抵当権の抹消登記申請に当たっての留意事項について

 法務省民事局の民事第二課長から、一般社団法人全国銀行協会の会長へ、次のような依頼がありました。令和4年11月15日法務省民二第1116号。依頼なので、行政指導の一種でしょうか。行政手続法(行政指導の方式)第35条1項は、行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない、と定めています。

 借入れや契約が終わった等の原因により、(根)抵当権設定者が抹消登記申請を行う場合、

1、(根)抵当権設定者に対する案内をわかりやすく行う

2、(根)抵当権設定に交付している解除証書、委任状などの日付は、空欄にせずに日付を入れる

  • 1、は抽象的ですが、金融機関の窓口交付か、(根)抵当権設定者の所在地に行って書面を渡しながら案内、電話案内などが考えられます。住所が変わっている場合などは他に必要な登記申請がある(から専門家へ相談を。)などの説明も、あると分かりやすいかもしれません。

 登記申請書については、法務省HPの書式を案内するのか、印刷して渡すのか金融機関によって対応は変わると思います。書き方を教える場合は、各種業法に抵触しないようにすることが必要だと感じます。

所有者不明土地管理人の印鑑証明書(試訳)

The certificate of seal impression of the land administrator of the land with an unknown owner.

法務省民商第409号

令和4年8月24日

法務省民事局課長

供託規則第26条第3項第6号に規定する証明書の様式について(依命通知)

The form of certificate stipulated in Article 26, Paragraph 3, Item 6 of the Deposit Rules.

供託規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334M50000010002

(印鑑証明書の添付)

第二十六条 供託物の払渡しを請求する者は、供託物払渡請求書又は委任による代理人の権限を証する書面に押された印鑑につき市町村長又は登記所の作成した証明書を供託物払渡請求書に添付しなければならない。ただし、供託所が法務大臣が指定した法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所である場合を除き、その印鑑につき登記官の確認があるときは、この限りでない。

六 裁判所によつて選任された者がその職務として供託物の払渡しを請求する場合において、供託物払渡請求書又は委任による代理人の権限を証する書面に押された印鑑につき裁判所書記官が作成した証明書を供託物払渡請求書に添付したとき。

(別紙3)

令和〇年(チ)第〇号 所有者不明土地管理命令申立事件

The xxxx Year (Civil Non Contentious Case) No. xxxx Petition for Order for Management of Land with Unknown Owner.

所有者不明土地管理人選任及び印鑑証明書

The certificate of Appointment of Administrator of Land of Unknown Owner and Certificate of Seal.

所在 〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号

地番 〇番〇

地目 ○○

地積 ○○平方メートル

The location. 0-0-0, 0-cho, 0-shi, 0-ken

The lot number. 0-0

The lot classification.xx

The lot size.: ○○ square meters

標記の事件につき、下記の者が上記土地について選任された所有者不明土地管理人であること及び下記の届出印欄の印鑑が所有者不明土地管理人の印鑑として裁判所に提出されたものと相違ないことを証明する。

The District Court certifies that the following person has been appointed as the land administrator of the unknown owner for the case mentioned above and that the seal in the sealed column below is identical to the seal submitted to the court as the seal of the land administrator of the unknown owner.

The stamp of the administrator of the land of an unknown owner.

選任日 令和〇年〇月〇日

氏 名 ○○○○

住 所 ○○県○○市○○町〇丁目1-1

The date of Appointment. 00th day of the year.

The name. ○○○○.

The address. 1-1, XX Street, XX City, XX Prefecture.

届出印

The registered seal

令和〇年〇月〇日

○○地方裁判所民事第〇部

裁判所書記官 ○○○○ 印             

The date of Appointment.

The XX District Court, Civil Division X.

The court Clerk ○○○○ Seal.

日本登記法学会 第7回研究大会

令和4年11月26日(土)

共催  日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会、日本登記法学会

http://www.toukihou.jp/event.html

後援  法務省

プログラム

テーマ「担保法制の見直しと登記」

        研究報告 青木 則幸氏(早稲田大学法学学術院教授)

        研究報告 本橋 寛樹氏(司法書士)

コメンテーター 白石 大氏(早稲田大学法学学術院教授)

テーマ「区分建物と登記」

        研究報告 藤巻 梓氏(国士舘大学法学部教授)

        研究報告 吉田 健氏(司法書士)

        研究報告 橋立 二作氏(土地家屋調査士)

        コーディネータ- 秋山 靖浩氏(早稲田大学法学学術院教授)

小西飛鳥「デジタル社会における不動産登記簿の公開」

今瀬勉「リモートセンシングデータの登記利用」

法制審議会-担保法制部会

https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003008.html

 2022年9月27日に行われた審議会において、担保ファイリングを優先要件とする提案を廃し、対抗要件としての登記についてその優先順位(民法373条参照)を修正する形の登記優先ルールに基づく規律に一本化し、担保ファイリング案で提唱された問題のいくつかを登記優先ルールの中で具体化していく方針

法制審議会担保法制部会第25回会議(令和4年9月27日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00158.html

U.C.C.§9-308(a)

https://www.law.cornell.edu/ucc/9/9-308

U.C.C.§9-322

https://www.law.cornell.edu/ucc/9/9-322

ファイリング登記における優先要件の機能・・・現在の不動産登記記録における受付年月日と受付番号の機能と同じ?

・コスト面から必要最小限の機能を充たす公示に担わせることができるという考え方をとる。

参考

19世紀の米国ニューヨーク州法における非占有型動産モーゲージ権者と差押え債権者の競合に関する規範形成 -アメリカ動産担保法における登記一元論の実相解明に向けて-

https://w-rdb.waseda.jp/html/100000543_ja.html

「動産譲渡担保の公示に関する考察~動産譲渡登記と占有改定の比較を中心に~」司法書士本橋寛樹

本報告の趣旨

動産譲渡登記と占有改定の制度間比較を通して、動産譲渡担保の公示レベル向上制度設計に関する考察

◆主な報告内容

1. 動産譲渡登記と占有改定の制度間比較

現行法上、動産譲渡担保における対抗要件は登記占有改定の間でその優劣はない (登記優先ルールではない)が、 設定者の範囲や公示の有無等の相違点が多数あり

2. 動産譲渡登記の改善点に関する検討

 設定者や公示の範囲等、レベル向上に関する方策して「法制審議会担保法制部会」における論点も射程

動産譲渡登記による第三者対抗要件具備

 動産譲渡登記ファイルへの記録(登記)により動産の譲渡について引渡し(民法178条)があったものとみなされ、第三者対抗要件具備に公示的機能あり

占有改定の課題

1.担保順位に関する予見可能性の低さ

 後日、動産を取得する者が現れ、占有改定の有無やその先後をめぐって紛争が生じるおそれがあるという不確定要素あり

2.担保権処分等の公示が不可

もとの順位が公示されないため、それを基にした順位変更等の公示が困難

3.設定者に依拠した調査

先行する占有改定の存否の調査では、担保を取得する者は、ゼロベースで設定者に対して問い合わせをする必要あり

対抗要件の優劣

「時刻」単位

登記間は時刻の先後で優劣

民法上の対抗要件と特例法上の対抗要件(動産譲渡登記)とでは、先後関係の証明手段について、「日付」と「時刻」で単位に相違あり

・・・登記の場合は、同日でも時刻単位で先後関係が明らか

「日付」単位(確定日付)

現実の引渡し(民法182条1項)

簡易の引渡し(民法182条2項)

占有改定(民法183条)

指図による占有移転(民法184条)

動産譲渡登記(特例法3条1項)

民法上の対抗要件

特例法上の対抗要件

動産譲渡担保の対抗要件・・・引渡し(民法178条)

・・・法人が動産を譲渡した場合において、動産譲渡登記がされたときは、当該動産について、民法178条の引渡しがあったものとみなす(動産債権譲渡特例法3条1項)。

・・・民法上の引渡しと動産譲渡登記が競合した場合には、その時点の先後によって優劣を決定

⇒現行法上、「登記優先ルール」は採用されていない(※)。

※「担保法制部会資料20」2,6頁では登記優先ルールの提案あり

◆主な報告内容

1.動産譲渡登記と占有改定の制度間比較現行法上、動産譲渡担保における対抗要件は、動産譲渡登記、占有改定の間でその優劣はない(登記優先ルールではない)が、設定者の範囲や公示の有無等の相違点が多数あり

2.動産譲渡登記の改善点に関する検討設定者や公示の範囲等、公示のレベル向上に関する方策に関して、「法制審議会-担保法制部会」における論点も射程

占有改定による第三者対抗要件具備

占有改定:意思表示のみで、占有の外観に変化なく第三者対抗要件を具備

※実務上、譲渡人と譲受人間で動産譲渡担保権設定契約書を作成し、確定日付を付与

占有改定の課題

1.担保順位に関する予見可能性の低さ後日、動産を取得する者が現れ、占有改定の有無やその先後をめぐって紛争が生じるおそれがあるという不確定要素あり

2.担保権処分等の公示が不可

もとの順位が公示されないため、それを基にした順位変更等の公示が困難

3.設定者に依拠した調査先行する占有改定の存否の調査では、担保を取得する者は、ゼロベースで設定者に対して問い合わせをする必要あり

動産譲渡登記による第三者対抗要件具備

 動産譲渡登記ファイルへの記録(登記)により動産の譲渡について引渡し(民法178条)があったものとみなされ、第三者対抗要件具備に公示的機能あり

設定者の範囲

◆設定者の属性(法人と個人)による対抗要件具備の比較

・設定者が個人の場合は、動産譲渡登記の利用が不可であり、占有改定一択

・占有改定では公示がなされず、個人による動産譲渡担保設定の有無はブラックボックス

・・・先行する占有改定の有無について担保を取得する者は設定者からの情報提供によって判断せざるを得ず、設定者の対応力次第

対抗要件具備の公示

◆実務上の取扱い

動産譲渡登記・占有改定の双方を活用:二重の対抗要件具備

・・・まず占有改定(実務上、確定日付の付与)によって動産譲渡担保の対抗要件を具備し、その後動産譲渡登記を具備することによって公示

対抗要件設定時のコスト

動産譲渡登記  被担保債権額にかかわらず、譲渡(設定)登記の登録免許税は、原則1件1万5,000円。ただし、租税特別措置法の適用により    1件7,500円

https://www.moj.go.jp/MINJI/dousanjouto.html#:~:text=%E5%8B%95%E7%94%A3%E8%AD%B2%E6%B8%A1%E7%99%BB%E8%A8%98%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AF,%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

占有改定

 被担保債権額にかかわらず、法令上必須のコストなし。実務慣例上法務局または公証役場で確定日付を取る場合1件700円

◆動産譲渡登記と不動産登記の担保権設定時における登録免許税の比較例:被担保債権額が1億円の場合

動産譲渡登記:7,500円・・・定額課税

cf.  不動産の(根)抵当権設定登記・・・定率課税

抵当権設定登記(原則)40万円(=被担保債権額1億円×0.4%)

根抵当権設定登記(原則)40万円(=極度額1億円×0.4%)

対抗要件抹消時のコスト

動産譲渡登記・・・抹消登記の登録免許税1件1000円

登記官による職権抹消・・・登記の存続期間満了による場合コストなし(担保抹消しているにもかかわらず放置する場合等)

占有改定・・・法令上必須のコストなし

※担保抹消しているにもかかわらず放置する場合等

見えないコスト(調査コスト)

動産譲渡登記

資料の保管・法務局・設定者

担保権設定の調査

・登記事項概要証明書によって 設定者の関与なく 調査可能

・動産譲渡担保権の設定・抹消有無が登記により画一的に明らか

調査可能時間

 インターネット登記情報(一般財団法人民事務協会)による概要記録事項証明書(1通142円)では、設定者に関する動産譲渡登記の有無確認が可能 設定者に関する動産譲渡登記の有無確認が可能 設定者に関する動産譲渡登記の有無確認が可能

インターネット登記情報の利用可能時間

(2022( 令和 4) 年10 月1日より利用時間拡大 )

・平日 :午前 8時30 分~午後 11 時

・土日祝:午前8時 30 分~午後6時

占有改定

資料の保管・法務局・設定者

担保権設定の調査

・設定者に問い合わせする必要あり

・設定者によって資料提供の対応差

調査可能時間・・・設定者の営業時間、担当次第

◆登記による調査コストの軽減

 先行する占有改定の存否の調査では、動産担保を取得する者がゼロベースで設定者に問い合わせする必要あり一方、動産譲渡登記では、登記事項概要証明書や概要記録事項証明書によってすでに設定された動産譲渡登記の存在を調査し、該当がある場合には、その「登記番号」に対応する登記事項証明書の提示を設定者に求めることで動産担保の対象等の把握が可能

 対抗要件具備の存続期間

動産譲渡登記・・・法定の存続期間は、登記受付日から10年

法定の存続期間超・・・「特別の事由を証する書面」 (10 年を超 える返済期間や償還を定めた契約書の写し等に当事者(設定者)が原本証明したもの )が登記の添付書面として必要

存続期間満了・・・登記官の職権により抹消

◆休眠担保の外観発生の予防

仮に休眠担保になっても、登記の存続期間の満了時に登記官の職権により抹消

・・・半永久的に休眠担保(カラの登記)が存続することを予防

cf.占有改定においては、当事者間で占有改定の解除を適切に行わなければ、担保権抹消の有無が不明瞭であり、「カラの」対抗要件具備が存在するおそれ

・・・占有改定をしたことを証する「動産譲渡担保権設定契約書」や「占有改定確認書」が存在するものの、それに対応する占有改定の解除に関する資料(「解除証書」等)がない場合

検討:設定者の範囲拡大

◆現状

設定者が個人の場合、動産譲渡登記の利用が不可であり、公示されず、先行する担保権の存否は設定者への問合せが必要

◆改善案

 商号登記(商法11条2項、商業登記法28条)を具備した個人事業主による動産譲渡登記の利用 (※)を許容することで、これから担保を取得する者からみて、先行する隠れた占有改定の存否に関する調査コストやリスクの軽減

◆個人の範囲を、商号登記を具備した個人商人とする理由等

1.事業資金融資の際における、個人事業主の担保提供の場面を想定

2.個人商人ではない個人の動産への担保設定の存否は生活財産等にかかわり、そのプライバシー保護の必要性

3.商号の登記では「会社法人等番号」が付されており、商業・法人登記と紐づけした検索や公示が可能

※「担保法制部会資料20」11頁

商号

ABC 商店

営業所

東京都新宿区〇丁目番号

会社法人等番号〇

商号使用者の氏名及び住所

東京都中野区〇丁目番号

司法太郎

営業の種類

1 衣料品、服飾雑貨日用の輸出入

2 食料品、茶清涼飲水ジュース類の輸出入

3 コンピュータとその周辺機器輸出入

登記記録に関する事項

新設

令和〇年月日登記

管理番号 〇 -〇 -

商号登記の登記記録例

管理番号 〇〇〇〇-〇〇-〇〇〇〇〇〇を紐づけして公示の強度を上げる。

商号登記に関する検討事項

◆商号新設登記の概要

・申請形態 :商号使用者による単独申請

・添付書類等:登記申請書、委任状(司法書士等の資格者代理人が申請する場合) 印鑑届書、印鑑登録証明書(発行後3か月以内)

・登録免許税:3万円

1.商号新設登記の登記審査(設定時) 登記申請者が商人であるか否かは登記審査の対象外

・・・個人商人以外の者に対する融資の際にその個人の生活財産等に担保設定するために、動産譲渡登記の前提として商号登記が利用される可能性があり、目的外利用によって、個人の住所や氏名等が公示されるおそれがある点につきプライバシー配慮の観点あり

cf. 占有改定では、個人商人ではない者に対して生活財産等に動産譲渡担保が設定されるケースは否定できないところ、公示がなされていないため、個人所有の動産に関する担保権の有無は明らかになりにくい

2.商号の変更・廃止登記における登記義務(変更時)

 登記事項に変更が生じたとき、又はその事項が消滅あるいは商号を廃止したときは、遅滞なく、その変更又は消滅の登記をする義務があるものの(商法10条、商業登記法29条)、株式会社のような登記期間の定め(会社法915条参照)はなく、過料の制裁がない(会社法976条1号参照)ため、登記記録上、実態と一致しない外観で放置されるおそれあり。

