民事信託の登記の諸問題(10)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(10)」について、考えてみたいと思います。

この点、準物権的救済(受益者取消権等)の実効性の確保や受託者権限に対する規範性(拘束性)に鑑み、信託の目的を鈍化・峻別し、明確化して公示することが大切である。信託の目的は、信託が終了するか否か(信託法163条1号)や信託の変更権者の選択(信託法149条2項1号、2号、3項2号)その他の具体的な基準ともなる現実的なものである。

 例えば、受益者の介護その他の生活支援・受益者が現在の住居を離れなくてはならなくなった場合の、不動産の売却、などのように一定程度信託の当事者間で明確になっているのならば、信託目録の信託の目的欄への記録も可能だと思います。介護その他の生活支援の場合は、受益者の死亡により信託の終了、不動産の売却の場合は、売却時に金銭信託なども終了して清算に移るのか、その後も他の信託財産に属する財産について信託を続けるのかは最初に検討、という形を採るのかなと思います。

受託者の権限として「財産の管理又は処分」が記されているが、それは、それ自体が独立した権限とされて、後の「及び」で、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだろうか。あるいは、「財産の管理又は処分」は、直後の「及び」という接続詞で「その他の」と並列にされ「信託の目的の達成のために必要な行為」の例示とされているのだろうか。

財産の管理又は処分それ自体が独立した権限とされて、後の及びで、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだと考えます。[2]

また、信託法26条の文言は、「管理又は処分」と「or」で結び、択一的に記しているところ、「管理及び処分」と(and)で結ぶのは、法令上の文言とは異なる(その効果の差異は何か)。

  受託者が、信託財産に属する財産の管理も処分も行う、と信託行為で決めた、ということだと思います。効果は管理、処分、信託の目的を達成するために必要な行為のうち、管理と処分行為については第三者対抗要件を備えるということになると考えられます(不動産登記法177条)。

信託不動産の賃貸借契約の締結や解除は管理行為とされるので(民法252条参照)、管理権限に限定された受託者でも、収益物件の信託が可能かもしれないが、処分権限を有しない受託者による賃貸借は短期賃貸借に限られることはないのか否か(民法602条)、借地借家法の適用関連も含めて確認しておきたい(ちなみに、兼営法の規定上、信託財産の貸借は、処分と同分類である)。

 処分権限を有しない受託者による賃貸借は、民法602条の短期賃貸借に限られると考えます。例えば、受託者を貸主として、第三者と土地の賃貸借契約(期間5年)を締結した場合、借地借家法の適用を受けません(借地借家法9条。)。受託者を貸主として、受益者と建物の賃貸借契約(期間3年)を締結した場合、借地借家法が適用されます(借地借家法29条~。)。

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また、残余財産の帰属権利者への帰属は、信託の終了後に生じるので、それが信託期中における弱者保護を重視する福祉型信託の目的たり得るのか否か、という論点がある(重要な問題である)。

 資産(財産)承継と福祉型信託の目的は両立し得ると思います。ただし、信託財産に属する財産の現在の状況どのようなものか、どのように承継したいのか、各親族の意思など個別具体的な状況によるのだと思います。このような場合、財産の状況や親族の意思によっては、信託を利用しない、という選択になることもあり得ると思います。

それでは、「(3)高齢者の変わらぬ住居の維持」という信託の目的からは、受託者による自宅不動産の売却が許容されるのだろうか。売却が許容される基準は何だろうか。そのような判断を形式的に行うのは容易ではない。

許容される基準や要件は、信託行為で定めておけばよいのではないかなと思います。

将来の資産残高を減らさないため、高齢者に対する余計な支出を避けたい、と信認義務を忘れて短絡する場合もあろう(受託者自らが承継人の一人となっていれば猶更だ)。

 この辺りは、信託を利用しなくても、同居の親族であればやる人はやると思うので、任意後見、法定後見制度との併用を考えておく必要があると考えます。

しかしながら、信託終了・清算の結果としての資産承継を、高齢者の認知症対策であり、生活支援の福祉型信託において、受託者が達成すべき「信託の目的」として、信託期中の目的と同列にし得るのか、よく考えてみたい。

 私は現在のところ、このような目的は利用していませんが、当事者が望めば両立可能だと思います。その際注意する点は、福祉型信託において守る財産と資産承継において守る財産を分けることです。


[1] 892号、令和4年6月、(株)テイハン、P34~

[2] 法制執務委員会『ワークブック法制執務』平成19年ぎょうせい、P672、P742

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