民事信託などあれこれ

障がいのある子は、法定後見が案外いいよね、という私の考えをお伝えしました。親ができるまで、親が面倒を見る。その時、親80代、子50代 くらい

きょうだいがいても、その時、きょうだいも50代くらいだから仕事も忙しいだろうし、家族もいるだろうから、どんなに仲良くても、負担が大きい。

だから、第三者による法定後見がいい。そして、障がいのある子にお金は貯めない(使うのが大変だから)その分は、生命保険信託にはいっておくといいという内容でした。

では不動産があったらどうする?これも私の意見ですが、一定の考えをお伝えしたいと思います。

・障がいのある子にきょうだいの有無

・自宅はどうするか

・収益不動産がある場合

この3つの軸で考えないといけないかなと思います。不動産の問題点は、「誰が承継する?」を考えなければいけないこと。

お金は、誰が管理する?がメインですが、不動産は、誰が承継する?がどちらかというとメインなんですよね。この点がややこしくさせる点です。きょうだいがいる + 収益不動産はない(自宅のみ) 場合

親は遺言は必須ですよ!遺産分割協議が難しいだろうから。順番どおりならまず、父が亡くなって ⇒ このとき母はまだ元気の可能性が高い

そのつぎに、母が亡くなって ⇒ 母が亡くなる前に認知症になっていると、母の後見も

そして、父か母が亡くなる前には、障がいのある子に法定後見がついている

こうゆう、状態です。ちょっとここで疑問。遺言執行者は、相続人に遺言の内容を通知しなければいけません。その時、障がいがある子は意思能力はない。(意思受領能力なし)

この場合、障がいのある子に後見人がついていなければ、遺言執行者は、後見人選任の申立をしなければいけないのでしょうか?

後見人選任の申立てをしなければならい(民法98条の2)。

(意思表示の受領能力)

第九十八条の二 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。

一 相手方の法定代理人

二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

・相続人が所在不明の場合について

民法(相続関係)部会資料17

相続人の所在不明の場合には通知義務を負わない旨を明記すべきであるとの意見があったが,このような場合に通知義務を履行する必要がないことは当然であると考えられ,通知義務を定める民法の他の規定(第354条,第385条等)においてもこの種の規定は設けられていないこと等を考慮して,この点に関する適用除外の規定を設けることとはしていない。

話しを戻しますね。お金は、父⇒母⇒障がいのある子+他のきょうだいでしょうかね?でも、母が認知症で、大きいお金を相続してもしょうがないなら、迷いますね。生命保険信託を、活用しているなら、その兼ね合いもあるでしょう。ほら、既にここでどうしようってなる。やっぱり、その家族、家族で、事情が異なるから、なかなか一般論は言いにくいですね(笑)

自宅は、父 ⇒ 母 ⇒ 障がいのある子(同居している場合)が、一般的でしょうか?そして障がいのある子が亡くなったら(例えば80代で、きょうだいも80代)全てがきょうだいに行くことになります。

その時、きょうだいが認知症だと、相続手続き困りますが・・・つまり、お金はどうとでもなるのですが、不動産、特に土地は、残るからどう承継させるかって、何十年も前に決めるのって、実質ムリなんですよね。

お金は、誰が管理する?がメインですが、不動産は、誰が承継する?がどちらかというとメインなんですよね。それを何十年も前に、決めるって、やはりなかなか難しいです。親が70代くらいになってくらいから、少しずつ専門家と相談してもいいかもしれませんね。10年、20年の付き合いになると思います。ズバッとした結論が出せなくてすいません。■■ きょうだいがいる + 収益不動産がある場合

お金や自宅は先の方針として(ちゃんとでていないですが)収益不動産を親亡き後、誰に相続させ、誰が管理するか?

一応、信託も検討の余地有りですよね。甥っ子や姪っ子さんがいて、しっかり協力してくれそうなら、信託もあり。(その場合、資金さえなんとかなれば、建て替えも可能)信託せずに、障がいのある子に相続させ、第三者後見人が管理するのもあり。(現状維持が基本)

きょうだいに相続させるのも有りです。その分、きょうだいがお金を相続する分を減らすこともできますよね。

賃料から、扶養義務の範囲で、障がいのある子に、お金を渡すこともできます。でも、きょうだいも70代、80代になってくると、健康状態や判断力の状況によっては続けられるかはわかりません。結局、よくわからん(笑)その時の状況によって、対応が大きく変わりますね。(笑笑)

・きょうだいがいない + 収益不動産がない(自宅のみ) 場合

親は遺言は、やっぱり必須

父 が亡くなったら 母

母 が亡くなったら 父

という遺言ね。予備的はあってもなくてもいいかもしれませんね。例えば父 ⇒ 母という順番でなくなったら父の財産は母に渡ります。そのつぎに母が亡くなったら、母の遺言は無効(父が既にいないからね)なので、唯一の相続人の障がいのある子に渡る。

自宅は最終的に障がいのある子に来ますね。その先は、相続人がいない可能性が高いでしょうから、国庫帰属。といっても、相続財産管理人の選任が必要。お金もかかるし、けっこう大変です。その他に大変なことが・・・

きょうだいがいないと言うことは、障がいのある子がなくなるとき、親族がそもそもいない可能性もあります。そうすると大変なのは、お墓とお骨をどうするか?

後見人は必須でしょうから、後見人さんからしっかりサポートしてもらう必要がありますね。

それから、障がいがある子が亡くなる直前には、お金をある程度引き出すことも必要

亡くなった後は、後見人の権限では預金口座からお金は引き出せません。

権限がないし、証拠が残るから。

ですから、ある程度(できれば300万円とか)、現金化しておく必要があります。

そうしておけば、

・死亡後の施設や病院の請求

・自宅の中の荷物の処分

・葬儀

・埋葬

・永代供養

などなど、にそのお金を使えます。事実上、後見人は死後事務をしないとですね。

■■ きょうだいがいない + 収益不動産がない(自宅のみ) 場合

親は遺言は、やっぱり必須

父 が亡くなったら 母

母 が亡くなったら 父

という遺言ね。予備的はあってもなくてもいいかもしれませんね。

例えば父 ⇒ 母という順番でなくなったら父の財産は母に渡ります。そのつぎに母が亡くなったら、母の遺言は無効(父が既にいないからね)なので、唯一の相続人の障がいのある子に渡る。自宅は最終的に障がいのある子に来ますね。その先は、相続人がいない可能性が高いでしょうから、国庫帰属。といっても、相続財産管理人の選任が必要。お金もかかるし、けっこう大変です。その他に大変なことが・・・きょうだいがいないと言うことは、障がいのある子がなくなるとき、親族がそもそもいない可能性もあります。そうすると大変なのは、お墓とお骨をどうするか?後見人は必須でしょうから、後見人さんからしっかりサポートしてもらう必要がありますね。それから、障がいがある子が亡くなる直前には、お金をある程度引き出すことも必要

亡くなった後は、後見人の権限では預金口座からお金は引き出せません。権限がないし、証拠が残るから。ですから、ある程度(できれば300万円とか)、現金化しておく必要があります。そうしておけば、

・死亡後の施設や病院の請求

・自宅の中の荷物の処分

・葬儀

・埋葬

・永代供養

などなど、にそのお金を使えます。事実上、後見人は死後事務をしないとですね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)

第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為

二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済

三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

・きょうだいがいない + 収益不動産がある場合

これも、上と同じですね。

管理は後見人

亡くなった後死後事務が必要になるので、亡くなる前にお金の引き出し。

結論としては、障がいのある子は、やっぱり第三者による法定後見って必要だよねってことでしょうか。でも、どう承継させるかって、何十年も前には決められません。状況はどんどん変わるし。信頼できる専門家を早めに見つけて、ときどき相談するのが良さそうですね。

正解がないテーマですが、参考になれば。

・障がいのある子は、親が代理して対策しておくべきか?

まず、僕のスタンスとしては、・家族が、法律の力(後見や信託ね)を借りずに事実上できることは続ける

・でも家族にムリな負担は負わないようにさせる

・他の家族の理解が得られないことはNG

というスタンスですね。

例えば認知症の「親」の財産管理。

・子どもが、キャッシュカードを持つなどで、できているならそれはOK

・他の、きょうだいからも理解を得る

この状態であれば、「法定後見」の申立はいらないかなと思っています。

余計なお金もかからないし、裁判所の報告とか余計な手間もかからないし。

もちろん、他のきょうだいには、「管理状況を報告してね。」と伝えます。

このように、日頃からコミュニケーションをとっていくことが、トラブルを事前に防ぐ第一歩かなと思います。

#親族間のトラブルの多くが、「挨拶もない」から始まる

あと、きょうだいといえども、他人の目が入ることがわかっていると、不正を防ぎやすい。実際、認知症の高齢者は500万人〜1000万人と言われていますが、後見制度を利用している人は、24万人。5%もありません。これってほとんどの人が、家族がなんとかしているってことだと思います。私は、このような考えですから、未成年の障がいのある子の対策も、実質重視のアドバイスをすることが多いです。

基本路線はこんな感じ

※あくまでも個人意見ですので、これが普遍的な正解ではありません。みなさんも自分なりの考えを持っておくといいと思います。

・親ができるところまで、この面倒を見る

・親が、面倒を見れなくなったら、第三者の力を借りる⇒ 生活のサポートは施設などで。財産管理は法定後見

親が面倒を看ることが出来なくなってからでは、遅いのではないかと思いました。家族等の同意は、時間の経過と共に変わるのではないかなと感じました。

他にきょうだいがいる場合でも、任意後見人にしたり、信託を設定することは消極的です。

・なぜ、他のきょうだいの協力をあまり期待しない?

負担が大きいからです。両親(50代)と長男(22歳)

二男(知的障がい)(17歳)の4人家族

このようなケースで二男の将来の生活のサポートと財産管理をどう設計するか?一つは、二男が未成年の間に任意後見を設定しておくこと。

設定するパターンとしては

パターン1

委任者:二男(未成年) ⇒ 親が代理+特別代理人

受任者:片方の親(これを両方の親で設定するパターン)

パターン2

委任者:二男(未成年) ⇒ 親が代理+特別代理人

受任者:長男(成人)

パターン1も、パターン2も、おそらく任意後見は、すぐには発効させないで、イザというときに発効させることを考えいるのだと思います。

保険的なもの

法的には、少し問題がありますが。(判断能力が補助程度でも、発効させるのが任意後見の決まり)

・イザというときは、どうなる?

イザというときの具体例

一番多いと考えられるのは、

・親が面倒を見れなくなったとき。

・後は、相続の遺産分割かな?

遺産分割のときは、親が遺言を書いて、執行者を定めておけば二男のハンコは不要ですよね。ですから、親の遺言は必須。

もう一つのイザ、親が高齢だったり、病気で面倒見切れなくなったときに任意後見の発効を考えているんですよね。でもその時はどうでしょう?

親は、高齢。70代や80代になっているでしょう。そのような年齢で、裁判所や監督人に対して、それまでしたことがない報告をすることができるようになるか?

