金融法学会第39回大会メモ

資金決済法制の最近の動向について

2022年10月15日金融庁企画市場局参事尾﨑有

・資金決済法改正(2022年)の概要

電子決済手段等への対応

(1)暗号資産・ステーブルコインを巡る動向

(2)今回の法改正の内容

 銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

資金決済法改正(2022年)の概要

金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度を構築する

海外におけるいわゆるステーブルコイン等の発行・流通の増加

銀行等におけるマネロン対応等の更なる高度化の要請

高額で価値の電子的な移転が可能な前払式支払手段の広がり

電子決済手段等への対応

電子決済手段等取引業等の創設

電子決済手段等の発行者(銀行・信託会社等)と利用者との間に立ち、以下の行為を行う仲介者について、登録制を導入

[対象行為]電子決済手段の売買・交換、管理、媒介等

銀行等を代理して預金債権等の増減を行う行為

[参入要件]財産的基礎、業務を適正/確実に遂行できる体制等

[規制内容]利用者への情報提供、体制整備義務等

[監督]報告・資料提出命令、立入検査、業務改善命令等

銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

為替取引分析業の創設

 預金取扱金融機関等の委託を受けて、為替取引に関し、以下の行為を共同化して実施する為替取引分析業者について、許可制を導入

[対象行為]取引フィルタリング、取引モニタリング

[参入要件]財産的基礎、業務を適正/確実に遂行できる体制等

[規制内容]情報の適切な管理、体制整備義務等

[監督]報告・資料提出命令、立入検査、業務改善命令等

高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

高額電子移転可能型前払式支払手段の発行者について、

業務実施計画の届出、犯収法の取引時確認義務等の規定を整備

電子決済手段等への対応

  • 暗号資産・ステーブルコインを巡る動向

デジタル資産の拡大

 ブロックチェーン技術の登場を契機に、デジタル資産は、暗号資産をはじめ、資金調達手段、送金手段、更にはコンテンツ・著作物など急速にその範囲を拡大させた。こうした実態を踏まえ、当局はイノベーション促進と利用者保護等を目指した制度整備を継続的に実施。

暗号資産に係る法制度の整備(2016年法改正)

2014年ビットコインの売買業務を行っていたMTGOX社について、破産手続が開始

G7エルマウ・サミット首脳宣言(2015年6月)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html

「我々は、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる。」

FATF(金融活動作業部会)ガイダンス(2015年6月)

https://www.fatf-gafi.org/documents/guidance/?hf=10&b=0&s=desc(fatf_releasedate)

各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認義務等のマネーロンダリング・テロ資金供与規制を課すべきである。

資金決済法・犯罪収益移転防止法等の改正(2017年4月施行)

暗号 資産の交換業者に 登録制を導入 登録制を導入

口座開設時における本人確認等を義務付け

・利用者保護の観点から、一定の制度的枠組みを整備

(最低資本金、顧客に対する情報提供、顧客財産と業者財産の分別管理、システムの安全管理など)

暗号資産に係る法制度の整備(2019年法改正)顧客の暗号資産の流出事案が発生

暗号資産が投機対象化

事業規模の急拡大の一方で、交換業者の態勢整備が不十分

暗号資産が投機対象化

暗号資産を用いた新たな取引が登場(証拠金取引、ICO)

暗号資産に係る法制度の整備(2019年法改正)

利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備

国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

5.資金決済法・金融商品取引法等の改正(2020年5月施行)

⇒「仮想通貨交換業等に関する研究会」を11回にわたり開催(2018年4月~12月)し、暗号資産交換業等を巡る諸問題についての制度的な対応を検討

https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/kasoukenkyuukai.html

利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備

国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

 交換業者が顧客から預かっていた暗号資産のうち、ホットウォレット(オンライン)で管理していた暗号資産が流出する事案が複数発生

 交換業者に対し、業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産を信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することを義務付け。ホットウォレットで管理する顧客の暗号資産については、別途、見合いの弁済原資(同種・同量の暗号資産)の保持を義務付け

過剰な広告・勧誘への対応

交換業者による過剰な表現を用いた広告・勧誘

広告・勧誘規制を整備

・虚偽表示・誇大広告の禁止

・投機を助長するような広告・勧誘の禁止など

暗号資産の管理のみを行う業者への対応

 FATF(マネロン対策等を扱う国際会議)が、暗号資産の管理のみを行う業者(カストディ業者)について、各国協調して規制を課すことを求める勧告を採択〔2018年10月〕

