道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』→『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』第2章信託の設定

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年、有斐閣と、同氏著『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣の比較です。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣を基準にしています。

誤りなどがあれば、指摘願います。

第2章 信託の設定

P30

『信託法―現代民法別巻―』

信託契約または遺言による信託設定の場合には、信託設定にあたり、財産(当初信託財産)が委託者から受託者に対して処分される。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

信託契約または遺言による信託設定の場合には、信託設定にあたり、一定の財産(当初信託財産に属すべき財産)が委託者から受託者に対して処分される。

→P19の、当初信託財産に属する財産、という用語を加えたことを踏まえての表現だと想定されます。

P32

『信託法―現代民法別巻―』

たとえば、委託者が自己所有の不動産を既に第三者に売却し、所有権を移転したが、引渡しも移転登記もされていないという状態は、委託者が悪意で占有していることになるから、占有に瑕疵があることになる。したがって、その後、当該不動産を当初信託財産とする信託を委託者が設定し、委託者から受託者への移転登記がされても、受託者は委託者の占有の瑕疵を承継するから、受託者と当該第三者は民法177条の対抗関係に立たない(受託者は所有権を承継しない)。そして、これとのバランス上、委託者がすでに第三者に引渡しをしているとき(しかし、移転登記は未了)も、対抗問題は生じないと解すべきである。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

たとえば、委託者が自己所有の不動産を既に第三者に売却し、所有権を移転したが、引渡しも移転登記が未了のうちに当該不動産を当初信託財産に属する財産とする信託を委託者が設定し、委託者から受託者への移転登記がされたときはどうか。受託者を保護する必要はないし、委託者が第三者に売却した当該不動産の利益を信託の設定により自らが享受し、または、第三者である受益者に享受させることができるのは妥当でないとも考えられるので、民法177条の適用を廃除すべく、信託法15条の適用あるいは類推を認めるべきだとも思われる。

→注4記載の通り、改説。委託者に占有の瑕疵があることを、断定しない方向。

P32 追加

しかし、民法177条の趣旨は取引の安全を図ることだけにあるわけではなく、また、この場合、委託者は当該不動産を受託者に有効に譲渡する権限を有しているのであるから、(他主占有であっても、無権限占有者ではない)、受託者と先に譲渡を受けた当該第三者とは対抗関係に立ち、先に登記を備えた方が優先すると解すべきであろう。委託者が、第三者のために抵当権や地上権を設定したが、それが未登記である場合も同様である。

→民法177条(物権変動が生じる場合にも適用、第三者の範囲、登記の推定力、登記の欠陥を主張することができる正当な利益など)、民法180条。

P33 追加

債務について、「受託者個人に対する債権者は差押えをすることができない」とか、「受託者が破産したときに破産財産に取り込まれない」とかいった効果を考えることはできないのである。

→信託法21条1項の解説。

P35

『信託法―現代民法別巻―』

自己信託においては、その設定にあたって財産の譲渡がないわけだから、信託を有効に設定できると考える余地がある。―中略―当初信託財産に属する債権の債務者からの相殺は、自働債権が受託者の固有財産を引き当てにするものであっても、受託者が承認する旨―中略―を信託行為において定めることによって図ることができる。したがって、このような条項が信託行為に存在するときに限って、当該特約の趣旨に反しないものとして、自己信託の設定が有効になると考えるべきである。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

自己信託の場合には、債権の譲渡が生じないから、譲渡禁止・制限特約が付いていても、当該債権を当初信託財産に属する財産とすることは当然に可能である。

→注16記載の通り改説。信託法3条。

P37 追加

また、譲渡制限のある株式を当初信託財産に属する財産とする信託が設定されたときは、譲渡は譲渡当事者間では有効であると解されているので、信託は有効に成立する。しかし、譲渡について会社の承認が得られない場合には、信託目的の達成不能として信託が終了すると解される。