3.商号の廃止登記と動産譲渡登記との連携(抹消時) 商号登記を備えた個人商人が商号を廃止した場合には、動産譲渡登記の利用要件を満たさなくなるところ、商号の廃止登記と連動して動産譲渡登記も抹消されるとしたときには、商号の廃止登記は商号使用者からの単独申請によるため、担保権者が関与しないところで動産譲渡登記が抹消されるリスクあり。

検討:登記申請時における会社法人等番号の提供

◆現状動産譲渡登記の申請では会社法人等番号の提供は任意

・・・動産譲渡登記で登記名義人表示変更登記が認められていない現状下において、商号変更と本店移転を同時に実施した場合等には、会社法人等番号が動産譲渡登記に記録されていなければ、対象となる登記の検索が困難となるケースあり

◆改善案

 動産譲渡登記申請において会社法人等番号の提供を必須にした場合、登記名義人表示変更があった場合でも、法人、個人(商号登記済)ともに「会社法人等番号」による検索が可能

【参考:法務省「会社法人等番号の付番方法の変更について」】

 従前の登記記録に付されていた会社法人等番号がそのまま変更後の新たな登記記録に引継ぎされ、一度付された会社法人等番号は不変

・平成24(2012)年 5月21日~:株式会社等

・平成27(2015)年3月 2日~:外国会社・外国法人及び個人商人

cf.平成17年(2005)年10月1日動産譲渡登記の運用開始当時は、付与された法人の会社法人等番号がその後変更の可能性があったが、現行制度下では変更なし

検討:登記の種類の追加

◆現状

1.動産譲渡登記

2.延長

3.抹消(一部抹消)

・・・商号変更や本店移転の登記名義人表示変更/更正登記や、順位変更等の登記が一切不可

◆改善案

1.変更等の登記の許容

(1)   形式的な変更・・・登記名義人表示変更/更正登記事項証明書、登記事項概要証明書についても、概要記録事項証明書と同様に、商業・法人登記における商号変更や本店移転等の情報が連動した公示の実現

・・・対象となる動産譲渡登記の検索の利便性向上、私的実行通知の実効性の向上等

(2)   実質的な変更・・・順位変更等

順位変更や転担保、担保権の譲渡及び放棄等の許容

・・・各登記を関連づける関連担保目録の創設

2.登記の存続期間の短縮

延長登記との対比

検討:登記の存続期間の調整

◆現状

1.動産譲渡登記において法定の存続期間(動産:登記受付日から10年)を超える場合には「特別の事由を証する書面」が必要

2.延長登記でも、延長後の存続期間の満了日が法定の存続期間を超えるときには、「特別の事由を証する書面」が必要

3.法定の存続期間を超える場合には、最終弁済期が存続期間の満了日となるため、支払いが最終弁済期を経過する場合には無担保状態

◆改善案

1.法定の存続期間の伸長、無担保状態回避のための方策

cf. 登記の存続期間設定の背景登記の存続期間の制限を設けない場合、システム上への負荷が過大であり、検索等の作業に支障をきたすおそれ

2.登記の種類に存続期間の「短縮登記」の許容

過剰担保予防の観点から、登記後における登記期間の調整手段の創設

検討:関連担保目録による公示

◆現状

 動産譲渡登記は、設定者(譲渡人)ごとで独立して編成される「人的編成主義」で、各登記は関連しておらず、登記記録から順位を確認することが困難

◆関連担保目録(※)の導入に向けた検討

・・・動産譲渡登記の「人的編成主義」に「物的編成主義」の要素を加味

cf. 「物的編成主義」である不動産登記では登記記録から順位の把握が容易

※「担保法制部会資料20」6~11頁別添「関連担保目録のイメージ」

関連担保目録の機能

◆現状

各登記が関連しているかどうかは不透明

登記事項証明書 A

◆関連担保目録

(1)各登記の関連性について容易に把握可能

cf.不動産登記では「共同担保目録」による各登記間の紐づけあり

(2)関連担保目録と実行通知の範囲の紐づけ

先順位の他の新たな規定にかかる担保権が実行された際に実行通知を受けられるメリット

登記事項証明書A第一層

関連担保目録 第二層

登記事項証明書B第一層 

※「担保法制部会資料20」6,7頁第一層:既存の動産譲渡登記を記録していた部分で、これと並んで新たな規定にかかる担保権の設定の登記

第二層:新たな規定にかかる担保権の内容、新たな規定にかかる担保権相互の関連性及び新たな規定にかかる担保権の処分等を公示するための目録

関連担保目録の記載事項と検討事項

※「担保法制部会資料20」別添「関連担保目録のイメージ」を参照して作成

関連担保目録の記載事項

登記番号 2022ー01

譲渡人

【本店等 】東京都中野区〇丁目番号 東京都中野区〇丁目番号 東京都中野区〇丁目番号

【商号等 】株式会社 ABC 商事

【会社法人等番号 】〇 ー〇 ー〇 ー〇 ー〇 ー〇 ー〇 ー〇 ー〇ー

譲受人

【本店等 】東京都新宿区四谷〇丁目番号 東京都新宿区四谷〇丁目番号 東京都新宿区四谷〇丁目番号

【商号等 】株式会社 DEF 銀行

【会社法人等番号 】〇 ー〇 ー〇 ー〇ー

登記年月日時

令和4年 11 月14 日10 時10 分

動産の種類

衣料品 、日用雑貨その他一切在庫

関連担保目録

目録番号001

登記事項証明書 A:第一層

目録番号 001

関連登記1

2022ー01

備考

債権額 金1億円

関連登記2

2022ー02

関連事項

関連登記1と2 順位変更合意

関連担保目録:第二層

登記番号 2022ー02

譲渡人

【本店等 】東京都中野区〇丁目番号 東京都中野区〇丁目番号 東京都中野区〇丁目番号

【商号等 】株式会社 ABC 商事

【会社法人等番号 】〇 ー〇 ー〇 ー〇

譲受人

【本店等 】東京都新宿区〇丁目番号 東京都新宿区〇丁目番号 東京都新宿区〇丁目番号

【商号等 】株式会社 GHI 銀行

【会社法人等番号 】〇 ー〇 ー〇 ー〇

登記年月日時

令和4年 11 月17 日11 時11 分

動産の種類

衣料品 、日用雑貨その他一切在庫

関連担保目録

目録番号001

登記事項証明書 B:第一層

◆担保権の私的実行通知先

関連担保目録に記された全ての後順位担保権者に対して実行通知

・ 実行通知の効性を高めるには、 その前提として、動産譲渡登記に載譲受人の本店等や商号が実態と一致している必要性

・登記名義人表示変更正

登記事項証明書 B:第一層

登記番号 2022ー02

譲渡人 【本店等】東京都中野区中野〇丁目〇番〇号

【商号等】株式会社ABC商事

【会社法人等番号】〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇〇〇

譲受人 【本店等】東京都新宿区新宿〇丁目〇番〇号

【商号等】株式会社GHI銀行

【会社法人等番号】〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇〇〇

登記年月日時  令和4年11月17日11時11分

動産の種類    衣料品、日用品雑貨その他一切の在庫商品

関連担保目録  目録番号001

関連担保目録に関する検討事項

1.登記した場合にその効力(第三者への対抗力等)が確実に認められるものに限って登記できることとする方向性

2.全面的に登記できることとしたうえで、登記をしたとしてもその効力(例えば、担保権の順位の変更の有効性)が認められない場合が生じ得ることを許容する方向性

※「担保法制部会資料23」10~12頁

◆関連担保目録を導入する場合の方向性・コンセプト案

・・・上記1、2の融合型(両立できる点についてはそれぞれの要素を取入れ)

1.対抗要件的機能担保権の順位の変更、転担保、担保権の譲渡・放棄、担保権の順位の譲渡・放棄等

・・・関連担保目録中、「関連事項」に記載:第三者への対抗力あり

2.警告的機能・・・予見可能性の向上登記を一次的なインフォメーションセンターとし、その「人的編成主義」である登記情報をもとに二次的に設定者に問い合わせを行う判断材料としての役割

・・・関連担保目録中、「備考欄」に記載:第三者への対抗力なし

◆第一層の「備考欄」との区別第一層の「備考欄」では、それを記録することにより、譲渡にかかる動産の特定を更に明確にし、又は特定の範囲を更に限定することができるものである必要があり、当事者が記録することを望めばいかなる情報でも「有益事項」として備考欄に記録することができるとはいえないと解されており、第一層の備考欄と関連担保目録の記載事項について重複しないよう調整する必要性あり

例:後順位担保権者にとって有益な記載事項:被担保債権額を関連担保目録に記載

小括

1.設定者の範囲拡大と対抗要件具備の選択肢の増加

法人・個人問わず、ニーズやコストに沿って、動産譲渡担保の対抗要件具備の方法を選択(「登記優先ルール」により、動産譲渡登記が占有改定に優先する場合であっても)

(1)担保権者と設定者間の判断等に基づき占有改定を選択

(2)順位の先後関係の明確化、公示等を重視する場合は動産譲渡登記を選択

2.対抗要件具備のコストに関する視点担保設定前から担保抹消時までの一連の場面も想定

(1)額面で評価しきれない「調査コスト」の存在も加味

(2)登記の存続期間を活用した、実態のない公示(休眠担保)が発生しないような仕組み

3.公示のレベル向上の検討

「人的編成主義」である動産譲渡登記に、関連担保目録のような「物的編成主義」の要素を取り入れた公示の検討

4.債権譲渡登記制度の改善

動産譲渡登記と債権譲渡登記は、現行制度上共通している事項が多く、動産譲渡登記の改善点 (登記申請人・登記の存続期間等)は債権譲渡登記でも検討する余地あり

「建物区分所有法の改正と登記」

国士舘大学 藤巻梓教授

はじめに -現在の問題状況ー

❖建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)

・昭和37年に制定、以降、幾度か改正を経る

・阪神・淡路大震災(平成7年)を受けた被災区分所有建物の改正等に関する特別措置法の制定、東日本大震災(平成23年)を受けた同法の改正(同25年)

・マンション管理適正化法、マンション建替え円滑化法

❖高経年のマンションの増加、住民の高齢化が加速

❖区分所有建物の所有者不明・管理不全の問題

❖災害の多発、大規模災害の発生可能性の高まり

2022年9月12日、法務大臣が区分所有法改正などの検討を法制審議会に諮問≪諮問第百二四号

参照:区分所有法制研究会「区分所有法制に関する研究法報告書」(令和4年9月30日公表)

https://www.kinzai.or.jp/uploads/houkoku_.pdf

検討の視点

1.区分所有建物の管理の円滑化・適正化を図る方策

 集会決議一般の円滑化(所在等不明区分所有者への対応、出席者の過半数による決議を可能とする?)

 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度の創設

 共用部分の変更決議の円滑化(=要件緩和)

2.区分所有建物の再生の円滑化を図る方策

建替え決議の円滑化(=要件緩和、賃借権等の消滅)

建物・敷地一括売却制度、建物の取壊しの決議の制度の創設

団地関係にある区分所有建物の再生の円滑化

3.被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策

建替え・建物敷地売却決議等の要件の緩和

大規模一部滅失時の決議可能期間の延長

1.区分所有建物の管理の円滑化

(1) 集会決議の円滑化を図る仕組み

(2) 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度

(3) 共用部分の変更につき多数決要件の緩和、共用部分に係る損害賠償請求権の行使の円滑化

(4) 区分所有者の責務

(5) 区分所有建物の管理に関する事務の合理化

(1)集会決議の円滑化

所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する仕組みの創設

・公的機関による所在等不明の認定の必要性

・所在等不明者・賛否不明者の権利保護の必要性、判断能力が不十分な所有者の意思表示等、課題

・対象行為から区分所有権の処分を伴うものを除外するか

・集会出席者の多数決による決議を可能とするか

・現行法は普通決議に限り出席者の多数決による決議を認める(39条1項)ただし、規約による定めが必要(標準管理規約47条1項・2項)

・定足数(頭数要件)を設けるか。意思決定の正当性の確保

・賛否不明の区分所有者を集会決議から除外するか

・対象を限定するか(規約の設定、共用部分の変更、普通決議)⇔規約は基本的規範、⇔変更による多額の費用負担のおそれ、⇔意義は小さい?

建替え決議、解消決議(検討中)は対象外とすべきという意見が今の所多い。区分所有権を奪われるという重大な不利益のおそれ

(2)区分所有建物に特化した財産管理制度の創設

■ 所有者不明の専有部分の管理制度

・区分所有者が所在等不明の場合⇒その専有部分の管理に特化した財産管理制度の必要性

・令和3年改正民法(所有者不明建物管理制度・民264条の8)との関係

区分所有建物には適用なし(6条4項)

・請求権者;利害関係人(他の区分所有者、管理組合・管理者、購入希望者等)。空き家の場合には地方公共団体(空家等対策の推進に関する特別措置法)

・管理人の権限;専有部分の管理・処分権

議決権の行使の範囲(全決議可 or 処分以外 or 全決議不可)

■ 管理不全の専有部分の管理制度 cf.管理不全建物管理命令(民264条の14)

・専有部分の管理が不適当で他人の権利を侵害 or 侵害のおそれあり

・管理人の権限;専有部分の保存・利用・改良、これを超える行為は裁判所の許可が必要

議決権行使は不可か、区分所有者の所在は判明

管理不全の共用部分の管理制度

・共用部分の管理が不適当であることにより近隣住民が被害を受けているような場合

・管理組合による区分所有権の取得、管理組合(3条)の目的の範囲内か?普通決議で決定可?

(3)共用部分の変更決議の要件の緩和

緩和の具体案

少数反対者の利益に留意しつつ、特別決議の要件を緩和

(A)  区分所有者および議決権の〔3分の2〕以上へ単純に引下げる

(B)  客観的事由の存在+区分所有者および議決権の〔過半数〕or〔3分の2〕以上へ引下げる

建物の経過年数、耐火性、外壁の剥落の危険、配管設備の劣化、建物移動円滑化基準への適合必要性

(C)  区分所有者の定数(頭数要件)に加え、議決権についても規約で過半数まで引下げ可とする⇔現行法:区分所有者および議決権の〔4分の3〕以上、

区分所有者の定数は規約で過半数まで引下げ可能(17条Ⅰ)⇔議決権要件の引下げは不可

共用部分に係る損害賠償請求権の行使

・現行法下での問題;共用部分につき損害賠償請求権が発生した後に区分所有権が譲渡された場合に、現行法下では、もはや区分所有者でなくなった者の請求権を代理行使できない?

・請求権の一括行使を可能にする方策

損害賠償請求権の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、

(A)  譲渡人(元区分所有者)に帰属する請求権、管理者が代理人として行使できるようにする

(B)  現在の区分所有者に帰属する請求権を管理者が代理人として行使できるようにする

(4)区分所有者の責務/(5)管理事務の合理化

区分所有者が建物を適切に管理する責務を負う旨の規律を置くか

・共同利益背反行為の禁止(6条1項)との関係

基本的には行為の禁止のみ、建物の適切管理の義務まで含まず

・管理適正化法5条2項、標準管理規約20条、土地基本法6条

・改正民249条3項;共有者は共有物の使用につき善管注意義務を負う

・規定を置いた場合、違反の効果をどうするか

■管理事務の合理化

・集会におけるウェブ会議システムの導入

・・・現行法下でもハイブリッド方式の採用は可能(標準管理規約43条1項)多数決による完全ハイブリッド方式の採用は回避?

