法人の目的 信託業法に抵触しない信託の引き受け

一般社団法人の設立の際、依頼者と「将来民事信託の受託者になり得るかもしれないですね。」と定款の目的欄に主要な事業に追加して「信託の引き受け」を記載しました。

那覇公証センターに定款案を提出したところ、「信託の引き受け」を「信託業法に抵触しない信託の引き受け」に訂正の指示があり、直ぐに訂正しました。

「信託業法に抵触しない信託の引き受け」は、あらゆる書籍で観ることができます[1]

ただし、その理由については家族信託・民事信託であること、信託業法に抵触しないことを強調する、という目的に書いてある通りの理由しか今のところ聞いたことがありません(他にあれば教えてください。)。

その他に、法人の目的で「~業法に抵触しない○○」という記載の仕方はあるのでしょうか。

例えば、建設業法に抵触しない建設、宅地建物取引業法に抵触しない宅地建物取引。

私は未だ見たことがありません。

まず基本法としての信託法があり、特別法として信託業法があります。受託者においても、信託法第7条の資格要件を満たした者は、個人・法人を問わず受託者となることが出来るのが原則です。例え法人の目的に記載が無くても。

沖縄県内の現在の金融機関は、法人の目的に信託の引き受け、不動産の管理、等が入っていないと信託口口座を作成出来ません。

 例外として、仕事(業、営業、業務)として信託の引き受けを行う場合は、免許が必要国が定めた免許が必要になる、という形です。

このような考えを辿ると、家族信託・民事信託では、「信託の引き受け」の方がまともだと以前から思っているのですが。

「信託業」が×なのは、特別法があるから分かります(少し宅地建物取引業法の場合に似ています。)。

受託者の営利を目的としないのが信託法なのだから、同じことを2回書いているようで変な感じです。

でも公証センターから指摘されたら訂正します。


[1] 遠藤英嗣「新訂新しい家族信託」2016P593など。

信託口口座開設(拒否)

信託公正証書作成日の前日、信託口口座を開設予定の金融機関から口座開設を拒否されました。

初めてのことだったので、驚きというか疑問というか、こんな事もあり得るんだという貴重な経験でした。

民事信託・家族信託専用の信託口口座を作成する際、一般的に次の手順を踏みます。
1   信託契約(設定)書(案)を公証人役場へ送信して、公正証書作成日の予約を取る。
2   信託契約(設定)書(案)の内容がほぼ確定してきたら、公正証書作成予定日の2週間~1カ月前に口座を開設する予定の金融機関に信託契約(設定)書(案)を送信して、金融機関にとって不都合なことがないか調整を行う。
公正証書作成予定日を記載して、予定日までに調整が終わるようにする。
3   公正証書作成後、金融機関の窓口で口座開設の手続きを行う。

今回の信託は、次のようなものです。[1]

 1   自己信託(委託者兼受託者は父親、受益者は子)
 2   目的は暦年贈与(自己信託を設定し、信託口口座を利用して暦年贈与を行う。申告は毎年するが、贈与契約書の作成が不要となる。)

金融機関の支店担当者から本店からの指示として、口座開設拒否の理由をききました。
(1)当行の家族信託では、事業承継と認知症対策のみ対応している。
(2)当行をメインバンクとしているお客様のみ対応している

2つの条件を満たさない限り、口座開設は不可能という説明でした。

反論しても覆ることはないので諦めましたが、私に説明した支店の担当者も説明していて理屈が合わないと感じたのではないでしょうか。

もし何も感じていなかったら、金融機関って独特な世界だなと思います。

  • (1)については、今回の信託も認知症対策であること。受託者が認知症などになった場合は、母を次の受託者に指定しています。
  • (2)については、新規の顧客は不要という金融機関は聞いたことがない。

自己信託についても、同じ金融機関で担保付不動産を自己信託設定し、信託口口座を作成していました。

金融機関からの連絡後、公証人役場の予定キャンセル、依頼者への説明などを行いました。


[1] 参考として、『実践 一般社団法人・信託活用ハンドブック』2019清文社P182~

自己信託と残余財産の受益者

規制改革ホットライン検討要請項目の現状と対応策

受付番号 301014001

受付日 平成30年10月14日

所管省庁への検討要請日 平成30年11月16日

内閣府での回答取りまとめ日 平成30年12月18日

・提案事項

自己信託の受益者について

・提案の具体的内容等

自己信託の設定(信託法3条1項3号)において、委託者兼当初受託者(以下、「設 定者」と記載します。)が当初受益者を兼ねていても、残余財産の受益者(信託法18 2条1項1号)又は後順位の受益者が定められている場合、自己信託の設定は有効 であることを確認させていただきたいと思います。

