令和3年改正民法・不動産登記法研修会

「相続登記義務化関連法の解説」~改正不動産登記法が司法書士実務に与える影響について~

講師 海野禎子(神奈川県司法書士会会員)

司法書士法施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353M50000010055

(司法書士法人の業務の範囲)

第三十一条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。

一、二略

三 司法書士又は司法書士法人の業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務

法務省 不動産登記法新旧対照表

https://www.moj.go.jp/content/001347358.pdf

成立日及び公布日

令和3年4月21日

「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律悦第25号成立(同月28日公布。)。

施行期日

原則として公布後2年以内の政令で定める日(相続登記の申請の義務化関係の改正については公布後3年,住所等変更登記の申請の義務化関係の改正については公布後5年以内の政令で定める日。)。

不動産登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123

(建物の表題登記の申請)

第四十七条 新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(共同相続における権利の承継の対抗要件)

第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

所有者不明土地の発生の予防と利用の円滑化の両面

発生の予防・・・不動産登記法を改正。新法を制定し,相続等によって土地の所有権を取得した者が,一定の要件を満たすことによりその土地の所有権を国庫に帰属させる制度を創設。

利用の円滑化・・・民法等を改正,所有者不明土地の管理に特化した所有者不明土地管理制度を創設するなどの措置を講じる。

民法改正の概要

令和5年(2023年)4月1日施行

隣地使用権・・・改正209条

竹木の枝の切除等・・・改正233条

継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権・・・改正213条の2,213条の3

共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等・・・改正249条2項・3項

共有物の変更行為・・・改正251条

共有物の管理・・・改正252条

共有物の管理者・・・改正252条の2

変更・管理の決定の裁判の手続・・・改正非訟事件手続法85条

裁判による共有物分割・・・改正258条

相続財産に属する共有物の分割の特則・・・改正258条の2

所在等不明共有者の持分の取得・・・改正262条の2、非訟事件手続法87条

所在等不明共有者の持分の譲渡・・・改正262条の3、非訟事件手続法88条

相続財産についての共有に関する規定の適用関係・・・改正898条2項

所有者不明土地管理命令・・・改正264条の2

所有者不明土地管理人の権限・・・改正264条の3

所有者不明土地等に関する訴えの取扱い・・・改正264条の4

所有者不明土地管理人の義務・・・改正264条の5

所有者不明土地管理人の解任及び辞任・・・改正264条の6

所有者不明土地管理人の報酬等・・・改正264条の7

所有者不明土地管理制度における供託等及び取消し・・・改正非訟事件手続法90条

所有者不明建物管理命令・・・改正264条の8

管理不全土地管理命令・・・改正264条の9

管理不全土地管理人の権限・・・改正264条の10

管理不全土地管理人の義務・・・改正264条の11

管理不全土地管理人の解任及び辞任・・・改正264条の12

管理不全土地管理人の報酬等・・・改正264条の13

管理不全土地管理制度における供託等及び取消し・・・改正非訟事件手続法91条

管理不全建物管理命令・・・改正264条の14

相続財産の管理・・・改正897条の2

相続の放棄をした者による管理・・・改正940条

不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消し・・・改正家事事件手続法146条の2,147条,190条の2第2項

相続財産の清算、相続財産の清算人への名称の変更・・改正936条,952条~958条

20230425官報

民法第952条以下の清算手続の合理化・・・改正952条2項,957条1項

期間経過後の遺産の分割における相続分・・・改正904条の3

遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げ・・・改正家事事件手続法199条2項,273条2項・3項

遺産の分割の禁止・・・改正908条2項~5項

所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み

相続登記等の申請の義務付け

令和6年(2024年)4月1日施行

 不動産の所有権の登記名義人が死亡し,相続等による所有権の移転が生じた場合において,下記の場合に公法上の登記申請義務が課される。不動産の所有権の登記名義人について相続(特定財産承継遺言を含む。)や遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)の開始があったときは,当該相続等により当該不動産の所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正不動産登記法76条の2第1項(以下改正法という))。(注1・2)

 法定相続分での相続登記がされた後に遺産の分割があったときは,当該遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は,当該遺産の分割の日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正法76条の2第2項)。(注2)相続人申告登記の申出をした者が,その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは,当該遺産の分割の日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正法76条の3第4項)。

(注1)相続人申告登記の申出をした場合には登記申請義務を履行したものとみなす(改正法76条の3第2項)。

(注2)代位者その他の者の申請又は嘱託により,当該各規定による登記がされた場合には,適用しない(つまり,自ら申請していない者についても登記申請義務を免れる)(改正法76条の2第3項)。

