令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件を踏まえた相談業務と委任契約書について

相談シート(民事信託支援業務)

氏名フリガナ                        

氏名                             

住所                               

電話番号 (     )                      

その他の連絡先(写真やファイルを添付送信可能なメールアドレスなど) 

                                     

                                   

目的(例)

□ ご自身の認知症や疾病への備え。

□ 障がいを持つ子どもや孫の生活保障のため。

□ 共有の不動産があり、管理・処分を1本化したい。

  • その他                        

ご自身が所有する財産

種類種類備考(金額等)
不動産  
預貯金  
保険  
   
   

ご自身が負担中の負債等

項目金額備考(借入先等)
借入金  
連帯保証  
   
   

ご自身の月別収支

収入項目金額支払い項目金額
    
    
    
    
    
    
合計 合計 

1、スケジュール

その1 現状把握

 確認検討
自身の財産・健康状態□ 健康状態
□ 資産の種類と現状
□ どのように活かす
□ 将来の具体的な課題
家族・親族関係□ これまでの関係資産を託せる人  
□個人  
□家族で法人設立  
□信託銀行・信託会社

その2 今後に向けて

 10年前10年後20年後
自身の生活
不動産・お金の行方

その3 他の方法と比較

方法メリット留意点
法定後見・家庭裁判所の監督・本人のための制度
・家族のための制度ではない
任意後見・予め代理する範囲を決めることができる。
・後見監督人の監督
・家庭裁判所の監督  
・本人のための制度
・家族のための制度ではない
ゆいごん・亡くなるまで、資産を動かす必要がない
・遺留分減殺の順序を定めることが可能
・金銭で遺留分を支払うことが可能
・手続に時間がかかる可能性がある。

2、設定手続

 手続の順番設定手続に関わる人専門家
家族信託の説明□ 他の方法や何もしないことと比べて、今後の方向性をつかむ                      □ 司法書士が業務として可能な範囲の説明
□ 他の方法の紹介
□ 他の方法への移行、併用
□ 遺留分の確認
□ 信託口口座開設の状況説明
□ 課題の有無
□ 課題別に他の専門家の紹介・連携 
情報の収集・子どもや孫の生活保障に充てる予定の資産の資料で、現状を把握
□ 金銭(      )   
不動産(     )   
□登記事項証明書   
□固定資産評価証明書

□ 保険
□ 必要書類・情報を確認
□ 道路や建築年数が古い建物、形状が複雑な土地など現地確認
□ 関係者と面談  
・必要な時は変更
□ 他の方法を利用
□ 他の方法を併用
見積書□ 項目についての説明□ 実費
□ 専門家報酬

↑ 相談毎に、

無償の場合、相談者と司法書士事務所との情報の共有。事務所で持つ情報については相談者の署名。

有償の場合、項目毎に請求書・領収書の発行。

民事信託・家族信託を利用するかの判断 □委任契約書(相談業務の終了)

設計案□ 生活の節目ごとに確認・想定される場面ごとに説明
□ 図面(委託者・受託者・受益者・信託財産に属する財産の変更に伴う信託口口座・登記・保険等の財産所有名義、財産管理上の手続き名義の変更)
□ 書式
契約書(案)□ 読み合わせ
□ 分からない箇所
□ 表現を変えたい箇所
□ 修正      
関係機関□ 金融機関
□ 公証センター・公証人役場
□ 保険会社など
□ 口座開設・借入れ予定等について事前確認
□ 事前確認の報告、説明
□ 同行
契約書(案)の最終確認□ 事前確認に基づく修正
・民事信託支援業務の委任契約終了
□ 契約書の読み合わせ
□ 関係者全員の同意
  □ 意思確認
公証人役場 公証センター
□ 公正証書
□ 契約書の保全
□ 高齢者の場合、判断能力の有無に関する一定の予防
□ 同行
関係機関へ 手続き →スタート□ 必要書類準備
□ 金融機関での通帳作成
□ 不動産について登記申請
□ 計算の開始
□ 登記手続き
□ 運営支援
      
      

委任契約書(例)[1]

 【依頼者氏名】、【受託司法書士氏名】は、以下の通り、委任契約を締結する。

第1条(受任の範囲)

