渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第2章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第2章民事信託支援業務の執務指針

前提として、組成という用語を使わないようにしています。

P15

第4条定義(家族信託業務)で、家族信託支援業務を司法書士法施行規則31条業務として位置付ける。民事信託支援業務を司法書士法3条業務として位置付け、区別する。

P17

【図7】 民事信託組成相談の段階において、受託者と司法書士の接点はない。

P19

第9条定義(信託関係者)の、受益者代理人等、信託監督人等の、等が指している機関・人。

P21

 信託行為の設定を支援した司法書士が、信託開始後も、特段の事情のない限り、信託の適法性の確保を支援し、受益者保護を実現していく一種の保護義務が生じる根拠。

 委任契約書を作成することとの整合性。

P22

 司法書士は、信託の専門家として、いったん、民事信託の設定を支援した場合、以後、当該信託に信託違反、信託濫用、信託悪用などを生じることで、違法状態を生じさせてしまうことを予防することに配慮する同義的な立場にあることの根拠。

 委任契約書を作成することの整合性と、司法書士業務関連法令との関連。

P24

 民事信託支援業務に関する、各司法書士会の監督体制の整備に関する規定。公益的見地が、通常の司法書士業務と比較して、どこまで必要なのか、監督が必要なのか、監督する会員の負担、財源などが分かりませんでした。会則や指針等の公表については、賛成です。

P24

 債務整理業務を専門で行っているわけではないので、定型化された債務整理業務、という表現が分かりませんでした。

P25

 司法書士会の監督による司法書士業務の適正・適切さの維持を強く望んでいる、信託法研究者等が、誰を指しているのか分かりませんでした。

P26

 第16条の見出し、総則(信託組成の支援の使命)の、組成、について法律整序事務の範囲を超えないのか、気になりました。

 法律家としての司法書士が認識しておくべきことは、信託支援は単なる専門家の業務拡大の手段ではなく、人権擁護の手段であることだ、について、どちらも両立するものだとおもいました。

P27

 第17条総則(信託実務精通義務)の、まず何よりも伝統的で通説的な立場の信託理論に精通しなければならない、という用語が、指針の表現として、どのように機能するのか分かりませんでした。伝統的で通説的な立場の信託理論、については、特定の研究者の説によるのではなく、歴史的な立法、改正の議論の推移や判例を知ったうえで、というような意味だと理解しました。

P28

 第18条総則(誹謗中傷の禁止)の、名誉棄損、侮辱、プライバシーの侵害、著作権法違反等を行ってはならない、については、法で定められているので、必要なのか気になりました。

P30

図20で職務の公平性が、一定の限度で担保されるのか、分かりませんでした。

P31

 一部の親族による遺産先取りを真の目的とする家族信託が不適切な信託利用の典型例である、の部分について、遺言との整合性が気になりました。

 第23条総則(依頼の趣旨の不適切等)の、認知症対策の民事信託の組成を支援する場合、成年後見業務に対するのと同程度の配慮で、の部分について、どのような根拠があるのか分かりませんでした。委託者・当初受益者の生前については、任意後見制度の利用と同程度で、くらいの表現であれば、受託者の権限と任意後見人の権限を契約で決めることができる、受益者の監督権限と、任意後見監督人の監督権限に似ている部分があることを根拠として、納得できるかなと思いました。

P37

 これから民事信託支援業務を学ぶ司法書士の新人等に対して警告できるように規定しておく必要がある、について、警告の必要性が分かりませんでした。いつでも相談できる環境を用意しておく、であれば納得できるかなと思います。

P38

 第32条 総則(信託放置の禁止)について、依頼者、受託者、受益者などが決めることではないかと思います。

P39

 第33条総則(不正や犯罪の疑い)の、信託当事者や信託関係者に対して定期的な連絡や確認等を行い、信託の健全性に対して十分に注意し、の部分について、依頼者、受託者、受益者などと個別に契約で決めることではないかと思います。

P42

 あくまでも委託者の意思を尊重し、受益者保護の観点を貫くことである。受託者のための信託に加担してはならないのだ、という主張について、中立・法律整序事務とどのように整合性を取るのか、分かりませんでした。

P45

 第37条誤認を与える助言の禁止において、身上監護事務は、民事信託では不可能であることの説明が義務、必要に応じて任意後見制度を利用する助言が義務となっています。

P46

また、いわゆる複層化信託などの節税スキームを組成したが、それが課税当局によって否定され、受益者連続信託として重課税されたような事例もある。

→裁決など事例を探すことが出来ませんでした。

P48

 第40条委託者以外の親族の主導において、親族(の一部)の利益、という表現がありますが、委託者から依頼を受けるので、遺留分侵害と侵害する場合の備えがある場合を除いて、委託者主導であれば良いのか、バランスが難しいと感じました。