登記申請義務の対象

対象となる財産・・・土地及び建物(法2条1号に規定する不動産)。

対象となる権利・・・所有権に限る。

相続登記等の申請義務違反の効果

 申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,10万円以下の過料に処する(改正164条1項)。なお,当該過料の罰則については登記官が裁判所に対して過料事件の通知(過料通知)を行うことになるが,この具体的手続きについては,法務省令等に所要の規定を設けるものとされている。

 過料は本気?一筆、一棟単位?まず、相続人申告登記申請。登記申請単位だと不公平感もあると感じます。

正当な理由があると考えられる例

 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り,戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合。遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合。申請義務を負う相続人自身に妊娠・出産・重病・介護等の事情がある場合。

3年以内に遺産分割が成立しなかった場合

所有権移転登記(相続人申告登記をした場合)・・・申出を受けて登記官が職権で登記(単独申出可・登記申請より簡易)。持分は登記されない。

法定相続分による相続登記・・・第三者が代位申請したケースは義務履行があったとみなされる。

法定相続分の割合で共有相続開始に遡ってA単独所有

遺産分割成立・・・「相続」による所有権移転登記(相続人申告登記をした場合)、「遺産分割」による単有とする所有権更正登記 (法定相続分による相続登記をした場合)

遺言書があった場合・・・遺贈又は相続による移転登記申請か、相続人申告登記申出

・申出を受けて登記官が職権で登記(単独申出可・登記申請より簡易)

・持分は登記されない

・遺言発見前に相続人申告登記がされていれば,重ねて相続人申告登記等をする必要はない

(*)改正法により,特定財産承継遺言,相続人に対する遺贈のいずれによるものかを問わず,その所有権の移転の登記は単独申請可能とされた(改正法63条3項)。

相続放棄者がいる場合の取り扱い

相続放棄者の相続登記申請義務・・・負わない。初めから相続人ではないから。

 登記申請義務を履行すべき期間の始期・・・自己のために相続の開始があったことを知った日とは被相続人である所有権登記名義人の死亡を知った日であり,「当該所有権を取得したことを知った日」とは相続放棄により(当該相続放棄をした者を除いた上で算定される。)。

相続放棄をする前に相続人申告登記をしていた場合・・・Aの登記申請義務は履行したものと扱われる(改正法76条の3第2項。)。

 相続放棄をする前にAが法定相続分に従った相続登記をしていた場合・・・相続人をAのみとする相続登記の更正登記をしなくても,当初の法定相続分の登記(相続放棄前の法定相続分による登記)をしていればAの申請義務違反はないと考えられる(正しい割合による相続登記を申請しない「正当な理由」があるとして過料の罰則の適用はない)。

施行の際に所有権の登記名義人が死亡している不動産についての経過措置

 今回の改正法施行日前に相続が発生していたケースについても,登記の申請義務は課される。具体的には,施行日と自己のために相続の開始があったことを知り,かつ所有権を取得したことを知った日のいずれか遅い日から法定の期間(3年間)が開始する(改正法附則5条6項)。

相続人申告登記の創設

令和6年(2024年)4月1日施行

死亡した所有権の登記名義人の相続人による申出を受けて登記官がする登記として,相続人申告登記を創設する(改正法76条の3)。

・所有権の登記名義人について相続が開始した旨

・自らがその相続人である旨

を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで,申請義務を履行したものとみなされる(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ履行したことになる。)

 所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は,法務省令で定めるところにより,登記官に対し,所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる(注1)。

 登記官は,前記の規定による申出があったときは,職権で,その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる(注2)。

(注1)これは,相続を原因とする所有権の移転の登記ではなく,各事実についての報告的な登記として位置付けられるものである。

(注2)相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出可(他の相続人の分も含めた代理申出も可)

付記1号 相続人申告 原因 年月日相続

氏名の申告相続人

住所氏名

年月日付記

付記2号相続人申告 原因 年月日相続

氏名の申告相続人

住所氏名

年月日付記

相続人による申出の際の添付書類

 申出人は当該登記名義人の法定相続人であることを証する情報(その有する持分の割合を証する情報を含まない。)を提供しなければならない。具体的には,単に申出人が法定相続人の一人であることが分かる限度での戸籍謄抄本を提供すれば足りる(例えば,配偶者については現在の戸籍謄抄本のみで足り,子については被相続人である親の氏名が記載されている子の現在の戸籍謄抄本のみで足りる)(部会資料P53・6)。

