渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(3)」

「市民と法」[1]の記事から、気になる部分です。

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第55条 受託者と任意後見人の兼務 解説部分

―略―しかし、昨今、受託者と任意後見人は、受益者保護という同じ方向を向いているのだから兼任可能であるという意見が主に弁護士側からいわれるようになっている。この点、どちらの見解が正しいか否か、という問題以上に認識すべき重要なことは、民事信託分野では、議論が対立するうえ、意見のトレンドが数年ごとに推移する論点も少なくない。論者の価値観にもかかわる。かような見解の多様性は、信託契約書の起案内容にも直接的に関係し、現段階では標準形が存在し得ないゆえんである。

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 多数意見が数年で変わる、というのはあるなと感じます。平成23年(2011年)の(一社)民事信託推進センターの実務入門講座では、受託者を一般社団法人にする場合、理事の1人に司法書士が就任するという事例が紹介されています。他にも、遺言信託の事例を紹介しつつ、成年後見制度に触れていない資料もあります。その当時、私も違和感を感じなかったのだと思います。今年2020年の実務入門講座では、任意後見人の代理権から受託者の任務を外す、というような考えも出てきました。信託契約書の受託者の任務を、詳細にするか限定するかになると思いますが、そのような考えもあるのだなと感じました。

指針案の

・正当事由の有無

・牽制構造の有無

・予防策の有無

・情報提供

は、個別具体的に、定期的にチェックする必要があると感じます。やっていると難しいですが、最初の任意後見契約の締結部分と、相談から信託期中、信託終了までの情報提供は出来るように努めたいと思います。

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第56条 「信託口」口座 解説部分

―略―信託の独立性や倒産隔離等の信託の効果は、受託者が受益者が訴訟で主張すればよいという助言は、支援者が、訴訟で現に支援できることが前提の助言である。実際に訴訟を提起せざるを得ない状況となった場合、司法書士は、どのようにして、認知症が進行した受益者を支援できるのだろうか。

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 私の個人的な予想ですが、受託者名義の預貯金口座で良いと断言する専門家の中では、受益者の支援という観点はなく、受託者が第三者異議などを申し立てることを前提にしているのだと思います。

 ただ、受託者が申し立てることのみを考えると、信託財産に(仮)差押え申立てをされる受託者って大丈夫なのかな、受託者の固有財産に対して(仮)差押えの申立てをされる受託者って大丈夫なのかなと感じます。税金をうっかり払い忘れていた場合でも、大丈夫かなと感じてしまいます。また、事例によりますが、信託財産に(仮)差押えの申立てを受けた受託者が第三者異議などの申立てを行うよりも、受託者を交代してから申し立てる方が良いと思います。その際、受託者を交代する権限を持つのは誰にするのか、考えてみる必要がありそうです。

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第59条 公正証書化の助言 解説部分

―略―最近は、信託に詳しい公証人も増えつつあり、信託の有効な成立や信託内容の適法性の確認を協働しうるとともに、司法書士と公証人という専門家間の連携と牽制という側面も重要である。

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 一度だけあったのですが、ある事例で公証人と何度かやり取りさせていただき、結果として私の案が修正されることになりました。その時、「もう少し時代が進めば理論的には出来るから、もう少し待ってて。」というようなことを言われたことがありました。個人的に、頭ごなしに否定するのではなく、牽制しつつも連携できる、このような話が出来る公証人が増えて欲しいと思います。


[1] №125号2020年10月号 民事法研究会P3~