加工デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン 解説書(第3編第5章 要件定義)&要件定義ナイト

2022年(令和4年)4月20日

デジタル庁

https://cio.go.jp/guides

〔標準ガイドライン群ID〕 1009   〔キーワード〕 RFI、ヒアリング、要件定義書、機能要件、非機能要件   〔概要〕 標準ガイドラインの下位文書として、標準ガイドラインの記載の趣旨、目的等を理解しやすくするため、逐条的な解説等を記載した参考文書。

改定履歴

改定年月日改定箇所改定内容
2022年4月20日第5章1. 第5章2.・標準ガイドラインからの引用箇所について、標準ガイドラインの改定に合わせて修正
第5章2.・府省CIO補佐官の記載を削除し、関連箇所を修正 ・「齟齬」を「そご」に修正 ・府省共通システムの記載を削除 ・府省重点プロジェクトの記載を削除し、関連箇所を修正 ・デジタル・ガバメント実行計画の廃止に伴い、関連箇所を修正 ・文字情報基盤整備事業に関するWebサイトの所管団体及びURLを修正 ・中央省庁における情報システム運用継続計画ガイドライン~策定手引書を最新版の名称に変更 ・政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群を政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群に変更し、関連箇所を修正
2021年3月30日第5章2.・体裁を修正
第5章2.・データ利活用促進を含めたデータ要件を「データに関する事項」として集約して追加、及びデータマネジメント強化関連の修正・追加
2020年11月27日第5章3.・ODBに関する記載を削除
2020年3月31日第5章2.・機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案についてPJMO全体で決定することの重要性について追加
第5章2.・要件定義書の記載における機能要件の定義で踏まえるべき内容を追加
第5章2.・機能要件定義対象要件と定義内容について一部追加
2019年2月27日・初版決定

目次

第5章 要件定義. 1

1. 要件定義の準備. 3

1) RFIの実施. 4

2) 事業者へのヒアリング等の実施. 7

3) 必要な資料の作成. 8

2. 要件定義. 9

1) 要件定義書の記載内容. 11

2) 要件定義書の調整・作成. 23

3. プロジェクト計画書の段階的な改定. 25

第5章 要件定義

PJMOは、「第4章 サービス・業務企画」で策定した業務要件を踏まえ、これを実現するための情報システムに求める要件(以下「情報システム要件」という。)として、情報システムの機能を定めた要件(以下「機能要件」という。)及び情報システムが備えるべき機能要件以外の情報システム要件(以下「非機能要件」という。)を明らかにするため、調達に先立ち、次のとおり、要件定義を行うものとする。

要件定義は、プロジェクトの目標を達成する上で、極めて重要な工程であり、要件定義が不十分なときには、計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等が発生する可能性が高まるため、適切に実施する必要がある(1)

利用者の価値を最大化するサービス・業務企画を具現化し、政策目的及びプロジェクトの目標を達成するためには、情報システムに求める要件を漏れなく具体化し、意図を正しく事業者に伝えることにより情報システムの設計・開発、運用を滞りなく進められるよう準備する必要がある。

このため、要件定義では、サービス・業務企画内容を踏まえて、費用対効果等を勘案しながら、情報システムが備えるべき機能・性能等を明らかにするものとする。

また、要件定義のアウトプットである要件定義書は、後続の工程においてPJMOと事業者が業務や情報システムの目指すべき姿を共有するだけではなく、契約上の合意文書となる重要なものである。誤りや曖昧な定義が行われると、後続の工程に重大な影響を与えることから、適切な手順で確実に検討を進める必要がある。

要件定義は、情報システムの整備対象となるサービス・業務企画内容の規模と難易度から、PJMOが実施する場合と、事業者に外部委託する場合が想定され、その進め方が異なる。本解説書では、ガイドラインで示される事項について網羅的に解説するため、PJMOが要件定義を行う場合を主として解説するとともに、事業者に外部委託する場合の注意事項等を、場合分けとして記載する。

(1)「要件定義が不十分なときには、計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等が発生する可能性が高まるため、適切に実施する必要がある」

「計画の遅延又は情報システムの機能・性能が要求水準に満たないものとなる事態等」とは、PJMOが行った要件定義が不十分で、内容に抜け漏れ・曖昧さが存在することにより発生する事態を指す。その例を次に示す。

1. 要件定義の準備

PJMOは、要件定義に先立ち、次のとおり行うものとする。

情報システムの要件定義は、世の中の技術動向やサービスの動向、各種事例、要件を実現する方式に関する情報等を踏まえて実施する必要がある。必要な情報を入手しないまま要件定義を行ったときには、費用対効果に優れた手法の採用漏れや、優れた先進事例を取り込むことができない等のリスクが発生することとなる。

したがって、要件定義に先立ち、これらの情報を収集する必要があるが、多岐にわたる情報をPJMOの知識や経験のみで網羅的かつ詳細に把握することは困難である。

このため、PJMOは、RFI及び事業者へのヒアリング等により、要件定義の前提となる情報を広く収集し、要件定義で十分な検討が行えるように準備する。

1) RFIの実施

PJMOは、要件定義の検討に際し、専門的な知見を広く取得するため、必要に応じてRFIを実施し(1)次の[1]から[4]までに掲げる事項を記載した説明書を作成するものとする(2)

  • (3)
  • (4)
  • (5)
  • (6)

なお、このうち[3]については、要件定義案の実現性、実現方法、それらの要件を実現するために必要な経費の見込み、要件定義案への修正事項(開発方式(クラウドサービスの活用、ソフトウェア製品の活用、スクラッチ開発等)、開発手法(ウォータフォール型開発、アジャイル開発等))等、事業者に具体的に求める内容について記載するものとする。

なお、原則としてクラウドサービスの利用を前提とした実現方式の情報も取得すること。

要件定義に必要となる専門的な知見は、その内容に応じて偏りなく幅広く収集する必要がある。

このため、PJMOは、市場調査や資料提供の要請を行うときには、その内容に応じて公平性を確保し、RFI等を通じて情報の収集を行う。

なお、RFIは、プロジェクトの規模を考慮して、準備着手の時期を判断する。

(1)「専門的な知見を広く取得するため、必要に応じてRFIを実施し」

「専門的な知見」とは、PJMOが要件定義を行うに当り、PJMOのみでは補完できない情報である。その例を次に示す。

「RFIを実施し」とは、PJMOがサービス・業務企画の実現可能性や整備する情報システムに係る有用な情報を得るために、RFIに係る説明書を作成し、RFIの実施について通知を行い、情報を収集することである。

RFIの実施を通知するに当たり、広く不特定多数からの情報を求めるときには、府省Webサイト上で公開する等の手法があるが、必要な情報を確実に得るためには、事業者団体への通知やプレス発表等によって積極的にアナウンスすることも効果的である。

なお、RFIにおける事業者の回答内容が期待した水準に満たない場合や、回答内容の確認のために追加の情報提供を求める必要が生じた場合等には、PJMOは、事業者に対して個別ヒアリング等を行い、不明点や情報が不足する点等を解消・補強する必要があることに留意する。

なお、機密性の高い情報を、事業者に対し提供する必要がある場合は、PJMOはあらかじめ守秘義務の誓約書を事業者に求め、当該誓約書の提出があった事業者にのみ機密性の高い情報を提供する。

(2)「次の[1]から[4]までに掲げる事項を記載した説明書を作成する」

「説明書を作成する」とは、PJMOが、事業者から必要な情報を適切に収集するために、RFIに先立ち、プロジェクト内容を正確に伝達するための説明書を作成することを指す。PJMOは、事業者に政策目的、プロジェクトの目的・目標及びサービス・業務企画内容等を正確に伝えられるよう、十分な準備を行う必要がある。

(3)「[1] 調達の概要」

「調達の概要」とは、PJMOが調達計画を明らかにするために、当該プロジェクトの調達計画の全体像と本調達が対象とする範囲を提示することである。

(4)「[2] その時点における検討内容、要件定義案の概要等」

「検討内容、要件定義案の概要等」とは、PJMOがRFIを実施する時点で、前提として既に定まっている事項や、検討の過程で整理した案の概要等を指す。要件定義の開始前時点では、プロジェクトの計画及び進行によっては、確定していない内容が存在する可能性もあるが、要件として求める方向性等があれば、それを記載することが望ましい。

(5)「[3] 資料提供を求める内容等」

「資料提供を求める内容等」とは、RFIにて提供を要請する情報の内容、その内容に含むべき事項等を整理し明確に定義したものである。プロジェクトで提供するサービス・業務を実現する具体的な方式、適合可能な技術、調達単位のあり方等に関する情報、実現に向けての大まかなスケジュール等の意見を求め、プロジェクトの実現可能性を高めることが重要である。

また、要件定義を有効に進めるために、未検討や未確定の事項についても、幅広く事例や動向等に関する資料の提供を求めることが有効である。

なお、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を前提とするときは、ベンダに対して提供可能な範囲の業務要件定義資料を提供し、ベンダによる適合性調査(Fit&Gap)を依頼するだけでなく、パッケージ製品等のデモに職員が参加して機能の確認を行う、ベンダへのヒアリングを実施する、パッケージ製品やクラウドサービスの最新情報(非機能要件や標準・オプションの価格等も含む)を入手する等、実際に適合することを職員がチェックすることが重要である。

(6)「[4] 提出期限、提出場所、提出方法、提出資料における知的財産の取扱い等」

「提出期限、提出場所、提出方法、提出資料における知的財産の取扱い等」とは、提出に係る取り決めを定めた内容であり、その例を次に示す。

得られた情報に知的財産の制約がある場合、要件定義書等にそのまま用いることができないときがあるため、事業者に対して、公開済みで活用できる情報と、機密等を伴う情報とを区別できるような情報の明記を求める等の工夫も有用である。

2) 事業者へのヒアリング等の実施

PJMOは、有用な情報を得られるよう、公平性・競争性を確保した上で、事業者に対し説明会・個別ヒアリング等を逐次行い(1)、取得した情報を精査し、活用するものとする。

RFIにより、必要な情報を広く収集することができるが、PJMOの意図が伝わらない場合、必要な情報が得られない、情報の粒度が異なる、誤った情報が提供されるといった事態が発生するおそれがある。

そのため、PJMOが、事業者に対して、情報システムに求める要件を直接説明し、実現可能性等について意見交換をする機会として説明会やヒアリング等を実施することは、要件定義の内容をより精緻化し、設計開発工程以降での手戻りを防ぐ上で有効である。

なお、説明会・個別ヒアリング等では、公平性と無差別性を確保するため、RFIと同様の方法で、実施について通知を行い、得られた情報については、議事録に記載する等の方法により、RFIの事業者回答と同様に取り扱うことが望ましい。

(1)「事業者に対し説明会・個別ヒアリング等を逐次行い」
「説明会・個別ヒアリング等」とは、PJMOが、事業者に対して、情報システムに求める要件を直接説明し、実現可能性等について意見交換をする機会を指す。これらは要件定義を開始する前のみならず、要件定義の実施中に情報が必要となった場合においても、適宜活用することが可能である。

なお、ヒアリングには、既存業務システムの仕組みを理解し、業務要件を正しく伝えられる職員の参加が望ましい。

なお、機密性の高い情報を、事業者に対し提供する必要がある場合は、PJMOはあらかじめ守秘義務の誓約書を事業者に求め、当該誓約書の提出があった事業者にのみ機密性が高い情報を提供する。

3) 必要な資料の作成

PJMOは、「第4章5.業務要件の定義」において作成した資料のほか、要件定義に際し、必要な資料を作成するものとする。なお、既存資料を活用する場合には、現状の検討状況が適切に反映されていることを確認し、変更がある場合には更新するものとする(1)

RFI又は事業者に対する個別ヒアリング等で得られた情報は、要件定義や後の工程で適切に活用する必要がある。

このため、PJMOは、サービス・業務企画で収集した情報、業務要件定義の内容とともに、RFI又は事業者に対する個別ヒアリング等の実施結果、及び、その結果を分析した内容について整理した資料を作成する。

(1)「既存資料を活用する場合には、現状の検討状況が適切に反映されていることを確認し、変更がある場合には更新するものとする」

「既存資料を活用する」とは、既存の業務及び情報システムの資料を活用することである。「第4章2.現状の把握と分析」にて収集した資料が活用可能であれば、それらを用いてもよいが、これら既存システムに係る各種ドキュメントが最新の状態になっているかを確認することが重要である。また、この確認作業を通じて、職員の既存システムに関する知識の向上も期待できる。

なお、業務や情報システムの内容は運用期間中に変更や追加が行われることが多いため、要件定義に当たって正確な情報を収集するには、現行情報システム運用事業者や現行情報システム保守事業者より、最新化された資料を入手する。

RFIの実施結果については、情報の網羅性や粒度について確認を行うとともに、複数の情報間での整合性についても評価を行う。プロジェクトの実行可能性の考え方に影響を与える情報が得られた場合は、所要の見直しを行う。

2. 要件定義

PJMOは、次のとおり、業務要件、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案を具体的に定義し、これらを記載した要件定義書を作成するものとする。なお、作成に当たっては、「第4章 サービス・業務企画」において収集・作成した情報を基に定義することとし、要求する情報システムの特徴を踏まえ、記載内容の軽重を検討するものとする。また、定義した具体的な内容について、その必要性、網羅性、具体性、定量性、整合性、中立性及び役割分担の明確性の観点、さらに情報セキュリティ等の観点から、その実現可能性があることを確認するものとする。

なお、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案についても、情報システム部門のみで決定するものではなく、制度所管部門、業務実施部門を含めたPJMO全体で決定することが不可欠であることに留意すること。

また、検討に当たっては、PMO等の支援や助言を受けることが望ましい(1)

要件定義で定める業務要件、機能要件、非機能要件は、多くの関係者と共有し、内容を合意する必要があり、後工程の作業を実施する際の元情報としても活用される。

このため、PJMOは、これら要件を、網羅的かつ詳細に検討した上で、関係者が共有可能な文書として整備する必要がある。さらに、様々な要件を統合し、情報システム全体構成の実現案を作成することで、要件の抜け漏れを無くし、実現性の高い情報システムの全体像を明らかにする必要がある。

要件定義を事業者へ外部委託する場合

要件定義を事業者に委託するかどうかにかかわらず、PJMOは要件定義内容の決定について責任を持つ必要がある。ただし、その決定に至るまでの進め方については、次の点に留意する。

  • サービス・業務企画」で決定した内容を基に業務に必要な要件を検討し、内容を確定するものである。その際、事業者が作成する各項目の定義内容について、PJMOは全ての内容に目を通し、理解する必要がある。

なお、全ての要件について、サービス・業務企画を実現する上での重要性を事業者が判断することは困難であるため、PJMOと業務実施部門が中心となって要件の重要度を決めるとともに、要件を実現する際の難易度について事業者に情報を求め、重要度と難易度を基に、要件の優先度を調整する必要がある。

