渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第2章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第2章民事信託支援業務の執務指針

前提として、組成という用語を使わないようにしています。

P15

第4条定義(家族信託業務)で、家族信託支援業務を司法書士法施行規則31条業務として位置付ける。民事信託支援業務を司法書士法3条業務として位置付け、区別する。

P17

【図7】 民事信託組成相談の段階において、受託者と司法書士の接点はない。

P19

第9条定義(信託関係者)の、受益者代理人等、信託監督人等の、等が指している機関・人。

P21

 信託行為の設定を支援した司法書士が、信託開始後も、特段の事情のない限り、信託の適法性の確保を支援し、受益者保護を実現していく一種の保護義務が生じる根拠。

 委任契約書を作成することとの整合性。

P22

 司法書士は、信託の専門家として、いったん、民事信託の設定を支援した場合、以後、当該信託に信託違反、信託濫用、信託悪用などを生じることで、違法状態を生じさせてしまうことを予防することに配慮する同義的な立場にあることの根拠。

 委任契約書を作成することの整合性と、司法書士業務関連法令との関連。

P24

 民事信託支援業務に関する、各司法書士会の監督体制の整備に関する規定。公益的見地が、通常の司法書士業務と比較して、どこまで必要なのか、監督が必要なのか、監督する会員の負担、財源などが分かりませんでした。会則や指針等の公表については、賛成です。

P24

 債務整理業務を専門で行っているわけではないので、定型化された債務整理業務、という表現が分かりませんでした。

P25

 司法書士会の監督による司法書士業務の適正・適切さの維持を強く望んでいる、信託法研究者等が、誰を指しているのか分かりませんでした。

P26

 第16条の見出し、総則(信託組成の支援の使命)の、組成、について法律整序事務の範囲を超えないのか、気になりました。

 法律家としての司法書士が認識しておくべきことは、信託支援は単なる専門家の業務拡大の手段ではなく、人権擁護の手段であることだ、について、どちらも両立するものだとおもいました。

P27

 第17条総則(信託実務精通義務)の、まず何よりも伝統的で通説的な立場の信託理論に精通しなければならない、という用語が、指針の表現として、どのように機能するのか分かりませんでした。伝統的で通説的な立場の信託理論、については、特定の研究者の説によるのではなく、歴史的な立法、改正の議論の推移や判例を知ったうえで、というような意味だと理解しました。

P28

 第18条総則(誹謗中傷の禁止)の、名誉棄損、侮辱、プライバシーの侵害、著作権法違反等を行ってはならない、については、法で定められているので、必要なのか気になりました。

P30

図20で職務の公平性が、一定の限度で担保されるのか、分かりませんでした。

P31

 一部の親族による遺産先取りを真の目的とする家族信託が不適切な信託利用の典型例である、の部分について、遺言との整合性が気になりました。

 第23条総則(依頼の趣旨の不適切等)の、認知症対策の民事信託の組成を支援する場合、成年後見業務に対するのと同程度の配慮で、の部分について、どのような根拠があるのか分かりませんでした。委託者・当初受益者の生前については、任意後見制度の利用と同程度で、くらいの表現であれば、受託者の権限と任意後見人の権限を契約で決めることができる、受益者の監督権限と、任意後見監督人の監督権限に似ている部分があることを根拠として、納得できるかなと思いました。

P37

 これから民事信託支援業務を学ぶ司法書士の新人等に対して警告できるように規定しておく必要がある、について、警告の必要性が分かりませんでした。いつでも相談できる環境を用意しておく、であれば納得できるかなと思います。

P38

 第32条 総則(信託放置の禁止)について、依頼者、受託者、受益者などが決めることではないかと思います。

P39

 第33条総則(不正や犯罪の疑い)の、信託当事者や信託関係者に対して定期的な連絡や確認等を行い、信託の健全性に対して十分に注意し、の部分について、依頼者、受託者、受益者などと個別に契約で決めることではないかと思います。

P42

 あくまでも委託者の意思を尊重し、受益者保護の観点を貫くことである。受託者のための信託に加担してはならないのだ、という主張について、中立・法律整序事務とどのように整合性を取るのか、分かりませんでした。

