照会事例から見る信託の登記実務(16)

登記情報[1]の横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(16)」からです。

問2 信託行為に「建物の建築につき受益者の承認が必要である旨」の定めがある場合に、所有権保存の登記及び信託財産の処分による信託の登記の申請情報に、受益者の承諾を証する情報が必要となりますか。あるいは、添付する登記原因証明情報に、受益者の承認を得て建築した旨を記録する必要はありますか。

申請される登記は、所有権保存の登記及び信託財産の処分による信託の登記であり、所有権保存の登記に関しては、保存行為であり、登記原因は存在しません。

信託の登記に関しても、信託財産を公示するものであり、登記原因に相当するものは存在しないことから、受益者の承諾を証する情報を検討する余地はないと考えられます。

実質的にも、建物を建築することについて受益者の承諾を求められるのは、信託財産である建物を建築する前であり、既に表題登記がされている段階において、仮に受益者が建物の建築を承認しなかったとしても、所有権保存の登記及び信託の登記をすることは可能です。また、不動産登記令7条1項6号に定める申請情報と併せて提供しなければならない情報にも該当しないことから、検討の余地はないと考えます。

 記事記載の通りだと考えます。権利登記の問題ではなく、設計契約や工事契約などで受託者名義で契約を行うことが出来るか、建物表題登記(新築)申請時において、所有権証明書、住所証明書の建築主等の氏名を受託者とすることが可能なのか、というところだと思います(信託財産の処分により、という記載があるので、借入れを考慮しないものとします。)。

参考 国土交通省 建築確認制度

https://www.cbr.mlit.go.jp/kensei/sumai_topics/kentikukakuninseido.htm

近時、このような事前審査と思われる照会や、登記官側に問題点を探させる内容の照会が増加傾向にあります。筆者の経験では、このような照会に限って、登記申請時に、申請情報に「何月何日相談済み」などと記載し、審査で補正箇所が明らかになっても、「事前相談済みであり、補正には応じられない。」等の対応がされることがあります。照会制度が資格者代理人の責任回避の道具にされている現状があるとすれば、今後の登記相談のあり方について、見直しが必要であると考えています。

 私はこのような現状について知らないのですが、著者が記載していることが事実だとすると、見直しは必要だと思います。


[1] 719号,2021年10月,(一社)金融財政事情研究会,p52~

10月相談会のご案内ー家族信託の相談会その37ー

お気軽にどうぞ。
家族信託の相談会その37
2021年10月22日(金)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え
1組様 5000円

場所 司法書士宮城事務所(西原町)
要予約   司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp
後援  (株)ラジオ沖縄

民事信託支援業務のための執務指針案100条(8)

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(8)」を基に考えてみたいと思います。

45 家族信託とは複数の者の利害が絡む「しくみ」である―そのリスクの源泉

 私の理解では、最初に信託法という仕組みがあり、それを親族の財産承継にどうにかして使えないかと当てはめ始めた。当初は受託者に就任出来ないのか、受託者法人の役員に就任出来ないか、震災復興支援、農地関連など手探りでした。その後、民事信託支援業務という、記事での前段事務(司法書士法3条)と信託登記の代理申請という後段事務とされている事務に法的根拠を求め始めた、というようなものです。司法書士法施行規則31条が法的根拠であるという司法書士もいるかと思います。

46 司法書士が信託分野に果たした功績とその意義

 私が司法書士試験に合格した年の新人合同研修では、七戸克彦教授が信託法改正について言及していたことを未だ覚えています。司法書士はこれから、簡裁訴訟代理等関係業務を中心としてプチ弁護士として生きていくのか、信託法改正を契機として民事信託分野、債権・動産譲渡登記を扱って生きていくのかの分岐点に在る、というような内容だったと思います。2007年のことです。成年後見業務を中心に行うと決めていた私は、民事信託や債権・動産譲渡登記を将来扱っていきたいと考えていました。

47 民事信託支援業務の「支援」とは前段事務を意味する

業務の低廉、高品質については、私にはどのような基準なのか分かりませんでした。成年後見人として遺産分割調停の代理や訴訟代理、強制執行は行いましたが、本人訴訟支援業務の経験件数が少ないからだと思います。記事での低廉、高品質というレベルは、過払金返還請求訴訟を除く本人訴訟支援業務における低廉、高品質を指しているのだと思います。

成年後見業務における低廉、高品質を私の理解するレベルで行うと、事務所経営は出来ません。

ただし、最近は民事信託専門、家族信託専門コンサルタントを肩書にしていた司法書士が民法や社会福祉法改正を受けて、相続や成年後見業務に重心を移してきているようです。1年で成年後見人に30件就任したという記事を読み、私なら不可能だと感じました。

