https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00307.html
共有私道の保存・管理等に関する事例研究会第3回
2 配付資料
資料1-(1) 共有私道ガイドライン改訂案(総論部分)
資料1-(2) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ1~10)
資料1-(3) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ11~27)
資料1-(4) 共有私道ガイドライン改訂案(ケーススタディ28以降)
資料1-(5) 共有私道ガイドライン改訂案(ライフライン追加事例)
(第2版)
令和4年●月
共有私道の保存・管理等に関する事例研究会
初版
はじめに
近年、所有者を特定したり、その所在を把握したりすることが困難な、いわゆる所有者不明土地への対応は、公共事業の用地取得や、農地の集約化、森林の適正な管理を始め、様々な分野で問題となっている。
市街地においてしばしば見られる、複数の者が共有する私道(共有私道)についても、補修工事等を行う場合に、民法の共有物の保存・管理等の解釈が必ずしも明確ではないため、事実上、共有者全員の同意を得る運用がされており、その結果、共有者の所在を把握することが困難な事案において、必要な補修工事等の実施に支障が生じているとの指摘がされている。
「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月9日閣議決定)等においても、所有者を特定することが困難な土地の適切な利用や管理が図られるよう、共有地の管理に係る同意要件の明確化等について、関係省庁が一体となって検討を行うこととされたところである。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/decision0609.html
本研究会は、こうした動きを踏まえ、平成29年8月から、複数の者が共有する私道の工事の同意の取付け等に関して、共有者の所在が不明であるために支障が生じている具体的な事例を、自治体やライフライン事業者からのヒアリング等を通じて収集・整理するとともに、民法や各種法令において同意を得ることが求められる者の範囲を明確化するための検討を進めてきた。
その結果、共有私道の工事を行う際に、共有者の一部の所在を把握することが困難な事案において、工事の可否が判断できないために、他の共有者に支障が生じるだけでなく、私道が、一般の通行の用に供されたり、各種ライフラインを設置されたりする公共的な性質を有しているため、自治体やライフライン事業者にとっても、補助金の支給や工事の実施において支障となっていることが明らかになった。また、こうした支障は、私道が、民法上の共有(共同所有)関係にある場合だけでなく、近隣の宅地所有者が、単独で所有する土地を相互に提供し合う場合も、同様に発生し得ることが判明した。
もとより、民法等の民事基本法の解釈適用は、個別具体的な事案の内容に応じて裁判所において適切に判断されるべきものであるが、私道の共有者又は所有者の一部が所在不明である場合に、工事を実施するかどうかについては、緊急性が低い間は、全員同意が得られないために放置され、緊急性が高まった段階では、法的手続をとる暇もなく工事を断行せざるを得ないという傾向があるため、必ずしも裁判手続が用いられず、裁判例の集積がされにくいと考えられる。
このような共有私道に特有の性質に鑑みると、工事の可否の判断にとって最も有用なものは、発生する頻度の高い支障事例についてのケーススタディであろう。
そこで、本研究会は、ヒアリング調査の結果を踏まえ、発生する頻度が比較的高かった支障事例を中心として、合計4回にわたって研究会で集中的に議論を行った。このガイドラインは、そうした議論の結果を踏まえて、厳選された35件のケーススタディを通じ、共有者又は私道の所有者の一部が所在不明な場合に、工事の可否を判断する指針を示そうとするものである。
このガイドラインが、私道を複数名で共有する方々をはじめ、行政、司法、ライフライン事業等の関係者に広く参照されることを期待している。
共有私道の保存・管理等に関する事例研究会座長松尾弘
★目次は、内容が確定した後に更新予定
目次
第1章共有私道とその実態………..5
1共有私道の意義…………………..5
⑴私道とは…………………………5
⑵共有私道の意義…………………..5
2実態調査(平成29年度)…………………6
⑴地方公共団体へのアンケート調査……………6
⑵ライフライン事業者からのヒアリング………….6
⑶具体的支障について………………………..8
⑷不動産登記簿における相続登記未了土地調査について……………8
第2章共有私道の諸形態と民事法制……………………..11
1民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道)…………….11
⑴私道の所有形態………………………..11
⑵共有者間内部の法律関係……………………11
⑶共同所有型私道の使用・管理に関するルール……………….12
ア使用……………………………..12
⑷所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理……14
⑸賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理…………17
⑹私道が遺産共有されている場合について………………….19
2民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道)……………20
⑴私道の所有形態…………………………………20
⑵法律関係……………………………………..21
⑶通行地役権の内容及び効力……………………………..22
3団地の法律関係…………………………………………..22
⑴共同所有型私道と団地……………………………………22
⑵団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用………24
⑶団地管理組合の集会の手続(【図3】参照)…………………..25
4財産管理制度等……………………………………..29
⑴不在者財産管理制度……………………….29
⑵相続財産管理(清算)制度………………….33
⑶会社法等に基づく清算制度…………………..41
⑷所有者不明土地管理制度……………………….41
コラム:改正民法④…………………………………………..48
コラム:改正民法⑤………………49
凡例
法令名の記載については、以下の例による。
改正法 | 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号) |
民法 | 改正法による改正のない民法(明治29年法律第89号)の規定及び、改正に関係なく規定を示す場合 |
改正前民法 | 改正法による改正前の民法 |
改正民法 | 改正法による改正後の民法 |
非訟事件手続法 | 改正法による改正のない非訟事件手続法(平成23年法律第51号)の規定及び、改正に関係なく規定を示す場合 |
改正前非訟事件手続法 | 改正法による改正前の非訟事件手続法 |
改正非訟事件手続法 | 改正法による改正後の非訟事件手続法 |
特措法 | 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号) |
特措法改正法 | 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第○号) |
改正後特措法 | 所有者不明土地特措法改正法による改正後の所有者不明土地特措法 |
1共有私道の意義2
⑴私道とは
私道については、法律上明確な定義がないが、大別すると、①公道の対立概念としての私道という意義と、②私人が所有する道路という意義とがある。①については、道路法上の道路を公道とすれば、高速自動車国道、一般国道、都道府県道及び市町村道以外の道が私道となり、国や地方公共団体が所有する道路法上の道路以外の道も私道に含まれることになる。また、②については、私人が所有しているが、道路法等の法令に基づいて国や地方公共団体により管理されている道も私道に含まれることになる。
このように、①②のいずれの定義をとるにせよ、私道が、国や地方公共団体の管理に服する場合があり得るが、こうした公的な管理がされる場合には、民法等の解釈を待つまでもなく、補修工事等が可能であり、問題は少ないといえる。
また、宅地の敷地内にある通路も、私道の一種ととらえることが可能であるが、一般の用に供されていない通路の管理は、宅地そのものの管理の問題といえる。これに対し、一般の用に供されている通路の管理については、その公共性に鑑み、地方公共団体が助成制度を設けるなどしていることとの関係で、特有の複雑な問題を生じさせるといえる。
そこで、本研究においては、主として「国や地方公共団体以外の者が所有する、一般の用に供されている通路であって、法令上、国や地方公共団体が管理することとされていないもの」を対象として調査研究を行った。
⑵共有私道の意義
市街地における私道の実際を見ると、複数の者が私道を所有する場合には、 ①私道全体を複数の者が所有し、民法第249条以下の共有(共同所有)の規定が適用されるものと、②私道が複数の筆から成っており、隣接宅地の所有者等が、私道の各筆をそれぞれ所有し、相互に利用させ合うものがある。
地方公共団体やライフライン事業者からのヒアリング調査結果によれば、私道の管理に当たっては、これらのいずれについても、民法等の解釈が問題となり得る。
そこで、以下では、上記①を「共同所有型私道」と、上記②を「相互持合型私道」と呼んで区別し、これらを併せて「共有私道」と呼んで検討を行うこととする。
2実態調査(平成29年度)
⑴地方公共団体へのアンケート調査
所有者不明土地問題は、東日本大震災の復興の過程で顕在化し、対策が進められてきたが、特に市街地においては、共有私道の工事に当たり、所在不明などの理由で共有者全員からの工事の承諾を得られず、私道の補修工事を実施できないなどの支障が生じていると指摘されている。
もっとも、私道については、建築基準法における接道義務に関連して一定の法律上の規律がされているものの、断片的なものにとどまり、その実態は必ずしも明らかでない。
そこで、共有私道の実態を把握するため、関係機関の協力を得て、地方公共団体に対し、私道所有者の一部が所在不明であることに起因する共有私道の管理等に係る支障事例につきアンケート調査を実施することとした。
アンケート結果は、後記【表1】のとおりであり、舗装新設、老朽舗装、景観舗装、階段、側溝、ゴミ集積所、水道管、下水管の整備等につき支障事例があることが判明した。とりわけ、舗装新設、老朽舗装、側溝、水道管、下水道管の各類型の支障事例が多数存在することも明らかになった。
このアンケート調査の回答を踏まえて、地方公共団体から追加でヒアリングを行い、具体的事情の把握に努めた。
⑵ライフライン事業者からのヒアリング