P45

 第37条誤認を与える助言の禁止において、身上監護事務は、民事信託では不可能であることの説明が義務、必要に応じて任意後見制度を利用する助言が義務となっています。

P46

また、いわゆる複層化信託などの節税スキームを組成したが、それが課税当局によって否定され、受益者連続信託として重課税されたような事例もある。

→裁決など事例を探すことが出来ませんでした。

P48

 第40条委託者以外の親族の主導において、親族(の一部)の利益、という表現がありますが、委託者から依頼を受けるので、遺留分侵害と侵害する場合の備えがある場合を除いて、委託者主導であれば良いのか、バランスが難しいと感じました。

P50

 第43条判断能力の減退において、地域の福祉機関との連携は、努力義務となっています。

 司法書士は認知症診断の専門家ではない。―中略―まずは医師をはじめとする医療福祉の専門家らの支援を求めることを促すよう努めるものとする、について、医師をはじめとする医療福祉の専門家らの支援をも求めることについて、同感です。ただ、最終決定は責任を問われる司法書士自身が行うことが必要だと思います。

P51

認知症の本人の理解が不完全であることを奇貨として、親族主導で、親族のための家族信託の組成を、司法書士が支援してしまえば、不適切な信託を支援した責任も生じよう。

→現在の実務でこのような事例は、公正証書作成の段階で弾かれると思います。公正証書を作成しない場合(例えば、不動産のみで信託口口座を作成しない場合など。)に関する記述だと想定します。

P57

紛争性の有無は、委託者の推定相続人である親族間の意見対立という軽微なものから生じうることに注意したい。

→そのための個別受任である必要があると思いました。

P62

第57条(受託者に対する情報提供)において、信託設定時に、受託者に対して、信託開始後における―中略―具体的な情報を提供するとともに、信託期中における法令・義務の遵守を徹底することを助言することが、義務となっています。

→義務にするのではあれば、信託の効力発生後に受託者と個別で委任契約を締結した場合でないと、あまり効果がないのではないかと感じました。

P93

 包括受任方式や成功報酬方式の報酬算定方法によるコンサルティングの場合には、法令実務精通義務違反に問われる可能性が高い、とされています。懲戒事由となるので慎重な記述が必要だと感じます。

 第73条の家族信託組成コンサルティングという用語の使用の抑制において、個別の業務名を告げ、その業務範囲を説明し、とあります。この部分については、書面またはデータで依頼者と司法書士双方に、記録が残るような業務が求められるのではないかなと思いました。

P99

 委託者こそが信託の創造者であり、という記述について、委託者は信託をする者(信託法2条4項)になります。

P111

 第87条法律整序事務としての信託条項の選択に関する説明において、双方の信託当事者、信託当事者双方の真意、という用語が使われています。委託者と受託者のことだと想定されます。図87において、受託者は出てきません。受託者への説明をどのような立ち位置で行うのか、受託者の真意を確認するとすれば、説明や助言で済むのか、分かりませんでした。

P115 

 第92条法律整序事務としての信託の目的の確認において、信託法の関連条文をすべて明示し、信託条項の選択肢をすべて明示し、とあります。P117の第93条でも、受託者の権限に関して、同じような記述があります。P119の第94条でも、信託の終了事由について、同じような記述があります。

 すべて明示することが司法書士として可能なのか、委託者が理解することが可能なのか、分かりませんでした。

P119

 第94条法律整序事務としての信託の終了事由の確認において、信託当事者に対する、説得、の用語が使われています。

 図94について、私なら、登記代理の下に、信託法および信託の終了事由の定め、と記載すると思います。

P120

 第95条法律整序事務としての信託の変更に関する規律の確認において、断言、という用語が使われています。税務が関わっているからではないかと想定します。

P121

 第96条法律整序事務としての委託者の地位の移転の要否等の確認について、介入、という用語が使われています。

P123

 本人訴訟支援業務における、いわゆるメニュー論、という記述があるのですが、どのような論なのか分かりませんでした。

P133

 第103条信託貸付(信託内融資)に関する情報収集および情報提供について、信託当事者の融資審査対応を支援することができる、との記述があります。図103では、委託者と受託者の補佐人(民事訴訟法60条)的立場で行う、との構成とされています。

P144

委託者から依頼を受けて信託組成を支援した司法書士が、同じ信託事案について、信託開始後、今度は、受託者から委任を受けて受託者支援を行うことは、利益相反行為とならないのか、という難問がある。

→私も分かりませんでした。現状としては、個別具体的な判断で行っていくと思います。

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