民事信託について、他の専門家に相談する場合など

・民事信託士が作成した信託契約書(公正証書)が、他の民事信託士に持ち込まれる場合はどのような場合か?

 民事信託士という民間資格があります。

(一社)民事信託士協会ホームページ

https://www.civiltrust.com/shintakushi/introduce/index.html#

民事信託士の能力担保について、ホームページから抜粋します。

Q7 民事信託士にはどのような能力担保を考えていますか

当協会では、以下のような体制によって民事信託士の能力を担保することとしました。

第1に、民事信託士検定を受けることです。検定を受けることができるのは、司法書士と、弁護士資格のある方です。研修プログラムを終了した後、合否の判定を経て「民事信託士」となる資格が付与されます。

第2に、民事信託士名簿の作成です。検定に合格した方は、当協会に入会していただくことで「民事信託士」の名称を使用することが可能となります。当協会は、民事信託士に関して「民事信託士名簿」を作成し管理します。民事信託士の資格は、3年で更新することを予定しております。 第3に、継続研修の実施です。民事信託士は、日々その研鑚を行い、能力の向上に努める必要があります。また、情報交換を行い、顔の見える関係をつくることが重要となります。そこで、義務研修を予定しております。この研修への参加は、3年毎の名簿更新の際の判断材料となります。

 費用は確実ではありませんが、(一社)民事信託推進センターに入会していること(24,000円/年)、民事信託士検定60,000円、民事信託士会員の入会金25,000円、民事信託士会員の会費年額(12000円/年)、民事信託士会員の更新登録料(10,000円/3年)というところです。月額最低4,000円というところでしょうか。

参考 (一社)民事信託士協会 入会金・会費規定

https://www.civiltrust.com/shintakushi/gaiyou/kitei.pdf

 民事信託士が作成した信託契約書について、他の民事信託士に持ち込まれる場合としては、委託者の親族、友人、勤務先などから「ちょっと他の専門家にみせた方が良いんじゃない?」と勧められる場合が考えられます。また委託者、受託者当人が、「こんなはずじゃなかったのに。」と考えて他の専門家の意見を聴きに行くということも考えられます。民事信託士協会のホームページには名簿があるので、どちらかというと他の専門家に相談したらたまたまその方が民事信託士だった、という可能性が高いような気がします。

 他の専門家に相談することは、信託当事者にとっては何も責められる行為ではありません。かえって現在依頼している民事信託士への信頼が深まる可能性もありますし、反対に相談した専門家に代えることで上手くいくならその方が良いと思います。最初に担当した民事信託士も、信託当事者のそのような行動に対しては歓迎する方の方が多いのではないかと思います。私も他の士業の話も聴いてみてくださいと相談の際などに言う事が多くあります。

・受託者が何でも出来る信託は有効か?

 裁量型信託のことだと思いますが、「何でも出来る」の定義によるのではないかと思います。所有者のように何でも出来る、のであれば信託の成立要件を欠く可能性が高いと思いますし(信託法2条1項)、信託法の範囲内で何でも出来る(信託法2条5項、信託法第三章受託者等)ということであれば、原則として有効といえるのではないかと考えます。また信託行為の記録と実際の行動・結果との差異も有効、無効の判断材料の一つになると感じます。

・公証人には、受託者に対して受託者の権利義務を説明する必要があるか?専門家が就いている場合とそうでない場合で違いはあるか?

 公証人は、法令に違反する契約などを認証することが出来ないこと、当事者の前で読み聞かせることが必要なことから、受託者はその範囲で縛られると思います。他に公証人法その他の関連法令を守っている限り、各公証人の独立した判断に任せられていると考えます。

1条ずつ、1項ずつ受託者に対して確認していく公証人は今までみたことがなく、どちらかというと委託者に時々話しかけるような方が多いと感じます。

公証人法26条 公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス

公証人法39条1項 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス

・信託財産は、誰のものでもない財産か?

 信託法2条3項には、この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。とあります。信託法2条1項には、この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう、とあります。よって、信託財産は受託者に属する財産で、一定の目的に従い必要な行為をすべき財産である、ということが出来ます。

・信託法29条2項本文の「善管注意義務」を全く排除することは、信託設定意思はなく、そもそも信託ではないことになるか?軽減はどの程度許されるのか?信託口口座と損失補てん義務との関係は?

 信託法29条2項本文を読んでみます。受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする、とあります。    信託行為の別段の定めとして、善管注意義務を全て排除することは信託法の制度趣旨上、出来ません[1]。この場合、受託者が実際の信託事務で善管注意義務を果たしていると認められる場合はどうなるのでしょうか。そもそも信託の成立要件を欠くので、受託者が信託事務を行うことは不可能と考えることも出来るように思います。そうであれば、何らかの事情で善管注意義務を軽減したい場合は、信託行為に何も記録しない方が良いといえるのではないかと考えます。

 信託口口座を開設する際には、善管注意義務の定めが条文通りに記録されていないと開設出来ないという金融機関があります。金融機関としては、そのような姿勢にならざるを得ないと思います。

 受託者の損失補てん義務(信託法40条~)との関係については、受託者の行為時を基準とするので、信託行為時において善管注意義務を定めたから、自己の財産と同一の注意義務を定めたから、というのは私はあまり関係がないと考えています。それよりも、どれだけ損失・変更が生じたか、原状回復を行うか否かを計算する基準を設けることが委託者、受託者、受益者にとって信託を滞りなく進めていくために大切だと思います。

・何らの限定なく利益相反行為が可能な仕組みになっている場合には、受託者が自らの完全な所有物として、そこからの利益を受ける仕組みになっているというべきであり、委託者に信託設定意思はなく、信託ではないといえるか?

 信託法31条2項1号の定めがある信託行為のことを指しているのだと思います。私は原則として有効だと考えます。利益相反行為について、信託行為で事前承認を得ていると考えられるからです。利益相反行為が可能な仕組みになっているからといって、受託者が専ら利益を受けるわけではありません。受託者じゃないと買う人がいない不動産、受託者の所有にしないと利用できない不動産などはあるのではないかと思います。

・脳梗塞で3回以上倒れている方は、意思能力がないといえるのか?

 一概に決めることは出来ないと思いますが、受託者の任務終了事由や受益者代理人、信託監督人の就任要件として定めることは可能だと思います。

・家族民事信託とはなにか?家族民事信託と一般的な信託の要件に違いはあるか?

 家族信託や民事信託と呼ばれる信託を合わせて家族民事信託と呼んでいるのかなと思われます。一般的な信託は、信託法が定める要件を満たす信託のことだと思われます。私は違いはないと考えています。もし違いがあれば、家族民事信託は信託ではないということになります。

・委託者と受託者に信託契約を締結するという認識はない事例の場合にあっても、信託法3条1号によれば、信託契約は、委託者と受託者との間に、財産処分の合意と、受託者が一定の目的に従いその財産の管理処分等の行為をすべき旨の合意があるときに成立するのか?

 信託法3条1項1号では、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法、と記載されています。条文通り、当事者間では信託契約が成立していると考えることが出来ます。金融機関や親族をはじめとする第三者が、このような信託に対してどのような対応をするのかは別の問題です。


[1] 寺本昌広「逐条解説新しい信託法[補訂版]」平成20年商事法務P113