 【依頼者氏名】は【受託司法書士氏名】に対し次の事務(以下「本件民事信託支援業務」という。)の処理を委任し、【受託司法書士氏名】はこれを受任した。

(1)民事信託[2]契約書(案)の作成

(2)民事信託契約書(案)に基づく公証人との公正証書作成の調整[3]及び支援[4]

(3)民事信託契約書(案)に基づく信託口口座[5]開設の調整[6]

(4)信託契約公正証書に基づく、不動産登記代理申請及び商業法人登記代理申請

(5)信託契約公正証書に基づく、信託財産に属する財産の受託者への名義変更手続きの支援[7]

(6)前各号の事務処理のため必要な戸籍謄抄本、住民記載事項証明書、固定資産評価証明書等官公署等の発行に係る証明書類の請求および受領

(7)上記に付随する一切の業務

  

第2条(司法書士報酬等)

  【依頼者氏名】は、【年月日】見積書の定めに合意した。

 2 本件委任事務の処理に関する費用は、【依頼者氏名】の負担とする。

第3条(情報の提供、説明および保持)

 1 【受託司法書士氏名】は、本件民事信託支援業務を遂行するにつき【依頼者氏名】対して、次の情報を提供する。

(1)民事信託契約書(案)に基づく公証人との公正証書作成の調整において、公証人から修正案などが示された場合の情報

(2)民事信託契約書(案)に基づく信託口口座開設の調整その他の信託内融資など信託の目的、受託者の権限に対する金融機関の対応について、金融機関からの返信に関する情報

(3)信託契約公正証書に基づく、信託財産に属する財産の受託者への名義変更手続きの支援について、【受託司法書士氏名】に対して連絡が来た場合の情報

(4)その他の本件民事信託支援業務を遂行するにつき必要な戸籍謄本、住民票写し、固定資産評価証明書等、官公署等の発行に係る証明書類を受領した場合の情報

2 【受託司法書士氏名】は、本件民事信託支援業務に関して知り得た秘密を、正当な理由なく第三者に漏らしてはならない。

第4条(契約の終了)

 1 依頼者氏名】、【受託司法書士氏名】は、いつでも本契約を終了させることができる。

 2 本契約は、次の事由により終了する。

   (1)【依頼者氏名】または【受託司法書士氏名】の死亡

   (2)【依頼者氏名】または【受託司法書士氏名】が補助、保佐、後見開始の審判を受けたとき

第5条(契約終了後の措置)

1 契約終了後は、【依頼者氏名】、【受託司法書士氏名】ともに権利義務を清算する。

2 費用の清算については、【年月日】見積書の項目について業務が完了している項目について【依頼者氏名】が【受託司法書士氏名】に対して支払う。

3 業務が完了していない項目については、次の場合、【依頼者氏名】が【受託司法書士氏名】対して支払う。

(1)【受託司法書士氏名】が立替払いしている費用

(2)【受託司法書士氏名】が書類作成、相談、関係機関同行などで時間を費消しているもの【年月日】見積書に定める時間・書類ごとの報酬

 4 契約終了が【受託司法書士氏名】の情報提供義務、説明義務違反に基づく場合、【依頼者氏名】は、前各号に基づく項目について費用を支払う義務を負わない。

第6条(契約に定めのない事項)

本契約に記載のない事項は、【依頼者氏名】と【受託司法書士氏名】が協議の上、これを決定する。

 【依頼者氏名】と【受託司法書士氏名】は、本委任契約の合意内容を十分に理解したことに相互に確認し、その成立を証するため本契約書2通を作成し、それぞれ保管する。

   年   月  日

依頼者

住   所 〒                               

氏   名                               

電話番号                                

    (その他の連絡先)                        