 カストディ業者に対し、暗号資産交換業規制のうち、暗号資産の管理に関する規制を適用(本人確認義務、分別管理義務など

問題がある暗号資産への対応

移転記録が公開されずマネロンに利用されやすいなどの問題がある暗号資産が登場

交換業者が取り扱う暗号資産の変更を事前届出とし、問題がないかチェックする仕組みを整備

(注)交換業者が取り扱う暗号資産を審査する自主規制機関とも連携

問題がある暗号資産への対応

暗号資産の取引において、不当な価格操作等が行われている、との指摘

風説の流布・価格操作等の不公正な行為を禁止

暗号資産に関するその他の対応

交換業者の倒産時に、預かっていた暗号資産を顧客に優先的に返還するための規定を整備

国内の暗号資産の取引の約8割を占める証拠金取引について、現状では規制対象外

外国為替証拠金取引(FX取引)と同様に、金融商品取引法上の規制

(販売・勧誘規制等)を整備

詐欺的な事案も多い等の指摘がある中、ICOに適用されるルールが不明確

※ICOは、企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称

 収益分配を受ける権利が付与されたトークンについて、投資家のリスクや流通性の高さ等を踏まえ、

・ 投資家に対し、暗号資産を対価としてトークンを発行する行為に金融商品取引法が適用されることを明確化

・ 株式等と同様に、発行者による投資家への情報開示の制度やトークンの売買の仲介業者に対する販売・勧誘規制等を整備

米国連邦法・NY州法における暗号資産・ステーブルコインに関連する現行規制の概観

米国NY州において、暗号資産・ステーブルコインに関するビジネスを行う場合、

・連邦銀行機密法(BSA)に基づく基本的なAML/CFT規制

・スキームの実態等に応じて送金・銀行規制、暗号資産規制、証券規制、商品先物規制等の中で該当する規制

が重畳適用されることになる。

デジタル資産の責任ある開発を確保するための米大統領令(2022年3月)

 2022年3月、ホワイトハウスは、デジタル資産の責任ある開発に関する米大統領令を公表。本大統領令は、暗号資産やステーブルコイン、CBDCを含むデジタル資産に関する政府全体戦略として、米国当局間の連携を含めた対応を指示するもの。

欧州の暗号資産に対する規制案

2020年9月、欧州委員会はステーブルコインを含む暗号資産(注1)の規制案(通称「MiCA」)を公表(注2)

 ステーブルコイン(電子マネートークン及び資産参照型トークン)の発行体に開示規制や資産保全義務を課すとともに、暗号資産のカストディ、交換、トレーディング・プラットフォームの運営を含む暗号資産サービスの提供者についても認可制を採用して様々な規制を課す内容となっている(注3)

(注1)規制案にいう「暗号資産」とは、分散型台帳技術又は類似の技術を用いて電子的に移転・価値保存される価値・権利をデジタルに表章したものをいう。

(注2)2022年3月14日に欧州議会で承認。次の段階として、2022年後半に三者協議(欧州議会・欧州理事会・欧州委員会)を実施予定。6月末に暫定合意。

(注3)現行のEU規制が適用される金融商品、電子マネー(電子マネートークンとしての性質を有するものを除く)等については、適用対象外

英国を暗号資産技術の世界的なハブとするための施策に関する発表(2022年4月)

2022年4月、英国政府は、英国を暗号資産技術と投資の世界的なハブとするための各施策を公表。公表された一連の施策は、英国における企業の投資、発展、成長を支援し、英国の金融サービス業界がテクノロジーやイノベーションの最先端の地位を維持することが目的

米国連邦法・NY州法におけるステーブルコインに関連する現行規制の概観

 連邦法

 いわゆるステーブルコインのみを対象とする固有の規制はないが、ステーブルコインを送付等する場合、連邦銀行機密法(BSA)のMoney Transmitterとして、AML/CFT規制に服する。現状、ステーブルコインに関して、複数の連邦規制当局からの監督を受ける可能性がある(連邦証券諸法、商品取引法等がステーブルコインに適用されるかについては、議論がある。)。

 ニューヨーク(NY)州法

 いわゆるステーブルコインのみを対象とする固有の規制はないが、ステーブルコインの発行・移転等を含む暗号資産事業活動を行う場合、NY州暗号資産規制(23 NYCRR Part 200)に基づきBitLicenseを取得しなければならない。

※ NY州銀行法上の銀行・信託会社であって、当局の承認を得た者は、BitLicenseの取得は不要(NY州暗号資産規制には従う必要)。

※ 法定通貨を送金する場合には、NY州のMoney Transmitterライセンスが必要であり、Bitライセンシーが顧客の暗号資産(NY州法上はステーブルコインを含む)を償還するためには、BitLicenseに加えてNY州法上のMoney Transmitterのライセンスを取得するのが一般的とされている。

電子決済手段等への対応

  • 今回の法改正の内容

資金決済WG報告(2022年1月11日)

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111.html

金融サービスのデジタル化への対応

1.電子的支払手段に関する規律のあり方

 ステーブルコインの分類

 ステーブルコインについて、現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおり分類できると考えられる。

ア 法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの59)イ ア以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等)

59 上記アに該当するかどうかは、スキーム全体を見て実質的に判断することとなる。(略)

(参考1-3)電子的支払手段について

 本報告では、電子的支払手段について、送金・決済サービスにおける活用との機能に着目し、「資金決済法の『通貨建資産』のうち不特定の者に対する送金・決済に利用することができるもの(電子的方法により記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものに限る)」と整理している。この定義は、既存のデジタルマネー(預金・未達債務)及びステーブルコインのうちの「デジタルマネー類似型」をカバーするが、同時に同様の機能を果たす様々な性質のものを含み得る。

 この点について、「不特定の者に対する送金・決済に利用することができる通貨建資産」に該当するもののうち、一般的に広く送金・決済手段として利用され得る状況には至っていないと評価されるもの(国債、社債、電子記録債権、前払式支払手段等)の取扱いが論点となる。これらの通貨建資産については、原則として「電子的支払手段」から除外しつつ、例外的にその流通性等に鑑み送金・決済手段としての機能が強いと認められるものを「電子的支払手段」に含めることができる枠組みとすることが考えられる 。

「高額電子移転可能型前払式支払手段」の実務上の対応等

[利用者利便・実務上の対応への配慮]