具体的には

・全ての入出金の領収書を保管して、

・普段は、家計簿みたいなものをつけて

・半年から、年に1回は、財産目録(B/S)と収支報告(P/L)を作る

それまでしたことないんですよ。70代や80代になってから、はじめるんですよ。ちょっと、ムリですよね。では、きょうだいが任意後見人の場合は?おそらく40代〜50代。結婚しているかもしれません。子どももいるかも。仕事も家庭も忙しいはず。その状態で、それまで、親が行っていたお金を出し入れや、各種支払いを、タッチ交代。さらに、財産目録(B/S)と収支報告(P/L)を作るレベルの財産管理を行う。こちらもおそらく難しい。時間がない。

20代の、独り身のときは、「しっかり面倒を見る」と本音で思っていても20年後、30年後は状況も変わっているので、実際は難しくなっている可能性が高い。

となるとどうすべきか?やはり、第三者による「法定後見」がベターになる。そうすると、逆に「任意後見契約」がジャマなんですよね。(任意後見契約があると、基本的には法定後見は発動できないため(任意後見法10条))

長男の任意後見人業務に関して、専門家が相談、書類作成業務を行うことも可能だと思います。

ですからこのような事情があるので、障がいのある子の親亡き後は、・親ができるときまでは、親が面倒を見る

・できなくなったら法定後見の申立

これが基本路線かな、と思っています。

・成年後見人は、実は選べる

専門家では当たり前ですが、案外知られていない事実。法定後見(成年後見人、保佐人、補助人)って、選べるんです。「この人を成年後見人にして」、って候補者を出せる。もちろんその人が選ばれるかは、わかりませんし、地域によっても温度差があると思いますが、新潟の場合では、司法書士 + リーガルサポートの名簿に搭載されていると候補者は、ほぼ選ばれています。

ですから、将来、成年後見人になってくれそうな、信頼できる専門家を見つけておくといいでしょうね。その人が成年後見人になれる可能性が高いですから。

このように、法定後見人は誰がなるかわからないというリスクはかなり軽減されています。

候補者を立てることが可能であることと、成年後見人を選べることとは異なると感じます。

法定後見も少しずつ、使い勝手が良くなってきていますね。

・効果的なのが、「生命保険信託」

1点つけ加えたいことがあります。

お金の承継についてです。親としては、障がいのある子のために、より多くのお金を残したいはず。でも、数千万円を子が相続しても、その管理が大変です。その子に相続人がいない可能性もありますし。その場合は、生命保険信託が効果的です。

契約者:親

被保険者:親

受取人:生保信託の会社(受託者)

それで

第一受益者:障がいのある子

第二受益者(帰属権利者):他の子(いない場合は、寄付先など)

それで、親が亡き後は、障がいのある子が毎月10万とか20万を受け取ればいい。イザというときは、まとまったお金も引き出せます。

障がいのある子が亡くなったら、残ったお金は他の子や、親族、寄付したい先などに渡すこともできます。ですから、障がいのある子には、あまりお金を所有させずに親が生命保険信託に加入することは選択肢になると思います。生命保険信託は、まだ取り扱う保険会社は少ないですが、今後は広がって欲しいですね。

もういちどまとめると、障がいのある子の親亡き後は、

・親ができるところまでは、親が面倒を見る

・できなくなったら法定後見の申立(候補者を見つけておくとベター)

・子どもにはあまりお金を持たせない(使うのが難しいため)

・お金の承継は、生命保険信託を活用

これが基本路線かな、と思っています。(不動産の承継については、ケースバイケースで検討が必要です)

生命保険信託について

https://www.prudential.co.jp/insurance/lineup/shintaku/

相続財産管理人と、売れない不動産のお話しです。昨日、SDGsの研修会を受けて、とっても勉強になったのですが、実は、SDGsとLGBTが、頭の中でよくゴッチャになっています。(笑)さて、今日は相続財産管理人のお話しです。

相続財産管理人とは・・・多くの方は説明不要だと思うのですが、このメルマガは「全ての人を置きざりにしない!」をモットーにしていますので。SDGs 16番 「誰も置き去りにしない社会」#さっそく勉強の効果!

相続財産管理人とは、亡くなった人に相続人がいない場合、亡くなった人の財産を管理する人ですね。相続人がいないと大変なんですよ。

例えば、

・病院や施設の支払い。口座にお金があっても、誰も下ろして支払うことができない

・葬儀や埋葬。これも支払いに困ります。

・不動産。買いたい人がいても売却の手続きができない。などなど

相続人がいれば、口座の解約もできますし、不動産も相続した人が売却すればいい。でも、相続人がいないと、これらの手続きが一切できなくなっちゃうんですね。最近は身寄りがない人が多いですから、相続財産管理人の手続きは増えていくかもしれませんね。

・もう一つのパターンは、相続放棄

そうなんですよ。相続人がいても、相続人全員が相続放棄をすると、法律上の相続人がいなくなっちゃいます。

A男さんが亡くなりました。

子ども(と配偶者)が相続放棄

そうすると、親が相続人になります。その親も相続放棄。今度は、子どもが相続人。その子どもが全員相続放棄。そうすると次の相続人は?そう、相続人がいなくなっちゃうんですね。そうすると、なくなった人の預貯金や不動産は誰も手をつけられない。未払いの支払いがあっても誰も払えなくなっちゃうんですね。

この場合も相続財産管理人。利害関係がある人が、裁判所に選任の申立をします。

・相続財産管理人の仕事は?基本的には、財産は全てお金に換えて、支払先と金額ととりまとめて、全額払えば、払う。お金が残れば、国に納付(国庫帰属)。全額払えなかったら、同じ割合で平等に支払う。そうやって、手元に財産がなくなったら、業務は終了です。私も何度かやったことがあります。

でも問題は・・・不動産なんですね。東京など大都市の人は信じられないかもしれませんが、地方の閑散とした地域って、誰も不動産をほしがらないんですよね。せいぜいとなりの人くらい。あなたももらったって、困るでしょ?「負動産」って言われるくらい。タダでももらい手がつかないこともよくあります。山林などは所有者ですらどこにその土地があるか、わからないこともよくあります。

そんな不動産を所有したまま亡くなって、相続財産管理人なんて、ことになったら・・・その不動産を売却できない~いつまでたっても手離れしないんですね。法律上は、国庫帰属ってなっていますが、国は基本的には「お金なら受け取りますよ。」というスタンス。

ですから、私も相続財産管理人になる際は、売れない土地の有無は重大なポイント。このたび、メルマガ読者のTさんから、「相続財産管理人の候補者になってくれませんか?」とのお声がけをいただきました。

で、財産内容を聞くと「山林」があるとのこと

わお!こりゃ大変。それで、最新の実務をさっそく調べました。

調べた書籍はこちら「相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務」

日本加除出版 正影秀明 著

https://amzn.to/3MWswhx

そうしたら、平成29年の国の方針が変わったとのこと。それまでは、なかなか受け取ってもらえなかった不動産も、国は受け取る方針に変更したとのこと。

国が不動産を引き取る場合の事務扱いについては平成18年6月29日付け「物納等不動産に関する事務取扱要領について」を基に行われているとのこと。この本、買っておいて良かったぁ!でも著者の正影先生も、少し懸念があるよう。コラムで「国が不動産を受け取る方針に変わったというが・・・」として、「まだまだ未知数」と、感想を述べています。実際はどうなんでしょうね。

私が相続財産管理人に選ばれるかはわかりませんが、もし選ばれたらいろいろ手探りで進めることになりそうですね。もし経験がある人がいたら、ぜひ教えてください!

相続財産管理人は、相続人がいない人の、相続財産を、管理・処分、するのが仕事。お金に換えられる物はお金に換えて、債権者には支払って、お金が残ればお国に渡す。これが基本的な仕事です。あ、その前に、自分の報酬は先取りですけどね。一般の先取特権の「共益の費用」(民法306条1号)ですね。

・破産管財人の報酬も同じ理屈

それで問題は、換価できない不動産

つまり、売れなかった不動産はどうするかって問題

財産がなくなれば、相続財産管理人の仕事は終わりですが、売れない不動産が残ると、相続財産管理人の仕事が終わりません。

それで、調べた書籍はこちら「相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務」

日本加除出版 正影秀明 著https://amzn.to/3MWswhx

この書籍によると、平成29年以降は、国の方針が変わり、売れない負動産、もとい、不動産でも、国は受け取ることになった。しかし、まだまだ未知数。とのことなんですね。それで、メルマガの読者のみなさんに「実際はどうなんですか?」と、質問させていただきました。#逆質問 笑そうしたら多くの読者のみなさんからご回答をいただきました。#まさに、クラウドソーシング!どうも受け取ってくれそう

様々なご回答が寄せられましたが、結論としては「受け取ってくれそう」です。ただし、条件がありそうで・担保がついていない・争いがない(特に境界)という状態なら、国は、国庫帰属に応じてくれそうです。ある方は、物置、山林、田畑が残ったとのこと。

・境界もクソもない場所

そもそも、対象不動産がどこにあるかさえ、わからない場合もありますし。できる範囲で境界確定したら、国は受け取ってくれたとのことです。別な方は、山林に墓地があり、墓石の撤去やら、お骨の引取先の捜索やらで大変だったようです。

・そうしたら著者からも連絡がなんと、上で紹介した書籍の正影先生からも連絡をいただき、最近の経験談をお聞かせいただきました。結論としては、平成29年当時は、あまり本気で引き取る方針ではなかったようですが、その後は、引き取る方向に変更しているよう。とのことでした。まさか正影先生からご連絡いただけるとは。正影先生はじめ、教えていただいたみなさん、ありがとうございます!ここでも結論は同じ。担保がなく、争いがなければ、受け取ってくれるとのこと。

相続財産管理人になり、売れなそうな物件がある場合は、すぐ、お近くの財務局(財務事務所)に連絡して、連携をとって進めた方が良さそうです。

・別な問題も

そもそも、司法書士の私が相続財産管理人に選任されるか?という点のご指摘を受けました。様々聞くと、結論としては、裁判所によるそうです。傾向としては、東京や大阪の大都会は、弁護士が選任されるとのことで、弁護士が少ない地方は司法書士でも選任されているよう。新潟はどうかは、経験がある先生は「難しいかも」とのことでした。

今回は、上記の問題の他に

・意思能力が微妙な人の後見契約について

・受益者が3人それぞれに、個別に不動産を帰属させる方法は?

・相続人、全員が相続放棄した場合の、管理責任

・意思能力が微妙な人の後見契約について・・・任意後見契約を前提とします。最近は、事前に公証人へ施設入所や年齢等の情報を提供すると、公証センター(公証役場)から、医師の診断書と共に本人情報シートの提供を要請されることが必須となってきているように思います。

法定後見申立に近い運用といえるかもしれません。

後見サイト 東京家庭裁判所後見センター

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/index.html

・受益者が3人それぞれに、個別に不動産を帰属させる方法は?・・・受益者は信託契約に基づく受益者(信託法2条)を前提とし、信託契約は第1順位の受益者の死亡により終了することを前提とします。

考えられること

第1順位の受益者の死亡により終了した場合・・・信託契約の条項の中で、次順位受益者兼残余財産の帰属権利者で定めておく。

信託行為の発効中・・・信託契約の条項中、各受益者の受益権に、不動産の所有権移転を請求することが出来る旨を記載。受託者の信託財産に属する不動産の管理方法に、受益者への贈与、売買を記載。登記申請(登記の目的、所有権移転及び信託登記抹消)時に登記原因証明情報でその旨記載。信託契約の条項により受益者の承諾などを記載。

・相続人全員が相続放棄した場合の管理責任・・・

民法

(相続の放棄をした者による管理)

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。

(相続財産の管理)

第九百十八条 

 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

民法・不動産登記法部会資料 29

(補足説明)


