登記情報[1]の記事、横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(22)」から考えてみたいと思います。
照会者は、信託条項中、「受託者は、本件信託不動産に関し、受益者又は委託者を債務者とする抵当権等の担保を設定する登記手続、担保権を変更・抹消する登記手続等を行うことができる。」旨の定めがあるので、債務者が受益者又は委託者ではない本件抵当権に関して、受託者は、当該根抵当権の登記の抹消の申請をすることができると考えているようです。
私は、問7の文章から、出来ると考えていると読むことが出来ませんでした。
一般に信託登記に優先する根抵当権が設定されている場合には、担保権が実行されれば、信託の登記は抹消される運命にあることから、信託契約そのものが不安定なものとなります。信託業実務では、一般にそのような信託契約を嫌い、信託契約に先だって、当該根抵当権を抹消するものと思われますが、本件は、何らかの事情で、当初受益者兼委託者を債務者とする根抵当権が存置されているようです。
信託契約そのものが不安定なものとなることについて、記載の通りだと思います。記事に信託業、と記載があることから、信託業法2条に定義されている信託業を前提にした登記実務を解説されているのかもしれません。
民事信託に関して私の知る限り、信託契約に先だって、既登記の根抵当権を抹消するという取扱いを聴いたことがありません。(根)抵当権に関する登記は、金融機関の了承を得て手を加えていません。今後、実務も変わっていくのでしょうか。例えば、一度抹消して債務者を受託者名義でもう一度設定登記の申請を行うのか、受託者名義に債務者変更登記を申請するのか。
本問では、信託条項中、「受託者は、本件信託不動産に関し、受益者又は委託者を債務者とする抵当権等の担保を設定する登記手続、担保権を変更・抹消する登記手続等を行うことができる。」旨の定めがあります。
私は、問いを投げかけている人が、なぜ受益者又は委託者を債務者とする、という文言を入れたのだろうと思いました。受益者又は委託者が債務者ではない(根)抵当権は少ないかもしれませんが、あえてこの文言を入れて受託者の裁量を狭くする必要はないのかなと思いました。必要に応じて受益者や受益者の法定代理人などの同意を求めれば、債務者が誰、という入り口で弾く必要性は低いのかなと感じます。
本問の場合には、抵当権の一部移転の登記原因として、「同日信託財産の一部処分」をも登記しなければなりません。この場合の登記記録には、「原因 平成何年何月何日一部保険代位 弁済額金〇円」として、登記をすることができる、との振合いが相当です。
この文章の位置付けは、先例・通達と同様と考えても良いのでしょうか。私には分かりませんでした。
上記定めは、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」(信託法21条1項3号)に該当するものと思われることから、信託財産責任負担債務と解して差し支えないと考えます。
次に照会者は、上記定めを①信託目録に記録すべきか考えているようですが、信託目録の記録事項「その他の信託の条項(不動産登記法97条1項11号)」に該当するかは検討が必要と思われます。―中略―なお、当初、上記定めを登記しなかった場合であっても、後日、登記をする必要性が生じた場合には、錯誤を原因とする信託目録の記載事項の更正が認められることはいうまでもありません。
私は、信託目録の記録事項「その他の信託の条項(不動産登記法97条1項11号)」に該当するかは検討が必要、について同感です。信託財産責任負担債務を信託目録に記録する必要性が分かりませんでした。同様に、抵当権の変更登記申請の際に、錯誤を原因とする信託目録の記載事項の更正登記を申請する必要性も分かりませんでした。登記原因証明情報に記載することで、抵当権変更登記は申請することが出来ると思っていました。
[1] 725号、2022年、4月、(一社)金融財政事情研究会P26~