民事信託契約の公証実務上の留意点

1 信託契約公正証書はどのようにして作られるか

・嘱託人または士業者からの依頼

・・・私人(個人又は会社その他の法人)で、公証人に公正証書作成をお願いする人。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji30.html

・まず信託契約書案を送信

PDFではなく、Wordか一太郎

・・・メールにファイル添付が前提。修正できるから。

・事前準備資料について

 この段階では写し(できればPDF)をお送りいただければよく、原本を送る必要なし。委託者・受託者の本人確認資料(公証人法28条2項)

・・・JPG、JPEG、PNG形式のファイルでも、私が提出する公証センター(公証人役場)では受け付けてくれます。

公証人法(明治四十一年法律第五十三号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=141AC0000000053

第二十八条 公証人証書ヲ作成スルニハ嘱託人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルコトヲ要ス

2 公証人嘱託人ノ氏名ヲ知ラス又ハ之ト面識ナキトキハ官公署ノ作成シタル印鑑証明書ノ提出其ノ他之ニ準スヘキ確実ナル方法ニ依リ其ノ人違ナキコトヲ証明セシムルコトヲ要ス

3、4略

・発行後3か月以内の印鑑登録証明書、または顔写真付きの公的身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)

・・・印鑑証明書について、最初に提出して公正証書を作成するまで3か月以上かかる場合もあるので、ここでは信託契約書案の提出時に3か月以内であることを想定しているものだと思われます。

・マイナンバーカードの裏側は送らない

・信託財産を特定する資料

不動産登記全部事項証明書など

・・・株式の場合、法人の履歴事項証明書など。

・信託財産の価格を裏付ける資料

不動産の場合は、固定資産税評価証明書または直近の固定資産税納付通知書

・代理人で作成する場合は稀

コロナで怖い、は不可能。

代理人についての本人確認資料

嘱託人本人の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内)

携帯電話で本人確認

・・・代理人による作成は、令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件の後は不可能だと考えていたので意外でした。信託契約書案の段階で、事前の意思能力確認をビデオ通話(zoomなど)で行う公証センター(公証人役場)はあります。

・嘱託人、関係者の職業情報を提供(公証人法36条2号)

第三十六条 公証人ノ作成スル証書ニハ其ノ本旨ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス

一 証書ノ番号

二 嘱託人ノ住所、職業、氏名及年齢若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所

・ドラフトについての検討・修正について、よくある民事信託条項

目的条項と信託事務の矛盾

  目的条項において単に信託事務を羅列

・・・信託事務の詳細がどのようなものか分かりませんが、私も円滑な財産の承継、受益者の安定した生活、など具体的に記載していません。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託(信託法91条)で、「当初受益者が死亡したときは、第二次受益者がその受益権を承継する」・・・消滅する

・あるペット信託のドラフト例

目的条項の記載

信託契約に死後事務委任契約が混在

ペットが受益者

 受益債権の構成:信託法2条6項「信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権」

・・・死後事務委任契約は別で作成。

・作成日程の調整

老人ホーム等への出張の場合、出張について(公証人法18条2項)

原則:公証役場で職務を行う

例外:事件の性質がこれを許さざる場合(健康上の理由で役場に来所できない等)

法令に別段の定め(遺言につき、公証人法57条)ある場合

公証人法17条

公証人は、所属する法務局の管轄区域内でのみ職務を行うことができる。

・・・沖縄から東京に来ても良い。

・手数料の算定・お知らせ

 主に信託財産の価額を基礎として算定する(公証人手数料令9条)→事前に価額の資料をお出しいただく

 公証人手数料令25条(枚数加算)

 書記(公証人法24条1項)による検算

 書記による案文の最終チェック・印刷(原本と謄本の準備)

作成当日

・当日の持ち物

 事前提出資料との関係

 証明書としての資料(本人確認資料)、当日原本

 案文の正確性チェックのための資料(登記現在事項証明書、車検証等)

 手数料算定のための資料(固定資産税納付通知書等)

  もし代理人によって作成する場合には、代理人の運転免許証等の確認資料、委任状、本人の印鑑登録証明書の各原本

  上記のほか、印鑑(公証人法39条3項)

 本人確認を印鑑登録証明書で行う場合は実印

 それ以外は認め印で可(スタンプ印は不可)

外国人の場合は印鑑不要

・・・日本に住所がある場合で印鑑証明書不要(其ノ他之ニ準スヘキ確実ナル方法として、運転免許証で本人確認)、認印で公正証書作成が可能なことは初めて知りました。

・当日の流れ

本人確認

運転免許証等:コピーを取って返却

印鑑登録証明書:原本を提出、公証役場で綴って保存

原本還付について

・・・印鑑証明書について、事前申出すれば原本還付出来るとのことでしたが、根拠が分かりませんでした。

公正証書の読み上げ

高齢の方への確認のポイント

 署名・捺印

自署ができない場合には事前にお知らせいただく→公証人による代署(公証人法39条4項)。公正証書の当事者欄(本旨外要件)の書き方も異なる。

・・・代筆でも可能が原則

第三十九条 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス

2、3省略

4 列席者ニシテ署名スルコト能ハサル者アルトキハ其ノ旨ヲ証書ニ記載シ公証人之ニ捺印スルコトヲ要ス

・謄本又は正本の交付

・手数料のお支払

・信託契約公正証書における特有の留意点

信託口口座との関係で、最初のドラフトの段階で、銀行(証券会社)と十分協議

後継受託者の定め

2 信託契約公正証書の構成

 登簿番号、日付、表題、「本公証人は、当事者の嘱託により、次の法律行為に関する当事者の陳述の趣旨を録取して、この証書を作成する。」

・本旨

 頭書

 条項

 信託の目的、信託財産、受託者(受託者の任務終了事由や後継受託者の定めを含む)、帳簿の作成を含む受託者の信託事務や義務(分別義務や善管注意義務など)、費用の負担や受託者の報酬、受益者(第二次受益者以降も含む)、受益権の内容、信託の終了事由と清算事務、信託終了後の財産の帰属(帰属権利者の定め等)

・本旨外要件

委託者及び受託者の住所、氏名、職業及び生年月日

・当事者及び公証人の署名

・公正証書のデジタル化について

 規制改革推進会議の令和4年5月27日答申「公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化

・・・令和7年度上期の施行を目指す。公正証書の作成手続がデジタル化された場合の想定。公証センター(公証人役場)に、行くことなく公正証書を作成。それが良いかは分かりません。不動産登記申請における本人確認と比較(不動産登記法23条、24条、不動産登記規則72条。)。公正証書謄本は、公証人が電子署名を行いメールなどで受け取り、USBメモリなどに保存。銀行など提出先が紙での提出を求める場合は、印刷して提出。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/meeting.html#kaigi2

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