・事務の報告義務違反

・規約の閲覧方法のデジタル化、保管

2.区分所有建物の再生の円滑化

(1) 建替えを円滑化するための仕組み

・決議要件の緩和

・建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅

賃借権・配偶者居住権・担保権

(2) 区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み

(3) 団地内建物の建替え等を円滑化するための仕組み

(1)建替えを円滑化するための仕組み

■現状:区分所有者及び議決権の〔5分の4〕以上の多数 ⇒厳格すぎる

■建替え決議の多数決要件の緩和

(A)  区分所有者及び議決権の各〔4分の3〕or〔3分の2〕以上へ単純に引下げ・・・要件該当性に関する紛争を生じさせない

(B)  客観的事由+区分所有者及び議決権の各〔4分の3〕or〔3分の2〕以上へ引下げ・・・建物の経過年数(50,60,70年等)/耐震性・耐火性の不足、外壁等の剥落の危険/被災区分所有建物

(C)  全員合意により多数決割合を〔4分の3〕or〔3分の2〕以上へ引下げ

・区分所有者による自治の尊重

 少数反対者の利益の保護、最判平成21年4月23日判タ1229号121頁が「過半数を相当超える議決要件を定めている」ことを指摘して団地内建物の一括建替え決議の合憲性を肯定したことへの留意

■建替え決議後の賃借権等の消滅

 マンションの老朽化が進むほど、賃貸化が進む傾向があり、決議をしても建て替えが実行できない可能性。

賃借権、配偶者居住権・・・建替え決議成立後、一定期間で終了させるか

・担保権 ⇒規律の必要性

賃借人・居住権者の利益保護。補償金を支払って賃借権消滅請求できるとする考え方もある

(2)区分所有関係の解消・再生の仕組み~多数決による区分所有関係の解消・再生~

◆現行法:(ア)~(オ)のいずれも規定なし⇒実施には全区分所有者の同意を要する

(ア) 建物敷地売却制度

多数決により、区分所有建物および敷地利用権を一括して売却する

(イ) 建物取壊し敷地売却制度

多数決により、区分所有建物を取り壊したうえで敷地を売却する

(ウ) 建物取壊し制度

多数決により、区分所有建物を取り壊す

(エ) 再建制度

区分所有建物が全部滅失した場合に、多数決により、敷地上に区分所有建物を再建する

(オ) 敷地売却制度

区分所有建物が全部滅失した場合に、多数決により、敷地を売却する

(ア)~(オ)議決要件は建替え決議と同様とするか。 ※少数反対者の利益への留意

(エ)(オ)建物が全部滅失すれば区分所有関係も消滅し、敷地につき民法上の(準)共有関係のみ残る。共有物分割請求の禁止期間を設けるか

■その他の論点

・多数決により、分筆された敷地の一部を売却することを可能にする制度の創設

・多数決による一棟リノベーション(専有部分を含めた建物の刷新)

(3)団地内建物の建替えの円滑化

団地内建物の一括建替え決議の多数決要件の緩和

・現行法の状況

 区分所有建物のみ、団地管理規約あり、土地が団地区分所有者の共有に属する場合⇒全体要件〔5分の4〕 かつ 各棟要件〔3分の2〕で一括建替え決議可(70条)

全体要件の緩和

(A)区分所有権及び議決権の〔4分の3〕or〔3分の2〕以上への引下げ

(B)客観的事由がある場合に区分所有権及び議決権の〔4分の3〕or〔3分の2〕以上へ引下げ

(C)全員の合意により、区分所有権及び議決権の〔4分の3〕or〔3分の2〕以上へ引下げ

各棟要件の緩和

(A)〔過半数〕へ引下げ or 各棟要件を撤廃

(B)客観的事由がある建物につき、〔過半数〕へ引下げ or 撤廃

(C)全員合意により、各棟要件を〔過半数〕へ引下げ or 撤廃

(D) 各棟につき、〔3分の1以上〕or〔過半数〕の反対がない限り一括建替え可能とする

前掲最判平成21年4月23日との整合性少数区分所有者の区分所有権への制約を強化することの正当性、合理性

団地内の建物の建替え承認決議の多数決要件(1棟単位の建替え)

(Aー1)議決権の〔3分の2〕以上 or〔過半数〕へ引下げるか

(Aー2)客観的事由がある場合に〔3分の2〕以上 or〔過半数〕へ引下げるか

(Aー3)団地管理組合の規約で〔3分の2〕以上 or〔過半数〕へ引下げるか

(B)〔4分の1〕以上の反対がない限り特定建物の建替えを可能とするか

団地の敷地分割

(ア) 多数決による団地の敷地分割

 特定建物につき客観的事由がある場合に団地管理組合等の集会の多数決で敷地分割を可能とする?

・・・耐震性・耐火性の不足、外壁・外装材等の剥落による危険

(イ) 団地の敷地に関する共有物分割請求

特定建物につき(ア)の要件を満たす場合に、敷地の共有物分割請求を可能とする制度の創設

団地内建物の全部について一括建物敷地売却制度

団地内建物がすべて区分所有建物、団地管理規約あり、土地が共有

⇒団地管理組合の集会で、区分所有者および議決権の〔5分の4〕or〔4分の3〕or〔3分の2〕以上の多数 かつ棟ごとに〔3分の2〕以上の多数の賛成で一括売却ができるものとするか

3.被災区分所有建物の再生の円滑化

被災した区分所有建物の再建等に関する多数決要件の緩和

大規模一部滅失時の決議可能期間の延長

被災区分所有建物の管理を円滑化するための仕組み・・・所在等不明区分所有者等の取扱い 

■被災区分所有建物の再建等に関する多数決要件の緩和

・現行法:建替えのためには区分所有者および議決権の〔5分の4〕以上の多数の賛成(62条Ⅰ)

・政令で指定された災害により大規模一部滅失した建物について、(ア)区分所有者及び議決権の各〔3分の2〕以上の多数で、建替え決議/復旧決議を可能とするか(イ)敷地売却決議、建物取壊し敷地売却決議、取壊し決議、敷地売却決議の多数決要件を各〔3分の2〕以上まで引下げるか(ウ)危険性の要件を設けたうえで、共用部分の変更決議を、区分所有者及び議決権の〔過半数〕or〔3分の2〕以上とするか

被災した区分所有建物の管理の円滑化

・被災区分所有建物においても、所在等不明の区分所有者を集会決議の母数から除外するか

※公的機関の関与が前提

・災害により全部滅失した場合に、敷地共有者が管理者を選任にあたり、出席者の多数決による決議を可能とするか

※区分所有法の建替え決議に係る多数決要件との均衡を図る必要

おわりに

本改正の方向性について

・全体として多数決要件の緩和の方向

・他方で、客観的要件の充足を前提とする選択肢も示される

⇒対象行為の重要性の程度に即した丁寧な整理が必要

・規約による要件緩和については実効性に疑問

所有者不明、管理不全の問題への対応について

・基本的には民法の令和3年改正を参照

・区分所有法における「管理者」と「管理人」の権限の整理が必要。団地関係について今後は団地関係の解消方法の探索の重要性が増すものと考えられる。

「所有者不明等マンションへの対応と課題」

埼玉司法書士会司法書士吉田健

法制審議会第196回会議(令和4年9月12日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500044.html

諮問第百二十四号

老朽化した区分所有建物の増加等の近年の社会情勢に鑑み、区分所有建物の管理の円滑化及び建替えの実施を始めとする区分所有建物の再生の円滑化を図るとともに、今後想定される大規模な災害に備え、大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化を図る等の観点から、区分所有法制の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。

区分所有とは

区分所有の目的となる区分建物の特質

区分所有法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069_20220401_502AC0000000008

第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

不動産登記法

第2条22号 区分建物 一棟の建物の構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであって、建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号。以下「区分所有法」という。)第二条第三項に規定する専有部分であるもの(区分所有法第四条第二項の規定により共用部分とされたものを含む。)をいう。

第2条3号 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。

第3条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。

第4条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。

2 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

(区分所有者の権利義務等)

第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

第11条 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。

2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。

(共用部分の使用)

第13条 各共有者は、共用部分をその用方に従つて使用することができる。

(共用部分の持分の割合)

第14条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。

(共用部分の持分の処分)第15条 共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。

2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。

(分離処分の禁止)

第16条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。

(共用部分の変更)

第17条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

(共用部分の管理)

第18条 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

区分所有建物の建替え

(建替え決議)

第62条 集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

(区分所有権等の売渡し請求等)

第63条 建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。

5 (前略)建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者又はこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地利用権を買い受けることができる者として指定された者は、同項の期間の満了の日から二月以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。

司法書士業務とマンション

登記業務とマンション法

• 敷地権についての留意点①(申請情報)不動産登記令(申請情報)

第3条 登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。

11 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

ヘ 敷地権付き区分建物についての所有権、一般の先取特権、質権又は抵当権に関する登記(法第七十三条第三項ただし書に規定する登記を除く。)を申請するときは、次に掲げる事項

(1) 敷地権の目的となる土地の所在する市、区、郡、町、村及び字並びに当該土地の地番、地目及び地積

(2) 敷地権の種類及び割合

•敷地権についての留意点(登録免許税)

⇒抵当権抹消の場合登録免許税法別表 1(15)登記の抹消 不動産1個につき 1,000円→建物+敷地権(所有権・地上権)の個数

区分所有建物に敷地権(所有権)7個の場合は8,000円となる。

•規約共用部分について(登録免許税)登記はされていないが、所有権移転に際して登録免許税の算定の対象となる。

成年後見業務とマンション~管理と売却~

(ケース1)

所有者が認知症のために施設入所後、首長申立てにより成年後見人が選任施設入所前は、マンションで生活。管理費等の滞納はない。生活費は赤字

(売却の考え方)

売却自体は居住用不動産の売却に該当するので裁判所の許可事項⇒本人の意思決定支援+売却の必要性と売却価格の相当性

(ケース2)

所有者が認知症のために施設入所後、成年後見人が選任施設入所前は、マンション以外の場所に居住し、マンションは親族に賃貸管理費等は滞納

(就任後の管理等)賃貸中の親族との交渉(管理費、固定資産税等の負担)→出ていってしまった残置物の処分(親族の同意書取得)売却(居住用不動作に該当しないので、裁判所に売却の上申のみ)

所有者不明とは

•「所有者不明土地」とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」

(2019 所有者不明土地問題研究会 最終報告)

<サンプル調査:地籍調査(国土交通省)>

約2割の土地が所有者不明    2019所有者不明土地問題研究会 最終報告より

◼平成28年度地籍調査(563市区町村における計622,608筆)において、登記簿上の所有者の所在が不明な土地は20.1%。

(地帯別の所有者不明率は、DID14.5%、宅地17.4%、農地16.9%、林地25.6%)

<出所・注釈>平成28年度地籍調査における所有者追跡調査(国土交通省)

 なお、ここで示す「所有者不明」には、登記簿上の登記名義人(土地所有者)の登記簿上の住所に、調査実施者から現地調査の通知を郵送し、この方法により通知が到達しなかった場合を計上。

・大量相続時代の多死到(<将来推計:相続未登記率と死亡者数>)来が所有者不明土地に影響

◼土地の相続候補者へのアンケート調査の結果、2020~2040年に発生する土地相続のうち、約27~29%が未登記になる可能性。 また、高齢化の影響も伴い、死亡者数は160万人を超える見込。

所有者不明マンションの現状について

所有者不明マンションへの対応

空家特措法とマンション

• 空き室マンションには空家特措法が適用されるのか?空家等対策の推進に関する特別措置法

第2条 この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。

・空家法では、マンションに空き住戸が多数存在していても、一部の住戸の居住している者がいる限り、空家特措法の適用はない

所有者不明不動産への対応~令和3年民法・不動産登記法改正~

民法改正

共有物の利用促進

・共有物の変更・管理に関する見直し

•共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化

•共有物を使用する共有者がいる場合のルール

•賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理

•所在等不明共有者がいる場合の変更・管理

•所在等不明共有者の不動産の持分の取得・譲渡

⇒区分所有法は民法の特別法となるので、同様の区分所有法改正が必要

土地・建物の管理制度の創設

•所有者不明土地・建物管理制度

•管理不全土地・建物管理制度

既存の財産管理制度の見直し

•相続人不存在の相続財産の清算手続の見直し

•財産管理制度に関するその他の見直し

民法改正 相続制度(遺産分割)の見直し

•遺産分割に関する見直し

•具体的相続分による遺産分割の時的限界

•遺産共有と通常共有が併存している場合の特則

•不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

不動産登記法改正

〇相続登記の未了への対応

•相続登記の申請の義務化、相続人申告登記の新設

•所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度の新設

〇住所変更登記等の未了への対応

•住所変更登記等の義務化、職権による住所変更登記等の新たな仕組みの導入

〇公示機能を高める観点からの改正⇒外国居住者につき国内連絡先を登記事項に追加

区分所有法の改正へ検討の視点~区分所有法制研究会報告書から~

 (1)区分所有建物の円滑・適正な管理

•集会の決議一般を円滑化するための仕組み

•区分所有建物の管理に特化した財産管理制度

•共用部分の変更決議を円滑化するための仕組み

•その他の管理の円滑化に資する仕組み

(2)建替えの実施を始めとする区分所有建物の円滑・適正な再生

•建替えを円滑化するための仕組み

(ア) 建替え決議の多数決要件の緩和

(イ) 建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅

•区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み

•団地関係にある区分所有建物の再生の円滑化

(3)被災区分所有建物の円滑・適正な再生

•建替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和

•大規模一部滅失時の決議可能期間の延長

•団地関係にある被災区分所有建物の再生の円滑化

1集会の決議を円滑化するための仕組み

(1) 所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組み

•所在不明区分所有者の認定⇒裁判所OR市町村

•決議の範囲⇒区分所有の処分を含む全ての決議を対象とするのか?

•認定の効力⇒区分所有者が出現するまでか、期限を設けるのか?

(2) 出席者の多数決による決議を可能とする仕組み

•制度の導入の是非、決議の範囲

(3) 専有部分の共有者による議決権行使の在り方

(建替え決議等における共有者間の議決権行使者の指定)

区分所有建物の管理の円滑化を図る方策の検討

2区分所有建物の管理に特化した財産管理制度

(1)所有者不明の専有部分の管理制度

・創設の是非

・具体的内については、改正民法における所有者不明建物管理制度を参考

・区分所有者の集会における役割(行使できる議決権の範囲)

(2)管理不全の専有部分の管理制度

・創設の是非

・具体的内については、改正民法における管理不全建物管理制度を参考

・区分所有者の集会における役割(行使できる議決権の範囲)

3 共用部分の変更決議の多数決要件の緩和

【A案】多数決の割合を区分所有者及び議決権の【3分の2以上】に単純に引き下げるものとする

【B案】一定の客観的事由(築年数の経過・火災・大規模滅失)がある場合には、多数決の割合を区分所有者及議決権の【過半数】【3分の2以上】に引き下げるものとする。

【C案】区分所有者の定数だけでなく、議決権についても、規約で【過半数】まで減ずることができるものとする。

建替えを円滑化するための仕組みの方策の検討

・建替え決議の多数決要件の緩和

【A案】多数決の割合を、区分所有者及び議決権の各【4分の3】【3分の2】以上に単純に引き下げるものとする。

【B案】一定の客観的事由(築年数の経過等)がある場合には、多数決の割合を区分所有者及び議決権の各【4分の3】【3分の2】以上に引き下げるものとする。

【C案】区分所有者全員の合意により、多数決の割合を【4分の3】【3分の2】以上に減ずることができるものとする。

研究を通して

区分所有法制に関する研究会最終報告書では

•築40年を超えるマンションが114万戸を超えている

•区分所有者の相続を契機とした所有者不明問題や非居住化の進行

•大規模は災害の発生の可能性の高まり

を指摘されており、区分所有法の改正は待ったなしの状態です。所有者不明マンションの対応においては、その対策はもちろんのこと所有者としての保護の視点も大切なのかと感じました。

研究報告 橋立 二作氏(土地家屋調査士)

老朽マンション建て替え進まず

再生へ要件緩和検討 朝日新聞の記事

 大都市を中心に林立するマンションの老朽化が深刻になっている築40年以上の物件は10年後には倍以上に増加する見込み売却や立て替えを円滑に進めるため国は制度改正を重ねているがハードル高く、さらに踏み込んだ対応の検討を迫られる

敷地売却制度

 高層ビルなどの再開発が進む東京都の竹芝エリアで、新たなマンション「パーク・ホームズ浜松町」の建築工事が進んでいる。

 敷地面積600平方メートル、18階建て、総戸数102戸の物件が来秋完成予定。

JR浜松町駅にほど近い場所でもともとの建物は「浜松町ビジネスマンション」

 154戸の9階建て 解体時点で築47年の老朽物件立て替えか大規模耐震補強か10年近く前から検討するも、所有者は相当の費用負担を要す

5分の4の合意で売却

不動産会社のアドバイスを受け、マンションと敷地を一括して不動産会社に売却する「敷地売却制度」の活用

 2014年「マンション建替円滑化法」の改正により導入した手法老朽化した耐震性不足のマンションを売却しやすくする目的民法上ではマンションの売却には所有者全員の合意が必要だが、この要件が売却の進まない要因となっていた敷地売却制度では自治体が耐震不足と認定したマンションについては特例として所有者の「5分の4」の合意で売却ができる要件の緩和

