令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)11035号損害賠償請求事件/論点と私見や疑問

参考文献

『家庭の法と裁判』 2021年12月号<特集:実務家のための民事信託入門>vol.35 P134~日本加除出版

遠藤英嗣『家族信託の実務 信託の変更と実務裁判例 家族信託をめぐる争訟を知り、信託行為と信託の変更を考える』2021年11月日本加除出版

論点

・信託契約書の案文を作成する段階で、信託内融資を取り扱っている金融機関を調査した上、あらかじめ、当該金融機関との間で、案文のチェックを受け、内容等の調整を行うべきか。

・・・信託契約書の案文を作成した後、公正証書にする前の段階で、信託内融資を取り扱っている金融機関を調査し、案文のチェックを受け、内容等の調整を行う必要があるか。・・・あると考えます。ただし、チェックを受けて信託内融資が可能であるという回答を記録に残る情報で行う金融機関は、2022年現在も限られていると思います。私の場合は、信託専用口座の作成や信託内融資に関する問い合わせはFAX、メールなどで送信します。回答は電話など口頭で返って来ることが多いですが、送信履歴は残しておきます。

・信託契約を公正証書にする場合、代理人を嘱託人とすることはすべきではないか・・・2022年現在の状況では、公証人と嘱託人によるFaceHubなどを利用した本人確認が認められており、代理はなじまないと考えます。

テレビ電話による認証制度

FaceHub

導入事例 日本公証人連合会

https://www.face-peer.com/casestudy/index.html

利用規約

https://www.face-peer.com/term/index.html

パートナーは、本システムの利用に関して、ユーザーまたは第三者に損害を与えた場合、その一切の責任を負うものとし、当社は一切その責任を負わないものとします。

当社は、 本システムによって提供される情報の正確性を保証するものではありません。

 別途、日本公証人連合会とFacePeer株式会社との間で契約があるのか分かりませんが、利用規約を読む限りなりすまし等による責任は公証人が負うではないかと思います。

嘱託代理の積極について・・・どのような運用なのか分かりませんが、代理というより使者という取扱いに読めます。民法99条、102条。

金子順一藤沢公証役場公証人「公証役場からみた民事信託」P24~『家庭の法と裁判』 2021年12月号vol.35日本加除出版

「最近、日本公証人連合会は積極説を採用し、公証人が委託者本人に信託契約締結の意思と代理人への事実を明確に確認できた場合には、委託者について代理方式で公正証書を作成することを許容するという見解を採用した」

・信託契約に係る公正証書の作成手続の補助を行うことに関する委任を受けた者において、当該公正証書について、委託者本人に作成の嘱託をさせるべき注意義務を一般的に負っている場面としては、どのような場面が考えられるか。

・・・判決における注意義務を負わない理由

  • 2018(平成30)年当時、民事信託の活用事例は多くはなかったこと
  • 2018(平成30)年当時、民事信託の活用を円滑に行うための知識や知見が必ずしも十分には普及していなかったと考えられること

主に2つを理由にしています。この状況を2022年に当てはめてみると、信託契約の公正証書の作成件数は、2018年(平成30年)2,223件、2020(令和2)年2,924件[1]と年々増えており、2つの理由は払拭されていると判断される可能性が高いと考えられます。

・信託契約無効確認公正証書の作成手数料と専門家報酬について、不法行為と相当因果関係が認められる場合があるとすれば、どのような場面が考えられるか。

・・・今回の事案においては、信託契約無効確認書の中で、事実の経緯として公正証書の作成手数料と専門家報酬の額について記載されていることが必要だと考えらえます。

民法(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

疑問

・何故、和解で終らずに判決まで至ったのか。・・・訴訟外を含めた和解で終らず、約4年に及ぶ訴訟手続きを経て判決まで至ったのか、分かりませんでした。Y司法書士の民事信託に関する名刺の記載が○○○○、と記載されていないことを考えると、O弁護士とY司法書士は、面識があるか民事信託に関する同じ組織に属している可能性があると思います。

・判決文中、Y司法書士が信託契約書案を公正証書化する前に、J信用金庫に信託専用口座開設について照会した際、J信用金庫は信託専用口座を作成するには、J信用金庫が指定する弁護士又は司法書士が作成した信託契約書に限定している、と記載されています。

 その後、受託者Aは、平成31年1月30日に、J信用金庫から弁護士を紹介されたとの記載があります。J信用金庫は、Y司法書士が作成した信託契約書(案か公正証書)を読む機会があったのか。

 判決文を読む限り、AがJ信用金庫に相談したのではなく、J信用金庫がAに接触しています。なぜJ信用金庫はAにO弁護士を紹介したのか。

 J信用金庫とO弁護士との関係について、無関係なのか。

・J信用金庫の民事信託口座開設に関する指定弁護士なのか。

・実はこの判決の一番すごいところは、司法書士が信託の専門家であると認定した上で、専門家責任を負うと判断したところなのか。その背景として日司連や民事信託推進センターの活動を挙げており、司法書士の制度史に残る判決か。

・・・なぜ、判決までいったのかという疑問を持っている私には、よく分かりませんでした。判決文で、司法書士が信託の専門家であると認定しているのか、私にはどこに記載されているのか見つけることが出来ませんでした。

 判決が、日司連や民事信託センターの活動を挙げているのは、原告が弁論を行い証拠を提出していて、Y司法書士の説明義務を判断するのに必要な事実だからだと思います。

・この判決が言っているのは、「間違った説明をしたら責任を負う」という、当たり前のことに過ぎないのか。

・・・分かりませんでした。

・民事信託の分野は最近になって生まれたため、倫理も確立されておらず、なんでも言った者勝ちの風潮があったのか。ようやく、地に足のついた実務に向かうのではないかと期待できるのか。

・・・匿名で批判し合って同業者間のビジネスになっていることを、地に足のついた実務だと考えると、そうなのかもしれません。

・司法書士業界でいうところの「規則31条業務」なる概念は誤っていて、この判決は、その考えをさらに強くするか。

・・・規則31号業務については、司法書士法に縛られた上で、信託監督人、法人の顧問など等の根拠規定とされるのかなと思います。規則というのは、そのような性質で作成されています。


[1] 金子順一藤沢公証役場公証人「公証役場からみた民事信託」P24~、八谷博喜「金融機関における民事信託―各種信託商品、信託口口座の設計―」P30~『家庭の法と裁判』 2021年12月号vol.35日本加除出版

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