民事信託の登記の諸問題12

 登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(12)」からです。記事の中で民事信託実務、組成などの用語が使われていますが、ここでは司法書士が行う民事信託支援業務を利用します。

信託目録に記録すべき情報は、信託契約書の信託条項をそのまま引き写したような冗長な文章ではなく、客観性ある箇条書きとして要約して提供されるべきことは言うまでもない(それが登記事項に対する情報の当てはめの作法である。)。

 信託行為の設定書類を、特に信託目録に記録する部分においては箇条書き形式で作成することが必要だと思います。

むしろ、ここでは、「財産の管理」という信託の定義を構成する基礎概念それ自体が、「信託の目的」という公示に価するのか、という問題の延長で考えるべき論点である。

 記事の下の文章と同じく、受託者は受益者のために事務を行うので不要だと考えます(信託法2条1項など。)。

受託者も親族(委託者の推定相続人)として、中立な財産管理者でない場合が少なくない。

 中立な財産管理者は委託者の推定相続人でない者、とすると受託者が見つかるのか、と感じます。また中立な財産管理者が、事業として行う信託会社などの立ち位置を想定しているとすると、司法書士は民事信託支援業務に不要なケースなのかなと思いました。

やむにやまれぬ目的(認知症対策や介護施設入所に備えて)で、信託を行うわけである。

 保険や預貯金の種類が色々とあるように、他にも理由はあると思いますが、福祉型信託というと、この2つが代表的な目的だと執筆者は考えられているかもしれません。

4 信託の条項

1 信託の目的

   相続税対策を継続するための財産管理

相続税対策とは、委託者が認知症となった以降も、当該信託財産に関して、相続税の負担を少なくするために活動を続けることであり、例えば、金融資産の少ない地主の場合、相続税支払いを想定しての売却活動の継続や資産の組み替えなども含まれる、と言われる場合がある。―中略―かような文言が信託目的の公示対象となしうるか否か、適法か違法か、適切か不適切か、これから議論が必要となろう。

 相続税支払いを想定しての売却活動の継続や資産の組み替えなどは、信託行為(信託契約の場合)を作成する過程で、委託者と受託者が合意するものであり、受託者の事務となります。受託者の財産管理・処分の方針であり、信託の目的としては、円滑な承継で足りるのではないかと考えます。適法か違法かでいうと適法だと考えますが、その前に不要だと思います。適切か不適切かについては、信託の目的としては不適切、受託者の権限の範囲(信託法26条)としては適切、と考えます。

しかし、逆説的ではあるが、「信託の目的」こそが信託登記の土台であり、基礎工事であるから(信託とは、そもそも信託の目的の実現の手段である。)、その部分が曖昧であれば、信託登記の機能それ自体が曖昧となってしまう。

 信託の目的が、信託目録欄の信託の目的のみで判断される、ということはないのではないかと思います。具体的な財産の管理方法その他の記録から総合的に判断されるものだと考えます[2]

信託法26条は、「又は」や「及び」の接続詞の係り方を読み解くのが難しいが、後段の「信託の目的の達成のために必要な」という修飾句(限定句)は、後段の「行為」だけではなく、前段の「処分」にも係るはずだ。

 後段の「信託の目的の達成のために必要な」という修飾句(限定句)は、後段の「行為」だけではなく、前段の「処分」は信託法2条5項の信託行為の定めに従い、に係るのだと思います。

4 信託の条項

1 信託の目的

   高齢者の生活支援

   安定した住居の無償の提供

2 信託財産の管理方法

 受託者の権限 信託財産の管理に限る

このような信託目録に記録すべき情報が提供されている場合、形式的には却下事由に該当するという判断もありうる。

 受託者の権限が信託財産の管理に限る、と記録されている場合にこの不動産の売買による所有権移転登記申請が却下事由に該当する可能性はあると思います。

 信託の目的違反で却下事由になることは、ないのではないかと思います。住居がこの不動産を指しているとは限らないからです。

4 信託の条項

2 信託財産の管理方法

 信託法26条但書の定め 信託財産の処分を禁止する

このような信託条項の場合、受託者の権限に対する一般的な制約であるが、かような信託法26条但書による包括的な定めで、信託法49条2項の費用償還に基づく処分も禁止されるのであろうか。

 信託法49条2項については、信託法52条で対応することになると考えます[3][4]

信託法52条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(信託財産が費用等の償還等に不足している場合の措置)

第五十二条 受託者は、第四十八条第一項又は第二項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産(第四十九条第二項の規定により処分することができないものを除く。第一号及び第四項において同じ。)が不足している場合において、委託者及び受益者に対し次に掲げる事項を通知し、第二号の相当の期間を経過しても委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けなかったときは、信託を終了させることができる。

一 信託財産が不足しているため費用等の償還又は費用の前払を受けることができない旨

二 受託者の定める相当の期間内に委託者又は受益者から費用等の償還又は費用の前払を受けないときは、信託を終了させる旨

2 委託者が現に存しない場合における前項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「受益者」とする。

3 受益者が現に存しない場合における第一項の規定の適用については、同項中「委託者及び受益者」とあり、及び「委託者又は受益者」とあるのは、「委託者」とする。

4 第四十八条第一項又は第二項の規定により信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けるのに信託財産が不足している場合において、委託者及び受益者が現に存しないときは、受託者は、信託を終了させることができる。

4 信託の条項

2 信託財産の管理方法

 信託法178条1項但書の定め

 清算受託者は信託財産を売却処分し、残余財産受益者に対して金銭を分配する。

 私は清算受託者の職務について、具体的な職務の記録申請をしたことがありませんが、確定している場合には公示として必要だと感じました。


[1] 894号、令和4年8月、テイハン、P41~

[2] 道垣内弘人編著『条解信託法』2017年、弘文堂、P18~

[3] 金森健一『民事信託の別段の定め実務の理論と条項例』2022年、日本加除出版、P108~

[4] 村松秀樹ほか『概説新信託法』、2008年、金融財政事情研究会P156~

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