対応

前払式支払手段の利用の多くは少額。

前述の犯収法に基づく本人確認(取引時確認)は、オンラインで完結する本人確認方法で行うことが可能。

利用者が同一のアプリ等においてシームレスに高額電子移転可能型に移行できるような仕組みを可能とする。

発行者側のシステム対応に加え、既存ユーザーへの周知が必要であること等を踏まえ、適切な猶予期間を設ける。

(参考)高額電子移転可能型前払式支払手段の詳細(以下のア~オの全ての要件を満たす前払式支払手段

第三者型前払式支払手段(電子機器その他の物に電磁的方法により記録されるものに限る)

電子情報処理組織を用いて移転することができるもの((a)残高譲渡型、(b)番号通知型(狭義)及び(c)これに準ずるもの)

アカウント(発行者が前払式支払手段に係る未使用残高を記載し、又は記録する口座をいう)において管理されるものエ 上記ウのアカウントは繰り返しのチャージ(リチャージ)が行えるものに限る

次の(a)~(c)に掲げる場合の区分に応じ、当該区分に定める要件のいずれかに該当するもの。

(a)残高譲渡型の場合 他のアカウントに移転できる額が一定の範囲を超えるもの(例:1回当たりの譲渡額が10万円超、又は、1か月当たりの譲渡額の累計額が30万円超のいずれかに該当)

(b)番号通知型(狭義)の場合 メール等で通知可能な前払式支払手段(ID番号等)によりアカウントにチャージする額が一定の範囲を超えるもの(例:1回当たりのチャージ額が10万円超、又は、1か月当たりのチャージ額の累計額が30万円超のいずれかに該当)

(c)上記(b)に準ずるものの場合 アカウントへのチャージ額・利用額が一定の範囲を超えるもの(例:1か月当たりのチャージ額の累計額、1か月当たりの利用額の累計額のいずれもが30万円超)

※ただし、上記(a)~(c)のいずれかに該当するものであっても、アカウントに係る未使用残高の上限額が一定額以下のもの(例:30万円以下)は、対象外(高額電子移転可能型前払式支払手段には該当しない)。

金融法の体系の中の「資金決済法」

得津晶(一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻)

報告の内容

 金融監督法(公法)の中の資金決済法の位置づけ

資金決済(為替取引)を銀行業からの独立した一分野に

監督法上の特殊性(倒産隔離の必要性)のため倒産法上の取扱い

 金融取引法(私法)の中の資金決済法の位置づけ

倒産法上の取扱い(倒産隔離効ある救済の有無)の基準

「法的性質論」(or 当事者間の合意)→社会的な種類物性の程度へ

金融監督法(公法)

伝統的な金融法の体系:銀行・証券・保険(金融庁設置法3条などより)

機能的な金融法の分類

金融審議会「金融制度スタディ・グループ中間整理―機能別・横断的な金融規制体系に向けて」(平成30年6月19日)

資金決済法の独立

資金決済領域の様々な事業

•銀行法:為替取引(銀行法2条2項2号)

•資金決済法:前払式支払手段(3条)・資金移動業(2条2項)・暗号資産交換業(2条7項)・電子決済手段等取引業(2条10項)

•割賦販売法:包括信用購入あっせん(2条3項)

伝統的には銀行の固有業務の一部→多様な決済手段を銀行以外にも認める=「資金決済」が銀行業から独立

•「資金移動業」(資金決済法2条2項)「銀行等以外の者が為替取引を業として営むこと」

2009年改正で導入:送金上限額規制などで制約

2020年改正で拡充・一般化:第一種~第三種の類型ごと

⇒問:資金決済に銀行規制を課さなくてよい理論的な正当性はどこにあるのか?

銀行規制の根拠

問:資金決済に銀行規制を課さなくてよい理論的な正当性はどこにあるのか?

→問:そもそも銀行業に銀行規制を課す理論的な根拠はどこにあるのか?

• 伝統的な整理:「システミックリスク」(岩原紳作「銀行の決済機能と為替業務の排他性」『金融法論集(上)』51ー52頁)

銀行業=受信(預金の受入れ)と与信(貸付)の兼営+為替取引(銀行法2条2項)

「受信と与信の兼営」と「為替取引」のシステミックリスクの違い

ナローバンク論:「違う」

ナローバンク:与信の提供を行わず預入金は100%リザーブ×

同じ/分けて考えるべきではない(岩原紳作「銀行の決済機能と為替業務の排他性」『金融法論集(上)』73-74頁)

銀行規制の根拠:システミックリスク

問:そもそも銀行業に銀行規制を課す理論的な根拠はどこにあるのか?

2つの「システミックリスク」の区分←「困難は分割せよ」

預金の受入れと貸付の兼営=流動性ミスマッチを原因とする取り付けをめぐる囚人のジレンマ状況

→強制的な預金保険→モラルハザード→債権者モニタリングの「代替」としての法規制・銀行の健全性確保のための規制

② 資金決済=ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ→2つの解決策

1) 破産させない=銀行の健全性確保

2) 倒産隔離

⇒資金決済と預金の受入れ・貸付の兼営とを同一の規律にする理由はない

•資金決済と受信・与信の兼営とを同一の規律にする理由はない=資金決済を銀行業から独立

理論的なインパクト

•銀行法の銀行業定義規定:「為替取引」の法定他業への降格?

銀行法3条「みなし銀行業」の位置づけ

流動性のミスマッチ(受信を与信せず有価証券投資など)を銀行業の本質に→「みなし」から「銀行業」への昇格?

