司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論の目的

 市民と法[1]の記事、金森健一弁護士・駿河台大学特任准教授「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論の目的」からです。

信託契約書の作成を登記原因証明情報の作成ととらえる司法書士法3条説の難点は、同条により弁護士法72条違反の回避という受任者たる司法書士を防御することを主たる狙いとするために、依頼者に対する関係での行為規範を導きづらい点にあると思われる。

 司法書士法3条を根拠とすることが、弁護士法72条違反の回避を主たる狙いとするものなのか、分かりませんでした。依頼者に対する関係では、司法書士法を根拠とすることで2条、24条等とともに、どこまでやってもいいのか、どこからはだめなのか、規範を定立しやすくなるのではないかと感じました。

 また、同時に司法書士法改正の議論は必要だと思います。

つまり、自らが行う業務がどのような法的根拠に基づくのかについて無頓着であることが、自らの業務の内容、特に依頼者に対し提供するべき法的サービスの内容を曖昧にし、それが、依頼者(多くの場合は、その曖昧さを問い詰めることのできない一般消費者である)の利益を害し、かつ、自身が損害賠償責任などの法的責任を負うことに繋がると考えるのである。問いたいのは、「業際問題」ではなく「消費者問題」なのである。

 消費者問題が問われるのは、民事信託信託(設定)支援業務がビジネスとして成り立っているということを示していると考えられます。

司法書士行為規範81条に民事信託支援業務についての規律が制定されたことは、何もないところで規範がうまれたという面では大きな一歩といいうるものの、問題の本質との関係では、その一歩を“前進”ととらえていよいかは疑問が残る。

 私にも分かりません。司法書士行為規範81条がどのような議論を得てあの文言になったのか、公表されていないからです。

活動が大きくなればなるほど、その遠心力は大きくなり、その力に持ち堪えるだけの頑強な「礎」が必要になる。法的根拠論は、まさに「礎」を築くための議論である。ここを曖昧にしたまま、活動ばかりが大きくなったとき、信義則上の義務といった予測不能な義務が司法書士に課されるのである。

 信義則上の義務違反に問われるとすれば、行為規範を作った機関ではなく、行為規範をそのまま自分で解釈するしかない会員だと思います。


[1] 138号、2022年12月、民事法研究会P84~

民事信託支援業務と懲戒規範

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託支援業務と懲戒規範」からです。

当初は、誰が考え出したのだろうか、信託財産の〇%という宅地建物取引業者的な報酬算定方法に対する苦情が聞かれた(結果として過剰報酬となれば品位保持義務違反の領域となる)。

誰から聞いたのか分かりませんでした。

昨今は、民事信託を取り扱う司法書士が急増するに伴い報酬額が低廉化してきたが、その業務内容の品質と方法・態様に関する苦情も聞かれる。

誰から聞かれたのか分かりませんでした。報酬算定方法は、業務の積み上げ式で見積書や委任契約書に報酬算定方法を明記することでバランスを取るかなと考えます。

それゆえ、懲戒機関も危機感を強めているのではないかとも推察される。かような裁判例のトレンドを後追いする形で、今後、懲戒機関によって、民事信託支援業務を行う司法書士に対する懲戒機関によって、民事信託支援業務を行う司法書士に対する懲戒処分が行われ、公表されていくのではないか、とも噂される。

どこからの噂なのか分かりませんでした。

本懲戒事例の事案では、当該家族信託の設定が違法(横領)であるとの判断が前提となっている。1、成年後見人の立場を利用した成年後見人の職務違反という違法判断に対して、他の推定相続人を廃除し、2、受託者らの自己の利益のために濫用的な家族信託を組成したことについて、本事案の違法判断は、どの程度の比重があるのだろうか。

成年後見人の立場を利用しなければ、有効な信託の設定は不可能であり、成年後見人の立場を利用した成年後見人の職務違反の比重が高いと考えられます。

司法書士によって教示された信託の内容自体は普通の信託に関する知識であったが、それは形式的にそうであるにすぎない。このあたりは、当該司法書士における信託に対する誤解があった、といわざるを得ない。