1 相続の放棄をした者のいわゆる管理継続義務の見直しについて
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされている(民法第940条第1項)が、法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合や、相続放棄者が相続財産を占有していない場合等において、相続放棄者が管理継続義務を負うかどうかや、その義務の内容は、必ずしも明らかではない。
試案第2の4(4)及び(注2)においては、相続放棄者の相続財産の管理に関する義務の内容を保存義務とした上で、その発生要件、終期等を整理した規律を設けることが提案されたが、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、民法第940条第1項の規律を改めることについて賛成の意見が多数を占めた。
本文は、試案第2の4(4)と同じ趣旨の提案であり、語句を形式的に修正したものである。
2 保存義務の発生要件について
試案第2の4(4)では、保存義務の発生要件は、相続の放棄をした者が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有していることとしていた。
パブリック・コメントに寄せられた意見では、相続放棄をした者に一律に相続財産について責任を負担させるのは相当ではないが、相続財産に属する財産を現に占有する者が相続の放棄をする場合には、当該財産を占有していた事実があるため、当該財産を引き継ぐまでは一定程度の保存義務を負担することはやむを得ないなどの理由から、賛成の意見が多数を占めた。
これに対して、相続財産に属する財産を現に占有する場合に限らず、相続放棄者には相続財産の一般的な保存義務を負わせるべきとする指摘もあり得る。しかし、相続放棄者が、管理に一切関与していない相続財産に属する財産についてまで保存義務を負うとすることは、相続による不利益を回避するという相続放棄制度の趣旨にそぐわないと考えられる。
そこで、本文では、試案と同じく、相続の放棄をした者が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有していることを、発生要件として設けることとしている。
3 保存義務の内容について
試案第2の4(4)の(注1)においては、保存義務の具体的な内容については、①財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならないことに加え、財産の現状を維持するために必要な行為をしなければならないことを意味するとの考え方と、②財産の現状を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するとの考え方を記載していた。また、その注意義務の程度として、試案第2の4(4)の本文では「自己の財産におけるのと同一の注意」とすることを提案しつつ、(注3)において、相続の放棄をした者が負う義務等の程度については、善良な管理者の注意とする考え方もあることも注記していた。
パブリック・コメントに寄せられた意見においては、放棄者であっても、放棄時に特定の相続財産を占有していた以上、当該財産につき、相続人等に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意を怠って相続財産を害してはならない(滅失や損傷をさせてはならない)ことは当然であるが、これに加え、財産の現状を維持するために必要な行為をしなければならないとすることは、放棄者の義務が重くなるため妥当でないなどの理由から、試案第2の4(4)(注1)②の考え方に賛成する意見が多数を占めた。また、(注3)の考え方についても、放棄者の義務を重くすることは妥当でないとして反対する意見が多数であった。
相続による不利益を回避するという相続放棄制度の趣旨からすれば、放棄者に重い義務を課すことは相当でないが、相続放棄の時点で相続財産に属する財産を現に占有している者には、他の相続人(放棄によって相続人となった者を含む。) のために、財産の滅失又は損傷をしないという意味での保存義務が課されてもやむを得ないと考えられる。また、その注意義務の程度は、相続の放棄をするまでの間負っていた熟慮期間中の注意義務が「その固有財産におけるのと同一の注意」であることを前提とすると(民法第918条第1項)、それと同等の「自己の財産におけるのと同一の注意」とすることが適当であると考えられる。
なお、相続財産を保存する義務の相手方は、他の相続人(放棄によって相続人となった者を含む。)又は相続財産法人(その放棄により相続人のあることが明らかでなくなった場合)になると考えられる。
そこで、本文では、試案第2の4(4)の本文及び(注1)②の考え方に基づき、相続の放棄をした者は、放棄時に現に占有していた相続財産に属する財産につき、相続人(第951条の規定の適用がある場合には、同条の法人)に対して保存義務を負うが、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存すれば足りるとすることを提案している。
4 保存義務の終了及び供託について
(1) 放棄者が相続人又は相続財産法人に当該財産を引き渡して占有を移転したときは、当該財産の保存は相続人又は相続財産法人においてすることができるので、当該財産に関する保存義務が終了することとすることについては、パブリック・コメントに寄せられた意見でも、概ね異論がなかった。
そこで、本文では、試案第2の4(4)本文と同じく、放棄者が保存義務を負うの、相続人等に対して「財産を引き渡すまでの間」に限られることとしている。
なお、相続財産の引渡義務の履行が不可分債権に係る債務の履行に当たる場合には、放棄者は、相続人のうちの一人に対して引渡義務の履行をすれば足りると考えられる。
(2) また、試案第2の4(4)(注4)では、一定の場合に放棄者が保存義務を免れるための方策については引き続き検討することを注記していたところ、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、放棄者の義務を軽減するために、放棄者が保存義務を免れる方法についても検討すべきであるとの意見が多数を占めた。
(注)では、その具体的方法として、相続人が財産の引渡しの受領を拒んだとき又はこれを受領することができないときは、相続の放棄をした者は、供託(民法第494条第1項第1号又は第2号)をすることで、本文の義務を免れることができるものとすることを提案している。
これは、放棄者は、相続人に対して相続財産に属する財産の引渡義務を負い、その財産を債権者である相続人に引き渡して引渡義務が消滅したときに本文の保存義務が終了すると解されるところ、相続人に受領拒絶又は受領不能の事実があるときは、放棄者は、民法第494条第1項に基づき、目的物を供託して引渡義務を消滅させ、もって保存義務を終了させることができると解されることによるものである。
なお、放棄者が保存義務を負っている相続財産が、土地などの金銭以外の財産であって、これが供託に適さない場合やこれを供託することが困難な事情がある場合には、放棄者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる(民法第497条参照)と考えられる。
(3) 試案第2の4(4)注4においては、放棄者の更なる負担軽減の観点から、供託の手続すら経ることなく保存義務を免れるための方策として、放棄者が相続人に対して一定期間内に相続財産の引渡しに応じるよう催告をし、その期間が経過したときは保存義務が終了する旨の規律を設けることについても注記していた。
もっとも、この案によれば、放棄者による保存義務が終了したとしても、その財産が放棄者の占有下に置かれたままになるが、その場合でも放棄者は少なくともその財産を損傷させてはならないと考えられ、その状態は結局保存に関する義務を負っている状態と変わらず(他人のためにその財産を占有していることからすると、注意義務の程度はむしろ上がってしまうとも考えられる。)、放棄者が事実上その財産を保管せざるを得なくなってしまうため、単に義務を終了させるだけでは対策として不十分であると考えられる。
このことも踏まえ、(注)では、上記(2)のように、供託を利用することによって、義務を免れる方法のみを提案している。
(4) なお、放棄者も相続人も相続財産に属する財産の管理を適切に行わないときは、その保存に必要な処分として、利害関係人等が相続財産管理人の選任を申し立てることができる(試案第2の4(1)(2)参照)。また、事案に応じて、保存義務を負う放棄者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人に相続財産に属する財産を引き渡して保存義務を終了させることも可能と考えられる。

関連

民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00049.html

「疑わしい取引」と司法書士38

登記情報[1]の末光祐一司法書士「疑わしい取引」と司法書士(38)からです。

司法書士にとってのリスクベース・アプローチ(RBA)においては、依頼の類型を取引類型といい、取引モニタリングのためには重要な要素となる。ここで、「依頼」とは、例えば、不動産登記業務において、売買を登記原因とする所有権移転登記手続の依頼の場合は、当該登記手続の委任契約と、当該登記の原因となった売買契約の両者を含むものであり、当該委任の内容、状況、携帯及び経緯等を勘案して依頼の類型を判断すべきであると考える。


トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書https://www.digital.go.jp/councils/0567fe93-b7d8-4c25-8a6c-46312c687f88/

加工トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、IALで分けてみます。

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、AALで分けてみます。

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、渡部友一郎弁護士の5×5のリスクマトリクスで分けてみます。

リスクベース・アプローチにおいて行うべき厳格な措置は、犯罪収益移転防止法において厳格に本人特定事項の確認を行わなければならないハイリスク取引の場合の措置(犯罪収益移転防止法4条2項)とは異なる概念であり、両者が適用となる場面や範囲は必ずしも一致しない。ハイリスク取引の場合とは取引時確認、つまり、依頼を受けた際の措置のことであるが、リスクベース・アプローチにおける厳格な措置は依頼の場面も含めて、以後、継続的顧客管理において求められる措置である。

 今まで、業務の場面毎によって、知識(司法書士業務関連法令・会則、個人情報保護法等、犯罪による収益の移転防止に関する法律等)や経験によって対応していたことを、記録に残しやすいように、リスクベース・アプローチというフィルターをかけよう、という考えなのかなと感じます。

 特に、継続的・長期間の業務において要請されているように思います。業務が面倒くさくなる面もあるかもしれませんが、何度も不動産登記の依頼を受けている個人の場合など、リスクが少ないと思われる方の場合は、リスク許容度を下げたりするなど可能であれば、業務に割く時間を減らせることもあり得るように感じます。

[1] 728号、2022年7月、(一社)金融財政事情研究会P60~

20220719連発0541号 司法書士倫理の一部改正

新旧が見つからない。私が参照した会員必携の司法書士倫理が 古いかもしれません。

○司法書士行為規範

司法書士の使命は、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することにある。

その使命を自覚し、自らの行動を規律する規範を明らかにするため、司法書士行為規範を制定する。

我々は、これを実践し、社会の信頼と期待に応えることをここに宣言する。

第1章基本倫理

(使命の自覚)

第1条司法書士は、使命を自覚し、その達成に努める。

(基本姿勢)

第2条司法書士は、その職責を自覚し、自由かつ独立の立場を保持して、司法書士としての良心に従い行動する。

(信義誠実)

第3条司法書士は、信義に基づき、公正かつ誠実に職務を行う。

(品位の保持)

第4条司法書士は、常に、人格の陶冶を図り、教養を高め、司法書士としての品位を保持する。

(法令等の精通)

第5条司法書士は、法令及び実務に精通する。

(資質の向上)

第6条司法書士は、自ら研鑚するとともに、その所属する司法書士会及び日本司法書士会連合会(以下「司法書士会等」という。)が実施する研修に参加し、資質の向上に努める。

(自治の維持及び発展)

第7条司法書士は、司法書士自治の維持及び発展に努める。

(法制度への寄与)

第8条司法書士は、法制度が国民に信頼され、国民が利用しやすいものとなるようにその改善及び発展に寄与する。

(公益的活動)

第9条司法書士は、その使命にふさわしい公益的な活動に取り組み、実践するように努める。

第2章一般的な規律

意思の尊重)

第10条司法書士は、依頼者の意思を尊重し、依頼の趣旨に沿って、その業務を行わなければならない。

2司法書士は、意思の表明に困難を抱える依頼者に対して、適切な方法を用いて意思の表明を支援するように努めなければならない。

(秘密保持等の義務)

第11条司法書士は、業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。司法書士でなくなった後も同様とする。

2前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合は、その必要の限度において、秘密を開示することができる。

(1)本人の承諾がある場合

(2)法令に基づく場合

(3)司法書士が自己の権利を防御する必要がある場合

(4)前3号に掲げる場合のほか、正当な事由がある場合

(不当誘致等)

第12条司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。

2司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、いかなる名目によるかを問わず、その対価を支払ってはならない。

3司法書士は、依頼者の紹介をしたことについて、いかなる名目によるかを問わず、その対価を受け取ってはならない。

(非司法書士との提携禁止等)

第13条司法書士は、司法書士法その他の法令の規定に違反して業務を行う者と提携して業務を行ってはならず、またこれらの者から事件のあっせんを受けてはならない。

2司法書士は、第三者に自己の名義で司法書士業務を行わせてはならない。

3司法書士は、正当な事由がある場合を除き、その業務に関する報酬を司法書士又は司法書士法人でない者との間で分配してはならない。

(違法行為の助長等)

第14条司法書士は、違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。

(品位を損なう事業への関与)

第15条司法書士は、品位を損なう事業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれに自己の名義を使用させてはならない。

(相手方等からの利益授受等)

第16条司法書士は、取り扱っている事件に関し、相手方又は相手方代理人等から利益の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくはその約束をしてはならない。

2司法書士は、取り扱っている事件に関し、相手方又は相手方代理人等に対し、利益の供与若しくは供応をし、又はその約束をしてはならない。

(広告又は宣伝)

第17条司法書士は、虚偽の事実を含み、又は誤認を生じさせるおそれがある広告又は宣伝をしてはならない。

2司法書士は、品位又は信用を損なうおそれがある広告又は宣伝をしてはならない。

(記録の作成等)

第18条司法書士は、受任した事件の概要、金品の授受に関する事項その他重要と考えられる事項に関する記録を作成し、保管しなければならない。

2司法書士は、前項の記録を保管するに際しては、業務上知り得た秘密及びプライバシーに関する情報が漏洩しないように注意しなければならない。廃棄するに際しても同様とする。

補助者に対する指導及び監督)

第19条司法書士は、常に、補助者の指導及び監督を行わなければならない。

2司法書士は、補助者をしてその業務を包括的に処理させてはならない。

3司法書士は、補助者に対し、その者が業務上知り得た秘密を漏洩し、又は利用しないように指導及び監督しなければならない。

第3章依頼者との関係における規律

(依頼の趣旨の実現)

第20条司法書士は、依頼の趣旨を実現するために、的確な法律判断に基づいて業務を行わなければならない。

(受任の際の説明)

第21条司法書士は、事件を受任するにあたり、その処理の方法その他依頼の趣旨を実現するために必要な事項について説明しなければならない。

(報酬の明示)

第22条司法書士は、事件を受任するにあたり、報酬及び費用の金額又はその算定方法を明示し、かつ、十分に説明しなければならない。

2司法書士は、その報酬については、依頼者の受ける経済的利益、事案の難易、その処理に要した時間及び労力その他の個別具体的事情に照らして、適正かつ妥当なものとしなければならない。

契約書の作成)

第23条司法書士は、事件を受任するにあたり、依頼の趣旨並びに報酬及び費用に関する事項を記載した契約書を作成するように努めなければならない。

(事件の処理)

第24条司法書士は、事件を受任した場合には、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。

2司法書士は、依頼者に対し、事件の経過及び重要な事項を必要に応じて報告し、事件が終了したときは、その経過及び結果を遅滞なく報告しなければならない。

(公正を保ち得ない事件)

第25条司法書士は、業務の公正を保ち得ない事由がある事件については、業務を行ってはならない。

(公務等との関係)

第26条司法書士は、公務員又は法令により公務に従事する者として取り扱った事件については、業務を行ってはならない。

2司法書士は、仲裁人として取り扱った事件又は裁判外紛争解決手続において手続実施者その他これに準ずる者として関与した事件については、業務を行ってはならない。

(公正を保ち得ないおそれ)

第27条司法書士は、業務の公正を保ち得ない事由が発生するおそれがある場合には、事件を受任するにあたり、依頼者に対し、その事由の内容及び辞任の可能性があることについて説明しなければならない。

