横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(1)」[1]からの引用です。
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(注1)―略― 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』(民事法研究会、2014年)P372項に「仮に信託設定時の信託目録において、受益者変更に伴い、委託者の地位も当該受益者に変更する、という信託行為に関する定めが信託目録に記載されている場合、受益者変更登記の過程に即して委託者変更が行われてきたと推定することができる。それゆえ、現在の受益者名義に委託者変更に係る登記を行うことは可能であろう。それは、信託目録上で公示された定めに基づく変更であるからだ。」という見解が存在する。
しかしながら、筆者は、一般に信託目録の記録内容にそのような推定効が付与されているとは、理解していない。
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日本語の読み方の問題なのかな、と感じることがあったので、少し考えてみます。渋谷陽一郎氏がどのような意図で書かれているのかは分かりませんが、単純に日本語の文章として読んでみます。
横山亘氏は、一般に信託目録の記録内容にそのような推定効が付与されてはいないと理解している、と記載しています。
そのような考えから、二つの結果を導き出しています。
1つめが、委託者変更登記を行うべきである。
2つめが、委託者変更登記が行われていない場合、信託目録のその他の事項と受益者の欄の変更登記過程を照らし合わせて、委託者も変更されていると推定される効力は発生しない、ということです。
1つめについては、文章の読み方が違っているのではないかと思います。渋谷陽一郎氏の著書では、信託目録のその他の事項に記載がされば、委託者変更登記も可能であろう、と記載されいるので委託者変更登記を否定するものではありません。また、信託目録のその他の事項に記載がされば、委託者変更登記をする必要はない、とも記載されていません。おそらく、考えた末の結果は両氏とも共通であると思いますが、引用されている文章は批判の対象にはならないと思います。
2つめは、委託者の変更登記が行われていない場合です。この点についても、日本語の文章の読み方だと感じます。不動産登記法97条1項1号と11号は効力について差があるのか、と考えてみると、そのような判例、先例、通達は私は調べることが出来ませんでした。そして効力について差はない、と考えると1つめと同じく、考えた末の結果は両氏とも共通であると思いますが、引用されている文章は批判の対象にはならないと思います。
渋谷陽一郎氏が登記申請する側から書いているのに対して(その他の信託条項に登記されているいるいて、受益者変更登記がなされているから登記が完了する)、横山亘氏が登記申請を審査する側(その他の事項の信託条項と受益者変更登記を照らし合わせて審査する必要がある)の視点で解釈しているのかなと想像しています。
[1] 登記情報704号P24~ 2020年7月 金融財政事情研究会