日本不動産学会シンポジウム「リバースモーゲージの新展開」と国土交通省「リースバックガイドブックの作成に際しての検討会での検討内容について」

加工

「リバースモーゲージの新展開~現状と普及のための今後の課題~」(公社) 日本不動産学会シンポジウム2022年3月18日

http://www.jares.or.jp/

リバースモーゲージの動向と今後の展開

アーバンクロス技術士事務所 代表村林正次

技術士(建設部門地方及び都市計画、総合監理部門)

・一般社団法人 住宅金融普及協会 評議員

【関連所属組織】

・公益財団法人 横浜市建築助成公社 理事

・一般社団法人 スポーツと都市協議会 理事

・一般社団法人 団地再生支援協会 団地再生研究会

・もうひとつの住まい方推進協議会 幹事

1978年4月 (財)日本開発構想研究所 入社

【職歴】

1988年7月 ㈱住信基礎研究所(現三井住友トラスト基礎研究所) 入社

1999年8月 ㈱価値総合研究所(現日本政策投資銀行グループ)入社

2018年4月 (一社)不動産総合戦略協会 理事長就任

2021年6月 アーバンクロス技術士事務所 代表就任

【専門領域】

都市・国土・住宅政策、都市開発、シルバービジネス、都市機能マーケット(オフィス、住宅等)等の官民の調査・計画・政策立案・ 事業支援等。主に大都市圏政策(東京メガロポリス構想、臨海副都心計画等)、住宅政策(リバースモーゲージ、高齢者居住等)、 資金調達(証券化スキーム、公的ファンド等)等

【主な著書】

•「住宅が資産になる日」(プラチナ出版社)(2018.7)

•信託改革<金融ビジネスはこう変わる>(日本経済新聞社)(共著)(2005.5)

•日本版リバースモーゲージの実際知識(東洋経済)(共著)(1998.1)

•社会資本投資の費用・効果分析法(東洋経済)(共著)(1998.1)

•超高齢社会の常識-リバーシモーゲージー(日経BP社)(共著)(1997.12)

目次

【リバースモーゲージの現状と今後の展開】

Ⅰ.住宅の価値とリバースモーゲージ

Ⅱ.リバースモーゲージの意義とスキーム Ⅲ.我が国のリバースモーゲージ

Ⅳ.海外のリバースモーゲージ

Ⅴ.今後の課題と展開方向

Ⅰ.住宅の価値とリバースモーゲージ

Ⅰ-1 「住宅」に資産価値はあるのか?

Ⅰ-2 住宅の価値の構成要素

Ⅰ-3 クレジットローンとモーゲージローン

Ⅰ-4 リコースローンとノンリコースローン

Ⅰ-5 我が国の住宅ローン

Ⅰ-1 「住宅」に財産価値はあるのか?① ~リバースモーゲージ適用の前に~

・住宅が最大の資産として、フロー化が期待されるが、 財産価値は無く、担保価値は土地にしかない。 (今やその土地も危うい)

・住宅ローンは「モーゲージ・ローン」ではなく 「クレジット・ローン」であり、住宅自体に担保価値を期待していない。

Ⅰ-1 「住宅」に財産価値はあるのか?②

1.住宅は資産か?

・リバースモーゲージは資産化された住宅を活用する商品 (資金に流動化)であるが、現状では、多くの住宅は資産 としての価値は無い(既存住宅市場が未形成)。

• リバースモーゲージの議論は最終的には「住宅の資産価値」に帰着する。

2.住宅の資産形成

・住宅の使用価値としては「デザイン、機能、性能」である。 機能・性能は必要条件であり、デザインが根幹。

・その上で、価値ある住宅・住環境を一元的に管理することが肝要

Ⅰ-2 住宅の価値の構成要素①

<経年減価する住宅の資産価値>

■一戸建て住宅の価値

• 建物は中古なった時点から急速に価値が減価。

• 土地に対する建物価格の比率は、新築が3割程度から20年後には1割以下。

■マンションの価値

• 都心部の物件は性能・機能が向上し、ほぼ立地で決まる。戸建てよりまだまし。

<住宅の効用要素>

住宅の効用

デザイン(審美性)、機能 (利便性)、性能(安全性・環境性)

資産形成

クラシック/社会的定評 (スタイル/アイデンティティ) 、フレキシブル

世代を越えた住要求 、検証された材料・工法

負債形成

ポピュラー/趣味的 (個々の嗜好、流行) 、リジッド 固定的な「居住水準」

新しい材料・工法

性能(安全性・環境性)、検証された材料・工法があれば、担保価値を認めることが出来るのではないかと考えていましたが、難しいようです。

Ⅰ-2.住宅の価値の構成要素②

超長期優良住環境形成の3つの条件 Housing Owners Association

3.開発主体による優れた開発のための憲章

1.帰属意識が持てる優れたマスタープランとアーキテクチャラルガイドラインの作成とその遵守による住環境の経年的な熟成。

2.コミュニティー全体が民主的な統治意識を持ち、そのための住宅所有者による、住宅地経営協会: HOA)の存在。

Conditions and Restrictionss)の制定とこれに基づいた資産形成を目指した基本計画の策定及び全体管理のための住宅地経営協会との契約締結。

参考

齊藤広子「戸建て住宅地における居住地マネジメント組織としてのHOA導入のための課題」都市住宅学39号2002

住宅地経営協会、等の話となると、マンションの管理組合の改正と併せて議論が始まるように思います。

Ⅰ-3.クレジットローンとモーゲージローン

【クレジットローン】

債務者の信用に基づいたローン

・消費者ローン等であり、収入や所属組織等により利用者の信用が査定される。

・日本の住宅ローンは「クレジットローン」であり、住宅等を担保とするが、保証によりリスクヘッジしている。保証料が必要。

【モーゲージローン】

・担保の価値に基づいたローン

・米国の住宅ローンは「モーゲージローン」であり、住宅の資産価値を重視している。同時に、ローン社会であり、また、デフォルトも多いため、ローンの返済実績の視点からの審査も重視している(FICOスコア)。

結局、金融機関が担保実行の際に、土地のみ実行するということが無意味に近いからということで形式的に建物にも担保を付けている、ということなのかなと思いました。

Ⅰ-4.リコースローンとノンリコースローン

【リコースローン】 「遡及型融資」

ディフィシェンシー・ルール(Ant deficiency Rule):デフォルト時に融資金の返済財源が担保資産に限定されず、保証人や他の返済財源 からの返済を追求できる融資形態のことを指す。

【ノンリコースローン】「非遡及型融資」

特定の事業や資産から生ずる収益のみを返済原資とする非遡及型の融資を指す。 プロジェクトファイナンス等の特殊なローン形態。

Ⅰ-5 我が国の住宅ローン

<リスク回避>

保証会社による代位弁済 / 団体信用生命保険の加入】 ・住宅ローンには通常、土地・建物に第一順位の抵当権を設定し、さらに保証料と生命保険料が付加される。

<対金融機関>

・保証料を負担することにより、デフォルト(債務不履行)の際に融資機関が保証会社から代位弁済を受けることができる。しかし、債務者の債務の債権は保証会社に移るだけであり、抵当権行使後の残債は債務として残る。

・団信料を負担することにより、借り手が「死亡」した際にはローンの残債が支払われる。

最後は、保険(保険料)での清算となる。

Ⅱ リバースモーゲージの意義とスキーム

Ⅱ-1 リバースモーゲージは次世代高齢社会の象徴 Ⅱ-2 住宅資産の活用

Ⅱ-3 住宅資産の活用方策の比較

Ⅱ-4 リバースモーゲージの基本スキーム

Ⅱ-5 リバースモーゲージのリスク

Ⅱ-6 典型的なリバースモーゲージの商品内容

Ⅱ-7 資金需要の使途

Ⅱ-1 リバースモーゲージは次世代高齢社会の象徴

・リバースモーゲージは「自ら築いた居住用資産」を「自らの意思」 により「自らの生活を豊かにするため」「経済利益を得て」「死亡時に一括返済する」システムであり、金融商品では無い。

・キーワードは「高齢者」「住宅」「金融」「福祉」であり、それぞれが個々に、さらには相互連携的に制度や社会システムが整備される必要がある。

・ストック「リッチ」、フロー「プアー」(ハウスリッチ・キャッシュプ アー)(不動産はあるが、所得が無い)の高齢者に対してリッチな不動産を資金化する。

これが成就した社会こそ、「成熟した高齢社会」。

ここについては、よく分かりません。

Ⅱ-2住宅資産の活用①

・返済過程における「ホームエクイティ・ローン(HE)」、完済後は「リバース モーゲージ(RM)」あるいは「売却」「賃貸」としての活用。

住宅に資産としての価値が保持できれば、売却による住み替えの促進 (既存住宅マーケット)とともにさらに資産の活用が多様化される。 基本的には「居住継続しつつ経済的利益を得ること」

 ■融資タイプ:現役時代は「ホームエクイティ・ローン」 、老後は「リバー スモーゲージ」を利用するなどにより、住宅資産をフルに活用することが可能。

■売却タイプ:セール・アンドリースバック(S&LB)の可能性。

参考1:負担付き贈与(民法第553条)

相手に自宅を贈与する見返りに受贈者が贈与者を扶養する負担を請け負うもの 参考2:終身定期年金(民法689~694条)

フランスのビアジェ方式。

当事者の一方(定期金債務者)が、自己、相手方(定期金債権者)又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物(代替物)を相手方又は第三者に給付する契約。

Ⅱ-2 住宅資産の活用②

<リバースモーゲージ使途目的の多様化>

・本来は利用者が住宅に居住継続しながら、資金化することが目的であり、福祉サービス費用から次第に多様化している。

Ⅱ-3 住宅資産の活用方策の比較 居住継続しつつ経済価値を享受手法の比較

持分を受益権と考えると、信託で構成することも可能だと考えられます。

Ⅱ-5 リバースモーゲージのリスク①

■利用者(借手、相続人)サイドのリスク

1.支払いリスク

・幸いなことに日本では0と考えられる)

2.不動産下落リスク

・予想以上の下落が生じて限度額を越えると契約終了

■融資サイドのリスク

1.長命リスク

・生命表等で想定

2.金利上昇リスク

・変動金利などで対応

3.不動産下落リスク

・海外では見られないリスクであり、不動産評価の厳格化、利子の調整等。

4.相続リスク

複数の相続人、相続人の死亡等 想定相続人全員の同意、信託等

Ⅱ-6 典型的なリバースモーゲージの商品内容

利用対象者

・借入時の年齢が満60歳以上。

・判断能力を有する。

・自宅に一人あるいは配偶者と居住していること。

・50歳以上や上限(80歳等)もある。

・安定・継続的収入が必要な場合。

早めに子供に贈与して判断能力喪失に備えられないか、そのような必要がある場合もあると思います。

活用方法

・現居住用不動産(住宅)を担保にした融資。

・賃貸料を担保等他方法。

・取得物件を担保にする場合。

対象不動産/担保 ・利用者が居住している、土地付き一戸建て住宅、マンショ ン。

・第Ⅰ順位の抵当権設定登記。

資金使途 ・生活関連資金(医療費、介護費、リフォーム、転居費用等)

・投資や事業目的は除外。

・マンション対象外が多い。

・住宅購入費も含む場合。

・転居の場合はJTIと連携。

融資極度額

・対象不動産の評価額の50~70%及び1億円を上限。極度額に達するまで、適宜、融資。

・年金型払いに限定する場合。

・評価額は毎年1回見直し。

融資期間

 ・終身 融資額が極度額に到達した時期。

返済方法

・死亡後に元利一括返還。

・相続人が「現金返済」あるいは「担保の代物返済」

・利息を毎月払いの場合。

・債務免除益発生の可能性有り。

金利

・変動金利(基準金利+調整幅)及び固定金利

・東京スター銀は預金連動型。 保証

・借主訴求 ・保証料(保証料が不要な商品もある)、ノンリコース(リコースもある)

・保証会社の保証

ここでのノンリコースローンは、普通だと思います。

保証人

・不要(必要もある)

住宅金融支援機構の保険利用。

相続人の同意

 ・相続人全員の同意が必要。

 ・同意を不要とする場合。

Ⅲ リバースモーゲージの現状

Ⅲ-1 リバースモーゲージの経緯

Ⅲ-2 リバースモーゲージの類型

Ⅲ-3 官民の主要制度・商品

Ⅲ-4 従前の民間プラン

Ⅲ-5 従前の公的プラン

Ⅲ-6 現在の公的プラン

Ⅲ-7 官民の主要制度・商品:まとめ

Ⅲ-8 民間の取扱い金融機関の現状

Ⅲ-1 リバースモーゲージの経緯(概略)

1970年~

研究者や自治体で関連研究が実施。

1980年~

武蔵野市が1981年に最初に条例化・制度化。

1980年代中半~1990年~

バブル期を挟んで、自治体や民間金融機関や信託銀行等(8行: 1984~1989年)が次々と参入したが、バブル崩壊後、各行ともに撤退。

住宅政策や福祉政策の中で位置づけられる。 

2000年前半

2005年に東京スター銀行が開始、ハウスメーカー等も金融機関と提携して参入。 自民党・政府での検討が高まる等各分野からの提言が盛んになる。

自治体制度は社会福祉協議会と福祉公社の統合と金融機関の撤退等により、停滞し、国の制度に統合。 国土交通省・厚生労働省の制度が登場し、契約者は急増。

2010年~

中古住宅市場活性化等の中で資産活用方策としての議論が活発化。

住宅金融支援機構の保険付き移住・住替え機構と連携して、都市銀行・信用

金庫・信用組合等の多様な金融機関が参入。

2017年~

金融庁・厚生労働省・国土交通省がリバース・モーゲージの普及研究(自由民主党一億総活躍推 進本部提言の下)。リ・バース60等の融資機関が増大し、 2020年時点で108機関。

Ⅲ-2 リバースモーゲージの類型①

<公的プランと民間プランとに大別される>

■公的プラン:国及び自治体。

・自治体プランは嚆矢である武蔵野市等が直接融資型であり、世田谷区等の大半は間接融資型(窓口が自治体で融資は金融機関)。 現在はすべて停止。

・国の制度は不動産担保型生活資金貸付制度(厚生労働省:窓口は自治体の社会福祉協議会)に集約。

住宅金融支援機構が独自の商品(リフォーム、まちづくり融資等 住宅購入型)及び金融機関のリスクを保証する保険措置を供 与(「リ・バース60」)。

・特例的に震災対応の住宅再建のための措置。

Ⅲ-2 リバースモーゲージの類型②

■民間プラン:金融機関やハウスメーカー等。

・最初の参入は不動産の扱いに慣れており、また、高額資産者を顧客に有する信託銀行等8行であり、しばらくは順調に契約数を増加 させたが、参入後、バブル崩壊となり、急激な土地価格の下落等により、次第に撤退・縮小した。

・しばらくは新たな商品がでなかったが、1999年に殖産銀行(2007年に撤退)そして2005年に東京スター銀行が使いやすい商品を出した。これを契機に複数のハウスメーカー各社(現在は撤退)が参入した。信託提携タイプも登場。

・その後、新たな参入は無かったが、国の議論や金融機関新たな ローン商品の組成ニーズ等そして、「住宅購入を目的」とした住宅金 融支援機構の保険付与の「リ・バース60」及び「住替えを目的」とするJTI(移住・住替え機構)による賃料担保権設定商品等を背景に 2010年頃から、急増した。都市銀行及び信用金庫等も競って参入しつつあり、現在108機関が商品を有している。

Ⅲ-6 現在の公的プラン

■国の制度(福祉的対応)

【不動産担保型生活資金貸付制度(旧生活福祉資金貸付制度)】 (厚生労働省)(H20.9までは長期生活支援資金貸付制度)、 同:要保護世帯向け

• 全国ベースの制度導入(契約者は急増)

• 福祉政策の面からの施策:自立支援

• 融資対象:65歳以上高齢者(同居者は配偶者と両親)、住民税非課税世帯、 均等割課税世帯程度 • 使途:生活費

連帯保証人:推定相続人から一人

• 金額:評価額1000~1500万円、70%程度を限度額とし、30万円/月以内 • 金利:3%か長期プライムレートの低い利率

• 実施主体:都道府県社会福祉協議会

• 窓口:自治体の社会福祉協議会

• 実績:626件(累計契約件数681件)、124億30百万円(2008年3月末時点) 注)近年は実績未公表

資料:厚生労働省

Ⅲ-8 民間の取扱い金融機関の現状

<民間取扱金融機関数の推移実績>

 <現状と見込>

「【リ・バース60】の利用実績等の公表について」(平成30年5月 住宅金融支援機構)

出典:民間住宅ローンの実態に関する調査報告書」(各年度版)(国土交通省)

注)リバースモゲージ型住宅ローン【リ・バース60】(住宅金融支援機構)の取扱機関数は、2016年度以降は年度末、2015年度以前は不明。

Ⅳ-3 フランス <ビアジェ>①

• 「ビアジェ」は「債務者が特定の第三者が生存している間、一定金額の支払いをする、終身定期金契約(射倖契約)※1」。 <フランス民法典 第3編 所有権取得の種々の方法第12章 諸侯契約(第1968条~1983条)>

※1:不確かな事象に左右される相互契約(民法1964条)

補)フランス民法典に準じている日本の民法にも同様の規定がある。 終身定期金契約(民法 689条~694条)。但し、射倖性が強いことから、 これまで適用されていない。

・「ビアジェ」は不動産の所有権を移転するものであり、不動産活用手法としては 「売却」型である。

また、売却後に「売主が居住継続」するオキュペ方式と「売主が転居するリーブル方式がある。前者の場合が、居住継続しながら不動産を流動化可能とする意味で リバースモーゲージの類型として扱われている。

民法 1 9 64条~ 1 9 83条に定められている終身定期金 契約。

①ビアジェ・オキュペ

・高齢者(売手)が個人投資家(買手)に自宅を 売却し、高齢者はそのまま済み続け、投資家は頭 金と終身年金を給付する。両者の仲介や契約書作 成等は専門組織が介在するが、年金給付の保証は行わない。高齢者は売却金額の一部(頭金)を受け取り、残額はヴィアジェ年金となる。

・数十年前から約 4 0万件の実績があるが、個人間 の相対契約で取引が不安定。長生きリスクが回避できず、投資家の支払不履行リスクもある。

契約書は公証人が法的に登録する。高齢者は虚有権を売却し、用益権(居住権・利用権)を終身保有する。

契約時に転居し、所有権を完全に移転 して年金方式で代金を受け取るタイプ もある。

②ビアジェ・リーブル

・高齢者(売手)が個人投資家に自宅を売却し、 住宅は契約時に個人投資家(買手)に明け渡し。

ビアジェファンド

ビアジェは歴史のある制度であるが、射幸性が高く、一対一の相対取引であるため、近年では普及 が進まなかった。また、買手市場でもあったが、これらの問題を解消するためにファンドが組成された。 2 0 1 0年に民間ファンド(ヴィラージェ・ ヴィアジェ社)、 2 0 1 4年に公的ファンド(フラン ス預金供託金庫)。

多くの契約を束ねることにより、売手にとっては、民法典による法的規定に加えて、さらに安定性を拡充させ、買手にとっても利益を期待できる投資対象となる。

抵当権付終身貸付型( Le P re t Vi a g er H up to the c a ire e: P V H)

米国のHECMに類似した融資制度であり、 2006年の法改正により制度化された。フランス不動産銀行のみで取り扱っているが、2 016年から提携銀行との契約が可能となった、需要喚起が期待される。( 2007年 )

ノンリコースローン

保険制度や証券化などの仕組みは無い。

Ⅴ 今後の課題と展開方向

Ⅴ-1 リバースモーゲージを巡る環境変化 Ⅴ-2 リバースモーゲージの課題・展開 Ⅴ-3 リバースモーゲージ付住宅商品

Ⅴ-1 リバースモーゲージを巡る環境変化原点:「現居住用資産の価値を担保に継続居住したまま資金を得る」

①介護施設への転居等の確率が高く、「死ぬまで自宅に住み続けること」ができなくなっているケースが増加。

②相続人が居ない、相続放棄のケースが増加。

③住宅に資産価値の無い事が周知されてきたが、一方でリノベニーズ、 リノベによる資産化の可能性も出てきた。

④高齢からの住宅取得ニーズがある。

⑤住宅金融支援機構の保険付加により地域金融機関等新たなローン商品として取り組み始めてきた。

資産マネジメントへの関心の高まり(相続、空家対策、資産運用等)

⑦都市・市街地再生の困難化とマンション共同化や再開発需要増等

2022/3/12

リバースモーゲージ普及に向けた金融機関の担保査定技術の高度化

令和4年3月18日

東京大学大学院経済学研究科特任教授(不動産イノベーション研究センター(CREI))武藤祥郎

目次

1.問題意識

2.海外における資産大量評価と自動価値算定モデル(AVM)

3.CREIにおける不動産価格分析能力の向上について

まとめ:今後の展望 2

1.問題意識

「リバース・モーゲージ」の利用進展 リバース・モーゲージの利用は、公的・民間金融機関において急速な増加傾向

住宅金融支援機構【リ・バース60】の利用状況

民間金融機関貸出実績(年度末残高))

住宅金融支援機構【リ・バース60】

https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/yushihoken_revmo/index.html

なぜ「リバース・モーゲージ」が重要か

我が国の家計資産の状況を見ると、金融資産 (資産―債務)の約1500兆円に目が行きがちであるが、

土地: 約700兆円 の合計約1100兆円(正味保有資産の約4割)をどう生かすかについて、検討する必要

・超少子高齢化において高齢者等の一部家計が 金融資産不足に陥る中で、必要な世帯において住宅・土地を活かす道を作ることが極めて重要  

出典:内閣府「国民経済計算」(ストック編)

※「固定資産」の内訳は国民経済計算で示されていないが、家計資産においてはそのほとんどが「住宅」であると考えられる。

「リバースモーゲージの『3大リスク』」に関する素朴な疑問

これらは一定の規模がある金融機関にとって本当に「リスク」なのか?

⾧生きリスク・・・プールできる。「生命表」「生命保険」

金利上昇リスク ・・・ヘッジできる。「スワップ」「ALM」等

担保価値下落リスク

これは確かに、特に人口減少下の日本において重要ではないか。

我が国金融機関における中古住宅担保評価の現状(民間金融機関)

住宅ローン貸出動向調査((独)住宅金融支援機構):2016年

住宅ローン貸出動向調査((独)住宅金融支援機構):2021年

我が国金融機関における担保(土地・住宅)評価は、もっと高度化・標準化されるべきではないか。

「リースバック」の仕組み

〇リースバックとは、所有している資産を第三者に売却し、その後、第三者とリース契約を締結することで、それまでと同じ資産を利用し続けることを可能にする取引手法

〇住宅においては、住み替えの円滑化や老後の資金への対応、相続前の不動産処分など、住宅利活用の新たな選択として近年注目されつつあり、利用件数も増加傾向(出典:国土交通省記者発表資料(令和3年12月10日))

リバースモーゲージと比較した 「リースバック」のリスク特性

国土交通省記者発表資料(令和3年12月10日)より

消費者向け「リースバック」ガイドブックの策定に向けた検討を開始

○ 一方で、リースバック自体の認知度が低いことや、一連の手続が複雑であることから、契約内容等について消費者の理解が不十分なままで契約が締結されるなどのトラ ブルが発生している事例も見られます。 

リバモ「三大リスク」のうち、⾧生き、金利上昇 リスクは回避できているが、担保価値下落リスク」あるいは担保価値評価に関しては引き続き課題

 例えば、 多くの会社が「一括査定」あるいは「高額」の 査定を謳うが、 「リースバックでの買取額が適正額を大きく下 回っていた」ことで、トラブルになる例もある。

○ こうした状況を踏まえ、消費者がリースバックの活用を検討するにあたって参考となるリースバックの適切な活用 方法や留意点等をガイドブックとして取りまとめるべく、 「消費者向けリースバックガイドブック策定に係る検討会」を開催。

2.海外における資産大量評価(Mass Evaluation)と自動価値算定モデル(Automated Valuation Model)

海外における住宅の大量評価(Mass Evaluation)と自動価値算定モデル(AVM)

大量評価(Mass Evaluation)

共通のデータ、標準化された方法、統計的なテストを用いて、一群の不動産を評価すること(一棟の不動産の鑑定評価と同様、直接比較法、原価法、収益還元法という伝統的な3つの価値評価アプローチをとる)

通常の物件評価との違いは、作業の範囲のほか、分析を実施するために使用されるツールである。

例えば、欧米において不動産の市場価値を課税基準としている自治体にとって、大量評価は、全ての不動産を公平、透明、かつ一貫した方法で評価する上で、効率的でコスト効率の良い方法である。

大量評価は、良質のデータと健全な市場分析に基づき、数学的モデリングによって不動産価値を推定する自動価値算定モデル(AVM)を必要とする。特に北米の多くの地域で、国内および非国内の不動産について、課税目的の価値を設定するためにAVMを使用している。Brian Guerin (FRICS) “Let me introduce: mass appraisal”英国RICS ウェブサイト を基に作成

https://www.rics.org/pt-br/news-insight/future-of-surveying/data-technology/mass-appraisal/

AVMの利用と留意点

公共部門では、AVMを一定の市場範囲内のすべての不動産に適用し、課税目的の価格を推定する。

民間企業では、AVMは住宅ローン融資の目的、不正行為の検出、または分析の一環として不動産鑑定士を支援するために使用されることがある。

ここで重要なことは、AVMは完璧ではないということである。経験豊富な分析者が信頼できる方法を用いて開発した良質のデータに基づくモデルは、多くの場合、健全な価値推定を行うことができる。

その一方、AVMが正確さを欠く可能性があるのは、特殊な属性を持つ不動産や、

データが限られた市場地域などである。AVM の利用者は、AVM が算出した価格を確認する際、常に専門的な判断を下す必要がある。

なぜ「完璧でない」AVMが民間金融機関の住宅ローン融資の際に有用なのか

金融機関: 個別の評価の妥当性もさることながら、金融機関の「ポートフォリオ」分析としては、

ポートフォリオ全体としての平均化されたパフォーマンスこそが重要。

常時モニターしていなければならないため、瞬時に安価で大量の資産を評価する必要

住宅ローンの融資側によるAVM利用の例

融資側は AVMの利用により、案件を処理する前に、提案された数値が適切かどうか、人間の評価者による完全な評価コストをかけずに確認することができる。

→融資側が受け入れるリスクのレベルを算定できる。

住宅ローン期間の途中で、不動産価値がどのように変化しているかを確認するために使用することもできる。

(出典)RICS Automated Valuation Models Roadmap for RICS members and stakeholders June 2021

IAAO Standardization Model

国際評価官協会(International Association of  Assessing Officers、前身:全米評価官協会(National  Association of Assessing Officers)は、評価担当者の基準を確立することを目的に設立された機関であり、政府の査定担

当者や固定資産税の管理に関心のある人たちの専門的な会員

組織である。

IAAO の会員は査定実務と管理の基準を開発し、これらの基準の多くは州や国際的な監督機関によって採用され、一部は法律にも取り入れられている。

IAAOは、北米における資産査定にとどまらず、国際社会への普及などにも尽力している。

(出典: IAAOウェブサイト)

米国Freddie MacのAVMモデル “Home Value Explorer”

Home Value Explorer® (HVE®) :

Freddie Mac の自動評価モデル(AVM)ツールであり、数秒で不動産価値の推定値を生成 (複数のモデルを1つの製品に統合し、低価格で提供)

HVEはフレディマック独自のアルゴリズムを使用しており、リ ピートセールスモデルとヘドニックモデルから返されるモデル推定値をブレンド。

HVEは、約1億件の不動産記録を持つデータベースにより、 全米50州、3100以上の郡を広範囲にカバー

担保評価サイクルを合理化することにより、住宅ローンのプロセスを簡素化(2010年より提供開始)

HVEの用途

以下のような民間金融機関等の融資業務をサポート

• 抵当権、ホームエクイティローン等の引受審査

• ポートフォリオマネジメント等

• 信用リスク管理 よって継続的にテストされているほか、

• 損失軽減

• 住宅ローンの借り換え・変更

高速に評価額を生成するとともに、予測標準偏差

(FSD)に基づき、統計的に解釈しやすい「信頼スコア」 (Confidence Score)を提供。

CoreLogic, Equifax等の民間提供企業 (Distributor)を通じてサービス提供

AVM信頼性の確保

具体的には、サンプル内およびサンプル外のパフォーマンスでの広範なテストを行っているほか、フレディマック内部でも定期的に分析・検査四半期ごとにモデルを再計算し、数値の正確性を継続的に確保

AVMのメリット

AVMは、既存の電子評価処理プラットフォームに組み込むことができ、より低リスクの融資決定をサポートするため、住宅ローン評価において金融機関にとって特に魅力的な存在

AVMは、評価する者が通常の調査の過程で観察できないようなニュアンスや統計的分析を引き出すのに有効である。

時間、費用、(調査等の)リソースを節約し、増え続けるデータの流れを管理し、一定確実なレベルを提供する。

人為的な要素を排除し、不正のリスクを低減

AVMのデメリット

AVM を使用する場合、通常、物件は検査(インスペクション)されず、平均的な条件が用いられることが多いが、これは不正確である可能性が高い。AVMプロバイダーは、市場を正確にモデル化するために、不動産と市場取引価格に関する信頼できる詳細な記述データを大量に必要とする。

AVMの使用に関して、消費者の透明性はほとんどない。

住宅分野では、住宅購入のプロセスが複雑であるため、評価や調査の選択について消費者に情報を提供することが困難。

優れた比較可能なデータの量と質が欠けていると、信頼性の低い評価につながる可能性がある。

使用されている基礎データの出所に関するもの

– データソースは定期的に更新され、提供されるサービスの全期間を通じて利用可能か

– 過去の評価額は、資格のある独立した評価人が提供した販売価格や数値に基づくか

– どのように収集されたか

– セレクション・バイアスがかかっていないか

システムが不正行為の対象となる可能性がある

AI、機械学習、神経言語プログラミングは、AVMの高度化を意味する。これは、人間の入力に依存しないだけでなく、評価を作成するために行われたプロセスと機能の簡単な説明を行うことができない評価結果につながる可能性がある。(ブラックボックス性)

(出典)Royal Institution of Chartered Surveyors (RICS) “Automated Valuation Models Roadmap for RICS members  and stakeholders”, June 2021, 10ページ表を邦訳

AVMのメリット・デメリットから得られる教訓

既存の個別「鑑定評価」とAVMは併存するものであり、AVMは、個別不動産評価の妥当性よりも、ポートフォリオ・パフォーマンスの平均値等が課題になる住宅ローン等の「金融」で有効な存在

特にこれまで適切な担保評価において課題となっている、 ・低額物件・地方の物件等の取引数が多くない物件について、データに基づく価格査定とその標準誤差の分布により、 適切な視座を金融機関や担当者に与える可能性

(参考)Home Equity Conversion Mortgage (HECM) の仕組み

ここまでのまとめ

 欧米では、金融商品として必ずしも主力とは言えないが、低所得者等向けにリバースモーゲージの活用が進む。

 制度上の問題はさることながら、上記の大量評価手法やAVMがほとんど我が国金融機関に根付いていないとすると、担保「査定インフラ」の課題があるのではないか。

 特に、比較的低額物件が多い(金融資産が小さく年収が小さい)と思われるリバースモーゲージについて、AVMの分析能力が上がれば、リバース・モーゲージの担保資産リスクの分析能力も上がるのではないか。

一方で、残念ながら我が国でのAVM認知度は低いと同時に、研究レベルでの論文でも寡少(海外では、International Journal of Strategic Management、Journal of Property Investment & Finance、International Journal of Housing Markets and AnalysisなどでAVM論文が増えている。)

不動産の価格評価をどのように高度化できるのか。CREIでは何をやっているのか。

3.CREIにおける不動産価格分析能力の向上について

背景・目的

○ 不動産へのニーズの多様化に適確に対応した新たな不動産市場の形成や業態の育成・発展に資するよう、産学官の効果的な連携により不動産分野のイノベーションをリードすることが重要。

○ 少子高齢化、AI・IoTなど新技術の進展、グローバル化など、社会経済情勢等の急速な変化に伴い、不動産に対する社会ニーズも多様化。

産学官連携による研究拠点として、東京大学に不動産イノベーション研究センター(CREI)事務局を設置(2020年度~5年間)

連携部局

・ 公共政策学連携研究部

・ 経済学研究科 ・ 工学系研究科

・ 情報理工学系研究科

・ 空間情報科学研究センター ・ 未来ビジョン研究センター

UC Berkley: FISHER CENTER FOR REAL ESTATE & URBAN ECONOMICS 

寄附企業等・共同研究機関・協力機関

○ 寄付企業等

・ 住友不動産株式会社 ・ 東急不動産株式会社 ・ 東京建物株式会社 ・ 野村不動産株式会社

○ 共同研究機関

・(一社)全国住宅産業協会

・(公社) 全国宅地建物取引業協会連合会 不動産総合研究所 ・(公社)全日本不動産協会 全日みらい研究所

・ 三井不動産株式会社 ・ 三菱地所株式会社 ・ 森ビル株式会社

○ 協力機関 ・ 国土交通省

その他、

・ ヤマトホールディングス株式会社 ・ (一社)不動産流通経営協会

・(一社)不動産協会

・(一財)不動産適正取引推進機構(企業・団体名は50音順)

MIT, Oxford等の多くの主要大学で不動産関係の研究センターが不動産関 係の研究を蓄積

(機構⾧) 柳川範之 東京大学大学院経済学研究科教授

(副機構⾧) 浅見泰司 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授

城山英明 東京大学未来ビジョン研究センター 教授

(連絡先)東京大学連携研究機構 不動産イノベーション研究センター(CREI)事務局

https://www.crei.e.u-tokyo.ac.jp/ mail: crei@e.u-tokyo.ac.jp

(1)時空間地球統計(Egotistic)による不動産価格推定モデルの開発<概要>

ヘドニック価格設定モデルの精度向上

 不動産賃貸(住宅)価格は、通常の回帰分析などで精度が保てる一方、個別不動産の影響が強く、都心の「ビッグデータ」が得られる地域でも限界がある  特に取引事例が限られる地方部などでは、取引価格の予測誤差の減少に限界がある

「ある地域Aは隣の地域Bと、近い関係性にある」と言う空間相関を導入し、サンプルが希薄な地域においても精度の高い予測を可能となるモデルを開発  神奈川県横須賀市の新築・中古戸建住宅について、レインズ成約物件データを分析

 時空間の分散・共分散マトリックスを適切に推計することで、サンプル内の予測値、サンプル外の予測値のどちらについても、予測性能が向上

モデル推計に際して生成される空間効果のパラメーターは、実務上有効な指標となりうる

 予測値の確率分布の生成: 金融機関や不動産業者などが(担保)不動産の価格査定を行う際に、平均値としての価格を算出できるほか、単独又は複数不動産を組み合わせて分析できる

 一定の空間における分布の生成: 不動産業者あるいは専門家が感覚的に把握する地位(じぐらい)について、数値的な裏付けが可能になる

 空間における減衰率: (今回の分析対象地域では)600m以内という比較的短い距離で空間的効果が減衰。近傍類似地の範囲を把握し、その重要性を比較できる

【研究成果】 Muto, S. Sugawara, S., Suzuki, M. (2021) “Hedonic Real Estate Price Estimation with the Spatiotemporal Geostatistical Model,” CREI Working Paper (The University of Tokyo), 3.

Gestatesによる空間考慮の考え方

Gestatesの予測性能(暫定的結果)

Gestatesによる点推定分布と空間的価格分布の導出

Gestatesによる「空間的減衰率」の導出

不動産価格に対する空間的な減衰率が計算できる

(2)画像認識のAI技術を用いた都市景観分析

<概要>

不動産の価格形成

  視覚的な景観情報は、大規模かつ定量的な把握が⾧らく困難であった

 ストリートビュー画像と画像認識のAI技術を組み合わせることで、分析を大きく飛躍させる可能性を秘めている

欧米とは異なる日本の都市景観の構成要素を抽出し、不動産価格との関係を分析

東京圏郊外(東京都八王子市)の低層住宅地において、売買された戸建住宅周辺のGoogleストリートビュー画像を収集+セマンティックセグメンテーション 画像から捉えられる視覚情報は、周辺地区全体の景観を表す場合と、街路レベルの景観を表す場合があり、後者は地区の固定効果をコントロールすることで捉えられる

緑・植栽、開放性、建物密度は、街路レベルの不動産価格と正の相関がみられる

日本で一般的な都市景観要素として、電柱の存在は地区レベルで不動産価格と負の相関があるが、住宅地を不連続にする路肩・駐車スペースや農地の存在は、地区レベルでも不動産価格と負の相関をもたない傾向にある 。

【研究成果】 Suzuki, M. Mori, J., Maeda, T. N., Ikeda, J. (2022) “The value of urban landscapes in a suburban city of Tokyo, Japan: A semantic segmentation approach using Google Street View images,” CREI Working Paper (The University of Tokyo), 5.

「セマンティック・セグメンテーション」を活用した価格分析

レインズ成約物件周辺のGoogleストリートビュー画像を、1物件あたり12枚(30度ごと)収集

Cityscapes Datasetを用いて、収集画 像のセマンティックセグメンテーション(画像 内の全画素にラベルやカテゴリを関連付ける ディープラーニングのアルゴリズム)を適用

各景観要素の構成割合(ピクセル数)を もとに、12方向の平均値を指標化

都市景観指標を説明変数としたヘドニック価格分析を行い、取引価格への影響を分析

出典:https://www.cityscapes-dataset.com/

セマンティック・セグメンテーションの例:住宅地

不動産の価格分析能力高度化に向けたCREIにおける取り組みの方向性

 空き家の発生状況の地域的分布予測

 価格分析におけるAI・機械学習の活用

「景観・街路情報の取得」と不動産価格の関係

「大相続時代」の到来を見据えた地域的な空き家及び外部性の発生状況予測(テーマ1との関連)

分析技術の高度化  価格分析における空間情報の活用

都内全域等大サンプルにおける分析技術の確率・高度化

 広告行動など住宅市場における様々な市場不完全性の分析

CREIが「学術的な分析」を不動産ビジネスの「参考にすべき要素」として提供し、

・デジタルや新技術を活用した円滑な不動産の取引

・国民の家計資産の約4割を占める不動産資産の最大活用に資することを目指す

まとめ:今後の展望(リバース・モーゲージ市場のさらなる発展に向けて)

 通常ローンも含めた担保データ分析能力の向上+モデリングの高度化・透明性確保

 リバース60等のリバース・モーゲージ関連データ蓄積

リバースモーゲージ型住宅ローンの 現状と今後の課題

独立行政法人住宅金融支援機構 国際・調査部 調査担当部長 豊島義之

リバースモーゲージ型住宅ローン

【リ・バース60】の概要

【リ・バース60】は、リバースモーゲージ型の“Reverse”と生まれ変わる”Rebirth”の2つの 意味を込めた上で、「60歳以上から利用可能」というメッセージを意識したリバースモーゲー ジ型住宅ローンの愛称

リバースモーゲージ型住宅ローン【リ・バース60】の概要①

リバースモーゲージ型住宅ローン【リ・バース60】の概要②

ノンリコース型とリコース型 金融機関により異なる場合あり。

高齢者の住まいをめぐる状況(ストック)

高齢者の世帯員がいる世帯における持家率は、低下傾向にあるものの依然として8割以上。また、持家を所 有している高齢者の過半は、同一住宅に31年以上居住。

生活環境の変化に応じた住み替えは行われておらず、定期的なリフォームを実施していなければ、不便さ に我慢しつつ生活している可能性。

出典:平成30年度高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果(内閣府) 出典:平成30年住宅土地統計調査(総務省)

高齢者の住まいをめぐる状況(住宅に関する問題)

持家(一戸建て)に居住する高齢者において、住宅に問題を感じている者は64%にのぼり、住宅に対する 古さ、地震や火災に対する防災設備、造りの使いにくさに対して特に問題を感じている。 アメリカと比較しても日本の高齢者は住宅に対して問題を抱えており、特に、上記問題に対する意識差が 大きい。

出典:令和2年度高齢者の生活と意識に関する国際比較(内閣府)

高齢者の住まいをめぐる状況(フロー)

2014年~18年の5年間で65歳以上の者の住宅取得(住宅の建設・購入)は21.3万戸(全世代の13%)あり、 高齢期でも一定の住宅取得ニーズが存在。

ただし、住宅取得者の年収は500~700万円未満の世帯が最多(18%)であり、一定の収入がある世帯に限られる。

出典:平成30年住宅土地統計調査(総務省)

リバースモーゲージの現状

(住宅ローン貸出動向調査結果)

※「住宅ローン貸出動向調査」とは、住宅ローンを取り扱う金融機関を対象に、住宅金融支援 機構が毎年度実施するアンケート調査(2021年度は全301機関を対象とし272機関が回答)。 当調査では、リバースモーゲージ(【リ・バース60】を含む)の取扱に関しても調査を実 施。

リバースモーゲージの現状(貸出実績)①

民間金融機関を対象とした「住宅ローン貸出動向調査」では、リバースモーゲージの貸出実績(年度末残 高)は、1,577億円(回答のあった金融機関の合計金額)。 金融機関ごとの残高の分布は「500万円以下」が最多。次いで「5000万円以下」、「1億円超」。

※上記の残高は、回答のあった金融機関の合計金額であり、必ずしも市場全体の規模を表すものではない。

リバースモーゲージの現状(資金使途)②

リバースモーゲージの資金使途については、【リ・バース60】の取扱金融機関が多いことから住宅関連が多いが、生活資金を対象としている金融機関も約4割存在。

リバースモーゲージの現状(機関保証・貸出姿勢)③

リバースモーゲージの機関保証の利用状況は、「住宅金融支援機構の住宅融資保険(リ・バース60)」が 最多。その他、住宅金融支援機構を除く「外部の保証会社等」が多い。 取扱姿勢については、自然体(現状維持)と回答している金融機関が最多。

リバースモーゲージの現状(取り扱う上での課題)④

リバースモーゲージを取り扱う上での課題は、「高齢者及び相続人への商品説明」が最多。次いで、「長生きリスク(長生きすることにより担保評価額分の融資限度額を超過するリスク)の管理」。

【リ・バース60】の利用状況①

(参考)取扱金融機関80機関(2022年3月現在)

【リ・バース60】の利用状況②

利用者の職業等

資金使途

活用事例①(戸建住宅の建設)

〈戸建住宅の建設〉 2020年度 申請件数:327件 (申請件数全体に占める割合:28.1%)

特徴

✓ 利用エリアは、首都圏が23%、近畿地方が17%、北関東・甲信地方、東海地方それぞれ16%、その他の地 方が28%となっており、全国的に幅広いエリアでの利用。

✓ 60~69歳が半数以上で、定年を迎えられる頃に建設を行っている方の割合が高い。

✓ 100㎡未満の住宅が57%と半数を超えており、60歳以上の世代の生活に適した広さの住宅を選択。

申込みのきっかけ(例)

● 住み慣れた場所でより快適な住環境を得るために、建て替えたい。

● 子供の独立を機に、現在の家族構成に合った 広さの家に建て替えたい。

● 自宅の老朽化や自身の高齢化に伴い、設備の 入れ替えやバリアフリー化を行いたい。

活用事例②(新築マンションの購入)

〈新築マンションの購入〉 2020年度 申請件数:235件 (申請件数全体に占める割合:20.2%)

特徴

✓ 利用エリアは、首都圏が58%、近畿地方が14%、その他の地方が28%となっており、大都市圏での利用が 多い。

✓ 70歳以上が半数以上で、年金受給者の割合は高い。

✓ シニア向け分譲マンションの購入にも利用。

申込みのきっかけ(例)

● 自宅の老朽化や子供の独立を機に、現在の 家族構成に合った広さの家に住み替えたい。

● 利便性の高い街中へ住み替えたい。

● 子世帯との近居のために住み替えたい。

● シニア向け分譲マンションに住み替えたい。

活用事例③(戸建住宅のリフォーム

〈戸建リフォーム〉 2020年度 申請件数:283件 (申請件数全体に占める割合:24.4%)

特徴

✓ 利用エリアは、首都圏が30%、中国地方が16%、東海地方が13%、その他の地方が41% となっており、 全国的に幅広いエリアでの利用。

✓ 70歳以上が半数以上で、年金受給者の割合は高い。

✓ リフォーム工事費は500万円未満が42%、500万円以上1,000万円未満が39%。

✓ 自己資金(※1)の平均は63万円と少なく、自己資金なしの借入者の割合は59%。

✓ 毎月支払額の平均は1.1万円であり、他の資金使途に比べて少ない。

申込みのきっかけ(例)

● 自宅の老朽化や自身の高齢化に伴い、設備の 入れ替えやバリアフリー化を行いたい。

● 住み慣れた場所で、より快適な住環境を得る ためにリフォームをしたい。

● 子供の独立を機に、現在の家族構成に合った 広さの家にリフォームしたい。

地方公共団体との連携した活用事例

【事例1】大和川高規格堤防整備事業

● 大和川高規格堤防の整備に伴い、移転対象住民(地権者)の住宅の取り壊しや再建が必要

・既成市街地において、国土交通省が堤防盛土を施行するため、既存住宅の取り壊しや住宅の再建が必要 ・高規格堤防と一体的に行う、大和川左岸(三宝)土地区画整理事業は、UR都市機構(以下UR)が施行者として実施 ・事業地区内にお住まいの方の約7割が60歳以上の高齢者で、新たな住宅ローンを組む

ことが困難な状態

● 移転者の住宅再建を堺市及びURと連携して支援

・機構が作成したリ・バース60等の紹介チラシをUR及び堺市を通じて地権者に配付

・地権者宅へ訪問するUR及び堺市職員22名に対して勉強会を実施(参考:機構作成チラシ)

【事例2】「川崎市すまい・いかすプロジェクト」における取組(神奈川県川崎市)

・住まいを活かした豊かな高齢期等の実現を目指す「川崎市すまい・いかすプロジェクト」に、川崎市と連携して取組を促進する川崎市すまい・いかすサポーター」として参画し、各種取組を実施。

・「川崎市すまい・いかすプロジェクト」に係る企画段階からの川崎市との打合せにおいて、地域金融機関も含めた取組を提案。

・川崎市の政策への連携、高齢者向け金融商品の充実の観 点から、リ・バース60の取扱いを川崎信用金庫に提案

川崎信用金庫が『かわしんリ・バース60』取扱開始 (令和2年1月20日)

(参考1)一般的な住宅ローン(フラット35)の利用者属性(2020年度)

人生100年時代の家族とリバースモーゲージ: 経済学の視点から

竹田陽介(上智大学経済学部)

「沖縄の家族」

事業承継

冠婚葬祭

医療

介護

私の家族

アウトライン

1. 「人生100年時代」の家族

2. 家族とリバースモーゲージ

3. リバースモーゲージの不人気の要因

4. リバースモーゲージの制度設計

1. 「人生100年時代」の家族

• 年齢に完全に対応したライフ・ステージを前提とする人生シナリオの困難 • 三段階の人生シナリオ: 就学期 就労期 退職期

• 例:多段階の人生シナリオ

ボランティア活動

就学期 就労期 移行期 就労期 就学期 移行期 就労期 退職期

子育て スキルのアップグレード

• 可能な自分(possible selves)へのナッジ(behavioral nudge)

• 無形資産(生産性資産,活力資産,変身資産)の力:個人間の分散が大きくなる

• 人間関係:リスクシェアリングのための家族構成員間の役割のスイッチング

2. 家族とリバースモーゲージ

「家族と経済学」

• 家族と市場の境界:取引費用,リスク・シェアリング

• 家族:ライフサイクルにおいて,教育・就労・結婚・離婚・出産・遺産相続などに関わる集合的な意思決定を行う主体

• 集合的な意思決定:社会的分化(デュルケーム『社会分業論』)を経た現代の家族は,顔の見える家族内での資源・リスクの配分だけではなく,匿名性の担保される市場取引に頼る.

