自己委託型と自己信託について

金融法研究第36号に「高齢者の金融取引と自己決定権」[1]という記事がありました。

  • 高齢者の金融取引の支援の必要性

a 国連障害者権利条約[2]

b 1人暮らしの高齢者の増加

  • 高齢者の判断能力の漸減

高齢者の金融取引能力

  • 民法の能力制度

a 行為能力

  • 定型的・類型的判断 民法に基づく判断
  • 能力漸減への対応の困難さ

ア 高齢者単独での日常的な預金取引

イ 高齢者が投資取引を望んだ場合

b 意思能力

  • 個別具体的判断
  • 意思能力無効の拡大解釈による対応の問題
  • 事業者の勧誘規制等

a 適合性の原則[3][4]

  • 取引資格要件としての適合性の原則
  • 適用範囲の狭さという問題

b その他

  • 消費者契約法
  • 高齢顧客向け勧誘ガイドライン[5]
  • まとめ

金融取引に関する一元的な指標の必要性―管理と運用に連続的な指標

「金融取引能力」の制定

3 金融取引の支援と自己決定

  • 事前のアレンジメントの重要性

a 個別具体的な支援の困難さ

  • 様々な考慮要素
  • 様々な取引類型

b 事前アレンジメントの類型

  • 第三者委託型アレンジメント

財産管理委任契約、任意後見契約、信託契約、あるいはこれらを組み合わせた方法。任意後見監督人の就任、指図権者の活用・留保、信託監督人の活用。

(b)自己委託型アレンジメント(試論)

第三者の代わりに、将来の自分を、金融取引の委託先として指定する。

  • アレンジメントにおける監督の在り方

a 第三者委託型の場合

b 自己委託型の場合―信託型を参考にした見守りアレンジメント?

2つの方法

  • 高齢者の金融取引能力が低下した後も、本人が一貫した取引目的を設定できる限りは、本人の意思により取引目的を自由に変更可能であるとするアレンジメント。
  • アレンジメント時点で取引目的が固定され、金融取引能力低下後はその目的に沿った金融取引しか許されない。

2を中心的に考える。本人の金融取引能力をチェックする監督機関を設置する必要がある。監督機関の例として、裁判所などの中立的な第三者機関が望ましい。

要点

高齢者が単独で金融取引を行う場合の問題の中には、過去の自分の自己決定と、現在の自分、将来の自分が、あたかも別人格であるかのように考えた上で、過去の自分があらかじめ設定した財産管理目的に従って、将来の自分の利益を考慮しながら、現在の自分が財産管理を行うという関係は、信託類似の関係であると考えることができるのであり、その限りで信託法は参考に値する、と考えているわけです。

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自己委託型というものが、どのような形なのか私の理解が誤っているかもしれません。

自分で自分に委託する、ということは、自己信託が宣言であるのに対して自分と自分が委託契約を締結する、ということだと思うのですが、難しいのではないかと思います。投資商品を販売する金融機関等は、この契約書で取引を進めるのでしょうか。

また監督機関の設置は必要だと感じます。ただし、裁判所に任せるのは無理だと感じます。また中立の第三者機関で判断するにしても、利用者としては納得できないこともあるのではないかな、と感じます。

信託業法に基づいて事業を営む法人に対しては、あっせん委員会[6]という機関が存在しますが、(一社)信託協会の中にある機関なので、私なら相談しません。

消費者相談センターか金融庁に資料を送付かメールすると思います。

私の考えは、ガイドラインはあるとして、ケースバイケースで対応することです。

金融機関にはカメラも設置されているので、音声も撮れるようになると思います。利用者は時計や携帯電話などにセンサーを付けて、データを貯めているかもしれません。

結果、超高齢化の社会においても紛争の数は大きくは変化しないと思います。


[1] 学習院大学教授 山下純司 金融法学会2020、P69~

[2] https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention131015.html

[3] https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kinyushohin/03.html

[4] 金融商品取引法第40条第1号

[5] https://www.jsda.or.jp/about/gaiyou/gyouhou/13/1311/koureisyakisoku.pdf

[6] https://www.shintaku-kyokai.or.jp/consultation/issue.html

委託者の地位について

あるメールマガジンの記事です。HPで公開するとメールマガジンを解除されるので、固有名詞を出すのは控えます。

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コロナで人との対面が、とても慎重になってきましたよね。

コンビニなどのお店では、保護シールドが普通になってきました。

半年前は考えられなかった光景ですよね。

そんな中でも止まらないのが、「認知症」の進行。

信託や任意後見につながる案件の相談が増えてきていませんか?