また、共有私道には電気事業者の電柱やガス事業者のガス管等のライフラ20 イン設備が設置されており、これらの設置及びメンテナンスの際に、共有者 の一部が所在不明である私道につき工事の支障が生じている可能性があることから、電気、ガスの事業者等からヒアリングを実施し、具体的な支障事例を収集した。
【表1】共有私道の管理等に係る支障事例の調査について
○ 127の自治体(東京都特別区(23)、政令指定都市(20)、その他の市(84))を対象に共有私道の管理等に係る支障事例のアンケート調査を実施。
○ 各自治体は,私道整備等のための助成制度を運用するに当たり、共有私道の所有者からの同意が得られず,助成実施に支障が生じた事例や住民から相談等を受けた事例があれば,下記①~⑨の各区分ごとに,「○」(該当事例あり)ないし「◎」(該当事例多数あり)で回答。
⑶具体的支障について
以上の結果、次のような支障が生じていることが判明した。
ア多くの地方公共団体が私道整備に助成金を支出しているところ、民法の共有の規律が具体的にどのように適用されるかが必ずしも明らかでないこともあり、助成の条件として、原則、私道所有者全員の工事の同意を要求していることが多い。
そのため、私道共有者の一部の所在が不明である場合には、私道整備助成の申請を却下せざるを得ない。ところが、助成金なしでは、私道所有者の費用負担が重く、必要な工事を実施するのが困難となる場合が多い。
イ 私道は、道路として一般の交通の用に供され、公共性を有していることから、路面が陥没するなど通行に著しい支障が生じた場合には、私道所有者全員の同意が得られないときであっても、私道の安全確保のため、地方公共団体の負担で簡易な工事を実施したり、陥没部分に鉄板を乗せたりするなどの応急補修を行うこともある。しかし、私道は所有者が管理すべき土地であり、どのような場合に応急補修を行ってもよいか、判断に躊躇を覚える。
ウ ライフライン事業者は、共有私道に設備を設置したり、私道内の設備を補修したりする場合には、共有私道の工事が民法上の共有物の保存、管理に関する事項、変更ないし処分のいずれに該当するかが必ずしも判然としないこともあり、私道所有者全員からの同意がなければ工事を実施しないのが原則である。そのため、私道所有者の一部が所在不明であれば、設備維持のために必要な工事を実施できず、住民の安全性の観点から望ましくない状態が生じている場合がある。
エ 地方公共団体が私道を工事するに当たり、私道所有者の一部が所在不明である場合に、地方公共団体の職員が本来業務の合間に所在不明者を探索25 しなければならず、探索に伴う多大な金銭的・人的・時間的コストが生じている場合がある。
⑷不動産登記簿における相続登記未了土地調査について不動産登記簿における相続登記未了土地に関する調査の結果は、後記【表29 2】のとおりである。
法務省においては、平成29年6月、全国10か所の地区(調査対象数約1031 万筆)で相続登記が未了となっているおそれのある土地の調査を実施し、その結果を公表している。これによると、大都市においては、①最後の登記から90年以上経過しているものが0.4%、②最後の登記から70年以上経過しているものが1.1%、③最後の登記から50年以上経過しているものが6.6%であった。また、中小都市・中山間地域においては、①最後の登記から90 年以上経過しているものが7.0%、②最後の登記から70年以上経過しているものが12.0%、③最後の登記から50年以上経過しているものが26.6%であった。
今般、本研究会の実施に当たり、上記調査の対象土地のうち、地目が道路であるものを改めて集計したところ、大都市においては、①最後の登記から90年以上経過しているものが0.8%、②最後の登記から70年以上経過しているものが2.1%、③最後の登記から50年以上経過しているものが5.5%であった。これに対し、中小都市・中山間地域における道路については、①最後の登記から90年以上経過しているものが9.8%、②最後の登記から70年以上経過しているものが15.7%、③最後の登記から50年以上経過しているものが31.2%であった。
以上によると、特に、中小都市・中山間地域の私道においては、相続登記が未了となっているおそれのある土地の割合が高く、遺産共有状態となっている場合も多いものと推測できる。
こうした私道について、工事等を実施する際には、共有物の保存・管理等に関する解釈を明確化することが極めて重要であることが明らかになった。
【表2】2
不動産登記簿における相続登記未了土地調査について
第2章共有私道の諸形態と民事法制
1民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道)
⑴私道の所有形態
共同所有型私道の具体的な例としては、下記のような形で複数の者が私道を共有するものがある。(例)私道の沿道の宅地の所有者(①~④)が通路として利用するために私道を共同所有する場合(※沿道の宅地所有者以外の者が私道の共有者となっている場合もある)
⑵共有者間内部の法律関係
共同所有型私道が生ずる原因については、様々なものが考えられるが、当初から複数人の共有に属していた土地が分筆され、そのうちの一部が共同所有型私道として開設されるような場合には、共有者間で私道の修繕やその費用負担の割合などの管理方法等について取決めがされていることもある。このような場合には、私道の工事は取決めに基づいて実施される。
他方、デベロッパーが宅地を開発・分譲する際、通路を開設し、宅地の買受人に通路部分の共有持分を併せて売却することにより、宅地の所有者が私道を共有するに至る場合も多いようである。このような場合には、私道の管理方法等について、明示的な取決めがないことも多く、後に一部の共有者が私道について工事を実施する際に、他の共有者の同意の要否が問題となることがある。長年、私道を共同で使用する中で、黙示的な合意が形成されることも少なくなく、私道について工事を実施するに当たっては、まずはこうした取決めに従うことになるが、共有物の使用・管理方法等について取決めがされていない場合には、民法の共有に関する規定(民法第249条以下)により対応することとなる。
⑶共同所有型私道の使用・変更・管理に関するルール
ア使用
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができることとされている(改正前民法第249条、改正民法第249条第14 項)。私道の共有者は、持分を有しているため、私道の全体について、その持分の範囲で使用が可能である。私道の共有者は、この権限に基づき、私道を通行したり、その地下を利用したりすることができる。
改正民法では、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除 き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うとされている(改正民法第249条第2項)が、共有者がそれぞれ私道を使用している場合に、「自己の持分を超える使用」をしていると評価されるケースは多くないと考えられる。
イ変更
改正前民法では、共有物に変更を加える行為は、その変更の程度にかかわらず、共有者全員の同意が必要とされ(改正前民法第251条)、共同所有型私道の形状を変更するに当たっては、私道共有者全員の同意が必要と解されていた。
しかし、共有者に与える影響が小さな変更を加える場合であっても、少数でも反対者や所在等不明者がいればこれを行うことができないため、共1有物の円滑な利用や適正な管理が妨げられていた。
そこで、改正民法では、変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(以下「軽微変更」という。)については、 共有者全員の同意を要する変更から除外し、各共有者の持分の過半数で決することができることとされている(改正民法第251条第1項、第252条24 第1項)。軽微変更の意義については、後記ウ参照。
ウ管理に関する事項
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の過半数で決することとされている(民法第252条第1項本文)。管理に関する事項とは、共有物の29 利用・改良行為をいう。
一般に、私道の状態をより良好な状態とするような改良工事や、私道の利用方法の協議等は、管理に関する事項に該当し、各共有者の持分の過半数で決することになる。
また、前記のとおり、改正民法では、変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないものについては、各共有者の持分の過半数で決することとされた。「形状の変更」とは、その外観・構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいうが、共有物に変更を加えることが軽微変更に当たるかどうかは、個別の事案ごとに、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様及び程度等を総合して判断される。一般論としては、例えば、砂利道をアスファルト舗装する行為は、軽微変更に該当すると考えられる。
なお、工事が管理に関する事項に当たり、各共有者の持分の過半数で決する場合であっても、少数者との協議の機会を設けることが望ましい。
また、改正民法では、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければならないとされた(改正民法第252条第3項)。こ こでの「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定を変更する必要性と、その変更によって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して、共有物を使用する共有者に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいう。
特別の影響の有無は、事案に応じて個別に判断されるが、例えば、共有者間の決定に基づいて特定の共有者が共同所有型私道の特定の場所に給水管を設置して水道水の供給を受けている場合において、他の共有者が、持分の過半数の決定でその給水管の設置場所を変更することとされ、相当期間水道水の供給が止められることとなってしまうケースでは、特別の影響を及ぼすべきときに当たり得ると考えられる。
エ 保存
共有物の現状を維持する行為は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる(改正前民法第252条ただし書、改正民法第252条第5項)。
一般に、損傷した私道の補修を行う場合のように、私道の現状を維持する行為は保存行為に当たる。
オ 共有物に関する負担
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関26 する負担を負う(民法第253条第1項)。「管理の費用」とは、共有物の維持、改良等のための必要費・有益費をいう。私道の共有者は、共有私道の補修等の管理のための必要費・有益費について、その持分に応じて支払う義務を負う。
カ 変更、管理に関する事項、保存の区別
