会報「信託」第293号、令和5年2月、(一社)信託協会についてのメモです。
・商事信託研究会報告「遺言代用信託における受益者の権利―予定受益者は惨事における受益権の取扱いを中心として―」
裁判所HP
最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決
破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡保険金受取人の破産財団に属する。破産法34条2項,保険法42条
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85854
遺言代用信託(信託法90条1項1号・2号)における予定受益者の破産時における受益権の取扱いについて
問・・・委託者の死亡前に予定受益者の破産手続が開始され、破産手続の終了前に委託者(兼当初受益者)が死亡した場合、破産者である予定受益者が受益者となり、受益権を取得する。取得した受益権は、破産手続開始の時点において「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権(破産法34条2項)」に該当するか。
破産法(破産財団の範囲)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000075
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
―3項以下略―
信託法90条1項1号の予定受益者と、信託法90条1項2号の予定受益者の権利の違い
信託行為における文言
信託契約日から委託者に相続が開始するまでの間は、委託者を受益者とする。委託者に相続が開始した時以後は、●●を受益者とする。
・・・1号に該当し、委託者が死亡した時から受益者となる。
最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決との比較
最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決
・判決の事実
受取人が保険金を受領し、保険金支払請求権は、すでに実現して権利となっている。
・判決の判断の枠組み
- 破産手続開始前(保険契約の成立時)に、抽象的保険金請求権として成立しているか。
- 抽象的保険金請求権の発生を認めた場合でも、「将来の請求権」に当たらず、破産者たる保険金受取人の自由財産(新得財産)になるか。
・裁判所の判断
破産手続開始時には現実化していない保険受取人の権利が破産財団に帰属することについて、肯定。
信託法90条1項1号の想定事例
1 委託者と受託者(信託銀行)が信託契約締結。委託者兼当初受益者。委託者に相続が開始した場合、指定する受取人(予定受益者)が、残余財産を一時金または定時定額払いの形で受け取ることが可能。
2 予定受益者が破産手続の開始
3 委託者の死亡
・最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決の判断の枠組み(1)の観点から
信託財産にかかる給付を受ける権利について、委託者の死亡時まで取得せず、かつ、信託法90条2項により委託者が死亡するまでは、受託者としての権利(受託者に対する監督上の権利等)を有さないものと理解されている。
よって、1号信託の場合、信託行為成立の時点では、抽象的な権利としての受益権を取得したと考えることは難しい。受益権の発生、帰属を分ける場合も同じ結論。判決における停止条件付請求権と評価することは、難しい。
2号信託に関して、受益権の取得を前提としている場合でも、受益権そのものを取得していない段階で、何らかの受益債権を取得していると考えることは難しい。
・遺贈との比較
遺贈と比較して、1号信託の場合は少なくとも信託行為(信託契約)の効力は発生しているので、予定受託者への受益権の将来における帰属可能性が高い。もっとも、信託行為の定め方によって、帰属可能性が低いと評価される場合もある。予定受益者が受け取る受益権(財産の額)が、予想しずらい定めになっている場合、委託者がいつでも単独で信託を終了することができる定めるがある場合(信託法164条1項本文、3項など)。遺言の撤回可能(民法1023条)の規定と同様の評価がされる可能性。
・結論
1号信託である想定事例の場合、当該権利は、破産法32条2項の将来の請求権として破産財団に帰属する。
・委託者が破産手続終了までに死亡していない場合で、処分が困難であるとき
破産管財人としては、一定の金銭を財団に組み入れる、権利を財団から放棄する、自由財産の拡張の対象とする、というような選択肢。
・予定受益者に、破産手続開始決定がされたときの受託者の対応
受託者において、受益者の破産手続開始決定を知ることが出来る仕組みが必要。
・遺言代用信託における委託者の意図の実現の方策
受益者の変更(信託法90条1項本文)。
信託の終了事由として、受益者の破産手続開始決定を定める(信託法163条1項9号)。
受益権取得の条件として、破産手続開始申立てをしていない場合、を定める。
「後見制度支援信託の受益者雄死亡により終了した場合における残余財産の帰属」
・後見制度支援信託の契約約款に、残余財産受益者、帰属権利者という文言を使用した規定がない場合に、残余財産の給付を受ける権利が本人である委託者兼受益者の相続財産に含まれるかについて
残余財産受益者、帰属権利者という文言を使用した規定がない場合でもあっても、専門職後見人と金融機関の信託契約締結時に、本人(成年被後見人)を残余財産受益者とする黙示の指定があったとみなされることによって、残余財産受益権が相続財産となる。
理由
・預貯金債権に類似していること。
・本人(成年被後見人)の意思決定に反する介在を極力減らすこと。本人(成年被後見人)に遺言を作成して残余財産受益者を指定する機会を残すこと。
・信託法181条1項1号の規定。
・明示的に残余財産受益者を指定する方法
特定の個人名、受益者、受益者またはその相続人その他の一般承継者に交付する。
・残余財産受益者権の相続
受益者(成年被後見人)による遺言の取扱い(民法966条、973条)。履行できるかの確認。
・共同相続の場面における、残余財産受益権の当然分割の有無
参考判例 裁判所HP
最高裁判所第二小法廷平成26年12月12日判決
共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき,相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し,それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合,上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく,共同相続人の1人は,上記販売会社に対し,自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない。
参照法条 民法427条,民法898条,民法899条,投資信託及び投資法人に関する法律6条3項
当然分割を否定することも可能。
相続人による残余財産受益権の行使方法
・遺産分割協議(民法909条の2、家事事件手続法200条3項)
「受託者の権限および義務に関する法的考察―第三者委託―」