民事信託契約書のうち、金融機関の対応に対する合意を取り上げる。
1 金融機関の対応に対する合意
1―1 条項例
(金融機関の処理に対する合意)[1]
□1委託者および受託者は、次の各号に掲げる金融機関の対応について確認、合意する。
□(1)受託者の任務が終了したとき、後継受託者が存在する場合には、金融機関は、当該信託契約に基づき、当該預金を後継受託者の信託専用口座に変更します[2]。信託財産に金融機関に対する借入金等の債務がある場合、金融機関が必要とするときは、後継受託者が当該債務の引受をすることを承認し、実際に債務引受が行われる時に受託者変更の手続を取ります[3]。
□(2)後継受託者は、名義変更手続きに当たり金融機関所定の書式により届けるとともに、受託者が変更になったことを証明する書類を提示するものとします。[4]
□(3)信託が終了した場合は、信託契約に基づき、金融機関は信託された金銭を残余財産受益者または残余財産の帰属権利者に払い戻します。払い戻し手続に当たっては、信託契約終了の事由を証明する書類、本人であることを証明する書類を提示するものとします[5]。信託財産に金融機関に対する借入金等の債務がある場合において、金融機関が必要とするときは、残余財産受益者または残余財産の帰属権利者が当該債務の引受をすることを承認し、実際に債務引受が行われた時に払戻しの手続を取ります 。
□(4)信託財産に金融機関に対する借入金などの債務がある場合、金融機関は当該債務と相殺したうえで、払戻しの手続を取ることが出来るものとします[6]。
□(6)信託契約が変更になった場合は、受託者、受益者(受益者代理が就任している場合は受益者代理人)は、2週間以内に、金融機関所定の書式により届けるとともに、変更契約書の原本を提示します[7]。
□(7)委託者、受益者、受託者およびその他の当該信託契約の関係者は、住所、連絡先の変更、死亡または後見人等が就任した場合その他の信託契約にかかる重要な異動があった場合は、速やかに事実を証する書類を提示し、
金融機関所定の書式により届け出るものとします。
□(8)金融機関所定の変更届を提出することを怠り関係者が損害を被った場合、金融機関はその責任を負いません。
【確認年月日】【金融機関名】【氏名】
1―2 解説
委託者兼受益者および受託者が、民事信託に関する金融機関の対応について予め確認、合意する条項である。実務上、信託契約の内容が一定程度固まった段階で、公証センター、金融機関及びその他の関係者と信託契約書(案)のやり取りを行う。信託契約の効力発生後、受託者の事務などを円滑にするためである。
金融機関は現在、信託口座開設に対して公正証書の作成を要求している所が多い。そこで、金融機関の対応についても信託契約書の中に盛り込み、金融機関及び当事者の認識を一致させ、お互いが不測の損害を被る可能性を低減する。
本条項は、信託契約の当事者自身でチェックを入れる。金融機関と専門家は公正証書作成前の段階で、本条項の修正など調整を行い当事者に説明する。
本条項によって、変更届等の書式がない金融機関にもその作成を促す。
[1] 参考として吉原毅「家族信託の発展と金融機関の対応について」『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版P157。
[2] 信託法56条、57条、58条、62条。
[3] 『CSのための金融実務必携』2015金融財政事情研究会P673~債務承継手続きのあらまし。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P94~担保。
[4] 信託法62条、75条、77条。
[5] 信託法163条から166条まで。175条から184条まで。
[6] 民法505条、506条、512条。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P151~相殺、払戻充当。
[7] 信託法149条、150条。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P231~届出事項の変更。