参照[1]は下の記事です。
引用P127
―信託行為の定めによって、将来、現受益者(当初受益者)が死亡することを条件に(又は始期として)受益者となるべきものと指定された者の表示は、不動産登記法上の必要的登記事項とされているのだろうか[2]―
・条文を読む限り、記事に記載の通り、必要的登記事項ではないと思います。
―後継ぎ遺贈型の受益者連続信託のように、当初から、信託行為の定めで、将来、受益者となるべき者が指定されている場合、そのような指定は、不動産登記法97条1項2号[3]の「受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるとき」に該当するのだろうか。―
・まず、不動産登記法97条1項3号から6号までを考えてみます[4]。3号は受益者がいない場合、4号は、受益者の代理人がいる場合です。この場合に受益者の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない、ということは理解できます。受益者がいない場合は登記できない、受益者代理人が就任しているときは、受益者の権利のほとんど[5]を代わって行使することが出来るので、受益者代理人がいる場合に、受益者の氏名又は名称及び住所を登記する必要性があまりない。
5号については、受益者が多数で頻繁に代わるので登記が難しい(対抗要件ではないから、という議論は措きます)。6号は受益者が存在しないので、登記することが出来ない[6]。
3号から6号について観てきました。受益者を登記する必要がない場合、受益者を特定することが出来ない場合が主な理由となっています。
信託法91条の後継ぎ遺贈型受益者連続信託に戻ります。条文では、「受益者の死亡」が原則として受益者変更の条件となっています。例外としては、信託期中で受益権売買が行われた場合や信託の変更が行われた場合が挙げられます。
「受益者の指定に関する条件」に該当すると考えることも出来そうです。しかし、受益者を登記する必要がない場合、受益者を特定することが出来ない場合に該当すると考えることは難しいと思います。
「受益者を定める方法の定めがあるとき」に該当するでしょうか。
・委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する
・受益者の死亡により、他の者が新たな受益権を取得する。
どちらも、受益者を登記する必要がない場合、受益者を特定することが出来ない場合には該当しないと考えます。受益者を特定することが出来ない、ではなく、信託行為によって、受益者を特定しないことを選択しています。
よって、「受益者の指定に関する条件又は受益者と定める方法の定めがあるとき」に該当しないと考えます。
[1] 渋谷陽一郎「受益者の変更に係る信託の変更の登記(序論)」信託フォーラムvol.13 2020 日本加除出版
[2] 信託法
(受益権の取得)
第八十八条 信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者(次条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定された者を含む。)は、当然に受益権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
第九十条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
第九十一条 受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。
[3] (信託の登記の登記事項)
第九十七条1項2号 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
[4] (信託の登記の登記事項)
第九十七条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
五 信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
[5] (受益者代理人の権限等)
第百三十九条 受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利(第四十二条の規定による責任の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
[6] 七戸克彦監修「条解不動産登記法」弘文堂P604~P606