「銀行代理業」(2条14項3号):為替取引にのみ関与する場合と受信・与信の兼営に関与する場合とで規制に区分の可能性?

金融監督法からの「資金決済法」:ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ

2つの解決策

1)破産させない

2)倒産隔離→資金決済手段が利用者の倒産時(特に誤振込や無権限取引)にいかなる規律に服するかの議論が必要

=金融取引法における倒産隔離効・占有と本件の一致という問題の位置づけの明確化が必要

資金決済手段の倒産時の取扱い

•「帰属」:倒産した場合に取戻権が認められる主体

•占有=紙(有体物)の占有+記録の保持

当事者間で当該権利について移転する契約が成立したものの、記録が移転していなかった場合、当該権利は譲渡人と譲受人のいずれの責任財産に帰属するのか。=権利移転の対第三者対抗要件

記録の移転後に、当該譲渡の原因となった契約が解除されたものの、記録は譲受人にとどまっていた場合に、当該権利はどちらに帰属するのか。=原因契約が解除された場合(原因関係との無因性1)

記録の移転の原因となった契約が錯誤や詐欺で取り消された場合に、記録が譲受人にとどまっている状態で、当該権利はどちらに帰属するのか。=原因契約無効・取消の場合の帰属(原因関係との無因性2)

これまでの議論:法的性質論

物権なのか債権なのか、金銭なのか

所有権・物権=倒産隔離効あり(=優先権あり)

(金銭)債権=原則・倒産隔離効なし(=優先権なし)

限界:暗号資産・ステーブルコインなど新たな支払決済手段

•近時の有力説:当事者間の契約によって決定可能(小塚=森田『支払決済法〔第3版〕』196、203)

×第三者(債権者)の利害に影響

法的性質の操作可能性の限界

•そもそも法的性質を政策判断に基づいて操作できるのか?

例題:「有価証券」ないし「金銭」を契約で自由に設定することができるか?

2つの問題

法令上の根拠なく「金銭」・「有価証券」(ないし「証券口座」)を作ることができるか?

紙ではないデータを「金銭」「有価証券」とすることができるか?

•「預金口座」の法的性質をめぐる議論―契約による金銭的な取り扱いの創出

•有価証券をめぐる議論

問題:法令上の根拠のない有価証券

民事行政当局:有価証券には特別の法律の規定または慣習法が必要(民法(債権法)改正検討委員会編『詳解・債権法改正の基本方針III—契約および債権一般(2)』344頁)

最判昭和44・6・24民集23巻7号1143頁:制定法上の根拠のない学校債について「無記名証券たる有価証券」であることを肯定

調査官解説:「券面上の記載を客観的に観察」=所持人払の趣旨が表れているかどうかすなわち発行者の意思が無記名証券を発行することにあったかどうか(吉井直昭「判解」最判解民事昭和44年度532)※学説も立場が分かれる

問題:紙ではないデータの「有価証券」化=特別法(社債等保管振替法など)に根拠のない「口座」を認めることができるか?

法的性質決定の操作可能

なにが金銭(所有と占の一致)―有価証券・証券口座―その他その他債権を決めるのか。

種類物性基準の提唱

•金銭の所有と占有の一致の根拠:「究極の種類物」=種類物性(「特定」が生じないこと)⇒「種類物」としての性質の強さが必要条件(≠十分条件)

種類物性が強い:物権的保護(倒産隔離効ある保護)が不可能

種類物性が弱い:物権的保護(倒産隔離効ある保護)の可能性(必須ではない)

「物権」「債権」「財産権」という法的性質に直接の関係はない

具体的な当事者の合意のみには依存しない

社会的な取り扱い・受容が決定基準の必要条件

参考:

「支払単位」(森田宏樹「仮想通貨の私法上の性質について」2018・森田宏樹「電子マネーの法的構成」1997未完)=高い種類物性として説明可能

貨幣・暗号資産(財産権)・決済性預金(債権「更改的効果」森田宏樹「振込取引の法的構造」2000)

「口座の記録」(森田宏樹「有価証券のペーパーレス化の基礎理論」2006):口座の記録に占有を認める

それを証券口座的に扱うか(有価証券基準)決済性預金口座的に扱うか(金銭基準)は社会的な「種類物性」に依存

結論

金融監督法(公法)の中の資金決済法の位置づけ

銀行業の規制根拠である「システミックリスク」に2つの異なる意味

1)流動性ミスマッチ←受信と与信の兼営

囚人のジレンマ状況→強制的預金保険→債権者にモラルハザード→代替としての銀行規制

2)ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ←為替取引≒決済領域

倒産隔離規制(供託など)⇒資金決済・為替取引は銀行業からの独立可能。倒産隔離の必要性のため倒産法上の取扱いの議論が必要

金融取引法(私法)の中の資金決済法の位置づけ

倒産法上の取扱い(倒産隔離効ある救済の有無)の基準

「法的性質論」(あるいは当事者間の合意)→社会的な種類物性の程度へ

金銭その他の支払手段の預かりに関する規制について

加毛明(東京大学大学院法学政治学研究科)

1.はじめに

決済と金銭その他の支払手段の預かり

為替取引:「為替業者による受信行為と資金移動指図の執行行為」(岩原

[2003]539頁)

