令和4年度業務研修会「デジタル遺産と関連法律実務」

日本司法書士会連合会司法書士中央研修所

北川綜合法律事務所北川祥一(きたがわ しょういち)弁護士

第1講 デジタル遺産総論/前提となる社会状況

第2講 関連実務対応

第3講 想定紛争事例

第4講 規約の効力/今後の展望

1 デジタル遺産とは?

現状におけける、デジタル遺産の定義

『故人のデジタルデータ』

〇オフラインのデジタルデータ

〇オンラインのデジタルデータ

 デジタルとは、計算機、計算機で処理する情報、遺産は、民法896条などに規定されている被相続人の財産に属した一切の権利義務ことを指しているものと思われます。遺品とすると有体物を想起される可能性。

• パソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ等々あらゆるデジタル機器内のデジタルデータ

〇オフラインのデジタルデータ

• 暗号資産(仮想通貨)、NFT、SNSアカウント、動画サイトアカウント、Eメールアカウント、WEBサイト及びそれらアカウントに蓄積されたデータ等

日本銀行 電子マネーとは何ですか?

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c26.htm/

 電子マネー等は、現在の相続実務で対応可能であることが多い。航空社のマイル、事業者のポイントなどは、民法上の債権として、現在の相続実務で対応可能であると考えられる。

〇オンラインのデジタルデータ

広義のデジタル遺産

 動画サイト、SNS、WEBサイト、オンラインオフライン、デジタル機器(有体物)、暗号資産、メール、NFT、クラウドストレージ、デジタル機器内のデータなど。

狭義のデジタル遺産

アフィリエイト

デジタルデータの法的権利

暗号資産の統一的な見解は現状、ない。債権か。物権又はこれに準ずるもの、財産権、事実状態。

財産的価値の高い可能性があるデジタルデータ

暗号資産(仮想通貨)、NFT(Non-Fungible Token)、動画投稿サイト、SNS等のアカウント及び関連データ、WEBサイト及び関連データ

 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの。

 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの。

(資金決済に関する法律第2条5項)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=421AC0000000059

(定義)

第二条5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

暗号資産の保有方法は、相続財産としての探知に関わる

多くは暗号資産交換業者(マイニング業者)を通じた保有

マイニング、ウォレット間の送金

分散型台帳技術を用いた金融取引に関する調査研究

ブロックチェーンを用いた金融取引における技術リスクに関する調査研究報告 書2018年 3月

金融庁  株式会社電通国際情報サービス

金融庁(5)  暗号資産に関する相談事例等及びアドバイス等

https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice05.html

国税庁 別添3 残高証明書等を活用した仮想通貨残高に係る相続税申告手続の簡便化(イメージ)

https://nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/faq/index.htm

秘密鍵の保管

Hot(オフライン)ウォレット、ウェブウォレット、モバイルウォレット、デスクトップウォレット、Cold(オフライン)ウォレット、ハードウェアウォレット、ペーパーウォレット(紙、QRコード)

暗号資産の公開鍵方式

アドレスAさんの秘密鍵の送金情報に署名し、アドレスBさんに送金。

LINEウォレットの管理体制

https://terms2.line.me/linexenesis_walletmanagement

金融庁 暗号資産に関する制度について

https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html

NFT

デジタルアート、トレーディングカード、ゲームアイテム

NFT(ノンファンジブルトークン)の譲渡による所得は譲渡所得か?もしそうであれば非課税所得か?―NFT の「生活に通常必要な動産」該当性―

泉絢也千葉商大論叢 第59巻第3号(2022 年3月)p143-174

金融庁 デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会

https://www.fsa.go.jp/singi/digital/index.html

2022/3/30追記 (一社)日本暗号資産ビジネス協会

「コンテンツNFT」の法的整理

https://cryptocurrency-association.org/subcommittee/nft/

2022/3/31NFTビジネスに関するガイドライン第2版

NFTを構成するデータ

インデックスデータ、メタデータ、コンテンツデータ

特徴:他のデータと識別可能な・固有性をもったデジタルデータ、保有証明、プログラマビリティ

「トークン」:しるし、象徴、記念品、(交通料金等に使用される)代用貨幣

「非代替性」:識別可能・固有性

・個人のM&Aサイトを、数百万円から数億円で購入する企業がある。

WEBサイトの法的性質・・・著作権の可能性、レンタルサーバ、プロバイダーとの関係

さくらインターネット

基本約款

第9条

利用者であった個人が死亡した場合、利用契約は終了するものとします。ただし、相続の開始から14日以内に、その利用契約上の地位を単独で承継するとして相続人が当社所定の届出を行った場合、当該相続人は利用契約上の地位を承継できるものとします。

https://www.sakura.ad.jp/agreement/

事前対応• 相談者への助言、遺言作成、契約など

事後対応• デジタル遺産の調査、相続や情報開示に関する任意交渉・訴訟。

遺言において、デジタル機器の帰属の明示+デジタル機器内のデジタルデータの帰属も明示・・・特定が必要ではないかと思われますが、その後にデジタル機器を買い替えた場合の規定も出来るのか、その規定は有効なのか気になりました。

