家族信託実務ガイド[1]の渋谷陽一郎「連載登記先例解説 第6回信託財産の「管理」と「処分」(1)」からです。
登記を通じて公示された内容が、日本の取引社会の不可欠な基本情報となります。そこで、登記手続によって公示することが許容され、かつ、その必要がある情報のみが、登記所に提供される必要があります。
必要がある情報のみが、について同感です。
信託登記も、信託法によって、受託者の分別管理義務の内容として、受託者に強制しています(信託法34条1項1号、2項)。これを懈怠すると信託違反となります。直近では相続登記の義務化が議論されてきましたが、法令上、義務化されるということは、その必要性の強度(公序)を示します。
信託違反を信託法違反と修正します。信託登記における受託者の分別管理義務に関しては、記事にある利益(法律効果)が現在のところ機能しているからだと考えます。必要性の強度(公序)も示していると思います。
それに対して、相続登記の義務化に関しては、今まで義務ではなかった登記申請手続が罰則を伴うという意味で、実質的に義務になるということは、必要性の強度(公序)とともに、利益(法律効果)が現在のところ機能していない面もあるのではないかと思います。
しかし、実は、信託を考えるうえでは、日頃、信託を組成するに際して、あたり前であると思われている基本的な概念が難しい。
私が見落としているのかもしれませんが、令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件では、組成という用語は使われていないので、現在のところは利用しない方が良いのかなと感じました。
信託目録第10号
四 信託条項 2 信託財産の管理方法
受託者の権限 財産管理
私なら、財産管理という用語を利用することはないと思います。上位項目(不動産登記法97条1項9号)で財産、管理という用語が既に使われており、二重に公示することになるからです。
「受託者への給付および管理的処分行為および信託終了後の帰属権利者への移転行為は別として、信託行為の定めがなければ、受託者は、処分行為(例、売却・担保権設定)がなしえないが、信託目的遂行上処分行為が必要と考えられる場合には、その処分行為をなすべき権限が与えられたものと解すべきである。」
―中略―「信託財産の「管理又は処分」は、受託者の職務権限の象徴的例示にすぎない。
四宮和夫『信託法〔新版〕』有斐閣1989年P217、P207の引用です。信託目的遂行上処分行為が必要と考えられる場合には、その処分行為をなすべき権限が与えられたものと解すべきである、に関しては、後続登記の登記原因証明情報への記録や第三者の承諾を証する情報の添付で対応するのかなと思いました。
「信託財産の「管理又は処分」は、受託者の職務権限の象徴的例示にすぎない、に関して同感です。
例えば、下のような記載のうち、現在公示すべき事項と後続登記申請に必要な事項について信託目録に記録する、という考え方もあると思います。
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。
□本信託の変更により、信託不動産に関する変更が生じる場合の各種手続き。
□信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為。
□売買契約の締結および契約に付随する諸手続き。
□賃貸借契約の締結、変更、終了、契約に付随する諸手続き及び契約から生じる債権の回収および債務の弁済。
□境界の確定、分筆、合筆、地目変更、増築、建替え、新築。
□その他の管理、運用、換価、交換などの処分。
□【 】
□ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・ 】
から事前に書面(電磁的記録を含む。)による承認を得なければならない。
□その他の信託目的を達成するために必要な事務。
□受託者は、信託目的の達成のために必要があるときは、受益者の承諾を得て金銭を借入れることができる。受託者以外の者が債務者となるときは、金銭債務は信託財産責任負担債務とする 。
□受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる。
また本記事を読み、受託者が処分行為を行うことが認められている場合があるのに、信託財産の管理方法(不動産登記法97条1項9号)と法律で定めているのは、改正が必要なのではないかなと思いました。
私が改正するのなら、信託財産に対する権限、にします。
認知症対策のような福祉的な信託の目的中、不動産に関して、果たして「運用」という目的が必要なのか否か、その内容は「管理」や「処分」と何が違うのでしょうか。
私は、運用はお金の利用の意味で使われているという認識でした。
(一社)信託協会 信託の分類
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/more/classification.html
ちなみに、家族信託の目的が、不動産に関して「確実な遺産の承継」や「円滑な財産の承継」のみであるような場合を考えてみてください。承継に至るまでの間、特定物の管理として、処分行為は認められない、ということになるのでしょうか。また、財産を承継させるまで、受託者は、当該財産の管理行為を行うべきでしょうが(その価値の維持や保存などは如何なる義務となりうるのか、その内容・程度などが問題となります)、当該財産を承継すると指定された者に対して、特定物の引渡し義務を負う者と同一の責任を負うと考えるのでしょうか。
ところで、信託目録に記録すべき情報の中でも、受託者の「処分」権限に関する定めをどのように公示すべきか、司法書士の悩みどころです。
承継に至るまでの間、特定物の管理として、処分行為は認められない、ということにはならないのではないかなと思います。遺産、財産が信託財産に属する不動産を特定物と捉えているとは読み取ることが出来ないからです。
信託目録に記録すべき情報の中でも、受託者の「処分」権限に関する定めをどのように公示すべきか、については、3つくらい考え方があるのかなと思います。最初から登記申請が必要な行為について、受益者の同意などを条件として全て信託目録に記録する方法。他に、信託行為時に予測できる範囲で記録しておき、予測できない事態が起きた場合には、信託の変更、信託目録の変更登記申請、登記原因証明情報の記載で対応する方法。また、信託の目的に沿って、処分行為を行う必要が出てきた場合のみ、信託の変更、信託目録の変更登記申請、登記原因証明情報の記載で対応する方法です。
[1] 2022.8第26号日本法令P84~