(1)「検討に当たっては、PMO等の支援や助言を受けることが望ましい」

「PMO等」とは、PMO以外に、政府デジタル人材、高度デジタル人材、外部組織の有識者や専門的な知見を持つ職員を含むことを指す。

1) 要件定義書の記載内容

要件定義書には、業務要件、機能要件、非機能要件及び情報システムの実現案を明らかにするため、原則として、次のアからエまでに掲げる事項について記載するものとする。なお、定義の時点において、未確定な要件については、それがプロジェクトを進める上でのリスク要因となり得ることに厳に留意し、その旨を要件定義書において明らかにするものとする(1)

ア 業務要件の定義

業務要件は、情報システムを活用した業務の内容を定義する。なお、当該要件は、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を基に、他の要件等との整合性を確認し、更新するものとする(2)

イ 機能要件の定義

機能要件は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に掲げる「デジタル3原則(①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」を踏まえ、次のa)からe)までに掲げる事項をもって定義する(3)。なお、機能要件は、業務の質の向上、業務の効率化等に対する有効性等を踏まえ、優先度の高い機能から整備する必要があること、また、他の情報システムと連携する場合には相互運用性及びデータ互換性についても併せて記載する必要があることに留意するものとする。

なお、クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合には、その利用する機能について記載するものとする(4)

ウ 非機能要件の定義

非機能要件について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する(5)。定義の内容は、業務・情報システム両面で必要な要件を、網羅するものとする。なお、非機能要件は、技術的に検討を要する事項を多分に含むことから、日本産業規格等のほか、RFI等を通じて、広く情報を取得し、実現性等の検証を行うものとする。

さらに、原則としてクラウドサービスの活用も検討するものとする(6)。クラウドサービスの選定に当たっては、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」を参照すること。

エ システム方式の決定

情報システムの実現案として、「ウb) システム方式に関する事項」で検討した内容を他の要件の内容と調整し、決定する。なお、この案は複数検討するものとする。

これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、これらを更新すること(7)

また、導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め、「ア 業務要件の定義」、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」を検討することもできる(8)

要件定義書は、後工程である設計・開発、各種テストの入力情報のみならず、運用開始後における継続的なサービス・業務改善活動の基礎情報としても利用され、継続的に維持される。

要件定義書の内容に曖昧さや抜け漏れがあると、後工程で実施される作業や作成される成果物に影響を与え、提供するサービス・業務の内容・質を低下させ、プロジェクトの目的・目標の達成を阻害することになりかねない。

このため、本項で定める各項目に従って内容を定義することにより、後工程に必要となる情報を網羅しつつ、プロジェクト全体への影響を考慮しながら、各項目の定義を調整し、確定するものとする。

なお、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を前提としているときは、パッケージ製品やクラウドサービスの適用を意識しながら、各項目を定義する。

また、既存システムを改修する場合、要件定義書は、当該改修に係る内容のみを記載した要件定義書を作成するのではなく、必ず、既存の要件定義書を追加・修正の上、該当ページを差替える等、要件定義書の全体の整合性を保った状態で最新化することが必要である。

(1)「なお、定義の時点において、未確定な要件については、それがプロジェクトを進める上でのリスク要因となり得ることに厳に留意し、その旨を要件定義書において明らかにするものとする」

「未確定な要件」とは、PJMOが要件定義書を作成するときに、確定するために必要な判断材料が未確定なために、その時点では決定できない要件を指す。

例として挙げると、関連法案が審議中である場合や、要件に影響がある他のサービス・業務企画内容がやむを得ない理由により確定していない場合等、である。

プロジェクトを進める上でのリスク要因となり得る」とは、「未確定な要件」の内容が確定しないまま、事業者が情報システムの設計・開発を行ったときに、その要件が確定した際、契約変更を伴う委託内容の変更が発生する可能性があることを指す。

その旨を要件定義書において明らかにする」とは、やむを得ず内容の確定が困難な要件が発生したときは、その対象と理由を要件定義書において明示することを指す。

既存の情報システムを更改又は改修する場合

要件定義書の各項目は、既存業務・情報システムの要件定義書を基に情報の追加・変更をすることが効率的である。さらに、既存の要件の変更であるか、新規の要件の追加であるかを明確にすることは、後工程において事業者との認識そごを予防する上で重要である。

ア 業務要件の定義

PJMOは、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を引継ぎ、業務要件とし、他の要件等との不整合がある場合は更新した上で、定義を確定する。

(2)「なお、当該要件は、「第4章5.業務要件の定義」により検討した内容を基に、他の要件等との整合性を確認し、更新するものとする」

「他の要件等との整合性を確認し」とは、「イ 機能要件の定義」、「ウ 非機能要件の定義」、「エ システム方式の決定」の結果に伴う見直しや、「1.1) RFIの実施」や「1.2) 事業者へのヒアリング等の実施」で得た情報を基に、情報システム化への実現方式の難易度や費用から、業務要件の見直しを行うことを指す。

また、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)の適用を前提としているときは、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)の最新版における情報と、「第4章5.業務要件の定義」で検討した際にインプットとした情報を比較して、内容の差異を確認する。

なお、この段階において、プロジェクト計画に影響を与える内容が明らかになったときには、PJMOはPMOに相談し、サービス・業務企画の方向性の変更も含めて検討するものとする。

イ 機能要件の定義

機能要件は、「ア 業務要件の定義」で定義した業務要件を実現するために情報システムに求められる要件を定義するものである。

このため、PJMOは業務実施部門と連携し、業務要件の内容と情報システム化対象範囲を正しく理解し、情報システムが実装する機能を整理し、機能要件として定義する。

機能要件では、業務要件で定義した利用者による情報システムの使い方を、画面、帳票、データ、処理内容等に具体化して、定義する。

なお、PJMOは業務実施部門と連携し、利用者の利便性への寄与、提供するサービスの質や業務効率の向上等の観点を意識し、検討対象となる機能に優先度を付け、対象機能を選択し、定義することに留意する。

(3)「機能要件は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に掲げる「デジタル3原則(①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」を踏まえ、次のa)からe)までに掲げる事項をもって定義する」

デジタル3原則については、デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和3年12月24日閣議決定)を参照すること。

機能要件の定義対象事項を示せば、表5-1のとおりである。

表5-1

機能要件定義対象要件と定義内容

定義する事項記載事項内容
a) 機能に関する事項情報システムにおいて備える機能について、処理内容、入出力情報・方法、入力・出力の関係等を記載する。なお、他の情報システムが類似の機能を持つ場合は、その機能を活用することも検討する。業務要件を実現するために必要な情報システムの処理に関する事項を明らかにする。 機能要件定義として整理した機能の一覧は、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)との適合性確認を行う際に、比較検討の基となる情報として利用することもあるため、機能単位で優先度を明確にすることが重要である。あらかじめ想定していた要求の全てを担保することを必須とすると、利用できるサービスの選択肢が限られたものとなるほか、カスタマイズ等の費用が上乗せされることとなるおそれがある。他方、優先順位の低い一部の要望を任意の提案事項とすることで、サービスの選択肢の幅が広がる、カスタマイズ等が不要となる等、パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)本来のメリットを最大限活かした案件形成が可能となる可能性があることに留意し、実現する機能の決定に際しては、想定する要件を必須事項と任意事項に分け、任意事項についても優先順位を付けた上で、RFI等を通じて情報収集を行い、事業者から幅広い選択肢について提案を得られるように配慮すること。
b) 画面に関する事項情報システムにおいて表示される画面について、画面の概要や表示イメージ、画面の遷移や入出力の基本的考え方等を記載する。画面の説明やデザイン、画面の遷移等、標準的な画面に求められる構成要素(項目、ボタン等)の要件を明らかにする。 また、画面を構成する項目やボタンの配置ルール、画面の基本的な遷移パターン等、画面の設計に係る方針も明らかにする。 なお、機能要件定義では、当該システムの画面に関する全体方針及び現時点における個別画面の構成要素を定義するものとし、個別画面の詳細な項目定義や構成要素の配置は、「第7章 設計・開発」で確定する。 また、情報システムの画面は、業務を流れに沿って処理する上で重要な役割を担うものであり、業務効率や利用者満足度に関わるほか、適切なアクセス権限の設定単位に関わる事項のため、業務実施部門が中心となって検討することが必要である。
c) 帳票に関する事項情報システムにおいて入出力される帳票について、帳票の概要や表示イメージ、帳票の入出力の基本的な考え方等を記載する。なお、業務のデジタル化を前提に、帳票は最小限にすることが望ましい。帳票の説明やデザイン、種類、様式、標準的な帳票に求められる構成要素(項目、罫線等)の要件を明らかにする。 また、帳票を構成する項目の配置ルール、帳票の印刷方式等、帳票の設計に係る方針も明らかにする。この際、法令で定められた様式やOCR帳等、記載事項やサイズについて厳密な指定がある場合や、逆に要件として示すものは表示イメージに留め、設計において確定することが許容される場合を、それぞれ明記する。 情報システムが提供する帳票は、業務実施手順や業務効率と密接に関わる事項のため、業務実施部門が中心となって検討することが必要である。
d) データに関する事項情報システムにおいて取り扱われるデータベースや入出力ファイルといった全てのデータについて、データモデル、データ定義、データの利活用方法、オープンデータの範囲と方法、データ項目の標準化等、データに関する要件を記載する。また、原則として、政府において標準化されたデータ名称、データ構造等を採用するとともに、各データが当該情報システム内における利用だけでなく、他の情報システムとの連携やオープンデータとしての活用が行われることを前提として、リスク管理を適切に行いつつ品質が維持されるようデータマネジメントに留意すること。業務要件を実現するために必要な情報システムで取り扱うデータに関する事項を明らかにする。データはデータ項目及びデータ項目の集合であるファイル(入出力を行うファイル含む)、テーブル、データベース等、全てのデータについて、その要件を明らかにする。データ要件としては、データ定義、データモデル、データ利活用方法、オープンデータ範囲と方法(API等の実装方法含む)、データ機密性定義と管理方法、マスターデータ標準化及びデータ項目標準化(コード含む)のレベル等を具体的に記述する。システム間のデータ連携でデータの流通が増大する中、その容易性と安全性の確保を目的に、連携に欠かせないデータ項目の標準化、連携方法の標準化等、連携の基本となる実装方針を明確にするとともに、その前提となるオープンデータ化などのデータ利活用の方針を明示することが重要である。 また、データに関する要件は全て「データに関する事項」として一元的に整理することで、俯瞰的・総合的にシステムで使用するデータを把握できることとなり、後続の設計・開発の品質を高めかつ将来の変化に柔軟に対応できるようになる。
e) 外部インタフェースに関する事項整備する情報システムと他の情報システムとの連携(外部インタフェース)について、外部インタフェース一覧として、相手先の情報システム、送受信データ名、送受信タイミング、送受信の条件の基本的な考え方等を記載する。 外部インタフェースについては、オープンなAPIとしての活用が行われることも想定して整備を実施するよう留意すること。当該情報システム以外の情報システムと情報連携を行う際に必要となる事項を一覧表レベルで明らかにする。なお、外部とのインタフェースにおいては、一般に提供されている標準的なAPIの利用をまずは検討するとともに、独自でAPIを作成する場合には標準的なAPIの実装を心がけること(標準ガイドライン群のAPI導入実践ガイドブックおよびAPIテクニカルガイドブックを参照のこと)。
(4)「なお、クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合には、その利用する機能について記載するものとする」

「クラウドサービス(SaaS)等が提供する機能を利用する場合」とは、PJMOが当該情報システムの機能として、クラウドサービス、他の情報システム、ソフトウェア、ツールが提供する機能を利用することを指す。

この際、個別の業務要件に対する適応箇所、不適合箇所を明確にし、サービス・業務企画内容に対する適合度合いが、客観的に理解できるよう記載するものとする。

ウ 非機能要件の定義

情報システムが稼働するためには、PJMOは、「イ 機能要件の定義」で定義した要件だけではなく、稼働環境やサービス・業務を円滑に開始するためのユーザ教育等、情報システムを稼働・運用する上で必要となる機能以外の要件も検討し、定義する必要がある。