• リスク・シェアリング

• インフォーマル:世代内・世代間の所得移転

• 資産形成における遺産の比重 (Kotlikoff and Summers, JPE:1981)

• フォーマル:金融資産市場

• 意図しない遺産(Abel, AER:1985):長生きのリスク

• リバースモーゲージ:債権の証券化(竹田『土地総合研究』2014年)

• 非伝統的金融政策:中央銀行の「最後の買い手」機能(竹田・矢嶋『非伝統的金融政策の経済分析』2013年)6

3. リバースモーゲージの不人気の要因

• 不人気? 米国(Poterba et al. JEL: 2011)

• 65‐69歳世帯のHome equity/ total wealth: 25.9%, Health and Retirement Study(2008)

• ベビーブーマー世代の離婚歴有り・配偶者死別者の高いHome equity保有額

• その要因: 退職世代の合理的意思決定

• Health and Retirement Study:Coco and Lopes(RES: 2020)

• 利他的遺産動機

• +健康・医療費支出のリスク:住み慣れた住居を止む無く売却する不効用

• +リバースモーゲージの高い手数料・担保維持費

4. リバースモーゲージの制度設計

• 退職世代の合理的意思決定:Coco and Lopes(2020)

• リバースモーゲージ+住居の強制売却に対する保険=退職者もRMの提供者・保険機 関もパレート改善する.

• しかし,「人生100年時代」において,退職期の合理的意思決定だけでは,長 期にわたる家族のリスクシェアリングは達成できないと考えられる.

• 無形資産の個人間の分散が大きくなる

• とりわけ,身体的・精神的健康を含む活力資産

• 処理能力の負荷がもたらす「先送り」「ほったらかし」「トンネリング」を避ける

• 可能な自分へのナッジの活用は可能か?

• 長生きのリスクのシェアリングに供するリバースモーゲージの制度設計とは?

4. リバースモーゲージの制度設計

• 貯蓄に関するナッジの活用例:企業の関わり

  1. Smartプラン:“Save More Tomorrow”, Thaler and Benartzi (JPE:2004)

• 今は貯金できないと感じている人が,給料が増えたら必ず天引き貯金を増やすことに同意する.

• 起こること(昇給)と起こって欲しいこと(貯蓄の増加)を繋げる.

2. 給料日ローン:Bertrand and Morse (JF:2011)

• 潜在的な顧客に示すデータ(利率のみ,あるいは金額も)で二つのグループに分ける.

• 金額費用も見せられたグループの方が,ローンを組む顧客が大幅に少なかった.

• 明確かつ簡潔なまとめは認知能力を効率よく利用できる.

3. 401K(確定拠出年金制度)への加入の初期設定:Carroll et al. (QJE:2009) • 企業は新規採用者に登録用紙を提示する必要がある.

• 初期設定が加入しない(opt-in), 加入する(opt-out)か,意思表示の義務(active)かで異なる.

• Activeのケースでは,opt-inに比べて加入者が28%増加した.

• 先送りする性向が強く,貯蓄への嗜好異質性が大きい時には,Activeが望ましい.

4. リバースモーゲージの制度設計

• リバースモーゲージへの応用:先送り,異質な契約

• 住宅購入時にRMへの加入意思の有無を,企業に対してActive(意思表示の義務)の 形式で行う.

• ESG投資時代の企業の社会的責任(CSR):「長期思考」

• 事業承継, BCP, 防災教育など

• リバースモーゲージの加入意思表示の義務:投資家の態度にも反映される.

国土交通省

【別紙2】住宅のリースバックに関するガイドブックの作成に際しての検討会での検討内容について

https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000174.html

別紙2

住宅のリースバックにガイドブックの作成に際しての検討会での検討内容について

令和4 年 6 月

消費者向けリースバックにガイドブック策定に係る検討会

【委員】

井上博登      弁護士(長島・大野・常松法律事務所)

阿部芳典      (一社)不動産流通経営協会業務流通委員

草間時彦      (公社)全国宅地建物取引業協会連合会常務理事・政策推進委員長

佐藤貴美             弁護士(佐藤貴美法律事務所) 

野津干絵      明治大学政治経済学部教授

早野木の美    (公社)日本消費生活アドバイザー・コシザルタン卜・相談員協会主任研究員

松本修 (公社)不動産保証協会常務理事

((公社)全日本不動産協会神奈川県本部理事)

山本遼 株式会社R 6  5 代表取締役

行武憲史      日本大学経済学部准教授

(敬称略、五十音順)

【事務局】

国土交通省住宅局住宅政策課

国土交通省不動産・建設経済局不動産業課

【日程】

第1 回検討会 令和3 年1 2 月 2 2日

第 2 回検討会 令和4 年1 月2 6日

第3回検討会 令和4 年 3月1 4日

はじめに

  1. .   本検討会開催の背景

近年高齢者世帯を中心に住み替え、老後資金の確保、円滑な相続等を目的としてリースバックを活用した不動産取引が徐々に増加傾向にある。我が国の住宅政策においても、「往生活基本計画

(全国計画)」( 令和3年3月19日閣議決定)にて、「住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」を目標と一つとてして掲げており、ライフスタイㇽに合わせた柔軟な住み替えを可能すると既存住宅流通の活性化するための基本的な施策として「健全なリースバックの普及」が挙げられている。

一方で、リースバックを活用した不動産取引に対する認知度が未だ低いことや、持家の売買契約と賃貸借契約を組み合わせることによる取引の複雑さから、契約内容等に対する消費者の理解が不十分なまま契約が締結されるなどのトラブルが発生している。

こうした状況を踏まえ、消費者がリースバックの活用を検討するに当たって参考となる適切な利用方法や検討時の留意点等をガイドブックとして取りまとめるべく、不動産取引・消費者保護の分野における有識者、不動産業界団体の参加を得て、本検討会の開催を行うこととしたものである。

  • .    議論の進め方

本検討会においては、令和3年12月以降3回の会合を開催し、関係省庁・不動産事業者のオブ

ザーバー参加を得つつ、各委員等による自由かつ率直な意見交換を行った。

  • .   本報 告書の位置づけ

本報告書は、ガイブドック作成に向けて令和3年12月~令和4年3月にかけて3 回開催された検討会における議論の内容をまとめたものである。

なお、本検討会においては、リースバックに関する調査結果等を共有するとともに、関係者が現時 点において認識しているリースバック取引の特徴や想定される活用例・留意点等について思惜のない意見交換を行った。こうした中で、実際の利用例やトラブル事例についての共有が行われたほか、住み替えの円滑化や住宅資産を活用した資金需要への対応についてリースバック以外の取引との比較・ 検討などがなされたところである。

そのため、本報告書では、ガイドブックの容内に加えて、消費者がリースバックの利用を検討するにあたり事前に認識すべき事柄をその背景とともに記載しているほか、消費者が自身の需要に応じて適切な手法を選択する上で検討時に有用と考えられるとされた利用例や留意点についても記載している。

一方で、リースバックは未だ取引事例も多くないため、健全なリースバックの普及に向け、取引の状況を踏まえて、必要な対応が求められると考えられる。行政におかれては、本検討会にて行われた議論を踏まえ、引き続き健全なリースバックリースパックの普及に向けた取組を継続し、時宜にかなった柔軟な住み替え・既存住宅流通の活性化に寄与することに期待をしている。

リースバックガイドフックの作成に際しての検討会での検討内容について

目次

はじめに

第1  章     住宅のリースバックの概要及び利用の検討に際してのポイン卜

  1. .    住宅のリースバックとは     1
  2. .  想定されるリースバックの利用例      2
  3. リースバックの特徴     4

【参考】リバ一スモ一ゲ一ジとは     4

【参考】通常の売却を選んで、契約締結後、決済・引渡し時期を事業者と調整する 5

  • リースバックにおけるトラブル事例とポイシ卜  7

第 2 章 4.    リースバックの検討にあたってのポイン卜の補足及びその他の留意事項等

  1. .  利用する手法の検討について   12

( 1 )適切な手法の選択      12

( 2 )将来にわたる収支計画の検討   13

( 3 )勧誘への対応   13

( 4 )同居家族がいる場合    14

  • .    リースバックの契約条件について    15

( 1 )売却価格について      15

( 2 )賃料について   15

( 3 )契約の相手方の選択    15

( 4 )宅建業者に支払う媒介報酬     16

( 5 )売買契約締結後の解除 要件・手続     16

( 6 )買戻しの要件   17

  • .    賃貸借契約の内容について   18

( 1 )賃貸借契約の種類の確認       18

( 2 )賃料の確認     21

( 3  )設備の修繕や建物の増改築・リフォーム等に関する確認      21

  • .  リースバック契約締結前の留意点      22

( 1 )重要事項の告知 22

( 2 )契約内容についての説明の要請 22

( 3 )契約書の取り交し      23

( 4 )売却代金の受取 23

  • . 契約期間中の留意点について    24

( 1 )賃料支払義務   24

( 2 )善管注意義務   24

6. リースバックの終了       25

( 1 )原状回復に関する対応  25

( 2 )明渡しが遅延した場合  26

(附属資料)  リースバックに関する現状分析について      27

  1. .    消費者アンケー卜について   27
  2. .   事業者アンケー卜について    31





加工トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書案

https://www.digital.go.jp/councils/0567fe93-b7d8-4c25-8a6c-46312c687f88/

令和4年(2022年)○月○○日

目 次

要約 ………………………………………. 1

1.背景 …………………………………….. 5

2.議論の範囲 ……………………………….. 7

2.1 トラストサービスが担保する範囲 7

2.2 トラストサービスの定義 8

2.3 トラストに関する関係者の整理 9

2.4 トラストの集中検討分野 10

3.トラスト確保のニーズ及び課題の洗い出し ……… 11

3.1 トラスト確保の実態調査 11

3.2 行政手続等のデジタル化の実態分析 13

3.3 海外の先行事例研究 14

3.4 有識者ヒアリング 16

4.トラストの確保のための検討 ………………… 24

4.1Identification のアシュアランスレベルの整理 24

4.2 トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討 27

4.3 行政でのトラストサービス活用推進 30

4.4 民間でのトラストサービス活用推進 33

4.5 トラストポリシーの基本方針 36

5.今後の取組 ………………………………. 38

5.1 行政のデジタル完結の推進 38

5.2 多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設 38

5.3 e シールに関する制度整備 38

5.4 国際的に調和の取れたルール形成の推進 39

5.5 推進体制 39

6.まとめ ………………………………….. 41

構成員・オブザーバー ……………………….. 42

付録

A. 有識者からの発表資料(資料1―資料18)

B. トラストサービスに関するアンケート実態調査の報告

C. アシュアランスレベルにおける諸外国の先行事例

要約

「トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ」は、「データ戦略推進ワーキンググループの開催について」(令和3年9月6日デジタル社会推進会議議長決定)第4項の規定に基づき、トラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するため、令和3 年10 月25 日、データ戦略推進ワーキンググループの下に設置された。本サブワーキンググループでは、検討を実態調査や有識者へのヒアリングを通じたトラストニーズ及び導入課題の洗い出し、実態調査を踏まえたトラスト確保のための検討、今後のトラスト実装ユースケース及び推進体制の3つの柱に分け、計11 回にかけて行った。本報告書は、本サブワーキンググループの検討結果、構成員及びオブザーバーからの主要な意見、今後の方向性をまとめたものである。

I.トラストニーズ及び導入課題の洗い出し

議論の範囲

DFFT で必要とされる「トラスト」概念については、今後さらなる明確化が必要である。「トラストサービス」が担保する範囲については、紙の持つ真正性・非改ざん性を対象としたトラストをデジタルでも担保することから取組を始める。

トラストに関わる主要なステークホルダーやステークホルダー相互の関係性を全体像として整理した。

トラスト確保の集中検討分野として、まずは、「行政機関」が関わる手続・取引において、「行政機関」から主体的にトラストサービスの活用を推進していく。行政からのトラストサービス活用推進にあたっては、特に、日本企業の大部分の割合を占める中小企業のトラストサービス活用が進むよう工夫することが重要である。また、民間における取引・手続もDX における重要な領域であることから、民間における電子的な取引・手続についても同時に検討する必要がある。

トラスト確保の実態調査

トラストサービスのニーズがある分野について調査をした結果、主に「行政」、「金融・保険」、「情報通信」「不動産」、「医療・福祉」、「運輸・郵便」の業種/分野のユースケースでのトラストサービスに対するニーズが確認された。

トラストサービスの導入課題としては、トラストサービスの認知度不足や企業間でのトラストサービス導入の足並みを揃えることの難しさの他に、事業者/サービス選定の難しさ「どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない」等)も挙げられた。

海外の先行事例として、エストニアの電子処方箋における、情報のやり取りや本人認証でのeID やトラストサービスの活用について考察し、日本での適用における課題について検討を行った。

「行政手続等の棚卸調査」(内閣官房(IT 室))をベースに、行政が関わる手続について、デジタル化の実態分析を行った。各府省の手続において、民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているが、それ以外の、主に行政から民間への処分通知/交付等では、その進展が限定的であること等がわかった。

有識者ヒアリング

トラストサービスに関わる現場でのニーズ、活用事例、社内外への導入・浸透課題等について、「監査」、「税務関連」、「金融」、「トラストサービス提供事業者」の有識者からインプットを受けた。

トラストサービスにおける政策及び法的課題として、「e シールの検討状況」、「電子契約の証拠力」について有識者よりインプットを受けるとともに、今後の改善や検討の方向性について議論を行った。

II 実態調査を踏まえたトラストサービスの検討

アシュアランスレベルの整理.

実態調査の結果から、トラストサービスの普及のためには、リスクと利便性を考慮した適切なサービスの選択やデジタルでの手続においてアナログとは異なる問題に対処する必要があることから、Identification のアシュアランスレベルの整理、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討を行った。

行政手続へのトラストサービス活用推進. デジタル臨時行政調査会にてデジタル原則が整理され、デジタル原則の「デジタル完結」の推進において、「公的な証明書・講習・閲覧に対面書面を求める規制」等の見直しが検討されている。

規制見直しにあたっては、トラストサービスの活用が有効なことから、積極的にトラストサービスを活用していくべきである。

民間でのトラストサービス活用推進. 民間でのオンライン契約・手続等について、多様な意見を取り入れるため、マルチステークホルダーモデルで議論すべきである。マルチステークホルダーモデルの運営においては、特定の利害関係者に議論が引きずられることのない公平な議論の仕組み、ステークホルダーへの議論の参加を促す仕組み、効率的な運営の確保が必要である。また、eシールについては、民間サービスへの普及を促進するため、制度化についても検討を深めるべきである。

トラストポリシーの基本方針の整理:本サブワーキンググループでは、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするため、構造改革のための「デジタル原則」に沿う形でのトラストポリシーの基本方針(国際通用性、技術中立性等)を整理した。

III.トラスト実装に向けた今後の取組

行政のデジタル完結の推進:公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6月までを目途にインプットを行う。あわせて、茨城県からの民間認証局の発行する職責電子証明書による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討が必要である。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進める。

多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設:まずは、民間同士の取引・手続に関係するトピックスとして、多様な関係者が参加しつつ、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」等を検討すべきである。e シールについては、民間サービスへの普及を促進するため、制度化についても検討を進める。

国際的なルール形成への関与:Identification のアシュアランスレベルについては、デジタル庁技術検討会にインプットし、行政手続の本人確認の議論に活用すべきである。民間での本人確認レベルに関する整備は、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討結果も踏まえて検討を継続すべきである。分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティ(Self-SovereignIdentity: SSI)がプラットフォームに依拠しない形で自身のコントロールの下で属性を開示する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigital Identity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。 さらに、国際的に相互運用性が求められるトラストサービスの市場ニーズの深掘りを行うとともに、諸外国における「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」の検討動向等も踏まえつつ、「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」について、引き続き今後の検討課題とする。

これらの検討課題を進めるにあたり、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行うとともに、トラストポリシーの検討を続ける。

1.背景

我が国は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会として、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」としてSociety 5.0 を目指している1。また、デジタル化によるプライバシーやセキュリティの課題が顕在化する中、我が国は、令和元年(2019 年)に、国境を越えた自由なデータ流通を促進するため、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の概念を提唱した。

上記のようなビジョンを掲げていたものの、我が国では、新型コロナウイルス感染症対応において、行政におけるデータの生成・流通・活用におけるデジタル基盤の整備が不十分であることが明らかになった。そこで、令和3年(2021 年)9月、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指してデジタル庁が設立された2。デジタル庁の目指す社会の実現にあたり、デジタルを前提としていない規制・制度の見直しなどの構造改革を行うことを目的として、令和3年(2021 年)11 月、内閣総理大臣を会長とする「デジタル臨時行政調査会」が創設され、デジタル原則に基づいて、政府の規制・行政の一体的なデジタル化が進められることになった3。

トラスト枠組みの整備については、令和3年(2021 年)4月、デジタル・ガバメント閣僚会議におけるデータ戦略タスクフォースの下に「トラストに関するワーキングチーム」が設置され、議論が行われてきた。令和3年(2021 年)6月閣議決定された「包括的データ戦略」4においては、Society 5.0 の実現やDFFT の推進を目的として、データ利活用の基盤となるトラスト基盤の構築に向けた主要な論点の整理が行われ、トラストサービスに対するニーズを分析した上で検討の順を明確にするべきとされた。このような状況を背景に、デジタル庁においては、「包括的データ戦略」の実装に向けて、トラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するため、データ戦略推進ワーキンググループの下に、「トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ」が設置された。

トラスト基盤構築における個別の取組に目を向けると、令和3年(2021 年)4月には、「時刻認証業務の認定に関する規程」(令和3年総務省告示第146 号)が制定され、タイムスタンプの国による認定制度が新たに創設された。諸外国との関係では、令和4年(2022 年)5月12 日には、日EU 定期首脳協議において、日EU でのデジタルパートナーシップが立ち上げられ、トラストサービスの相互運用性に向けたパイロットプロジェクトの取組の継続、デジタル・新型コロナ・証明(Digital COVIDCertificates)の同等性決定5に向けた取組、Digital Identity Wallet に関する継続的な情報交換がとりまとめられるなど、トラストに関わる日本と各国との相互連携は重要性を増している。

本サブワーキンググループでは、「包括的データ戦略」の実装に向けて、実態調査や有識者ヒアリングを通じたトラストサービスのニーズ及び導入課題の洗い出し、実態調査を踏まえたトラストの確保のための検討、今後のトラスト実装のユースケース及び推進体制の整理を行った。本報告書は、本サブワーキンググループでの議論の結果及び今後の検討の方向性をまとめたものである。

2.議論の範囲

2.1 トラストサービスが担保する範囲

「トラスト」は、Data Free Flow with Trust(DFFT)の“Trust”部分を構成しており、データがもたらす価値を最大限引き出すために不可欠な要素となっている。「トラスト」は今日様々な場面で使われており、文脈ごとに意味するものが異なるため一義的に定義することは難しいが、本サブワーキンググループでトラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するにあたり、どのような「トラスト」を確保するべきか明確化を図るため、構成員より、トラストの全体像の整理(資料1)、データトラストにかかわる主題とスコープ、課題の整理が試みられた(資料2)。

議論を通じて、Society5.0 を目指す中で、「トラスト」は様々な分野、対象、目的に応じて異なる意味合いを持つ概念であることがわかった。構成員からは、「トラスト」の確保には、従来紙が実現している真正性(作成者,発信元又は存在時刻が記載どおりであること)や非改ざん性のオンラインでの確保のみならず、データの真実性(データの内容が正しいこと、虚偽ではないこと等を含む。)の確保、情報の発信者(ソシキ、ヒト、モノ)の確からしさ、長期にわたる経時的トラスト(longitudinaltrust)の確保も含まれるべきであるという意見が上がった(図1)。一方、現在利用されている又は想定されているトラストサービスは手続面を保証するものであり、データの真実性はベースレジストリが担うべきあることも指摘された。そこで、DFFTの「トラスト」の明確化にはさらなる議論を要するため、本報告書では一義的な定義を行わないことにした。そして、将来的には「トラスト」の範囲を拡大する余地を残しつつ、まずは、フィジカル空間で紙が持つ真正性・非改ざん性をサイバー空間でも担保するトラストサービスのあり方の議論から始めることにした。

(図1)「トラスト」で確保すべきもの

2.2 トラストサービスの定義

「トラストサービス」の定義については、これまで国内外において、報告書や規則において定義付けがされている。例えば、「プラットフォームサービスに関する研究会トラストサービス検討ワーキンググループ最終とりまとめ」においては、トラストサービスを「インターネット上における人・組織・データ等の正当性を確認し、改ざんや送信元のなりすまし等を防止する仕組み」と説明している7。欧州eIDAS 規則においては、以下の通り、具体的なサービスを想定した上でトラストサービスを定義している。

8 eIDAS Article3 Definition(16) ‘trust service’

“an electronic service normally provided for remuneration which consists of:

(a) the creation, verification, and validation of electronic signatures,electronic seals or electronic time stamps, electronic registered delivery services and certificates related to those services, or

(b) the creation, verification and validation of certificates for website authentication; or

(c) the preservation of electronic signatures, seals or certificatesrelatedrelated to those services;”9

((a)電子署名、e シール、タイムスタンプの作成、検証及び有効性確認サービスとe デリバリーサービス、並びにこれらのサービスと関連する証明書(b)Web サイト認証証明書の作成、検証及び有効性確認、又は(c)電子署名、e シール及びこれらのサービスに関連する証明書の保存、から構成される、通常は対価を伴う電子サービス)10

多国間の商取引ルールの調和について議論する国際連合の組織である国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)においては、「トラストサービス」について、「データメッセージの一定の品質の保証を提供する電子サービス」として幅広いサービスが含まれる余地を残しつつ、以下のように定義している。

“Trust service” means an electronic service that provides assurance of certain qualities of a data message and includes the methods for creating and managing electronic signatures, electronic seals, electronic time stamps, website authentication, electronic archiving, and electronic registered delivery services;11

「トラストサービス」とは、データメッセージの一定の品質の保証を提供する電子サービスを意味し、電子署名、e シール、タイムスタンプ、Web サイト認証、電子アーカイブ、およびe デリバリーサービスを作成および管理する方法を含むものである。12

また、ISO/IEC 27099 Information Technology — Public key infrastructure —Practices and policy framework13では、「トラストサービス」について、“electronic service which enhances trust and confidence in electronic transactions”(電子取引に対する信頼と確信を高める電子サービス14)と定義している。

2.3 トラストに関する関係者の整理

トラストに関わる関係者を把握し、政策立案にあたって、どの部分のトラストを確保する議論をしているのか、議論の可視化に資するために、トラストに関わる主要なステークホルダーやステークホルダー同士の関係を全体像として整理した。(図2)

図2では、全体像として、主要なステークホルダーを「行政機関」、「法人」及び「個人」とし、それぞれのステークホルダー間で取り得る手続・取引例について記載した。

また、昨今、法人がプラットフォームを提供し、個人同士がサービスを提供するシェアリングサービスが発生していることから、シェアリングサービスでの手続・取引についても記載した。

2.4 トラストの集中検討分野

トラストに関わる関係者の全体像を整理する中で、構成員より、中小企業15の電子化においては、大企業が中小企業にEDIなどの自社システムを使うよう求める結果、複数のEDI への対応を求められた中小企業は、どのシステムにも対応可能なように業務を紙で行わざるを得なくなることから、トラストの確保においては、中小企業がメインプレイヤーとして捉えられることが重要であるとの意見が挙がった。また、まずは「行政機関」が積極的にトラストサービスの活用を推進していくべきという意見が挙がった。

そこで、本サブワーキンググループでは、まずは、「行政機関」が関わる手続・取引において、真正性を確保した公文書の電子施行の推進など、「行政機関」からの主体的なトラストサービスの活用の推進を集中的な分野として検討する。また、検討にあたっては、トラストサービスの活用を行政が推進するにあたり、特に、日本企業の大部分の割合を占める中小企業に対してトラストサービスが普及されるような工夫を重視する。また、民間における取引・手続もDX における重要な領域であることから、民間における電子的な取引・手続についても同時に検討することとする。

3.トラスト確保のニーズ及び課題の洗い出し

3.1 トラスト確保の実態調査

行政サービス、民間サービス等において、サービス利用者におけるトラスト確保のニーズ及び現状について、企業/個人アンケートによる調査、海外の先行事例の研究等を行った。

トラスト確保のニーズがある分野

実態調査の企業アンケートにおいて、相手先の本人確認や情報の改ざん防止が必要な手続等を調査したところ、主に「行政」、「金融・保険」、「情報通信」、「不動産」、「医療・福祉」、「運輸・郵便」の業種/分野でのユースケースでのトラストサービスへのニーズが確認された (図3) 。

(図3)トラスト確保のニーズが確認された主なユースケース



海外連携が必要なトラストサービスのユースケースとして、業種共通の社外取引(受発注書、契約書、請求書等)や「金融・保険」他の業種固有の手続等が挙げられた(図4)。

(図4)海外連携が必要な手続等

個人手続においては、トラストサービスが有効と考えられる手続等での、デジタル/オンラインでの実施経験率は半分に満たないものが殆どだった。特に、アンケート対象者の1割以上の人が過去1年間に実施した手続き等(国内送金、携帯/スマホの新規契約、健康診断結果の発行及び銀行/証券口座開設)においても、デジタル/オンラインでの実施経験率は半分未満であった(図5)。

(図5)個人手続におけるトラストサービスが有効と考えられるユースケース

トラストサービスの導入課題

企業からのトラストサービスへの課題意識として、トラストサービスの認知度不足や企業間でのトラストサービス導入の足並みを揃えることの難しさの他に、事業者/サービス選定の難しさ(「どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない」等)も挙げられた(図6)。

(図6)トラストサービスへの課題意識(企業全体)

本企業アンケート結果での「普及に向けて考えられる施策例への関心」として、

「電子署名以外のトラストサービスの法的効力(証拠能力)の規定」、「認知・理解促進のための啓発活動」が挙げられた。「1.トラストスコープの議論の範囲」で指摘されたように、中小企業がトラストサービスを使用できることが必要であるところ、構成員より、中小企業が利便性やコスト面を考慮できるような、導入ガイドライン、トラストサービスの低コストでの設計、監査、運用体制が必要だとの意見が挙げられた。

3.2 行政手続等のデジタル化の実態分析

「行政手続等の棚卸調査」(内閣官房(IT 室))をベースに、「行政が直接関わる手続」及び「行政が所掌する民間の手続」等のデジタル化の実態分析を行った。各府省の手続において、民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているが(約7割)、それ以外の、主に行政から民間への処分通知/交付等では、その進展が限定的(約2割未満)であること等がわかった(図7)。

(図7)行政から民間への処分通知/オンライン化の遅滞

主な意見

• 交付文書のデジタル化が極めて低いことは問題である。まずは行政の民間へ

の交付文書のオンライン化比率を大幅に引き上げ、オンラインや電子的なト

ラストを親しみやすくしていくのが重要。行政組織内でのプロセス改革も含

めて急速に進めるべき。

• 民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているとあるが、デジタル

での申請等の使い勝手の面については依然として改善の余地が大きいものが

多々見受けられる。

3.3 海外の先行事例研究

本サブワーキンググループでは、エストニアの電子処方箋におけるデジタルID やトラストサービスの活用について考察し、日本での適用における課題について検討を行った。

エストニアの電子処方箋では、患者はEmail 等で医師に連絡し、医師が電子処方箋を発行し、電子処方箋情報をデータベースに登録する。患者は、薬局にてID カードを用いて本人確認を行う。薬剤師は、データベースにアクセスして電子処方箋のデータを参照し、薬を処方する。デジタルID は、患者の薬局での本人確認、Web 処方履歴閲覧、医師/看護師の識別・資格確認に用いられる。電子処方箋データのやり取りはX-Road を介して行われ、e シール、タイムスタンプ、e デリバリー等のトラストサービスが活用されている。(図8)。

(図8)エストニアの電子処方箋サービス


構成員からの主な意見として、「電子処方箋は、法律で認められているトラストサービスや公的個人認証相当のeID による認証を用いたサービスの実装例である。医療情報という重大な個人情報を扱う点において高いアシュアランスレベルが求められる領域であり、我が国でも目指すべき方向。」と提起されたように、日本での電子処方箋における本人確認やトラストサービスの活用可能性を前向きに捉える意見があった。また、「薬の受取時に本人認証を行うなど、電子処方箋の横流しによる多重の薬の処方がされないような仕組みとするべき。」「処方箋の発行依頼に際して、原則として患者本人の確認を行わないと、誰も受け取れない処方箋を発行することがあり得るのではないか」など、電子処方箋についてトラストを確保して運営する上で考慮すべき点が指摘された。

3.4 有識者ヒアリング

トラスト確保のニーズ及び課題についての有識者発表

トラストサービスに関わる現場でのニーズ、活用事例、社内外への導入・浸透課題等について、「会計監査」、「税務関連」、「金融」、「トラストサービス提供事業者」の有識者からインプットを受けた。以下は、有識者の発表の及び主な意見を、有識者の発表資料等を参考に記載したものである。(詳細は、付録A 有識者の発表資料(資料3~13))

会計監査業務

• トラスト基盤の整備により、デジタル証憑へのアクセスの容易化による業務効率化、不正防止効果、統制の見える化が進む。さらに、異常仕訳検知、データ分析等を活用した継続的監査が可能になるというニーズがある。

データ標準が進んでいないこと及びトラストサービス導入コストに見合った便益を感じる支援策が無いことへの対応、暗号鍵管理の徹底、電子証明書の信頼性の確保、トラストサービス制度の理解向上等の課題がある。

(資料3「企業の業務プロセス変革及び監査業務のDX 化におけるトラストサービスのニーズ、課題について」)

税務関連業務

• 消費税のインボイス制度では、適格請求書のデータ発行が認められているが、電子インボイスが流通するにあたり、デジタルにおいて、紙の請求書に押印した法人の角印のような発出元証明制度(e シール)が必要になってくる。

• 企業の税務関連業務のDX 化において、慣習を変えたくないという企業風土、ワークフローシステム電子化への投資の負担が大きいこと、取引先の協力が得られないこと等が、電子取引普及の阻害要因となっている。

• 特に、中小企業では、システム投資の負担が大きいこと、電子帳簿保存法への対応の煩雑さ等が書面から脱却できない要因となっている。中小企業を含めた全ての事業者の電子化がすすめられ、デジタルトラストが確保されたデジタル社会を構築するには、法令等のさらなる規制緩和、システム導入コストや電子署名等の利用コスト等の低減を十分考慮することが必要である。

(資料4「税務関連業務のDX 化の課題について」)

金融業務

• 銀行において、個人向け口座開設やローン契約等相応の分野で電子化が進展。一方、法人の融資契約や口座開設は、提出書類の原本要求や、アンチマネーロンダリング関連手続があるため電子化の進展が遅い。また、手形取引においては小切手や紙ベースが主体。法人業務のエリアではe シールの活用余地が大きい。

• 銀行業務の対顧客手続へのトラストサービス導入においては、契約書成立の真正の立証負担(法的安定性の確保)、法人取引における正当な権限者による契約手続確保が不十分であること、サービス導入コスト(システム投資負担、ROI)、トラストサービスへの知識不足、セキュリティへの懸念、現状からのスムーズな移行負担等が課題である。(資料5「電子証明書のニーズと課題について」)

融資電子契約サービス

• 電子署名は自然人が対象である一方、証書貸付などの融資取引の契約者は法人であることが導入課題であった。

• そこで、個人が行う電子署名について、法人の意思決定に基づいての行為と紐づけるため、サービス申込書にて、法人が個人を融資契約に係る権限者及び電子契約者として指名する建付とした。また、ID を有効化するための初期暗証番号通知について、営業担当者が通知書を電子契約者に直接手渡すことにより、電子署名の本人性を担保することとした。

• 今後の課題として、ID 有効化のための非対面での初期暗証番号の確実な通知方法の確立及び個別行にとどまらない金融業界全体での電子契約の導入・デジタル化推進による顧客銀行双方の利便性・生産性の向上がある。(資料6「三井住友銀行で展開中の融資電子契約サービスについて」)

融資電子契約サービスについての主な意見

• 契約プロセスで認定認証業務の電子証明書を利用することについての、UX 上の課題はないのか。

• トランザクションの信頼性において電子証明を使っていく際、正当性の担保にあたって、エンドツーエンドでのプロセスフローを分析し、要件を明確にしていくことは重要。

• 国際間取引をする際に、企業内、法人内のトラストチェーン表現の国際的取決めが揃っていることが重要ではないか。

「電子文書への印影表示」の役割

• 多くの人は、捺印文書を見るとオフィシャルな文書であると感じることが生活習慣の中に染みついている。印鑑は、視覚的に本人の意思や書類の完全性が確認されていると信じる効果があると考えており、デジタルでも電子印鑑の活用余地があるのではないか。

• 電子印鑑は、使い慣れたツールであり一定の法的根拠はあるが信頼性(脅威耐性)は希薄。一方、電子署名は信頼性は高いが未だ一般に認知度が高いとは言えない。使い慣れたツールで信頼性が高いという両方のニーズを満たすことで、トラストサービスの普及が促進していく。

• インターフェースについては、取引の中で、印章が社内規定に入り込んでおり、運用自体を変えづらいという側面がある。新たな技術について、社内の制度設計や社内浸透へのコストや労力を省略する手段として、使い慣れたインターフェースは有効。(資料7「電子印鑑の歴史と電子契約におけるその役割について」)

「電子文書への印影表示」についての主な意見

• 印鑑や署名の画像という視覚性だけで信頼させるのは、ミスリーディングになる可能性がある。トラストサービスにおいて、技術的な検証結果を分かりやすくユーザに表示する方法は、アシュアランスレベルとセットで議論する必要がある。日本では、トラストサービスの検証方法がサービス毎で異なっている。EU では、eIDAS 規則においてトラステッドリストという信頼性の基盤、トラストアンカーを整備し、法的に有効なトラストサービスを検証できるサービスを欧州委員会が運用しており、検証のためのライブラリーもオープンソースで開発し、公開16しているように、公的に検証基盤を提供している。

• 認証業務には認定認証業務等、利用者と署名を紐づける信頼性保証の枠組みがある一方で、立会人型電子署名とNFT 印鑑における利用者の信頼性の紐づけはどうなっているのか。トラストサービスの保証レベルにおいて、立会人型電子署名をきちんと位置付ける必要がある。

• 企業内業務プロセスにおいては、電子印鑑の方式も有効なのではないか。

• 実印が「役所に対する信頼」で本人性を証明してくれるという記述については、実際に押印するプロセス、書類を渡すプロセスへの信頼が含まれていると思料するため、この辺りの整理をした方がよい。

• どのようにデジタルの世界での真正性のある書類への認知を受け入れてもらうかを議論することが重要。

トラストサービス提供事業者

グローバルDX ソリューション提供事業者

• 電子署名サービスをグローバルに提供する立場から、EU のeIDAS 規則の改善点として、各国間の個人情報保護、技術基準、相互運用性やセキュリティレベルにおけるハーモナイゼーション、デジタルID ソリューションの普及に向けた課題等を考察した。(資料8「SAP が認識するトラストサービスの現状と課題」)

電子証明書サービス提供事業者

• 電子証明書の利用事例(卒業証明書、帳票関係、車両登録書類、PCR 検査結果報告書)について紹介

(資料9「GlobalSign における電子証明書の利用事例」)

クラウド型電子署名サービス事業者

• 押印が支えた大量・迅速な商取引が、電子署名法の制定によってもデジタル化されなかったのは、同法の上振れしたトラストレベル設定がユーザーニーズに即していなかったことが原因。

• そうした過去の反省を踏まえデジタル原則を実現するためには、 「ちょうどよいトラスト」の選択肢を増やし、その普及をデジタル庁がリードすることが必要。

• すでに国内外のユーザの支持を集めるクラウド型電子署名サービスを、新しいトラスト法制において「スタンダード」と位置付けていただきたい。(資料10「「デジタル原則」を支えるクラウド型電子署名サービス普及促進の必要性)

クラウド型電子署名サービス事業者についての主な意見

• 政府の電子署名法第3条Q&A の中で示されたプロセスの固有性について、クラウド型電子署名では、どういう水準の固有性を確保しようとしているのか。今後IAL、AAL の水準を公表していくことは考えているのか。

• 当事者署名型のユーザの支持が広がっていないという説明の中で、認定認証業務の証明書の発行枚数を根拠として示しているが、当事者署名型には認定認証業務以外の当事者署名型があるので、認定認証業務が普及していないから当事者署名型が普及していないという解釈はミスリードになるのではないか。

• 「グローバル企業ユーザが選択する電子署名方式のシェア(概算)」の円グラフについては、クラウド型電子署名サービス協議会の加入企業が顧客に対して行ったアンケート結果だということを差し引いて考える必要がある。

トラストサービスの制度的課題についての有識者発表

トラストサービスにおける政策及び法的課題として、「e シールの検討状況」、「電子契約の証拠力」について有識者よりインプットを受けるとともに、今後の改善や検討の方向性について議論を行った。

e シールの検討状況

• 総務省が検討したe シールは、組織が発行するものに限定。発行主体と当該文書が改ざんされていないことを確認する仕組み。

• 発行元証明の信頼性担保のための措置の水準について、程度が軽いもので改ざんがされていないことを証明すればよいレベル、誰が出したものか確定的に言えるレベル、より高度の信頼性が担保されるレベルで、e シールをレベル分けしている。信頼性のレベルを分けて、レベルが低いものも阻害しないようにする意図がある。

• e シール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子については、後に融通性が狭まることが無いよう、組織、個人、データ等の既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier)を軸として今後検討すべき。

• e シールにおける認証局側の設備であるHSM については、現行のFIPS140-2 レベル3又はISO/IEC15408 のEAL4+を採用するべきだが、電子署名法の基準ではFIPS 140-1 を参照したままになっており、標準の現行化に対応したアップデートする仕組みを設けるべき。

(資料11「e シール政策の検討状況と今後の課題・ニーズ」)

e シールの検討状況についての主な意見

• (e シールに係る電子証明書発行手続について)代表者にオペレーションをさせるのは、大企業になるほどやりづらいという課題意識がある。オペレーションが簡素化できるよう検討するべき。

• e シールをサーバーサイドのスケーリングで使いたいときに、同じ証明書をコピーすることになるため、Derived Credential(派生資格)が重要になる。証明機関からの証明書により、企業内部で生成された鍵に対して署名していく形で、受け取った側が証明書のチェーンをたどっていき、正当性が検証できることが制度的に許される形が必要。

• Derived Credential については、オンラインで本人確認する際に、あらかじめ発行した鍵を使った本人確認が認められるか等の検討が重要

• 利用者がサービスごとにe シール用の電子証明書/秘密鍵を持たされることのないような工夫をするべき。

• eシールの欧州PoC では、国際相互認証に向けた枠組みの検証で行っている。SDGs、環境、人権の枠組みでも、国際的に認証されたトレーサビリティーの確保が求められているので、枠組みの整備が必要とされているのではないか。

• 国民が安心してオンラインベースでのトランザクションを行うことができるようにするためには、e シールが法的な裏付けをもって整備されることが必要不可欠。技術進歩が急速な今日において法的な規律は最小限にしていくべきだが、フィッシング詐欺等が横行している現状では、オンラインベースでトランザクションを行っている相手方が認証を受けた正当な組織であるかを法的に確認できることは、「トラスト」の基盤として極めて重要ではないか。

電子契約の証拠力

• 電子契約は、なりすまし・改ざんが容易であることから、本人性と完全性の確認が重要。電子契約が有効に成立するにあたり、必ずしも電子署名を使う必要はないが、実際上、どれだけのレベルの信頼性が必要なものか、電子署名のレベル分けが求められる。

• 電子契約については、リスクと利便性を考慮して、本人性と完全性の確認において適切なレベルの電子署名等を利用することが必要。

• 電子契約の普及に必要な法的環境整備はほぼ完了していると思料。政府の公表した電子署名法2条1項・3条のQ&A における要件を満たしているかは、当てはめの問題として、法律専門家を活用しながら契約当事者や電子契約プラットフォーム事業者がセルフチェックすることで、用途に応じた適切なサービスを取捨選択していくことが必要。

(資料12 「電子契約の有効性について」)

電子契約の証拠力についての主な意見

• レベルに合わせた基準作りが必要。リモート署名や立会人型署名については、サービスの安全性について明確な基準が無く、認定や適合性監査もできていないため、利用者や裁判官も判断に迷うのではないか。

• 信頼レベルの基準作りについて、認印相当等のアナログの世界とは異なる基準が必要ではないか。

• レベルは、「手段」で分類するだけでなく、SP800-63-3B に倣って、「脅威耐性」ベースで検討するべき。

• プロセスだけでなく、ID やクレデンシャルを発行するオーソリティに相当するレベルについて議論することが必要。

• 現行の電子署名法施行規則2条に定める基準として、暗号アルゴリズムやbit 長まで書くことは技術進歩が速い中で適切であるか懸念。

• 民訴法228 条4項「二段の推定」について、立会人型電子署名の場合における考え方について、プロセスごとに整理する必要がある。特に「一段目の推定」(本人の印鑑による印影があれば、本人の意思による押印を推定する17)が電子化される場合の「一段目の推定」については、これまで議論されていない内容であるため、今後議論する必要がある。

• 電子署名法3条Q&A18の「十分な水準の固有性」について、2要素認証以外にも、いくつか例示があると利用者にとって分かりやすい。

• トラストについての判断は、技術的内容が含まれるので、法的判断の他に技術的専門家からの判断も必要ではないか。

• 「特定認証業務」の相互運用性とその実現手段を今後検討すべき。

電子化におけるe シールの活用可能性と制度上の課題

• トラストサービスの活用にあたって、紙や書面交付を求める制度の廃止と同時に電子化の標準形も示していくことが必要。

• 申請手順の中で、契約書等の原本性が要件となる手続規制が存在している。「原本性」や「真正性」担保の観点から証明書類発行の際等に原本提出を求めているケース、大元の書類が紙である故に紙で原本提出が必要なケース、組織として正式に発行し契約等内容の真正性担保が必要なケースにおいて、e シールを活用することにより、電子化が促進されるエリアが多数存在する。

• 特に、輸出入取引において、輸出サイドのみならず、輸入で必要な契約書、輸入者の誓約書、輸入時のインボイス、授権証明書等e シールで真正性を担保することで全体の電子化が促進されるものが多数存在する。さらに、貿易取引の中で残存していた「紙」による非効率部分が解消し、広く産業全体に対して効率化される。貿易取引の電子化が進展することで、マニュアルでの検証作業がシステム化され、「貿易ベースマネーロンダリング」(Trade Based MoneyLaundering, TBML)をシステム的に検知する基盤が整備され、日本としてのAML 対策上も有意義である。(資料13 「トラストサービスのユースケース及び制約となる制度について」)

4.トラストの確保のための検討

実態調査及び有識者ヒアリングにより判明した、トラスト確保のニーズやトラストサービスの導入における課題を踏まえて、以下の検討を行った。

4.1Identification のアシュアランスレベルの整理

実態調査で、「用途に沿ったトラストサービスの事業者/サービス選定」や「トラトサービス利用について企業間での足並みを揃えることが難しい」という課題が挙がったことを受け、リスクと利便性を考慮した適切なサービスの選択が必要であること、デジタル完結におけるオンラインの手続においてアナログとは異なる問題に対処する必要があることから、今回は、Identification のアシュアランスレベルの整理を行った。

海外の先行事例の把握

• eIDAS 規則、NIST SP800 63-3、NZ 政府Identification 管理基準におけるアシュアランスレベルの規定及び適切なアシュアランスレベルを選択する基準の考え方について考察した。(資料14「欧州eIDAS におけるアシュアランスレベル」、付録C アシュアランスレベルにおける諸外国の先行事例)

• •eIDAS 規則については、トラストサービスの普及によるデジタル化と欧州デジタル統一市場の促進を目的としてeID 及びトラストサービスを制度化し、その効果について一定の評価が得られているものの、eID やトラストサービスの効果、効率性及び普及における課題が見直されている。EU では、eIDAS2.0 に向けて、これらの課題を踏まえて、EU Digital Identity Wallet の開発やトラストサービスの下位規則の整備等で対応する方向で検討している。(資料15「eIDAS2.0 とEUDIW」)

Identification のアシュアランスレベルの整理検討の進め方

• 基本的な考え方は既存の国際標準を参照した上で、ベースレジストリが整備されマイナンバーカードの公的個人認証証明書や商業登記電子証明書がある日本の実情に応じて、これらを活用した身元確認の実現を検討すべき。

• 認証情報連携や割当もIdentification アシュアランスレベルの検討に入れるべき。

アシュアランスレベルの考え方やユースケース

以下の考え方が示されるとともに、図9の通り整理が行われた。


• マイナンバーカードの発行は、自治体職員という有資格者が対面で本人確認した上で発行しているため、IAL3 相当を超えるレベル。その結果、マイナンバーカードと顔写真の本人が一致することを対面で確認したもの及びマイナンバーカードの電子証明書を使った署名がなされているものはIAL3 相当と言えるのではないか。

• マイナンバーカードの発行以外の場面では、マイナンバーカードを用いた電子署名を使って本人確認に代えるという前橋市の「まえばしID」のように全て電子にしてしまうことは可能ではないか。19そうすると、本人の写真とリアルタイムの本人の画像マッチングが本当に要るのかということが論点になる。

本人写真とリアルタイムの本人画像のマッチングは、Authenticator と肉体の紐付け、本人以外によるAuthenticator の行使の検出、という2つの異なる目的があるため、それらを分離して論じるべき。

• 新型コロナワクチン接種証明書アプリは、マイナンバーカードを利用して簡単に登録できるという点で、ID Proofing のユーザビリティやコストが改善された。

• Identification と行政データの連携が可能な仕組みの整備が必要。

• 民間サービスにおいては、身元確認を必要以上に求めるとサービス加入者が減るといった弊害もあるため、マイナンバーカード以外にもeKYC のような多様な本人確認の選択肢が必要。民間サービスにおけるオンラインでの本人確認のユースケースについては、本人確認手法のレベル分け、リスクに応じた本人確認手法選択の考え方及びガイドライン策定に向けた進め方について、Digital Architecture Design Center(DADC)から取組状況の報告を得た。

(資料16 「インキュベーションラボ・プロジェクト「サービスに応じたデジタル本人確認ガイドラインの検討」)

今後の方向性

• 本SWG で整理したIdentification アシュアランスレベルの考え方やユースケースについて、デジタル庁技術検討会の「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」20見直しにインプットを行うことが必要である。

• 行政手続におけるアシュアランスレベルだけではなく民間サービスにおいてもこれを整理することが重要。本人確認レベルに関するアーキテクチャ整備については、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討成果も踏まえて検討を進めていくべきである。

• 分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティがプラットフォーム

事業者に依存しない形で本人確認や資格証明手続をデジタル化する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigitalIdentity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。

4.2 トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討

検討の方向性

• トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方を考えることは、ID プロバイダのトラストを確保する上でも重要であり、国際通用性を見据えたトラストサービスの基準作りをするべき等の意見があったため、検討を行った。

