金融法学会第39回大会メモ

資金決済法制の最近の動向について

2022年10月15日金融庁企画市場局参事尾﨑有

・資金決済法改正(2022年)の概要

電子決済手段等への対応

(1)暗号資産・ステーブルコインを巡る動向

(2)今回の法改正の内容

 銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

資金決済法改正(2022年)の概要

金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度を構築する

海外におけるいわゆるステーブルコイン等の発行・流通の増加

銀行等におけるマネロン対応等の更なる高度化の要請

高額で価値の電子的な移転が可能な前払式支払手段の広がり

電子決済手段等への対応

電子決済手段等取引業等の創設

電子決済手段等の発行者(銀行・信託会社等)と利用者との間に立ち、以下の行為を行う仲介者について、登録制を導入

[対象行為]電子決済手段の売買・交換、管理、媒介等

銀行等を代理して預金債権等の増減を行う行為

[参入要件]財産的基礎、業務を適正/確実に遂行できる体制等

[規制内容]利用者への情報提供、体制整備義務等

[監督]報告・資料提出命令、立入検査、業務改善命令等

銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

為替取引分析業の創設

 預金取扱金融機関等の委託を受けて、為替取引に関し、以下の行為を共同化して実施する為替取引分析業者について、許可制を導入

[対象行為]取引フィルタリング、取引モニタリング

[参入要件]財産的基礎、業務を適正/確実に遂行できる体制等

[規制内容]情報の適切な管理、体制整備義務等

[監督]報告・資料提出命令、立入検査、業務改善命令等

高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

高額電子移転可能型前払式支払手段の発行者について、

業務実施計画の届出、犯収法の取引時確認義務等の規定を整備

電子決済手段等への対応

  • 暗号資産・ステーブルコインを巡る動向

デジタル資産の拡大

 ブロックチェーン技術の登場を契機に、デジタル資産は、暗号資産をはじめ、資金調達手段、送金手段、更にはコンテンツ・著作物など急速にその範囲を拡大させた。こうした実態を踏まえ、当局はイノベーション促進と利用者保護等を目指した制度整備を継続的に実施。

暗号資産に係る法制度の整備(2016年法改正)

2014年ビットコインの売買業務を行っていたMTGOX社について、破産手続が開始

G7エルマウ・サミット首脳宣言(2015年6月)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html

「我々は、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる。」

FATF(金融活動作業部会)ガイダンス(2015年6月)

https://www.fatf-gafi.org/documents/guidance/?hf=10&b=0&s=desc(fatf_releasedate)

各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認義務等のマネーロンダリング・テロ資金供与規制を課すべきである。

資金決済法・犯罪収益移転防止法等の改正(2017年4月施行)

暗号 資産の交換業者に 登録制を導入 登録制を導入

口座開設時における本人確認等を義務付け

・利用者保護の観点から、一定の制度的枠組みを整備

(最低資本金、顧客に対する情報提供、顧客財産と業者財産の分別管理、システムの安全管理など)

暗号資産に係る法制度の整備(2019年法改正)顧客の暗号資産の流出事案が発生

暗号資産が投機対象化

事業規模の急拡大の一方で、交換業者の態勢整備が不十分

暗号資産が投機対象化

暗号資産を用いた新たな取引が登場(証拠金取引、ICO)

暗号資産に係る法制度の整備(2019年法改正)

利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備

国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

5.資金決済法・金融商品取引法等の改正(2020年5月施行)

⇒「仮想通貨交換業等に関する研究会」を11回にわたり開催(2018年4月~12月)し、暗号資産交換業等を巡る諸問題についての制度的な対応を検討

https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/kasoukenkyuukai.html

利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備

国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

 交換業者が顧客から預かっていた暗号資産のうち、ホットウォレット(オンライン)で管理していた暗号資産が流出する事案が複数発生

 交換業者に対し、業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産を信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することを義務付け。ホットウォレットで管理する顧客の暗号資産については、別途、見合いの弁済原資(同種・同量の暗号資産)の保持を義務付け

過剰な広告・勧誘への対応

交換業者による過剰な表現を用いた広告・勧誘

広告・勧誘規制を整備

・虚偽表示・誇大広告の禁止

・投機を助長するような広告・勧誘の禁止など

暗号資産の管理のみを行う業者への対応

 FATF(マネロン対策等を扱う国際会議)が、暗号資産の管理のみを行う業者(カストディ業者)について、各国協調して規制を課すことを求める勧告を採択〔2018年10月〕

 カストディ業者に対し、暗号資産交換業規制のうち、暗号資産の管理に関する規制を適用(本人確認義務、分別管理義務など

問題がある暗号資産への対応

移転記録が公開されずマネロンに利用されやすいなどの問題がある暗号資産が登場

交換業者が取り扱う暗号資産の変更を事前届出とし、問題がないかチェックする仕組みを整備

(注)交換業者が取り扱う暗号資産を審査する自主規制機関とも連携

問題がある暗号資産への対応

暗号資産の取引において、不当な価格操作等が行われている、との指摘

風説の流布・価格操作等の不公正な行為を禁止

暗号資産に関するその他の対応

交換業者の倒産時に、預かっていた暗号資産を顧客に優先的に返還するための規定を整備

国内の暗号資産の取引の約8割を占める証拠金取引について、現状では規制対象外

外国為替証拠金取引(FX取引)と同様に、金融商品取引法上の規制

(販売・勧誘規制等)を整備

詐欺的な事案も多い等の指摘がある中、ICOに適用されるルールが不明確

※ICOは、企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称

 収益分配を受ける権利が付与されたトークンについて、投資家のリスクや流通性の高さ等を踏まえ、

・ 投資家に対し、暗号資産を対価としてトークンを発行する行為に金融商品取引法が適用されることを明確化

・ 株式等と同様に、発行者による投資家への情報開示の制度やトークンの売買の仲介業者に対する販売・勧誘規制等を整備

米国連邦法・NY州法における暗号資産・ステーブルコインに関連する現行規制の概観

米国NY州において、暗号資産・ステーブルコインに関するビジネスを行う場合、

・連邦銀行機密法(BSA)に基づく基本的なAML/CFT規制

・スキームの実態等に応じて送金・銀行規制、暗号資産規制、証券規制、商品先物規制等の中で該当する規制

が重畳適用されることになる。

デジタル資産の責任ある開発を確保するための米大統領令(2022年3月)

 2022年3月、ホワイトハウスは、デジタル資産の責任ある開発に関する米大統領令を公表。本大統領令は、暗号資産やステーブルコイン、CBDCを含むデジタル資産に関する政府全体戦略として、米国当局間の連携を含めた対応を指示するもの。

欧州の暗号資産に対する規制案

2020年9月、欧州委員会はステーブルコインを含む暗号資産(注1)の規制案(通称「MiCA」)を公表(注2)

 ステーブルコイン(電子マネートークン及び資産参照型トークン)の発行体に開示規制や資産保全義務を課すとともに、暗号資産のカストディ、交換、トレーディング・プラットフォームの運営を含む暗号資産サービスの提供者についても認可制を採用して様々な規制を課す内容となっている(注3)

(注1)規制案にいう「暗号資産」とは、分散型台帳技術又は類似の技術を用いて電子的に移転・価値保存される価値・権利をデジタルに表章したものをいう。

(注2)2022年3月14日に欧州議会で承認。次の段階として、2022年後半に三者協議(欧州議会・欧州理事会・欧州委員会)を実施予定。6月末に暫定合意。

(注3)現行のEU規制が適用される金融商品、電子マネー(電子マネートークンとしての性質を有するものを除く)等については、適用対象外

英国を暗号資産技術の世界的なハブとするための施策に関する発表(2022年4月)

2022年4月、英国政府は、英国を暗号資産技術と投資の世界的なハブとするための各施策を公表。公表された一連の施策は、英国における企業の投資、発展、成長を支援し、英国の金融サービス業界がテクノロジーやイノベーションの最先端の地位を維持することが目的

米国連邦法・NY州法におけるステーブルコインに関連する現行規制の概観

 連邦法

 いわゆるステーブルコインのみを対象とする固有の規制はないが、ステーブルコインを送付等する場合、連邦銀行機密法(BSA)のMoney Transmitterとして、AML/CFT規制に服する。現状、ステーブルコインに関して、複数の連邦規制当局からの監督を受ける可能性がある(連邦証券諸法、商品取引法等がステーブルコインに適用されるかについては、議論がある。)。

 ニューヨーク(NY)州法

 いわゆるステーブルコインのみを対象とする固有の規制はないが、ステーブルコインの発行・移転等を含む暗号資産事業活動を行う場合、NY州暗号資産規制(23 NYCRR Part 200)に基づきBitLicenseを取得しなければならない。

※ NY州銀行法上の銀行・信託会社であって、当局の承認を得た者は、BitLicenseの取得は不要(NY州暗号資産規制には従う必要)。

※ 法定通貨を送金する場合には、NY州のMoney Transmitterライセンスが必要であり、Bitライセンシーが顧客の暗号資産(NY州法上はステーブルコインを含む)を償還するためには、BitLicenseに加えてNY州法上のMoney Transmitterのライセンスを取得するのが一般的とされている。

電子決済手段等への対応

  • 今回の法改正の内容

資金決済WG報告(2022年1月11日)

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111.html

金融サービスのデジタル化への対応

1.電子的支払手段に関する規律のあり方

 ステーブルコインの分類

 ステーブルコインについて、現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおり分類できると考えられる。

ア 法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの59)イ ア以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等)

59 上記アに該当するかどうかは、スキーム全体を見て実質的に判断することとなる。(略)

(参考1-3)電子的支払手段について

 本報告では、電子的支払手段について、送金・決済サービスにおける活用との機能に着目し、「資金決済法の『通貨建資産』のうち不特定の者に対する送金・決済に利用することができるもの(電子的方法により記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものに限る)」と整理している。この定義は、既存のデジタルマネー(預金・未達債務)及びステーブルコインのうちの「デジタルマネー類似型」をカバーするが、同時に同様の機能を果たす様々な性質のものを含み得る。

 この点について、「不特定の者に対する送金・決済に利用することができる通貨建資産」に該当するもののうち、一般的に広く送金・決済手段として利用され得る状況には至っていないと評価されるもの(国債、社債、電子記録債権、前払式支払手段等)の取扱いが論点となる。これらの通貨建資産については、原則として「電子的支払手段」から除外しつつ、例外的にその流通性等に鑑み送金・決済手段としての機能が強いと認められるものを「電子的支払手段」に含めることができる枠組みとすることが考えられる 。

「高額電子移転可能型前払式支払手段」の実務上の対応等

[利用者利便・実務上の対応への配慮]

対応

前払式支払手段の利用の多くは少額。

前述の犯収法に基づく本人確認(取引時確認)は、オンラインで完結する本人確認方法で行うことが可能。

利用者が同一のアプリ等においてシームレスに高額電子移転可能型に移行できるような仕組みを可能とする。

発行者側のシステム対応に加え、既存ユーザーへの周知が必要であること等を踏まえ、適切な猶予期間を設ける。

(参考)高額電子移転可能型前払式支払手段の詳細(以下のア~オの全ての要件を満たす前払式支払手段

第三者型前払式支払手段(電子機器その他の物に電磁的方法により記録されるものに限る)

電子情報処理組織を用いて移転することができるもの((a)残高譲渡型、(b)番号通知型(狭義)及び(c)これに準ずるもの)

アカウント(発行者が前払式支払手段に係る未使用残高を記載し、又は記録する口座をいう)において管理されるものエ 上記ウのアカウントは繰り返しのチャージ(リチャージ)が行えるものに限る

次の(a)~(c)に掲げる場合の区分に応じ、当該区分に定める要件のいずれかに該当するもの。

(a)残高譲渡型の場合 他のアカウントに移転できる額が一定の範囲を超えるもの(例:1回当たりの譲渡額が10万円超、又は、1か月当たりの譲渡額の累計額が30万円超のいずれかに該当)

(b)番号通知型(狭義)の場合 メール等で通知可能な前払式支払手段(ID番号等)によりアカウントにチャージする額が一定の範囲を超えるもの(例:1回当たりのチャージ額が10万円超、又は、1か月当たりのチャージ額の累計額が30万円超のいずれかに該当)

(c)上記(b)に準ずるものの場合 アカウントへのチャージ額・利用額が一定の範囲を超えるもの(例:1か月当たりのチャージ額の累計額、1か月当たりの利用額の累計額のいずれもが30万円超)

※ただし、上記(a)~(c)のいずれかに該当するものであっても、アカウントに係る未使用残高の上限額が一定額以下のもの(例:30万円以下)は、対象外(高額電子移転可能型前払式支払手段には該当しない)。

金融法の体系の中の「資金決済法」

得津晶(一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻)

報告の内容

 金融監督法(公法)の中の資金決済法の位置づけ

資金決済(為替取引)を銀行業からの独立した一分野に

監督法上の特殊性(倒産隔離の必要性)のため倒産法上の取扱い

 金融取引法(私法)の中の資金決済法の位置づけ

倒産法上の取扱い(倒産隔離効ある救済の有無)の基準

「法的性質論」(or 当事者間の合意)→社会的な種類物性の程度へ

金融監督法(公法)

伝統的な金融法の体系:銀行・証券・保険(金融庁設置法3条などより)

機能的な金融法の分類

金融審議会「金融制度スタディ・グループ中間整理―機能別・横断的な金融規制体系に向けて」(平成30年6月19日)

資金決済法の独立

資金決済領域の様々な事業

•銀行法:為替取引(銀行法2条2項2号)

•資金決済法:前払式支払手段(3条)・資金移動業(2条2項)・暗号資産交換業(2条7項)・電子決済手段等取引業(2条10項)

•割賦販売法:包括信用購入あっせん(2条3項)

伝統的には銀行の固有業務の一部→多様な決済手段を銀行以外にも認める=「資金決済」が銀行業から独立

•「資金移動業」(資金決済法2条2項)「銀行等以外の者が為替取引を業として営むこと」

2009年改正で導入:送金上限額規制などで制約

2020年改正で拡充・一般化:第一種~第三種の類型ごと

⇒問:資金決済に銀行規制を課さなくてよい理論的な正当性はどこにあるのか?

銀行規制の根拠

問:資金決済に銀行規制を課さなくてよい理論的な正当性はどこにあるのか?

→問:そもそも銀行業に銀行規制を課す理論的な根拠はどこにあるのか?

• 伝統的な整理:「システミックリスク」(岩原紳作「銀行の決済機能と為替業務の排他性」『金融法論集(上)』51ー52頁)

銀行業=受信(預金の受入れ)と与信(貸付)の兼営+為替取引(銀行法2条2項)

「受信と与信の兼営」と「為替取引」のシステミックリスクの違い

ナローバンク論:「違う」

ナローバンク:与信の提供を行わず預入金は100%リザーブ×

同じ/分けて考えるべきではない(岩原紳作「銀行の決済機能と為替業務の排他性」『金融法論集(上)』73-74頁)

銀行規制の根拠:システミックリスク

問:そもそも銀行業に銀行規制を課す理論的な根拠はどこにあるのか?

2つの「システミックリスク」の区分←「困難は分割せよ」

預金の受入れと貸付の兼営=流動性ミスマッチを原因とする取り付けをめぐる囚人のジレンマ状況

→強制的な預金保険→モラルハザード→債権者モニタリングの「代替」としての法規制・銀行の健全性確保のための規制

② 資金決済=ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ→2つの解決策

1) 破産させない=銀行の健全性確保

2) 倒産隔離

⇒資金決済と預金の受入れ・貸付の兼営とを同一の規律にする理由はない

•資金決済と受信・与信の兼営とを同一の規律にする理由はない=資金決済を銀行業から独立

理論的なインパクト

•銀行法の銀行業定義規定:「為替取引」の法定他業への降格?

銀行法3条「みなし銀行業」の位置づけ

流動性のミスマッチ(受信を与信せず有価証券投資など)を銀行業の本質に→「みなし」から「銀行業」への昇格?

「銀行代理業」(2条14項3号):為替取引にのみ関与する場合と受信・与信の兼営に関与する場合とで規制に区分の可能性?

金融監督法からの「資金決済法」:ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ

2つの解決策

1)破産させない

2)倒産隔離→資金決済手段が利用者の倒産時(特に誤振込や無権限取引)にいかなる規律に服するかの議論が必要

=金融取引法における倒産隔離効・占有と本件の一致という問題の位置づけの明確化が必要

資金決済手段の倒産時の取扱い

•「帰属」:倒産した場合に取戻権が認められる主体

•占有=紙(有体物)の占有+記録の保持

当事者間で当該権利について移転する契約が成立したものの、記録が移転していなかった場合、当該権利は譲渡人と譲受人のいずれの責任財産に帰属するのか。=権利移転の対第三者対抗要件

記録の移転後に、当該譲渡の原因となった契約が解除されたものの、記録は譲受人にとどまっていた場合に、当該権利はどちらに帰属するのか。=原因契約が解除された場合(原因関係との無因性1)

記録の移転の原因となった契約が錯誤や詐欺で取り消された場合に、記録が譲受人にとどまっている状態で、当該権利はどちらに帰属するのか。=原因契約無効・取消の場合の帰属(原因関係との無因性2)

これまでの議論:法的性質論

物権なのか債権なのか、金銭なのか

所有権・物権=倒産隔離効あり(=優先権あり)

(金銭)債権=原則・倒産隔離効なし(=優先権なし)

限界:暗号資産・ステーブルコインなど新たな支払決済手段

•近時の有力説:当事者間の契約によって決定可能(小塚=森田『支払決済法〔第3版〕』196、203)

×第三者(債権者)の利害に影響

法的性質の操作可能性の限界

•そもそも法的性質を政策判断に基づいて操作できるのか?

例題:「有価証券」ないし「金銭」を契約で自由に設定することができるか?

2つの問題

法令上の根拠なく「金銭」・「有価証券」(ないし「証券口座」)を作ることができるか?

紙ではないデータを「金銭」「有価証券」とすることができるか?