相続人申告登記の処分性

 相続人申告登記の申出を却下した登記官の判断には,処分性を有すると解されている。よって,審査請求や抗告訴訟の対象となる(ガイドブックP37)。その申出に対する却下事由や登記官が却下をする際の手続きに関する具体的な規律については法務省令に委任することが想定(部会資料 P57~58)。

相続人申告登記後の住所変更

 相続人申告登記後に,申出者の氏名又は住所について変更があった場合には,表示変更登記を申請する必要はない。

相続人申告登記の申出と法定単純承認事由

 民法921条1号では,「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし保存行為は除く)」と規定していることから,相続人申告登記の申出が本号の「処分」に該当するかが問題となる。この点,相続人申告登記は,所有権の登記名義人に相続が発生した事及び自らが法定相続人である旨を申し出てこれを公示する報告的な登記に留まる為,同号の「処分」には該当しないと解される(ガイドブックP38)。

相続登記等の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化

相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記手続を簡略化するため,共同申請主義(法60)の例外を規定を設ける。具体的には,遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記は,不動産登記法第60条の規定にかかわらず,登記権利者が単独で申請することができる(改正法63条3項)。

遺贈登記単独申請が適用される対象

対象となる受遺者・・・相続人に限る。

対象となる権利・・・所有権に限る。

昭和33年4月28日民甲779局長通達の変更。

法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化

 法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続を簡略化するため,法定相続分での相続登記がされている場合において,次に掲げる登記をするときは,更正の登記申請によることができるものとした上で,登記権利者が単独で申請することができるものとした。

遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記申請

他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記申請

特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記申請

相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記申請

改正法

登記の目的 更正登記

遺産分割、相続放棄、特定財産承継遺言、相続人への遺贈

申請構造 単独申請

登録免許税 不動産1個当たり1000円

登記の目的 更正登記

申請構造 単独申請

登録免許税 不動産1個当たり1000円

所有権移転

年月日相続

共有者住所持分氏名

共有者住所持分氏名

共有者住所持分氏名

付記1号

何番所有権更正

年月日遺産分割

住所氏名

 権利能力を有しないこととなったと認めるべき所有権の登記名義人についての符号の表示

 公布後5年以内施行(2026年予定)

 所有権登記名義人の相続に関する不動産登記情報の更新を図る方策の一つとして,登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて法務省令で定めるところにより,職権で,当該所有権の登記名義人について死亡の事実を示す符号を表示することができる制度を新設した(改正法76条の4)。なお,符号の表示を広く実施していく観点から,住基ネット以外の情報源(固定資産課税台帳等)からも死亡情報の把握の端緒となる情報を取得する予定である(改正法151条参照)。

対象となる登記名義人・・自然人(部会資料 P53・11)

対象となる権利・・・所有権

・所有不動産記録証明制度の創設

公布後5年以内施行(2026年予定)

自然人及び法人を対象とする所有不動産記録証明制度として,次のような規律を設けるものとする(改正法119条の2)。

 何人も,登記官に対し,手数料を納付して,自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは,その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる(改正法119条の2第1項)。(注1・2)

 所有権の登記名義人について相続その他の一般承継があったときは,相続人その他の一般承継人は,登記官に対し,手数料を納付して,当該所有権の登記名義人の所有不動産記録証明書の交付を請求することができる(改正法119条の2第2項)。(注2)交付の請求は,法務大臣の指定する登記所の登記官に対し,法務省令で定めるところにより,することができる(改正法119条の2第3項)。

 不動産登記法第119条第3項及び第4項の規定は,所有不動産記録証明書の手数料について準用する(改正法119条の2第4項)。

(注1)自然人だけではなく法人についても対象となる。

(注2)代理人による交付請求も許容することを前提としている。

所有不動産記録証明制度の限界

 現在の登記記録に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり,必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから,請求された登記名義人の氏名又は名称及び住所等の情報に基づいてシステム検索を行った結果を証明する所有不動産記録証明制度は,あくまでもこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり,不動産の網羅性等に関しては技術的な限界があることが前提である(要綱案P21)。

所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み

所有権登記名義人の氏名又は名称及び住所の変更登記申請の義務化

公布後5年以内施行(2026年予定)

 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは,当該所有権の登記名義人は,その変更があった日から2年以内に,氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない(改正法76条の5)。前記の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,5万円以下の過料に処する(改正法164条2項)(注)。