これを非機能要件と呼び、この内容について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する。

(5)「非機能要件について、次のa)からq)までに掲げる事項をもって定義する」
ç 表5-2 非機能要件定義対象要件と定義内容

非機能要件の定義対象事項を示せば、表5-2のとおりである。

定義する事項記載事項内容
a) ユーザビリティ及びアクセシビリティに関する事項情報システムの各機能におけるユーザビリティ及びアクセシビリティについて、日本産業規格等を踏まえつつ、情報システムの利用者の種類、特性及び利用において配慮すべき事項等を記載するとともに、国民向けの情報システムの整備に当たり、デジタルデバイドが是正され、全ての国民がその恩恵を受けられるよう、ユニバーサルデザインの考え方等に配慮するものとする。具体的には、障害者・高齢者を始めとして誰もがICT機器・サービスにアクセスできるよう、整備する情報システムの内容に応じ、総務省が公開している情報アクセシビリティ自己評価様式(通称:日本版VPAT)の書式に基づき、アクセシビリティへの対応状況(あるいは対応予定)を記載するように応札者に求めることで、可能な限り、障害の種類・程度を踏まえた対応状況を確認することにより、環境整備の推進に努める。利用者から見たサービス・業務を遂行する上での使いやすさを明らかにする。 ユーザビリティとは、利用者が情報システムで実現される機能を用いて、実施したいことを確実かつ効率的に行うための要素であり、利用者の満足度にもつながる非常に重要な事項である。 アクセシビリティとは、情報システムが提供する情報や機能へのアクセスのしやすさを指す。そのためには、利用者の年齢、身体的制約、利用環境等を配慮することが必要とされる。
b) システム方式に関する事項クラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等の情報システムの構成に関する全体の方針の案について記載する。情報システムを実現するために必要となるクラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、稼働環境等を明らかにする。 同一の機能を持つ情報システムであっても、実現の方式は多様であり、それによって調達コストは大きく異なる。システム方式は、情報システム設計の基本的な前提条件であるため、定義時点において明確にできる範囲内で複数の方式を検討し、メリット・デメリットを明らかにすることを推奨する。
c) 規模に関する事項情報システムの規模について、機器数、設置場所、データ量、処理件数、利用者数等を記載する。なお、データ量、利用者数等については、ライフサイクル期間における将来の見込みも記載すること。機器数、保有するデータ量、単位時間当たりの処理件数、利用者数等の情報システムを構成し、規模を特定する要素を定量的に明らかにする。規模は、性能や信頼性に関する要件を検討する際の前提条件となり、機器の仕様や配置等の設計、調達コストに関わる基本的な事項であるため、将来の見込みも含めた上で試算することが重要である。
d) 性能に関する事項情報システムの性能について、応答時間、バッチ処理時間等を記載する。特に、「第4章5.業務要件の定義」において検討した内容に照らし、性能が過度にならないよう適切な要件とすること。規模に係る要件を前提とした情報システムが備えるべき処理能力を明らかにする。 性能は、業務効率や利用者満足度に関わる重要な事項であるが、過度な要件を設定することで調達コストを押し上げることのないよう、業務要件を満たすことを基本として、サービス・業務の実施において必要十分となる要求レベルを検討する必要がある。
e) 信頼性に関する事項情報システムの信頼性について、稼働率等を記載する。特に、「第4章5.業務要件の定義」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。情報システムの構成要素の不具合や故障に際しても、情報システムの機能が停止せずに、正常な動作を保ち続ける能力(可用性)と、データの不整合等を回避する能力(完全性)を明らかにする。 なお、障害や大規模災害等により情報システムの機能が停止した場合に、必要最低限の業務を継続及び回復するために必要な情報システムの機能の維持・復旧に係る要件は、「継続性に関する事項」にて定義する。
f) 拡張性に関する事項情報システムの性能及び機能の拡張性要件について記載する。特に、将来の機能改修や、社会情勢の変化、技術の変化、利用状況の変化等に対して、柔軟で効率的な対応を行うことを念頭に、要件を定めること。運用開始後のサービス・業務環境の変化に対応することを目的として、性能や機能をあとから向上させるための要件を明らかにする。 拡張性は将来の調達コストにも関わるため、サービス・業務企画における環境分析に基づいて、定義時点において想定されるサービス・業務の変化を明確にし、要件を定義することが重要である。
g) 上位互換性に関する事項情報システムを構成するOS及びミドルウェア等のバージョンアップ時における情報システムの改修の許容度等を記載する。運用期間中のハードウェア及びミドルウェア等のバージョンアップに対して、運用を継続するために必要となる情報システムの改修の許容度や情報システム構築時の制約を明らかにする。 パッケージ製品のバージョンアップやクラウドサービスのサービス内容と価格体系の将来的な変更についても考慮すること。 なお、上位互換性は、将来の調達コスト、可用性及び情報セキュリティの維持にも関わるため、過去のバージョンアップの頻度や影響等の情報を収集しておくことが効果的である。
h) 中立性に関する事項情報システムの中立性については、いわゆるベンダーロックインの解消等による調達コストの削減、透明性向上等を図るため、市場において容易に取得できるオープンな標準的技術又は製品を用いる等の要件について記載する。なお、技術又は製品について指定する場合には、指定を行う合理的な理由を明記した上で、クラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア製品等の構成を明らかにすること。また、情報システムを利用する端末についても、特定のハードウェア又はソフトウェアに依存しないよう留意すること。情報システムを構成するハードウェア、ミドルウェア及びソフトウェア等がオープンな標準的技術又は製品であること等の制約を明らかにする。 オープンな標準的技術又は製品であるとは、原則として、 の全てを満たしている標準的技術又はその標準的技術を採用している製品をいう。 また、技術又は製品について指定する場合の合理的な理由を得るには、特定のプロジェクトに閉じた視点ではなく、影響を与える他のプロジェクトも含めた広い視点で、コスト・セキュリティ・保守性等を考慮する必要がある。 本事項は、いわゆるベンダーロックインの解消等により将来にわたる調達コストの削減、透明性向上等を図るため、特定事業者に不必要に依存した情報システムとならないよう要求する事項である。 なお、デファクトスタンダードとして広く利用されている製品群については、供給を行う事業者において競争性が確保されるものであれば、内部仕様が公開されていなくても中立性の趣旨において問題とならない場合もある。また、特定の事業者に依存する製品であっても、保守や改修、次期更改の際に他の技術又は製品への移行に過大な工数を要しない場合は、当該製品を選択することも可能である。
i) 継続性に関する事項情報システムの運用の継続性について、障害、災害等による情報システムの問題発生時に求められる機能やシステム構成、その目標復旧時点及び目標復旧時間等を記載する。特に、「第4章5.7) 業務の継続の方針等」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。  障害や大規模災害等により情報システムの機能が停止した場合に、必要最低限の業務を継続又は回復するために必要となる対策、指標値等の要件を明らかにする。 なお、継続性について過度な要件を設定することで調達コストを押し上げることのないよう、自府省の業務継続計画を参照し必要十分な要件を定義する。  参考 中央省庁における情報システム運用継続計画ガイドライン~策定手引書(第3版) (令和 3 年 4 月内閣官房情報セキュリティセンター)
j) 情報セキュリティに関する事項情報システムの情報セキュリティ対策に関する事項について記載する。特に、「第4章5.8) 情報セキュリティ」において検討した内容に照らし、過度にならないよう適切な要件とすること。また、記載に当たっては、自府省の情報セキュリティポリシーを参照の上、要件を適切に定めるものとすること。  情報の機密性、完全性、可用性を確保するための要件を明らかにする。 これらは、自府省が扱う情報を適切に保護し、業務の継続性の確保、業務に対する信頼の維持のために重要な事項である。 また、情報セキュリティについては、自府省の情報セキュリティポリシーを参照し、要件を定義する。 なお、過度な情報セキュリティ要件を設定した場合、情報システムの利用者の利便性を損なうことがあるため、十分に検討した上で要件を定義する必要がある。  参考 政府機関のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」及び「情報システムに係る政府調達におけるセキュリティ要件策定マニュアル (令和3年7月7日内閣官房情報セキュリティセンター)
k) 情報システム稼働環境に関する事項クラウドサービスの構成、ハードウェアの構成、ソフトウェア製品の構成、ネットワークの構成、施設・設備要件等について記載する。なお、稼働環境については、既存の環境を最大限活用し、不要な調達を行わないこと。機能要件及び非機能要件(規模、性能、信頼性、拡張性、上位互換性、中立性、継続性、情報セキュリティ等)を実現するためのハードウェア構成、ネットワーク構成、施設・設備要件等を明らかにする。 なお、公平性や無差別性を確保し、より良い提案を受けるために、事業者が代替案を提案する余地がどの程度あるか等の前提条件も明記することも留意する。
l) テストに関する事項情報システムの設計から運用開始に至るまでの全てのテストについて、テストの種類、目的、内容、実施者、合否判断基準、テスト実施環境等を記載する。情報システムが備えるべき機能要件及び非機能要件の実現状況を段階的に確認する行為であるテストに係る要件を明らかにする。テストには、ソフトウェアの設計に基づいて事業者が行うものと、PJMO及び情報システムの利用者の視点で行うものがある。
m)移行に関する事項本番環境への業務移行、システム移行及びデータ移行について、移行時期、移行方式、移行対象、移行環境等を記載する。移行には、既存のサービス・業務から新たなサービス・業務へ移行する業務移行、既存の情報システムが保有する資産を新たな情報システムへ移行するシステム移行、既存のサービス・業務で利用しているデータを新しいサービス・業務に移行するデータ移行が存在するため、3種類の移行に係る要件を明らかにする。 なお、新たなシステムへのデータ移行に備えるため、事業者に対してデータ構造が把握できる情報等の設計書を納品すること、運用保守事業者はデータ移行作業に必要なデータ構造がわかる情報を常に最新化した上で維持し、契約完了時にはそれらを納品することを要件として定めることが重要である。 なお、既存の情報システムが存在する場合、サービス継続の方針をどのように設定するかによって移行に係る作業内容や作業量が根本的に異なることに留意し、サービス継続の優先度に応じた移行要件となるように留意すること。
n) 引継ぎに関する事項情報システムの開発、運用等について、他の関係事業者への引継ぎに関する要件を記載する。情報システムの安定的な運用を実現するため、関係事業者や要員の交代に際して、円滑かつ効率的に引継ぎ作業が行われるための要件を明らかにする。 設計・開発事業者から運用事業者及び保守事業者への引継ぎ及び当年度の運用事業者から翌年度の運用事業者への引継ぎや、PJMOの交代について、あらかじめ想定した上で要件定義書に記述する。 なお、開発事業者は、運用保守事業者が適切に設計書等をメンテナンスし情報システムを適切に運用保守できるよう設計書やソースコード、テストコードを引き継ぐこととし、引継ぎに必要な情報を明確にし、引継ぎ時に不要なコストが発生しないよう留意する。
o) 教育に関する事項情報システム部門、業務実施部門等を中心とする情報システムの利用者に対する教育について、教育対象者の範囲、業務実施手順やシステム操作説明等のマニュアルの作成、教育の方法、研修環境等を記載する。新たなサービス・業務を利用者が活用するために必要な教育に関する要件を明らかにする。 また、職員の人事異動やサービス利用意向により随時新たな利用者が加わることを前提として、機能の理解や操作への習熟を維持するために必要となる、情報システムの利用者の区分ごとに必要な教育について記述する。
p) 運用に関する事項情報システムの運用時間、運用監視、障害復旧、その他の運用管理方針、運用環境等に関する要件を記載する。なお、この運用要件は、次のq)に掲げる保守要件と明確に区別して記載すること。情報システムの運用は、情報システムの設計された仕様及び構成の変更を原則として行わずに、稼働状態を維持して、情報システムを用いたサービス・業務が成立させることを目的とした行為である。詳細な内容は「第9章 運用及び保守」で検討することになるが、運用要件によって、情報システムの機能要件及び非機能要件に求める内容が異なることが考えられるため、要件定義段階で概要を明らかにする。
q) 保守に関する事項情報システムを構成するクラウドサービス、ハードウェア、ソフトウェア製品、アプリケーションプログラム等の保守、サポート体制、保守環境等に関する要件を記載する。なお、この保守要件は、情報システムの機能改修及び更改と明確に区別して記載すること。情報システムの保守は、機能維持、品質維持等、情報システムを設計された仕様どおりに動作させることを目的とした行為である。詳細な内容は「第9章 運用及び保守」で検討することになるが、保守要件によって、情報システムの機能要件及び非機能要件に求める内容が異なること、ハードウェア又はソフトウェア製品の選定に影響することが考えられるため、要件定義段階で概要を明らかにする。 なお、開発事業者が作成した設計書等の納品物においては、運用保守やその引継ぎ、開発改修、次期開発に向け最新化の維持が必要なものを明確にし、保守対象として引き継ぐものとし、運用保守事業者は、当該設計書一式を最新状態に保ち、開発改修作業が行われる際には、PJMOを通じて最新の情報を開発事業者に提示するよう留意する。
(6)「さらに、原則としてクラウドサービスの活用も検討するものとする」

「原則としてクラウドサービスの活用も検討する」とは、非機能要件として定義する複数の項目において、クラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)が利用可能かを検討することを指す。また、標準でAPIが提供されるクラウドサービスの活用を検討し、機能要件との整合を取り、必要な非機能要件を定義する。

エ システム方式の決定

「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」の定義結果から、整備対象の情報システムに対する要件が明らかになるが、様々な技術要素の組み合わせにより、最終的な情報システムの全体像は複数の実現案が考えられることがある。

このため、複数の実現案が考えられる場合は、メリット・デメリットを考慮し、とり得る実現案を数案に絞り記載する。

なお、予算要求時に作成した情報システムの構成に係る全体の方針及び構成図等も、併せて更新するものとする。

(7)「これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、これらを更新すること」

「これにより「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」に影響を及ぼす場合は、こちらも更新させること」とは、PJMOが情報システムの実現案を確定する際に、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」の関連項目の内容を変更し、整合性を担保することを指す。なお、情報システムの実現案が複数存在するために、関連する機能要件及び非機能要件が確定できないときは、該当する要件とその理由を明確にすることが重要である。

(8)「導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め、「ア 業務要件の定義」、「イ 機能要件の定義」及び「ウ 非機能要件の定義」を検討することもできる」

「導入するクラウドサービスやパッケージ製品を「システム方式」として先に定め」とは、要件定義を行う前にサービス・業務を実現する具体的な手段としてクラウドサービスやパッケージ製品が特定されていることを指す。

この場合、クラウドサービスやパッケージ製品が提供する機能や利用方法等に合わせて、業務要件、機能要件及び非機能要件を検討することになる。

2) 要件定義書の調整・作成

PJMOは、要件定義書を、関係機関、情報システムの利用者等と調整し、作成するものとする。なお、他のPJMOが実施するプロジェクトと相互に密接に関係する場合には、それぞれのプロジェクトにおける要件定義書間の整合性が確保されるよう調整するものとする。

なお、PMOが指定したプロジェクトに係る要件定義に対して第一次工程レビュー及び第二次工程レビューが実施されることについては、「第6章3.3) 第一次工程レビューの実施」及び「第7章3.第二次工程レビューの実施」参照。

また、PJMOは、要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたときは、関係機関等との再調整を行った上で変更内容を要件定義書に反映するものとする(1)

PJMOは、この要件定義書が、次工程以降及び後続のプロジェクトにおいても、引き続き使用されることに留意する。

提供するサービス・業務が他のサービス・業務・情報システムと連携する場合に、PJMOが関係者への情報共有等を疎かにすると、サービス・業務が成立せず、プロジェクトの目的・目標が達成しないおそれがある。

このため、PJMOは、連携するサービス・業務・情報システムを把握し、関係者に情報を提供し、調整をする必要がある。

特に、地方公共団体や独立行政法人等の府省以外を含む関係機関との調整が必要な場合は、十分な情報共有と調整をすることが必要である。

このため、PJMOは、関係機関との検討会議や説明会等を実施し、その結果を踏まえて要件定義書を調整し、作成する。

また、当該プロジェクトが、PMOが指定したプロジェクトのときは、第一次工程レビュー及び第二次工程レビューを実施し、要件定義書の内容がプロジェクト目的・目標達成に向け妥当であるか確認するものとする。

要件定義を事業者へ外部委託する場合

ステークホルダーとの調整はPJMOが実施し、事業者には決定事項を伝達する。事業者は要件定義書への反映作業を担当するものとする。

(1)「また、PJMOは、要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたときは、関係機関等との再調整を行った上で変更内容を要件定義書に反映するものとする」

「要件定義の調整後に内容を変更する必要が生じたとき」とは、PJMOが要件定義の内容を関係機関等と調整した後で、調達後の事業者の決定に伴い当該事業者の提案内容を採用した結果、要件定義書の内容に変更が必要と判断した場合や、設計・開発工程において事業者が検討の過程で要件定義書の内容の変更を申し出、PJMOが了承した場合等を指す。

PJMOが要件定義書の内容の変更が必要と判断したときは、それまでに決定された情報と変更する該当箇所との整合性を保ち、更新する必要がある。

なお、変更に当たっては、プロジェクト管理要領の変更管理の管理手順に従って、確認、承認を得る必要がある。

3. プロジェクト計画書の段階的な改定

プロジェクト推進責任者は、適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し、当該計画書の内容を更新する(1)

要件定義書の作成に伴い、プロジェクト計画書で定義した内容も具体化・詳細化されるため、その内容については、PJMOがプロジェクト計画書に反映させ、関係者に周知する必要がある。

なお、プロジェクト計画書の各項目に大幅な変更が発生する可能性があったときは、PJMOはプロジェクト計画の軌道修正も含めて検討する。

プロジェクト計画書への反映については、標準ガイドライン解説書「第3編第2章 プロジェクトの管理」を参照すること。

(1)「適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し、当該計画書の内容を更新する」

「適時、プロジェクト計画書を段階的詳細化し」とは、PJMOがプロジェクト計画書を最新の状態に保つために、要件定義書の内容が変更されたときは、その変更内容に応じて、プロジェクト計画書への反映を行うことを指す。