•「預金口座」の法的性質をめぐる議論―契約による金銭的な取り扱いの創出

•有価証券をめぐる議論

問題:法令上の根拠のない有価証券

民事行政当局:有価証券には特別の法律の規定または慣習法が必要(民法(債権法)改正検討委員会編『詳解・債権法改正の基本方針III—契約および債権一般(2)』344頁)

最判昭和44・6・24民集23巻7号1143頁:制定法上の根拠のない学校債について「無記名証券たる有価証券」であることを肯定

調査官解説:「券面上の記載を客観的に観察」=所持人払の趣旨が表れているかどうかすなわち発行者の意思が無記名証券を発行することにあったかどうか(吉井直昭「判解」最判解民事昭和44年度532)※学説も立場が分かれる

問題:紙ではないデータの「有価証券」化=特別法(社債等保管振替法など)に根拠のない「口座」を認めることができるか?

法的性質決定の操作可能

なにが金銭(所有と占の一致)―有価証券・証券口座―その他その他債権を決めるのか。

種類物性基準の提唱

•金銭の所有と占有の一致の根拠:「究極の種類物」=種類物性(「特定」が生じないこと)⇒「種類物」としての性質の強さが必要条件(≠十分条件)

種類物性が強い:物権的保護(倒産隔離効ある保護)が不可能

種類物性が弱い:物権的保護(倒産隔離効ある保護)の可能性(必須ではない)

「物権」「債権」「財産権」という法的性質に直接の関係はない

具体的な当事者の合意のみには依存しない

社会的な取り扱い・受容が決定基準の必要条件

参考:

「支払単位」(森田宏樹「仮想通貨の私法上の性質について」2018・森田宏樹「電子マネーの法的構成」1997未完)=高い種類物性として説明可能

貨幣・暗号資産(財産権)・決済性預金(債権「更改的効果」森田宏樹「振込取引の法的構造」2000)

「口座の記録」(森田宏樹「有価証券のペーパーレス化の基礎理論」2006):口座の記録に占有を認める

それを証券口座的に扱うか(有価証券基準)決済性預金口座的に扱うか(金銭基準)は社会的な「種類物性」に依存

結論

金融監督法(公法)の中の資金決済法の位置づけ

銀行業の規制根拠である「システミックリスク」に2つの異なる意味

1)流動性ミスマッチ←受信と与信の兼営

囚人のジレンマ状況→強制的預金保険→債権者にモラルハザード→代替としての銀行規制

2)ネットワーク効果・連鎖倒産のおそれ←為替取引≒決済領域

倒産隔離規制(供託など)⇒資金決済・為替取引は銀行業からの独立可能。倒産隔離の必要性のため倒産法上の取扱いの議論が必要

金融取引法(私法)の中の資金決済法の位置づけ

倒産法上の取扱い(倒産隔離効ある救済の有無)の基準

「法的性質論」(あるいは当事者間の合意)→社会的な種類物性の程度へ

金銭その他の支払手段の預かりに関する規制について

加毛明(東京大学大学院法学政治学研究科)

1.はじめに

決済と金銭その他の支払手段の預かり

為替取引:「為替業者による受信行為と資金移動指図の執行行為」(岩原

[2003]539頁)

業として預り金をすることの禁止

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)による預り金の原則的禁止

金融規制法における金融業者の預り金の禁止→預り金禁止の趣旨・射程に関する検討の必要性

新たな支払手段の登場→預り金禁止の趣旨が妥当するか否かの検討の必要性

決済と金銭の預かりの関係

金融審議会・金融制度スタディ・グループ「中間整理」

機能別・横断的な金融規制の体系

金融の機能の分類――「決済」、「資金供与」、「資産運用」、「リスク移転」

「預金受入れ」の位置付け

「……預金には元本保証性があり、国民に広く利用される安全確実な価値の貯蔵、運用手段という側面や、法定通貨とほぼ同等に決済に利用できる決済手段という側面がある。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]10頁)

「……預金は資金の出し手から見れば「資産運用」という機能の一形態であるほか、サービス提供者から見れば、「預金受入れ」を単独で行うのではなく、「決済」や「資金供与」と併せて行うことが一般的とも考えられる。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]10-11頁)

決済と金銭の預かりの関係

預金者が(商業)銀行に金銭を預ける目的

「安全確実な価値の貯蔵」

「安全確実な資産運用」

銀行による運用方法としての「資金供与」=信用創造機能

「法定通貨とほぼ同等に決済に利用できる決済手段」の利用

銀行による預金(預金通貨)という支払手段の提供

(商業)銀行による金銭の預かり(預金)の特徴

規定の内容

業としての預り金の禁止(出資法2条1項)

罰則

預り金禁止違反(出資法8条3項1号)

預り金禁止を免れる行為(出資法8条3項2号) cf. 銀行業の無免許営業罪(銀行法61条1号)

みなし銀行業(銀行法3条)/営業の免許(銀行法4条1項)

他の法律に特別の規定のある者の除外(出資法2条1項)

預り金の意義(出資法2条2項)

不特定かつ多数の者からの金銭の受入れ(出資法2条2項柱書)

預金、貯金又は定期積金の受入れ(出資法2条2項1号)又は社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、1号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの(出資法2条2項2号)

金融庁「事務ガイドライン第3分冊:金融会社関係 2 預り金関係」

不特定かつ多数の者が相手であること

金銭の受け入れであること

元本の返還が約されていること

主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること

 出資金規制との関係

 立法の経緯

昭和24年 貸金業の取締に関する法律(旧貸金業法)

貸金業者による預り金の禁止(旧貸金業法7条1項)

「最近の金融梗塞に伴いまして、あるいは高金利惡質な貸金業者が乱立し、あるいは巧みに仮装して預金貯金等の受入れをなし、銀行法等の違反行為をなすものも多数生ずる状態になりましたので、これらの貸金業者を取締り、その公正な運営を保障するとともに、最近の金融の逼迫に乘じて発生いたしました不正金融等を取締ることにより、金融の健全な発達をはかるために、本法案を提出しようとするものであります。」(第5 国会衆議院大蔵委員会議録32号(1949年)898頁〔愛知揆一〕)

「……預金等は正規の金融機関のみが取扱い、貸金業者はもつぱら金銭の貸付またはその媒介のみを行うこととするため、貸金業者は預金、貯金、掛金その他何らの名義をもつてするを問わず、不特定多数の者からこれらのものと経済的性質を同じくする金銭の受入れをしてはならないこと……としたのであります。」(第5国会衆議院大蔵委員会議録32号(1949年)898頁〔愛知揆一〕)

  立法の経緯

昭和29年出資法

銀行法その他の金融関係法規の脱法行為の禁止

「また預金の受入れ等の受信業務につきましては、現在すでに各般の金融関係法規によりまして、行政庁の免許ないし認可を受けた金融機関以外の者がこの業務を営むことを禁止しているのでありますが、最近はこの面における脱法的な行為もいよいよ巧妙な手段がとられるようになりまして、取締りに困難を加えて参つておる実情であります。従いまして、この際預金の受入れ等の禁止の範囲について明確な規定を設ける等の措置によりまして、取締りに便ならしめ、もつて金融秩序の維持をはかることといたしたいのであります。」(第19回国会衆議院大蔵委員会議録18号(1954年)371頁〔植木庚子郎〕)

 出資金の規制

不特定かつ多数の者に対し、出資金の全額以上に相当する金銭を払い戻す旨を示して、出資金を受け入れることの禁止(出資法1条)

出資金の性質に反する元本返還の約束→出資をしようとする者の誤認の防止(津田[1954]770頁)

背景:利殖機関による大衆からの金銭受入れの社会問題化(経済保全会事件、日本殖産金庫事件など)

罰則

出資金規制違反(出資法8条3項1号)、出資金規制を免れる行為(出資法8条3項2号)

刑法に正条がある場合の不適用(出資法8条4項)

「実際には、本条にふれる行為は詐欺罪にあたる場合が多いであろうが、詐欺罪を以てしては、捜査権の発動、立証の点につき困難な場合が少なくなく、早期に出資者大衆を不測の損害から保護することに欠けるうらみがあるところに、本条の実際上の意義があるわけである。この意味において、その防犯的意義は、……いわば詐欺罪を挙動犯形式においては握規制をしたものということができよう。」(吉田[1968]43頁)

 運用の実態

出資法1条ではなく、出資法2条1項による立件

「このように本条は当時多発した大衆からの資金集めの形態を念頭に置いて新設されたが、本法成立後はこれに該当するものとしての摘発は余りなく、また一条違反と二条違反の関係が微妙であることも理由となって、一条が実際に適用される例はほとんどみられず、その後はむしろ二条が適用される事例が多くみられる。」(芝原[2005]385頁)

原因

出資法1条の適用範囲の限定

出資法2条1項の適用範囲の広範さ

出資金(出資法1条)と預り金(出資法2条1項)の関係

出資金規制との関係

課題

「出資法二条の規制範囲は広すぎるから、実際の適用範囲を明確にするためにも(……)、もう少し絞り込む必要があり、また、②出資法一条の規制範囲は狭すぎるのであって、もう少し拡大する必要があるだろう(……)。」(京藤[1998]363頁)

出資法1条の適用範囲の拡張

金銭提供者による適切なリスク判断の可否という基準

金銭提供者のリスク判断を著しく歪める行為の存在

リスク判断ができない金銭提供者からの金銭の受入れ

出資法2条1項の適用範囲の限定

起訴便宜主義と処罰範囲の不明確化

⑶ 預り金禁止の趣旨

 判例

最判昭和36年4月26日刑集15巻4号177頁

「……預金の受入等の受信業務は、それが一般大衆を目的とするときは、その一般大衆から財貨を受託することになるのであるから極めて公共的色彩が強く、したがつて、その契約の履行には確乎たる保障がなければならないとともに、その業務がひとたび破綻をきたすようなことがあれば、与信者たる一般大衆に不測の損害を及ぼすばかりでなく、ひいてはこれら大衆と取引関係に立つ者にまでつぎつぎに被害を拡大して、社会の信用制度と経済秩序を攪乱するおそれがあり、これを自由に放任することは、預金等を為さんとする一般大衆の地位を保護し、社会の信用制度と経済秩序の維持と発展を図る上に適当でないので,既に銀行法等他の法律によつて、免許ないし認可を受けた金融機関等のみに行わせ、それ以外の者がこれを営むことを禁止しているのである。」

銀行規制の根拠との関係

 銀行の特徴――資産・負債間の流動性ギャップ(ミスマッチ)

• 要求払預金の受入れと信用創造

預金の一部が恒常的に銀行に留まることに対する合理的な期待(「返済期限の到来しない借入れ」(高橋編著[2010]199頁))

銀行の信認低下などを原因とする多数の預金者からの払戻しの請求と取付け

「返済期限が到来した借入れ」への転化(高橋編著[2010]199頁)

銀行規制の根拠との関係

預金者の要保護性

預け入れた金銭の払戻しを受けられないおそれ

預金者による自衛の困難

預金者が長年にわたって同じ銀行に口座を有し続ける傾向

小口預金者のモニタリング能力・インセンティヴの欠如(関口[2020]85-86 頁)

預り金禁止の趣旨

銀行規制の根拠との関係

システミック・リスク

破綻した銀行と関係のない者への影響の波及(関口[2020]85頁)

システミック・リスクを考慮に入れた経営を行うインセンティヴの欠如(関口[2020]85頁)

システミック・リスクが生じる原因(白川[2008]299頁)

取付けに関する預金者の心理的な連想

銀行間での与信の焦げ付き

時点ネット決済システムを通じた連鎖的波及

 預り金禁止の趣旨

銀行規制の根拠との関係

 銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

資産・負債間の流動性ギャップ

流動性ギャップの重大さを基準とせずに預り金を禁止すること

流動性ギャップの発生を回避・抑制する方策

預り金の運用による長期の非流動資産の保有の禁止

預り金の保全

決済目的での利用への限定

流動性の高い金融資産による運用への限定(関口[2020]88頁)

金銭を預かる期間の制限

 預り金禁止の趣旨

 銀行規制の根拠との関係

銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

金銭を預け入れた者の要保護性

預り金が返還されないリスクの低減

預り金の保全

金銭を預かる期間の制限

金銭を預け入れた者が負担可能なリスクへの限定

一人当たりの預り金の上限額の制限

預り金禁止の趣旨

 銀行規制の根拠との関係

銀行規制の根拠と預り金禁止の関係

• システミック・リスク

取付けに関する預金者の心理的な連想→預り金の保全

銀行間での与信の焦げ付き→預り金を原資とする資産供与の禁止

時点ネット決済システムを通じた連鎖的波及→決済システムへの参加の有無・態様

預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

前払式支払手段

保有者に対する払戻しの原則禁止(資金決済法20条5項本文)

元本返還約束の不存在を理由とする預り金該当性の否定

「……プリペイド・カードについて、一般的換金を行うような、すなわち一般的に元本の返還が約されていると解されるような場合には、出資法違反の疑いが生じよう。」(プリペイド・カード等に関する研究会[1989]22頁)

保有者に対する払戻しの義務付け(資金決済法20条1項)又は許容(資金決済法20条5 項ただし書)

流動性ギャップ発生の抑制

cf. 出資金規制との関係

「一般大衆の保護の観点については、元本保証を行って資金を募る詐欺的な資金募集が行われないようにするものと考えられる。」(高橋編著[2010]63頁)

預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

前払式支払手段

発行保証金の供託(資金決済法14条1項)、発行保証金保全契約

(資金決済法15条)、発行保証金信託契約(資金決済法16条1項)

預り金が返還されないリスクの低減

保有者1人当たりの発行額の制限

保有者が負担可能なリスクへの限定

預り金禁止が決済法制において有する意義

 資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

資金移動業者による利用者からの資金の受入れ

パブリック・コメントに対する金融庁の回答

「例えば、資金移動業者が、送金依頼人から送金指図を受けるとともに、当該指図に係る送金資金を送金依頼人のアカウントに受け入れるなど、送金資金が具体的な送金依頼と結びついている場合には、当該送金資金の受入れは、出資法第2条第2項で禁止される「預り金」には該当しないと考えられます。ただし、資金移動業者は、銀行と異なり預金の受入れはできず(銀行法第2条第2項)、送金と無関係に資金を預かったり、送金用口座と称して長期間金銭を預かり利息を付すなど、その実態によっては実質的に「預り金」に該当する場合も考えられます。」(金融庁[2010]40頁)

預り金該当性の否定と出資法2条1項の適用の否定(高橋編著[2020]195頁参照)

資金移動業者による金銭の受入れが許容される根拠の検討

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

第二種資金移動業

履行保証金の供託(資金決済法43条1項2号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条〔利用者から受け入れた資金を原資とする貸付け等の防止措置(資金移動業者に関する内閣府令30条の3)〕)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

流動性ギャップ発生の回避、預り金が返還されないリスクの低減、システミック・リスク顕在化の抑制

為替取引に用いられることがないと認められる利用者の資金を保有しないための措置(資金移動業者に関する内閣府令30条の2)

流動性ギャップ発生の回避、預り金が返還されないリスクの低減

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法による預り金禁止への対処

 資金移動業

第一種資金移動業

履行保証金の供託(資金決済法43条1項1号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

利用者からの金銭の受入れと供託までの期間の短縮

流動性ギャップ発生の回避

資金移動事務の処理に必要な期間等を超える債務負担の禁止(資金決済法51条の2第2項)

預り金が返還されないリスクの低減

預り金禁止が決済法制において有する意義

 資金決済法による預り金禁止への対処

資金移動業

第三種資金移動業

各利用者に対して負担する債務の額の制限(資金決済法51条の3、資金決済に関する法律施行令17条の2)

利用者が負担可能なリスクへの限定

履行保証金の供託(資金決済法43条1項2号)、履行保証金保全契約(資金決済法44条)、履行保証金信託契約(資金決済法45条)

預貯金等による管理の許容(資金決済法45条の2)

 預り金禁止が決済法制において有する意義

資金決済法の適用がない場合における預り金禁止への対処

収納代行

収納代行業者による利用者からの金銭の受入れ

弁済受領権限の意義

預り金禁止への対処

受け入れた金銭の保全

分別管理

金融機関による保証

信託の設定

自己信託による信託設定の可能性

利用者の金銭を預かる期間の制限

利用者1人当たりの受入れ金銭の制限

預り金禁止が決済法制において有する意義

 金銭を受け入れない決済サービスの提供

電子決済等代行業

為替取引の指図の受領・伝達(銀行法2条17項1号)、口座情報の取得・提供(銀行法2条17項2号)

「電子決済等代行業については、利用者の資金を預かることは想定していない……。」(井上監修[2018]37頁)

利用者から金銭を受け入れずに決済サービスを提供する可能性

預り金が許容される金融業者

金融商品取引業

有価証券の売買等に関して顧客から金銭などの預託を受けること(金融商品取引法2条8項16号)

分別管理・信託(金融商品取引法43条の2第2項、金融商品取引業等に関する内閣府令141条~141条の3)

暗号資産交換業

暗号資産の売買等に関して利用者の金銭の管理をすること(資金決済法2 条7項3号)

分別管理・信託(資金決済法63条の11第1項、暗号資産交換業者に関する内閣府令26条)

預り金が禁止される金融業者

金融商品仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融商品取引法66条の13、201条4号)

「証券仲介業者は証券取引行為に関し顧客に対し自らが証券取引の法的主体となることがないため、顧客から金銭等の預託を受ける必要がないこと」、「金銭等の預託の受入れの機会があると投資者被害を誘発するおそれがあること」(高橋編[2004]129頁)

金融商品仲介業務と金銭等の受入れの関連性、顧客の利便性に基づく批判(洲崎ほか[2004]50-51頁〔河本一郎〕)

 預り金が禁止される金融業者

金融商品仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融商品取引法66条の13、201条4号)

金融商品仲介業者に期待される役割の限定

「仲介者」である金融商品取引業者等と顧客を「仲介」する者としての位置づけ

金融商品仲介業者の資質・能力に対する評価

「……立法者は、金融商品仲介業者は証券会社と顧客の『つなぎ』に徹するべきであって、顧客の投資活動に深く関与することは妥当でないと考えているように思われます。」(洲崎ほか[2004]40頁〔洲崎博史〕)

「……金融商品仲介業者には証券会社を代理し得るほどの専門性を具備することは求められてないとみられる。」(戸田[2009]505頁)

