法制審議会信託法部会第35回会議 議事録





 
 
第1 日 時  平成28年11月1日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時08分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第35回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,稲垣幹事,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席でいらっしゃいます。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を配布しておりますが,本日はそれを用いて,前回積み残しとなった部会資料34の21ページ「公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」の項目以降について御審議いただくことを予定しております。
  それから,今回新たに配布する資料として,部会資料35「公益信託法の見直しに関する論点の検討(4)」を事前に送付させていただきました。
  また,本日は,内閣府の明渡関係官から,公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の認定基準の運用状況について御説明を頂けるということで,そのための資料を机上配布しております。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は,前回積み残しになりました部会資料34の第4の3及び4,並びに部会資料35について御審議いただく予定です。まず,部会資料34のうちの第4の3と4を御審議いただき,続いて部会資料35の第1から順に御審議いただきまして,午後3時頃をめどに,適宜休憩をとることを予定しています。その後,部会資料35の残りの部分を御審議いただきたいと思います。
  そこで,本日の審議に入りますが,前回御審議いただきました部会資料34の第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」に関しまして,ただいま御紹介のありましたように,明渡関係官から公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の運用状況について御説明していただけると伺っています。明渡関係官,お願いいたします。
○明渡関係官 お手元にお配りしております横紙,青が入っている紙でございます。「公益法人制度における不可欠特定財産について」というペーパーに基づきまして簡潔に説明いたします。
  改めてでございますけれども,上段の青枠に公益法人制度における不可欠特定財産について記載しております。認定基準の一つとして掲載しておりまして,具体的な例としては,美術品,文化的価値がある建造物等がこれに当たるという形になっております。
  中段の左側でございますけれども,目的といたしまして,設立者・寄附者の意思を尊重する観点から,公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産の安易な処分を防止するためのものになっております。下に字の大きさを変えて書いておりますけれども,目的は安易な処分の防止というようなことでありますので,必要な手続を踏めば,不可欠特定財産の方から外すことは可能という形になっております。
  1ページおめくりいただきますと,「定款における不可欠特定財産の定め(例)」という資料を付けております。こちらの方は典型的な例として,定款を挙げているものでありますけれども,2項の一番最後の部分,「基本財産から除外しようとする時は,あらかじめ理事会及び評議員会の承認を要する。」と,こういうふうな規定が設けられているというのが一般的なものかと考えております。
  お戻りいたしまして,1ページ目の中段の右側,効果というところでございます。不可欠特定財産の効果の大きなものとしては,公益認定が取り消された場合に影響してくるものでございます。公益認定が取り消された場合には,公益目的取得財産残額に相当する財産を他の公益法人等に贈与する必要があるというような規定になっております。しかしながら,この財産残額を計算する際には公益認定前に取得した不可欠特定財産については除外するという形になっておりますので,例えば一般財団法人○○美術館という時代に取得した財産については,その後,公益認定を受けて,しばらくたってから取り消されるというようなことがあっても,当該財産を残せる可能性は高いというような形になるのだろうと思っております。
  一番最後,下のところですけれども,認定審査時の現状ということでありますけれども,一般に審査するのは,本当に不可欠特定財産に当たるのか,そちらの方に記載されているものが不可欠特定財産に当たるのかというのを確認するというのが基本となっているかと思います。時たま,ただのという言い方は変ですけれども,通常の土地等がこちらの方に掲載されていたりすると,これが本当に不可欠特定財産に当たるのかというのを見ていくというふうなことが中心になっていると認識しております。この問題につきまして,内閣府の公益認定等委員会における審査であったり,各都道府県の審議会がございますけれども,そういった中での議論においても,大きな問題となっているというようなことはあまり耳にしてはおりません。
  実際に書類上どうなっているのかというのが3枚目でございます。こちらの方は財産目録というような書類がありまして,そちらの方に載ってくるというふうなことになっています。不可欠特定財産という場合は,固定資産の基本財産というところに掲載されるのが通常であります。美術品だからといって,全てをこちらの方に計上しなくてはいけないというようにはなっておりません。それ以外の美術品については下の特定資産というところにもありまして,こちらの方に分類されているというようなものも多数ございます。
  実際の法人の方を見てみますと,よく名前を聞く有名な法人ですけれども,美術品の点数でいいますと,基本財産として挙げているものよりも特定資産の方に挙げているものが圧倒的に多いというような形で,二,三,例を見ますとなっておりました。ある法人においては基本財産になっているものが200点程度,特定資産になっているものは7,000点程度ございました。もう一つ見ますと,基本財産は80点程度,特定資産の方は1,200点程度というような形でなっておりまして,美術品だからといって全てを基本財産,不可欠特定財産の方に入れるというような運用にもなっていないというような現状でございます。
  私からの報告は以上でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  引き続いての御審議の参考にしていただければと存じます。今の時点で御質問などはございますでしょうか。
○沖野幹事 御説明をありがとうございます。
  十分な基礎知識がないものですから教えていただきたいということがあります。審査時の現状として不可欠特定財産として記載されたものが本当にそれに当たるのかの確認が基本的に問題になるということなんですけれども,逆のことはないのでしょうか。ここに記載されていない,例えば特定資産の方に分類されているんだけれども,これは不可欠特定財産の方に入るべきではないのかというような形で問題になることはないのかというのが一つ目です。
  二つ目ですけれども,効果のところで公益認定前に取得した,ですので,一般法人の段階で取得したような不可欠特定財産は,他の公益法人等に贈与する算定額から外すことができると理解したのですけれども,としますと,特定資産の方はこの残額に入ってき,それに相当するものは他の公益法人に贈与等をする必要があるということになるのでしょうか。そうだとしますと,考え方ですけれども,不可欠特定財産というイメージからは公益目的事業を行うために不可欠な財産であると考え,認定が取り消された場合に公益事業のためにはそれが不可欠な財産であると考えられるものは手元に置いておけて,そうでない財産は他の法人への贈与の額に入ってくるという扱いになりそうなんですけれども,そういうことなのでしょうか。以上です。
○明渡関係官 まず,1点目でございますけれども,逆の方はないのか,こちらの方の特定資産に入っているものを不可欠特定財産の方に入れるべきではないかというふうな議論がないのかといいますと,それは聞いたことがないというのが正確なところです。全国47都道府県に審議会がありますので,こういった観点について押しなべて調べているというふうなデータがありませんので,そういった意味では正確なものではないんですけれども,特定資産の方に変えるというふうなことで問題になったり,困っているというような話を聞いたことはないというのが現状でございます。
  後者ですが,残りの二つの点につきましては,特定資産というような形の方に計上されますと,計算上は公益目的財産残額から除外することにはならないということですので,そこの部分というのは金額としては残るといいますか,移さなければいけない金額の方に計算されるというような形になります。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 同じ質問なのですが,公益法人のときの『一問一答』とかを見ますと,そこには不可欠特定財産がある場合に,その安易な処分を認めると当該事業の実施に支障が生じるおそれがある,だから,不可欠特定財産という制度を制定するのだと説明されているわけですが,運用の方としては,どちらかというと,当該公益目的の実施に不可欠であるというよりも,終了時の処理等の観点から考えるという運用がされているということでしょうか。
○明渡関係官 どちらかというと,その財産を不可欠特定財産に含めるのかどうかというのはむしろ法人側がどうしたいのかというのが実態だろうと思います。どこまでが本当に当該法人の事業の運営に不可欠かというふうなものを,なかなか,行政の方で,こうしろ,ああしろというふうな形にはなっていないだろうと思います。ただ,元々の趣旨からいうと,いかにもこれを不可欠特定財産として入れておくのはいかがかというふうなものが見受けられた場合に,それはどうなのでしょうかと審査しているというようなことになっているのだろうと考えております。