(注)裁判所に対する過料事件の通知の手続等に関して法務省令等に所要の規定を設けるものとする。

 なお,相続登記の申請義務違反過料罰則と同様に,登記官が裁判所に対して過料事件の通知(過料通知)を行うことになるが,この具体的手続きについては,法務省令等に所要の規定を設けるものとされている。

住所変更登記等の申請の義務化に関する経過措置について

施行日前に住所等変更が発生していたケースについても,登記の申請義務は課される。具体的には,施行日と所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった日のいずれか遅い日から法定の期間(2年間)が開始する(改正法附則第5条第7項)。

職権による所有権登記名義人の氏名又は名称及び住所の変更登記

公布後5年以内施行(2026年予定)

 改正法は,登記官が住民基本台帳ネットワークシステム又は商業・法人登記のシステムから所有権の登記名義人の氏名及び住所についての変更の情報を取得し,これを不動産登記に反映させるため,次のような規律を設けるものとする(改正法76条の6。)。上記により,登記官が職権登記をした場合は,表示変更登記申請の義務は履行済みと取り扱われる。住所等の変更があったときは,法務局側から所有権の登記名義人に対し,住所等の変更登記をすることについて確認を行い,その了解(「申出」と扱う)を得たときに,登記官が職権的に変更の登記をする。(注1)

 法務省内のシステム間連携により,法人の住所等に変更が生じたときは,商業・法人登記のシステムから不動産登記のシステムにその変更情報を通法人の場合 知することにより,住所等の変更があったことを把握する。(注2)取得した情報に基づき,登記官が職権で変更登記をする。

(注1)最新の住所を公示することに支障がある者(DV被害者等)も存在し得ることや,個人情報(プライバシー)保護の観点から住民基本台帳を閲覧することができる事由を制限している住民基本台帳制度の趣旨等を踏まえ,法務局側から,所有権の登記名義人に変更登記をすることについて確認を行い,その了解を得たときに,登記官が職権的に変更登記をすることとしている。

(注2)改正法では,所有権の登記名義人が法人であるときは,その会社法人等番号を登記事項とすることとされており(改正法73条の2第1項第1号),この情報連携においても会社法人等番号の利用を想定している。

不動産登記の公示機能をより高める観点等からの改正

所有権の登記の登記事項の追加

令和6年(2024年)4月1日施行

登記名義人の特定に係る登記事項の見直し

 所有権の登記名義人が法人であるときは,会社法人等番号(商業登記法7条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記事項とする(改正法73条の2第1項第1号)。なお,施行前に既に所有権の登記名義人となっている法人については,法務省令で定めるところにより,登記官が職権で改正法73条の2第1項第1号に規定する会社法人等番号を登記することを予定している(具体的には,法人から申出をしてもらい,登記官が職権で登記する流れが想定されている)。

現行法改正法

申請情報として提供(改正法73条の2第1項第1号)

会社法人等番号を添付情報として提供(中間試案の補足説明P210)。

外国に住所を有する所有権登記名義人の国内における連絡先となる者の登記

 海外在留邦人の増加や海外投資家による不動産投資の増加により,不動産の所有者が国内に住所を有しないケースが増加しつつある。こうしたケースにおける所有者の把握は,基本的に登記記録上の氏名・住所を手掛かりとするほかないが,日本以外の国においては,その住所等の情報を詳細に管理していないこともあり得,その所在の把握や連絡を取ることに困難を伴うことが少なくない。そこで,改正法は,所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは,その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものを登記事項とする旨改正した(改正法73条の2第1項第2号)。

 国内連絡先となる者については自然人でも法人でも可能でとされるが,不動産関連業者や司法書士等であることが期待されている(部会資料 P57・16)。施行後,この制度が定着するまでの間は「連絡先がない旨の登記」も許容する予定である(詳細は法務省令で定めることとされる)。連絡先として第三者の氏名又は名称及び住所を登記する場合には,当該第三者の承諾があることが必要である(要綱案P20)。

要件

・当該第三者は国内に住所を有するもの(要綱案P20)。

 連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等の登記事項に変更があった場合には,所有権の登記名義人のほか,連絡先として第三者が登記されている場合には当該第三者が単独で変更の登記の申請をすることができるものとする(要綱案 P20)。国内に居住していた所有権の登記名義人が海外へ転居した場合には,国内居住者の海外へ 所有権登記名義人住所変更登記の申請が義務とされるので(改正法76の転居 条の5),その申請の際に併せて国内における連絡先に関する登記事項の登記の申請も必要となる(部会資料P35・15)。