(不正の疑いがある事件)

第28条司法書士は、依頼の目的又はその手段若しくは方法に不正の疑いがある場合において、合理的な方法により調査を行ってもなおその疑いが払拭できないときは、その事件を受任してはならない。

(特別関係の告知)

第29条司法書士は、事件の受任に際して、依頼者の相手方と特別の関係があるために、依頼者との信頼関係に影響を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を告げなければならない。

(受任後の措置)

第30条司法書士は、事件を受任した後に前5条に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し速やかにその事情を告げ、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(利益相反の顕在化)

第31条司法書士は、同一の事件で依頼者が複数ある場合において、その相互間に利益相反が生じたときは、各依頼者に対してその旨を告げ、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(他の司法書士の参加)

第32条司法書士は、受任している事件について、依頼者が他の司法書士又は司法書士法人に、相談又は依頼をしようとするときは、正当な理由なくこれを妨げてはならない。

(受任司法書士間の意見の不一致)

第33条司法書士は、同一の事件を受任している他の司法書士又は司法書士法人がある場合において、その処理に関して意見の不一致により依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を説明しなければならない。

(依頼者との信頼関係の喪失)

第34条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者との信頼関係が失われ、かつ、その回復が困難である場合には、辞任する等適切な措置をとらなければならない。

(預り書類等の管理)

第35条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者から預かった書類等を、善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。

(預り金の管理等)

第36条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者から又は依頼者のために金員を受領した場合には、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にして管理しなければならない。

2司法書士は、受任している事件に関し、依頼者のために金品を受領した場合には、速やかにその事実を依頼者に報告しなければならない。

(受任の継続不能)

第37条司法書士は、受任している事件の処理を継続することができなくなった場合には、依頼者が損害を被ることがないように、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(係争目的物の譲受け)

第38条司法書士は、係争事件の目的物を譲り受けてはならない。

(依頼者との金銭貸借等)

第39条司法書士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について保証をさせ、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。

(賠償保険)

第40条司法書士は、依頼者を保護するために、業務上の責任について賠償責任保険に加入するように努めなければならない。

(事件の終了後の措置

第41条司法書士は、受任した事件が終了したときは、遅滞なく、金銭の精算、物品の引渡し及び預かった書類等の返還をしなければならない。

(依頼者との紛議等)

第42条司法書士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じた場合には、協議により円満に解決するように努めなければならない。

第4章不動産登記業務に関する規律

(基本姿勢)

第43条司法書士は、不動産登記業務を行うにあたり、登記の原因となる事実又は法律行為について調査及び確認をすることにより登記の真正を担保し、もって紛争の発生を予防する。

(実体上の権利関係の把握等)

第44条司法書士は、不動産登記業務を受任した場合には、依頼者及びその代理人等が本人であること及びその意思の確認並びに目的物の確認等を通じて、実体上の権利関係を的確に把握しなければならない。

2司法書士は、前項の確認を行った旨の記録を作成し、保管しなければならない。

(公平の確保)

第45条司法書士は、不動産登記業務を受任した場合には、当事者間の情報の質及び量の格差に配慮するなどして、当事者間の公平を確保するように努めなければならない。

(登記手続の中止又は登記申請の取下げ)

第46条司法書士は、当事者の一部から、不動産登記手続の中止又は不動産登記申請の取下げの申出を受けた場合においては、他の当事者の利益が害されることのないように当事者全員の意思を確認し、適切な措置をとらなければならない。

(補助者による立会の禁止)

第47条司法書士は、不動産取引における立会を、補助者に行わせてはならない。

(複数の代理人が関与する登記手続)

第48条司法書士は、複数の代理人が関与する不動産登記業務を受任した場合には、依頼者の依頼の趣旨を実現するために必要な範囲において他の代理人と連携するように努めなければならない。

第5章商業・法人登記業務に関する規律

(基本姿勢)

第49条司法書士は、商業・法人登記業務を行うにあたり、登記原因及び添付書面等の調査及び確認をすることにより真正な登記の実現に努め、もって取引の安全と商業・法人登記制度の信頼の確保に寄与する。

(実体関係の把握)

第50条司法書士は、商業・法人登記業務を受任した場合には、会社若しくは法人の代表者又はこれに代わり依頼の任に当たっている者(以下「代表者等」という。)が本人であること、依頼の内容及び意思の確認をするとともに、議事録等の関係書類の確認をするなどして、実体関係を把握するように努めなければならない。

2司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、代表者等にその事実及び経過等を確認して作成しなければならない。

(法令遵守の助言)

第51条司法書士は、商業・法人登記業務を受任し、又はその相談に応じる場合には、会社及び法人の社会的責任の重要性を踏まえ、依頼者に対して、法令を遵守するように助言しなければならない。

第6章供託業務に関する規律

(基本姿勢)

第52条司法書士は、供託業務を行うにあたり、実体上の権利関係を的確に把握し、登記手続、裁判手続その他の関連する手続を踏まえて供託の目的を達成させる。

(供託が関係する相談)

第53条司法書士は、供託が関係する相談に応じる場合には、相談者が置かれている状況を的確に把握したうえで、供託手続の役割、内容及び方法について説明及び助言をしなければならない。

第7章裁判業務等に関する規律

(基本姿勢)

第54条司法書士は、裁判の公正及び適正手続の実現に寄与する。

(紛争解決における司法書士の役割)

第55条司法書士は、依頼者が抱える紛争について、正確な知識及び情報を提供し、最善の方法をもって業務を遂行することにより、依頼者の正当な権利の擁護及びその利益の実現に努めなければならない。

(裁判書類作成関係業務)

第56条司法書士は、裁判書類作成関係業務を受任した場合には、依頼者との意思の疎通を十分に図り、事案の全容を把握するように努め、依頼者にその解決方法を説明するなどして、依頼者自らが訴訟等を追行できるように支援しなければならない。

(簡裁訴訟代理等関係業務)

第57条司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務を受任した場合には、代理人としての責務に基づき、依頼者の自己決定権を尊重して、業務を行わなければならない。

(業務を行い得ない事件)

第58条司法書士は、裁判業務(裁判書類作成関係業務及び簡裁訴訟代理等関係業務をいう。以下同じ。)に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第4号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

(1)相手方の依頼を受けて行った事件又は相手方から受任している事件

(2)相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(4)受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

(5)受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件

(6)その他受任している事件の依頼者と利益相反する事件

2司法書士は、かつて司法書士法人の社員等(社員又は使用人司法書士をいう。以下同じ。)であった場合は、裁判業務に係る次の事件(自ら関与したものに限る。)については、裁判業務を行ってはならない。

(1)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて行った事件

(2)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(受任の諾否の通知)

第59条司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務の依頼に対し、その諾否を速やかに通知しなければならない。

(法律扶助制度等の教示)

第60条司法書士は、依頼者に対し、事案に応じて法律扶助制度又は訴訟救助制度を教示するなどして、依頼者の裁判を受ける権利が実現されるように努めなければならない。

(見込みがない事件の受任の禁止)

第61条司法書士は、依頼者が期待するような結果を得る見込みがないことが明らかであるのに、あたかもその見込みがあるかのように装って事件を誘発し、受任してはならない。

(有利な結果の請け合い等の禁止)

第62条司法書士は、受任した事件について、依頼者に有利な結果を請け合い、又は保証してはならない。

(偽証等のそそのかし等)

第63条司法書士は、偽証又は虚偽の陳述をそそのかしてはならない。

2司法書士は、虚偽と知りながらその証拠を提出し、又は提出させてはならない。

(裁判手続の遅延)

第64条司法書士は、不当な目的のために又は職務上の怠慢により、裁判手続を遅延させてはならない。

(相手方本人との直接交渉等)

第65条司法書士は、受任している事件に関し、相手方に法令上の資格がある代理人がいる場合は、特別の事情がない限り、その代理人の了承を得ないで相手方本人と直接交渉してはならない。

2司法書士は、受任している事件に関し、相手方に法令上の資格がある代理人がいない場合において、相手方が代理人の役割について誤解しているときは、その誤解に乗じて相手方を不当に不利益に陥れてはならない。

第8章司法書士法第3条に定めるその他の業務に関する規律

(審査請求手続)

第66条司法書士は、審査請求手続を受任した場合には、審査請求の意義を依頼者に説明し、依頼者の権利が実現されるように努めなければならない。

(国籍に関する書類の作成)

第67条司法書士は、国籍に関する書類の作成を受任した場合には、その要件等を依頼者に説明及び助言をし、依頼者や関係者のプライバシー等の人権に配慮して、業務を行うように努めなければならない。

(検察庁に提出する書類の作成)

第68条司法書士は、検察庁に提出する書類の作成を受任した場合には、関係者の人権に配慮して、正義の実現に努めなければならない。

第9章成年後見業務等に関する規律

基本姿勢)

第69条司法書士は、成年後見業務等を行う場合には、本人の意思を尊重し、その心身の状態並びに生活及び財産の状況(以下「心身の状態等」という。)に配慮する。

法定後見等に関する相談)

第70条司法書士は、法定後見又は任意後見に関する相談に応じる場合には、本人のほか、親族、福祉、医療及び地域の関係者等の支援者(以下「支援者」という。)から、その意見、本人の心身の状態等を聴取するなどしたうえで、適切な助言をしなければならない。

(後見等開始申立書類の作成)

第71条司法書士は、後見等開始申立書類を作成する場合には、本人、申立人及び支援者の意見を聴取するなどしたうえで、本人の権利を擁護し、心身の状態等に適した内容になるよう配慮しなければならない。

(任意後見契約の締結等)

第72条司法書士は、自己を受任者とする任意後見契約の締結を依頼された場合には、見守り契約等の任意後見契約に関連する契約の必要性を検討したうえで、本人の権利を擁護し、心身の状態等に適した契約になるように配慮しなければならない。

2司法書士は、前項の任意後見契約及びこれに関連する契約を締結する場合には、本人の心身の状態等に配慮し、本人が理解できるように適切な方法及び表現を用いて契約内容を説明しなければならない。

3司法書士は、第1項の任意後見契約を締結した場合において、精神上の障害により本人の事理弁識能力が不十分になったときは、本人及び支援者の意見を聴取するなどしたうえで、任意後見契約の効力を生じさせるなど、遅滞なく適切な措置をとらなければならない。

(支援者との連携)

第73条司法書士は、成年後見人等に就任した場合には、支援者と連携を図るように努めなければならない。

2前項の場合において、司法書士は、本人のプライバシーに配慮しなければならない。

第10章財産管理業務に関する規律

(基本姿勢)

第74条司法書士は、他人の財産を管理する場合には、自己の財産又は管理する他者の財産と判然区別することが可能な方法で各別に保管するなど、善良な管理者の注意をもって行う。

(委任による財産管理)

第75条司法書士は、委任により他人の財産を管理する場合には、委任者が適切な手続を選択することができるように説明しなければならない。

2司法書士は、前項の場合には、委任者と利益相反する行為をしてはならない。

3司法書士は、財産管理の状況について、定期的に委任者に報告しなければならない。委任者から報告を求められたときも、同様とする。

(法律の定めによる財産管理)

第76条司法書士は、法律の定めにより他人の財産を管理する者に選任された場合には、その目的を達するため誠実に財産管理を行わなければならない。

(遺言執行)

第77条司法書士は、遺言執行者に就任した場合には、遺言の内容を実現するため直ちに遺言執行事務に着手し、善良な管理者の注意をもってその事務を遂行しなければならない。

2司法書士は、遺言執行者に就任している場合において、遺言者の相続財産(遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産に限る。)に係る事件であって、相続人又は受遺者の依頼により、他の相続人又は受遺者を相手方とする裁判業務を行ってはならない。遺言執行者でなくなった後も、同様とする。

(遺産承継業務)

第78条司法書士は、遺産承継業務を受任する場合には、委任契約書を作成するなどして、依頼者に対し、受任事務の内容及び範囲を明らかにしなければならない。

2司法書士は、前項の場合においては、事案に応じて、依頼者に対し、業務の中断又は終了に関する事由を明らかにしなければならない。

(事件の終了)

第79条司法書士は、他人の財産の管理を終了したときは、遅滞なく、その管理する財産を委任者など受領権限がある者に引き渡さなければならない。

第11章民事信託支援業務に関する規律

(基本姿勢)

第80条司法書士は、民事信託支援業務を受任したときは、信託目的の達成に向けて、委託者、受託者、受益者その他信託関係人の知識、経験、財産の状況等に配慮して業務を行う。

(適正な民事信託の支援)

