横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(6)」

登記情報[1]の記事からです。

筆者は、委託者の変更の箇所でも述べたとおり、登記原因証明情報を提供すれば足り、印鑑証明書を提供する必要はないと考えています。(根拠として「弁護士法第23条の2に基づく照会(質権の実行による信託受益権の移転に伴う受益者の変更の登記手続)について」平22.11.24民二第2949号民事第二課長回答)。

登記申請を行うに際して、印鑑証明書の添付は原則として不要だと思います。根拠としている通達は、質権の実行による信託受益権の移転であり、旧受益者から印鑑証明書の提供を受けることが容易ではないこと、登記原因証明情報が報告式ではなく、質権設定契約書及び質権実行通知書などを提供すること(質権設定契約締結時、既に実印の押印及び印鑑証明書が提供されている可能性が高く、質権実行通知書は、旧受益者に到達していることまで証明している可能性が高い)ことから、全ての受益者変更の登記申請には当てはまらないと考えます。

本記事が実務上、どこまでの効力を持つのか分かりませんが、受託者が登記申請する前の実務として、旧受託者の実印の押印及び印鑑証明書を求めて受益者変更の信憑性を確認することはあっても良いと考えます。

しかし、筆者は、信託受益権の売買とそれに伴う担保権の得喪は、不動産登記制度の対象外の事柄であり、これを「受益者の変更」の登記の中で実現させようとすることには、それが別制度であるがゆえに、根本的に無理があると考えており、「受益者の変更」の登記の中に新たなニーズを盛り込もうとする動きを危惧しています。

受益権に設定された質権の抹消まで法務局が審査することは要求されていないし、登記申請の代理を行う専門職も期待していないと思います。

ただ、質権者、受託者にとっては必要な書類を集めて確認することで、安心感を得るという意味では必要な場面もあるのかなと感じます。質権実行と抹消に関しては、別途公証センターで何らかの手続きを行うような説明も必要になってくるのかなと感じます。

報告的な内容の登記原因証明情報であれば、例えば、登記申請人である受託者と、新たな受益者となる乙が共同で登記原因証明情報を作成すれば十分であり、必ずしも甲が作成人となることまでは要しないと考えます。なお、本件の登記原因は、「年月日質権実行」が相当と考えます。

私も上の記載に賛成です。質権実行による受益者変更登記はそうなると思うのですが、売買契約による場合、例えば5年前に受益権売買契約を行ったが、旧受益者は契約した覚えはない、受益権の買主が受益権売買契約書を紛失している場合、対価のやり取りが現金だった場合、旧受益者の関与なしに、どのような報告式の登記原因証明情報を作成するのか気になります。


[1] 709号2020年12月号きんざいP40~。

マンションの一室と民事信託

「信託法とマンション法に関する諸問題 その2」2020 年 11 月 24 日テーマ別民事信託実務研究会~法令確認と受託者の役割・責任の検討~  司法書士・民事信託士 鈴木 望

マンションの一室が対象とします。

「民法→信託法→信託契約」、の関係を、「民法→区分所有法→管理規約」、の関係に置き換えると分かりやすいかもしれない。

信託契約には管轄省庁がない(法務省?)ことが少し違うのかなと感じます。

分譲マンションを信託財産とした場合、受託者にはどのような所有権が移転することになるのか?

信託行為の信託財産目録に記録された財産の所有権。その他の信託財産の範囲として法律で定められている財産の所有権その他の権利(信託法16条)。

分譲マンションの専有部分のみを信託財産の対象にし、共用部分に関する権利を信託財産の対象から外すことはできるか?

 

規約共用部分に関しては、信託行為によって信託財産の対象(範囲)から外すことは可能(信託法に定めがないことと私的自治)だと思います。ただし、マンション標準管理規約に従った定めのある管理組合に対抗することは出来ないと考えられます(国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第11条 区分所有者は、敷地又は共用部分等の分割を請求することはできない。2 区分所有者は、専有部分と敷地及び共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない。)。

 

受託者による管理組合の業務への関与を制限する旨の定めの信託は有効か?

管理組合に著しい不利益を与えない限り有効だと考えられます。

管理組合の組合員の地位を委託者に留保し、受託者を管理組合に加入させない旨の定めのある信託を設定することはできるか。

信託行為によって定めることは可能であり当事者間では有効ですが、管理組合その他の第三者に対抗することは出来ないと考えます(建物の区分所有等に関する法律2条)。

 

受託者による理事会の業務への関与を制限する旨の定めの信託は有効か?