 他の推定相続人を廃除する目的、という場合に信託を教示することが、誤解、という認識が分かりませんでした。

そのような場合、司法書士は、どのようにして真の動機を知るのか、知りうべきか、知ることができるのか(そのメルクマークは何か)。

 成年後見が発効しているのに、成年後見人から、他の相続人を廃除したいという話を聴いた時点だと思います(民法858条、859条)。

それから、約3年半の後、地方検察庁は、B夫妻が信託契約を締結し、信託登記をしたことが、被処分者抜きでは考えられない巧妙なスキームであり、被処分者に業務上横領幇助、背任幇助の各事実の存在が認められるとして立件した。

 約3年半の間、成年後見人Bは、家庭裁判所に対してどのような報告をしていたのか気になりました。

親族後見人等が存在しない場合で、親族受託者が信託組成を行うような事例では、どうであろうか。要するに、成年後見制度を利用していない場合であっても、受託者等の濫用意図(動機の不法)に応じて、信託の濫用事例として、同等の違法性の評価を生じうるのだろうか。

 信託法8条、29条、30条、31条、民法90条、415条、709条等に反すると評価される可能性があると思います。

しかし、医師でもない司法書士に、認知症患者であると医師に診断された高齢者に対して、積極的な意思能力の有無を判断する責任を負えるのだろうか。

 積極的な意思能力、という用語の意味が分かりませんでした。医師の判断は、重要な判断基準ですが、医師は司法書士ではないので、信託を設定できるかの正確な判断は出来ず、最終的に責任を負う専門家士業が判断を行うのではないかと考えられます。

一方、福祉型信託という概念は、福祉型信託の泰斗である新井誠教授の言葉であるが(家族信託なる用語も新井教授らによる翻訳語である)、過去の信託法学会における論戦の軌跡に鑑みると、道垣内教授と新井教授は、信託の本質論をめぐるスタンスが先鋭的に対立しているようにみえる。しかし、上記シンポジウムには新井教授の登壇はない。

司法書士集団は、新井教授の教説の立場から民事信託支援業務を生成し、実務化してきたので、新井教授の声が聞かれないのは寂しいという司法書士実務家の声も聞かれ、信託法学会等においても、福祉型信託(民事信託)がテーマとなれば、新井教授の存在抜きでは始まらないのではないか、との諸先輩の声も聞かれる。―中略―近時、一部の若い司法書士が、新井教授を批判する場合があると聞くが、司法書士制度の恩人に対して到底許されるものではない。

 諸先輩が分かりませんでした。新井誠教授と道垣内弘人教授が、司法書士制度を専門としているのか、私が今まで調べた限りでは分かりませんでした。肩書などによって自由な批評が制限されるのであれば、今後の実務の進展はないと思います。ただ、それは現に始まっています。私は、信託の学校を批評したことで悪意を持たれました。その後、民事信託推進センターを除名されました。信託の学校、日司連民事信託推進委員、民事信託推進センターの役員、いずれかに私が所属していたら、死ねと同義の除名処分はなかったと考えられます。

 現在の民事信託に関しての実務論は、法律論ではなく、ビジネスや承認欲求的なものだと考えると、良い悪いは措いてすっきりします。谷口毅司法書士も日司連民事信託推進委員と民事信託推進センターへの不満を口にしていましたが、一旦承認されて表舞台に立てば、不満は無くなりましまた。活躍することで、信託の学校の有料会員も増える可能性があります。

 民事信託推進センターも、公開で批評されるよりは、官庁の認可を得て信託会社を設立したり、役員の方々の進めたい方向で進める方が、ある士業にとっては利益が出る可能性が高くなります。

 道垣内弘人先生が選ばれた経緯は、公開されていないので分かりませんが、到底許されるものではない、とは思いませんでした。また反論に対して、許すまじ、とも思いませんでした。人格否定は、建設的ではなく、議論が進まないからです。司法書士業界は谷口毅司法書士の私物でもありません。

