信託スタートに条件をつけることはアリ?
2020年4月のある士業の書かれたメールマガジンです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
信託スタートに条件をつけることはアリ?
■■ 死亡ならOK
委託者が死亡したら信託スタート。
これって遺言信託ですよね。
これは全く問題ないですよね。
条件成就は誰が見ても一目瞭然。
あ、遺言信託といっても、信託銀行がする遺言じゃないですよ。
あれって、信託銀行が遺言作成をサポートして、その遺言を預かって、遺言執行をするもの。
遺言のサポートであって、信託ではありませんので。
ここでいってる「遺言信託」とは信託法3条2号ね。
遺言で信託を設定するものです。
■■ 認知症になったらスタートは?
これが問題!
理由は、大きく3つあります。
一つ目。
基準が曖昧です。
「認知症になったら」って、基準は何?
・認知症の診断書がでたら?
・成年後見の診断書で、「後見相当」にチェックが入ったら?
・後見開始の審判が確定したら?
ですから、「認知症になったらスタート」では曖昧で、いつ条件が成就したかがわからないです。
条件成就が曖昧。
認知症って波のよう、調子のいいときもあれば悪いときもある。いつから認知症って、判断できないですからね。
■■ 二つ目 委託者の意思が入ることも
たとえば、条件を「成年後見の診断書で、『後見相当』と診断されたら」
という条件設定をしたとしましょう。
つまり、委託者(多くの場合は親)を医者に連れて行かなければなりません。
子供が、「ねぇ、お父さん、最近、ちょっと心配だからお医者さんに行こう?」
と言っても、お父さんが「いや、わしゃ、まだまだ大丈夫じゃ!」(笑)
といって、医者に行ってくれないと信託がスタートできません。
条件成就に、委託者の意思という不確定要素が入っちゃうんですね。
これはまずいですね。
一方で、「●●が大学に合格したら」という条件なら、委託者の意思も入らないし、明確ですよね。
■■ 信託の登記ができるか?
これ実は難しい。というかほとんどNG!
信託の登記について、
条件成就前に委任状と、登記原因証明情報をもらっていいかという問題があります。
ギリギリ委任状はいいとしても(イヤ、たぶんNGでしょう)
登記原因証明情報は登記原因が成就していないのにもらうわけにはいきません。
だってその内容に
1.○年○月○日信託契約を条件付きでした。
2.△年△月△日条件が成就した。
という書類に、実印をもらうわけですから、これって虚偽の書類ですよね。
仮に、日付を空白にしてサインをもらっておいて、日付を後から書いたとしても
「あれ、条件が成就したってことは、この人認知症だよね。じゃ、このサインって行為能力がないのにしたってことじゃん。ダメじゃん」(笑)
ってなってしまいます。
ですから、「認知症になったら信託スタート」だと、信託の登記でつまずいてしまいます。
このように、「認知症になったらスタート」という条件は、とても危険な条件ですね。
僕は絶対にしません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
読んでの感想は、任意後見監督人が選任されたとき、という条件にすれば良いのではないか、ということでした。任意後見契約を締結していない場合は、成年後見等が選任されたとき、でも良いと考えます。
「基準が曖昧」、「委託者の意思が入ることも」、「信託の登記ができるか?」など、この方が危惧していることも、一定程度解決出来ます。登記に関しては、信託契約締結の際は、登記しない。条件が成就したときに登記申請することになります(仮登記は不可 登記研究508号P172「質疑応答7096」)。もう一つの方法としては、自己信託を設定して条件が成就したら第2受託者に受託者の変更登記を申請する。私は後者を利用します。
引き続きメールマガジンです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■■ ではどうするか?
スタートに条件をつけない。即スタート。
もし、「わしが元気なうちはわしがする」というなら(そもそも、そうゆう人は信託しないと考えられますが)指図権を設定してもいいでしょうね。そういえば、株式の信託では、指図権はよく設定しますよね。
あっ、株式の信託も、認知症でスタートの条件をつけると、株式の譲渡承認の決議で問題が生じますので、気をつけてくださいね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
指図権については、株式の信託の場合のみ利用を検討します。理由は、私が信託契約書を作成した場合、指図権の管理(使い方、内容証明・配達証明、確定日付など種類、文言の調整)が多くなり、かえって信託が上手く回らず私や関係者の負担が大きくなるのではないか、と現状考えているからです。なので、受益者の強い希望がある場合で、必要なときに利用を検討します。なお、受託者が信託会社、信託銀行等の場合は要件が厳格なので指図権有が原則です。