生年 月日          年     月   日 

司法書士

   所 在 〒                   

   氏 名 司法書士                   

参考

『家庭の法と裁判』 2021年12月号vol.35日本加除出版         


[1] 他に任意後見契約、遺言公正証書などを併用する場合でも、契約終了時点を明確にするため、委任契約書は別に作成する。

[2] 大垣尚司、新井誠『民事信託の理論と実務』平成28年日本加除出版P2「委託者以外の物が尾受託者となる信託行為(他社信託)のうち、信託(受託者)の引受けが営業としてなされる結果商行為となる信託行為(協議の商事信託または営業信託【商法502条1項13号】)以外のもの(民事他者信託)と委託者が受託者となる信託行為(自己信託)のうち、信託業法に基づく登録(信託業法50の2条)が不要なもの(民事自己信託)、ならびに、営業として信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録(信託業法3条、同法7条)が不要なもの(適用除外信託、信託業法2項1項括弧書、信託業法施行令1の2条)の3つの信託の思総称。

[3] メールによる文言などの調整を指す。

[4] 公証センター(公証人役場)への同席を指し、嘱託代理を含まない。

[5] 令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件において示されている【1】受託者を預金者とし【2】外観上、当該受託者の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預貯金口座(固有財産に属する預貯金口座)に係るCIF(Customer Information File。顧客情報ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座、の要件を満たす口座。

[6] 信託口口座開設予定の金融機関が利用可能な手段(メール・FAX等)での事前調整、同行支援を指す。信託口口座開設手続の代理を含まない。

[7] 手続方法の説明、手続情報作成の支援、手続が必要な機関への同行を指す。手続代理を含まない。

民事信託支援業務と司法書士の責任―東京地裁令和3年9月17日判決を題材に

市民と法[1]の記事、橋谷聡一大阪経済大学教授「民事信託支援業務と司法書士の責任―東京地裁令和3年9月17日判決を題材に―」からです。

一方、本件において、Yは自らが説明すべき事実について認識していた、あるいは認識し得たのかについて疑問が残る。換言すれば、その専門性に基づく知見や自ら負う義務についての認識がーあくまでも結果論にすぎないがー欠如していたことを認識していたのであろうか。

 私見ですが、この点は認識していなかった可能性が高いのではないかと思います。理由としては、民間の民事信託・家族信託系の資格を持っている(研修を受けている)ので、講師からの情報を基に、これなら大丈夫と考えながら、自分の目の前の具体的な事件に対して、当てはめることをしなかっただけではないかなと感じます。

 例えば、信用金庫提携の士業が研修講師であれば、事前確認しなくとも、多少間違っていても、口座を開設出来るのではないか、などと考えてしまったのかなと思ったりします。

すなわち、形式ではなく実質をみるならば、相談・助言の段階から本件第1委任契約を含む「民事信託支援業務」の履行が開始されていた、あるいは少なくとも本件第1委任契約に直接つながる司法書士の相談業務が開始されていたとみるべきではないか。

 私は委任契約前の相談・助言と、その他の民事信託支援業務の切り離しは可能だと思います。ただし、個別具体的事件に当てはめたとき、実質的に一体と評価される可能性はあり得ると考えます。

しかし、信託について専門性を有するというYは、本件判決でいうところの信託口口座(広義)、信託口口座(狭義)について、いかなるものであり、何を目的としてどのように開設するのか、両者のメリット・デメリットをXに説明し、その意思を確認したうえで信託契約の締結を支援する義務を負っていたのではないか。

 義務を負っていたと思います。特にデメリット面に関して、平成30年当時は金融機関の口座は、事前確認をしていても、実際に開設をするまで分からない、ということは説明していても良かったのかなと思います。

ただ、本件では、AがXの意向を汲みつつではあるが、Xの意向がYに伝えられていた。裁判所はどの程度契約の内容が確定されていることを求めるのかとの点でいささか厳格にすぎる判断を下したとみえる。

 個人的には、原告の主張立証との関係が影響しているのではないかなと感じます。ただ、現時点で上手く言語化出来ません。

また、不法行為と構成しようが債務不履行と構成しようが、ある特定の司法書士が他の司法書士等、つまり、本件ならば、司法書士のみならず弁護士、行政書士等のように広狭あれども競合する業務を行う可能性がある他の専門職よりも自らの能力が高く、提供する業務の品質が優良であると依頼者が認識しうる広告をし、あるいは肩書を用いているなら、依頼者からの信頼に対する責任がさらに加重されることはやむを得ない。

