会報「信託」第293号「遺言代用信託における受益者の権利―予定受益者は惨事における受益権の取扱いを中心として―」、「後見制度支援信託の受益者雄死亡により終了した場合における残余財産の帰属」

会報「信託」第293号、令和5年2月、(一社)信託協会についてのメモです。

・商事信託研究会報告「遺言代用信託における受益者の権利―予定受益者は惨事における受益権の取扱いを中心として―」

裁判所HP

最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決

破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡保険金受取人の破産財団に属する。破産法34条2項,保険法42条

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85854

遺言代用信託(信託法90条1項1号・2号)における予定受益者の破産時における受益権の取扱いについて

問・・・委託者の死亡前に予定受益者の破産手続が開始され、破産手続の終了前に委託者(兼当初受益者)が死亡した場合、破産者である予定受益者が受益者となり、受益権を取得する。取得した受益権は、破産手続開始の時点において「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権(破産法34条2項)」に該当するか。

破産法(破産財団の範囲)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000075

第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。

2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。

―3項以下略―

信託法90条1項1号の予定受益者と、信託法90条1項2号の予定受益者の権利の違い

信託行為における文言

信託契約日から委託者に相続が開始するまでの間は、委託者を受益者とする。委託者に相続が開始した時以後は、●●を受益者とする。

・・・1号に該当し、委託者が死亡した時から受益者となる。

最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決との比較

最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決

・判決の事実

受取人が保険金を受領し、保険金支払請求権は、すでに実現して権利となっている。

・判決の判断の枠組み

  • 破産手続開始前(保険契約の成立時)に、抽象的保険金請求権として成立しているか。
  • 抽象的保険金請求権の発生を認めた場合でも、「将来の請求権」に当たらず、破産者たる保険金受取人の自由財産(新得財産)になるか。

・裁判所の判断

破産手続開始時には現実化していない保険受取人の権利が破産財団に帰属することについて、肯定。

信託法90条1項1号の想定事例

1 委託者と受託者(信託銀行)が信託契約締結。委託者兼当初受益者。委託者に相続が開始した場合、指定する受取人(予定受益者)が、残余財産を一時金または定時定額払いの形で受け取ることが可能。

2 予定受益者が破産手続の開始

3 委託者の死亡

・最高裁判所第一小法廷平成28年4月28日判決の判断の枠組み(1)の観点から

信託財産にかかる給付を受ける権利について、委託者の死亡時まで取得せず、かつ、信託法90条2項により委託者が死亡するまでは、受託者としての権利(受託者に対する監督上の権利等)を有さないものと理解されている。

よって、1号信託の場合、信託行為成立の時点では、抽象的な権利としての受益権を取得したと考えることは難しい。受益権の発生、帰属を分ける場合も同じ結論。判決における停止条件付請求権と評価することは、難しい。

2号信託に関して、受益権の取得を前提としている場合でも、受益権そのものを取得していない段階で、何らかの受益債権を取得していると考えることは難しい。

・遺贈との比較

遺贈と比較して、1号信託の場合は少なくとも信託行為(信託契約)の効力は発生しているので、予定受託者への受益権の将来における帰属可能性が高い。もっとも、信託行為の定め方によって、帰属可能性が低いと評価される場合もある。予定受益者が受け取る受益権(財産の額)が、予想しずらい定めになっている場合、委託者がいつでも単独で信託を終了することができる定めるがある場合(信託法164条1項本文、3項など)。遺言の撤回可能(民法1023条)の規定と同様の評価がされる可能性。

・結論

1号信託である想定事例の場合、当該権利は、破産法32条2項の将来の請求権として破産財団に帰属する。

・委託者が破産手続終了までに死亡していない場合で、処分が困難であるとき

破産管財人としては、一定の金銭を財団に組み入れる、権利を財団から放棄する、自由財産の拡張の対象とする、というような選択肢。

・予定受益者に、破産手続開始決定がされたときの受託者の対応

受託者において、受益者の破産手続開始決定を知ることが出来る仕組みが必要。

・遺言代用信託における委託者の意図の実現の方策

受益者の変更(信託法90条1項本文)。

信託の終了事由として、受益者の破産手続開始決定を定める(信託法163条1項9号)。

受益権取得の条件として、破産手続開始申立てをしていない場合、を定める。

「後見制度支援信託の受益者雄死亡により終了した場合における残余財産の帰属」

・後見制度支援信託の契約約款に、残余財産受益者、帰属権利者という文言を使用した規定がない場合に、残余財産の給付を受ける権利が本人である委託者兼受益者の相続財産に含まれるかについて