48 前段事務と実体関与は異なる

完全な訴状、瑕疵のない準備書面を作成し続けるのは、弁護士でも難しいのではないかなと考えますが、どうなのでしょうか。報酬は、おそらく報酬自由化の前の報酬基準が目安になるのかなと思います。

49 最近の気になること

司法書士会内における批判の声の高まりについて、私は過払金返還請求の際の宣伝や報酬とは、2点異なるものを感じます。宣伝や報酬については、日本司法書士会連合会で基準を作成することが可能であり、宣伝については既にあります。

1点目は、司法書士が、司法書士を始めとする士業やその他の専門家に対してビジネスを始めたことです。司法書士間で対価を授受するという行為を通して上下関係が出来たことです。

2点目は、1点目と重複する部分がありますが、対価を受け取る側のビジネスを展開している側に対して批評を行うと、その集団から排除されることです。私は、一般社団法人民事信託推進センターから、除名されました。この事実は今後、残念な形で残り続けると思います。著作権法違反が主な理由のようですが、裁判手続きに載せない事実、懲戒処分の申立てもされていない事実を併せると、批評をすると多数決で排除される、という構図が残ります。今後は信託の学校と共に、排他的な法人として存続は難しいのかなと思います。

 「○○という誤った条項を見かけることがありますが、」「分かっていない専門家が多くみられますが、」から始まり、少数での勉強会内で固まった考えを正しいと広めるのもどうなのかなと感じます。

(2)東京地判令和2年12月24日と日司連会長挨拶

東京地判令和2年12月24日については、司法書士が信託監督人に就任したことと辞任しなかったこと、信託期中に少し中に入り過ぎたのではないかという印象を持ちました。

日司連会長挨拶については、実態との乖離を感じるので記事に記載されているような感銘を受けることはありませんでした。

50 指針案のあてはめの実践編について

51 裁判例の事実認定の検討と分析

一部の親族(推定相続人)の利益となるであろうことを想定しながら、信託組成を支援したか?

推定相続人の利益を平等にしたい場合は、法定相続分によるか全員等価で分けることが最善な方法だと思います。一部の親族(推定相続人)の利益になることは、信託組成の支援において優先的な判断基準にはならないのかなと思います。

私なら遺言作成を始めに説明したかもしれません。

潜在的紛争性のある事件として、弁護士への相談を助言しただろうか?

連絡が取れるのであれば、長男を含めた関係者全員に、それぞれ弁護士への相談を助言したと思います。

長男と親族との間で紛争を生ずる蓋然性を予測できただろうか?

出来なかった可能性があります。

潜在的な紛争可能性を予測すべきであっただろうか?

信託の終了方法に、少し幅を持たせても良かったかなとは思います。

「提案」と「情報提供」との差異は何か?

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」について(意思決定支援ワーキング・グループ)2020年(令和2年)10月30日

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/20201030guideline.pdf

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編」

人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会 改訂 平成30年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf

の範囲を超えないことが、提案と事実認定されないために必要だと考えます。


[1] №130、2021.8.P21~民事法研究会

照会事例から見る信託の登記実務(14)について

登記情報[1]の横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(14)」から考えてみたいと思います。

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 委託者の死亡を始期とする信託契約を確実に履行するために遺言の執行の機能が併用されることがあるようです。このような場合には、契約による信託の登記の添付情報として遺言書が提供されるなど、信託の登記が複雑な形態となって申請されることになります。

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 問いは、信託契約に始期を付けるということなので、登記原因証明情報は信託契約書と委託者が死亡したことを証する除籍(戸籍)謄抄本となり、遺言書ではないと考えます。また登記権利者は受託者、登記義務者は委託者の相続人か信託契約書その他の信託行為で委託者の地位を承継した者です(信託法146条)。

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 賃借権設定の仮登記がされている場合、転貸は、信託法3条1項1号でいう財産の処分に該当すると解されるので、賃借権を信託財産とすることは許されるものと考えられ、その仮登記の申請も、することができるものと思われます。

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申請

登記の目的 何番賃借権転貸仮登記及び信託仮登記

原因 年月日転貸(信託)

賃料 1月○万円

特約 譲渡、転貸ができる

権利者(転借権者) 受託者住所氏名

義務者 委託者住所氏名

登記記録

付記〇号

何番賃借権転貸仮登記及び信託仮登記

年月日受付〇号

原因 年月日転貸(信託)

権利者 受託者住所氏名

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信託仮登記

信託目録第〇号

(信託法3条、26条、民法612条、613条、不動産登記法81条、98条、107条、不動産登記規則3条1項4号)