分配金の受け取り

 浜松町ビジネスマンションも要件をクリアし三井不動産レジデンシャルに売却耐震性不足の物件の場合、新たに建てるマンションは容積率の緩和が認められ、延面積を増やし、より大きな物件に立て替えが可能となる今回もより高層の物件となり、もとの所有者は分配金を受け取る跡地のマンションへの入居も可能であり、そのままの建て替えより費用の負担を抑えることが出来る

震災に備え転換を急ぐ

 国交省によると2021年末時点の国内分譲マンションの戸数は686万戸このうち約15%の103万戸が旧耐震基準物件。築40年以上の物件は115.6万戸で、10年後には249万戸になる見込み一方、国交省の調査では建て替え済みマンションは今年4月時点で270件にとどまり、高額の費用負担が大きな壁となるマンションを建て替える場合、容積率に余裕のある物件が床面積を増やし、余剰分を販売して建て替え費用を捻出するケースがあるしかし、スペースが無く制限が多い都市部では困難で、立て替え費用を所有者が負担する必要がある平均の負担額は一人1、000万円以上になる。

再び法改正

 敷地売却制度も耐震性が不足する物件でなければ利用出来ない再びの法改正、昨年12月以降は「火災に対する安全性の不足」「外壁がはがれ落ち、周囲に危険がある」等の物件も対象に追加。4月には団地など複数の物件の一部を売る「敷地分割制度」を始め、老朽化マンションの売却と再生を促す。それでも、この制度の対象外の物件も多く、その場合は建て替えが迫られる区分所有法上は、建て替えには所有者の5分の4の決議が必要だが、費用や作業の負担を避けたい所有者もおり、合意形成のハードルは高い。

5分の4の要件緩和

国は5分の4の要件緩和について有識者や法務省、国交省が参加する研究会で議論を進めている。

・所在不明で立替え決議に不参加の所有者の除外

・要件を4分の3へ引き下げ

・22年度中のとりまとめを目指す

・1983年以来の大きな転換

・首都直下地震等の大規模災害が想定され

「早急な対応と制度の円滑化が必要」

マンション建替事業と登記手続

建替決議

  建替え参加者による建替不参加者への売り渡し請求(区分所有63条)建替組合設立認可

建替組合による建替不参加者への売り渡し請求書(円滑化15条)

権利変換手続開始の登記(円滑化55条)

(権利変換前の)住所変更登記(円滑不動産令2条)権利変換計画認可・権利変換期日権利変換の登記(円滑化74条)区分建物滅失登記

権利変換計画の変更による所有権更正登記

(円滑化82条登記前の)住所変更登記工事完了公告

  施行再建マンションに関する登記(円滑化82条)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000078_20220617_504AC0000000068

1建替え参加者による建替不参加者への売渡し請求

建物の区分所有等に関する法律(区分所有権等の売渡し請求等)

第63条 建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。

2集会を招集した者は、前項の規定による書面による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書面による催告をしたものとみなす。

3第一項に規定する区分所有者は、同項の規定による催告を受けた日から二月以内に回答しなければならない。

4前項の期間内に回答しなかつた第一項に規定する区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答したものとみなす。

5第三項の期間が経過したときは、建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)又はこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地利用権を買い受けることができる者として指定された者(以下「買受指定者」という。)は、同項の期間の満了の日から二月以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継人を含む。)に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議があつた後にこの区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含む。)の敷地利用権についても、同様とする。

6前項の規定による請求があつた場合において、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないものと認めるべき顕著な事由があるときは、裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。

7建替え決議の日から二年以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には、第5項の規定により区分所有権又は敷地利用権を売り渡した者は、この期間の満了の日から六月以内に、買主が支払つた代金に相当する金銭をその区分所有権又は敷地利用権を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、建物の取壊しの工事に着手しなかつたことにつき正当な理由があるときは、この限りでない。

8前項本文の規定は、同項ただし書に規定する場合において、建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなつた日から六月以内にその着手をしないときに準用する。この場合において、同項本文中「この期間の満了の日から六月以内に」とあるのは、「建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなつたことを知つた日から六月又はその理由がなくなつた日から二年のいずれか早い時期までに」と読み替えるものとする。

 趣旨

 建て替え決議の効果としてこの売り渡し請求を認めることにより、建替え不参加者(決議不参加者、決議に反対の意思表示をした区分所有者)を当該区分所有関係から離脱させ、以後の立て替えを円滑に進めることを目的としている。

解説

(1)売渡請求は形成権であり、行使の意思表示が相手方に到達すると、直ちに相手方の区分所有権及び敷地利用権を目的とする時価による売買契約が成立する。

⇒通常は内容証明郵便にて売渡請求の意思表示を行い、当該郵便の到達日を売買日付として所有権移転登記を行う。

(2)登記手続は通常の売買による所有権移転登記である。

「判決による登記」(不登63条)ではないため、登記義務者の登記申請意思の擬制はなく、登記の一般原則どおり共同申請によることを要する。

(3)建替参加者だけで不参加者の権利を買い取る資力がない場合がほとんどであり、建替え参加者全員が同意する場合は、第三者たる買受指定者が売渡請求をすることができる(区分所有63条4項)。

(4)売渡請求権行使後、請求権行使者が専有部分等について移転登記を受けるまでの問に相手方がこれを第三者に譲渡すると、請求権行使者は第三者と対抗関係にたつ(民177条)ことになるので、その恐れがあるときは、あらかじめ「処分禁止の仮処分」を得てその登記をしておく必要がある。

(5)専有部分とその敷地利用権の分離処分が許容されている場合(区分所有22条1項ただし書)、には、敷地利用権のみを有し、専有部分を有しない者が生じうるが、その者は、区分所有者ではないため、区分所有者の集会で行った建替え決議に拘束されず、その者に対して売渡請求権を行使することはできない。この場合、任意の売買によるしかない。

一方、建替え決議後に建替え不参加の区分所有者が敷地利用権のみを譲渡した場合には、譲受人(又はその承継人)に対して敷地利用権の売渡しを請求することができ、不参加者による売渡請求の妨害を防止するための立法の手当てがなされている(区分所有63条4項後段)。

(6)売渡請求権を行使することができる時期は、63条2項による催告が到達した日から2か月を経過した後の2か月以内である(区分所有63条4項前段除斥期間)。

(7)区分所有法63条の売渡請求に基づく所有権移転登記の登録免許税は原則どおり課税される。後述の2(5)と対比(租特76条2項は建替組合が取得する場合に限る(令和元年10月現在、令和2年3月31日までに施行、登記したもの)。)。

後述の2(5)と対比(租特76条2項は建替組合が取得する場合に限る。

(令和元年10月現在、令和2年3月31日までに施行、登記したもの。)。

2 建替組合による建替え不参加者への売渡請求書(円滑化15条)

マンションの建替え等の円滑化に関する法律

(区分所有権及び敷地利用権の売渡し請求)

第15条 組合は、前条第1項の公告の日(その日が区分所有法第63条第2項、区分所有法第70条第4項において準用する場合を含む。)の期間の満了の日前であるときは、当該期間の満了の日から2月以内に、区分所有法第63条第4項(区分所有法第70条第4項において準用する場合を含む。)に規定する建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継人を含み、その後に建替え合意者等となったものを除く。) に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議等があった後に当該区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含み、その後に建替え合意者等となったものを除く。)の敷地利用権についても、同様とする。

2前項の規定による請求は、建替え決議等の日から1年以内にしなければならない。ただし、この期間内に請求することができなかったことに正当な理由があるときは、この限りでない。

3区分所有法第63条第5項から第7項まで(区分所有法第70条第4項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定は、第1項の規定による請求があった場合について準用する。この場合において、区分所有法第63条第6項中「第4項」とあるのは、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律第15条第1項」と読み替えるものとする。

2 建替組合による建替え不参加者への売渡請求書(円滑化15条)

趣旨

建替え参加者による建替え不参加者への売渡請求(区分所有63条)と同様の目的であり、建替組合にも売渡請求を認め、マンション建替事業の実施主体として積極的に機能できるようにする趣旨である。

1項後段は、敷地利用権の分離処分は原則としてできないが、規約で例外を認める余地があり(区分所有22条1項ただし書)、敷地利用権の譲受人が区分所有者ではなく、建替え決議の拘束を受けないが、これではマンションの建替えの障害になるため、建替え決議があった後に当該区分所有者から敷地利用権のみを取得した者の敷地利用権についても売渡請求権の行使が認られている。

2 建替組合による建替え不参加者への売渡請求書(円滑化15条)

解説

(1)    売渡請求は形成権であり、行使の意思表示が相手方に到達すると直ちに、相手方の区分所有権及び敷地利用権を目的とする時価による売買契約が成立する。したがって、区分所有権及び敷地利用権が相手方から組合に移転し、相手方は専有部分の引渡・移転登記義務を負い、組合は時価による売買代金の支払い義務を負い、両者の義務は同時履行関係にたつ。

⇒通常は内容証明郵便にて売渡請求の意思表示を行い、当該郵便の到達日を売買日付として所有権移転登記を行う。

(2)登記手続は通常の売買による所有権移転登記である。「判決による登記」ではないため、登記義務者の登記申請意思の擬制はなく、登記の一般原則どおり共同申請によることを要する。

(3)売渡請求により組合が取得した区分所有権及び敷地利用権は、実質的に保留床として権利変換される。

(4)売渡請求権を行使することができる時期は、組合設立認可の公告の日から2か月以内に、かつ、建替え決議の日から1年以内に行使しなければならない。

(5)本条の売渡請求に基づく所有権移転登記の登録免許税は非課税となる(租特76条1項2号。令和2年3月31日まで)。

3権利変換手続開始の登記(円滑化55条)

マンションの建替え等の円滑化に関する法律

(権利変換手続開始の登記)

第55条 施行者は、次に掲げる公告があったときは、遅滞なく、登記所に、施行マンションの区分所有権及び敷地利用権(既登記のものに限る。)並びに隣接施行敷地の所有権及び借地権(既登記のものに限る。)について、権利変換開始の登記を申請しなければならない。組合が施行するマンション建替事業にあっては、第14条第1項の公告又は新たな施行マンションの追加に係る事業計画の変更の認可の公告

二     個人施行者が施行するマンション建替事業にあっては、その施行についての認可の公告又は新たな施行マンションの追加に係る事業計画の変更の認可の公告

2     前項の登記があった後においては、当該登記に係る施行マンションの区分所有権若しくは敷地利用権を有する者(組合が施行するマンション建替事業にあっては、組合員に限る。)又は当該登記に係る隣接施行敷地の所有権若しくは借地権を有する者は、これらの権利を処分するときは、国ヒ交通省令で定めるところにより、施行者の承認を得なければならない

3     施行者は、事業の遂行に重大な支障が生ずることその他正当な理由がなければ、前項の承認を拒むことができない

4     第2項の承認を得ないでした処分は、施行者に対抗することができない。

3権利変換手続開始の登記(円滑化55条)

マンションの建替え等の円滑化に関する法律

5 権利変換期日前において第38条第6項、前条第3項において準用する第49条第1項又は第99条第3項の公告があったときは、施工者(組合にあっては、その清算人)は、遅滞なく登記所に、権利変換手続開始の登記の抹消を申請しなければならない。 

円滑不動産令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414CO0000000367_20220401_503CO0000000265

(権利変換手続開始の登記)

第4条 法第55条第1項の規定による権利変換手続開始の登記の申請をする場合には、同項各号に掲げる公告があったことを証する情報をその申請情撮と併せて登記所に提供しなければならない。

2  法第55条第5項の規定による権利変換手続開始の登記の抹消の申請をする場合には、法第38条第6項、法第51条第3項において準用する法第49条第1項又は法第99条第3項の公告があったことを証する情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。

趣旨

不動産取引の安全を図る

⇒マンション建替事業による権利変換の対象となっていることを知らないで施行マンションの区分所有権等が取引され、善意の第三者が不足の損害を被ることがないようにする。

権利手続の円滑な進行を確保権利変換手続が開始された後に、権利変換の対象となる施行マンションの区分所有権等が処分された場合、施行者としては、その処分内容を把握し、それを権利変換計画に反映させる必要があるため施行者が全く関知しないところで事由に処分されることを防止する。

解説

(1)    申請時期 組合設立認可の公告後遅滞なく (組合施行の場合)

(2)    対象

 施行マンションの区分所有権、敷地利用権、隣接施行敷地の所有権及び借地権、敷地利用権が借地権である場合又は隣接施行敷地の借地権である場合は、既登記のものに限る。

(3)    効果

 処分の当事者間では有効だが、施行者の承認を得ないでした権利の処分を施行者に対抗できない。

(4) 権利の処分に際しては組合へ権利処分承認申請書(印鑑鑑証明付)の提出が必要になる旨を組合の会報等で周知しておく必要がある(円滑化規30条)

 (権利変換登記前の)住所変更登記

円滑不動産令

(代位登記)

第2条 マンション建替事業(法第2条第1項第4号規定するマンション建て替え事業をいう。以下同じ。) を施行する者又はマンション敷地売却事業(同項第9号に規定するマンション敷地売却事業をいう。以下この条において同じ。)を実施するものは、それぞれマンション建替事業の施行又はマンション敷地売却事業の実施のため必要があるときは、次の各号に掲げる登記をそれぞれ当該各号に定める者に代わって申請することができる。

一     不動産の表題部の登記 所有者

二     不動産表題部に関する変更の登記又は更正の登記 表題部所有者若しくは所有権の登記名義人又はこれらの相続人その他の一般承継人

三     所有権、地上権又は賃借権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又更正の登記記 当該登記名義人又はその相続人その他の一般承継人四 所有権の保存 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人五 相続その他の一般承継による所有権その他の権利の移転登記 相続人その他の一般承継人

(代位登記の登記識別情報)

第3条 登記官は、前条の規定による申請に基づいて同条第4号又は第5号に掲げる登記を完了したときは、速やかに、登記権利者のために登記識別情報を申請人に通知しなければならない。

2 前項の規定により登記識別情報の通知を受けた申請人は、遅滞なく、これを同項の登記権利者に通知しなければならない

趣旨

権利変換の登記(円滑化74条)は移転登記の形式で行われるため、権利変換計画書記載の組合員の住所・氏名と施行マンション及びその敷地利用権の登記記録上の所有者の住所・氏名が一致している必要があるところ、各組合員の申請によっていたのでは、建替事業の円滑な遂行に支障が生じる。そこで円滑不動産令2条により、建替組合(敷地売却組合)による代位による登記が認められている。

5権利変換の登記

円滑化法

(権利変換の登記)

第74条 施行者は、権利変換期日後遅滞なく、施行再建マンションの敷地(保留敷地を含む、)につき、権利変換後の土地に関する権利について必要な登記を申請しなければならない。

2 権利変換期日以後においては、施行再建マンションの敷地(保留敷地を含む。)に関しては、前項の登記がされるまでの問は、他の登記をすることができない。

円滑不動産令

(土地についての登記の申請)

第5条 法第74条第1項の規定によってする登記の申請は、土地ごとに、一の申請情報によってしなければならない。

2 前項の場合において、2以上の登記の登記事項を申請情報の内容とするには、次に掲げる順序に従って登記事項に順序を付するものとする。この場合において、目的を同一とする2以上の担保権等登記(法第73条の規定により存するものとされた権利に関する登記をいう。以下同じ。)については、その登記をすべき順序に従って登記事項に順序を付するものとする。

5権利変換の登記

一 所有権の移転の登記の申請二 地上権又は賃借権の設定又は移転の登記の申請三 担保権等登記の申請

3      第1項の登記の申請をする場合には、不動産登記令(平成16年政令第379号)第3条各号に掲げる事項のほか、法第74条第1項の規定により登記の申請をする旨を申請情報の内容とし、かつ、権利変換計画及びその認可を証する情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。

4      マンション建替事業を施行する者は、法律第74条第1項の登記の申請と同時に、区分建物に関する敷地権の登記がある施行マンション(法第2条第1項第6号に規定する施行マンションをいう。次条第1項において同じ。)について、敷地権の消滅を原因とする表題部の変更の登記の申請をしなければならない。