金銭等の預託のニーズ

「また、売買代金の支払いや受取りも銀行振込みによって行われることが一般化しており、顧客が金融商品仲介業者に金銭を預託するニーズはあまりないといえそうである。」(神田ほか編[2014]984頁注3〔洲崎博史〕)

 預り金が禁止される金融業者

金融サービス仲介業

顧客から金銭等の預託を受けることの禁止(金融サービス提供法27 条本文、88条2号)

「流用・費消等による顧客被害を未然に防止することを図るため、金融サービス仲介業者には、原則として顧客からの財産の受入れを禁止することとしている(……)。」(岡田ほか[2021]11頁)

 預り金が禁止される金融業者

 金融サービス仲介業

決済サービスを提供する方法

顧客から金銭を預かる方法

「顧客の保護に欠けるおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合」(金融サービス提供法27条ただし書)

資金移動業の兼業など(金融サービス仲介業者等に関する内閣府令46条)

顧客から金銭を預からない方法

電子決済等代行業の兼業など

cf. 電子金融サービス仲介業務(金融サービス提供法13条1項6号)を行う金融サービス仲介業者による電子決済等代行業の届出(金融サービス提供法18条1項)

 預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

利用者から金銭その他の財産の預託を受けることの禁止(改正資金決済法62条の13本文、110条2号、改正銀行法52条の60の13本文。63条の2第2号)

「仲介者が取り扱う電子的支払手段はそれ自体決済手段であり、投資対象ではないこと等から、(暗号資産交換業等と異なり、利用者による機動的な売買を可能とするために)仲介者が別途利用者の金銭を管理することは通常想定されない。」(金融審議会・資金決済ワーキング・グループ[2022]28 頁注101)

預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

利用者から金銭その他の財産の預託を受けることの禁止(改正資金決済法62条の13本文、110条2号、改正銀行法52条の60の13本文。63条の2第2号)

批判

特定信託受益権の場合、顧客は必ずしも信託銀行や信託会社に別途金銭を預託しているわけではない。……顧客は第一種金商業者兼電子決済手段等取引業者に金銭をあらかじめ預託し、適宜のタイミングで電子決済手段に交換することができるほうが利便性が高い(……)。特定信託受益権……の典型的な利用例は、ブロックチェーン上のトークンであることを利用して、セキュリティトークンや暗号資産との決済に利用することであるから、電子決済手段等取引業者が金銭の預託ができないとすると、この業登録の取得のインセンティヴが大きく低下すると考えられる。」(河合[2022]31-32頁)

預り金が禁止される金融業者

電子決済手段等取引業、電子決済等取扱業

預り金禁止の趣旨との関係

金銭の分別管理・信託による保全(河合[2022]32頁注18)

電子決済手段等取引業者による決済サービスの提供の可能性

顧客から金銭を預かる方法

資金移動業の兼業など

顧客から金銭を預からない方法

電子決済等代行業の兼業など

cf. 電子決済等取扱業者による電子決済等代行業を営むことの許容(銀行法52条の60の8第1 項)

 預り金禁止の根拠が金銭以外の支払手段について有する意義

新たな支払手段の登場

「『預金受入れ』の取扱いについては、IT の進展等により、資産を預けて電子的に決済に利用できるなど、預金類似とも言える手段が登場したり、あるいは、将来的にデジタル通貨のようなものが登場したりしてくると、預金の位置付けが大きく変容し、その重要性が相対的なものになっていく可能性があることにも留意する必要があると考えられる。」(金融審議会・金融制度スタディ・グループ[2018]11頁)

詐欺的方法による金銭以外の支払手段の受入れ

出資法2条2項の「金銭」の解釈

預金

脱法行為の処罰(出資法8条3項2号)

「これは、経済情勢が変化し、業者が常に新しい脱法方法を案出するから必要な規定であると説かれている。例えば、法文に『金銭』とあるので『収入印紙』とか『物品』を授受しておき、別にこれを金銭に交換するなどの脱法も抑えなければならない。」

金銭以外の支払手段の預かりに対する規制

受け入れた支払手段の決済利用

支払手段が返還されないリスクの低減、システミック・リスクの顕在化の回避

資産保全(分別管理・信託など)

受け入れた支払手段を原資とする「資金」供与?

参考文献

井上俊剛監修『逐条解説 2017年銀行法等改正』(商事法務・2018年)

岩原紳作『電子決済と法』(有斐閣、2003年)

岡田大ほか「『金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律』の解説(2・完)――金融商品の販売等に関する法律等関連」NBL1191号(2021年)7頁

小田部胤明『出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律と判例の解説〔増補第5 版〕』(東洋企画・2004年)

河合健「ステーブルコインに対する法規制の実務上の論点および関連ビジネスへの影響金法

2193号(2022年)22頁

神田秀樹ほか編著『金融商品取引法コンメンタール2 業規制』(商事法務・2014年)

京藤哲久「出資法の預り金・出資金規制について」『西原春夫先生古稀祝賀論文集 第3巻』(成文堂・1998年)341頁

金融審議会・金融制度スタディ・グループ「中間整理――機能別・横断的な金融規制体系に向けて」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180619/chukanseiri.pdf(2018年)

金融審議会・資金決済ワーキング・グループ「報告」

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111/houkoku.pdf(2022年)

金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」

https://www.fsa.go.jp/news/21/kinyu/20100223-1/00.pdf(2010年)

参考文献

芝原邦爾「出資法をめぐる法解釈上の諸問題」芝原邦爾『経済刑法研究 上』(有斐閣・2005年)383頁〔初出1996年〕

白川方明『現代の金融政策――理論と実際』(日本経済新聞出版社・2008年)

洲崎博史ほか「平成一五年の証券取引法等の改正Ⅲ――証券仲介業制度」別冊商事法務275 号(2004年)37頁

関口健太「金融規制法における『預金受入れ』の位置付けについての一考察――スイスにおける改正銀行法を手掛かりとして」金融研究39巻2号(2020年)55頁

高橋康文編『詳解 証券取引法の証券仲介業者、主要株主制度等――平成15年における証券取引法等の改正』(大蔵財務協会・2004年)

高橋康文編著『詳説資金決済に関する法制』(商事法務・2010年)

津田実「出資の受入預り及び金利等の取締等に関する法律」曹時6巻7号(1954年)767頁

戸田暁「金融取引における『仲介業者』の法規整――証券取引の分野を中心として」川濵昇ほか編『森本滋先生還暦記念企業法の課題と展望』(商事法務・2009年)491頁

プリペイド・カード等に関する研究会『プリペイド・カード等に関する研究会報告』(1989年)

吉田淳一「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律の概要」捜研17巻10号(1968 年)37頁

   

令和3年改正民法・不動産登記法研修会

「相続登記義務化関連法の解説」~改正不動産登記法が司法書士実務に与える影響について~

講師 海野禎子(神奈川県司法書士会会員)

司法書士法施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353M50000010055

(司法書士法人の業務の範囲)

第三十一条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。

一、二略

三 司法書士又は司法書士法人の業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務

法務省 不動産登記法新旧対照表

https://www.moj.go.jp/content/001347358.pdf

成立日及び公布日

令和3年4月21日

「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律悦第25号成立(同月28日公布。)。

施行期日

原則として公布後2年以内の政令で定める日(相続登記の申請の義務化関係の改正については公布後3年,住所等変更登記の申請の義務化関係の改正については公布後5年以内の政令で定める日。)。

不動産登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123

(建物の表題登記の申請)

第四十七条 新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(共同相続における権利の承継の対抗要件)

第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

所有者不明土地の発生の予防と利用の円滑化の両面

発生の予防・・・不動産登記法を改正。新法を制定し,相続等によって土地の所有権を取得した者が,一定の要件を満たすことによりその土地の所有権を国庫に帰属させる制度を創設。

利用の円滑化・・・民法等を改正,所有者不明土地の管理に特化した所有者不明土地管理制度を創設するなどの措置を講じる。

民法改正の概要

令和5年(2023年)4月1日施行

隣地使用権・・・改正209条

竹木の枝の切除等・・・改正233条

継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権・・・改正213条の2,213条の3

共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等・・・改正249条2項・3項

共有物の変更行為・・・改正251条

共有物の管理・・・改正252条

共有物の管理者・・・改正252条の2

変更・管理の決定の裁判の手続・・・改正非訟事件手続法85条

裁判による共有物分割・・・改正258条

相続財産に属する共有物の分割の特則・・・改正258条の2

所在等不明共有者の持分の取得・・・改正262条の2、非訟事件手続法87条

所在等不明共有者の持分の譲渡・・・改正262条の3、非訟事件手続法88条

相続財産についての共有に関する規定の適用関係・・・改正898条2項

所有者不明土地管理命令・・・改正264条の2

所有者不明土地管理人の権限・・・改正264条の3

所有者不明土地等に関する訴えの取扱い・・・改正264条の4

所有者不明土地管理人の義務・・・改正264条の5

所有者不明土地管理人の解任及び辞任・・・改正264条の6

所有者不明土地管理人の報酬等・・・改正264条の7

所有者不明土地管理制度における供託等及び取消し・・・改正非訟事件手続法90条

所有者不明建物管理命令・・・改正264条の8

管理不全土地管理命令・・・改正264条の9

管理不全土地管理人の権限・・・改正264条の10

管理不全土地管理人の義務・・・改正264条の11

管理不全土地管理人の解任及び辞任・・・改正264条の12

管理不全土地管理人の報酬等・・・改正264条の13

管理不全土地管理制度における供託等及び取消し・・・改正非訟事件手続法91条

管理不全建物管理命令・・・改正264条の14

相続財産の管理・・・改正897条の2

相続の放棄をした者による管理・・・改正940条

不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消し・・・改正家事事件手続法146条の2,147条,190条の2第2項

相続財産の清算、相続財産の清算人への名称の変更・・改正936条,952条~958条

20230425官報

民法第952条以下の清算手続の合理化・・・改正952条2項,957条1項

期間経過後の遺産の分割における相続分・・・改正904条の3

遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げ・・・改正家事事件手続法199条2項,273条2項・3項

遺産の分割の禁止・・・改正908条2項~5項

所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み

相続登記等の申請の義務付け

令和6年(2024年)4月1日施行

 不動産の所有権の登記名義人が死亡し,相続等による所有権の移転が生じた場合において,下記の場合に公法上の登記申請義務が課される。不動産の所有権の登記名義人について相続(特定財産承継遺言を含む。)や遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)の開始があったときは,当該相続等により当該不動産の所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正不動産登記法76条の2第1項(以下改正法という))。(注1・2)

 法定相続分での相続登記がされた後に遺産の分割があったときは,当該遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は,当該遺産の分割の日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正法76条の2第2項)。(注2)相続人申告登記の申出をした者が,その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは,当該遺産の分割の日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(改正法76条の3第4項)。

(注1)相続人申告登記の申出をした場合には登記申請義務を履行したものとみなす(改正法76条の3第2項)。

(注2)代位者その他の者の申請又は嘱託により,当該各規定による登記がされた場合には,適用しない(つまり,自ら申請していない者についても登記申請義務を免れる)(改正法76条の2第3項)。

登記申請義務の対象

対象となる財産・・・土地及び建物(法2条1号に規定する不動産)。

対象となる権利・・・所有権に限る。

相続登記等の申請義務違反の効果

 申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,10万円以下の過料に処する(改正164条1項)。なお,当該過料の罰則については登記官が裁判所に対して過料事件の通知(過料通知)を行うことになるが,この具体的手続きについては,法務省令等に所要の規定を設けるものとされている。

 過料は本気?一筆、一棟単位?まず、相続人申告登記申請。登記申請単位だと不公平感もあると感じます。

正当な理由があると考えられる例

 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り,戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合。遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合。申請義務を負う相続人自身に妊娠・出産・重病・介護等の事情がある場合。

3年以内に遺産分割が成立しなかった場合

所有権移転登記(相続人申告登記をした場合)・・・申出を受けて登記官が職権で登記(単独申出可・登記申請より簡易)。持分は登記されない。

法定相続分による相続登記・・・第三者が代位申請したケースは義務履行があったとみなされる。

法定相続分の割合で共有相続開始に遡ってA単独所有

遺産分割成立・・・「相続」による所有権移転登記(相続人申告登記をした場合)、「遺産分割」による単有とする所有権更正登記 (法定相続分による相続登記をした場合)

遺言書があった場合・・・遺贈又は相続による移転登記申請か、相続人申告登記申出

・申出を受けて登記官が職権で登記(単独申出可・登記申請より簡易)

・持分は登記されない

・遺言発見前に相続人申告登記がされていれば,重ねて相続人申告登記等をする必要はない

(*)改正法により,特定財産承継遺言,相続人に対する遺贈のいずれによるものかを問わず,その所有権の移転の登記は単独申請可能とされた(改正法63条3項)。

相続放棄者がいる場合の取り扱い

相続放棄者の相続登記申請義務・・・負わない。初めから相続人ではないから。

 登記申請義務を履行すべき期間の始期・・・自己のために相続の開始があったことを知った日とは被相続人である所有権登記名義人の死亡を知った日であり,「当該所有権を取得したことを知った日」とは相続放棄により(当該相続放棄をした者を除いた上で算定される。)。

相続放棄をする前に相続人申告登記をしていた場合・・・Aの登記申請義務は履行したものと扱われる(改正法76条の3第2項。)。

 相続放棄をする前にAが法定相続分に従った相続登記をしていた場合・・・相続人をAのみとする相続登記の更正登記をしなくても,当初の法定相続分の登記(相続放棄前の法定相続分による登記)をしていればAの申請義務違反はないと考えられる(正しい割合による相続登記を申請しない「正当な理由」があるとして過料の罰則の適用はない)。

施行の際に所有権の登記名義人が死亡している不動産についての経過措置

 今回の改正法施行日前に相続が発生していたケースについても,登記の申請義務は課される。具体的には,施行日と自己のために相続の開始があったことを知り,かつ所有権を取得したことを知った日のいずれか遅い日から法定の期間(3年間)が開始する(改正法附則5条6項)。

相続人申告登記の創設

令和6年(2024年)4月1日施行

死亡した所有権の登記名義人の相続人による申出を受けて登記官がする登記として,相続人申告登記を創設する(改正法76条の3)。

・所有権の登記名義人について相続が開始した旨

・自らがその相続人である旨

を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで,申請義務を履行したものとみなされる(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ履行したことになる。)

 所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は,法務省令で定めるところにより,登記官に対し,所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる(注1)。

 登記官は,前記の規定による申出があったときは,職権で,その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる(注2)。

(注1)これは,相続を原因とする所有権の移転の登記ではなく,各事実についての報告的な登記として位置付けられるものである。

(注2)相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出可(他の相続人の分も含めた代理申出も可)

付記1号 相続人申告 原因 年月日相続

氏名の申告相続人

住所氏名

年月日付記

付記2号相続人申告 原因 年月日相続

氏名の申告相続人

住所氏名

年月日付記

相続人による申出の際の添付書類

 申出人は当該登記名義人の法定相続人であることを証する情報(その有する持分の割合を証する情報を含まない。)を提供しなければならない。具体的には,単に申出人が法定相続人の一人であることが分かる限度での戸籍謄抄本を提供すれば足りる(例えば,配偶者については現在の戸籍謄抄本のみで足り,子については被相続人である親の氏名が記載されている子の現在の戸籍謄抄本のみで足りる)(部会資料P53・6)。

相続人申告登記の処分性

 相続人申告登記の申出を却下した登記官の判断には,処分性を有すると解されている。よって,審査請求や抗告訴訟の対象となる(ガイドブックP37)。その申出に対する却下事由や登記官が却下をする際の手続きに関する具体的な規律については法務省令に委任することが想定(部会資料 P57~58)。

相続人申告登記後の住所変更

 相続人申告登記後に,申出者の氏名又は住所について変更があった場合には,表示変更登記を申請する必要はない。

相続人申告登記の申出と法定単純承認事由

 民法921条1号では,「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし保存行為は除く)」と規定していることから,相続人申告登記の申出が本号の「処分」に該当するかが問題となる。この点,相続人申告登記は,所有権の登記名義人に相続が発生した事及び自らが法定相続人である旨を申し出てこれを公示する報告的な登記に留まる為,同号の「処分」には該当しないと解される(ガイドブックP38)。

相続登記等の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化

相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記手続を簡略化するため,共同申請主義(法60)の例外を規定を設ける。具体的には,遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記は,不動産登記法第60条の規定にかかわらず,登記権利者が単独で申請することができる(改正法63条3項)。

遺贈登記単独申請が適用される対象

対象となる受遺者・・・相続人に限る。

対象となる権利・・・所有権に限る。

昭和33年4月28日民甲779局長通達の変更。

法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化

 法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続を簡略化するため,法定相続分での相続登記がされている場合において,次に掲げる登記をするときは,更正の登記申請によることができるものとした上で,登記権利者が単独で申請することができるものとした。

遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記申請

他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記申請

特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記申請

相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記申請

改正法

登記の目的 更正登記

遺産分割、相続放棄、特定財産承継遺言、相続人への遺贈

申請構造 単独申請

登録免許税 不動産1個当たり1000円

登記の目的 更正登記

申請構造 単独申請

登録免許税 不動産1個当たり1000円

所有権移転

年月日相続

共有者住所持分氏名

共有者住所持分氏名

共有者住所持分氏名

付記1号

何番所有権更正

年月日遺産分割

住所氏名

 権利能力を有しないこととなったと認めるべき所有権の登記名義人についての符号の表示

 公布後5年以内施行(2026年予定)

 所有権登記名義人の相続に関する不動産登記情報の更新を図る方策の一つとして,登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて法務省令で定めるところにより,職権で,当該所有権の登記名義人について死亡の事実を示す符号を表示することができる制度を新設した(改正法76条の4)。なお,符号の表示を広く実施していく観点から,住基ネット以外の情報源(固定資産課税台帳等)からも死亡情報の把握の端緒となる情報を取得する予定である(改正法151条参照)。

対象となる登記名義人・・自然人(部会資料 P53・11)

対象となる権利・・・所有権

・所有不動産記録証明制度の創設

公布後5年以内施行(2026年予定)