残余財産受益者、帰属権利者という文言を使用した規定がない場合でもあっても、専門職後見人と金融機関の信託契約締結時に、本人(成年被後見人)を残余財産受益者とする黙示の指定があったとみなされることによって、残余財産受益権が相続財産となる。

理由

・預貯金債権に類似していること。

・本人(成年被後見人)の意思決定に反する介在を極力減らすこと。本人(成年被後見人)に遺言を作成して残余財産受益者を指定する機会を残すこと。

・信託法181条1項1号の規定。

・明示的に残余財産受益者を指定する方法

特定の個人名、受益者、受益者またはその相続人その他の一般承継者に交付する。

・残余財産受益者権の相続

受益者(成年被後見人)による遺言の取扱い(民法966条、973条)。履行できるかの確認。

・共同相続の場面における、残余財産受益権の当然分割の有無

参考判例 裁判所HP

最高裁判所第二小法廷平成26年12月12日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84688

共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき,相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し,それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合,上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく,共同相続人の1人は,上記販売会社に対し,自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない。

参照法条 民法427条,民法898条,民法899条,投資信託及び投資法人に関する法律6条3項

当然分割を否定することも可能。

相続人による残余財産受益権の行使方法

・遺産分割協議(民法909条の2、家事事件手続法200条3項)

「受託者の権限および義務に関する法的考察―第三者委託―」

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第7章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第7章民事信託支援業務と司法書士の使命

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P440

司法書士が、法3条業務として民事信託支援業務を行うことの制度的意義は、司法書士が、私人間の法律関係の規律に直接的にかかわることである。市民の相談役として、国民の権利を擁護する法律事務の専門家にふさわしい。過去の一部の司法書士業務にみられたような公的機関の権威を背景にしない(私人対公的機関という構図ではない)、司法書士自らの法律知識・技術と倫理観を頼りに、市民の相談役として、私人間の水平的な関係にかかわる業務となる。

→過去の一部の司法書士業務にみられたような公的機関の権威を背景にしない(私人対公的機関という構図ではない)業務、とは何か、私には分かりませんでした。法定後見人などの業務のことを指しているのでしょうか。

 制度的意義については、必要とされていること、司法書士が出来ることについて、私なりにもっと考える必要があると感じます。

しかし、実体法で、かつ、司法の基本法の研究に正面から取り組む機会は、そう多くないのではあるまいか(会社法の研究は商業登記法を介する形で行われ、民法は不動産登記法の枠組みを介することで凝縮され緻密化した)。

→信託法においても、専門である信託目録を含む信託に関する登記を介して研究に取り組む方が、司法書士にとっては理解が速いのではないかと思います。また、遺言書(案)作成、成年後見制度、任意後見制度に関わってきた経験も活きる場面です。

P443

家族信託の泰斗である遠藤英嗣弁護士は、一部の専門家による家族信託の組成業務(業務誘致)それ自体に関して、消費者被害の懸念があるとして警告を発している。報酬の高額性も指摘する。

 

→法令で確定していること以外、確かな、確実な、絶対に、などの文言を控えることが必要なのかと感じました。

 報酬の高額性について、遠藤英嗣弁護士の最低手数料は28万円となっています。その下に、価格0.50%の目安の事例、などが列記されています。

http://www.kazokushin.jp/publics/index/43/

 こられが、弁護士が民事信託支援業務を行う際の、参考と考えていいものなのでしょうか。司法書士としてはこの料金と比較して、どのくらい低ければよいのでしょうか。財産に一定割合をかけた報酬額をしない、ということがまず挙げられるかもしれません。ただ、司法書士の旧報酬基準でも、例えば抵当権設定登記の債権額が高額である場合、加算しています。作成する書類は同じで、書きこまれている数字が違うだけです。割合加算と何が違うのか、私には分かりませんでした。

 旧報酬基準との関係でいえば、枚数加算は利用しやすいのではないかと思います。例えば、受託者の権限に関する条項のメニューを1枚作成したから、○○円、と個別に計算し、積み上げていく方式は、今までの司法書士業務と馴染むのではないかと思います。相談回数や書類のやり取りが多いほど報酬が高くなりますが、その時には、一般的に委託者の理解も進む可能性が高く、納得感も得られるのではないかと考えます。