• トラストサービス事業者の運用ポリシーとして、構成員より、組織要件、設備要件、技術要件、鍵管理要件、運用要件、監査要件、その他をトラストサービスに共通する基準、個別基準として整理し、「トラストサービスアシュアランスレベル」として整理することが提案された。(資料17「トラストサービスのアシュアランスレベルの考え方」)

• 一方、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価においては、構成員より、担保すべき内容や論点が多岐にわたることが指摘された。

検討における課題

トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討にあたり、課題及び満たすべき条件などについて、以下の議論が行われた。

• 国の役割:

トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価の最も高い20 デジタル庁「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」(2019 年2月25 日)レベルを国が担保する場合、現状の体制では、国として最新の仕様をメンテナンスし続け、監査する体制を確保することが困難。例えば、電子署名法の認定基準は、施行規則や指針などで規定されているため、

最新の国際的な技術基準に追従してメンテナンスするのが困難になっている。したがって、一つの方向性として、技術基準を法定に書くのではなく、国際規格を参照することにより、国の負担も軽減され、より効果的な政策実現が可能になるのではないか。

トラストサービスで確保されるトラストは、法律的には「推定」の話であり、推定された事実を否認するための反証が許されるため、推定された事実について国として100%の保証を求めるものではない。

• 策定作業:

技術基準について、欧州電気通信標準化機構(ETSI)、欧州標準化委員会(CEN)で標準化されている技術基準と同レベルのものを想定するのであれば、膨大な作業を防ぐ上でも、既にある基準をベースに作業を省略していく工夫が必要である。

• 対象:

何をもっての正当かがユースケースによって異なる中で、アシュアランスレベルではなく、何の正当性について議論しているのか整理が必要ではないか。

• 軸の関係性:

Identificationアシュアランスレベルとトラストサービスアシュアランスレベルは、相互依存性の無いパラメーターにするべき。

• 監査要件:

認定事業者の監査体制において、一時点の監査ではなく、運用に対する透明性をAI による自動検査などでメタデータ連携を行い、担保していくことが重要

監査要件は、認定手続の中に入るのであれば理解できるが、アシュアランスレベルの中に入るのは違和感がある。

• 国際通用性:今後議論を深めていくためには、前提として確認すべき事実や共通認識を持っておくべき用語があることが挙げられた。

eIDAS でEU 域外との相互承認国が存在しない理由・障害となっている点を明らかにし、実現可能性の有無を確認した上での議論が必要である。

国際的通用性が必要な取引として「国境を越えた契約書」が挙がっているが、契約書は準拠法を書くので国際通用性は不要ではないか。

国際通用性の確保は、相手国の法律が準拠法であっても自国のトラストサービスが利用できることをいうのではないか。準拠法だけだと、例えば、日本法が準拠法となる場合に、外国企業でも日本の法律に基づいて判断されるため、外国企業も日本のトラストサービスを利用する必要が出てくる。逆に、欧州の法律が準拠法なら、日本企業は、日本のトラストサービスではなく欧州のトラストサービスを使うことが必要になる。契約書は準拠法を書くので国際通用性は必ずしも必要ではないという意見があったが、準拠法を定めたとしても、実際に証拠性などを考えるときに国際通用性は要るのではないか。

相互承認という用語への共通認識を持った上で、何を目的とした何に関するどの国(地域)との相互承認を検討するのか明確にすべき。

国際通用性の確保に向けて、国際的基準との整合性及び関連基準(ISO/IEC 27000 Series、CAB/F baseline requirement、ETSI・CEN規格、Webtrust 監査基準等)を参照した上で、各トラストサービスに対し、これらの基準への適合性評価を行う機関の要件を国際標準(ISO/IEC17065、ETSI EN 319 403 等)を参考に規定するべき。

国内のトラストサービスが海外においてもどういう保証レベルに位置づけられるトラストサービスか検証可能でなければならない。そのためには、国際標準に従った検証基盤の構築も必要になる。

• 機動性の確保:

各基準は法令から参照される独立した技術規格として策定されるべき。

技術進化、国際標準、社会環境に準じて、規格策定及び更新を継続的に行うための専門的な組織の設置の検討が必要となる。

• 既存の制度との整合性:

トラストサービスの議論を深めるにあたり、電子署名及び認証業務に関する法律の見直し(国際技術標準の活用を含む。)の検討は避けて通れない。

電子署名やe シール等の有効活用を促進するためには、認定認証業務に代表される信頼性の高いトラストサービスについて推定効などの法的効果を検討する必要がある。

• ユーザビリティ:

電子文書の通用性は、電子的な形式であるという理由だけでは否定されないとし、これについて法令による例外を認めないようにすべき。

どのレベルを満たしたトラストサービスであるか利用者にわかりやすい形での基準策定や仕組み(認定トラストサービスの機械可読な形での公開、当該トラストサービスに基づく情報の検証)の検討が必要

• 相互運用性:

デジタルな相互接続性・運用性を確保するためには、その技術準拠性を確認するための検証基盤の提供と当該テスト通過を適時確認する必要がある。

今後の方向性

担保すべき内容が多岐にわたること及び策定にあたり考慮すべき課題が多いこから、国際的な議論や外部環境の変化を踏まえて、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方について議論を進める。

4.3 行政でのトラストサービス活用推進

トラストサービスの提供する内容については、まずは、紙の持つ真正性・非改ざん性に対するトラストをサイバー空間でも担保するトラストサービスのあり方から議論を始めるべき、という意見が出た。加えて、トラスト確保の実態調査において、行政分野におけるトラストのニーズが高かったことが判明した。

一方、政府では、デジタル臨時行政調査会が立ち上がり、構造改革のためのデジタル原則が整理された。デジタル原則における「デジタル完結」の実現においては、書面、目視、常駐、実地参加を義務付ける手続・業務についてデジタル処理での完結が原則となるところ、「公的な証明書・講習・閲覧に対面書面を求める規制」等の見直しが検討されている。

「デジタル完結」にあたっては、手続・取引に応じた、本人・組織・(組織内権限者の識別を含む)存在時刻の真正性及びデータの非改ざん性を保証するトラストサービスが必要である(図10)。上記の規制見直しにあたっては、トラストサービスの活用が有効なことから、積極的にトラストサービスを活用していく(図11,12)。

具体的には、公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6 月までを目途にインプットを行う。

あわせて、茨城県からの民間認証局による職責による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討が必要である。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進める。

(図12) 書面掲示、対面講習、往訪閲覧・縦覧規制の類型化とフェーズ

行政手続におけるトラストサービス活用推進を行政がスピード感を持って進め

ることにより、マルチステークホルダーモデルにて扱う民間でのトラストサービスの活用においても参照されるものとなることを目指す。

4.4 民間でのトラストサービス活用推進

マルチステークホルダーモデルでの議論

実態調査で挙がった課題に対処するため、民間でのオンライン契約・手続等については、技術進歩が進む中で使いやすいトラストサービスの実現を図る観点から、多様な関係者の視点を取り入れるためにマルチステークホルダーでの議論を行う (図13) 。

(図13)トラスト基盤構築に向けたマルチステークホルダーモデル

マルチステークホルダーモデルで扱う議題

マルチステークホルダーでの議論内容については、民間企業が参加意義を感じるテーマを扱うべきであるという観点のもと、例えば、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」などが考えられる。その他、実態調査で判明したトラスト確保のニーズも踏まえ、今後マルチステークホルダーモデルで取り扱う分野を検討していく必要がある。

また、構成員より、マルチステークホルダーでの議論は、あくまで法律事項に馴染まない実務的な取扱いやベストプラクティスを巡る議論に土俵を限定しておいた方が議論が収束しやすいのではないかとの意見もあった。

マルチステークホルダーモデルの活用例①リモート署名・e シールの技術基準の検討

諮問議題

• 電子署名法において、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示す

ための措置としての「十分な水準の固有性」に必要な電子署名の技術基準は何

か (電子署名法3条Q&A の具体化)

• 電子署名法の技術基準の海外基準への適合に向けた整理

• e シールの民事訴訟法・電子署名法上の位置づけの整理

関係者

• 事業者:トラストサービス提供事業者、クラウド型電子署名サービス協議会、

(一社)Fintech 協会、(一社)日本ブロックチェーン協会 等

• 産業界:インターネット関連事業者、トラストサービス利用事業者

• 専門家:JDTF、JT2A、JIPDEC、法学者、その他標準化団体、トラスト関連学会

• 消費者:消費者団体、弁護士団体、NPO 法人

• 労働者:労働組合

• 政府 :デジタル庁、法務省、総務省、経済産業省

マルチステークホルダーモデルの活用例②:公的機関が運営するトラストサービスのあり方について意見聴取

諮問議題

• 公的機関が運営するトラストサービスの改善課題(署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備、国際標準規格への対応)

• 民間サービス活用やトラストモデル変更等の論点整理及び官と民の役割分担と責任分界の整理

関係者

• 事業者:デジタル庁、総務省、J-LIS、トラストサービス提供事業者、クラウ

ド型電子署名サービス協議会、(一社)Fintech 協会、(一社)日本ブロックチ

ェーン協会 等

• 産業界:インターネット関連事業者、トラストサービス利用事業者

• 専門家:JDTF、JT2A、JIPDEC、法学者、その他標準化団体、トラスト関連学会

• 消費者:消費者団体、弁護士団体、NPO 法人

• 労働者:労働組合

• 政府 :デジタル庁、法務省、総務省、経済産業省、地方自治体

マルチステークホルダーモデルの運営で考慮すべき事項

公平な議論の仕組み

マルチステークホルダーモデルに参加するメンバーは、透明性確保のためにオープンエントリーの形で参加者を募集するなど柔軟性を確保した議論形態とする。一方で、トラストサービスは、取引・手続の信頼に係わることから、特定の利害関係者に引きずられないよう配慮が必要であるところ、自ら希望して議論に参加する者のみに議論が引きずられることがないように配慮する必要がある。この点、ステークホルダーとして議論に参加するべき者については、諮問を行う政府など中立的な者が議論へ参加するステークホルダーへの声掛けや議論の仕切りを行うべきであることも指摘された。

また、特定のステークホルダーの意見のみが大きくならないように、各コミュニティで意見を固めて、それぞれのコミュニティの代表者がコミュニティを代表した意見を発言する仕組みにするなどの工夫が必要であると指摘された。

議論への参加を促す仕組みマルチステークホルダーモデルへの関係者の参加を促すため、議論への貢献について、デジタル庁のサイトに参加者の貢献の記録を残すことなど可視化できる仕組みを取り入れることが必要という意見があった。一方、「トラスト」は、様々な者が行う手続・取引の信頼性に関わる内容であるため、議論に自発的に貢献する者のリードに任せるのではなく、全体的に特定の利害関係者の発言に引きずられないようにするための配慮が不可欠という意見があった。

効率的な運営

マルチステークホルダーでは、意思決定に時間がかかることから、政府が中心となってトップダウンで検討するべき課題と、ステークホルダーの意見を聞いてボトムアップで進める課題を区別して考えた上で、政府が進める政策をマルチステークホルダーモデルでも参照できるようにしておくべきという意見があった。また、マルチステークホルダーはあくまで諮問機関として、マルチステークホルダーモデルから提言された内容についての最終決定権は政府が持つべきとの意見があった。

なお、政府が中心となって検討する議題についても、多くの人にとって使いやすいトラストサービスを推進する観点から、マルチステークホルダーモデルにおいて、多様なステークホルダーモデルの意見を聞く機会を設けるべきである。

マルチステークホルダーモデルの運営においては、以上の点を考慮しつつ、マルチステークホルダーモデルの活用例に挙がった議題を中心に議論を進める中で、議論における意思決定等のルール設計についても検討を深める。

4.5 トラストポリシーの基本方針

トラストサービスにおける政策を検討する上では、専門家や一部の事業者に偏ることなく、多様なステークホルダーを交えて議論を行うこと、国際的な基準や制度との整合性を考慮しつつ国内の民間事業者に普及しやすいトラストサービスを目指すこと、グローバルに影響力を持つプラットフォーマーを含めたトラストサービスに関わる民間事業者との関係性を考慮することが重要である。また、令和4年5月12日には、日EU でのデジタルパートナーシップが立ち上げられ、トラストサービスの相互運用性に向けたパイロットプロジェクトの取組の継続等が記載されるなど、各国との相互連携は重要性を増している。

デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和3年12 月24 日閣議決定)では、包括的データ戦略に関する具体的な施策の中で、「令和4年度(2022 年度)中を目処にトラストを確保する枠組みの基本的な考え方(トラストポリシー)を取りまとめる。」とされた。21本サブワーキンググループでは、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするため、トラストを確保する枠組みの基本的考え方が満たすべき性質について、「デジタル原則」を支える「トラストポリシーの基本方針」として以下に整理した。(図14)

(図14)トラストポリシーの基本方針


トラストポリシーの整理にあたっては、構成員より、トラストポリシー策定において考慮すべき要素として、①方向性(利用者と提供者それぞれへのインセンティブ(ディスインセンティブ)の設計)、②安定性(長期間の有効性と社会的有効性の確保)、③最小性(トップダウンで定義するポリシーは最小限にする)、④柔軟性(技術的・経済的アジリティの確保)が提案された。(資料18「サービス提供におけるトラスト確保を実現するポリシー策定の論点」)さらに、構成員より、トラストサービスの社会への普及があってこそ裁判における安定性につながること、トラストサービスの普及においては現場での使いやすさを考えるべきであること、国際的通用性を検討するにあたっては、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)における議論を注視すべきであること等が指摘された。

トラストポリシーの基本方針は、構造改革のための「デジタル原則」を支えるものとし、今後、デジタル庁やマルチステークホルダーモデルでのトラスト基盤構築に向けた政策検討の際の指針として活用すべきである。また、トラストポリシーの検討にあたっては、トラストサービスの普及に伴いユースケースが具体化され、トラストポリシーにおいて考慮すべき要素も具体化が進むとの考えのもと、行政及びマルチステークホルダーモデルにおいてユースケースに基づいた議論を行いつつトラストポリシーの検討を続ける。さらに、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行う。

5.今後の取組

トラスト確保の実装に向けては、多様なステークホルダーの意見を聴取することが重要である。今後は、デジタル臨時行政調査会との連携や多様な主体を巻き込んだ検討の場を創設しつつ、官民でのトラスト確保の実装に向けて、以下の通り進める。

5.1 行政のデジタル完結の推進

公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6月までを目途にインプットを行う。あわせて、茨城県からの民間認証局の発行する職責電子証明書による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討を行う。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進めるべきである。

5.2 多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設

民間でのオンライン契約・手続等について、多様な意見を取り入れるため、マルチステークホルダーモデルでの検討の場を創設する。マルチステークホルダーモデルの運営は、特定の利害関係者に議論が引きずられることのない公平な議論の仕組み、ステークホルダーへの議論の参加を促す仕組みの創設、効率的な運営を行う仕組みを構築する必要がある。マルチステークホルダーモデルでの議論は、民間同士の取引・手続について、例えば、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」等を検討すべきである。

5.3 e シールに関する制度整備

タイムスタンプについては、国による認定制度に基づく運用が開始されているが、eシールに関しては、現状、在るべき姿の方向性や信頼性を確保するために証明機関が求めるべき基準の検討に係る指針が示されている段階である。今後、オンライン取引・手続において、発行元に関する証明のニーズが高まることが想定されるため、総務省が令和3年(2021 年)6月に公表した「e シールに係る指針」に基づき、e シールの民間サービスの信頼性を評価する基準策定及び適合性評価の実現に向け、総務省の取組を支援すべきである。

5.4 国際的に調和の取れたルール形成の推進

Identification のアシュアランスレベルについては、デジタル庁技術検討会にインプットし、行政手続の本人確認の議論に活用すべきである。民間での本人確認レベルに関する整備は、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討結果も踏まえて検討を継続すべきである。さらに、分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity: SSI)がプラットフォームに依拠しない形で自身のコントロールの下で属性を開示する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigital Identity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。さらに、国際的に相互運用性が求められるトラストサービスの市場ニーズの深掘りを行うとともに、諸外国における「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」の検討動向等も踏まえつつ、「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」について、引き続き今後の検討課題とする。

これらの検討課題を進めるにあたり、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行うとともに、トラストポリシーの検討を続ける。

5.5 推進体制

トラスト基盤の構築に向けた検討の枠組みについては、以下に基づき、政府が中心となって検討する性質のものと、政府が議論の場を提供するトピックに分けた上で、

①短期的なトラストサービス実装の検討(デジタル完結に向けたトラストサービスの活用推進(行政手続きにおける本人確認ガイドラインの改定、行政手続きにおける真正性ガイドライン(仮称)の作成、公的機関が運営するトラストサービスの活用のあり方等)及び②中長期的トラスト基盤構築に向けた検討(国際通用性を持ったDigital Identity Wallet の検討、既存の法体系を踏まえたトラスト法体系整理等)に分け、推進していく必要がある。(図15)

(図15)推進体制まとめ

6.まとめ

「包括的データ戦略」では、トラスト基盤の構築に向けた論点について、「デジタル庁を中心として関係府省庁が協力して検討し、2020 年代早期の実装を目指す。これらの論点は多岐にわたることから、トラストサービスに対するニーズを分析し検討の順を明確にすることが重要である。」22とされた。本サブワーキンググループでは、実態調査及び有識者からニーズの把握を行ったところ、オンラインでの手続・取引において、行政を含む幅広い業種/業界においてトラスト確保のニーズがあることが判明した。

本サブワーキンググループでの議論を通じて、包括的データ戦略でまとめられた論点について一定の進捗が見られた。例えば、「認定スキームの創設」については、実態調査や有識者ヒアリングから、オンライン取引・手続において、発行元に関する証明のニーズが高まることが想定されることがわかったことから、e シールの制度化が検討されることになった。「トラスト基盤の構築」については、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするための「トラストポリシーの基本方針」が作成されたことは、トラスト基盤構築の前提として重要なものだった。さらに、「国際的な相互承認」については、今後、議論を深めていくためには、前提として確認すべき事実や国内外で共通認識を持っておくべき用語があることが指摘された。また、本サブワーキンググループ中に「日EU デジタルパートナーシップ」が立ち上げられ、日EU でトラストサービスの相互運用性に向けた取り組みが規定されたことは、相互承認に向けた日EU の相互理解に資するものとして有益である。「認定基準」についても、今後、マルチステークホルダーモデルにおいて、「リモート署名・e シールの技術基準の検討」等が議論される中で、議論が深まることが期待される。諸外国に目を向けても、オンラインでの手続・取引の増加に伴い、政府によるオンラインでの本人確認の基準作りやID・トラストサービスの活用が進んでいる。令和5年(2023 年)G7 議長国として、我が国がDFFT の具体化をリードすること、デジタル臨時行政調査会における「デジタル完結」

の実現に向けてトラストサービスの活用を促進することは大変重要であることから、今後もトラスト基盤の確立に向けた議論を進める。

最後に、会合中に挙がった有識者からの基本的な考え方を踏まえ、本サブワーキンググループにおいて「デジタル原則」に沿う形での「トラストを確保する枠組みの基本的な考え方(トラストポリシー)」の基本方針を作成した。トラストポリシーはトラストサービスの普及と並行して具体化が進むものである。今後もサービス提供におけるトラスト確保について、行政及びマルチステークホルダーモデルにおいてユースケースに基づいた議論を続けつつ、トラストポリシーの検討を続ける。

構成員・オブザーバー

(構 成 員)

太田 洋 西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

崎村 夏彦 東京デジタルアイディアーズ株式会社 主席研究員

佐古 和恵 早稲田大学 基幹理工学部情報理工学科 教授

◎ 手塚 悟 慶應義塾大学環境情報学部 教授

濱口 総志 慶應義塾大学SFC 研究所 上席所員

林 達也 LocationMind 株式会社 取締役

宮内 宏 宮内・水町IT 法律事務所 弁護士

宮村 和谷 PwC あらた有限責任監査法人 パートナー

高村 信 総務省サイバーセキュリティ統括官付参事官

土手 敏行 法務省民事局商事課長

奥田 修司 経済産業省商務情報政策局サイバーセキュリティ課長

(オブザーバー)

伊地知 理 一般財団法人日本データ通信協会 情報通信セキュリティ本部 タイムビジネス認

定センター長

井高 貴之 厚生労働省 医政局 研究開発振興課 医療情報技術参与

太田 大州 デジタルトラスト協議会 渉外部会長

小川 博久 日本トラストテクノロジー協議会 運営委員長 兼 株式会社三菱総合研究所

デジタル・イノベーション本部 サイバー・セキュリティ戦略グループ 主任研究員

小川 幹夫 全国銀行協会 事務・決済システム部長

奥野 哲朗 厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 課長補佐

金子 聖治 厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 指導官

小松 博明 有限責任あずさ監査法人 東京IT監査部 パートナー

佐藤 創一 一般社団法人新経済連盟 政策部長

佐藤 帯刀 クラウド型電子署名サービス協議会 協議会事務局

柴田 孝一 セイコーソリューションズ株式会社 DX サービス企画統括部 担当部長

兼トラストサービス推進フォーラム 企画運営部会 部会長

島井 健一郎 厚生労働省 医政局 研究開発振興課 医療情報技術推進室 室長補佐

島岡 政基 セコム株式会社IS 研究所 主任研究員

袖山 喜久造 SKJ 総合税理士事務所 所長

豊島 一清 DigitalBCG Japan Managing Director

中須 祐二 SAP ジャパン株式会社 政府渉外 バイスプレジデント

中武 浩史 Global Legal Entity Identifier Foundation ( GLEIF ) 日本オフィス 代表

小倉 隆幸 シヤチハタ株式会社 システム法人営業部 部長

西山 晃 電子認証局会議 特別会員(フューチャー・トラスト・ラボ 代表)

野崎 英司 金融庁 監督局 総務課長

肥後 彰秀 独立行政法人情報処理推進機構(IPA) デジタルアーキテクチャ・デザインセンタ

ー(DADC)インキュベーションラボ デジタル本人確認プロジェクトチーム プ

ロジェクトオーナー

三澤 伴暁 PwC あらた有限責任監査法人 パートナー

山内 徹 一般財団法人日本情報経済社会推進協会 常務理事・デジタルトラスト評価センター長

若目田 光生 一般社団法人日本経済団体連合会 デジタルエコノミー推進委員会企画部会

データ戦略 WG 主査

(デジタル庁(事務局))

デジタル社会共通機能グループ 楠 正憲グループ長、犬童 周作グループ次長 他

(50 音順・敬称略、◎主査)

有識者からの発表資料

付録A

トラストを確保したDX推進SWGにおけるトラストの全体像

20211118

慶應義塾大学

手塚悟


トラストのレベルは、身元確認(IAL)、クレデンシャルの強度(AAL)、トラストサービス事業者の信頼度(TAL)で決定され、手続き記録の真正性(証拠力)が求められる程度で電子署名もしくは電子認証が選択されうる。

従来は業務アプリケーション毎の判断で本人を確認しクレデンシャル(パスワード等)を発行し利用者を特定していたが、社会的混乱を防ぐためベースレジストリと紐づけたデジタルIDをトラストサービス事業者から発行するスキームの創設が重要となる。

そのためにはデジタルIDの保証レベルや、デジタルIDを発行するトラストサービス事業者に求められる保証レベルを検討する必要がある。


トラストの認定の枠組み

トラストの認定の枠組みの検討

認定基準の策定が重要


企業の業務プロセス変革及び監査業務のDX化におけるトラストサービスのニーズ、課題について

2021年11月18日有限責任あずさ監査法人小松博明













SKJ総合税理士事務所所長・税理士袖山喜久造

デジタル庁:トラストを確保したDX推進サブWG

「税務関連業務のDX化の課題について」~改正電子帳簿保存法による対応~

民間企業等の税務関連業務のDX推進上の課題について

1.業務においての取引書類

会社が行う業務で取引先とやり取りする取引書類は、ほぼ税法(特に法人税法や消費税法)で保存が必要な書類となります。取引書類は税法等で保存義務が規定され、税法等の規定による保存が必要となります。

2.取引書類の社内処理

取引において取引先に発行又は受領する書類は、社内において必ず処理が必要です。会社内の業務処理を書面で行うか、データで行うかにより業務効率、適正性が異なってきます。書面処理は各担当者の属人的能力に依存します。データ処理の場合にはシステムにおいて一定程度の適正性や確実性が担保可能であり、業務効率も向上することになります。

3.社内処理の電子化の課題

①取引書類をデジタルデータに変換する必要(発行元が作成したデータを活用)

②社内処理をデータ処理が可能となるワークフローシステムの導入が必要(DXの活用)

➂社内システムに取引情報を入力する必要(DXの活用)

➃取引書類データは、電子帳簿保存法の入力や保存要件を満たす必要(電帳法要件を満たしたシステム導入)

➄税務関連帳簿書類を法定期間保存する必要(安全性のあるストレージ)

⑥重要な取引書類については、データの真正性を確保する必要(改ざん等の防止)

⑦取引書類の授受をデータで行う場合には、発行元の証明が必要(角印に代わる措置)

4.電子化の阻害要因

①電子化するためのコスト(特に中小企業も利用できるパッケージやソリューションが必要)

②取引先の協力が得られない(取引書類のデータ発行や受領の理解をどのように得るか)

➂誤送信リスクや発行元の信用ができない(専用システムの利用や信頼できる認証局による電子証明書が必要)

➃電子化の利便性が感じられない(社内処理は一気通貫でデジタル化を進める必要)

➄現在のやり方を変えたくないという社内風土(トップダウンで業務改革を行う風潮を醸成する)

民間企業等の税務関連業務のDX推進上の課題について

5.税務関連業務の電子化

法人税、消費税法の税務申告においては、電子申告が義務化(資本金1億円超の法人等)され、申告時には申告書類はデジタル化されている。また、ほとんどの企業において会計帳簿はデータで作成されているが、社内処理は依然として書面で行う方法が定着している。

書面処理をデータ処理に変更することは、社内運用のリスクがあり消極的な企業が多いことは事実である。

税法関連帳簿書類等の電子化関係法令



電子証明書ニーズと課題について

中武浩史

GLEIF Japan

18 th November 2021

1. 銀行における電子化の現状

2. 海外におけるe-シールの活用事例

3. 普及に向けての課題

4. 今直面する課題:具体的事例

1. 銀行における電子化の現状

インターネットバンキング(個人・法人)、税公金収納、個人向け新規口座開設、個人向けローン契約等、相応の分野で電子化は進展

業務別では、法人融資契約(まだ窓口が主体、提出書類が電子でない)、法人口座開設(実質的支配者の確認等AML/CFT等に課題)といった法人契約に関わる分野の電子化は必ずしも進んでいない

手形は電子債券に移行が進む一方、小切手・その他証券(株式配当金領収書等)はまだまだ

電子化で残された法人業務(小切手・領収書等含)エリアはeシール活用の余地大

出典;金融庁金融業界における書面・押印・対面手続の見直しに向けた検討会令和2年8月19日第5回全国銀行協会発表資料より


2. 海外におけるe-シールの活用事例

1) 欧州eIDAS指令の元での(スペイン・イタリア)等の事例

 法人税申告でのeシール利用義務

 UBLフォーマットを用いた公的セクターへのインボイスへのeシール付与義務

 その他電子書類手続き

— 雇用契約、サービス契約、SLA、発注書等契約の発行と受諾

2) 香港の事例

 USBないしソフトウエア形式で組織に対しての電子証明書発行(eシール+電子署名的位置?)

 主に貿易取引の通関申告等での利用を目的に20年以上前から運用

— 香港では手数料の観点で主に利用が多い電子小切手発行の裏付けとして活用(携帯で電子小切手発行が可能)

— 日本の手形小切手電子化検討の中で、小切手は8割を占める。オンラインバンキングへの移行が主軸であるが、より簡便で安価な香港の手法は普及に向けた良い参考になる

3. 普及に向けての課題



4. 今直面する課題;具体的事例

日本ーEU間での契約締結

1. 日本の不動産契約に欧州企業が調印

2. 欧州ではeIDAS配下、電子署名、eSeal付与が標準であり電子的に署名

3. 日本企業側では直筆でのサイン、署名の登記証明を要求

4. 更に欧州企業が何者か、登記事項含めた情報も要求

5. 欧州ではデジタル上で確認されるものが全てであり、法的にも有効

eシールでの電子的有効性が担保され、LEIで企業情報にもアクセスし、信用の補完が必要な典型的事例

三井住友銀行で展開中の融資電子契約サービスについて

2021年12月13日一般社団法人全国銀行協会(株式会社三井住友銀行事務統括部上席推進役)楠俊樹

融資電子契約サービスについて

電子署名スキーム【図表】取引実績

融資業務フロー効果

電子署名法準拠の当事者署名型電子署名を活用し、融資の契約プロセスを電子化

お客さまは銀行への往訪や書類への記入・押捺なく契約締結が可能





2021年12月13日シヤチハタ株式会社システム法人営業部部長小倉隆幸

電子印鑑の歴史と電子契約におけるその役割について

第2回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ(2021年12月13日Mon.)

2021/12/13 © Shachihata Inc. 2

電子印鑑、開発の理由

社内に息づく、“自己否定”の精神~スタンプ台から浸透印へ、そしてデジタルスタンプへ~

1995年、創業以来初のソフトウェアをリリース

「PCで作成するのに、承認印を捺すためだけに印刷する」こんな無駄を省くため、開発を手がけた

→ いち早く対応、ノウハウを蓄積

時代背景と法整備の推進

共に進化し続けて25年

進む法整備と電子印鑑の歴史

∎1998年7月施行:電子帳簿保存法

∎2001年4月施行:電子署名法

∎2001年4月施行:IT書面一括法

∎2005年4月施行:e文書法

共に進化し続けて25年

→ 法整備だけでは進まず、せざるを得ない状況下で動く

在宅勤務推進がリモートワークに大きく影響

∎電子印鑑の普及は法整備の影響が少なかった

∎働き方改革がクラウド化を加速

∎環境変化により、ドラスティックな展開をした

→ 人は変化を嫌う

印鑑の役割について

2021/12/13

© Shachihata Inc. 12


最高裁S39.5.12判決

本人等の印章により事実が確定された場合、反証がない限り、本人の意思に基づいて成立したものと推定

民事訴訟法第228条

本人等の署名・押印がある場合、真正に成立したものと推定

=認印と同様の効力がある電子印鑑の効力は?

「たぶんその人が捺したのだろうの判断」に基づく

裁判になったときの証拠能力は低い

一方、公開鍵暗号方式だけによる電子契約では、公開鍵暗号方式の効力は?

一般利用者による知識/ 理解は低い=電子署名として十分な効力がある

信頼された「認証局」により、本人であることを証明


2021/12/13

© Shachihata Inc.

※ 本資料に記載された会社名・商品名は、一般に各社の登録商標または商標です。

SAPジャパン株式会社

バイスプレジデント政府渉外中須祐二

SAPが認識するトラストサービスの現状と課題

© 2021 SAP SE or an SAP affiliate company. All rights reserved. ǀ PUBLIC

SAPは幅広い業務領域において電子署名ソリューションを提供(DocuSign, OpenTextとの連携)

EUの現行ルールーeIDAS規則(2014年)

加盟国が、公共サービスへの安全なアクセスを可能にするデジタルIDシステムを市民や企業に提供する義務や、EUの国境を越えた利用を確保する義務は含まれていない。このため、国によって適用にばらつきがある。

欧州委員会が相互運用性のためのオープンソースフレームワークを提供。

デジタルID:

9つの指針:ユーザーの選択、プライバシー、相互運用性とセキュリティ、信頼性、利便性、ユーザーの同意と管理の均整、相手の認識、グローバルな拡張性

3種類の電子署名を定義: 標準電子署名(Standard)、高度電子署名(Advanced)、適格電子署名(Qualified)

* 取引の種類毎に必要な署名の種類は、各EU加盟国の国内法で定めらる第一次調査結果

トラストサービス:利用可能性と利用率、各国のセキュリティレベルの同等性、監督活動の調和

eID:実装の弱さ、市民への普及率の低さ、相互運用性の難しさ、ユーザーの利便性の低さ、通知プロセスの複雑さ、公共サービスに限定

SAPが認識するEUでの改善点(eIDAS)

各国間のハーモナイゼーション:

「個人情報」が各法域で事実上同じ意味で理解されることを保証

各国の技術基準の不一致を避ける

相互運用性とセキュリティレベル

すべての国民や企業が利用可能なデジタルIDソリューションの使用を希望または選択するとは限らず、また国民にオプトアウトする法的権利が与えられているため、普及に懸念(不信の文化)

データ保護ー重要課題

データ保護とプロファイリングの経済的・社会的影響

法律の執行度と罰則による十分な抑止力の有無

産業界にとって負担となりうる要件:

技術的実現と標準化

情報が収集された後、その使用を管理するための効果的な技術的メカニズム

中心となるIDシステムのユーザー・エクスペリエンス

GMOグローバルサイン株式会社

伊藤健太郎

February 8, 2022

GlobalSignにおける電子証明書の利用事例

①卒業証明書への署名

②帳票関係への署名

③車両登録書類への署名

④PCR検査結果報告書への署名

(C) GMO GlobalSign K.K. All Rights Reserved.

今回ご紹介をさせていただきました事例で利用がされている証明書は、EUの

Qualifaied Certificates(QC)ではありません。

あくまでも弊社のQC以外のプロダクトから発行した「組織用証明書」を利用し

た署名(eシール)の事例となります。

• その他に証明書を利用した署名事例では、「納税申告」や「FDA申請」などの活用もあります。

「デジタル原則」を⽀えるクラウド型電⼦署名サービス普及促進の必要性

2021年12⽉27⽇クラウド型電⼦署名サービス協議会代表理事橘⼤地

トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

第3回提出資料

デジタル庁および本SWGの皆様にお伝えしたいこと(サマリー)

• 押印が⽀えた⼤量・迅速な商取引が、電⼦署名法の制定によってもデジタル化されなかったのは、同法の上振れしたトラストレベル設定がユーザーニーズに即していなかったことが原因

• そうした過去の反省を踏まえデジタル原則を実現するためには、「ちょうどよいトラスト」の選択肢を増やし、その普及をデジタル庁がリードすることが必要

• すでに国内外のユーザーの⽀持を集めるクラウド型電⼦署名サービスを、新しいトラスト法制において「スタンダード」と位置付けていただきたい

c 2021 CeSSA 2

平成12年には当事者署名型を⾼度なトラストと位置付けた電⼦署名法が制定されたが、この10年ユーザーの⽀持は広がっていない

⼀⽅、事業者署名型は「ちょうどよいトラスト」として企業に受け⼊れられ、近年の⽇本では数少ない成⻑産業の⼀つとなっている

グローバルでも、電⼦署名サービスのスタンダードとして、事業者署名型の利⽤が急速に拡⼤している



Appendix

c 2021 CeSSA 10

• 2021年12月当協議会実施

紙の契約書に押印する実印/非実印の使い分けに関するアンケート

• クラウド型電子署名普及を支持するユーザーからの定性コメント

令和3年12月13日総務省サイバーセキュリティ統括官付参事官高村信

eシール政策の検討状況と今後の課題・ニーズ

デジタル庁

トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ(第2回)

eシールに係る指針の策定

• 組織等が発行する証明書

検討に当たっての主な観点

• eシールの利用者視点で、わかりやすいeシールの目的・用途

• eシール用電子証明書発行事業者視点で、参考となるeシールの仕組み

や技術基準等

3.eシールの普及・利用促進

同じトラストサービスの1つである電子署名法上の電子署名との関係性

商業登記に基づく電子認証制度上の電子署名との関係性等

1.国内の類似制度との整合性

• EU等の諸外国の仕組み・制度との整合性

• ISO等国際標準との整合性等

2.国際的な整合性

組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会

新井聡NTTネオメイトITビジネス本部プラットフォームサービス推進本部電子認証サービス担当主査

伊地知理一般財団法人日本データ通信協会情報通信セキュリティ本部タイムビジネス認定センター長

岡田勲日本電気株式会社サイバーセキュリティ戦略本部主席事業主幹

小川博久日本トラストテクノロジー協議会運営委員長

小木曽稔一般社団法人新経済連盟政策部部長

小田嶋昭浩電子認証局会議事務局

堅田英次東京海上日動火災保険株式会社IT企画部次長兼企画グループ課長

小松文子長崎県立大学副学長

小松博明有限責任あずさ監査法人東京IT監査部パートナー

柴田孝一トラストサービス推進フォーラム企画運営部会長

渋谷秀人富士通株式会社政策渉外室シニアエキスパート

袖山喜久造SKJ総合税理士事務所所長

手塚悟慶應義塾大学環境情報学部教授

中田秀明公益社団法人日本文書情報マネジメント協会法務委員会委員長

中村信次株式会社日立製作所公共イノベーションビジネス推進本部公共戦略企画部部長

濱口総志慶應義塾大学SFC研究所上席研究員

宮内宏宮内・水町IT法律事務所弁護士

山内徹一般財団法人日本情報経済社会推進協会常務理事

若目田光生一般社団法人日本経済団体連合会デジタルエコノミー推進委員会主査

株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門上席主任研究員

• eシールについて、ユースケースの具体化や有効性の検証を行うとともに、サービス提供者の認定の基準やそれに基づく民間の

認定の仕組みを検討するために有識者検討会を開催。

学識経験者、会計関係、トラストサービス提供事業者、評価機関、経済団体(利用企業)等で構成。

(座長)

(座長代理)

(オブザーバー) 内閣府、内閣官房、法務省、財務省、金融庁、経済産業省

eシールの定義

方向性

• 我が国におけるeシールの定義は以下のとおり。

発行元証明: 電子文書等の発行元の組織等を示す目的で行われる暗号化等の措置であり、当該措置が行われて以降当該文書等が改ざんされていないことを確認する仕組み。

• 我が国におけるeシールの定義はどうあるべきか。

確認事項

• eシールの定義を発行元証明とすることに賛同。

• eシールと電子署名の違いを明確にし、使う側がどちらを使えばいいのかを明確にわかるようにした方がよい。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

b)「事実・情報」:発行元証明

自然人、法人や事業所などの「組織」、さらにはIoT 時代において爆発的に増大する「機器」が存在するという事実と、当該機器が発行する情報等の信頼性を担保するためには、発行した自然人・組織・機器が信頼できるか、その発行方法が信頼できるのか、当該事実・情報が作成しようとした通りのものかなどの証明(発行元証明)が必要である。

① eシールに求められる要素

方向性

• 我が国におけるeシールは以下のようにレベル分けを行う。

レベル3: レベル2に加えて、十分な水準※1を満たしたトラストアンカー※2によって信頼性が担保されたeシール(発行元証明として機能することに関し、第三者によるお墨付き(将来的には国による認定制度等の要否を検討)があるものを想定)

主な用途例:国際取引等における証憑類、法的に保存義務が課されているデータ、排他的独占業務とされている士業の証明書等

レベル2: 一定の技術基準を満たすeシール(技術的には発行元証明として十分機能することが確認できるもの)

主な用途例:行政手続における提出書類※3、民民の契約に関連する書類、IR関連資料等の公開情報等

レベル1: 裸のeシール(eシールの定義(P8参照)には合致するが、レベル2の要件を満たす保証がないもの)

主な用途例:民民における企業間で日常的にやり取りされる電子データ全般、発行元を担保したい情報等

注) eシールのレベルを判別するための呼称については将来決定することが必要。

• eシールの用途等にあわせて、レベル感を分けて検討することが必要か。

検討事項

今後、eシールは発行元証明として様々なユースケースでの使用が期待される。

例えば、国際取引等における証憑類に使用する場面においては、当該eシールについて国際的な整合性を求められることが想定され、行政手続における提出書類等に使用する場面においては、当該eシールが一定の水準を満たしていることを求められることが想定される。

一方、eシールの普及・利用拡大の観点では、例えば、日常的に企業間でやりとりする資料等にeシールを行ったり、個人事業主や中堅・中小企業等においてeシールを活用する場面においては、低コストで簡便に利用できるeシールのニーズも想定される。

また、EUにおいては、eシール、先進eシール、適格eシールと3つのeシールが定められており、用途やeシールの効力に応じてそれぞれのeシールが使い分けられている。

これらに鑑みて、我が国におけるeシールは、用途や活用場面に応じてレベル分けを行い、利用者自身である程度選択的にeシールを

利用できるようなフレームワークにすることが適切だと考えられる。

• eシールは必ずしも完璧なものである必要はなく、例えば印鑑では印鑑登録しているものに限定していることもあれば、緩いものが使われることもあり、レベル分けされたeシールがあるのはいいこと。

• 用途等にあわせてeシールをレベル分けすることに賛同。

• eシールの法的効果として、「組織から発出されたことが推定できる」といったことを規定できるといいのではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

※1 組織等の実在性確認の方法、電子証明書のフォーマット、認証局におけるセキュリティ要件等の一定の水準

※3 用途によっては、レベル3が必要となるケースも考えられる

※2 インターネットなどで行われる、電子的な認証の手続きのために置かれる基点。信頼性の起点となる認証局を想定。

① eシールに求められる要素

【】内は、本来、意思表示を目的とする“電子署名”が馴染むと考えられるユースケース主に機械的に大量に発行するものにeシールの活用が期待

【参考】各ユースケースとeシールのレベルとの関係性の一例

② eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲

方向性

• eシール用電子証明書の発行対象は、法人、個人(主に個人事業主を想定)、権利能力なき社団・財団、その他任意の団体等の組織とする。

• それよりも粒度の細かい、事業所・営業所・支店・部門単位や、担当者(意思表示を伴わない個人)、機器については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載することができることとする。

• eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲は以下のどこまでを含めることが適切か。

法人、個人事業主、権利能力なき社団・財団、その他の団体等の組織

事業所・営業所・支店・部門等の組織内の細かい単位

その他(組織に所属する個人、機器等)

検討事項

eシール用電子証明書の発行対象については、対象とする組織自体の範囲や組織内のより細かい区分を含むかどうか等について検討が必要となる。

対象とする組織自体の範囲については、eシールの普及・利用拡大の観点から、発行対象の実在性を認証局が確認できることを前提に、法人に限定せず幅広い対象を含めることが適当だと考えられる。

他方、発行対象として組織内の事業所等を含むかどうかについては、含めることに対するニーズもあるが、認証局においてその実在性等を確認することが極めて困難である(確認できる内容に限界があり、信頼性にも課題がある)ことや、当該発行対象自体に変更(例えば、事業所統合・廃止や部署名の変更等)が生じた場合、その都度電子証明書の再発行が必要となることが想定され、利便性が著しく低下してしまう可能性があるといった課題があげられる。

なお、EUにおいては、発行対象は法人であり、事業所や営業所といった細かい単位や機器等については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載可能になっている。

これらを踏まえて、eシール用電子証明書の発行対象は、法人、個人(主に個人事業主を想定)、権利能力なき社団・財団、その他任意の団体等の組織とし、事業所や営業所といった細かい単位や組織に所属する個人や機器等については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載することができることとすることが適切だと考えられる。

• eシールは発出元の証明であるということを考慮すると、発行対象は法人(組織)とするのがいいのではないか。

• 発行対象として、事業所等まで含めることが望ましいが、組織の体制とeシールの紐付きが強固になってしまうと、組織の体制の変更等に伴って電

子証明書の更新が頻繁に発生し、eシールの利便性の低下に繋がる可能性がある。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

② eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲

方向性

• eシール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子については、既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier(オブジェクト識別子)等)を軸として今後検討することが必要。

• eシール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子はどうあるべきか。

検討事項

eシール用電子証明書には、発行対象の組織等を一意に特定可能な識別子が必要となる。

その識別子については、eシール用電子証明書の発行対象である組織等を一意に特定可能なID・番号体系が我が国で既に存在してい

れば、そのID・番号体系を活用することが望ましいと考えられるが、我が国では官民どちらにおいても複数のID・番号体系が共存している状態(参考:P13)であり、発行対象を網羅的に管理可能な識別子として使用可能なID・番号体系が現状存在していない。

また、そのような識別子(番号体系)をベースレジストリとして整理していくことも考えられるが、その整理には別途多大な時間を要することが想定され、データ戦略タスクフォース等他の検討の場で議論されていることも考慮すると、我が国におけるeシールの在り方を検討する本検討会での議論の対象外だと考えられる。

これらに鑑みて、eシール用電子証明書の発行対象を一意に特定可能な識別子については、既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier(オブジェクト識別子)等)を軸として今後検討することが必要であると考えられる。

• 今後、インボイスでeシールが活用されることを考慮すると、公的なデータベース(識別子)として適格請求書発行事業者登録番号も検討の余地があるのではないか。

③ 組織等の実在性・申請意思の確認の方法

方向性

• 組織等よりも細かい粒度である、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器の実在性の確認については、組織の代表者の宣言の結果を尊重することとし、認証局はその結果に基づいて記載することが適当。

登記よりも小さい単位(事業所・営業所・支店・部門等)については、当該組織の代表者による宣言の結果を尊重することが適切か、または認証局が事業所等の実在性を直接確認することが適切か。

• 機器は事業所・営業所・支店・部門等と同様に扱うか。

検討事項

eシール用電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載可能な事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性の確認について、認証局がそれらの実在性について何らか適切に確認した上で記載することが望ましいものの、確認の方法・程度によっては

認証局による確認コストが大きくなり、ひいてはeシールのサービス利用料にも影響が及ぶことが想定され、eシールの普及・利用拡大の観点からも課題があると考えられる。

あくまでもeシール用電子証明書の発行対象は組織等であり、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等は、任意の拡張領域に記載されるということを踏まえると、認証局に対して、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性を確認することまで求める

必要はないと考えられる。

したがって、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性の確認については、組織の代表者の宣言の結果を尊重することとし、拡張領域への記載事項については発行対象である組織等が一義的な責任を負うことが適当だと考えられる。

• 組織の確認として、事業等の細かい単位まで網羅的に認証局が確認することは、多大な負担となり、困難ではないか。

• 認証局が組織のどこまで確認するかという問題よりも、その記載した情報に誰が責任を持つかが重要。代表者が宣言していることを認証局が確認するという方法と、認証局においても何らか一定の事業所等の確認をするという方法がある。前者であれば、その事業所等の情報をeシールの証明書に記載することに果たしてどれだけの意味があるのかということについて検討が必要。後者であれば、一定の責任が認証局に出てくるが、

それにどれだけ意味が出てくるのかは検討が必要。

• 組織の確認については、認証局側ですべき確認と第三者機関(TDBやTSR等)で行っている確認との切り分けを明確に整理すべきではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

• eシールに係る電子証明書の発行の手続きの整理の一例は以下の表のとおり。

第三者機関データベースにて組織等の実在性確認を行う場合、レベル3にあっては商業登記情報等の公的な機関が管理する情報と照合されたものであることが求められる。

方向性

③ 組織等の実在性・申請意思の確認の方法

組織等の実在性の確認組織(代表者)の意思の確認組織の代表者の在籍の確認

レベル3

商業登記電子証明書による電子署名が行われた利用申込(★)

• 登記事項証明書• 申込書への押印(代表印に係る印鑑証明書が添付されている場合に限る)

④ eシール用電子証明書の記載事項等

【参考】eシール用電子証明書(ITU-T X.509)の記載の一例

フィールド名値(サンプル)

