遠藤英嗣先生「民事信託の基礎と実務」講義メモ

6月17日、(一社)民事信託推進センターの実務入門講座が、zoomを利用してオンライン生中継で行われました。運営の皆さまありがとうございます。

ついに物理的な距離がなくなって、個人的には嬉しいことです。

内容メモ

・相続は(換金可能性が高い)財産がないほど苛烈に揉める。

そのようなことは一概にはいえないと思います。もともと財産が少ない人の割合の方が多いと思います。遺産分割調停などに持ち込まれる事件の割合と相関があるのか、調べてみないと断言出来ないと感じました。

・遺言は効力を失った。

相続法改正を踏まえてのことだと思いますが、効力は失ってないし登記を先にすれば良いことだと思います。また法定相続分の登記が先にされたとしても、第三者に対抗することが出来ないだけで、当事者同士で和解、強制執行などの解決方法はあるのではないかと考えます。

・家族信託の3つの成立要件のうちの1つ、受託者と受益者の信認関係が確立されていること。受益者代理人が設置されていること。

遠藤弁護士は、提携している金融機関で家族信託をチェックする立場からこのことを成立要件の1つとしていました。信認関係についての具体的基準は示されません。受益者代理人を選任することが出来る、と信託契約書に入っていて、内容がよっぽど受託者中心でない限り、金融機関のチェックは通るのかなと感じました。個人的には、受益者代理人は必須ではないし、置く場合は慎重になる必要があると考えます。東京に事務所がなくて良かったと感じました。

・誰のものでもない財産

私の考えでは、民法上は受託者の財産です。税法上は受益者の財産です。

・物がないと信託は成立しない

譲渡制限のついていない、法律上制約がない債権はどうなるのかなと感じます。

・信託の目的と信託の設定目的がある

信託の目的は信託法上の目的で、信託の設定目的は信託を設定するにいたった目的のようでした。ここは理解できませんでした。

・信託の変更と信託行為の変更がある

ここも理解出来ませんでした。

・受託者と受益者の合意による信託の終了はだめ

遠藤弁護士は、提携している金融機関で家族信託をチェックする立場からこのことを指摘していました。理由は終了基準が曖昧だから、受益者が認知症になっていた場合は受益者の意思に反することになるから、ということでした。

「その他信託法による終了事由により本信託は終了する。」などを追加することで解決できるのではないかと感じました。

・自筆遺言証書保管制度は使えない

理由は、利用者が書類を揃えることが大変なこと、相続人が適切に処理することは難しい、ということでした。

個人的に問題ないと感じました。

1行で書いていますが、文脈は捉えているつもりです。間違っていたら指摘していただきたいと思います。

唯一残念だったのは、みんながオンラインで同じ時間にみているのに、チャットが運営の方しか見えないようになっていたことです。これでは同じ時間に観る意味があまりありません。講師に質問は出来ないとしても、受講者同士でやり取り出来る環境は必要だと感じました。私は1人でチャット欄に書き込んでいました。

「信託管理人・信託監督人・受益者代理人制度の隙間問題への実務的対応」について

田中和明「信託管理人・信託監督人・受益者代理人制度の隙間問題への実務的対応」[1]について、考えてみたいと思います。

信託管理人、信託監督人、受益者代理人の制度について、制度創設の理由から、信託法の解釈から出来ること、出来ないことが簡潔に分かりやすく解説されていると感じました。

・隙間問題はどこか。

下線は私です。

p9 ―民事信託の実務においては、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託のように、信託期間が長期にわたり、かつ、現存の受益者と将来に受益者となるべき者とが存在するような信託においては、これらすべての受益者となるべき者の公平を勘案しながら、数十年の長期間にわたり、受益者への金銭交付の時期・金額・方法等を定める権限を有する者や受益者指定権・変更権を行使する者が求められている。

 このような場合、信託管理人、信託監督人、受益者代理人、さらには、信託行為の定めにより授権した第三者が、この役割を担うことが想定される。

 しかし、私見はさておき、前述したとおり、学説の通説的見解では、信託管理人、信託監督人のいずれも、この役割を担うことはできないものと解されている。-

・すべての受益者となるべき者の公平を勘案しながら、数十年の長期間にわたり、受益者への金銭交付の時期・金額・方法等を定める権限を有する者や受益者指定権・変更権を行使する者が求められているのか。