P445

成年後見制度導入段階の平成11年、日司連理事であった斎木賢二司法書士は、成年後見業務を人権問題であると明言しているが、同様に、認知症対策をうたう家族信託も人権問題であることを忘れてはならない。

→成年後見業務も、家族信託も人権問題であることを知りませんでした。

P468

司法書士にとっての「支援」という言葉は、一般用語としての支援とは異なる。司法書士職務としての公益性・公平性・庶民性などの正義の概念を含む歴史的概念である。それは司法書士の報酬の思想にも深く関連しているのである。

→初めて知りました。司法書士行為規範には、利用されています(10条など。)。

P470

そこで、司法書士試験をもって、信託法の知識・思考を試験する国家試験とすべきである。厳しい受験勉強の過程こそが法律(信託法)を体系的に万篇なく身に付ける最良の機会なのだ(実務家としての学習は摘まみ食い的となり、体系性と網羅性が足りなくなりがちだ。司法書士実務家向けの信託研修では、受験予備校の民法や会社法の講座のような信託法の体系的講義を行う時間はない)。

→司法書士試験に、信託法を入れることには基本的に賛成です。ですが、試験勉強だけが勉強ではありません。実務に出てからでも勉強の場はあります。学会に入会して論文を書く、近くの大学で信託法の研究者がいる場合は、単位履修生などで聴講する、など他に方法はあります。また、受験予備校の講座を受けることが前提になっているように読めますが、私は受験予備校の講座を受けていません。私のような司法書士もいると思います。

最後に

 七戸克彦九州大学教授に関する記述が、私が読んだ限り、1か所(P447)だったのが気になりました。現在の研究者の中では、司法書士制度・土地家屋調査士制度に詳しい方だと思います。

 大垣尚司青山学院大学教授に関する記述がなかったのも気になりました。現在の民事信託の類型(認知症対応など)の7割近くは、大垣尚司教授の考えによるものだと考えています(平成24年9月1日、司法書士会館地下1階「日司連ホール」、「民事信託をいかに推進させるか」基調講演講師、大垣尚司「個人間信託と専門家の役割」など。)。

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第6章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第6章民事信託支援業務の法的根拠論

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P394からのグレーゾーン解消制度の回答の衝撃については、下の記事。

参考

『月刊登記情報』2023年1月号(734号)弁護士渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック第11回 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(上)」2023年2月号(735号)弁護士渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック第12回 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(下)」 一般社団法人金融財政事情研究会

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T/731/

P397

離婚協議案の作成時点においては、協議離婚を行う夫婦間に紛争性ありというべきであろうか、あるいは、合意に向かうプロセスであるから、まだ紛争性はないというべきか。―中略―信託契約書の作成の場合との類似性はどうだろうか。

→協議が調わない場合の調停(家事事件手続法244条)、訴訟が準備されている離婚の場合、一般的に紛争性ありと評価されるのではないかと思います。

信託契約書の作成の場合の比較としては、協議離婚案の作成については紛争になる可能性があるところを、協議によって解決したいという当事者(一方)の意思により作成するのに対して、信託契約書は紛争性の有無を契約書作成時点で、一度確認することだと考えられます。

P400

この点、信託契約書作成業務は法3条業務には該当しないと主張する人々は、司法書士業務である限り、当然にして法3条が適用されることについて、どのように考えているのだろうか(民事訴訟の主張・立証責任という技術的レベルの感覚でいっているとすれば、弁護士法72条は罰則の構成要件であるから、刑事事件の構造からも検討済みなのか)。

→司法書士のプロボノ活動です。日司連民事信託推進委員の発言なので、公式に近い見解と評価されます。

P407

有償の信託契約書の作成業務や審査業務について、仮にグレーゾーン解消制度を利用したとしたら、どのような回答が出てくるのだろうか。さらにはAIによる信託契約書の作成、あるいは、諸条件を入力することで信託契約書の雛型が提示されるなどのサービスなどはどうだろうか。

→少し別の視点からです。

開会日2023年2月21日 (火)

会議名予算委員会第三分科会 (3時間36分)