○中田部会長 まだ,御質問等があるかもしれませんけれども,今日の審議がたくさんありますので,この程度で先に進めさせていただいてよろしいでしょうか。
  それでは,部会資料34の「第4 公益信託と目的信託との関係」の3と4につきまして御審議をお願いいたします。前回,事務当局からの御説明を伺っていますので,直接御意見を頂くことにしたいと思います。まず,「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○平川委員 前回申し上げましたとおり,公益信託は目的信託の一類型ではないという整理の論理的帰結としても,目的信託の前置は不必要であると考えます。
○道垣内委員 私は,公益信託は目的信託の一類型であるという理解の下で,前置は不要だと思います。
○林幹事 弁護士会の議論では,理解の仕方はさておき,前置を不要というのに賛成でした。専ら一類型だという前提の下に議論したとは思いますけれども,いずれにせよということです。
○中田部会長 ありがとうございました。
  いずれも前置は不要だという御意見が続きましたが,前置が必要だという方はいらっしゃいますでしょうか。
  それでは,この点につきましては前置不要ということで取りまとめさせていただきます。
  続きまして,「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」についてはいかがでしょうか。
○沖野幹事 質問ですけれども,この問題なんですけれども,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうかというのは,仮に新しい立法になったときのその後の問題として,まず,公益信託以外で作っておいて,それを更に公益信託にする,あるいは最初は別のもので作っておいて,ある段階から認定を受けるようにすることを最初から組み込んでおくという,新しい規律の中で切り替えを可能にするというもの,最初は目的信託でその後に公益信託にするとか,最初は私益で後に公益にするとか,そういう一種,ハイブリッド的なものを認めるかどうかが問われているのか,それとも,経過措置的に,今いろいろあるものがあって,それについて認定を受けることを認めるかということが問われているのかというのが気になりまして,これは前者なのでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては前者で考えておりました。現在は,公益信託法2条1項が存在することにより,公益を目的とする信託は,主務官庁の許可を受けなければ無効であるという解釈があり得るのですが,部会資料34のこの部分では,仮に公益信託法2条1項を廃止した場合において,新たな制度の下で設定された,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする他の信託が公益信託成りすることを可能とするか否かという観点から主に検討しております。もっとも,後者のように,現在ある既存の信託について経過措置的に公益信託の認定を受けられるようにすることも検討していく必要はあると思います。
○能見委員 今の沖野幹事の御意見を誤解しているかもしれませんけれども,私も二つの場合があると思うのですが,一つは最初から計画的に当初は私益信託を設定して,一定の段階から公益信託に変えるというもので,そういう計画の下で私益信託が公益信託に変わるというタイプと,それから,もう一つは,そういう計画的なものではなくて,ずっと私益信託で実質的に公益的な活動をすることをしてきたけれども,今度,公益信託に変えたいと考えるようになって,いわば偶発的な契機で公益信託に変更したいというタイプです。この二つは大分違う問題なんだと思うのです。この部分に関する部会資料の説明を前回は読んできたんですが,今回は読んでこなかったので,内容を詳しく覚えていませんけれども,最初から計画的に私益信託から公益信託に変更するという問題は,逆のパターン,公益信託から私益信託へ変更するというパターンもあるでしょうし,これらはもう1つのタイプとは区別して別の問題として考えるのがよいと思います。
  そこで,ここでは,そういう計画的な変更で公益信託に変える場合ではなくて,偶発的な事情で公益信託に変えたいという場合に,このような変更を認めることができるかという場合を考えるべきかと思います。このような問題として考えたときにどうするかということですけれども,私としてはいろいろ手当は必要なんでしょうけれども,甲・乙いずれも認めるということになると,丙になるのでしょうか,この立場がよろしいのではないかと思います。
  それから,どんな手当を設ける必要があるかという点については,これを認めるという方針が決まってからいろいろ考えればよいと思います。それから,公益信託への移行という点についてもう一つ述べておきたいことがあります。話がいろいろとごちゃごちゃしますけれども,現在,ここで議論しているのは,既存の私益信託あるいは目的信託が,ある意味で同一の信託であることを継続しながら,公益信託の認定を受けて公益信託に変わるというタイプを考えていると思いますが,これと異なり,現在ある私益信託などが公益信託に変わろうと考えた段階で,この私益信託を残したままで,別に公益信託を作ってしまい,今までの私益信託から別に設立された公益信託に,信託財産を移転し,その上で私益信託は終了させるという方法が考えられます。アメリカで検討されているデカンタと言う方法です。これを私益信託から公益信託への移行にも応用するわけです。このように既存の信託からの公益信託への移行にはいろいろなタイプのものがあるので,どういうタイプをここで検討するのかということを整理した方がいいだろうと思います。その上で,私としてはできれば移行は認めるという方針でいくのがいいのではないかと思います。
○深山委員 私も,移行については柔軟に可能性を認める,ゴシックの提案の中でいえば丙案を支持したいと思います。既に能見委員あるいは沖野幹事が御指摘のように,いろいろな場面があって,確かに多少,考慮すべきことが違う要素もあるような気は私もするんですが,しかし,途中から公益信託への移行の可能性を認めるという立場を採るのであれば,結論としては同じような一つの規律で整理できるのではないかと基本的には考えています。能見委員が御指摘のように,最初から計画的なものと後にその気になった場合があり得るというのはそのとおりだと思うんですが,しかし,その限界というのは非常に微妙でして,当初から可能性としてはあり得るけれども,当面は考えていないというような,その中間的なものもあろうかと思いますので,最初から計画していたかどうかによってまるっきり区別する必要はないのではないか,あるいはそれは難しいのではないかと思います。
  途中から変えることを制限的に考えるのであれば,最初から計画していたときだけは切り替えを認めるというようなルールもあるのでしょうけれども,私はそこまで厳しくする必要はなくて,計画的な場合であれ,その後その気になった場合であれ,今回,ここで議論している公益認定の要件ないし認定基準を満たすのであれば,いずれにしても移行を認めていいだろうと考えます。沖野幹事が御指摘の,現行法の信託からの移行はどうかという点は,これも,要は新しい公益信託の規律における公益認定の要件を満たすのであれば,それは認められるということだろうと思います。
  更に残る問題を考えるとしたら,既存の公益信託と新しいルールの下での公益信託とが,認定要件がずれてきたときに,既存の公益信託はどうなるのかという問題は残るような気がいたします。これを同じように新しいルールができたのだから,新しいルールで認定を受けなければいけないとすると厳しいところが出てくるのかもしれない。そこは経過措置的に何か手当をする必要があるのかもしれないなと思っております。
○樋口委員 今の議論を聞いていて,アメリカで認められている信託について考えました。私益と公益をミックスしたタイプの信託のことですが,こういうものはアメリカでは認められていても,日本ではそもそも議論になることはないんだなと勝手に思っていたのがそうでないのかもしれない。それは私の誤解かもしれないということなんですけれども,アメリカではチャリタブル・リード・トラストというのとチャリタブル・リメインダー・トラストというのがあるわけです。
  チャリタブル・リード・トラストというのはチャリタブルの方が先にくるというわけなので,例えば私が大きい空地を持っていて,私自身はその空地を今のところ,使う予定もないから,それを公園で,あるいは遊び場で誰にでもとにかく使ってもらいたいという形で,しかし,ずっとというわけにはいかない。だから,10年とか20年はそういう形で公益的に使ってもらいたいけれども,20年がたったらまた元へ戻って私の子どもか孫か何かがそれを使って何とかというようなこと,これは一番初めから計画してやるタイプのチャリタブル・リード・トラストというものなんですけれども,逆にチャリタブル・リメインダー・トラストというのは,初めに私益信託で10年間だけはここから自分の子どものために実益を上げておきたい,しかし,子どもも10年たてば大きくなるので,その後はこの財産を公益のために使うというようなものが認められているわけです。
  それで,税法上は公益に充てられた部分だけ税法上の効果を付けてあげようということになります。それによって,そういうインセンティブを,つまり,そんな中途半端なことはやるなよと言われそうなんですけれども,私的な利益というのと公的な利益と両方をとにかく実現したいという人もいるという話で,今日の今の話はどうも何かそういうことが日本でももしかしたら可能性があるのかなという感じがしたんですけれども,誤解でなければいいと思っているんです。