具体的な事案において、共有者の共有物に対する工事の実施が、共有物の変更、管理に関する事項又は保存のいずれに当たるかは、個別事情によるところがあり、必ずしも明確に判断することができるわけではないが、一般論として言えば、共有物の形状・性質、共有物の従前の利用方法、工事による改変の程度その他の諸般の事情を考慮して決せられるものと考えられる。工事費用など共有者の負担の程度は、それ自体が直ちにこれらの区別の要素となるものではないが、工事費用の多寡は、当該工事が効用の著しい変更を伴う変更に当たるかどうかの判断に当たって考慮され得る。
なお、共同所有型私道において、工事を実施する際に、共有者中に明確に反対するものがいる場合には、当該工事が変更に当たるか管理に関する事項に当たるかについて深刻な紛争が生ずることがある。本研究会においては、基本的には、所有者又はその所在を把握することが困難な土地に焦点を当てて、ケーススタディを行っているが、反対者がいるケースについても、必要な限度で取り上げている。
⑷所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理
ア新制度の概要(【図1】参照)
前記のとおり、共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができないため(改正前民法第251条)、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、その同意を得ることができず、共有物に変更を加えることができなくなる。また、管理に関する事項は共有者の持分の過半数で決定することとされているため(改正前民法第252条)、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、その共有者の持分の割合によっては、管理に関する事項を決定することができない事態が生ずる。
そこで、改正民法では、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所の決定により、①所在等不明共有者(共有者において知ることができず、又はその所在を知ることができない他の共有者をいう。以下同じ。)以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることができることとされるとともに、②所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決することができることとされている(改正民法第251条第2項及び第252条第2項第1号)。
イ 要件等
所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判の要件は、「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」である。
共有者が他の共有者を知ることができないときとは、共有者において、他の共有者の氏名・名称などが不明であり、特定することができないことを意味する。
他方、共有者が他の共有者の所在を知ることができないときについては、「他の共有者」がどのような者であるかによって次のように分けられる。
(a)自然人
「他の共有者」が自然人である場合には、共有者において、他の共有者の住所・居所を知ることができないときを意味する。
なお、自然人である共有者が死亡しているが、その相続人の存在が不明であるケースでは、相続財産管理人等がいない限り、「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」に該当する。
(b)法人
「他の共有者」が法人である場合には、共有者において、①他の共有者の事務所の所在地を知ることができず、かつ、②他の共有者の代表者の氏名等を知ることができないとき(他の共有者の代表者がいない場合を含む。)又はその代表者の所在を知ることができないときを意味する。代表者がおり、その所在を知ることができるのであれば、代 表者との間で協議等をすることができるため、法人である共有者の所在を知ることができないと評価することはできない。
なお、いわゆる権利能力なき社団についても、基本的には、法人と同じ基準により判断されることになる。
いずれのケースにおいても、要件の充足が認められるためには、共有者において私道(土地)の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など必要な調査をしても、他の共有者を特定することができない、又はその所在を知ることができないことが必要となる。そのほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認したり、他に連絡等をとることができる共有者がいればその者に確認したりするなどの調査も必要となると解される。
ウ手続の流れ
共有者は、共同所有型私道に変更行為や管理に関する事項に当たる工事を行おうとする場合において、他の共有者の所在等が不明であるときは、私道の所在地の地方裁判所に、所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判を申し立てることになる。その際には、変更行為や管理に関する事項に当たる工事の概要を特定して申し立てる必要がある。
要件の充足が認められ、裁判所における公告及び1か月以上の異議届出期間を経てもなお所在等不明共有者とされている者から異議の届出がされないときは、所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判がされ、申立人に告知がされる(非訟事件手続法第56条第1項、改正非訟事件30 手続法第85条第6項)。
所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判をする前に所在等不明共有者とされている者から異議の届出がされた場合には、その共有者は特定され、その所在も明らかになるため、実体法上の要件を欠き、その裁判をすることはできない。
所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判がされた場合には、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることができるようになる。また、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判がされた場合には、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決することができるようになる。
これらの裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に共有物に変更を加えるには、別途、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得る必要がある。また、管理に関する事項については、別途、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により決定する必要がある。
例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有するコンクリート舗装された坂道につき、A・B・Cがその全体にコンクリートの階段を設置する場合において、D・Eの所在が不明であるときには、A・B・Cは、所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判を得た上で、A・B・Cの全員が同意することにより、その工事をすることができる(後記12 事例●参照)。
また、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装する(軽微変更。前記(3)ウ参照)場合において、Cが反対し、D・Eの所在が不明であるときには、A・Bは、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得た上で、A、B、Cの合計持分の過半数(3分の2)の決定で、その工事をすることができる(後18 記事例●参照)。
⑸賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理
ア新制度の概要(【図2】参照)
民法は、共有物の管理に関する事項は、共有者の持分の過半数で決定することとし(改正前民法第252条)、その実施を共有者間の協議・決定に委ねている。
もっとも、社会経済情勢の変化に伴って、共有者が共有物から遠く離れて居住・活動していることや、共有者間の人的関係が希薄化していることも多くなり、共有物の管理に関心を持たず、連絡等をとっても明確な返答をしない共有者がいるため、共有者間で決定を得ることが容易でなくなっている。
そこで、改正民法では、相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告しても、相当の期間内に賛否を明らかにしない共有者がある場合には、裁判所の決定を得て、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数の決定により管理に関する事項を決することができることとされている(改正民法第252条第2項第2 号)。
なお、この仕組みは、管理に関する事項(軽微変更を含む。)に限ってその対象とするものであり、共有物に形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為を対象とするものではない。
イ要件等
賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判の要件は、①共有者が、他の共有者に対し、相当の期間を定めて、共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告したこと、②催告を受けた他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないことである。
- の「相当の期間」は、催告を受けた共有者が賛否の判断の検討のために要する期間を指すが、事案ごとの判断ではあるものの、通常、催告を受けた日から2週間程度が必要になると解される。催告をする際には、その相手方が賛否を明らかにすることができるように、決定することを希望する事項を具体的に特定しなければならない。催告の方法について法律上の制限はないが、後の裁判において催告の事実を立証するために、書面等で行うことが想定される。
ウ手続の流れ
共有者は、共同所有型私道に管理に関する事項に当たる工事を行おうとする場合において、事前に他の共有者に対して相当の期間を定めて当該工事をすることについて賛否を明らかにすべき旨を催告したがその期間内に1賛否が明らかにされなかったときは、私道の所在地の地方裁判所に、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を申し立てることになる。その際には、管理に関する事項に当たる工事の概要を特定して申し立てる必要がある。
