登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(3)」からです。
信託条項後半の前段「居住の維持費、医療費、看護療養費、施設利用費など各種費用」、そして、その後段「生活状況に応じた生活費等」を分けて記載しているのは、別の項目であるからだろうか。あるいは両者は重複するのか。また、「受託者の裁量に基づき」の対象範囲は、その文言が直接的に係っている後段「生活状況に応じた生活費等」に対してだけなのか。
「生活状況に応じた生活費等」を分けて記載しているのは、別の項目であるからだろうか。・・・私も読み取れているか分かりませんが、その他の生活状況に応じた生活費等全て、という意味ではないかなと思います。
「受託者の裁量に基づき」の対象範囲は、その文言が直接的に係っている後段「生活状況に応じた生活費等」に対してだけなのか。・・・私なら、文言の通り、「生活状況に応じた生活費等」に対してだけだと読みます。前段は必ず出費する、後段は受託者が受益者の状況をみながら柔軟に、という意味なのかなと思います。
「各種支払いに充てる・・・生活費等を給付・・・これら以外に一時的な多額な給付はしない」という部分は、信託登記の登記事項に該当するのか。仮に、該当するとすれば「信託の目的」(8号)なのか、「信託財産の管理方法」(9号)なのか。あるいは「その他の信託の条項」の内容なのか(受益権や受益債権の内容である場合には、そもそも登記事項となるのか否か)。
「各種支払いに充てる・・・生活費等を給付・・・これら以外に一時的な多額な給付はしない」という部分は、信託登記の登記事項に該当するのか。・・・相対的記載事項だと思います。ただし、厳密に抵当権に関する登記の「債権額」や「債務者」の登記事項かというと、違うと考えます。信託金銭に関する事項であること、後続登記に影響を及ぼすとは思えないこと、生活費等、一時的、多額など、抽象的な表現であることが理由です。登記事項かどうか、という判断基準に関しての私の考えは以下に関しても同じです。
仮に、該当するとすれば「信託の目的」(8号)なのか、「信託財産の管理方法」(9号)なのか。あるいは「その他の信託の条項」の内容なのか・・・私なら信託目録に記録申請をしません。この記事全体に対して同じ方針です。記録するのであれば、「信託の目的」(8号)、「信託財産の管理方法」(9号)、「その他の信託の条項」のどの項目においても記録が可能だと考えます。
「受託者の裁量に基づき」給付する旨は、信託登記の登記事項に該当するのか。該当するとして、「信託の目的」の事項なのか、または「信託財産の管理方法」の事項なのか。あるいは「その他の信託の条項」における「受益権」または「受益債権」の内容なのか(受益権の内容である場合には登記事項となるのか否か)。
「受託者の裁量に基づき」給付する旨は、信託登記の登記事項に該当するのか。・・・相対的な記録事項だと思います。
該当するとして、「信託の目的」の事項なのか、または「信託財産の管理方法」の事項なのか。あるいは「その他の信託の条項」における「受益権」または「受益債権」の内容なのか(受益権の内容である場合には登記事項となるのか否か)。・・・私なら信託目録に記録申請をしませんが、記録するのであれば、「信託の目的」(8号)、「信託財産の管理方法」(9号)、「その他の信託の条項」のどの項目においても記録が可能だと考えます。受益権または受益債権の内容とする場合は、生活費等の受取。ただし受託者の裁量に基づく。など受益者からみた表現に変える必要があると思います。
不動産登記法97条1項8号の「信託の目的」は、不動産登記の範疇として、信託不動産に関わる範囲内に限定されるのか否か。
不動産登記法97条1項8号の「信託の目的」は、不動産登記の範疇として、信託不動産に関わる範囲内に限定されるのか否か。・・・不動産登記法1条を読む限り、信託不動産に関わる範囲内に限定されるのではないかなと思います。
不動産登記法(目的)
第1条 この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123
要約する場合、公示の作法に従い、どこまで要約すべきなのか。「受益者のため」や「最善の」、「適正な」などの形容詞は、登記事項として必要なのか。登記上、その意味と機能は何か。
要約する場合、公示の作法に従い、どこまで要約すべきなのか。・・・登記原因証明情報として信託行為の情報を利用する場合、要約を行って良いのか、私は分かりませんでした。信託行為の条項を、信託目録にそのまま転記可能なように作成すればいいのかなと思います。
「受益者のため」や「最善の」、「適正な」などの形容詞は、登記事項として必要なのか。登記上、その意味と機能は何か。・・・「受益者のため」に関しては、信託法2条に記載されているので、不要ではないかなと感じます。「最善の」、「適正な」などの用語は機能するのか分かりませんでした。
目的条項中、認知症対策との明示はなく、受益者の具体名もないが、仮に認知症対策の信託が想定されている場合、認知症対策である旨の公示は不要なのか。
目的条項中、認知症対策との明示はなく、受益者の具体名もないが、仮に認知症対策の信託が想定されている場合、認知症対策である旨の公示は不要なのか。・・・信託行為に記録がある場合、不動産登記において認知症対策である旨の公示が必要とは思いませんでした。
不動産登記手続にとって、賃貸物件であるか否か、賃貸物件の収益を配当すること、その配当の使用使途として医療費等であること、これらまでを公示する必要があるのか否か、という論点がある。
不動産登記手続にとって、賃貸物件であるか否か、賃貸物件の収益を配当すること、その配当の使用使途として医療費等であること、これらまでを公示する必要があるのか否か・・・信託目録に記録することは可能であると考えますが、公示する必要があるかというと不要だと思います。不動産登記法97条の、絶対的記載事項に該当するとは思えないからです。
[1] 885号、令和3年11月、テイハン、P55~