○新井委員 結論的には丙案を支持したいと思います。公益を目的とする目的信託というのは,今回は無効にはしない,有効という扱いになりますので,そういう公益を目的とする目的信託が公益信託の要件を満たすのであれば,それは公益信託として承認していいだろうと思います。それで,私益信託であっても公益の要件を満たした場合には公益と認定するというのは私益信託から公益信託の転換が非常に重要であろうという意味もありますので,これもいいだろうということで丙案を支持したいと思います。
  それで,一度,公益信託になったものが再び目的信託なり,私益信託に転換できるか。今,正に樋口委員の御指摘になった点ですが,私はこれは認めない方がいいと思います。なぜかというと,一度,公益信託になった以上は社会全体に出えんしたと考えた方がいいでしょうし,更に公益信託がまた目的信託になったり,公益信託が私益信託になったときの法律関係が非常に複雑になるということで,目的信託から公益信託への転換,それから,私益信託から目的信託への転換は可能ですけれども,一度,公益信託になったものは更なる転換は認めないと私は考えたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 弁護士会の意見としては,深山委員が述べたように丙案ですが,参考までに,弁護士会の議論で出た具体例として,特定の病気に罹患しているAさんのために私益信託を設定していたけれども,一定の時期以後には,Aさんだけではなくて,ほかの同じ病気の人たちに対する信託としたいので,公益信託に移行するというものがありました。こうした事例はこの論点に適した事案だと思います。
  それから,ここでは私益信託から公益信託への場合を専ら議論していますけれども,その逆はどうなるのかという議論が弁護士会でもありました。それで質問ですが,その論点は,後に別のところで議論するという前提なのか,確認させていただければと思います。
○中辻幹事 公益から私益への転換というのは,別にまた議論させていただければと思っております。
○中田部会長 24ページの下の方にあるのがそれですかね。
○中辻幹事 そうです。
○吉谷委員 私益信託や目的信託から公益信託に転換するということに異議を唱えるつもりはないのですけれども,結論としては丁案であるということです。今,お話を聞いておりましても,どうして信託を終了して再度,公益信託を設定しないといけないのかという理由が私には全く分からなかったんです。実務的な考え方からいうと,変更手続というものをするよりも終了して新規のものを作ることに,何かプラスアルファの手間があるとは余り思えなく,制度にいろいろな道を設けるということが利便性を向上させるかというと,必ずしもそんなことはなくて,逆に使う側はどれを使うんだろうと迷ってしまうと思うんです。ですので,終了して新規という方法を採ることができないような類型があるのであれば,それのためにこのような制度を認めてあげてもいいのかも知れないんですけれども,そのような例を思い付きませんでしたので,丁案賛成とさせていただきます。
○道垣内委員 どれに賛成というわけではありませんが,乙案について一言だけ申し上げたいと思います。信託目的の変更というものは,委託者,受託者,受益者の合意があればできるわけですよね。そうすると,それが「実質的に公益」というのは本当はよく分かりませんで,特定の受益者がいるのに,なぜ,実質的に公益になり得るのかというのがよく分からないんですけれども,技術的には,どんな私益信託であっても公益に目的を変更するとともに,信託法258条3項に関わらず,受益者の定めというものを廃止でき,かつ公益認定の申請ができるという制度を考えることになるのかなという気がしております。したがって,乙案が実質的に公益を目的とするということの意味もよく分かりませんし,また,公益信託の認定を受けることと同時に,受益者の定めを廃止するということが258条3項の例外として認められると,技術的には整理されるのではないかと思います。乙案だけですと具体的にどういう手続なのかが分かりにくいかなと思いました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私も深山委員とほぼ同じで丙案に賛成します。公益信託法は多様な公益への取組を許容して柔軟に対応することにより,公益活動の促進を図ることが望ましいと考えますので,入口は自由で,甲案のような公益を目的として設定された認定を受けていない公益信託や,乙案のような実質的公益目的の私益信託も,信託行為の変更と公益認定基準を満たす信託とした上で公益信託認定を受けることを許容するのが,柔軟な公益活動の促進につながると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどの吉谷委員の終了すればよいという点ですが,終了することがふさわしい場合もあるかもしれませんが,また敢えて私が申し上げる必要もないのかもしれませんけれども,当初信託設定の目的が,先ほど幾つか林幹事が挙げた事例の中には,当初私益といいますか,ある特定のがん患者のためで,その後,公益という事例がありましたが,それは気持ちが変ったというよりも,当初から信託設定の目的だったと思います。またその後,委託者たるその方が亡くなっているということも考えられ,そのときは再度信託を設定することは難しく,さらに委託者が存命しているか,していないかということにかかわらず,そういう信託というのはあり得ると思います。
○神田委員 確認的というか,今の点とも関連するのですが,先ほど樋口委員がおっしゃった例というか,能見委員が最初におっしゃった言葉でいうと偶発的でないというか,当初,委託者が10年間私益で,あと,10年たったら公益,あるいは逆に先に10年間公益で,あと,私益というものは,一番最初に設定するときに認定してもらわないと困るのではないでしょうか。10年たってから認定を求めなさいと言われたって生きている保証はありませんし,逆に公益から入った場合も10年たってやめればいいでしょうといっても,やめるときに自分はいないかもしれないわけですから。そういうことでいうと,入口で全部一括して一部公益というのですかね,何というのかよく分かりませんけれども,設定する時点で認定をしてもらわないと困ると思います。そういうものも認めないということなのか,何らかの条件の下で認めるのかということは,はっきりさせた方がいいと思います。
○樋口委員 吉谷委員の言う実務的な観点というのは,私も理解できるところなんですけれども,2点あって,一番初めに,結局,決めておくということが,ある場合に重要なことがあるわけです。変更あるいは終了で対処すればいいではないかといったって,10年先には先ほど小野委員も言っておられたように,自分は生きているかどうかも分からないわけです。この時点でこういう仕組みを作っておきたい。これは現時点で確定するわけです,その意味では。10年間の公益とか,あるいは10年間の私益とか,その後はという形で,そういうものを認めるかどうかというのは一つの考え,どういう態度をとるのかということで,そういうのはアメリカでは認められているという紹介を申し上げただけです。
  それから,終了すればいいかというのは,つまり,10年後に生きているかどうかは分からないというのと,もう一つ,終了するというのはすごく私はコストが掛かると思うんです。信託財産をその段階で何らかの形で処分せざるを得ないかもしれないし,今まで運用していたものを何かでやめないといけないのかもしれないから,実務的に考えても,そうではなくて運用はそのまま流しておいて,目的が今度は変わったんですよという形のものにするという実務的利益はあるんじゃないかなと,終了すればいいではないかということではないのではないかと,実務家でない私が言うのも説得力がないんですけれども,そう感じました。
○能見委員 今,樋口委員が言われたことを私も言いたかったのですが,私の言葉で言い換えますと,既存の信託がそのまま公益信託に変わる場合と,一旦,終了させて新たに公益信託を立ち上げる場合とで一番違うのは信託を清算するかどうかというところだと思います。今までの信託,助成型の公益信託の場合には債務を負っているということは余りないでしょうけれども,事業型の公益信託というのが出てくるとなると,英米などで現実にどの程度,そういうものがあるか分かりませんけれども,事業を行う上でいろいろ債務を負担している場合もあるのではないかという気がいたします。行政機関等による監督がある公益信託の場合には債務超過になることはあまりなく,債務はあっても積極財産の方も多いのでしょうけれども,他のタイプの信託に変更するためには,一旦,これを清算しろということになると,今,樋口委員が言われたように積極財産を処分しなければいけないことになる。これをしなくても既存の信託を公益信託に,あるいはその逆に変えられるという方法があるということは非常に重要なメリットではないかと思います。
○吉谷委員 樋口委員がおっしゃった事例というのは,そういうこともあるのかなとは思ったんですけれども,そうすると,逆に10年先の公益認定を今のうちにできるのかというような問題が出てくるのではないかなと,まず,思いました。ですので,そういう問題をクリアする必要があるということかと思いました。あと,清算の手続のところなんですけれども,必ずしも資産とか債務とかを処分したりする必要もないのではないかなとは思っております。そういうものは私どもの経験では,それほどにはないのではないかと思っておりますので,実際に事業型でどういう場合にはそういうことが必要なんだということをもうちょっと突き詰めて検討した方がいいのではないかなと思います。ですので,私どもの考え方は余り必要でない制度を作ってしまうことは無駄なので,法的に同じ信託でないとできないということなのであれば許容すべきかもしれないけれども,そういうニーズが本当にあるんだろうかということをお聞きしているということでございます。
○中田部会長 関連する御意見がもしないようでしたら,山本委員,お願いしたいと思います。