外国に住所を有する外国人についての住所証明情報の見直し

 外国に住所を有する外国人(法人を含む。)が所有権の登記名義人となろうとする場合に必要となる住所証明情報については,次のいずれかとする(要綱案 P20)。具体的には,法務省令又は通達等で対応されるものと予想。

 外国政府等の発行した住所証明情報

  住所を証明する公証人の作成に係る書面(外国政府等の発行した本人確認書類(住所記載の旅券や身分証明書等)の写しが添付されたものに限る。)

登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

公示催告及び除権決定の手続による単独での登記の抹消手続の特例

 登記記録上存続期間が満了している地上権等の権利や,買戻期間が経過している買戻特約など,既にその権利が実体的には消滅しているにもかかわらず,その登記が抹消されることなく放置され,権利者(登記義務者)が不明となったり,その抹消手続きに手間やコストを要するケースが少なからず存在する。

 不動産登記法第70条1項の登記が地上権,永小作権,質権,賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり,かつ,登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において,相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは,その者の所在が知れないものとみなして,公示催告の申立てをすることを認める旨の改正(改正法70条1・2項)。

仮登記は入らない。

改正法70条2項

 登記権利者は,共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは,非訟事件手続法99条に規定する公示催告の申立てをすることができる。(注)

公示催告の申立ての要件

地上権,永小作権,質権,賃借権若しくは採石権に関する登記

 登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないとみなして公示催告の申立てをすることができる(改正70条2項)。具体的には実際に現地を訪れての調査までしなくても良いものと考えられる(中間試案の補足説明P206)。登記権利者は単独で抹消登記を申請することができる(改正法70条3項。)。

(注)登記義務者の相続人の所在が判明しない場合にも適用するため,「登記義務者」を「共同して登記の抹消の申請をすべき者」に改めた(部会資料P53・16)。

買戻しの特約に関する登記の抹消手続の簡略化

 買戻しの特約に関する登記がされている場合において,その買戻しの特約がされた売買契約の日から10年を経過したときは,実体法上その期間が延長されている余地がないことを踏まえ,登記権利者(売買契約の買主)単独で当該登記の抹消を申請することができる(改正法69条の2)。なお,登記された買戻しの期間が10年より短い場合で,その期間を満了したときは,可能。

 登記官が買戻特約の登記を抹消したときは登記義務者に対しその旨通知することが予定。法務省令に規定を設けることが予定。(部会資料P 60・8。)。

解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続を簡略化する方策として,次の要件を満たす場合,不動産登記法第60条の規定にかかわらず,登記権利者は単独で担保権の登記の抹消を申請することができるものとした(改正法70条の2)。

・担保権の登記義務者が解散した法人であること(注1・2)

・相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお法人の清算人の所在が判明しないこと(注3・4)

・被担保債権の弁済期から30年経過したこと

・その法人の解散の日から30年経過したこと

(注1)担保権とは,先取特権,質権又は抵当権のことである。

(注2)通常の法人解散の手続きを経た場合のみならず,休眠会社又は休眠法人として解散したとみなされた場合(会社法472条1項,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律149条1項,203条1項)や,法人に関する根拠法の廃止等に伴い解散することとされた法人も含まれる(中間試案の補足説明P208)。

(注3)法務省令で定める方法としては,清算人が登記された住所に居住していないことを証する「不在住証明書」や,当該(住所省略)を本籍とする戸籍がないことを証する「不在籍証明書」等の公的な書類を調査したり,住所地への郵便等の不到達等で居住していないことの証明するをすることなどで足り,現地調査までは必要ないと考えられている(ガイドブック P80)。

(注4)清算人が存在しない場合には,裁判所に対してその選任等を請求することは不要(中間試案の補足説明 P209)。

その他の改正

附属書類の閲覧制度の見直し

令和5年(2023年)4月1日施行

登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面を除く)の閲覧制度に関し,閲覧可否の基準を合理化する観点等から,次のような規律を設けるものとする(改正法121条)。

 何人も,登記官に対し,手数料を納付して,自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面を除く)(電磁的記録にあっては,記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記において同じ)の閲覧を請求することができる。登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面及び前記に規定する登記簿の附属書類を除く)(電磁的記録にあっては,記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は,登記官に対し,法務省令で定めるところにより,手数料を納付して,その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る)の閲覧を請求することができる。(注)

(注)「正当な理由」の内容は通達等で明確化することを予定している。

 例えば,過去に行われた分筆の登記の際の隣地との筆界等の確認の方法等について確認しようとするケース,不動産を購入しようとしている者が登記名義人から承諾を得た上で,過去の所有権の移転の経緯等について確認しようとするケースなどが想定されている(令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)P20)

