信託財産に関する条項 (信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする)などについて

連載 信託契約書に潜む注意すべき条項徹底解説という記事[1]がありました。

引用です。

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信託法16条1号には、信託財産が他の財産に形を変えても、その新しい財産が信託財産を形成するという、いわゆる「信託財産の物上代位性」が規定されていますので、(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』74頁)、信託不動産を売却した際の売却代金は当然に信託金銭になります。まれに、「信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする」という条項を見かけることがありますが、諸費用を控除する前の売却代金そのものが信託財産となりますので、このような条項は置くべきではありません。

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「信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする」。この条項は、私が作成する信託契約書では入れていんじゃないかなと思い確認してみたのですが、入れていませんでした。理由は分かりません。

ただ、信託法16条1項本文は、信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、次に掲げる財産は、信託財産に属する、と規定されています。

また、引用されている書籍の(注1)には、例えば、信託財産に属する財産を売却することによって受託者が取得する売買代金債権、信託財産に属する金銭で受託者が購入した財産などがその典型である、と記載されています。

条文と注1を読んでみると、信託行為で信託財産にする財産の範囲は決めることが出来る(16条1項1号は、強行規定ではなく、一般的・包括規定[2])ので、「置くべきではない」と記載するまでのことではないと考えられます。また、売買代金債権と売買代金は、債権と(一般的には)動産なので、性質が違います。売買代金を売買代金債権と捉えて、債権のうちに、「諸費用を控除した金銭を信託財産とする」条項を入れることは、決済の流れを考えてもそれほど間違っていないと思います。

もう1つ同じ記事から引用します。

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なお、現金については、委託者が元気でいる限りは、適宜受託者に金銭を追加して託すこと(いわゆる「金銭の追加信託」)が容易に可能ですので、信託開始時に託す金額の精査はあまりせず、暫定的な金額から管理を始める方も少なくありません(小生の依頼人の中には、信託契約開始時の現金はあえて「0円」という方もいます)。

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信託契約開始時という言葉がどのような意味を持つのか分かりませんが、ここでは、信託契約書の信託財産の条項で、現金を0円とすることが出来るのか、考えてみたいと思います。

金銭0円と金銭なしには、違いがあるのかです。金銭なし、と記載すると、後から現金を信託財産に属する財産にするには、金銭について追加信託用の情報を作成する必要があります。

この件について、明確な答えを持つことは出来ませんでした。信託業法施行令12条の5第1項1号[3]などが参考になるのか分かりませんが、対価を0円と記載しても契約の効力が発生して、サービススタート(手数料は徴収)できるのか、などと考えています。

0円をなしと解釈する方もいるかもしれません。


[1] 「第3回 信託財産に関する条項」一般社団法人家族信託普及協会 代表理事・司法書士 宮田浩『家族信託実務ガイド』2020.8第18号P70~

[2] 道垣内弘人『条解信託法』P86 2017 弘文堂

[3] 特定信託契約(法第二十四条の二に規定する特定信託契約をいう。以下同じ。)に関して顧客が支払うべき手数料、報酬その他の対価に関する事項であって内閣府令で定めるもの

民事信託・家族信託における口座について

(一社)民事信託推進センターテーマ別勉強会の備忘録

定義

法律に、口座の定義についての記載はない[1](あれば教えてください)。

書籍[2]には、銀行などの金融機関が預金等の受払い及び残高を整理するため各顧客ごとに設ける勘定のこと。法令上はこの意味で用いられる、と記載されています。

口座の開設要件

・形式要件、実質要件、運用要件がある。

 何となく分かるのですが、形式がなければ管理できないし、実質がなければ中身が空っぽだし、開設出来なければ運用できないので、分ける意味があまり分かりませんでした。おそらく、口座を開設して閉鎖するまでのことを考えれば良い、ということなのだと想像します。

勉強会の講義では、

1 その預金口座が受託者の名義であること。

2 受託者の個人口座と区別する名称が付されていること。

の2つを満たせば良いとのことでした。

1と2に加えて、

3 金融機関の内部のシステム上、受託者個人とは分離独立したCIF(カスタマー・インフォメーション・ファイル)コードを備えていること。

4 金融機関の内部手続きにおいて、受託者の個人口座とは異なる取扱いとなることが定められていること。

5 個別の信託契約書の内容に即した管理が行われる口座であること。

を要件とする記事[3]もあります。

 私の場合は、口座開設前に次の要件を記載した書類を金融機関にFAXします。FAXでも送信記録が残るのですが、メールで済ませたいところですね。

(1)形式・名称は信託口、普通預金の特約付き問いません。

(2)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと

(3)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者の死亡が分かる書類と就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること

(4)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること

(5)キャッシュカードの発行

 意外だったのが、(4)について、これは面白いね、というコメントをいただいたことです。そうなのかと新しい発見でした。また金融機関の中には、信託口口座を普通預金で作成した場合に、年間管理料を徴収するところもあるらしく、そのような場合は、金融機関の注意義務も(何らかの契約を交わしていなくても)大きくなると考えられる、というところは同感でした。

金融機関の懸念

  • 預金口座への差押え
  • 個人受託者の場合の死亡や後見開始のリスク
  • 受託者の要件として意思能力の確認が必要か。

証券口座 

・受託者は何をすべきか。注意義務のレベルは何か。

善管注意義務(受託者の能力、社会的地位、信託行為の内容から導かれる注意義務)を負うのか(民法644条、信託法29条2項)。

自己のためにするのと同一の注意(受託者個人の財産を管理するのと同じ注意義務)を負うのか(民法827条、信託法29条2項ただし書)。

・アメリカでは、自己のためにするのと同一の注意の方が義務のレベルが高い。

いくつかの基準[4]

・受認者は自ら有すると表明した専門的技能を実際に保持し、かつこれを行使しなければならない。

・受認者の成果は、サービスを提供する際のプロセスで評価される。

・受認者が負担する法的リスクが注意義務に影響を及ぼすことがある。

・受認者に対する評価は、関係者の合理的な期待と受認者の裁量に対する制約の影響を受ける。

・適用される法が異なると注意義務の内容も変化することがある。

・受認者の専門性に対する裁判所の評価。

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・委託者が能動的な場合、受託者が財産が減少させても良いと一筆取っておいても、金融機関(証券会社)が責任を取る場合がある。

・証券会社は、取引用の銀行口座を作る銀行を指定する権利があるか。

・証券会社が家族信託サービスを始める際の契約書類の定型化が難しい。

・現在、民事信託・家族信託サービスを提供していることが確認できる証券会社

・野村証券(株) 楽天証券(株) 大和証券(株) 

上の3社のホームページから、サービスの仕組みを知ることは出来ませんでした。

 大和証券(株)について、下の記事のように、家族信託サービスを使うメリットはないんじゃないかと言ってみたところ、委託者が株取引を好きな場合はあり得るということでした。世の中には色んな人が人がいるんだろうなと感じました。

https://miyagi-office.info/wp-admin/post.php?post=1629&action=edit


[1] 山中眞人「信託口座は難しくない―利用者のニーズと口座開設銀行の責任」『信託フォーラムvol.11』2019 日本加除出版

[2] 法令用語研究会『法律用語辞典』2012年 有斐閣

[3] 渋谷陽一郎「民事信託のための信託口預金口座(1)」金融法務事情2021号P62

[4] タマール・フランケル著 『フィデュ―シャリー「託される人」の法理論』P173~ 2014 弘文堂

Zoomを利用したオンライン研修で、チャット欄を荒らしてしまうケース

7月7日(火)(一社)民事信託推進センターが開催して頂いた「テーマ別勉強家」に参加出来ました。内容について、今回は措きます。

Zoomを利用したオンライン研修で、申込時に、画面上で口頭で議論する方(パネリスト)、聴講する人に分けられていました。1時間弁護士の講義を聴いて、その後パネリストで申込した人同士で議論する形でした。

 

私は前回の研修後に「チャットで他の方とテキストベースでやり取り出来るようにして欲しい。」との要望を出してOKを貰っていたので(前回は1人で書き込みしていました。)、チャット欄に思ったまま書き込んでいました。グーグルドライブで資料を共有する方法を私が知らなかったり、送信先をパネリストのみにしていたので、聴講の方と資料共有出来なかったりということで、研修を止めたりしちゃいました。研修中に修正できたので勉強になりました。

 