私も名刺に、民事信託、と記載しているので責任は自覚しています。同時に、(一社)民事信託推進センターから除名処分された者でもあります(公開しています。)。そのことを踏まえて、依頼者は私に委任してくださっています。

あるいは、弁護士および司法書士等隣接法律専門職種がイニシアチブをとり信託が設定されるという状態が福祉型の信託を含む民事信託で生じているなら、それこそが背後に存在する重大な問題である。

 同意しますが、民事信託について知らない市民の場合、どのような情報提供に留めるのか、バランスの問題なのかなと思います。

今後、このような課題が顕在化した場合、重大な問題となるだろう。たとえば、受益者の依頼により民事信託支援業務を行う弁護士や司法書士等法律専門職種が、依頼者に対する説明とその理解の確認すらないままに信託契約において受託者の義務をあらかじめ軽減したり、一方では受益者のために信託監督人の地位にありながら受託者に利益が生じ忠実義務違反ともなりかねない信託事務の遂行について相談・助言等を行うという状況が生じないと断言できようか。

 この辺は、難しい点だと感じます。

例えば、一般社団法人民事信託監督人協会という法人がありますが、法人内部の士業が民事信託支援業務を行った民事信託について、法人が信託監督人になっている場合、記事のような点についてどのような整理がされているのか、分かりません。司法書士会内部での声を聴いたこともありません。

https://info.gbiz.go.jp/hojin/Search

 民事信託支援業務を行った士業個人が信託監督人に就く場合もあると思います。委託者からの信頼が厚く、請われて就任した場合もあると思います。このような場合、当初は委託者兼受益者のために業務を行うことが可能だと思います。しかし、受益者の判断能力が衰えてきたとき、信託の終了が近づいてきたとき、相続に向けてどのように財産を残すか受託者(兼残余財産の帰属者・残余財産の帰属権利者)が判断をするとき、第2次受益者の要望と受託者の判断が異なるとき、どのような立ち位置を取るのが適切なのか、分かりません。人間関係に引きずられる、受益者の要望や信託の目的ではなく、信託財産に属する財産全体の帰属先(出口)のことを考えて損か得かを助言してしまう、ということは私にも充分あると思います。

私は現在のところ、信託監督人への就任は断らせていただいています。

しかし、このように厳密に解釈すると、依頼の趣旨に沿い書類作成のために法律的に整序する相談を有償で行えるとしか解することができない。整序にとどまると考えると、司法書士が専門職としてよりよい方法を「提案」することを通じ、依頼者の要請に応えることはできないか、極めて狭い範囲にとどまり、かえって依頼者の利益を損なう可能性がある。

同意します。

貸金業法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=358AC1000000032

このような観点からは、無理にコンサルティング業務を進めるのではなく、上述の専門家らとともに相互補完的に民事信託支援業務にかかわるべきであろう。

同意です。

まぁ、あの論争のど真ん中で振り回されてる立場としては疲れますよ、正直。

今回は橋谷先生、渋谷陽一郎さん、いずれもいい味を出していました。


[1] 135号、2022年6月、民事法研究会、P22~

東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)」からです。

信託、そして、長期にわたる信託の指針となる信託契約の法律整序事務は、本当に難しい法技術である。

本当に、難しい、を抜かして読むと、読みやすくなると思います。

民事信託支援業務の意義は、さらに、機能的にみれば、司法書士が市民間の純粋な法律関係(契約関係)への正面からの関与・支援に踏み出した第1歩である実質が重要である。

 機能面からの一つの主張には、同意します。動機としては、記事に記載されている司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実、というものが大きかったのではないでしょうか。そして結果的に、機能面として司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実となっているのが現状ではないかと感じます。

私人間の水平的かつ長期の安定的な法律(契約)関係を築くための相談、助言、立合い、法律整序支援などを介して、市民の権利を保全する、という領域である。

水平的な法律(契約)関係について

平松直登「1998年人権法の「水平的効力」の諸相-<「公的機関」としての裁判所>の意義と私人間効力-」

https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/handle/10291/17703

司法書士は、民事信託支援業務を介して、市民間における水平的な契約関係の前提となる当事者間の対等性・公平性を担保し、その職務的独立性を担保し、その職務的独立性を維持しつつ、積極的に市民に対する情報提供やリスク説明を行う法的支援者の重責を、あえて担いつつある。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令に関して、触れないのは何故なのかなと思いました。