 被害者保護のための住所情報の公開の見直し

 令和6年(2024年)4月1日施行

 DV被害者等についても相続登記や住所変更登記等の申請義務化の対象となることに伴い,不動産登記法119条に基づく登記事項証明書の交付等に関し,次のような規律を設けるものとされた(改正法119条6項)。

対象者

 DV防止法,ストーカー規制法,児童虐待防止法上の被害者等を想定(具体的な範囲は今後法務省令で規定予定)

 登記官は,不動産登記法119条1項及び2項の規定にかかわらず,登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより,人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において,その者からの申出があったときは,法務省令で定めるところにより,同条1項及び2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。(注)

(注)対象者が載っている登記事項証明書等を発行する際に,現住所に代わる事項を記載(委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所,あるいは法務局の住所などを記載する事を想定している)(令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)P20)。

共有物の管理の範囲の拡大・明確化

所在等不明共有者がいる場合の変更・管理

管轄裁判所

共有物の所在地の地方裁判所

所在等不明の証明

 例えば、不動産の場合には、裁判所に対し、登記簿上共有者の氏名等や所在が不明であるだけではなく、住民票調査など必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明であることを証明することが必要。

対象行為の特定

加えようとしている変更や、決定しようとする管理事項を特定して申立てをする必要

共有物の管理者

(活用例)共有物の使用者が決定していないケースで、管理者が第三者に賃貸したりするなどして使用方法を決定。

共有者が使用する共有者を決定していたのに、管理者が決定に反して第三者に賃貸した場合には、前記※により善意者を保護。

(例) 遺産として土地があり、A、B、Cが相続人(法定相続分各3分の1)であるケースでは、土地の管理に関する事項は、具体的相続分の割合に関係なく、A・Bの同意により決定することが可能。

裁判による共有物分割

※ 賠償金取得者が同時履行の抗弁を主張しない場合であっても、共有物分割訴訟の非訟事件的性格(形式的形成訴訟)から、裁判所の裁量で引換給付を命ずることも可能。

※ この他に、共有物の分割について共有者間で協議をすることができない場合(例:共有者の一部が不特定・所在不明である場合)においても、裁判による共有物分割をすることができることを明確化(新民法258Ⅰ)

債務名義になるか。

不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

 共有者(相続人を含む。)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共有関係を解消することができる。共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができる(新民法262の2Ⅲ)

 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡することができる(新民法262の3Ⅱ)

※ 異議届出期間満了前に家庭裁判所に遺産分割の請求がされ、異議の届出があれば、遺産分割手続が優先され、持分取得の裁判の申立ては却下

(例)相続人が、やむを得ない事由があることを理由に、具体的相続分による遺産の分割を求めて遺産分割の請求を行い、異議の届出をしたケースなど

※ 共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分を基準とする(新民法898Ⅱ)。

※ 相続開始時から10年が経過する前でも、所在等不明相続人の土地・建物の持分につき、所有者不明土地・建物管理人を選任することは可能

林野庁

https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/kyouyuurin.html?s=09

共有者不確知森林制度

共有林の所有者の一部が不明で共有者全員の合意が得られない場合に、一定の裁定手続き等を経て、伐採や造林ができるようにする制度です。

共有林の所有者の一部が特定できない又は所在不明で共有者全員の同意が得られない場合に、市町村長による公告、都道府県知事の裁定等の手続きを経た上で、その者が所有する立木の持ち分を移転すること、共有者に土地の使用権を設定することにより、当該共有林において立木の伐採及び伐採後の造林が可能となります。

・安達敏男・吉川樹士・須田啓介・安藤啓一郎『改正民法・不動産登記法実務ガイドブック』(日本加除出版,2021)

・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案

・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明

・令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)

https://www.moj.go.jp/content/001355930.pdf

・荒井達也『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』日本加除出版,2021年

・七戸克彦『新旧対照解説改正民法・不動産登記法』ぎょうせい,2021年

・松嶋 隆弘『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務・財産の管理・分割・登記』ぎょうせい,2021年

・松尾 弘『物権法改正を読む:令和3年民法・不動産登記法改正等のポイント』慶応義塾大学出版会,2021年

・岡信太郎『改正のポイントからオンライン申請手続きまで図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』日本実業出版社,2021年

・ジュリスト2021年09 月号[雑誌] 有斐閣,2021年

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