信託フォーラム[1]の金森健一弁護士「第2回民事信託実務入門信託契約条項を書くための準備・検討」からです。
まず、預金取扱金融機関が常に譲渡の承諾をしないとは言い切れない(得意客であれば名義変更に応じるところもあると聞く。)。
初めて聴く金融機関の実務運用でした。
信託財産目録に預貯金口座が記載されたとしても、預貯金債権に譲渡禁止特約(現在の譲渡制限特約)が付されていることは、「少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属する」ことを踏まえれば、預貯金債権そのものを対象とするのではなく、預貯金口座に預け入れてある金銭を信託財産とするのが当事者の意思であると解釈することは十分可能である(実務の大半ではおそらくそのように扱われて金銭が移転していると思われれる。譲渡できないものをあえて信託財産としたと解することに意味があるとは思えない。)。
「少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属する」について、委託者予定者・受託者予定者その他の民事信託に関係する方(第3次受益者予定者等)についても周知の事実なのか、分かりませんでした。
最高裁判所第一小法廷昭和48年7月19日判決昭和47(オ)111預金支払請求
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52073
譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は、その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは、その債権を取得しえない。
国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000141
(受給権の保護)
第二十四条 給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、老齢基礎年金又は付加年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。
厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115
(受給権の保護及び公課の禁止)
第四十一条 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。
2 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢厚生年金については、この限りでない。
それでは、委託者がその名義口座で受け取った金銭を信託財産とすることはできるか。信託財産の追加(追加信託に限られない。)の法律構成如何に検討すべき点は異なると思われる。検討は、別の機会としたいが、少なくとも「委託者の行為」が必要になるのであり、委託者に属する財産の移転を受託者が独断で行うことはできないことは、最低限踏まえるべきであろう。
少なくとも「委託者の行為」が必要になる、に関しては、分かりませんでした。このような運用をした場合、委託者が信託行為の当初に信託財産に属する財産とした財産がなくなった場合、信託は終了となります(信託法2条1項)。
委託者の地位の移転(信託法146条)により、信託財産に属する金銭については、信託行為後に受益者から拠出が可能になるような条項を設けることが必要だと思います。
社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000075_20210901_503AC0000000037
(振替口座簿の記載又は記録事項)
第百二十九条
3 振替口座簿中の各口座(顧客口座を除く。)には、次に掲げる事項を記載し、又は記録する。五 加入者が信託の受託者であるときは、その旨及び前二号の数のうち信託財産であるものの数
(信託財産に属する振替株式についての対抗要件)
第百四十二条 振替株式については、第百二十九条第三項第五号の規定により当該振替株式が信託財産に属する旨を振替口座簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。
2 前項に規定する振替口座簿への記載又は記録は、政令で定めるところにより行う。
しかし、金銭消費貸借契約等において、抵当不動産が債権者に無断で譲渡されたときは、返済についての期限の利益を喪失する旨の特約が付されているのが通常である。信託により不動産は、委託者(債務者)から受託者へ譲渡される(信託法3条1号。)。信託を利用するにあたっては、債権者(金融機関)の許可を得られるか事前に確認するようにしたい。
委託者(債務者)から受託者へ譲渡される(信託法3条1号。)、の部分は、委託者(設定者)から受託者へ譲渡される、ではないかなと思いました。
記事とは関係がないのですが、信託行為について金融機関の事前チェックを受けていますが、信託目録の記録事項については受けていません。この辺りは、他の地域・金融機関ではどういう運用なのか、気になりました。
信託法では、消極財産は当初信託財産にならないと整理され、委託者が負う債務を信託財産とすることはできない。債務引受を行い、かつ、当該債務が信託財産責任負担債務(信託法2条9項)となるように要件(同法21条1項各号)を充足させることになる。
債務引受を行い、について債務引受が必要なのか、どのような趣旨なのか分かりませんでした。委託者の固有財産への影響を一切排除したいということだとすれば、債務引受に加えて(連帯)保証人になっている場合は、それらを外すことも必要だと思います。
信託法(平成十八年法律第百八号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108
(信託の方法)
第三条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
一 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法
(定義)