今回はライブ感・参加している手触りがあり、個人的には良かったです。運営の方からすると、少しやりにくかったと思います。

私は、弁護士が講義しているしている間にもチャット欄で、「沖縄はこうなんですけど、全国統一ですか。」とか「添付の資料だと、家族信託サービスを使うメリットはないと思うのですが、どう思いますか。」とか投げかけていました。他に「面白い。」「なるほど。」などとつぶやいていました。

そうこうしているうちに、私のチャットが運営さんからパネリストに読み上げられて、議論の対象となったりしました。ミュート解除の要請が運営さんから来ます。犬と子供の声が入るので拒否して、チャットで返します。時間が過ぎます。5回くらいミュート解除の要請が来ます。拒否ボタンをクリックします。チャット欄が私のコメントで埋まっていきます。みんなもどんどん書き込めば良いのになぁ、と思います。

荒らしたくて荒らしたわけではないんですが、結果的にこんな感じになりました。

 

面白い、などつぶやきも運営さんが読み上げます。いやいや、そこは普通分かるでしょ、質問ではないでしょ。

パネリストさん(私も入っていますが)に質問するときは、挙手、というボタンがあるので、それでやることが可能です。

チャット欄の良いところは、講義している間でも、聴講者も含めてテキストベースでやり取りが出来るところ、だと思います。

運営さんに、聴講の方もチャット欄に書き込めるようにしてください、とお願いしましたが、拒否されました。

 

教育関係者が話していたのですが、進んでいるところだと小中高生もZoomに限らず、オンライン講義のチャット欄を使いこなしているようです。おそらく、その年齢の子どもがいる司法書士さんなら、子どもに訊いた方が早いかもしれません。

 

とりあえず、コロナ後に元の対面研修に戻らずにオンライン研修(+対面研修のハイブリッド型)を続けてもらえば、徐々に良くなると感じました。

 

 

委託者変更登記と文章の読み方

横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(1)」[1]からの引用です。

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(注1)―略― 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』(民事法研究会、2014年)P372項に「仮に信託設定時の信託目録において、受益者変更に伴い、委託者の地位も当該受益者に変更する、という信託行為に関する定めが信託目録に記載されている場合、受益者変更登記の過程に即して委託者変更が行われてきたと推定することができる。それゆえ、現在の受益者名義に委託者変更に係る登記を行うことは可能であろう。それは、信託目録上で公示された定めに基づく変更であるからだ。」という見解が存在する。

 しかしながら、筆者は、一般に信託目録の記録内容にそのような推定効が付与されているとは、理解していない。

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日本語の読み方の問題なのかな、と感じることがあったので、少し考えてみます。渋谷陽一郎氏がどのような意図で書かれているのかは分かりませんが、単純に日本語の文章として読んでみます。

横山亘氏は、一般に信託目録の記録内容にそのような推定効が付与されてはいないと理解している、と記載しています。

そのような考えから、二つの結果を導き出しています。

1つめが、委託者変更登記を行うべきである。

2つめが、委託者変更登記が行われていない場合、信託目録のその他の事項と受益者の欄の変更登記過程を照らし合わせて、委託者も変更されていると推定される効力は発生しない、ということです。

1つめについては、文章の読み方が違っているのではないかと思います。渋谷陽一郎氏の著書では、信託目録のその他の事項に記載がされば、委託者変更登記も可能であろう、と記載されいるので委託者変更登記を否定するものではありません。また、信託目録のその他の事項に記載がされば、委託者変更登記をする必要はない、とも記載されていません。おそらく、考えた末の結果は両氏とも共通であると思いますが、引用されている文章は批判の対象にはならないと思います。

2つめは、委託者の変更登記が行われていない場合です。この点についても、日本語の文章の読み方だと感じます。不動産登記法97条1項1号と11号は効力について差があるのか、と考えてみると、そのような判例、先例、通達は私は調べることが出来ませんでした。そして効力について差はない、と考えると1つめと同じく、考えた末の結果は両氏とも共通であると思いますが、引用されている文章は批判の対象にはならないと思います。

渋谷陽一郎氏が登記申請する側から書いているのに対して(その他の信託条項に登記されているいるいて、受益者変更登記がなされているから登記が完了する)、横山亘氏が登記申請を審査する側(その他の事項の信託条項と受益者変更登記を照らし合わせて審査する必要がある)の視点で解釈しているのかなと想像しています。


[1] 登記情報704号P24~ 2020年7月 金融財政事情研究会

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