自然人及び法人を対象とする所有不動産記録証明制度として,次のような規律を設けるものとする(改正法119条の2)。

 何人も,登記官に対し,手数料を納付して,自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは,その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる(改正法119条の2第1項)。(注1・2)

 所有権の登記名義人について相続その他の一般承継があったときは,相続人その他の一般承継人は,登記官に対し,手数料を納付して,当該所有権の登記名義人の所有不動産記録証明書の交付を請求することができる(改正法119条の2第2項)。(注2)交付の請求は,法務大臣の指定する登記所の登記官に対し,法務省令で定めるところにより,することができる(改正法119条の2第3項)。

 不動産登記法第119条第3項及び第4項の規定は,所有不動産記録証明書の手数料について準用する(改正法119条の2第4項)。

(注1)自然人だけではなく法人についても対象となる。

(注2)代理人による交付請求も許容することを前提としている。

所有不動産記録証明制度の限界

 現在の登記記録に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり,必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから,請求された登記名義人の氏名又は名称及び住所等の情報に基づいてシステム検索を行った結果を証明する所有不動産記録証明制度は,あくまでもこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり,不動産の網羅性等に関しては技術的な限界があることが前提である(要綱案P21)。

所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み

所有権登記名義人の氏名又は名称及び住所の変更登記申請の義務化

公布後5年以内施行(2026年予定)

 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは,当該所有権の登記名義人は,その変更があった日から2年以内に,氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない(改正法76条の5)。前記の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,5万円以下の過料に処する(改正法164条2項)(注)。

(注)裁判所に対する過料事件の通知の手続等に関して法務省令等に所要の規定を設けるものとする。

 なお,相続登記の申請義務違反過料罰則と同様に,登記官が裁判所に対して過料事件の通知(過料通知)を行うことになるが,この具体的手続きについては,法務省令等に所要の規定を設けるものとされている。

住所変更登記等の申請の義務化に関する経過措置について

施行日前に住所等変更が発生していたケースについても,登記の申請義務は課される。具体的には,施行日と所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった日のいずれか遅い日から法定の期間(2年間)が開始する(改正法附則第5条第7項)。

職権による所有権登記名義人の氏名又は名称及び住所の変更登記

公布後5年以内施行(2026年予定)

 改正法は,登記官が住民基本台帳ネットワークシステム又は商業・法人登記のシステムから所有権の登記名義人の氏名及び住所についての変更の情報を取得し,これを不動産登記に反映させるため,次のような規律を設けるものとする(改正法76条の6。)。上記により,登記官が職権登記をした場合は,表示変更登記申請の義務は履行済みと取り扱われる。住所等の変更があったときは,法務局側から所有権の登記名義人に対し,住所等の変更登記をすることについて確認を行い,その了解(「申出」と扱う)を得たときに,登記官が職権的に変更の登記をする。(注1)

 法務省内のシステム間連携により,法人の住所等に変更が生じたときは,商業・法人登記のシステムから不動産登記のシステムにその変更情報を通法人の場合 知することにより,住所等の変更があったことを把握する。(注2)取得した情報に基づき,登記官が職権で変更登記をする。

(注1)最新の住所を公示することに支障がある者(DV被害者等)も存在し得ることや,個人情報(プライバシー)保護の観点から住民基本台帳を閲覧することができる事由を制限している住民基本台帳制度の趣旨等を踏まえ,法務局側から,所有権の登記名義人に変更登記をすることについて確認を行い,その了解を得たときに,登記官が職権的に変更登記をすることとしている。

(注2)改正法では,所有権の登記名義人が法人であるときは,その会社法人等番号を登記事項とすることとされており(改正法73条の2第1項第1号),この情報連携においても会社法人等番号の利用を想定している。

不動産登記の公示機能をより高める観点等からの改正

所有権の登記の登記事項の追加

令和6年(2024年)4月1日施行

登記名義人の特定に係る登記事項の見直し

 所有権の登記名義人が法人であるときは,会社法人等番号(商業登記法7条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記事項とする(改正法73条の2第1項第1号)。なお,施行前に既に所有権の登記名義人となっている法人については,法務省令で定めるところにより,登記官が職権で改正法73条の2第1項第1号に規定する会社法人等番号を登記することを予定している(具体的には,法人から申出をしてもらい,登記官が職権で登記する流れが想定されている)。

現行法改正法

申請情報として提供(改正法73条の2第1項第1号)

会社法人等番号を添付情報として提供(中間試案の補足説明P210)。

外国に住所を有する所有権登記名義人の国内における連絡先となる者の登記

 海外在留邦人の増加や海外投資家による不動産投資の増加により,不動産の所有者が国内に住所を有しないケースが増加しつつある。こうしたケースにおける所有者の把握は,基本的に登記記録上の氏名・住所を手掛かりとするほかないが,日本以外の国においては,その住所等の情報を詳細に管理していないこともあり得,その所在の把握や連絡を取ることに困難を伴うことが少なくない。そこで,改正法は,所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは,その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものを登記事項とする旨改正した(改正法73条の2第1項第2号)。

 国内連絡先となる者については自然人でも法人でも可能でとされるが,不動産関連業者や司法書士等であることが期待されている(部会資料 P57・16)。施行後,この制度が定着するまでの間は「連絡先がない旨の登記」も許容する予定である(詳細は法務省令で定めることとされる)。連絡先として第三者の氏名又は名称及び住所を登記する場合には,当該第三者の承諾があることが必要である(要綱案P20)。

要件

・当該第三者は国内に住所を有するもの(要綱案P20)。

 連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等の登記事項に変更があった場合には,所有権の登記名義人のほか,連絡先として第三者が登記されている場合には当該第三者が単独で変更の登記の申請をすることができるものとする(要綱案 P20)。国内に居住していた所有権の登記名義人が海外へ転居した場合には,国内居住者の海外へ 所有権登記名義人住所変更登記の申請が義務とされるので(改正法76の転居 条の5),その申請の際に併せて国内における連絡先に関する登記事項の登記の申請も必要となる(部会資料P35・15)。

外国に住所を有する外国人についての住所証明情報の見直し

 外国に住所を有する外国人(法人を含む。)が所有権の登記名義人となろうとする場合に必要となる住所証明情報については,次のいずれかとする(要綱案 P20)。具体的には,法務省令又は通達等で対応されるものと予想。

 外国政府等の発行した住所証明情報

  住所を証明する公証人の作成に係る書面(外国政府等の発行した本人確認書類(住所記載の旅券や身分証明書等)の写しが添付されたものに限る。)

登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

公示催告及び除権決定の手続による単独での登記の抹消手続の特例

 登記記録上存続期間が満了している地上権等の権利や,買戻期間が経過している買戻特約など,既にその権利が実体的には消滅しているにもかかわらず,その登記が抹消されることなく放置され,権利者(登記義務者)が不明となったり,その抹消手続きに手間やコストを要するケースが少なからず存在する。

 不動産登記法第70条1項の登記が地上権,永小作権,質権,賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり,かつ,登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において,相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは,その者の所在が知れないものとみなして,公示催告の申立てをすることを認める旨の改正(改正法70条1・2項)。

仮登記は入らない。

改正法70条2項

 登記権利者は,共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは,非訟事件手続法99条に規定する公示催告の申立てをすることができる。(注)

公示催告の申立ての要件

地上権,永小作権,質権,賃借権若しくは採石権に関する登記

 登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないとみなして公示催告の申立てをすることができる(改正70条2項)。具体的には実際に現地を訪れての調査までしなくても良いものと考えられる(中間試案の補足説明P206)。登記権利者は単独で抹消登記を申請することができる(改正法70条3項。)。

(注)登記義務者の相続人の所在が判明しない場合にも適用するため,「登記義務者」を「共同して登記の抹消の申請をすべき者」に改めた(部会資料P53・16)。

買戻しの特約に関する登記の抹消手続の簡略化

 買戻しの特約に関する登記がされている場合において,その買戻しの特約がされた売買契約の日から10年を経過したときは,実体法上その期間が延長されている余地がないことを踏まえ,登記権利者(売買契約の買主)単独で当該登記の抹消を申請することができる(改正法69条の2)。なお,登記された買戻しの期間が10年より短い場合で,その期間を満了したときは,可能。

 登記官が買戻特約の登記を抹消したときは登記義務者に対しその旨通知することが予定。法務省令に規定を設けることが予定。(部会資料P 60・8。)。

解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化

令和5年(2023年)4月1日施行

 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続を簡略化する方策として,次の要件を満たす場合,不動産登記法第60条の規定にかかわらず,登記権利者は単独で担保権の登記の抹消を申請することができるものとした(改正法70条の2)。

・担保権の登記義務者が解散した法人であること(注1・2)

・相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお法人の清算人の所在が判明しないこと(注3・4)

・被担保債権の弁済期から30年経過したこと

・その法人の解散の日から30年経過したこと

(注1)担保権とは,先取特権,質権又は抵当権のことである。

(注2)通常の法人解散の手続きを経た場合のみならず,休眠会社又は休眠法人として解散したとみなされた場合(会社法472条1項,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律149条1項,203条1項)や,法人に関する根拠法の廃止等に伴い解散することとされた法人も含まれる(中間試案の補足説明P208)。

(注3)法務省令で定める方法としては,清算人が登記された住所に居住していないことを証する「不在住証明書」や,当該(住所省略)を本籍とする戸籍がないことを証する「不在籍証明書」等の公的な書類を調査したり,住所地への郵便等の不到達等で居住していないことの証明するをすることなどで足り,現地調査までは必要ないと考えられている(ガイドブック P80)。

(注4)清算人が存在しない場合には,裁判所に対してその選任等を請求することは不要(中間試案の補足説明 P209)。

その他の改正

附属書類の閲覧制度の見直し

令和5年(2023年)4月1日施行

登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面を除く)の閲覧制度に関し,閲覧可否の基準を合理化する観点等から,次のような規律を設けるものとする(改正法121条)。

 何人も,登記官に対し,手数料を納付して,自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面を除く)(電磁的記録にあっては,記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記において同じ)の閲覧を請求することができる。登記簿の附属書類(不動産登記法121条1項の図面及び前記に規定する登記簿の附属書類を除く)(電磁的記録にあっては,記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は,登記官に対し,法務省令で定めるところにより,手数料を納付して,その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る)の閲覧を請求することができる。(注)

(注)「正当な理由」の内容は通達等で明確化することを予定している。

 例えば,過去に行われた分筆の登記の際の隣地との筆界等の確認の方法等について確認しようとするケース,不動産を購入しようとしている者が登記名義人から承諾を得た上で,過去の所有権の移転の経緯等について確認しようとするケースなどが想定されている(令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)P20)

 被害者保護のための住所情報の公開の見直し

 令和6年(2024年)4月1日施行

 DV被害者等についても相続登記や住所変更登記等の申請義務化の対象となることに伴い,不動産登記法119条に基づく登記事項証明書の交付等に関し,次のような規律を設けるものとされた(改正法119条6項)。

対象者

 DV防止法,ストーカー規制法,児童虐待防止法上の被害者等を想定(具体的な範囲は今後法務省令で規定予定)

 登記官は,不動産登記法119条1項及び2項の規定にかかわらず,登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより,人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において,その者からの申出があったときは,法務省令で定めるところにより,同条1項及び2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。(注)

(注)対象者が載っている登記事項証明書等を発行する際に,現住所に代わる事項を記載(委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所,あるいは法務局の住所などを記載する事を想定している)(令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)P20)。

共有物の管理の範囲の拡大・明確化

所在等不明共有者がいる場合の変更・管理

管轄裁判所

共有物の所在地の地方裁判所

所在等不明の証明

 例えば、不動産の場合には、裁判所に対し、登記簿上共有者の氏名等や所在が不明であるだけではなく、住民票調査など必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明であることを証明することが必要。

対象行為の特定

加えようとしている変更や、決定しようとする管理事項を特定して申立てをする必要

共有物の管理者

(活用例)共有物の使用者が決定していないケースで、管理者が第三者に賃貸したりするなどして使用方法を決定。

共有者が使用する共有者を決定していたのに、管理者が決定に反して第三者に賃貸した場合には、前記※により善意者を保護。

(例) 遺産として土地があり、A、B、Cが相続人(法定相続分各3分の1)であるケースでは、土地の管理に関する事項は、具体的相続分の割合に関係なく、A・Bの同意により決定することが可能。

裁判による共有物分割

※ 賠償金取得者が同時履行の抗弁を主張しない場合であっても、共有物分割訴訟の非訟事件的性格(形式的形成訴訟)から、裁判所の裁量で引換給付を命ずることも可能。

※ この他に、共有物の分割について共有者間で協議をすることができない場合(例:共有者の一部が不特定・所在不明である場合)においても、裁判による共有物分割をすることができることを明確化(新民法258Ⅰ)

債務名義になるか。

不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

 共有者(相続人を含む。)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共有関係を解消することができる。共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができる(新民法262の2Ⅲ)

 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡することができる(新民法262の3Ⅱ)

※ 異議届出期間満了前に家庭裁判所に遺産分割の請求がされ、異議の届出があれば、遺産分割手続が優先され、持分取得の裁判の申立ては却下

(例)相続人が、やむを得ない事由があることを理由に、具体的相続分による遺産の分割を求めて遺産分割の請求を行い、異議の届出をしたケースなど

※ 共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分を基準とする(新民法898Ⅱ)。

※ 相続開始時から10年が経過する前でも、所在等不明相続人の土地・建物の持分につき、所有者不明土地・建物管理人を選任することは可能

林野庁

https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/kyouyuurin.html?s=09

共有者不確知森林制度

共有林の所有者の一部が不明で共有者全員の合意が得られない場合に、一定の裁定手続き等を経て、伐採や造林ができるようにする制度です。

共有林の所有者の一部が特定できない又は所在不明で共有者全員の同意が得られない場合に、市町村長による公告、都道府県知事の裁定等の手続きを経た上で、その者が所有する立木の持ち分を移転すること、共有者に土地の使用権を設定することにより、当該共有林において立木の伐採及び伐採後の造林が可能となります。

・安達敏男・吉川樹士・須田啓介・安藤啓一郎『改正民法・不動産登記法実務ガイドブック』(日本加除出版,2021)

・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案

・民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明

・令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント(法務省)

https://www.moj.go.jp/content/001355930.pdf

・荒井達也『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』日本加除出版,2021年

・七戸克彦『新旧対照解説改正民法・不動産登記法』ぎょうせい,2021年

・松嶋 隆弘『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務・財産の管理・分割・登記』ぎょうせい,2021年

・松尾 弘『物権法改正を読む:令和3年民法・不動産登記法改正等のポイント』慶応義塾大学出版会,2021年

・岡信太郎『改正のポイントからオンライン申請手続きまで図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』日本実業出版社,2021年

・ジュリスト2021年09 月号[雑誌] 有斐閣,2021年

昭和43年先例の照会文を読み解く

信託フォーラム[1]の渋谷陽一郎「昭和43年先例の照会文を読み解く」からです。

昭和43年4月12日付民事甲第664号民事局回答

照会

信託財産の所有権移転登記の取扱いについて

登記されている信託条項が、別記のように表示されている場合、受託者から、委託者又は受益者以外の者に対し、信託期間終了後であつても、信託期間終了前の日付でなされた売買その他の有償行為を原因として所有権移転登記の申請があつたときは、受理すべきものと考えますが、贈与その他の無償行為を原因として所有権移転登記の申請があつた場合は、登記されている信託条項に反するので、不動産登記法第49条2号又は同条第4号の規定により却下してさしつかえないと考えますが、いささか疑義もあるので、お回示を願います。

(別記)

信託条項

  • 信託の目的

信託財産の管理及び処分

  • 信託財産の管理方法

信託財産の管理方法(処分行為を含む)はすべて受託者に一任する。

  • 信託終了の事由

 本信託の期間は五カ年とし期間満了による外、受託者が信託財産を他に売却したるとき及び委託者が信託財産を委付したときはこれにより信託は終了する。

  • 其他信託の条項

 本信託は委託者が大阪市内に家屋を構築するための資金を得るため且委託者が現在第三者より負担する金銭債務を返済するための資金を得るために受託者をして信託財産を売却せしめんとするものにして現在借家人の立退要求、其他売却条件の困難のため売買が進捗しない場合に於ても委託者の要求あるときは受託者は自己の資金を委託者に融通し、又その金融のためには自己の責任に於て信託財産を担保に供することができる。

 前記による金融のため委託者が受託者に対し金銭債務を負うに至つた場合に於てその返済をすることが困難と思料するときには信託財産を委付してその債務を免れることができる。

 前項委付により委託者は受益権並びに元本帰属権(信託財産の返還請求権)を失うものとする。

 委託者及び受託者の死亡は本信託に影響を及ぼさないものとする。

 委託者と受託者との合意により何時でも信託条項を追加又は変更することができる。

 前記以外の事項に付てはすべて信託法の定めるところによる。

(回答)客年6月21日付登第429号をもつて照会のあつた標記の件については、前段、後段とも貴見のとおりと考える。ただし、後段の場合は、不動産登記法第49条第4号の規定により却下するのが相当である。

以上

 現在借家人の立退要求、其他売却条件の困難のため売買が進捗しない場合に於ても委託者の要求あるときは受託者は自己の資金を委託者に融通し、又その金融のためには自己の責任に於て信託財産を担保に供することができる。・・・現在借家人の立退請求は、受託者が行う、ということだと思います。判例による訴訟を目的とする信託禁止の適用条件は次の通りです[2]

・信託を為すこと

・訴訟行為をすることを主たる目的とすること

・訴訟行為は、破産申請・強制執行を含むが、更正裁判所に対する債権の届出行為を含まない。

・訴訟信託を特に正当化するような特別な事情がないこと。委託者との関係に基づき職務上債権などを譲り受けて取り立てに従事する場合や、差し迫った権利行使を可能にする手段として信託の形式をとった場合には、本条に触れない。

 以上を考えると、委託者との関係に基づき職務上債権などを譲り受けて取り立てに従事する場合や、差し迫った権利行使を可能にする手段として信託の形式をとった場合に該当し、照会文のみの事実からは、訴訟信託には当たらないように感じます。

しかし、あくまでも「登記されている信託条項」上、受託者の「自己の資金」を「委託者に融通」するとある。更には、登記された信託条項上、「自己の責任に於いて」とあるが、これは受託者の「自己の責任」という意味だろうか。