最近、僕のところには、はじめて案件を受けたということで、契約書のチェックや共同受任の依頼が増えてきています。

(今回のメルマガは、契約書の解説なので、契約書を作成する人向けです。)

■■ 信託契約書に入れて欲しい条項

いつもチェックするときお願いすることがあります。

特に不動産を信託する場合ですが、次の条項を入れて欲しい。

************

(委託者の地位の相続)

第○条  本件信託の委託者の地位は相続により承継せず、委託者の死亡によりその地位は受益者へ移転する。(当初委託者の権利は消滅する。)

************

括弧内は家族関係によってはあってもなくてもOK。

■■ なぜこの規定が必要か?

「終了時」に

・登録免許税

・不動産取得税

が高くなる可能性があるからです。

■ 登録免許税

当初委託者の相続人が帰属権利者になる場合です。

本来4/1000ですむものが20/1000になる可能性があります。

(登録免許税法7条)

■ 不動産取得税

こちらも、当初委託者の相続人が帰属権利者になる場合です。

終了時、かからないはずの不動産取得税が課税される可能性があります。

(地方税法73条の7 1項4号ロ)

つまり、1000万の評価の不動産なら、信託の終了時に

登録免許税

4万円 ⇒ 20万円

不動産取得税

非課税 ⇒ 30万円

合計で

4万円 ⇒ 50万円

になってしまいます。まずいですねぇ。

1億の評価の不動産なら

40万円 ⇒ 500万円

たった一行、あるかないかでこの違いですから、これはまずい。

契約書作成者には司法過誤の責任も生じかねません。

■ 根拠

上記二つの法律とも

「信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である」

という部分がキーになっています。

(条文はぜひ読んでみて。)

委託者の地位は、何もしないと相続人に法定相続されることが、その理由です。

(信託法147条の反対解釈)

つまり、契約書で設定した信託は、委託者の地位は相続により承継されます。

と言うことは、「委託者の地位」は、何もなければ、遺産分割の対象になります。

通常、分割協議では、委託者の地位などマニアックのこと(笑)は協議されないでしょう。

そうでなくとも、「残りの財産は○○が相続する」と言うところにかかり、

その際、委託者の地位を相続した人と、(元本の)受益者がちがう人だと、上記の条文の要件に該当しないことになります。

そもそも「委託者の地位」は「財産」なのか?(「残りの財産は・・・」という表現でOKかという問題)

それから「元本の受益者」が何かという問題はありますが、とりあえずここでは、「受益者」と読み変えてください。

ちなみに、信託法には「元本の受益者」についての定義なし。

ま、こんな感じで、いろいろ面倒なことになりそうなんですよ。

■■ 法務局によっては登録免許税が上がるところも

実際、この規定が信託契約書にない場合、

信託終了時の登録免許税が、帰属権利者が当初委託者の相続人にもかかわらず

4/1000にならずに20/1000になる法務局がでています。

九州はその傾向があるようです。

************

(委託者の地位の相続)

第○条  本件信託の委託者の地位は相続により承継せず、委託者の死亡によりその地位は受益者へ移転する。(当初委託者の権利は消滅する。)

************

ですから、この規定、

・不動産を信託する

・帰属権利者が当初委託者の相続人

であれば、必ず入れるようにしてくださいね。

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司法錯誤などの誤字は措いておきます。私の委託者の地位の条項は書き方が違いますが、六法や民事信託・家族信託に関する書籍には例文が書いてあるので、初めて受任する方でも大丈夫だと感じます。この記事の中での九州には、沖縄県は入っていないことを付言します。

地方税法第七十三条の七 1項4号

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC0000000226#3015

「民事信託登記」

zoomのチャット欄に書き込んだコメントの備忘録です。

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お疲れ様です。

チャット欄は、パネリストだけではなく、参加者同士でやり取り
出来るように設定することは可能でしょうか。

ピーって聴こえますね。

いえ、私だけかと思いました。


【信託条項の信託の目的について】
信託法2条1項で、一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう、と書かれているので、管理又は処分できることは原則なので登記不要、管理、運用、又は処分について制限がある場合に登記が必要だと思うのですが、どう思いますか。


