渋谷陽一郎「民事信託と登記第11回登記先例の解釈―実体法的アプローチと手続法的アプローチ―」

信託フォーラム[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託と登記第11回登記先例の解釈―実体法的アプローチと手続法的アプローチ―」からです。

今回は読み物としての内容もあります。その中で一番印象的だったのが、2011年以降、筆者が難病を抱える子の介護のため、東京司法書士会に対して会費の一時減免請求を申し出たが、却下された、という箇所でした。現在でも同じ運用が行われていないことを祈ります。

司法書士が民事信託支援業務を行うことができる根拠法令は、記事では司法書士法3条とされています。日本司法書士会連合会では、司法書士行為規範に民事信託支援業務に関する条項2つを盛り込んだので、これを根拠として業務を行って良い、ということで決着しているようです。今後、個人的に触れることはしないようにしたいと思います。

非弁と言われる可能性は数年前まではかなり悩んでましたが、今はほとんど意識しなくなりましたかね。 「信託は魔法のツール」ってやりたい放題やってた時期はいつ誰が刺されるかとドキドキしてました。 司法書士行為規範に民事信託を盛り込んで、「目指すべき適正な形」を明文化したのは大きかった。

https://x.com/Hamuuuuuuuuuuu/status/1714521896757407774?s=20

登記研究 246号 60頁 昭和43年4月12日 民事甲第664号

民事局長回答

◎三七五五 信託財産の所有権移転登記の取扱いについて

【要旨】信託期間終了後において、信託期間終了前の日付でなされた法律行為を原因とする所有権移転登記の申請があった場合の受否について

 登記されている信託条項が、別記のように表示されている場合、受託者から、委託者または受益者以外の者に対し、信託期間終了後であっても、信託期間終了前の日付でなされた売買その他の有償行為を原因として所有権手移転登記の申請があったときは、受理すべきものと考えますが、贈与その他の無償行為を原因として所有権移転登記の申請があった場合は、登記されている信託条項に反するので、不動産登記法第49条第2号または同条第4号の規定により却下してさしつかえないと考えますが、いささか疑義もあるので、ご回示を願います。

(別記)

信託条項

  • 信託目的

信託財産の管理及び処分

  • 信託財産の管理方法

信託財産の管理方法(処分行為を含む)はすべて受託者に一任する。

  • 信託終了の事由

 本信託の期間は五カ年とし期間満了による外、受託者が信託財産を他に売却したるとき及び委託者が信託財産を委付したときはこれにより信託は終了する。

  • 其他信託の条項

 本信託は委託者が大阪市内に家屋を建築するための資金を得るため且委託者が現在第三者より負担する金銭債務を返済するための資金を得るために受託者をして信託財産を売却せしめんとするものにして現在借家人の立退要求、其他売却条件の困難のため売買が進捗しない場合に於ても委託者の要求あるときは受託者は自己の資金を委託者に融通し、又その金融のためには自己の責任に於て信託財産を担保に供することができる。

前記による金融のため委託者が受託者に対し金銭債務を負うに至った場合に於てその返済をすることが困難と思料するときには信託財産を委付してその債務を免れることができる。

前項委付により委託者は受益権並びに元本帰属権(信託財産の返還請求権)を失うものとする。

委託者及び受託者の死亡は本信託に影響を及ぼさないものとする。

委託者と受託者との合意により何時でも信託条項を追加又は変更することができる。

前記以外の事項に付てはすべて信託法の定めるところによる。

(回答)

客年6月21日付登代429号をもって照会のあった表記の件については、前段、後段とも貴見のとおりと考える。ただし、後段の場合は、不動産登記法第49条第4号の規定により却下するのが相当である。

・実体法的アプローチ

 資金を得るための売却処分という信託の目的に対して、受託者は、信託財産の贈与等の無償行為を有効に行うことができるか。

・・・信託原簿に記載されている信託の目的は、信託財産の管理及び処分です。しかし、信託行為全体を読むと、記事記載の通り、家屋建築と委託者の債務返済の資金を得るために信託財産を売却するため、だと考えられます。

 この場合に、実体法上、贈与が認められるか、ということですが、贈与と同時に、信託とは別の法律行為(債務免除など。)によって、委託者の受託者に対する債務が消滅することが確実であり、実体法上も有効であると考えます。手続法的アプローチでも記載しましたが、受贈者が受託者の親族であった場合、信託財産の贈与及び終了の登記申請がされた場合は、受託者が委託者に対して有する債権は消滅する、というような契約(書)があれば、信託の目的には反しないと考えられます。