業として預り金をすることの禁止

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)による預り金の原則的禁止

金融規制法における金融業者の預り金の禁止→預り金禁止の趣旨・射程に関する検討の必要性

新たな支払手段の登場→預り金禁止の趣旨が妥当するか否かの検討の必要性

決済と金銭の預かりの関係

金融審議会・金融制度スタディ・グループ「中間整理」

機能別・横断的な金融規制の体系

金融の機能の分類――「決済」、「資金供与」、「資産運用」、「リスク移転」

「預金受入れ」の位置付け

「……預金には元本保証性があり、国民に広く利用される安全確実な価値の貯蔵、運用手段という側面や、法定通貨とほぼ同等に決済に利用できる決済手段という側面がある。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]10頁)

「……預金は資金の出し手から見れば「資産運用」という機能の一形態であるほか、サービス提供者から見れば、「預金受入れ」を単独で行うのではなく、「決済」や「資金供与」と併せて行うことが一般的とも考えられる。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]10-11頁)

決済と金銭の預かりの関係

預金者が(商業)銀行に金銭を預ける目的

「安全確実な価値の貯蔵」

「安全確実な資産運用」

銀行による運用方法としての「資金供与」=信用創造機能

「法定通貨とほぼ同等に決済に利用できる決済手段」の利用

銀行による預金(預金通貨)という支払手段の提供

(商業)銀行による金銭の預かり(預金)の特徴

規定の内容

業としての預り金の禁止(出資法2条1項)

罰則

預り金禁止違反(出資法8条3項1号)

預り金禁止を免れる行為(出資法8条3項2号) cf. 銀行業の無免許営業罪(銀行法61条1号)

みなし銀行業(銀行法3条)/営業の免許(銀行法4条1項)

他の法律に特別の規定のある者の除外(出資法2条1項)

預り金の意義(出資法2条2項)

不特定かつ多数の者からの金銭の受入れ(出資法2条2項柱書)

預金、貯金又は定期積金の受入れ(出資法2条2項1号)又は社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、1号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの(出資法2条2項2号)

金融庁「事務ガイドライン第3分冊:金融会社関係 2 預り金関係」

不特定かつ多数の者が相手であること

金銭の受け入れであること

元本の返還が約されていること

主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること

 出資金規制との関係

 立法の経緯

昭和24年 貸金業の取締に関する法律(旧貸金業法)

貸金業者による預り金の禁止(旧貸金業法7条1項)

「最近の金融梗塞に伴いまして、あるいは高金利惡質な貸金業者が乱立し、あるいは巧みに仮装して預金貯金等の受入れをなし、銀行法等の違反行為をなすものも多数生ずる状態になりましたので、これらの貸金業者を取締り、その公正な運営を保障するとともに、最近の金融の逼迫に乘じて発生いたしました不正金融等を取締ることにより、金融の健全な発達をはかるために、本法案を提出しようとするものであります。」(第5 国会衆議院大蔵委員会議録32号(1949年)898頁〔愛知揆一〕)

「……預金等は正規の金融機関のみが取扱い、貸金業者はもつぱら金銭の貸付またはその媒介のみを行うこととするため、貸金業者は預金、貯金、掛金その他何らの名義をもつてするを問わず、不特定多数の者からこれらのものと経済的性質を同じくする金銭の受入れをしてはならないこと……としたのであります。」(第5国会衆議院大蔵委員会議録32号(1949年)898頁〔愛知揆一〕)

  立法の経緯

昭和29年出資法

銀行法その他の金融関係法規の脱法行為の禁止

「また預金の受入れ等の受信業務につきましては、現在すでに各般の金融関係法規によりまして、行政庁の免許ないし認可を受けた金融機関以外の者がこの業務を営むことを禁止しているのでありますが、最近はこの面における脱法的な行為もいよいよ巧妙な手段がとられるようになりまして、取締りに困難を加えて参つておる実情であります。従いまして、この際預金の受入れ等の禁止の範囲について明確な規定を設ける等の措置によりまして、取締りに便ならしめ、もつて金融秩序の維持をはかることといたしたいのであります。」(第19回国会衆議院大蔵委員会議録18号(1954年)371頁〔植木庚子郎〕)

 出資金の規制

不特定かつ多数の者に対し、出資金の全額以上に相当する金銭を払い戻す旨を示して、出資金を受け入れることの禁止(出資法1条)

出資金の性質に反する元本返還の約束→出資をしようとする者の誤認の防止(津田[1954]770頁)

背景:利殖機関による大衆からの金銭受入れの社会問題化(経済保全会事件、日本殖産金庫事件など)

罰則

出資金規制違反(出資法8条3項1号)、出資金規制を免れる行為(出資法8条3項2号)

刑法に正条がある場合の不適用(出資法8条4項)

「実際には、本条にふれる行為は詐欺罪にあたる場合が多いであろうが、詐欺罪を以てしては、捜査権の発動、立証の点につき困難な場合が少なくなく、早期に出資者大衆を不測の損害から保護することに欠けるうらみがあるところに、本条の実際上の意義があるわけである。この意味において、その防犯的意義は、……いわば詐欺罪を挙動犯形式においては握規制をしたものということができよう。」(吉田[1968]43頁)

 運用の実態

出資法1条ではなく、出資法2条1項による立件

「このように本条は当時多発した大衆からの資金集めの形態を念頭に置いて新設されたが、本法成立後はこれに該当するものとしての摘発は余りなく、また一条違反と二条違反の関係が微妙であることも理由となって、一条が実際に適用される例はほとんどみられず、その後はむしろ二条が適用される事例が多くみられる。」(芝原[2005]385頁)