それを行うのが受託者の仕事なのかなと感じます。

著者は、これらの権限を持つ者を信託監督人が兼任することを提唱されています。信託監督人に適正な人(法人を含めます。)を充てることが可能であれば、機能すると考えます。想像ではありますが、信託監督人には専門職の士業などが想定されているのではないかと思いました。

一般市民は受託者の仕事でも簡単ではないのに、受益者を指定・変更したり将来の受益者との公平を勘案することは、少し難しく感じます。私が信託監督人なら、現段階では無理です。

私がやるとすれば、任意後見契約の同意権目録に記載して、任意後見監督人に行ってもらいます。信託監督人を就ける必要がある民事信託・家族信託の状況によって使い分けを行えるようになると、幅も広がるのかなと感じます。


[1]  『市民と法123号P3~』2020年(株)民事法研究会

民事信託の契約書と登記

登記ができない信託契約書という記事について

以下、私が加工した記事です。

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「登記ができない信託契約書」

登記が難しい信託契約書がある?!あります。

不動産の信託で、せっかく信託契約書を作っても、登記できなかったら困りますよね。今日のポイントを踏まえておくと、司法書士以外の人が信託契約を作るとき役立つと思います。

そうじゃないと、

「この信託、どうやって登記すんの??」

ということになりかねません。

そうゆう信託契約に時々遭遇することがあります。

意識すべきは、不動産登記法97条ですね。1号〜11号まであり、民事信託で特に重要なのは以下。

(信託の登記の登記事項)

第九十七条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所

(中略)

八 信託の目的

九 信託財産の管理方法

十 信託の終了の事由

十一 その他の信託の条項

ちなみに第五十九条は、登記の目的や、申請の受付の年月日及び受付番号、登記原因及びその日付、などですから、あまり気にしなくていいです。

良くあるのは、管理方法の定めが分散して書かれていること。97条の9号は「信託財産の管理方法」これを登記しなければなりません。維持保全するとか、売却していいとか、担保に入れていいとか。売却を目的とする信託なのに、売却できる旨を登記しておかないと、大変です。信託して、その後、買い主も見つかり、信託財産を売買する所有権移転登記を申請しても法務局から電話がかかってきて「これ移転登記できるんですか?」ということになりかねません。

つまり、売買がパー。(誰が責任をとるんだ?)ですから、「信託財産の管理方法」の登記は重要です。

ところがです。

信託登記のことを意識しないで作られた信託契約書は、管理方法が、あちこちに分散して書かれていることがあります。

どれが管理方法に関する条項なのか、1条ずつ、じっくりと読み解かなければならなくなります。

司法書士が作った信託契約書なら、自分で登記するから、それはそれでいいでしょう。自分の責任を自分でとるのですから。

でも、信託契約書を作って、信託登記を別の司法書士に頼む場合は、ちょっと大変。人間ですから、ヒューマンエラーがあります。

もちろん司法書士も注意深く登記事項を拾うんでしょうけど、人間ですから。(苦笑)万一、漏れがあると、後で困ってしまいます。

気づいて、後で更正の登記をするにも、委託者が認知症だったりして・・・

内容によっては、委託者の承諾書が必要な場合もありますので。登記って、登記された内容が正しかったかどうかは、チェックする仕組はありませんから(あくまで人間による、確認)注意しなければいけないんですよね。

そのためには、「間違われない信託契約書」「登記しやすい信託契約書」を作ることが重要です。

となると、

八 信託の目的

九 信託財産の管理方法

十 信託の終了の事由

少なくとも、この三つの項目は、それぞれまとめて書いておくといいですね。

 こんな契約書は登記が大変

信託財産の管理方法(っぽいこと)があちこちに分散されて書いてある契約書。「これも管理方法なの?」と、信託登記をする司法書士が、一個ずつ判断しなければなりません。信託の目的もしかり。

目的みたいなことがあっちの条項にも、こっちの条項にも書いてあると登記するとき、拾い出さなければいけません。

終了事由もそうですね。一つの条項でまとめて書いておくべきですね。

条件をつけて、「この場合は終了しない」なんて項目が、別の条項に書いてあると、ちょっと大変ですね。

 司法書士的に問題なのは11号

不動産登記法97条の十一 その他の信託の条項は何を登記したらいいのか?