→信託は、有効に成立した後に終了する、という解説。

P37 追加

当該情報を委託者が利用することを事実上、排除できないときには、当該情報の委託者からの分離が十分でなく、信託の有効性にも疑問が生じるという考え方もあり得るが、受託者が、委託者の情報利用権と並存する情報利用権を有するにすぎないときも、当該情報利用権を信託財産に属する財産だと観念出来るのであり、委託者の情報利用権の存在は信託の成立の支障にはならないというべきである。

→注25記載のように、議論が深まってきたことから、より踏み込んだ記述。

P41 追加

もっとも、債権者から受託者に弁済受領権限が付与されたと解されるときでも、その後、被担保債権が譲渡されると、弁済受領委任の効力が消滅するのではないか、とも思われる。これについては、弁済受領委任の特約が譲渡される債権に内在的なものか否かが問題になり、内在的なものであると評価されれば、譲受人もそれに拘束されていることを知っており、そのような債権については、弁済受領委任の特約が内在していると考えて差し支えないように思われる。

→弁済受領委任特約が、被担保債権に内在されていると評価される場合の記述。

P42 追加

受託者の固有財産を目的とする担保権を

→信託法31条1項、2項の詳細な記述。信託財産に属する財産にするための財産は何かの特定。

P43 追加

単独所有にかかる財産につき、共有持分を設定するとともに信託宣言を行うことも可能であろう。

→共有持分についての記述。

P43 変更

『信託法―現代民法別巻―』

信託契約による信託設定、および、遺言による信託設定に関しては、

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

信託契約による信託設定に関しては、

→信託契約と遺言信託を分けて考える。

P45 追加

→電子記録債権、新株予約権について追加。

P46 追加

いったん信託を成立させた後に受託者に対して新株予約権を発行するというかたちをとらなくても、

→新株予約権を、信託財産に属する財産とするための構成について、追記。

P48 追加

いずれにせよ重要なのは、「信託の目的」は信託行為全体の解釈によって決まるものであり、たとえば、信託行為としての文書の、第2項に「本信託の目的」として書かれているところを指すものではない、ということである。

→初版も含めて、本書で度々記載がある、信託の目的をどのように解釈するかについて。

P54 追加

信託の中核的効果を有する法律関係を創設する意思、

→信託設定意思の定義に対する記述を追加。

P55 追加

そのような状況が、適切な義務設定によって実効化されていないときは、信託設定意思の存在を認めることができない。

→総論で、信託設定意思が存在しない場合について、記述。

P57 追加

・成年後見人等の取消権との関係

→「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」などの法改正によるもの。

P62 追加

『信託法―現代民法別巻―』

なお、このとき、委託者の相続人は、委託者たる地位を引き継がない(信託法147条)。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

なお、このとき、委託者の相続人は、当該遺言に別段の定めがない限り、委託者たる地位を引き継がない(信託法147条)。

→信託法147条但し書き。

P63 変更

遺言信託の効力発生時における、信託財産に属する財産が特定物の場合の、対抗要件についての考え方の整理。受託者が委託者の相続人ではない場合と、共同相続人の一人である場合に分ける。

P67 追加

より理論的に言えば、信託の設定は、当初信託財産を受益権に返還するという面と、その受益権を特定の者に与えるという面があるが、遺留分侵害行為となる無償行為は後者のみであり、財産の性質を返還するという行為は遺留分制度によっては制限されていないということである。―中略―しかし、そうすると、他者の遺留分を侵害しないかたちで受益権を取得した者が存在したとき、信託設定全体が影響を受けることになり。

→信託財産に属する財産が株式投資信託である場合、遺留分侵害行為と捉える対象となる行為は、信託設定そのものではなく、受益者の受益権取得であるという考えの補足。

P68 追加

→東京地判平成30年9月12日によるもの。

P70 追加

委託者の相続人が現に存在しないとき。

→信託法5条3項に基づき、詳細に記述。

P77 削除

単独受益者から受益者へ。

→信託法4条3項2号について、受託者が単独受益者である場合に限られないことの記述。

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』→『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』第1章総論