原因

出資法1条の適用範囲の限定

出資法2条1項の適用範囲の広範さ

出資金(出資法1条)と預り金(出資法2条1項)の関係

出資金規制との関係

課題

「出資法二条の規制範囲は広すぎるから、実際の適用範囲を明確にするためにも(……)、もう少し絞り込む必要があり、また、②出資法一条の規制範囲は狭すぎるのであって、もう少し拡大する必要があるだろう(……)。」(京藤[1998]363頁)

出資法1条の適用範囲の拡張

金銭提供者による適切なリスク判断の可否という基準

金銭提供者のリスク判断を著しく歪める行為の存在

リスク判断ができない金銭提供者からの金銭の受入れ

出資法2条1項の適用範囲の限定

起訴便宜主義と処罰範囲の不明確化

⑶ 預り金禁止の趣旨

 判例

最判昭和36年4月26日刑集15巻4号177頁

「……預金の受入等の受信業務は、それが一般大衆を目的とするときは、その一般大衆から財貨を受託することになるのであるから極めて公共的色彩が強く、したがつて、その契約の履行には確乎たる保障がなければならないとともに、その業務がひとたび破綻をきたすようなことがあれば、与信者たる一般大衆に不測の損害を及ぼすばかりでなく、ひいてはこれら大衆と取引関係に立つ者にまでつぎつぎに被害を拡大して、社会の信用制度と経済秩序を攪乱するおそれがあり、これを自由に放任することは、預金等を為さんとする一般大衆の地位を保護し、社会の信用制度と経済秩序の維持と発展を図る上に適当でないので,既に銀行法等他の法律によつて、免許ないし認可を受けた金融機関等のみに行わせ、それ以外の者がこれを営むことを禁止しているのである。」

銀行規制の根拠との関係

 銀行の特徴――資産・負債間の流動性ギャップ(ミスマッチ)

• 要求払預金の受入れと信用創造

預金の一部が恒常的に銀行に留まることに対する合理的な期待(「返済期限の到来しない借入れ」(高橋編著[2010]199頁))

銀行の信認低下などを原因とする多数の預金者からの払戻しの請求と取付け

「返済期限が到来した借入れ」への転化(高橋編著[2010]199頁)

銀行規制の根拠との関係

預金者の要保護性

預け入れた金銭の払戻しを受けられないおそれ

預金者による自衛の困難

預金者が長年にわたって同じ銀行に口座を有し続ける傾向

小口預金者のモニタリング能力・インセンティヴの欠如(関口[2020]85-86 頁)

預り金禁止の趣旨

銀行規制の根拠との関係

システミック・リスク

破綻した銀行と関係のない者への影響の波及(関口[2020]85頁)

システミック・リスクを考慮に入れた経営を行うインセンティヴの欠如(関口[2020]85頁)

システミック・リスクが生じる原因(白川[2008]299頁)

取付けに関する預金者の心理的な連想

銀行間での与信の焦げ付き

時点ネット決済システムを通じた連鎖的波及

 預り金禁止の趣旨

銀行規制の根拠との関係

 銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

資産・負債間の流動性ギャップ

流動性ギャップの重大さを基準とせずに預り金を禁止すること

流動性ギャップの発生を回避・抑制する方策

預り金の運用による長期の非流動資産の保有の禁止

預り金の保全

決済目的での利用への限定

流動性の高い金融資産による運用への限定(関口[2020]88頁)

金銭を預かる期間の制限

 預り金禁止の趣旨

 銀行規制の根拠との関係

銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

金銭を預け入れた者の要保護性

預り金が返還されないリスクの低減

預り金の保全

金銭を預かる期間の制限

金銭を預け入れた者が負担可能なリスクへの限定

一人当たりの預り金の上限額の制限

預り金禁止の趣旨

 銀行規制の根拠との関係

銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

• システミック・リスク

取付けに関する預金者の心理的な連想→預り金の保全

銀行間での与信の焦げ付き→預り金を原資とする資産供与の禁止

時点ネット決済システムを通じた連鎖的波及→決済システムへの参加の有無・態様

預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

前払式支払手段

保有者に対する払戻しの原則禁止(資金決済法20条5項本文)

元本返還約束の不存在を理由とする預り金該当性の否定

「……プリペイド・カードについて、一般的換金を行うような、すなわち一般的に元本の返還が約されていると解されるような場合には、出資法違反の疑いが生じよう。」(プリペイド・カード等に関する研究会[1989]22頁)

保有者に対する払戻しの義務付け(資金決済法20条1項)又は許容(資金決済法20条5 項ただし書)

流動性ギャップ発生の抑制

cf. 出資金規制との関係

「一般大衆の保護の観点については、元本保証を行って資金を募る詐欺的な資金募集が行われないようにするものと考えられる。」(高橋編著[2010]63頁)

預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

前払式支払手段

発行保証金の供託(資金決済法14条1項)、発行保証金保全契約

(資金決済法15条)、発行保証金信託契約(資金決済法16条1項)