しかもこれについて解説した書籍がない!もう、経験を積み重ねるしかないですね。これについては、話すと長くなりますから、また別の機会にしたいと思います。

おすすめ書籍はこちら。

信託登記の実務

 信託登記実務研究会 (著) 日本加除出版

信託登記するときはよく読んでいます。

信託登記の申請書の作り方については、ビデオセミナーを作っていますよ。

12,000円

・設定時・変更時・売却時・終了時について解説しています。もちろん、ひな形もワード形式で提供!

抹消1件分くらいの金額です。

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というようなことが書いてありました。

「登記ができない信託契約書」と「登記が難しい信託契約書」は、違うのかなと考えます。

「そうゆう信託契約に時々遭遇することがあります。」

時々とは、10件ぐらいでしょうか。

「信託して、その後、買い主も見つかり、信託財産を売買する所有権移転登記を申請しても法務局から電話がかかってきて「これ移転登記できるんですか?」ということになりかねません。」

登記について気付くとしたら、(受益権)売買契約を締結する段階だと思います。

全部事項証明書を取得して信託登記がされている。宅地建物取引士と買主は、手付金支払前か、売買契約前に司法書士に確認することになります。買主が融資を受けるとしたら、金融機関が司法書士にチェックを依頼することになります。

「信託財産の管理方法(っぽいこと)があちこちに分散されて書いてある契約書。「これも管理方法なの?」と、信託登記をする司法書士が、一個ずつ判断しなければなりません。信託の目的もしかり。目的みたいなことがあっちの条項にも、こっちの条項にも書いてあると登記するとき、拾い出さなければいけません。」

ここについては、作成した方にメールで確認を取ることで足ります。商業登記でも、新株予約権の内容の中から、何を登記するのか、しないのか事前に確認を行うことになります。

・信託財産の管理方法については、条項の内容が任意規定である場合に、これと異なる管理・処分の方法の定めが信託行為に存在する場合に、それが登記事項になる[1]、というのが最初の考え方になると思います。ここから出発して注意書きとして法定されている条項も登記するのか、考えていくことになります。

「司法書士的に問題なのは11号 不動産登記法97条の十一 その他の信託の条項は何を登記したらいいのか?しかもこれについて解説した書籍がない!もう、経験を積み重ねるしかないですね。これについては、話すと長くなりますから、また別の機会にしたいと思います。」

その他の信託の条項についても、信託財産の管理方法と考え方は同じです。

渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』平成26年 民事法研究会その他の論文を探せばあります。そこから、不動産登記法97条1項1号から10号までを除いた部分がその他の信託の条項、というのが考える出発点になると思われます。

「12,000円」

経済を回すには良いのかなと思います。開業当初、司法書士会費を1回滞納した私は、本を買って論文を書くことします。本は残るし論文は実務年数と関係ないので、開業当初の時間があるときから取り組んでおけば良かったと思います。

12,000円。収入が安定してきて、初めて登記研究の定期購読を申し込むことが出来た時を思い出しました。ありがとうございます。


[1] 七戸克彦監修『条解不動産登記法』P604 2013年 弘文堂

鑑定について

鑑定(かんてい)について[1][2]、考えてみたいと思います。

法律用語辞典[3]では、一般には、特別の知識経験を有する者が、その知識経験により知り得る法則又はこれに基づく事実について判断を行うこと、と定義されています。

注2では、あなたのこの事案について私はこの方法で対処することが良いと思うということがいえる、ということが鑑定だと定義されています。

注1では、法律専門家としての法律判断、と定義されています。

行政先例としては、昭和29年1月13日民事甲2554号民事局長回答があります。一部抜粋します。いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは、司法書士の固有の業務範囲には含まれないと解すべきであるから、これを専門的法律知識に基づいて判断し、その判断に基づいて右の書類を作成する場合であれば、弁護士法72条の違反の問題を生ずる。