第81条司法書士は、民事信託の設定を支援するにあたっては、委託者の意思を尊重し、かつ、信託法上の権利及び義務に関する正確な情報を提供するように努めなければならない。

2司法書士は、民事信託の設定後においては、受託者の義務が適正に履行され、かつ、受益者の利益が図られるよう、必要に応じて、継続的な支援に努めなければならない。

第12章共同事務所における規律

(遵守のための措置)

第82条複数の司法書士が事務所を共にする場合(以下「共同事務所」という。)において、その共同事務所を監督する立場にある司法書士があるときは、当該司法書士は、共同事務所に所属する全ての司法書士(以下「所属司法書士」という。)が、法令、会則等を遵守するために必要な措置をとらなければならない。

(秘密保持の義務)

第83条所属司法書士は、正当な事由がある場合を除き、他の所属司法書士が業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。所属司法書士でなくなった後も同様とする。

(共同事務所における業務を行い得ない事件)

第84条所属司法書士は、他の所属司法書士(所属司法書士であった者を含む。)が業務を行い得ない事件については、業務を行ってはならない。ただし、業務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

(所属司法書士であった者が裁判業務を行い得ない事件)

第85条所属司法書士であった司法書士は、所属司法書士であった期間内に、他の所属司法書士が取り扱った裁判業務に係る事件で、自らこれに関与していた事件については、その事件の相手方の依頼を受けて裁判業務を行ってはならない。

(受任後の措置)

第86条所属司法書士は、事件を受任した後に第84条本文に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

(業務を行い得ない事件の受任防止

第87条所属司法書士は、共同事務所として、当事者情報の確認その他必要な措置をとるなどをして、業務を行い得ない事件の受任を防止するように努めなければならない。

第13章司法書士法人における規律

(遵守のための措置)

第88条司法書士法人は、その社員等が法令、会則等を遵守するための必要な措置をとらなければならない。

(秘密保持の義務)

第89条社員等は、正当な事由がある場合を除き、司法書士法人、他の社員等が業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。社員でなくなった後も同様とする。

(司法書士法人が業務を行い得ない事件)

第90条司法書士法人は、裁判業務に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第4号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合はこの限りでない。

(1)相手方の依頼を受けて行った事件又は受任している事件

(2)相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(4)受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

(5)受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件

(6)その他受任している事件の依頼者と利益相反する事件

(司法書士法人が社員等の関係で業務を行い得ない事件)

第91条司法書士法人は、裁判業務に係る次の事件については裁判業務を行ってはならない。

(1)社員等が相手方から受任している事件

(2)第25条、第26条若しくは第58条第1号から第6号まで又は第92条第2項第1号から第3号までに掲げる事件として社員の半数以上(簡裁訴訟代理等関係業務に係る事件については特定社員の半数以上)の者が裁判業務を行ってはならないこととされる事件

(社員等が司法書士法人との関係で業務を行い得ない事件)

第92条社員等は、裁判業務に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第2号に掲げる事件については、司法書士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、この限りでない。

(1)司法書士法人が相手方から受任している事件

(2)司法書士法人が受任している事件の相手方の依頼による他の事件

2社員等は、かつて別の司法書士法人(以下「その司法書士法人」という。)の社員等であった場合は、裁判業務に係る次の事件(自ら関与したものに限る。)については、裁判業務を行ってはならない。

(1)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の依頼を受けて行った事件

(2)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又は依頼を承諾した事件

(3)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の協議を受けた事件で、協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(社員等が他の社員等との関係で業務を行い得ない事件)

第93条社員等は、他の社員等が業務を行い得ない事件については、業務を行ってはならない。ただし、業務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

(受任後の措置)

第94条司法書士法人は、事件を受任した後に、第90条又は第91条の規定に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

2社員等は、事件を受任した後に、前2条の規定に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

(業務を行い得ない事件の受任防止

第95条司法書士法人は、業務を行い得ない事件の受任を防止するために、当事者情報の確認その他必要な措置をとるように努めなければならない。

(準用)

第96条第1章から第11章まで(第4条、第5条、第6条、第11条第1項、第26条第2項及び第58条を除く。)、第14章及び第15章の規定は、司法書士法人について準用する。

第14章他の司法書士との関係における規律

(名誉の尊重)

第97条司法書士は、他の司法書士(司法書士法人を含む。以下、本章において同じ。)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。

(他の事件への介入)

第98条司法書士は、他の司法書士が受任している事件に関して、不当に介入してはならない。

(相互協力)

第99条司法書士は、他の司法書士と共同して業務を行う場合には、依頼者とそれぞれの司法書士との間の委任関係を明確にして、依頼の趣旨の実現に向け、相互に協力しなければならない。

2司法書士は、事件処理のために復代理人を選任する場合には、依頼の趣旨の実現に向け、復代理人と十分な意思疎通を図らなければならない。

第15章司法書士会等との関係における規律

(規律の遵守)

第100条司法書士は、自治の精神に基づき、司法書士会等が定める規律を遵守する。

(組織運営への協力)

第101条司法書士は、司法書士会等の組織運営に積極的に協力する。

(事業への参加)

第102条司法書士は、司法書士会等が行う事業に積極的に参加する。また、司法書士会等から委嘱された事項を誠実に遂行する。

附則(令和4年6月23日・24日第87回定時総会承認)

この規範は、令和5年4月1日から施行する。

Tsuyoshi Taniguchi

これ見てる人全員アウトー!!

司法書士行為規範 (品位の保持) 第4条 司法書士は、常に、人格の陶冶を図り、教養を高め、司法書士としての品位を保持 する。

Tsuyoshi Taniguchi

非弁と言われる可能性は数年前まではかなり悩んでましたが、今はほとんど意識しなくなりましたかね。 「信託は魔法のツール」ってやりたい放題やってた時期はいつ誰が刺されるかとドキドキしてました。 司法書士行為規範に民事信託を盛り込んで、「目指すべき適正な形」を明文化したのは大きかった。

https://x.com/Hamuuuuuuuuuuu/status/1714521896757407774?s=20

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加工戸籍法等の改正に関する中間試案メモ

戸籍法部会第6回会議(令和4年5月17日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/koseki20220517_00002.html

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項

1 戸籍の記載事項への追加

戸籍の記載事項として、戸籍法第13条に次のいずれかの規定を設けるもの

とする。

【甲案】氏名を平仮名で表記したもの

【乙案】氏名を片仮名で表記したもの

(注)氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとして戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲は、平仮名についての表記の方法を定める現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)本文第1(直音、拗音、撥音、促音)又はこれを片仮名に変換したもののほか、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音(「ー」)など、戸籍の氏名に用いることができる文字及び記号も範囲に含めることが考えられる。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性に関する審査について、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による(注1)。

【乙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとする。

【丙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、次のいずれかとする。

① 国字の音訓又は慣用により表音されるもの

② 国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるものその他法務省令で定めるものを届け出た(申し出た)場合における当該表記

(注1)【甲案】について法令に規定することも考えられる。

(注2)【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。

戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224#:~:text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%89%E6%9D%A1%20%E6%88%B8%E7%B1%8D,%E8%A8%98%E8%BC%89%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82&text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E5%9B%9B%E6%9D%A1%20%E6%B0%8F%E5%90%8D,%E3%81%AF%E3%80%81%E5%B7%A6%E3%81%AE%E9%A0%86%E5%BA%8F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%80%82&text=%E2%91%A1%20%E5%AD%90%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%A7%E3%81%AF,%E3%81%AB%E3%81%93%E3%82%8C%E3%82%92%E8%A8%98%E8%BC%89%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82

第十三条 戸籍には、本籍の外、戸籍内の各人について、左の事項を記載しなければならない。

一 氏名

二 出生の年月日

三 戸籍に入つた原因及び年月日

四 実父母の氏名及び実父母との続柄

五 養子であるときは、養親の氏名及び養親との続柄

六 夫婦については、夫又は妻である旨

七 他の戸籍から入つた者については、その戸籍の表示

八 その他法務省令で定める事項

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集

 戸籍法第13条第1号に定める氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係るものについては、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書(出生、国籍取得、帰化、氏の変更、名の変更、就籍の届書等)の記載事項とし、これを戸籍に記載することとする(注)。

(注)例えば、「届出事件の本人の氏又は名を初めて戸籍に記載するときは、届書にその氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載しなければならない。」というような規定を戸籍法に設けることが考えられる。

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者は、一定期間内に本籍地の市区町村長(注1)に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出をしなければならないものとし、一定期間内に当該申出があった場合には、当該市区町村長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする(注2)(注3)。

 一定期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が国字の音訓又は慣用その他法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする。

(注1)ここでは当該戸籍を管掌する本籍地の市区町村長を想定しているが、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。

(注2)申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用するものとすることが考えられる。

(注3)市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての「申出」ではなく、戸籍法上の「届出」と整理した上で、届出義務を課し、正当な理由なく期間内に届出がない場合には、過料の制裁を科す(戸籍法第137条参照)方法も考えられる。

原則

申出・・・提出機関の承認等が必要。

届出・・・提出機関の承認等が不要。

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律

氏又は名の変更に伴わない場合の規律は、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注1)。

1 やむを得ない事由【正当な事由】(注2)によって氏を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

2 正当な事由によって名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

【乙案】【甲案】に加え、戸籍法に次のような内容の規律を設けるものとする(注3)。

氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、成年に達した時から1年以内に届け出る場合その他法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

(注1)成年に達した者が自ら氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを届け出た(申し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更の許否はより厳しく審査されるべきものとすることも考えられる。

(注2)変更の要件について、氏の変更(戸籍法第107条第1項)よりも緩和することとし、「やむを得ない事由」に代えて「正当な事由」とする案も考えられる。

(注3)【乙案】による変更は、一度に限ることとする。

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律

戸籍法第107条第1項又は第107条の2の規定により氏又は名を変更しようとするときは、その平仮名(片仮名)で表記したものとともに、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならないこととする。

戸籍法等の改正に関する中間試案の補足説明

令和4年5月

法務省民事局民事第一課

戸籍法等の改正に関する中間試案の補足説明

目 次

はじめに ……………………….. 1

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項 …. 3

1 戸籍の記載事項への追加 ………………. 3

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性 …. 5

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項 ……. 9

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集 …………… 9

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集 …………………. 10

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項 …….. 13

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律 ……………………. 13

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律 ……………………… 17

はじめに

 我が国に全国統一の近代的身分登録制度が設けられたのは、明治4年太政官布告第170号の戸籍法によってであり、以後、昭和22年法律第224号による戸籍法の全面改正を含め、幾度の制度改正がされてきたが、これまで、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを付することに関して、戸籍法令に規定されたことはない。

 また、昭和50年、昭和56年及び平成29年に、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍の記載事項とすることが検討されたものの、いずれもその制度化は見送られてきた。

 こうした中、令和2年12月25日に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行計画において、「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」報告のとおり、迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図ることとされた。

 さらに、令和3年5月12日に成立し、同月19日に公布されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)附則第73条においても、「政府は、行政機関等に係る申請、届出、処分の通知その他の手続において、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを利用して当該個人を識別できるようにするため、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め、この法律の公布後一年以内を目途としてその具体的な方策について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」との検討条項が設けられた。

 なお、上記デジタル・ガバメント実行計画は令和3年12月24日に廃止され、同日閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画の中で、「デジタル社会形成整備法附則第73条の規定を踏まえ、戸籍法制の見直しに関する法務大臣の諮問に対する法制審議会からの答申が得られ次第速やかに、戸籍における氏名の読み仮名の法制化に向けた作業を進め、令和5年(2023 年)の通常国会に関連する法案を提出した上で、令和6年度(2024 年度)を目途に実現を図る。」こととされた。

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを法制化する必要性が高まった背景として、①我が国における社会全体のデジタル化の推進、特にベース・レジストリの整備を推進する方針が定められたこと、②今般の新型コロナウイルス感染症対応を契機として、行政のデジタル化を更に推進し、デジタル社会における国民サービスを拡充する必要性が高まったこと、③難読な名の読み方(読み仮名)が増えていること、④我が国における国際化の進展に伴い、例えば、まず、外来語の名又は外国で出生したり、父若しくは母が外国人である子などについては音としての名を定め、次に、その意味又は類似する音に相当する文字を文字で表記された名とする場合など、文字で表記された名よりもその読み方(読み仮名)により強い愛着がある者も少なくないと考えられることなどが挙げられる。

 そして、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの登録・公証が必要な理由は、次のとおりであると考えられる。