要件の充足が認められ、裁判所からの通知及び1か月以上の賛否明示期間を経てもなお賛否が明らかにされないときは、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数の決定により管理に関する事項を決することができる旨の裁判がされ、賛否不明共有者に告知がされる(非訟事件手続法第56条、改正非訟事件手続法第85条第2項・第3項)。賛否明示期間内に賛否を明らかにした共有者については、裁判所は、その共有者については上記の裁判をすることができない(改正非訟事件手続法第85条第4項)。
賛否不明共有者が告知を受けた日から2週間の不変期間内に即時抗告をしないことなどによりこの裁判が確定すると(非訟事件手続法第56条第4項、第67条)、裁判の効力が生じ、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項に当たる工事の実施を決定することができるようになる(改正非訟事件手続法第85条第5項)。
この裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に工事を実施するには、別途、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により決定する必要がある。
例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装をすること(軽微変更。前記(3)ウ参照)について他の共有者に事前催告をしたが、D・Eは賛否を明らかにせず、Cが反対した場合には、A・Bは、賛否不明共有者以外の共有者による管1 理の裁判を得た上で、A、B、Cの合計持分の過半数(3分の2)の決定で、その工事をすることができる(後記事例●参照)。
【図2】
⑹遺産共有の場合について
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属することとされ(改正前民法第898条)、相続人は、相続財産に属する個々の財産について共有持分を有する(以下相続財産の共有を「遺産共有」という。)。遺産共有は、民法第249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されており(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)、民法第249条以下の共有に関する規定は、基本的に、遺産共有にも適用される。
そのため、上記(3)~(5)の各ルールは、私道が遺産共有されている場合にも、適用されるものである。
また、改正民法では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(相続分の指定がある場合には、指定相続分)を基準とすることを明記している(改正民法第898条第2項)ため、管理に関する事項は、法定相続分又は指定相続分を基準とした共有持分の過半数をもって決せられることになる(民法第252条第1項本文)。
2民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道)
⑴私道の所有形態
相互持合型私道は、典型的には、私道付近の宅地を所有する複数の者が、それぞれの所有する土地を通路として提供し、私道がこうした数筆の土地により形成されているものである。
相互持合型私道は、デベロッパーが一団の土地を数個の宅地に分譲する際、分譲地取得者のために通路を開設し、その通路の敷地(以下「通路敷」という。)に当たる部分も各宅地の譲受人の所有となるように分筆した上で、宅地と分筆された通路敷を併せて譲渡することにより生じることが多い。
具体的な持合形態としては、例①のように、通路敷を縦に細長く切り分けて宅地の所有者に分属させる形で開設するパターンがある。また、例②のように、通路敷を横に切り分けて宅地の所有者に分属させる形で開設するパターンもある。この場合、宅地とそれに接する通路敷の土地とが同一の所有者に属さないように、分属させることもある。
⑵ 法律関係
相互持合型私道における各土地の所有者は 、互いに各自の所有宅地の便益のために、通行等を目的とする地役権(民法第280 条本文。以下「通行地役権」という。)を設定していると考えられる。地役権とは 、他人の土地( 以下「承役地」という。)を自己の土地( 以下「要役地」という。)の便益に供する権利の便益に供することをいい、相互持合型私道を所有者間で合意して開設する場には 、通行地役権の設定が明示的にされることが多いものと考えられる。
また 、デベロッパーが一団の土地を分譲して売り渡す際に相互持合型私道を開設する場合は、分譲地の購入者は、それぞれ、公道から自己の宅地に至るまでは宅地の購入者が所有する通路敷を通行しなければならず、また、他の宅地の購入者が公道から当該宅地に至るまでは、自己の所有する通路敷を通行しなければならないことを認識して取得しているのであり、相互に譲り受けた土地について 黙示の地役権設定がされていることが通常である。
裁判例においても、複数名が特定部分の土地を提供し合って開設されている私道については明示の合意がなくとも黙示の通行地役権設定がされたものと認められるとされた事例 や、分譲者が私道を開設し通路敷を分割して各分譲地買受人に対して売り渡した場合、割合に応じて各分譲地買受人にて黙示の通行地役権が設定されているとした事例がある。
このとは 、前記 ⑴の例 ①、②のいずれにおいても同様であると考えられる。
なお 、通行地役権は、他人の土地を通行等の目的ために使用することのできる用益物権 であり、他の物権と同様、設定行為とは別に、時効により取得することも可能である(民法第 283 条)。
⑶ 通行地役権の内容及び効力
ア 地役権の内容及び効力は 、設定行為により定められる。承役地所有者が、設定行為又は後の契約によって、自己の費用で通行地役権行使のため、自己の費用で通行地役権使のために工作物を設け、又はその修繕する義務を負担したときは、これに従って工作物の設置・修繕をしなければならない(民法第 286 条参照 )。
相互持合型私道に設定される通行地役権においては、私道となっている通路敷全体が通行地役権の目的として提供されているところ、デベロッパーが分譲の際に相互持合型私道を開設する場合は、当該私道は、公道に至るまでの通行経路としてだけはなく、宅地に居住する者の生活に必要なライフラインの設置経路として設計されることが多い。
このような場合には、分譲時点で、上水道や下水道の導管が私有地中に設置され電柱が地上に設置されていることになる。
このような相互持合型私道においては、地役権の内容は通行のみならず、ライフラインの設置・利用を含むことになるが通常である。
イ 要役地所有者は、一般に、地役権に基づき、設定行為により定められた目的の達成ために必要な限度で、承役地を使用することを所有者に受忍させることができる。
例えば、相互持合型私道における承役地の損傷が生じ、通行に支障を来した場合には 、要役地所有者は、通行の目的を果たすため、道路補修工事を実施することができると考えられる。
また 、このような場合には 、要役地所有者は、承役地所有者に対して当該承役地の修繕を求めることもでき考えられる。
3 団地の法律関係
- 共同所有型 私道 と団地
共同所有型私道においては、前記1⑵ のとおり、分譲の際に私道が設けられ、これに接する各宅地所有者が共有持分を取得ことが多く、私道とこれと接する各宅地は、一団の 土地を形成していると見ることが可能である。このような各宅地と共同所有型私道に関しては、民法の特別法である建物の区分所有等に関する法律(昭和 37 年法律第 69 号。以下「区分所有法」という。) 第2章 の「団地」に関する規定が適用されることがあると考えられるため、これについて解説しておく。
区分所有法の団地に関する規定が適用されるためは、①一団地内に数棟、②その団地内(これに関する権利を含む。) に関する権利を含む。) 等が① の建物所有者の共有に属するという関係があることが必要である(同法第65条)。)。
ここでいう「一団地」とは、客観的に一区画をなしていると見られ土地の区域であるとされているところ、共同所有型私道とこれに接する各宅地共同所有型私道とは、客観的に一区画をなしていると認められ場合がある。
区分所有建物であっても、それ以外の戸建て建物であって、それ以外の建物が混在して構成さる場合もあるとされているところ、団地内の私道がそれらの建物所有者(専有部分ある それらの建物所有者(専有部分があるそれらの建物所有者の共に属する区分所有者))の共に属する共同所有型私道の場合には、区分所有法が適用されることになる。
なお 、建物の区分所有関係と異なり、特に戸建て建物が介在する団地関係においては 、関係者が団地にあることを認識していないことも少なからずあると考えられる。団地内で規約を定めるなどの特段の措置を講じていない限りは、民法の共有に関する規律 (改正民法で創設されたものを含む。)の適用が排除されるものではないと考えられる。
上記①及び②の要件をみたすものとして、次のようなものが考えられる。
⑵団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用
区分所有法上の団地に該当する場合には、団地内建物の所有者(区分所有者を含む。以下「団地建物所有者」という。)は、法律上当然に、全員で、その団地内の共有土地等の管理を行うための団体(いわゆる団地管理組合)を構成する。そして、団地管理組合においては、区分所有法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができることとされている(区分所有法第65条)。
その趣旨は、マンションなどの区分所有建物における管理組合と同様、団地建物所有者は、団地内の土地等を共有し、共同使用するものであるから、共有する土地等を管理するに当たっては、団体的拘束に服させることが相当と考えられることにある。
そして、共同所有型私道とこれに接する宅地が一団地をなす場合には、私道の工事につき、集会を開いて決議をする制度を活用することで、円滑な工事の実施につなげることができる。
すなわち、民法によれば、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為は、共有者の全員の同意によることが必要となる(改正民法第251条第1項)。
これに対し、団地管理組合関係のもとでは、土地の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為であっても、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決することができる(区分所有法第66条において準用する同法第17条、第18条)。
したがって、共同所有型私道とこれに接する宅地が客観的に見て一団地を構成する場合には、私道の工事が民法上は上記の共有物の変更に当たるときであっても、所定の手続を経れば、一定の多数決で施工することが可能となり、私道共有者の一部が所在等不明であるケースや工事に賛成しないケースにも対応することができると考えられる。