専門家及び公証人の間において、信託法8条、163条1項2号を根拠として不可能であるという声があります。 特に公証人から拒否されてしまうと、自己信託の効力が発生しない(信託法3条1項 3号)ので支障があります。

・想定される経済的又は社会的な効果

  • 設定者が個人(父)の場合、自身が管理できる間は受託者として管理して、当初受益者として利益も得ます。設定者が認知症になったら、又は○○歳になったら予め定めておいた後任の受託者(長男)に変更し、設定者死亡によって、残余財産の 受益者(長男)に財産が帰属させたい、という社会的ニーズがあります。
  •  経済的効果として、中小企業の事業承継について、オーナー(代表取締 役及び100%株主)が事業承継について決められないうちに認知症などの疾患や 相続が起きた場合、事業の混乱や廃業の危険がある事例において、自己信託の活 用により、財産(不動産や預貯金、中小企業の株式)及び事業の凍結予防が挙げられます。 なお、詐害信託など違法行為が許されないことは前提とします。
  • 設定者が法人の場合、設定者が中小企業の株式会社の場合、オーナー株主が自社株式について自己信託を設定し、当初受益者もオーナー株主とします。残余財産の受益者又は後順位の 受益者は、オーナー株主の相続人などとします。その後、オーナー株主が受益権を 一般社団法人に売買契約で移転し、受益者は一般社団法人となります。単に事業承継を行うのではなく、現社長が引退しなくても、子会社又は親会社の社長として経営を行いつつ、株の受益権は一般社団法人に渡しているのでオーナーの相続などに対応することが出来ます。その際は組織再編税制を利用します。早く事業承継をといわれても、一線を退くのには躊躇する経営者のニーズに応えることができます。

・制度の現状

当初受益者を委託者兼受託者自身と指定している自己信託であっても、受益権を事後に第三者に売却又は譲渡することを予定しているものは有効であると解されています。

ただし、自己信託であるか否かにかかわらず、信託は、受託者が専ら自らの利益を図ることを目的としてはならないとされているため(信託法第2条第1項括弧書き及び同法 第8条)、受託者が全受益権を固有財産で取得した状態が1年間継続した場合は、当該信託は終了するとされています(同法第163条第2号)。  

信託が終了した後、信託行為に残余財産受益者が定められている場合は、残余財産 は、当該残余財産受益者に帰属することになります(同法第182条第1項)が、信託行 為に残余財産受益者の定めがあることと、当初受益者を委託者兼受託者自身と指定している自己信託の有効性との関連はないものと考えられます。

・該当法令等

信託法第2条第1項、第8条、第163条第2号、第182条第1項

・対応の分類

事実確認

・対応の概要

自己信託であって当初受益者を委託者兼受託者自身と指定しているものでも、受益権 を事後に第三者に売却又は譲渡することを予定しているものは有効である一方で、受託 者が全受益権を固有財産で取得した状態が1年間継続した場合は、当該信託は終了す るとされています(同法第163条第2号)。ただし、1年間という期間は、受託者が全受益 権を固有財産で取得した状態を解消するための猶予期間という趣旨であるため、このような状態は速やかに解消することが望ましいと考えられます。なお、残余財産受益者の指定があるか否かは、当初受益者を委託者兼受託者自身と指定している自己信託の有効性との関連性はないものと考えられます。

(内閣府HP)

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他の専門家からすると、当たり前なのかもしれません。

私は残余財産の受益者が特定されている場合は、その人も受益者であり、最初の受益者が2名いるのと同じように受益者が2名いる状態である[1]というものでした。

事実確認とされたこと、共益権と始期付き(不確定期限付き)の受益権を持っているだけでは受益者といえないことについて、若干疑問ですが考えを改めます。


[1] 『信託フォーラムvol.6』P127 日本加除出版2016

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