信託フォーラム[1]の記事、遠藤英嗣弁護士「家族信託への招待第18回相談室、受益者代理人は信託行為の変更で選任できるか─信託監督人の選任と比較してみる─」からです。
指図権者・・・信託業法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000154
第四章 指図権者(指図権者の忠実義務)第六十五条、(指図権者の行為準則)
第六十六条
信託業法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416M60000002107_20221001_504M60000002055
第四章 指図権者(指図権者の行為準則)第六十八条
法第六十六条第三号に規定する内閣府令で定める取引は、次に掲げる取引とする。
一 取引の相手方と新たな取引を行うことにより自己又は信託財産に係る受益者以外の者の営む業務による利益を得ることを専ら目的としているとは認められない取引
二 第三者が知り得る情報を利用して行う取引
三 当該信託財産に係る受益者に対し、当該取引に関する重要な事実を開示し、書面による同意を得て行う取引
四 その他信託財産に損害を与えるおそれがないと認められる取引
2 法第六十六条第四号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一 指図を行った後で、一部の受益者に対し不当に利益を与え又は不利益を及ぼす方法で当該指図に係る信託財産を特定すること。
二 他人から不当な制限又は拘束を受けて信託財産に関して指図を行うこと、又は行わないこと。
三 特定の資産について作為的に値付けを行うことを目的として信託財産に関して指図を行うこと。
四 その他法令に違反する行為を行うこと。
(2)一方、受益者代理人について、「信託行為においては、その代理する受益者を定めて、受益者代理人となるべきものを指定する定めを設けることができる」(信託法138条1項)と規定するのみで、裁判所による選任は認められていない。その理由は、受益者代理人については、その指定選任は、受益者の権利行使に重大な影響を及ぼすため、裁判所が受益者を代理するものを選任することはふさわしくないとされるからである(寺本昌弘『逐条解説新しい信託法』322-323頁)。
なぜ、受益者代理人に信託法139条のような、大きな権限を持たせているのかについて、受益者代理人が利用される想定事例として、
・年金信託や社内預金引き当て信託のように、受益者が頻繁に変動するためにその固定生を欠くような場合
・単なる投資の対象として受益権を取得した受益者が多数存在する場合
・受益証券発行信託(第185条以下)において、無記名式の受益証券が発行され、当該証券が転々流通する場合等
が挙げられ、民事信託・家族信託が想定されていないこともあると思います[2]。なお、信託監督人は信託の機関であり、受益者代理人は、あくまでも一定の範囲の受益者の代理人としての地位、という違いもあると考えられます。
参考
一般社団法人信託協会 受益証券発行信託計算規則
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/corporation/beneficiary_certificate.html
(3)このことからすると、信託行為の変更により新たに選任された信託監督人について、受益者代理人のように、これが特定の「裁判上の行為」を求められることもないし、もしそれが危惧されるのであれば、信託条項に、「信託監督人は信託法132条1項本文が定める一切の裁判外の行為をする権限を有するものとする」と定め、信託登記目録に搭載することもできる。
特定の「裁判上の行為」を求められることがないのは、信託法132条記載の通り、信託監督人が自己の名で受益者のために使う権利であり、使わないことも可能であり、受益者の権利を奪うものでもないからだと思います。
ただ、信託目録については第三者対抗要件、取引の安全などの要請があるため信託監督人が選任された場合には、その住所、本店、氏名、名称などを記録する方が望ましいと感じます。権限については、信託法に定める権限以外の定めがある場合には記録する方が良いと考えます。
(2)―中略―このような受益者の権限を奪う特殊な地位にある関係人を、信託行為の変更により、すなわち委託者の意思決定を経ずに、他の関係者が創成することができるかというのが、問題の核心部分といえよう。このような受益者の権限を奪う特殊な地位にある関係人を、信託行為の変更により、すなわち委託者以外の者の意思によって登場させることは、委託者が考えた信託スキームを大きく変更するものであり、一律制限するのが相当と考える。
受益者の権限を奪う特殊な地位にある関係人を、信託行為の変更により、すなわち委託者以外の者の意思によって登場させることを、信託行為によって委託者が定めている場合に、制限できるという根拠が分かりませんでした。
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金森健一弁護士「第3回民事信託実務入門信託契約条項の起案」からです。
信託契約の内容を一から起案し、当事者に対し一から説明した経験のある者であれば、契約書の定型化や説明のマニュアル化等による業務の効率化に対し、果たしてそこまでこの仕事が単純であるのか疑問を抱かれる方が多いと思われるが、読者の皆様はいかがだろうか。
程度によると思います。
もっとも、このような条項(一文)があれば、信託契約が成立したと即断してよいかどうかについては、一考を要する。「必要な行為をすべき」という文言により受託者に対し課す義務の内容が信託法の許容する限界を超えてしまうと、それをもって信託の成立が否定されることになるからである。
信託の成立の要否は、信託契約全体、及び第三者との関係(例えば信託法第10条の訴訟信託、事後的な取消しとして信託法第11条の詐害信託の取消し等)から総合的に判断するものであり、信託法3条1項に沿った条項のみで判断するということはあまりないのではないかなと感じます。
一方、民事信託の利用を勧める場面において、「財産を受託者に預けるだけ」、「単に形式的な所有権が受託者に移るだけ」、「権利は残る」などという説明がなされることがあると聞く。
まだあるのかなと思いました。
民事信託は、自分では行うことのできない財産の管理を受託者に用いられる。言い換えれば、民事信託の受益者は、財産管理能力が低下又は喪失した者である。
私が書くのであれば、次のようになります。
民事信託は、自分では管理を行うことが出来なくなる可能性がある財産の管理を、受託者に依頼する場合に用いられることがある。自益信託における受益者は、財産管理能力の低下、喪失に備える者であることが多い。また親なき後に備える民事信託の受益者は、財産管理能力を既に喪失している者の場合もある。
[1] vol.18、2022年10月号、日本加除出版、P105~
[2] 寺本昌広『逐条解説新しい信託法補訂版』2008、商事法務、P321、P323