○山本委員 少し戻って,道垣内委員がおっしゃられたことでおそらく示されているのだろうと思うのですが,乙案の内容について確認させていただければと思います。この考え方に従って規定を設ける場合に,実質的に公益を目的とする私益信託であることが,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることの要件になるように見えるわけなのですけれども,そのような意図でこれは書かれているのか。それとも,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることができるようなものは,元々,実質的に公益を目的とする私益信託だったのだろうということを表現しているだけなのか。この点が少し分からなかったものですので,確認をさせていただければと思います。
○中田部会長 先ほど道垣内委員から御指摘いただいた点,信託法258条3項の例外規定を設けることになるのかどうかという点も併せて御説明いただけますでしょうか。
○中辻幹事 事務局としましては,乙案を採る場合には信託法258条3項の例外規定を公益信託について設けた上で,受益者の定めはあるが実質的に公益を目的とする私益信託を受益者の定めのない信託に変更すると同時に,その時点で公益信託の認定を受けることを可能にするということを考えておりました。実質的に公益を目的とするという言葉の外縁は不明確で認定時における判断が難しいかもしれませんので,道垣内委員と山本委員の御指摘を踏まえて,引き続き検討したいと思います。なお,私どもとしては,全ての私益信託が公益信託成りできるようにすることまでは想定しておりませんでした。先ほど林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のために私益信託を設定したような場合は,公益に近いケースもあるのでしょうけれども,純粋私益の信託が公益信託の認定を受けることを可能とすることまでは想定していなかったということです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の質問と中辻幹事の最後の説明は,何となくずれを生じたような気がするんですが。結局,実際問題としては全ての私益信託が公益信託になり得るわけではないということを言っているだけで,最初から実質的な公益信託であることを言わば要件として,そのようなものについての転換のことだけを想定しているわけではないということでいいのだろうと私は思っているんです。お答えの趣旨なんですけれども,結果としてそうなるということであって,元々,実質的に公益を目的としたということを要件にはしていないということでよろしいんですよね。多分,そういう御質問だったと思うんですけれども。
○中辻幹事 そのような理解もありうるとは思いますけれども,私どもが事前に検討している段階では純粋私益の信託が公益信託成りすることまでを認めるニーズというのはないが,実質的に公益を目的とする私益信託が公益信託成りするニーズはあるかもしれないと,そうであるならば,実質的に公益を目的とするか否かまでを含めて,公益信託の認定の段階で認定機関が判断して公益信託成りを許容することもあり得るのかなと考えておりました。ただし,なかなか,そこまで含めて公益信託の認定機関が判断を行うのは現実的には難しいということであれば,信託の変更を経て公益信託の認定を受けられた信託が,結果的に見れば,後戻りしてもともと実質的に公益を目的とする私益信託だったということになり,実質的に公益を目的としていたか否かは転換の要件としては不要になるという理解もあり得るということなのだろうかと思います。
○深山委員 しつこくてすみません。例えば先ほど林幹事が言ったように,最初は自分の息子,がんにかかった息子のために使うために財産を拠出し,それを例えば亡くなった後はがん患者一般のために使うというのは,元々は確かに純粋に私益といえば私益なんだと思います。そういう純粋私益のものであっても,今までは私益でしたけれども,明日からは純粋公益にしますというような,そういう移行を考えたときには,元々が私益であったとしても,明日から純粋公益になるということでその要件を満たすのであれば,狭き門かどうかはともかくとして,理論的には純粋私益から純粋公益への転換もあり得るという制度でいいのではないかなと私は思っていますので,要件ではないですよねという確認をしたかったんです。
○中辻幹事 深山委員の御意見はよく分かりました。ただ,事務局で乙案を事前に検討していた段階では,部会資料34の24ページの中ほどにも例として挙げておりますけれども,委託者が受益者を兼ねている歴史的建造物の保存を目的とする私益信託,例えば京町屋の保存を目的とする私益信託が公益信託成りすることを想定しており,林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のための私益信託が公益信託成りすることまでは考えていなかったということです。ですから,林幹事と深山委員の御意見を否定しようとは全く思っておりませんけれども,実質的に公益を目的としていた私益信託であることを公益信託への転換の要件とするかも含めて引き続き検討させていただければと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。では,この点につきましては様々な御意見を頂きました。また,乙案の言う公益的私益信託よりももっと広げるという案も出たところですけれども,それらも含めて更に検討を進めたいと思います。
  それでは,部会資料35に進みます。第1の「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」と「第2 公益信託の受託者」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  まず,「第1 公益信託の監督・ガバナンスの全体像」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託関係人による自立的な監督・ガバナンスの仕組みを確保した上で,それを公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関が監督するものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託の監督について,公益法人制度改革の趣旨を踏まえて公益信託を民間による自律的な公益活動と位置付けてこれを促進しようとするのであれば,まずは公益信託内部の信託関係人による自律的な監督・ガバナンスの仕組みを確保することになると考えられます。他方で,公益信託の認定の実効性を確保するためには,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が認定後引き続き公益信託の監督を行う必要性が認められることから,現在の公益法人の仕組みも参考として,公益信託の監督に関する権限を公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関に持たせることを提案しております。
  続いて,「第2 公益信託の受託者」について御説明いたします。本文では,「公益信託の受託者の権限・義務・責任は,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とすることでどうか。」という提案をしております。
  受託者は,信託の定義上必須の信託関係人に位置付けられるところ,その位置付けは受益者の定めの有無により異なるものではございませんので,受益者の定めのある信託に関する信託法の規律は,基本的には公益信託の受託者にも適用されるべきであると考えられます。また,信託法第260条第1項は,目的信託の受託者の義務を受益者の定めのある信託よりも加重しておりますが,公益信託を目的信託の一類型として位置付けるか否かにかかわらず,受益者が存在しないために受託者に対する監督が十分に機能しないおそれがあるという点では,公益信託と目的信託とで共通するところがございますので,目的信託の受託者に関する信託法第260条第1項の特例も,公益信託の受託者に適用すべきであると考えまして,このような提案をしております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。まず,第1,これは概要のようなものですけれども,これについていかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成いたします。すなわち,民間による公益活動の受け皿とするために公益信託制度を活用するという観点から,信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みを構築しつつ,公益信託の立上げにおいて認定を行う外部の第三者機関が補足的に公益信託の監督の一部を担うということにより,公益信託のガバナンスを揺るぎないものにするという考え方に賛成するものです。特に公益法人同様の税制整備を目指す観点から,税制に耐えられるような自律的な規律を念頭に置くべきであると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 公益信託の関係による内部的,自律的なガバナンスの仕組みを確保するという提案に賛成いたします。更に今回の全体の議論にも係るところかとは思っておるんですけれども,資料でいいますと3ページの(注)のところに,助成型と事業型の区別あるいは受託者の属性によって認定や監督の取扱いが区別される可能性があると書かれているところについて,まず,コメントしたいと思います。現状の公益信託では信託銀行が受託者となることによりまして,主務官庁の強い監督権限が現実には行使されていなくても成り立っているということがございますので,それをまず改めて御認識いただければと思います。
  その上で,信託兼営法という金融規制の枠組みにより活動している信託銀行が受託者であると,信託目的に沿った運営であることが受託者の内部で重層的にチェックをされている。それによって運営委員会の助言によって助成を実施し,信託管理人が事後的な検証をするということで十分であると主務官庁からも考えられているんだと理解しております。ですので,今後も助成型の公益信託を信託銀行が行う場合には,同様の体制で十分であると考えております。これがいたずらに重装備になることは望ましくないと考えておりますので,(注)の考え方というのはあり得るものだと考えております。
