民事信託支援業務のための執務指針案100条(10)

『市民と法[1]』の記事、渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(10)―法3条業務としての民事信託支援の確立に向けて―」からです。

まずは、日司連が「執務ガイドライン」を策定し、全国共通の規範を作る。そして各単位司法書士会が、その規範の実行性を確保するため、地域の実情に即した規律と監督体制を構築する。日司連と単位司法書士会の役割分担である。

 私は、なぜ日司連が執務ガイドラインを策定するのか、各単位司法書士会が地域の実情に即した規律と監督体制を構築する必要があるのか、分かりませんでした。日司連の民事信託推進ワーキングチームから、ガイドラインが発行されましたが、法律上違うのではないかというメールは無視されました。司法書士会員相手に有料講座を提供する会員が所属する民事信託推進ワーキンググループから執務指針を出せるのか、申し訳ないのですが疑問です。

 単位司法書士会(支部)は、地域の信託センターとして、信託支援者に対する監督体制のしくみのための基本インフラとしても、うってつけなのだ。

 なぜ、私が分からないのかというと、監督、という言葉に引っかかるからです。監督されるということは、違反した場合の罰則を伴います。使うとすれば、相談・照会が良いような気がします。それでも、監督体制を構築するということは、司法書士会員が単位司法書士会の業務として従事することになります。司法書士会員の負担は確実に増えます。監督業務に従事する司法書士会員が確実に監督出来る可能性があるか、分かりません。小規模地域だと、明らかな違法行為の場合を除いて、仲の良い悪いで監督の方法が違ってきたりするからです。成年後見業務のチェックが、どれほど負担になるか、会員に拠って感じ方は違うと思いますが、少し考慮して慎重になることが必要かなと思います。監督体制を一度整備すると、外部に向かっても発信することになるので途中で止める、ということは難しくなるのではないかと思います。

しかし、ここは本誌読者と共に冷静に峻別して、司法書士制度の未来のための民事信託支援業務の法的根拠論・防御論を、理性的に考えたい。

 私は、1番目に必要なのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第8条3項9号の改正、改正されるまでは依頼者等の本人確認等に関する規程基準を先に改正して対応することだと思います。現行規定は、条文上手当てがされていません。私の読み違えでなければ、司法書士が民事信託に関する業務行う根拠規定になっていません。犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令については、個人的に官公庁にコメントを出しました。

司法書士の民事信託支援業務は、報酬などに欲張らなければ、本人訴訟支援業務と同じように、儲からないかもしれないが、司法書士業務の適法範囲(3条1項各号)で行うことが充分可能である。

 欲張らない報酬というものが、どの位なのか分かりませんでした。欲張らない、儲からないかもしれないのが問題なのか、私には分かりませんでした。司法書士業務の適法範囲(3条1項各号)で行うことが充分可能であるというためには、金森健一弁護士からの「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)」に1つ1つ回答することが必要だと感じます。回答が、今の時点では出来ないかもしれない、分からない、でも実務の求められている実情から、直ぐに司法書士は民事信託に関する業務を止めるということにはならないのではないかと思います。

民事信託分野では、議論の結論が分かれる論点も多く、いまだ信託契約書の標準化にまで至っていないのが現状である。

 標準化、がどのようなものを指しているのか、分かりませんでした。三井住友信託銀行などが取り組んでいる民事信託をもって標準化と呼ぶことも出来るかもしれません。

従来業務で、信託契約書起案業務に最も類似するのが、任意後見契約書の起案業務であるが、同業務の背景には後見登記の存在があり、法3条業務として位置づけられる。なお、法技術的にも信託契約書起案の方が難解である。

 任意後見契約書の起案業務が、後見登記の存在により、司法書士法3条業務として位置づけられるのか、私には分かりませんでした。

後見登記等に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000152_20191216_501AC0000000016

(任意後見契約の登記)

第五条 任意後見契約の登記は、嘱託又は申請により、後見登記等ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。

一 任意後見契約に係る公正証書を作成した公証人の氏名及び所属並びにその証書の番号及び作成の年月日

二 任意後見契約の委任者(以下「任意後見契約の本人」という。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)

三 任意後見受任者又は任意後見人の氏名又は名称及び住所

四 任意後見受任者又は任意後見人の代理権の範囲

五 数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定め

六 任意後見監督人が選任されたときは、その氏名又は名称及び住所並びにその選任の審判の確定の年月日

七 数人の任意後見監督人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め

八 任意後見契約が終了したときは、その事由及び年月日

九 家事事件手続法第二百二十五条において準用する同法第百二十七条第一項の規定により任意後見人又は任意後見監督人の職務の執行を停止する審判前の保全処分がされたときは、その旨

十 前号に規定する規定により任意後見監督人の職務代行者を選任する審判前の保全処分がされたときは、その氏名又は名称及び住所

十一 登記番号

第94条 法律整序書面としての信託契約書の確認(信託の終了事由の確認)

―中略―自らの単独の意思で信託を撤回することができる余地を残すことを望むか否か、その真意は奈辺にあるのか、受託者はどのように考えているのかなどを聞き取り、信託当事者の真意及び成立済みの合意に合致した法律整序書面の作成を支援するものとする。―略―

 東京地裁平成30年10月23日判決を踏まえての指針なのかなと思いました。第95条は、信託の変更規律の確認と似た文章の構成となっています。選択肢をすべて示し、という部分はチェック方式にすることで可能なのかなと感じつつ、信託行為の全てについて、選択肢を示すということを行うと、委託者と受託者は理解出来るのか、分かりませんでした。

第96条 法律整序書面としての信託契約書の確認

―略―信託当事者の真意及び成立済みの合意に合致し、利用者が主体としての法律整序書面の起案を支援するものとする。―略―

成立済みの合意、という場面を作るための、選択肢をすべて示し、なのかなと思いました。


[1] №132/2021年12月P3~民事法研究会

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