登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(18)」からです。
受託者の権限が、信託目録上、一般人にも分かるように明瞭に公示されており、それを見れば、当該行為が、受託者の権限外行為であることが、その行為時、容易に判明する状態であったならば、受託者と権限外取引を行った相手方の悪意が、事実上、推認されよう。
信託目録の記録が、一般人にも分かるように明瞭に公示出来るのか、分かりませんでした。また受託者が権限外取引を行っても、信託目録上受託者の権限が明瞭に公示されている場合は、権限外取引の登記申請は、不動産登記法25条4号または5号により却下されると考えられます。
それゆえ、訴訟における要件事実論の構造と同様、信託目録に記録すべき情報は、予め手続的に決定することができる。如何なる情報が必要であり、かつ、不要であるかは信託登記の手続き構造から来る必然的な枠組みがある。
民事訴訟法における要件事実論の構造と、信託目録の構造に似ている部分がある、ということに同意します。
なお、信託目録のための整序された要約を実現するためには、信託契約書上の信託条項それ自体が、的確に整序されているものである必要がある。信託条項の要約が上手くいかない場合、元になる信託契約書における信託条項の内容(要件)自体が整序されていない場合も少なくない。
要約をせずに、抽出で済むような信託契約書を作成する必要があると考えます。
例えば、次のような積極的な禁止の定めに関する情報があり得るかもしれない。
―中略―信託法26条但書の定め
信託不動産の売却処分は禁止する。
信託不動産であることは、登記記録から明らかなので、売却の禁止が記録されれば目的は達成できるのではないかと感じました。また積極的な禁止に加えて、制限も必要な場合があると思います。
もっとも、高齢者の認知症対策や障害児のための家族信託では、適格者による受益者代理人や信託監督人が設置されていない場合(それらの設置は強制されていないし、不適格者による場合、受託者との共謀もあり得る)、受益者による主体的選択は期待できない。それゆえ、結果として、信託登記の仕組みが、僥倖にも、弱者である福祉型信託における受益者保護の防波堤になっているという意義を忘れてしまっても良いのか、という議論があり得る(極めて難しい論点である)。
現時点での私見です。契約時については、委託者が確認・同意をします。受益者保護の仕組みとして考えるとすれば、法定後見制度の発動を促すために、信託不動産の処分について受益者(法定代理人)の同意を要する、などと定めることです。
例えば、次のような信託条項が信託目録に記録すべき情報として提供された場合、その適法性・有効性をどのように判断すべきなのか(判断できるのか)、という実務論点である。
その他の信託の条項
本信託の残余財産の帰属権利者は、委託者の遺言で指定する。
信託法183条で禁止されていない条項について、当初申請時において、不動産登記法25条に基づき却下することは難しいと思います。
しかしながら、当該信託条項だけが無意味であるが、全体の信託の効果に影響がないような場合には、あえて、却下事由として評価しないという選択もあり得るかもしれない。
上のような場合、登記官の権限で、却下事由として評価できないのではないかと思います。
×
4信託の条項
(4)その他の信託の条項
受益権の相続
受益者法務太郎の相続人が受益権を相続する
第2次受益者となるべき者
受益者法務太郎の死亡時、受益権は消滅し、受託者が、新たに発生する受益権を取得すべき者を指定する
不整合として無効と判定される場合がある、という著者の記載に同意です。このような不整合な条項がある場合、上の条項が優先し、それが達成されない場合に下の条項が発効する、という風な解釈が出来るような条項だと、まだ良いのかなと感じます。
[1] 901号、令和5年2月、テイハン、P71~