(1) 正確に氏名を呼称することが可能となる場面が多くなることによって、他人から自己の氏名を正確に呼称される権利・利益の保護に資する。

(2) 社会生活において「なまえ」として認知されるものの中には、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものも含まれているとの理解が広がりつつあり、これを登録・公証することは、まさしく「なまえ」の登録・公証という点からも意義がある。

(3) 情報システムにおける検索及び管理の能率を向上させるとともに、行政手続等において、公証された氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの情報を利用することによって、手続をより円滑に進めることが可能となり、国民の利便性の向上に資する。また、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを本人確認事項の一つとすることを可能とすることにより、各種手続における不正防止を補完することが可能となる。

 以上のような状況を踏まえ、令和3年9月16日開催の法制審議会第191回会議において、上川陽子法務大臣(当時)から法制審議会に対し、「個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とする規定を整備するなど、戸籍法制の見直しを行う必要があると考えられるので、その要綱を示されたい。」との諮問(諮問第116号)がされ、その調査審議のため、戸籍法部会(部会長・窪田充見神戸大学大学院教授)(以下「部会」という。)が設置された。

 部会では、上記の問題意識を踏まえ、令和3年11月から令和4年5月までの間、約1か月に1回のペースで審議を重ね、令和4年5月17日の第6回会議において、「戸籍法等の改正に関する中間試案」(以下「試案」という。)を取りまとめるとともに、事務当局においてこれを公表し、意見照会の手続を行うことが了承された。以上の経緯により、事務当局である法務省民事局民事第一課において試案を公表し、意見照会の手続を行うこととなった。

今後、部会においては、試案に対して寄せられた御意見を踏まえ、要綱案の取りまとめに向けて、引き続き審議が行われる予定である(要綱案の取りまとめの時期及びこれを受けた法案の提出時期は、現時点では未定である。)。なお、この補足説明は、試案を公表するに当たり、これまでの部会における審議を踏まえ、試案の内容の理解に資するため、試案に掲げられた各項目について、その趣旨等を補足的に説明するものであり、事務当局である法務省民事局民事第一課の責任において作成したものである。このように、この補足説明は、飽くまでも意見募集の対象である試案の内容について検討を加える際の参考資料として作成したものであって、それ以上の意味を持つものではない。

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項

1 戸籍の記載事項への追加

戸籍の記載事項として、戸籍法第13条に次のいずれかの規定を設けるものとする。

【甲案】氏名を平仮名で表記したもの

【乙案】氏名を片仮名で表記したもの

 (注)氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとして戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲は、平仮名についての表記の方法を定める現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)本文第1(直音、拗音、撥音、促音)又はこれを片仮名に変換したもののほか、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音(「ー」)など、戸籍の氏名に用いることができる文字及び記号も範囲に含めることが考えられる。

(補足説明)

1 試案の概要

試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法に定める戸籍の記載事項とするに当たり、戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けた上、戸籍の記載事項としての表記を平仮名又は片仮名のいずれかに定めることとするものである。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの法令上の位置付け氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍法上の位置付けとしては、戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する方法又は戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものとして規定する方法が考えられる。

 戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する場合には、戸籍法における「氏名」に関する他の規定及び戸籍法以外の各種法令の規定において、「氏名」に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが含まれるのか、疑義が生じないように手当てをする必要があるものと考えられるところ、部会では、データ項目としての取扱いの観点から戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けるべきであるとの意見があったことや、各種法令の規定への影響をも考慮して、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けることとされた。

3 戸籍の記載事項としての表記

 令和3年5月26日内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室決定において、戸籍の記載事項は、「今後ベース・レジストリとして整備のあり方を含め検討するもの」として指定されており、戸籍に記載する氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、いわゆるマスターデータとなることや、データの利用に当たっての利便性の観点などから、戸籍の記載事項としての表記については平仮名又は片仮名のいずれかに特定すべきものと考えられる。

 この点、平仮名と片仮名とでは、長音の場合に平仮名では母音を重ねるのに対し、片仮名では長音記号(「ー」)が用いられることが多いなど、表記の方法が異なる場合があるものの、令和4年1月7日文化審議会建議「公用文作成の考え方」の解説において、「片仮名で表記されている人名、地名、外来語の長音に平仮名で振り仮名を付ける必要があるような場合には、便宜的に長音符号をそのまま用いてよい。」とされている。

 なお、常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)においては、「字音は片仮名で、字訓は平仮名で」表記されているものの、前書きにおいて、「この表は、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」とされている。

4 各案の内容

(1) 【甲案】

【甲案】は、戸籍の記載事項としての表記を平仮名と定めるものである。

 現行の戸籍事務において使用していないものの、法務省民事局長通達に定める出生届書等の標準様式には、氏名の「よみかた」欄が設けられているところ、法務省ホームページに掲載されている出生届書の記載例において、「よみかた」欄には、平仮名で記載されている。

 したがって、戸籍の届書の「よみかた」欄には、平仮名で記載されていることが多いと想定されるところ、【甲案】を採用すると、「よみかた」欄の表記と整合する場面が多くなると想定され、届書に記載された「よみかた」をそのまま戸籍に記載することが考えられる。

(2) 【乙案】

【乙案】は、戸籍の記載事項としての表記を片仮名と定めるものである。

 部会では、片仮名表記は、平仮名表記と比較して表音が容易であり、外来語の表記に違和感を覚えにくいという特徴があるとの指摘や、金融機関においては、データ通信量等の観点から、半角カナが用いられているとの指摘があった。

 また、我が国における国際化の進展に伴い、今後も増加することが想定される外国を起源とする名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、片仮名表記の方がなじみやすいとの見方もある。

5 戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲(試案の注)

 現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころとして、現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭和61年内閣訓令第1号)が定められている。「現代仮名遣い」は、平仮名による表記の方法を定めたものであることから、【甲案】を採用する場合には、戸籍に記載することができる平仮名の範囲は、「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音とすることとし、【乙案】を採用する場合には、戸籍に記載することができる片仮名の範囲は、「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音を片仮名に変換したものとすることが考えられる。

 また、戸籍先例上、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音「ー」なども戸籍に記載することができるとされていることから、これらも範囲に含めることが考えられる。

6 その他

 氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、規定振りについては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性に関する審査について、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による(注1)。

【乙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとする。

【丙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、次のいずれかとする。

① 国字の音訓又は慣用により表音されるもの

② 国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるものその他法務省令で定めるものを届け出た(申し出た)場合における当該表記

(注1)【甲案】について法令に規定することも考えられる。

(注2)【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。

(補足説明)

1 試案の概要

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査においては、①氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの自体の許容性(氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを単独で見た際の許容性)と、②氏名との関連性(氏名とそれを平仮名(片仮名)で表記したものを照らし合わせた際の許容性)という2つの観点があるものと考えられる。

【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査することとするものであるが、【甲案】だけでは、②の観点からの審査に支障を来すおそれがあるとの見方もある。

そこで、【乙案】及び【丙案】は、法の一般原則により①の観点から審査するのに加えて、②の観点からの審査基準を明記するものである。

また、【丙案】は、【乙案】を基本としつつ、名乗り訓(名前に特有の訓読み)や部分音訓(漢字の音訓の一部のみを用いた読み)などを想定し、②の観点から許容される範囲を広げるものである。

2 各案の内容

(1) 【甲案】

【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査することとするものである。

【甲案】の権利濫用の法理における「権利」については、次のように考えることが可能である。試案の第2の1の氏又は名を初めて戸籍に記載される場合のうち、親権者が子に命名する場面においては、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについての命名権が考えられる。

【甲案】の公序良俗の法理による審査については、商標の例が参考となる。商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号において、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として、特許庁ウェブサイトにおいて、「商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

上記の例によれば、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、それ自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるようなものである場合には、許容されないこととなるものと考えられる。

特許庁ウェブサイト商標審査基準

六 第4条第1項第7号(公序良俗違反)

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/index.html

(2) 【乙案】

旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては、旅券に記載されるローマ字表記の氏名について、「法第6条第1項第2号の氏名は、戸籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては、法律上の氏及び親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。ただし、申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては、公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され、かつ外務大臣又は領事官が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されている。

旅券法施行規則(平成元年外務省令第十一号)

(旅券の記載事項)第五条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=401M50000020011

【乙案】は、これを参考として、氏名との関連性の観点による審査基準について、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとするものである。

(3) 【丙案】

【丙案】は、【乙案】を基本としつつ、氏名との関連性の観点から、名乗り訓や部分音訓などが含まれることを明確にしようとするものであり、国字の音訓又は慣用によらない場合についても一定の範囲で許容できる場合を規定するものである。

部会では、「字義との関連性」について、字義との関連性の有無の判断には困難を伴うとの意見があったことなどを踏まえ、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるもののほか、法務省令で定めるものにつき、「届出(申出)」を要件として許容することとしている。

【丙案】の「法務省令で定めるもの」としては、既に戸籍に記載されている者については、旅券やその他の公簿等に氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれらを元にしたローマ字が登録され公証されている場合などが考えられる。また、名乗り訓や部分音訓によるものが考えられる。

3 各案の問題

(1) 【甲案】の問題

 【甲案】については、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの自体の許容性の観点から審査することは可能であるが、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による審査である以上、氏名との関連性の観点から審査することは困難であるとも考えられ、審査に支障を来すおそれがあるとの見方もある。

 他方で、部会では、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による場合であっても、氏名との関連性の観点からの審査も可能ではないかとの意見があった。

 この点、例えば、「鈴木」という氏について、それを平仮名(片仮名)で表記したものを「さとう(サトウ)」とするものなど、相手方に、当該氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが常に誤記されたものと受け取られるものについては、【甲案】の規律の下でも、氏名との関連性が乏しく、広く誤解を招くなどの弊害を生ずるとの観点から、これを排除することができるか否かについて、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

(2)【乙案】の問題

 【乙案】に関しては、①慣用については、その範囲や判断基準を明確に定めることは困難である、また、②氏にあっては、慣用にない氏を平仮名(片仮名)で表記したものや字義と一致しない氏を平仮名(片仮名)で表記したものが実際上使用されている、③名にあっては、命名文化として、最初に誰かが名を平仮名(片仮名)で表記したものとして考えた漢字の読みが広まって一般的な名乗り訓となるところ、仮に新たな名乗り訓となり得るものが認められないことになると、これまでの命名文化・習慣が継承されないこととなるなどの指摘があった。

 また、【乙案】における「国字の音訓若しくは慣用による表音」及び「字義との関連性」は、氏名が漢字で表記されていることを前提としているものとも考えられ、氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、規定振りについては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

 なお、部会では、漢字の中には、反訓読みといわれる反対の意味の読みが存在するものがあるとの指摘があったところ、反訓読みによるものについては、混乱が生じることを防止するため、これを認めるべきでないとの意見があった一方で、反訓読みは中国の訓詁学の中で育まれてきたものであり、その一部は漢和辞典にも掲載されているとの指摘があった。

(3) 【甲案】を法令に規定する場合の問題(試案の注1)

試案の(注1)のとおり、【甲案】については法令に規定することも考えられる。

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)において、「市町村長の命名についての審査権も形式的審査の範囲にとどまり、その形式のほか内容にも及び、実質的判断までも許容するものとは解されないが、例外的には、親権(命名権)の濫用に亙るような場合や社会通念上明らかに名として不適当と見られるとき、一般の常識から著しく逸脱しているとき、または、名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には、戸籍事務管掌者(当該市町村長)においてその審査権を発動し、ときには名前の受理を拒否することも許されると解される。」とされたとおり、名を初めて戸籍に記載する場合には、戸籍窓口において、許容性について法の一般原則による審査が行われているものの、現行法上、その審査に関する明文の規定はなく、戸籍法第50条第1項において、「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。」と規定されているに過ぎない。そこで、【甲案】を法令に規定する場合には、氏名についても同様に、その審査に関する明文の規定を設けることが考えられるものの、慎重な検討が必要であると考えられる。

(4) 【乙案】及び【丙案】における「慣用」(試案の注2)

 試案の(注2)のとおり、【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。具体的には、次のような考え方のいずれかが満たされていれば「慣用」があると解することが考えられる。すなわち、①不特定多数人において、氏又は名から当該氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを判読することが可能であること、②名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、多数人において当該名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されていることなどが考えられる。

4 その他

 部会では、氏名及び氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが個人の権利・利益と密接に関わるものであることは明らかであるが、その一方で、氏名は、社会において個人を識別する機能を有するものであり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものもまた、同様の機能を有するものであることから、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを定めるに当たっては、社会的な混乱を防止するため、一定の制約を受けると考えられるとの意見があった。