預り金が返還されないリスクの低減

保有者1人当たりの発行額の制限

保有者が負担可能なリスクへの限定

預り金禁止が決済法制において有する意義

 資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

資金移動業者による利用者からの資金の受入れ

パブリック・コメントに対する金融庁の回答

「例えば、資金移動業者が、送金依頼人から送金指図を受けるとともに、当該指図に係る送金資金を送金依頼人のアカウントに受け入れるなど、送金資金が具体的な送金依頼と結びついている場合には、当該送金資金の受入れは、出資法第2条第2項で禁止される「預り金」には該当しないと考えられます。ただし、資金移動業者は、銀行と異なり預金の受入れはできず(銀行法第2条第2項)、送金と無関係に資金を預かったり、送金用口座と称して長期間金銭を預かり利息を付すなど、その実態によっては実質的に「預り金」に該当する場合も考えられます。」(金融庁[2010]40頁)

預り金該当性の否定と出資法2条1項の適用の否定(高橋編著[2020]195頁参照)

資金移動業者による金銭の受入れが許容される根拠の検討

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

第二種資金移動業

履行保証金の供託(資金決済法43条1項2号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条〔利用者から受け入れた資金を原資とする貸付け等の防止措置(資金移動業者に関する内閣府令30条の3)〕)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

流動性ギャップ発生の回避、預り金が返還されないリスクの低減、システミック・リスク顕在化の抑制

為替取引に用いられることがないと認められる利用者の資金を保有しないための措置(資金移動業者に関する内閣府令30条の2)

流動性ギャップ発生の回避、預り金が返還されないリスクの低減

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

第一種資金移動業

履行保証金の供託(資金決済法43条1項1号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

利用者からの金銭の受入れと供託までの期間の短縮

流動性ギャップ発生の回避

資金移動事務の処理に必要な期間等を超える債務負担の禁止(資金決済法51条の2第2項)

預り金が返還されないリスクの低減

預り金禁止が決済法制において有する意義

 資金決済法による預り金禁止への対処

資金移動業

第三種資金移動業

各利用者に対して負担する債務の額の制限(資金決済法51条の3、資金決済に関する法律施行令17条の2)

利用者が負担可能なリスクへの限定

履行保証金の供託(資金決済法43条1項2号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

預貯金等による管理の許容(資金決済法45条の2)

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法の適用がない場合における預り金禁止への対処

収納代行

収納代行業者による利用者からの金銭の受入れ

弁済受領権限の意義

預り金禁止への対処

受け入れた金銭の保全

分別管理

金融機関による保証

信託の設定

自己信託による信託設定の可能性

利用者の金銭を預かる期間の制限

利用者1人当たりの受入れ金銭の制限

預り金禁止が決済法制において有する意義

 金銭を受け入れない決済サービスの提供

電子決済等代行業

為替取引の指図の受領・伝達(銀行法2条17項1号)、口座情報の取得・提供(銀行法2条17項2号)

「電子決済等代行業については、利用者の資金を預かることは想定していない……。」(井上監修[2018]37頁)

利用者から金銭を受け入れずに決済サービスを提供する可能性

預り金が許容される金融業者

金融商品取引業

有価証券の売買等に関して顧客から金銭などの預託を受けること(金融商品取引法2条8項16号)

分別管理・信託(金融商品取引法43条の2第2項、金融商品取引業等に関する内閣府令141条~141条の3)

暗号資産交換業

暗号資産の売買等に関して利用者の金銭の管理をすること(資金決済法2 条7項3号)

分別管理・信託(資金決済法63条の11第1項、暗号資産交換業者に関する内閣府令26条)

預り金が禁止される金融業者

金融商品仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融商品取引法66条の13、201条4号)

「証券仲介業者は証券取引行為に関し顧客に対し自らが証券取引の法的主体となることがないため、顧客から金銭等の預託を受ける必要がないこと」、「金銭等の預託の受入れの機会があると投資者被害を誘発するおそれがあること」(高橋編[2004]129頁)

金融商品仲介業務と金銭等の受入れの関連性、顧客の利便性に基づく批判(洲崎ほか[2004]50-51頁〔河本一郎〕)

 預り金が禁止される金融業者

金融商品仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融商品取引法66条の13、201条4号)

金融商品仲介業者に期待される役割の限定

「仲介者」である金融商品取引業者等と顧客を「仲介」する者としての位置づけ

金融商品仲介業者の資質・能力に対する評価

「……立法者は、金融商品仲介業者は証券会社と顧客の『つなぎ』に徹するべきであって、顧客の投資活動に深く関与することは妥当でないと考えているように思われます。」(洲崎ほか[2004]40頁〔洲崎博史〕)

「……金融商品仲介業者には証券会社を代理し得るほどの専門性を具備することは求められてないとみられる。」(戸田[2009]505頁)

金銭等の預託のニーズ

「また、売買代金の支払いや受取りも銀行振込みによって行われることが一般化しており、顧客が金融商品仲介業者に金銭を預託するニーズはあまりないといえそうである。」(神田ほか編[2014]984頁注3〔洲崎博史〕)

 預り金が禁止される金融業者

金融サービス仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融サービス提供法27 条本文、88条2号)

「流用・費消等による顧客被害を未然に防止することを図るため、金融サービス仲介業者には、原則として顧客からの財産の受入れを禁止することとしている(……)。」(岡田ほか[2021]11頁)

 預り金が禁止される金融業者

 金融サービス仲介業

決済サービスを提供する方法

顧客から金銭を預かる方法

「顧客の保護に欠けるおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合」(金融サービス提供法27条ただし書)

資金移動業の兼業など(金融サービス仲介業者等に関する内閣府令46条)

顧客から金銭を預からない方法

電子決済等代行業の兼業など

cf. 電子金融サービス仲介業務(金融サービス提供法13条1項6号)を行う金融サービス仲介業者による電子決済等代行業の届出(金融サービス提供法18条1項)

