渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』第5章

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令。

  • 第5章 民事信託・家族信託の定義、分類、歴史

 P170、沖縄の家制度の長子相続における家族信託の活用などの事例もあり、について・・・沖縄の家制度、というものが門中を指すのかムートゥ家を含むのか分かりませんが、賛否有り、出生率の低下と共に、現在、制度とまで認識されているのか、分かりませんでした。また著者がP163などで、家族信託は財産管理の制度、と記載しているように、(長子)相続のために活用できる制度なのか、同じくP163などで記載されている、受託者の財産管理に対する自覚、が必要な信託制度を、無条件に長子を受託者にすることに活用できるのか、分かりませんでした。

 P175からP176、信託契約書上、追加信託条項が存在しないと、委託者は追加信託を行うことができないという意見もある。しかし、かような信託条項が存在しない場合でも、委託者と受託者の合意で追加信託が可能とならないのだろうか(委託者の判断能力がある限り、新たな信託の設定と併合あるいは信託の変更等を行って追加信託できないのであろうか)。について・・・信託法上、追加信託条項の定めが必要とする条文はなく、信託財産(信託法2条3項)は、当初信託財産のみとしていないので、可能と考えます。

 Q192からP193、確かにアパート建築とアパート経営を稼働させるための民事信託自体はあり得るわけだが、それが、結果として相続税対策となったとしても、あくまでも信託は、第一義的に当該アパートの管理・処分による受益者の生活支援等が目的となろう。について・・・受託者による借入条項、担保設定許容の条項がある場合に、結果として相続税対策となった、という表現は受け入れられるのか、分かりませんでした。

 P194、信託の終了事由が生じた場合、ただちに受益権は消滅するのか否か、という疑問の声が民事信託の実務家から聞かれることがある。について・・・信託の清算が結了するまでは、受益権は消滅しないと考えます(信託法176条)。

 P213、2014年には、日司連が新井誠教授の紹介によって、金融法務で知られる大垣尚司教授の参加を得て、日司連ホールにて、シンポジウム「民事信託の利用促進~成年後見制度との併用~」を開催する(2014年3月1日)。講師の大垣教授から、民事信託の信頼性とは、それをバックアップし、サポートする専門家に対する信頼性であると指摘され、支援業務のコンセプトを再確認する契機であった。について

 ・・・シンポジウムには私も参加しました。大垣尚司教授からは、信託業法2条により士業が受託者になることは現行法上、不可能であること、士業が関与するとすれば信託監督人・受益者代理人就任、契約書の標準化は可能であること、会社法と信託法との比較、民事信託を高齢化社会の文脈でとらえた場合、実務上適法で社会から必要とされる具体的類型(親亡き後のための信託、成年後見を補完する遺言代用信託、事業承継信託、死後事務のための信託、新しい家族の在り方を支援する信託等)が示されました。

 杉谷範子司法書士等による一般社団法人を受託者とした民事信託の実務報告について、後継ぎ遺贈型受益者連続信託(信託法91条)を利用しなくてもよかった(同じ機能を果たせた)のではないか、など議論も交わされています。なお、当時公証人であった遠藤英嗣弁護士は、遺言信託を民事信託の基本としていました。

 Q180、2014年から2015年にかけて、センターに集結していた司法書士の一部が分裂する。について。・・・zoomでの同時配信を希望しても無視されていた地方の司法書士としては、当時、何も事情を知らないまま研修講師や研究報告を行っていた司法書士の一部が(一社)民事信託推進センターからいなくなりました、東京のごく限られた中で決まったことだと思います。

 私が知っている限り、どちらが悪い、正しいということはなく、どっちもどっち、だと感じました。むしろその後、事情を知った後に、お互い「とある士業」などの名称を用いて批判合戦をしていたのは、法律事務に携わる者として、私は無意味だと思いました。実名で批評出来ないのではあれば、建設的な議論は出来ないからです。

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