民事信託の登記の諸問題(10)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(10)」について、考えてみたいと思います。

この点、準物権的救済(受益者取消権等)の実効性の確保や受託者権限に対する規範性(拘束性)に鑑み、信託の目的を鈍化・峻別し、明確化して公示することが大切である。信託の目的は、信託が終了するか否か(信託法163条1号)や信託の変更権者の選択(信託法149条2項1号、2号、3項2号)その他の具体的な基準ともなる現実的なものである。

 例えば、受益者の介護その他の生活支援・受益者が現在の住居を離れなくてはならなくなった場合の、不動産の売却、などのように一定程度信託の当事者間で明確になっているのならば、信託目録の信託の目的欄への記録も可能だと思います。介護その他の生活支援の場合は、受益者の死亡により信託の終了、不動産の売却の場合は、売却時に金銭信託なども終了して清算に移るのか、その後も他の信託財産に属する財産について信託を続けるのかは最初に検討、という形を採るのかなと思います。

受託者の権限として「財産の管理又は処分」が記されているが、それは、それ自体が独立した権限とされて、後の「及び」で、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだろうか。あるいは、「財産の管理又は処分」は、直後の「及び」という接続詞で「その他の」と並列にされ「信託の目的の達成のために必要な行為」の例示とされているのだろうか。

財産の管理又は処分それ自体が独立した権限とされて、後の及びで、その他の必要な行為が付加されている形の文の構造となっているのだと考えます。[2]

また、信託法26条の文言は、「管理又は処分」と「or」で結び、択一的に記しているところ、「管理及び処分」と(and)で結ぶのは、法令上の文言とは異なる(その効果の差異は何か)。

  受託者が、信託財産に属する財産の管理も処分も行う、と信託行為で決めた、ということだと思います。効果は管理、処分、信託の目的を達成するために必要な行為のうち、管理と処分行為については第三者対抗要件を備えるということになると考えられます(不動産登記法177条)。

信託不動産の賃貸借契約の締結や解除は管理行為とされるので(民法252条参照)、管理権限に限定された受託者でも、収益物件の信託が可能かもしれないが、処分権限を有しない受託者による賃貸借は短期賃貸借に限られることはないのか否か(民法602条)、借地借家法の適用関連も含めて確認しておきたい(ちなみに、兼営法の規定上、信託財産の貸借は、処分と同分類である)。

 処分権限を有しない受託者による賃貸借は、民法602条の短期賃貸借に限られると考えます。例えば、受託者を貸主として、第三者と土地の賃貸借契約(期間5年)を締結した場合、借地借家法の適用を受けません(借地借家法9条。)。受託者を貸主として、受益者と建物の賃貸借契約(期間3年)を締結した場合、借地借家法が適用されます(借地借家法29条~。)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、残余財産の帰属権利者への帰属は、信託の終了後に生じるので、それが信託期中における弱者保護を重視する福祉型信託の目的たり得るのか否か、という論点がある(重要な問題である)。

 資産(財産)承継と福祉型信託の目的は両立し得ると思います。ただし、信託財産に属する財産の現在の状況どのようなものか、どのように承継したいのか、各親族の意思など個別具体的な状況によるのだと思います。このような場合、財産の状況や親族の意思によっては、信託を利用しない、という選択になることもあり得ると思います。

それでは、「(3)高齢者の変わらぬ住居の維持」という信託の目的からは、受託者による自宅不動産の売却が許容されるのだろうか。売却が許容される基準は何だろうか。そのような判断を形式的に行うのは容易ではない。

許容される基準や要件は、信託行為で定めておけばよいのではないかなと思います。

将来の資産残高を減らさないため、高齢者に対する余計な支出を避けたい、と信認義務を忘れて短絡する場合もあろう(受託者自らが承継人の一人となっていれば猶更だ)。

 この辺りは、信託を利用しなくても、同居の親族であればやる人はやると思うので、任意後見、法定後見制度との併用を考えておく必要があると考えます。

しかしながら、信託終了・清算の結果としての資産承継を、高齢者の認知症対策であり、生活支援の福祉型信託において、受託者が達成すべき「信託の目的」として、信託期中の目的と同列にし得るのか、よく考えてみたい。

 私は現在のところ、このような目的は利用していませんが、当事者が望めば両立可能だと思います。その際注意する点は、福祉型信託において守る財産と資産承継において守る財産を分けることです。


[1] 892号、令和4年6月、(株)テイハン、P34~

[2] 法制執務委員会『ワークブック法制執務』平成19年ぎょうせい、P672、P742

死後事務委任契約の周辺

・死後事務委任のお話し。10年くらい前には、ほとんど聞いたことがない業務・・・成年後見制度が出来た時からあった業務。

法務省「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。

死後事務

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00196.html#10

・最近、地域包括のケアマネさんから「死後事務委任で、研修会してもらえませんか?」ってご依頼をいただきました。ところで、死後事務委任って、業務の受任経験はありますが、セミナーは今回初めて。どのように、進めたら満足度がアップするか?死後事務って、こんなことやって、法律的にはこうで、こんな問題点があるのでなんて話しをしたら、まぁ、寝ます!(笑)そんなことは興味がないです。・・・話し方によるかなと思います。質問しやすいような雰囲気と、途中質問OKです、と合間に言ったり、自分から訊いたりしてみれば、眠らないかもしれません。疲れていたり、義務的に来た人だったりすると眠くなるかもしれません。

・興味があることは「自分の抱えている問題が解決するかどうか」つまり自分に関係することですよね。となると、一番最初に聞かなければいけないのは

「どんな人が参加するか?」あ、ここまでの話し、受け売りですよ。参考にしているのは、こちら「スティーブ・ジョブズの脅威のプレゼン」僕がセミナーを組み立てるとき、どうやったら上手く組み立てられるか、参考にした本です。

・・・分かりませんでした。

・では、ケアマネさんはどんな問題を抱えているのか?どんな相談があるのか、それは聞くしかないですよね。地域包括では、高齢者に関する相談を日々たくさん受けています。介護認定を受ければ、事業所につなぐことになり、ある意味自分たちの手を離れます。財産管理的には後見が必要になったりしますよね。一方で、介護認定を受けなければ、地域包括のケアマネさんがその方をサポート(?)していきます。・・・地域包括支援センターのケアマネジャー(介護支援専門員)は、市区町村民が介護認定を受けると、直ぐに事業者に繋ぐわけではありません。

・つまり、自分で暮らしていけるし、介護も必要ない、元気な高齢者ですよね。

一方で、その方が一人暮らしで、身寄りがないとその方は漠然とした不安を抱えるんですよね。・自分が亡き後、葬儀やお墓はどうしよう、とか・自宅もいつかは空家になるから売却した方がいいのではないか、とか・家の中の処分や荷物はどうしよう、とかなどなど。

・・・介護認定を受けていないと元気か、というと分かりません。漠然とした不安を抱えることはあると思います。

そのような、相談を受けたときに明確な答えがない。でもでも、我々には答えがあるじゃないですか。・亡き後の財産については、遺言があるとスムーズですよ、とか・認知症なって、施設に入ったら自宅を売却したいなら、法定後見や、任意後見がありますよ、とか(信託は受託者になる人がいないから難しい、専門家は受託NG)・家の中の荷物の処分や、葬儀やお墓なら、「死後事務」ですよ。ほら、ここで、死後事務が出てきた。・・・出てきましたね。

そしてケアマネさんが「よければ、死後事務に詳しい専門家に相談してみますか?」おお〜!我々専門家としては、ラッキーな展開(笑)こんな風に、地域包括のケアマネさんが、対応できるようになると、相談した人も安心ですし、ケアマネさんも、相談者のお役に立てて、嬉しいですよね。

・・・仕事事務に詳しい、ラッキーな展開、というのがよく分かりませんでした。

となると研修会の組み立てとしては、ケアマネさんが相談を受けそうな事例が良さそうですね。高齢者からこんな相談を受けた。どんな問題があるか? ⇒ ここで問題を深掘りして聞く体制を作るどんな解決策があるか?という流れにするのが良さそうです。■■ セミナーの目標は?もちろん参加されてもらう人に、死後事務など制度のことをわかってもらうこと。いっぽうでこちらのしたごころ下心は紹介をもらうことですよね。

・・・いっぽうでこちらのしたごころ下心は紹介をもらうことですよね。ですよね、といわれると分かりませんでした。

そのためには二つハードルがあります。1つ目は、参加した人が、死後事務について、相談者に言えるようになること。案外これ難しいですよ。逆の立場で考えれば例えば、親の認知症について相談を受けた。夜に、財布がないとか、カバンがないとか、といわれて、家族はつらい思いをしている。そこで、地域包括を紹介しようとしても、地域包括でどんなサービスが紹介できるか説明できます?#僕は、ギリギリかも (笑)・・・・

那覇市地域包括支援センター

在宅福祉サービス、通所サービス事業、在宅サービス事業、助成制度等、

その他の事業、在宅福祉サービス、

地域包括支援センターは、高齢者の介護予防や介護保険・福祉に関する様々な相談に応じ、各種の公的な保健・福祉サービスの紹介・相談などを行う総合窓口です。

平成30年度より、那覇市地域包括支援センターを18ヶ所(旧:12ヶ所)へ増設しました。より身近な地域の総合相談機関として、高齢者のみなさんが住み慣れた地域で、いきいきと安心して暮らしていくための、さまざまな支援を行います。

※一部担当圏域が変更となった地域がございますので、下表によりお住まいの地域を担当する地域包括支援センターをご確認下さい。

https://www.city.naha.okinawa.jp/fukusi/koureisyafukusi/soudan/chikihoukatu.html

 ただ、私達士業と同じように、ケアマネジャー(介護支援専門員)の中にもすごく勉強家で業務範囲を超える知識を持っている方もいます。逆の方もいます。

 別な問題。生命保険を相続でどう活用するか研修会を受けた。お金や不動産をたくさん持っていらっしゃる男性からの相談。自分が亡くなったら妻(再婚)の生活を支えたい。前妻との間の子どももいる。では、お金は生命保険信託を使えばどうなるとか。子どもの遺留分対策として、生命保険をどう使うとか、説明できます?そもそも、これが保険で解決できるってピンと来るのって、案外難しいですよね。自分の専門の中でどうするか考えちゃうので。ですから、死後事務も簡単に説明できると思わない。もう、ちょー大雑把で、「こんな感じ」って言うのを理解してもらって、「後は、こっちに任せて」って言うのが伝わればいいのかなって思います。・・・生命保険信託を利用すると、保険会社から妻に定期的な送金が可能になる。子どもの遺留分対策としては、相続財産に入らない保険金から支払うことが出来るように、生命保険に加入しておく。ちょー大雑把、というのがどういう範囲なのか分かりませんでした。「死後事務に詳しい専門家に相談してみますか?」と整合性があるのか、分かりませんでした。

 それから、2つ目のハードルは、自分を選んでもらうこと。簡単に言えば、・よく知らない人・性格的に合わない人って紹介したくないじゃないですか。そうすると、仲良くなることが大事。そうすると、グループワークみたいなことをして、一緒に悩んで考えるという形も良いのかなって思います。

・・・人それぞれで良いのではないかと思います。

民事信託のあれこれメモ

信託契約書作成

委託者 父A

受託者 長男〇(信託設時に委託者の既存債務を引き受ける)

受益者 父A

信託行為 信託契約

信託財産 金銭,不動産(居住用,賃貸用)

信託の終了 受益者父Aの死亡

帰属権利者 長男〇,二男△

(第二次受益者 長男〇及び二男△両名)の場合

 信託事務処理の第三者への委託

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(信託事務の処理の第三者への委託)

第〇条 受託者は,信託財産目録記載の建物の管理を第三者に委託することができる。

・信託法28条1項1号に基づく条項

・「第三者」には委託者や受益者も含まれるが,それらの者に対する委託によって,信託の実質が失われるような場合には許されない(信託として認められない場合がある)。例えば,全ての信託事務の処理を第三者へ委託することは認められない。

例2

(信託財産の管理方法)

第〇条 

〇 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第三者へ委託することができる[1]

(善管注意義務)

第〇条 受託者は,信託財産の管理,処分その他の信託事務について善良な管理者の注意をもって処理しなければならない。

信託法29条2項に基づく条項

・信託法と同内容の規定を信託契約書に記載すること。信託法29条2項ただし書きに基づく条項については、慎重。

例2(信託財産の管理方法)

第○条

〇 受託者は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために忠実に職務を遂行する[2]

(分別管理義務)第〇条 受託者は,信託財産に属する金銭及び預貯金と受託者の固有財産とを,以下の各号に定める方法により,分別して管理しなければならない。

  • 金銭 信託財産に属する財産と受託者の固有財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法

(2)預貯金 信託財産に属する預貯金専用の口座を開設し、当該口座で管理する方法

信託法34条1項2号ロによる分別管理方法を,同条1項ただし書きの「別段の定め」により,変更した条項

・金銭を預貯金債権で管理する場合には,受託者に信託口口座の開設を義務付ける。

・趣旨は,①信託財産であることの証明を容易にするため,②受託者が忠実義務違反行為を起こす際の心理的バリアになる(条解280頁)。

例2

(信託財産の管理方法)

第○条

(2)受託者は信託金銭について、次の信託事務を行う。

□信託に必要な表示又は記録等[3]

□受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理[4]

(帳簿等の作成等,報告及び保存の義務)

第〇条 本信託の計算期間は,毎年1月1日から同年12月31日までとする。ただし,第1期の計算期間は,信託開始日から令和〇年12月31日までとする。

2 受託者は,信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状 況を明らかにするため,信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

3 受託者は,前項の帳簿等に基づき,第1項の計算期間に対応する信託財産目録及び収支計算書を当該計算期間が満了した月の翌月末までに作成しなければならない。

4 受託者は,前項記載の信託財産目録及び収支計算書の内容について,受益者に報告しなければ ならない。

5 受託者は,第2項に基づき作成した帳簿等は作成の日から10年間,第3項に基づき作成した信託財産目録及び収支計算書は信託の清算の結了の日までの間,保存しなければならない。

・信託法37条に基づく条項

・民事信託では,極めて重要な条項。

・信託法37条3項に基づいて,受託者が受益者に報告しなければならない対象 は,同条2項の「財産状況開示資料」(貸借対照表(財産目録),損益計算書(収支計算書))であり,同条1項「帳簿」は報告の対象となっていない(信託法37条3項)。

受託者の辞任・解任

(受託者の辞任)

第○条 受託者は,委託者及び受益者の同意を得て,辞任することができる。

(受託者の解任)

第○条 委託者及び受益者は,いつでも,その合意により,受託者を解任することができる。

信託法57条1項本文,58条1項に基づく条項

 受託者の解任を制限する条項の可否。委託者、受益者の意思のみによって解任可能な信託に関する法定安定性と、受託者候補の心証。信託行為の説明時に正確に可能か。・・・委託者、受託者それぞれ意思のみで受託者の解任が可能な信託にするのであれば、受託者のみの意思で受託者を辞任可能にして清算条項を付けないと、受託者としても職務執行しずらいと感じます。