P50

 第43条判断能力の減退において、地域の福祉機関との連携は、努力義務となっています。

 司法書士は認知症診断の専門家ではない。―中略―まずは医師をはじめとする医療福祉の専門家らの支援を求めることを促すよう努めるものとする、について、医師をはじめとする医療福祉の専門家らの支援をも求めることについて、同感です。ただ、最終決定は責任を問われる司法書士自身が行うことが必要だと思います。

P51

認知症の本人の理解が不完全であることを奇貨として、親族主導で、親族のための家族信託の組成を、司法書士が支援してしまえば、不適切な信託を支援した責任も生じよう。

→現在の実務でこのような事例は、公正証書作成の段階で弾かれると思います。公正証書を作成しない場合(例えば、不動産のみで信託口口座を作成しない場合など。)に関する記述だと想定します。

P57

紛争性の有無は、委託者の推定相続人である親族間の意見対立という軽微なものから生じうることに注意したい。

→そのための個別受任である必要があると思いました。

P62

第57条(受託者に対する情報提供)において、信託設定時に、受託者に対して、信託開始後における―中略―具体的な情報を提供するとともに、信託期中における法令・義務の遵守を徹底することを助言することが、義務となっています。

→義務にするのではあれば、信託の効力発生後に受託者と個別で委任契約を締結した場合でないと、あまり効果がないのではないかと感じました。

P93

 包括受任方式や成功報酬方式の報酬算定方法によるコンサルティングの場合には、法令実務精通義務違反に問われる可能性が高い、とされています。懲戒事由となるので慎重な記述が必要だと感じます。

 第73条の家族信託組成コンサルティングという用語の使用の抑制において、個別の業務名を告げ、その業務範囲を説明し、とあります。この部分については、書面またはデータで依頼者と司法書士双方に、記録が残るような業務が求められるのではないかなと思いました。

P99

 委託者こそが信託の創造者であり、という記述について、委託者は信託をする者(信託法2条4項)になります。

P111

 第87条法律整序事務としての信託条項の選択に関する説明において、双方の信託当事者、信託当事者双方の真意、という用語が使われています。委託者と受託者のことだと想定されます。図87において、受託者は出てきません。受託者への説明をどのような立ち位置で行うのか、受託者の真意を確認するとすれば、説明や助言で済むのか、分かりませんでした。

P115 

 第92条法律整序事務としての信託の目的の確認において、信託法の関連条文をすべて明示し、信託条項の選択肢をすべて明示し、とあります。P117の第93条でも、受託者の権限に関して、同じような記述があります。P119の第94条でも、信託の終了事由について、同じような記述があります。

 すべて明示することが司法書士として可能なのか、委託者が理解することが可能なのか、分かりませんでした。

P119

 第94条法律整序事務としての信託の終了事由の確認において、信託当事者に対する、説得、の用語が使われています。

 図94について、私なら、登記代理の下に、信託法および信託の終了事由の定め、と記載すると思います。

P120

 第95条法律整序事務としての信託の変更に関する規律の確認において、断言、という用語が使われています。税務が関わっているからではないかと想定します。

P121

 第96条法律整序事務としての委託者の地位の移転の要否等の確認について、介入、という用語が使われています。

P123

 本人訴訟支援業務における、いわゆるメニュー論、という記述があるのですが、どのような論なのか分かりませんでした。

P133

 第103条信託貸付(信託内融資)に関する情報収集および情報提供について、信託当事者の融資審査対応を支援することができる、との記述があります。図103では、委託者と受託者の補佐人(民事訴訟法60条)的立場で行う、との構成とされています。

P144

委託者から依頼を受けて信託組成を支援した司法書士が、同じ信託事案について、信託開始後、今度は、受託者から委任を受けて受託者支援を行うことは、利益相反行為とならないのか、という難問がある。

→私も分かりませんでした。現状としては、個別具体的な判断で行っていくと思います。

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』→『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』第4章受託者の義務と責任

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年、有斐閣と、同氏著『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣の比較です。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣を基準にしています。