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C土地の委託者A、受託者B。C土地について、建物所有を目的として賃貸借契約設定仮登記。賃貸人B、賃借人D。Dを委託者、Bを受託者として賃借権移転の仮登記及び信託の仮登記は可能か。

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申請

登記の目的 何番賃借権移転仮登記及び信託仮登記

原因 年月日転貸(信託)

賃料 1月○万円

権利者 受託者住所氏名B

義務者 委託者住所氏名D

登記記録

付記〇号

何番賃借権移転仮登記及び信託仮登記

年月日受付〇号

原因 年月日転貸(信託)

権利者 受託者住所氏名

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信託仮登記

信託目録第〇号

(信託法3条、26条、民法612条、613条、借地借家法3条、22条、不動産登記法81条、98条、107条、不動産登記規則3条1項5号)

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申請

登記の目的

〇番付記〇号仮登記根抵当権抹消及び仮登記信託抹消

年月日受付〇号

仮登記根抵当権抹消 年月日解除

仮登記信託抹消 年月日終了(解除?)

権利者 委託者住所氏名

義務者 受託者住所氏名

登記記録

〇番付記〇号仮登記抹消

年月日受付〇号

年月日解除

登記原因証明情報

・受益者の意思決定は、信託行為によりセキュリティエージェントが行うこと。

・(委託者に、解除希望日がある場合)

・委託者から、受託者とセキュリティエージェントに対する、根抵当権の解除希望通知。

・セキュリティエージェントから受託者への根抵当権解除通知。

・受託者から委託者への解除の承諾。

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〇番付記〇号信託仮登記抹消

年月日解除

(不動産登記法110条)


[1] 717号2021.8きんざいP36~

「民事信託における利益相反と受託者の対応」について

会報信託[1]の記事からです。

遺言信託

委託者A 受託者 Aの子 受益者 Aの後妻B(Aの死亡時点で70歳)、Aの子

残余財産給付者 Aの子

信託目的

・Bが、亡くなるまで、今住んでいるA名義の土地建物に、希望する限り住むこと。

・信託財産の価値の維持。

信託財産

・自宅の土地建物

・アパートとして管理している土地建物(管理費用毎年500万円)。

・お金1億円

 想定事例として遺言信託を選んだのは、信託契約で第1次受益者が亡くなった時点から検討を始めることが出来るからなのかなと思いました。

受託者の権限

・自宅の土地建物を売却することが出来ない。

・アパートは受託者の裁量で売却することが出来る。

後妻Bの受益権

・アパートの賃料を、毎月全額受け取ることが出来る。アパートが売却された場合は、毎年500万円の給付を受け取ることが出来る。

・希望する限り自宅に住み続けることが出来る。

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受益者として指定されているAの子の受益権については、記載を見つけることが出来ませんでした。

・受託者Aの子が、アパートの土地建物を売却することは、受託者の善管注意義務、公平義務に反するか?

 原則として反しないと考えます。反するとすれば、取引相場より低額で売却した場合など、不合理な理由がある場合に限られると思います。

 生涯受益者・・・残余財産の受益者、残余財産の帰属権利者に対する用語だと思いますが、初めてみました。

 受託者がアパートを売却した場合について、権限外行為とされた場合の攻撃防御方法が展開されていますが、原則として権限内なので、どのような場合に権限外行為と認定されるのか、よく分かりませんでした。

・Bの受益権である、毎年500万円の給付を受ける、というのは、最低保障としての500万円なのか、生活出来る程度の金額としての500万円なのか?・・・文章を読む限り、生活出来る程度の金額としてだと考えます。

・アメリカの事案

受託者が、買主や仲介業者の利益を重視して、信託財産の売却を行った場合、忠実義務違反に認定され、損害分と売却しなければ値段が上がっていた分も、損害として賠償を命じられたケース。

 共同受託者で、遺言信託発効時に裁判所に解釈を求める訴えがされたケース・・・財産の売却をしてから揉める、など時間と費用がかかる訴訟を回避することが出来た。示唆として、受託者が利益相反の影響を受け得る場合、法律面や資金面で助言者を立てておく、裁判所の指示を早めに受けるなど。

後見・遺産管理への広がり

・意思能力、判断能力が衰える前については、何らかの繋がりを持っている方が大半で、そのときには、多少なりともお互いに扶けあって生きていた方の方が多いと思います。これが後見制度、信託制度に載ると構造的利益相反、潜在的な利益相反、問答無用ルールにさらされることになる。ただし、法律を前面に出すよりは、今までの生活を極力尊重する方が結果として上手く行く、という箇所は同意です。


[1] 286巻2021年季刊第Ⅱ号P19~信託協会

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