例2

第〇条 (受託者)

□受託者の任務は、次の場合に終了する。

 □ただし、信託法58条1項は適用しない。

□受益者の同意を得て辞任したとき。

□受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合。

□受益者と各受託者が合意したとき[5]

□【受託者が○○歳になったとき・                

□受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更したときを除く。

□その他信託法で定める事由が生じたとき。

信託費用の償還

(信託費用の償還)

第〇条 受託者は,信託事務処理に要する費用を,直接,信託財産から償還を受けることができる。

2 受託者は,信託財産から,信託事務処理に要する費用の前払を受けることができる。

信託法48条1項,2項に基づく条項

 信託法上,受益者に義務は課せられていない。受益者から(本条項は,「信託財産」から)費用償還又は前払いを受けるには,受託者と受益者の「個別合意」が必要。

例⒉

第〇条(信託財産の管理方法)

□ 受託者は、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合は、本信託の目的に従い受益者の承諾を得て、支出することができる[6]

□ 受託者は、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする合意をすることができる。ただし、受託者に就任して1年を経過した場合は合意があるものとみなす。

第〇条(信託事務処理に必要な費用)

□ 受託者が信託事務の処理に必要な費用に関して、【金額】円を超える場合、事前に信託金銭の中から支払いまたは事後に信託金銭から償還を受けるときは、受益者に対してその額のみを通知する。ただし、算定根拠を明らかにすることを要しない。

信託報酬

(信託報酬)

第〇条 受託者は,無報酬とする。

(信託報酬)

第〇条 受託者は,毎月末限り,月額〇万円の信託報酬を受ける。

・信託法54条1項に基づく条項(信託行為に受託者が信託財産から信託報酬を 受ける旨の定めがある場合に限り,信託財産から信託報酬を受けることができる)。

・民事信託では,受託者は無報酬であることが多い。

・信託法54条1項により,民法648条2項(委任における受任者の報酬の支払時期)が準用されている結果,報酬は後払いとなる(受託者の信託事務が終了しなければ報酬を受け取れない)。

例⒉

受託者の報酬の定めを置かない。無報酬の定めも置かない。

(受益者)

第〇条 本信託の当初受益者は,委託者〇とする。

2 前項の当初受益者が死亡したとき,同人の有する受益権は消滅する。

3 前項の場合には,第二次受益者として〇及び△が,以下のとおり,新たな受益権を取得する。

〇 信託財産目録記載2(土地)及び同(自宅)2の不動産に係る受益権

△ 同1(土地)及び同2(アパート)の不動産に係る受益権

・後継ぎ遺贈型受益者連続信託にする場合には,受益者の死亡により受益権は消 滅すると明記する(受益権が相続の対象とならないことを明確にする)。

例⒉

第〇条(受益者)

(1)本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。

  【住所】【氏名】【生年月日】

(2)受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として次の者を指定する。

   第2順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

 □ 第3順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

□次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

□受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる[7]

□受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。

□受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。

□【委託者氏名】は、【委託者以外の受益者氏名】が受益権を取得することを承認する。

(受益権、受益債権の内容)

第○条 受益者は,受益権として,以下の内容の権利(以下「受益債権」という。)及びこれを確保する ために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利を有する。

(1)信託財産目録記載の信託不動産を生活の本拠として使用する権利

(2)信託財産目録記載の信託不動産を第三者に賃貸したことによる賃料から給付を受ける権利

(3)信託財産目録記載2の信託不動産が処分された場合には,その代価から給付を受ける権利

(4)信託財産目録記載1の金銭から給付を受ける権利

(受益権の譲渡,質入れの禁止)

第○○条 受益者は,受益権を譲渡又は質入れすることはできない。

・信託法2条7項の受益権とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)と規定している。

・残余財産受益者の指定したとき、「本信託が終了したときの残余財産の帰属すべき者として,本信託終了時の受益者を指定する。」には,この受益債権の内容が影響するので注意。

・信託法93条2項,96条2項に基づく条項

・趣旨は,委託者の親族以外の者が当該信託に関わることを防止するため。

例⒉

第〇条(受益権)

1 次のものは、元本とする。

□(1)信託不動産。

□(2)信託金銭。

□(3)遺留分推定額。

【修繕積立金、敷金・保証金等返還準備金・        】

□(4)上記各号に準ずる資産。

2 次のものは、収益とする。

(1)信託元本から発生した利益。

(2)□【賃料・             】

(3)元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。

(4)受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。

(5)【受益者氏名】は、【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な費用の給付・生活費の給付・教育資金・      】を受けることができる。

 受益者は、事前に□【受託者・信託監督人】の書面による同意を得なければ、受益権の全部または一部を□【譲渡・質入れ・担保設定・その他の処分】することができない。ただし、受託者の書面による同意は、信託財産または受益権に金融機関による担保権が設定[8]されているときは、あらかじめ当該金融機関の承認を受ける[9]

(6)受益者は、遺留分侵害額請求があった場合は、受託者に事前に通知のうえ受益権(受益債権は金銭給付を目的とする。)を分割、併合および消滅させることができる[10]

(7)受益権は、受益権の額1円につき1個とする[11]

(8)【任意後見人の事務について同意する事項(    )・        】

信託監督人

(信託監督人)

第〇条 次の者を,信託監督人として指定する。

住 所

氏 名

職 業

2 信託監督人は,受益者及び受託者の同意を得て辞任することができる。

3 信託監督人の報酬は,以下のとおりとする。

事務処理1時間当たり 〇万円(消費税込)

(受益者代理人)

第〇条 次の者を,当初受益者の受益者代理人として指定する。

住 所

氏 名

職 業

2 受益者代理人は,受益者及び受託者の同意を得て辞任することができる。

3 受益者代理人の報酬は,以下のとおりとする。

月額〇万円(消費税込)

・民事信託では,士業のサポートなしに信託を適切に運営することはできない。

タイムチャージ方式か,月額方式かについては,事務内容に照らして判断する。

・監督される立場の受託者が,監督する立場の受益者代理人を選任できるとすることは明らかに不適切。

例⒉

第〇条(受益者代理人など)

□1

(1)本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・

受益者が指定した日・受益者に成年後見開始または成年後見監督人選任の審判が開始したとき・    】から就任する。

(2)本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・        】から就任する。

  【住所】【氏名】【生年月日】【職業】

(3)受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、受益者代理人、信託監督人を選任することができる。

(4)受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。

第〇条(受益者の代理人が行使する権利)

□1 受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利を代理行使する[12]

□2 受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く[13]

□3 受託者の辞任申し出に対する同意権[14]

□4 受託者の任務終了に関する合意権[15]

□5 後任受託者の指定権[16]

□6 受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同意を求める権利。

□7 受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。

□8 受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾権[17]

□ 9受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)設定する際の承諾権[18]

□10 受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。

□11 受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権[19]

□12 受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。

□13 受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権。

□14 本信託の変更に関する合意権[20]

□15 残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権[21]

本信託の終了に関する合意権[22]

□16 信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。

(信託の変更)

第〇条 信託法149条1項から3項の規定に代えて,信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときに限り,受託者は,信託監督人の同意を得て,書面又は電磁的記録による意思表示により信託を変更することができる。

・信託法149条4項の「別段の定め」

・別段の定めとして,元の信託法の規定に信託条項を付加するのか,元の 信託法の規定と信託条項を入れ代えるのかを明確にする。

・・・・信託の変更に受益者が関わることを想定していない?元の信託法の規定に信託条項を付加する場合には,「信託法○○条のほかに」元の信託法の規定を信託条項に入れ代える場合には, 「信託法○○条に代えて」などと規定する。元の信託法の規定に信託条項を付加する場合、最終項に、その他信託法に規定する場合、を記録すれば足りるのではないかと思います。

例⒉

第〇条(信託の変更)

□1 本信託の変更は、次の各号に掲げる方法による。ただし、信託財産が金融機関に担保提供されている場合、受託者はあらかじめ当該金融機関の承認を受ける。

□(1)信託法149条1項に代えて、信託目的の範囲内において、受託者と受益者による合意[23]

□(2)その他信託法が定める場合。

□2 信託法149条のほかに、受益者が受益権を分割、併合および消滅させたときは、信託の変更とする。

【                       】

(信託の終了)

第〇条 本信託は,以下の各号に該当する事由が生じたときは終了する。

(1) 委託者〇が死亡したとき。

(2)その他信託法が定める信託終了の原因があるとき。

・本条1号は,信託法163条9号に基づく条項

・「終了事由」(信託法163条各号)と「終了の原因」(信託法164条以下も含む)との使い分け。

例⒉

第〇条(信託の終了)

□1 本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。

□(1)【氏名】が亡くなったとき。

□(2)信託の目的に従って受益者と受託者の合意があったとき[24]

□(3)信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき[25][26][27]

□(4)受益者と受託者が、○○県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、補助人または任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じなかった場合を除く[28]

□(5)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。

□(6)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。

□(7)信託財産が無くなったとき。

□(8)その他信託法で定める事由が生じたとき。

□(9)本信託において、信託法164条1項は適用しない[29]

□(10)【                       

(帰属権利者等)

第〇条 本信託が本信託契約書〇条(信託の終了)1号に定める(委託者〇の死亡)により終了したときの残余財産の帰属すべき者を,以下のとおり指定する。

(1)別紙信託財産目録記載1の土地,同1の建物(自宅),同2の土地及び同22の建物(アパート)については,△を帰属権利者として指定する。

(2)信託財産である金銭については,□を帰属権利者として指定する。

(3)上記(1)及び(2)に記載のほか,信託終了時の信託財産につき,不動産については△を帰属権利者として指定し,金銭等その余の財産については,□を帰属権利者として指定する。

2 本信託が本信託契約第〇条(信託の終了)2号(その他信託法が定める信託終了の原因)の定めにより本信託が終了したときの残余財産の帰属すべき者として,本信託終了時の受益者を指定する。

・受益者の死亡終了とそれ以外の原因での信託終了で,残余財産の帰属先を分ける。

・民事信託においては,信託の終了時の処理は非常に重要(不動産の単独所有or不動産の共有など)。

・信託終了時の課税関係にも細心の注意を払う。例えば,小規模宅地の特定の適用範囲など。

例⒉受益者の死亡終了とそれ以外の原因での信託終了で,残余財産の帰属先を分けない例

第〇条(信託終了後の残余財産)

□(1)本信託の終了に伴う残余財産の帰属権利者は、本信託の清算結了時の【受益者・受益者の相続人・【氏名】・        】とする[30]

□(2)清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける[31]

(管轄裁判所)

第○○条 本契約に定める権利義務に関して争いが生じた場合には,○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

・委託者(委託者の地位を承継した者を含む。)と受託者の間で効力が生じる。

例⒉管轄裁判所を定めない例。

第〇条(契約に定めのない事項の処理)

□1 本信託の条項に定めのない事項は、信託法その他の法令に従い、受益者及び受託者の協議により処理する。

□2 受益者及び受託者のみでは協議が整わない場合で、意見の調整を図り信託の存続を希望するときは、○○県弁護士会の裁判外紛争解決手続を利用する。

□3【                】

援用方式の信託目録

東京法務局不動産部門首席登記官 横山亘登記官の見解(登記情報712号15頁以下など)

・信託目録に,「令和○年○月○日○○○○作成に係る公正証書第○条のとおり」

と記載することの是非

2 FATF金融活動作業部会対応(FATF第4次対日相互審査報告書)

https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210830/20210830.html

・審査報告書概要から抜粋

「国内外の信託,特に信託会社によって設立されていない,あるいは管理されていない信託の透明性に関しては,課題がある。法執行機関は,より複雑な法的構造を有する実質的支配者情報を備えるために必要な手段を有していないようであり,法人や法的取極めに関連するリスクは十分に理解されていない。」

・審査結果を受けた国の行動計画

項目:民事信託・外国信託に関する実質的支配者情報の利用・正確性確保

行動内容:信託会社に設定・管理されていない民事信託及び外国信託に関する実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保するための方策を検討し、実施する。

民事信託契約の公証実務

判例タイムズ2021年6月号~10月号

民事信託の例(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)

信託契約の方式

・書面性は要求されておらず、公正証書による法的必要もないが・・・金融機関(信託口口座)との関係

・代理人による締結(とりわけ、委託者)

・東京地裁令和3年9月17日判決(家庭の法と裁判2021年12月第35号134頁)・・・代理人により作成された信託契約につき、金融機関から信託口口座開設を拒絶されたこと等を理由とする、作成に関与した司法書士に対する損害賠償請求訴訟

・公正証書作成の場合の例外的取扱い

・「家族信託実務ガイド」第23号22頁以下

次男

受託者について

・停止条件付き信託契約

以下のような条項はどうか?

・本信託は、委託者が精神上の障害により後見相当となったときに開始する。

・・・難しい。

登記手続能力に注意?

・「本信託は、医師により、委託者が精神上の障害により保佐又は補助相当となったと診断されたときに開始する。」・・・難しい。

・「本信託は、医師2名以上により、委託者が精神上の障害により保佐又は補助相当となったと診断され、2通目の診断書が作成されたときに開始する。」

補助→保佐→後見とのグレードとの関係・・・難しい。後見でも難しい

信託目的と条項との関係

 利害対立の諸相・受益者の生活の安定と、財産の承継

・遺言代用信託が遺留分を侵害しているか否かについては、受益権割合によって判断する(多数説)と東京地裁平成30年9月12日判決(金融法務事情2104号78頁)。

目的条項の機能

・受託者が信託事務を行う際の指針

・受託者が信託財産についてある行為をしようとする場合に、それが権限内の行為か否、ある結果につき受託者の善管注意義務違反があったか否かを判断する基準

・信託終了の判断基準(163条1号)

・信託の変更(149条2項)・追加信託の基準など

以下のような条項で大丈夫?

「受託者は、信託不動産の瑕疵により生じた損害につき、賠償の責を負わない。」

「受託者は、信託不動産の瑕疵担保責任を免れるものとする。」・・・民法717条、民法562条など

条項例についての提言

ア 「受託者が、本信託の期間中及び本信託終了後、信託不動産の瑕疵に関して固有財産から支出したとき、及び信託不動産の瑕疵により生じた損害の責任を負い第三者に賠償したときは、委託者に対して求償することができる。」(判例タイムズ1483号31頁)

あるいは、

「・・・第三者に賠償したときは、受託者に任務懈怠がある場合を除き、委託者に対して求償することができる。」

後継ぎ遺贈型受益者連続信託(91条)

・ 受益権を「承継」する旨規定する条項

・期間制限に注意(ペット信託など)

民事信託と任意後見の比較

・信託:財産についての管理、処分

・任意後見:財産の管理・処分+身上監護

・老人ホーム入居契約、医療契約等の場合に違いが出る

・新たにローンを組む場合には信託の方が適している・・・任意後見契約の代理権目録に記録可能。金融機関と事前調整出来るのでは?

