宮田浩志「信託契約の発効時期」

家族信託実務ガイド[1]の記事から考えてみます。

一般社団法人家族信託普及協会代表理事 司法書士 宮田浩「信託契約の発効時期」

信託契約の開始時期に関する例

1委託者が認知症になったとき

2委託者が主治医から認知症と診断されたとき

3委託者が判断能力を喪失したとき

4委託者が受託者に対し信託契約を発効すべき旨の意思表示をしたとき

5委託者につき成年後見開始または保佐開始の審判が下りたとき

6委託者につき要介護認定4以上となったとき

 1について、「認知症の定義が曖昧」という指摘があります。そうなのでしょうか。下のように、厚生労働者ほか様々な機関が認知症について定義しています。定義に共通するのが、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態、という状態を表していることです。これは1つの明確な定義といって良いのではないかと思います。また曖昧であるのが認知症といっても良いのではないかと考えます。

 反対に法律行為の発効時期に関して、契約書に署名することは誰が観ても分かり、署名が残るので発効時期は信託契約書に署名を行ったとき、という定義は、法令関係者が判断するには分かりやすいと思います。これは1つの行為である署名と状態である認知症の違いなので、指摘するほどのことでもないと感じます。例えば、毎日自分の名前を書くことを日課としている人でも、信号の判断が出来ない方もいるかと思います。契約書を読み、理解し、署名することは出来ても、日常生活に支障を来たしている状態にある、といえると思います。このような方はどうするのでしょうか。

・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院 認知症センター

「認知症」とはどんな状態ですか?

https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/dementia.html

・厚生労働省

「認知症」とは

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html

 2について、「「主治医」というのは誰になるのかという疑問が生じます」、に関しては、通常かかりつけ医、またはかかりつけ医からの紹介を受けた医師になるのではないでしょうか。また信託行為以前に、その辺りの準備は行うことが可能な場合が多いのではないでしょうか。

 「委託者側の意向を無視して、診断書の発効日を恣意的に操作することも可能となり得るという点においても問題が多い」について、診断書の発効日を恣意的に操作するのは、誰なのでしょうか。受託者でしょうか。推定相続人その他の利害関係者でしょうか。どちらにしても、医師に対して診断書の発効日を恣意的に操作するという事が可能となり得るのか、私は経験がないので疑問に感じます。

 3について、同意です。4について、「結局成年後見制度下で本人の全財産の管理を実行する以上、家族信託をスタートさせるメリットが半減してしまいます。」について、そうなのでしょうか。信託行為と併せて任意後見契約を締結し、代理権目録に、信託行為との調整事項を記載しておけば良いのではないでしょうか。また成年後見人を就けない場合、家族信託だけで進めていけるのでしょうか。

 5について、「成年後見制度の代用」とありますが、併用ではなく代用という目的で利用する場合、著者のような考え方になるかもしれません。

 6について、「(要介護度と本人の判断能力の有無は無関係ですので、要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れませんが)」とあります。

厚生労働省 「要介護認定はどのように行われるか」

https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo2.html

 審査基準の一つに、認知機能や思考・感情等の障害により、十分な説明を行ってもなお、予防給付の利用に係る適切な理解が困難である状態、があります。要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れないことには、私は同意しますが、要介護度と本人の判断能力の有無は無関係ではないと思います。

 「委託者本人名義の預貯金口座から受託者が管理する信託金銭の管理口座(信託口口座または受託者個人名義の信託専用口座)への金銭の移動が実質的に不可能になるという事実」、について、そうなのでしょうか。著者が要介護度が高いからといって判断能力がないとも言い切れないと記載しているように、身体に過重な介護負担が必要な場合も要介護度4や5と判定される場合があります。そのような場合は、委託者が介護サービスを利用して金融機関窓口まで行き、資金移動を行うことが可能です。

  その後の「原則として信託契約日をもって効力発生日とすべき」、以下には基本的に賛成です。「受益者たる親のお金」、「受託者を不動産管理会社兼ATMだと思って」、「子側に預けておく」を除きます。

・家族信託実務ガイドの不思議

 当初この雑誌は、家族信託普及協会と司法書士法人ソレイユ、民事信託活用支援機構の関係者の記事が中心でした。現在22号ですが、民事信託推進センターの専門家が頻繁に登場するようになっています。今まででいえば、遠藤英嗣弁護士。信託の学校主宰の谷口毅司法書士。本号でいえば金森健一弁護士、渋谷陽一郎先生などです。民事信託推進センターの講座や信託フォーラム、市民と法、などでは家族信託普及協会と司法書士法人ソレイユ、民事信託活用支援機構の関係者のやり方を、名前を出さずに批判していましたが、家族信託実務ガイドではお互いを批判したりはないようです。記事になれば良い、という事なのでしょうか。同じ場所で記事を書くのであれば、名前も出ているので議論を行うのが通常だと感じます。


[1] 2021.8第22号日本法令P74~