【信託条項に不動産を記載するかについて】
不動産が複数ある場合に検討するかもしれません、


【受託者の瑕疵担保責任について】
・売買を予定している場合は検討するかもしれません。

【受託者の信託事務について】
・資料に記載の条項は、全て記録申請します。

【第3者委託について】
・管理会社がいれば検討します。

【信託の変更について】
その他信託法が定める事由を入れます。

【受益権の譲渡、質権設定について】
受益権は相続により承継されない、というのはどういう意味なんでしょうか。

【信託の終了について】
その他信託法が定める事由を入れます。

【次順位の受益者を信託条項に記録するように登記申請するかについて】
ケースで分けます

信託財産に関する条項 (信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする)などについて

連載 信託契約書に潜む注意すべき条項徹底解説という記事[1]がありました。

引用です。

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信託法16条1号には、信託財産が他の財産に形を変えても、その新しい財産が信託財産を形成するという、いわゆる「信託財産の物上代位性」が規定されていますので、(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』74頁)、信託不動産を売却した際の売却代金は当然に信託金銭になります。まれに、「信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする」という条項を見かけることがありますが、諸費用を控除する前の売却代金そのものが信託財産となりますので、このような条項は置くべきではありません。

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「信託不動産の売却代金から諸費用を控除した金銭を信託財産とする」。この条項は、私が作成する信託契約書では入れていんじゃないかなと思い確認してみたのですが、入れていませんでした。理由は分かりません。

ただ、信託法16条1項本文は、信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、次に掲げる財産は、信託財産に属する、と規定されています。

また、引用されている書籍の(注1)には、例えば、信託財産に属する財産を売却することによって受託者が取得する売買代金債権、信託財産に属する金銭で受託者が購入した財産などがその典型である、と記載されています。

条文と注1を読んでみると、信託行為で信託財産にする財産の範囲は決めることが出来る(16条1項1号は、強行規定ではなく、一般的・包括規定[2])ので、「置くべきではない」と記載するまでのことではないと考えられます。また、売買代金債権と売買代金は、債権と(一般的には)動産なので、性質が違います。売買代金を売買代金債権と捉えて、債権のうちに、「諸費用を控除した金銭を信託財産とする」条項を入れることは、決済の流れを考えてもそれほど間違っていないと思います。

もう1つ同じ記事から引用します。

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なお、現金については、委託者が元気でいる限りは、適宜受託者に金銭を追加して託すこと(いわゆる「金銭の追加信託」)が容易に可能ですので、信託開始時に託す金額の精査はあまりせず、暫定的な金額から管理を始める方も少なくありません(小生の依頼人の中には、信託契約開始時の現金はあえて「0円」という方もいます)。

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信託契約開始時という言葉がどのような意味を持つのか分かりませんが、ここでは、信託契約書の信託財産の条項で、現金を0円とすることが出来るのか、考えてみたいと思います。

金銭0円と金銭なしには、違いがあるのかです。金銭なし、と記載すると、後から現金を信託財産に属する財産にするには、金銭について追加信託用の情報を作成する必要があります。

この件について、明確な答えを持つことは出来ませんでした。信託業法施行令12条の5第1項1号[3]などが参考になるのか分かりませんが、対価を0円と記載しても契約の効力が発生して、サービススタート(手数料は徴収)できるのか、などと考えています。

0円をなしと解釈する方もいるかもしれません。


[1] 「第3回 信託財産に関する条項」一般社団法人家族信託普及協会 代表理事・司法書士 宮田浩『家族信託実務ガイド』2020.8第18号P70~

[2] 道垣内弘人『条解信託法』P86 2017 弘文堂

[3] 特定信託契約(法第二十四条の二に規定する特定信託契約をいう。以下同じ。)に関して顧客が支払うべき手数料、報酬その他の対価に関する事項であって内閣府令で定めるもの