・信託の方が裁量の幅が大きい

民事信託と任意後見の併用の有用性

・追加信託の際にも委託者に意思能力必要→信託単体だと、委託者の判断能力が低下すると信託の変更・追加信託等はできない・・・信託法146条との関係と、根拠規定が分かりませんでした。

・追加信託時に医師2名以上の診断書を取って保管しておく・・・公正証書作成と比較して、どのような意味があるのか分かりませんでした。金融機関との関係も考える必要があるように思います。

(3)任意後見契約と併用(任意後見契約の代理権目録に、「信託契約における受益権の行使に関する事項」、「信託契約の変更に関する事項」のように明記する)・・・代理権目録と、信託行為との整合性を予めチェックしたいと思います。

自動送金について

・併用の場合の留意点

・受託者(とりわけ、帰属権利者でもある場合)が任意後見人を兼ねることができるか・・・原則として可能と考えます。

・任意後見監督人の役割(現在の家庭裁判所実務は主に横領防止)

・親族の中からの任意後見人の確保

・信託+法定後見の場合の東京家裁の運用

・信託監督人・受益者代理人の活用・・・・・個別具体的な運用が望ましいとは思いますが、家庭裁判所の受け入れ容量もあるので、当事者で予め決められるところは、たとえ後から受け入れられなくても決めておいた方が良いと思います。

金融機関での信託契約書のチェックポイント

• 自己執行義務

• 善管注意義務・忠実義務の免除

• 信託事務や信託財産に関する帳簿等の作成の免除

• 信託終了時の最終計算の承認を求める義務の免除

・受託者の辞任、解任の規定

・信託法28条(前提:自己執行義務)

・信託法29条2項ただし書、信託法31条1項、32条1項、信託法31条2項、32条2項

・信託法34条2項

・信託法184条1項、信託法184条

・不可条文例(受託者の辞任) 受託者の任務は、下記の事由に該当したときに終了する。

(1)信託法第56条1項各号に掲げる事由

(2)後継受託者の同意を得て辞任したとき

 信託法57条1項本文では、受託者は、委託者及び受益者の同意を得て辞任できる旨規定されているが、信託契約にこれとは異なる規定がある場合、受託者は、委託者及び受益者の同意を得た場合には辞任できず、後継受託者の同意を得た場合にのみ辞任できる(=信託法の原則的な規定を排除する趣旨)のか、それとも、委託者及び受益者の同意を得た場合だけでなく、後継受託者の同意を得た場合にも辞任できる(=信託法の規定に加えて事由を付加する趣旨)のかが不明確である。補足文言の追加を検討する必要あり。・・・その他信託法で定める場合、と追加すれば良いのではないかと思います。受託者の解任についても同じ。

東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号

・受益者連続型の信託契約において、受益者死亡による信託終了の定めがない場合又は信託期間の定めがない場合に、半永続的に信託が継続することにならないか。・・・信託法164条1項で終了などで終了可能だと考えられます。

チェック内容

・遺留分を侵害している場合、取り扱わない金融機関もある。・・・金融機関の自由なので、依頼者が望めば変更。

 金融機関が、預金者が高齢等により意思能力を喪失したことを知ることが出来る場合は支払停止の措置・・・窓口業務の場合、郵便物が届かない場合以外で、どのようなタイミングで知ることが出来るのか、教えて欲しいと感じました。預金者の生活に必須な公共料金等については、例外的な対応は可能な金融機関もあるとのことですが、棲み分ける根拠は何なのだろうと感じます。


[1]信託法28条1項1号、35条

[2] 信託法29条、30条。

[3]「倒産隔離」については、大垣尚司ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P255注18の見解を採り使用しない。貸金庫と銀行預金を例として説明するものとして、桐生幸之介『不動産の信託による都市創生』2017実務出版P231

[4] 信託法34条。『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版P141、P142「【1】受託者を預金者とし、【2】外観上、当該受託者個人の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預金口座(固有財産に属する預金口座に係るCIF(Customer Information File。顧客ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座)。」

[5] 信託法56条1項7号。

[6]信託法26条但し書

[7] 信託法91条の読み方として、道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P385、道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P476、477、法制執務委員会『ワークブック法制執務』2007ぎょうせいP642

[8] 「信託受益権担保」「質権と国税との優先関係」『金融機関の法務対策5000講Ⅳ』2017きんざい

[9] 不動産所有権について、伊藤眞ほか『不動産担保 下』2010金融財政事情研究会P131~。改正民法466条から468条まで。

[10]債権・動産担保について、伊藤眞ほか『債権・動産担保』2020金融財政事情研究会P78~85。株式会社の株式について会社法180条から182条の6、183条、184条。

[11] 村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P255。道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P351。

[12] 信託法139条。

[13] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第P7。成年後見制度利用促進基本計画2017年、3成年後見制度の利用の促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項①任意後見等の利用促進。

[14] 信託法57条1項但し書。委託者および受託者が本信託のために定めた条項であり、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人の権限は及ばないと考えられる。

[15] 信託法56条1項7号。

[16] 信託法62条2項の新受託者への就任催告を行うことは出来る(信託法92条1項16号)。

[17] 受託者の行う借入れに対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[18] 受託者の行う担保設定に対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[19] 信託法48条5項。

[20] 合意が可能な見解として、遠藤英嗣『家族信託契約』P32

[21] (清算中の)信託財産の現状報告請求、書類の閲覧請求は可能(信託法92条1項7号、8号)。

[22] 信託法166条の利害関係人には、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見にも含まれると考える。

[23] 信託法149条1項1号。

[24] 信託法164条3項。

[25] 参考改正民法542条。

[26] 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』2015民事法研究会P393~

[27] 中村克利ほか「不動産信託受益権質権実行に関する法律と実務」『事業再生と債権管理』2010きんざいP29~P38

[28] 信託法163条1項9号、166条、信託業法85条の7。

[29] 信託法164条1項但し書。

[30] 信託法182条、183条。

[31] 信託法181条。

商業登記関連改正メモ

令和4年6月17日月刊登記情報誌面刷新記念オンラインスクール

柴富公行司法書士「商業登記 最新の注目論点と展望」

  • 近年の商業登記に関連する取扱いの変更(令和元年改正会社法を除く)

令和4年6月13日法務省民商第286号について

会社法34条、同法578条(合同会社は適用がない)

第1 テレビ電話会議を利用した定款認証

1.概要

 株式会社等の設立における公証人の定款認証について、従来は、認証を受ける際に公証人に提供する情報の全てについてオンラインで提供しなければ、テレビ電話会議による定款認証を受けることはできなかったが、改正により、「指定公証人が相当と認めるとき」は、テレビ電話会議によることができることとなった。

 これによって、例えば、委任状や発起人の印鑑証明書などの添付書面を事前に公証人に郵送するなどして、出頭することなく定款認証を受けることができるようになった。

2.手続き

(1)公証人に定款案及び実質的支配者の申告書をFAX又はメールで送信し確認を受け、テレビ電話会議での定款認証を受けたい旨を伝える。

(2)添付書面を送付する。

【株式会社において通常想定される添付書面等】

・委任状(定款全文を合綴し発起人が実印を押印したもの)

・発起人の印鑑証明書(3か月以内のもの)

・(発起人が法人の場合は)発起人の履歴事項全部証明書等

・定款の同一情報の交付申請書

・実質的支配者の申告書及びその添付書面

・返信用封筒

(3)定款認証日時(テレビ電話会議の日時)の予約をする。

(4)申請用総合ソフトで定款認証の申請をする。

(5)公証人指定の銀行口座に認証費用を振り込む。

(6)公証人指定のURLにアクセスし、テレビ電話会議で公証人と面談する。ブラウザは、PCではchromeであることが必要。マイクロソフトedgeでは接続できない。スマートフォンの場合は、Face Hubのアプリを使用する。

・代理人の運転免許証等の身分証明書を準備しておく。公証人が当該身分証明書と代理人が映った画面を記録する。

(7)認証後の定款の同一情報及び実質的支配者の申告受理証明書等が郵送されてくる。認証後の定款(電磁的記録)は申請用総合ソフトからダウンロードする。

3.施行日

令和2年5月11日

4.その他の情報

 令和2年5月1日法務省令第36号によって、指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年法務省令第24号)第9条第7項が改正されたもの。

第2 定款認証における実質的支配者の申告

1.概要

 株式会社、一般社団法人又は一般財団法人の設立における公証人の定款認証に際して、その実質的支配者となる自然人を申告し、公証人の確認を受けなければならない。

2.手続

 株式会社等の設立における公証人の定款認証に際して、嘱託人は、実質的支配者となるべき者の申告書(下記参照)を提出しなければならない(公証人法施行規則第13条の4第1項)。なお、申告書の「暴力団員等該当性」欄の記入に代えて、実質的支配者作成にかかる表明保証書を提出することもできる。

添付書面(根拠資料)の内容は、公証人の裁量に任されている

・実質的支配者を疎明するための書面

・実質的支配者の住所氏名生年月日の確認できる公文書の写し、が実務上求められているようである(平成30年11月13日法務省民総第829号第2の3参照)。

3.実質的支配者(犯罪収益移転防止法施行規則第11条第2項)

(1)議決権の過半数を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人

(2)議決権の25%超を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人

(3)出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人がいる場合はその自然人

(4)法人を代表し業務を執行する自然人

※国、地方公共団体、上場会社等は自然人とみなされる。

※ただし、(1)、(2)に該当する自然人であっても、当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合は除かれる。

日本公証人会連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20210726.html)参照

4.施行日

平成30年11月30日

5.その他の情報

 平成30年法務省令第26号によって、公証人法施行規則が改正されたもの。公証人法施行規則第14条の4が新設された。通達として、平成30年11月13日法務省民総第829号。

第3 定款認証手数料の改定

1.内容

定款認証手数料が下記のように改定された(公証人手数料令第35条)。

・定款に記載された資本金の額等が300万円以上の場合 金5万円

・定款に記載された資本金の額等が100万円以上の場合 金4万円

・定款に記載された資本金の額等が100万円未満の場合 金3万円

 なお、定款に資本金の額等の記載がない場合は、金5万円となる。設立に際して出資される財産の最低額のみの記載のある定款は、資本金の額等の記載がないものと取り扱われる。

2.施行日

令和4年1月1日

第4 商業登記所における実質的支配者リスト制度

1.概要

 株式会社の申出により、商業登記所が、当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて、所定の添付書面により内容を確認して、その写しを発行する制度

日本公証人連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/chg_teikanfee)

2.対象

 株式会社(特例有限会社を含む)が利用。合同会社は利用できない。

第5 商業登記の添付書面における押印義務の緩和(令和3年1月29日法務省民商第10号)

1.概要

 商業登記及び法人登記の添付書面について、原則として、法令に押印の定めのない書面については、押印の有無を審査の対象としないこととした。

2.法令に基づき押印が必要となる書面の例

・登記申請書(商業登記法第17条第2項)

・登記申請委任状(商業登記規則第35条の2第2項)

・取締役会議事録(会社法第369条第3項)

・非取締役会設置会社における取締役又は取締役会設置会社の代表取締役(又は代表執行役)の就任承諾書(商業登記規則第61条第4項、第5項)

・代表取締役を選定する旨の決議を証する株主総会議事録又は取締役の互選書(商業登記規則第6項第1号、第2号)

・登記所に印鑑届出をしている代表取締役又は代表執行役の辞任届(商業登記規則第61条第8項)

・登記所に印鑑届出をしている者がいない会社における代表者の辞任届(商業登記規則第61条第8項)

・原始定款(会社法第26条第1項)

・印鑑届出書(商業登記規則第9条第1項)

3.法令に明確な規定はないが例外的に押印が必要となる書面の例(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3)

・取締役の一致を証する書面

・不正防止申出書及び取下書

・登記された事項につき無効の原因があることを証する書面

4.押印の有無につき審査の対象としない書面の例

・株主総会議事録(上記を除く)

・就任承諾書及び辞任届(いずれも上記を除く)

・株主リスト

・原始定款以外の定款

・登記簿の附属書類の閲覧の申請書

・事業を廃止していない旨の届出

・印紙再使用証明申出書

 「法令」には、法律上の定義がないので、その範囲がどこまでなのか厳密には不明であるが、憲法、法律、政令、勅令、府省令、規則を指しているものと考えられ、通達は含まれないと考える。?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

憲法は法令には入らない

https://www.toben.or.jp/manabu/kouza.html

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・合併契約書、吸収分割契約書及び新設分割計画書

・払込みがあったことを証する書面

・債権者保護手続を行ったことを証する上申書

・原本還付をする場合における謄本(ただし、「原本に相違ない」旨の記載は必要(商業登記規則第49条第2項))

5.訂正印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(5))

 訂正について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第48条第3項)を除き、訂正印の有無につき審査をしない。

6.契印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(6))

 契印について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第35条第3項、第4項)を除き、契印の有無につき審査をしない。

7.司法書士の職責

【司法書士倫理】(実体関係の把握)第57条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、議事録等の関係書類を確認する等して、実体関係を把握するように努めなければならない。

2 司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、その事実及び経過等を確認して作成するように努めなければならない。

第6 印鑑提出の任意化

1.内容

 商業登記における印鑑提出義務を廃止(旧商業登記法第20条を削除)し、印鑑提出を任意とした(商業登記規則第9条第1項)。ただし、本人申請の場合であって書面で登記を申請する場合は、あらかじめ印鑑を提出して申請書に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。

 また、代理人申請の場合であって登記申請代理人への委任状が書面で作成されている場合は、あらかじめ印鑑を提出して委任状に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。

 押印は必ずしも必要ではないが、貼付した収入印紙に消印をする必要がある(印紙税法第8条第2項、印紙税法施行令第5条)。

第7 電子証明書

1.概要

 商業登記申請の場面においては、それぞれ、登記申請書情報及び添付書面情報に行う電子署名に付与することができる電子証明書が決まっている。書面情報の種類とこれに使用できる電子証明書の種類の詳細は、法務省HPを参照。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html

2.商業登記規則第61条第6項の適用のある場合

 「例えば、添付書面情報が代表取締役の選任(重任を含む。)を証する情報(取締役会議事録等)である場合、変更前の代表取締役が(1)商業登記電子証明書、(2)公的個人認証サービス電子証明書又は(3)特定認証業務電子証明書(ア~コ)を記録すれば、他の取締役は(6)その他の電子証明書を記録すれば足ります。」(法務省HP)

3.その他

 例えば、商業登記所電子証明書を取得することなく、公的個人認証サービス電子証明書のみで登記を申請することも可能。また、書面でいうところの認印を押印すれば足りるものについては、いわゆるクラウド型の電子証明書の事業者でも可能なものがある。

 ただし、電磁的記録とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」(電子署名法第2条第1項、会社法第26条第2項)全般を指す用語であるから、厳密にいうと、「商業登記法第19条の2に規定する電磁的記録」というべきであろう。?