バージョンV3

シリアルナンバーWWWWWWWWW

署名アルゴリズムsha256RSA/sha512RSA

署名ハッシュアルゴリズムsha256/sha512

発行者発行者を識別する情報

有効期限の開始時刻Monday, January 5, 2020 5:00:00 PM

有効期限の終了時刻Thursday, January 5, 2022 5:00:00 PM

サブジェクト発行対象となる組織等の公式名称、当該組織等を一意に特定可能な識別子等

公開鍵RSA (2048bit)

公開鍵パラメータ05 00 …

認証機関アクセス情報[1]CA証明書のURL [2]OCSPのURL

サブジェクト鍵識別子YYYYYYYYYYY

QCステートメントeシールのレベルを判別可能な情報等

証明書ポリシー[1]0.4.0.194112.1.1/0.4.0.194112.1.3 [2] http://xxxxxxxxxxxxxxx

サブジェクト別名「事業所・営業所・支店・部門名、担当者、機器」や「組織等の和文商号」等

CRL配布ポイントhttp://xxxxxxxxxxxxxxxxCA.crl

基本制約Subject Type = End Entity

鍵使用目的Non-Repudiation (40)

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置)

検討事項

認証局の秘密鍵は、例えば悪意のある第三者に盗まれて悪用された場合、当該認証局の発行するeシール用電子証明書の信頼性が著しく損なわれてしまい、当該認証局からeシール用電子証明書の発行を受けた全ての組織等に影響が及んでしまうため、認証局の秘密鍵はHSM等で厳格に管理されることが必要となる。

eシールにおける認証局の秘密鍵の管理の重要性については、同じトラストサービスの1つである電子署名の認定認証業務における認証局の秘密鍵の管理と同等だと考えられるため、認証局の秘密鍵の管理に係る具体的な基準については、電子署名法の認定認証業務で規定している基準を準用することが適切だと考えられる。

ただし、国際的な整合性も踏まえて、電子署名法の基準は現行化すること※2を前提とし、念頭に置くレベルはFIPS140-2 レベル3相当もしくは、ISO/IEC 15408のEAL4+相当(プロテクションプロファイルは要検討)を求めることが適切だと考えられる。

• 国内の類似制度や国際的な通用性に鑑みて、ISO/IEC 15408(コモンクライテリア)のEAL4+又はFIPS140-2 レベル3を求めることが適当ではないか。

• 現状の日本の認証局の数を考えると、HSMの基準として日本独自のプロテクションプロファイルを作成するのはコストがかかり過ぎるので、望ましくない。ISO/IEC 15408は国際相互認証されており、プロテクションプロファイルはそのためにあるので、それを適用するのがよいのではないか。

• 電子署名法と同等の基準を設けるということでよいと思う。現状の電子署名法の規定では、特定の認証取得製品に限定しておらず、FIPSでもISO/IEC 15408でも使用できるような記載になっているため、同じような記載でいいのではないか。その上で、実際にどのような製品(FIPS認証製品なのか、ISO/IEC 15408認証製品なのか、その他の認証製品なのか等)を使っていくかは別の議論。

• 電子署名法の基準を準用するということでよいと思うが、電子署名法の現行の基準はFIPS140-1 レベル3相当であるため、まずはFIPS140-2 レベル3相当にアップデートすることが必要ではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

※1 耐タンパー機構による物理的な安全性が確保された鍵管理機能を備えた暗号処理装置

※2 電子署名法の現行の基準はFIPS140-1 レベル3相当であるが、理想的には現状の脅威に対抗できる要件が必要であり、例えば、現時点においてはFIPS140-2 レベル3相当にアップデートすることが望ましいとのご意見があった。

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置) 20

• HSMとは、耐タンパー機構による物理的な安全性が確保された鍵管理機能を備えた暗号処理装置。

~電子署名及び認証業務に関する法律に基づく指定調査機関の調査に関する方針~(抜粋)

2.暗号装置関係

(1) 規則第4条第4号に規定する「専用の電子計算機」(以下「暗号装置」という。)とは、発行者署名符号の漏洩、破損、消失等の事象の発生を可能な限り

低い確率に抑えるための以下の機能を備えたものをいう。

ア暗号化されていない状態の暗号符号や認証データ等、保護されていない形式の重要なデータに係る暗号装置への入出力が行われるインタフェース

が存在する場合は、そのインタフェースは他のデータの入出力を行うインタフェースとは物理的に独立したものであること。

イ暗号装置は、以下の機能を有するものであるとともに、暗号装置の操作者ごとに機能ごとの権限の有無が特定されているものであること。

(ア) 操作者機能: 暗号化、署名等、通常の暗号化機能を実施するための機能

(イ) 管理者機能: 暗号装置自体の初期化、署名符号などの重要パラメータの投入等、暗号装置を管理するための機能

ウ発行者署名符号等のデータの盗難を回避するため、暗号装置は、以下のいずれかの物理的なセキュリティ対策が講じられていること。

(ア) 暗号装置がIC チップ単体からなる場合、IC チップが強固で除去困難な材質の不透明なコーティングで覆われていること。

(イ) 暗号装置にカバーが施されている場合、物理的な侵入行為に対し、暗号装置の機能の停止、内部データの無効化等の耐タンパ対策が講じられて

いること。

(ウ) 暗号装置の筐体に排気用スリットもしくは空孔が存在する場合、それらは十分小さく、かつ、検出されずに筐体の中をプローブされることを防止する

対策が講じられていること。

エ暗号装置に係る発行者署名符号の管理に関し、以下の措置が講じられていること。

(ア) 暗号装置内で発行者署名符号の生成を行う場合、安全な擬似乱数生成アルゴリズムを用いるものであること。

(イ) 暗号装置への発行者署名符号の入出力を行う場合には、以下のいずれかの方式であること。

① 発行者署名符号は暗号化された上で入出力されること。

② 発行者署名符号を2つ以上の構成要素に分割して入出力を行う場合は、暗号装置に対して直接行うこととし、発行者署名符号の各構成要素に対

する操作者の認証が行われること。また、発行者署名符号の各構成要素は、暗号装置内で分割、結合されること。

(ウ) 発行者署名符号を暗号化されていない状態で暗号装置内に保管する場合は、外部からアクセスできない仕組みとすること。

(エ) 発行者署名符号を廃棄する際には、発行者署名符号その他のセキュリティパラメータを無効化する機能を有すること。

(2) 省略

設備の基準(利用者側のeシール生成装置)

• 日本でも少なくともQSCD相当のものを使用して耐タンパ性能が確保されたところで秘密鍵が管理されるよう規程の整備が必要ではないか。Society5.0やDFFTを実現していく上で、データを自動で検証して処理し、更にそのデータが自動処理されていくということを想定していくと、検証時に秘密鍵が適切な環境で保護されているかどうかを確認できる必要がある。レベル3のeシールでQSCDを求めるかどうかは別の議論になるが、EUのQCステートメントのように、少なくとも検証時において、QSCDを使用していることがわかるような制度にした方がいい。

• 電子署名法とのバランスが重要である一方、EUとの相互運用の関係もあるので非常に難しい問題。商業登記や法的効力のある電子署名法でも署名生成装置は規定されておらず、また、実世界でも実印の管理については規定がないため、QSCDの規定は設けないという考え方が1つある。電子署名には推定効というものがあるが、eシールがそれ以上の効力を持つことは考えられないのでeシールにのみQSCDを求めるというのは全体のバランスを欠くのではないか。

• QSCDの規定を設ける場合、QSCDの使用/未使用によってeシールの効力にどれだけ違いが出るのかについては、レベル2、3問わずeシールには現段階では法的効力がないことを考えると、EUの適格として通用するかどうかではないか。

• 選択肢としては、電子署名法でもeシールでも両方QSCDを求めるか、あるいは両方求めないか、という2択になるのではないか。両方求める場合は、現状規定のない電子署名法は規制強化になってしまうことが懸念される。他方、両方求めない場合はEUと相互運用を目指す際に課題となる。従来の我が国の法制度の中での秘密鍵等の管理は本人に任されていて本人の責任であるという考え方を維持するのであれば、QSCDは必須にしないが、秘密鍵等の管理の方法として、QSCDを使用する方法もあるということやEUとやりとりする際のオプションとして使用することをガイドライン等に記載するのはどうか。

• eシールの普及という観点では、国内での申告や申請等に利用するということでレベル2の世界で考え、レベル3については欧州等の諸外国との相互運用に値する他国に恥じない基準にすることが適切ではないか。

• EU等の諸外国との相互運用の観点も重要であるが、QSCDの規定を設ける場合は実際の企業側の運用と基準がどうフィットするのかについても検討が必要ではないか。

方向性

• レベル3のeシールにおける認証局側のHSMの管理に係る基準は、基本的には電子署名法を準用することと

する。

• レベル3のeシールにおける、認証局側のHSMの管理に係る基準はどうあるべきか。

検討事項

認証局のHSMの管理については、秘密鍵を管理しているというその重要性に鑑みて、HSMが配置される部屋への入出場に係る基準、HSMに対する不正アクセス防止に係る基準、災害対策に係る基準等が一般的に求められると考えられる。

eシールにおける認証局のHSMの管理の考え方については、同じトラストサービスの1つである電子署名の認定認証業務における認証局のHSMの管理の考え方と同等だと考えられるため、認証局のHSMの管理に係る具体的な基準については、電子署名法の認定認証業務で規定している基準を準用することが適切だと考えられる。

• 電子署名法の認定認証業務で要求している基準と同等の基準を求めることが適切ではないか。

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置の管理)

~電子署名及び認証業務に関する法律施行規則第4条第1項(抜粋)~

(認証設備室への入出場の管理に関する規定)

1 申請に係る業務の用に供する設備のうち電子証明書(利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項(以下「利用者署名検証符号」という。)が当該利用者に係るものであることを証明するために作成する電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成又は管理に用いる電子計算機その他の設備(以下「認証業務用設備」という。)は、入出場を管理するために業務の重要度に応じて必要な措置が講じられている場所に設置されていること。

(認証業務用設備へのアクセス等の管理に関する規定)

2 認証業務用設備は、電気通信回線を通じた不正なアクセス等を防止するために必要な措置が講じられていること。

(認証業務用設備の作動権限等の管理に関する規定)

3 認証業務用設備は、正当な権限を有しない者によって作動させられることを防止するための措置が講じられ、かつ、当該認証業務用設備の動作を記録する機能を有していること。

4 HSM自体の基準のため省略

(災害対策に関する規定)

5 認証業務用設備及び第一号の措置を講じるために必要な装置は、停電、地震、火災及び水害その他の災害の被害を容易に受けないように業務の重要度に応じて必要な措置が講じられていること。

【参考】電子署名法の認定認証業務におけるHSMの管理に係る規定

注) これらの規定は、HSMに限らず、認証業務用設備全般についての規定であることに留意

⑤ 設備の基準(利用者側の秘密鍵の管理)

方向性

• 利用者の秘密鍵の管理は発行対象である組織等の管理に委ねることとする。

• ただし、認証局から利用者に対する説明事項として、秘密鍵の管理に係る事項(秘密鍵の管理は厳格に行うこと(複製は望ましくない等))を規定することが適切。

• レベル3のeシールにおける、利用者側の秘密鍵の管理に係る基準はどうあるべきか。

① 1つの秘密鍵を複数人で共同で使用することを禁じるか。

② 又は、利用者側で秘密鍵を複製し、複数人がそれぞれ管理して使用することを禁じるか。

③ 又は、同一の組織等に対して複数のeシール用電子証明書(及び秘密鍵)を発行することを禁じるか。

検討事項

利用者の秘密鍵の管理次第では、当該秘密鍵が漏えいして悪用される懸念があることから、秘密鍵の管理は厳格に行われる必要がある。他方、仮にeシールに係る認定制度ができた場合でも、利用者側が所持している秘密鍵(生成装置に格納している場合は生成装置)の具体的な管理の在り方に関して、フレームワーク上で何らか利用者側に義務を課すことは困難であることが想定される。

電子署名法の認定認証業務においては、利用者の秘密鍵の管理に係る直接的な規定はないが、認証局に対する要求事項として、秘密鍵は十分注意を持って管理する必要がある旨を利用者に説明することが規定されており、秘密鍵の管理は利用者に委ねられている。

EUの適格eシールにおいても、秘密鍵(適格eシール生成装置)の管理は法人の管理下にあることが規定されているのみ(ただし、適格eシール生成装置を用いるため、秘密鍵の複製は不可)となっている。

これらに鑑みて、利用者の秘密鍵の管理は発行対象である組織等に委ねることが適切だと考えられる。ただし、認証局から利用者に対する説明事項として、秘密鍵の管理は厳格に行うこと(複製は望ましくない等)を規定することが適当だと考えられる。なお、秘密鍵の管理が利用者に委ねられ、利用者側での複製が望ましくないことを考慮すると、当然、認証局側での利用者の秘密鍵の複製も望ましくない。

• EUでは法人の管理下にあることが求められており、電子署名法でも実質的には同じルールになっているため、特段の要件は不要ではないか。

• QSCDを求めない以上、ファイル形式で利用者に秘密鍵を渡すことも可能であるため、ユーザー側でも複製ができてしまうことになると思うが、特に

レベル3のeシールにあっては、利用者の秘密鍵を利用者側で複製できるのは望ましくないのではないか。

• 利用者の秘密鍵の管理については、少なくとも認証局から利用者への重要事項説明として規定するべきではないか。

• 有事の際のバックアップを考えると、利用者側での秘密鍵自体の複製ができないと困るのではないか。

• 利用者の秘密鍵の複製については、同一の組織に複数のeシール用電子証明書(及び秘密鍵)を発行することで対応可能。

~電子署名及び認証業務に関する法律施行規則~(抜粋)

第六条法第六条第一項第三号の主務省令で定める基準は、次のとおりとする。

一利用申込者に対し、書類の交付その他の適切な方法により、電子署名の実施の方法及び認証業務の利用に関する重要な事項について説明を行うこと。

~電子署名及び認証業務に関する法律に基づく特定認証業務の認定に係る指針~(抜粋)

第八条規則第六条第一号に規定する利用申込者に対して説明を行うべき事項とは、次の各号に掲げる事項を内容として含むものとする。

一認定認証業務においては、虚偽の利用の申込みをして、利用者について不実の証明をさせた者は、法第四十一条の規定により罰せられること。

二電子署名は自署や押印に相当する法的効果が認められ得るものであるため、利用者署名符号については、十分な注意をもって管理する必要があること。

三利用者署名符号が危殆化(盗難、漏えい等により他人によって使用され得る状態になることをいう。以下同じ。)し、又は危殆化したおそれがある場合、電子証明書に記録されている事項に変更が生じた場合又は電子証明書の利用を中止する場合においては、遅滞なく電子証明書の失効の請求を行わなければならないこと。

四認定認証業務に係る電子証明書を使用する場合における電子署名のためのアルゴリズムは、認証事業者が指定したものを使用する必要があること。

⑥ その他(eシールを大量に行う際の処理)

方向性

• レベル3のeシールにおいて、複数の対象データに一括でeシールを行うことを認めることが適当。

• レベル3のeシールにおいて、複数の対象データに一括でeシールを行うことを認めるか。

検討事項

eシールにおいては、業務効率化の観点から、ローカル/リモート方式に限らず機械的に複数の対象データ(例えば領収書等)に対して一括でeシールを行うことに対するニーズがある。

一括処理について、我が国における実空間での手続では、複数の対象文書(例えば委嘱状等)に対して、まとめて処理(決裁・押印)することは一般的に実施されている。

また、EUの適格eシールにおいては、ローカルeシールについては特段の規定がないが、リモートeシールについてはCENの技術基準において、複数の対象データに一括で署名(eシール)指示することが認められている。

eシールの普及・利用促進の観点や国内における実運用、EUの制度を踏まえ、そもそもeシールは意思表示を伴わず、発行元証明にとどまるということに鑑みて、レベル3のeシールであっても、複数の対象データに一括でeシール行うことを認めることが適当だと考えられる。

ただし、一括でeシールを行う際には、当然利用者が指定したデータのみにeシールが行われることが求められることから、利用者が対象データに対してeシールを行う指示を行って以降、他のデータが紛れ込むことがないことはeシールサービス側で担保する必要がある。

リモートeシール方式の一例(リモートeシール利用申込及び認証局による組織の確認後)

⑥ その他(リモート方式) 

• レベル3のリモートeシールにおいては、少なくとも利用認証(eシールを行うことができる権限者(リモートeシールサービスへの登録者)であることを認証するための認証)と鍵認可(実際にeシールを行うために利用者の秘密鍵を利用できる状態にすること)を別に求めることが適切。

• ただし、上記の鍵認可の場面で複数要素認証(例えば、所持認証+知識認証)までは要求しない。

• リモートeシールサービス提供事業者が利用者の秘密鍵を管理し、利用者がそのリモート環境にある秘密鍵にアクセスしてeシールを行う方式であるリモートeシールについて、レベル3のリモートeシールを行う際にはどのような認証が必要か。

注1) なお、ローカルeシールでは、利用者自ら秘密鍵を管理していることに留意。

検討事項

ローカルeシールにおいては、一般的に利用者自身が管理している秘密鍵をPINコード等によって鍵認可を行い、eシールを行う形式が想定される。

ローカルeシールにおける認証を踏まえると、利用者の秘密鍵を利用者自身で管理するのではなく、リモートeシールサービス提供事業者が管理するリモートeシールにおいては、まずは利用者の秘密鍵が保管されているリモートeシールサービス提供事業者のクラウド環境等にアクセス(以下、「利用認証」という。)し、その後、鍵認可を行ってeシールを行う必要があると考えられる。

なお、リモート署名ガイドライン※のレベル2(電子署名法における認定認証業務と同等の信頼性を想定)においては、サービス提供を受けるための利用認証と秘密鍵(署名鍵)を利用するための鍵認可を分けて行い、かつ鍵認可は複数要素認証を行うことを要求している。

また、EUの適格eシール(リモート方式)においては、リモート署名ガイドラインのレベル2の要件に加えて、鍵認可はISO/IEC 15408(コモンクライテリア)の認証(プロテクションプロファイル: EN 419 221-5)を取得した署名活性化モジュールにて行うことを要求している。

他方、電子署名は意思表示であり、我が国でもEUでも推定規定があるのに対し、eシールは発行元証明にとどまり、我が国では現状は推定規定もないことに鑑みて、レベル3のリモートeシールを行う際には、利用認証と鍵認可(単要素認証でも可)を別に求めることで十分だと考えられる。

• レベル3のリモートeシールにおいて、組織によっては鍵認可の際は複数要素認証であったとしても単純な認証だけでは認められないことも考えられ、よりレベルの高いもの(例えばVPNを使ったシステム間連携等)を要求する可能性もある。

※ 日本トラストテクノロジー協議会(JT2A)が作成したリモート署名に関する技術的な基準を示したガイドライン

注2) レベル2のリモートeシールは、利用認証と鍵認可を別々に行わなくてもよい。

⑥ その他(リモート方式)

方向性

• 認証要素の管理は基本的には利用者が行うこととし、eシールとしての用をなさないレベル3のeシールの生成、流通を防止するため、レベル3のeシールをリモートで行う事業者(リモートeシールサービス提供事業者)

のサービスについては、一定の基準(認証要素は利用者本人が管理すること等)を設けることが適切。

• レベル3のリモートeシールにおいて、eシールを行う際の鍵認可で使用する知識要素(PINコード等)等の認証要素の管理はどうあるべきか。

利用者のみが管理することを求めるか。

リモートeシールサービス提供事業者やアプリケーション提供事業者が管理することも認めるか。

検討事項

リモートeシールにおいて、仮に利用者の秘密鍵を管理しているリモートeシールサービス提供事業者が認証要素も管理して、利用者に断りなくeシールを行うことができる可能性がある場合は、そもそも認証要素としての意義が失われ、eシールを行った利用者、すなわち発行元が誰であるかの判断ができなくなる可能性が想定され、基本的には認証要素は利用者のみが管理することが望ましいと考えられる。

加えて、eシールの場合には、eシールが行われたデータを受け取る者(例えば領収書の受領者)には、リモートeシールサービスの利用について協議を受けられない蓋然性が高い(電子署名の場合には、文書の名義人間で、どのような方式を取るかの合意があるため、リモート署名サービスの利用について、双方の合意があるとみなす余地がある)。

このため、仮にレベル3のリモートeシールにおいて、eシールを行う際の鍵認可で使用する認証要素の管理が適切に行われない可能性がある場合には、信頼性が損なわれたレベル3のeシールが存在・流通してしまうことが想定され、制度の安定性そのものに影響を与えかねないと考えられる。

なお、EUにおいては、認証要素の管理は法人に委ねられ、アプリケーション提供事業者が管理することも否定はされていない一方、リモート署名ガイドラインにおいては、利用者本人のみが秘密鍵(署名鍵)を活性化(鍵認可)できることを要求している。

これらを勘案し、認証要素の管理は基本的には利用者が行うこととし、eシールとしての用をなさないレベル3のeシールの生成、流通を防止するため、レベル3のeシールをリモートで行うする事業者(リモートeシールサービス提供事業者)のサービスについては、一定の基準(例えば認証要素の管理は不可とする等)が必要になると考えられる。なお、当然認証要素をアプリケーション提供事業者が管理することは望ましくない。

• リモートeシールサービス提供事業者に関しては、一定の基準が必要ではないか。

⑥ その他(失効に係る事項)

方向性

• 失効要求できる者は電子証明書の発行を要求できる者(法人であれば代表者又は代表者から委任を受けた者)に限定することが適切。

• 利用者において、eシール用電子証明書の失効要求ができる者の範囲はどこまでとすることが適切か。

eシール用電子証明書の発行を求めることができる者に限定する。

上記に加えて、当該eシールを行う権限を有する者でも可とする。

当該eシール用電子証明書の発行を受けた組織等に属する者であれば誰でも可とする。

検討事項

電子証明書と自然人の紐付けが1対1である電子署名とは異なり、eシールは1つのeシール用電子証明書を組織等の中の複数人が使用することが想定されるため、当該eシール用電子証明書の失効を要求できる者の範囲をどこまでとするかについて検討が必要となる。

その範囲については、①eシール用電子証明書の発行を求めることができる者に限定するか、②それに加えて当該eシールを行う権限を有する者でも可とするか、③当該eシール用電子証明書の発行を受けた組織等に属する者であれば誰でも可とするか、が主な選択肢としてあげられるが、失効要求は、eシール用電子証明書の発行申請と同様に意思表示が必要であると考えられることから、失効要求できる者は電子証明書の発行を要求できる者(法人であれば代表者又は代表者から委任を受けた者)に限定することが適切だと考えられる。

• 失効要求ができる者は、基本的には代表者もしくは委任を受けた者といった制限をかけるのがよいのではないか。

デジタル庁第2回トラストを確保したDX推進SWGプレゼン資料

電子契約の有効性について

2021年12月13日(月)

西村あさひ法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士太田洋

Ⓒ2021 YO OTA. All rights reserved.

(書面契約と異なった)電子契約の特殊性

データ時代には、認証と改ざん防止が重要

・なりすましが容易

・改ざんが容易

⇒ 電子契約の有効性・内容の正確性に脆弱性

DXには、データへの信頼(トラスト)が確保されていることが大前提

電子契約への信頼

① 本人性確認

・電子契約の現実の作成者と表示されている作成者の同一性が

確認されていること

② 完全性確認

・電子契約のデータが改ざんされていないことが確認されていること

電子契約の有効性を考える上での前提

 電子契約についての一般的な法的定義はない

⇒ ここでは仮に「書面ではなく、電磁的記録のみによって締結される契約」としておく

⇒ 電子署名を用いなくとも、電子契約は成立し得る(ex. eメールのやりとりやLINEでのチャットのやりとりでも「電子契約」は成立し得る)

 電子契約にはレベルがある

◆ 口頭合意による契約に相当するもの≑ eメールのやりとり/LINEのトークでのやりとり

⇒ 裁判所に「最終的」かつ「確定的」な合意ではない(それ故、法的拘束力がない)と判断されるリスク

⇒ サイン頁をPDF化してメールで交換する実務があるが、当該実務は自署された書面契約が存在することを前提

◆ 三文判の印影が顕出されているだけの書面契約に相当するもの≑ 3条署名が付された電子契約≑ ①当事者署名型で、(特定認証等のない)2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約/②事業者署名型のうち当事者指示型で、2要素認証等が確保され、2条署名が付された電子契約

⇒ 三文判が顕出されているだけの書面契約でも、「二段の推定」は効く(最高裁判決が存在)

◆ 認印・銀行(手彫り)の印影が顕出された書面契約に相当するもの≑ ①当事者署名型で、特定認証された2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約/②事業者署名型のうち当事者指示型で、2要素認証等が確保され、2条署名が付された電子契約

◆ 実印(印鑑証明付き)の印影が顕出された書面契約に相当するもの≑ 当事者署名型で認定認証(準ずるものを含む)された2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約

電子契約が裁判上「証拠」となるために何が必要か

◼ (書面の)文書を証拠とするためには、「文書の成立が真正」であることを証明しなければならない(民訴法228条1項)

= 文書を証拠として提出する者が、当該文書の作成者であると主張している者(作成名義人)の意思に基づいて作成されたこと

= 作成名義人の印影がその者の印章と一致⇒当該印影は作成名義人の意思に基づくものと事実上推定(判例)【第1段の推定】⇒文書の成立の真正が法律上推定(民訴228Ⅳ)【第2段の推定】

◼ 電子文書を証拠とするためにもその「電子文書の成立が真正」であることを証明する必要

※ 3条推定効:その電子文書が真正に成立したものと推定する効果

= 電子文書を証拠として提出する者が、当該文書・契約の作成者であると主張している者(作成名義人)の意思に基づいて作成されたこと

= 作成名義人の電子署名がその者の秘密鍵によって生成されたことが検証⇒当該電子署名は作成名義人の意思に基づくものと事実上推定(実務法曹の多数説)【第1段の推定】⇒電子文書の成立

の真正が法律上推定(電子署名法3条)【第2段の推定】

※ 3条Q&Aは、事業者署名型のうち当事者指示型(⇒これで2条署名には該当)のものでなされた電子署名が、作成名義人の秘密鍵によって生成されたものと検証されるために必要な条件は、「他人がなりすますことができないという『固有性』を有すると評価できること」であることを明らかにしたもの

⇒ もっとも、3条Q&Aがカバーしているのは「当人認証」までであり、電子契約プラットフォームを利用した者

=作成名義人であること(身元確認)は別途確認・確保される必要あるが、これは内部統制の問題

◼ 「文書の成立の真正」の証明方法

⇒ もっとも、上記の民訴228条4項・電子署名法3条の推定規定のルートを経由しなくとも、「(電子)文書の成立の真正」を(他の証拠により)直接立証することは常に可能

わが国における電子契約を巡る法的環境整備

 クラウド型電子署名プラットフォームの利用を含め、電子契約の普及につ

いての法的環境整備はほぼ完了

⇒ ①2020年7月17日付け総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(「2条1項Q&A」)及び②2020年9月4日付け総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(「3条Q&A」)により制度整備は完了

⇒ 後は、個々の事業者が自己の責任において、利用するクラウド型電子署名プラットフォームが、上記の2条1項Q&A及び3条Q&Aの要件を満たしているかを(適宜弁護士等も活用しながら)セルフ・チェックして、用途に応じた適切なサービスを取捨選択して利用していくべきステージ

 用途に応じて適切なフォーマットの電子契約を選択することが重要

◆ 本人性確認と完全性確認は、リスクと利便性を考慮して、適切なレベルに設定することが重要

◆ いずれの電子署名を利用して電子契約を締結するかは、安全性、コスト、利便性を勘案して判断すべき

見積書、注文書、請書のような取引基本契約を前提とした個別契約や、NDAのような定型的契約は、通常は、事業者署名型のうち当事者指示型の3条署名を利用すれば十分であろう。見積書、注文書、請書等の一方当事者の意思表示を示すものについては(3条推定効によらず文書の成立の真正は直接立証する前提で)「電子印鑑」(2条署名には該当する前提のもの)サービスを利用することもあり得る

取引基本契約等の重要な契約や、M&Aに関する契約については、件数も限られていると考えられ、事業者にとっての重要性も高いので、自署された書面契約(の存在を前提にサイン頁をPDF化してメールで交換して成立を確認する実務)を用いたり、当事者署名型で認定認証(準ずるものを含む)された2条署名(秘密鍵は適正に管理する前提⇒3条署名に該当)を付した電子契約を用いることが、今後も多いものと思われる

電子契約・電子文書に関する近時の政府見解

◼ 第10回成長戦略ワーキング・グループ資料1-2「論点に対する回答」(法務省、総務省、経済産業省提出資料)(2020年5月12日)(「3省論点回答」という)

◼ 第10回成長戦略ワーキング・グループ資料2-1「論点に対する回答」(2020年5月12日)(法務省提出資料)

◼ 内閣府=法務省=経済産業省「押印についてのQ&A」(2020年6月19日)(「押印Q&A」という)

◼ 規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」(2020年7月2日)16頁以降

◼ 総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者

自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(2020年7月17日)(「2条1項Q&A」)

◼ 総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者

自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(2020年9月4日)(「3条Q&A」)

本人確認とは

出典:経済産業省他「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」

電子署名の種類

②認証がされた電子署名

③特定認証がされた電子署名

④認定認証がされた電子署名

①電子署名法上の電子署名

電子署名(最広義)

出典:高林淳=商事法務編『電子契約導入ハンドブック〔国内契約編〕』(商事法務、2020)102頁

電子署名法上の電子署名(2条署名)

電子署名

電磁的記録に記録することができる情報について、以下の要件を満たした「措置」

① 電磁記録に記録された情報が、当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(本人性)

② 電磁記録に記録された情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(非改ざん性)

・身元確認は必要とされていない

・当人認証は必要とされていない

・印鑑でいうと三文判を含む

認証された電子署名

◼ 認証業務

認証業務を行う者が、利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項(公開鍵暗号方式では検証に用いる公開鍵)が当該利用者に係るものであることを証明する業務(電子署名法2条2項)

⇒ 電子証明書の発行(通常)

・当人認証は必要とされている

・身元確認は必要とされていない

・認証業務は第三者である必要は無い

・認証業務に資格は不要

特定認証された電子署名

◼ 特定認証業務

電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行なうことができるものとして、電子署名法施行規則2条に定める基準に適合する電子署名について行なわれる

認証業務(電子署名法2条3項)

◼ 電子署名法施行規則2条に定める基準

電子署名の安全性が以下のいずれかの有する困難性に基づくもの

①ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である2048ビット以上の整数の素因数分解

②大きさ2048ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算

③楕円曲線上の点がなす大きさ224ビット以上の群における離散対数の計算

④前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの← 認証業務と同じ+暗号が解読困難

手彫りの印鑑と類似

認定認証された電子署名

◼ 認定認証事業者

主務大臣が、設備・本人確認の方法・業務体制等が一定の認定基準を満たしている特定認証業務を行なう事業者について、認定をする制度によって認定された事業者(電子署名法4条)

◼ 認定認証事業者は、公的身分証等による身元確認を行なうことが求められる(電子署名法6条1項2号、電子署名規則5条)

◼ 認定をうけた認証事業者は、電子証明書等に認定を受けていることを表示することができる(電子署名法13条)

・印鑑だと、実印+印鑑証明書と類似

事業者署名型(立会人型)の電子署名とは

◼ サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービス

仕組みの面からの電子署名の分類

 基本形としての当事者型と事業者型(立会人型)

◆ 当事者が自分が保有・管理する電子署名(署名鍵=秘密鍵)を自ら付すのが当事者型

◆ 当事者が利用するクラウド型サービス提供事業者が、当該事業者の電子署名

(署名鍵=秘密鍵)を付すのが事業者型(立会人型)

 当事者型と事業者型(立会人型)それぞれの変形版

◆ 事業者型(立会人型)のうち、事業者が、当事者の指示を受けて当該事業者

の電子署名(署名鍵=秘密鍵)を付すのが当事者指示型

◆ 当事者が、認証局を運営するクラウド型サービス提供事業者から認証を受けた自らの電子署名(署名鍵=秘密鍵)を、当該事業者にクラウド上で管理して貰い、必要な場合に当該事業者のプラットフォームを利用して、リモートで当該電子署名を自ら付すタイプ(クラウド利用当事者型)も存在

リモート署名の電子署名(2条署名)該当性

◼ サービス事業者による電子署名(リモート署名による電子署名)が、当事者による電子署名といえるか?⇒ 2条1項Q&A

利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行う…サービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得る

2条1項Q&A

◼ 「電子署名法第2条第1項第1号の『当該措置を行った者』に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はBであると評価することができるものと考えられる。

◼ このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。

◼ そして、上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、『当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること』という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。

電子署名法3条

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

①電子署名

②本人による

③これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。

本人=電磁的記録に記載された思想を表現した者

事業者署名型のうち当事者指示型を利用した署名の3条署名該当性

 利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに3条推定効の適用はあるか?

◆ 3条Q&A

⇒ 当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要

※ 〔利用者の指示に基づき、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービス〕が電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するには、更に、当該サービスが本人でなければ行うことができないものでなければならないこととされている。そして、この要件を満たすためには、問1のとおり、同条に規定する電子署名の要件が加重されている趣旨に照らし、当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要であると考えられる

固有性の要件とは?(1)

◼ 固有性の要件

⇒ 暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められること

⇒ そのためには、当該電子署名について相応の技術的水準が要求されることに

※ 電子署名法第3条に規定する電子署名について同法第2条に規定する電子署名よりもさらにその要件を加重しているのは、同法第3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからである。すなわち、このような効果を生じさせるためには、その前提として、暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められることが必要であり(以下では、この要件のことを「固有性の要件」などという。)、そのためには、当該電子署名について相応の技術的水準が要求されることになるものと考えられる。したがって、電子署名のうち、例えば、十分な暗号強度を有し他人が容易に同一の鍵を作成できないものである場合には、同条の推定規定が適用されることとなる

固有性の要件とは?(2)

◼ 固有性の具体例

①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス

②サービス提供事業者内部で行われるプロセス

⇒いずれにおいても十分な水準の固有性

◆プロセス①:利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合

◆プロセス②:暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み例:システム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること

電子署名法3条の推定効の意義(1)

 推定効の意味

◆ 通説:証拠評価にかかる法則を法律上規定した法定証拠法則

・証明責任は相手方に転換されない

・相手方からの反証が可能

◆ 文書の記載内容が、立証主題である事実の証明に寄与する程度(実質的証拠力)は別問題

 推定効の意味

①立証責任の転換を定めた法律上の推定の規定ではなく、相手方からの反証が許される法定証拠法則に過ぎない

②文書の成立の真正を直接立証することも可能

③推定効が認められれても、文書の記載事項・内容が真実であることまでが保証されるものではない⇒ 3条推定効は一定の意義を有するが、その機能・意味を過大評価しないことが必要

出典:総務省令和2年7月3日サイバーセキュリティ統括官室トラストサービスのユースケースに関する提案募集の結果

• 総務省において、トラストサービスのユースケースと制約事項につき提案募集を実施(令和2年)

• 広範なユースケースが提案された他、慣習・制度含めた制約事項について整理された• トラストサービスは、将来的なものも含め、他の政策との関係上も必要となる備え

他の政策との関係上想定されるニーズ

— 行政サービスデジタル化

エストニアの例でもわかるとおり、各種行政・病院・民間サービス業者等複数の組織との連携が必要になり、サービスの信頼性担保の為にも、申請組織とのデータ授受の仕組みがないと安心して利用できない(個人に紐つく電子署名ではない)

— 決済サービス事業者等、各種認定事業者の市場への参入

欧州の例でもある通り、市場の開放を行い、マーケットの活性化を促進する一方で、安心した事業者とのデータ流通の仕組みを備えることは前提として必須

— 国際的取引での活用

貿易取引等国を跨ぐ民間取引における信頼性の担保(欧州、米国、中国等)

2. ユースケース実現に対する商慣習等の制約、課題

出典:総務省令和2年7月3日サイバーセキュリティ統括官室トラストサービスのユースケースに関する提案募集の結果

• 慣習・制度含めた制約事項あり。特には制度上紙や書面交付を求めるものは依然存在

• 紙の制度廃止と同時に電子化の標準形もある程度示すことは必須商慣習等を電子化していく上での課題

— 現状でも電子証明書は公共・民間問わず文書や手続きによって利用されてはいるが、対象文書や手続によって利用できる電子証明書が統一されておらず明らかに非効率

— 過去文書含めた継続性の観点は民間を超えた標準化は必須。また、電子署名業者も様々であり、電子署名法に基づく認定制度がさらに有効に働く工夫も必要。

— 効率的かつ安全・安心にデータ流通が行える基盤作りが当WGの趣旨。利用されていないから制度が不要なのではなく、制度が整備されていないから利用されていない面あり

トラストサービスのユースケース及び制約となる制度について

Global Legal Entity Identifier Foundation ( GLEIF )

Managing Director, 日本代表中武浩史

2022年2月8日(火)

第5回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

1. トラストサービスのユースケース、他の政策との関係上想定されるニーズ

2. ユースケース実現に対する商慣習等の制約、課題

3. ユースケース実現の制約となる法令・制度関係

4. 制度・手続改革のポイント:「原本性」「真正性」

5. 「原本性」「真正性」の担保で電子化が促進されるエリア

6. 制度化による効果のまとめ

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欧州eIDAS規則におけるアシュアランスレベル

第4回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

2022年1月25日慶應義塾大学SFC研究所上席所員濱口総志

eIDAS(Electronic Identification and Authentication Service)規則*

• eIDAS規則の2つの目的

• 欧州DSM(Digital Single Market)戦略

• トラストサービスの普及による

経済発展の促進

*Regulation (EU) No 910/2014 of the European Parliament and of the Council of 23 July 2014 on electronic identification and trust services for electronic transactions in the 2

internal market and repealing Directive 1999/93/EC, https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32014R0910

eIDAS(Electronic Identification and Authentication Service)規則*

• eIDの加盟国間相互承認フレームワーク

➡eIDのアシュアランスレベルについて3段階(low, substantial, High)を規定

• トラストサービスの法的効力を規定

➡2段階の法的効力

①トラストサービスは電子形式、適格トラストサービスでない理由で法的効力が否定されない

②適格トラストサービスは法的効力が推定される

➡トラストサービスの第三者評価フレームワーク

適合性評価機関による評価と監督機関による適格ステータスの付与

法的効力

電子文書

(Art.46) 電子文書は、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式であるという理由だけで否定されない。

電子署名

(Art.25)

1.電子署名は、それが電子形式である、又は適格電子署名の要件を満たさないという理由だけで、法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を否定されない。

2.適格電子署名は、手書き署名と同等の法的効力をもつこと。

3.ある加盟国で発行された適格証明書に基づく適格電子署名は、他のすべての加盟国においても適格電子署名として認められる。

eシール

(Art.35)

1.eシールは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は適格eシールの要件を満たさない

という理由だけで否定されない。

2.適格eシールは、適格eシールがリンクするデータの完全性及びデータの起源の正確性を推定することができる。

3.ある加盟国で発行された適格証明書に基づく適格eシールは、他の全ての加盟国で適格eシールとして認められる。

タイムスタンプ(Art.41)

1.タイムスタンプは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は、適格タイムスタンプの要件を満たさないという理由だけで否定されない。

2.適格タイムスタンプは、それが示す日時の正確性とその日時を結びつけたデータの完全性に関する推定を享有する。

3.ある加盟国で発行された適格タイムスタンプは、他の全ての加盟国で適格タイムスタンプとして認められる。

eデリバリー(Art.43)

1.eデリバリーサービスを利用して送受信されたデータは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は、適格eデリバリーサービスの要件を満たさないという理由だけで否定されない。

2.適格eデリバリーサービスを利用して送受信されたデータは、データの完全性、識別された送信者によるデータの送信、識別された宛先者による受信、適格eデリバリーサービスで示されたデータの送受信の日時の正確性に関する推定を享有する。

トラストサービス(電子署名)のレベル毎の技術基準、第三者評価フレームワーク

まとめ

• EUはeIDAS規則及びNIS2によって、デジタルインフラとしてトラストサービス及びeIDを整備し(ようとし)ている。

• 制度化と技術基準、事前/事後監督

• 行政機関及び規制産業における適格トラストサービスの利用を促進

• 一方で、B2B等において広く用いることができるレベルのトラストサービスについても、技術基準と民間第三者評価のフレームワークを整備されており、利用者が必要なトラストサービスを正しく選択できる環境を構築されている。

eIDAS2.0とEUDIW

第7回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

2022年3月22日慶應義塾大学SFC研究所上席所員濱口総志

eIDAS規則の評価

参考資料

• Evaluation Report (2021年6月3日)

• Staff Working Document (2021年6月3日)

• Briefing from European Parliament (2022年3月7日)

*1 COM(2021) 290 final “REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL on the evaluation of Regulation (EU) No 910/2014 on electronic

identification and trust services for electronic transactions in the internal market (eIDAS)”

*2 SWD(2021) 130 final “COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT Accompanying the document REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL

on the evaluation of Regulation (EU) No 910/2014 on electronic identification and trust services for electronic transactions in the internal market (eIDAS)”

*3 Revision of the eIDAS Regulation Findings on its implementation and application

Evaluation Report(評価報告書) 概要

eIDAS2.0*

EU Digital Identity Wallet(EUDIW)

全欧州市民が利用可能なeIDの枠組み整備

トラストサービスの拡充

電子アーカイブ(e-Archiv)、電子台帳(e-Ledger)、属性の電子証明(e-Attestation of Attribute)、リモート署名(シール)生成装置の管理(the management of remote gig/seal creation devices)

下位規則の整備

技術基準を指定する下位規則の整備をEU委員会に義務付け

*Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council amending Regulation (EU) No 910/2014 as regards establishing a framework for a European DigitalIdentity (SEC(2021) 228 final) – (SWD(2021) 124 final) – (SWD(2021) 125 final)

eIDAS規則の課題とeIDAS2.0

• 希望する全EU市民、在留者、企業が利用可能

各加盟国は、本規則の発効から12か月以内にEU Digital Identity Walletを発行すること(Art.6) >3つのオプション:加盟国による発行(by member states)/加盟国の委任による発行

(under mandate from a member states)/加盟国による承認

(independently but recognized)

• EUの公的及び民間デジタルサービス利用における本人確認or属性の証明に

利用

• 自己主権型(Self Sovereign Identity)

個人識別データ(PID)及び属性の電子証明(EAA)を透明性のある、ユーザが

追跡可能な方法で、安全に、要求及び取得、保管、選択、組み合わせ、共有す

• 適格電子署名(QES)をサポート

• 保証レベル:High

EUDIWの利用

1.公的オンラインサービス

2.強固なユーザ認証を要求する民間サービス

金融、社会保障、通信等の強固なユーザ認証が法或いは契約によって求められているサービス

3.大規模オンラインプラットフォーム(Digital Service Act)DSAで定義される大規模オンラインプラットフォームではユーザからの要請に従ってEUDIWによる認証を受け入れなければならない(Art. 12b)

4.その他のオンラインサービス

行動規範(Code of Conduct)を策定し、推奨することで、他のオンラインサービスにおいてもEUDIWが受け入れられるように委員会が奨励、推進する

インキュベーションラボ・プロジェクト

2022年1月25日独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)

インキュベーションラボデジタル本人確認プロジェクトチーム

「サービスに応じたデジタル本人確認ガイドラインの検討」

本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

採択時の目的

● 目的

日本の産業や生活を、グローバルに通用するデジタル本人確認のガイドラインが普及した、サービス提供者と利用者双方の安全性、利便性が両立した環境にする。このことにより、Society5.0に根差した市場拡大及び国際競争力に資する。

● 目標

サービスに応じたデジタル本人確認のガイドライン及び技術を、世界の動向を踏まえて整備し、広く普及させる。

・個人の民間サービス利用をスコープとする。

・既にガイドラインが定められている「行政手続き」は取り扱わない

● デジタル本人確認におけるガイドライン整備の意義

‐ 身元確認手法の、より精緻な整理

‐ どのようなサービスであればどのレベルの身元確認手法を選択する必要があるかの整理このふたつを行うことが重要である。

ガイドラインを策定する趣旨

レベルは違えど、「本人確認手法が分からない」が共通の課題

金融機関、携帯キャリア等

(法令に定められている事業者)

シェアリングエコノミー、マッチングアプリ等

(自主的に導入している事業者)

デジタル本人確認の導入を検討している事業者

法令に多くの手法が定められているが、安全性や利便性の違いが分からない。

導入済みの手法が自社のサービスに最適な手法か分からない。

対面手続に代わる手続として、どの手法をどのように導入するのか分からない。

課題

①身元確認手法の保証レベルの整理求められる対応

②サービスに応じた本人確認手法の提案6

本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

参考

オンラインの本人確認は身元確認と当人認証からなる

本人確認の現状レベル分表作成についての参考:デジタル本人確認の保証レベルと手法例の根拠

IAL・AALのいずれかのレベルが低ければ、本人確認手法のレベルも下がることから、サービスリスクに応じてIAL・AALを選択する必要がある

身元確認と当人認証の保証レベル

出所:各府省CIO連絡会議(2019) 「行政手続きにおけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」より作成


本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

事業者は、どのように本人確認手法を選択しているか

本インキュベーションラボにおける検討事項

本インキュベーションラボでは、「リスクに応じた本人確認手法を選択できる」という目的を踏まえ、まずはリスクに関して、事業者が捉えているリスクレベル等について調査・整理した

検討事項の整理

リスク対応

その他

ユーザビリティ

本人確認手法の選択軸

● 事業者がどのようなリスクを抱えて、本人確認で対応しているか

● 本人確認で対応できている点、できていない点等

● コストについては、各eKYC事業者の競争領域で、ガイドライン等では対象外

● eKYC事業者の信頼度については、認証制度等も考えられるが、本ラボのスコープ外と思料

● ユーザーにとっての負荷をどう整理するか

● 既存の手法をユーザビリティの視点でどう整理するか

前回研究会におけるリスクの整理

経済産業省「オンラインサービスにおける身元確認に関する研究会」では、リスク評価の際には、事業で扱う財とその内容や関与者、保険/補償の有無、二次被害の可能性、等を踏まえた被害程度を見積る必要性が指摘された

出所:経済産業省(2020) 「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」より

事業リスク(身元確認の必要性)の評価尺度

ヒアリングにおける示唆・事業リスクに関する整理

一般的にリスクマネジメントでは、各リスクを影響度と発生頻度のリスクマップ上にプロットし、各社が優先順位をつけて適切なリスク戦略を選択している。「リスクに応じた本人確認手法の選択」をガイドライン化するためには、リスク評価・リスク戦略等の手法を参考に「リスクの標準化」が課題となる

ヒアリングにおける示唆・ユーザビリティについて

本人確認を実施することによるUXの悪化を懸念する意見も得られた。

リスク対策と、ユーザビリティ確保の両立を実現する必要がある。

出所:経済産業省(2020) 「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」より

ガイドライン策定後の社会

海外動向調査

・海外動向についてネットを中心に調査

・スウェーデン、シンガポール、イギリス、ドイツ、エストニア、インドの6ヵ国

・各国「サービス概要」、「利用状況」、「普及または失敗した背景」、「留意すべき日本との違い」についてまとめました。

・本人確認も含まれますが、主にデジタルIDを中心とした各国の全体的な取り組み状況についてとなります。

海外動向調査まとめ

● スウェーデンやシンガポール、エストニアの例から、デジタルIDがスマートフォンに搭載され物理的なカードを使わずに本人確認が行えることでユーザーの利便性が高まり、一気に普及していくケースがみられた。

● デジタルIDや本人確認サービスの一極集中について、スウェーデンでは、①単一IDプロバイダーへの過度の依存はリスク、②イノベーションや品質、価格面での競争が不在、③移民や銀行口座のない個人などが排除、などの問題点が指摘されている。また、シンガポールでも中央集権型のシステムであるためトラブルが発生すると機能不全となる事態や、民間企業の採用が想定通りに進むか、といった課題がある。

● イギリスでは、2000年代に入ってテロ対策や犯罪予防等の観点から、厳格に本人確認できる手段として国民IDカードの導入が議論され、IDカード法が成立したものの、費用対効果やプライバシー侵害等が問題視され、政権交代とともに同法は廃止された。この代替策として、2016年に公共サービスの共通認証プラットフォーム「GOV.UK Verify(Verify)」が導入された。政府の認定を受けた複数のIDプロバイダーのなかから、利用者自身が使用する認証サービスを選択する仕組みであるが、Verifyは当初の計画通りには普及が進んでいない。その理由として、ユーザーエクスペリエンスが不十分であることや、関係する省庁が必ずしも協力的ではないこと、民間サービスプロバイダーの求める要件を満たすものではないことなどが指摘されている。政府は、2019年に省庁横断的にデジタルIDを推進する組織を設置し、Verifyに代わる新たなデジタルIDの在り方を検討している。もっとも、識別子となる統一的な国民番号がないことが課題として指摘されている。

● シンガポールのCODEX等、階層化されたアーキテクチャーを前提にデータ層・サービス層を分離した立体的な階層構造で構築、民間にも広く開放している。

海外動向調査主な参考ソース

・「行政をハックしよう」吉田泰己(著) ぎょうせい

・日本総研「デジタル時代の社会基盤「デジタルID」」

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/11717.pdf

・エストニアの電子証明書等について(総務省)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000731090.pdf

・ドイツのパブリッシャー、共通ログインで「異業種」連携:FacebookとGoogleの2強に対抗

・インド13億人の「生体認証」国民IDに、知られざる日本企業の貢献

https://wisdom.nec.com/ja/collaboration/2019051701/index.html

・GAIN DIGITAL TRUST

https://gainforum.org/GAINWhitePaper.pdf

トラストを確保したDX推進SWG

トラストサービスのアシュアランスレベルの考え方

2022年2月8日慶應義塾大学手塚悟

トラストを確保したDX推進SWGスケジュール(案)

出典:総務省プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(2020年2月)別紙

https://www.soumu.go.jp/main_content/000668595.pdf

論点1:アシュアランスレベルの基準

• トラストサービスのアシュアランスレベルに関して、どのような基準が考えられるか

トラストサービス事業者(IDプロバイダー、クラウド署名サービス※、認証局、タイムスタンプ局等)の運営ポリシーをトラストサービスアシュアランスレベル(TAL:Trust service Assurance Level)として整理すべきである。

• 組織要件(組織の責任)

• 設備要件(ファシリテイ要件)

• 技術要件(暗号技術等)

• 鍵管理要件(適格署名生成装置等)

• 運用要件(複数人による相互牽制)

• 監査要件(内部監査、外部監査、適合性監査、認定)

• その他

これらをトラストサービスに共通する基準、個別の基準として整理し、TAL1、TAL2、TAL3のアシュアランスレベルを定義する。それぞれの認定主体としては以下を想定する。

TAL3:国が認定

TAL2:民間の第三者機関が認定

TAL1:自己が監査

※ 当事者の署名鍵によるリモート署名サービスおよび利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービス(令和2年7月17日主務三省Q&Aより)

論点2:機動性の確保

• 技術進化に対応した柔軟な見直しが求められる中、機動性の確保するための考え方

• トラストアシュアランスレベルの策定/運営の在り方

各基準は法令から参照される独立した技術規格として策定されるべきであり、変化する技術進化や国際標準に対応したメンテナンス性が確保される必要がある。

各基準は諸外国の標準などを参考に国の関与の下に、トラストサービスフレームワークに対応してクオリファイドレベル(TAL3)とアドバンスドレベル(TAL2)等に応じて作成することが必要である。

変化する技術進化や国際標準をウオッチし適時、適切に基準のバージョンアップを行う体制、運営の在り方の検討が必要である。

海外のトラストフレームワーク

サービス提供におけるトラスト確保を実現するポリシー策定の論点

LocationMind株式会社取締役

株式会社パロンゴ取締役林達也

2022/2/8 「トラストを確保したDX推進SWG #5」

 ご提案(Recap)

「先ず、隗より始めよ」

行政手続き(Government Sector)におけるサービスで実際に試す

スモールスタート可能なユースケースを選ぶ(G2B or B2G)のはどうか

「トラストサービス」の定義を行う

3 背景

eIDAS 1.0は、日本で暮らすうえでは影響を受けるものではなかった

• 議論として参考になった側面は大きく、偉大な先行者

• 一方、EUという国と国をまとめる必要がある特殊な状況下で求められる取り組み

• 実際には、背後にISO等の国際的な標準を引くことで技術的な裏打ちとしていたNIST標準は、アメリカの政府調達を主眼としており、軍事も含めた包括的なもの

• 我々は深い洞察をせず、NIST標準を文脈を意識しないで多くの参考にしてしまった

• 彼らもまた先行者であり、我々はeIDASと同じようにNISTも参考にした

• (もちろん、他の多くの国際標準も)

今まで、我々は後手であった点が多分にある

• もちろん、先行しているケースもあるが…

では、我々が、本来汗をかくべき部分はどこなのか

• 日本に固有の状況において必要な補足・補遺・補正を行うべきではないか

• なぜ、『海外のものはすごい』となってしまうのか

• 『日本版XYZ』のようなアプローチはそもそも適切なのか

民間では自分はよく「(先行)事例病」と呼んでいます

4 現状

2022年2月において我々は、デジタル庁が発足し、EUはeIDASは2.0と言い出し、NISTSP800-63-4の登場が近づき、大多数の人々がスマートフォンを常時携帯し、マイナンバーカードの改定も議論される、という『潮目』の時期にいる

コロナ禍において人類の活動のオンライン化は促進され、物理的な制約を如何にしてデジタル化し、オンラインで実現するかが焦点となった

政府だけでなく民間でも、国内・国際ともに、Identity Proofing (KYC)や

Authentication/Authorization、Notice and Consent、パーソナルデータ、データの流通や真正性、等々が重要視されるようになった

今まさに社会的環境条件が大きく変わりつつある

小さくても手を動かすべき時期

5 補足:ID Proofing / KYC関係の国内活動

デジタル庁

• トラストSWG(本WG)

• 「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」(2019年2月25日)

‣ 改定の要望・必要性が高く、取り組むべき(本項にはバイアスがかかっています)

IPA DADC インキュベーションラボデジタル本人確認プロジェクト

• 経済産業省「オンラインサービスにおける身元確認に関する研究会」の実質的な後継プロジェクト

OpenID Foundation Japan KYC WG

JNSA 「オンライン身元確認(eKYC)金融事例調査報告書」

etc…

6 前提整理

本SWGでいう「トラストサービス」の定義をきちんと行うべき

• 「eIDAS 日本語版」、ではおそらくないだろう

• では一体なんなのか、どこまでが範囲なのか

• その目的は何か? -> ユースケース?