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54353

2:31:11

ありがとうございます。なるべく早く、このテーマについても、しっかり協議会の中で取り上げていただきますよう、よろしくお願いいたします。続きまして、相続登記の問題についてお伺いしたいと思います。毎年2月、これは日本司法書士連合会が定める「相続登記はお済みですか」月間とされております。これは、今増加する所有者不明土地問題、この解決に向けて、来年4月から相続登記申請が義務化されることになっておりますが、そういった観点でも非常に意義深い取組であると考えております。しかし、この関連で今、懸念がされているのが、資格を持たない事業者がオンラインで相続登記申請作成等のサービスを提供している、こういった問題があります。その中には、司法書士法への抵触が疑われるようなサービス、こういったものも散見されるため、本日は法務省の見解を確認をさせていただきたいと思います。別紙1をご覧ください。これが、一般的なオンライン事業者のサービスの流れでございます。この①、②を見ていただきますと、事業者らはまず、利用者からの委任に基づいて、相続登記申請に必要な戸籍等本などの公文書を収集することになります。そして③から⑤の手続きでございますが、利用者にフォームを提供して、オンラインのフォームに回答を入力してもらう。そしてその他の項目は、事業者がこれを埋めて、申請書や添付書類を完成させる、こういう流れになっております。そこでまずお伺いしたいと思います。この司法書士または弁護士、こういった資格を有しない事業者において、こうした登記申請書の作成に際して、例えば、相続人の住所であるとか、課税価格であるとか、本人がフォームへの入力操作をしていない複数の項目を、事業者が独自に入力して完成させていく。こういったことは、司法書士法第3条第1項、第2号に抵触するものではないかと考えますが、御見解をお願いいたします。

2:33:32

法務省金子さん、民事局長。

2:33:36

お答えいたします。サービス事業所の提供するサービス内容の法令適合性を、予断をもって答弁することは、差し控えるのが相当と思いますが、一般論として申し上げますと、司法書士ではない民間事業者が、登記申請書類の作成に必要な情報を依頼者にインターネット上で入力させて、登記申請書類の作成を可能とするサービスを提供するような場合におきまして、依頼者が入力していないような情報を入力したり、あるいは依頼者が入力した情報を加工修正するなどをして、その対応が民間事業者において依頼者に代わって登記申請書類を作成したと評価されるようなものであれば、司法書士法第3条第1項第2号に違反する恐れがあるものと考えられます。

2:34:28

塩崎貴司さん。

2:34:30

明確な答弁ありがとうございます。次に、オンラインの登記書類作成においては、法定相続人が誰かということを確定するというような非常に大事になります。例えば、戸籍謄本を代行取得した結果、当初想定していた法廷相続人とは違うかもしれない、こういったことが起き得るわけでございます。こうしたオンライン事業者においては、戸籍謄本を確認した上で、法定相続人が当初の想定と異なるかどうか、これを確認して、その結果次第で対応フローを変えるというふうになっております。しかし、ここで考えてみますと、相続登記申請において、被相続人との関係で法定相続人が誰か、これはまさに法的な評価ではないかということでございます。戸籍謄本の正確な読み取りと同時に、民法の各規定の解釈、そして個別な具体的な事案への正確な当てはめ、こういったことがなければ、正しい判断をすることはできないわけでございます。そこで、法務省にお伺いします。戸籍の記載から、親族関係を読み取って、民法に当てはめ、具体的に法定相続人を確定していく、こうした作業、これは法律事務に当たって、司法書士法に提触しないのか、お答えください。

2:35:51

法務省金子民事局長。

2:35:56

これも一般論としてお答えいたします。民間事業者がサービス内容の一部として、登記申請を行おうとする依頼者に関係する戸籍の記載から、法律上の親族関係を読み取った上で、民間事業者の判断で法定相続人を特定し、その判断を前提として登記申請書類を作成したような場合に、その対応が民間事業者において依頼者に代わって申請書類を作成したと評価されるようなものであれば、司法省司法第三条第一項第二号に違反するおそれがあるものと考えられます。