第2部 令和元年改正会社法(原則令和3年3月1日施行)

第1 概要

1.主に下記の事項について改正。

・株主総会資料の電子提供

・株主提案権の制限

・取締役の報酬、補償契約、D&O 保険

・社外取締役の活用

・社債の管理

・株式交付制度の創設

・成年被後見人等の取締役等の欠格事由の見直し

・支店所在地における登記の廃止

・新株予約権の登記

2.成立の過程

(1)平成29年2月9日法務大臣が法制審議会へ諮問(諮問第104号)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500028.html

(2)平成31年2月14日法制審議会が法務大臣へ要綱を答申

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500033.html

(3)令和元年10月18日臨時国会(第200回国会)へ法案の提出

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html

(4)令和元年11月26日衆議院可決

(5)令和元年12月4日参議院可決、改正法等成立

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html

(6)令和元年12月11日公布

(7)令和3年3月1日原則施行

なお、株主総会資料の電子提供及び支店所在地における登記の廃止については、和4年9月1日施行

第2 株主総会資料の電子提供

1.概要

 株主総会資料の電子提供制度は、取締役が株主総会資料を自社のホームページ等に掲載し、株主総会の招集通知にそのアドレス等を記載等して株主に通知したときは、(株主の個別の同意を要せずに)株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度

2.上場会社に対しての義務付け

 上場会社などの振替株式を発行する会社については、株主総会資料の電子提供制度の採用が義務付けられる(振替法159条の2第1項)。

定款の定め

・株主総会参考書類等の電子提供制度を採用するには、定款にその旨を定めることが必要となる(会社法325条の2)。

・定款には、具体的なアドレスを規定する必要はなく、単に電子提供措置をとる旨を定めれば足りる(会社法325条の2柱書後段)。

【定款条項例】

(株主総会参考資料等の電子提供措置)

第〇条 当会社は、会社法第325条の2第1項各号に定める資料の内容である情報について、電子提供措置をとる。

・当該定款の定めは、登記事項となる(会社法911条3項12号の2)。なお、具体的なアドレスは登記事項とならない(参考文献1の46頁)とされ、この点は、電子公告と異なる。

 既存の上場会社などの振替株式を発行する会社については、当該改正法の施行日において、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなすとされており(整備法10条2項)、この場合は、施行日から6か月以内に登記をしなければならない(整備法10条4項)。

3.電子提供措置の対象となる情報(参考文献の2、6-7頁参照)

 電子提供措置をとる場合にその対象となる情報は下記のとおり(会社法325条の3第1項各号)。

・会社法298条1項各号に定める事項

・株主総会の日時及び場所

・株主総会の目的である事項があるときは、当該事項

・株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

・株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

法務省令(会社法施行規則63条)で定める事項

・書面による議決権の行使を認める場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項

・電磁的方法による議決権行使を認める場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項

・株主からの議案要領通知請求(会社法305条1項)があったときは、その議案の要領

・計算書類及び事業報告(監査報告又は会計監査報告を含む)の内容(取締役会設置会社における定時株主総会の場合)

・連結計算書類の内容(会計監査人設置会社であって取締役会設置会社における定時株主総会の場合)

・上記の修正をしたときは、その旨及び修正前の内容

 会社法325条の2の定款の定めをした会社は、上記の情報は、原則として電子提供措置をしなければならず、株主に対して書面で交付したからといって、電子提供措置をとらないとすることはできない(参考文献1の17頁)。

 ただし、書面による議決権行使を認める場合の議決権行使書面は、例外として書面を交付すれば、電子提供措置をとらないことができる(会社法325条の3第2項)。実務上は、この例外を適用することになると予想されている(参考文献2の7頁参照)。

4.電子提供措置の期間及び方法

(1)電子提供措置の期間は、株主総会の開催日の3週間前の日(それより前に招集通知を発した場合は、招集通知の発送日)から株主総会の開催日後3か月を経過するまで(会社法325条の3第1項柱書)。

(2)電子提供措置について、調査機関の調査を受ける必要はない(参考文献1の45頁)。

(3)金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出しなければならない会社が、電子提供の開始日までに、上記3.の情報を含む有価証券報告書をEDINETによって開示した場合は、電子提供措置をとることを要しない(会社法325条3第3項)。

5.電子提供措置をとった場合の招集通知

(1)電子提供措置をとった場合、招集通知には下記の事項を記載する(会社法325条の4第2項)。なお、本制度によって招集通知そのものを電子提供することはできない(参考文献2の10頁)。

・会社法第298条第1項第1号から第4号に掲げる事項(通常の招集通知の記載事項のうち、会社法施行規則63条部分を除くもの)

・電子提供措置をとっている旨(会社法325条の4第2項1号)

・有価証券報告書を開示用電子情報処理組織(EDINET)を用いて提出したときは、その旨(同2号)

・情報を掲載したWEBのアドレス(会社法施行規則95条の3第1項1号)

(2)電子提供措置をとった場合、招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送しなければならない(会社法325条の4第1項)。

6.書面交付請求

・議決権行使書面には、対象株主の氏名及び議決権数を記載する必要があり(会社法施行規則第66条第1項第5号)、電子提供措置をとるとしたら、株主ごとに分けて掲載しなければならなくなるため、株主が多数の会社においては困難である。

・ただし、取締役会設置会社、書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合、のいずれかの場合

(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であっても、株主が請求した場合は、その情報を記載した書面を株主に交付しなければならない(会社法325条の5第1項)。

(2)当該書面交付請求は、基準日を定めたときは基準日までに(会社法325条の5第2項)、それ以外のときは株主総会招集通知の発送までに(参考文献1の33-34頁)しなければならない。

7.種類株主総会

 現に数種の株式を発行している種類株式発行会社における種類株主総会についても当該規定は適用があり、会社法325条の2の定款の定めをした会社は、種類株主総会についても参考書類等を電子提供しなければならないと解されている(参考文献2の28頁)。

8.既存の制度との関係

(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であるか否かに関わらず、株主の個別の同意に基づく招集通知の電磁的方法による提供(会社法299条3項)は可能である。

(2)現行法において、株主総会参考書類に記載するべき事項の一部等をWEB で開示することにより、書面の記載を省略する旨の定款で定めることができ(いわゆる「ウェブ開示制度」、会社法施行規則94条、133条3項、)、同制度は、改正後の電子提供措置と両立し得る(参考文献2の2-3頁、18-19頁)。ただし、改正法施行前後の適用関係は複雑となる(参考文献3の14-17頁)。

第3 株主提案権

1.概要

 株主提案権のうち、株主総会議案の事前提案権(会社法305条1項)について、株主1人あたりの提案する議案数は10個以内に制限される(会社法305条4項)。

2.議案の個数の考え方

(1)実質的な内容に着目して数える(参考文献1の54頁)。

(2)役員等の選任に関する議案については、まとめて一つの議案とみなす(会社法305条4項1号)。解任についても同じ(同2号)。

・電子提供措置を定める会社においては、ウェブ開示の適用の余地がなくなるとする見解(邉英基「株主総会資料の電子提供制度への実務対応」(旬刊商事法務2230号(2020年5月5日・15日合併号))54頁)もあるが、理論上は両立し得る。書面交付請求があったときの交付すべき書面の内容に差が生じることになる。

・例えば、取締役と監査役をそれぞれ選任する議案であっても、まとめて一つの議案となる(参考文献1の55頁)。

(3)会計監査人を再任しないことに関する議案は、会計監査人の数に関わらず、まとめて一つの議案とみなす(同3号)。

(4)定款の変更に関する2以上の議案について、異なる議決がされたとすれば、当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一つの議案とみなす(同4号)。

 例えば、取締役会を廃止する旨の定款変更、株式の譲渡制限に関する規定の変更その他の取締役会廃止に伴う定款変更については、どちらか一つが可決されて他が否決されると、矛盾することになる。この場合は、まとめて一つの議案とされる。なお、商号をAとする議案とBとする議案は、どちらか一つが可決されて他が否決されても矛盾しないので、二つの議案である(参考文献1の62頁)。

3.その他

(1)取締役が株主総会に提案する議案の個数に制限はない(参考文献1の59頁)。

(2)株主の議題提案権(会社法303条)、株主総会の席上における議案提案権(会社法304条)については従前と変更がなく、今回の改正で制限が課されることはない。

第4 取締役の報酬等

1.取締役の個別の報酬額の決定の委任

 改正前会社法下における実務上、取締役の個別報酬額の決定について、株主総会決議によって取締役会に委任し、取締役会決議によって特定の取締役に再委任することが認められているが、改正会社法では、条文にこれを前提とする規定が置かれ(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5第6項)、法的な安定性が高まった。

2.個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定

(1)取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させる観点から、上場会社等の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められている場合を除き、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として一定の事項を決定しなければならないとされた(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5)。

・取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等(下記の業績連動報酬等及び非金銭報酬等を除く。)の額又はその算定方法の決定に関する方針

・取締役の個人別の報酬等のうち、業績連動報酬等がある場合には、当該業績連動動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

・明文規定は上場会社等についてのものであることから、中小企業等においても実務慣行が認められるのか若干の疑義がないではない。

・取締役の個人別の報酬等のうち、非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

・上記①の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針

・取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針

・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項

イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位若しくは担当

ロ イの者に委任する権限の内容

ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(上記⑥の事項を除く。)

・その他取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

 なお、業績連動報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(会計規2③二十五)の業績を示す指標(業績指標)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等のことをいうとされた(改正会施規98 の5 二)。

 また、非金銭報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、金銭でないものであって、これには、募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含むものとされた(改正会施規98 の5三)。

(2)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定は、重要な業務執行の決定(会社法362条4項)であり、当該方針の決定を取締役に委任することはできないと解される(参考文献1の82頁、監査等委員会設置会社においては、会社法399条の13第5項第7号)。

(3)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定を義務付けられた会社が、当該方針を決定せず、又は、決定した当該方針に反して取締役の個人別の報酬等を決定した場合は、当該報酬の決定は違法であり、無効であると解される(参考文献1の77-78 頁)。

(4)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定については、特別な経過措置は設けられていないので、上場会社等は、改正会社法施行日以降に当該方針を決定しなければならないと解される。もっとも、改正会社法施行日前に、既に要件を満たしている取締役会決議が存在するのであれば、施行日以後に改めて同じ内容の決議をする必要はない(参考文献3の94頁)。

3.取締役の報酬等に関する株主総会における説明義務

 改正前会社法では、取締役は、取締役の報酬等であって、不確定額である報酬等又は金銭以外の報酬等に関する事項を定め又は改定する株主総会の議案を提出する場合は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされる(旧会社法361条4項)一方で、確定報酬額を定める議案を提出するときは、取締役の説明義務が条文上明示されていない。

 改正会社法では、取締役の報酬等の内容の決定手続に関する透明性を向上させるため、確定額を定める場合を含め、取締役の報酬等に関する事項を定め、又は改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされた(会社法361条4項)。

4.金銭以外による報酬等

(1)株式を報酬等とする場合に決定すべき事項

 現行会社法上、金銭でないものを取締役の報酬等として付与する場合は、定款又は株主総会決議によって、その具体的な内容を決定しなければならないとされている(会361①三)。ところが、金銭以外の報酬の具体的な内容とはどのようなものかは解釈に委ねられており、必ずしも明確ではないため、特に株式及び新株予約権を報酬等とする場合は、明確にするべきであるとの要請があった(参考文献1の84頁)。

 そこで、改正会社法は、株式を報酬等とする場合について、定款又株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法3611三、改正会施規98 の2)。

報酬等のうち当該株式会社の募集株式については、当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法3611三)及び下記事項

・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2一)

・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2 )

・取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の2 三)

(2)株式を報酬とする場合の払込みの要否

 現行会社法上、株式会社が募集株式の発行又は募集自己株式の処分をするときは、募集株式の払込金額又はその算定方法を定めなければならない(会199二)ため、その株式引受人は、必ず当該募集株式等と引換えに1 円以上の財産を払込み又は給付しなければならない(会208)こととされている。

 このことから、実務では、株式を取締役の報酬としようする場合は、会社が取締役に対して金銭報酬を支払う決定をし、これによって取締役が会社に対して有することとなる報酬支払請求権を現物出資する方法によって、取締役を引受人とする募集株式の発行等を行い、株式を交付することが行われている(いわゆる現物出資構成)。

 しかし、このような方法は、技巧的であることや株式を発行した場合における計算が明確でないことから、金銭の払込みを要しないで株式を交付することができるようにするべきであると指摘されていた(参考文献1の88 頁)。

 そこで、改正法では、上場会社(本稿においては、金融商品取引法第2条第16 項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社をいう。)に限定して、取締役の報酬等として株式の発行又は自己株式の処分をする場合、当該募集株式と引換えにする金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しない旨を定めることができるものとした(改正法202の2一)。

 なお、改正会社法施行後においても、上場会社であるか否かに関わらず、現在行われているような現物出資構成による株式の交付は可能である。この場合は、改正会社法361 条1 項3 号又は5 号には該当しないと考えられる。

(3)株式の取得に要するための資金としての金銭を取締役の報酬等とする場合現行会社法上、取締役の報酬等として、株式の取得に要するための資金の金銭を支給する場合であっても、会社法上は特別な規定が置かれておらず、通常の取締役の報酬支給手続きと、募集株式の発行等の手続きを行っていた。

 改正法では、この場合、定款又は株主総会決議で下記の事項を定めなければならないこととされた(改正法361、改正会施規98の4)

・取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法361)

・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98 の4)

・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98の4)

・取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98の4)

(4)新株予約権を報酬等とする場合における決定すべき事項

 改正会社法は、株式と同様に、新株予約権を取締役の報酬等とする場合について、定款又は株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法361、改正会規98 の3)。報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権については、当該募集新株予約権の数の上限(改正法361)及び下記事項

・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会規98の3、会236)

・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会規98の3、会236)

・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会規98 の3 一、会236①三)

・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会規98 の3 一、会236①四)

・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会規98 の3 二)

・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98の3三)

・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会規98の3四、会236)

・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会規98 の3 五、会236)

・取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の3 六)

これは、新株予約権を取締役の報酬等とする場合は、その新株予約権の内容のうち主要なものについて、予め株主総会決議によって決定しておかなければならないことしたもの。

(5)新株予約権を取締役の報酬等とする場合におけるその行使の際の払込みの要否

 現行会社法上、募集新株予約権の発行をするときは、引換えに金銭の払込みを要しないとすることができる(会238)が、新株予約権の行使にあたっては、金銭の払込み等をしなければならないものとされている(会236)。

 このことから、実務では、新株予約権を取締役の報酬としようする場合において、行使価額を1円とするなどの方法(いわゆる1円ストック・オプション)が行われてきたが、株式を取締役の報酬とする場合と同様の理由で、払込み等を要しない新株予約権が望まれていた。

 そこで、改正法では、上場会社に限定して、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合(報酬としての金銭をもって新株予約権と引換えにする金銭の払込みに充てる場合を含む。)、当該新株予約権の行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないものとすることができることとされた(改正法236 の3)。

(6)新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を報酬等とする場合

 新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を報酬とすることもでき、この場合は、株主総会において下記の事項を決議する(改正法361)。

・取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限及び下記事項(改正法361)

・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会施規98の4、会236)

・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会施規98 の4、会236)

・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会施規98 の4)

・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)

・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会施規98 の4、会236)

・取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)