5      登記官は、法第74条第1項の登記をするときは、職権で、権利変換手続開始の登記を抹消しなければならない。

(登記識別情報の通知)

第12条 登記官は、第5条第1項又は第7条第1項の登記を完了したときは、速やかに、登記権利者のために登記識別情報を請人に通知しなければならない、

2 前項の規定により登記識別情報の通知を受けた申請人は、遅滞なく、これを同項の登記権利者に通知しなければならない。

租特法

(マンション建替事業の施行者等が受ける権利変換手続開始の登記等の免税)

第76条 マンションの建替え等の円滑化に関する法律第2条第1項第5号に規定する施行者、同法第58 条第1項第2号の施行再建マンションの区分所有権若しくは敷地利用権を与えられることとなるもの又は同項第5号の担保権等の登起に係る権利を有する者が、同法の施行の日から平成32年3月

31日までの問に、同法第2条第1項に規定するマンション建替事業(良好な居住環境の確保に資するものとして政令で定めるものに限る。)に伴い受ける次に掲げる登記については、財務省令で定めるところにより当該期間内に登記を受けるものに限り、登録免許税を課さない。ただし、第3号に掲げる登記に係る登録免許税にあつては、当該施行再建マンションの区分所有権若しくは敷地利用権を与えられることとなるものが取得する同号の土地に関する権利の価額のうち、同法第85条の差額又は同法第11条第1項に規定する隣接施行敷地の価額に相当する金額に対応する部分として政令で定めるものについては、この限りでない。

一     マンションの建替え等の円滑化に関する法律第5条第1項に規定する権利変換手続開始の登記

二     マンションの建替え等の円滑化に関する法律第5条第1項に規定する組合が同法第15条第1項又は第64条第1項若しくは第3項の規定により取得する同法第2条第1項第6号に規定する施行マンションの同項第11に規定する区分所有権又は同項第16条に規定する敷地利用権の取得の登記

三     マンションの建替え替等の円滑化に関する法律第74条第1項に規定する権利変換後の土地に関する権利(同法第17条に規定する参加組合員が取得するものを除く。)について必要な登記

租税特別措置法施行令

(マンション建替事業により取得する土地に関する権利のうち課税されるものの範囲等)第42条の3 法第76条第1項に規定する政令で定めるマンション建替事業は、マンションの建替え等の円滑化に関する法律第2条第1項第7号に規定する施行再建マンションの住戸の規模及び構造が良好な居住環境の確保に資するものとして国土交通大臣が財務大臣と協議して定める基準に適合する場合における当該施行再建マンションに係る同項第4号に規定するマンション建替事業(次項及び第3項において「マンション建替事業」という。)とする。

2 マンション建替事業においてマンションの建替え等の円滑化に関する法律第11条第1項に規定する隣接施行敷地(次項において「隣接施行敷地」という。)を取得しない場合の法第76条第1項ただし書に規定する政令で定める部分は、同項に規定する施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権を与えられることとなるもの(次項において「登記を受ける者」という。)に係るマンションの建替え等の円滑化に関する法律第58条第1項第4号に掲げる施行再建マンションの敷地利用権の価額の概算額(次項において「施行再建マンション概算額」という。)から同条第1項第3号に掲げる施行マンションの敷地利用権の価額(次項において「施行マンション価額」という。)を控除した残額に対応する部分とする。

3 マンション建替事業において隣接施行敷地を取得する場合の法第76条第1項ただし書に規定する政令で定める部分は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める価額に対応する部分とする。

一 登記を受ける者に係る施行再建マンション概算額から隣接施行敷地持分価額(隣接施行敷地のマンションの建替え等の円滑化に関する法律第58条第1項第13号の価額及び減価額の合計額に同法第2条第1項第7号に規定する施行再建マンションの同項第19号に規定する敷地利用権に係る登記を受ける者の持分を乗じて得た価額をいう。次号において同じ。)を控除した残額(同号において「権利変換前価額」という。)が施行マンション価額以上となる場合当該施行再建マンション概算額から当該施行マンション価額を控除した残額二 登記を受ける者に係る権利変換前価額が施行マンション価額に満たない場合当該登記を受ける者に係る隣接施行敷地持分価額

趣旨

権利変換期日において生じた土地に関する権利の得喪及び変更について必要な登記を権利変換期日後、遅滞なく施行者が申請すべきことを定めるこの登記がなされる前に他の登記がなされると、権利変換の登記に支障が生じるため、権利変換期日以降は権利変換の登記がなされるまでの問は、他の登記をすることはできない。

解説

⑴権利変換後の土地に関する権利について必要な登記(円滑化74条1項)

施行マンションが敷地権付区分建物である場合、区分建物表題変更登記(敷地権抹消登記)

施行再建マンションの敷地の所有権の移転の登記

施行再建マンションの敷地の地上権又は賃借権の設定又は移転の登記

保留敷地の所有権の移転の登記

保留敷地の地上権又は賃借権の設定又は移転の登記

施行マンションが敷地権の表示のない建物である場合、施行マンションの敷地利用権についての担保権等の抹消登記

施行再建マンションの敷地利用権についての担保権等登記

⑵円滑化74条登記の前提として、権利変換計画書の記載内容、作成基準、権利変換期日における効果について一通りの理解が必要である。

権利変換計画の内容

円滑化法

第58条 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一     施行再建マンションの配置設計

二     施行マンションの区分所有権又は敷地利用権を有する者で当該権利に対応して、施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行マンションについて有する区分所有権又は敷地利用権及びその価額

四     第2号に掲げる者に前号に掲げる区分所有権又は敷地利用権に対応して与えられることとなる施行再建マンションの区分所有権または敷地利用権の明細及びその価額の概算額

五     第3号に掲げる区分所有権又は敷地利用権について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施行再建マンションの区分所所有権又は敷地利用権の上に有することとなる権利

七 施行マンションについて借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)で、当該権利に対応して、施行再建マンションについて借家権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

八     前号に掲げる者に借家権(改正(令和2年4月1日)後、「賃借権」)を与えられることとなる施行再建マンションの部分

九     施行マンションについて配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施行再建マンションについて配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十     前号に掲げる者に配偶者居住権与えられることとなる施行再建マンションの部分

十一   施行者が施行再建マンションの部分を賃貸する場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十二   施行マンションに関する権利又はその敷地利用権を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施行再建マンションに関する権利又はその敷地利用権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる施行マンションに関する権利又はその敷地利用権並びにその価額

十三   隣接施行敷地の所有権又は借地権を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、又は当該権利の上に敷地利用権が設定されることとなるものの氏名又は名称及び住所、その権利並びにその価額又は減価額

十四   組合の参加組合員に与えられることとなる施行再建マンションの区分所有権及び敷地利用権の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

十五   第四号及び前号に掲げるもののほか、施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権の明細、その帰属及びその処分の方法

十六   施行マンションの敷地であった土地で施行再建マンションの敷地とならない土地(以下「保留敷地」という。)の所有権又は借地権の明細、その帰属及びその処分の方法十七 補償金の支払又は清算金の徴収に係る利子又はその決定方法十八 権利変換期日、施行マンションの明渡しの予定時期及び工事完了の予定時期十九 その他国土交通省令で定める事項

2 施行マンションに関する権利若しくはその敷地利用権又は隣接施行敷地の所有権若しくは借地権に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人(当該名義人に対して第十五条第一項(第三十四条第四項において準用する場合を含む。)若しくは第六十四条第一項(第六十六条において準用する場合を含む。)又は区分所有法第六十三条第五項(区分所有法第七十条第四項において準用する場合を含む。)の規定による請求があった場合においては、当該請求をした者)に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。

3 区分所有法第63条第6項(第15条第3項(第34条第4項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)又は区分所有法第70条第4項において準用する区分所有法第63条第6項(第 15条第3項(第34条第4項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により、裁判所から建物の明渡しにつき相当の期限を許与された区分所有者がいるときは、第1項第18 号の施行マンションの明渡しの予定時期は、当該期限の日以降となるように定めなければならない。 

円滑化法

(権利変換を希望しない旨の申出等)

第56条 第14条第1項の公告又は個人施行者の施行の認可の公告があったときは、施行マンションの区分所有権又は敷地利用権を有する者は、その公告があった日から起算して30日以内に、施行者に対し、第70条第1項及び第71条第2項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する区分所有権又は敷地利用権に代えて金銭の給付を希望する旨を申し出ることができる。

2     前項の区分所有権又は敷地利用権について仮登記上の権利、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記があるとき、又は同項の未登記の借地権の存否若しくは帰属について争いがあるときは、それらの権利者又は争いの相手方の同意を得なければ、同項の規定による金銭の給付の希望を申し出ることができない。

3     施行マンションについて借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第1項の期間内に施行者に対し、第71条第3項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。

権利変換計画書の作成基準

円滑化法

区分所有権及び敷地利用権等

第60条 権利変換計画においては、第56条第1項の申出をした者を除き、施行マンションの区分所有権又は敷地利用権を有する者に対しては、施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施行再建マンションの区分所有権及び敷地利用権が与えられるように定められた参加組合員に対しても、同様とする。

2     前項前段に規定する者に対して与えられる施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権は、それらの者が有する施行マンションの専有部分の位置、床面積、環境、利用状況等又はその敷地利用権の地積若しくはその割合等とそれらの者に与えられる施行再建マンションの専有部分の位置、床面積、環境等又はその敷地利用権の地積若しくはその割合等を総合的に勘案して、それらの者の相互間の衡平を害しないように定めなければならない。

3     権利変換計画においては、第1項の規定により与えられるように定められるもの以外の施行再建マンションの区分所有権及び敷地利用権並びに保留敷地の所有権又は借地権は、施行者に帰属するように定めなければならない。

4     権利変換計画においては、第56条第3項の申出をした者を除き、施行マンションの区分所有者から当該施行マンションについて賃借権の設定を受けている者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けている者)又は施行マンションについて配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けている者に対しては、第1項の規定によりそれぞれ当該施行マンションの区分所有者に与えられることとなる施行再建マンションの部分について、賃借権が与えられるように定めなければならない。ただし、施行マンションの区分所有者が同条第1項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施行再建マンションの部分について、賃借権が与えられるように定めなければならない。

5     権利変換計画においては、第56条第3項の申出をした者を除き、施行マンションについて配偶者居住権の設定を受けている者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)に対しては、第1項の規定により当該施行マンションの区分所有者に与えられることとなる施行再建マンションの部分について、配偶者居住権が与えられるように定めなければならない。ただし、施行マンションの区分所有者が同条第1項の申出をしたときは、第3項の規定により施行者に帰属することとなる施行再建マンションの部分について、配偶者居住権が与えられるように定めなければならない。

6     前項の場合においては、権利変換計画は、施行マンションについて配偶者居住権の設定を受けている者に対し与えられることとなる施行再建マンションの部分についての配偶者居住権の存続期間が当該施行マンションの配偶者居住権の存続期間と同一の期間となるように定めなければならない。

(担保権等の登記に係る権利)

第61条 施行マンションの区分所有権又は敷地利用権について担保権等の登記に係る権利が存するときは、権利変換計画においては、当該担保権等の登記に係る権利は、その権利の目的たる施行マンションの区分所有権又は敷地利用権に対応して与えられるものとして定められた施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権の上に存するものとして定めなければならない。

2 前項の場合において、関係権利者間の利害の衡平を図るため必要があるときは、施行者は、当該存するものとして定められる権利につき、これらの者の意見を聴いて、必要な定めをすることができる。

(権利変換期日等の通知)

第69条 施行者は、権利変換計画若しくはその変更(権利変換期日に係るものに限る。以下この条において同じ。)の認可を受けたとき、又は第66条の国土交通省令で定める軽微な変更をしたときは、遅滞なく、国土交通省令で定めるところにより、施行マンションの所在地の登記所に、権利変換期日その他国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。

権利変換期日以降は、権利変換の登記がなされるまでの間、他の登記をすることができないため、登記所に権利変換期日をしらしめる趣旨である。

(敷地に関する権利の変換等)

第70条 権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、施行マンションの敷地利用権は失われ、施行再建マンションの敷地利用権は新たに当該敷地利用権を与えられるべき者が取得する。

2     権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、隣接施行敷地の所有権又は借地権は、失われ、又はその上に施行再建マンションの敷地利用権が設定される。

3     権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、保留敷地に関しては、当該保留敷地についての従前の施行マンションの敷地利用権が所有権であるときはその所有権を、借地権であるときはその借地権を、施行者が取得する。

4     施行マンションの敷地及び隣接施行敷地に関する権利で前3項及び第73条の規定により権利が変換されることのないものは、権利変換期日以後においても、なお従前の土地に存する。この場合において、権利変換期日前において、これらの権利のうち地役権又は地上権の登記に係る権利が存していた敷地利用権が担保権等の登記に係る権利の目的となっていたときは、権利変換期日以後においても、当該地役権又は地上権の登記に係る権利と当該担保権等の登記に係る権利との順位は、変わらないものとする。

(施工マンションに関する権利の変換)

第71条 権利変換期日において、施行マンションは、施行者に帰属し、施行マンションを目的とする区分所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。

 施行マンションが敷地権付区分建物である場合は「区分建物表題変更登記(敷地権抹消登記)を円滑化法74条登記の前件で申請する(円滑不動産令5条4項)。

理由

 権利変換期日において、施行マンションは施行者に帰属し(円滑化71条1項)、施行マンションの敷地利用権は失われ、施行再建マンションの敷地利用権は、施行再建マンションの敷地利用権を与えられるべき者に帰属する(円滑化70条1項)つまり、区分建物の所有者と敷地利用権の権利者が法律上異なることになるため、権利変換期日に分離処分の禁止の規定の適用が排除されるため、74条登記の前提として敷地権化を解いておく必要がある。

施行再建マンションに関する登記

円滑化法

(施行マンションに関する権利の変換)第71条 省略

2     施行再建マンションの区分所有権は、第81条の建築工事の完了の公告の日に、権利変換計画の定めるところに従い、新たに施行再建マンションの区分所有権を与えられるべき者が取得する。

3    施行マンションについて借家権を有していた者(その者が更に借家権を設定していたときは、その借家権の設定を受けた者)は、第81条の建築工事の完了の公告の日に、権利変換計画の定めるところに従い、施行再建マンションの部分について借家権を取得する。

(区分所有法の規約とみなす部分)

第72条 区分所有法第1条に規定する建物の部分若しくは附属の建物で権利変換計画において施行再建マンションの共用部分若しくは区分所有法第67条第1項の団地共用部分(以下単に「団地共用部分」という。)と定められたものがあるとき、権利変換計画において定められた施行再建マンションの共用部分若しくは団地共用部分の共有持分が区分所有法第11条第1項若しくは第14条第1項から第3項まで(これらの規定を区分所有法第67条第3項において準用する場合を含む。)の規定に適合しないとき、又は権利変換計画において定められた施行再建マンションの敷地利用権の割合が区分所有法第22 条第2項本文の規定に適合しないときは、権利変換計画中その定めをした部分は、それぞれ区分所有法第4条第2項若しくは第67条第1項の規定による規約、区分所有法第11条第2項若しくは第14条第4項(区分所有法第67条第3項において準用する場合を含む。)の規定による規約又は区分所有法第22条第2項ただし書の規定による規約とみなす。

(担保権等の移行)

第73条 施行マンションの区分所有権又は敷地利用権について存する担保権等の登記に係る権利は、権利変換期日以後は、権利変換計画の定めるところに従い、施行再建マンションの区分所有権又は敷地利用権の上に存するものとする。

(建築工事の完了の公告等)

第81条 施行者は、施行再建マンションの建築工事が完了したときは、速やかに、その旨を、公告するとともに、第71条第2項又は第3項の規定により施行再建マンションに関し権利を取得する者に通知しなければならない。

(施行再建マンションに関する登記)

第82条 施行者は、施行再建マンションの建築工事が完了したときは、遅滞なく、施行再建マンション及び施行再建マンションに関する権利について必要な登記を申請しなければならない。