信託行為によって理事などの役員に就任しないことを定めることは可能であり有効。信託行為による定めがある場合に、委託者の同意を得ずに受託者が理事に就任したとき、信託行為の当事者間では忠実義務違反になる可能性は否定できない。

第2次受益者との関係では、第2次受益者が受益者となる際に変更を求めなければ、委託者と同じ関係に立つものと考えます。

大きな決議(単棟型マンション一棟の建替えなど)だけ受託者に代理権を定めない信託行為は可能か。

可能と考えます。この場合、大きな決議がある議案が記録された招集通知を、受託者は委託者に閲覧させる義務が生じると考えます。

管理組合の総会には、規約に定められた代理人の範囲に含まれる限り、委託者が代理人として出席するものと思われます。

 

 

「民事信託における指図権~理論と実務」

「民事信託における指図権~理論と実務」

(一社)民事信託推進センター実務入門講座

民亊信託士 弁護士 青井芳夫

「指図権を民事信託の中でどう位置付けるか」

・・・私は受託者の権利を一部制限すると位置付けと捉えています。

「指図権者、受託者がどのような責任を負うのか」

・・・私は、日本の法令、信託行為、具体的事実の順で違反があった場合に違反の程度に応じて責任を負うのだと理解しています。

アメリカ

松元暢子「2017年指図型信託に関する統一州法―Uniform Directed Trust Act」

[blogcard url=”http://shintakuhogakkai.jp/journal/pdf/%E4%BF%A1%E8%A8%97%E6%B3%95%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%80%80%E7%AC%AC43%E5%8F%B7%20_Part5_Part4.pdf”]

「指図権者は信認義務を負うか。」

信認義務って何だろう、と思いました。

参考

今川嘉文「継続的取引関係と信認義務」

[blogcard url=”http://www.law-kobegakuin.jp/~jura/law/files/39-2-02.pdf”]

 

「信認義務とは、「他人の財産の管理運用を委託された受託者が、委任者または受益者の最大利益を図るために、合理的かつ思慮ある行動をとらなければならない義務」

のようです。善管注意義務、忠実義務(信託法29条2項、30条)の他に、受託者の義務等(信託法29条から39まで)全般を負う場合があるんじゃないかなと思います(信託業法65条、66条、信託業法施行規則68条)。

「信託行為の定めにより、信託財産の分配に関する指図権を有する者の義務を完全に免除することも可能と解すべき」

・・・信託行為で完全に免除することを定めることは可能だと思いますが、免除されるかどうかは、信託期中の指図の内容によるのではないかと考えます。

「指図権を付与された指図権者の注意義務は、善管注意義務、一般的注意義務を負うが、公平義務は負わないと解される」

・・・指図権の範囲内で公平義務を負うのが原則だと思うのですが、何故負わないと解されるのか分かりませんでした。

「指図に従った結果、信託財産に損害が生じた場合に受託者は免責されるか否か」

・・・信託法35条は受託者が委託し、指図権者は信託行為で定めるか、信託の変更を行い指図権者の就任承諾を得て就任するものだと思います。私は、信託業法66条、信託業法施行規則68条について指図権者が違反していない場合は受託者が責任を負う、という理解です。

「指図者の指示に従った場合の受託者の免責条項を置くか否か」

・・・実際に免責されるかは措いて、免責条項を置くか禁止条項を置くかだと思いました。

「指図者の義務・義務違反の効果(利益相反的な行為にかかる規律を含む)」

・・・アメリカ法の議論も参考になると思いますが、信託法31条、信託業法施行規則68条に準じた解釈が妥当なのかなと感じました。

「レジュメの複製、転用、引用、第三者への提供及び発表内容の録音、録画、掲載等を固く禁じます。」

とありますが、引用を禁じることは出来ないのではないかと思います。

文化庁HP

[blogcard url=”https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html”]

 

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構

国立情報学研究所先端ソフトウェア工学・国際研究センター

「著作権法ガイドライン2009/11/16 ver.1.1」

[blogcard url=”http://grace-center.jp/wp-content/uploads/2012/06/chosakuken_guide.pdf”]

 

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指図権について

(一社)民事信託推進センター実務入門講座

今回からzoom研修のチャットが無効に設定されていました。何か目的があるのでしょうか。

「中小企業の事業承継支援における民事信託の活用―指図権付・自社株信託契約を活用した事業承継対策とオーナー株主の認知症対策の活用―」

民事信託士・事業承継マネージャー 栃木県事業引継ぎ支援センター所属

司法書士 川俣洋一

 種類株式、属人的株式、特例事業承継税制との比較から、自社株信託を選んだ、というケースでした。他の制度と比べた場合の自益型自社株信託契約の特徴は、柔軟な設計が可能である(指図権の設定の有無・信託の終了など。)こと、とありました。解約による信託の終了を最初から視野に入れている場合、私なら信託設定はしないかなと思います。

 「自益型自社株信託契約のメリットとして、手続が簡単」、ということが挙げられていましたが、私は他の手続きと同じという感覚です。他のメリットとして、「指図権の内容が会社の登記に記録されない、信託は解約が可能」、と挙げられていますが、私はメリットというより特徴だと理解しました。