第二条
2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。
9 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。
(信託財産責任負担債務の範囲)
第二十一条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。
一 受益債権
二 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利
三 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの
四 第百三条第一項又は第二項の規定による受益権取得請求権
五 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利
六 信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属しないもののうち、次に掲げるものによって生じた権利
イ 第二十七条第一項又は第二項(これらの規定を第七十五条第四項において準用する場合を含む。ロにおいて同じ。)の規定により取り消すことができない行為(当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知らなかったもの(信託財産に属する財産について権利を設定し又は移転する行為を除く。)を除く。)
ロ 第二十七条第一項又は第二項の規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないもの
七 第三十一条第六項に規定する処分その他の行為又は同条第七項に規定する行為のうち、これらの規定により取り消すことができない行為又はこれらの規定により取り消すことができる行為であって取り消されていないものによって生じた権利
八 受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利
九 第五号から前号までに掲げるもののほか、信託事務の処理について生じた権利
(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
第九十条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第六百五条の三 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。
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この条項は、私はこれまで付けていなかったので、付けないといけないなと思います。
“委託者に属する特定の財産(所有権等)を受託者に移転する、後は受託者の好きにして構わない”というのは、信託の目的を欠く単なる無償譲渡(贈与)になりかねない。財産を譲り受けて管理をする受託者が達成を目指すべき目的が委託者において存在するかを確認することになる。
もし、“委託者に属する特定の財産(所有権等)を受託者に移転する、後は受託者の好きにして構わない”と定めたとして、単なる無償譲渡(贈受託者に)になりかねない、というのは、少し違和感を感じました。理由は、信託法2条、同法14条同法26条、27条、同法29条から47条、同法92条、同法163条から167条などの存在です。
上記(ア)の例は、誰が受益者であるのかが不明である。「受託者及びその直系血族」は管理の主体とされている。明確ではないが、仮に、同人らが利益帰属主体でもあるとなると、信託の本質(信託法8条)を欠くことを目的とするもので、信託の目的と認められないと思われる。
私が読んだ限りですが、受益者は○○家ではないかと思いました。受益者を誰と特定することが必要なのか、分かりませんでした。信託行為に記録されているのではないかと思います[2]。
信託目的の機能として、受託者が信託事務を行う上での指針となり、その権限の外延を画する機能を挙げる見解がある。この観点からすると、受託者が信託財産の管理(保全)、処分又は運用のいずれまでをすることができるとするかを明らかにしておくべきである。
保全、運用に関しては、明らかにする必要があるかもしれません。管理、処分に関しては、信託法2条1項において一定の目的に従い可能とされているので、制限される場合のみ記載することで足りるのではないかと思います。
信託の存在を限界づけるための信託目的―中略―たとえば、不動産所有者の認知症対策のみをする場合
信託の目的で抽象的に定めるのではなく、信託の終了事由で具体的に定めることで足りるのではないかなと思いました。
不動産所有者の認知症対策のみをする場合、という民事信託・家族信託があるのか、私には分かりませんでした。
信託法は、委託者、受託者及び受益者の合意により信託の変更をすることができるとする(149条1項)。委託者や受益者はほとんどの場合個人であろうから、変更権者が意思表示することが出来なくなったときの備えを考えることになる。
変更権者から委託者を外せばよいのではないかなと思いました(信託法149条3項)。任意後見人(代理権目録への記録を含む。)、後見人等との関係について、信託行為への記載。
そのため、一個の受益権を複数人で準共有している場合は、信託法105条ただし書が許容する別段の定めをおいても適用されず、準共有に関する民法の規律(264条、251条及び252条)に従い意思決定をするのである。「受益者」と称される者に対し与えるのが「受益権」であるのか「受益権の持分」であるのかは明確に区分して、それに見合うルールを定めるようにしたい。
受益権の単位は、信託行為によって定めることが出来る[3]ので、基準日と受益権1個の価格、評価方法について信託行為で定めておけば、「受益権の持分」というのは生じないのではないと考えます。
[1] 17号,2022年4月,日本加除出版P137~
[2] 道垣内弘人『信託法【現代民法別巻】』有斐閣、2017年、P44,P293、P391
[3] 道垣内弘人『信託法【現代民法別巻】』有斐閣、2017年、P323