(一社)民事信託推進センターテーマ別勉強会の備忘録
定義
法律に、口座の定義についての記載はない[1](あれば教えてください)。
書籍[2]には、銀行などの金融機関が預金等の受払い及び残高を整理するため各顧客ごとに設ける勘定のこと。法令上はこの意味で用いられる、と記載されています。
口座の開設要件
・形式要件、実質要件、運用要件がある。
何となく分かるのですが、形式がなければ管理できないし、実質がなければ中身が空っぽだし、開設出来なければ運用できないので、分ける意味があまり分かりませんでした。おそらく、口座を開設して閉鎖するまでのことを考えれば良い、ということなのだと想像します。
勉強会の講義では、
1 その預金口座が受託者の名義であること。
2 受託者の個人口座と区別する名称が付されていること。
の2つを満たせば良いとのことでした。
1と2に加えて、
3 金融機関の内部のシステム上、受託者個人とは分離独立したCIF(カスタマー・インフォメーション・ファイル)コードを備えていること。
4 金融機関の内部手続きにおいて、受託者の個人口座とは異なる取扱いとなることが定められていること。
5 個別の信託契約書の内容に即した管理が行われる口座であること。
を要件とする記事[3]もあります。
私の場合は、口座開設前に次の要件を記載した書類を金融機関にFAXします。FAXでも送信記録が残るのですが、メールで済ませたいところですね。
(1)形式・名称は信託口、普通預金の特約付き問いません。
(2)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと
(3)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者の死亡が分かる書類と就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること
(4)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること
(5)キャッシュカードの発行
意外だったのが、(4)について、これは面白いね、というコメントをいただいたことです。そうなのかと新しい発見でした。また金融機関の中には、信託口口座を普通預金で作成した場合に、年間管理料を徴収するところもあるらしく、そのような場合は、金融機関の注意義務も(何らかの契約を交わしていなくても)大きくなると考えられる、というところは同感でした。
金融機関の懸念
- 預金口座への差押え
- 個人受託者の場合の死亡や後見開始のリスク
- 受託者の要件として意思能力の確認が必要か。
証券口座
・受託者は何をすべきか。注意義務のレベルは何か。
善管注意義務(受託者の能力、社会的地位、信託行為の内容から導かれる注意義務)を負うのか(民法644条、信託法29条2項)。
自己のためにするのと同一の注意(受託者個人の財産を管理するのと同じ注意義務)を負うのか(民法827条、信託法29条2項ただし書)。
・アメリカでは、自己のためにするのと同一の注意の方が義務のレベルが高い。
いくつかの基準[4]
・受認者は自ら有すると表明した専門的技能を実際に保持し、かつこれを行使しなければならない。
・受認者の成果は、サービスを提供する際のプロセスで評価される。
・受認者が負担する法的リスクが注意義務に影響を及ぼすことがある。
・受認者に対する評価は、関係者の合理的な期待と受認者の裁量に対する制約の影響を受ける。
・適用される法が異なると注意義務の内容も変化することがある。
・受認者の専門性に対する裁判所の評価。
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・委託者が能動的な場合、受託者が財産が減少させても良いと一筆取っておいても、金融機関(証券会社)が責任を取る場合がある。
・証券会社は、取引用の銀行口座を作る銀行を指定する権利があるか。
・証券会社が家族信託サービスを始める際の契約書類の定型化が難しい。
・現在、民事信託・家族信託サービスを提供していることが確認できる証券会社
・野村証券(株) 楽天証券(株) 大和証券(株)
上の3社のホームページから、サービスの仕組みを知ることは出来ませんでした。
大和証券(株)について、下の記事のように、家族信託サービスを使うメリットはないんじゃないかと言ってみたところ、委託者が株取引を好きな場合はあり得るということでした。世の中には色んな人が人がいるんだろうなと感じました。
https://miyagi-office.info/wp-admin/post.php?post=1629&action=edit
[1] 山中眞人「信託口座は難しくない―利用者のニーズと口座開設銀行の責任」『信託フォーラムvol.11』2019 日本加除出版
[2] 法令用語研究会『法律用語辞典』2012年 有斐閣
[3] 渋谷陽一郎「民事信託のための信託口預金口座(1)」金融法務事情2021号P62
[4] タマール・フランケル著 『フィデュ―シャリー「託される人」の法理論』P173~ 2014 弘文堂