なお、改正民法第251条第2項に基づく裁判の内容は、「当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判」であることから、団地内の私道共有者の一部が所在等不明であるケースにおいても、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得る必要がある。このケースで、区分所有法第66条において準用される同法第17条第1項を適用して、所在等不明共有者以外の団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議でこれを決することはできないものと解される(所在等不明共有者を含め、団地建物所有者及び議決権の全てを母数として、その各4分の3以上の多数による集会の決議で決する必要がある。)。
⑶団地管理組合の集会の手続(【図4】参照)
共同所有型私道を含む団地関係においては、規約が定められていたり、管理者が置かれたりすることはまれであると考えられる。
そこで、以下では、規約も管理者もない団地において、共同所有型私道の共有者の一部が所在等不明であるために、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更工事につき、共有者全員の承諾が得られない場合の集会の手続について概説する(以下で引用した区分所有法の規定は、同法第66条において準用されているものである。)。
ア集会の招集
団地建物所有者の5分の1以上で議決権(=私道の持分割合)の5分の1以上を有するものは、集会を招集することができる(第34条第5項)。
集会の招集通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各団地建物所有者に発しなければならず(第35条第1項)、会議の目的たる事項が、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴うものであるときは、その議案の要領をも通知しなければならない(同条第5項)。
なお、招集通知は、団地建物所有者の所有する建物が所在する場所に宛ててすれば足り、招集通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなされる(同条第3項)。
イ集会の決議
(ア)集会においては、集会を招集した団地建物所有者の一人が議長となる(第41条)。
(イ)集会においては、招集通知によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる(第37条第1項)。
(ウ)共同所有型私道の軽微変更は、土地の管理に関する事項(第18条第1項)とされ、これに関する集会の議事は、団地建物所有者及び議決権(=私道の持分割合)の各過半数で決する(第39条第1項)。すなわち、団地建物所有者の頭数の過半数と共有物である私道の持分割合の過半数の両方を満たす必要があり、例えば、団地建物所有者がA、B、C、Dの4名である場合に、私道の持分割合がA、B、Cが各12分の1、Dが4分の3であるときには、A、B及びCの賛成があるだけでは、団地建物所有者の頭数において過半数であるにとどまり、議決権の過半数が得られていないため、決議は成立しない。
他方、共同所有型私道の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為については、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数により、集会の決議で決する(第17条第1項)。1
これらの場合において、土地の管理・変更が建物の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その建物の所有者の承諾を得なければならない(同条第2項、第18条第3項)。
(エ)また、団地内にある建物が複数人の共有となっている場合には、共有者のうち一名を議決権を行使する者として定めなければならない。招集通知は、当該議決権行使者に対してすれば足り、議決権行使者が選定されていない場合には、共有者の一人に対してすれば足りる(第35条第2項)。
なお、議決権の行使は、書面又は代理人によることが可能であり、遠方に居住する団地建物所有者は、書面により議題に対する意思表示をすることができ、また、代理人を選任し、代理人による議決権の行使が可能である(第39条第2項)。
(オ) 上記のとおり、区分所有法上、団地内の共有土地の変更が、その形状又は効用の著しい変更を伴うものかどうかで決議の要件が異なるが、実務上、共有私道に加える行為が、著しい変更を加えるものかどうかの判断がつきにくいことも少なくない。そこで、所在等不明者の持分割合が比較的小さく、他の共有者の賛成で4分の3以上の同意を得られることが確実であれば、上記アで説明したとおり、招集通知に議案の要領(共有私道に著しい変更を加えるその内容)を通知し、上記の多数決による決議を行うことも考えられる。
ウ議事録の作成・保管・閲覧
集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならず(第42条第1項)、議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載・記録しなければならない(同条第2項)。議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に参加した団地建物所有者の二人が署名しなければならない(同条第3項)。そして、①作成された議事録は、集会の決議で定められた団地建物所有者が保管しなければならず(同条第5項、8 第33条第1項)、その保管をする者は、利害関係人(団地建物所有者等)からの請求があったときは、正当な理由がない限り、議事録の閲覧を拒むことはできない(第42条第5項、第33条第2項)。
4財産管理制度等
私道の工事を行おうとする際に、所有者(共有者)の全員の同意を要する場合や共有者の持分の過半数の同意を要する場合がある。このような場合において、同意を得る必要がある所有者(共有者)の一部の所在が不明であったり、所有者(共有者)の一部が死亡し、その者に相続人のあることが明らかでないために、必要な同意を得ることが困難であったりするときには、財産管理制度を利用し、家庭裁判所により選任される財産管理人から私道の工事等に関する同意を得ることが考えられる。
財産管理制度には、①不在者財産管理制度、②相続財産管理(清算)制度があ るほか、残余財産の清算の必要な法人については、③会社法等に基づく清算人の選任が可能とされている。加えて、改正民法では、所有者不明土地の管理に特化した財産管理制度として、④所有者不明土地管理制度が新たに設けられた。
以下では、各財産管理制度の概要及び手続について紹介する。
国土交通省・所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第3版)」42頁以下に、財産管理制度の利用に当たっての詳細な情報が掲載されているので、あわせて参照されたい。
⑴不在者財産管理制度
ア制度の概要
不在者財産管理制度は、住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者(不在者)がいる場合に、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が財産管理人の選任等財産の管理について必要な処分をして、不在者の財産の管理を行う制度である(民法第25条以下)。
イ要件等
私道の所有者(共有者)の一部について、不在者財産管理制度を利用するためには、その者が「住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者」である必要がある。
不在者は、生死不明であるか否かを問わない。生死不明の者であっても、死亡が証明されるか、失踪宣告(民法第30条)を受けるまでは、不在者に当たる。
不在者財産管理人の選任を請求することができるのは、利害関係人又は検察官である(民法第25条第1項)。利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者であり、不在者の財産が法律上管理されることにつき実益を有する者であれば、法律上の利害関係があるといえる。利害関係があるか否かについては、最終的には家庭裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を 行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互 持合型私道について工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が不在者であるときは、一般に、工事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第38条第1項(改正後特措法第42条第1項)は、不在者財産管理人の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、不在者財産管理人の選任請求をすることができることとされている。ここでいう「所有者不明土地」とは、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」をいうとされている(同法第2条第1項)。また、例えば、一般の通行の用に供されている所有者不明の私道が老朽化して通行人の生命身体に危険が生ずるおそれがあるため、私道を補修する必要がある場合は、「その適切な管理のため特に必要があると認めるとき」に当たるとされている(国土交通省不動産・建設経済局「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法Q&A」(令和3年4月))。
ウ手続の流れ
不在者財産管理事件の手続の流れは、【図5】のとおりである。
(ア)不在者財産管理人の選任申立て
不在者財産管理人の選任の申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要がある(家事事件手続法第145条)。従来の住所地及び居所地がいずれも不明である場合には、財産の所在地を管轄する家庭裁判所又は東京家庭裁判所が管轄裁判所となる(家事事件手続法25第7条、家事事件手続規則第6条)。
不在者財産管理人の選任を申し立てる際には、不在者が不在となった経緯や帰来の可能性、申立人の利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。
申立添付資料として、一般には、不在者の戸籍謄本、不在者の戸籍附票写し、 不在の事実を証する資料(宛所に尋ね当たらないとの理由で返戻された不在者宛ての手紙、警察署長の発行する行方不明者届受理証明書等)、不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書等)、申立人の利害関係を証する資料(共有私道の不動産登記事項証明書等)等の提出が求められる。
なお、申立ての際に、管理人の報酬を含む財産の管理に要する費用の予納を不在者の財産から賄うことができないことが見込まれる場合には、家庭裁判所の判断により、管理費用の予納を命じられる。
(イ)不在者財産管理人による私道の管理