  この後の議論で,信託協会としては,信託管理人が監督を行い,委託者の監督は任意のものであって,運営委員会は助言機関として任意に設置するということを主張していくつもりでありますけれども,気になっておりますのは,本日議論されていることがガバナンスとして最低限の必要な枠組みでありまして,受託者の属性や公益事業の内容によっては信託管理人などが財産の使用や管理の状況を厳しくチェックするということが必要な場合もあるだろうと考えます。そのような場合には,例えば現状のようにボランティア的な信託管理人が一人というようなもので足りるのかどうかということも問題になってくると思います。ですので,それぞれの公益信託の受託者が自律的なガバナンス体制というのを構築して,それが機能するということを証明して,第三者機関が納得できるようにしていくという必要があるのではないかと考える次第です。
○中田部会長 個別的な論点についてはまた御検討いただくことにしまして,第1につきましてはこの程度でよろしいでしょうか。
  それでは,第2に進ませていただきます。「第2 公益信託の受託者」について御意見を頂きたいと思います。
○小野委員 細かい各論の前の議論として,専門家たる個人が受託者になるという場合を考えてのことでありますが,限定責任信託の場合ということも考慮してよろしいのかと思います。とはいっても,信託法上,限定責任信託における受託者の義務はそうでない一般の信託と異なる義務になっているという趣旨ではありませんけれども,今までの論点にはなかったような気がしましたので,一言,添えたということです。
  また,専門家が受託者になるうんぬんという議論から離れますけれども,今の目的信託は自己信託の目的信託というのは制度上,法律上できませんけれども,公益信託の場合ですと自己信託の目的信託を排除する理由はないと思います。これも立法論ですけれども,その場合の受託者の義務,自己信託だからといって受託者の義務は違うところがないと理解しておりますけれども,そういう意味においても,論点としてそういう観点もあるということを申し添えたいと思います。あと,前も発言したことですけれども,受託者の義務は任意法規化されておりますけれども,ここでいう受託者の義務が同じということは,そこも含めてなのか,そういうような議論はまた別途するという趣旨なのかというような制度の立て付けの議論もあるかとも思います。
○平川委員 公益信託の受託者の権限・義務・責任については,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするという考え方に対しては,結果的に公益信託の受託者の権限・義務・責任が目的信託の受託者のそれと信託法に定められているものと同様,類似のものになるという意味においては賛成しますけれども,しかし,目的信託の信託法261条1項の読み替えを経て公益信託の受託者にも適用されるとした上で,それゆえ,信託法260条1項の特例も公益信託の受託者に適用されるという考え方には反対します。目的信託からスタートして公益信託の受託者の権限・義務・責任を考えるべきではなく,信託法の一般規定における受託者の権限・義務・責任をそれぞれ検討して,公益信託における受託者の権限・義務・責任を検討し,適宜,必要な読み替えをすべきであると考えます。
  その理由は,そもそも,第34回会議で述べましたとおり,公益信託は目的信託の一類型であると位置付けることに反対であり,目的信託において定められた受託者の権限・義務・責任を出発点として,公益信託の受託者の権限・義務・責任を議論するといたずらに議論を複雑にします。なぜなら,さきの項目でも論じられましたとおり,公益信託には公益信託内部の受託者を含めた信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みが欠かせないのに対して,必ずしも公益を目的としない目的信託,例えば永代供養とか,ペットや植物の世話などの信託においては,受託者に対する他の信託関係人の監督の在り方や関わり方も異なってきますので,目的信託に適用のある条文からスタートして,公益信託への適用や読み替えを考える必要も実益もなく,かえって事を複雑にすると思います。
  一例を挙げますと,信託法260条の目的信託においては,委託者に受託者に対する一定の監督機能を与えて一般規定を強化していますけれども,公益信託では委託者の権能は極力制限すべきであると考えます。委託者の権利を公益信託において強化することは,公益法人制度において,財団法人において,出えん者の権利がほとんどないことに比較しますと,その均衡を失します。また,公益信託の期間は永久であることもある一方,自然人である委託者については永久存続はあり得ませんし,また,その相続人に権限が相続されたりすることを考えますと,委託者を前提とした制度は実務的に実行が不可能であると考えます。
  具体的には,4ページの1の(2)の直前にあります委託者と信託管理人の合意による信託終了のうち,例えば委託者を外すべきで,特に相続人に承継されると解する場合には問題が多いと思います。また,1の(2),同じ4ページですけれども,委託者に対する通知・報告義務等,これも一般規定の信託法145条4項各号を読み替えるものですけれども,これも相続人にまで適用されると解する場合には,事実上,非常に実務的に不可能であると考えます。そういうふうなものですから,目的信託の規定の読み替えをもって受託者の権限・義務・責任を考えるという考え方には反対いたします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  必ずしもここでの提案は読み替えをしようということではなくて,最初に平川委員がおっしゃったように結果として同様のものになるということが今回の太字で書いていることだと思います。それから,委託者の権限や義務につきましてはまた後ほど別途,項目がございますので,そこで議論いただければと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 7ページに公平義務についての言及があります。それで,ここではそこのパラグラフの一番最後,公平義務と類似の義務を観念すべきかどうかが問題となるのですが,利益を受ける人を受給権者というかどうかは別にして,同時に複数の受給権者がいる場合は,当然,公平義務が働くわけです。目的信託と同一の義務と考えるから,こういう問題が出てくるので,実質的なアプローチをすべきだと思いますので,今,中田部会長がおっしゃいましたけれども,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするということよりも,公益信託の実質を捉えて受託者のいろいろな権限を規定していくというアプローチの方がいいと思います。その一つの例として公平義務の問題を捉えたらどうかなと思います。
○道垣内委員 ゴシックのところを主に議論するんでしょうから,別に解説のところにいろいろ言及する必要はないのかもしれませんが,先ほどの公平義務なんですけれども,なぜ,わざわざ,公平義務は忠実義務違反ではないとこの部分に書かなければいけないのかがよく分かりません。こういう解釈論にわたる問題に言及すべきではないと思います。
○中田部会長 公平義務を忠実義務と関連付けるのか,善管注意義務とするのか,これは一つの解釈論にすぎないではないか,一つの立場を前提とすべきではないのではないかという御指摘だったと思います。
○道垣内委員 前提にもなっていないような気がするんですよね。新井委員がおっしゃるような問題が実質論としてはあるわけであって,それが何義務の範囲なのかということは,余りここでは関係ない話ではないかという気がします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど小野委員がおっしゃった最後の点だと思うんですが,一番気になるのは公益信託の受託者で権限・義務・責任の話,特に義務のところなんですけれども,今,ここで言っているのは,その義務について信託法は一般に任意規定だという話にしているのが公益信託ではどうなのかというのは,ここで正に議論すべきことなのではないかなと思うんですが,いかがなものなんでしょうか。
○中田部会長 それについて更にもし御意見があれば。今の点を含めて御議論いただければと思いますけれども。
○小野委員 法律論としてお伺いしたいんですけれども,目的信託において既に存在している問題ですが,受益者がいない場合に受託者の義務,すなわち債務の相手方たる債権者というものをどう観念するか,いずれ,信託管理人の議論が出てきて,これが必置になれば信託管理人と考えることが可能で,その点,後の議論かもしれません。しかし,現在の目的信託ですと必置ではないので,多分,委託者に対する債務として認識して,とは言っても,履行対象は信託財産ということになるのではないかと思います。この点について,公益信託において,果たして目的信託とパラレルに考えることができるのか。理屈っぽい議論で申し訳ないんですけれども,債権者は誰なのかという辺りも,せっかく研究者の方が多くいる場なので議論の対象としていただければと思います。
○中田部会長 今の点について。
○道垣内委員 今の点ではなくて,1個戻って樋口委員のおっしゃったことに関係するんですが,非常に重要な御指摘だろうと思います。つまり,例えば受託者の利益相反行為というものがあって,そして,それは信託行為の定めで許容されていればよい。受託者だって受益者の一人になれるわけだし,そういうふうなスキームとして出来上がって,受託者の関係会社を使ってもよいとなっているのならば,それはそういうふうな信託として存在し得るというのはわかります。
