民事信託の登記の諸問題14

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(14)」からです。

不動産登記令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416CO0000000379

申請情報

第三条 登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。

一 申請人の氏名又は名称及び住所

二 申請人が法人であるときは、その代表者の氏名

三 代理人によって登記を申請するときは、当該代理人の氏名又は名称及び住所並びに代理人が法人であるときはその代表者の氏名

四 民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十三条その他の法令の規定により他人に代わって登記を申請するときは、申請人が代位者である旨、当該他人の氏名又は名称及び住所並びに代位原因

五 登記の目的

六 登記原因及びその日付(所有権の保存の登記を申請する場合にあっては、法第七十四条第二項の規定により敷地権付き区分建物について申請するときに限る。)

七 土地の表示に関する登記又は土地についての権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 土地の所在する市、区、郡、町、村及び字

ロ 地番(土地の表題登記を申請する場合、法第七十四条第一項第二号又は第三号に掲げる者が表題登記がない土地について所有権の保存の登記を申請する場合及び表題登記がない土地について所有権の処分の制限の登記を嘱託する場合を除く。)

ハ 地目

ニ 地積

八 建物の表示に関する登記又は建物についての権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)

ロ 家屋番号(建物の表題登記(合体による登記等における合体後の建物についての表題登記を含む。)を申請する場合、法第七十四条第一項第二号又は第三号に掲げる者が表題登記がない建物について所有権の保存の登記を申請する場合及び表題登記がない建物について所有権の処分の制限の登記を嘱託する場合を除く。)

ハ 建物の種類、構造及び床面積

ニ 建物の名称があるときは、その名称

ホ 附属建物があるときは、その所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である附属建物にあっては、当該附属建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)並びに種類、構造及び床面積

ヘ 建物又は附属建物が区分建物であるときは、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の構造及び床面積(トに掲げる事項を申請情報の内容とする場合(ロに規定する場合を除く。)を除く。)

ト 建物又は附属建物が区分建物である場合であって、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の名称があるときは、その名称

九 表題登記又は権利の保存、設定若しくは移転の登記(根質権、根抵当権及び信託の登記を除く。)を申請する場合において、表題部所有者又は登記名義人となる者が二人以上であるときは、当該表題部所有者又は登記名義人となる者ごとの持分

十 法第三十条の規定により表示に関する登記を申請するときは、申請人が表題部所有者又は所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人である旨

十一 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 申請人が登記権利者又は登記義務者(登記権利者及び登記義務者がない場合にあっては、登記名義人)でないとき(第四号並びにロ及びハの場合を除く。)は、登記権利者、登記義務者又は登記名義人の氏名又は名称及び住所

ロ 法第六十二条の規定により登記を申請するときは、申請人が登記権利者、登記義務者又は登記名義人の相続人その他の一般承継人である旨

ハ ロの場合において、登記名義人となる登記権利者の相続人その他の一般承継人が申請するときは、登記権利者の氏名又は名称及び一般承継の時における住所

ニ 登記の目的である権利の消滅に関する定め又は共有物分割禁止の定めがあるときは、その定め

ホ 権利の一部を移転する登記を申請するときは、移転する権利の一部

ヘ 敷地権付き区分建物についての所有権、一般の先取特権、質権又は抵当権に関する登記(法第七十三条第三項ただし書に規定する登記を除く。)を申請するときは、次に掲げる事項

(1) 敷地権の目的となる土地の所在する市、区、郡、町、村及び字並びに当該土地の地番、地目及び地積

(2) 敷地権の種類及び割合

十二 申請人が法第二十二条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、当該登記識別情報を提供することができない理由

十三 前各号に掲げるもののほか、別表の登記欄に掲げる登記を申請するときは、同表の申請情報欄に掲げる事項

別表(第三条、第七条関係)

信託に関する登記

信託目録に記録すべき情報が添付情報であるとすれば、一体、信託登記における申請情報とは何だろうか。

 不動産登記令4条に定められている事項となります。不動産登記令別表(第三条、第七条関係)信託に関する登記において、申請情報は規定されていません。

どうして不動産登記令では、信託目録に記録すべき情報が添付情報とされているのだろうか。不動産登記法という法律と不動産登記令という政令との間に「捻じれ」があるのか、ないのか。

 不動産登記法97条に定められている信託の登記の登記事項を、明らかにするための信託目録という位置付けであり、申請情報の内容ではなく添付情報として提供する政令の定めであると思われます[2]

信託目録に記録すべき情報が信託内容の公示を目的としているとすれば、公示されるべき内容として、当該情報は申請情報の地位を与えられて然るべきではないか。

 信託目録に記録すべき情報が、信託内容の公示を目的としているのか、分かりませんでした。不動産登記法は必要最低限の申請情報、登記すべき事項を定めており、その他の情報については信託目録に委ねているようにみえます。不動産登記令では信託の登記についての申請情報について定めがないので、制定当初はその必要性は考えられていなかったのかもしれません。

例えば、受託者の実体的な属性情報である報告義務、書類作成義務、一般的な忠実義務、善管注意義務、公平義務などに関する情報を、信託目録に記録すべき情報として提供することは無意味であり、誤りである(資格者代理人の法令実務精通義務違反)。