もっとも、司法書士の法律相談または法律整序相談の場合、書類作成業務などの受任の有無に関わらず、それ自体が独立した契約である側面もあり(法律相談契約または法律整序相談契約)、専門家責任の下、かような契約に適合しない助言の提供をもって、それを助言過誤であり、法律相談または法律整序相談の債務不履行である、という構成もありうる。

 1つの方法としては、受任前の相談を個別的相談として報酬をいただくことが考えられます。

 2つ目の方法としては、受任前の相談を個別的相談として、無償で行うことが考えられます。この場合は、その時に整理整序した法律関係や当事者の意向の整理などのメモに日付を入れ、依頼者から署名をいただき、司法書士・相談者の間で共有します。受任時の委任契約書においては、以前の相談と対価の関係にはない旨を記載します。

また、損害賠償責任が遅滞に陥るのは、債務不履行構成の場合、起源の定めのない債務として、履行の請求を受けた時点となる(民法412条3項)。その一方、不法行為構成の場合、発生と同時に遅滞に陥る(最判昭和37年9月4日民衆16巻9号1834頁)。それゆえ、この場合、不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利となりうる。

 この場合、が何を指しているのが私には分かりませんでしたが、遅延損害金の発生日をもって不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利、というのは疑問に思いました。債務不履行構成とどちらが立証がしやすいか、個別具体的な場面で評価されるのではないかと感じます。

本判決では、「民事信託支援業務における司法書士の活動状況」というタイトルが付されている(第3・1(1)エ)。―中略―裁判所も、かような業務名を事実認定している。

 原告から主張立証されているからではないでしょうか。判決を書くのに必要な前提事実について、訴訟当事者から主張立証が尽くされてそれが正当であるとき、裁判所が事実認定しないということがあるのでしょうか。私には分かりませんでした。

そして、2007年の信託法の改正の施行を迎えるが、それを契機として、司法書士集団として受託者となる方向性だけでなく、民事信託支援業務全般を含めた検討が開始されるに至った、ということができる。

 裏返すと、それまでは受託者となる方向を中心に検討・研究・意見・協議していた、ということになるのかなと思いました。私は2007年合格ですが、新人研修の際、七戸克彦教授以外に、信託法に触れている講師はいませんでした。

この点、民事信託支援業務の実現に向けての組織的研究は、日司連の佐藤純通執行部において、支援型法律家たることを司法書士制度の理念としてきた佐藤会長の英断によって、当時、執行部を構成していた山北英仁理事に対して、司法書士による民事信託への関与の検討が委嘱されることで、日司連内に山北理事主幹の福祉型信託の部会を設けたのを一里塚とする。―中略―民事信託実務の検討の最適任者の一人であった。

 著者からみると、日司連会長や理事、渉外事務で知られる、弁護士事務所の大番頭、というのが重要なのかもしれませんが、違和感を覚えました。実際におこなっているのは個々の司法書士であり、現在の執務体制を最初に提案したのは本記事に挙がっている方々ではありません。新井誠教授でもありません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日司連の方向性に対する影響力に関していえば、リーガルサポートの初代理事長であり、福祉型信託を審議した第42回金融審議会のヒアリングを日司連の代表として担当するなど、それまで福祉型信託の活用を主張してきた大貫正男司法書士の存在も忘れてはならない。―中略―しかし、結果として、大貫司法書士は、成年後見や民事信託の実務を通じて、弁護士との協働関係を実現させてきた、という逆説が興味深い。

 私には分かりませんでした。現在の(公社)成年後見センター・リーガルサポートについて、大貫正男司法書士が果たしたことと、起こった問題に関しては検証が必要ではないのかなと思います。ここでも個々の会員の視点が抜けていて少し残念に思います。ただし、大きなことを語るのが大事だと考える方もいらっしゃるので、仕方がない事だと思います。