・手続法的アプローチ

 受託者による信託財産の管理処分権限として、信託財産の売却権限、委託者から信託財産の委付を受ける権限、委託者に資金を融通した場合に信託財産に担保権を設定する権限が信託原簿に記載されているので、贈与による所有権移転登記の申請は却下される、という記事の結論に同意です。

 信託の目的は、信託財産の管理及び処分です。期間満了後に、期間満了前の日付で贈与を受託者の権限として贈与を許容する信託の変更の登記申請は、なされると考えられます。委託者が委付した場合に登記がされることは先例記載の通りです。贈与は受託者以外の者になされる贈与で、受託者の親族等なのかと想像します。


[1] Vol.20.2023年10月、日本加除出版、P124~

遠藤栄嗣「受益者代理人の任務終了等に関する定めの陥穽」

 信託フォーラム[1]の記事、遠藤栄嗣「受益者代理人の任務終了等に関する定めの陥穽」からです。私は普段の実務で、受益者代理人制度を信託開始当初から利用することはなく、置くことが出来る旨の定めを置くのみです(信託法138条1項)。理由としては、信託に関係する人数が多くなると人間関係が複雑になること、受益者代理人を選任すると、原則として受益者の権利の一切の行為をする権限を有すること、記事中にもありますが信託法146条により委託者の権利を受益者に移転していること、信託行為と任意後見契約の代理権目録に、任意後見人の権利と信託行為の関係について定めていることが挙げられます。

 本稿では、事務の処理の終了(信託法143条)の意味や必要性が問題とされています。事務の処理の終了の意味が分からないと、受益者代理人と受託者や受益者が対立したときに、辞任してもらうことや解任(裁判による解任を含みます。)が難しくなってしまう。やめてもらった場合に、受益者代理人であった者に対して、損害を賠償する義務を負う可能性がある(信託法141条)などが挙げられています。

 もともと受益者代理人は信託業法2条に定める信託について、法人が就任することが予定されていたものであり、事務の処理の終了、のような文言が使われているのだと思います。

 個人的には、対立が起きた時点で信託を終了して、後見制度に切り替えてよいのではないかと思います。

 本稿で必要だとされている条項、「本信託の受益者が判断能力を欠き意思表示できないとき、または受託者が信託事務処理上必要と認めたときは、委託者(委託者代理人を含む。)または受益者(他の受益者代理人を含む。)もしくは後継受益者において、受益者代理人を選任する。以後の選任等(辞任の同意及び解任をも含む。)も同様とする。」を利用すると、解任がやり易くなるということです。損害の賠償については変わらないと考えます。


[1] Vol.20,2023年10月、日本加除出版、P118~

渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(24)」

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(24)」からです。

かような福祉型の信託目的が信託目録に記録すべき情報として記されている場合、第三者の債務のための抵当権設定の許容とという概括的な信託行為の定めは、特定の障害児の保護などの信託目的に対して、形式的に整合し得るのか、という問題がある。

信託の目的

親亡き後の障害児の保護

信託財産の管理方法

管理の方法

障害児の身上保護に配慮した信託不動産の管理

受託者の処分権限

信託不動産に対する第三者の債務のための抵当権設定

・障害児にとって、信託不動産に対する第三者の債務のための抵当権設定が、利益になる具体的な場面を、思い浮かべることが出来ませんでした。

・登記手続上、現在の受益者、またはその他の信託条項の次順位の受益者の欄で、障害児が特定せれているかが分からないと、判断するのが難しいのではないかと感じます。

なお、記事で検討の出発点とされている、昭和41年5月16日付け民甲第1179号民事局長回答は、不動産登記令20条8号により、信託法4条違反を根拠として却下とされています[2]

以下のような信託条項の登記がされている場合、受託者による当該信託不動産の売買を原因とする所有権移転登記の申請は、登記手続上、その違反が明白とはならないだろうか。

信託の目的

受益者の生活・介護・医療の支援(福祉型信託)

受益者に対する安定的な住居の提供

信託財産の管理方法

信託法26条ただし書の定め

受託者は信託不動産を売却しない

受託者は信託不動産に担保権を設定しない

―中略―

資格者代理人は、予め、信託契約と信託目録に記録すべき情報の内容の工夫を要し、受益者の判断能力の低下に関わらず、信託期中の変更を可能とするような仕組みとしておくべきであろう(資格者代理人の執務規律の問題となる)。

 受託者の権限に禁止事項を規定し、例外を列挙するか信託の変更で対応しようとする様式に思えます。

 受託者の権限を限定列挙し、想定外の事態に信託の変更で対応する様式の方がシンプルなのかなと考えます。

◆受託者が信託財産のために行う法律行為の効果は何か?