民間との接合をどこまで視野に入れるのか

• その是非はさておき、立会人型で十分、という社会実態をどう捉えるべきか

• アメリカに近しいIT業界や、欧州に近しい自動車等製造業の差異

• 領域は違うが、「個人情報保護」や「プライバシー」の分野も、同じく各国を睨むことになっているのが民間の実態

純粋な政府主導のサービスは、そう簡単には社会受容されない

• 民間の方がはるかに進んでおり、護送船団のような発想はもう終わっている

• 代替手段があって、価値があれば(要件を満たせば)そちらが使われる

• ただし、罰則などがあれば別

サービスそのもので担保されなくても、商習慣や契約等で実態としてカバーされているものは多い

• 日々の生活がかかっている以上、これは当然

• そこに大きなペインポイントがあるか?

7 トラストサービスの位置づけ

DXを推進するとはなにか

• 目的は何をどう変えることなのか

何のためのトラストサービスか

• トラストサービスは、サービスであり手段

‣ 正確には、今まで本SWG等で議論されているインフラやコンポーネントに近いサービス

は、その一定の汎用性から手段である

• 「なんにでも使える魔法のトラストサービス」はおそらく存在しない

UXがひどくても、コストが高価でも、どうしてもそれでないと実現できないサービス

• -> 多くのひどい(行政)サービスの山

• 問題から、競争原理の一定の価値が見いだされるところ

• 是非はさておき、現在の「なんとかTech」の興隆はこの点にある

実態実務で使われているが、細部の詰めが甘いサービスを、適正に変えていく要素

• 慣習や長期的視点、消費者保護など、民間ではおろそかにされやすい、せざるを得ない側面を指摘し、強化を促す

• e.g.) 「既知であったことの証明」「発案者であることの証明」「犯罪収益移転防止」

8 「トラスト」の特性と本質

トラストの特性

• 本来は技術の話ではない

• 社会制度の大きな一部

• 一朝一夕には変えられないもの

• 時間をかけて得られるもの

• 認知の問題

• 社会受容性を伴う

トラストの本質

• 「醸成」できるようなものなのか

‣ 本来、個々人や主体が自然発生的に生じるものではないか

• それを踏まえた上で、それを社会制度として補強する

• 仮に「裏打ち」をするのであれば、「保証」も担保しなくてはならない

• 制度と技術の構成要素の話をすると混乱する

9トラストサービス

• デジタルテクノロジーを如何にして社会的にトラストしてもらえるようにするか

• 「技術的な」側面から、それを満たす条件や運用形態、あり方を論じている

• 専門性が高く、変化の速い、まだまだ試行錯誤が必要な未知の領域

• (他国は、一周目を終えて二周目に入ろうとしている…?)

トラストに関する制度

• 古くから存在し、事象をどう捉えるかを常に入念に検証せずとも、「複雑性を縮減」(ルーマン)するために、いわば「決め打ち」をするための外縁を定める行為

• 人間同士、村同士、村と人、等々、「関係性」の連鎖を「容易には改ざんし難い」要素で定めていく

‣ それでも、トラストは100%ではなく、一定の確度でしかないと多くの人は認識している

‣ そして、そのトラストは裏切られることもある(技術としてのトラストとの意識差がある)

• 社会生活を営む中で法律や制度として定める必要があるものの中に、トラストの要素は数多く存在する

‣ 人類がこれをうまくできているかは別の問題

‣ ただし、これは経験値によるラフコンセンサスの中から、いわばデファクトとして社会制

度化されているように思える

トラストSWGにおける、制度と技術の区別

10 参考: トラスト・信頼の難しさ

「信頼を考える: リヴァイアサンから人工知能まで」

(小山虎著)

本書で取り扱われる主な対象領域

• 経済学

• 心理学

• 社会心理学

• 社会学

• エスノメソドロジー

‣ (「人々の- 方法論(ethnomethodology)」)

• 動物行動学

• 哲学

• etc…

11 トラストの「正しい」連鎖

マイナンバーカードやベース・レジストリを活かす

• これらは大きな努力によって実現してきた「トラスト」

• おそらく、社会的には登記関係なども同様

• これらのデジタル化がこの瞬間の重要な転換要素

信頼できる点から点への連鎖

• Root of Trustであり、これは例えばベース・レジストリだが…

• ひとつの重要要素は「不変性」

正しい連鎖を作るには「要件」が必要

ただし、ポリシーで求めるべきは「正しい連鎖」の実現、評価方法までであって、要件はきちんと時代(四半期レベルの変動)と技術に合わせて変更可能な社会制度であるべき

12 トラストサービスが目指すべき目的

トラストサービス(未定義)は、暗黙の裡に以下の仮定をおいている

• Xをトラストサービスだと認めるYによって、Xはトラスト可能だとされる

• それを聞いたAは、自分にとってのY、またはそれに類する(と推測する)なにかへの信頼と近しいものとして、Xをトラストする

• 信頼を複雑性の縮減と捉えるならば、トラストサービスを定義し制度化することは、対象に対

する入念な検証を行わずとも利用していいことを明確化することに他ならない

トラストサービスの定義の必要性

• どういう目的の手段として信頼し利用できるサービスなのかを明確化することに他ならない

• それを使えば無条件で安心できるサービス…?

トラストサービスが目指すべき目的は何なのか

• 手段や部品だけを用意しても、使われなくては意味がない

• 毎日使うものなのか? 土地売買のような時にのみ使うものなのか?

• ユースケースの明確化が必要

‣ e.g.) 国家間の調印行為のデジタル化等

トラストするという行為は、長期的に保証されることと同義

• インターネット社会はまだまだこれは難しい事象

13 個の観点で実現されて欲しいこと(ID/認証及びID Proofingの観点で)

オンライン上の本人手段の確立

• 攻撃に耐性があること

• 文脈ごとのデファクトスタンダード

• まだまだ成熟していない途上の状態

オンライン上で選択可能なペルソナによる、選択的属性開示可能なID/認証の仕組み

• デジタル社会の共通機能として、まだまだ端緒にも至れていない

マイナンバーカードの位置づけは非常に難しいと感じる

• 日々、人生を揺るがすレベルのクレデンシャルを持ち歩くのか

• 失くした時の恐怖心もあるが、一方、持ち歩いたら実はとても便利になる可能性もある

• さらにスマートフォンに搭載されたらどうなってしまうのか

‣ もしかしたらUXによりスマホ版マイナンバーカードは豊かになるかもしれない

14 目的に合わせた適切なレベルの利用

なんにでも最高レベルのものを使えばいいわけではない

• 「実印相当」等の物理世界の既存制度の比喩表現をデジタルテクノロジーに適用するのは個人的にはとても不適切だと思うが、それであっても「なんにでも実印は捺さない」だろう

• 何をどうやって担保するのか、Single Point of Failureにならないか、リスクはどうあるのかを考えるのはとても重要

レベルは高ければいいわけではなく、使い分けられることこそが重要

• 大は小を兼ねない

高いレベルのものを定義することで、そこから下位のレベルのものを作り上げることが可能

エコシステム全体のコストとベネフィットを計算しなくてはならない

• これを数値として明確化できる材料を提示するのはポリシーの役目

• 仮定として、トラストサービスを民間が運営するのであれば、費用対効果が一定程度

明確ではなくては成立しない

‣ Web PKIやタイムスタンプ認証局での学びを活かす必要がある

‣ 我々はいまだ、放棄ドメインの再利用にすら対応が出来ていない

15 トップダウンとボトムアップ

トップダウンの必要性

• 発展途上の場合、サービスの定義をゼロから国が主導して実施する必要があった

• EUの各国をまとめあげるのは事実上困難であり、EUデジタル単一市場など、強制的にトップダウンで実施する「必要性」があった

• 問題のある認証技術や本人確認手法では社会全体に問題が波及するため、問題のある部分を、必要に応じて変更するよう定義してきたボトムアップの必然性

• デジタルの世界において、政府よりも民間が先を走っていることは避けがたい事実• トップダウンでなにが言えるほど、我々はリソースを正しく投じていない

‣ これは今から少しずつ手を付けるべき、だが…

• 現状は、民間のデファクトスタンダードが社会を動かしており、政府が行う役割は「コストであってもやらなくてはいけない最低限の対策」

マイナンバーカードの普及が一般的となり、スマートフォンの保有が当然のことになっている状況下で、Small Startした実績からフィードバックしつつ、大きなフレームの議論は、数歩先の未来を想定してゼロベースで検討すべき

極限の安全性を考えるならば、厳しい条件下でのみ要求される実務はなにで、どう運用するのかを明確にする必要がある

そしてなにより、それをどう普及させ、スケーラビリティを得るのか

• これは、上位のレベルのものが、より日常的に使いやすい下位のレベルのものを生み出すことにもつながる

最終的には、広く社会に受け入れられるかが評価のポイント

Small Start (実務主導)

先ず、きちんと我々で実績を積み重ねることが重要

日本としてSmallな検証を進めていくべき

• 絵にかいた餅ではなく、実利のあるDFFTへの道

• この瞬間、正に始めるべき議論

• 良い面も悪い面も含めて、日本の特殊性をもとに話をするべき

正しくTransformationすべきものは山ほどある

これを進めることで、トラストサービスに求められる最低限のポリシーとその体制についての知見が一定程度明確になると思われる

Big Picture (技術主導)

Small StartとBig Picture

17 DXサービスに寄与するトラスト確保を実現するポリシー策定の検討課題

最小限、サービス提供者に求めなくてはいけないことはなにか

• 資本金?上場?事業継続性?

• 100年持つサービスがどれだけあるのか

100年持たないトラストサービスに意味があるのか

• (少なくとも行政サービスは形態を変えても正しく継続し、正しく終わることが期待できる可能性は高い=信頼?)

• 持たないのであれば、どうすればいいのか

‣ サービスが提供するものが短期間に収まればよい?

インセンティブとディスインセンティブ

• 使う理由が必要

• 信頼を損なう行為には厳しい罰則を

‣ 例えば売り上げのx%など

‣ 1億円程度では防止にならない領域は多々ある

トラストサービスにおいて政府や制度でなければ出来ないことはなにか

• 我々はeIDASがなくても経済活動を行っているし、Web PKIもInternetも国家には依存していない

• 一方、個人情報保護法のように、法や制度で守られることが重要なものがある

18 ポリシー作成における要素・要点(私見)

方向性

• ブレない方向性の提示、趣旨、あるべき姿の提示

• 利用者と提供者それぞれへのインセンティブとディスインセンティブ

安定性

• 長期間の有効性

‣ 持続性と経済性

• 社会的有効性(裁判?)

最小性

• トップダウンで定義するポリシーの内容は、最小限のものが望ましい

‣ 本SWG構成員からも同論の意見があったと認識

‣ エンジニア的観点として、個人的には、法律等にbit長やアルゴリズムを書くことはナンセンスだと考える

柔軟性

• 技術的・経済的アジリティを確保するために必要な要素として、変化を受け入れ可能にしておくことは重要

トラストサービスに関するアンケート実態調査の報告

アウトライン

1. トラストサービスのニーズ及び現状についての業種/分野別エキスパートインタビュー

2. 企業/個人へのアンケート調査実施概要

3. 企業向けアンケート結果の分析

4. 個人向けアンケート結果の分析

5. トラスト基盤の整備・普及による期待効果

中小企業では、トラストサービスの課題意識として「認知/理解不足」が特に多く、今後考えられる施策例への関心は、「低コストで導入可能な方法」「法的効力(証拠能力)の規定」「業界ごとの標準化団体設置/ガイドライン策定」がトップ3 (全体同様)

導入済

デジタル化の検討・実施のための工数がかかる

又は人的リソースが不足

効力が切れる前に更新するための工数がかかる

国際的な有効性(法的効力) が担保されていない

(電子署名以外) 法的効力(証拠能力) が担保されていない

サービス導入時のコストがかかる

(例: 電子署名用の社員分のICカード&カードリーダ等)

サービス利用時のコストがかかる

どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない

どのような方式のトラストサービスを使えば適切かわからない(どのようなものなら安全性が担保されるかわからない)

サービスの継続性/永続性に不安がある

トラスト確保によるデジタル化の期待効果の見積り/イメージ具体化(まとめ)

トラスト基盤の整備・普及により、トラスト確保によるデジタル化の促進や、デジタル/オンラインでのトラストの強化が果たされ、「業務量削減」「人為的ミスの回避」「詐欺被害等の犯罪防止」「コンプライアンス遵守強化」等の効果が期待されている

• トラスト確保により、自社のデジタル化が進展することを期待する企業は85%あり、中でも「不動産売買/賃貸の契約」、「銀行口座開設の申し込み」、「取引書類の作成」等のデジタル化への期待が大きい

– 中でも、海外と取引があり、トラストサービスでも海外連携が必要と考えられるものとしては、「各種取引書類等の作成/授受」

「銀行口座開設の申し込み」「海外送金/振り込み」等が挙げられる

– 上記で、海外取引がある企業では、各手続き等の10%~40%程度を占める

• 上記により期待される効果として、企業からは、「業務量削減」の他、「人為的ミスの回避」「コストの削減」「詐欺等の犯罪被害防止」「コンプライアンス遵守の強化」等も挙げられている

– 例えば、銀行口座の新規開設では、従前は紙による本人確認/利用開始案内を前提としていたが、トラストを確保しながらデジタル化されることによって、企業の「業務量/郵送コスト削減」、「書面偽造による不正口座作成等の犯罪被害防止」や、職員による不正防止での「コンプライアンス遵守の強化」、また個人の「手間の削減」「手続きの迅速化」の効果が見込まれる

• なお、上記効果の概算想定規模としては、「業務量削減」では~100億時間(600万人相当) の削減が見込まれる他、「詐欺等の犯罪被害防止」100億円規模が見込まれる

1. トラストが導入された場合にデジタル化された手続きを使用したいと回答した割合を期待すると記載

Source: 企業向けアンケート調査(n=347、2021/11/24~12/7実施)

トラスト確保により、自社のデジタル化が何らかの手続きにおいて進展することを期待する企業は85%あり、ニーズのあるものに関しては概ね10~25%がデジタル化を期待

戸籍附票システム標準仕様書(案)【第1.0版】

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/jichitaishisutemu_hyojunka/02gyosei04_04000127_00014.html

 資料2

戸籍附票システム標準仕様書(案)

【第1.0版】

令和4年(2022年)XX月XX日

自治体システム等標準化検討会

(住民記録システム等標準化検討会)

凡例

実務上は、住民・職員への分かりやすさ等の観点から、法令用語でない用語が用いられることがあるが、本仕様書の機能要件の記載上は、原則として法令用語を用いている。

なお、機能要件の構成は、必ずしも本仕様書のとおりとしなければならないことを意味するものではなく、本仕様書に従う限り、実務上の使い勝手を考慮してメニューを再構成することも可能である。

住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)····························法

住民基本台帳法施行令(昭和42年政令第292号)··················令

住民基本台帳法施行規則(平成11年自治省令第35号)············規則

戸籍法(昭和22年法律第224号)·····························戸籍法

情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第16号)······················································デジタル手続法

地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和3年法律第40号)···········標準化法

住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日自治振第150号等自治省行政局長等から各都道府県知事あて通知)······················事務処理要領

住民基本台帳ネットワークシステム····················住基ネット

コミュニケーションサーバー··································CS

住民基本台帳ネットワークシステムシステム構築手引書戸籍附票システム改造仕様書(第0.5版)(令和3 年5 月)·········戸籍附票システム改造仕様書

目次

第1章本仕様書について……………………..8

背景…………………..9

2.目的………………………11

3.対象……………….15

4.本仕様書の内容……………..17

第2章標準化の対象範囲………………..21

標準化の対象範囲………………………22

第3章機能要件…………………..23

1管理項目…………………………..24

1.1戸籍の附票データ…………………25

1.2異動履歴データ………………………..39

1.3その他の管理項目…………………42

2検索・照会・操作………………..45

2.1検索……………………….46

2.2照会…………………………….49

2.3操作………………………..51

3抑止設定…………………………….52

4異動……………………………………56

4.1職権……………………………..60

4.2異動の取消し…………………..63

5証明…………………………64

6統計69

7連携………………………………………71

7.1CS連携………………………..72

7.2 庁内他業務連携……………………….74

8実装してもしなくても良い機能 ……………………….76

8.1 本人通知…………………………………..77

9 バッチ…………………………79

10 共通………………………82

11 エラー・アラート項目……………….91

第4章様式・帳票要件………………104

20.1 戸籍の附票の写し等……………………..113

20.2 その他………………………….136

20.3 住民基本台帳関係年報の調査様式………………….142

第5章データ要件……………….143

第6章非機能要件……………………..145

第7章用語…………………….147

別紙1業務フロー

別紙2ツリー図4 / 161

目次(詳細)

凡例…………………………1

第1章本仕様書について…………………………8

1.背景…………………………..9

2.目的…………………………11

(1)目指す姿…………………………..11

(2)本仕様書の目的…………………………12

3.対象………………………….15

(1)対象自治体…………………………15

(2)対象分野……………………………..15

(3)対象項目…………………15

デジタル社会を見据えた対応………………….16

4.本仕様書の内容……………………..17

(1)本仕様書の構成……………………….17

(2)標準準拠の基準………………………17

(3)想定する利用方法…………………..18

(4)本仕様書の改定……………………..18

各自治体の調達仕様書の範囲との関係…………..19

第2章標準化の対象範囲……………………..21

標準化の対象範囲………………………22

第3章機能要件………………………….23

1管理項目……………………………24

1.1戸籍の附票データ……………………25

1.1.1戸籍の附票データの管理………………………………..25

1.1.2改製………………………………………………..27

1.1.3戸籍の附票の除票の管理………………………………..28

1.1.4改製不適合戸籍の附票の管理…………………………….29

1.1.5空欄………………………………………………..30

1.1.6年月日の管理…………………………………………31

1.1.7年月日の表示…………………………………………32

1.1.8在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村名…………..32

1.1.9本籍・筆頭者…………………………………………33

1.1.10戸籍附票宛名番号、附票番号……………………………33

1.1.11備考……………………………………………….34

1.1.12メモ……………………………………………….35

1.1.13支援対象者管理………………………………………35

1.1.14郵便番号……………………………………………38

1.1.15フリガナ……………………………………………38

1.2異動履歴データ…………………….39

1.2.1異動履歴の管理……………………………………….39

1.2.2異動事由…………………………………………….39

1.3その他の管理項目…………………….42

1.3.1入力場所・入力端末……………………………………42

1.3.2住所辞書管理…………………………………………42

1.3.3和暦・西暦管理……………………………………….43

1.3.4公印管理…………………………………………….43

1.3.5交付履歴の管理……………………………………….43

1.3.6認証者………………………………………………44

2検索・照会・操作…………………….45

2.1検索…………………………………46

2.1.1検索機能…………………………………………….46

2.1.2検索文字入力…………………………………………46

2.1.3基本検索…………………………………………….47

2.2照会……………………….49

2.2.1異動履歴照会…………………………………………49

2.2.2交付履歴照会…………………………………………49

2.2.3文字コード照会等……………………………………..49

2.2.4支援対象者照会……………………………………….50

2.3操作………………………………51

2.3.1キーボードのみの画面操作………………………………51

3抑止設定……………………………..52

3.1異動・発行・照会抑止……………………………………53

3.2支援措置………………………………………………53

異動………………………..56

4.0.1異動者………………………………………………57

4.0.2異動日・処理日……………………………………….57

4.0.3審査・決裁…………………………………………..58

4.0.4入力確認・修正……………………………………….59

4.0.5一括入力…………………………………………….59

4.1職権………………………..60

4.1.1戸籍届出等に基づく戸籍の附票の職権記載等………………..60

4.1.2在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村の異動……….60

4.1.3CSから受信した戸籍の附票記載事項通知及び本籍転属通知の取込..61

4.1.4 誤記修正 …………………………………………….62

4.2異動の取消し………………………..63

4.2.1異動の取消し……………………….63

5証明…………………………………………….64

5.1証明書記載事項…………………………………………65

5.2同一の戸籍の附票の者の並び順…………………………….66

5.3方書の記載…………………………………………….66

5.4発行番号………………………………………………67

5.5公印・職名の印字……………………………………….67

5.6公用表示………………………………………………68

5.7文字溢れ対応………………………………………….69

6.1統計………………………………………………….70

7連携…………………………71

7.1CS連携…………………………72

7.1.1CSへの自動送信……………………………………….72

7.1.2附票本人確認情報との整合性確認…………………………73

7.2 庁内他業務連携…………………………74

7.2.1住民記録システムとの連携……………………74

7.2.2個人番号カードによる証明書等の交付……………………..74

8実装してもしなくても良い機能 …………….76

8.1 本人通知……………………………………77

8.1.1登録管理…………………………………………….77

8.1.2画面表示…………………………………………….77

8.1.3通知書出力…………………………………………..77

9 バッチ………………………………….79

9.1バッチ処理………………………………..80

9.2抑止対象者…………………………………………….81

 共通…………………………………………82

10.1EUC機能ほか…………………………………………..83

10.2アクセスログ管理………………………………………85

10.3操作権限管理………………………………………….87

10.4操作権限設定………………………………………….88

10.5ヘルプ機能……………………………………….88

10.6中間標準レイアウト仕様での出力………………………….89

10.7印刷…………………………………………………89

10.8CSV形式のデータの取込(P)……………………………….90

11 エラー・アラート項目………………………..91

11.1エラー・アラート項目………………………….92

第4章様式・帳票要件…………………………104

20.0.1様式・帳票全般……………………………………..105

20.0.2各項目の記載……………………………………….106

20.0.3備考欄(異動履歴)の記載…………………………….107

20.0.4備考欄(異動履歴)の記載の修正……………………….110

20.0.5備考欄(編製年月日等)の記載…………………………111

20.0.6備考欄(その他)の記載………………………………111

20.1 戸籍の附票の写し等………………………..113

20.1.1戸籍の附票の写し…………………….113

20.1.2戸籍の附票の除票の写し……………………125

20.2 その他………………………….136

20.2.1支援措置期間終了通知………………………………..136

20.2.2在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者の戸籍又は戸籍の附票の変更通知書137

20.3 住民基本台帳関係年報の調査様式………………142

20.3.1住民基本台帳関係年報の調査様式第4表及び第5表…………142

第5章データ要件…………………………………..143

30.1データ構造…………………………….144

30.2文字(P)……………………………….144

第6章非機能要件…………………………145

第7章用語……………………………………..147

別紙1業務フロー

別紙2ツリー図

第1章本仕様書について

1.背景

自治体の情報システムは、これまで各自治体が独自に構築・発展させてきた結果、その発注・維持管理や制度改正対応などについて各自治体が個別に対応しており、人的・財政的負担が生じている。特に人口規模が一定以上の自治体を中心に、同一ベンダのシステムを利用する自治体間でもシステムの内容が異なることが多く、クラウド上のサービスを利用する方式への移行の妨げとなっている。さらに、自治体ごとに様式・帳票が異なることが、それを作成・利用する住民・企業・自治体等の負担に繋がっている。

また、中長期的な人口構造の変化に対応した自治体行政に変革していくためにも、自治体の情報システムに係る重複投資をなくして標準化・共同化を推進し、自治体行政のデジタル化に向けた基盤を整備していく必要がある。

そうした問題意識から、自治体行政のデジタル化に向け、自治体の情報システムや様式・帳票の標準化等について、自治体、ベンダ及び国が協力して具体的な検討を行う場として、令和元年(2019年)8月から、総務省において、自治体システム等標準化検討会(座長:庄司昌彦武蔵大学社会学部教授)が開催され、更に詳細な議論を行う場として分科会(分科会長:後藤省二株式会社地域情報化研究所代表取締役社長)が開催されている。

令和2年9月11日に住民記録システム標準仕様書【第1.0版】が公表されて以降、デジタル・ガバメント閣僚会議の下で開催された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」における議論も踏まえ、令和2年12月25日の「デジタル・ガバメント実行計画」では、地方公共団体の主要な17業務について、システムの標準仕様を作成すること、地方公共団体の情報システムの標準化・共通化を実効的に推進するための法律案を令和3年通常国会に提出すること、標準化の目標時期を令和7年度とすることなどが閣議決定された。このことを受けて、第204回通常国会では、標準化法が可決成立した。

また、令和3年12月24日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、基幹業務システムを利用する原則全ての地方公共団体が、目標時期である令和7年度(2025年度)までに、ガバメントクラウド上に構築された標準化基準に適合した基幹業務システムへ移行する統一・標準化を目指すこととされた。標準化対象事務は、標準化法の趣旨を踏まえ、情報システムによる処理の内容が地方公共団体において共通しているかという観点等から、累次の閣議決定において示されてきた17業務に、印鑑登録及び戸籍、戸籍の附票事務の3業務を加えることとされた。また、戸籍の附票は、住民票と戸籍の情報をつなぎ合わせ、もって住民票の記載の正確性を担保する機能を果たすとともに、在外選挙人名簿への登録等の選挙事務に伴う公証事項のほか、デジタル手続法による改正後の法では、住民票コードなどが戸籍の附票の記載事項に追加され、国外転出者の本人確認情報の公証を担うこととなり、市区町村間の情報連携手法がデジタル化されることから、このことを前提とした機能の整備を進める必要がある。こうしたことを踏まえ、戸籍附票システム標準仕様書(以下「本仕様書」という。)は、戸籍の附票を規定する法及び事務処理要領を基礎にしつつ、「住民記録システム標準仕様書(第2.0版)」を参考に、策定されたものである。

2.目的

(1)目指す姿

本仕様書が目指す姿は、「複数のベンダがガバメントクラウド上でシステムのアプリケーションサービスを提供し、各自治体は、原則としてカスタマイズせずに利用し、ほとんど発注・維持管理や制度改正対応の負担なく、業務を行える姿」

とする。

〔各主体にとってのシステム標準化のメリット〕

〇住民・企業等のサービス利用者

自治体に対して異なる手続で実施していた申請等が統一的に実施可能となり、手続の簡素化や合理化を実現する。

○自治体

限られた人材や専門的な知識・ノウハウを共有することで、自治体のシステム調達や法令改正対応等の業務及び調整に係るコストが減少し、本来自治体職員が行うべき業務に人材を充当できるようになる。また、財政面においては、カスタマイズの抑制、システムの共同化による割り勘効果を生むことで、導入・維持管理の費用や法令改正時の費用を削減する。

○ベンダ

個別のカスタマイズ要望が減ることにより、個別自治体との調整やカスタマイズのためのプログラミングの負担が減少し、人口減少下で稀少化するシステムエンジニアの人員をAI・RPA等の攻めの分野に投入し、創意工夫により競争することが可能となる。

さらに、各主体のメリットのみならず、国・国民全体として、事務の迅速化・正確性の向上や、データ利活用の促進等のメリットがある。

(2)本仕様書の目的

我が国の自治体が中長期的な人口構造の変化に直面する中にあっても、住民サービスを維持・向上させ続けるためには、クラウド化等を通じた自治体の職員負担の削減、ベンダの負担の削減やベンダ間での円滑なシステム更改等を通じた自治体の財政負担の削減を進める必要がある。また、デジタル社会において実現・普及する技術を取り入れることで、自治体は、デジタル社会に対応した住民サービスを提供することが求められる。

それを実現する手段として、システムの標準化を進めることとし、その基礎となる標準仕様書の作成を通じて、以下の3つの目的を実現する。

(目的1)カスタマイズを原則不要にする

今あるカスタマイズの中で、普遍的に有用性が認められるものは標準的に実装すべき機能として標準仕様書に盛り込み、そうでないものは実装しない機能とすることで、「人口規模が大きな団体でも、標準準拠パッケージであればカスタマイズなしで支障なく業務が行える」ようにして、カスタマイズを原則不要にする。

(目的2)ベンダ間での円滑なシステム更改を可能にする

ベンダ間共通の標準装備すべき機能やデータの標準等を定めることで、ベンダ移行時の円滑なシステム更改を可能にする。

(目的3)自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う

デジタル社会に必要な機能のうち現段階で普遍的に有用性が認められるものを搭載することで、自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う。

具体的には、目的1(カスタマイズを原則不要にする)に関して、現時点で実装されているカスタマイズのうち、標準的に実装すべき機能と実装しない機能の仕分けを行うことにより、

・カスタマイズについての自治体内、自治体間、自治体・ベンダ間の調整コストの削減、導入・維持管理や制度改正時の負担(重複投資)の削減

・自治体間の調整コストの削減による、自治体間のシステム共同化の円滑化

・カスタマイズについてのシステムエンジニアのプログラミングの負担の削減

を、目的2(ベンダ間での円滑なシステム更改を可能にする)に関して、異なるベンダ間において、データの標準や、標準装備すべき機能を定めることにより、

・ベンダが異なる自治体間も含めたクラウド化

・ベンダロックインの防止による健全な競争の促進

を、目的3(自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う)に関して、デジタル社会に必要な機能を搭載することにより、

・住民の利便性向上

自治体のデータ入力の負担の削減

を目指している。

今あるカスタマイズのうち標準仕様書に盛り込む機能と盛り込まない機能を仕分け異なるベンダ間において、データ移行における移行ファイルの標準や、標準装備すべき機能を設定

カスタマイズについての自治体内、自治体間、自治体・ベンダ間の調整コストの削減

調達時、制度改正時の負担(重複投資)を削減

自治体間の調整コストを削減し、自治体間のシステム共同化が容易に

カスタマイズについてのSEのプログラミングの負担の削減

自治体・ベンダ間の調整コストの削減

ベンダロックインを防ぎ、健全な競争を促進

サーバの構築・維持管理負担の削減

調達時、制度改正時の負担(重複投資)を削減

自治体・ベンダ間の調整コストの削減

ベンダから見たシステムの原価を削減

時間外勤務等の削減

マイナンバーカードの活用やデータ利活用等の、デジタル社会に必要な機能を搭載

紙媒体の申請書をシステムに入力する作業が不要に

各自治体がデジタル社会に必要な機能について個別にベンダと協議することが不要に

住民サービスの向上のために人材を集中

住民サービスの向上のために財源を集中

住民の利便性向上

スケールメリットを生かしたハードウェアの導入・維持費用の削減

現在、ベンダが異なる自治体間でも共同クラウド化

目的2ベンダ間での円滑なシステム更改

ベンダの負担の削減

治体の財政負担の削減

人口減少社会・デジタル社会における住民サービスの維持・向上

目的1カスタマイズを原則不要に

自治体の職員負担の削減

標準仕様書の作

クラウド化

目的3自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備

3.対象

(1)対象自治体

本仕様書の対象自治体は、全ての市区町村とする。

なお、本仕様書における「市区町村」の区とは、特別区のことであるが、法令で指定都市の区及び総合区が市と、区長及び総合区長が市長とみなされる場合は、法令と同様の扱いとする。ただし、本文中の各項目に記載のとおり、以下の区分に応じて異なる要件としているものもある。

・指定都市

・一般市区町村

また、指定都市においては、第3章機能要件の中で示す5(証明)については区を越えた処理を可能とする。

(2)対象分野

本仕様書が規定する対象分野は、地域情報プラットフォーム標準仕様における戸籍ユニットのうち戸籍附票に関連する箇所とする。

・自治体業務アプリケーションユニット標準仕様V3.5

なお、概ね住民基本台帳制度上の戸籍の附票事務と対応しているが、一部については本仕様書において規定していない。例えば、法第19条第1項に基づく通知のうち住基ネット回線を通じて実施する部分については、別途「戸籍附票システム改造仕様書」に基づく仕様があることから本仕様書の対象外とする。

(3)対象項目

本仕様書では、以下の項目について規定する。

・標準化の対象範囲(第2章)

・機能要件(第3章)

・様式・帳票要件(第4章)

・データ要件(第5章)(※)

・非機能要件(第6章)

以下の項目については原則として規定しない。ただし、カスタマイズの発生源になっている場合等についてはこの限りでない。

・画面要件

・ヘルプやガイドの具体的内容等、業務遂行に必須ではなく専ら操作性に関する機能

このうち、機能要件、様式・帳票要件及び連携要件(※)は、カスタマイズの発生源になっている部分であるため、「2(2)本仕様書の目的」に示した目的1(カスタマイズを原則不要にする)から本仕様書の対象とすることとした。また、機能要件、データ要件及び連携要件(※)は、ベンダ間での円滑なシステム更改を阻害している部分であるため、目的2(ベンダ間での円滑なシステム更改を可能にする)から本仕様書の対象とすることとした。さらに、目的3(自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う)から、デジタル社会に必要な機能については、これらの要件の中に反映した。

※データ要件及び連携要件については、「地方自治体の業務プロセス・情報システムの標準化の作業方針の見直しについて」(旧内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下「IT総合戦略室」という。現デジタル庁)に基づき、デジタル庁を中心に検討が行われており、その検討を踏まえ、本仕様書における記載ぶりについても見直しを行うこととする。

なお、様式・帳票要件では、戸籍附票システムを標準化するという観点から、多くの自治体において戸籍附票システムから出力する様式・帳票(例:戸籍の附票の写し)について規定することとし、多くの自治体において戸籍附票システムから出力するとは限らない様式・帳票(例:戸籍の附票の写しの請求書)については規定しないこととした。

また、非機能要件では、自治体を通じて共通して規定すべきもの(例:セキュリティ)については規定し、共通して規定すべきでないもの(例:研修)については規定しないこととした。したがって、各自治体の情報システムの調達において、本仕様書に規定されていない非機能要件を設けることを妨げるものではない。

デジタル社会を見据えた対応

本仕様書は、これからのデジタル社会においてあるべき姿(電子化・ペーパーレス化)を視野に標準を設定するとしつつも、これからのデジタル社会においてあるべき姿にそのまま即したものには必ずしもなっていない。例えば、本仕様書において、紙の証明書について規定しているが、バックヤードでのデータ連携が進めば、今後、必要性が低下していくものと考えられる。また、データ構造や文字についても、直ちにあるべき姿に移行するとせずに、経過措置を設けている。

また、これからのデジタル社会を見据えれば、実務やシステムの前提となる制度自体を見直すべきという考え方もあり得る。しかし、そうした制度自体の検討については、一朝一夕にできるものではなく、あまりにも現在の実務から遊離した仕様書となれば、実効性が失われる。

そこで、本仕様書としては、電子化・ペーパーレス化も含め、これからのデジタル社会においてあるべき姿を視野に入れつつ、現行制度の下で、多くの自治体が支障なく対応できるものについて、できる限り盛り込むこととした。

他方、デジタル社会を見据え、様々な社会環境の変化に対応するためには、本仕様書の作成後、実務やシステムの前提となる制度を随時見直していくことが重要であり、制度の見直しとともに本仕様書を改定していくことが求められる。

4.本仕様書の内容

(1)本仕様書の構成

第1章では、本仕様書の背景、目的、対象及び内容について記載している。

第2章では、標準化の対象範囲を記載している。

第3章、第4章、第5章及び第6章では、それぞれ、戸籍附票システムが備えるべき機能要件、様式・帳票要件、データ要件及び非機能要件について記載している。「(2)標準準拠の基準」にあるように、これらの章は、パッケージシステムが本仕様書に準拠するための判断基準となるものであり、言わば本仕様書の本体部分である。

第7章では、本仕様書において用いている用語について、解釈の紛れがないよう、定義している。

また、別紙に業務フロー及びツリー図を記載している。業務フローは、第3章で規定する機能要件が業務上どのように位置づけられ、有効に機能するのかについて自治体及び事業者の共通理解を促すため、それらに対応したモデル的な業務フローを示している。ここで示した業務フローは、実際の各自治体における業務フローを拘束するものではないが、現在の業務フローでは、本仕様書における機能要件どおりの機能で業務を行うことが難しいと考える自治体は、現在の業務フローを本仕様書に示す業務フローに寄せる(BPR)ことで、本仕様書における機能要件どおりの機能で業務を行うことが期待される。ツリー図は、戸籍の附票に係る業務における機能要件の一覧性を高め、標準化の対象となる業務を明確化するため、業務フローに紐づいた形式で記載している。

(2)標準準拠の基準

本仕様書の対象は地域情報プラットフォーム標準仕様における戸籍ユニットのうちの戸籍附票に関連する箇所の定義を基本としており、この対象範囲において定義すべき機能について、【実装すべき機能】【実装しない機能】【実装してもしなくても良い機能】の3類型に分類した。可能な限り3類型のいずれに該当するか分類をした上で、定義すべき機能の範囲内で分類されていない機能は、カスタマイズ抑制、ベンダ間移行の円滑化の観点から、実装しない機能と同様のものとして位置付ける。

パッケージシステムが本仕様書に準拠するためには、第3章、第4章及び第5章に規定する【実装すべき機能】をいずれも実装し、【実装しない機能】及び分類されていない機能をいずれも実装しないことが必要である。ただし、分類されていない機能のうち、自治体やベンダの創意工夫により新たな機能をシステムに試行的に実装させて機能改善の提案を行う場合は、当該試行についてあらかじめ公表し、当該試行を本仕様書に盛り込む提案となることを条件にして実装することを可能とする。【実装してもしなくても良い機能】は、実装しても、実装しなくても、実装した上で自治体が利用を選択できることとしても、いずれも差し支えない。

また、本仕様書に準拠しているかどうかは、「3(1)対象自治体」で示した指定都市及び一般市区町村の類型ごとに判断される。特に明記しない限り、2類型全てに当てはまる要件として記載しており、必要に応じて、「指定都市においては、~~」、「(一般市区町村においては、実装してもしなくても良い。)」のように記載している。

なお、実装すべき機能のうち、法令上必ず使用しなければならない機能と必ずしも使用しなくてもよい機能があり、個別に判断する必要がある。

(3)想定する利用方法

標準化法第8条第1項では、「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない。」とされており、本仕様書を基礎として、各所管大臣は、標準化法第6条に基づき標準化基準を策定することが想定される。したがって、本仕様書については、

・今後、整備予定の「ガバメントクラウド」上において、各ベンダが、本仕様書に準拠しているシステムを提供する

・各自治体は、本仕様書に準拠しているパッケージシステムをカスタマイズすることなく利用することを想定している。

自治体においては、人口減少による労働力の供給制約の中、システムについて十分な知見がなくても、負担なくシステムを調達し、利用できることが望ましい。自治体としては、標準化後にシステム更改を行う際は改めて本仕様書に示した個別の要件を一々提示してRFI (request for information)やRFP (request for proposal)、更にはFit & Gap分析を行って調達するのではなく、単に、本仕様書に準拠しているパッケージシステムであることを要件に付するだけで、調達を行うことができ、カスタマイズをすることなく利用できることを想定している。本仕様書は、本仕様書における機能さえあればカスタマイズなしで支障なく業務が行えるようになるよう、実装すべき機能と実装しない機能をその理由とともに整理したものである。そのため、自治体内での検討や自治体・ベンダ間の協議の際に、仮に本仕様書における機能と異なる機能が必要ではないかという議論があった場合、限られた人員、財源の中で、果たして当該自治体だけ特別に必要な機能なのか、本仕様書が想定する業務フローを参照し、効率的な業務運用への見直しが必要ではないか、という観点から、本仕様書における必要/不要の整理を知るための資料として参照することも想定している。

(4)本仕様書の改定

本仕様書については、制度改正時のほか、戸籍情報システムの標準仕様書(法務省所管)に変更が生じた場合、自治体やベンダからの創意工夫によるシステムの機能改善等の提案がある場合や新たな技術が開発されるなどデジタル化の進展等がみられる場合にも、関係者の関与の下で改定することを想定している。とりわけ、制度改正により本仕様書を改正する必要がある場合は、制度の施行時期を勘案して改定する。改定後の本仕様書に基づいて、ベンダがクラウド上で一括してシステムを改修することにより、制度改正等のたびごとに個々の自治体が個別にベンダと協議して改修を行う必要がなくなると想定される。

各自治体の調達仕様書の範囲との関係

本仕様書を用いることにより、戸籍の附票事務を運用することは可能であり、本仕様書の対象範囲については本仕様書に記載された内容で調達する必要がある。

しかしながら、各自治体においては、本仕様書の対象範囲外の機能や戸籍情報システムなどと併せて調達すること、また本仕様書に規定されていない非機能要件を設けること等も想定され、各自治体の調達仕様書の範囲と標準仕様書の範囲は必ずしも一致しないと考えられる。この場合であっても、各自治体の情報システムの調達において、本仕様書の範囲の業務について本仕様書に記載された内容で調達する限りにおいては、このような対応も許容される。