・新株予約権の発行の手続きは、通常のものに加えて、上場会社においては、新株予約権の行使に際して払込み又は現物財産の給付を要しない旨の定めをすることもできる(改正法236)。

 なお、新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする旨の定めは置かれたが、新株予約権の行使に際しての払込みに充てるための金銭を報酬等とすることについての特別な規定は置かれていない。

(7)株式又は新株予約権の発行時における有利発行の該当性

 取締役の報酬等として株式を発行するときに、金銭の払込み等を要しないとする場合であっても、有利発行(会199、201)に該当しないと解されている。その理由として、発行される株式は取締役の職務執行の対価として交付されるものであるから、特に有利な条件に該当しないことや、株主総会決議による報酬決定(会361)の中で、発行する株式数の上限等を決定し、希釈化される株主の意志を確認していることが挙げられている(参考文献1の94 頁)。

 なお、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合における有利発行の該当性については、有利発行規制の適用の可能性自体はあり得るものの、上記株式の発行等における考え方に照らすと、実際上は、有利発行となる余地はほとんどなくなるとする見解が有力である(参考文献1の95 頁)。

(8)報酬等として株式を発行したときの資本金又は準備金として計上すべき額

 取締役等の報酬として株式を交付する場合であって、払込みを要しないとした場合の資本金及び資本準備金の計上は、下記のとおりである。

・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事前交付型)

 取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日後の取締役等の役務をその対価とする場合(事前交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)においては資本金及び資本剰余金の額は変動せず、その後の各事業年度の末日において、下記のとおり計上する。

【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の2)

下記アからイを引いた額

ア 割当日以降各事業年度の末日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額

イ 会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額

上記イは、当分の間、零とされている(会計規14、同附則11一)ため、実質的にはアのみである。なお、自己株式の処分を併せて行う場合は、募集株式の発行部分の割合を乗じて計算する。株主資本等増加限度額の2 分の1 を超えない額は、資本金として計上しないことができ(改正会計規42 の2)、この場合、資本金として計上しなかった額は、資本準備金としなければならない。

・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事後交付型)

取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日前の取締役等の役務をその対価とする場合(事後交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)において、下記のとおり計上する。

【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の3、54 の2)

下記アからイを引いた額

・割当日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額として株式引受権の額に計上された額

・会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額

上記アについて、割当日までの取締役等の役務の評価額を「株式引受権」として一旦計上し、その額がそのままアの額となる(改正会計規54 の2)。

上記イについては、上記と同じ。

なお、自己株式の処分を併せて行う場合、資本金として計上しない部分については、上記と同じ。

 募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合は、通常の募集株式の発行と同じである。つまり、当該払込金額から募集株式の交付に係る費用の額を引いた額が資本金等増加限度額となる。

第5 補償契約

1.補償契約(会社法430条の2)

 補償契約とは、役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部または一部を、株式会社が当該役員等に対して補償することを約する契約をいう(参考文献1の102頁)。

2.補償対象となり得るもの

(1)役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(いわゆる「防御費用」、会社法430条の2第1項1号)

(2)役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における次に掲げる損失(同2号)

イ  当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失

ロ  当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失

3.補償対象とならないもの

(1)防御費用のうち、通常要する費用を超える部分(会社法430条の2第2項1号)

(2)株式会社が第三者に対して損害の賠償等をした場合に当該役員等が当該株式会社に対して損害賠償責任(会社法423条1項)を負う場合には、第三者に対する損害等のうち当該責任に係る部分

(3)役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったことにより第三者に対して損害賠償の責任等を負う場合には、損害賠償等の全部(会社法430条の2第2項3号)。この場合であっても、防御費用は補償することができる(参考文献1の112 頁)。

(4)罰金や課徴金等(参考文献1の116頁)

4.補償の手続

(1)補償契約の内容の決定

 取締役会設置会社においては取締役会決議によって決定する。非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)で決定する。

(2)補償の決定

 補償の決定については、条文上、特別な規定は置かれていない。会社の重要な業務執行の決定(会社法362条4項柱書)として、取締役会設置会社においては、取締役会決議が必要になる事例もあると解されている(参考文献1の109頁)。

5.報告及び開示

(1)公開会社では、補償契約を締結した場合及び補償の実行を行った場合は、一定の事項を事業報告に記載し開示しなければならない(会社法施行規則121条3号の2から3号の4、125条2号から4号、126条7号の2から7号の4)。

(2)補償契約に基づいて補償をした取締役及びを受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に対して報告しなければならない(会社法430条の2第5項)。

6.その他

(1)補償契約に基づく補償は、取締役の報酬等とは異なると解されているようである。

(2)補償契約の締結については、利益相反取引の規定を適用しない(会社法430条の2第7項)。

(3)損害等が発生した後に、補償契約を締結し補償をすることは、条文上禁止されているわけではないが、「補償する側の取締役の善管注意義務の観点から実務上のハードルが高い」(参考文献3の101頁、参考文献2の84-85頁)と解されている。

第6 D&O保険

※典型的な事例では、会社に損害が発生し、その損害を填補することが想定されている。

1.D&O保険とは、会社と保険会社(保険者)が締結し、役員等が被保険者である保険契約であって、役員等が損害賠償等をしなければならないときに、保険金でその填補をしてくれるもの(会社法430条の3第1項参照)。

2.会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約の内容を決定するにあたっては、取締役会設置会社においては取締役会決議、非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)によらなければならない(会社法430条の3第1項)。

 例えば、取締役会設置会社において取締役の全員について取締役会決議をする場合は、特別利害関係人の問題から決議ができないのではないかとの疑念が生じるが、各人ごとに保険契約の内容を決定する決議をそれぞれ行うことによって、対象となる取締役を除く取締役で決議を行うことができると解されている(参考文献1の146頁)。

3.公開会社が、会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約を締結した場合は、事業報告において一定の事項を開示しなければならない(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。

第7 社外取締役

1.社外取締役を置くことの義務付け

 上場会社等(監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社)は、社外取締役を置かなければならないこととされた(会社法327条の2)。

2.社外取締役への業務執行の委託

(1)一定の場合において、社外取締役が、会社の業務を執行することができるものとされた(会社法348条の2第1項)。

(業務の執行の社外取締役への委託)

第348条の2 株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。

2 指名委員会等設置会社と執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他執行役が指名委員会等設置会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該指名委員会等設置会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該指名委員会等設置会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。

3 前2項の規定により委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。ただし、社外取締役が業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)の指揮命令により当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。

(2)会社法348条の2第1項の規定に基づいて、社外取締役が業務の執行を行った場合、当該業務の執行は、社外取締役としての地位に影響を与えないこととされた(会社法348条2第3項)。

第8 株式交付

1.制度概要

(1)ある株式会社(株式交付親会社)が、別の株式会社(株式交付子会社)を子会社とすることを目的として、株式交付子会社の株式を取得するための制度

(2)株式交付親会社が、株式交付子会社の株主から株式交付子会社の株式を取得する。その対価は、株式交付親会社の株式であるが、当該株式に加えて、金銭等も対価とすることができる。

(3)株式交付子会社の株主に対して株式交付親会社の株式を交付するにあたっては、募集株式の発行等の手続きによらず、独自の手続きが定められている。

(4)株式交付子会社の株主は、株式交付によってその所有する株式を株式交付親会社に譲渡するか否か、任意に決定できる。

(5)上記の結果、株式交付親会社が株式交付子会社を子会社とするだけの株式を取得できない場合は、手続き全体の効力が発生しない(会社法774条の3第2項、774条の10)。

2.手続き概要

(1)株式交付計画の作成

株式交付計画の内容(会社法774条の3第1項)

・株式交付子会社の商号及び住所

・株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)の下限

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項

・株式交付子会社の株式の譲渡人に対する株式交付親会社の株式の割当てに関する事項

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として金銭等(株式交付親会社の株式を除く。)を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項

イ  当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ロ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ハ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項

ニ  当該金銭等が株式交付親会社の社債及び新株予約権以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

・前号に規定する場合には、株式交付子会社の株式の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は新株予約権付社債(以下「新株予約権等」と総称する。)を譲り受けるときは、当該新株予約権等の内容及び数又はその算定方法

・前号に規定する場合において、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対して当該新株予約権等の対価として金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項

イ  当該金銭等が株式交付親会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項

ロ  当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ハ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ニ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項

ホ  当該金銭等が株式交付親会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

・前号に規定する場合には、株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項

・株式交付子会社の株式及び新株予約権等の譲渡しの申込みの期日

・効力発生日

(2)株式交付親会社による通知

株式交付親会社は、株式の申込みをしようとする者(株式交付子会社の株主)に対して、下記の事項を通知する(会社法774条の4第1項)。

・株式交付親会社の商号

・株式交付計画の内容

・法務省令(会社法施行規則179条の2)で定める事項

・対価についての参考となるべき事項、株式交付親会社の計算書類

(3)譲渡の申込み人からの申込み

申込者は、申込期日までに事項を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない。

・申込みをする者の氏名又は名称及び住所

・譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

(4)株式交付親会社の株式の割当(会社法774条の5第1項)

申込の中から、割り当てる株式の数を減少させることができる。

(5)割当通知

株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から当該株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数を通知しなければならない(会社法774条の5第2項)。

(6)譲渡承認

 譲渡の対象の株式が譲渡制限株式の場合は、効力発生日の前日までに、株式交付子会社の譲渡承認を受けなければならないと解されている(会社法774条の7第2項、参考文献1の202頁、参考文献2の259-260頁参照)。

(7)株式の交付

 株式交付子会社が株券発行会社の場合は、効力発生日の前日までに、株券の交付を受けなければならない(参考文献1の217頁)。

(8)株主総会決議

 株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって株式交付計画の承認を受けなければならない。なお、簡易な株式交付の制度もある。

(9)債権者保護手続

 一定の場合のみ債権者保護手続が必要となる(会社法816条の8)。債権者保護手続が必要な場合は、対価として交付する株式交付親会社の株式以外の財産の価額が、対価として交付する株式交付親会社の株式の価額の20分の1以上の場合である(会社法施行規則213条の7)。債権者保護手続の内容は、組織再編の一般的なものと同じ。

(10)効力が発生しない場合(会社法774条の11第5項)

・効力発生日において、債権者保護手続が終了していない場合

・効力発生日において、株式交付親会社が株式交付計画に定められた株式の給付を受けられなかった場合

・効力発生日において、株式交付親会社の株主となる者がいない場合

(11)株式交付子会社

 株式交付子会社においては、特別な機関決定は必要ではない。譲渡の対象株式が、譲渡制限株式である場合は、譲渡承認をするか否かが問題となる。

(12)登記

・登記すべき事項

株式を発行した場合は、発行済株式総数の変更(種類株式を発行した場合は発行済種類株式総数の変更)

株式を発行した場合は、資本金の額

新株予約権を発行した場合は、新株予約権に関する事項

※ 対価として新規に株式を発行せず、自己株式の交付のみを行うことも可能である。この場合は、登記事項に変更がないため、登記を要しない。

添付書面

・株式交付計画書

・株式の譲渡しの申込みを証する書面(又は総数譲渡契約書)

・株主総会議事録又は取締役会議事録(簡易な株式交付の場合)

・株主リスト

・債権者保護手続を行った場合は、これに関する書面

・資本金の計上に関する証明書

・委任状

・登録免許税

増加する資本金の額の1000 分の7(ただし3万円に満たない場合は3万円)

第9 取締役等の欠格事由の変更

  • 成年被後見人及び被保佐人であっても、取締役等の欠格事由に該当しないこととなった(会社法331条1項、2号、335条1項、402条4項等)。

2.成年被後見人が取締役等に就任する場合の手続

成年被後見人が取締役等へ就任する場合は、下記の全ての手続が必要となる(会社法331条の2第1項)。

・成年被後見人の同意

・後見監督人がいる場合は、その同意

・成年後見人が成年被後見人に代わってする就任承諾

※成年被後見人の同意が必要なので、全く意思能力を欠いた人は取締役等に就任することができない。同意に必要な意思能力の程度が問題となるが、明確ではない。

3.被保佐人が取締役等に就任する場合の手続き

被保佐人が取締役等へ就任する場合は、下記のいずれかの手続が必要となる。

・被保佐人による就任承諾に加えて、保佐人の同意(会社法331条の2第2項)

・保佐人が代理権を付与されている場合は、保佐人の就任承諾に加えて、被保佐人の同意(同3項)

4.成年被後見人又は被保佐人が取締役等の資格に基づいてした行為は、行為能力の制限によっては取消すことができない(会社法331条4項)。

・「行為能力の制限」によって取り消すことができないだけであって、意思能力がない場合の法律行為の無効(民法3条の2)まで主張できないわけではないと解される。

・代表取締役として第三者との間で法律行為をしたときも、行為能力の制限によって取り消すことはできないとする見解(参考文献1の261-262頁)がある。

・未成年者で取締役等への就任が可能な程度(おおむね15歳程度)だが、そうすると、就任が可能な成年被後見人はわずかとなってしまう。

5.成年被後見が取締役等である場合、成年後見人はその職務を代理して行うことはできない(参考文献1の260頁)。

6.現に取締役等であった者が後見開始の審判を受けた場合は、委任の終了事由(民法653条3項)に該当し、取締役等を退任する。一方で、保佐開始の審判を受けても、委任の終了事由に該当しないため退任しない。

第10 支店所在地における登記の廃止

支店所在地における支店登記については、廃止されることとなった(改正前会社法930条から932条を削除)。

令和4年9月1日施行

第11 新株予約権に関する登記事項の見直し

新株予約権の発行に際して、募集事項の決定の際に、新株予約権の対価として、一定の算定式を定めていた場合であっても、登記申請の時までに確定額が定まった場合は、確定額を登記することになった(会社法911 条3 項12 号へ)。

第3部 商業登記の展望

第1 脱ハンコ=デジタル化

・政府の方針と司法書士の役割

商業登記版登記原因証明情報制度の創設は?

FATF対応と商業登記、代理人確認情報制度の創設?

第2 登記事項の見直し等

役員の任期の規定を登記事項に

役員が利義務になっているのか、任期が継続しているのか分からない。

第3 商業登記の重要性の再確認

・商業登記は、中小企業における重要な法的インフラである。

中小企業においては、商業登記の申請によって株主総会等の手が履されている側面がある。

【参考資料】

1 竹林俊憲編著「一問一答令和元年改正会社法」(商事法務、2020)

2 田中亘・齊藤真紀他編著「Before/After 会社法改正」(弘文堂、2021)

3 神田秀樹・竹林俊憲他「令和元年改正会社法の考え方」(旬刊商事法務2230 号(2020 年5月5日・15 日合併号))

4 日本弁護士連合会編「実務解説改正会社法〔第2版〕」(弘文堂、2021)

5 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「令和元年改正会社法」

6 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「改正会社法に伴う商業登記」

7 土井万二編代「会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A」(日本加除出版、2021)

8 日本司法書士会連合会商業登記・企業法務対策部編「令和元年改正会社法及び令和3年商業登記規則の理論と実務・書式」(LABO、2022)

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