デジタルデータの帰属の明示

オフラインのデジタル遺産

 例えば、アカウントの規約確認。要請される相続手続の内容が規約により要求される文言の記載を行うことが検討される。各アカウントに関連する規約・契約内容の確認は重要。オフラインのデジタル遺産と同様、当該アカウント及びアカウントに関連する。デジタルデータの帰属について、遺言で明示。

 例えば、デジタル機器及びその内部に保存された一切のデジタルデータ(ただし、オンライン上にも同一のデータが保存されている場合は当該オンライン上のデジタル上のデジタルデータ並びに関連するデータを除く)~を相続させる。

 利用のオンラインサービスに応じて、それを承継した相続人が適切な管理を行うに必要な情報(アカウント名、パス等)の伝達により、要望どおりのデータ処分を期待できる。負担付き遺贈は放棄される可能性がある。

「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が○○と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者○○の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法六五三条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。」(最判平成4年9月22日。掲載誌:金融法務事情1358号55頁)

「委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。」(東京高判平成21年12月21日。掲載誌:判例タイムズ1328号134頁、判例時報2073号32頁)

PCのデータ処分は専用ソフトウェアの利用など。

スマートフォンのデータ処分はローカルワイプ機能など。

ドコモ 遠隔初期化

https://www.docomo.ne.jp/service/initialization/compatible_model/

オンラインアカウントに用意された機能の利用

デジタル遺産の調査

デジタル機器内の調査、ロック解除

情報が集約されているブラウザのブックマーク・履歴、各サービス専用のアプリケーション・ソフトウェア等を調査。

 クレジットカード明細、銀行口座の取引履歴などの、携帯電話料金と一括請求される請求明細などを読むことにより、暗号資産取引等の取引のための入出金記録を発見できる可能性がある。アフリエイト収入の銀行口座への入金すると、法的紛争や訴訟問題発生等の際に利用される、デジタルデータの調査・解析(データ復元などを含む)を行う技術・手法のこと。

確定申告書類から分かることは?

デジタルフォレンジック

消去データの復元(ファイル、WEBサイトの閲覧履歴等)

故障機器からのデータ取得・解析

パソコンの電源オンオフデータ、WIFI接続履歴の取得

パスワードがロックされている場合、壊れて起動しない場合は現状難しい。専門業者に依頼する場合、処分行為、管理行為、保存行為のどの行為に当たるかの検討が必要。実務的には相続人全員の同意の取得。

デジタルフォレンジック研究会

証拠保全ガイドライン第8版

デジタル遺産の歴史

アカウントの相続の可否等について、判例などが少ない。

保有者の年齢層が低い。

デジタル遺産の経済的価値が分かりづらい。

ドイツにおける事案の概要における法的論点

 データ保護法、通信の秘密、死者人格権、被相続人のデータ保護法上の利益の有無、通信相手のデータ保護法上の利益の有無、契約関係の移転。

各審級で判断が分かれた

SNSアカウントの利用契約上の地位の承継が否定された場合の、データ開示請求の可否

 SNSの利用契約に関する準委任的性格、データの保管に関する帰宅契約的性格等の観点から情報の開示請求の可能性を模索する。もし日本で起こった場合、SNSの利用契約上の地位についても、相続による包括的な承継の対象となるか。明確な規約がある場合、適切に契約に組み込まれた規約の内容による。ただし、規約は絶対ではない。明確な規約がない場合、解釈上、一身専属的契約とされる可能性がある。

 利用契約上の地位の承継が否定された場合としても、何等かデータの開示請求を法的に根拠づけることが可能ではないか?などの契約の複合的性格・要素から、情報の開示請求の可能性を模索する見解では、善管注意義務(民法644条)の一内容として、委任契約の不随義務として情報の返還義務を根拠とする可能性。委任事務の処理状況の報告義務、委任契約終了に伴う報告義務(民法645条、656条)を根拠とする見解もある。寄託類似の性質から導かれる寄託物の返還義務を根拠とする見解もある。

電気通信事業法4条1項(秘密の保護)

電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=359AC0000000086

 定型約款とは、定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体。定型取引とは、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(民法548条の2第1項)。

定型約款に関する改正民法の適用関係

 旧法下において締結されたものであっても、改正民法※施行日(2020年4月1日)以後は、改正民法が適用。改正前民法の適用を望む場合には、当事者は書面又は電磁的記録によって反対の意思表示をすることができる。反対の意思表示は、施行日前にしなければならない。民法の一部を改正する法律平成29年6月2日法律第44号