また、戸籍附票システムについては、戸籍情報システムに同梱されたパッケージを調達することが主流となっているため、戸籍情報システムとアプリケーションモジュールやデータベースなどを共有するシステム構成とすることも考えられるが、戸籍の附票事務の独立性が確保される限り、このようなシステム構成についても許容される。例えば、審査・決裁機能について同じアプリケーションモジュールを活用し、同時に処理を実施することは許容するが、戸籍情報システムの審査・決裁機能を以て戸籍附票システムの審査・決裁機能とすることは許容しない。また、データベースについても、戸籍情報システムで管理する情報を参照する場合は共通項目としても問題ないが、戸籍附票システムにて独自に管理・更新が必要な項目については個別に実装する必要がある。

【戸籍情報システムとシステム構成を共有することを許容する項目】

第4章機能要件

1.1.5空欄

1.1.6年月日管理

1.1.7年月日の表示

1.1.9本籍・筆頭者

1.1.15フリガナ

1.3.1入力場所・入力端末

1.3.2住所辞書管理

1.3.3和暦・西暦管理

1.3.4公印管理

1.3.5交付履歴の管理

1.3.6認証者

2.1.1検索機能

2.1.2検索文字入力

2.2.1異動履歴照会

2.2.2交付履歴照会

2.2.3文字コード照会等

2.3.1キーボードのみの画面操作

3.1異動・発行・照会抑止

4.0.3審査・決裁

5.5公印・職名の印字

5.6公用表示

5.7文字溢れ対応

10.2アクセスログ管理

10.3操作権限管理

10.4操作権限設定

10.5ヘルプ機能

10.7印刷

30.2文字

第6章非機能要件

第2章標準化の対象範囲

標準化の対象範囲

戸籍附票システムの標準化の対象となる範囲は、本仕様書において、実装すべき機能及び実装してもしなくても良い機能として規定している機能要件や、非機能要件、データ要件・連携要件等の共通要件とする。

本仕様書に準拠する戸籍附票システムにより処理する事務は、概ね住民基本台帳制度上の戸籍の附票事務と対応しているが、必ずしも1対1で対応しているわけではない。

本仕様書は、地域情報プラットフォーム標準仕様における戸籍ユニットのうちの戸籍附票に関連する箇所を基本として、今あるカスタマイズの中で、普遍的に有効性が認められるものは標準機能として標準仕様書に盛り込み、そうでないものは盛り込まないことで実装しない機能として整理し、策定した。

第3章機能要件

1 管理項目

1.1 戸籍の附票データ

1.1.1 戸籍の附票データの管理

【実装すべき機能】

戸籍の附票に記載されている者(消除となった者も含む)について、以下の項目を管理すること。

また、以下の項目の一部(戸籍の表示(本籍・筆頭者)、氏名、生年月日、性別等)については、戸籍情報システム等の戸籍附票システム以外のシステムでのデータベースの構築も可能とするが、その場合でも、30.1(データ構造)に規定する最新データの保持と、戸籍附票システムの端末画面上でデータベースを確認できる機能を有すること。

【戸籍の附票記載事項に当たる項目(法第17条各号及び第17条の2第1項関係)】

・戸籍の表示(本籍・筆頭者)

・氏名

・生年月日(和暦で管理すること。)

・性別

・住所(方書を含む。)

・住所を定めた年月日

・住民票コード

・国外転出者である旨(国名等)、転出予定年月日

・在外選挙人名簿登録市区町村名

・在外投票人名簿登録市区町村名

【戸籍の附票の除票固有の記載事項に当たる項目(法第21条の2関係)】

・消除事由(消除、改製)

・事由の生じた年月日

【戸籍の附票のその他の項目】

・戸籍附票宛名番号

・附票番号

・同一の戸籍の附票の者の並び順(5.2参照)

・異動履歴として管理する各項目(1.2.1参照)

・住所(方書を含む。)の履歴

・住所を定めた年月日の履歴

証明書の交付履歴(1.3.5参照)

・抑止フラグ

・備考(1.1.11参照)

・メモ(1.1.12参照)

・氏名のフリガナ(1.1.15参照)

・住所コード

・住所の郵便番号

・編製年月日

・改製記載年月日(改製記載の場合)

・再製記載年月日(再製記載の場合)

・個人番号未付番者についてCSとの連携のために設定される符号

・利用者証明用電子証明書シリアル番号

戸籍の附票の除票固有のその他の項目】

・改製消除年月日(改製消除の場合)

【実装しない機能】

消除となった者における項目の記載・消除・修正ができること。

【考え方・理由】

戸籍の表示(本籍・筆頭者)は、戸籍情報システムで管理されている内容と同一の内容を管理すること。

氏名は、該当する戸籍に記載されている氏名と同一の字形で記載ができること。

また、生年月日は該当する戸籍に記載されている生年月日と同じ内容とし、住民記録システムに準じ和暦で管理すること。ただし、データベースに保持する形式として西暦も許容するが、入出力において和暦に変換する機能を有すること。

性別について、戸籍情報システムに記録されている実父母(又は養父母)との続柄や夫又は妻の情報等から変換された性別とすること。

戸籍附票宛名番号は、戸籍附票システム内で採番された個人を特定できる一意な番号を指す。附票番号とは、戸籍の附票単位で振られた番号を指す。

同一の戸籍の附票の者の並び順は、該当する戸籍に記載されている者と一致すること。

個人番号未付番者については、戸籍の附票に住民票コードが記載されないところ(デジタル手続法附則第4条第3項)、CSとの連携のため、住民票コードに代わる符号を設定し、記載すること。

世帯主氏名は、分科会における議論の結果、使用実態及び今後のニーズが確認できなかったことから、不要と判断した。

消除となった者又は戸籍の附票の除票について本人からの申出等による誤記修正を行った場合又は戸籍の訂正があった場合は、記載事項を修正せず、誤記等である旨又は誤記等の修正後の記載について備考欄に記載されることとし、記載・消除・修正は実装しない機能とした。

なお、消除となった後に消除となった者と同一戸籍の氏変更があった場合等においても、消除となった者については消除となった際の情報を保持すること。ただし、消除となった者が当該戸籍の筆頭者である場合、身分事項としての氏の変更は許容しないが、戸籍届出等による修正により戸籍の表示としての筆頭者氏名欄の氏(戸籍の附票のインデックスとしての氏)の変更を認める。

再製については滅失された戸籍の附票に対して行われるものであることから、再製消除年月日については記録できる戸籍の附票の除票が存在しないため、管理項目としていない。

1.1.2 改製

【実装すべき機能】

戸籍の附票は、欄の大きさの上限(履歴を保持できる上限回数のこと。)を設けず、満欄による自動改製は行わないこと。

戸籍の附票は、任意のタイミングで手動改製ができること。

改製を行った年月日を管理できること。

また、戸籍法第11条の2に基づき戸籍が再製された場合においては、戸籍の附票を改製すること。

【考え方・理由】

法においては、市区町村長の判断により改製が可能であることから、任意改製の機能を設けることとする。

戸籍情報システムに同梱して構築された場合においても、戸籍の附票単独で改製が必要となることが想定されるため、戸籍附票システム単独で改製を実施できる機能を想定している。

戸籍附票システムにおいては、戸籍情報システムにおける訂正に係る事項の記載のない戸籍の附票の再製という概念が存在しないことから、戸籍法第11条の2に基づき、戸籍において虚偽の届出等、錯誤による届出等又は市町村長の過誤の訂正に係る事項の記載のない戸籍の再製の申出があり、戸籍の再製が行われた際には、改製することとする。戸籍の全部又は一部が滅失等した場合の戸籍法第11条に基づく戸籍の再製が行われた際には、戸籍附票システムにおいても再製で対応することを想定している。

また、「市町村長は、戸籍の附票を改製する場合には、当該戸籍の附票の消除前又は修正前の記載(法第16条第2項の規定により磁気ディスクをもって調製する戸籍の附票にあっては、記録)の移記を省略することができる」(令第21条第2項の規定により読み替えて準用する令第13条の2)とされていることから、改製する場合においても最新の履歴以外を移行することは許容されている。

1.1.3 戸籍の附票の除票の管理

【実装すべき機能】

戸籍の附票に記載された者全員を消除したとき、又は戸籍の附票を改製したときは、戸籍の附票の除票とすること。

消除又は改製を実施した日(消除の事由が生じた年月日又は改製消除年月日)より150年間保存を行うこと。

保存期間を経過した戸籍の附票の除票の廃棄を行えること。

法第21条の2に規定する戸籍の附票の除票の記載事項及び備考欄に誤記があることが判明した場合、備考欄に誤記である旨及び正しい記載を入力すること。

テキストデータ化が実施できていない戸籍の附票の除票に関してはイメージデータで管理できること。イメージデータの解像度は400dpiとするが、標準準拠システム移行前に当該解像度以外で読み取ったイメージデータについては、そのままの解像度で差し支えない取扱いとする。

読み取った戸籍の附票の除票はBMP形式又はBMP形式に可逆変換できること(例:TIFF)。

読み取った戸籍の附票の除票に対してイメージ処理が行えること(例:文字追加、線描画など)。

スキャナでの戸籍の附票の除票読み込み時に濃度が調整できること。

スキャナで読み込んだ戸籍の附票の除票を回転させ、体裁を整えることができること。

スキャナの読み取り位置を設定できること。

戸籍の附票の除票のイメージデータに変更が発生した場合、システム上で誤記修正・保存処理を実施できること。

デジタル手続法第10号施行日以前の戸籍の附票の除票については、イメージデータを検索するための項目として、氏名・生年月日・戸籍の表示(本籍・筆頭者)・住所・消除事由(職権消除、改製等)・事由の生じた年月日を登録できること。また、その項目を基に検索が実施できること。

【考え方・理由】

令34条に基づき、戸籍の附票の除票は150年保存が可能な形式とする。

デジタル手続法による改正後の法により、住民票の除票と同様、戸籍の附票の除票が公証基盤として法令上明確に位置づけられた。これにより、戸籍の附票の除票となった時点の情報を確実に記録しておくことが必要であることから、戸籍の附票の除票の記載事項は修正しないこととされた。よって、万が一、誤記が判明した場合は、戸籍の附票の除票の記載事項を直接修正せず、戸籍の附票の除票の備考欄に誤記である旨及び正しい記載等を入力することとする。

また、戸籍の附票の除票の記載事項でない事項に誤記があることが判明した場合も、備考欄に誤記である旨及び正しい記載等を入力できること。

戸籍情報システム電算化前の戸籍の附票の除票は紙での管理、イメージデータでのシステム管理の2つの管理形態が存在しており、様式については規定されていないため様々な様式が存在している。

また、ペーパーレス化の観点や、デジタル手続法第9号施行日以降、本籍・筆頭者等の省略に対応するための手処理運用の煩雑さを考慮すると、紙運用よりもシステムで運用できることが望ましいため、テキストデータ化ができない戸籍の附票の除票についてはイメージデータのシステム管理ができる機能を定義している。イメージデータ管理の機能は、システム移行時も考慮し、解像度やデータ形式なども定義している。また、データ形式の変換及びイメージデータの回転は、イメージデータに変更を加えないまま実施することを想定しており、改ざんに当たらない。濃度調整についても、元の戸籍の附票の除票の内容を損なうような調整にならないものを指している。

1.1.4 改製不適合戸籍の附票の管理

【実装すべき機能】

電子データ(テキスト)及びイメージデータとして管理すること。

イメージデータの解像度は400dpiとするが、標準準拠システム移行前に当該解像度以外で読み取ったイメージデータについては、そのままの解像度で差し支えない取扱いとする。

読み取った改製不適合戸籍の附票はBMP形式又はBMP形式に可逆変換できること(例:TIFF)。

読み取った改製不適合戸籍の附票に対してイメージ処理が行えること(例:文字追加、線描画など)。

スキャナでの改製不適合戸籍の附票の読み込み時に濃度が調整できること。

スキャナで読み込んだ改製不適合戸籍の附票を回転させ、体裁を整えることができること。

スキャナの読み取り位置を設定できること。

改製不適合戸籍の附票のイメージデータに変更が発生した場合、システム上で職権記載、職権消除及び職権修正・保存処理を実施できること。編集機能として、文字情報の追加・消除、編集内容の確認画面と承認機能を有すること。

電子データ(テキスト)としては、1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する項目を管理すること。また、規定した項目を基に検索ができること。

【考え方・理由】

改製不適合戸籍の附票とは戸籍情報システムの電算化において、「誤字を使用することができず、本人が文字の変更を認めない場合や確認が取れない場合」等に戸籍がテキストデータ化されないことに伴い戸籍の附票においてもテキストデータにされずに紙やイメージデータのまま管理がされている戸籍の附票を指す。

現在も改製不適合戸籍の附票を管理している団体が存在しており、紙又はイメージデータによるシステム管理の2つの管理形態が存在する。

戸籍については、平成26年7月4日付け法務省民一第740号民事局第一課長回答にて、「電子情報処理組織の取り扱いに適合しない戸籍の画像情報処理方式による磁気ディスク化について、差支えないとされた事例」とあり、必ずしもシステムで管理を行うべきという回答ではないため、紙での管理も残っている状況であり、戸籍の附票も戸籍に準じ紙での管理が残っている。デジタル化3原則やデジタル手続法第10号施行日以降の運用を見据えると、原則標準準拠システム移行時には改製不適合戸籍の附票についても附票本人確認情報の通知等が必須となるためテキスト化すべきと考えるが、本人の同意を得られない、連絡が取れない等様々な理由によりテキスト化が困難で、現行の運用を継続せざるを得ない状況も考えられることに加え、戸籍情報システムにおいてイメージデータの管理を継続し、情報連携等に必要な情報のみテキストデータ化する方向であることを踏まえ、戸籍附票システムにおいても電子データ(テキスト)での管理とイメージデータの管理機能を併用する。

イメージデータ管理の機能は、システム移行時も考慮し、解像度やデータ形式なども定義している。また、データ形式の変換及びイメージデータの回転は、イメージデータに変更を加えないまま実施することを想定しており、改ざんに当たらない。濃度調整についても、元の改製不適合戸籍の附票の内容を損なうような調整にならないものを指している。

1.1.5 空欄

【実装すべき機能】

1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する項目のうち、以下の項目は、空欄を許容しないこと。その他の項目は、空欄を許容すること。

【空欄を許容しない項目】

・ 戸籍の表示(本籍・筆頭者)

・ 生年月日(デジタル手続法第9号施行日以前に消除となった者を除く。)

【考え方・理由】

氏名については、出生届において氏名が未定であり、空欄となる場合があることから、空欄が許容される。

また、出生届は14日以内に届け出る必要があり、性別が空欄の戸籍ができることがある。戸籍の記載において性別が空欄となっている場合は、原則としては、戸籍の取扱いに準ずることとなるため、戸籍届出上許容されている場合は、確定し次第、職権で修正する。また、デジタル手続法第9号施行日前に消除となった者についても、消除となった時点で記載項目とされていないため、空欄が許容される。

住所については、住所不明者についてのみ空欄を許容するが、住基ネットの本人確認情報の検索等の手段を用いても住所を特定できない場合に住所不明者とすることが適切である。(例えば、最終住所地市区町村で調査の結果職権消除となった者で、どこの市区町村にも転入又は職権記載がされていなかった場合は住所不明者となる。)

住民票コードについては、住基ネット稼働後に一度も住民基本台帳に記録されたことがない者等は未付番者となるため、空欄が許容される。また、デジタル手続法第10号施行日前に消除となった者についても、消除となった時点で記載項目とされていないため、空欄が許容される。

生年月日については、出生届提出時に確定している項目であり、基本的には空欄が許容されない。ただし、性別同様、デジタル手続法第9号施行日前に消除となった者については、空欄となり得るため、その場合においては空欄が許容される。

1.1.6 年月日の管理

【実装すべき機能】

年月日は、暦上日で管理すること。ただし、1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する項目のうち生年月日、住所を定めた年月日及び1.2.2(異動事由)に規定する項目のうち戸籍届出等による記載又は戸籍届出等による消除に係る異動日については、暦上日以外の年月日(例:うるう年でない年における2月29日)も許容するとともに、以下に規定する不詳日を許容すること。また、1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する編製年月日、改製記載年月日、改製消除年月日又は再製記載年月日についても以下の不詳日を許容すること。戸籍附票システム内部の年月日の入力や管理については、1.1.1(戸籍の附票データの管理)の生年月日を除き、和暦・西暦どちらを用いても差し支えない。

【不詳日入力一覧】

・「令和○○年

・「令和○○年○月頃」

・「令和○○年〇月〇日頃」

・「推定令和○○年○月○日」

・「推定令和○○年○月」

・「令和○○年

・「令和○○年○月上旬」

・「令和○○年○月中旬頃」

・「年月日不詳」

・「令和○○年月日不詳」

・「令和○○年○○月日不詳」

・「令和○○年○○月○日から○○月○日頃までの間」

・「令和○○年○○月推定○日から○日までの間」

・「令和○○年○○月○日頃から○日頃までの間」

暦上日以外の年月日(例:うるう年でない年における2月29日)、明治45年7月30日及び大正15年12月25日の設定も許容する。

【実装しない機能】

みなし生年月日等を作成できること。

【考え方・理由】

住所を定めた年月日等住民記録システムから反映されるデータについての不詳日は、住民記録システムに準ずる。生年月日についても、戸籍において不詳日となっている者も存在することから、不詳日の設定を許容することとした。

また、編製年月日、改製記載年月日、改製消除年月日及び再製記載年月日について原則不詳日は認められないが、古くから記録されている戸籍の附票において不詳となっている場合が考えられるため、不詳日の設定を許容することとした。

1.1.7 年月日の表示

【実装すべき機能】

年月日は、戸籍の附票の写し等の証明書及び画面表示において、和暦で記載・表示すること。上記の記載・表示のため1.3.3(和暦・西暦管理)による適切な変換機能を有していること。

【考え方・理由】

市区町村によって和暦と西暦が異なると、システムが複雑になる上、QRコード化やOCR読込みに支障が出るため、全て和暦で表示することとする。

なお、これは証明書等で表示する際のルールであり、入力やデータの持ち方としては、和暦と西暦のどちらを用いても、記載・表示する際や他システム連携の際に適切に変換できれば差し支えない。

1.1.8 在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村名

【実装すべき機能】

在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村名を戸籍の附票へ記載できること。

必要に応じ、戸籍情報システムに対して、在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者の戸籍又は戸籍の附票の変更通知書を作成する際に必要な情報(在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者氏名、在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村名等)を連携できること。

【考え方・理由】

在外選挙人名簿登録市区町村名、在外投票人名簿登録市区町村名については、都道府県名についても省略せずに管理すること。ただし、市区町村名(指定都市にあっては、市名及び区名又は総合区名)までの管理でよい。

戸籍情報システムで在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者の戸籍又は戸籍の附票の変更通知書を作成する場合に、在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者氏名や当該帳票の送付先市区町村名を提示・連携できる機能を備えた。

1.1.9 本籍・筆頭者

【実装しない機能】

本籍・筆頭者欄は、「なし」又は「不明」と記載できること。

【考え方・理由】

法第16条で「市町村長は、その市町村の区域内に本籍を有する者につき、その戸籍を単位として、戸籍の附票を作成しなければならない。」としていることから、本籍・筆頭者は必ず存在するため、いずれの項目においても「なし」又は「不明」の取り扱いにはなり得ない。

1.1.10 戸籍附票宛名番号、附票番号

【実装すべき機能】

戸籍附票宛名番号、附票番号は、自動付番できること。

戸籍附票宛名番号と附票番号は、それぞれ戸籍情報システムで管理されている戸籍個人番号、戸籍番号と紐づけて管理することができること。

同一自治体内で番号が重複しないようにすること。

指定都市においては、行政区ごとに番号を管理し、区間転籍の際には新規付番できること。

【考え方・理由】

戸籍附票宛名番号は個人を特定できる一意な番号を指し、個人を単位で付番される番号を指す。附票番号は戸籍の附票を特定できる一意な番号であり、戸籍の附票単位で付番される番号を指す。

なお、本仕様書としては、戸籍附票システムにおいて自動付番する分野別番号とするものの、戸籍情報システムにおいては、戸籍を構成する個人単位で付番される戸籍個人番号、戸籍単位で付番される戸籍番号が存在していることから、それらの番号と同一番号で管理することを妨げるものではない。

指定都市においては、行政区ごとに戸籍を管理しており、区間転籍の際には新たに付番していることから、同機能を実装することとした。

1.1.11 備考

【実装すべき機能】

備考に異動履歴を入力できること。

異動履歴については、20.0.3(備考欄(異動履歴)の記載)により自動で作成され、備考欄に記載すること。

また、備考に個人を単位として、自由入力できる備考欄(その他)(20.0.6参照)を設けること。備考欄(その他)(20.0.6参照)の削除・修正について履歴管理されること。

備考に入力されたものについては、必要に応じ戸籍の附票の写し等の証明書に出力することができること。

消除となった者の記載事項及び備考欄に誤記があることが判明した場合、備考欄に誤記である旨及び正しい記載等を入力し、証明書に出力すること。ただし、特別の請求又は必要である旨の申出に基づき表示する項目に関する誤記である旨及び正しい記載等については、デフォルトでは省略とし、市区町村長の判断で当該項目を表示して交付する場合にのみ出力すること。

【考え方・理由】

戸籍の附票の写し等の証明書には本人等及び国又は地方公共団体の機関による特別の請求又は第三者及び特定事務受任者による必要である旨の申出があった場合に、異動履歴の記載等を行っている市区町村があること、また、消除となった者に誤記があることが判明した場合に誤記である旨及び正しい記載等を記載する必要があること(1.1.3戸籍の附票の除票参照)から、それらを記録する機能も必要であると想定されるため、当該機能を設けた。

消除となった者又は戸籍の附票の除票について本人からの申出等による誤記修正を行った場合又は戸籍の訂正があった場合は、記載事項を修正せず、誤記等である旨及び誤記等の修正後の記載について備考欄に記載されるものとする。

証明書における備考欄は、特別の請求又は必要である旨の申出を受けてプライバシー保護の観点等から市区町村長の判断により記載するかしないかを選択し、記載を選択した場合、当該項目を表示して交付する。ただし、消除となった者又は戸籍の附票の除票について本人からの申出等による誤記修正を行った場合又は戸籍の訂正があった場合、その誤記等である旨及び正しい記載等について表示されないことで、第三者による悪用等のリスクも想定されるため、当該内容については必ず備考欄に記載することとした(20.0.5及び20.0.6参照)。ただし、特別の請求又は必要である旨の申出に基づき表示する項目に関する誤記である旨及び正しい記載等については、デフォルトでは省略とし、市区町村長の判断で当該項目自体を表示して交付する場合にのみ記載すること。

また、戸籍届出等による修正により戸籍の表示としての筆頭者氏名欄の氏の変更を許容するが、構成員としての筆頭者の欄(「附票に記載されている者」の欄)は消除されて以降の変更を許容しないことから、当該戸籍の表示の筆頭者氏名欄と構成員欄の消除された筆頭者が同一人物であることを担保するため、特別の請求又は必要である旨の申出を受けて、市区町村長の判断により記載するかしないかを選択し、戸籍の表示が表示された場合に、備考欄に戸籍の表示における筆頭者氏名欄の氏変更の異動履歴を必ず記載することとする(20.0.3参照)。

編製年月日、改製記載年月日又は再製記載年月日については、戸籍の附票の連続性を確かめる必要性がある戸籍の附票の写し等の交付を求める者の便宜を図る観点より、必ず備考欄に記載することとする(20.0.5参照)。

1.1.12 メモ

【実装すべき機能】

個人を単位とし、記載事項を限定しないメモ入力が可能であること。

メモを入力した者の操作者ID及び日時が記録されること。

メモの削除・修正について履歴管理されること。

メモ入力されたものについては、戸籍の附票の写し等の証明書に出力されないこと。

【考え方・理由】

メモ機能については、証明書に出力しない事項について、限定せずに記載できる機能とした。

なお、個人情報保護の観点にも十分留意の上で記載することが重要である。

1.1.13 支援対象者管理

【実装すべき機能】

支援措置の実施に当たっては、支援対象者の戸籍の附票及び戸籍の附票の除票に支援対象者である旨の表示ができるとともに、戸籍附票システム内に以下に掲げる項目のデータベースを構築し、戸籍の附票及び戸籍の附票の除票の上記表示から画面遷移し、支援措置責任者の了承を得て又は支援措置責任者のみが端末画面上でデータベースを確認できること。

<データベース上の項目>

○支援対象者に関する項目

①現本籍地市区町村の場合

・氏名及びフリガナ

・戸籍附票宛名番号

・附票番号

・生年月日

・性別

・住所

・前住所等

・本籍

・前本籍等

・連絡先(電話番号、携帯電話番号、メールアドレス等)

・その他(任意の文言を登録できること。)

②前本籍地市区町村等の場合

・氏名及びフリガナ

・戸籍附票宛名番号

・附票番号

・生年月日

・性別

・住所

・前住所等

・連絡先(電話番号、携帯電話番号、メールアドレス等)

・その他(任意の文言を登録できること。)

○併せて支援措置を求める者に関する項目

・氏名及びフリガナ

・戸籍附票宛名番号

・附票番号

・生年月日

・性別

・住所

・前住所等

・本籍

・前本籍等

・支援対象者との関係

・その他(任意の文言を登録できること。)

○加害者に関する項目

・氏名及びフリガナ

・戸籍附票宛名番号(同一市区町村の場合に限る。)

・附票番号(同一市区町村の場合に限る。)

・生年月日

・性別

・住所

・その他(任意の文言を登録できること。)

○支援対象者より支援を求められている事務

・戸籍の附票の写し等の交付(本籍、前本籍等)

・住民基本台帳の閲覧(現住所)

・住民票の写し等の交付(現住所、前住所)

○転送情報

①当初受付市区町村が対応するもの

・転送先市区町村

・転送年月日

②当初受付市区町村から転送を受けた他の市区町村(以下「転送受付市区町村」という。)が対応するもの

・転送された支援措置申出書の受付年月日

・支援の必要性がないことを確認したときの申出者への連絡年月日

○支援措置の期間

・支援措置の開始年月日

・支援措置の終了年月日

○仮支援措置

・仮支援措置の有無

・仮支援措置の開始年月日

・当初受付市区町村(転送受付市区町村の場合に限る。)

なお、支援対象者の氏名及び戸籍附票宛名番号並びに併せて支援措置を求める者の氏名及び戸籍附票宛名番号、支援を求められている事務並びに支援措置の期間以外の項目については、戸籍附票システム以外のシステムでのデータベースの構築も可能とするが、その場合でも戸籍の附票の支援対象者である旨の表示から画面遷移し、端末画面上でデータベースを確認できる機能を有すること。

【考え方・理由】

総務省通知(平成16年5月31日総行市第218号)で「住民基本台帳事務における支援措置申出書」の様式例を示し(平成18年10月4日総行市第136号及び平成24年9月26日総行市第89号様式変更)、申出書に記載する事項を例示しており、上記の項目を抜粋した。

戸籍の附票及び戸籍の附票の除票においては、最新住所を含む住所の履歴に現住所が表示される可能性があり、データベース上で確認できる必要がある。

支援措置においては、申出がなされてから、支援措置の必要性を確認し、実際に支援措置を開始するまでの間も、被害者保護のために、仮支援措置が必要となる場合があり得、仮支援措置の有無についてもデータベース上確認できる必要がある。

10.3(操作権限管理)において、利用者ごとの表示・閲覧項目及び実施処理の制御ができることとしており、各市区町村の支援措置に係る事務の実情に合わせて、データベースの閲覧権限や閲覧項目、閲覧を実施する際の処理などについて、管理できるものである。

本籍地について、住所の変更がない場合であっても本籍地が複数回変更することがあり得ることから、現住所が記載されている戸籍の附票又は戸籍の附票の除票の写しを保存している全ての市区町村で支援措置を講ずる必要がある。

なお、支援対象者及び併せて支援措置を求める者の氏名及び戸籍附票宛名番号、戸籍附票システム上のデータベースのほか支援を求められている事務並びに支援措置の期間以外の項目については、住民記録システムに準じて、戸籍附票システム以外のシステムでのデータベース構築を可能とした。

1.1.14 郵便番号

【実装すべき機能】

住所の郵便番号を管理すること。

【考え方・理由】

郵送のニーズが一定以上あると想定されるため、便宜的に管理項目とする。実装方法として、住民記録システムと戸籍附票システム共通で持つことは問題ないと考える。

1.1.15 フリガナ

【実装すべき機能】

氏名については、フリガナを管理すること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準じて管理を行う。

また、現在、法務省において、戸籍における「氏名の読み仮名」の法制化について検討が進められている。その検討を踏まえ、法における「氏名の読み仮名」の取扱い及び戸籍附票システムにおける取扱いを決めていくこととなるので、フリガナに係る本仕様書の記載については、関係法令が制定される際に修正を行う予定である。

1.2 異動履歴データ

1.2.1 異動履歴の管理

【実装すべき機能】

1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する異動履歴は、以下の項目を管理すること。

・異動者(4.0.1参照)

・異動事由として管理する項目(1.2.2参照)

・異動日(4.0.2参照)

・処理日(4.0.2参照)

・入力場所(1.3.1参照)

・入力端末(1.3.1参照)

また、別途管理している操作者ID及び操作日時(10.2参照)については、異動履歴と紐づけることができること。

また、異動したデータ自体については、以下のとおり、時点ごとに全項目の履歴データを持つ方式により管理すること。

・戸籍の附票に記載する各項目を1列とし、全項目を1行で保持する。

・データキーは、戸籍附票宛名番号と履歴番号でユニークとする。履歴番号は1からの単純連番とする。

履歴は、データキーの履歴番号をカウントアップし、項目内容の変更有無に係わらず、全項目の内容を保持する。

履歴番号が最大のデータを1件セレクトすることで、その個人の直近データの全項目を取得する。

【考え方・理由】

異動履歴の管理項目は基本的に住民記録システムに準ずる。ただし、届出日や申出日等、戸籍附票システムにおいて必要のない項目については削除した。

1.2.2 異動事由

【実装すべき機能】

システムが管理する異動事由コード及び付随する区分により、以下の区分が行えること。また、以下の区分からシステムが管理する異動事由コード及び付随する区分にマッピングができること。

異動事由は、以下のとおり区分すること。

〇記載の事由

・戸籍届出等による記載

改製(戸籍法第11条の2に基づく戸籍の再製に伴う改製を指す)

改製(その他の戸籍の附票における改製を指す)・再製(戸籍の附票における再製を指す)

・異動の取消し(増)

〇消除の事由

・戸籍届出等による消除

・改製(戸籍法第11条の2に基づく戸籍の再製に伴う改製を指す)

・改製(その他の戸籍の附票における改製を指す)

・再製(戸籍の附票における再製を指す)

・異動の取消し(減)

〇修正の事由

・戸籍届出等による修正

転入等

・転出

・転居

・職権修正等(住民票における職権記載・消除・修正等を指す)

・誤記修正

・その他職権修正

・異動の取消し(修正)

【考え方・理由】

データ連携を前提として、改造仕様書に定義されている異動事由を基に項目を設けた。

前提として、本仕様書において異動事由”コード”というデータベースの物理的な異動事由コードのラインナップは定義されていない。本仕様書の「区分すること。」は、各社のパッケージの異動事由コード及び付随する区分が、本仕様書の論理的な区分にマッピングできることと考える。

また、修正の事由の「職権修正等」については、住基ネット回線を通じて連携される住民記録システムにおける住民票に対する「職権記載等」、「職権消除等」及び「職権修正等」がマッピングされる異動事由を指す。戸籍附票システムにおける職権修正は「その他職権修正」とし、在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村名の変更等に伴う職権修正は「その他職権修正」に含まれる。

戸籍において虚偽の届出等、錯誤による届出等又は市町村長の過誤によって記載が行われ、戸籍法第11条の2に基づき、その記載について訂正がされた場合には、戸籍附票システムにおいては戸籍届出等による記載、消除又は修正の異動事由で対応するものとする。また、戸籍法第11条の2に基づき、当該訂正に係る事項の記載のない戸籍の再製の申出があり、戸籍の再製が行われた際には、戸籍附票システムにおいては改製を行い、異動事由は「改製(戸籍法第11条の2に基づく戸籍の再製に伴う改製を指す)」で対応するものとする。

1.3 その他の管理項目

1.3.1 入力場所・入力端末

【実装すべき機能】

システムログや証明書発行管理に使用するため、戸籍附票システムを使用する場所として、本庁、支所、出張所、戸籍附票システム利用課等の入力場所及び入力端末等の登録管理ができること。

指定都市においては、行政区を管理できること。

【考え方・理由】

システムログや証明書発行管理に使用するための戸籍附票システムを使用する場所(本庁・支所・出張所・戸籍附票システム利用課等の入力場所)及び入力端末等を管理する機能が必要。

1.3.2 住所辞書管理

【実装すべき機能】

必要に応じ速やかに、最新の住所情報に更新すること。国名については、毎年、最新の情報に更新すること。ただし、住所等の(旧)町名等が入力できること。

住所情報は、職員でも容易に修正できること。

住所辞書については全国的に提供されるものを使用し、住所コードは全国地方公共団体コードを使用した11桁の値とすること。構成は、都道府県(2桁)+市区町村(3桁)+大字(3桁)+小字(3桁)とすること。

なお、都道府県コードはJIS X 0401に、市区町村コードについてはJIS X 0402に準拠すること。大字、小字は規定しない。

所カナ入力(例えば、東京都日野市神明の場合であれば、「トヒシ」のように、住所の頭の数文字を入力することをいう。)をすることで、郵便番号及び住所が自動で入力されること。また、郵便番号を入力することで、住所が自動で入力されること。

住所及び本籍について都道府県名→市区町村名→大字→小字の順に一覧表より順番に選択していくことで住所辞書からの引用ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

1.3.3 和暦・西暦管理

【実装すべき機能】

和暦と西暦の対応及び変換のためのマスタ情報が管理できること。

また、元号が改正された場合、パラメータ設定による元号変更対応が可能であること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

1.3.4 公印管理

【実装すべき機能】

市区町村長及び職務代理者の公印が管理できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

また、指定都市の場合は他区長及びその職務代理者の公印を管理できることも含む。

1.3.5 交付履歴の管理

【実装すべき機能】

1.1.1(戸籍の附票データの管理)に規定する証明書の交付履歴(20.1.1.(戸籍の附票の写し)、20.1.2.(戸籍の附票の除票の写し))は、市区町村が定める期間、以下の項目を管理すること。

・交付年月日時

・交付場所

・交付対象者

・証明書の種別

交付区分(本人等請求、公用請求、第三者請求)

・記載事項

・枚数

発行番号

端末名、操作者ID

・処分情報(誤って発行した証明書を処分した場合にはその旨の記録。)

また、上記交付履歴の項目について、コンビニで交付された場合も同様に管理すること。

【実装しない機能】

市区町村が定める期間内に、交付履歴データを削除できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

1.3.6 認証者

【実装すべき機能】

証明書等の認証者は、市区町村長と職務代理者の2件について、職名・氏名の管理ができること。

また、期間等事前に登録した条件によって、自動的に切り替わることができるよう職務代理者期間の管理ができること。

指定都市においては、他区長及びその職務代理者の職名・氏名を管理できることも含む。

【実装しない機能】

証明書等の認証者を「○○長公印」のように氏名空欄とできること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2 検索・照会・操作

2.1 検索

2.1.1 検索機能

【実装すべき機能】

システム利用者(ID単位)ごとに、一度検索ダイアログ等で設定した値(検索履歴)については、自動的にその設定値が、一定の件数保存されること。

また、それら検索履歴を選択することにより、同じ条件による再検索及び検索履歴を活用した新たな検索にも対応できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.1.2 検索文字入力

【実装すべき機能】

フリガナを登録している場合は、カタカナで入力及び検索できること。

以下のあいまい検索ができること。

・清音、濁音、半濁音による違いを無視できること。

例「ヂ」と「ジ」、「ズ」と「ヅ」、「ワ」と「ハ」、「ヴァ」と「バ」、「ヴィ」と「ビ」、「ヴ」と「ブ」、「オ」と「ヲ」、「ヒ」と「ピ」

・拗音、促音の小文字と大文字による違いを無視できること。

例「ッ」と「ツ」、「ャ」と「ヤ」、「ュ」と「ユ」、「ョ」と「ヨ」

・氏名(カナ)等で文字列一致検索(完全一致・部分一致)ができること。

・氏名(漢字)等で一部の文字を「*」で代替した検索ができること。

・名(氏名の名)のみの検索ができること。

・氏と名との間のスペースを無視した検索ができること。

・氏名フリガナ検索について、2文字目以降が「ウ」の場合で、その直前の文字が「オ段」の場合、「ウ」を「オ」に変換して検索できること。

長音の有無を無視できること。

入力ゆらぎ対応として、「ー(全角長音)」と「―(全角ダッシュ)」と「-(全角マイナス)」と「‐(全角ハイフン)」、「ー(半角長音)」と「-(半角ハイフン、マイナス)」、「全角スペース」と「半角スペース」を区別せず検索条件として指定でき両方が該当として処理されること。

・検索文字から、異体字や正字も包含した検索ができること。

例:検索文字の例

「辺」で検索時は「邊」、「边」、「邉」、「𨘢」等、

「浜」で検索時は「濱」、「頻」、「濵」、「滨」等、

藤」で検索時は「」、「籘」、「籐」等が検索対象文字となる。

・外字を登録する際に、異体字を合わせて登録した場合は、それも包含して検索できること。

なお、一般市区町村においては、あいまい検索の機能として異体字検索は、実装してもしなくても良い機能とする。

実装しない機能】

(株)や(有)等の記号を入力及び検索できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.1.3 基本検索

【実装すべき機能】

氏名・氏名のフリガナ・生年月日(西暦・和暦)・性別・本籍・筆頭者・住所・住所コード・住民票コードから検索できること。また、消除となった者の備考欄に含まれる、誤記があることが判明した場合の記録のうち、正しい記載である氏名・氏名のフリガナ・生年月日について検索できること。

指定都市においては、区からも検索できることとし、操作者の所属により管轄区を自動判定し、検索画面上の区を既定値として検索できること。なお、他区の選択も可能とすること。

年月日を指定して複数条件検索、項目内部分検索ができること。

異動履歴の検索においては、氏名及び住所、住民票コードについては過去履歴を含めて検索し、対象者を特定できること。

上記項目に関し、データ未入力項目を含めて検索できること。

外字検索、検索文字選択のためのサポート機能が提供されていること。具体的には外字を選択するための手書き入力、手書き入力による文字選択等が想定されるが、具体的な実装方法は規定しない。

また、西暦と和暦はそれぞれ対応する年に置き換えられ検索がされること。

氏名及び住所の検索は、過去のものも横断的に検索できること。

「検索」は、対象者を選択するため、画面から検索用項目を画面入力して、マッチするものを探す操作をいう。「照会」は、既に特定した対象者の詳細な情報について、データベースに問い合わせる操作をいう。

【実装してもしなくても良い機能】

対象者を検索、選択後、該当者の1.1.1(戸籍の附票データの管理)のデータをCSV形式で出力する機能を有すること。

【実装しない機能】

異動者一覧を表示している状態で、検索条件を加えての再検索(絞込み)ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.2 照会

2.2.1 異動履歴照会

【実装すべき機能】

個人や同一の戸籍の附票の者を特定した後に、1.2.1(異動履歴の管理)に規定する異動履歴を照会できること。

1.2.1(異動履歴の管理)に規定する項目を用いて対象者の異動履歴を照会できること。

【実装しない機能】

複数の戸籍の附票にまたがる同一個人を単位として履歴が照会できること。

【考え方・理由】

新しい戸籍を作った者について、元の戸籍に基づく戸籍の附票を照会する等といった、複数の戸籍の附票にまたがる同一個人を単位とした履歴の照会までは不要と考え、実装しない機能とした。

2.2.2 交付履歴照会

【実装すべき機能】

個人を特定した後に、1.3.5(交付履歴の管理)に規定する証明書の交付履歴(20.1.1.(戸籍の附票の写し)、20.1.2.(戸籍の附票の除票の写し)について、照会できること。

なお、照会に当たっては、1.3.5(交付履歴の管理)に規定する項目から行えること。

また、コンビニで交付された場合も同様に照会できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.2.3 文字コード照会等

【実装すべき機能】

漢字文字の入力・照会については、拡大して入力・照会ができるとともに、文字コードの照会ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.2.4 支援対象者照会

【実装すべき機能】

照会した支援対象者(併せて支援を求める者を含む。)の戸籍の附票データを確認する場合において、支援措置期間中又は仮支援措置期間中である旨が明示的に確認でき、1.1.13(支援対象者管理)の支援措置のデータベースに連携して、当該データベースの支援対象者の詳細情報が確認できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

2.3 操作

2.3.1 キーボードのみの画面操作

【実装すべき機能】

端末のセキュリティを確保しながら、キーボードのみでも画面操作が可能であること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

3 抑止設定

3.1 異動・発行・照会抑止

【実装すべき機能】

支援対象者に対する抑止、排他制御(10.3参照)、その他の抑止を管理できること。

各抑止機能について、異動入力、証明書発行、照会などの処理ごとに、個人及び同一の戸籍の附票単位で、抑止(エラー、アラートは表示されるが、処理可又は処理可(抑止なし))の開始日及び終了日設定が可能であること。抑止が終了していない者について、抑止の一時解除ができること。また、抑止の一時解除については、庁内各システムで誤って本解除として扱われないように、コンビニ交付システムを含む庁内各システムへのデータ連携は不要とすること。

一時解除後、必要な処理が完了したら手動で一時解除を元に戻し、失念していた場合は一定時間経過後に自動で抑止状態に戻ること。

抑止状態に戻るまでの時間を設定できること。

抑止・解除、又は一時解除できる権限は個別に設定できること。

なお、抑止の終了日を経過しても、抑止は自動的に終了しないこと。

戸籍情報システムから情報を連携させている場合は、戸籍情報システムにおいて戸籍届出による記載や修正等の処理を実施している際、異動中であるといった情報が連携され、抑止が実施されること。

検索結果の表示の際、抑止対象であることが明らかとなること。

抑止事由(支援措置、外字作成中、戸籍異動中等)を選択できること。

抑止については複数設定することができ、設定ごとに、抑止する処理・抑止レベル(エラー・アラート)の設定ができること。

証明書発行の抑止設定及び解除情報については、コンビニ交付に対しても自動連携されること。

【考え方・理由】

支援措置(3.2参照)の他、戸籍情報システムにおいて異動処理を実施している(戸籍異動中)等の事由の際、戸籍附票システムにおいても対となる戸籍の附票への抑止機能が必要となることから、個別に書き込むのではなく、まとめて整理した。

抑止設定及び解除については、個人単位又は同一の戸籍の附票単位いずれにも対応できることとし、市区町村が選べるようにすることとした。

3.2 支援措置

【実装すべき機能】

支援対象者(併せて支援を求める者を含む。以下同じ。)が含まれる戸籍の附票の写し等の交付を実施しようとする際に、エラーとすることができること。また、支援措置責任者は、1.1.13(支援対象者管理)の支援措置のデータベースに連携して、当該データベースの支援対象者の詳細情報が確認できること。審査の結果、戸籍の附票の写し等の交付を行う場合には、エラーを解除できること。

戸籍附票システムとして支援措置に関する情報を得た場合には、戸籍附票システムから戸籍情報システムへ支援措置情報を連携できること。

また、戸籍の附票事務として支援措置の申出を受けた際、住所地と本籍地が同一市区町村である場合は、戸籍附票システムから住民記録システムへ連携できること。

支援措置の期間設定は、1年とし、支援措置の開始年月日を入力すると、支援措置の終了年月日が自動的に設定及び表示され、必要に応じて修正できること。

例)開始年月日が令和2年4月1日の場合、終了年月日が令和3年3月31日に自動的に設定される。

支援措置の延長については、支援措置の期間終了日の1か月前から、支援措置期間の延長処理を行えることとするともに、延長後の支援措置の期間は、延長前の支援措置の期間の終了日の翌日から起算して1年間設定できること。

なお、それに先立ち20.2.1.の支援措置期間終了通知を出力できること。また、支援措置の期間終了日の1か月前から、支援対象者の戸籍の附票を参照する際には、1か月以内に支援措置の期間が終了する旨のアラートを表示できること。

支援措置の期間が終了しても延長されないときは、支援対象者の戸籍の附票を表示する端末画面において、支援措置の期間が終了している旨のアラートを表示できること。

支援対象者から支援の終了を求める旨の申出を受けたとき、支援措置の期間を経過し、又は延長がされなかったときその他市区町村長が支援の必要性がなくなったと認めるときは、支援措置を終了できること。

申出がなされてから、支援措置の必要性を確認し、実際に支援措置を開始するまでの期間も、被害者保護のために、仮支援措置として支援対象者が含まれる戸籍の附票の写し等の交付を実施しようとする際に、エラーとすることができること。

また、仮支援措置については、自動的に解除されるものではないが、仮支援措置の状態のまま自治体の指定した日数を超過した対象者が存在する場合には、常時又は戸籍附票システム終了前にその旨を表示できること。

【実装してもしなくても良い機能】

支援の必要性について確認後、申出者に支援措置を開始する旨の通知を出力できること。

【考え方・理由】

支援対象者に係る戸籍の附票の写し等の交付は、慎重に行われる必要があるため、エラーを基本とし、必要な審査を実施した上で、エラーを解除できることとする。要領第5-10-キで、支援措置の期間終了の1か月前から、支援措置の延長の申出を受ける旨規定されており、延長漏れを防止するため、延長受付期間にアラートを表示する機能を設けることとする。

また、3.1(異動・発行・照会抑止)にあるように、抑止の終了日を経過しても、抑止は自動的に終了しないこととしている。

なお、10.3(操作権限管理)において、利用者ごとの表示・閲覧項目及び実施処理の制御ができることとしており、各市区町村の支援措置に係る事務の実情に合わせて、利用者ごとに端末画面上での住所非表示とすることも妨げられていない。

また、要領5-10-ウの、申出者へ支援の必要性の確認の結果の連絡については、市区町村における支援措置の方針や処理件数により取るべき手段が異なることから、実装してもしなくても良い機能とした。

戸籍情報システムとの支援措置情報の連携については、住民記録システムから支援対象者管理データが連携された場合も含め、戸籍の附票で抑止措置がかかっている者であることを戸籍情報システムに連携することで、戸籍事務における証明書の発行の際の注意喚起につなげるため、連携できることを機能に盛り込んだ。

また、実態として、支援措置の申出の多くが住民記録事務として受理されると想定されるが、住所地と本籍地が異なる市区町村である場合には、戸籍の附票事務として受理するケースが想定される。さらに、住所地と本籍地が同一の市区町村の場合であっても戸籍の附票事務として受理する可能性があり、その場合には戸籍附票システムから住民記録システムへ支援措置情報を連携する必要があることから、住民記録システムに連携する機能を設けた。なお、住民記録システムから戸籍附票システム等への「住民記録データ(支援対象者管理データを含む)」の連携については、住民記録システム標準仕様書に規定されている。

4 異動

4.0.1 異動者

【実装すべき機能】

戸籍の附票の異動処理においては、当該異動処理の対象者の戸籍の附票が既に存在する場合については、対象者を戸籍の附票データから選択できること。その際、基本検索により個人又は戸籍の附票単位で検索できるものとし、戸籍の附票を検索し対象者を選択する場合は、戸籍の附票の全部(当該戸籍の附票の全員を異動者とすることをいう。)又は一部(当該戸籍の附票の一部を異動者とすることをいう。)を選択できること(対象者の選択から全部又は一部を自動判断することを含む。)。一部を選択する場合には、一人又は複数人の対象者を選択できること。