家庭裁判所により不在者財産管理人が選任された場合、不在者財産管理人が不在者の財産の管理を行うこととなるため、私道の工事等を行う場合において、不在者である所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、不在者財産管理人による同意を得ることにより、工事等を行うことができるようになる。
もっとも、不在者財産管理人の権限は、原則として、保存行為及び目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為に限定されている(民法第28条、第103条)。不在者財産管理人が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民法第28条前段)を得る必要がある。したがって、私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となるような工事を行う際には、一般には、不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得る必要がある。権限外行為に当たるか否かについて疑義がある場合には、家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談することが望ましい。
(ウ)不在者財産管理人による管理の終了
家庭裁判所は、①不在者が財産を管理することができるようになったとき、②管理すべき財産がなくなったとき、③その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、不在者財産管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、不在者財産管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならないこととされている(家事事件手続法第147条)。③の「財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」とは、不在者の死亡が明らかになった場合や、不在者の財産の管理の必要性や財産の価値に比して管理の費用が不相当に高額になるような場合等をいうものとされている。
ア制度の概要
相続財産管理制度は、相続人のあることが明らかでないときに、利害関係人又 は検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、相続人を捜索しつつ相続財産を管理・清算し、最終的には残余財産を国庫に帰属させる制度である(民法第952条以下)。
なお、改正前民法においては、この制度により選任される者は「相続財産の管理人」と呼称されているが、改正民法では、その職務の内容に照らして、「相続財産の清算人」に名称が改められた。
イ要件等
相続財産管理制度(相続財産清算制度)を利用するためには、私道の所有者(共有者)の一部が死亡した場合において、その者に「相続人のあることが明らかでないとき」に該当する必要がある(民法第951条、第952条第1項)。
「相続人のあることが明らかでないとき」の例としては、戸籍上法定相続人が いない場合や、法定相続人の全員が相続の放棄をしている場合等が挙げられる。
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を請求することができるのは、利害関係人又は検察官である(民法第952条第1項)。利害関係人とは、相続財産について法律上の利害関係を有する者である。利害関係があるか否かについては、最終的には家庭裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互持合型私道について工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が死亡し、その相続人のあることが明らかでないときには、一般に、工事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第38条第1項(改正後特措法第42条第1項)は、相続財産管理人(相続財産清算人)の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国 の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、その選任請求をすることができることとされている。「所有者不明土地」、「その適切な管理のため特に必要があると認められる場合」の意味については、前記(1)イ30 参照。
ウ手続の流れ
改正前民法における相続財産管理事件の手続の流れは【図6-1】のとおりであり、改正民法における相続財産清算事件の手続の流れは【図6-2】のとおりである。
(ア)相続財産管理人(相続財産清算人)の選任申立て
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任の申立ては、相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所に行う必要がある(家事事件手続法第203条第1号)。
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を申し立てる際には、「相続人のあることが明らかでないこと」や利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。申立添付資料として、一般には、相続人が存在しないことを証するための資料(被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の子〔及びその代襲者〕で死亡している者がある場合、その子〔及びその代襲者〕の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人直系尊属の死亡の記載のある戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被相続人の兄弟姉妹で死亡している者がある場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、相続人が相続放棄をしている場合には相続放棄の申述が受理されたことを証する資料)、被相続人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書等)、申立人の利害関係を証する資料等の提出が求められる。
なお、申立ての際に、相続財産管理人(相続財産清算人)の報酬を含む財産の管理・清算に要する費用を相続財産から賄うことができないことが見込まれる場合には、家庭裁判所の判断により、費用の予納を命じられる。
(イ)相続財産管理人(相続財産清算人)による私道の管理
家庭裁判所により相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された場合、相続財産管理人(相続財産清算人)が相続財産の管理・清算を行うこととなるめ、私道の工事等を行う場合において、同意を得る必要がある者が死亡し、その相続人のあることが明らかでないときには、相続財産管理人(相続財産清算人)の同意を得ることにより、工事を行うことができるようになる。
もっとも、相続財産管理人(相続財産清算人)の権限は、原則として、保存行為及び目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為に限定されている(民法第953条、第28条、第103条)。相続財産管理人(相続財産清算人)が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民法第28条前段)を得る必要がある。したがって、私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となるような工事を行う際には、一般には、相続財産管理人(相続財産清算人)は家庭裁判所の許可を得る必要がある。権限外行為に当たるか否かについて疑義がある場合には、家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談することが望ましい。
(ウ)清算手続
相続財産管理制度(相続財産清算制度)は、不在者財産管理制度とは異なり、相続財産を清算する手続であるため、相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された後、清算のための手続が行われる。
改正前民法と改正民法とで手続が異なることから、以下では、それぞれについて説明する。
・改正前民法
改正前民法においては、①家庭裁判所が相続財産管理人を選任した旨を公告した後、2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、 ②相続財産管理人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(改正前民法第957条第1項)。この公告期間の満了後、なお相続人のいることが明らかでない場合には、③家庭裁判所が、6か月以上の期間を定めて相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を公告する(改正前民法第958条)。
相続財産管理人は、相続財産を調査し、相続債権者等に対して弁済をする等の清算手続を行った後、特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、分与について判断した上で、残余財産があった場合には、残余財産を国庫に帰属させることになる(民法第959条)。
また、共有物については、共有者の一人が死亡して相続人の不存在が確定し、特別縁故者に対する財産分与もされないときは、その持分は、他の共有者に帰属する(民法第255条、最判平成元年11月24日民集43巻10号122024頁)。
このように、改正前民法においては、趣旨の重複する公告手続を3回に分けて順次行わなければならず、権利関係の確定に最低でも10か月を要することとされている。
・改正民法
改正民法においては、清算手続を合理化する観点から、公告手続の見直しを行っている。
すなわち、①家庭裁判所が、6か月以上の期間を定めて、相続財産清算人を選任した旨及び相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を公告した後、②相続財産清算人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間(①で相続人が権利を主張すべき期間として公告した期間内に満了するの)を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(改正民法第957条第1項)。これと並行して相続財産清算人は、相続財産を調査し、相続債権者等に対して弁済をする等の清算手続を行う。