  しかし,受託者が現実に一定の利益を得られるような仕組みが,利益相反行為の例えば信託行為における定めという中で出来上がってしまっていれば,それは公益認定できないのだろうと思うんです。そうなると,もし,認定基準と同時に規定するという前提を採りますと,かなり丁寧に一つ一つを検討していかなければ,やっていかなければならないと思いますし,善管注意義務の話だってそうかもしれません。受託者が大変だから下げてもいいよという場合も一般にはあるでしょうけれども,公益信託はそれでいいんですかという問題はあります。原則形態として目的信託の受託者と大体一緒だよねというのは分からないではないんですけれども,1個1個についてはかなり丁寧な検討が必要だろうと思います。
○能見委員 小野委員が前から言われていた,公益信託におけるいろいろな受託者の義務の強行規定化は考えられないのかという問題については,私も前からその問題提起を受けて気にはなっていたところなんですけれども,ただ,非常に簡単に割り切って,公益信託では受託者の善管注意義務と忠実義務を強行規定にするということは考えられるかもしれませんけれども,公益目的の信託だからという理由だけでこれら義務の強行規定化を正当化することが私の内部ではしっくりきません。公益信託だからという点を強調すればするほど,道垣内委員の観点に近くなるかもしれませんけれども,何か公法的な規制が加わってくることはわかりますが,それを信託の,ここは公益信託といっても恐らく信託の私法的な仕組みのところを問題にしていると思いますので,そこに持ち込むのがなかなか難しいかなと思っています。そういうことでどう考えるべきか悩んでいるのですが,公益認定の際に,今の点も含めて,つまり,信託法上は任意規定であるということで善管注意義務や忠実義務を信託行為で変えてしまった場合には,変えられた状態を対象として公益認定の判断をするという形で対処するのが一番落ち付き所としてはいいのかなという感じを持っております。
○小野委員 強行法規化すべきという意見を持っているわけではありません。イメージとしては恐らく信託法と信託業法の関係に近いものがあって,信託法上,任意法規化されていても,信託業法上は強行法規化されています。信託業法上の規定が私法的効果のあるものが中にはあるのかどうかというと,その辺は解釈論に委ねられているかと思います。ですから,今,能見委員がおっしゃられたように認定基準の方で幾つかきちんと義務を立てていくということで,私法的な規律は本来の信託法の姿で考える。ということで,強行法規化が必要という議論ではなくて,論点として必要な議論かなと思って申し上げたわけでございます。
○小幡委員 議論の順番がよく分からないのですが,今の強行法規化の議論は,違反した場合の私法上の効力がどうなるかといった話の文脈ですよね。
○小野委員 そうでございます。
○小幡委員 ここにいろいろ書いてあるのですが,7ページの(7)の仮に公益信託の認定基準というところですが,ここも私法上の効力がどうなるかという話があって,これについてもおっしゃるように丁寧に見ていく必要があると思いますので,直ちにそれが強行法規化という話ではないと思うのですが,第1のところで「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」というところについては,後でまたゆっくり議論しますからという話でしたが,そこでは,公益信託の制度の中での自律的なガバナンスをまずしっかりと仕組んで,更に,それでも必要であれば,第三者機関が監督するというのはよろしいですねという話なのかと思っていたのですが,そのときに第三者の監督というのは,一体,どのぐらいのイメージなのかということです。この点については,これから更に議論すればよいのかなと思っていたのですが,今の(7)のところでもある程度出てきています。ここで認定基準だけなのか,はっきりしませんが,監督権限についても,もしその機関が認定権限を持っていれば取り消すということになるのですが,例えば7ページのところに検査,勧告,命令等の措置を採り,そのような措置で足りない場合は,最終的に取り消すことができるという監督の内容が書かれていますが,これはまた後で議論するという理解ですね。
  というのは,どの程度のことを監督としてやるか。最終的には認定の取消しというのはあり得ると思うのですが,それ以外に,どのぐらい第三者機関が監督としての措置をとることを考えるのかというのが,例えば差止めのようなこと,あるいは立入検査をどのぐらいするかとか,その辺りは制度設計でとして,結構大変かと思います。後での議論ですねという確認ですが。
○中辻幹事 今回の部会資料では,公益信託内部の信託関係人の権限や義務について取り上げておりますが,次回の部会資料では,公益信託外部の第三者機関の監督権限,すなわち,新たな公益信託の認定を行う行政庁等や,裁判所の監督権限を具体的な権限の内容を含めて取り上げる予定です。なお,受託者と信託管理人の辞任・解任・新選任や情報公開についても次回の部会資料の項目として取り上げようと思っています。
○小幡委員 分かりました。
○平川委員 受託者の義務についての各論的な質問というか,確認なんですけれども,忠実義務について6ページの(4)にあるんですが,自己取引又は信託財産間取引をした場合に無効という信託法31条4項については,信託法31条2項2号に,受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たときは,自己取引や信託財産間取引ができるとしていることから,公益信託においても受益者の承認を信託管理人の承認などと読み替えるなどして,可能とすべきなのではないか,無効とまでしないで信託管理人の承認があったときには可能とすべきではないかと思いました。公益法人の場合は理事会承認で可能としていることの均衡からもそのように考えます。
  また,7ページの(6)で信託事務の処理を第三者に委託した受託者の責任についての確認なんですけれども,第三者への委託に当たり,選任,監督につき,善管注意義務違反や忠実義務違反があり,信託財産が損失が生じた場合には,受託者に信託法40条で損失填補義務や原状回復義務があると理解しますけれども,それで正しいでしょうか。例えば美術展示を目的とする公益信託で,受託者が展示等,事務委託された美術館が第三者の管理の失当により,美術品に損害を与えたような場合で,監督責任を問われるような場合です。それからまた,委託先の支出とか,受託者と特定関係のある者ではないとか,そういうような委託先の要件等については,別途,今後,検討する機会があると考えてよろしいでしょうか。
○中辻幹事 道垣内委員からも御指摘がありましたが,部会資料34で記載しました,公益信託の受託者の具体的な義務についての解釈論をこの場で議論していただくことは考えておりませんでした。ゴシックの部分で公益信託の受託者の権限・義務・責任を目的信託の受託者のそれと同一とすることを提案した上で,敢えて5頁以降に個別の権限・義務等の具体的な内容まで記載した趣旨は,これから受託者以外の信託関係人の権限・義務等を議論していただく前に,まずは実際に公益信託事務を行う主体である受託者がどのような権限・義務等を有しているかのイメージを共有していただいた方が良いと考えたことによるものですので,条文の解釈論に深入りしていただく必要はないのかなと考えています。そういうことでよろしいでしょうか。
○平川委員 了解しました。委託先の資格とか,そういうのはまた今後の項目に出てくるということでよろしいですか。
○中辻幹事 受託者から第三者への信託事務の委託について,委託先の資格などを今後の項目として取り上げるべきであるという御指摘として承りました。事務局としては受託者から第三者への委託について,一般の私益信託と公益信託とで異なる規律を設ける必要性があるとまでは考えておりませんが,御指摘は引き取って検討させていただければと存じます。
○平川委員 分かりました。
○中田部会長 目的信託との関係をどうするかということですが,最終的にどういう義務を設定するのが適当かを考える際には,どうしても既にある規律を参考にして検討するのが効率的だということで,ここに検討の結果が出ていると思います。これらの義務について個別に今,御指摘いただいたようなことも含めまして,こういう点にもっと注意すべきだということがもしあればお出しいただいて,更に検討を進めることにしたいと思います。今までも幾つか出していただいておりますけれども,ほかにございますでしょうか。
  それでは,もし更にお気付きの点があったら御指摘いただくことにいたしまして,今日,お出しいただきましたような指摘を踏まえて,一つ一つの義務について更に詰めて検討するということを進めたいと思います。
  ほかに,「第2 受託者」についてはございませんでしょうか。
  それでは,予定よりも早いですけれども,次の信託管理人についてはかなりボリュームがありますので,ここで一旦,休憩にさせていただきます。3時5分まで休憩にいたします。
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開します。
  部会資料35の「第3 公益信託の信託管理人」と「第4 公益信託の委託者」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  第3の「1 公益信託における信託管理人の必置」について御説明いたします。本文では,「公益信託をするときは,信託管理人を指定する定めを設けなければならないとすることでどうか。」という提案をしております。現行法では,遺言による目的信託の場合には信託管理人が必置とされている一方,信託契約による目的信託の設定時には信託管理人は必置とされておりません。しかし,公益信託については,許可審査基準において,いずれの方法による場合でも信託管理人が必置とされています。新たな公益信託制度においては,目的信託よりも委託者の監督権限が狭められ,かつ,従前の主務官庁による監督権限よりも外部の第三者機関による監督権限が縮小される可能性があり,その場合,公益信託の受託者の監督機能を期待される信託管理人の重要性は現在よりも高くなると考えられます。そうすると,信託契約による場合と遺言による場合とを区別せずに信託管理人を必置とすべきであると考えまして,このような提案をしております。