Webシンポジウム「民事信託支援業務の更なる推進に向けて~権利擁護使命の実践としての福祉型信託の展開~」

第1部 基調講演

テーマ:福祉型信託の課題と展望

講 師:道垣内弘人(専修大学大学院法務研究科教授、東京大学名誉教授)

第2部 司法書士の民事信託実践報告

テーマ:司法書士による福祉型信託の実践

講 師:谷口毅(日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部部委員)

第3部 パネルディスカッション

テーマ:権利擁護としての福祉型信託の推進

「こころの通う福祉型信託の在り方について」

パネリスト:

道垣内弘人(専修大学大学院法務研究科教授、東京大学名誉教授)

伊庭潔  (弁護士/日弁連信託センター長、中央大学研究開発機構教授)

山﨑芳乃 (司法書士/ふくし信託株式会社専務取締役)

髙尾昌二 (日本司法書士会連合会常任理事/民事信託等財産管理業務対策部副部長)

コーディネーター:

春口剛寛 (日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部部委員)

『民事信託の実務と書式〔第2版〕─信託準備から信託終了までの受託者支援』

http://www.minjiho.com/shopdetail/000000001186/

はしがきより

山北英仁司法書士、山﨑芳乃司法書士からは、民事信託分野の黎明期と生成期の証言を、初めて活字にしていただいた。

民事信託・家族信託の徹底活用

http://www.tsubasa-trust.net/2017/10/blog-post.html

さて、私は、渋谷陽一郎先生の「民事信託の実務と書籍」を読み始めたところです。なかなか、他に類書のない書籍であると思っています。

どうしても、私達実務家は、「信託のスキームを構築する」とか、「信託契約書を作成する」とかいうことに目を奪われがちなのですが、著者に言わせれば、それは、所詮は信託の入り口に過ぎないとのことです。
信託が財産管理の仕組みである以上、信託の中核を担うのは受託者であり、その受託者を支援できるかどうかが、健全な信託の発展の鍵であると考えています。
信託の受託者が信託事務を遂行する上で必要な書式類を豊富に準備している、という点に、この本のユニークなところがあると思います。

また、著者は司法書士の制度論に対して、非常に深い造詣を有しています。
司法書士の制度論の中で、民事信託の支援業務が適切な位置づけを見つけることができるのか、という点について、多角的に問題提起をされています。
ちょっと外れますが、雑誌「市民と法」のここ3回の連続記事も、かなり過激な問題提起で面白いです。

「どんどん信託を進めるんだ!司法書士法施行規則31条業務だから大丈夫!コンサル業務と同じで誰でもできるはず!」という、勢いのよい信託実務家にとっては、かなり厳しい指摘が並んでいます。
民事信託を巡る紛争は、まだ件数が多いとはいえませんが、これから徐々に顕在化してくることは間違いありません。
そのような中、専門家がどのような立場から、どのようなアドバイスをしたのかも、問われてくる時代が確実に到来するものと考えられます。

そういうわけで、信託の実務を担おうとするみなさまには、多面的な見方を育てるという観点から、一読することをお勧めいたします。


[1] 138号、2022年12月、民事法研究会、P26~

12月相談会のご案内―家族信託の相談会その50―

お気軽にどうぞ。

2022年12月23日(金)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え
1組様 5000円
場所
司法書士宮城事務所(西原町)

民事信託の登記の諸問題14

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(14)」からです。

不動産登記令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416CO0000000379

申請情報

第三条 登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。

一 申請人の氏名又は名称及び住所

二 申請人が法人であるときは、その代表者の氏名

三 代理人によって登記を申請するときは、当該代理人の氏名又は名称及び住所並びに代理人が法人であるときはその代表者の氏名

四 民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十三条その他の法令の規定により他人に代わって登記を申請するときは、申請人が代位者である旨、当該他人の氏名又は名称及び住所並びに代位原因

五 登記の目的

六 登記原因及びその日付(所有権の保存の登記を申請する場合にあっては、法第七十四条第二項の規定により敷地権付き区分建物について申請するときに限る。)