①の期間内に相続人のあることが明らかにならなかった場合において、特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、家庭裁判所は分与について判断する。その上で、残余財産があった場合には、残余財産を国庫に帰属させるか、共有持分が他の共有者に帰属することになる(民法第959条、第255条)。
このように、改正民法においては、公告手続は2回に限られ、権利関係の確定に必要な期間が合計6か月へと短縮されている。
(エ)相続財産管理人(相続財産清算人)による管理・清算の終了
相続財産の管理・清算手続の終了については、①相続人が財産を管理することができるようになったとき、②管理すべき財産がなくなったとき、③その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、相続財産管理人(相続財産清算人)若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、財産の管理者の選任その他の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならないこととされている(家事事件手続法第208条、第125条第7項)。
コラム:改正民法① ○相続人が判明しているかどうかを問わず利用が可能な相続財産の保存のための相続財産管理制度 改正前民法は、相続財産が相続人によって管理されないケースに対応するために、相続の承認又は放棄がされるまでなど、相続の段階ごとに、家庭裁判所が相続財産管理人を選任するなどの相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを設けている(改正前民法第918条第2項、第926条第2項、第940条第2項)。 もっとも、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺産分割が未了である場合については、相続財産はなお暫定的な遺産共有状態にあり、相続財産の保存が引き続き問題となり得るにもかかわらず、相続財産の管理のための規定が設けられていないなどの課題があった。 改正民法では、相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭裁判所は、相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をすることができるとの包括的な規定を設けている(改正民法第897条の2第1項)。 これにより、これまで規定がなかった、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺産分割が未了である場合において、相続財産の管理を行う者がいないケースについても、相続財産の保存に必要な処分をすることが可能となる。例えば、相続財産に属する私道について相続人が保存行為をしないケースにおいては、必要があると認められれば、相続財産の保存のための相続財産管理人を選任し、保存行為をさせることが可能となると考えられる。 ○相続の放棄をした者による相続財産の管理 改正前民法においては、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされている(改正前民法第940条第1項)。 もっとも、法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合に、誰が管理継続義務を負うかは、必ずしも明らかではない。また、相続の放棄をした者が相続財産を現に占有していない場合にまで管理継続義務を負うかどうかや、その義務の内容及び終期も明らかではないため、相続の放棄をしたにもかからず、過剰な負担を強いられるケースがあるとの指摘があった。 改正民法第940条第1項は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は改正民法第952条第1項の相続 |
財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるとの同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないものとした。
これにより、①相続の放棄をした者が同項の義務を負うのは、放棄の申述時に相続財産に属する財産を現に占有している場合に限られ、被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合には、同項の義務を負わないこと、②同項の義務の内容は、現に占有している財産の保存にとどまり、それを超えた管理義務を負うわけではないこと、③同項の義務は、相続人や改正民法第952条第1項の相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すことによって終了することが明確にされた。
例えば、子Aが、親であるBの所有に係る建物にBと共に居住し、Bの共有に係る私道を使用していた場合において、Bが死亡し、Aが相続の放棄をしたケースでは、Aが放棄時にその建物や私道を現に占有していたと評価されるときは、改正民法第940条第1項の義務を負うものと考えられる。
他方で、相続の放棄をした者が、被相続人の生前から遠方に居住しており、被相続人が所有していた建物や私道を放棄時に現に占有していたと評価されないときは、同項の義務を負わないものと考えられる。
⑶会社法等に基づく清算制度
私道の工事を行うために同意を得る必要がある所有者(共有者)が解散した法2 人であり、清算人となる者がいないため、必要な同意を得ることが困難な場合には、私道の工事を行おうとする者は、利害関係人の申立てに基づいて裁判所が選任した清算人から、私道の工事に関する同意を得ることが考えられる。
法人には、株式会社、一般社団・財団法人等があり、これらの法人が解散した場合には、原則として、各法人について規定された法律に基づき、清算手続が開始されることとなる(会社法第475条第1項等)。
法律上定められた清算人となる者(株式会社の場合には、取締役、定款で定め る者、株主総会の決議によって選任された者)がいない場合には、利害関係人の申立てにより、裁判所が清算人を選任する(会社法第478条第2項)。
清算人が選任されると、清算人の申請に基づき、法人の登記簿に清算人の登記 がされる。清算人は、原則として、清算法人を代表するため(会社法第483条第1項等)、私道の工事を行おうとする者は、清算人の同意を得て工事を行うことができる。清算人が清算に関する業務を行い、清算法人について、清算の事務が終了して清算が結了すると、清算人の申請に基づき清算結了の登記が行われ、これにより、当該法人の登記記録は、閉鎖される。なお、清算結了の登記がされた法人であっても、当該法人名義の土地が存在するなど残余財産があることが判明した場合には、残余財産の分配等の清算手続を行うため、裁判所に清算人の選任の申立てを行うことが可能であると解されている。
⑷所有者不明土地管理制度
ア制度の概要(図7-1及び図7-2参照)
前記のとおり、現行法の下では、所有者不明土地を管理するために、不在者財産管理制度や相続財産管理制度等が利用されていたが、これらの制度に対しては、問題となっている土地だけでなく、不在者の他の財産や他の相続財産全般を管理することになり、必要な予納金の額がより高額になるなど、費用対効果の観点からは合理性に乏しいとの指摘があった。
そこで、改正民法では、所有者不明土地の適正かつ円滑な管理を実現するため、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない個々の土地について、裁判所が、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることを可能とする所有者不明土地管理制度が創設された(改正民法第264条の2~第264条の7)。
所有者不明土地管理制度は、所在等不明となっている所有者が自然人である場合のみならず、法人である場合であっても、利用することが可能である。
イ要件等
共同所有型私道について、所有者不明土地管理制度を利用するためには、その私道について「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分」がある必要があり、相互持合型私道について、所有者不明土地管理制度を利用するためには、その私道が「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」である必要がある(改正民法第264条の2第1項)。また、いずれの場合においても、所有者不明土地管理命令の発令には、所有者不明土地を管理人に管理させる必要性が認められなければならない。
所有者(共有者)の所在を知ることができないときの意味については、所有者 (共有者)がどのような者であるか(自然人であるか、法人であるか等)によって分けられるが、その内容については、前記1(4)イ参照。
いずれのケースにおいても、この要件の充足が認められるためには、私道(土 地)の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など、必要な調査をしても、所有者(共有者)を特定することができない、又は知ることができないことが必要となる。そのほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認したり、他に連絡等をとることができる者がいればその者に確認したりするなどの調査も必要とされる場合があると解される。
所有者不明土地管理命令を請求することができるのは、利害関係人であり(改 正民法第264条の2第1項)、ここでいう利害関係人とは、対象とされている土地の管理についての利害関係を有する者である。
利害関係があるか否かについては、最終的には裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互持合型私道について工事を行う場合において、同24 意を得ることが必要な所有者(共有者)が所在等不明であるときは、一般に、工25 事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第38条第2項(改正後特措法第42条第2項)は、所有者不明土28 地管理命令の請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、その請求をすることができることとされている。「所有者不明土地」、「その適切な管理のため特に必要があると認められる場合」の意味については、前記4(1)イ参照。
なお、改正後特措法第42条第2項については、改正法により、所有者不明土地管理命令の請求権者に関する民法の特則規定が第38条第2項として設けられた後、特措法改正法の一部を改正する法律により、同条が第42条に改められた。
ウ手続の流れ35
(ア)所有者不明土地管理命令の請求
所有者不明土地管理命令の請求は、私道の所在地を管轄する地方裁判所に行う必要がある(非訟事件手続法第90条第1項)。
所有者不明土地管理命令の請求をする際には、「申立ての趣旨及び原因」並びに「申立てを理由づける事実」等を記載した申立書を提出する。
申立添付資料として、所有者不明土地管理命令の対象となるべき土地の所有者(共有者)が所在等不明であることを証するための資料等が必要となる。