民事信託・家族信託における口座について

(一社)民事信託推進センターテーマ別勉強会の備忘録

定義

法律に、口座の定義についての記載はない[1](あれば教えてください)。

書籍[2]には、銀行などの金融機関が預金等の受払い及び残高を整理するため各顧客ごとに設ける勘定のこと。法令上はこの意味で用いられる、と記載されています。

口座の開設要件

・形式要件、実質要件、運用要件がある。

 何となく分かるのですが、形式がなければ管理できないし、実質がなければ中身が空っぽだし、開設出来なければ運用できないので、分ける意味があまり分かりませんでした。おそらく、口座を開設して閉鎖するまでのことを考えれば良い、ということなのだと想像します。

勉強会の講義では、

1 その預金口座が受託者の名義であること。

2 受託者の個人口座と区別する名称が付されていること。

の2つを満たせば良いとのことでした。

1と2に加えて、

3 金融機関の内部のシステム上、受託者個人とは分離独立したCIF(カスタマー・インフォメーション・ファイル)コードを備えていること。

4 金融機関の内部手続きにおいて、受託者の個人口座とは異なる取扱いとなることが定められていること。

5 個別の信託契約書の内容に即した管理が行われる口座であること。

を要件とする記事[3]もあります。

 私の場合は、口座開設前に次の要件を記載した書類を金融機関にFAXします。FAXでも送信記録が残るのですが、メールで済ませたいところですね。

(1)形式・名称は信託口、普通預金の特約付き問いません。

(2)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと

(3)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者の死亡が分かる書類と就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること

(4)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること

(5)キャッシュカードの発行

 意外だったのが、(4)について、これは面白いね、というコメントをいただいたことです。そうなのかと新しい発見でした。また金融機関の中には、信託口口座を普通預金で作成した場合に、年間管理料を徴収するところもあるらしく、そのような場合は、金融機関の注意義務も(何らかの契約を交わしていなくても)大きくなると考えられる、というところは同感でした。

金融機関の懸念

  • 預金口座への差押え
  • 個人受託者の場合の死亡や後見開始のリスク
  • 受託者の要件として意思能力の確認が必要か。

証券口座 

・受託者は何をすべきか。注意義務のレベルは何か。

善管注意義務(受託者の能力、社会的地位、信託行為の内容から導かれる注意義務)を負うのか(民法644条、信託法29条2項)。

自己のためにするのと同一の注意(受託者個人の財産を管理するのと同じ注意義務)を負うのか(民法827条、信託法29条2項ただし書)。

・アメリカでは、自己のためにするのと同一の注意の方が義務のレベルが高い。

いくつかの基準[4]

・受認者は自ら有すると表明した専門的技能を実際に保持し、かつこれを行使しなければならない。

・受認者の成果は、サービスを提供する際のプロセスで評価される。

・受認者が負担する法的リスクが注意義務に影響を及ぼすことがある。

・受認者に対する評価は、関係者の合理的な期待と受認者の裁量に対する制約の影響を受ける。

・適用される法が異なると注意義務の内容も変化することがある。

・受認者の専門性に対する裁判所の評価。

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・委託者が能動的な場合、受託者が財産が減少させても良いと一筆取っておいても、金融機関(証券会社)が責任を取る場合がある。

・証券会社は、取引用の銀行口座を作る銀行を指定する権利があるか。

・証券会社が家族信託サービスを始める際の契約書類の定型化が難しい。

・現在、民事信託・家族信託サービスを提供していることが確認できる証券会社

・野村証券(株) 楽天証券(株) 大和証券(株) 

上の3社のホームページから、サービスの仕組みを知ることは出来ませんでした。

 大和証券(株)について、下の記事のように、家族信託サービスを使うメリットはないんじゃないかと言ってみたところ、委託者が株取引を好きな場合はあり得るということでした。世の中には色んな人が人がいるんだろうなと感じました。

https://miyagi-office.info/wp-admin/post.php?post=1629&action=edit


[1] 山中眞人「信託口座は難しくない―利用者のニーズと口座開設銀行の責任」『信託フォーラムvol.11』2019 日本加除出版

[2] 法令用語研究会『法律用語辞典』2012年 有斐閣

[3] 渋谷陽一郎「民事信託のための信託口預金口座(1)」金融法務事情2021号P62

[4] タマール・フランケル著 『フィデュ―シャリー「託される人」の法理論』P173~ 2014 弘文堂

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