誤りなどがあれば、指摘願います。

第4章受託者の義務と責任

P179 追加

 受託者の義務を考えるにあたり、受託者の意思の位置付けや意義の軽重について、信託の類型によって分ける試み。

P181~ 追加

 善管注意執行義務とESG投資について。ESG投資基準を採り入れて損失を出した場合、善管注意執行義務違反に問われない、とは限らない。

P182 追加

 共同受託者間の相互監視義務について。善管注意執行義務の内容に含まれ、具体的権限の内容は、信託の目的との関係で定まる。

P189 追加

第三者委託と任意代理との関係の整理。

P192 追加

信託業法22条、信託業法施行規則29条に規定のある行為、指図の内容について補足。

P196 追加

信託法28条の要件充足判断と、信託法40条の関係について補足。

P205 追加

 受託者が、信託財産に属する財産が含まれている財産の一団の物理的な独立性を確保することについて、善管注意義務から分別管理義務への改説。

P212 追加

 信託法38条2項1号について、複数の信託について信託財産が合同で運用されているときの適用の可否について解説。

P215 追加

信託法45条2項の適用場面についての補足。

P216 追加

信託法39条2項2号の利用方法についての解説。

P218 追加

検査役の辞任について、民法651条を適用とする解説。

P220 追加

信託法8条が適用される場面についての解説。

P224 追加

信託法31条適用の理由について補足。

P229 追加

 信託財産から受託者への貸し付けについて、信託財産である金銭が銀行勘定で管理されている、という構成から、受託者に対する貸付債権が信託財産に属する財産になるという構成に改説。

P234 追加

信託法31条の適用場面について補足。

P248 追加

信託法31条3項、32条3項の通知義務が課されない場合について解説。

P252 追加

信託法27条が適用される場面について補足。

P253 追加

受託者の公平義務(信託法33条)が、受託者全員との関係で生じることへの改説。

P274 変更

信託法40条の受託者責任が消滅した場合の効果について、簡素化。

P278 追加

受託者の応訴と、信託事務執行との関係について解説。

P281 追加

信託の清算段階において、信託財産責任負担債務の弁済資金確保への言及。

P283 追加

信託法49条2項ただし書の、具体的な定めについて解説。

P292 追加

受託者が破産した場合の、破産管財人の地位について補足。

P301 追加

信託法40条、59条1項、60条1項と、民法709条との関係について解説。

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第1章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会第1章

http://www.minjiho.com/shopdetail/000000001380/

・刊行に寄せて

東北大学大学院法学研究科 吉永一行教授

市民と法掲載の「執務指針案」を4つに分類。

  • 民事信託支援業務の提供自体に関わる義務

委任契約と請負契約との区分。区分に伴って異なる結果となる、事務と完成物の品質水準・注意水準。

  • 民事信託支援業務の準備・環境整備としての付随的義務。

職員による事務処理など。

  • 説明義務

義務違反により、独自に損害賠償義務(令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件など。)の根拠となる。

  • 民事信託支援業務にあたる法律専門職が追う社会的使命として位置づけられるべき行為規範

司法書士法、施行規則、行為規範、会則との関係。

・刊行に寄せてー司法書士制度と民事信託支援業務ー

日本司法書士会連合会名誉会長 斎木賢二司法書士

司法書士は―中略―民事信託を開発し―中略―信託組成-。民事信託とは、専門家ではない、一般の市民が、その担い手(受託者)となって行う「本人信託」である。

→民事信託を開発したのが司法書士なのか、本書にも記載がありますが、信託組成とは何なのか、本人信託とは本人訴訟との類似性を強調するために使っているのか、分かりませんでした。

はしがき

自由かつ緻密な論争の存在こそが民事信託支援業務の規律化とさらなる展開のための希望である。

→私も同感です。著者はどうなのでしょうか。

(4)規則31条業務としての信託監督人

 原則として成年後見人は誰でもなれる(市民後見人。家庭裁判所の選任を要するが。)

→本人の親族でない人が、家庭裁判所の成年後見人選任要件を満たすには、実質的には行政の許認可ほどの要件があり、誰でもなれる、とはいえないのではないかと思います。

司法書士が信託監督人として規則31条業務を行う方向性は、平成18年の信託法改正直後から主張されてきた。

→文献、資料などがあれば教えていただきたいと思います。平成18年前後に、私は聴いたり読んだりしたことがありません。

民事信託分野の弊害である「われこそ専門家」症候群や、民事信託を踏み台にしてなり上がってやろうという過剰な自意識を抑えて情報の共有を行いー中略ー

→司法書士各々が事業者である以上、仕方がない面もあると思います。法令に違反しないように気を付けるのは当然として、です。それは著者も御存じです。ただ、批評すると組織から排除するのは、止めて欲しいと考えます。