 自己の裁量で、という意味ではないかなと思いました。また受託者の固有財産を担保にすることは、信託原簿とは関係はないのではないかと思い、記載する意味が分かりませんでした。

要するに、上記の信託条項は、直前に記される受託者が融資した委託者に対する債務について、その債務を弁済することが困難であると思料されるときは、信託財産をもって、代物弁済できる、という意味なのであろうか。「免れることができる」とある。あくまで委託者の意思に基づいて、行われるのであろうか。あるいは、受託者の判断による担保の実行であろうか。

 免れる、ではなく免れることができる、なので受託者の裁量が入っていると考えられます。受託者が弁済を受けられなかった場合、当然に担保実行する、ということなのか分かりませんが、担保実行も受託者の裁量であり、選択肢の1つであるということだと読みました。


[1] Vol.18、2022年10月日本加除出版P114~

[2] 四宮和夫『新版 信託法 (法律学全集)』1989年有斐閣P142~

10月相談会のご案内ー家族信託の相談会その48ー

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要予約
司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

加工第22回弁護士業務改革シンポジウム第6分科会民事信託と後見制度

https://www.nichibenren.or.jp/document/symposium/gyoukaku_sympo.html

日本弁護士連合会2022.9.3(土)

基調講演 「民事信託・任意後見に関する公証実務」

金子 順一(元公証人・元裁判官)

パネルディスカッション前半 「民事信託・後見制度の比較、使い分け」

金子 順一 (元公証人・元裁判官)

伊庭 潔 (日弁連信託センターセンター長・東京弁護士会)

根本 雄司 (日弁連信託センター副センター長・神奈川県弁護士会)

八杖 友一 (日弁連高齢者・障害者権利支援センター 事務局長・第二東京弁護士会)

杉山 苑子 (日弁連信託センター副センター長・愛知県弁護士会)

清水 晃 (日弁連信託センター委員・東京弁護士会)

パネルディスカッション後半 「民事信託・後見制度の併用の実務的課題」

民事信託と任意後見に関する公証実務

金子 順一

1 高齢者の身上監護・財産管理・財産承継の方策

(生前の身上監護〈身上保護〉・財産管理)

・任意後見契約・・・・精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部の事務についての代理権付与

・委任契約を加えた移行型任意後見契約

委任契約は、任意後見監督人の選任により終了する。

・法定後見制度

後見・保佐・補助(生前の財産管理・財産承継)

・信託

財産管理と財産承継

民事信託

受託者が信託銀行、信託会社等の信託業法の適用を受ける商事信託以外のもの。

・・・上の定義だと、営業として信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録が不要な信託(信託業法2条1項かっこ書き、3条、7条)は、民事信託に当たらないということになります。

主に家族間の財産管理・財産承継のために用いられる。

(財産承継・死後事務)

・遺言

・死後事務委任契約

2 任意後見契約の締結

件数 平成30年から令和3年までの作成件数

別紙記載2のとおり、年間1 万2000件程度

日本公証人連合会法規委員会によるアンケート結果の概要(平成30年11月~12月) 公証192号掲載

※日本公証人連合会が、任意後見契約締結の実態把握のために、全公証人に対して実施したアンケート結果の抜粋である。

・利用形態

移行型 75.5%

将来型 23.7%

即効型 0.7%

・本人(委任者)の性別・年齢

〔性別〕

男性 36.1%

女性 63.9%

・・・・・・・・女性が多い。

〔年齢〕

60歳~70歳未満 11.0%

70歳~80歳未満 27.0%

80歳~90歳未満 42.9%

90歳以上 14.1%

・依頼者

本人 24.8%

近親者 24.9%

司法書士 18.2%

行政書士 11.3%

弁護士 10.8%

・・・・・・依頼者とは、嘱託人と代行者(使者)を併せた、公証人と事前打ち合わせを行う者のことを指していると考えられます。

・申立ての動機

預貯金等の管理・解約 37.7%

身上監護(医療契約、施設入所契約等) 36.4%

・受任者

近親者 69.4%(子55.5%)

行政書士 5.7%

司法書士 5.6%

弁護士 4.6%

・同時に他の公正証書の作成(併用) 59.0%

内訳

遺言 79.3%

信託 2.5%

任意後見受任者が帰属権利者 81.5%

死後事務委任 42.3%

尊厳死 11.3%

契約手続の実態と留意点(公証人として)

ア 契約締結の動機

将来、認知症に罹患して、身上監護や財産管理に支障が生ずることへの不安の解消が主なもの。

・ネット・セミナー等による情報

・地方自治体からの勧め

社会福祉協議会

・金融機関(銀行)からの勧め、JAバンクの担当者から公証役場への依頼

・老人介護施設入居に当たり、施設からの要請

イ 公証人としての作成手続上の留意点

・委任者の意思能力及び契約意思の確認の重要性

 公正証書の作成に当たっては、本人の事理を弁識する能力及び任意後見契約を締結する意思を確認するため、原則として本人と面接するものとする。(平成12年法務省民一第634号民事局長通達。『民事月報』55巻7号P175)

法務省民総第151号

令和3年3月1 日

・代理人による嘱託手続

 委任者本人とどうしても面会できない場合、代理方式による任意後見契約を締結することができる。(令和3年の日公連の方針)

・・・代理方式による任意後見契約を締結を認めていることは意外でした。

ウ 嘱託人への説明事項

・後見制度の全般的な説明

法定後見制度(成年後見)との対比

・後見人の職務内容

後見人は後見監督人の指導監督を受けて職務を行うこと

・後見監督人に監督報酬が生じること

エ 親族間紛争に配慮

・親の財産管理を巡る子(兄弟)間の争い。特に移行型の場合にうかがわれる。

(実際にかかわった事例)

親の預金通帳などを事実上管理(出金)する兄弟に対抗するためとして、他の兄弟が親と図って移行型任意後見契約を締結するケース。

・任意後見契約を締結した側の親族(子)が親の実印、通帳などを事実上管理下に置いているとして、これに対抗するために、他方の親族が親に働きかけて、任意後見契約の解除・新たな任意後見契約の締結を嘱託してくるケース。

(弁護士による)親の成年後見申立て準備中に、他の兄弟が任意後見契約を締結するケース(公証人には作成後に事情が判明)。

3 民事信託契約の締結

件数 平成30年から令和3年までの各年の作成総数と内訳

別紙記載3のとおり、年間3000件程度

信託契約、遺言信託、自己信託の内訳件数 95%が信託契約

契約手続の留意点(公証人として気をつけている点)

ア 嘱託人の意思能力と契約意思の確認の重要性

遺言代用信託の類型もあり、特に委託者について注意している。

・代理人による嘱託手続き

公証人が委託者本人に信託契約締結の意思と代理人への委任の事実を明確に確認できれば、代理方式による信託契約を締結することができる。(令和3年の日公連の方針)

信託契約の内容の審査の基本的立場

 公証人の信託契約の審査の基本姿勢としては、私的紛争の予防を図るという公証制度本来の役割から法的に整合性があり、多義的な解釈がされない明確な契約条項の作成を目指しつつも、違法無効ではないことの審査(リーガルチェック)がボーダーラインとなる。

日本公証人連合会の信託への取り組み

・公証人への実務研修会の開催

平成30年からの取り組み

弁護士・金融機関の担当者を招いて、講演・パネルディスカッションなどを行っている。

・新任公証人研修(年3回、各3日行われる)で、信託の講義を設けた。

(昨年秋から)・日弁連信託センターとの継続的な勉強会の実施

「信託契約のモデル条項例(1)~(5)」 判例タイムズ1483号~1487号

4 信託と任意後見の併用事例

・公証役場全体としての統計はない。

本公証人の在任6年間の個人的な経験では、信託契約数約140件のうち40件が他の公正証書との併用事例、内26件遺言、20件任意後見、委任契約を併用12件、死後事務委任契約0件。

信託と任意後見の併用事例の特徴

・信託の受託者が任意後見受任者となるケース、受託者が帰属権利者となるケースもある。

・信託の受益者代理人が任意後見受任者となるケース

作成上の問題点

任意後見契約の代理権目録の記載方法

・任意後見契約の代理権目録の「不動産、動産すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項

「信託財産を除く」などと記載する例が多いがその趣旨は必ずしも明確ではない。

・・・個人的に、権限を分ける記載方法を任意後見契約の代理権目録、信託契約書に記載しているのですが、どのような記載方法なら、信託財産に属する財産と分けることが出来るのか、指針があるのであれば示して欲しいかなとは思います。それとも個別具体的に、裁判所の決定に任せるという運用方針なのかもしれません。

5 結語

・任意後見契約と信託契約の選択

・信託契約と任意後見契約を併用した場合の留意点

(参考)拙著「公証役場からみた民事信託」 家庭の法と裁判35号24頁

パネルディスカッション

【はじめに】

第1 各制度の⽐較

1.法定後⾒・任意後⾒・⺠事信託の⽐較

令和2年(新規)

令和3年(新規)

後⾒開始25,029件

26,470件

保佐開始7,076件

7,741件

補助開始2,415件

2,693件

任意後⾒監督⼈選任612件

678件

任意後⾒契約締結11,260件

12,871件

⺠事信託(公正証書) 2,924件

3,200件

【法定後⾒・任意後⾒・⺠事信託の利⽤件数(新規)】

令和2年(利⽤者) 令和3年(利⽤者)

後⾒開始174,680件

177,244件

保佐開始42,569件

46,200件

補助開始12,383件

13,826件

任意後⾒監督⼈選任2,655件

2,663件

【出典】最⾼裁判所事務総局家庭局「成年後⾒関係事件の概況-令和2年1⽉〜12⽉-」最⾼裁判所事務総局家庭局「成年後⾒関係事件の概況-令和3年1⽉〜12⽉-」

【法定後⾒・任意後⾒・⺠事信託の利⽤件数(利⽤者)】

Q任意後⾒に関する相談を受けたことがありますか。

(愛知)

ある194件(60.6%)ない126件(39.4%)

Q⺠事信託に関する相談を受けたことがありますか。

(京都)ある126 件(39%)ない195 件(61%)

(愛知)ある130件(40.6%)ない190件(59.4%)

Q作成された任意後⾒契約書の委任者の年齢層はどれに当てはまりますか。

(愛知)

40歳未満0件(0.0%)

40歳以上50歳未満3件(1.3%)

50歳以上60歳未満7件(3.1%)

60歳以上70歳未満43件(19.0%)

70歳以上80歳未満96件(42.5%)

80歳以上77件(34.1%)

Q作成された信託契約書等の委託者の年齢層はどれに当てはまりますか。

(京都)

40 歳未満6件(2.5%)

40 歳以上50 歳未満6件(2.5%)

50 歳以上60 歳未満20件(8%)

60 歳以上70 歳未満54件(22%)

70 歳以上80 歳未満105件(43%)

81 歳以上53件(22%)

(愛知)

40歳未満6件(1.9%)

40歳以上50歳未満8件(2.6%)

50歳以上60歳未満9件(2.9%)

60歳以上70歳未満34件(10.9%)

70歳以上80歳未満126件(40.3%)

80歳以上130件(41.5%)

Q受任した案件において設定された任意後⾒受任者となったのはどれに当てはまりますか。

(愛知)

家族83件(39.0%)

友⼈5件(2.4%)

弁護⼠112件(52.6%)

NPO法⼈・社会福祉法⼈1件(0.5%)

その他12件(5.6%)

交際相⼿(1件)、内縁の夫婦(1件)、家族以外の親族(3件)⾎縁関係にないが親⼦同然に⽣活してきた者(1件)、弁護⼠法⼈(1件))

・任意後⾒の典型例・利⽤動機

Q受任した案件において設定された⺠事信託の受託者となったのはどれに当てはまりますか。

(京都)

 委託者の家族219 件(91%)

 委託者の家族以外21 件(9%)

(⼀般社団法⼈・法⼈(8件)、友⼈等(2件)、信託会社(1件)信託銀⾏(1件)、弁護⼠(1件)、税理⼠法⼈(1件))

(愛知)

家族421件(97.5%)

⼀般社団法⼈6件(1.4%)

株式会社等1件(0.2%)

信託銀⾏・信託会社2件(0.5%)

その他2件(0.5%)(会社代表者(1件)、友⼈等(1件)

・⺠事信託の典型例・利⽤動機

1.法定後⾒・任意後⾒・⺠事信託の⽐較

2.⺠事信託と任意後⾒

本⼈の判断能⼒なし→ 法定後⾒

財産管理、財産承継のいずれに関⼼があるか

財産管理のみ→ ⺠事信託、任意後⾒

財産承継のみ→ ⺠事信託、遺⾔

⾝上保護の要否

⾝上保護の必要性があり、家族等の⽀援なし→ 任意後⾒

⾝上保護の必要性がないか、あっても家族の⽀援あり→⺠事信託、任意後⾒

・・・身上監護(身上保護)の必要性がない人、というのがいるのか分かりませんでした。

信託財産に農地、年⾦受給権などが含まれるか含まれる→ 任意後⾒

含まれない→ ⺠事信託、任意後⾒

・・・問いの立て方が少し違うのかなと感じました。信託財産に、は委託者所有の財産に、でも良かったように思います。

【使い分けの指標】

2.⺠事信託と任意後⾒

借り⼊れ予定あり→ ⺠事信託

なし→ ⺠事信託、任意後⾒

裁判所の監督

希望する→ 任意後⾒希望

しない→ ⺠事信託。但し、監督の必要はあり

次世代以降への財産承継の希望あり→ ⺠事信託

なし→ ⺠事信託、任意後⾒、遺⾔

受託者候補の有無

あり→ ⺠事信託

なし→ 任意後⾒

・要求される意思能⼒の相違

・信託契約を作成する際の留意点

Q受任した案件において任意後⾒を設定した理由(動機)は何だったでしょうか。

(愛知)

⾼齢者の財産管理への不安178件(48.6%)

⾝上保護の必要性86件(23.5%)

法定後⾒のデメリットを回避するため87件(23.8%)

その他15件(4.1%)(信頼できる親族・⾝寄りがいない(5件)、特定の受任者を指定したい(2件)、親族関の紛争が⽣じている(2件)、交際相⼿に財産管理・⾝の回りのことを⾏ってもらうため(1件)

Q受任した案件において信託を設定した主な理由(動機)は何だったでしょうか。

(京都)

⾼齢者の財産管理への不安164 件(45.7%)

資産活⽤54 件(15.0%)

財産承継122 件(34.0%)

その他19 件( 5.3%)(「親亡き後」の問題への対応、未成熟⼦のための信託、養育費のための信託、株式の議決権の確保するため)

(愛知)

⾼齢者の財産管理への不安254件(46.4%)

資産活⽤24件(4.4%)

財産承継204件(37.2%)

法定後⾒のデメリットを回避するため59件(10.8%)

その他7件(1.3%)(「親亡き後」の問題への対応(4件)、事業承継(1件)

・使い分けのポイント

1.⾝上保護の必要性

2.財産の種類

3.借⼊れや運⽤

4.受託者の確保

5.後継ぎ遺贈

4.⼀時的な利⽤・裁判所の関与回避

【事例1】施設⼊所費⽤の⼯⾯

・A(80歳)

・財産としては⾃宅と預貯⾦(数百万)

・いずれ施設に⼊ることになった場合は⾃宅売却して施設費⽤に充てたい。

【事例2】収益不動産の管理

・A(70歳)

・年⾦収⼊が⽉に20万円ある。

・⾃宅のほか、アパート⼀棟(築30年)を所有し、管理会社を通じて8部屋賃貸している。

・アパートローンが数千万残っている。

・今後、⼤規模修繕に際し新たな借り⼊れも必要になるかもしれない。

【事例3】親亡き後への対応

・A(75歳)

・障害のある息⼦(45歳・後⾒相当)の将来に不安を感じている。

・A名義の⾃宅のほか、貸駐⾞場があり、管理会社に管理を委ねている。

・息⼦は⾃宅でAと同居しており、簡単な会話は可能だが、⼀⼈暮らしは難しい。

・息⼦の⾯倒は、娘(38歳)に看てもらいたい。

・資産は潤沢にあるので息⼦が困らないようにしてほしい。財産が残った場合は、最終的には娘に渡したい。

第2.⺠事信託と任意後⾒の併⽤

Q受任した案件において⺠事信託と任意後⾒を併⽤したことがありますか。ある場合、受託者と任意後⾒受任者との関係は、どれに当てはまりますか。

(愛知)

受託者と任意後⾒受任者は別⼈である15件(68.2%)

受託者と任意後⾒受任者は同⼀⼈である7件(31.8%)

・・・この設問に限らずですが、このようなアンケートを取り、答える弁護士が多数いて公表している弁護士会は凄いなと思います。

Q⺠事信託と任意後⾒を受任した案件において、⺠事信託と任意後⾒を併⽤した場合、その理由は何だったでしょうか。

(愛知)

信託財産以外に第三者による管理が必要な財産がある15件(46.9%)

⾝上保護が必要である10件(31.3%)

法定後⾒のデメリットを回避するため7件(21.9%)

その他0件(0.0%)

・・・信託財産以外に第三者による管理が必要な財産がある、とは受託者による第三者委託などでもない、年金受給権などを指しているのか、分かりませんでした。

Q⺠事信託と任意後⾒を併⽤しなかった場合、その理由は何だったでしょうか。

(愛知)

費⽤がかかる13件(3.2%)

適切な受託者が⾒つからなかった23件(5.6%)

併⽤する必要がなかった170件(41.7%)

併⽤を考えたことがなかった50件(12.3%)

その他4件(1.0%)(依頼者に理解させるのが難しそうだった(1件)、相談や依頼がない(2件)

⺠事信託・任意後⾒ともに受任していない148件(36.3%)

・・・回答を読んでいる限りでは、任意後見契約を締結して民事信託契約は締結しなかった場合と、民事信託契約は締結して、任意後見契約は締結しなかった場合の二つがあるのかなと思いました。