戸籍の附票の異動処理において、当該異動処理の対象者の戸籍の附票が存在しない場合については、異動者の情報を入力できること。

指定都市においては、異動者を操作者の属する行政区に戸籍の附票を置く者に限定することができること。

【考え方・理由】

戸籍の附票の異動については個人が単位であることから、個人単位で異動者を選択できること。また、戸籍の附票の全部や一部についても選択できることも必要である。

新規に戸籍の附票を作成する場合など、対象者の戸籍の附票が存在しない場合については、戸籍情報システムにおける戸籍の情報を確認しながら異動者の情報入力等を実施することを想定している。

4.0.2 異動日・処理日

【実装すべき機能】

異動処理においては、異動日及び処理日を入力できること。

異動日は、初期表示としては空欄とすること。

異動日は、転出を除き処理当日以前の日のみを入力できること。

処理日は、処理当日が自動入力されること。

【実装しない機能】

処理当日以外を処理日として入力できること。

【考え方・理由】

異動日・処理日の考え方は住民記録システムと同様であるため、住民記録システムに準ずる。

4.0.3 審査・決裁

【実装すべき機能】

異動処理の仮登録及び本登録を行えること。

異動入力した内容は仮登録状態として、審査(決裁)により本登録とする。

仮登録状態の情報では、取消・修正等ができ、異動処理・証明発行・住基ネット回線を通じた連携については、抑止されること。

仮登録一覧は、画面に表示され、異動者が選択できること。また、常時又は戸籍附票システム終了前に仮登録状態の者が存在することを表示できること。

また、仮登録一覧は、全部、一部(選択異動者及び入力支所等を単位とした一部)ごとに表示・本登録できること。ただし、全部本登録については、件数に上限を掛けることができることとする。

【仮登録状態】

・ 異動情報がシステムに入力され、その内容がいったんシステム上に保存されているが、未審査又は審査中のため本登録状態に至っておらず、法上、戸籍の附票にまだ記載されていない状態

・ 異動処理が確定されておらず、異動履歴とならない状態

・ 戸籍の附票の写し発行時には、戸籍附票システムや他業務システム、又は、証明書のコンビニ交付において、仮登録中のデータに基づく証明書は発行できないようにする。

【本登録状態】

・ 異動情報がシステムに入力され、審査(決裁)を経てその内容がシステム上に保存されており、法上、戸籍の附票に記載されている状態

・ 異動処理が確定され、異動履歴となる状態

・ 確定情報となるため、証明書、住基ネット回線を通じた連携等に反映される。

【考え方・理由】

住民記録システムと同様、仮登録状態の情報については取消・修正が可能である。

ただし、仮登録状態の情報は取消・修正できることとしているが、戸籍情報システムにおいては取消事由(例:重婚や不適齢婚等)が含まれる届出を誤って受理した場合には当該届出の情報を取り消すことができないとされているため、戸籍情報システムとシステム構成を共有している場合において、戸籍情報システムにて取り消すことができない場合には戸籍附票システムにおいても同様の扱いとする。

住民票の写し等と比べ、記載事項が限られることや証明書の発行数が相対的に少ないことから、誤記のおそれが少ないため、審査(決裁)機能を設けなくともよいとの意見もいただいたが、責任者の審査(決裁)がないまま登録することは自治体による公証制度である以上想定されず、一定のプロセスや組織としての意思決定が必要であることから、審査(決裁)機能は実装すべき機能とする。

なお、審査(決裁)を実施する方法について本仕様書では規定しないが、仮登録の内容が妥当であるか責任者が確認するプロセスを経ること、また記録することで、「職員が単独で登録を完了する」ことが発生しない運用とすることが肝要である。審査(決裁)の実施者についても、不在時や繁忙期時等を想定し、システム上での処理は代決者が行うことも許容する。

4.0.4 入力確認・修正

【実装すべき機能】

更新前(仮登録状態)には、20.0.1(様式・帳票全般)に定める確認用帳票を画面確認又は印刷でき、入力内容を修正できること。

【考え方・理由】

住民記録システムと同様、審査・決裁機能を設けたことに伴い、当該機能を設ける。

また、「デジタル化に向けた基盤整備を行う」という本仕様書の目的(第1章2(2)参照)を踏まえ、入力内容の確認はペーパーレスで行うことを原則とする。ただし、繁忙期や非常時等、紙での照合が必要となる場面もあることを想定し、基本はペーパーレス対応を推奨するが、紙での出力機能も実装することとした。

4.0.5 一括入力

【実装すべき機能】

同一のシステム利用者が、同一の戸籍の附票に記録されている複数人に同一の内容を入力する場合、対象を選択後、一括で入力できること。

異動日と異動履歴は自動的に適用されること。

本機能は、一般市区町村においては、実装してもしなくても良い。

【考え方・理由】

同一の戸籍の附票に記録されている複数人に同一の内容を入力する場合、一括入力することができることにより、入力作業を省力化する。

なお、権限及び情報セキュリティ等の観点から、履歴は、システム利用者(ID単位)ごとに保持することとする。(2.1 (検索機能)参照)

4.1 職権

法第18条に規定する職権による戸籍の附票の記載等に関する機能について記載する。

4.1.1 戸籍届出等に基づく戸籍の附票の職権記載等

【実装すべき機能】

戸籍届出等に基づき、戸籍届出等による記載、消除又は修正として、職権記載、職権消除及び職権修正の処理が行えること。

なお、戸籍法第24条第2項、第113条、第114条又は第116条の規定によって戸籍の記載が訂正された場合も、同様に職権記載、職権消除及び職権修正の処理が行えること。

【考え方・理由】

戸籍の附票の記載、消除又は記載の修正は、職権で行うものとする(法第18条)。

戸籍の附票は戸籍を単位に作成されているため、戸籍の異動に伴い戸籍の附票についても職権で記載、消除及び修正を行うことが考えられるため。

戸籍の附票においては消除となった者(戸籍の附票の除票を含む。)に関しての修正は許容しないため、戸籍情報システムにおいて除籍者について訂正がなされた場合は備考のその他欄に戸籍において訂正がなされた旨を記載すること(記載方法については20.0.6を参照のこと。)。

また、戸籍の附票においては戸籍における訂正概念が存在しないため、戸籍法第24条第2項、第113条、第114条又は第116条の規定によって戸籍の記載が訂正された場合には、職権記載、職権消除及び職権修正の処理が行えるものとしている。

4.1.2 在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録市区町村の異動

【実装すべき機能】

市区町村の選挙管理委員会からの法第17条の2第2項の通知や本籍地市区町村からの通知に基づき、在外選挙人名簿登録情報及び在外投票人名簿登録情報について職権記載等できること。

また、戸籍の附票への国内住所地の追加等に伴い、在外選挙人名簿登録情報又は在外投票人名簿登録情報の変更があった場合には、その旨を在外選挙人名簿登録市区町村又は在外投票人名簿登録市区町村に通知するための在外選挙人名簿及び在外投票人名簿登録者の戸籍又は戸籍の附票の変更通知書(20.2.2参照)を出力できること。

国民投票日の翌日に、当該国民投票のために登録された在外投票人名簿情報を戸籍の附票から削除することができること。

【実装してもしなくても良い機能】

在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に登録されている者の一覧について出力できること。

【考え方・理由】

在外選挙人名簿又は在外投票人名簿への登録、移転、抹消等が発生した場合には、登録情報についての記載等が必要である。また、公職選挙法第30条の13第1項及び日本国憲法の改正手続に関する法律第43条第1項に基づき、在外選挙人名簿登録市区町村又は在外投票人名簿登録市区町村に通知するための通知書を作成する機能も必要である。なお、戸籍附票システムから出力する通知書については、国内住所地の追加等の戸籍の附票に起因する異動が発生した場合を想定している。

法第17条の2第1項の規定に基づく通知を受けて、戸籍の附票には、在外投票人名簿に登録された旨を記載しなければならないこととされている。しかし、国民投票の終了後、戸籍の附票において在外投票人である旨等の記載を保持し続ける必要性は乏しいことから、投票日翌日に各市町村で職権消除することが適当であると判断した。なお、本取扱いについては、国民投票が実際に行われることとなった場合に、総務省から各市区町村長宛てにその趣旨を通知することとする。

在外選挙人名簿及び在外投票人名簿に登録されている者の一覧は、国内に住所を戻した際の通知の発行管理等に使用する市区町村も存在することから、実装してもしなくても良い機能とした。

4.1.3 CSから受信した戸籍の附票記載事項通知及び本籍転属通知の取込

【実装すべき機能】

CSから戸籍の附票記載事項通知(法第19条第1項)及び本籍転属通知(法第19条第3項)を受信した場合、職員の手を介することなく自動で通知を取り込むことができること。その際、通知の内容や自動で処理されない文字化け、オーバーフロー等の対応を職員が確認し、修正できること。

また、受信した通知に対する戸籍の附票記載事項通知取込エラー一覧表及び本籍転属通知取込エラー一覧表を作成・出力できること。

CSから受信した戸籍の附票記載事項通知及び本籍転属通知に外字が設定されていた場合、外字の字形や文字情報を出力できること。出力先は、戸籍の附票記載事項通知取込一覧表や本籍転属通知取込一覧表への出力、画面への出力など方法は指定しないが、職員の手を介することなくシステムで出力できること。

なお、受信し、反映されたデータの修正が必要な場合には、適宜修正を行えること。

【考え方・理由】

戸籍の附票記載事項通知に加え、デジタル手続法の施行に伴い戸籍照合通知(法第19条第2項)及び本籍転属通知についても電文としてCSから連携されるため、取込機能は必須。

職員の手を介することなく自動で取り込めるとは、CSから戸籍の附票記載事項通知又は本籍転属通知を受信した後、取込処理ボタン等を押すことにより、通知を1件ずつ処理するのではなく、取り込んだ通知の情報を一括して仮登録する機能を想定している。

4.1.4 誤記修正

【実装すべき機能】

誤記があった場合、職権修正として、修正ができること。

異動事由は、「誤記修正」とすること。

誤記があった異動の異動履歴は上書き修正せず、誤記修正の異動履歴とともに、異動履歴データとして保持すること。

【実装しない機能】

異動履歴を残さない上書き修正ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

4.2 異動の取消し

4.2.1 異動の取消し

【実装すべき機能】

4.1.3に規定する異動処理の取消しができること。そのため、取消しの対象となる異動処理を異動履歴データから選択できること。その際、4.0.1の例により、全部又は一部の区分により、対象者を選択できること。

異動の取消し機能は、最新履歴を削除する機能ではなく、履歴を上積みして、元の状態に復元できる機能とすること。復元した後、データ項目を追加する必要がある場合にあっては、その他職権修正により対応する。

具体的には、住民記録システムからCSを通じて連携される、戸籍に記載されている者の増減を伴わない記載事項の修正を実施する機能(異動の取消し(修正))を有すること。

取消処理については、それ自体を1つの異動処理として取り扱うこととし、「4異動」を適用するほか、取り消された異動処理及び取消処理を、ともに異動履歴データとして保持すること。

【考え方・理由】

住民記録システムからCSを通じて連携される異動の取消し(増・減・修正)については、戸籍附票システムにおいてはすべて異動の取消し(修正)に集約することができることから、異動の取消し(修正)の機能を設けることとした。

なお、4.1.1(戸籍届出等に基づく戸籍の附票の職権記載等)のとおり、戸籍法第24条第2項、第113条、第114条又は第116条の規定によって戸籍の記載が訂正された場合には、異動の取消しを行うのではなく、職権記載、職権消除及び職権修正の処理が行えるものとしている。

5 証明

5.1 証明書記載事項

【実装すべき機能】

証明書(戸籍の附票の写し及び戸籍の附票の除票の写し)を発行する際は、同一の戸籍の附票の全員分又は一部の者について選択できること。

また、本籍・筆頭者、住民票コード、在外選挙人名簿登録市区町村名、在外投票人名簿登録市区町村名等はデフォルトで省略とすること。

支援措置対象者に係る住所(必要な手続を経て抑止の一時解除をし、支援対象者を含む戸籍の附票の写し等を出力する場合)等の省略ができること。イメージデータにて管理している場合においても、本籍・筆頭者、在外選挙人名簿登録市区町村名、支援措置対象者に係る住所(必要な手続を経て抑止の一時解除をし、支援対象者を含む戸籍の附票の写し等を出力する場合)等を省略(マスキング)ができること。

特別の請求又は必要である旨の申出がある場合には記載の選択ができること。(特別の請求又は必要である旨の申出を受けて、市区町村長の判断により記載するかしないかを選択し、記載を選択した場合の記載方法については、20.0.3(備考欄(異動履歴)の記載)を参照すること。)

消除となった者の記載事項及び備考欄に誤記があることが判明した場合、備考欄に誤記である旨及び正しい記載等を入力し、証明書に出力すること。ただし、特別の請求又は必要である旨の申出に基づき市区町村長の判断で表示する項目に関する誤記である旨及び正しい記載等については、デフォルトでは省略とし、市区町村長の判断で当該項目自体を表示する場合にのみ出力すること。また、消除となった者が筆頭者であり、当該者が消除された後に戸籍届出等による修正により戸籍の表示としての筆頭者氏名欄の氏に変更が生じた場合、特別の請求又は必要である旨の申出に基づき市区町村長の判断で戸籍の表示(本籍・筆頭者)について表示する際には、備考欄に戸籍の表示における筆頭者氏名欄の氏変更の異動履歴を必ず記載すること(記載方法については、20.0.3(備考欄(異動履歴の記載)を参照すること。))。

証明書には、認証文(第4章に記載のもの)、電子公印及び発行番号を出力すること。

証明書の様式については、第4章に定める様式とすること。

証明書が複葉にわたる場合は、最終ページのみに認証文が印字されること。

また、生年月日は和暦で出力すること。住所を定めた年月日について、証明書出力時は和暦で出力すること。

なお、デジタル手続法第9号施行日前に消除となった者において、戸籍の附票の写し等に性別及び生年月日を記載しないこと。また、デジタル手続法第10号施行日前に消除となった者について、戸籍の附票の写し等に住民票コードを記載しないこと。

【考え方・理由】

認証文の位置については、「当該戸籍の附票の写しの末尾に原本と相違ない旨を記載しなければならない」(令第21条第2項の規定により読み替えて準用する令第15条)と明記されているため、最終ページのみに印字されることとしている。

5.2 同一の戸籍の附票の者の並び順

【実装すべき機能】

戸籍の附票の写しにおいて、同一の戸籍の附票の者の記載順序は、戸籍に記載されている順序と同一となること。

戸籍の記載順序については、戸籍法第14条にて定められたとおり。

第十四条氏名を記載するには、左の順序による。

第一夫婦が、夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻

第二配偶者

第三子

②子の間では、出生の前後による。

③戸籍を編製した後にその戸籍に入るべき原因が生じた者については、戸籍の末尾にこれを記載する。

【実装しない機能】

同一の戸籍の附票の者の記載順序を変更可能とすること。

【考え方・理由】

戸籍の附票の写しの記載順序については、従来より戸籍と同時に管理されていたことから、戸籍と同じ並び順となるため、戸籍の記載順序と同一となることとしている。

5.3 方書の記載

【実装すべき機能】

住所に方書が含まれる場合は、省略せず、証明書に記載すること。

【考え方・理由】

住民記録システムにおいて方書を含めて証明書に記載していることから、戸籍の附票の写しにおいても同様とする。

5.4 発行番号

【実装すべき機能】

枚葉(まいよう、全部のページの意味)に発行年月日、市区町村名、発行端末番号、発行された順に付された番号、ページ番号及び総ページ数を証明書に記載できること。

【実装しない機能】

発行場所を証明書に記載できること。

【考え方・理由】

数葉にわたる証明書の加除を防止するための必要な措置として、総務省質疑応答(平成18年1月24日総行市第12号)にて、戸籍の附票の枚葉に発行年月日、市町村名、発行端末番号、発行番号、ページ番号及び総ページ数を印刷することとして差し支えないとされた。

なお、発行場所を証明書に記載する機能については、市区町村名と発行端末番号により発行場所が分かるため不要とする。

5.5 公印・職名の印字

【実装すべき機能】

システムから出力される公印印字に対応する証明書等には、証明書ごとに、市区町村長又は職務代理者の職名・氏名、公印印字の有無及び公印の種類(市区町村長又は職務代理者の印)が選択できること。また、市区町村長又は職務代理者の職名を印字する場合は、指定都市・特別区の場合も含め、都道府県名を印字すること。

なお、公印は電子公印に対応し、種類(市区町村長又は職務代理者の印、証明書専用の印、カード券面用の印)が選択できること。また、「公印省略」「この印は黒色です」等の任意の固定文言が印字できること。

【考え方・理由】

各市区町村では文書管理規程等により、公文書には公印を押印することが定められており、戸籍の附票の写しは公文書に当たるため、公印が必要。磁気ディスクをもって調製された戸籍の附票の写しには電子印の使用が認められているので、戸籍の附票の写しに押印する電子印の管理機能が必要となる。

また、公印の種類は2種類以上管理できることとした方が良い(証明書専用印など有り)。

5.6 公用表示

【実装すべき機能】

証明書に「公用」の表示(印字)ができること。

【実装しない機能】

証明書に「規定により免除」と表示できること。

【考え方・理由】

証明書に「公用」と表示(印字)することは、本人等の請求や第三者からの申出による証明書等の交付と区別する上で必要といえるため実装すべき機能とした。

5.7 文字溢れ対応

【実装すべき機能】

システムから出力される証明書等の出力項目に文字溢れが発生した場合は、文字の大きさを調整するなどして、文字超過とならないようすること。

なお、文字数が多くやむをえず文字溢れが生じる場合や、未登録外字が含まれる場合は、アラートを表示して注意喚起するとともに、文字超過リストを出力して、文字溢れした情報を確認できるようにすること。ただし、証明書については、出力時に文字溢れしている旨のアラートを表示し、パラメータ設定によって、該当項目を限界まで出力させるか空白で出力するか選択できること。

【考え方・理由】

証明書のみ中間標準レイアウトに準拠した文字超過表記とする旨とした。

証明書に正しく印字されない文字溢れや未登録外字については、職員に注意喚起し、手動で修正や確認等、個別に対応する必要があるため。

6 統計

6.1 統計

【実装すべき機能】

毎年、総務省通知(平成26年12月25日付け総行住第136号)に基づき総務省が実施している「住民基本台帳関係年報」の調査項目である、戸籍の附票事務処理状況及び戸籍の附票の写し(戸籍の附票の除票の写しを含む)の通数の算出やその検証のための統計機能を有していること。

システム移行においては、標準準拠システム稼働月以降の集計ができること(標準準拠システム稼働月以前の集計は、従来のシステムで行うこと。)。

【考え方・理由】

住民記録システムに準じ、総務省の実施する「住民基本台帳関係年報」の調査に対応するための統計機能を実装すべき機能とした。

7 連携

7.1CS連携

7.1.1 CSへの自動送信

【実装すべき機能】

職権による記載等の異動時等に、「戸籍附票システム改造仕様書」の電文仕様に基づき、各電文がCSに自動送信されること(4.1.3(CSから受信した戸籍の附票記載事項通知及び本籍転属通知の取込等)参照)。

なお、送信方法(回線や媒体)や送信のタイミングは定めないが、異動の時系列は担保されること。

住基ネット共同利用に対応し、住基ネットCSサーバ(附票AP)で受信した電文を、構成自治体に振り分ける機能を有すること。

その他、以下について実行できること。

・CSに対する符号の生成要求の自動送受信ができること

・送信した附票本人確認情報、住民票コード照会情報、戸籍照合通知(法第19条第2項)情報、本籍転属通知(法第19条第3項)情報の照会及び一覧表への印字ができること(指定都市においては、一覧表は行政区単位で分割できること)

・送信した附票本人確認情報、住民票コード照会情報、戸籍照合通知情報、本籍転属通知情報の再送信、再送信の際は異動事由を変更して送信できること

・CSとの疎通状況を確認できること

・送信データを手入力でも補完でき、送信できること

・一時的に手動連携に切り替えることができること

住民基本台帳ネットワークシステム統一文字(以下「住基ネット統一文字」という。)との変換が管理できること

・CSへ連携できなかった場合のエラー表示ができること・その他、戸籍附票システム改造仕様書最新版に記載されている機能を実行できること

【考え方・理由】

CSへの連携方式として、自動連携方式と手動連携方式があるが、標準仕様書では自動連携方式を想定する。

指定都市においては、作業の効率化の観点から、一覧表について行政区単位で分割できることとする。

CSとの接続構成は、J-LISより示されている接続構成パターンに準じた形を想定する。

7.1.2 附票本人確認情報との整合性確認

【実装すべき機能】

CS側の附票本人確認情報との整合性を、定期的に確認できること。

【考え方・理由】

戸籍附票システム改造仕様書において「戸籍附票システムが送信した附票本人確認情報登録通知電文及び附票本人確認情報更新要求電文の送信件数と、附票APで左記電文を受信し附票本人確認情報を更新した処理件数を比較チェックする」こととされているため、機能を規定した。

7.2庁内他業務連携

7.2.1 住民記録システムとの連携

【実装しない機能】

本籍地と住所地が同一の市区町村の者管内住所人の異動時において、住所情報や住民票コードの情報を住民記録システムから直接受信できること。

【考え方・理由】

住民記録システムが戸籍附票システムと直接連携している市区町村と、CSを介して戸籍附票システムと連携している市区町村があるが、デジタル手続法第10号施行日以降は、戸籍附票システムはCSからデータを受信することができる機能(4.1.3、7.1.1参照)があれば十分なので、住所情報及び住民票コードが住民記録システムから直接戸籍附票システムに連携されることのできる機能は実装しないこととする。

なお、本籍地と住所地が同一の市区町村の者について、戸籍の附票の記載事項と住民票の記載事項の整合性を確認する方法としては、戸籍附票システムと住民記録システムそれぞれのEUC機能(戸籍附票システムのEUC機能は10.1(EUC機能ほか)参照)を用いて、本籍地と住所地が同一の市区町村の者の情報を抽出し、突合することを想定している。また、住民記録システムから本籍地が同一の市区町村の者の最新の情報を戸籍附票記載事項通知の形でCSを通じて送信し、それをCSから戸籍附票システムでデータを受信しデータベースと突合することにより行うことも想定される。

7.2.2 個人番号カードによる証明書等の交付

【実装すべき機能】

広域交付システムインタフェース仕様書に基づく端末における証明書交付に対応していること。当該端末における証明書交付履歴を管理できること。

公的個人認証サービスを用いた証明書等の電子申請に対応していること。

【考え方・理由】

コンビニ交付をはじめとする個人番号カードによる証明書等の交付に対応するため、戸籍附票システムから電子申請受付システムにデータ連携を行う機能又は戸籍附票システム側で広域交付システムインタフェース仕様書に基づいた電文、証明書PDFを出力する機能を有することとする。

また、コンビニ交付以外のオンラインによる証明書等の申請に対応するため、公的個人認証サービスを用いた電子申請に対応できる機能を有することとする。なお、当該機能を有するシステムを別途、構築している場合には、当該システムと必要な情報を連携できる機能を有することとする。

8 実装してもしなくても良い機能

8.1本人通知

8.1.1 登録管理

【実装してもしなくても良い機能】

「本人通知」の申出内容について、登録・管理できること。

また、登録期間が満了する者について、本人通知期間満了のお知らせが出力できること。

対象の証明書は、窓口で交付した「戸籍の附票の写し」及び「戸籍の附票の除票の写し」とし、証明書を発行する際に、交付記録として発行日・交付請求者区分(本人、代理人、第三者)・証明書種別・枚数の記録(登録)ができること。また、証明書発行後に修正(交付請求者の選択誤りを修正)ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

8.1.2 画面表示

【実装してもしなくても良い機能】

「本人通知」の事前登録者の戸籍の附票の写し等が交付される際、画面確認できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

8.1.3 通知書出力

【実装してもしなくても良い機能】

証明書発行履歴を基に本人あて又は申請者あての戸籍の附票の写し等の交付通知書(発行日・請求者区分・証明書種別・枚数)が出力できること。

なお、出力条件として、「本人通知の事前登録者への交付」、「本人通知の事前登録者への交付(申請者が本人の交付記録は除く)」、「事前登録に関わらず申請者情報(第三者への交付や委任状による交付)による判定」が選択可能であること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

9 バッチ

9.1 バッチ処理

【実装すべき機能】

バッチ処理の実行(起動)方法として、直接起動だけでなく、年月日及び時分、毎日、毎週○曜日、毎月XX日、毎月末を指定した方法(スケジュール管理による起動)が提供されること。スケジュール管理にソフトウェア製品を利用する場合は名称、メーカー、バージョンなどについて、発注者からの要求があった場合、提示すること。

また、バッチ処理の実行時は、前回処理時に設定したパラメータが参照されること。

なお、前回設定のパラメータは、一部修正ができること。修正パラメータ個所については、修正した旨が判別し易くなっていること。

大量処理を行う場合でもオンライン処理に影響が出ないこと。

全てのバッチ処理の実行結果(処理内容や処理結果、処理時間、処理端末名称、正常又は異常の旨、異常終了した際はOSやミドルウェア等から出力されるエラーコード等)が出力されること。また、異常終了した場合の警告を戸籍附票システム内又は自治体が別途利用する他の通報システムに連携できること。

また、例えば6.1で記載した統計についてバッチの実行結果から一連の作業で最終的な提出物をXLSX形式等で作成する場合等には、自動実行する仕組みを用意すること。

【考え方・理由】

バッチ処理の実行方法には、直接起動方法のほか、ジョブスケジューラーから実行される「同期実行」、イベント駆動型である「非同期実行」がある。

戸籍附票システムにおいては、他システム間連携等のイベント発生による実行(非同期実行)は一般的に用いられないことから、全てのバッチ処理が「同期実行」できることが必要となる。

また、バッチ処理で異常が発生した場合はリカバリが必要となることから、リカバリを効率化するための実行結果の出力は必須である。

製品によっては、システムによりExcel形式で作成可能なものや、CSVだけ作成し、あとはオペレーションで行うものもあるため、機能要件を合わせるために記載。

なお、ベンダは、構築環境等によらず提供製品についての情報を顧客である市区町村に開示、説明する義務があり、市区町村側もミドルウェアの情報に限らず把握しておく必要がある。

修正パラメータ個所は判別しやすい必要があるが、アクセシビリティの観点から、色での識別等の方法は規定しない。

9.2 抑止対象者

【実装すべき機能】

抑止対象者一覧を作成できること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

10 共通

10.1 EUC機能ほか

【実装すべき機能】

EUC専用のデータソースが整備されていること。データソースは、戸籍の附票の異動履歴や除票データを含む戸籍附票システムで取り扱う全てのデータを対象とすること。

これらの機能等によって、データの抽出・分析・加工及びそれらの出力等について、以下のとおり提供されること。

【データソース】

「中間標準レイアウト仕様(戸籍)」の「データ項目一覧表」に記載のあるデータ項目のうち、戸籍附票システムで取り扱うものに限って、データソースとして参照できること。

各データ項目については、「データ項目一覧表」における「データ項目名称」として参照できること。

また、各データ項目の「データ型」、「桁数」、「外字使用(外字使用の有無)」、「コード」の仕様については、「データ項目一覧表」の記載内容(各データ項目の仕様)に従うこと。

「中間標準レイアウト仕様(戸籍)」の「データ項目一覧表」に記載のないデータ項目であっても、1(管理項目)において管理し、又は2(検索・照会・操作)において検索・照会・操作できることとしている項目(例:異動履歴、証明書の交付履歴)については、データソースとして参照できること。

これらのデータソースは、物理的なEUC専用のデータソース又は仮想的なデータソース等として提供すること。

【データ抽出・分析・加工】

データソースに対しては、検索条件が指定できるとともに、当該条件によるデータの抽出ができること。また、その検索条件を履歴として残すことができ、一部の条件を変更して再利用ができること。さらに、一般的な演算子(+,=,>,!=,&,++,–他、各種演算を表わす記号・シンボル)及び一般的に流通している表計算ソフトウェアやデータベースソフトウェアで用いられる一般的な関数を用いたデータの抽出・分析・加工等ができること。また、大量抽出等した場合であっても、オンライン処理に影響が出ないこと。

なお、一般的な演算子や関数を用いる方式については、演算子等を直接記述・指定するもののほか、特別の知識のない職員であってもデータの抽出・分析・加工等ができるよう(設定項目を提示して選択や入力を促し)、対話的に処理を進める操作方式(ウィザード)も提供すること。

抽出については、指定した条件に該当する者の情報(氏名、本籍等)、該当者数、該当する戸籍の附票数いずれも対応可能であること。

【データ出力】

抽出・分析・加工したデータに対して、XML形式やCSV形式として、データの出力ができること。

また、リスト形式及び宛名形式でのディスプレイや紙等への出力(ディスプレイ表示、プリンターでの印刷等)及びPDF形式でのファイル保存もできること。

これらのデータ並びにリスト形式及び宛名形式での出力については、大量処理の場合であっても、オンライン処理に影響が出ないこと。

そして、特別の知識のない職員であってもデータ並びにリスト形式及び宛名形式での出力に関わる操作ができるよう(設定項目を提示して選択や入力を促し)、対話的に処理を進める操作方式(ウィザード)も提供すること。

なお、データ項目を出力する際は、30.2(文字)に規定する要件に従うこと。

【考え方・理由】

戸籍附票システムをノンカスタマイズ前提に標準化するためには、全ての市区町村で求められる機能を実装することが理想である。一方で、自治事務である戸籍の附票事務においては(団体ごとの多様性があることから)、全国の市区町村が求める機能の全てを網羅することは、コスト等の観点から現実的ではない。

そこで、EUC機能によって、非定型業務(戸籍附票システム標準仕様で当該機能が提供されていない業務)、市区町村ごとの独自業務及び各都道府県で実施する独自の統計調査や整合性確認等に対して、ノンカスタマイズで対応できるようにすることは、以下標準仕様の目的(自治体システム等の標準化を推進する目的)にも資する。

(目的1)カスタマイズを原則不要にする。

⇒非定型業務及び独自業務等によるシステムのカスタマイズが抑制できる。

(目的2)ベンダ間での円滑なシステム更改を可能にする。

⇒システム移行に関わる元データの確認・検査等のコストが縮減できる。

(目的3)自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う。

⇒オープンデータ等に対応するコストが縮減できる。

なお、デジタル庁を中心に検討中の「データ要件・連携要件」の検討次第で本規定については見直しを行う。

戸籍附票システム自体に実装を求めるものはないが、操作方式については、操作説明書(オペレーションマニュアルの類)によって別途提供されることが必要である。その際、以下の帳票を作成することを操作例として含めるよう留意すること。

・支援対象者の一覧

・選択した個人の証明書発行履歴の一覧

○技術的基準

第8戸籍の附票システムの安全な管理等

3戸籍の附票システムの管理

(2)ファイルの不当な使用の防止等

ファイルの使用者の資格を明確に定めることとし、資格を持たない者による使用を制限すること等、ファイルの使用の管理及び不当な使用の検知について必要な措置を講ずること。

(3)データ等の取扱い及び管理に際してのエラー及び不正行為の防止

データ、プログラム及びドキュメントについては、特定の者が管理すること、定められた場所に保管すること、受渡し及び保管に関し必要な事項を記録すること、使用、複写、消去及び廃棄は責任者の承認を得て行うとともにその記録を作成すること等その取扱い及び管理の方法を明確にすること。

○技術的基準

第8戸籍の附票システムの安全な管理等

4端末機操作の管理

(2)端末機の操作者の確認

ア戸籍の附票システムの運用に際しては、パスワード、識別カード又はこれらと同等以上のものと認められる方法により資格の確認を行うこと。

イ(略)

(3)ファイルに対する利用制限

端末機の操作者ごとに利用可能なファイルを設定する等、ファイルの利用を制限する方法を定めること。

(4)(略)

(5)強制的に終了する機能

端末機には、複数回のアクセスの失敗に対して、強制的に終了する機能を設けること。

10.2 アクセスログ管理

【実装すべき機能】

<ログの取得>

個人情報や機密情報の漏えいを防ぐために、システムの利用者及び管理者に対して、以下のログを取得すること(IaaS事業者がログについての責任を負っている場合等、パッケージベンダ自体がログを提供できない場合は、IaaS事業者と協議する等により、何らかの形で本機能が市区町村に提供されるようにすること)。

・ 操作ログ

取得対象:①照会、②帳票発行、③異動入力(履歴追加)、④異動入力(履歴修正)、⑤異動入力(履歴削除)、⑥バッチ処理(帳票作成)、⑦バッチ処理(データ更新)、⑧画面ハードコピー、⑨データ抽出(EUC)

※③から⑤までについては、仮登録及び本登録両方の操作ログを取得できること。

記録対象:操作者ID、日時、ファイル名、端末名、オンラインの場合は対象となったレコード(処理対象者等)・機能名・画面名、バッチについては処理名、処理・交付場所

・ 認証ログ

ログイン及びログインのエラー回数等

・ イベントログ

戸籍附票システム内で起こった特定の現象・動作の記録。異常イベントやデータベースへのアクセス等のセキュリティに関わる情報

・ 通信ログ

WebサーバやWebアプリケーションサーバ、データベースサーバ等との通信エラー等

・ 印刷ログ

印刷者ID、印刷日時、対象ファイル名、印刷プリンタ(又は印刷端末名)、タイトル、枚数、公印出力の有無、出力形式(プレビュー、印刷、ファイル出力等)、証明書の場合には発行番号等の情報

・ 設定変更ログ

管理者による設定変更時の情報

・ エラーログ

戸籍附票システム上でエラーが発生した際の記録。管理者による設定変更時の情報

取得したログは、市区町村が定める期間保管するとともに、オンラインでの検索・抽出・照会が簡単にできること。

なお、システム利用者や第三者によるログの改ざんがされないよう、書き込み禁止等の改ざん防止措置がされること。

<ログの分析>

システムの利用者及び管理者のログについては、以下の分析例の観点等から分析・ファイル出力が作成できること(IaaS事業者がログについての責任を負っている場合等、パッケージベンダ自体がログを提供できない場合は、IaaS事業者と協議する等により、何らかの形で本機能が市区町村に提供されるようにすること)。

[分析例]

・深夜・休業日におけるアクセス一覧

・ログイン失敗一覧

・ID別ログイン数一覧

・大量検索実行一覧

・戸籍附票宛名番号等から該当者の検索実行一覧

【考え方・理由】

ログの保管期間は、各市区町村の開示請求の対応期間と同じであることが望ましい。ログの容量は大きくなるため、期間が長いほどディスク容量を占めることになる。

保管期間を指定する理由を明示することによって、クラウド環境下等において長期的にログを残したい自治体に対する追加課金等の理由も明確になる。

なお、印刷ログについては、プリンタ名では印刷場所の特定が困難な場合があるため、その場合は省略することも、印刷端末名をもって代えることも可とすることとした。

10.3 操作権限管理

【実装すべき機能】

発注者のシステム操作権限ポリシーに基づき、システムの利用者及び管理者に対して、個人単位でID及びパスワード、利用者名称、所属部署名称、操作権限(異動処理や表示・閲覧等の権限)、利用範囲及び期間が管理できること。

職員のシステム利用権限管理ができ、利用者とパスワードを登録し利用権限レベルが設定できること。

操作者IDとパスワードにより認証ができ、パスワードは利用者による変更、システム管理者による初期化ができること。認証に当たっては、シングル・サイン・オンが使用できること。

アクセス権限の付与は、組織単位、利用者単位で設定できること。

アクセス権限の設定はシステム管理者により設定できること。

アクセス権限の付与も含めたユーザ情報の登録・変更・削除はスケジューラ―に設定し、事前に準備ができること。

また、事務分掌による利用者ごとの表示・閲覧項目及び実施処理の制御ができること。

他の職員が戸籍附票情報の入力・異動作業をしている間は、同一個人の情報について、閲覧以外の作業ができないよう、排他制御ができること。

なお、操作権限管理については、操作権限一覧表での管理及びそれらに基づく利用者別の各種制御ができること。

例:1.1.13(支援対象者管理)、2.2.4(支援対象者照会)、9.1(バッチ処理)、

10.1(EUC機能他)、10.2(アクセスログ管理)10.3(操作権限管理)、10.4(操作権限設定)の操作権限は、それぞれ独立して制御ができること。

操作権限はバッチ処理で一括メンテナンスできること。

IDパスワードによる認証に加え、ICカードや静脈認証等の生体認証を用いた二要素認証に対応すること。

複数回のアクセスの失敗に対して、アクセス禁止状態にできること。

【実装しない機能】

職位・職権単位でアクセス権限を設定できること。

【考え方・理由】

個人情報や機微情報を取り扱う戸籍附票システムでは、システムの利用者及び管理者の個人単位での操作権限の管理が必要であるとともに、なりすまし利用を防止するため二要素認証を利用可能とする(グループ利用や非常勤職員等が同一IDを共用することは禁止)。

操作権限は、個々のシステムの利用者及び管理者を特定することが必要となるため、必ず、利用者個人を単位としたID及びパスワードを付与する。なお、全ての操作権限は、個々のIDに紐づくことになる。

アクセス権限を利用者単位で設定できれば、職位・職権単位でも設定できるため、独自の機能として職位・職権単位で設定できる機能は不要。

なお、人事異動の際のメンテナンスの負荷軽減を考慮し、操作権限はバッチ処理で一括メンテナンスできることとする(テキストデータを元にシステムで一括更新可能など)。

操作権限管理(認証等含む)は戸籍情報システムの一部として戸籍の附票が管理されている場合は、戸籍附票システム独自の機能として実装することが難しく、戸籍情報システムの機能を利用する想定としている。

10.4 操作権限設定

【実装すべき機能】

システムの利用者及び管理者に対する個人単位での操作権限においては、異動・証明を含む全ての画面にて、「戸籍の表示(本籍・筆頭者)」、「住民票コード」の項目を表示又は非表示に設定できること。(支援対象者の権限設定については10.3(操作権限設定)を参照)

【考え方・理由】

戸籍の附票の記載事項には住民票コード、戸籍に関する情報が含まれているが、これらの項目については、処理担当者によっては必ずしも必要な情報ではないため、照会画面において、これらを利用することができるシステムの利用者及び管理者といった権限者に応じて、個人単位で一定の操作権限設定を行えることとする。

10.5 ヘルプ機能

【実装すべき機能】

システムの操作方法や運用方法等について、マニュアルを有していること。

また、ヘルプ機能として、操作画面上から、当該画面の機能説明・操作方法等が確認できるオンラインマニュアル(画面上に表示されるマニュアル類)が提供されること。

【実装しない機能】

システムの操作方法や運用方法等について、冊子のマニュアルを有していること。

【考え方・理由】

市区町村によっては冊子のマニュアルが使用されているが、オンラインマニュアルで代替できるため、不要とする。

オンラインマニュアルは、システムの操作中に、キーワード検索などによって、知りたい情報に容易にアクセスできる。

オンラインマニュアルの一部として、Q&A(よくある質問&回答)集が提供されることが望ましい。

10.6 中間標準レイアウト仕様での出力

【実装すべき機能】

「中間標準レイアウト仕様(戸籍)」で定義された表形式(移行ファイル構成表、移行ファイル関連図、データ項目一覧表、コード構成表、コード一覧)、XML形式又はCSV形式(レイアウト仕様)に準拠したデータ抽出機能が提供されること。また、中間標準レイアウト仕様以外で保有するデータがある場合は、同様に提供されること。

なお、システム契約期間の終了時には、その時点での「中間標準レイアウト仕様(戸籍の最新バージョン)」で定義された表形式、XML形式又はCSV形式でデータ提供ができること。なお、中間標準レイアウトにおいて法改正等に対して未反映部分が存在する場合は、未反映部分を補い、データ提供ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

戸籍の附票は中間標準レイアウトの戸籍ユニットに含まれるものの、戸籍の附票単独でデータ移行することは考えづらいため、戸籍の移行と合わせて中間標準レイアウト仕様でデータを抽出することを想定している。なお、デジタル庁を中心に検討中の「データ要件・連携要件」の検討次第で本規定については見直しを行う。

10.7 印刷

【実装すべき機能】

証明書を発行する際にプリンタやトレー(ホッパ)の指定ができること。

出力部数を設定できること。

帳票発行時にプレビュー機能を保有すること。

帳票発行時にPDFか紙出力が指定でき、プリンタが指定できること。なお、デフォルトでPDFか紙出力かを設定できることとしても可能とする。

戸籍附票システム内部でアクセスログの取得が可能な形で、表示画面のハードコピー機能及びハードコピーの印刷機能を有すること。

氏名や住所等の印刷域桁数を超過したものについては、帳票発行時に超過内容を記載したリストを出力できること。

【実装しない機能】

アクセスログが取得できないOS独自の印刷ができること。

【考え方・理由】

住民記録システムに準ずる。

10.8 CSV形式のデータの取込(P)

【実装すべき機能】

証明書の発行処理を行う際、CSV形式で提供された以下のデータを取り込めること。その際、任意の方法でCSV形式になったデータを取り込むことができればよい。

・戸籍の附票の写し等の証明書の交付申請書に記載されたデータ

【考え方・理由】

今後、マイナポータルからのオンライン申請が戸籍の附票の写しにも拡充されていった場合等における、申請情報の取込機能を想定している。

11 エラー・アラート項目

11.1 エラー・アラート項目

【実装すべき機能】

論理的に成立し得ない入力その他の抑止すべき入力等(少なくとも「エラー項目一覧」に記載のもの)は、エラー(※)として抑止すること。エラーは、当該内容で本登録することを抑止することが目的であり、その実装方法として、エラーメッセージを表示し、次の画面に進めないようにすることも、エラーメッセージの表示によらず、そもそも入力不可とすることで対応することも差し支えない。また、仮登録段階でエラーメッセージを表示して抑止することも、本登録段階でエラーメッセージを表示して抑止することも、いずれもエラーの実装方法として許容される。

論理的には成立するが特に注意を要する入力等(少なくとも「アラート項目一覧」に記載のもの)は、アラート(※)として注意喚起すること。

※エラー:論理的に成立し得ない入力その他の抑止すべき入力等について、抑止すべき原因が解消されるまで、当該入力等を確定(本登録)できないもの

※アラート:論理的には成立するが特に注意を要する入力等について、注意喚起の表示を経た上で、当該入力等を確定できるもの

エラー・アラートとする場合は、原因となったエラー・アラート項目と理由・対応方法を入力者に適切に伝えること。

戸籍情報システムのエラー・アラート機能のうち、戸籍附票システムにおいても該当する項目についてはそれに準拠すること。

【考え方・理由】

標準化に当たっては、論理的に成立し得ない入力その他の抑止すべき入力等を抑止するためのものをエラー、論理的には成立するが特に注意を要する入力等に注意喚起するものをアラートとし、その両方について、抑止・注意喚起すべき場面を整理して、標準仕様書に盛り込む。ただし、具体的なエラーメッセージの文言やそれを表示する場面等、エラー・アラートをシステム入力者等に伝える方法については、画面遷移の体系や入力確認の方法等によっても異なるため、標準仕様として規定しない。

戸籍附票システムでは戸籍情報システムと同様のデータ項目や機能を扱っている部分があり、エラーやアラートについても同様のものが必要であるため、それらのデータ項目や機能で戸籍附票システムにおいても該当する項目については戸籍情報システムで定義されているエラー・アラート項目に準拠することとした。

○エラー項目一覧エラー番号エラー項目(参考)表示メッセージ例 ※本仕様書では規定しないが参考までに一例を示す関係する 機能要件 番号
1戸籍附票システム内のデータにおいて、住民票コードが一致する者がいた場合住民票コードが既に登録されています。住民票コードの入力ミス又は二重戸籍等特殊な状況にある可能性があります。確認してください。1.1.1
2消除となった者について内容の変更をする場合消除となった者については情報の変更ができません。誤記等が判明した場合は備考欄に追記してください。1.1.1
3住民票コードのチェックデジットが不正の場合住民票コードのチェックデジットが違います。1.1.1
4異動入力において、必須項目を入力せずに確定する場合○○が入力されていません。1.1.5
5異動事由が消除の事由又は修正の事由で対象者が存在しない場合異動対象者が存在しません。異動内容を確認してください。1.2.2
6他の文字を入力せずに「*」(ワイルドカード)のみ入力して検索を実行した場合「*」のみで検索はできません。他の文字を入力したうえで実行してください。2.1.1
7抑止対象者を選択した場合抑止対象者です。選択できません。3.1
8抑止対象者を特定する検索をした場合取扱注意者、又はその同一戸籍の者の情報ですので表示できません。 抑止対象者であり、証明書等発行する場合は戸籍担当まで連絡してください。また発行後は再度連絡をお願いします。3.1