2:36:29

塩崎貴司さん。

2:36:32

ありがとうございました。もう一つお伺いしたいと思います。こうしたオンラインサービス事業者においては、往々にしてフォームに入力をしてもらうことに加えて、個別のフォローアップサービス、電話やメールでのフォローを行っているということでございます。資料にこちらをご覧ください。こちらはある事業者のホームページからの抜粋でございますが、このサービスを使ってみたユーザーからの声ということでユーザーレビュー、これが載っております。こちら少し紹介をさせていただきます。50代埼玉県の方でございます。電話するたび分かりやすく簡潔に解決できて本当に助かりました。こういうふうに書いてあります。60代東京都の方。法務局からの追加書類の相談で連絡した際にもすぐに対応していただきました。ありがとうございました。こういう記載があります。60代栃木県の方。書類の書き方の説明や付箋紙で印があったのでスムーズに書き方ができてよかったです。こういった話があります。静岡県の方。このたびは何もわからない私に丁寧に説明のメールをいただき、メールでわからない点を電話した際には丁寧に教えていただきありがとうございました。このような次第で、こちらのユーザーレビューの結果からしますと、まさに個別事案に基づく細かなフォローアップ、指導、アドバイスを行っていることが強く推認されるわけでございます。そこで法務省にお伺いしたいと思います。こちらのユーザーレビュー欄の記載にありますように、仮にこのサービス事業者が個別の登記申請書類の作成に関して、具体的な事案に関する利用者からの紹介に応じたり、サポートをしたりしているとすれば、これはまさに司法書士法3条5号に定める登記申請書類作成の相談に応じていること、この業務に当たることは明確ではないかと思いますが、こうしたサービスの提供は司法書士法に抵触しないかどうかお伺いしたいと思います。

2:38:57

金子民事局長

2:39:01

これも一般論としてお答えいたしますが、民間事業者側が個別具体的な事案を前提に、登記申請書類の作成に関する相談を受けて回答したり、助言したりして、その対応が民間事業者において登記申請書類の作成に当たって依頼者からの相談に応じたと評価されるようなものであれば、司法書士法第3条第1項第5号に違反する恐れがあるものと考えられます。

2:39:27

塩崎晃君

2:39:29

こちらも明確なご答えありがとうございました。相談に応じたと言われる実態につきまして、かなり大胆にホームページにこうしたユーザーレビューの結果が表示されているわけでございます。言うまでもなく、司法書士法というのは、この司法書士という専門資格、これをもちまして、この登記に係る国民の権利を擁護し、もって自由かつ公平な社会の形成に寄与する、これが司法書士法第1条に定められているわけでございます。法務省におきましては、こうした司法処置法に抵触するような行為、こうしたものにつきまして、しっかりと指導力を発揮していただきまして、国民の権利、擁護が図られる社会の形成に、また指導力を発揮していただきますようお願いを申し上げたいと思います。―以下略―

→司法書士法3条違反と評価され得る行為

・民間事業者が、依頼者が入力していない情報を入力したり、依頼者が入力した情報を加工修正して登記申請情報を作成すること。

・民間事業者が、依頼者が取得した情報、または事業者が代行取得した情報に基づいて、法定相続人の特定を行い、登記申請情報を作成すること。

・民間事業者が、個別具体的な事案を前提に、登記申請書類の作成に関する相談を受けて回答したり、助言を行うこと。

上について少し考えてみます。相続登記申請サービスについて、司法書士法違反と評価され得る、という行為です。民事信託支援業務について考えると、少し異なります。

→有償の信託契約書の作成業務について

・依頼者が理解していない条項を契約書の中に作成したり、依頼者が希望している条項を、依頼者の同意を得ないで加工修正すること。

・依頼者の同意を得ないで、受託者の権限や受益権の内容などを決定すること。

→有償の信託契約書の審査業務(同業司法書士に対する業としての相談、助言を含みます。)について

・前提として、依頼者(委託者)と面談しているのか。面談しないで有償審査が出来るのか。

・依頼者(委託者)が審査業務で指摘した内容を理解しているのか、同業司法書士への確認や依頼者(委託者からの)書面等による同意。

などが論点になるかと思います。また、違法と評価される基準は、信託契約書作成の場合と比べて、低く設定されると考えられます。同じ司法書士が作成した契約書をさらに有償審査するという高度な判断を要する行為を行っているからです。

(P410)