 「「合意終了」により信託契約を終了させ、父の生存中に自社株式の株価評価増減が整った段階で、後継者への生前贈与・売却、第三者への株式売却が可能となるようにしておく」、の部分は、何故このような設計を行う必要があるのか分かりませんでした。

 「自己信託は認知症対策にならない」、とありましたが、第2次受託者を定めて認知症対策を行うことは可能じゃないかなと感じました。

「自益信託後に信託契約を一部解約し、暦年贈与を段階的に実行することは可能か?」という疑問がありましたが、信託の変更要件、暦年贈与の要件を各々満たしている場合は可能だと考えました。

指図権の条項について

「相当の期間を定めて」とあるところは、具体的期間を入れた方が良いのではないかと感じました。

指図権の拒絶事由として、「本信託の目的に照らし著しく不当である場合」に関しては、判断が少し難しいなと思いました。ただ、他にどのような条項を入れたらいいのか、私には分かりませんでした。

「通常の取引と異なる条件で、かつ、当該条件での取引が同会社に損害を与えることとなるもの」の判断も長期的にみると変わる場合があるのかなと感じます。

「本信託の目的や同会社の状況に照らして不必要なもの」も株主によって変わるような気がします。「他人からの不当な制限または拘束を受けて行われることとなるもの」に関しては、長男、次男、コンサルタント、士業その他の色々な意見を聴いていいのか、聴いて良いとすればどこまで聴いて良いのか、それとも最後は自分で決めました、という署名みたいなものをもらって担保するんだろうか、などと考えてみましたが、良く分かりませんでした。

指図権の消滅について、「判断能力を欠く状況にあると診断書をもって専門的な医師の判断が示されたときは、」とありますが、これは法定後見申立ての際の診断書の基準なのか、それとも別の基準でやるのかなと感じました。

「成年後見制度は、議決権の代理行使が中小企業の経営において適切な判断に基づくものであることを期待しうるか否かは別問題」、ということでした。後継者がほぼ決まっているケースのようでしたので、後継者が任意後見人になるのであれば、任意後見制度の代理結目録を活用して事業承継を行える可能性もあるのかなと感じました。

「任意後見制度※「本人のための制度」のため自由に財産が動かず凍結する。」は誤りではないかと思います。任意後見人にある程度の裁量を持たせることも可能です(任意後見契約に関する法律2条。5条4項、任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令2条)。

「信託と遺留分に関する一考察―相続法改正をふまえて―」

(公財)未来トラストフォーラム【84】P173~の記事からです。

減殺・・・自己の法定相続分の一部を確保するために、遺留分を侵害する限度で行われる。

侵害・・・遺留分権利者の潜在的持分の清算を目的する行為→遺留分の金銭債権化・価値化

遺留分の金銭債権化により、受益権の(準)共有状態は生じなくなる。受益権2分の1などを定めても良いが、遺留分侵害額算定の妨げにはならない。

遺留分侵害額請求の考え方と受益権(主に受益債権)説との関係・・・原則として親和的。

信託の場面における遺留分侵害行為

・相続分の一部の価値保障

・遺留分制度固有の目的に即した一定額の保障

どちらもあると思います。

受益権の評価に関する問題

・遺留分額に対して、受益権の価額が充分な程度に高くない場合・・・仕方がないのかなと感じます。

・信託の設定によって、遺留分侵害額算定の基礎財産が目減りする場合・・・信託行為によって適正に定めさせれている限りにおいては仕方がないのかなと感じます。

信託財産の目減りに関して

・信託設定時から遺留分侵害額の発生時までの間に、信託財産が目減りした(4000万円が1000万円になった、建物の評価が3000万円から2000万円になった場合)

・・・受益権の内容・時期によって遺留分侵害額算定の基礎となる財産に持ち戻すのか評価されると考えます(民法1043条、1044条)。またこの場合の相手方は、原則として受益権に基づく給付を受けた受益者、受益者が応じない場合には、受託者だと思います。建物の評価額のうち減額となった部分に関しては、受託者が悪意重過失のない管理運用を行い、評価減額が経年劣化による場合は、遺留分侵害額算定の基礎財産に含まれないと考えれます。

民法1045条1項の「負担の価額」

負担といえるか、重畳的債務引き受けや連帯保証など、容易に金銭に見積もることが出来るものを除いて、難しく感じます。

受託者であっただけで、負担を負ったといえるとは思えません。信託行為で(認められるかは別として)個別行為を負担と定めるか、被相続人と推定相続人その他の人が個別行為を行うごとに負担と記録するか、(これも必ず認められるのか分かりません)ここまで記録を取る必要があるのか、など考えさせられます。

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