七 土地の表示に関する登記又は土地についての権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 土地の所在する市、区、郡、町、村及び字

ロ 地番(土地の表題登記を申請する場合、法第七十四条第一項第二号又は第三号に掲げる者が表題登記がない土地について所有権の保存の登記を申請する場合及び表題登記がない土地について所有権の処分の制限の登記を嘱託する場合を除く。)

ハ 地目

ニ 地積

八 建物の表示に関する登記又は建物についての権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)

ロ 家屋番号(建物の表題登記(合体による登記等における合体後の建物についての表題登記を含む。)を申請する場合、法第七十四条第一項第二号又は第三号に掲げる者が表題登記がない建物について所有権の保存の登記を申請する場合及び表題登記がない建物について所有権の処分の制限の登記を嘱託する場合を除く。)

ハ 建物の種類、構造及び床面積

ニ 建物の名称があるときは、その名称

ホ 附属建物があるときは、その所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である附属建物にあっては、当該附属建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)並びに種類、構造及び床面積

ヘ 建物又は附属建物が区分建物であるときは、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の構造及び床面積(トに掲げる事項を申請情報の内容とする場合(ロに規定する場合を除く。)を除く。)

ト 建物又は附属建物が区分建物である場合であって、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の名称があるときは、その名称

九 表題登記又は権利の保存、設定若しくは移転の登記(根質権、根抵当権及び信託の登記を除く。)を申請する場合において、表題部所有者又は登記名義人となる者が二人以上であるときは、当該表題部所有者又は登記名義人となる者ごとの持分

十 法第三十条の規定により表示に関する登記を申請するときは、申請人が表題部所有者又は所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人である旨

十一 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

イ 申請人が登記権利者又は登記義務者(登記権利者及び登記義務者がない場合にあっては、登記名義人)でないとき(第四号並びにロ及びハの場合を除く。)は、登記権利者、登記義務者又は登記名義人の氏名又は名称及び住所

ロ 法第六十二条の規定により登記を申請するときは、申請人が登記権利者、登記義務者又は登記名義人の相続人その他の一般承継人である旨

ハ ロの場合において、登記名義人となる登記権利者の相続人その他の一般承継人が申請するときは、登記権利者の氏名又は名称及び一般承継の時における住所

ニ 登記の目的である権利の消滅に関する定め又は共有物分割禁止の定めがあるときは、その定め

ホ 権利の一部を移転する登記を申請するときは、移転する権利の一部

ヘ 敷地権付き区分建物についての所有権、一般の先取特権、質権又は抵当権に関する登記(法第七十三条第三項ただし書に規定する登記を除く。)を申請するときは、次に掲げる事項

(1) 敷地権の目的となる土地の所在する市、区、郡、町、村及び字並びに当該土地の地番、地目及び地積

(2) 敷地権の種類及び割合

十二 申請人が法第二十二条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、当該登記識別情報を提供することができない理由

十三 前各号に掲げるもののほか、別表の登記欄に掲げる登記を申請するときは、同表の申請情報欄に掲げる事項

別表(第三条、第七条関係)

信託に関する登記

信託目録に記録すべき情報が添付情報であるとすれば、一体、信託登記における申請情報とは何だろうか。

 不動産登記令4条に定められている事項となります。不動産登記令別表(第三条、第七条関係)信託に関する登記において、申請情報は規定されていません。

どうして不動産登記令では、信託目録に記録すべき情報が添付情報とされているのだろうか。不動産登記法という法律と不動産登記令という政令との間に「捻じれ」があるのか、ないのか。

 不動産登記法97条に定められている信託の登記の登記事項を、明らかにするための信託目録という位置付けであり、申請情報の内容ではなく添付情報として提供する政令の定めであると思われます[2]

信託目録に記録すべき情報が信託内容の公示を目的としているとすれば、公示されるべき内容として、当該情報は申請情報の地位を与えられて然るべきではないか。

 信託目録に記録すべき情報が、信託内容の公示を目的としているのか、分かりませんでした。不動産登記法は必要最低限の申請情報、登記すべき事項を定めており、その他の情報については信託目録に委ねているようにみえます。不動産登記令では信託の登記についての申請情報について定めがないので、制定当初はその必要性は考えられていなかったのかもしれません。