3 民事信託支援業務の執務指針

そこで、民事信託支援業務の執務指針を策定する場合、単に既存の登記代理、本人訴訟支援、簡裁訴訟支援、債務整理などの他業務類型を想定した会則や指針を流用し、それらに上書きして、形だけの抽象的な指針としてしまうことは避けたい。

→意欲的な都道府県会が策定するのではないでしょうか。沖縄県会に関しては、昨年、本人確認に関する指針について、変更を要望しましたが却下だったので無理だと思います。結果として、先に策定した都道府県会の指針が公表されて、他の都道府県、日本司法書士会連合会に広がっていく流れではないかと予想します。

 ただし、指針を策定することで司法書士の業務がやりやすくなるのか、依頼者・司法書士共に護られることになるのかは、分かりません。策定が目的になるならば、各司法書士が司法書士法の解釈から自身で最低限の指針を作成して、委任契約書に記載した方が良いのかもしれません。

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』→『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』第3章信託財産と受託者による取引のメカニズム

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年、有斐閣と、同氏著『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣の比較です。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣を基準にしています。

誤りなどがあれば、指摘願います。

第3章信託財産と受託者による取引のメカニズム

P81 追加

同法21条1項6号イ二重かっこ部分が、「信託財産に属する財産について権利を設定し又は移転する行為」から生じた権利に係る債務は、取消しがされない限り、信託財産責任負担債務であるとしているのも、そのような行為が信託財産に効果の帰属するものであることを前提としている。」

→受託者の信託のためにする意思について、信託法21条1項6号を根拠とする事例の解説。

P86 追加

むしろ、受託者の権限範囲が「信託の目的の達成のために必要な行為」に限定されることを前提としたうえ、それに該当するか否かの解釈が相手方にとっては容易ではないため、特に保護範囲を拡大したと捉えるべきであろう。

→信託法27条についての解釈についての追記。

P92 追加

さらに、ここにいう「第三者」には、競合行為となる契約の相手方だけでなく、当該相手方から給付された目的物の転得者を含むと解されるところ、そのような転得者の地位は、介入権の行使によって何ら影響を受けることはない。このことも信託法32条4項ただし書が定めていると解される。当該転得者は、競合行為につき介入権が行使されるか否かは分からないのであり、その主観的態様とは無関係に保護されなければ妥当ではないのである(民法545条1項ただし書きの「第三者」と同様に解される)。

→信託法32条4項で保護される第三者の範囲について追記。

P93 追記

固有財産の計算でした場合は、相手方の債務が未履行であれば、その請求権が信託財産に帰属することになり、

→計算する財産の属性と、給付される財産の属性の関係について、追記。

P93、P94 変更・追加

・受託者の利害関係人の計算でした場合の効果について。

・相手方からの給付目的物が、転得者に移転された場合の、財産の属性と介入権の関係について。

・介入権行使の効果。

P110 追加

信託財産と固有財産または他の信託財産に属する同種の財産を物理的に区分せず、しかし、割合を明らかにして管理しているときは、当然にその割合による共有になるのであり、信託法18条1項後段・2項の規律は、現在の割合が不明であるときに適用される。

→信託法18条1項後段・2項が適用される場面について、追記。

P111 追記

このような状態になるのは、信託法17条・18条が適用される場合に限らない。たとえば、受託者が、ある不動産について、その共有部分を信託財産に属する財産として取得するに至ることもありうる。

→信託法19条の適用場面について、追記。

P112 変更

・信託法19条2項が適用される場面の相互関係について、文章の整理。

P114 追加

・信託法19条3項が適用される場面について、追記。受託者に義務がある場面について追記。

P121 追加

つまり、信託法24条2項にいう「これによって生じた損害」とは「これによって信託財産に生じた損害」と解すべきことになる。

→信託法24条2項の整理。

P122 追加

・信託財産責任負担債務について、序説の追記。

P133 追加

すでに受益権を他者に譲渡した、すべての旧受益者の悪意が要求されているのは、仮に譲受人が悪意であるときに取消しが可能であるならば、善意の受益者も悪意者には受益権を事実上譲渡できなくなり、譲渡の相手方が限定されてしまうことになってしまうが(信託の設定が取り消されてしまうのであれば、譲受人は受益権の譲渡を受けない)、それは、善意の受益者には損害を加えないようにするという趣旨に反するからである。そして、取消債権者が、全部の者が悪意であることの立証責任を負う。