 また、字義との関連性などを戸籍窓口において審査することは困難であり、抽象的な規律とせざるを得ないとの意見や、戸籍窓口における混乱を防止するため、これまでの「よみかた」については審査をしないという取扱いを大幅に変更するのは相当でなく、一般的抽象的な規律を設け、個別に判断することとするのが適切であるとの意見があった。

 さらに、戸籍窓口の事務への影響や不受理件数の増大、ひいては家庭裁判所の実務への影響も懸念されるとの意見や、戸籍窓口や家庭裁判所において、どのような要件をどのようなスタンスで審理・判断することになるのかについて、議論を尽くすことが重要だとの意見、特に、【甲案】における権利濫用や公序良俗等の概念は抽象的なので、具体的基準として機能するよう、具体的に議論を尽くすべきであるとの意見もあった。

 これらの意見を踏まえると、戸籍窓口である市区町村に対し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査に関する明確な資料を示す必要があるものと考えられ、また、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関する調査嘱託等がなされた場合には、上記資料を提供することなどの手続的な手当についても、検討する必要があるものと考えられる。

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集

 戸籍法第13条第1号に定める氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係るものについては、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書(出生、国籍取得、帰化、氏の変更、名の変更、就籍の届書等)の記載事項とし、これを戸籍に記載することとする(注)。

(注)例えば、「届出事件の本人の氏又は名を初めて戸籍に記載するときは、届書にその氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載しなければならない。」というような規定を戸籍法に設けることが考えられる。

(補足説明)

 戸籍の記載は、届出、報告、申請、請求若しくは嘱託、証書若しくは航海日誌の謄本又は裁判によってするとされているところ(戸籍法第15条)、実情として、届出による記載がほとんどである。

 そこで、試案のとおり、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書の記載事項とすることにより、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集することを提案している。

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者は、一定期間内に本籍地の市区町村長(注1)に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出をしなければならないものとし、一定期間内に当該申出があった場合には、当該市区町村長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする(注2)(注3)。

 一定期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が国字の音訓又は慣用その他法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする。

(注1)ここでは当該戸籍を管掌する本籍地の市区町村長を想定しているが、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。

(注2)申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用するものとすることが考えられる。

(注3)市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての「申出」ではなく、戸籍法上の「届出」と整理した上で、届出義務を課し、正当な理由なく期間内に届出がない場合には、過料の制裁を科す(戸籍法第137条参照)方法も考えられる。

(補足説明)

1 試案の概要

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集方法として、試案の(注3)のとおり、戸籍法上の「届出」と整理した上で、戸籍に記載されている者に届出義務を課すことにより、自ら届出をすることとし、法定の期間内に届出がない場合には本籍地の市区町村長が職権で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載することも考えられるが、部会では、このような整理の下では、法定の期間内に届出がされなかった場合に過料の対象となることを理由として、否定的な意見が多数であった。

 他方で、短期間にできるだけ多くの氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集するためには、過料の対象とならない市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての申出事項と整理しつつ、申出をしなければならないこととすべきであるとの意見もあった。

 以上の意見も踏まえ、効果的かつ国民にとって過度の負担にならない方法により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集することを目指し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、職権での記載を促す申出事項と整理した上で、一定期間内に申出を容易にする方策を講じ、当該期間内に申出がない場合には本籍地の市区町村長が職権で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載する案を提示している。

 なお、氏名を平仮名又は片仮名で表記したものが試案第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用し、家庭裁判所に不服の申立てをすることができるとすることが考えられる((注2)参照)。

2 試案の内容

 試案は、戸籍に記載されている者に対し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについての申出(職権記載の申出)の義務を課した上で、一定期間内に申出があった場合には、本籍地の市区町村長(なお、試案の(注1)のとおり、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。)が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載することとし、他方、当該期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとするものである。なお、職権記載の申出に義務を課すことについては、法制上、そのような仕組みとすることが可能かどうか、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

 現在の運用として、例えば、出生や死亡があった場合、戸籍法に規定された届出人がいる場合には、届出人により出生や死亡の届出がされることになるところ、届出人がいない場合や既に亡くなっている場合であって、届出人以外の者から出生証明書や死亡診断書等の確実な資料が提出された場合には、職権記載の申出として取り扱い、本籍地の市区町村長は、戸籍法第24条第2項により出生事項や死亡事項を戸籍に記載することとなる。

 このようにして戸籍に記載する端緒となる職権記載の申出自体については特段の根拠規定がないものの、職権記載申出の義務を課すこととするのであれば、試案の第1文前半については、法令に規定する必要があり、第2文については、法令に規定する方法又は法令に規定しない方法が考えられる。

 試案の第2文を法令に規定しない方法については、以下のとおり整理することが可能である。すなわち、試案の第1の1により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが戸籍の記載事項として法令に規定されている以上、戸籍法第24条第1項の「戸籍の記載に遺漏がある」状態と評価することができ、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】を採用する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものであり、【丙案】を採用する場合には、申出がない限り、国字の音訓又は慣用により表音されるものであることから、本籍地の市区町村長は、同条第2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載することができると考えられる。

 なお、試案の第2文により、本籍地の市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載した場合には、戸籍法施行規則第47条の2に基づき、届出人又は届出事件の本人に戸籍訂正した旨を連絡することが考えられる。

3 申出期間

 試案の規律によると、一定期間内に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出がされなかった場合、申出義務違反の状態になるため、当該期間が適切なものとなるよう検討する必要がある。当該期間について、法の施行日から長期間とすることは相当でないものの、具体的な期間については、収集方法を踏まえて引き続き検討することとされた。

4 申出を容易にする方策

 申出期間内に多くの申出がされるよう、効果的な収集方法を検討する必要があり、いわゆるプッシュ型の取組も効果的であると考えられるところ、申出を容易にする方策の一つとして、本籍地の市区町村や住所地の市区町村が氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの若しくはこれに準ずる情報を保有している場合には当該情報又は氏名に係る国字の音訓若しくは慣用により表音されるところにより、申出人となるべき者に戸籍に記載する氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、まず通知をすることが考えられる。

5 職権記載に当たっての指針

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】を採用する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものであり、【丙案】を採用する場合には、申出がない限り、国字の音訓又は慣用により表音されるものであることから、本籍地の市区町村長は、戸籍法第24条第2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載することができるが、氏名を平仮名(片仮名)で表記されるものが複数想定されることも考えられる。そこで、【甲案】はもとより、【乙案】・【丙案】のいずれを採用する場合であっても、本籍地の市区町村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当たっての指針となるべきものを定める必要があると考えられる。

 また、本籍地の市区町村長による職権記載に当たり、本籍地の市区町村や住所地の市区町村が氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれに準ずる情報を保有しており、当該情報を参照することが可能な場合には、「その他法務省令で定める方法」として法務省令に規定することが考えられる。もっとも、本籍地の市区町村と居住する市区町村が異なる者も存在することから、住所地の市区町村が保有する氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれに準ずる情報を参照することが困難な場合についても想定する必要がある。そのような場合には、試案の第1の2においていずれの案を採用するかにかかわらず、本籍地の市区町村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当たっての指針となるべきものを定める必要があると考えられる。

 なお、氏を平仮名(片仮名)で表記したものについて、夫婦間で認識が異なる場合も想定されるところ、本籍地の市区町村長において、実際に使用されているものがいずれであるか判断することができない場合には、戸籍に記載しないこととすることが考えられるが、具体的な運用方法については、引き続き検討する必要がある。

6 申出期間の経過により職権記載した後の職権訂正の申出

 試案の第2文により、本籍地の市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載した場合において、実際の氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが戸籍に記載されたものと異なるときは、当該記載に係る者は、次の3つの方法のいずれかをとることが考えられる。

 1つ目に、本籍地の市区町村長に職権訂正の申出をすることが考えられ、この場合には、戸籍法第24条第2項の規定により、本籍地の市区町村長は管轄法務局長等の許可を得て、職権で当該申出による氏名を平仮名(片仮名)で表記したものに戸籍訂正することができるとすることが考えられる(管轄法務局長等の許可を得た戸籍訂正)。なお、管轄法務局長等の許可は、包括的に承認しておくことが考えられる。

 2つ目に、利用される場面は多くないと想定されるものの、戸籍法第113条の「その記載に錯誤があること」に該当するとして、家庭裁判所の許可を得た上で、戸籍訂正を申請することも当然可能である(家庭裁判所の許可を得た戸籍訂正)。

 また、3つ目に、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更手続によることも可能であると考えられる。

 この点、部会では、本籍地の市区町村長が職権により戸籍に記載した氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、戸籍に記載されている者等の申出によるものとは異なり、職権による記載であることが分かる形(戸籍記載例を区別する方法)で管理し、その変更については、試案の第3の1の規律の例外と位置付けるという方法も考えられるとの意見があった。

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律

氏又は名の変更に伴わない場合の規律は、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注1)。

① やむを得ない事由【正当な事由】(注2)によって氏を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

② 正当な事由によって名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

【乙案】【甲案】に加え、戸籍法に次のような内容の規律を設けるものとする(注3)。

氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、成年に達した時から1年以内に届け出る場合その他法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

(注1)成年に達した者が自ら氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを届け出た(申し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更の許否はより厳しく審査されるべきものとすることも考えられる。

(注2)変更の要件について、氏の変更(戸籍法第107条第1項)よりも緩和することとし、「やむを得ない事由」に代えて「正当な事由」とする案も考えられる。

(注3)【乙案】による変更は、一度に限ることとする。

(補足説明)

1 試案の概要

試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更に関する規律である。

 【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)と同様に、家庭裁判所の許可を得た上で、届け出ることとするものであり、【乙案】は、【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとするものである。

 部会では、家庭裁判所の許可を不要とすれば、戸籍窓口において変更の要件を審査することとなることを考えると、家庭裁判所の許可を要することとせざるを得ないとの意見を始めとして、家庭裁判所の許可を要することとすべきとの意見が複数あった。また、氏又は名の変更手続(戸籍法第107条又は第107条の2)と異なるものとすると混乱が生じることが懸念されることから、氏又は名の変更手続と同様の規律にすべきであるとの意見があった。

 他方で、家庭裁判所の許可を得るために申立てをすることは、一般的に敷居が高いと感じられることから、名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、幼少の頃から戸籍の記載とは異なるものを使用していたような場合には、家庭判所の許可を不要とすることも考えられるのではないかとの意見や、氏を平仮名(片仮名)で表記したものについて、成年に達したことを契機として、家庭裁判所の許可を得ずに変更を認めることも考えられるのではないかとの意見があった。

 こうした意見を踏まえ、【乙案】のとおり、成年に達した時から1年以内に届け出る場合など、法務省令で定める一定の場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができることとする案を提案している。

2 各案における変更の要件

(1) 【甲案】

ア 【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)と同様に、家庭裁判所の許可を得た上で、届け出ることとするものである。

【甲案】を採用する場合、その要件については、氏の変更(戸籍法第107条第1項)と同様に、「やむを得ない事由」とすることが考えられる一方で、これを緩和すべきとの意見もあることから、緩和した要件をブラケットを付して記載している。

イ 【甲案】を採用した場合において変更が想定される場面については、現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。

 氏の変更については、戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称している氏に変更しようとするものなどの要件あり)等に規定されており、同条第1項において、「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」とされている。

 このやむを得ない事由に該当する事例としては、著しく珍奇なもの、甚だしく難解難読のものなど、本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれに当たるであろうし、その他その氏の継続を強制することが、社会観念上甚だしく不当と認めるものなども、これを認めてよいと考えられている(青木義人=大森政輔全訂戸籍法439頁)。

 また、やむを得ない事由に関して、婚姻により夫の氏になったものの、その後離婚し、婚氏続称の届出をして、離婚後15年以上婚氏を称してきた女性が、婚姻前の氏に変更することの許可を申し立てた事案において、婚氏が社会的に定着していることを認定しつつ、①離婚時に幼少だった子が既に成人し、申立人の氏の変更許可を求めることに同意していること、②申立人は、同居の実両親とともに、9年にわたり、婚姻前の氏を含む屋号で近所付き合いをしてきたこと等の諸事情を考慮して、やむを得ない事由があると認められると判断し、申立てを却下した原審判を変更して、氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年10月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

ウ 戸籍法第107条の2に規定する名の変更については、正当な事由があ

る場合に家庭裁判所の許可を得て、届け出ることができるとされている。

 この正当な事由の有無は一概に言い得ないが、営業上の目的から襲名の必要があること、同姓同名の者があって社会生活上支障があること、神官僧侶となり、又はこれをやめるため改名の必要があること、珍奇な名、異性と紛らわしい名、外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること、帰化した者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが、もとよりこれのみに限定するものではないと考えられており、また、戸籍上の名でないものを永年通名として使用していた場合に、その通名に改めることについては、個々の事案ごとに事情が異なるので、必ずしも取扱いは一定していないが、相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全訂戸籍法442頁)。