2 施行再建マンションに関する権利に関しては、前項の登記がされるまでの間は、他の登記をすることができない。

(施行再建マンションに関する登記の申請)円滑不動産令

第7条 法第82条第1項の規定によってする登記の申請は、一棟の建物及び一棟の建物に属する建物の全部について、一の申請情報によってしなければならない。

2     前項の場合において、二以上の登記の登記事項を申請情報の内容とするには、同項の一棟の建物及び一棟の建物に属する建物ごとに、次に掲げる順序に従って登記事項に順序を付するものとする。

一 建物の表題登記の申請

二 共用部分である旨の登記の申請

三 所有権の保存の登記の申請

四 法第八十八条第一項の先取特権の保存の登記の申請

五 法第七十一条第三項の規定による借家権に関する登記の申請

六 担保権等登記の申請

3     第1項の登記の申請をする場合には、不動産登記令第3条各号に掲げる事項のほか、法第82条第1 項の規定により登記の申請をする旨を申請情報の内容とし、かつ、権利変換計画及びその認可を証する情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。

4     第5条第2項後段の規定は、第1項の申請について準用する。

〈申請すべき登記〉

施行再建マンションについて必要な登記

・ 区分建物表題登記

・ 共川部分である旨の登記

施行再建マンションに関する権利について必要な登記

・ 所有権保存登記

・ 先取特権保存登記

・ 担保権等登記(移行担保権の登記)

〈実務上のポイント〉

 所有権保存登記の注意事項登録免許税は、各組合員の所有権保存登記、移行担保権の登記、先取特権保存登記の登録免許税の合計額を納付する。

移行担保権の登記の注意事項

 登録免許税は追加設定登記の扱いとなり、不動産1個につき金1、500円。権利変換の登記申請。(円滑化74 条)の際には非課税であったことと対比。

まとめ

 近年、巨大地震への懸念から、老朽化したマンションや耐震性に問題のあるマンションの建替えが求められています。しかし、マンションの建替えは非常に手間のかかる大事業です。マンションの所有者が多人数のため合意形成の段階で難航しやすく、建替え工事から再入居までの権利移転も煩雑で、なかなか事業が進みませんでした。そこで創設されたのが、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」です。

「マンション建替え円滑化法」の特徴

「マンション建替え組合」が法人として事業を進める

 「マンション建替え円滑化法」による建替え事業では、マンションの区分所有者のうち建替え賛成者で集まり、法人格を持つ「マンション建替え組合」を設立します。この「建替え組合」は、建替え反対者の所有権を買取ることができます。逆に、反対者がマンション建替え組合に対して、買取りを請求することも可能です。また、「マンション建替え組合」は法人として、建替え工事の契約締結や融資の借入れなども行うことができます。

工事中も区分所有権を移転しなくていい

 「マンション建替え円滑化法」を適用せずに建替え事業を行う場合、工事期間中の区分所有権は、一旦所有者から開発業者へと渡ります。再入居の際に区分所有権は戻りますが、登記手続きが煩雑になりますし、一度権利を手放すことに抵抗を感じる所有者も少なくありません。

 一方、「マンション建替え円滑化法」においては、法人である「マンション建替え組合」が組合員(区分所有者)の区分所有権を一括で管理し、登記手続きを行うことが可能です。

円滑化法によるマンション建替えの流れ

1「建替え決議」にて可決に必要な割合の賛成を得る。

 建替え賛成者の3/4以上の合意を得て、「マンション建替え組合」設立の申請をする(事業計画などの提出)。

2     都道府県知事の認可を得て、法人格を持つ「マンション建替え組合」を設立する。

3     建替え反対者の区分所有権を、組合で買取る。

4     建替えに必要な登記を「マンション建替え組合」が一括で行う。

5     建替え工事を行う。

6     組合によって新しい建物の登記をする。

7     「マンション建て替え組合」を解散する。2014年「マンション建替え円滑化法」の改正点マンション建替え事業のより円滑な運用を目的として、2014年に円滑化法の一部が改正されました。4/5以上の賛成で敷地売却も可能に。

資金面などの理由から建替え事業が困難な場合には、敷地売却という選択肢も選べます。

 これまでマンションの解体・敷地売却には、区分所有者全員の合意が必要でした。しかし、それでは建替え事業が円滑に進まないため、区分所有者のうち4/5以上が賛成すれば可能とする法改正が行われたのです。

 この場合も建替え事業と同様に「マンション敷地売却組合」を設立し、合意形成や売却手続き・売却利益の分配などを行います。建替え後の容積率を緩和建替え資金の調達方法として、建物の容積率を増やして新たに設けた住戸(保留床)を売却する方法が一般的です。しかし、容積率に余裕がない場合は、新たに保留床を確保できず、資金調達が難航します。

 そこで、耐震性不足で建替えが求められるマンションに限り、一定の条件を満たせば容積率が緩和されるよう改正されました。

令和4年度北陸地区土地政策推進連携協議会講習会

令和4年11月24日(木)

https://www.hrr.mlit.go.jp/youchi/kyogikai/kyogikai.htm

Web 開催

講習会

「長期相続登記等未了土地解消作業について」

【講師】富山地方法務局登記部門総務登記官 上島政洋氏

「耕地整理組合名義の土地の取得について」

【講師】新潟県佐渡地域振興局農林水産振興部主任 山本直寿氏

「金沢家庭裁判所と金沢弁護士会間の協定」

【講師】金沢弁護士会弁護士永來宏隆氏

「長期相続登記等未了土地解消作業について」

・法定相続情報

・長期相続登記等未了土地である旨の付記登記の記載例

・事業実施主体への提供

・法定相続人への相続登記申請の促しの通知

・法定相続情報を利用することで、集める書類が少なくなり、相続登記申請をやりやすくなる。

・2000筆800名の法定相続人の例

・民間総合病院の開設

・相続土地国庫帰属制度、申請料数千円~数万円を想定

・着手時期、完了までの期間については、法務局への要望時に確認。

「耕地整理組合名義の土地の取得について」

・県と臨時代理者で契約

・住所・氏名・印鑑証明書(県と事前確認)

・県による嘱託登記申請

・耕地整理組合名義の土地の取得についてのチェックリスト

「金沢家庭裁判所と金沢弁護士会間の協定」

・相続財産管理人、不在者財産管理人選任開始の審判申立て時の予納金の取り決め。10件くらい利用されている。いつから始めているのかは不明。

・所有者不明土地管理人、所有者不明建物管理人について、地方裁判所との連携を視野に入れている。

所有者不明土地の管理の適正化のための措置に関するガイドライン

加工

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000099.html

(令和4年11月国土交通省不動産・建設経済局)

はじめに

 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第38号)により、管理不全状態の所有者不明土地等について、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」といいます。)に、市町村長による代執行などの行政的措置を可能とする制度が創設され、令和4年(2022年)11月1日に施行されました。併せて、管理人に対する地方裁判所による管理命令などの民事的措置を市町村長が裁判所に請求できる制度が創設されました。(下図参照)

 このうち行政的措置は、行政指導である勧告(法第38条)、不利益処分である命令(法第39条)・代執行(法第40条第1項)の3つに大別されます。なお、これらの措置に先立って、市町村が確知所有者等に対して行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号に規定する助言・指導などの行政指導を実施することが考えられます。土地の適正管理を目的とする条例が策定されている市町村によっては、行政指導については規定されているものの、勧告・命令・代執行等については規定されていない場合がありますが、今般の法改正に伴って条例の規定がなくても、法に基づいて勧告・命令・代執行を行うことが可能となります。

 本ガイドラインは、法第3章第3節に基づく勧告等の対象となる管理不全所有者不明土地及び管理不全隣接土地の判断の参考となる基準や、勧告・命令・代執行に係る手続の基本的な考え方を示すことで、各市町村における措置の適切な実施の一助となることを期するものです。

 事前準備等を含め、勧告・命令・代執行などの行政的措置について時系列に章立てをしていますので、講じようとする措置に応じて、各章を御参照ください。

 なお、本ガイドラインは、各措置について、法令に抵触しない範囲で、手続を付加し、又は省略することを妨げるものではなく、各市町村においては、本ガイドラインを参考に地域の実情に応じた判断基準を定めるなどした上で、所有者不明土地の管理の適正化のための措置を適切に実施するようにしてください。

 また、市町村は、土地所有者等の探索に関する専門的知識の習得や所有者不明土地の管理の適正化を図る事務・事業の準備・実施のために国土交通省の職員の派遣を要請することができるとともに(法第53条第2項)、国土交通省が事務局となって運営する「土地政策推進連携協議会」においても管理不全所有者不明土地についての代執行等を支援することとしていますので、所有者不明土地の管理の適正化のための措置でお困りの際は、お気軽に国土交通省に御相談ください。

 本ガイドラインは、今後、法に基づく措置の事例等の知見の集積を踏まえ、適宜見直される場合があることを申し添えます。

第1章対象となる土地

1対象となる土地の定義

 法第3章第3節の「所有者不明土地の管理の適正化のための措置」の対象となる土地は、「管理不全所有者不明土地」と「管理不全隣接土地」の2種類です。本ガイドラインでは、両者を合わせて「管理不全所有者不明土地等」といいます。それぞれの土地の定義は、次のとおりです。

管理不全所有者不明土地:

 所有者不明土地のうち、所有者による管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(法第38条第1項)

管理不全隣接土地:

 市町村長が管理不全所有者不明土地の確知所有者に対し災害等防止措置を講ずべきことを勧告する場合において、当該勧告に係る管理不全所有者不明土地に隣接する土地であって、地目、地形その他の条件が類似し、かつ、当該土地の管理の状況が当該管理不全所有者不明土地と同一の状況にあるもの(法第38条第2項)

【参考】

 「所有者不明土地」は、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」と定義されています(法第2条第1項)。

 土地所有者の探索の方法は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行令(平成30年政令第308号。以下「令」といいます。)第1条及び所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行規則(平成30年国土交通省令第83号。以下「規則」といいます。)第1条から第3条に規定されています。

 「所有者不明土地」の定義に当てはまる土地であっても、地目が、田、畑、山林などの場合は、まずは、農地法(昭和27年法律第229号)・農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)や森林法(昭和26年法律第249号)・森林経営管理法(平成30年法律第35号)に基づいて必要な措置を講じることが考えられます。

 また、多数の人命や財産に関わるような規模の災害等の防止については、宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号。宅地造成等規制法の一部を改正する法律(令和4年法律第55号)による改正後は宅地造成及び特定盛土等規制法)や、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和 44 年法律第 57 号)に基づく改善命令や対策工事等により対応することが望ましい場合もあると考えられます。

 このような場合については、これらの他の法令に基づいて措置を講ずることが原則であり、対応の方法について、市町村長と他の法令に基づく権原を有する者とが必要な調整を行うことが必要です。他の法令に基づく措置が実施されない場合、法に基づく措置を実施するほうが合理的である場合等には、市町村長が、法に基づく措置を実施することが求められます。

 なお、所有者不明土地にある空き家が倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の場合には空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)に基づく措置を講じることが考えられます。

2 対象となる土地に該当するか否か、当該土地に勧告等をするか否かの判断

 管理不全所有者不明土地等に対する措置を講じるに当たっては、まず、下記(1)を参考に管理不全所有者不明土地等と認められるかを判断した上で、次に、下記(2)を参考に周辺の地域における災害の発生や環境の悪化の程度等について考慮して判断します。

(1)「管理不全所有者不明土地」、「管理不全隣接土地」の判断の参考となる基準

「管理不全所有者不明土地」については、具体的には、以下の場合に「所有者による

管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実」と判断します。

・所有者が全員不明で、現に管理が実施されていない場合

・所有者の一部が判明しているが、その所有者が現に管理を実施しておらず、今後も管理を実施する意向がない場合

 このため、所有者不明土地が共有の場合において、確知所有者が現に土地の管理をしている場合や、所有の自覚がなかった所有者や土地の現況を認識していなかった所有者に対して市町村長が通知・助言等をすることなどにより、適切な管理が実施されることが見込まれる場合は、勧告をする状況に該当しません。

 なお、所有者が全員不明の場合には、確知所有者がいないため、勧告、災害等防止措置命令を行うことはできず、事態を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、代執行を検討します。

 管理の実施の有無については、周辺の土地や近隣住民等に悪影響を与えないために必要となる保全行為の実施状況を基に判断します。

例えば、以下のような場合には、土地の管理が適正に行われているとはいえません。

・土地から土砂が流出する、放置物や塀等の工作物が倒壊・損壊するなどにより、周辺の地域に被害を生じさせる事態が発生している、又はそのおそれがある

・雑草、竹木等が管理されないまま繁茂し、枯草火災、害虫発生、不法投棄等を引き起こすなどにより、周辺の環境を著しく悪化させる事態が発生している、又はそのおそれがある

 「管理不全隣接土地」を勧告の対象とした趣旨は、所有者不明土地とこれに隣接する所有者が判明している土地とが一体となって管理不全状態に陥っているケースが多く、こうした状態を解消するためには、所有者不明土地だけを勧告の対象としたのでは不十分であり、隣接する土地についても、併せて措置することを可能とすることが適当であるためです。

 管理不全状態であるか否かは1筆ごとに判断されます。管理不全所有者不明土地に隣接する土地が複数ある場合には、管理不全隣接土地が複数の筆の土地であることがあり得ます。地目、地形その他の条件が類似しているか否かについては、登記簿に記載された地目や地形等の物理的な状態によって判断します。

 管理の状況が管理不全所有者不明土地と同一の状況にあるか否かについては、土砂の堆積、工作物の放置、草木の繁茂の状態などの現場の状況に応じて判断します。例えば、土地の境界にあったと推察される塀が崩壊し双方の土地にがれきが散乱している場合や、草木・樹木が繁茂している状況に大きな違いが見られない場合には、管理の状況が同一の状況にあるものとして取り扱うことが考えられます。

(2)勧告等の対象となる管理状態の判断の参考となる基準

 令和3年の民事基本法制の見直しによって、所有者不明土地の管理に関する民事法制度の整備が行われ、裁判所が、所有者不明土地について、利害関係人の請求により、選任した管理人に管理命令を発令できることとされました。これを受けて、法では、管理不全所有者不明土地について、その周辺の地域における災害の発生や著しい環境の悪化を防止するため、市町村長が、対象となる土地の利害関係の有無にかかわらず、所有者不明土地の管理命令の発令を裁判所に請求することにより、管理の適正化を図ることが可能とされました。

 一方、災害等の発生の防止は、所有者不明土地への利害関係に限らず、周辺住民等の生命・身体の保護や、公共施設の機能を確保する観点からも公益性が高いものであることから、民事手続による調整を基本としつつ、災害等の地域生活への重大な影響を回避する観点から、所有者不明土地の管理の適正化のために、行政主体が自ら必要最小限度の措置を講ずることが可能とされました。

 土砂の流出又は崩壊その他の事象による災害の発生については、周辺住民等の生命・身体や財産、土地周辺の道路等の公共施設の機能に影響を与えるか否かにより判断します。

 このため、管理不全所有者不明土地等から土砂の流出等が起こるとしても、当該管理不全所有者不明土地等の周辺の土地に流出するおそれがない場合には、勧告をする要件に該当しません。

「その他の事象」については、次のような場合が想定されます。

・ 塀、擁壁や樹木などが損壊・倒壊すること

がれきなどの放置物が飛散すること ・・・台風前後

これらの事象についても、周辺の土地に影響を与えるかどうかによって判断します。

環境の著しい悪化については、次のような事象の有無により判断します。

・ 雑草、竹木等が管理されないまま繁茂し、周辺に被害が及ぶような害虫発生の原因となり、又は火災、不法投棄等を誘起するおそれがあること

・ 廃棄物が放置され、周辺に被害が及ぶような悪臭の発生や汚物の流出の原因となること

 なお、隣地の竹木の枝が境界線を越えて敷地内に入ってきているなど隣人間のトラブルについては、周辺の地域における「災害の発生」や「環境の著しい悪化」には当たりません。

 事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合については、土地の現況や、地形、土壌、気象等の物理的状況、周辺の土地利用状況、当該土地及び周辺の地域における過去の災害や環境を悪化させる事態の発生状況など、個々の土地の特性を踏まえて判断します。

第2章 事前準備等

 管理不全所有者不明土地については、行政指導である勧告(法第38条第1項)、不利益処分である災害等防止措置命令(法第39条)・代執行(法第40条第1項)の3つの措置を行うことができます。また、管理不全隣接土地については、行政指導である勧告(法第38条第2項)を行うことができます。