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年、有斐閣と、同氏著『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣の比較です。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』2021年、有斐閣を基準にしています。

誤りなどがあれば、指摘願います。

  • 総論

P7、民法の契約との比較

委任契約、組合契約との比較について

受任者・業務執行組合員の義務についての規定も不十分である。

の文の追加。

→信託という法制度であれば、受託者の義務をより詳細に定めることが出来ることと比較。

P9、有限責任投資組合においける、組合員の有限責任について、

定められ、と変更

道垣内弘人『信託法―現代民法別巻―』2017年では、認められ。

注25の追加

2017年からの新刊、田中和明『信託法案内』2019年、勁草書房の追加。

P18

信託の成立を認めるべき場合について

『信託法―現代民法別巻―』

受託者に信託財産に属する財産についての財産権があたかも帰属していない状態にある場合である。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

信託財産に属する財産についての財産権が、受託者にあたかも帰属していないような状態にある場合である。

→信託財産に属する財産と、受託者との関係の明確化。

P19 また、法令上の用語ではないが、信託設定時点における信託財産を当初信託財産という。本書では、この用語についても、当初の信託財産全体を示すものとし、個々の財産については「当初信託財産に属する財産」ということにする(本書初版では使い分けがなお不徹底であった)。

→理由は、かっこ書き記載。信託法2条2項3号、5号、8号、20条3項、22条、追加信託に関する記述の際に、使い分けを明確にしたいという意味だと思われます。

P20 

『信託法―現代民法別巻―』

さらに、受益者の存在も必然的ではないのであり、信託財産、さらにはその管理・運用によって得られる利益が、一定の目的に使用されることになっていることもある。たとえば、収入の十分でない学生に対する奨学金の交付という公益に使用されることになっているときは、公益信託となり、特定の大学のために信託法関係の書籍を購入し、寄付するということになっているときは(特定の大学に限られているので、公益とはいえない)、受益者の定めのない信託、すなわち目的信託となる。

『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻』

さらに、受益者の存在も必然的ではない。信託財産、さらにはその管理・運用によって得られる利益が、一定の目的に使用されることになっていることもある。たとえば、特定の町内会の祭りのために必要な支出を、確認からの申請に基づいて給付する、ということになっているときが、そうである。このような場合は、特定された受給者があらかじめ存在するわけではなく、受益者の定めのない信託、すなわち目的信託となる。

→目的信託(信託法258条)の説明に留める、という意味なのかなと思います。

注39の追加

ここでは信託法の解釈指針として「商事信託」という概念を用いるときに、それとの対比で「民事信託」が定義されている。これに対して、信託の利用方法の拡大やその特色を示すときに「民事信託」という語が用いられることがあり、たとえば、「家族や個人の財産管理・承継等を主たる目的とする信託」とか、「非専門家である個人が受託者である信託」とかといった定義がされる。

→民事信託という用語が使用される場面についての紹介。

家族信託の相談会その52

お気軽にどうぞ。

2023年2月24日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

日弁連ガイドラインの概要と依頼者は誰かという問題(1)

 市民と法[1]の連載信託契約書から学ぶ民事信託支援業務(1)、渋谷陽一郎「日弁連ガイドラインの概要と依頼者は誰かという問題(1)」からです。

参考

しかし、そのような法改正運動への阻害要因が、これまで司法書士集団の中に存在してきた民事信託支援業務を行う人々(のビジネス思考、過剰宣伝、過剰報酬、SNS濫用その他)に対する嫌悪感である。

そのような嫌悪感は、公益意識の高い司法書士の人々の間を中心として、随分と以前から存在し、司法書士会総体としての一貫性ある民事信託支援業務の研究の蓄積(規律化)を阻んできた。

 公益意識の高い司法書士の人々が、民事信託支援業務を行う人々(のビジネス思考、過剰宣伝、過剰報酬、SNS濫用その他)に対して嫌悪感を持っていると断言するのは、難しいと考えられます。

 公益意識の高い司法書士の人々、については、日本司法書士会連合会の民事信託推進委員の中でも、同じ司法書士会員に対して、有料サブスクリプションサービスを展開しています。