・併⽤が有効な事例

【事例1】

・⺟A

・⻑年有価証券の投資を⾏ってきたが、⼿続きが⾯倒になってきたので⻑男に任せたい

・⾝の回りの世話は⻑⼥が⾏っており、今後も⻑⼥にお願いしたい

【事例2】

・⽗A

・賃貸マンション経営

・Aの判断能⼒低下後も積極的な借り⼊れが必要

・メインバンクは、既存の借⼊⾦債務についてAと受託者の併存的債務引受を要求

2.併⽤を巡る問題1(代理権⽬録の記載など)

【モデル1】

・Aの財産

⾃宅、収益不動産、預貯⾦数千万円

・Aの債務

収益不動産購⼊時の債務が数千万円

・Aの希望

収益不動産の経営が煩わしく感じてきた。銀⾏員でしっかり者の⼦Bに管理をお願いしたい。⾝の回りの世話は同居している⼦Cにお願いしたい。

・受託者の事務内容・任意後⾒⼈の事務内容

任意後⾒契約-代理権⽬録の記載事項

・財産管理に関する法律⾏為

預貯⾦の管理・払い戻し、不動産その他重要な財産の処分、遺産分割、賃貸借契約の締結・解除など

・⽣活療養看護(⾝上監護)に関する法律⾏為

介護契約、施設⼊所契約、医療契約など

これらの法律⾏為に関連する登記・供託の申請、要介護認定の申請等の公法上の⾏為

・(弁護⼠の場合)これらの事務に関して⽣ずる紛争についての訴訟⾏為の授権

参考

任意後⾒契約に関する法律3条

任意後⾒契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式、⽇本公証⼈連合会編著『新版証書の作成と⽂例-家事関係編〔改訂版〕第3刷123ページ「記載例Ⅱ」』

・受益権に関する代理権

受益権

・受益権とは

信託法2条7項

信託⾏為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し⼀定の⾏為を求めることができる権利

受託者から給付を受ける権利(受益債権)

その権利を確保するための監督権

・既存⽂例の検討

「不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項」

・受益権に関する代理権

条項例

「信託契約に基づく受益権に関する事項」

・信託の変更や終了に関する代理権

・「不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項(信託財産を除く)」との条項

委託者の権利⾏使の可否

・既存⽂例の検討

「不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項」

3.併⽤を巡る問題2(受託者=任意後⾒⼈など)

・受託者と任意後⾒⼈の兼任の可否

信託法

第124条次に掲げる者は、信託管理⼈となることができない。

⼆当該信託の受託者である者

第144条

第124条の規定は、受益者代理⼈について準⽤する。

受託者は受益者代理⼈を兼ねられない。受託者は任意後⾒⼈を兼ねられるか。

3.併⽤を巡る問題2(受託者=任意後⾒⼈など)

【事例】

Bは受託者としての⽴場を濫⽤し、受益者であるAのために管理すべき信託財産のうち500万円をB⾃らのために使い込んでしまった。受託者Bによる使い込みが⾏われた場合、どのような対応を取るべきか。

・・・前提として、任意後見契約の未発効、信託監督人、受益者代理人は選任されていない場合で考えてみます。受益者による権限違反行為の取消し(信託法27条)・行為の差止め(信託法44条)、検査役の選任(信託法45条)、報告請求(信託法36条)による事実確認と、受益者の判断による信託の終了(信託法163条から166じょうまで。)や受託者の解任(信託法58条)その他の民事上の損害賠償請求など(民法709条。)。

1.受託者の義務違反⾏為

2.受託者への責任追及

3.任意後⾒監督⼈の対応

4.信託監督⼈の対応

3.併⽤を巡る問題2(受託者=任意後⾒⼈など)

・弁護⼠としての留意点

【事例】

信託終了時の残余財産の取得について、次の定めがあった。

A死亡による終了、帰属権利者B

A死亡以外の事由による終了、残余財産受益者A

Bは、信託を変更して、A死亡以外の事由による終了の場合も、帰属権利者をBとした上で、信託を終了させた。

・信託の変更・信託の終了ができる根拠

信託法

第149条

1 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託⾏為の内容を明らかにしてしなければならない。

第164条

1 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。

・任意後⾒⼈であるBの⾏為の問題

・利益相反⾏為

利益相反の効果

最判昭和45年5⽉22⽇「右無償譲渡については、後⾒⼈である訴外⼈は被上告⼈を代理することができないのであるから、未成年者たる被上告⼈の後⾒⼈である訴外⼈が被上告⼈を代理して訴外⼈の内縁の夫である上告⼈に対してした本件⼟地の無償譲渡⾏為は、無権代理⾏為である、とした原判決の判断は、正当」

⺠法

(利益相反⾏為)第826条

1 親権を⾏う⽗⼜は⺟とその⼦との利益が相反する⾏為については、親権を⾏う者は、その⼦のために特別代理⼈を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

(利益相反⾏為)第860条

第826条の規定は、後⾒⼈について準⽤する。

任意後⾒契約に関する法律

(任意後⾒監督⼈の職務等)第7条

任意後⾒監督⼈の職務は、次のとおりとする。

四 任意後⾒⼈⼜はその代表する者と本⼈との利益が相反する⾏為について本⼈を代表すること。

外形標準説

最判昭和42年4⽉18⽇「⺠法826条にいう利益相反⾏為に該当するかどうかは、親権者が⼦を代理してなした⾏為⾃体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理⾏為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでない」

【事例】

受託者が受益者に適切な給付をしない場合

・任意後⾒契約に関する法律上の権限

報告徴求(7条2項)、解任(8条)、監督⼈による解任申し⽴て(8条)、審判前の保全処分として任意後⾒⼈の職務執⾏停⽌の申⽴て(家事事件⼿続法225条1項、127条)、職務執⾏停⽌中に急迫の事情がある場合は、任意後⾒監督⼈が必要な処分(7条1項3号)。

法定後⾒の開始審判の申⽴て(10条)

任意後⾒⼈の解任により任意後⾒契約は終了し、任意後⾒監督⼈は法定後⾒開始の審判を申し⽴てる資格を失うため、契約終了前に申し⽴てる必要あり。

利益相反⾏為についての代理権⾏使(7条1項4号)

5.任意後⾒監督⼈等による実効的な監督

・信託契約における⼯夫

【例】

信託法37条3項の別段の定め

報告対象者として任意後⾒監督⼈を加える。

信託法26条但書の信託⾏為

重要な財産の処分をする場合に「任意後⾒監督⼈の同意」を求める。

・任意後⾒監督⼈以外による監督

・信託監督⼈(受益者代理⼈)と任意後⾒監督⼈

1.併⽤を巡る問題

・アンケート結果について

・委託者の理解が不⾜しているまま信託が開始されている

・信託契約書の内容が不⼗分

・任意後⾒契約は締結されているのに監督⼈が選任されない

・成年後⾒⼈による調査

・信託終了時の帰属財産について、法定相続割合と異なる定めあり成年後⾒⼈Gは信託を終了させることができるか。

・・・成年後見人が信託を終了する根拠が分かりませんでした。

代理権⽬録(任意後⾒契約)

1 不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項

2 ⾦融機関、証券会社との全ての取引に関する事項

3 保険契約(類似の共済契約等を含む。)に関する事項

4 定期的な収⼊の受領、定期的な⽀出を要する費⽤の⽀払に関する事項

5 ⽣活費の送⾦、⽣活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購⼊その

他の⽇常関連取引(契約の変更、解除を含む。)に関する事項

6 医療契約、⼊院契約、介護契約その他の福祉サービス利⽤契約、福祉関係施

設⼊退所契約に関する事項

7 要介護認定の申請及び認定に関する承認⼜は審査請求並びに福祉関係の措

置(施設⼊所措置を含む。)の申請及び決定に対する審査請求に関する事項

8 シルバー資⾦融資制度、⻑期⽣活⽀援資⾦貸付⾦制度等の福祉関係融資制

度の利⽤に関する事項

9 登記済権利証・登記識別情報、印鑑、印鑑登録カード、住⺠基本台帳カード、

個⼈番号(マイナンバー)カード・個⼈番号(マイナンバー)通知カード、預

貯⾦通帳、キャッシュカード、有価証券・その預り証、年⾦関係書類、健康保

険証、介護保険証、⼟地・建物賃貸契約書等の重要な契約書類その他重要書

類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使⽤に関する事項

出典:日本公証人連合会編著

    新版 証書の作成と文例-家事関係編〔改訂版〕第3刷

    123ページ「記載例Ⅱ」

10 居住⽤不動産の購⼊及び賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請

負契約に関する事項

11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書の請求に関する事項

12 遺産分割の協議、遺留分侵害額請求、相続放棄、限定承認に関する事項

13 配偶者、⼦の法定後⾒開始の審判の申⽴てに関する事項

14 新たな任意後⾒契約の締結に関する事項

15 以上の各事項に関する⾏政機関への申請、⾏政不服申⽴て、紛争の処理(弁

護⼠に対する⺠事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟⾏

為の委任、公正証書の作成嘱託を含む。)に関する事項

16 復代理⼈の選任、事務代⾏者の指定に関する事項

17 以上の各事項に関連する⼀切の事項

出典:日本公証人連合会編著

    新版 証書の作成と文例-家事関係編〔改訂版〕第3刷

    123ページ「記載例Ⅱ」

利益相反に関する裁判例

1 利益相反行為の判断基準(最判昭和42年4月18日)

民法八二六条にいう利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が子を代

理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該

代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでないと

した原判決の判断は正当であつて、これに反する所論は採用できない(昭和

三六年(オ)第一〇一三号同三七年二月二七日第三小法廷判決、最高裁判所

裁判集民事五八号一〇二三頁参照)。

2 利益相反行為に関する裁判例

遺産分割協議(最判昭和48年4月24日)-複数の子の親権者

民法八二六条所定の利益相反する行為にあたるか否かは、当該行為の外形

で決すべきであつて、親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とすべ

きではないので(最高裁昭和三四年(オ)第一一二八号同三七年一〇月二日

第三小法廷判決・民集一六巻一〇号二〇五九頁、同昭和四一年(オ)第七九

号同四二年四月二五日第三小法廷判決・裁判集民事八七号二五三頁参照。)、

親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすること

は、かりに親権者において数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がな

く、親権者の代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化されていな

かつたとしても、同条二項所定の利益相反する行為にあたるから、親権者が

共同相続人である数人の子を代理していた遺産分割の協議は、追認のないか

ぎり無効であると解すべきである。

遺産分割協議(東京高判昭和55年10月29日)-親権者と子

民法八二六条所定の利益相反行為に当たるか否かは、当該行為の客観的性

質で決すべきであって、親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とす

べきではない。したがって、共同相続人の一人である親権者が同じく共同相

続人である数人の未成年の子を代理して遺産分割の協議をすることは、仮に

親権者において数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がなく、親権者

の代理行為の結果数人の子の間及び親権者と数人の子の間のいずれにも利

害の対立が現実化されていなかったとしても、その行為の客観的性質上相続

人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為に当たるというべきであ

るから、右の場合には未成年者について各別に選任された特別代理人がその

各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するのであって、もし一人

の親権者が数人の未成年者の法定代理人として代理行為をしたときは、被代

理者全員につき民法八二六条に違反するものというべきであり、かかる代理

行為によって成立した遺産分割の協議は、被代理者全員による追認がないか

ぎり、無効であるといわなければならない。

相続放棄(最判昭和53年2月24日)

共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者を後見している

場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常

に利益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまずみずからの相続の放棄を

したのちに被後見人全員を代理してその相続の放棄をしたときはもとより、

後見人みずからの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放

棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、

後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反

行為になるとはいえないものと解するのが相当である。

借入と抵当権設定(最判昭和37年10月2日)

親権者が子の法定代理人として、子の名において金員を借受け、その債務

につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者

自身の用途に充当する意図であつても、かかる意図のあることのみでは、民

法八二六条所定の利益相反する行為とはいえないから、子に対して有効であ

り、これに反し、親権者自身が金員を借受けるに当り、右債務につき子の所

有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に右借受金を子の養育費に充当

する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、子

に対しては無効であると解すべきである。

親権者も子も連帯保証、抵当権設定(最判昭和43年10月8日)

(事案)

第三者の金銭債務について、親権者自ら連帯保証をするとともに、子を代

理して同一債務について連帯保証し、かつ、親権者と子の共有不動産につい

て抵当権を設定した。

(判旨)

債権者が抵当権の実行を選択するときは、本件不動産における子らの持分

の競売代金が弁済に充当される限度において親権者の責任が軽減され、その

意味で親権者が子らの不利益において利益を受け、また、債権者が親権者に

対する保証責任の追究を選択して、親権者から弁済を受けるときは、親権者

と子らとの間の求償関係および子の持分の上の抵当権について親権者によ

る代位の問題が生ずる等のことが、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自

体の外形からも当然予想されるとして、(親権者・子)の関係においてされ

た本件連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為が、民法八二六条にいう

利益相反行為に該当する。

後見人の内縁の夫に対する土地の無償譲渡(最判昭和45年5月22日)

当時上告人と訴外人とは内縁の夫婦であり、相互の利害関係は、特段の事

情のないかぎり、共通するものと解すべきであるから、被後見人である被上

告人に不利益な本件土地の右無償譲渡は、上告人と後見人である訴外人とに

共通する利益をもたらすものというべきであり、したがつて、右無償譲渡は、

旧民法九一五条四号にいう後見人と被後見人との利益相反行為にあたると

解するのが相当である。

信託法

(定義)第2条

7 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。

9 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。

(信託財産責任負担債務の範囲)

第21条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

三 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

(受託者の権限の範囲)

第26条 受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。

(受託者の注意義務)

第29条 受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない。

2 受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。

(忠実義務)

第30条 受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない。

(利益相反行為の制限)

第31条 受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

一 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

二 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

三 第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

四 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第2号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

二 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

三 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

四 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

3 受託者は、第1項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 第1項及び第2項の規定に違反して第1項第1号又は第2号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5 前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6 第4項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第1項第1号又は第2号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第2項の規定に違反して第1項第1号又は第2号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第27条第3項及び第4項の規定を準用する。

7 第1項及び第2項の規定に違反して第1項第3号又は第4号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第27条第3項及び第4項の規定を準用する。

第32条 受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。

2 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項に規定する行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることができる。ただし、第2号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一 信託行為に当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることを許容する旨の定めがあるとき。

二 受託者が当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることについて重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

3 受託者は、第1項に規定する行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算でした場合には、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 第1項及び第2項の規定に違反して受託者が第1項に規定する行為をした場合には、受益者は、当該行為は信託財産のためにされたものとみなすことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

5 前項の規定による権利は、当該行為の時から一年を経過したときは、消滅する。

(公平義務)

第33条 受益者が二人以上ある信託においては、受託者は、受益者のために公平にその職務を行わなければならない。

(信託事務の処理の状況についての報告義務)

第36条 委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。

(帳簿等の作成等、報告及び保存の義務)

第37条 受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

2 受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

3 受託者は、前項の書類又は電磁的記録を作成したときは、その内容について受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)に報告しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 受託者は、第1項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、その作成の日から10年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときは、その日までの間。次項において同じ。)、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはそのすべての受益者、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人。第6項ただし書において同じ。)に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。

5 受託者は、信託財産に属する財産の処分に係る契約書その他の信託事務の処理に関する書類又は電磁的記録を作成し、又は取得した場合には、その作成又は取得の日から10年間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

6 受託者は、第2項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、信託の清算の結了の日までの間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、その作成の日から十年間を経過した後において、受益者に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。

(帳簿等の閲覧等の請求)

第38条 受益者は、受託者に対し、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

一 前条第1項又は第5項の書類の閲覧又は謄写の請求

二 前条第1項又は第5項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

2 前項の請求があったときは、受託者は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。

一 当該請求を行う者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

二 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。

三 請求者が信託事務の処理を妨げ、又は受益者の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

四 請求者が当該信託に係る業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

五 請求者が前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。

六 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

3 前項(第1号及び第2号を除く。)の規定は、受益者が二人以上ある信託のすべての受益者から第1項の請求があったとき、又は受益者が一人である信託の当該受益者から同項の請求があったときは、適用しない。

4 信託行為において、次に掲げる情報以外の情報について、受益者が同意をしたときは第1項の規定による閲覧又は謄写の請求をすることができない旨の定めがある場合には、当該同意をした受益者(その承継人を含む。以下この条において同じ。)は、その同意を撤回することができない。

一 前条第2項の書類又は電磁的記録の作成に欠くことのできない情報その他の信託に関する重要な情報

二 当該受益者以外の者の利益を害するおそれのない情報

5 受託者は、前項の同意をした受益者から第1項の規定による閲覧又は謄写の請求があったときは、前項各号に掲げる情報に該当する部分を除き、これを拒むことができる。

6 利害関係人は、受託者に対し、次に掲げる請求をすることができる。

一 前条第2項の書類の閲覧又は謄写の請求

二 前条第2項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

(受託者の損失てん補責任等)

第40条 受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第2号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。

一 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補

二 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復

2 受託者が第28条の規定に違反して信託事務の処理を第三者に委託した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、前項の責任を免れることができない。

3 受託者が第30条、第31条第1項及び第2項又は第32条第1項及び第2項の規定に違反する行為をした場合には、受託者は、当該行為によって受託者又はその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定する。

4 受託者が第34条の規定に違反して信託財産に属する財産を管理した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、同条の規定に従い分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、第1項の責任を免れることができない。

(受益者による受託者の行為の差止め)

第44条 受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

2 受託者が第33条の規定に違反する行為をし、又はこれをするおそれがある場合において、当該行為によって一部の受益者に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

(信託行為の定めによる受益者の権利行使の制限の禁止)

第92条 受益者による次に掲げる権利の行使は、信託行為の定めにより制限することができない。

一 この法律の規定による裁判所に対する申立権

二 第5条第1項の規定による催告権

三 第23条第5項又は第6項の規定による異議を主張する権利

四 第24条第1項の規定による支払の請求権

五 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。)の規定による取消権

六 第31条第6項又は第7項の規定による取消権

七 第36条の規定による報告を求める権利

八 第38条第1項又は第6項の規定による閲覧又は謄写の請求権

九 第40条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

十 第41条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

十一 第44条の規定による差止めの請求権

十二 第45条第1項の規定による支払の請求権

十三 第59条第5項の規定による差止めの請求権

十四 第60条第3項又は第5項の規定による差止めの請求権

十五 第61条第1項の規定による支払の請求権

十六 第62条第2項の規定による催告権

十七 第99条第1項の規定による受益権を放棄する権利

十八 第103条第1項又は第2項の規定による受益権取得請求権

十九 第131条第2項の規定による催告権

二十 第138条第2項の規定による催告権

二十一 第187条第1項の規定による交付又は提供の請求権

二十二 第190条第2項の規定による閲覧又は謄写の請求権

二十三 第198条第2項の規定による記載又は記録の請求権

二十四 第226条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

二十五 第228条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

二十六 第254条第1項の規定による損失のてん補の請求権

(信託監督人の選任)