判例としては、高松高裁昭和54年6月11日判決があります。一部抜粋します。

司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の食卓の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来たさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基づく聖女的な事項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で担任間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を超えたものといわなければならない。

以上、いくつか定義を挙げてみました。他にも様々な定義があります。

ここまで整理して1ついえることは、鑑定と呼ばれているものに対して、弁護士法72条に違反してはならないこと、違反しないためには司法書士制度に根拠が必要なことです。

民事信託・家族信託の業務にしぼります。

いくつかの場面を思い出してみます。

・司法書士会などを通さずに、司法書士が司法書士に対してセミナー、相談、信託契約書のチェック、登記申請書のチェック、共同受任という名前の司法書士の監督人を行って〇万円から○○万円をもらうこと。

私が合格当初に研修で入った事務所の先生は恐いけど商業登記では有名らしい方でした。司法書士同士の勉強会も積極的に主催していました。事務所には、司法書士からの質問のFAXが毎日のように来ていました。この先生がお金を貰ったところを見たことがありません。

・電話で、「自分で公証人役場とかいって信託契約書は作った。チェックして欲しい。」と言われた場合。結局は来ませんでした。

・信託中に、受託者を変えようと思っているんですけど、と受益者から相談があった場合。話を聞いてみましたが、信託契約書を示しながら、変えることは出来るし、変えた場合はこうなる、ということは言いました。未だ変更なしです。

・事務所のホームページを読みこんでいただき、ある程度の知識を持って民事信託を利用するつもりで相談に来られる人と、ほとんど分からないけれど遺言との違いを教えて欲しい、と相談に来られる人。相談の内容が大分変ります。後者の方が鑑定に含まれるようなことを訊かれることが多いです。

・宅地建物取引士と経営コンサルタントが民事信託の流れを図に書いて、信託契約書の作成と不動産登記申請を依頼された場合。報酬も勝手に決められていたので断りました。不動産登記申請の仕事を受任していた宅地建物取引士とも関係を切りました。

ここまで書いてきて、私には、鑑定(法律判断)と書類作成(法的整序)の違いを明確に答えることが出来ません。

逆回りで、鑑定と評価され得る場合はどのような場合か考えてみます。

・依頼者から「あの時、先生にこの方が良いと言われたから。」と言われたら場合。

・関係者から、「あの司法書士が勝手にやった。」と言われた場合。

・司法書士から、「あの先生の有料チェックを受けています。あの先生に有料相談をして、回答の通り業務を行っています。」と言われた場合。

民事信託契約書の場合は、公正証書にする(公証人の前で本人が印鑑を押す)のが現在の一般的実務なので、代理している感覚が薄くなるのかもしれません。

評価から考えて、司法書士は主観的には適法だと認識して民事信託支援業務を行っていることを前提とします。

司法書士の認識が適法だと認められるには、どのような事実が必要なのか、少し考えてみます。野口雅人「民事事件における書類作成業務」[4]を参考にします。

・法令・判例の立場を理解した書類を作成する。

・作成した文書のうち、原本があるもの(公正証書)などを預からない。

・依頼者以外の関係者から民事信託に訊かれた場合、依頼者が答えられるような書類を作成する。

・文書の送達、メールの送信は依頼者から行ってもらう。

・成功報酬型の報酬基準を取らない。見積書も積立て型にする。登記申請の代理と、信託契約書などの書類作成については見積書を別にする。

自分自身気を付けたいと思います。


[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(1)」市民と法123号 2020年6月(株)民事法研究会

[2] 斎木賢二ほか「司法書士法改正と司法書士制度の未来(上)」市民と法122号 2020年4月(株)民事法研究会

[3] 法令用語研究会編『法律用語辞典第4版』2012年(株)有斐閣

[4]『月報司法書士』2017年1月号


信託の終了について

メールマガジンからの引用です。下線は私です。

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民事信託実務講座のメルマガをお送りいたします。本日の担当は、鳥取の司法書士の谷口毅です。