信託の学校

会費について

入会金 2万円(税抜)

月会費 3500円(税抜)

入会した日が属する月の月会費は、入会金の中に含まれます。

入会後1年間は、任意退会ができませんので、ご注意ください。

 ビジネス思考、については、業務として行う以上、価値を感じてもらえる依頼者に対しては、対価をいただかなければ司法書士事務所の経営は成り立たないのではないかと考えられます。

 過剰宣伝、過剰報酬、SNS濫用その他、については、渋谷陽一郎先生の過去の記事から推測すると過剰、濫用というより誤用、という意味だと思います。その点は同感です。

なお、ガイドラインに従う場合、受託者候補者からの依頼については、受任を拒絶すべきなのか、あるいは、説得して委託者から受任すべきか、という問題を生じうる。

 受託者候補がいない席で、委託者候補に直接説明後、委託者候補から受任する、という流れになるものと考えれます。

司法書士をもって、家族信託信託組成時における親族間の調整役であると考えた場合、(後日、紛争を生じた場合、紛争に巻き込まれ、非弁と主張されるリスクも踏まえて)家族の構成員間で意見対立を生じた場合、本当に、家族の構成員それぞれの調整役をに担えるのか、という問題を生じる。

 事実上、結果として調整役になれた場合はあると思いますが、文書として調整役であると記載することはできないと考えられます。

 記事の著者が、組成、という用語を利用するようになったのはいつ頃からか、気になりました。法律整序事務に、組成が入るのでしょうか。

日司連の考えから―司法書士行為規範から―

―中略―

なお、委託者の推定相続人たる兄弟姉妹が、割合を異にする第二次受益者であり、あるいは、推定相続人の一部が受益者に指定されず、利害対立が潜むような場合、また、甥姪、孫が第三次受益者に指定されている場合など、どのようにして信託関係者それぞれ(全員)に配慮するのか、(それは可能なのか。将来の受益者にも配慮するのか。全員への配慮ができない場合の司法書士の責任は何か)などの難問を生じよう。

将来の受益者にも配慮するのか。・・・・信託行為時に話が分かる状態であれば、話はすると思います。

全員への配慮ができない場合の司法書士の責任は何か。・・・行為規範の違反となり、懲戒処分の対象となることが考えらます。配慮について、その他信託関係人の範囲や、どのようなことが行うのかが分からないので、個別具体的な判断に委ねられるものと思われます。努力義務ではないところが特徴だと感じます。

なお、司法書士法上の根拠はなく、市民から必要されているからやっている、という考えが日司連では有効のようです。

民事信託支援業務は、司法書士法3条、司法書士法施行規則31条業務ではない。市民から必要とされてやっている。成年後見人就任と同じ。


金融機関における民事信託サポート実務

信託口座・・・金融機関が受託者の場合、使い分けている金融機関もある。

信託口口座・・・信託行為が発効していること。

犯罪による収益の移転防止に関する法律による取引確認等。対象:受託者、委託者、受益者

投資一任運用商品・・・委託者の投資意向確認

株式・・・金融仲介紹介

清算事務について第三者に委託することができる、の定めがあるときのみ。

債務引受の文言、信託契約書への記載。

信託法21条1項3号
信託法21条1項5号
信託法21条2項の反対解釈とは?
委託者所有土地に受託者名義の建物を建てる場合に借入れを行うケース。

司法書士行為規範
委託者への情報提供義務

弁護士
依頼者は委託者
監督機関の設置
継続的関与の必要性

 委託者が抵当権付き不動産を信託
する場合(譲渡=名義変更)は、担保権者(金融機関)の同意が実務上必要です。
ローン契約書及び抵当権設定契約書には、担保物件の譲渡は貸主の書面による承諾が
必要と規定されています。事前に貸主との同意がなければ請求失期状態。

民事信託専用クレジットカード(受託者VISAカード)
インターネットバンキング・・・運用は信託行為に定めが必要。金銭のみの信託の場合に使える可能性。
法人受託者には制限