民事信託初経験の司法書士が法務局提出書類として作成した信託契約書を、民事信託のエキスパートを称する他の司法書士が有償で審査(チェック)する場合があると聞くが、そのような審査(チェック)業務も法3条1項2号に該当するものなのだろうか。純粋な契約書の審査(チェック)業務は、法3条のどこに該当するのか、あるいは、規則31条の何に該当するのだろうか、元の作成者よりも、審査者の方が、弁護士法72条リスクを心配する必要はないのか否か、慎重に検討して欲しい。

→日司連民事信託推進委員が行っているので、日司連としても公にではないですが、認めています。その是非は分かりません。

家族信託の相談会その53

お気軽にどうぞ。

2023年3月24日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第5章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第5章民事信託支援業務に関する懲戒事例と懲戒規範

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P346、P347

苦情が聞かれた、苦情も聞かれる、とも噂されるなどの記述について

→このような表現から結論が導いても良いのか、分かりませんでした。

P355

また、通常、子どもである受託者となるべき者の側から、本懲戒事例のように、自分たちのものにできないかとの旨の不法・不適切な動機を開示してくる場合は少ない。あくまでも、表面上、高齢の親のためであると言い張るだろう。そのような場合、司法書士は、どのようにして真の動機を知るのか、知りうべきか、知ることができるのか(そのメルクマークは何か)。

→信託設定時、外形上、明らかに子どもである受託者の利益のために設定されていると認められる信託でない限り(信託法8条)、結果として委託者・受益者に損害が出るかどうかになると考えられます。

P357

それでは、成年後見人事案でない場合で、親の財産の先取りや他の推定相続人からの囲い込みを意図した家族信託を組成した後、実際、信託財産を着服した場合、どの時点で犯罪の実行の着手と評価されるのだろうか、組成時だろうか、着服時だろうか。あるいは、家族信託だけの場合も、業務上横領罪であると評価されるのだろうか。

→犯罪の実行の着手と評価される時期について、外部に対して、明らかに受託者自身が自己の利益のために領得する意思を発現した場合を除いて、着服時だと考えられます。

家族信託だけの場合も、信託行為の内容によっては、法定後見制度、未成年後見制度と同様に業務上横領罪であると評価される可能性はあると考えられます。このような場合、公益信託の存在が評価に影響を与えるのではないかと思います。

最高裁判所第二小法廷平成24年10月9日決定

1 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項は準用されない。

2 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮するのは相当ではない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82627

最高裁判所第一小法廷平成20年2月18日決定

家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合,未成年後見人と未成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,その後見事務は公的性格を有するものであり,同条項は準用されない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=35770

P358

会則違反について―中略―違法行為の射程は、信託組成支援業務の違法に留まると考えます。理由として、信託組成支援業務の違法により、信託の違法が生じているので、司法書士が実際に行った信託組成支援業務の評価に留めることが、妥当だと考えたからです。

P361

しかし、医師でもない司法書士に、認知症患者の積極的な意思能力の有無を判断する責任を負えるのか検討を要する。そのようなノウハウはあるのか。証拠保全方法はどうなるか。

→通院先のカルテや、施設・デイサービスの介護日誌などをコピーして保存する方法があるかと思います。

P365

他人の作成した信託契約書に対する有償でもって行う鑑定を法的根拠および公益意識なく反復継続し、それが不完全かつ悪質であり、かような鑑定により損害を生じたこと

→公益意識の有無、不完全かつ悪質、損害の有無が必要なのか、疑問に思いました。

P366

インターネットやSNS等を濫用し、公然と、書籍・資料等の無断転載等を行い、引用を逸脱し、違法となる著作権法違反(刑事罰)の行為

→多数決で、一方的に除名処分などをせず、根拠をもって立件や懲戒処分申立てをしていただきたいと思います。お互いに敬意があれば、メールでの議論で済むとは思うのですが。

P381

司法書士との長年にわたる継続的な依頼者の事案であるなどの特段の事情がある場合を除いて、医師でもない司法書士が、認知症患者の判断能力が戻ったなどの判断は容易ではない。

→前提として、認知症と診断されたことは、判断能力の喪失とイコールではありません。

なお、公証人が、判断能力ありと判定した場合は、司法書士の確認義務の程度はどうなるのか、などの応用問題がある。

→公証人が、判断能力ありと反転した場合、というのは、公正証書を作成した場合、と言い換えます。公証人が、この方には判断能力がある、と断定することを私は聴いたことがないからです。その場合でも、司法書士の確認義務は変わりません。司法書士と公証人は独立して仕事をしているからです。

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