第112回国会 衆議院 法務委員会 第9号 昭和63年4月15日

  • 134 山田英介発言URLを表示○山田委員 我が国の公示制度の歴史は百年を超えております。特に今回の不動産登記法の改正につきましては、いわゆる薄冊中心のブックシステムの登記制度からブックレスシステム、すなわちコンピューターシステムへとこれが移行されていくという、またさせていこうという、その意味では我が国の公示制度の大きな変革期に入ってきた、このように認識をするわけでございます。そういうことをベースにして考えてみますと、大事なことは、やはりいかにシステムそのものがブックからコンピューターへと移行したとしても、現在我が国の公示制度が抱えているさまざまな問題点、これの解決への方向づけ、あるいはまた公示制度を取り巻く諸条件の整備というものを、この大きな変革への第一歩といいますか、第一次となります不登法改正のこの機会にやはり明確に方向づけをする、あるいは整備をしていくめどをつけていくという作業が極めて大事な問題である、かような認識をいたしております。  そこで、何点か以下お伺いをするわけでございますが、最初に確認をいたしておきたいと思います。特にこの不動産公示制度と極めて密接な関係で存在をいたしております司法書士制度、そしてその業務に関してでございますが、特に司法書士が不動産の登記申請書を作成をいたしまして代理する、その前提として実際に登記の前提となる契約の実体、あるいはその契約でも物権契約の実体をやはりしっかりと把握していかなければならないのだろうというふうに認識をいたしておりますが、この登記申請書を作成し、そして代理して申請をする以前に、司法書士に求められる業務上の責任というのは一体具体的にどういうものなのかを明らかにしていただきたいと思います。
  • 135 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士はまずその業務の第一号として、登記及び供託の手続について代理をすることというふうに定められております。この手続について代理をするに当たりましては、当事者間になされている物権変動の原因となっている契約を把握し、そして何よりもその両当事者がその物権について登記をする申請意思を持っているということが書面上確認できるような状態にあること、それをはっきりさせることが必要であろうと思っております。
  • 136 山田英介発言URLを表示○山田委員 今局長が答弁なされたこと以外にも、列挙すればいろいろあると私は思います。要するに、局長のおっしゃることは、登記官に与えられている権限は提出された書類、申請書とか添付書類あるいは登記済み証あるいは登記簿こういうものを書面上審査をして、それが一定の様式にかなっており整合性を保っておるということであれば登記を実行する。そういういわば書面形式審査権というものと対比をいたしまして、司法書士の場合にはただ頼まれたから、嘱託を受けたから書類をつくり、申請書をつくり、提出すればいいというものではないのだ。要するにその実体関係にまで立ち入って、その申請をしようとする者が本当にその当事者であるのかとか、あるいはまた本当に登記申請する意思があるのか、その前提としての実体面におけるその物権契約なりそういうものが本当に本人、当事者の意思に基づくものなのかというような、そういう実体にまで立ち入って実質的に審査をしなければならぬのだよ、こういうことでございますね。要するに、実質審査というものを司法書士はその職責上あるいは司法書士制度の目的からいって、これはしっかりやりなさい、こういうことでございますね。
  • 137 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように理解いたしております。
  • 138 山田英介発言URLを表示○山田委員 申し上げました登記官の形式審査、それから司法書士の今局長がお認めになられました実質審査、この双方がよりよく機能し、相補い合い、そして初めて真正な登記というものが確保されるのである、また、そういう登記官の形式審査と司法書士の実質審査というものが補完し合って今日の我が国の公示制度というものが運営されてきた、また支えられてきたということは言えますか。
  • 139 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 登記が適正に、そしてまた迅速に行われるように司法書士がその役割を果たしてまいってきているというふうに思っております。
  • 140 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士は実質審査という、こういう一つの職務上の責務、責任というものを果たすために、繰り返すようでありますが、当事者の真意を酌み取る、あるいはまた当事者の意思を申請書などに誤りなく正確に反映をさせる、そして司法書士法一条「目的」あるいは一条の二それから二条、これらの規定から見ましても、当事者の双方の利益のために公正な立場で業務を遂行する、こういう義務が課せられている、こう解釈してよろしゅうございますか。一条、一条の二、二条との関連でお伺いをしております。
  • 141 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士は、多くの場合登記権利者及び登記義務者双方から委任を受けて事務を行っているのが実態であるように承知いたしております。その委任の内容たるものは、その当事者間に行われました物権変動に基づきまして登記を適正にするということが委任の内容でございますので、その内容を誠実に実行するというのが司法書士の努めであると思っております。
  • 142 山田英介発言URLを表示○山田委員 これは「登記研究」という雑誌がございまして、その「登記簿」という欄に記載されているところでございますが、これは一応A、Bという形で対話形式でわかりやすくなさっていますけれども、法務省のしかるべきこの登記に責任を持つ方がわかりやすく、しかも非常に理路整然と司法書士制度とその業務というものを解説されておる、このように私は理解しておりますが、その中に、「実務の上で「他人の嘱託を受けて」という他人の意思及び確認には、司法書士法第一条にいう、業務の適正を図り、国民の権利の保全に寄与するために万全の措置をとらなければならないんですね。」こういう問いかけに対して、「そういうことだね。司法書士の業務は、やり直しのきかないものであり、他の職務とは異なる高度な社会的責任を負っていることがわかるだろう。」そこで、「不動産の商品化・流動化がますます進み、不動産取引も頻度を加え、その登記手続を担う司法書士の職責も一段と重要なものとなってきているんですね。」「そうだね。」こうなっているわけでございますね。これはそのとおりでございますか。
  • 143 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 その雑誌はまだ拝見いたしておりませんけれども、お読みになりました内容は、格別異存があるわけではございません。
  • 144 山田英介発言URLを表示○山田委員 格別異存があるわけではないということは、そういうことだとお認めになられている。司法書士の場合は嘱託人からその真意を把握をし、究極の嘱託人の趣旨あるいは目的に合致するようにその登記申請についての実体関係、実体面について法律的な判断を加えて、登記申請について完備した書類を作成するための意思の確認、当事者の申請の意思あるいは物権変動の意思、物権契約の意思、そういうものを確認をする、あるいはもっと基本的に本当の登記義務者であるのか、本当の登記権利者であるのか、本人そのものなのかというところもやはり実体に立ち入ってこれを確認をする、あるいは実質審査をする、そういう義務が課せられていると私は思いますが、重ねてこの点について御答弁をお願いしたいと思います。
  • 145 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 契約が真実になされているものであるか、また登記申請を求めている者がその本人であり、その人が真実の意思を持っているかということを確認しなければならないのはそのとおりでございます。ただ、その確認をする手段が何であるかということは、その具体的なケースによっていろいろであろうとは考えます。
  • 146 山田英介発言URLを表示○山田委員 昭和四十六年四月二十日最高裁第三小法廷判決、土地所有権移転登記抹消登記請求事件でございますが、この判決の趣旨に基づいてこのような判断がなされているわけでございますが、それについてお伺いをしたいと思います。要するに、司法書士が嘱託人のいうがままに書類を作成し、登記所に提出することは、今日の経済取引の複雑化、多様化からも許されないものと考えられる。
  •  すなわち、司法書士が公共的な性格をもつものであるから、司法書士がその職務の遂行に関し責任があることは、社会的に当然要求されているところであって、その社会的責任の重要性は一段と強く要請されつつあり、司法書士は、特に嘱託人から調査依頼がなくても当該事件の真偽を確認する注意義務はあるとされている、こうございますけれども、要するに、司法書士が嘱託人の言うがままに書類を作成する、登記所に提出するということは、今日の不動産の取引の複雑化、多様化ということから見てこれは許されない、こう考えてよろしいですね。
  • 147 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように考えてよろしいと思います。
  • 148 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つ、昭和四十七年十二月二十一日東京高裁第四民事部判決、損害賠償請求事件、これはこういうことでございます。   
  • 司法書士が登記義務者の代理人と称する者の依頼により本人のため登記関係書類を作成する場合において、依頼者の言動により代理権の存否に疑のあるような場合は、単に必要書類について形式的な審査をするに止まらず、本人について登記原因証書作成についての真意の有無及び登記申請についての代理権授与の事実を確かめ登記手続に過誤なからしめるよう万全の注意を払う義務があるものというべきであり、代理権の存在を確めないでした申請にもとづき行われた不実の登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れない これが昭和四十七年十二月二十一日の東京高裁における判決でございます。  したがいまして、私がここで特に指摘しておきたいことは、このように司法書士は登記申請について手続の代理をする、そういう場合には大変厳格な注意義務を持ってこれを遂行しないときには、この登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れないよというまで要するに職責というものは厳しいものが求められている、この点をこの判決では特に強調しておきたいと私は思います。  それからいま一つは、いわゆる我が国の不動産登記制度、公示制度というものの持つ大きな弱点の一つというのは、欠陥と言ってもよろしいと思いますけれども、登記の迅速性の要請が一方にあり、他方においてその登記が正確になされていなければならないという要請があります。この迅速性と正確性のバランスをいかにとっていくかというところに極めて重要なポイントがあるわけでございまして、登記官の形式審査権の範囲における審査だけでは物権の変動に見合った公示というものがなかなか確保されにくい。要するに書面でだけしか審査できないわけですから、したがって実はそこに不実の登記とかあるいはまた不正な登記というものがつけ入るすきができてきてしまうということは言えると思うわけでございます。そして、実質的な審査権を持つ立場にある司法書士の努力あるいはまたその存在というものが我が国の登記システムというものをしっかりと安定させる、そのために登記官ともども、あるいは関係者の皆さんとともどもにその大きな役割を果たしておる、このように言うことができるわけでございます。したがいまして、この形式審査主義の欠陥というものをカバーをして不実の登記を排除するということが司法書士の使命である、こういうふうに結論を導き出すことができると私は思います。
  •  もし司法書士も登記官と同様に形式的審査権の権限内で業務を果たしていれば、遂行していればいいのだということになれば、我が国の公示制度というものは、これはその根幹にかかわる、その発展もあるいはまた前進もあり得ない、望めないというふうに私は考えざるを得ないわけでございますが、これはどうでしょうか。林田大臣から一言いただいておきましょうか。要するに、登記官と同じように司法書士が形式審査というようなことで、ただ頼まれたのだから頼まれたままに書類をつくり申請すればいいのだというところに安住していれば、とどまっていれば、我が国の登記制度というものの健全な発展というものはあり得ないというふうに思うのですが、いかがでございましょうか。
  • 149 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記が真正な登記でありまするためには、登記官の方は形式上の審査を行えば足りるわけでありまするから、その前段階として代理人でありまする司法書士において十分審査をしていただいて、そして書類を登記官に提出していただくということが最も望ましいことであり、また、これからの登記制度におきましてもそうあらなければならぬことである、かように存じております。
  • 150 山田英介発言URLを表示○山田委員 それでは民事局長にお伺いしますけれども、国が司法書士法に基づきまして司法書士にその登記申請の書類の作成義務を独占的に行わせている、他の者にその業務の取り扱いを禁止している理由は那辺にあるのか、これをちょっと整理してお答えをいただきたい。要するに、国が司決書士法を定めてその法に基づいて登記申請書類の作成義務を独占的に司法書士に行わせている、そして資格のない者にその業務の取り扱いをしてはならないと禁止している理由についてお伺いをしたいと思います。
  • 151 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法は、資格のない者が業として司法書士の業務を行うことを禁止いたしておりますが、これは司法書士のとり行います登記その他の代理に関する業務が国民一般の財産にかかわる非常に重要な利害関係を持つものでありますために、一定の資格を有する者にそれをとり行わせることが国民多数の幸福につながるという観点からこれをそのように制限をしているものであるというふうに考えております。     〔今枝委員長代理退席、井出委員長代理着席〕
  • 152 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つだけ確認しておきますけれども、司法書士が申請書を作成し登記所に提出をするその前提として、最近は非常に登記済み証の偽造も多い、あるいはコピー技術の発達等を悪用して印鑑証明書の偽造、変造も多いというような、一つには病理現象、登記制度における病理現象というものが増加する傾向にあると憂える一人でありますけれども、司法書士が提出をする前提として、印鑑証明書とか権利証を厳格にチェックをする、現実にそういう機能を果たしているわけでございますけれども、実際に防止、あるいは見破るといいますか、そういう不実の登記をさせないようあらかじめそれを防ぐ、そういうことについて果たしている役割というものは私は大変多いものであると思っております。  
  • それで、例えば不鮮明な印影だとか印鑑が違っているのじゃないかというような疑いがあるときには、日常の登記事務を通じましてこれを直ちに拒否するとか、あるいはまた必要があれば関係市町村に印影、印鑑証明書について照会をするとか、あるいはまた取引が正しい当事者の合意のもとに行われているかどうかを確認したり、特に大事なことは、所有権を失う登記義務者の意思の確認というのが特に重要であるという認識のもとに、特にそこをまた入念に行う。あるいは印鑑証明書は本来は登記義務者、所有権を失う登記義務者が持ってくるのを常態とするわけですけれども、買い主が単独でやってきて印鑑証明を持ってきた、あるいは本人が病気で来られないというようなときに買い主だけが印鑑証明なんかを預かったという形で持ってくる、こういうときには、特に登記義務者が本当に所有権を失うのですよ、その登記申請をあなたはやろうとしているのですねという、この意思の確認というものを日常的な業務の中でやっているということを私は知っておるわけでございます。
  •  今、十点ばかりにわたりまして御確認をいただいたわけでございますが、私が申し上げたいことは、今の御答弁にもありましたように、例えば実体関係にまで入って調査をする義務がある。あるいはまた嘱託人の言いなりになって書類を作成した場合、仮にそれが不実な登記であったとすれば、その登記を信頼してその権利を取得をした第三者に対して不法行為責任は免れないというふうに判決でも言われている。あるいはまた登記官とは対置される形の実質審査権をしっかりと行使をして、そして真実の登記というものを担保するよう、確保するようその業務を行わなければならない。むしろそういう義務を負い、あるいは課せられている、そういう司法書士であります。  
  • 先ほど民事局長が御答弁になりましたように、結局は、国民の権利義務に重大な関係を有する書類を、一定の資格を有し相当の法律的素養のある者に国民が嘱託して作成してもらうということが、局長おっしゃるように国民の利益、公共の福祉に合致する、こう考えたから、国が司法書士法を定めて、そしてこの登記申請書類の作成権限を独占的に司法書士に与えたのだ、そしてその資格のない者にその業務の取り扱いを禁止したのだ、こういうことであるわけでございます。局長がお認めになったとおりでございます。したがいまして、私はこの登記代理権というものを考える場合に、この点をしっかりとベースに踏まえて議論をしなければ、あるいは方向づけをしていかなければ、これは大きな誤りを犯すことになりはしないかというふうに思うわけでございます。仮にそのような十分な注意義務を払わずに結果的に不実の登記というものをしてしまった場合には、第三者に対して不法行為責任を免れないぞというような、そういうような厳しい一つの使命あるいは役割、責任というものを与えられている司法書士が代理してなす登記の申請と登記の手続と、司法書士以外のそういう資格のない者がなす登記申請とその代理手続と、この不動産登記法上何ら区別がなされていない、これは常識的に考えていかがなものかと私は思うわけでありますけれども、局長、いかがでございますか。
  • 153 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法では、業として登記事務を代理することは司法書士の専権といたしておりますが、一般の人が個別に代理をすること自体は別に禁止をいたしておりません。そういう意味では、司法書士が独占的に登記代理を行うという形にはなっていないわけでございます。 これは登記事務そのものが、登記の代理が、今まで先生がいろいろ御指摘になられましたように、いろいろ当事者の利害に深くかかわりを持つことはもちろんでございますけれども、登記の依頼人が特定の人を信頼して特定の人にその登記の代理をゆだねるということ自体までは禁止する必要がないというふうに考えているからでございます。これは何もひとり司法書士法に限りませんで、ほかのいろいろな士業種についてもおおむね共通して言えることでございまして、代理をするからには必ず司法書士でなければならないという制度を設けるかどうかは、単に今まで先生がお挙げになられましたような観点からだけで決するというわけにはまいらないのではないかというふうに思う次第でございます。
  • 154 山田英介発言URLを表示○山田委員 午前中の質疑応答を私も拝聴しておりましたので、要するに、民事訴訟法で簡易裁判所については許可を得て弁護士にあらざる者でも訴訟代理人になれるということを局長はおっしゃりたいわけでございます。ただ、司法書士の登記代理権というものを仮に法制化したとしても、実質的にどうなんですか。余り変わらないのじゃないですか。要するに本人が登記申請できるという道は開かれているわけですから、それまで否定せよということでは全くないわけでしょう。  
  • それから、訴訟の場合も、これは原則本人訴訟ですね。最高裁まで本人でできるのだ。訴訟をやっていいわけです。ただ、地裁以上は訴訟代理人を置く場合には弁護士強制主義だよ、簡裁の場合は許可を得てだよ、こういうことになっているわけです。しかし、実際には、民事訴訟法にそういう非弁護士でも簡においては訴訟代理人になれるという規定があるけれども、規定はそうなっていますけれども、実際の運用という面で考えたら、これはどういうことになっているのですか。実際には、運用面まで立ち入って分析してみれば、結局弁護士を訴訟代理人にするかあるいは本人訴訟でいくかの二つしかないのじゃないですか、実際問題としては。局長、これはどうですか。
  • 155 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 裁判所の実務の扱いについてまで私が申し上げるのは、いささか行き過ぎかと思います。登記の代理人につきましての実情を拝見しておりますところでは、恐らくもう九割以上の事件において司法書士が代理人として関与されているのが実態でございましょう。そういう意味では、格別法律の規定を設けることはなくても、事実上司法書士が登記代理を独占なさっているに近い状態にあるというふうに考えられます。また、登記所における行政運営の立場から申しましても、登記の専門家でございます司法書士が代理をなさることの方が行政効率を上げる上からでも極めて意味のあることでございます。  
  • ただ、問題は、司法書士以外の第三者は代理をなし得ないというふうに限定的な決め方をすることが果たしていかがなものであろうか。これは、一般国民の経済活動の自由を制約することにもなりますし、これを依頼するとなると必ず司法書士でなければならないということになりますと、昨今のようにいろいろ契約コストその他についての節減をいかなる企業においてもいかなる個人でも図っておる今日でございますから、そういった面からの反発もないわけではないと思います。また、隣接いたします領域において、弁護士でございますとかあるいは税理士でございますとか、こういった方々との間で業際問題にまで発展をするわけでございますので、そのような法律ではっきりとした決め方をするというのは必ずしも適当でないというふうに考えざるを得ないわけでございます。
  • 156 山田英介発言URLを表示○山田委員 何点か今の御答弁に対して指摘をしておきたいのです。  
  • 裁判所に関することを答弁する立場にないということでございますけれども、それでは申し上げますけれども、民事訴訟法の先ほどの規定についていえば、確かに非弁護士でも簡裁では許可を受ければ訴訟代理人になれるとなっています。しかし、現実には運用の問題ですから、そこまで見てかからないと真実はわからない。結果的にそれは弁護士が訴訟代理人として独占的に存在をする。それ以外では、結局は本人訴訟しかないのだ。実態はそうだということを私はまず指摘しておきます。  
  • 今僕の手元にあるのは、六十一年の司法統計年報、全簡易裁判所についての弁護士の選任状況別などという資料なんですけれども、この資料を見ても、要するに簡易裁判所における事件の総数が幾つあったか、そのうちに弁護士をつけたものが幾つあったか、それから当事者本人によるものが幾つあったか。したがいまして、いわゆるこの司法統計年報の中でも、弁護士以外に訴訟代理人となったそういう事件の数というものはもともととっていないのです。実態的には訴訟代理人は弁護士、そしてそのほかに訴訟の手続等がなされるものは本人訴訟である、実態はそういうことでございます。したがいまして、民訴法の同じ士法の横並びで見ると合理性がないとかあるいは納得が得られないということを余り強調されても、それはまさに余り説得力を持たないということはちょっと指摘をさせていただきます。
  •  それから、その後にまたお話がありまして、登記申請の代理権を有する者は司法書士だけだと限定することは国民の自由な活動を妨げることになるのじゃないか、あるいはまたお金をかけなければ登記申請ができないのじゃないかとおっしゃいましたが、それもよく伺っておりますとそういうことではないでしょう、局長。国民の活動の自由を何で妨げることになるのですか。それは本人の登記申請手続の道を閉ざそうというわけじゃないのですから。それじゃ司法書士に頼まなければならぬ、金がかかるじゃないかというけれども、御自分でその場合にはなさればいいわけです。あるいは親戚の者がいて、例えば登記官を定年退職されて余暇を楽しんでおられる、自由な時間がある、じゃそのおじさんのところへ行ってちょっとやってもらおう、やってあげよう、ただでいいよ、これはあり得ると思いますよ。思いますが、それでしたら何もおじさんにやらせなければ国民の自由な活動が妨げられるという理屈にはまたならないでしょう。それは、おじさんから本人が聞けばいいじゃないですか。いろいろと登記のやり方、こういうふうにやれば申請書はできるよ、それで本人申請でやりなさい。これだって国民の自由な活動の妨げにはならない。  私がなぜこの問題を今こうしてこういう角度から取り上げているかという本当の考え方というのは、我が国の百年の歴史を持つ不動産公示制度、それが登記官の形式審査主義、あるいはまた後に触れたいと思いますが、原因証書は必要的な義務づけられた添付書類、提出書類ではないというふうな、そういう中で弱点、もろさ、あるいはどうしても補っていかなければならない欠陥というものがあります。ブックレスシステムへ移行しようという百年の時代を画す登記システムの、公示システムの大変革の時代に来た。しかし、いかにコンピューターシステムに移行させたとしても、真実の権利変動に見合う公示というものがなされなければ、あるいはまた権利変動がないのに公示だけがなされるというような、制度の根幹から出てくるような問題をどうしたら一つ一つその芽をつぶしていくことができるか、克服していくことができるか、もって我が国の公示制度を一層発展なさしめなければならない、そのためにはどうしたらいいかという角度から、司法書士の登記代理権付与という問題も前向きに積極的に検討すべき一つの課題であるのですよということを私は申し上げているわけでございます。その点いかがですか。前向きに検討をなさるべきじゃないのですか。
  • 157 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 訴訟制度には訴訟制度としての長い歴史と伝統がございまして、その中での代理権というものも決められてまいったと思います。また、登記は登記として、もともとは裁判所における非訟手続として現在のような代理の形態がずっと続いてきたわけでございまして、私が申し上げたいのは、確かに不動産の所有が単に一部の資産家だけの事柄でなくて非常に国民的広がりを持ってきた、そしてまたこれが非常な資産価値を持ってきたということ、さらにそれをめぐりましていろいろな犯罪その他の問題も起こっているということはそのとおりでございますけれども、だから司法書士に独占的代理権を与えなければならないというような国民的合意が形成されるまでにはまだ至っていないのではなかろうか、そこまで法律が突出するのはいかがなものであろうかということを申し上げたかったわけでございます。  ただ、こういったような問題状況は、将来極めて長い長期的視野で見た場合に、いろいろ社会経済生活も変わってまいりますし、司法書士という制度もさらに発展することでもございましょうし、国民の意識もどのように変わってまいりますか、私どもちょっと予測しがたいものがございます。でありますから、そういった推移を慎重に見守りながら、制度全体の見直しとも関連づけて検討するような時期が来ないとも限らないと思っております。そういう意味合いにおきまして、この問題につきましてはかねてから日本司法書士会連合会の方からそのようなお話もございまして、私どもは今の時代ではこれはちょっと難しいことではないかというふうに申し上げておりますが、今後も協議は続けてまいりたいと思っております。
  • 158 山田英介発言URLを表示○山田委員 私は、今すぐやるべきだというふうに申し上げているわけではありません。不動産公示制度の持つ弱点、欠陥というものを少しでも是正をしていくことが、我が国の経済取引社会を支え、あるいは一層着実に発展をさせていくむしろベーシックなシステムである、登記制度である、極めて重要であるということを申し上げているわけでありまして、これを支え発展させていくために一歩でも二歩でも前進できる、そういう認識を持つことができるならばこれをむしろ積極的に今後の検討課題としてお取り上げいただきたい、あるいは位置づけていただきたいというふうに申し上げているわけでございます。今の時代ではなんでございますが、そういう時代が来ないとは限らないとは思いますがと、二重にも三重にもたがをはめられたようなそういうあれじゃなくて、私が今質問している本当の気持ちは、そういう大事な制度をより発展させるために今の弱点をどう克服するか、その方途について前向きに建設的にいろいろな可能性を積極的に検討するべきじゃないでしょうか、こう申し上げているわけで、局長、もう一回すっきりした答弁を。
  • 159 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 先生御指摘のように、登記における信頼の確保ということは非常に大切なことでございまして、それをどういうふうにして図るかというのは、いろいろな角度からいろいろな方策を私どもも検討してまいらなければならないと思います。その一環として、先生御提案の登記代理権制度というのも一つの考え方ではございますが、現在のところそれがそういう大目的のために最もふさわしい制度、あるいは国民にとって最も理解のいく制度であるかどうかということについてはまだ確信を持つ段階ではありませんので、そのほかのいろいろな制度との比較において検討してまいるということについてはやぶさかではないというふうに思います。
  • 160 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士登記代理人の法制化の問題と裏腹なんですけれども、登記代理ということの概念が不明確であります、不登法上に何ら代理権に関する規定がないわけですから。したがって、実体法たる民法の代理権のところで処理せざるを得ないわけでございます。  これをどういうふうに思われますか。こういうことがありますよ。  甲が売り主、乙が買い主。甲乙間で不動産について所有権の移転がなされました。そして、契約に基づいて司法書士Aのところに登記手続の代理を委任してまいりました。それが本日、四月十五日だとします。そして、A司法書士がそれを当然実体審査をきちっとやった上で受けました。そしてその午後から夕方書類を調製をして、明日朝一番で出そう、こう決意をしていた。ところが十五日の深夜、この登記義務者の甲が何らかの事由によりまして亡くなってしまいました。こういう事例があり得ます。しかし司法書士はそれを知らされていなかったとすれば、当然先ほど事務所に来た人がその夜死んだなんということは夢想だにできないことですから、予定どおり朝登記所に所有権移転登記の申請書を提出をしました。  そうなった場合に、これは御案内のとおり民法百十一条の代理権の消滅事由、本人の死亡によって代理権はもう消滅しているわけですね。そこで、そのなされた登記については後にその相続人から訴えが起こされまして、代理権が消滅してなされた所有権移転登記というのは要するに無効である。私の父親は、被相続人は不利な取引条件のもとで乙との間に契約を結んだのだ。しかも登記申請の段階では本人はもう死んでいる、代理権はなくなっている、したがってこれは無効だという争いを起こした。しかし判決はその登記申請が実体にかなっていたということで、これは有効であるという判決が出されております。
  •  ところが、これはどういうことかといいますと、要するに登記代理についての概念が不明確だから、不登法上に代理権限に関する規定が何ら置かれていないものですから、こういう取引の混乱あるいはまた乙の、いわゆる権利者の権利が害されそうになる、あるいは害されるという事態を引き起こしてくるわけでございます。判決でそう出たからといって、同種の類似の事件が今後起きないとは限りません。起きたその都度、これは訴訟になるでしょう。その都度またこれは裁判関係の大きな負担にもなるし、そしてそうじゃなくても、司法試験の合格者数を基準を緩めて、もうちょっと大きくして検事、判事、弁護士の皆さんをふやそうというようなその一つの有力な根拠が、裁判事務あるいはこういう訴訟の滞留といいますか、なかなか迅速に処理できないというようなところにも置かれている。こういうことを考えてみますと、この事例はまさに登記代理人制度の法制化と裏腹の関係で、登記代理権が極めて概念が不明確なところからよって起こる一つの例でございます。  
  • もう一つあります。これは、現実に数年前に九州で起きた事件でございます。登記事件の場合にはよく住所とかあるいは姓名が婚姻等で変わったということで、名義変更というのが前提である場合が多いです。いわゆる現在の所有者の実態に合わせるという意味で、住所変更とか名称の変更とか。この名義変更登記、それから引き続いて抵当権等の抹消登記、その次に、きれいになったところで所有権の移転登記、それから所有権の移転を受けるために新たに銀行から借り入れを起こすことを原因として担保権の設定。したがって、名変、抹消、移転、設定、こういう連件事件というふうに言っておりますけれども、これを受ける場合があるのです。これがよくあるのです。  
  • それで、名義変更をする人が甲、したがってA銀行から金を借りていた、抵当権をつけていた。そのA銀行と甲の間で担保権の抹消登記。それからこの甲と今度は権利者、買い主の乙、甲と乙との所有権移転。そして乙はB銀行からかあるいはあわせてC公庫からお金を借りて、この所有権移転登記を受ける物件の代金の支払いに充てた。したがって、設定登記を銀行や公庫のためにしなければならないという義務が発生する。この一連の連件事件の中で、こういう事例が現実に起こりました。
  •  それは、この連件事件に関係する当事者は、甲、乙、A、B、C、この五者がそれぞれ司法書士にそれぞれの登記の委任をいたしました。それで、司法書士はその実体関係をよく把握をして、登記所に連件事件として提出をした。その後、A銀行に対しては抹消しなければならない甲が二百万円A銀行に支払って、そうして担保権を抹消してもらいたいと言った。ところが、実際に乙から入ったお金が百五十万で、五十万足りなかった。しかし、すぐお持ちしますからということで、実はA銀行の担当者は委任状を交付してしまった。ところが、すぐ五十万持っていきますと言ったのだけれども、その甲が来なかった。したがって、A銀行では待って、ある一定のタイミングで判断をして、これは我がA銀行の利益が害されるということで、甲を呼んで二人でもって登記所へ行った。そうして、我々はA司法書士にはもう委任の終了を告げてきた。したがって我々は当事者だ。A司法書士から提出された委任状に実印を押してあるけれども、A銀行は実印を持ってきた。その場合には実印は要らないかな、担保権の抹消だから要らないかもしれません。いずれにしても、A司法書士には委任の終了を告げてきた。したがって、我々はこの抹消登記については本人が二人で出頭したのだから取り下げてもらいたいと言った。登記所の判断では、それは取り下げたのです。
  •  そうなりますと、この取引というのは物すごく混乱します。特に、所有権移転を受けるべき買い主の乙は、担保権が抹消されたものを所有権移転を受けるというふうに当然理解していたものが、結果的に登記が済んでみて登記簿を確認してみたら、あるいは権利証の裏に担保権設定という印が押捺されていた。こういうことになると、特に乙の権利が害される。乙に金を出したB銀行、C公庫の権利も脅かされる。これはどこから来るかといえば、同じように不登法上登記代理権に関する規定が全く整備されてないものですから、結局民法百十一条の第二項、要するに法定代理人あるいはまた会社の代表取締役の代表権、いわゆるこういう代理権とは違って委任による代理権ですから、この場合でいえば甲とA銀行が司法書士に対して、委任による代理権だからもう委任による代理権はこれで終了しました、このように一方的に通告すれば、通告される方の司法書士は、いやそれは困る、委任はまだ終了していないことにしてくれとは言えない。これは要するに、そういうことから来る取引の混乱の典型的な事例です。それからもう一つは、これは権利者の権利が害されるという典型的な事例でございます。  私の承知しているのは九州の数年前の事件でございますけれども、全国的にはこういう事件が皆無だとは言い切れません。それはもっとあるかもしれません。民事局長さん、それから審議官、これも要するに登記代理権をいつまでも不明確なままに、ということはすなわち不動産登記法上にいつまでも登記代理権の明定をためらっていたり、それを避けようとしていたりすれば、これは年月がたてばたつほど、時代が進展すればするほど高度、複雑そして多岐にわたる不動産登記の実態になっていくわけですから、激増するわけですから、手おくれになりかねませんよ。あるいはまた、そういう経済取引社会の秩序というものを根底から脅かすことになるんじゃないでしょうか。  したがって、こういう観点からも、不動産登記法をブックレスシステムへ百年ぶりに大変革の時期を迎えて、移行させるためのいわば第一次の不登法の改正法案が今出されたのですから、この機会に登記代理権の明確化と、それからそれと密接に関係する、あるいは表裏の関係にある登記代理人の法制化ということも、余り等閑視するとは言いませんけれども、要するに我が国の不動産公示システムを主管をする、所管をする法務省、そして民事局という立場において、もうちょっと問題意識を厳しく持たれるべきではないのでしょうか。私は、このことを強く申し上げたいと思うわけでございます。したがいまして、局長から、そして審議官から先ほど御答弁をいただきましたけれども、私はこういう観点から我が国の公示制度というものを一層発展をさせ、充実させ、そして国民の皆さんから登記というものは、あるいは登記制度というものは本当に、それは確かに公信力は与えてないけれども、ただ単なる第三者対抗要件しか付与されていないけれども、登記をすれば安心なんだという国民の強い信頼感というものをこの我が国の公示制度がかち得ていかなければならないという観点から、私は林田大臣に、この登記代理権、司法書士、そしてまたこの登記代理概念の明確化というものを法務省の一つの重要な検討課題と位置づけられて前向きに御検討いただければ大変ありがたい、よいことではないだろうか、こう存じてお伺いするわけでございますが、ぜひ大臣から前向きな御答弁をいただければと存じます。
  • 161 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 ただいまの先生が挙げられました事柄は、登記の代理権を資格者に限定するかどうかという問題とはまた別の問題であろうかと思います。つまり、この場合における委任あるいは代理の終了事由がどうであるのか、あるいは委任の解除の自由があるのかどうか、こういう問題につながることではなかろうかというふうに考えるわけでございまして、個別の法律に特別の規定がなければ民法の規定が適用されるということになりますから、当事者が死亡すれば死亡により代理権は消滅する。しかし、結果なされた登記の効力をどう判定するかというのはまた別の問題であるということで、先ほどのような判決の結論に至るものではなかろうかというふうに考えます。また、委任の解除が自由であるのかどうか、民法の委任の規定がそっくりそのまま適用されるのかということになりますと、お話しのような売り主と買い主との利害が結びつき合って相互に関連をしているようなときにはこの解除の自由が制限されるという解釈が一般にとられておるようなことでございまして、そのような委任に関する民法の解釈がこの場合に適用されていくのではなかろうかというふうに思っております。
  • 162 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長、僕はそういうことを伺っているのではないですよ。僕の言っていることを全然御理解いただいていないようなんですけれども、繰り返して言うことは避けますが、そういうことを私は御答弁いただきたいと思っているのではないのです。そうではなくて、もっと大方針にかかわる問題なんです。あなたのおっしゃっているのは枝葉末節のことなんです。もっと大きく、不動産登記システム、制度の意義というものをもうちょっと大きくとらえた上での御答弁をぜひお願いしたいと私は思います。結構です、局長さん。大臣ひとつ。
  • 163 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記というものが第三者に対する対抗要件、こういうことで位置づけられてきまして、今まで伝統的にそういうことになってきておるわけであります。しかしながら、時代が進んでまいりまして不動産の価値の重要性というものが非常に大きくなってきておりまして、登記によりまして不動産そのものを知りたい、あるいはまた商業登記は特にそうでありまするが、会社の実態を知りたいとかそういうことになり、登記というものが非常に重要になってきておると存じます。そういうときに当たりまして登記の持つ根本的な性格をどういうふうに考えていくかということが重要な問題であると存じまして、これからさらに検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 164 山田英介発言URLを表示○山田委員 ですから、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。要するに、登記の真正確保ということは不動産公示制度の極めて根幹にかかわる大きな理想であり、理念であり、目的である。それを確保するためには、現在各制度が抱えているいろいろな弱点とか欠陥とかいうものをカバーしていく手段というものを考えなければいけない。それはきっと幾つかあるのだろう。その中の一つが登記代理の概念の明確化であり、その一つがまた登記代理人の方法である。それだけとは言わない。幾つかあるだろう。しかし、現時点でそれもその中の検討課題の一つであることはそのとおりだろう、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。一言、済みません。
  • 165 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 私の言わんとするところを先生が皆おっしゃっていただきました。まことにそのとおりだろうと思います。さらに検討してまいりたいと存じます。
  • 166 山田英介発言URLを表示○山田委員 さっき民事局長さんの御答弁の中で、弁護士会とあるいは業際問題にまで紛争が激しくなってしまうかもしれない、それがいわゆる司法書士に登記代理権を与えることのできない一つの理由として局長はおっしゃいました。  では、今例えば司法書士団体、日本司法書士会連合会と日弁連、弁護士の集団の執行部の皆さん、あるいは執行部だけとは限りませんが、いろいろなお話し合いがなされておる。お互いに法律事務あるいは法律関連事務、膨大な需要があるわけですから、それをひとり例えば弁護士の皆さんだけでとてもとてもすべてをカバーすることはできない。そこに登記事務を中心として司法書士の一つの法律事務あるいは法律関連事務の担当分野というものがある。その交流といいますか、いろいろな話し合い、研究、勉強会の中で、仮に登記の分野については、これは司法書士が専門的な知識を有し、歴史も持っておる、この分野については例えば不動産登記法上に登記は司法書士ならざれば代理人となることを得ず、あるいは加えて、ただし他の法律に別段の定めがある場合は除くというようなことで、仮にそこである程度理解ができたと仮定して、仮定の問題、そういう話し合いというものはものすごく大事でございますから積み上げていく、そこに信頼関係が出てくる、お互いがお互いをよく理解していくこともできてくるというその延長線上、その結果として局長のおっしゃる業際問題というものが激化するのじゃなくて、それが本当にお互いの理解の中で不登法の中に登記代理権という形であるいは代理人という形で司法書士が原則的に、基本的に規定されていくことは、まあそういうことだろうということになった場合には、これはどうなんですか。局長さんのところではそのときにはどういうふうにするのですか。
  • 167 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 業際問題は一つの理由として申し上げたわけでございますが、それでも弁護士団体と司法書士団体との間で話が仮についてそこが解決したとなりますと、それは一歩前進でございます。それ以外の団体あるいは国民の世論の動向を考える上での、一つの重要な材料にはなろうかと思います。
  • 168 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長がおっしゃる国民のコンセンサスができていない。それができてくれば、裏にして読めば国民のコンセンサスができてくれば、司法書士登記代理人の法制化あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるわけですね。やろうというつもりである、裏返して読めばそういうことですから、国民のコンセンサスがないから現時点では無理ですとおっしゃるのですから、国民のコンセンサスができてくれば、不登法上に司法書士、登記代理人、あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるというふうに受け取らざるを得ないわけですが、その点ちょっと確認をさせていただきます。
  • 169 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 そういう独占性を与えるということになると、それは何らかの公益上の必要性が要るということになろうかと思います。そして、それは多分登記の信用を確保するということになるのだろうと思いますが、一方では、国民の間では、非常に登記権利者と登記義務者が知り合っている、そしてよくわかっていて、それが非常に私的な関係で信頼する第三者に登記の代理をさせるということを禁止する。先生は先ほど、そういうときには教えてもらえばいいじゃないかということをおっしゃいましたけれども、本人申請の形をとらなければならないのだ、そういう私的な場合において、当事者の信用は当事者間で考えてみれば全く害されるはずはない。確かに司法書士を登記代理人に選任すれば、それだけ当事者の権利は守られるというふうに私ども考えておりますし、そのことは望ましいことだというふうに思っておりますけれども、当事者がそういうシチュエーションにない場合にあえてそういうことをさせるということのコンセンサス、国民の理解が得られるかどうかということは、今後慎重に検討してまいらなければならないのではないかというふうに思っております。
  • 170 山田英介発言URLを表示○山田委員 今あなたがおっしゃったコンセンサスも含めて、コンセンサスが得られればやるということでしょうかと聞いているのですよ。そうとらざるを得ないでしょう。
  • 171 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのような意味での国民的合意が得られたならば、おっしゃるようになるであろうと思います。
  • 172 山田英介発言URLを表示○山田委員 今審議官が私のさっきの発言を引いて、それではそれは知識のある人に教えてもらえばいいじゃないか、頼まれた人の申請行為を締め出すということはよくない。それはそれなりの理屈はあると思います。ただ、皆さん弁護士法と横断的に論じられるのですから、僕も横断的に論じれば、例えばそれは登記所長の許可を得てやることができる、これは閉ざしていることにはなりません。それだってできるじゃないですか。
  • 173 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 もう一つの問題は、訴訟行為と登記申請行為と同視できるかどうかということでございまして、訴訟行為の場合には一つは連続的なかなり長期にわたる行為であるということと、それから裁判所が迷惑するということがあるわけでございます。裁判所が迷惑するということは、訴訟遅延を通じてほかの関係人が迷惑する、こういう論理構成で専門家に頼みなさいということをやっているのだろうと思いますが、それと同じことが登記申請の場合に完全に言い切れるかどうか。かなり一回的な行為であるということもございますし、専門性の程度というものあるいは登記所の迷惑の程度というものもいろいろ考え方があり得るだろう。そういう点が、先ほど先生がお引きになった登記代理権の終了事由と申しますか、そういうものの明確化について必ずしも訴訟法と同じようなやり方ができるかどうかということの判断にも結びつくわけでございまして、そういう問題があるということだけ申し上げておきたいと思います。
  • 174 山田英介発言URLを表示○山田委員 こう言えばこう言う、ああ言えばこう言うであれなんですけれども、結局、簡易裁判所において非弁護士でも訴訟代理人になれる。しかし、実際の運用では、極めて限られた例外を除いては本人申請あるいは結局弁護士を訴訟代理人に頼まなければならぬ。それは裁判所の運用なわけでしょう。要するに許可するかしないかですから、許可を得てだから、しなければ簡裁でも訴訟代理人になれないのです。実態は、要するに本人訴訟かあるいは弁護士に訴訟代理人になってもらうかしかない。実態はそうなっているということを僕は申し上げました。  
  • それでは、今度は訴訟の代理の場合と登記申請手続の代理の場合とは、いわゆる稽留するというのでしょうか、要するに事案がそこにとどまる期限が長いとか短いということを基準にして分けられましたけれども、長ければどうなのか。登記申請は確かに一般的に考えて訴訟事件と比べれば短く完了するでしょう。しかし、訴訟期間が長いからといってそれはできるだけ弁護士に、こっちは短いからといってそれは別に構わないじゃないか、一般の国民で頼まれた者がやるということを許しておいても構わないじゃないか、そうはならないでしょう。そういう理屈だけでは私はよく理解できないわけでございまして、そうではなくて、不動産登記というのは確かに申請手続そのものは一定の様式に従ってやれば済むことですよ。しかし、その実体関係というものに目を転じてみたら、これは実に莫大ないわゆる経済的な価値、価額というものが移動するわけです。それほど国民の基本的な財産権というものを動かすわけです。 ただ単にAからBに初めて何千万円でこの土地を売ったという登記だけじゃないわけでしょう。そういう登記の申請書の作成とかいうことは、なるほど審議官おっしゃるように一定の知識があればできることでしょう。しかし、それでもって非司法書士でもどうしてもやらせる道をあけておかなければならぬとするには、余りにもそれは我が国不動産取引の世界における実態に目をつぶった、そして実体関係を間違いないものに調査をして登記簿に反映させるという観点からしたら、それは非常に目をつぶられた、そういう立場における御答弁に思えてなりません。したがって、登記代理権というものの概念の明確化、これは取引の混乱を防止する、権利者の権利を守るという要請からして必要である。  それから、冒頭私が十問ぐらいのやりとりの中で確認をさせていただいたように、国が司法書士法を制定してそしてその登記申請手続を司法書士に代理をさせるということ、さっき独占的にと申し上げましたが、業としては独占的に司法書士に取り扱わせることにしたのは、まさに国が、この不動産の取引については相当の法律的な素養を持ち、あるいはまた能力を持つそういう有資格者に扱わせることがかえって国民の利益となり、あるいは権利保全のためによろしいことなのだという発想のもとで司法書士法というものを置かれたということからしても、この制度の発展あるいは制度の改善、補強というような立場からこの問題を考えたときには、それは実際に法律を変えるなどということはいろいろ難しいことはあるのでしょう。これは大変な作業であり、そしてまた一つ一つに大変難しいことであるということは、私もまだ三期しか当選したことはありませんけれども、それはここに身を置いて活動していてよくわかります。  ただ、私が心から申し上げたいことは、大変だ、あるいはいやそれはということで、できないできないできない、これが問題だ問題だ問題だだけを幾ら指摘をしても、実際にこの我が国の不動産公示制度は一歩も前へ出ないということになります。したがって、できないできない、難しい難しい、こうだからああだからだめなんだという、そういうことではなく、それは私の言っていることも随分乱暴なこともあるのかもしれません。私は、でも自分で勉強してみてこういうことなんだなと思うから申し上げているわけですが、皆さんが聞いていて、それは乱暴だよ、無理だよというのがあるのかもしれませんよ、それは。けれども、それだけを指摘するにとどまっていたら、我が国の不動産公示制度というものが前進するのですか。それだったら、もしそうおっしゃるのであれば、私は民事局長さんにも、それから稲葉審議官にも、我が民事局は不動産公示制度をより一層前進させるためにこういうプランを持っておりますということを私の前で国民の前に提示してもらわなきゃならない。それすら出ていないじゃないですか、具体的に。そして私が申し上げていることを一つ一つ、これは難しい、これはこうだ、こっちの角度から見ればこうだ、それでは私はいかがなものかな。  残り時間あと三分ですけれども、もしあるのだったらおっしゃってください。なければ結構です。今言えないというのだったら結構です。ただしかし、私は少なくとも我が国の公示制度を本当に中身のある、権利変動の真実を反映した登記というものを実現するために、ひいては国民の信頼というものを一層登記制度にかち得ていく、そういう目標のもとに少なくとも今登記代理人制度というものを考えなきゃならぬのじゃないですか、あるいは代理権限の概念を明確化しなければならないんじゃないですかと私は具体的に申し上げている。  
  • きょうは時間がありませんから、私また次の定例日の審議のときにあと質問をさせていただけると部会長から伺っておりますので、またそのときに伺いたいと思いますけれども、ひとつ公示制度を充実させ、前進させるために法務省がこれとこれとこれをやりたいというものがあったら、ぜひ示していただきたい。なければ私どもの言うこともやはりそれなりの立場で、それなりの姿勢でお受けとめいただかなければ困るのじゃないか、私はそのように思うわけでございます。私は、実はそういうことで質問を二日に分けてさせていただく機会をいただいておりますから、きょうはこの登記代理権とそれから代理権限の明確化というテーマが一本、それからそれに関連をしますけれども、我が国の登記制度の本当に根幹として要求されている登記の真正確保のためにはどうしたらいいかという、この部分についてもう一本やろうと思いましたけれども、前者の一本だけで大体時間でございますので、次の審議のときにぜひ残余の質問はさせていただきたいと思っております。  
  • 私の質問を終わるに当たりまして、大臣に今までの民事局長さんあるいは稲葉審議官さんとのいろいろなやりとりをお聞きいただいていて、大臣からひとつ我が国登記制度発展のための御決意と、それからまたその最も内側にいてこの制度を登記官とともに支えている、一方の当事者となっている司法書士の将来について、法務大臣ひとつさらにこの司法書士職能団体をぜひ見守っていただきたいし、いろいろとまた御指導もいただかなければならぬでしょう。そしてまた、いろいろと将来この不動産登記制度というものを前進させるためにともどもにやっていかなければならない部分も当然あるわけでございますので、そういうような観点も含めて御決意並びに御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。大臣、一言どうぞお願いします。     〔井出委員長代理退席、今枝委員長代理着席〕
  • 175 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記制度が不動産の価値の表示、またいろいろな契約の上におきましても極めて重要なものであるということを、さらに認識を深めたのでございます。先生方の今朝来のいろいろな議論によりまして、司法書士の制度につきましても、これまた登記を行うに当たりまして登記が真正な登記として行われまするために極めて重要な制度であるということも認識をした次第でございまして、司法書士法におきましては、ほかの法律で規定してある場合は別といたしまして、司法書士でなければ登記の代理を業務として行うことはできない、かように書いてあるわけでありまして、司法書士は極めて重要な仕事を行っていただいておるということであろうと存じます。さらにこれから登記につきまして研究を深めてまいりまして、その際におきまする登記の代理制度につきましても検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 176 山田英介発言URLを表示○山田委員 終わります。どうもありがとうございました。

民事信託の登記の諸問題(9)

 登記研究(891号、令和4年5月、(株)テイハン、P31~ の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(9)」)について、考えてみたいと思います。

所有権に関する信託登記における信託目録の内容の法的性格については、三つの考え方がありうる。一つ目は、処分制限の登記の一種であるという考え方(処分制限登記説)、二つ目は、賃貸借の登記などと同様、債権の登記の一種であるという考え方(債権登記説)、三つめは、処分制限の登記、債権の登記、所有権の特約の登記の性格その他がその他が混在しているとする考え方(多元的登記説)である。―中略―第三の多元的登記説をもって正当としよう。



 処分制限登記説、債権登記説、多元的登記説の説は、今までも使われていて、今後も使われていくのでしょうか。私は初めて知りました。
多元的登記であるということについて、同意です。

事業用定期借地権の例

目的 借地借家法第23条第1項建物所有

特約 譲渡・転貸ができる

   借地借家法第23条第1項の特約


 登記原因で認められない譲渡、については売買契約でも贈与契約でも、名義が変わる、という意味で使われているのかなと思いました。

また、法令上、内容が具体化・特定された特約は、法令名(条文番号)の公示で足りるとしている登記先例の趣旨も参考となる。上記を参考とすれば、例えば、次のような信託目録の要約例(あくまで参考例の一つ)がありうる。

4 信託の条項
2.信託財産の管理方法
(1)受託者の権限
信託不動産の管理及び処分
信託不動産のための借入
信託財産責任負担債務のための抵当権の設定
信託法26条のただし書きの特約
抵当権の設定には受益者の承諾を要する

 条文番号が変更になった場合、効力は改正法令の附則、変更登記義務については通達に委ねられることになるのかなと思いました。
信託不動産のための借入、というのは、信託財産に属する不動産の修繕などのための借入れという意味なのか、よく分かりませんでした。
また借入れは、信託財産に属する金銭の管理方法であり、信託財産に属する不動産の信託目録に記録する事項なのか、分かりませんでした。借入れる際は、信託行為の記録を金融機関に審査してもらえば足りるのではないかと思います。

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