□信託の目的に違反している場合の効果は?

その違反が著しい場合の効果は?

□受託者の権限外行為の場合(信託法26条、27条)の効果は?

その違反が著しい場合の効果は?

□法31条1項1号、2号の利益相反取引で2項違反の場合の効果は?

□同条4項の行為をした後、第三者への処分行為の効果は?

□同条1項3号、4号の利益相反取引で2項違反の場合の効果は?

□忠実義務(30条)違反の場合の効果は?

その違反が著しい場合の効果は?

□8条違反の場合の効果は?

□善管注意義務(29条2項)違反の場合の効果は?

その違反が著しい場合の効果は?

□受託者の意図的な権限濫用の場合の効果は?

今後判例、裁判例が出てきて変わるかもしれませんが、民法上の信義則違反、公序良俗違反を除いて、信託法を根拠として無効とする場合は、2条、3条、4条、5条、7条、8条、9条、10条に限られるのではないかと思います。


[1] 907号、令和5年9月号、テイハン、P43~

[2] 河合芳光『逐条不動産登記令』平成17年、きんざい、P121

家族信託の相談会その60

お気軽にどうぞ。

2023年10月28日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

『月刊登記情報』2023年9月号(742号)一般社団法人金融財政事情研究会より

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T/

成本迅京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学教授「意思決定支援の実践について」

 共生社会の実現を推進するための認知症基本法について、1条(目的)、17条(認知症の人の意思決定の支援及び権利利益の保護)を挙げて活用場面の示唆。

道垣内弘人専修大学法科大学院教授「福祉型信託の課題と展望」

 勘違い(受託者の注意義務が信託法独自の規定、遺留分の制約を受けない、司法書士による受託者就任)などの指摘。信託について、良い点はなくてもかまわないという考え方がありうる、という考え方に新しい視点だと感じます。

 信託の機能ないし特徴(倒産隔離効など)についての解説。

 信託の問題点と司法書士の役割について。受託者に財産が帰属されることによる濫用の可能性が挙げられるが、財産が帰属していなくとも、例えば同居親族によるものや後見制度を利用しても発生するものであり、信託の設計の場面で注意することが必要との指摘。

 家庭裁判所の後見監督に似たようなことを、各司法書士が行う、あるいは、司法書士会がセンターを作って行うことの可能性。私は現時点では難しいと思っています。各司法書士個人については死亡リスクと濫用リスクが挙げられます。成年後見制度において行われている(公社)成年後見センター・リーガルサポートにより行われている後見人の各種チェックについて、チェック業務の負担が大きいと感じています。家庭裁判所、公益認定の眼を気にしながら業務を行っているから機能している部分があると感じます。これを信託で自主的に行うとなると、難しいのではないかと思います。

 司法書士は誰の受任者か、については、本特集で谷口毅日本司法書士会連合会財産管理業務等対策部、春口剛寛司法書士・民事信託士が民事信託支援業務を司法書士が行うことが出来る、司法書士法上の根拠に触れていないように(司法書士行為規範、司法書士法1条に触れていますが、行為規範に根拠はなく、司法書士法1条は条文が挙げられているのみです。)、司法書士にとって重要な箇所だと考えられます。外部専門家だからこそ、指摘出来る事柄だと思います。

 「自らに直接に依頼してきた者の希望。利益を実現すべきだとは限らないわけであり、アレンジメントの専門家として正義を実現することが大切であると考える。」の部分に同意です。この部分を明確に、法改正が現在難しいならガイドラインを作成するなど、司法書士会単位でも、難しいなら個人の司法書士事務所単位であっても作成することが必要だと感じました。

 伊庭潔日弁連信託センターセンター長「日弁連『民事信託業務に関するガイドライン』が目指すもの」について、日本弁護士連合会が作成したガイドラインインに関する解説と、今後の民事信託制度についての提言です。何よりも良いと思うのは、ガイドラインが作成後、1週間も経ずに、インターネット上に公開され、インターネットに繋がる誰もが閲覧できる状態にしたことだと思います。これによって、民事信託を利用する市民が護られる面もあると思いますが、弁護士会員が不意打ちのような懲戒請求をされるリスクを減らす効果もあると考えらえます。

 

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