登記研究[1]の記事について、考えてみたいと思います。「・・・・・」以降は私見です。
事実関係
1 受託者Aが、4000万円で土地をBから買い取り、代金を支払った。
2 売買代金の内訳は、信託財産から1000万円、Aの固有財産(信託法2条8項)から3000万円。
3 土地の所有権は、受託者Aに持分4分の1、個人A持分4分の3、それぞれ移転した。
4 受託者としてのAと個人A、売主のBは、所有権移転の登記申請を行い、受託者としてのAは、信託の登記申請を行った(信託法34条、不動産登記法98条1項、不動産登記令5条2項)。
登記申請時における登記事項(不動産登記法59条、不動産登記令3条)
登記記録・・・信託の登記の目的は、受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託(不動産登記令3条11号ホ)。登記の原因及び日付 ○○年○○月○○日売買。登記記録の権利部(甲区)の記録事項である、所有者に関する事項の所有権の登記名義人は、住所 持分4分の3A、住所 受託者A(受託者持分4分の1)となる。
登記識別情報・・・登記識別情報は、受託者Aに対して1通、個人Aに対して通知されない。
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登記申請情報など
所有権移転登記申請
登記の目的 所有権移転
原因 年月日売買
権利者 住所 持分4分の3 A(?)
住所 持分4分の1 A(?)
(信託登記申請人) 住所 A
義務者 住所 売主B
登記記録
登記の目的・・・所有権移転
受付年月日・受付番号・・・年月日第○○号
権利者その他の事項・・・原因 年月日売買
共有者 住所 A (受託者持分4分の1)
住所 持分4分の3 A
登記の目的・・・受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託
受付年月日・受付番号・・・余白
権利者その他の事項・・・信託目録第○○号
信託目録
委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所(不動産登記法97条1項1号)のうち、委託者は委託者の住所氏名、受益者は受益者の住所氏名。持分は記載されない。Aの住所氏名は、委託者欄と受託者欄どちらにも記録されない。
土地の売買契約を締結する前に、信託行為と信託の変更において必要な行為
信託行為と信託の変更で、信託財産である金銭の管理方法について、土地の売買契約が禁止、限定されていないか。限定されている場合、基準をクリアしているか(信託法26条)。
登記原因証明情報に必要な記載
・売買契約の締結。
・所有権留保特約(売買代金を売主に支払った時に所有権が移転するという決め事)がある場合、売買代金を支払ったこと(により所有権が移転したこと。)。
・所有権の持分(不動産登記令3条9号)。税務上記載が必要な場合、売買代金の内訳。
・Aの住所氏名を記名押印(または電子署名。)。受託者Aの住所氏名を記名押印(または電子署名。)。
登記識別情報について
受託者A・・・不動産の所有権登記名義人であり、登記申請人なので通知される。
個人A・・・不動産の所有権登記名義人であり、登記申請人でもあるが、信託登記の申請人ではない。登記識別情報は通知されない。
個人Aに登記識別情報が通知されない理由について
不動産登記令8条2項2号を類推適用しているのかなと思いました。登記識別情報通知に記録される登記の目的が、受託者A持分4分の1は信託財産の処分による信託(不動産登記令3条11号ホ)、とすることにより、持分4分の3は個人Aに売買により移転したことを証明出来るのではないかと考えます。そのため後続登記において、信託財産持分4分の1を売る場合とAの固有財産である持分4分の3を売る場合、どちらでも利用できるのではないかと考えます。Aの真意、受託者Aの真意に基づく申請であることを確認出来るからです。
[1] 879号令和3年5月P137、質疑応答8005