 一般的な、とあるので別段の定めなどはないものと想定します。第三者へ公示する目的を考えると、無意味である可能性はあると感じます。誤りかというと、分かりません。不動産登記法97条1項11号は、同法同条1項1号から10号以外の信託の条項、という制限以外の定めを置いていないからです[3]。法令実務に精通する義務の違反は、懲戒事由(司法書士法2条)でもあり、慎重な判断が必要だと思います。

この点、信託目録に記録すべき情報の存在によって、信託登記は、実体に一番近い登記であると思われがちであるが、実は、それらの情報は極めて形式的な存在でもあるという逆説がある。

 信託登記は一番ではないかもしれませんが、実体に近い登記である必要があると思いました。極めて形式的な存在というのは、不動産登記の連続性におけることを指しているとすれば、そのような面があるかもしれないと感じます。

登記実務では、受託者権限に関して、取り消されない処分行為であるための要件に関する情報を、積極的に公示している。そうでないと、当該処分行為に係る登記申請が、信託目的に適合しているのか、そして、受託者の権限内であるか否か、登記官の判断を難しくするからだ(実体判断を強いることは避けたい)。

 登記官は、原則として不動産登記法24条(本人確認)に対して実体判断を認めています。不動産登記法25条1項に関する限りでは、手続上の要件を満たしているか判断し、実体法的な事項について判断する権限を持っているものだと思います[4]

承認を得ない取締役・会社間の利益相反取引は、当事者間では無効であるが、善意・無過失の第三者には対抗できない相対効であり(最判昭和43年12月25日)、意思能力ある未成年者の行為も、取消権者に取り消されるまで有効である(民法5条1項、2項参照)。

かような登記手続の取扱いを前提にすると、登記実務家の立場としては、法律上、取消権が存在するかもしれない場合、取消うる行為か否かを全く確認せずに、当該処分行為に基づく登記を実行処分することに対して違和感を生じよう。

 信託目録に、受託者と受益者の利益相反取引を許容する定め(信託法31条2項1号、同法32条2項1号)がない場合を想定します。

 会社法は、利益相反取引について取引の都度、機関の承認を求めています(会社法356条、同法365条)。信託における委託者の意思凍結機能により、受託者と受益者の利益相反取引を予め許容する定めが信託目録に記録されている場合を考えてみます。

 許容する定めの内容が、後続登記申請の申請情報に必要な情報を全て網羅する具体的な定めである場合、単に許容することを定める抽象的な定めである場合を問わず、利益相反取引を伴う登記申請を行う場合には、事前に信託行為の確認を行うのではないかと思います。抽象的な定めの場合は、後続登記申請の前に信託目録の変更登記申請が必要な場合が出てくるかもしれません。

原則、受益権は財産権として相続の対象となりうるが(信託法95条の2参照)、その譲渡性を禁止・制限することもでき(信託法93条2項)、また、受益者の死亡で消滅させることも可能なので(信託法91条参照)、信託目録情報とする場合、受益権の相続性の有無等は、信託条項化して明確にしておきたい(後続登記の保全のための積極主義)。

4 信託条項(4)その他の信託の条項

受益者変更 受益者の死亡時、受益権は相続されない。

 引用の文章から、遺言代用信託(信託法90条)、受益権の譲渡が予定されていない信託[5]ではないと想定します。

 このような信託の場合に、受益者の死亡時、受益権は相続されない。と定めることが出来るのか、分かりませんでした。受益者の死亡により受益権が相続される場合、その権利移転は一般承継であり、譲渡とは異なり信託法93条2項の適用はないと考えます。

 

その場合、受益権に対する質権が実行され、任意売却された場合、任売で取得した新受益者が出現したとしよう。そのような場合、かような新受益者は、第二次受益者となるべき者として指定されていた者に関する情報の記録との関係はどうなるのか、という問題がある。

 任意売却の場合、強制競売とは異なり、事前に登記事項証明書、信託契約書等を確認し、受益者や受託者から表明保証の協力を得ることも可能な状況と考えると、任意売却による受益者変更の前に信託目録の変更の登記申請を請求することが可能だと思います。または質権設定の際に行うのではないかと考えます。

 

例えば、当該受益者にとって、受益権を売却して資金を得る必要がある場合を想定してみよう。仮に受益権売却によって受益者変更を生じれば、特定の受益者の生活・介護支援という信託目的を達成することが出来なくなった場合として、信託は終了しないのだろうか(信託法163条1項)。

 受益権売却によって、信託財産に属する金銭が増加し、信託の目的とされている受益者の生活・介護支援が、生活費の確保・介護サービスを受けるという形で可能になるのであれば、信託が終了しないという考え方もできるのではないかと思います。


[1] 896号(令和4年10月号)、テイハン、P59~

[2] 河合芳光『逐条不動産登記令』2005、(一社)金融財政事情研究会P329~

[3] 七戸克彦 監修・ 日本司法書士会連合会編・日本土地家屋調査士会連合会編『条解不動産登記法』2013、弘文堂、P604

[4] 七戸克彦 監修・ 日本司法書士会連合会編・日本土地家屋調査士会連合会編『条解不動産登記法』2013、弘文堂、P186 ~

[5] 道垣内弘人編著「条解信託法」2017年、弘文堂、P487~

PAGE TOP