 また、性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が、男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において、正当な事由があると認められると判断し、原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

さらに、名の変更については、出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効であることを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。

エ  以上の例と氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの特性に鑑みれば、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、著しく珍奇なもの、甚だしく難解なもの、永年使用しているものによるものなどを理由とした場合が、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、珍奇なもの、難解なもの、永年使用しているもの、いわゆる性自認と一致しないものなどを理由とした場合などが考えられる。

 さらに、これらの届出のうち、実際に氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更の届出が想定される場面は、極めて限定されるが、例えば、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、①濁点の有無や音訓の読みが変化したものを永年使用していることのほか、②本人以外が届け出たものについて、著しく珍奇なもの又は甚だしく難解なものなどが考えられる。また、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、同様に、①濁点の有無や音訓の読みが変化したものを永年使用していることのほか、②本人以外が届け出たものについて、珍奇なもの又は難解なもの、③いわゆる性自認と一致しないものなどが考えられる。

(2) 【乙案】

 【乙案】は、【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとするものであり、届出のみによる場合には、戸籍窓口において氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性を審査することとなる。なお、民法第791条第4項において、子の氏の変更につき、「前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。」と規定されていることから、これを参考としているが、部会では、民法第791条第4項に規定する子の氏の変更の場合には、復する氏が従前の氏に制限されているところ、【乙案】においてはそのような制限がないことを考慮する必要があるとの意見があった。

 また、部会では、氏名は、社会において個人を識別する機能を有するものであり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものもまた、同様の機能を有するものであるとの指摘があり、こうした観点から、家庭裁判所による審査を経ることなく、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更を認めることには否定的であるとの意見が複数あった。

 【乙案】の「法務省令で定める場合」としては、(補足説明)2(1)エの届出が想定される場面、具体的には、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条第1項の規定による性別の取扱いの変更の審判を受けたときなどを法務省令に規定することが考えられる。

3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更における届出人

 戸籍法第107条第1項において、氏の変更の届出人は、「戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者」とされていることから、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更においても、これと同様にしている(【甲案】①)。

 なお、筆頭者及びその配偶者以外の者が戸籍法第107条第1項による氏の変更の届出をすることは許されず、筆頭者及びその配偶者以外の同籍者については、分籍の上、氏の変更の届出をする必要があるとされていることから、これと同様の取扱いとすることが考えられる。

4 その他

 部会では、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更については、自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが登録された場合には、その変更はより慎重であるべきであるとの意見があった。

 この点、【甲案】については、変更の要件を、やむを得ない事由又は正当な事由よりも厳しくすることが考えられるのではないかとの意見があったほか、自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが登録されたという事実を、家庭裁判所におけるやむを得ない事由又は正当な事由に関する審査の際に、一つの事情として考慮することも考えられる。

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律

戸籍法第107条第1項又は第107条の2の規定により氏又は名を変更しようとするときは、その平仮名(片仮名)で表記したものとともに、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならないこととする。

(補足説明)

1 試案の概要

 試案は、氏又は名の変更に伴う氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する規律であり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、氏名とともに家庭裁判所の許可を要することとするものである。

 なお、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、家庭裁判所の許可を不要とし、氏又は名の変更の許可を得た後、氏又は名の変更の届出時にこれらを平仮名(片仮名)で表記したものの届出をすれば足りるとすることも考えられる。この場合には、戸籍窓口において、第1の2により氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏又は名との関連性が審査され、相当でないものであれば、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの届出は受理されないこととなる。

 この点、部会では、戸籍窓口において、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの届出が受理されない場合には、再度、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更について、家庭裁判所の許可を得る必要があることなどを理由に、氏又は名とこれらを平仮名(片仮名)で表記したものについて、併せて家庭裁判所の許可を得ることとするのが相当であるとされた。

2 試案の内容

 試案の規律によると、氏名とともにこれらを平仮名(片仮名)で表記したものについても家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出る必要があり、家庭裁判所において、第1の2により氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性が審査される。

 この場合、家庭裁判所において、①氏又は名について、やむを得ない事由又は正当な事由が認められるものの、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、第1の2により相当でないものと認定された場合には、氏又は名の変更を含めて、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるものと考えられる。

 また、②氏又は名について、やむを得ない事由又は正当な事由が認められない場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについての許容性を判断するまでもなく、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるものと考えられる。

 なお、部会では、家庭裁判所において、字義との関連性を審査することは困難であることから、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関する調査嘱託等がなされた場合には、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査に関する資料を提供することなどの手続的な手当についても、検討する必要があるとの意見があった。

3 氏又は名を変更し氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しない場合

 部会では、氏又は名を変更しつつ、これらを平仮名(片仮名)で表記したものを変更しないとするニーズもあるのではないかとの意見があった。

 この場合、試案の規律によれば、氏又は名の変更と併せて、従前の氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、家庭裁判所の許可を得て届け出ることとなるところ、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しない場合であっても、家庭裁判所の許可を必要とする理由について整理する必要があるが、氏又は名を変更する場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものもそれに伴うものであるから、結果として同じ読み方(読み仮名)であっても、潜在的には変更を伴うものであり、許容性及び氏名との関連性を審査するものと考えられる。

戸籍用語

認定、認定年月日

戸籍整備法(1953年11月16日立法86号)

第1条 今次大戦によって滅失した戸籍の整備については、戸籍法(大正三年法律第二十六号)第十五条の規定にかかわらず、この立法に定めるところによる。

第14条 行政主席は、前条の具申を適当と認めたときは、これを整備された戸籍として認定する。

2 前項の場合行政主席は、戸籍の名称、認定年月日その他必要な事項を告示しなければならない。

戸主(戸主権)

戸主の用語が表示される戸籍

・明治維新後の明治5年において全国統一の戸籍が作られてから現行戸籍書式になる直前まで、戸籍には戸主の表示がなされている。

・明治4年戸籍法に基づいて編成された明治5年式戸籍(法制施行の時点を基準にした呼称である。以下同じ)

・明治19年内務省令によって改正された明治19年式戸籍

・明治31年戸籍法に基づいて編成された明治31年式戸籍

・大正3年戸籍法に基づいて編製された大正4年式戸籍

目的

 明治31年の民法施行に至るまでは、戸籍が国民の動態把握を主な目的としていたこと、現実の生活共同体の主宰者である世帯主的意義を有していた。明治31年民法施行後の戸主は、1個の家を公示する方法として採用された一つの戸籍のうえに、その家長たる身分を戸主として表現させた。

戸主の交代原因

死亡、隠居、国籍喪失、戸主の縁組・婚姻の取消による去家、入夫婚姻により夫が戸主となる場合、入夫戸主が離婚した場合

戸主の表示の廃止

法務大臣の命令(昭和32年6月1日法務省令27号)によって改製されることになり、全国的には昭和36年~昭和37年頃までに、新法戸籍に書き換えられ廃止。

前戸主(主戸前)

前の戸主

再製

 戸籍が滅失した場合に、その滅失前の戸籍を回復すること、滅失の恐れがある戸籍について、新たな記録をする手続き。

 法務大臣が戸籍の再製について必要な処分を指示することになっている。

戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224

第十一条 戸籍簿の全部又は一部が、滅失したとき、又は滅失のおそれがあるときは、法務大臣は、その再製又は補完について必要な処分を指示する。この場合において、滅失したものであるときは、その旨を告示しなければならない。

 

再製手続

戸籍法施行規則(昭和二十二年司法省令第九十四号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000010094

第九条 戸籍簿又は除籍簿の全部又は一部が滅失したときは、市町村長は、遅滞なく、その事由、年月日、帳簿の名称、冊数その他必要な事項を記載した書面により、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局に報告しなければならない。

2 管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局が前項の報告を受けたときは、必要な調査をした後、その再製又は補完の方法を具し、これを法務大臣に具申しなければならない。

3 戸籍簿又は除籍簿の全部又は一部が滅失するおそれがあるときは、前二項の例に準じて報告及び具申をしなければならない。

滅失、滅失のおそれ

・火災、水害、虫害、その他の自然的・人為的の諸種の原因

・戸籍の全部・一部が、その原形を失ったときだけでなく、戸籍記載の一部の数字・文字の部分が墨汁の汚点で不明、謄本を複写機で作成中に原本が機械にまきつき、その一部分を破損して不明となったような場合を含む。

入籍

 一方の戸籍から他方の戸籍に入る場合

原因

・婚姻、縁組、離婚、離縁、婚姻の取消、縁組の取消

・生存配偶者の婚姻前の氏に戻ることにより、婚姻前の戸籍に入る場合

・子が父または母と氏を異にする場合に家庭裁判所の許可を得て、もしくは、この許可を得ないで、入籍届によりその父または母の戸籍に入る場合。その後、父または母の戸籍に入った子が、成年に達した後、1年以内に前の戸籍の氏に戻る入籍届により氏変更前の戸籍に入る場合

・出生

・国籍取得・帰化により父母の既存戸籍に入る場合

戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224

第十六条 婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。

2 前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。

3 日本人と外国人との婚姻の届出があつたときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。

第十七条 戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者以外の者がこれと同一の氏を称する子又は養子を有するに至つたときは、その者について新戸籍を編製する。

第十八条 父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る。

2 前項の場合を除く外、父の氏を称する子は、父の戸籍に入り、母の氏を称する子は、母の戸籍に入る。

3 養子は、養親の戸籍に入る。

第十九条 婚姻又は養子縁組によって氏を改めた者が、離婚、離縁又は婚姻若しくは縁組の取消によって、婚姻又は縁組前の氏に復するときは、婚姻又は縁組前の戸籍に入る。但し、その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍を編製する。

2 前項の規定は、民法第七百五十一条第一項の規定によつて婚姻前の氏に復する場合及び同法第七百九十一条第四項の規定によつて従前の氏に復する場合にこれを準用する。

3 民法第七百六十七条第二項(同法第七百四十九条及び第七百七十一条において準用する場合を含む。)又は同法第八百十六条第二項(同法第八百八条第二項において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚若しくは婚姻の取消し又は離縁若しくは縁組の取消しの際に称していた氏を称する旨の届出があつた場合において、その届出をした者を筆頭に記載した戸籍が編製されていないとき、又はその者を筆頭に記載した戸籍に在る者が他にあるときは、その届出をした者について新戸籍を編製する。

第百二条 国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)第三条第一項又は第十七条第一項若しくは第二項の規定によつて国籍を取得した場合の国籍取得の届出は、国籍を取得した者が、その取得の日から一箇月以内(その者がその日に国外に在るときは、三箇月以内)に、これをしなければならない。

改製

 戸籍の様式が法律または命令に基づき改められた場合に、それまでに前の規定による様式で編製された戸籍を改めるための編製替え。

再製との違い

 その時に在籍する者のみを編製後の戸籍に移記する。戸主制度のあった当時は、家督相続が開始したのに新戸主が所在不明または定まらないで、そのままとなっていた戸籍の改製は、除かれた戸主の事項はそのまま移記。

効力発生日

 各戸籍につき、市町村長が実際に改製をした時。

戸籍法第百二十二条第一項の戸籍の改製に関する規則

 1956年12月31日琉球政府立法第87号戸籍法

(旧法による戸籍の効力)

122条 旧法の規定による戸籍は、これを新法の規定による戸籍とみなす。但し、新法施行後十年を経過したときは、旧法の規定による戸籍は、規則の定めるところにより、新法によってこれを改製しなければならない。

2 旧法によって定められた本籍は、新法によって定められたものとみなす。

改製原戸籍(かいせいげんこせき・かいせいはらこせき)

 法改正などにより戸籍の様式が変わり、改製が行われた際の、改製される前の戸籍

あらたに戸籍を編製

 新しい戸籍が作られること

 原因

  一家創立、家督相続、家督相続回復、前戸主の失踪宣告の取消、隠居の取消などにより戸主に変更を生じたとき、分家、廃絶家再興、帰化、国籍取得、就籍、管外からの転籍、再製、改製

除籍

・戸籍から一部の者が除かれること。

・戸籍内の全員が除かれた場合、戸籍システムから除籍のシステムに移すこと。

 

参考

那覇地方法務局『発足二十周年記念沖縄関係戸籍先例集』平成4年那覇地方法務局

髙妻新『改訂体系・戸籍用語辞典』平成13年日本加除出版

髙妻新・荒木文明・後藤浩平『全訂第三版 相続における戸籍の見方と登記手続』2022年日本加除出版

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