登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の諸問題(11)」からです。
旧信託法(大正十一年四月二十一日法律第六十二号)
第三十一条
受託者カ信託ノ本旨ニ反シテ信託財産ヲ処分シタルトキハ受益者ハ相手方又ハ転得者ニ対シ其ノ処分ヲ取消スコトヲ得但シ信託ノ登記若ハ登録アリタルトキ又ハ登記若ハ登録スヘカラサル信託財産ニ付テハ相手方及転得者ニ於テ其ノ処分カ信託ノ本旨ニ反スルコトヲ知リタルトキ若ハ重大ナル過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキニ限ル
旧信託法31条による取消 原因 年月日信託法31条による取消
信託法27条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108
(受託者の権限違反行為の取消し)
第二十七条 受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができる。
一 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。
二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。
2 前項の規定にかかわらず、受託者が信託財産に属する財産(第十四条の信託の登記又は登録をすることができるものに限る。)について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。
一 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について第十四条の信託の登記又は登録がされていたこと。
二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。
3 二人以上の受益者のうちの一人が前二項の規定による取消権を行使したときは、その取消しは、他の受益者のためにも、その効力を生ずる。
4 第一項又は第二項の規定による取消権は、受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)が取消しの原因があることを知った時から三箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から一年を経過したときも、同様とする。
信託法27条による取消 原因 年月日信託法27条による取消
代位原因 不動産登記法99条
相手方のある処分行為(旧信託法31条)と受託者の権限違反行為(信託法27条)の違い
旧信託法31条[2]
(1)「信託の本旨」に反する受託者の行為が取消の対象とされていること
(2)信託の登記または登録がある財産については、取引の相手方の主観的態様を問わず常に取消が可能とされていたこと
(3)受託者との取引の相手方において、受託者の行為が信託財産のためにされたものであることを認識していない場合の取扱いが不明確であること
(4)取消の対象が、受託者による「信託財産の処分」に限定されていること
信託法27条
(1)「受託者の権限の範囲外」である行為が、取消の対象とされている
(2)取引の相手方の主観的態様(故意、または重過失)を取消権行使の要件に含める
(3)受託者の行為が信託財産のためにされたものであることを認識していた場合のみ、取消権行使が可能。
(4)受託者の権限違反行為一般について、適用対象。
この点、所有権移転登記の場合、売買か贈与かなどの登記原因の連続性も重要となるところ、同様にして、抵当権設定登記の登記原因の連続性まで求めるのか否か、に関する判断がポイントとなろう。
例えば抵当権設定登記の登記原因について、信託目録中に金銭消費貸借契約、保証委託契約などと記録する意味があるのか、分かりませんでした。
純粋に信託財産の「管理」だけに関わる情報は、信託登記の信託目録に記録すべき情報として提供する必要があるのか、という疑問の声である。
信託不動産の後続登記申請に関わる事項(修繕などでの借入れ、担保設定)以外であれば、原則として不要だと考えます。
例えば、家業の工場として使用している不動産を、父親から信託を受託した長男が、従来通り、工場として使用する場合、事業承継を目的とした管理の一環となる場合がある。「信託財産の管理方法欄」を「事業承継のための管理」とした場合、重複感を生じる。
私なら、信託財産の管理方法欄は、工場として管理、との記載に留めると思います。信託目録の信託財産の管理方法については、不動産登記法97条2項8号に処分も含む[3]と考えられます。管理に拘る必要はないのかなと思います。
[1] 893号、令和4年7月、テイハン、P37~
[2] 寺本昌広『逐条解説新しい信託法補訂版』2008年7月1日商事法務P104~
[3] 七戸 克彦 (監修), 日本司法書士会連合会 (編集), 日本土地家屋調査士会連合会(編集)『条解不動産登記法』 2013年弘文堂P604