第131条 信託行為においては、受益者が現に存する場合に信託監督人となるべき者を指定する定めを設けることができる。

2 信託行為に信託監督人となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、信託監督人となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。

3 前項の規定による催告があった場合において、信託監督人となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては、受託者)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなす。

4 受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において、信託行為に信託監督人に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより信託監督人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託監督人を選任することができる。

5 前項の規定による信託監督人の選任の裁判があったときは、当該信託監督人について信託行為に第1項の定めが設けられたものとみなす。

6 第4項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。

7 第4項の規定による信託監督人の選任の裁判に対しては、委託者、受託者若しくは受益者又は既に存する信託監督人に限り、即時抗告をすることができる。

8 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。

(信託監督人の権限)

第132条 信託監督人は、受益者のために自己の名をもって第92条各号(第17号、第18号、第21号及び第23号を除く。)に掲げる権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

2 二人以上の信託監督人があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

(信託監督人の義務)

第133条 信託監督人は、善良な管理者の注意をもって、前条第1項の権限を行使しなければならない。

2 信託監督人は、受益者のために、誠実かつ公平に前条第1項の権限を行使しなければならない。

(受益者代理人の選任)

第138条 信託行為においては、その代理する受益者を定めて、受益者代理人となるべき者を指定する定めを設けることができる。

2 信託行為に受益者代理人となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、受益者代理人となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。

3 前項の規定による催告があった場合において、受益者代理人となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては、受託者)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなす。

(受益者代理人の権限等)

第139条 受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利(第42条の規定による責任の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

2 受益者代理人がその代理する受益者のために裁判上又は裁判外の行為をするときは、その代理する受益者の範囲を示せば足りる。

3 一人の受益者につき二人以上の受益者代理人があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 受益者代理人があるときは、当該受益者代理人に代理される受益者は、第92条各号に掲げる権利及び信託行為において定めた権利を除き、その権利を行使することができない。

(受益者代理人の義務)

第140条 受益者代理人は、善良な管理者の注意をもって、前条第1項の権限を行使しなければならない。

2 受益者代理人は、その代理する受益者のために、誠実かつ公平に前条第1項の権限を行使しなければならない。

(委託者の権利等)

第145条 信託行為においては、委託者がこの法律の規定によるその権利の全部又は一部を有しない旨を定めることができる。

2 信託行為においては、委託者も次に掲げる権利の全部又は一部を有する旨を定めることができる。

一 第23条第5項又は第6項の規定による異議を主張する権利

二 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合

を含む。)の規定による取消権

三 第31条第6項又は第7項の規定による取消権

四 第32条第4項の規定による権利

五 第38条第1項の規定による閲覧又は謄写の請求権

六 第39条第1項の規定による開示の請求権

七 第40条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

八 第41条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

九 第44条の規定による差止めの請求権

十 第46条第1項の規定による検査役の選任の申立権

十一 第59条第5項の規定による差止めの請求権

十二 第60条第3項又は第5項の規定による差止めの請求権

十三 第226条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十四 第228条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十五 第254条第1項の規定による損失のてん補の請求権

3 前項第1号、第7号から第9号まで又は第11号から第15号までに掲げる権利について同項の信託行為の定めがされた場合における第24条、第45条(第226条第6項、第228条第6項及び第254条第3項において準用する場合を含む。)又は第61条の規定の適用については、これらの規定中「受益者」とあるのは、「委託者又は受益者」とする。

4 信託行為においては、受託者が次に掲げる義務を負う旨を定めることができる。

一 この法律の規定により受託者が受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人。次号において同じ。)に対し通知すべき事項を委託者に対しても通知する義務

二 この法律の規定により受託者が受益者に対し報告すべき事項を委託者に対しても報告する義務

三 第77条第1項又は第184条第1項の規定により受託者がする計算の承認を委託者に対しても求める義務

5 委託者が二人以上ある信託における第1項、第2項及び前項の規定の適用については、これらの規定中「委託者」とあるのは、「委託者の全部又は一部」とする。

(関係当事者の合意等)

第149条 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定めるものによりすることができる。この場合において、受託者は、第1号に掲げるときは委託者に対し、第2号に掲げるときは委託者及び受益者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。

一 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 受託者及び受益者の合意

二 信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき

受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示

3 前2項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定

める者による受託者に対する意思表示によってすることができる。この場合において、第2号に掲げるときは、受託者は、委託者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。

一 受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 委託者及び受益者

二 信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らかであるとき

受益者

4 前3項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

5 委託者が現に存しない場合においては、第1項及び第3項第1号の規定は適用せず、第2項中「第1号に掲げるときは委託者に対し、第2号に掲げるときは委託者及び受益者に対し」とあるのは、「第2号に掲げるときは、受益者に対し」とする。

(信託の終了事由)

第163条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。

一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。

二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。

三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。

四 受託者が第52条(第53条第2項及び第54条第4項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。

五 信託の併合がされたとき。

六 第165条又は第166条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。

七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。

八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第53条第1項、民事再生法第49条第1項又は会社更生法第61条第1項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第41条第1項及び第206条第1項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。

九 信託行為において定めた事由が生じたとき。

(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)

第164条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。

2 委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

3 前2項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 委託者が現に存しない場合には、第1項及び第2項の規定は、適用しない。

民 法

(後見開始の審判)

第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

(利益相反行為)

第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

(成年後見人の選任)

第843条

4 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

(後見監督人の職務)

第851条 後見監督人の職務は、次のとおりとする。

一 後見人の事務を監督すること。

二 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。

三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。

四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。

(委任及び後見人の規定の準用)

第852条 第644条、第654条、第655条、第844条、第846条、第847条、第861条第2項及び第862条の規定は後見監督人について、第840条第3項及び第857条の2の規定は未成年後見監督人について、第843条第4項、第859条の2及び第859条の3の規定は成年後見監督人について準用する。

(利益相反行為)

第860条 第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。

(後見の事務の監督)

第863条 後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。

2 家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。

(後見監督人の同意を要する行為)

第864条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第1号に掲げる元本の領収については、この限りでない。

第865条 後見人が、前条の規定に違反してし又は同意を与えた行為は、被後見人又は後見人が取り消すことができる。この場合においては、第20条の規定を準用する。

2 前項の規定は、第121条から第126条までの規定の適用を妨げない。

任意後見契約に関する法律

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。

一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。

二 本人 任意後見契約の委任者をいう。

三 任意後見受任者 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。

四 任意後見人 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。

(任意後見契約の方式)

第3条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

(任意後見監督人の選任)

第4条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一 本人が未成年者であるとき。

二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。

三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。

イ 民法(明治29年法律第89号)第847条各号(第4号を除く。)に掲げる者

ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族

ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。

3 第1項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。

4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。

5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。

(任意後見監督人の職務等)

第7条 任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。

一 任意後見人の事務を監督すること。

二 任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。

三 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。

四 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

2 任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。

4 民法第644条、第654条、第655条、第843条第4項、第844条、第846条、第847条、第859条の2、第861条第2項及び第862条の規定は、任意後見監督人について準用する。

(任意後見人の解任)

第8条 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。

(後見、保佐及び補助との関係)

第10条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。

3 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

民事信託及び任意後見に関する実態アンケートの最終集計結果

〇 2022年(令和4年)5月31日時点 回答総数320件

第1 民事信託についてお聞きします。

問1 直近10年間で,民事信託に関する相談を受けたことはありますか。当てはまる番号1つを回答してください。

ある 130 件(40.6%)  ない 190 件(59.4%)

問2 民事信託に関する相談を受けた際の相談者の属性は,以下のどれに当てはまりますか。件数を御回答ください。(任意後見と同時に相談を受けた場合は,問2と問21でそれぞれ1件とカウントしてください。)。相談が0件の場合は,「0」と回答してください。

 委託者となる本人のみ 84 件(16.3%)

 委託者となる本人とその家族 259 件(50.1%)

 委託者の家族のみ 118 件(22.8%)

 委託者となる本人とその家族以外の第三者 20 件(3.9%)

 委託者の家族とその家族以外の第三者 36 件(7.0%)

問3 直近10年間で,民事信託の契約書,遺言(遺言による信託),信託宣言(信託契約書等)(以下,合わせて「信託契約書等」といいます。)の作成業務を受任したことはありますか。

 ある 45 件(34.9%)  ない 84 件(65.1%)

問4 直近10年間に,信託契約書等を何件作成しましたか。

287 件

(内訳)

0 – 9 件 43 人

10 – 19 件 2 人

20 – 29 件 2 人

30 – 39 件 1 人

40 – 49 件 0 人

50 – 59 件 0 人

60 件以上 1 人

66 / 83

問5 直近10年間で,作成された信託契約書等の委託者の年齢層は以下のどれに当てはまりますか。それぞれについて,件数を御回答ください。0件の場合は,0と回答してください。

 40歳未満 6 件(1.9%)

 40歳以上50歳未満 8 件(2.6%)

 50歳以上60歳未満 9 件(2.9%)

 60歳以上70歳未満 34 件(10.9%)

 70歳以上80歳未満 126 件(40.3%)

 80歳以上 130 件(41.5%)

問6 直近10年間で,受任した案件において設定された民事信託の受託者となったのは,以下のどれに当てはまりますか。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 家族 421 件(97.5%)

 一般社団法人 6 件(1.4%)

 株式会社等 1 件(0.2%)

 信託銀行・信託会社 2 件(0.5%)

 その他 ( ) 2 件(0.5%)

・会社代表者(1 件)

・友人等(1 件)

問7 直近10年間で,受任した案件において民事信託を設定した理由(動機)は何だったでしょうか。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 高齢者の財産管理への不安 254 件(46.4%)

 資産活用 24 件(4.4%)

 財産承継 204 件(37.2%)

 法定後見のデメリットを回避するため 59 件(10.8%)

 その他 ( ) 7 件(1.3%)

・「親亡き後」の問題への対応(4 件)

・事業承継(1 件)

問8 直近10年間で,受任した案件において設定された民事信託の信託財産の対象財産の経済的規模はどの程度だったでしょうか。当てはまる全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 3000万円未満 79 件(27.3%)

 3000万円以上1億円未満 113 件(39.1%)

1億円以上3億円未満 78 件(27.0%)

 3億円以上 19 件(6.6%)

 分からない 0 件(0.0%)

問9 直近10年間で,受任した案件において設定された民事信託の信託財産の種類はどのようなものだったでしょうか。当てはまる全てについて,件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の選択肢に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 金銭 257 件(44.2%)

居住用不動産 123 件(21.1%)

 収益用不動産 139 件(23.9%)

 上場株式 5 件(0.9%)

 非上場株式 58 件(10.0%)

問10 直近10年間で,受任した民事信託案件において信託監督人を選任したことがある場合,誰を選任しましたか。①~⑤のうち当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 弁護士 23 件(42.6%)

 税理士 4 件(7.4%)

 司法書士 0 件(0.0%)

 家族 27 件(50.0%)

 その他( ) 0 件(0.0%)

問11 直近10年間で,受任した民事信託案件において受益者代理人を選任したことがある場合,誰を選任しましたか。①~⑤のうち当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 弁護士 1 件(7.1%)

 税理士 0 件(0.0%)

 司法書士 0 件(0.0%)

 家族 13 件(92.9%)

 その他( ) 0 件(0.0%)

問12 直近10年間で,受任した民事信託案件において信託監督人又は受益者代理人を選任したことがある場合,選任した主な理由(動機)は何だったでしょうか。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 受益者が高齢者・障害者であるため 45 件(79.0%)

 受託者が受益者の任意後見人を兼ねているため 3 件(5.3%)

 公証役場・金融機関等からの要望があったため 4 件(7.0%)

 その他( )5 件(8.8%)

・委託者に助言できる人が欲しかったため

・受託者が受益者の成年後見人に選任される可能性があるため

・不動産を処分するにあたり、委託者兼受益者の意向を第三者が確認するのが適切であったため

問13 直近10年間で,受任した民事信託案件において信託監督人を選任したことがある場合,信託監督人にかかる報酬の定め方について,当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。なお,選択肢はいずれも消費税抜き価格で月額報酬制,タイムチャージ制の報酬の定めとなります。

 月額0円~5000円 27 件(57.5%)

 月額5001円~1万円 0 件(0.0%)

 月額1万0001円~2万円 5 件(10.6%)

 月額2万0001円~3万円 3 件(6.4%)

 月額3万0001円~5万円 1 件(2.1%)

 月額5万0001円以上 0 件(0.0%)

 1時間あたり0円~5000円 0 件(0.0%)

 1時間あたり5001円~1万円 9 件(19.2%)

 1時間あたり1万0001円~2万円 1 件(2.1%)

 1時間あたり2万0001円~3万円 1 件(2.1%)

 1時間あたり3万0001円~5万円 0 件(0.0%)

 1時間あたり5万0001円以上 0 件(0.0%)

問14 直近10年間で,受任した民事信託案件において受益者代理人を選任したことがある場合,受益者代理人にかかる報酬の定め方について,当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。なお,選択肢はいずれも消費税抜き価格で,①~⑥は月額報酬制,⑦~⑫はタイムチャージ制の報酬の定めとなります。

 月額0円~5000円 3 件(75.0%)

 月額5001円~1万円 0 件(0.0%)

 月額1万0001円~2万円 0 件(0.0%)

 月額2万0001円~3万円 1 件(25.0%)

 月額3万0001円~5万円 0 件(0.0%)

 月額5万0001円以上 0 件(0.0%)

 1時間あたり0円~5000円 0 件(0.0%)

 1時間あたり5001円~1万円 0 件(0.0%)

 1時間あたり1万0001円~2万円 0 件(0.0%)

 1時間あたり2万0001円~3万円 0 件(0.0%)

 1時間あたり3万0001円~5万円 0 件(0.0%)

 1時間あたり5万0001円以上 0 件(0.0%)

問15 直近10年間で,作成された信託契約書等は公正証書にしましたか。それぞれについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 公正証書にした信託契約書等 199 件(73.2%)

 公証証書にしなかった信託契約書等 73 件(26.8%)

 公正証書にしたか不明な信託契約書等 0 件(0.0%)

問16 直近10年間で,信託口口座の開設等,金融機関の対応で苦労したことはありますか。当てはまる番号1つを回答してください。

 ある 9 件 (20.0%)② ない 36 件(80.0%)

問17 問16で「① ある」と回答した方にお聞きします。

金融機関の対応等で苦労した理由にはどのようなことがありますか。当てはまるもの全てついて,それぞれ件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,0と回答してください。

 信託口口座の開設ができない 8 件(34.8%)

 信託契約書の文言の修正を求められた 1 件(4.4%)

 特定の弁護士が作成した信託契約書しか取り扱わない 1 件(4.4%)

 金融機関の理解が不足していた 12 件(52.2%)

 その他( ) 1 件(4.4%)

・信託口口座の開設はできないと考えて代理人口座を開設した

問18 直近10年間で,民事信託に関する紛争・裁判案件を扱ったことはありますか。

当てはまる番号1つを回答してください。

 ある 12 件(9.5%) ② ない 114 件(90.5%)

問19 問18で「① ある」と回答した方にお聞きします。

紛争等の内容はどのようなものですか。当てはまるもの全てについて,それぞれ件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 委託者の判断能力 5 件(26.3%)

 信託の変更 1 件(5.3%)

 信託の終了 4 件(21.1%)

 受益権の行使 1 件(5.3%)

受託者の解任 3 件(15.8%)

 受託者・信託監督人の選任 1 件(5.3%)

 課税上の問題 0 件(0.0%)

 その他( ) 4 件(21.1%)

・遺留分侵害額請求

・遺留分潜脱目的

・受託者から、委託者と同居する親族に対する不動産の明渡請求

・非士業者による信託契約書の作成

第2 任意後見についてお聞きします。

問20 直近10年間で,任意後見に関する相談を受けたことはありますか。当てはまる番号1つを回答してください。

 ある 194 件(60.6%)  ない 126 件(39.4%)

問21 直近10年間で,任意後見に関する相談を受けた際の相談者の属性は,以下のどれに当てはまりますか。それぞれについて,件数を御回答ください。(民事信託と同時に相談を受けた場合は,問2と問21でそれぞれ1件とカウントしてください。)。相談が0件の場合は,「0」と回答してください。

 委任者となる本人のみ 206 件(39.3%)

 委任者となる本人とその家族 166 件(31.7%)

 委任者の家族のみ 78 件(14.9%)

 委任者となる本人とその家族以外の第三者 53 件(10.1%)

 委託者の家族とその家族以外の第三者 21 件(4.0%)

問22 直近10年間で,任意後見契約書の作成業務を受任したことはありますか。

 ある 99 件(52.4%)② ない 90 件(47.6%)

問23 直近10年間に,任意後見契約書を何件作成しましたか。

225 件

(内訳)

0 – 9 件 105 人

10 – 19 件 1 人

20 – 29 件 0 人

30 – 39 件 0 人

40 – 49 件 0 人

50 – 59 件 0 人

60 件以上 0 人

問24 問23の件数のうち,民事信託と任意後見を併用したのは何件ですか。0件の場合は,「0」と回答してください。

19 件

(内訳)

1 件 4 人

2 件 4 人

3 件以上 2 人

問25 直近10年間で,作成された任意後見契約書の委任者の年齢層は以下のどれに当てはまりますか。それぞれについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 40歳未満 0 件(0.0%)

 40歳以上50歳未満 3 件(1.3%)

50歳以上60歳未満 7 件(3.1%)

 60歳以上70歳未満 43 件(19.0%)

 70歳以上80歳未満 96 件(42.5%)

