議していた、ということになるのかなと思いました。私は2007年合格ですが、新人研修の際、七戸克彦教授以外に、信託法に触れている講師はいませんでした。

この点、民事信託支援業務の実現に向けての組織的研究は、日司連の佐藤純通執行部において、支援型法律家たることを司法書士制度の理念としてきた佐藤会長の英断によって、当時、執行部を構成していた山北英仁理事に対して、司法書士による民事信託への関与の検討が委嘱されることで、日司連内に山北理事主幹の福祉型信託の部会を設けたのを一里塚とする。―中略―民事信託実務の検討の最適任者の一人であった。

 著者からみると、日司連会長や理事、渉外事務で知られる、弁護士事務所の大番頭、というのが重要なのかもしれませんが、違和感を覚えました。実際におこなっているのは個々の司法書士であり、現在の執務体制を最初に提案したのは本記事に挙がっている方々ではありません。新井誠教授でもありません。

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日司連の方向性に対する影響力に関していえば、リーガルサポートの初代理事長であり、福祉型信託を審議した第42回金融審議会のヒアリングを日司連の代表として担当するなど、それまで福祉型信託の活用を主張してきた大貫正男司法書士の存在も忘れてはならない。―中略―しかし、結果として、大貫司法書士は、成年後見や民事信託の実務を通じて、弁護士との協働関係を実現させてきた、という逆説が興味深い。

 私には分かりませんでした。現在の(公社)成年後見センター・リーガルサポートについて、大貫正男司法書士が果たしたことと、起こった問題に関しては検証が必要ではないのかなと思います。ここでも個々の会員の視点が抜けていて少し残念に思います。ただし、大きなことを語るのが大事だと考える方もいらっしゃるので、仕方がない事だと思います。

民事信託は司法書士の十八番芸なのか

誰がこのようなことを言っているのか、教えて欲しいと思います。

大貫司法書士は、徹底した研修の必要性、そして公益精神を忘れず、報酬目当ての商業主義に逸脱しないこと、信託を利用して利潤追求はすべきでないこと、一匹オオカミではない組織による集団指導体制構築の必要性など、司法書士実務家の人々に対して厳しい覚悟を求めた。このような大貫提言の数々は、その後、どれだけ遵守されてきたのだろうか。

 繰り返しになりますが、大貫司法書士には民事信託の前に(公社)成年後見センター・リーガルサポートの初代会長として、負の部分を是正していく仕事がまだ残っているのではないかと思います。

 また、このような提言は日司連の民事信託委員の一部、(一社)民信託推進センター役員の一部には当てはまらないのかな、と感じるのは私だけでしょうか。

 民事信託の第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、など、そのような名前を付けてどのような意味があるのだろうと感じます。

当時、司法書士実務家の人々の少なからずは、法律事務としての信託支援業務の法的根拠論(本当に司法書士業務となり得るのか否か)に懐疑的であったから、信託法研究の泰斗である新井教授の助言に勇気づけられた人々が多かった。

 記事記載が事実だとすれば、現在司法書士が民事信託支援業務を行う法的根拠について、議論する余地はないのではないかな、と感じます。


[1] 125号、2022年6月、民事法研究会p43~

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