受託者の清算事務受任サービスの提供・・・亡くなったときに委託者はいない。
民事信託サポートシステム・・・B/S,P/L、帳票などの作成サポート。アプリケーションではない。

金銭と預貯金で受託者の管理方法を分ける条項を定める方法。

信託口口座での運用商品取引
適合性の原則
(適合性の原則等)
金融商品取引法40条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること。
二 省略

【条項例】(判例タイムズ1487号「信託契約のモデル条項例 ⑸」)
(信託の変更)
第25条 信託法149条1項から3項の規定に代えて,信託の目的に反しないこと及び受益者 の利益に適合することが明らかであるときに限り,受託者は,信託監督人の同意を得て,書面又は電磁的記録による意思表示により信託を変更することができる。

信託契約により、委託者の財産は受託者の所有になるため、信託財産に属する財産は、委託者が死亡した際の委託者の相続財産にならない。あくまでも、信託契約に基づき、残余財産が帰属権利者等に承継されることになる(信託契約による財産の承継は相続ではない)。
例えば、信託財産に属する不動産を複数の帰属権利者が承継することになっていた場合、その分割手続は遺産分割(民法906条以下)ではなく、共有物分割になる(民法256条)。

[1] 139号、2023年2月、民事法研究会、P101~

民事信託の登記の諸問題(17)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(17)」からです。

権利の帰属を示すという意味は、権利者が誰であるかを示すことである。所有権の信託であれば、所有権者が誰なのか、ということである。そして、これは、民法177条に基づく対抗要件としての権利の登記である。

 私なら、所有権者が誰なのか、の部分は、信託行為による制限を受けた所有権者は誰なのか、とすると思います。

この点、信託の内容の登記は、実体法の領域に一番近いような印象がある(例えば司法書士の民事信託支援業務の法的根拠としての信託目録という側面ではそうである)。しかし、実体法上の法的根拠に乏しいとすれば、信託の内容の登記は、むしろ、それは極めて手続法的な領域にある、という逆説が存在することになる。

 読み取りが難しかったです。信託の内容の登記、という用語を私が理解していないからかもしれません。信託の内容の登記の大部分は、信託目録の記録内容を、構成や文言を実体法に即して考える必要があるから、実体法の領域に一番近いような印象がある、というような意味なのかなと感じます。

信託は泣いているとして知られる裁判例(注256溜箭将之「信託が潜在能力を発揮するには」信託法研究45号6~7頁)であるが、本誌読者のなかにも、違和感を感じる人がいるかもしれない。かような違和感は、信託は契約という方法で設定されるが、その実質として信託は契約なのか否か、という視点に関わる問題でもある。

 信託法3条1項1号による信託行為は、契約です。実質がない条文だとすると、利用しない方がよい、廃止する方がよい、となるので、現在のところ、実質がある契約だと考えられます。契約は両当事者が対等とみるのが原則で(民法521条)、当事者の属性、契約締結時前後の状況、その他の事情によって、個別具体的に判断されるものだと思います。

 裁判例(東京地裁平成30年10月23日判決)に関しては、父親が信託行為をしたいと考えたとき、受託者に就任する人が二男しかいなかったという可能性もあり、判決文を読む限り、父親である委託者が一方的に不利だったのか、分かりませんでした。

信託の関係は、弱者と強者の関係であり、そこで、弱者に対する後見的役割を果たし、公的介入を行うのがエクイティ裁判所である(かような後見的役割の不在こそエクイティ裁判所の伝統がない日本における課題である)注260、樋口 範雄『入門・信託と信託法』2007、弘文堂P27、P52。

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(受託者の権限違反行為の取消し)

第二十七条 受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

2 前項の規定にかかわらず、受託者が信託財産に属する財産(第十四条の信託の登記又は登録をすることができるものに限る。)について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について第十四条の信託の登記又は登録がされていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

3項、4項略


[1] 899号、令和5年1月、テイハン、P93~

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