 80歳以上 77 件(34.1%)

問26 直近10年間で,受任した案件において設定された任意後見受任者となったのは,以下のどれに当てはまりますか。①~⑤のうち当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 家族 83 件(39.0%)

 友人 5 件(2.4%)

 弁護士 112 件(52.6%)

 NPO法人・社会福祉法人 1 件(0.5%)

 その他 ( )12 件(5.6%)

・交際相手(1 件)

・内縁の夫婦(1 件)

・家族以外の親族(3 件)

・血縁関係にないが親子同然に生活してきた者(1 件)

・弁護士法人(1 件)

問27 直近10年間で,受任した案件において任意後見を設定した理由(動機)は何だったでしょうか。当てはまる全てについて,件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合はそれぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 高齢者の財産管理への不安 178 件(48.6%)

身上保護の必要性 86 件(23.5%)

 法定後見のデメリットを回避するため 87 件(23.8%)

 その他 ( )15 件(4.1%)

・信頼できる親族・身寄りがいない(5 件)

・特定の受任者を指定したい(2 件)

・親族間の紛争が生じている(2 件)

・交際相手に財産管理・身の回りのことを行ってもらうため(1 件)

問28 直近10年間で,受任した案件において設定された任意後見の対象財産の経済的規模はどの程度だったでしょうか。①~⑤のうち当てはまる全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 3000万円未満 50 件(22.7%)

 3000万円以上1億円未満 121 件(55.0%)

 1億円以上3億円未満 37 件(16.8%)

 3億円以上 9 件(4.1%)

 分からない 3 件(1.4%)

第3 民事信託と任意後見についてお聞きします。

問29 直近10年間で,受任した案件において民事信託と任意後見を併用したことがありますか。ある場合,受託者と任意後見受任者との関係は,以下のどれに当てはまりますか。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。0件の場合は,「0」と回答してください。なお,併用したことがない場合は,問32へ進んでください。

 受託者と任意後見受任者は別人である 15 件(68.2%)

 受託者と任意後見受任者は同一人である 7 件(31.8%)

問30 問29で「 受託者と任意後見受任者は別人である」と回答した方にお聞きします。対応した案件のうち,受託者と任意後見受任者の組合せで,最も多い組合せ(問30-1及び問30-2の中から1つずつ)を回答してください。

問30-1 受託者の属性は,以下のどれに当てはまりますか。当てはまる番号1つを回答してください。

 家族 7件(100.0%)

一般社団法人 0 件(0.0%)

 株式会社等 0 件(0.0%)

 信託会社 0 件(0.0%)

 信託銀行 0 件(0.0%)

 その他( ) 0 件(0.0%)

問30-2 任意後見受任者の属性は,以下のどれに当てはまりますか。当てはまる番号1つを回答してください。

 受託者とは別の家族 7 件(63.6%)

 友人 0件(0.0%)

弁護士 4件(36.4%)

 NPO法人 0 件(0.0%)

 社会福祉法人 0 件(0.0%)

 その他( ) 0 件(0.0%)

問31 直近10年間で,民事信託と任意後見を受任した案件において,民事信託と任意後見を併用した場合,その理由は何だったでしょうか。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 信託財産以外に第三者による管理が必要な財産がある 15 件(46.9%)

 身上保護が必要である 10 件(31.3%)

 法定後見のデメリットを回避するため 7 件(21.9%)

 その他 ( ) 0 件(0.0%)

問32 直近10年間で,民事信託と任意後見を併用しなかった場合,その理由は何だったでしょうか。当てはまるもの全てについて,件数を御回答ください。受任した1つの案件で,複数の理由に該当する場合は,それぞれ1件とカウントしてください。0件の場合は,「0」と回答してください。

 費用がかかる 13 件(3.2%)

 適切な受託者が見つからなかった 23 件(5.6%)

 併用する必要がなかった 170 件(41.7%)

 併用を考えたことがなかった 50 件(12.3%)

 その他 ( ) 4 件(1.0%)

・依頼者に理解させるのが難しそうだった(1件)

・相談や依頼がない(2件)

 民事信託・任意後見ともに受任していない 148 件(36.3%)

問33 民事信託・任意後見に業務として取り組む場合に,障害と思われることがあれば教えてください(自由記載)。

・弁護士の理解不足、経験不足(25 件)

・適切な受託者の確保、信託業法の規制(19 件)

・民事信託・任意後見にふさわしい事案がない(10 件)

・民事信託・任意後見が知られていない、分かりにくい(10 件)

・民事信託の見通しが立てづらい、リスクがある(6 件)

・信託登記、任意後見監督人等の費用負担が大きい(4 件)

・任意後見人は事務所住所・職務上氏名での登記ができない(4 件)

・弁護士の業務と理解されていない、他士業・他団体の進出(3 件)

・金融機関等の協力が得られない(3 件)

・本人の制度利用への不安(3 件)

・信託税制に対する理解不足、課税上の課題等(2 件)

・その他

問34 民事信託の実務に関し,これまで研鑽のために取り組んだことはありますか。当てはまるもの全てについて御回答ください。

日弁連のライブ実務研修,e-ラーニングの受講 147 件

 日弁連の弁護士業務改革シンポジウム,勉強会,講演会などの企画への参加 81 件

 弁護士会の研修の受講 147 件

 弁護士会の勉強会,講演会などの企画への参加 124 件

 その他( ) 41 件

・書籍、DVDなど(21 件)

・金融機関、他士業、他団体のセミナー・勉強会(14 件)

・委員会内、事務所内、弁護士有志の勉強会(7 件)

・関連委員会・PTへの所属(3 件)

 特に研鑽の機会を持ってない 70 件

問35 民事信託の実務に関し,研鑽のためのこれまでの取組で有益だったものはありますか(自由記載)。

・日弁連・日弁連委員の研修・勉強会等(21 件)

・弁護士会の研修・勉強会等(15 件)

・書籍・雑誌(8 件)

・実務経験に基づく講義・ケーススタディ(5 件)

・金融機関主催のセミナー(3 件)

・研修(3 件)

・すべて(2 件)

問36 任意後見の実務に関し,これまで研鑽のために取り組んだことはありますか。当てはまるもの全てについて御回答ください。

日弁連のライブ実務研修,e-ラーニングの受講 94 件

 日弁連の弁護士業務改革シンポジウム,勉強会,講演会などの企画への参加 38 件

 弁護士会の研修の受講 123 件

 弁護士会の勉強会,講演会などの企画への参加 68 件

 その他( ) 25 件

・書籍、DVDなど(21 件)

・弁護士会以外の研修会(4 件)

 特に研鑽の機会を持ってない 116 件

問37 任意後見の実務に関し,研鑽のためのこれまでの取組で有益だったものはありますか(自由記載)。

・日弁連・日弁連委員の研修・勉強会等(4 件)

・弁護士会の研修・勉強会等(7 件)

・書籍・雑誌(3 件)

・実務経験を積む(3 件)

・研修(2 件)

問38 民事信託・任意後見を弁護士業務の一つとするために,日弁連に要望することがあれば教えてください(自由記載)。

・会員(弁護士)に対する研修、ガイドライン・契約書式・事例等の提供(21 件)

・弁護士こそが民事信託・任意後見を扱うに相応しいこと等の広報活動(17 件)

・受託者規制に関する信託業法の改正(7 件)

・金融機関・関係団体等との連携(6 件)

・事務所住所・職務上氏名での任意後見登記(4 件)

・市民向け相談窓口・名簿の整備(3 件)

・任意後見の研究(2 件)

・不祥事対策(2 件)

・単位会へのバックアップ(2 件)

・実務経験を積むためのバックアップ(2 件)

以上

愛知県弁護士会シンポジウム報告書

「思いを託す~任意後見・民事信託の活用~」

2022年7月28日(木)参加人数約180人

第4 内容

講演 「思いを託す~任意後見の活用~」

講演者:種谷 有希子 会員(日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員)

(報告内容)⑴ 概説

任意後見制度の活用について、法定後見制度、死後事務委任契約、見守り契約、遺言との対比から説明を行った。

⑵ おひとりさま世帯の増加

昭和61年では、親と未婚の子のみの世帯及び三世代世帯が、全体の半数を超えていた。しかし、令和元年では、単身世帯及び夫婦のみの世帯が全体の半数を超え、「おひとりさま」世帯が現実のものとなっている。その中で、老後について、対策を取らなかった事例と対策を取ることができた事例を紹介した。対策を取らなかった事例としては、高齢者が詐欺被害に遭い、成年後見人が介入した段階では奪われた財産の回復が不可能であったという事例があり、対策を取った事例としては、余命1年の依頼者が、自分の希望を伝えた上で、その希望を反映した財産管理契約、任意後見契約、死後事務委任契約を締結して、遺言を作成し、自分の希望した終末期を迎えることができたという事例を紹介した。

⑶ ホームロイヤーの活用

ホームロイヤーの活用として、判断能力が十分なうちに、①見守り契約、②任意後見契約、③死後事務委任契約、④遺言を準備し、能力に問題がない時期には、見守り契約(①)、判断能力が低下したときは、任意後見契約の効力を生じさせ(②)、死亡の際には死後事務委任契約(③)と遺言(④)によって処理をしていくことを提案した。

⑷ 任意後見契約の利点

隣接制度である、法定後見制度と比較を行い、任意後見契約では、本人が十分な判断能力があるうちに、自分の希望を伝え、自分が信頼する人を後見人に選ぶことができるとの説明があった。

講演「思いを託す~人生の最終章を豊かに~」講演者:川名 紀美 氏(元朝日新聞社論説委員)

(報告内容)

⑴ 講演者の実体験

講演者は、もともと新聞記者として少子高齢化社会について、取材をしていた。自分の実経験として、高齢(90歳)を迎えた父が、付き合いのある保険会社から保険加入を不当に勧められて高額な保険料を支払ってしまったことや、叔母が、証券会社から投資信託の購入を勧められて購入してしまったことなどの経験があり、詐欺や悪徳商法でなくとも一人では適切な判断が出来なくなることを知って老後の問題について考えるようになった。講演者の子は、海外で暮らしており、現在は、おひとりさまに近い状態である。現在は問題ないとしても、今後、判断能力が衰えたときに、自分の生き方を尊重して自分を支えることができる専門家の必要性を考えるようになる。また、その後、父の死後に自宅の処分をしたり、叔母の死後に行政手続や各種の契約の解約などを行ったりしたことで、死後事務の煩雑さも知ることとなった。自分の死後に、これらの手続を海外で暮らす子に全て任せることは大きな負担となるため、死後事務委任契約を検討することとなった。

⑵ 人との交流

講演者は、人との関わり合いが重要だと考えている。平成20年から、仕事を持って働いてきたシングルの女性4人が同じマンションの1室をそれぞれ購入して住むようになり、相互に交流しながら生活を送っている。また、地域に根を下ろし、人との関わり合いの輪を外へ広げるため、「土曜サロン」を開催し、月1回、同じマンションの1室を利用して、ゲストを招いて、音楽会や後見制度の講習会などのイベントを開催している。ところで、上記の女性4人中3人は、同じ専門家に依頼をし、それぞれ任意後見契約、死後事務委任契約、遺言を作成している。うち1人について、令和2年にアルツハイマー型認知症と診断され、令和3年に任意後見を開始することとなった。このような知人に対する些細な変化は、近くで交流しながら一緒に暮らしているからこそ気付くことができた。

⑶ 孤独対策

近年、孤独対策は、大きな社会問題となっている。平成30年、イギリスでは、「孤独担当大臣」が任命され、昨年、日本でも「孤独・孤立対策担当大臣」が誕生し、孤独・孤立問題に取り組むNPOなどを支援する体制が構築され始めている。

講演 「思いを託す~民事信託の活用~」講演者:西片 和代 会員(日弁連信託センター副センター長)

(報告内容)

⑴ 民事信託の特徴

民事信託は、委託者(財産の所有者)の財産(預金や不動産)の名義を、受託者に移転して行う。民事信託は、財産を管理するという面で見ると後見制度と似ていて、誰かに財産を渡すという面から見ると遺言や遺贈と似ている。信託には、委託者と受益者が同一である「自益信託」と、委託者と受益者が異なる「他益信託」があり、自益信託では、贈与税(委託者から受託者への財産の移転の場面)は発生しない。

⑵ 信託の利用場面

信託の利用場面としては、不動産の売却の場面(将来、判断能力が低下して不動産を売却できなくなることを防ぐ)や、不動産の管理の場面(収益不動産の管理が煩わしいため、次世代に管理を任せたい)がある。

⑶ 他の制度との比較

後見と比較した民事信託の効用としては、財産の名義が受託者に移転するため、委託者が財産を詐取されることはない(守り)、また、受託者が委託者に代わって投資・運用できる(攻め)というものがある。また、信託では、委託者が死亡したあとも、財産の帰属先を指定し、数世代にわたって、財産を承継させることもできる。民事信託は、委任契約、後見制度、遺言と合わせて活用することができ、さらに、その先に発生する数次相続についてもカバーすることができる。

⑷ これからの民事信託

このような民事信託ではあるが、まだ発展途上の分野であり、税務面の検討も欠かせない。弁護士などの専門家と相談し、任意後見契約、死後事務委任契約などと組み合わせながら最適な選択をすべきである。

4 パネルディスカッション 「思いを託す~任意後見・民事信託の活用~」

パネリスト:種谷 有希子 会員(日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員)

川名 紀美 氏(元朝日新聞社論説委員)

西片 和代 会員(日弁連信託センター副センター長)

コーディネーター:杉山 苑子 会員(高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員)

(報告内容)

⑴ なぜ今任意後見・民事信託なのか

任意後見の件数が増加している。おひとりさまが増え、子がいない世帯、子がいても頼れない世帯があり、老後の財産管理について不安に感じている人が多いことに起因すると思われる。民事信託については、平成19年9月に新信託法が施行され、それに先立つ信託業法改正と相まって信託銀行以外も信託の担い手になることができるようになり、また信託の自由度が高まった。超高齢者社会における信託活用への期待の高まりとともに、家族内での「民事信託」が身近な方法として注目されるようになった。

⑵任意後見

ア 法定後見制度と任意後見契約の比較

任意後見契約では、自ら後見人を選択することができる、つまり、自分の終末期の希望を直接伝えることができるという特徴がある。また、任意後見では依頼したい事項を選択できるが、法定後見では類型にもよるがそこまでの自由度はないという違いがある。一方、任意後見契約では、任意後見監督人が必ず選任される。また、任意後見人には、取消権がないので、取消権を行使する必要がある場合であれば、法定後見制度が適する場面もある。

イ 任意後見契約の流れ

任意後見契約は、裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が発生する、任意後見受任者が申立てをすることが多い。ここで、任意後見受任者と本人との交流が途絶えてしまうと、本人の状態を判断することができず、申立の時期を逸してしまう。

ウ 見守り契約の併用

任意後見受任者が本人の状態を適宜判断するために、見守り契約との併用が考えられる。任意後見受任者が、本人に、月1回面会をするなどの見守りを行う。

エ 費用

任意後見契約作成費用、任意後見人の報酬、任意後見監督人の報酬など。本人の身の回りの世話をする親族がいない場合には、任意後見契約が有効である。本人の判断能力が衰えた場合、後見人が施設と入所契約をすることもできる。

カ 川名氏の事例から見えること

法定後見制度の場合は、本人の判断能力が衰えてから後見人を選ぶことになるので自分の希望を伝えることができないが、任意後見契約の場合は、自分で任意後見人を選ぶことができ、自分の希望を伝えることができる。

キ 川名氏のご友人の事例から見えること

本人は、弁護士と見守り契約を締結していて、月1回、本人が、決まった日時に事務所に電話をするか事務所を訪問することになっていた。しかし、本人が電話をしないという事態が発生したり迷って事務所に来られないというようなことが発生して、本人の判断の能力の低下を確知された。任意後見契約の効力を発生させるためには、本人の同意が必要であるが、本人に説明するにあたっては、友人である川名氏の存在が大きかった。

ク 任意後見と親亡き後問題

障害がある子の面倒を誰が見るかという「親亡き後」の問題がある。この場合、親が弁護士と任意後見契約をして、代理権目録に子の法定後見の申立権を加えることで、将来、親の後見人が子の法定後見を申し立てるケースもありうるところであるが、ここまで備えをしているケースは非常に少ないだろう。

ケ まとめ

将来の不安がある場合には、任意後見契約、死後事務委任契約、遺言の作成をすること、そして、任意後見契約が開始するまでの間、任意後見受任者と本人が良好な関係を保つことが重要である。

⑶ 信託

ア 後見との比較

民事信託が後見と大きく違うのは、民事信託は、本人に十分な判断能力があるうちにスタートするということである。判断能力が低下した後に、民事信託か後見かを選択するというのは間違いで、判断能力が無くなる前に備えておく必要がある。

また、民事信託の場合、委託者が受託者に託す財産を選ぶことができる。さらに、後見の場合は、本人が死亡すれば終了するが、民事信託の場合は、委託者が死亡した後も続けることができる。

イ 民事信託が適するケース

自宅売却を目的とした信託で、自宅を信託し、預貯金は委託者が引き続き管理をするという例がある。他には、アパートを経営してきた高齢者が、子に信託をする例がある。アパートの経営は、入居者の交代や修繕工事などの対応など煩雑な手続があるためである。アパートの賃料は、高齢者の収入となる。

ウ 弁護士が受託者になれるか

信託業法の規制から、現時点では、弁護士が受託者になることはできない。今後の議論が待たれる。

エ 費用

組成時のイニシャルコストと、組成後のランニングコストを検討することが重要。

⑷ まとめ

ア 川名氏

自分で各制度の内容を理解して、自分で選ぶことが大切である。

イ 種谷会員

信託は弁護士でも難しい制度である。家族の方や支援者は、後見や信託について細かい内容を知る必要がないが、今日のシンポを通じて簡単な仕組みをご理解いただき、本人のために後見や信託が使えるのではと思った時にはぜひ弁護士に相談をしていただきたいと思う。

ウ 西片会員

制度は利用する人のためにあり、法律も変わっていく。法律家が制度を押し付けることはなく、利用者が役立つ制度を使うようにするのが良い。

以上

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