今回から数回にわたって、信託の終了について考えましょう。

契約書を作成する際には、信託の終了がスムーズにできることがとても大事なのですが、そこまで、意識が向かない方も多いのが実情です。

そもそも、信託の終了まで行きついたケースが、多くはないですからね…

私の事務所でも、信託の終了の手続を手掛けることが徐々に増えてきますが、まだまだ件数が少ないです。

しかし、信託の終了はとても論点が多く、さらに、税務や登記でも実務が固まっていない部分が多いので、みなさん、手探りで行っています。

慣れた方は、みなさん、「よく分からないことが多いけれど、こういう定め方だと、最もリスクが少なく、実務上も安定した形で終了できるはず!」という契約条項の定め方を、その人なりに研究しているのではないでしょうか。

これからしばらく、信託の終了について、様々な論点を書いていこうと思います。

なお、実務も理論も固まっていない以上、私見による部分が多くなってきますので、完全に信用することなく、自分の考え方をもって、批判的に読むようにしていただけるとありがたいです。

信託の終了の続き、その2です。前回の記事はこちらです。

信託の終了  http://www.tsubasa-trust.net/2020/03/blog-post_31.html 

信託の終了の際に問題になりそうな例を考えてみます。

例えば、信託の継続中に、受託者が、不動産を売却する契約をしました。

最終の代金決済日は近づいてきましたが、なんと、決済日の前に、信託の終了事由が発生しました。

この場合、受託者は、不動産の売却を継続すべきでしょうか?

それとも、売却を中止して、帰属権利者等に不動産を給付すべきでしょうか?

答えとしては、不動産の売却を継続するべき、ということになりますね。

信託の終了事由が発生しても、信託はすぐに終了するのではなく、清算が結了するまでは存続するとみなされています。

清算受託者は、債権の取立と債務の弁済をしなければなりません。

不動産の売買契約は、既に行ってしまっていますから、清算受託者は、債権債務の整理の一環として、不動産の売却を最後まで進める義務があります。

不動産を売却すると、信託財産に属する不動産は、金銭に形を変えます。

その金銭で、債務を弁済し、残った金銭があれば、帰属権利者等に給付することになります。

民事信託実務講座のメルマガをお送りいたします。本日の担当は、鳥取の司法書士の谷口毅です。

信託の終了の続き、その3です。前回の記事はこちらです。

信託の終了http://www.tsubasa-trust.net/2020/03/blog-post_31.html   

信託の終了その2http://www.tsubasa-trust.net/2020/04/blog-post_10.html  

以前も一度ブログで取り上げた内容ですが、やはり、今でも間違ってしまう方が多いようなので、再度書こうと思います。

以前のブログはこちら「危険な信託条項の例〜残余財産の帰属〜」http://www.tsubasa-trust.net/2017/09/blog-post_16.html

信託契約の中で、「委託者兼受益者が死亡した時に、信託は終了する。残余財産の帰属は、委託者兼受益者の相続人全員による遺産分割協議で定める。」という条項を見ることがあります。しかし、これは誤りです。

なぜなら、遺産分割協議ができるのは、被相続人の遺産についてです。

信託財産に属する財産の所有権は、受託者が有していますので、委託者兼受益者は所有権を有していません。従って、このような遺産分割協議はできないのです。

この点について、「根拠条文はどこですか?信託法のどこにも書いていませんよ?」という問い合わせをされることがあります。

根拠条文は、民法896条ですね。

「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」というところです。

信託財産に属する財産は、委託者兼受益者が所有しているものではないので、「被相続人の財産に属した権利義務」ではないのですね。

従って、このような信託条項を定めたとしても、無効であると考えることができます。

民事信託実務講座のメルマガをお送りいたします。本日の担当は、鳥取の司法書士の谷口毅です。

信託の終了の続き、その4です。前回の記事はこちらです。

信託の終了http://www.tsubasa-trust.net/2020/03/blog-post_31.html

信託の終了その2http://www.tsubasa-trust.net/2020/04/blog-post_10.html 

信託の終了その3http://www.tsubasa-trust.net/2020/05/blog-post.html   

信託の終了に関するトラブルの例を挙げてみます。

例えば、「委託者兼受益者であるAが死亡した場合に、信託は終了する」と定めていたとしましょう。

帰属権利者として、Aの長男であるBを指定していました。そして、現実にAが亡くなりました。

この時点で、信託は終了し、Bに残余財産を引き継ぐことになります。

ところが、ここで問題が発生しました。

Aの相続人全員で、改めて話し合った結果、「Bではなく、やはり、別の人が財産を取得した方がいいのではないか??」という結論に達したのです。

それでは、最初に決めておいた帰属権利者を、信託の終了後に変更する、ということが、果たして許されるのでしょうか?