民事信託は司法書士の十八番芸なのか

誰がこのようなことを言っているのか、教えて欲しいと思います。

大貫司法書士は、徹底した研修の必要性、そして公益精神を忘れず、報酬目当ての商業主義に逸脱しないこと、信託を利用して利潤追求はすべきでないこと、一匹オオカミではない組織による集団指導体制構築の必要性など、司法書士実務家の人々に対して厳しい覚悟を求めた。このような大貫提言の数々は、その後、どれだけ遵守されてきたのだろうか。

 繰り返しになりますが、大貫司法書士には民事信託の前に(公社)成年後見センター・リーガルサポートの初代会長として、負の部分を是正していく仕事がまだ残っているのではないかと思います。

 また、このような提言は日司連の民事信託委員の一部、(一社)民信託推進センター役員の一部には当てはまらないのかな、と感じるのは私だけでしょうか。

 民事信託の第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、など、そのような名前を付けてどのような意味があるのだろうと感じます。

当時、司法書士実務家の人々の少なからずは、法律事務としての信託支援業務の法的根拠論(本当に司法書士業務となり得るのか否か)に懐疑的であったから、信託法研究の泰斗である新井教授の助言に勇気づけられた人々が多かった。

 記事記載が事実だとすれば、現在司法書士が民事信託支援業務を行う法的根拠について、議論する余地はないのではないかな、と感じます。


[1] 125号、2022年6月、民事法研究会p43~

沖縄県内の民事信託の現状・展望・課題修正1

那覇支部 宮城直

民事信託[1]に関する委員会や、民間団体の役職などに所属していない一司法書士の私見です。

1 現状

(1)金融機関

信託法34条の分別管理義務として信託財産に属する金銭の管理に必要な、信託口口座[2]の開設に関係する、金融機関の現状について私が把握している情報です。

(株)琉球銀行について、2017年に信託口口座の開設を確認しています。2018年に(株)沖縄銀行、(株)沖縄海邦銀行に関して開設を確認しています。コザ信用金庫、沖縄県農業協同組合その他の金融機関に関しては把握していません。会員の方で情報を持っている方がいらっしゃれば指摘願います。なお、2018年に(株)琉球銀行は、当会会員である司法書士法人みつ葉グループと民事信託分野にて業務提携[3]、(株)沖縄銀行については県内司法書士と業務提携[4]を行っているようです。

(2)公証センター(公証人役場)

現在の実務の現状として、金融機関において信託口口座を開設するためには、信託行為を公正証書にする必要があります。沖縄県内で、信託行為が年間どのくらい公正証書にされているのか、件数を把握していません。

全国的な統計[5]として、2018(平成30)年2,223件、2019(平成31)年2,974件、2020年2,924件という数字があります。ただ、この数字を人口割合や世帯割合で割れば、沖縄県に当てはめられるかというと、私には分かりません。他に(株)三井住友信託銀行[6]、(一社)家族信託普及協会[7]などが公表している数字がありますが、現在の沖縄県にそのまま当てはめるのは難しい[8]のではないかと思います。

公証実務は、元公証人の遠藤英嗣弁護士の書籍、研修の考えが中心になっていると思われますが、全てについて正しいのかというと、私には分かりません。

(3)判決

信託法(平成十八年法律第百八号)施行後の主な判決です。

・令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件

・令和2年12月24日東京地方裁判所判決

・令和2年10月30日札幌地方裁判所判決平成30(ワ)1940詐害信託取消等請求事件

・平成31年1月25日東京地方裁判所判決平成29年(ワ)第32855 号信託契約有効確認請求事件

・平成30年9月12日東京地方裁判所判決平成27年(ワ)第24934号信託契約有効確認請求事件

・平成28年10月19日東京高等裁判所判決

・平成25年4月3日名古屋高等裁判所判決平成20年(行ウ)第114号 贈与税決定処分取消等請求事件

(4)実例・経験談

私のみの経験ですが、目的としては認知症対策が大部分を占めます。信託財産に属する財産は、金銭、委託者が経営する法人の株式等、自宅や収益不動産、区画整理予定の土地を含む不動産が主です。数として少ないのが受益権の売買・贈与です。目的として認知症対策が多い反面、認知症等のために信託公正証書の作成が間に合わなかった事例が同じ位の件数あります。