  第3の「2 公益信託の信託管理人の権限」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人は,目的信託の信託管理人が有している権限と同等の権限を有するとすることでどうか。」という提案をしております。まず,公益信託を目的信託の一類型と位置付け,公益信託において受益者及び受益権は存在しないとの前提を採用する場合において,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限のうち,受益者又は受益権の存在を前提とする権限については,目的信託の信託管理人と同じく,公益信託の信託管理人の権限とする必要はないと考えられます。
  ただし,そのような受益者の定めのない信託の性質上除外される権限を除いては,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限は,裁判所に対する申立権限を含め,原則として公益信託の信託管理人にも与えることが相当であると考えられます。もっとも,公益信託の受託者の辞任の同意権や受託者の解任の合意,信託の変更,信託の終了などについては,外部の第三者機関の関与の方法を含めて,目的信託とは異なった仕組みとする可能性もあり得ると考えております。
  第3の「3 信託行為の定めによる権限の制限の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限のうち信託法第145条第2項各号の権限を制限することはできないものとする。」,乙案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限を制限することは全てできないものとする。」という提案をしております。
  信託法第125条第1項ただし書は,信託管理人の権限を信託行為の定めによって制限することを認めております。しかし,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいては,先ほど述べたとおり,信託管理人の果たす役割が重要であることに鑑みると,遺言による目的信託の信託管理人の権限について,同法第258条第4項が同法第145条第2項各号(第6号を除く。)に掲げられた権限の制限を認めないことを参考として,これらの権限を信託行為で制限することはできないものとすべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいて,公益信託の信託管理人が果たす役割を更に重視する観点から,信託行為の定めによって信託管理人の権限を制限することは全て禁止すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提示しております。
  第3の「4 公益信託の信託管理人の義務」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の義務は,目的信託の信託管理人の義務と同一のものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人は,信託目的の達成のためにその役割を果たすことが期待されているという点では,目的信託の信託管理人と共通します。そして,公益信託の監督・ガバナンスにおける信託管理人の役割の重要性に鑑みますと,公益信託の信託管理人も信託法第126条第1項の善管注意義務及び第2項の誠実・公平義務を負うものとすべきと考えられることから,このような提案をしております。なお,公益信託の信託管理人について,信託法第59条第4項のような規定を設けるべきか否か,また,信託法第40条第1項の損失填補責任を負うものとすべきか否かについては,これらを否定する提案をしておりますが,これらの点についても併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「5 公益信託の信託管理人の資格要件」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託法第124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこととする。」,乙1案として,「【甲案】の欠格事由に加え,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこととする。」,乙2案として,「【甲案】の欠格事由に加え,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の委託者又は受託者と特別の関係を有する者に該当しないこととする。」,乙3案として,「【甲案】の欠格事由に加え,当該公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有する者であることとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の信託管理人も信託行為で適切な者を選任することで足り,公益信託の信託管理人について信託法第124条の信託管理人の欠格事由のほかに資格要件を法律上加重することは不要であるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。
  他方,公益性の確保の観点から,公益信託の信託管理人については信託法第124条の欠格事由よりも資格要件を加重すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として示しています。
  乙案としましては,乙1案から乙3案まで三つの案を御提案させていただいております。具体的には,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないことを公益信託の信託管理人の資格要件とします乙1案,現行の許可審査基準6(2)イ②と同様に,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の特別の関係を有する者に該当しないことを信託管理人の資格要件とします乙2案,許可審査基準6(2)イ①と同様に,公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有することを信託管理人の資格要件とします乙3案の3案を提案しております。
  なお,部会資料16ページの(注1)に記載しておりますが,これらのうちの複数を資格要件とすることもあり得ると考えております。また,(注2)に記載しておりますとおり,これらは公益信託の認定基準とすることも含めて検討する可能性があるものです。他方で,現行の許可審査基準6(2)イ③には,「公益信託の信託管理人が原則として個人であること」という資格要件がございますけれども,信託管理人に法人が就任すること自体は信託法上許容されておりますし,公益信託の信託管理人に法人が就任することにより効果的な監督が期待できる場合もあり得ると考えられますことから,信託管理人が原則として個人であることを資格要件とすることは,提案からは外しております。
  なお,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合には,当該信託が無効となるのではなく信託管理人の任務終了事由とすること,また,公益信託の信託管理人について任期制を法律上義務付けることはしないことも提案しておりますので,併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「6 公益信託の信託管理人の報酬」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の報酬について,当該信託管理事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額とならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを必要とするものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人の報酬は,公益信託の信託財産から支出されますから,その報酬が不当に高額になることは適切ではない一方,信託管理人が実効的にその監督権限を行使することを確保するためには,報酬面でのインセンティブを与えることも必要であると考えられますことから,このような提案をしている次第でございます。
  第4の「公益信託の委託者」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託の利害関係人が有する権限のみを行使できるものとする。」,乙案として,「【甲案】の権限に加えて,受益者の定めのある信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」,丙案として,「【甲案】及び【乙案】の権限に加えて,目的信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の公平な運営を確保する見地から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいことに加え,現行信託法は原則として委託者が信託に関する各種の権利義務を有しないとの前提を採っていることを理由として,公益信託の委託者には,原則として信託の利害関係人が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,公益信託の委託者が一定の監督権限を行使することはむしろ望ましいという観点に立った上で,信託管理人との重複を避ける観点から,原則として受益者の定めのある信託の委託者が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。さらに,乙案の基本的な考え方を採用しつつ,公益信託の信託管理人に契約による目的信託の委託者が有している監督権限を持たせるとしても,それと重複する形で公益信託の委託者が契約による目的信託の委託者が有する権限を行使することを認めるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを丙案として示しております。