→信託法11条について、全ての旧受益者に悪意が必要とされる理由と、立証責任を負う者の説明。

P139 削除

・信託法11条関連。債権者が悪意の場合について、削除

P139~ 変更

・自己信託の特例について、変更。信託法11条と、23条2項、3項、5項との関係について整理。

P142 変更

・信託法11条4項の悪意の受益者について、取消しの対象となる行為、相手方となる受益者、取消しの効果について整理。

P143 変更

・信託法11条4項と民法424条3項、民法424条の5との平伏を取るための整理。

P114 追加

・信託法11条5項に基づく請求を行う要件について、追記。

P146 追加

・信託登記の意義について追記。

P152 追加

・信託口口座の開設について追記。

P157、P158 追加

・要件が満たされていない場合の相殺について、追記。

P164 追加

・投資信託および貸付信託が、限定責任信託に関する適用除外であることの追記。

P170 追加

・限定責任信託の変更の効力要件について、追記。

P175 追加

・信託法226条の責任を負わない場合、責任追及の根拠として民法704条を追加。

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』→『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』第2章信託の設定

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年、有斐閣と、同氏著『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣の比較です。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣を基準にしています。

誤りなどがあれば、指摘願います。

第2章 信託の設定

P30

『信託法―現代民法別巻―』

信託契約または遺言による信託設定の場合には、信託設定にあたり、財産(当初信託財産)が委託者から受託者に対して処分される。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

信託契約または遺言による信託設定の場合には、信託設定にあたり、一定の財産(当初信託財産に属すべき財産)が委託者から受託者に対して処分される。

→P19の、当初信託財産に属する財産、という用語を加えたことを踏まえての表現だと想定されます。

P32

『信託法―現代民法別巻―』

たとえば、委託者が自己所有の不動産を既に第三者に売却し、所有権を移転したが、引渡しも移転登記もされていないという状態は、委託者が悪意で占有していることになるから、占有に瑕疵があることになる。したがって、その後、当該不動産を当初信託財産とする信託を委託者が設定し、委託者から受託者への移転登記がされても、受託者は委託者の占有の瑕疵を承継するから、受託者と当該第三者は民法177条の対抗関係に立たない(受託者は所有権を承継しない)。そして、これとのバランス上、委託者がすでに第三者に引渡しをしているとき(しかし、移転登記は未了)も、対抗問題は生じないと解すべきである。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

たとえば、委託者が自己所有の不動産を既に第三者に売却し、所有権を移転したが、引渡しも移転登記が未了のうちに当該不動産を当初信託財産に属する財産とする信託を委託者が設定し、委託者から受託者への移転登記がされたときはどうか。受託者を保護する必要はないし、委託者が第三者に売却した当該不動産の利益を信託の設定により自らが享受し、または、第三者である受益者に享受させることができるのは妥当でないとも考えられるので、民法177条の適用を廃除すべく、信託法15条の適用あるいは類推を認めるべきだとも思われる。

→注4記載の通り、改説。委託者に占有の瑕疵があることを、断定しない方向。

P32 追加

しかし、民法177条の趣旨は取引の安全を図ることだけにあるわけではなく、また、この場合、委託者は当該不動産を受託者に有効に譲渡する権限を有しているのであるから、(他主占有であっても、無権限占有者ではない)、受託者と先に譲渡を受けた当該第三者とは対抗関係に立ち、先に登記を備えた方が優先すると解すべきであろう。委託者が、第三者のために抵当権や地上権を設定したが、それが未登記である場合も同様である。

→民法177条(物権変動が生じる場合にも適用、第三者の範囲、登記の推定力、登記の欠陥を主張することができる正当な利益など)、民法180条。

P33 追加

債務について、「受託者個人に対する債権者は差押えをすることができない」とか、「受託者が破産したときに破産財産に取り込まれない」とかいった効果を考えることはできないのである。

→信託法21条1項の解説。

P35

『信託法―現代民法別巻―』

自己信託においては、その設定にあたって財産の譲渡がないわけだから、信託を有効に設定できると考える余地がある。―中略―当初信託財産に属する債権の債務者からの相殺は、自働債権が受託者の固有財産を引き当てにするものであっても、受託者が承認する旨―中略―を信託行為において定めることによって図ることができる。したがって、このような条項が信託行為に存在するときに限って、当該特約の趣旨に反しないものとして、自己信託の設定が有効になると考えるべきである。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