 また、このほかに民法の令和3年改正[1]で創設された、裁判所による所有者不明土地管理命令(第264条の2第1項)又は管理不全土地管理命令(第264条の9第1項)を活用することも考えられます。

 なお、請求などの民事的措置は、裁判所による発令の必要性の確認や、公告、陳述聴取などの手続に一定の期間を要しますので、緊急的な対応を要するようなときは、市町村長が自ら必要な措置を講じることができる行政的措置によって、迅速に対応することが考えられます。

 まずは、管理不全所有者不明土地の確知所有者や管理不全隣接土地の所有者の事情を把握し、他法令に基づく措置や民事的措置を含め、何が最もふさわしい措置かを検討します。

  • 管理不全状態の土地の所有者探索

管理不全状態の土地について、その所有者を確知しようとする場合、不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の規定に基づき登記事項証明書の交付を請求することが考えられますが、登記事項証明書に記載された所有者と連絡が取れないことも想定されます。

 これまでは、地域福利増進事業、収用適格事業又は都市計画事業の実施の準備のために限り、土地所有者の探索のための固定資産課税台帳等の地方公共団体が保有する土地所有者等関連情報の利用・提供が可能でしたが、令和4年の法改正により、所有者不明土地の管理の適正化のための勧告の実施や所有者不明土地管理命令又は管理不全土地管理命令の請求等の実施の準備のため必要がある場合についても、土地所有者等関連情報の利用・提供が可能になりました(法第43条)。

  • 所有者不明土地の確知所有者等の事情の把握

 1の所有者探索によって判明した所有者不明土地の確知所有者や管理不全隣接土地の所有者(以下「確知所有者等」といいます。)は、当該土地の所在地と異なる場所に居住していることが一般的であり、当該土地の状態を把握していない場合や、当該土地を相続により取得した等の事情により、自らが当該土地の所有者であることを認識していない場合も考えられます。したがって、まずは確知所有者等に連絡を取り、当該土地の現状を伝えるとともに、当該土地の管理に関する今後の改善方策に対する考えのほか、処分や活用等についての意向など、事情の把握に努めることが望ましいと考えられます。

例えば、

・ 確知所有者等に改善の意思はあるものの、その対処方策が分からない

・ 遠隔地に居住しているため、又は身体的理由等により自ら対策を講ずることが困難である

等の場合には、直ちに立入調査(法第 41 条第1項)や勧告の手続を開始するのではなく、状況に応じて、土地の管理、譲渡等に関する相談窓口や活用可能な助成制度を紹介すること等により、解決を図ることも考えられます。

 また、家庭裁判所に対し、不在者財産の管理命令(民法第25条第1項)又は相続財産の清算人の選任(同法第952条第1項)を請求すること(法第42条第1項)や、地方裁判所に対し、所有者不明土地管理命令(民法第264条の2第1項)又は管理不全土地管理命令(同法第264条の9第1項)を請求すること(法第42条第2項から第4項)もできます。

 一方、災害の発生の危険が切迫している場合や、周辺地域の環境悪化を防止するために速やかに措置を講じる必要があると認められる場合は、市町村長は所定の手続を経て勧告、災害等防止措置命令又は代執行に係る措置を迅速に講じることが考えられます。

 なお、管理不全所有者不明土地の確知所有者がいない場合には、勧告や災害等防止措置命令の手続を経ずに、代執行に係る措置を講じることが認められています(第40条第1項第1号)。

3「所有者不明土地の管理の適正化のための措置」の事前準備

(1)立入調査(法第41条第1項)

 市町村長は、法第38条から第40条までの規定の施行に必要な限度において、その職員に、管理不全所有者不明土地等に立ち入り、その状況を調査させることができます

(法第41条第1項)。

 この立入調査は、勧告、命令又は代執行の実施に当たって、管理不全所有者不明土地等における土砂の流出等の災害の発生や、周辺地域の環境悪化等の事態を生じるおそれがあるかどうかに関して調査し、適切な判断を行うために設けられたものであり、必要最小限度の範囲で行うべきものです。

  • 確知所有者等に対する事前の通知

 市町村長は、管理不全所有者不明土地等の確知所有者等がいる場合に立入調査を行おうとするときは、その円滑な実施や、対応方針の早期決定等の観点から、当該確知所有者等にその旨を一定の時間的猶予をもって事前に通知することが望ましいと考えられます。

  • 身分を示す証明書の携帯と提示立入調査をする職員は、その身分を示す証明書(参考様式1)を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示する必要があります。(法第41条第2項において準用する法第13条第6項)。

 【法律】(裁定)

第十三条 (略)

2~5 (略)

6   前項の規定により立入調査をする委員又は職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。

7   第五項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(立入調査)

第四十一条 市町村長は、この節の規定の施行に必要な限度において、その職員に、管理不全所有者不明土地又は管理不全隣接土地に立ち入り、その状況を調査させることができる。

2 第十三条第六項及び第七項の規定は、前項の規定による立入調査について準用する。

  • 留意事項
  • 法に基づく立入調査は行政調査であり、法第3章第3節(法第38条から第40条までの施行という行政目的の達成のためにのみ認められるものであり、別の目的のために当該立入調査を行うことは認められません。特に、犯罪捜査のために行政調査を行うことは許されず、この点は法第 41 条第2項において準用する法第13条第7項に明示されています。
  • 管理不全所有者不明土地等は、確知所有者等の意思を確認することが困難な場合があるところ、土砂の流出、崩壊等の危険があるなどの場合に、当該土地の門扉が閉じられている等敷地が閉鎖されていることのみをもって敷地内に立ち入れないとなると、法の目的が十分に達成できないおそれがあります。また、立入調査を行っても、現に居住や使用がなされている土地に比してプライバシーの侵害の程度は相対的に軽微と考えられます。

 このため、門扉が閉じられている等の場合であっても、物理的強制力の行使により立入調査の対象とする土地の工作物等を損壊させるようなことのない範囲内での立入調査は許容され得るものと考えられます。

  • 勧告等を実施するために管理不全所有者不明土地等に立ち入った結果、周辺地域への災害の発生又は環境の著しい悪化のおそれがないことが判明した場合であっても、当該管理不全所有者不明土地等に立ち入った時点において「勧告等が必要と認められる場所」であった以上、立入調査は適法な行為と解されます。

(2)管理不全所有者不明土地等に関係する権利者との調整

 勧告等をしようとする管理不全所有者不明土地等について、所有者探索等の過程で、抵当権等の担保物権や賃貸借契約による賃借権が設定されていること等が判明することもあり得ます。

 この場合、勧告等の措置は客観的事情に基づきなされる措置であるため、管理不全所有者不明土地等に抵当権等が設定されている場合でも、市町村長が勧告等を行うに当たって、関係する権利者と必ずしも調整を行う必要はなく、基本的には当該抵当権者等と管理不全所有者不明土地等の確知所有者等とによる解決に委ねられるものと考えられます。

第3章 勧告

1 管理不全所有者不明土地に係る勧告

  • 管理不全所有者不明土地の所有者が全部不明の場合

 管理不全状態の土地の所有者を探索した結果、所有者を全員確知できなかった場合、当該土地は管理不全所有者不明土地に該当しますが、確知所有者がいないため、法第

38条第1項に基づく勧告を行うことはできません。

 この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令(民法第264条の2第1項)の請求(法第42条第2項)や管理不全土地管理命令(民法第264条の9第1項)の請求(法第42条第3項)、代執行について検討します。

  • 管理不全所有者不明土地が共有状態にあり、その内の一部の所有者が不明の場合

ア勧告の実施

 管理不全状態の土地の所有者を探索した結果、所有者を一部確知できなかった場合であっても、当該土地は管理不全所有者不明土地に該当します。この場合において、市町村長は、当該土地の確知所有者に対し、必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、期限を定めて、必要な措置を講ずべきことを勧告することができます(法第38条第1項)。

勧告に先立って、市町村が確知所有者に対して、土地の管理、譲渡等に関する相談窓口や活用可能な助成制度の紹介等の情報提供、行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号に規定する助言・指導などの行政指導を実施することにより、まずは確知所有者による自発的な管理を促すことが重要です。

 なお、土地を適正に管理する責務は、共有持分の多寡にかかわらず、それぞれの土地所有者がその土地全体について有していると考えられます。このため、確知所有者が複数存在する場合には、それぞれの確知所有者の共有持分の多寡にかかわらず、確知所有者全員が勧告の対象となります。

 ただし、所有者の探索を完了していなくても、不明所有者が存在するなど所有者不明土地であることが確認できている場合には、探索の過程で判明した所有者から順次勧告を行うことは妨げられません。

 【法律】(勧告)

第三十八条 市町村長は、所有者不明土地のうち、所有者による管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(以下「管理不全所有者不明土地」という。)による次に掲げる事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、当該管理不全所有者不明土地の確知所有者に対し、期限を定めて、当該事態の発生の防止のために必要な措置(次条及び第四十条第一項において「災害等防止措置」という。)を講ずべきことを勧告することができる。

一     当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させること。

二     当該管理不全所有者不明土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させること。

2 (略)

勧告を行う場合は、その管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して、

・ 当該勧告に係る措置の内容及びその事由

・ 当該勧告の責任者を示すほか、併せて

・ 勧告に係る措置を実施した場合は、遅滞なく当該勧告の責任者に報告すること

・ 正当な理由がなくてその勧告に係る措置を講じなかった場合、市町村長は管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して法第39条に基づく災害等防止措置命令を行う可能性があること について示すことが望ましいと考えられます。

勧告は、措置の内容を明らかにする観点から、書面(参考様式2)で行うものとします。

 また、勧告の送達方法について具体の定めはなく、直接手交、郵送などの方法から選択することが考えられます。勧告は、相手方に到達することによって効力を生じ、相手方が現実に受領しなくとも相手方が当該勧告の内容を了知し得るべき場所に送達された時点で到達したとみなされるため、的確な送達の方法を選択すべきです。郵送の場合は、より慎重を期す観点から、配達証明郵便又は配達証明かつ内容証明の郵便とすることが望まれます。

 なお、市町村長が管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して必要な措置に係る勧告を講じるに当たって、当該確知所有者が複数存在する場合には、市町村長が確知している確知所有者全員に対して勧告を行うことが必要です。

 市町村長による勧告を受けた管理不全所有者不明土地の一部について当該勧告後の売買等により一部の確知所有者が変更したとしても、変更のなかった確知所有者に対する効力は引き続き存続します。なお、新たに管理不全所有者不明土地の確知所有者となった者に対しては、改めて勧告をすることが必要です。

 また、勧告後の管理不全所有者不明土地の売買等により、全ての確知所有者が変更してしまった場合には、勧告の効力が失われるため、新たに当該管理不全所有者不明土地の確知所有者となった者に対し、改めて勧告をすることが必要です。

なお、勧告に係る措置を示す際には、下記に留意してください。

  • 当該管理不全所有者不明土地の確知所有者が、具体的にいつまでに何をどのようにすればいいのかを理解することができるように、講ずべき措置の内容や時期を明確に示すことが必要です。すなわち、「擁壁が崩落しそうで危険なため対処すること」といった抽象的な内容ではなく、例えば「擁壁が崩落しないよう、傾斜している増し積み部分を撤去すること」等の具体的な措置内容を示すべきです。また、工作物を除却する場合には、工作物全部の除却なのか、一部の特定物の除却なのか等除却する範囲を明確に示すことが必要です。

 勧告に係る措置の内容が残置物等(廃棄物を含みます。以下同じです。)に対する措置を含む場合は、勧告書(参考様式2)において、

・ 対象となる管理不全所有者不明土地に存する残置物等については、措置の期限までに運び出し、適切に処分等すべき旨

・ 管理不全所有者不明土地に存する工作物等の除却により発生する残置物等については、措置の期限までに関係法令※1に従って適切に処理すべき旨を明記することが望ましいです。

※1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137 号)、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成 12 年法律第 104 号)などが挙げられます。

  • 措置の内容は、災害の発生等の防止という目的を達成するために必要かつ合理

的な範囲内のものとする必要があります。

 市町村長が、法に基づいて管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して勧告した場合には、関係部局に情報提供を行うことが望まれます。

 また、措置の期限は、管理不全所有者不明土地の管理状況、周辺の地域への悪影響の度合いや切迫度、災害等防止措置の内容等に応じて、社会通念上、合理的に必要な期間を勘案して決定します。

2 管理不全隣接土地に係る勧告

 管理不全隣接土地に係る勧告は、1(2)の管理不全所有者不明土地の確知所有者に係る勧告と同様に対応します。

管理不全隣接土地の所有者に対する勧告(法第 38 条第2項)

 管理不全所有者不明土地について勧告をする場合に、管理不全隣接土地による次に掲げる事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、当該管理不全隣接土地の所有者に対しても、期限を定めて、当該管理不全隣接土地について、当該事態の発生の防止のために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。

・ 当該管理不全隣接土地及び当該管理不全隣接土地に係る管理不全所有者不明土地の両方の土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させること。

・ 当該管理不全隣接土地及び当該管理不全隣接土地に係る管理不全所有者不明土地の両方の土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させること。

3 管理不全状態の解消に係る補助

 管理不全所有者不明土地等において実施される管理不全状態の解消のための措置は、令和4年度予算で法改正に併せて創設された所有者不明土地等対策事業費補助金により補助を受けることができます。

 補助対象となる管理不全状態の解消のための措置は、通常適当と認められる方法により実施される門、塀等の工作物又は樹木の除去等です。これらの除去等により発生する残置物等を処理するのに要する費用を含みます。

 なお、土地所有者等がこの補助を受けるには、市町村が作成する所有者不明土地対策計画において、管理不全状態の土地の解消に向けた取組を実施することを記載していることと、市町村が土地所有者等による管理不全状態の解消に対する助成制度を設けていることが必要です。

第4章 災害等防止措置命令

 市町村長は、管理不全所有者不明土地の勧告の相手方である確知所有者が、正当な理由がなくて勧告に係る災害等防止措置を講じないときは、その確知所有者に対し、相当の期間を定めて、当該災害等防止措置を講ずることを命ずることができます(法第 39 条前段)。

 ただし、管理不全所有者不明土地が共有状態にある場合、確知所有者が災害等防止措置の実施に必要な共有持分を有しないときには、命令の対象にはなりません。災害等防止措置の実施に必要な共有持分については、その災害等防止措置の内容によって異なるため、その判断は個別具体的に行う必要があります。例えば、講ずべき災害等防止措置の内容が、所有者の持分の過半数の同意を得る必要がある行為を伴う措置である場合、確知所有者が1/3の共有持分しか有していないときには、確知所有者に対し、命令を行うことはできません(法第 39 条後段)。

災害等防止措置の実施に必要な共有持分の考え方は下記のとおりです。

(1)「土地の現状を維持する行為」を講ずべき場合

災害等防止措置の内容が、土地の現状を維持する行為(保存行為)に該当する場合は、共有持分に関係なく、確知所有者に対し、命令を行うことができます(民法第252 条第5項)。

○具体例:

・ 土地の一部が陥没している場合に、その穴を塞ぎ、陥没前の状況と同様の状況に修復する行為

・ 崩壊している箇所をシートで被う行為

(2)「土地の形状又は効用の著しい変更を伴う行為」を講ずべき場合

災害等防止措置の内容が、土地の形状又は効用の著しい変更を伴う行為(変更行為)に該当する場合は、所有者全員の共有持分が必要である(民法第 251 条第1項)ため、不明所有者がいる場合には、確知所有者に対し、命令を行うことはできません。この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令や管理不全土地管理命令の請求、代執行について検討することが考えられます。

○具体例:

・ 高低差の大きな土地から土砂が流出しないよう、擁壁を新たに設置して敷地全体を平らにする行為

(3)「(1)及び(2)以外の行為」を講ずべき場合

 災害等防止措置の内容が、(1)及び(2)以外の行為(土地の管理行為及び土地の形状又は効用に変更を加える行為であって、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更))に該当する場合は、所有者の共有持分の過半数が必要である(民法第 251 条第1項・第 252 条第1項)ため、確知所有者の共有持分が過半数に満たない場合には、確知所有者に対し、命令を行うことはできません。この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令や管理不全土地管理命令の請求や、代執行について検討することが考えられます。

○具体例:

・ 樹木が巨木化し、台風の際に倒壊のおそれがある場合に、全て伐採を行う行為

1 確知所有者への通知

 市町村長は、措置を命じる確知所有者に対し、所定の事項を記載した災害等防止措置命令書(参考様式3)を交付するものとします。

記載する主な事項は、

(1)命令に係る災害等防止措置の内容

 命令に係る災害等防止措置は、法第 38 条第1項に基づき行った勧告に係る措置であり、措置の内容は明確に示す必要があります。

(2)命令に至った理由

 根拠法令の条項及びその管理不全所有者不明土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、その結果どのような措置を命ぜられているのか等について、確知所有者が理解することができるように提示すべきです。

(3)措置の期限

措置の期限は、3の「相当の期限」を勘案して決定します。

2 不服申立てをすべき行政庁等の教示

 この命令は行政争訟の対象となる処分となりますので、この命令に対して不服がある場合は、行政不服審査法(平成 26 年法律第 68 号)第2条の規定により命令をした市町村長に審査請求を行うことができます。このため、命令においては、

・ 当該処分につき不服申立てをすることができる旨

・ 不服申立てをすべき行政庁

・ 不服申立てをすることができる期間

について、書面で示す必要があります(同法第 82 条第1項)。

また、行政事件訴訟法(昭和 37 年法律第 139 条)の規定により、当該市町村を被告とする処分の取消しの訴えを提起することができます。このため、命令においては、

・ 当該処分に係る取消訴訟の被告とすべき者

・ 当該処分に係る取消訴訟の出訴期間

についても、書面で示す必要があります(同法第 46 条第1項)。

 なお、本項による市町村長の命令に違反した者は、法第 62 条第 1 項第4号の規定により、30 万円以下の罰金に処することとされています。

  • 相当の期限

 「相当の期限」は、管理不全所有者不明土地の管理状況、周辺の地域への悪影響の度合いや切迫度、災害等防止措置の内容等に応じて、社会通念上、合理的に必要な期間を勘案して決定します。例えば、命令を受けた者が当該措置を行うことにより、その周辺への悪影響を改善するのに通常要すると思われる期間として、工事の施工に要する期間を勘案して決定することが考えられます。

  • 命令の発出

 命令はその内容を正確に相手方に伝え、相手方への命令の到達を明確にすること等処理の確実性を期す観点から、1のとおり書面で行うものとします。

 勧告で残置物等に対する措置を含めている場合は、災害等防止措置命令書(参考様式3)において、

・ 対象となる残置物等については、措置の期限までに運び出し、適切に処分等すべき旨

・ 工作物等の除去により発生する残置物等については、措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すべき旨を明記することが望まれます。

第5章 必要な措置が講じられた場合の対応

 管理不全所有者不明土地の確知所有者が、勧告又は命令に係る措置を実施し、問題が解消されたことが確認された場合は、当該土地では災害等防止措置を講ずる必要はなくなります。市町村においては、当該土地が災害等防止措置を講ずべき土地でなくなったと認められた日付、講じられた措置の内容等をデータベース(第7章参照)に記録し、関係部局と情報共有することが望まれます。

また、必要な措置が講じられた土地の確知所有者に対しては、例えば、当該確知所有者から措置が完了した旨の届出書の提出を受け、当該届出書を受領したものの写しを返却する等により、当該確知所有者に対し管理不全所有者不明土地でなくなったことを示すことも考えられます。

 管理不全隣接土地の所有者が、勧告に係る措置を実施した場合も同様の取扱いとすることが考えられます。

第6章 代執行

 法第 40 条第1項は、行政代執行の要件を定めた行政代執行法第2条の特則であり、「市町村長は、次の各号のいずれかに該当する場合において、管理不全所有者不明土地における災害等防止措置に係る事態を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該管理不全所有者不明土地の所有者の負担において、当該災害等防止措置を自ら講じ、又はその命じた者若しくは委任した者に当該災害等防止措置を講じさせることができる」と規定し、以下の場合に代執行ができるものとしました。

(1)管理不全所有者不明土地の確知所有者がいない場合

(2)確知所有者が災害等防止措置の実施に必要な共有持分を有していない場合

(3)災害等防止措置を講ずべきことを命ぜられた確知所有者が、当該命令に係る期限までに当該命令に係る災害等防止措置を講じない場合、講じても十分でない場合又は講ずる見込みがない場合

 代執行によって講じることができる措置については、他人が代わってすることのできる義務(代替的作為義務)に限られ、

・当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させることを防止するため、必要かつ適当であること

・当該管理不全所有者不明土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させることを防止するため、必要かつ適当であることを満たすことが必要です。

 上記(1)に該当する場合は以下の2及び3の内容を、上記(2)に該当する場合は以下の2から4までの内容を、上記(3)に該当する場合には以下の1から4までの内容をそれぞれ参考にしてください。なお、費用の徴収を実施するに当たっては、持分の多寡にかかわらず確知所有者それぞれに対して費用の全額を請求することも可能ですが、所有者の判明状況や講じた措置の内容に応じて、例えば共有持分に応じた負担を求めることにするなどの対応も考えられます。

1 代執行令書による通知(上記(3)の場合に限る。)

義務者(災害等防止措置を講ずべきことを命ぜられた確知所有者)が指定の期限までにその義務を履行しないときは、市町村長は、代執行令書(参考様式4)をもって、

・ 代執行をなすべき時期

 代執行令書による通知と代執行の実施時期の時間的間隔について定めはなく、市町村長の裁量に委ねられますが、例えば、義務者が対象地から残置物等を搬出すること等に配慮して設定することが望ましいと考えられます。

・ 代執行のために派遣する執行責任者の氏名誰を執行責任者とするかは、代執行権者が適宜決定します。

・ 代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知します。

 なお、代執行令書を通知する際には、災害等防止措置命令を行う際と同様に、行政不服審査法第 82 条第1項及び行政事件訴訟法第 46 条第1項の規定に基づいて、書面で必要な事項を相手方に示す必要があります。

  • 執行責任者の証票の携帯及び呈示

法における代執行権者である市町村長は、執行責任者に対して、「その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票」を交付する必要があります。

また、執行責任者は、執行責任者証(参考様式5)を携帯し、相手方や関係人の要求があるときは、これを提示する必要があります。

  • 代執行の対象となる管理不全所有者不明土地に存する不動産及び動産の取扱い

代執行によって実施すべき措置の内容が、当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させることや周辺の地域において環境を著しく悪化させることを防止しようとするものであるときは、代執行令書(参考様式4)(確知所有者がいない場合は、事前公告)において、

・ 対象となる敷地に存する残置物等については、履行の期限又は代執行をなすべき時期の開始日までに運び出し、適切に処分等すべき旨

・ 代執行により発生する残置物等については、関係法令※1に従って適切に処理すべき旨

・ 履行の期限までに履行されない場合は、代執行する旨を明記することが望ましいと考えられます。

代執行により発生した残置物等であって所有者が引き取らないものについては、関係法令※1に従って適切に処理するものとします。

 代執行時に、相当の価値を有すると認められる残置物等、社会通念上処分がためらわれる残置物等が存する場合は保管し、所有者に期限を定めて引き取りに来るよう連絡することが考えられます。

 その場合、いつまで保管するかは、他法令※2 や裁判例※3 も参考にしつつ、法務部局と協議して適切に定めます。あわせて、現金(定めた保管期間が経過したもので、民法第 497条に基づいて裁判所の許可を得て競売に付して換価したその代金を含みます。)及び有価証券については供託所(最寄りの法務局)に供託をすることも考えられます。

 また、代執行によって実施すべき措置の範囲が管理不全所有者不明土地の一部の場合で残置物等が措置の弊害となるときは、敷地内等の適切な場所に移すことが望ましいと考えられます。

※1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137 号)、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成 12 年法律第 104 号)などが挙げられます。

※2 遺失物法(平成 18 年法律第 73 号)第7条第4項、河川法(昭和 39 年法律第 167 号)第 75 条第6項、都市公園法(昭和 31 年法律第 79 号)第 27 条第6項、屋外広告物法(昭和 24 年法律第 189 号)第8条第3項などが挙げられます。

※3 さいたま地裁平成 16 年3月 17 日

4 費用の徴収(法第 40 条第2項で準用する行政代執行法第5条・第6条)(上記②・③の場合に限る。)

代執行に要した一切の費用は、行政主体が義務者から徴収します。当該費用について、行政主体が義務者に対して有する請求権は、行政代執行法に基づく公法上の権利であり、義務者から徴収すべき金額は代執行の手数料ではなく、実際に代執行に要した費用です。したがって、作業員の賃金、請負人に対する報酬、資材費、第三者に支払うべき補償料等は含まれますが、義務違反の確認のために要した調査費等は含まれません。

市町村長は、文書(納付命令書)において、

・ 実際に要した費用の額

・ その納期日

を定め、その納付を命じる必要があります(行政代執行法第5条)。行政代執行法においては、代執行の終了後に費用を徴収することのみが認められ、代執行終了前の見積による暫定額をあらかじめ徴収することは認められていません。

 費用の徴収については、国税滞納処分の例※4による強制徴収が認められ(行政代執行法第6条第1項)、代執行費用については、市町村長は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有します(同条第2項)。

 代執行時に確知所有者がいなかった場合で、代執行後に所有者が現れたときは、その所有者から徴収することが考えられます。また、代執行後に、民法に基づく財産管理制度の活用等により土地の処分がなされた場合には、得られた財産から費用を支弁することも考えられます。

※4 納税の告知(国税通則法(昭和 37 年法律第 66 号)第 36 条第1項)、督促(同法第 37 条第1項)、財産の差押え(国税徴収法(昭和34 年法律第147号)第47 条)、差押財産の公売等による換価(同法第89条以下、第94条以下)、換価代金の配当(同法第128 条以下)の手順。

第7章 その他

  • データベース(台帳等)の整備

管理不全所有者不明土地等については、その所在地、現況、確知所有者等の氏名等、管理不全所有者不明土地等に対する措置の内容及びその履歴を記録するデータベースを整備するなど、その状況を適切に把握することが望ましいと考えられます。

  • 関係部局との情報共有

 管理不全所有者不明土地等に対する措置に係る事務を円滑に実施するには、当該市町村の関係内部部局との連携が不可欠であることから、所有者不明土地対策担当部局は、必要に応じて管理不全所有者不明土地等に関する情報を関係内部部局に提供し、共有することが望ましいと考えられます。

 その際、個人情報が漏えいすることのないよう、細心の注意を払うことが必要です。


[1] 本ガイドラインでは、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第 24 号)による改正後の条文を記載しております。

参考様式1(法第41条第1項関係) (表 面)

参考様式2(法第38条第1項)

○ 年 ○ 月 ○ 日

○ ○ 第 ○ ○ 号

○○市○○町○丁目○番○号

○○ ○○ 殿

○○市長 ○○ ○○

(担当 ○○部○○課)

勧 告 書

貴殿の所有する下記の土地は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」という。)第38条第1項に定める「管理不全所有者不明土地」に該当すると認められたため、貴殿に対して対策を講じるよう指導してきたところでありますが、現在に至っても改善がされていません。

ついては、下記のとおり災害等防止措置を講じるよう、同項の規定に基づき勧告します。

1.対象となる土地所在地        ○○市△△町△丁目△番△号用 途        ○○

所有者の住所及び氏名 ○○市○○町○丁目○番○号  ○○ ○○

2.勧告に係る災害等防止措置の内容

(何をどのようにするのか、具体的に記載)

(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)

(例)

対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。

災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すること。

3.勧告に至った理由

(対象となる土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、当該状態が、①土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させるおそれのある状態、②周辺の地域において環境を著しく悪化させるおそれのある状態 のいずれに該当するか具体的に記載)

4.勧告の責任者  ○○市○○部○○課長  ○○ ○○ 連絡先:○○-○○○○-○○

5.措置の期限   ○年○月○日

(注 意)

  • 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じた場合は、遅滞なく上記4.の者まで報告すること。
  • 上記5.の措置の期限までに正当な理由がなくて上記2.の災害等防止措置を講じなかった場合は、法第39条の規定に基づき、当該措置を講ずべきことを命ずることがあります。

参考様式3(法第39条)

○ 年 ○ 月 ○ 日

○ ○ 第 ○ ○ 号

○○市○○町○丁目○番○号

○○ ○○ 殿

○○市長 ○○ ○○

(担当 ○○部○○課)

              災害等防止措置命令書

貴殿の所有する下記の土地は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」という。)第38条第1項に定める「管理不全所有者不明土地」に該当すると認められたため、○年○月○日付け○○第○○号により、同項の規定に基づき勧告しましたが、現在に至っても勧告した災害等防止措置が講じられていません。

ついては、下記のとおり災害等防止措置を講じるよう、法第39条の規定に基づき命じます。

1.対象となる土地所在地        ○○市△△町△丁目△番△号用 途        ○○

所有者の住所及び氏名 ○○市○○町○丁目○番○号  ○○ ○○

2.命令に係る災害等防止措置の内容

(何をどのようにするのか、具体的に記載)

(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)

(例)

対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。

災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すること。

3.命令に至った理由

(対象となる土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、当該状態が、①土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させるおそれのある状態、②周辺の地域において環境を著しく悪化させるおそれのある状態 のいずれに該当するか具体的に記載)

4.命令の責任者  ○○市○○部○○課長  ○○ ○○ 連絡先:○○-○○○○-○○

5.措置の期限   ○年○月○日

(注 意)

  • 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じた場合は、遅滞なく上記4.の者まで報告すること。
  • 本命令に違反した場合は、法第62条第1項第4号の規定に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。
  • 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じない場合、講じても十分でない場合又は講ずる見込みがない場合は、法第40条第1項の規定に基づき、当該措置について行政代執行の手続きに移行することがあります。
  • この処分について不服がある場合は、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条及び第18条の規定により、この処分があったことを知った日かの翌日から起算して3か月以内に○○市長に対し審査請求をすることができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には審査請求をすることができなくなります。

この処分の取消を求める訴訟を提起する場合は、行政事件訴訟法(昭和37年法律第 139号)第8条及び第14条の規定により、この処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に、○○市長を被告として、処分の取消の訴えを提起することができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には処分の取消の訴えを提起することができなくなります。なお、処分の取消の訴えは、審査請求を行った後においては、その審査請求に対する処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起することができます。

参考様式4(法第40条第1項)

○ 年 ○ 月 ○ 日

○ ○ 第 ○ ○ 号

○○市○○町○丁目○番○号

○○ ○○ 殿

○○市長 ○○ ○○

(担当 ○○部○○課)

代執行令書

○年○月○日付け○○第○○号により、貴殿の所有する下記の土地について、下記の災害等防止措置を○年○月○日までに講じるよう命令しましたが、指定の期日までに義務が履行されませんでしたので、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成 30年法律第49号。以下「法」という。)第40条第1項の規定に基づき、下記のとおり代執行を行いますので、通知します。

代執行に要する全ての費用は、法第40条第2項において準用する行政代執行法(昭和23 年法律第43号)第5条の規定に基づき貴殿から徴収します。また、代執行によりその物件及びその他の残置物等について損害が生じても、その責任は負わないことを申し添えます。

1.代執行の対象となる土地所在地        ○○市△△町△丁目△番△号

用 途        ○○(附属する門、塀等を含む。)

2.○年○月○日付け○○第○○号により命令した災害等防止措置の内容

(何をどのようにするのか、具体的に記載)※災害等防止措置命令書と同内容を記載

(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)

(例)

対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。

災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法

令に従って適切に処理すること。

3.代執行の時期  ○年○月○日から○年○月○日まで

4.執行責任者   ○○市○○部○○課長  ○○ ○○

5.代執行に要する費用の概算見積額   約○,○○○,○○○円

(注 意)

  • この処分について不服がある場合は、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条及び第18条の規定により、この処分があったことを知った日かの翌日から起算して3か月以内に○○市長に対し審査請求をすることができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には審査請求をすることができなくなります。

この処分の取消を求める訴訟を提起する場合は、行政事件訴訟法(昭和37年法律第 139号)第8条及び第14条の規定により、この処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に、○○市長を被告として、処分の取消の訴えを提起することができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には処分の取消の訴えを提起することができなくなります。なお、処分の取消の訴えは、審査請求を行った後においては、その審査請求に対する処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起することができます。

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