結論としては、許されない、ということになりそうです。

では、どう配慮すればいいのか、ということを、これから考えてみます。

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司法書士が民事信託・家族信託について書く記事で、前から気になることがあります。

意識が向かない方も多いのが実情」、「徐々に増えてきますが、まだまだ件数が少ない」、「とても論点が多く」、「部分が多い」。

これだけではなく、○○と書いている人がいるが誤り、など批評の対象とする人が特定されないことが多いことです。

特定する方を未だ見たことがありません。もし知っていらっしゃる方がいたら教えてください。個人名を出したとしても、実務・理論について自分で考えて実践することなので、その方を傷つけることにはなりません。書籍や論文などを表に出している方なら、実名を出して問題はないと思います。そのような方なら、間違ったことを書いたら、説明してくれるだろうし、その方が間違っていたら書籍や論文の内容を修正してくれると思います。

それが出来なければ、力がない人と考えて間違いないのかなと感じます。

例えば、川嵜一夫司法書士は書籍を出版していますが、実名を出してHPの記事を出していたところ、メールマガジンの解除通知が来ました。解除申出はしていないのに、一方的に解除通知が来ることを考えると、司法書士の力が分かるのかなと思います。川嵜先生が日本司法書士会連合会で役職を持っているは、私と日司連の考えの違いです。

登記申請代理業務、裁判書類等作成業務については出来るのに、民事信託・家族信託については何故なんだろう、と感じます。

「意識が向かない方も多いのが実情」、「徐々に増えてきますが、まだまだ件数が少ない」、「とても論点が多く」、「部分が多い」

このような表現が出てくると、その人って誰だろう?本当に居るのかな?そんな人が多いって何名ぐらい?徐々に増えていて、まだまだ件数が少ないって多いの?少ないの?とてもってどのくらい?まずは1つについて考えてみた方が良いのでは?と最初から信用性が揺らいできます。記事を書いている方にとって不利益だし、その記事を読む人にとっても、もしかしたら考える優先順位の低いところに時間を割いてしまい、不利益を被るのかなと感じます。

 最近知った言葉があります。マウンティングです。民事信託・家族信託をこれから業務としてやっていこうという方に対しては、マウントを取っているなと感じてしまいます。

不動産の売却を最後まで進める義務」の最後とは、どこまででしょうか。資金決済が終わって、登記申請をして登記完了まで行うと考えます。その後、売却年の確定申告をして、譲渡取得税の支払いなども行うべきでしょうか。私なら、

この事例では、信託事務に関する最終の計算(信託法184条)が残余財産の帰属権利者、残余財産の受益者に承認されて、財産(この例では通帳と届出印)を渡した段階で「最後まで進める義務」を果たしたと考えます。

委託者兼受益者が死亡した時に、信託は終了する。残余財産の帰属は、委託者兼受益者の相続人全員による遺産分割協議で定める。」という条項を見ることがあります。しかし、これは誤りです。

私はこのような条項を見たことがないのですが、どのくらいの数があるのでしょうか。「遺産分割」の記載を削除すれば、機能する条項だと思います。

Aの相続人全員で、改めて話し合った結果、「Bではなく、やはり、別の人が財産を取得した方がいいのではないか??」という結論に達したのです。

それでは、最初に決めておいた帰属権利者を、信託の終了後に変更する、ということが、果たして許されるのでしょうか?

結論としては、許されない、ということになりそうです。

では、どう配慮すればいいのか、ということを、これから考えてみます。

Aの相続人全員で、と記載されているので、Aの長男であるBも入っていることになります。私なら、次順位の受益者を定める条項に「受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。」と記載して、推定相続人の全員を記載しておきます。または、Bが受益権を放棄した場合、Aの相続人全員で協議した者、とします。2年前に書きました[1]


[1] 「チェック方式の遺言代用信託契約の条項例と作成上の留意点(1)、(2)」市民と法112、113号2008年民事法研究会

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