2 展望

私見です。沖縄県は、2018年までならば、実務、理論ともに全国で1番になる可能性があったと思います。2022年現在ではありません。2015年から県内金融機関を回り、2018年に沖縄県で(一社)家族信託普及協会から、専門家向け講座開催、(株)琉球銀行・(株)沖縄銀行を繋げて市民向け講座を開催するまでは出来ました。そのあと私から、講座に参加していた司法書士をはじめとする各専門家や金融機関関係者に対して、(一社)司法協会の研究助成に採択されたので、業界関係なく共同研究の形にして一緒にやらないか、参加の声掛けをしましたが、参加される方はいませんでした。2018年、沖縄県で業界や学会の垣根を超えた民事信託の研究・実践団体、勉強会が結成されていた場合、現在、(一社)民事信託推進センターが行っていることなどは、自前で可能だったと考えます。この時点で、それぞれ事務所、会社、金融機関の利益のために動くことになりました。

現状、例えば金融機関提携の専門家の下で家族信託・民事信託が設定された場合、利益の一部は東京都などの専門家(団体)に流れていきます。この流れが止まることは、ないと思います。現在、士業間ビジネスが活発です[9][10]。毎月3,000円~数万円の年会費、月会費を支払う固定費型のシステムのため、この流れも少なくとも数年は止まらないのではないかと思います。その他の民事信託を専門としている士業のホームページを覗いてみると、信託契約書のチェックなどで数万円というのは珍しくないと思います。故石川義博司法書士を知っている身としては、寂しい状態ですがそういう時代だと諦めます。

各司法書士会員の皆様には、業務の選択肢の1つとして考えていただければ良いのではないかなと思います。第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)、民法(相続関係)改正その他の関連する新法施行[11]など、利用を検討する場面は多くなるのかもしれません。

民事信託・家族信託の書籍を開くと、奥が深い、日々変わっていく、失敗事例の指摘など、今までの法律書にはないような言葉が並びますが、成年後見関連業務をはじめ不動産・商業法人登記についても、司法書士業務で簡単な業務はないと思います。

3 課題

個人的に課題は一点であり、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の改正[12]です。法令改正が可能になるまでは、日本司法書士会連合会における本人確認規定の改正、それが出来なければ県司法書士会における本人確認規定の改正による対応です。

沖縄県司法書士会についてもう少し踏み込んで書くとすれば、私がこのような記事を書いている現状だと思います。本来であれば、より多くの情報や経験を持っていると考えられる民事信託委員会の会員、金融機関や不動産事業者と提携している司法書士会員が書くような記事だと考えます。

今後の沖縄県の司法書士業界における民事信託への取組み、関わり方については、私は金融機関への提案や共同研究の呼びかけなど、出来ることはやったので、思い浮かびません。また、現在何かしらの人脈や肩書を持っている立場にもなく、個人としての力もありません。社会のニーズは、高齢化社会において、一定数はあるのではないかと思います[13](あえて挙げるとすれば自己信託。)。研鑽等は、他の法改正の度に行っている方法で足りると思います。  

成年後見制度が始まった際、当初は手探り状態から経験を積んで始まり、今も進行中だと思います。そのような意味では、(公社)成年後見センター・リーガルサポート沖縄支部の取組みは参考になるのではないでしょうか。個人としては、共同研究したいという方がいらっしゃれば、司法書士であるか否かを問わず、出来る範囲で行っていきたいと思います。

 


[1] 大垣尚司、新井誠『民事信託の理論と実務』平成28年日本加除出版P2「委託者以外の物が尾受託者となる信託行為(他社信託)のうち、信託(受託者)の引受けが営業としてなされる結果商行為となる信託行為(協議の商事信託または営業信託【商法502条1項13号】)以外のもの(民事他者信託)と委託者が受託者となる信託行為(自己信託)のうち、信託業法に基づく登録(信託業法50の2条)が不要なもの(民事自己信託)、ならびに、営業として信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録(信託業法3条、同法7条)が不要なもの(適用除外信託、信託業法2項1項括弧書、信託業法施行令1の2条)の3つの信託の思総称。