例えば、受託者の実体的な属性情報である報告義務、書類作成義務、一般的な忠実義務、善管注意義務、公平義務などに関する情報を、信託目録に記録すべき情報として提供することは無意味であり、誤りである(資格者代理人の法令実務精通義務違反)。

 一般的な、とあるので別段の定めなどはないものと想定します。第三者へ公示する目的を考えると、無意味である可能性はあると感じます。誤りかというと、分かりません。不動産登記法97条1項11号は、同法同条1項1号から10号以外の信託の条項、という制限以外の定めを置いていないからです[3]。法令実務に精通する義務の違反は、懲戒事由(司法書士法2条)でもあり、慎重な判断が必要だと思います。

この点、信託目録に記録すべき情報の存在によって、信託登記は、実体に一番近い登記であると思われがちであるが、実は、それらの情報は極めて形式的な存在でもあるという逆説がある。

 信託登記は一番ではないかもしれませんが、実体に近い登記である必要があると思いました。極めて形式的な存在というのは、不動産登記の連続性におけることを指しているとすれば、そのような面があるかもしれないと感じます。

登記実務では、受託者権限に関して、取り消されない処分行為であるための要件に関する情報を、積極的に公示している。そうでないと、当該処分行為に係る登記申請が、信託目的に適合しているのか、そして、受託者の権限内であるか否か、登記官の判断を難しくするからだ(実体判断を強いることは避けたい)。

 登記官は、原則として不動産登記法24条(本人確認)に対して実体判断を認めています。不動産登記法25条1項に関する限りでは、手続上の要件を満たしているか判断し、実体法的な事項について判断する権限を持っているものだと思います[4]

承認を得ない取締役・会社間の利益相反取引は、当事者間では無効であるが、善意・無過失の第三者には対抗できない相対効であり(最判昭和43年12月25日)、意思能力ある未成年者の行為も、取消権者に取り消されるまで有効である(民法5条1項、2項参照)。

かような登記手続の取扱いを前提にすると、登記実務家の立場としては、法律上、取消権が存在するかもしれない場合、取消うる行為か否かを全く確認せずに、当該処分行為に基づく登記を実行処分することに対して違和感を生じよう。

 信託目録に、受託者と受益者の利益相反取引を許容する定め(信託法31条2項1号、同法32条2項1号)がない場合を想定します。

 会社法は、利益相反取引について取引の都度、機関の承認を求めています(会社法356条、同法365条)。信託における委託者の意思凍結機能により、受託者と受益者の利益相反取引を予め許容する定めが信託目録に記録されている場合を考えてみます。

 許容する定めの内容が、後続登記申請の申請情報に必要な情報を全て網羅する具体的な定めである場合、単に許容することを定める抽象的な定めである場合を問わず、利益相反取引を伴う登記申請を行う場合には、事前に信託行為の確認を行うのではないかと思います。抽象的な定めの場合は、後続登記申請の前に信託目録の変更登記申請が必要な場合が出てくるかもしれません。

原則、受益権は財産権として相続の対象となりうるが(信託法95条の2参照)、その譲渡性を禁止・制限することもでき(信託法93条2項)、また、受益者の死亡で消滅させることも可能なので(信託法91条参照)、信託目録情報とする場合、受益権の相続性の有無等は、信託条項化して明確にしておきたい(後続登記の保全のための積極主義)。

4 信託条項(4)その他の信託の条項

受益者変更 受益者の死亡時、受益権は相続されない。

 引用の文章から、遺言代用信託(信託法90条)、受益権の譲渡が予定されていない信託[5]ではないと想定します。

 このような信託の場合に、受益者の死亡時、受益権は相続されない。と定めることが出来るのか、分かりませんでした。受益者の死亡により受益権が相続される場合、その権利移転は一般承継であり、譲渡とは異なり信託法93条2項の適用はないと考えます。