 預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

利用者から金銭その他の財産の預託を受けることの禁止(改正資金決済法62条の13本文、110条2号、改正銀行法52条の60の13本文。63条の2第2号)

「仲介者が取り扱う電子的支払手段はそれ自体決済手段であり、投資対象ではないこと等から、(暗号資産交換業等と異なり、利用者による機動的な売買を可能とするために)仲介者が別途利用者の金銭を管理することは通常想定されない。」(金融審議会・資金決済ワーキング・グループ[2022]28 頁注101)

預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

利用者から金銭その他の財産の預託を受けることの禁止(改正資金決済法62条の13本文、110条2号、改正銀行法52条の60の13本文。63条の2第2号)

批判

特定信託受益権の場合、顧客は必ずしも信託銀行や信託会社に別途金銭を預託しているわけではない。……顧客は第一種金商業者兼電子決済手段等取引業者に金銭をあらかじめ預託し、適宜のタイミングで電子決済手段に交換することができるほうが利便性が高い(……)。特定信託受益権……の典型的な利用例は、ブロックチェーン上のトークンであることを利用して、セキュリティトークンや暗号資産との決済に利用することであるから、電子決済手段等取引業者が金銭の預託ができないとすると、この業登録の取得のインセンティヴが大きく低下すると考えられる。」(河合[2022]31-32頁)

預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

預り金禁止の趣旨との関係

金銭の分別管理・信託による保全(河合[2022]32頁注18)

電子決済手段等取引業者による決済サービスの提供の可能性

顧客から金銭を預かる方法

資金移動業の兼業など

顧客から金銭を預からない方法

電子決済等代行業の兼業など

cf. 電子決済等取扱業者による電子決済等代行業を営むことの許容(銀行法52条の60の8第1 項)

 預り金禁止の根拠が金銭以外の支払手段について有する意義

新たな支払手段の登場

「『預金受入れ』の取扱いについては、IT の進展等により、資産を預けて電子的に決済に利用できるなど、預金類似とも言える手段が登場したり、あるいは、将来的にデジタル通貨のようなものが登場したりしてくると、預金の位置付けが大きく変容し、その重要性が相対的なものになっていく可能性があることにも留意する必要があると考えられる。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]11頁)

詐欺的方法による金銭以外の支払手段の受入れ

出資法2条2項の「金銭」の解釈

預金

脱法行為の処罰(出資法8条3項2号)

「これは、経済情勢が変化し、業者が常に新しい脱法方法を案出するから必要な規定であると説かれている。例えば、法文に『金銭』とあるので『収入印紙』とか『物品』を授受しておき、別にこれを金銭に交換するなどの脱法も抑えなければならない。」

金銭以外の支払手段の預かりに対する規制

受け入れた支払手段の決済利用

支払手段が返還されないリスクの低減、システミック・リスクの顕在化の回避

資産保全(分別管理・信託など)

受け入れた支払手段を原資とする「資金」供与?

参考文献

井上俊剛監修『逐条解説 2017年銀行法等改正』(商事法務・2018年)

岩原紳作『電子決済と法』(有斐閣、2003年)

岡田大ほか「『金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律』の解説(2・完)――金融商品の販売等に関する法律等関連」NBL1191号(2021年)7頁

小田部胤明『出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律と判例の解説〔増補第5 版〕』(東洋企画・2004年)

河合健「ステーブルコインに対する法規制の実務上の論点および関連ビジネスへの影響金法

2193号(2022年)22頁

神田秀樹ほか編著『金融商品取引法コンメンタール2 業規制』(商事法務・2014年)

京藤哲久「出資法の預り金・出資金規制について」『西原春夫先生古稀祝賀論文集 第3巻』(成文堂・1998年)341頁

金融審議会・金融制度スタディ・グループ「中間整理――機能別・横断的な金融規制体系に向けて」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180619/chukanseiri.pdf(2018年)

金融審議会・資金決済ワーキング・グループ「報告」

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111/houkoku.pdf(2022年)

金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」

https://www.fsa.go.jp/news/21/kinyu/20100223-1/00.pdf(2010年)

参考文献

芝原邦爾「出資法をめぐる法解釈上の諸問題」芝原邦爾『経済刑法研究 上』(有斐閣・2005年)383頁〔初出1996年〕

白川方明『現代の金融政策――理論と実際』(日本経済新聞出版社・2008年)

洲崎博史ほか「平成一五年の証券取引法等の改正Ⅲ――証券仲介業制度」別冊商事法務275 号(2004年)37頁

関口健太「金融規制法における『預金受入れ』の位置付けについての一考察――スイスにおける改正銀行法を手掛かりとして」金融研究39巻2号(2020年)55頁

高橋康文編『詳解 証券取引法の証券仲介業者、主要株主制度等――平成15年における証券取引法等の改正』(大蔵財務協会・2004年)

高橋康文編著『詳説資金決済に関する法制』(商事法務・2010年)

津田実「出資の受入預り及び金利等の取締等に関する法律」曹時6巻7号(1954年)767頁

戸田暁「金融取引における『仲介業者』の法規整――証券取引の分野を中心として」川濵昇ほか編『森本滋先生還暦記念企業法の課題と展望』(商事法務・2009年)491頁

プリペイド・カード等に関する研究会『プリペイド・カード等に関する研究会報告』(1989年)

吉田淳一「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律の概要」捜研17巻10号(1968 年)37頁

   

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