[2] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版P141、P142「【1】受託者を預金者とし、【2】外観上、当該受託者個人の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預金口座(固有財産に属する預金口座に係るCIF(Customer Information File。顧客ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座)。」

[3] 司法書士法人みつ葉グループHP2019.07.31「お知らせ琉球銀行と業務提携へ」https://minjishintaku-kazokushintaku.com/news/669

2022年4月22日閲覧

[4] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、司法書士・家族信託専門士宮城拓「私はこうして家族信託に取り組んだ」

[5] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版、藤沢公証役場公証人金子順一「公証役場からみた民事信託」

[6] 『ジュリスト』2018年6月(株)有斐閣、八谷博喜「家族を受託者とする信託」

[7] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、(一社)家族信託普及協会事務局「実態調査家族信託最新情報~一般社団法人家族信託普及協会『Fact Book2021』より」

[8] (株)三井住友信託銀行については沖縄県内に実店舗を開設していないため、(一社)家族信託普及協会については、自己申告のため。

[9] 信託の学校、月3,500円(税抜)相談は別途費用が発生。https://schooloftrust.com/ 2022年4月23日閲覧

[10] (一社)家族信託普及協会専門士サポートサービス月11,000円

[11] 民法等一部改正法令和5年4月1日、相続土地国庫帰属法令和5年4月27日、相続登記義務化関係の改正について令和6年4月1日

[12] 駿河台法学第34巻第2号金森健一弁護士「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)」、平成29年(2017年)6月日弁連信託センター設置、2020年(令和2年)9月10日信託口口座開設等に関するガイドライン制定、https://www.nichibenren.or.jp/activity/civil/trust_center.html

2022年4月23日閲覧、(株)三井住友信託銀行「弁護士紹介制度」https://www.smtb.jp/personal/entrustment/introduction/lawyer

2022年4月23日閲覧

[13] 『市民と法121号 2020年』「民事信託に関するアンケート調査」(株)民事法研究会

民事信託の登記の諸問題(9)

 登記研究(891号、令和4年5月、(株)テイハン、P31~ の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(9)」)について、考えてみたいと思います。

所有権に関する信託登記における信託目録の内容の法的性格については、三つの考え方がありうる。一つ目は、処分制限の登記の一種であるという考え方(処分制限登記説)、二つ目は、賃貸借の登記などと同様、債権の登記の一種であるという考え方(債権登記説)、三つめは、処分制限の登記、債権の登記、所有権の特約の登記の性格その他がその他が混在しているとする考え方(多元的登記説)である。―中略―第三の多元的登記説をもって正当としよう。



 処分制限登記説、債権登記説、多元的登記説の説は、今までも使われていて、今後も使われていくのでしょうか。私は初めて知りました。
多元的登記であるということについて、同意です。

事業用定期借地権の例

目的 借地借家法第23条第1項建物所有

特約 譲渡・転貸ができる

   借地借家法第23条第1項の特約


 登記原因で認められない譲渡、については売買契約でも贈与契約でも、名義が変わる、という意味で使われているのかなと思いました。

また、法令上、内容が具体化・特定された特約は、法令名(条文番号)の公示で足りるとしている登記先例の趣旨も参考となる。上記を参考とすれば、例えば、次のような信託目録の要約例(あくまで参考例の一つ)がありうる。

4 信託の条項
2.信託財産の管理方法
(1)受託者の権限
信託不動産の管理及び処分
信託不動産のための借入
信託財産責任負担債務のための抵当権の設定
信託法26条のただし書きの特約
抵当権の設定には受益者の承諾を要する

 条文番号が変更になった場合、効力は改正法令の附則、変更登記義務については通達に委ねられることになるのかなと思いました。
信託不動産のための借入、というのは、信託財産に属する不動産の修繕などのための借入れという意味なのか、よく分かりませんでした。
また借入れは、信託財産に属する金銭の管理方法であり、信託財産に属する不動産の信託目録に記録する事項なのか、分かりませんでした。借入れる際は、信託行為の記録を金融機関に審査してもらえば足りるのではないかと思います。

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