 

その場合、受益権に対する質権が実行され、任意売却された場合、任売で取得した新受益者が出現したとしよう。そのような場合、かような新受益者は、第二次受益者となるべき者として指定されていた者に関する情報の記録との関係はどうなるのか、という問題がある。

 任意売却の場合、強制競売とは異なり、事前に登記事項証明書、信託契約書等を確認し、受益者や受託者から表明保証の協力を得ることも可能な状況と考えると、任意売却による受益者変更の前に信託目録の変更の登記申請を請求することが可能だと思います。または質権設定の際に行うのではないかと考えます。

 

例えば、当該受益者にとって、受益権を売却して資金を得る必要がある場合を想定してみよう。仮に受益権売却によって受益者変更を生じれば、特定の受益者の生活・介護支援という信託目的を達成することが出来なくなった場合として、信託は終了しないのだろうか(信託法163条1項)。

 受益権売却によって、信託財産に属する金銭が増加し、信託の目的とされている受益者の生活・介護支援が、生活費の確保・介護サービスを受けるという形で可能になるのであれば、信託が終了しないという考え方もできるのではないかと思います。


[1] 896号(令和4年10月号)、テイハン、P59~

[2] 河合芳光『逐条不動産登記令』2005、(一社)金融財政事情研究会P329~

[3] 七戸克彦 監修・ 日本司法書士会連合会編・日本土地家屋調査士会連合会編『条解不動産登記法』2013、弘文堂、P604

[4] 七戸克彦 監修・ 日本司法書士会連合会編・日本土地家屋調査士会連合会編『条解不動産登記法』2013、弘文堂、P186 ~

[5] 道垣内弘人編著「条解信託法」2017年、弘文堂、P487~

民事信託の登記の諸問題13

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(13)」からです。

資格者代理人による報告形式の登記原因証明情報の作成支援は、資格者代理人の善管注意義務上、何を確認しなければならないのか、という資格者代理人の確認義務の問題に関わり、クリティカルな問題である。

 報告形式の登記原因証明情報を作成するということは、信託契約書の作成案から関わる、民事信託支援業務とは切り離した、所有権移転及び信託登記申請の代理業務のみを受任した場合と想定します。

従って、上記のような信託行為の定めは、登記手続上、後続登記申請における登記原因証明情報の名義関与者の指定という機能をもつ。

 後続登記申請における添付情報の関与者(承諾情報・同意情報等)という意識はありましたが、登記権利者、登記義務者という名義関与者の指定という感覚は今まで持っていなかったことに気付きました。

4 その他の信託の条項

 信託の変更 信託目的に反しないことが明らかな場合、受託者が単独で変更できる。

この場合の「信託目的に反しない場合」という情報は、誰が変更権者となるのか、に関わる要件(条件)となろう(信託変更の要件そのものであると解する余地もあるが、読者の皆さんはどう思うであろうか)。

 誰が変更権者となるか、については、受託者が単独でという記載が当てはまり、「信託目的に反しない場合」という情報は、信託変更の要件(信託法149条2項1号)だと思います。

2 信託財産の管理方法 受託者による不動産の売却の条件

            最低売却価格金×億円を満たすこと

このような情報は、登記手続そのものに影響を与える情報であると言えるだろうか。前述の信託の変更に関する信託行為の定めも、同じ水準感の問題として、当該情報が、信託目録に記録すべき情報として抽出すべき情報なのか否か、という資格者代理人の関心事に関わる。

 信託目録に記録した場合、現行法上、信託目録の連続性がない登記申請が登記されるという通達・先例がない以上、後続登記申請の登記原因証明情報には、売買契約における代金を記載する必要が出てきます。

 信託目録に記録しない場合、登記申請前の売買契約・決済の場面において、信託契約書や売買契約書のチェック、関係者への確認を行うことになると思います。

 私なら後者で考えますが、所有権移転及び信託の登記申請時に、委託者と受託者に確認が必要なことだと考えます。


[1] 895号、令和4年9月、テイハン、P47~

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