自己信託の場合には、債権の譲渡が生じないから、譲渡禁止・制限特約が付いていても、当該債権を当初信託財産に属する財産とすることは当然に可能である。

→注16記載の通り改説。信託法3条。

P37 追加

また、譲渡制限のある株式を当初信託財産に属する財産とする信託が設定されたときは、譲渡は譲渡当事者間では有効であると解されているので、信託は有効に成立する。しかし、譲渡について会社の承認が得られない場合には、信託目的の達成不能として信託が終了すると解される。

→信託は、有効に成立した後に終了する、という解説。

P37 追加

当該情報を委託者が利用することを事実上、排除できないときには、当該情報の委託者からの分離が十分でなく、信託の有効性にも疑問が生じるという考え方もあり得るが、受託者が、委託者の情報利用権と並存する情報利用権を有するにすぎないときも、当該情報利用権を信託財産に属する財産だと観念出来るのであり、委託者の情報利用権の存在は信託の成立の支障にはならないというべきである。

→注25記載のように、議論が深まってきたことから、より踏み込んだ記述。

P41 追加

もっとも、債権者から受託者に弁済受領権限が付与されたと解されるときでも、その後、被担保債権が譲渡されると、弁済受領委任の効力が消滅するのではないか、とも思われる。これについては、弁済受領委任の特約が譲渡される債権に内在的なものか否かが問題になり、内在的なものであると評価されれば、譲受人もそれに拘束されていることを知っており、そのような債権については、弁済受領委任の特約が内在していると考えて差し支えないように思われる。

→弁済受領委任特約が、被担保債権に内在されていると評価される場合の記述。

P42 追加

受託者の固有財産を目的とする担保権を

→信託法31条1項、2項の詳細な記述。信託財産に属する財産にするための財産は何かの特定。

P43 追加

単独所有にかかる財産につき、共有持分を設定するとともに信託宣言を行うことも可能であろう。

→共有持分についての記述。

P43 変更

『信託法―現代民法別巻―』

信託契約による信託設定、および、遺言による信託設定に関しては、

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

信託契約による信託設定に関しては、

→信託契約と遺言信託を分けて考える。

P45 追加

→電子記録債権、新株予約権について追加。

P46 追加

いったん信託を成立させた後に受託者に対して新株予約権を発行するというかたちをとらなくても、

→新株予約権を、信託財産に属する財産とするための構成について、追記。

P48 追加

いずれにせよ重要なのは、「信託の目的」は信託行為全体の解釈によって決まるものであり、たとえば、信託行為としての文書の、第2項に「本信託の目的」として書かれているところを指すものではない、ということである。

→初版も含めて、本書で度々記載がある、信託の目的をどのように解釈するかについて。

P54 追加

信託の中核的効果を有する法律関係を創設する意思、

→信託設定意思の定義に対する記述を追加。

P55 追加

そのような状況が、適切な義務設定によって実効化されていないときは、信託設定意思の存在を認めることができない。

→総論で、信託設定意思が存在しない場合について、記述。

P57 追加

・成年後見人等の取消権との関係

→「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」などの法改正によるもの。

P62 追加

『信託法―現代民法別巻―』

なお、このとき、委託者の相続人は、委託者たる地位を引き継がない(信託法147条)。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

なお、このとき、委託者の相続人は、当該遺言に別段の定めがない限り、委託者たる地位を引き継がない(信託法147条)。

→信託法147条但し書き。

P63 変更

遺言信託の効力発生時における、信託財産に属する財産が特定物の場合の、対抗要件についての考え方の整理。受託者が委託者の相続人ではない場合と、共同相続人の一人である場合に分ける。

P67 追加

より理論的に言えば、信託の設定は、当初信託財産を受益権に返還するという面と、その受益権を特定の者に与えるという面があるが、遺留分侵害行為となる無償行為は後者のみであり、財産の性質を返還するという行為は遺留分制度によっては制限されていないということである。―中略―しかし、そうすると、他者の遺留分を侵害しないかたちで受益権を取得した者が存在したとき、信託設定全体が影響を受けることになり。

→信託財産に属する財産が株式投資信託である場合、遺留分侵害行為と捉える対象となる行為は、信託設定そのものではなく、受益者の受益権取得であるという考えの補足。

P68 追加

→東京地判平成30年9月12日によるもの。

P70 追加

委託者の相続人が現に存在しないとき。

→信託法5条3項に基づき、詳細に記述。

P77 削除

単独受益者から受益者へ。

→信託法4条3項2号について、受託者が単独受益者である場合に限られないことの記述。

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