なお、請求の際には、管理人の報酬を含む管理に要する費用の確保のために、裁判所の判断により、管理費用の予納を命じられる。
(イ)所有者不明土地管理人による私道の管理
裁判所により選任された所有者不明土地管理人は、所在等不明の所有者(共有者)に代わって私道の管理を行うこととなるため、私道の工事等を行う場合において、所在等不明の所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、所有者不明土地管理人の同意を得ることにより、工事等を行うことができるようになる。
もっとも、所有者不明土地管理人の権限は、原則として、保存行為及び所14 有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的15 とする行為に限定されている(改正民法第264条の3第2項)。所有者不明16 土地管理人が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、裁17 判所の許可を得る必要がある。私道について所有者(共有者)全員の同意が18 必要となるような工事を行う際には、一般的には、所有者不明土地管理人は19 裁判所の許可を得る必要がある。【P】
(ウ)所有者不明土地管理人による管理の終了
裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならないこととされている(非訟事件手続法第90条第10項)。「財産の管理を 継続することが相当でなくなったとき」とは、土地の管理の必要性がなくなった場合や、管理に要する費用を支弁するのが困難である場合等をいうものと解されている。
また、所有者不明土地等の所有者が自己に所有権が帰属することを証明したときは、当該所有者の申立てにより、裁判所は、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならないとされている(同条第11項)。
コラム:改正民法② ○不在者財産管理制度・相続財産清算(管理)制度と所有者不明土地管理制度との適用関係 不在者財産管理制度や相続人不分明の場合の相続財産清算(管理)制度といった既存の財産管理制度と、新たに設けられた所有者不明土地管理制度とは、要件や効果が異なるため、ある財産管理制度の要件を満たす場合に、他の制度の適用を排除することとはされていない。例えば、土地の所有者の所在が不明であり、不在者財産管理制度と所有者不明土地管理制度の要件をいずれも満たすときは、利害関係人としては、いずれの財産管理制度も利用することができる。実際にどの財産管理制度を利用するかは、手続の目的、対象となる財産の状況や、管理人の権限等の違いを踏まえ、個別具体的なケースに応じて、適切な制度を申立人自身が適宜選択することが想定される。 また、ある土地の所有者について不在者財産管理人等が選任されている場合において、当該土地について所有者不明土地管理命令の請求がされることもあり得る。もっとも、土地の所有者について不在者財産管理人又は相続財産管理人が既に選任されている場合には、その土地を含む当該所有者の財産全般の管理がその管理人に委ねられることになるから、それとは別に、所有者不明土地管理命令を発する必要は基本的にないものと考えられる。そのため、そのような場合において、当該土地について所有者不明土地管理命令の請求がされたときは、通常は却下されるものと考えられる。 他方で、ある土地について所有者不明土地管理人が既に選任されている場合であっても、その土地を含む当該所有者の財産全般を管理するために、不在者財産管理人又は相続財産清算人の選任が必要となることもあり得る。そのような場合には、当該土地の所有者について不在者財産管理人等の選任の申立てがされたときは、不在者財産管理人等の選任が認められることもあるものと考えられる。不在者財産管理人等が選任された場合には、所有者不明土地管理人による管理を継続する必要はないため、基本的には、所有者不明土地管理命令を取り消すことになると考えられる。 |
コラム:改正民法③ ○ライフラインの設備設置権・設備使用権の創設 現行法では、他人の土地や導管等の設備を使用しなければ電気、水道、ガスなどのライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、民法の相隣関係規定や下水道法第11条等の類推適用により、他の土地への設備の設置や他人の設備の使用が可能と解されているが、類推適用される規定は必ずしも定まっていない。 そのため、私道の隣接地を所有する者が自己の土地にライフラインを引き込むために当該私道に設備を設置し、又は当該私道内の設備を使用する必要がある場合において、私道又は設備の所有者・共有者の一部が所在等不明であるケースや設備の設置・使用を拒むケース等では、設備の設置・使用をすることが実際上困難であり、対応に苦慮する事態が生じていた(私道の所有者等から不当な承諾料を求められることもあるといわれている。)。 そこで、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利(設備設置権)又は他人が所有する設備を使用する権利(設備使用権)を有することが明記された。 あわせて、他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者の権利に配慮し、設備の設置・使用の方法、事前の通知や償金の支払などに関するルールが設けられるなどの改正が行われた(改正民法第213条の2、第213条の3)。 |
コラム:改正民法④ ○設備設置権・設備使用権と共同所有型共有私道 共同所有型私道の隣地を所有する者が、当該私道に継続的給付を受けるための設備を設置し、又は当該私道の共有者が共有する設備を使用しようとする場合に、当該私道の共有者の一部が所在等不明であったり、設備の設置・使用に反対していたりするケースがある。 このようなケースで、私道の共有者が設備の設置や使用を認めることは、共有物の管理に関する事項(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)に該当すると考えられるため、当該私道の共有者の持分の過半数の同意が得られれば、隣地所有者は、当該私道に設備を設置し、又は私道共有者が共有する設備を使用することが可能である(改正民法においては、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判や、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を活用することも可能であることにつき、前記1(4)及び(5)参照)。 また、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないときは、当該他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる旨が明確化された(民法第213条の2第1項。前記コラム〔48ページ〕参照)。 そのため、隣地所有者は、設備の設置等について私道の共有者の過半数の同意が得られなくとも、上記の設備設置権・設備使用権に基づいて、当該私道に設備を設置し、又は私道共有者が共有する設備を使用することができる。私道の共有者の一部が所在等不明である場合には、隣地所有者は、公示による意思表示によって事前通知を行った上で、当該私道において設備の設置・使用をすることができる。 なお、私道を使用する私道共有者が、隣地所有者による設備の設置・使用に反対している場合には、一般に自力執行は禁じられていることから、隣地所有者は、妨害禁止の判決を得た上で、設備を設置・使用することとなる。 | |
コラム:改正民法⑤ ○隣地使用権及び越境した枝葉の切取り (1)隣地使用権 私道において導管等の工作物の設置工事等を行おうとする場合に、隣地を使用する必要があるケースがある。 現行法では、土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で、他人の所有する隣地の使用を請求することができるとされている(改正前民法第209条第1項本文)。 しかし、「隣地の使用を請求することができる」の解釈については争いがあり、例えば、隣地の所有者等の所在等が不明である場合に隣地を使用することができるか否かは必ずしも明確でなく、また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的のために隣地を使用することができるか否かが不明確であるとの指摘があった。 こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、①境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去若しくは修繕、②境界標の調査又は境界に関する測量又は③改正民法第233条第3項の規定による越境した枝の切取りの目的のため必要な範囲内で、隣地の所有者等の承諾がなくとも、その使用する権利を有することが明らかにされるとともに(改正民法第209条第1項)、隣地所有者及び隣地使用者の利益を保護するために、その使用方法の限定や事前通知などの規律が新たに設けられた(同条第2項~第4項)。 (2)越境した竹木の枝の切取り 私道の管理の一環として、隣地から越境した竹木の枝の切取りが必要となるケースがある。 現行法では、土地所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、竹木の所有者に対して枝を切除させることができるとされている(改正前民法第233条第1項)。もっとも、土地の所有者が自ら枝を切り取ることを認めていないため、竹木の所有者が切除に応じない場合には、土地の所有者は、訴えを提起し、その所有者に枝の切除を命ずる判決を得て、強制執行の手続をとるほかない。また、竹木が共有物である場合には、竹木の各共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、請求に応じて枝の切取りをすることができないと解されている。そのため、これらの枝の切取りに関する規律は、煩雑であり、合理的でない等の指摘がされていた。 こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、土地の所有者は、①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、又は③急迫の事情があるときのいずれかの要件を充たした場合には、越境した枝を自ら切り取ることができるとされた(改正民法第233条第3項)。また、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるとされた(同条第2項)。 |
参考
月刊登記情報2022年9月号(730号)きんざい
法務省大臣官房参事官大谷太、法務省民事局付宮﨑文康、法務省民事局付谷矢愛、法務省民事局付山根龍之介「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)について」