平成29年法律第44号附則

第33条(定型約款に関する経過措置)

1 新法第五百四十八条の二から第五百四十八条の四までの規定は、施行日前に締結された定型取引(新法第五百四十八条の二第一項に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても、適用する。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない。

2 前項の規定は、同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には、適用しない。

3 前項に規定する反対の意思の表示は、施行日前にしなければならない。

定型約款の契約組入れ

民法548条の2第1項(定型約款の合意)

定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合、取引に際して定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方「表示」していた場合。

 例えば、アカウント作成時に、契約の内容とすることを目的として作成された利用規約の表示及びこれについて「当該規約を契約内容とすることに同意」とのチェックボックスの表示がなされ、これにユーザーが同意した場合。

経済産業省令和4年4月改訂

「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月1日)

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ec/

旧法下

(サイト利用規約が契約に組み入れられると考えられる場合)

・例えばウェブサイトで取引を行う際に申込みボタンや購入ボタンとともに利用規約へのリンクが明瞭に設けられているなど、サイト利用規約が取引条件になっていることが利用者に対して明瞭に告知され、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合

(サイト利用規約が契約に組み入れられないであろう場合)

・ウェブサイト中の目立たない場所にサイト利用規約が掲載されているだけで、ウェブサイトの利用につきサイト利用規約への同意クリックも要求されていない場合」

規約の効力

定型約款に関する合意不成立(民法548条の2第2項)、消費者契約法(消費者契約法8条~10条)、公序良俗違反(民法90条)、信義則違反(民法1条2項)

具体的な裁判における適用除外等

民法548条の2 (定型約款の合意)

1項定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

一定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

二定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

2項前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

適格消費者団体からゲーム運営会社へ、利用規約の使用差止を求める訴訟提起。消費者契約法8条1項1号、3号などへの抵触の有無。

適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

(消費者契約法2条4項)

事例の概要

「消費者契約法(以下「法」という。なお,平成30年法律第54号(以下「本件改正法」という。)による改正前の法を,以下「改正前法」という。)13条1項所定の適格消費者団体である原告が,被告が不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「○○○」に関するサービス提供契約(以下「本件契約」という。)を締結するに当たり,法8条1項に規定する消費者契約の条項に該当する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い,又は行うおそれがあると主張して,被告に対し,法12条3項に基づき,別紙契約条項目録1及び2記載の契約条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに,これらの行為の停止又は予防に必要な措置として,上記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示するよう求めた事案」(さいたま地方裁判所令和2年2月5日判決)

消費者契約法8条1項

次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

三消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

四消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

消費者契約法12条3項

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000061

適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不

 特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第一号又は第二号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない。

問題となった会員規約

『法12条3項の適用上,本件規約7条3項は,「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり,また,「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから,法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべきである。』(さいたま地方裁判所令和2年2月5日判決)

『被告は,消費者との間で,被告が運営するポータルサイト「○○」のサービス利用契約を締結するに際し,別紙契約条項目録1記載の契約条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を行ってはならない。』。ちなみに、被告は、『被告の「合理的な根拠に基づく合理的な判断」により,本件規約7条1項c号又はe号が適用され,会員資格取消措置等をとった場合,被告は,当該会員に対して,サービスを提供する債務を負わず,そうである以上,債務不履行もあり得ず,損害賠償責任を負うこともないのであるから,本件規約7条3項は,同条1項c号又はe号の適用により,被告に損害賠償責任が発生しないことを確認的に定めたものであり,免責条項ではない』と主張するも、これについては、『しかしながら,上記各号の文言から読み取ることができる意味内容は,著しく明確性を欠き,複数の解釈の可能性が認められ,被告は上記の「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し,客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があることは,上記イで判示したとおり』(さいたま地方裁判所令和2年2月5日判決)

控訴審においても、『原判決第3の1(2)イにおいて説示したとおり,本件規約7条1項c号及びe号にいう「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明確であり,控訴人が「合理的な」判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても,客観的には当該措置等が控訴人の債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところであり,』『控訴人は,上記の「合理的な判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し,客観的には合理性がなく会員に対する不法行為又は債務不履行を構成するような会員資格取消措置等を「合理的な判断」であるとして行う可能性が十分にあり得るが,会員である消費者において,訴訟等において事後的に客観的な判断がされた場合は格別,当該措置が「合理的な判断」に基づかないものであるか否かを明確に判断することは著しく困難である』(東京高等裁判所令和2年11月5日判決)

消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

「法令中の公の秩序に関しない規定」とは、いわゆる任意規定のこと。

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