  以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。
  まず,「第3 公益信託の信託管理人」ですが,これは大部のものですので幾つかに分けて御審議いただければと思います。まず,1,信託管理人の必置について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論は異論なく賛成でございました。自律的なガバナンスという観点からも,信託管理人を設置して,それにしかるべき権限を与えガバナンスを行っていくということについて異論はありませんでした。
○中田部会長 ほかに。
○平川委員 私も賛成します。公益信託の自律的ガバナンスを確立する上で,受託者に対する監督の担い手として欠かせない信託関係人であると思います。資産の拠出者である委託者は,信託が設定された後の関与は極力避けるべきと考えておりますので,この意味でも受託者の監督者として信託管理人の存在は欠かせないものと思います。
○中田部会長 今,お二人から必置に賛成という御意見を頂きましたが。
○山田委員 必置に私も賛成ですが,発言したい点はその点ではなくて,ゴシックでないところについて発言したいんですが,9ページの第3の1の補足説明の中の下から二つ目の段落ですが,ここに書いてあるのは信託法258条4項前段の規定の仕方を拡張して,認定基準とはしないという考え方を示されていると思います。ゴシックではないので,事務当局としては,今,こういうことで準備していますという性格のものかと思いますが,なぜ,認定基準にしないのかなというところがよく分からないというのが発言の趣旨です。
  少し敷衍します。遺言信託で受益者の定めのない信託をした場合には,信託管理人を置かなければならないと。確かに258条4項はそう定めているのですが,これは認定という手続がその後にないので,そこで止まってしまっていて,そして,もし遺言の中に信託管理人の定めがなかった場合にはどうしたらいいかということが5項と6項で補足的なというか,補充的な手続が定められているものと思います。それに対して,ここで考えている公益信託は遺言の場合もあるでしょうが,契約の場合もあって,そうすると,信託管理人を指定する定めを設けなければならないというのを契約に基づいて成立する公益信託について考えると,もし信託管理人について定めがなかったらどうなるのかということを考えました。
  しかし,それだけでその信託契約を無効にするというのはやや効果が大きすぎるなと思います。認定基準のところでそれを備えていなければ,あるいは信託管理人を置くための信託契約の中に定めを置いていなければ,認定するための要件を満たさないと,そういう仕組みにしてよいのではないかなと思うのですが,積極的に認定基準にはしないという理由があるようであれば教えていただきたいと思います。今,御説明いただいた後ろの方には,ゴシックのところの(注)として認定基準に含めることも可能性として考えるというのが複数ありまして,それと同じような性格のものではないかなと考えたところであります。
○中田部会長 関連する御意見はございますでしょうか。
○中辻幹事 山田委員におかれては,御指摘をありがとうございました。私どもとしては,部会資料35の9ページに書いてあるとおり,信託法258条4項には遺言による目的信託における実体法上の規律として信託管理人の必置が定められていることからすると,信託法の方から実体法的に規律するというのが素直な選択肢ではないかと考えておりました。ただ,遺言による目的信託ではその後の5項とか6項の手続があるのと異なり,公益信託は契約により設定されるものもあるので,少し異なる観点からこの問題を見た場合には,信託管理人の必置を公益信託の認定基準とする選択肢もあり得るのではないかという御指摘であると受けとめましたので,引き取って検討させていただきます。
○山田委員 信託法に書く方がより大きい,強いという,そういうイメージがあるのでしょうか,あるいは必ずしもそうではないんでしょうかね。
○中辻幹事 恐らく受託者が欠格事由に該当した場合と似ている話なのかもしれませんけれども,信託管理人が存在しない場合に実体法上公益信託が直ちに無効になるとするまでの必要はなくて,信託管理人が辞任などで存在しなくなったときには,新たな信託管理人を選任するなどの方法により対処し,公益信託自体は存続させるという考え方が十分あり得ると思います。それが信託管理人の必置を実体法上の規律とするか,認定基準とするかにより変わるものかどうかというのはまた考え込む必要があるように感じております。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  それでは,1につきましては必置とするということについては御異論がございませんので,その方向で取りまとめさせていただき,それを信託法の中で書くのか,それとも認定基準とするのかについては御指摘を踏まえて,更に検討するということにしたいと存じます。
  続きまして,第3の2から4,これは信託管理人の権限と義務に関するもので相互に関連いたしますので,この三つについて併せて御意見を頂きたいと思います。
○能見委員 権限と義務と両方に関係する問題なんですが,基本的にはここに書いてありますように,権限に関しては目的信託の信託管理人が有している権限と同等ということでよろしいと思いますけれども,先ほど平川委員から言及がありましたけれども,例えば利益相反行為があるときに,受益者がそれを承諾すれば,受益者は信託の利益を受ける人間ですから,それ以上の問題は生じないと思いますけれども,信託管理人がそれをする場合は少し異なるように思います。信託管理人も信託法125条によってですかね,受益者に代わって利益相反行為を同意するということができるのだと思いますが,信託管理人の同意は,私益信託において受益者自身が同意したときとは違う点があるように思います。
  公益信託の財産の管理は受託者が基本的にやっていますけれども,信託管理人は,その受託者を更に監督するという立場から,いろいろの権限が与えられていますので,利益相反行為への同意について言えば,その同意が不適切であったというときには,信託管理人の責任が生じる。恐らく善管注意義務違反ということになるのだと思います。先ほど言いましたように,それが受益者自身の同意であれば,それが不適当であったとしても,受益者自身の利益に影響するだけで,それ以上の問題は生じない。このように信託管理人の権限は,受益者の権限と同じもののように見えますが,それが持つ意味などは全く同じではないということをきちっと押さえておくことが必要であろうと思います。
  このように考えますと,信託管理人の行為が責任につながってきたときに,その責任というものもそれなりにきちんとした責任でなくてはいけない。例えば,善管注意義務違反の責任,その効果は何なのかが,一般の信託の信託管理人のところの規定でも余りはっきりしていません。恐らく信託財産に対する損害賠償義務は,最低限,認められるでしょう。それが更に信託法40条の責任に結び付くのかどうかというところは,難しい問題があると思いますけれども,私としては,信託管理人というものが公益信託の健全さを担保する上で重要な役割を果たすことを考えると,他方において委託者の権限が比較的制限されている,そういう中で,信託管理人の重要性というものが大きいことを考えますと,信託管理人の義務違反による責任については,むしろ40条の責任につなげた方がいいのではないかという感じを持っております。
 ○平川委員 これもまた,目的信託との関係の話が関連するんですけれども,目的信託との関連を断ち,公益信託における信託管理人の在り方から議論をすべきであると考えます。そして,結論的には配っていただきました別表に,信託管理人の権限として丸で示された権限のみならず,三角で示された権限についても信託管理人に認めるべきであると考えます。
  具体的には別表に丸で示されたものは,検査役の選任申立権,受託者の解任申立権,新受託者の選任申立権,信託財産管理命令の申立権,信託財産管理者の選任申立権については,公益信託の信託管理人の権限とすべきであることに異論はありません。別表に三角で示されました受託者の辞任の同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意についても,公益信託の信託管理人の権限とすべきであると考えます。信託管理人は信託財産のガバナンスの重要な担い手と位置付けるからであります。また,信託の変更,合併,分割についてですけれども,これは受託者と信託管理人の合意によるとすべきであり,目的信託の場合のように合意の当事者に委託者を入れるべきではないと思います。
  これは各論の話になって,ここで議論すべきではないと言われるのかもしれないんですけれども,述べさせていただきますと,信託財産の拠出者である委託者は,一旦,財産を託した後は私益的利害をもって関与し得る利害関係人とも言えますので,委託者としての権限は極力制限されるべきで,委託者及び受託者の合意とすることには反対です。また,永久的であり得る公益信託の場合は,委託者が自然人である場合,委託者死亡で不存在とするか,又は相続するとして関係が複雑になるか,いずれにしても不都合が生じ,妥当ではないと考えます。そして,その上で信託の変更,合併,分割のように公益信託の認定条件に該当すると思料される事項についての変更は,外部の第三者機関の許可や承認が必要とすべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  三角についても含めるべきだという御意見をいただきましたが,最後の信託の終了の合意については言及がありませんでしたが,それも含めるということでよろしいでしょうか。
○平川委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論を踏まえて申し上げますと,信託管理人の権限については目的信託の管理人と同様にということで賛成です。補足説明の中に書かれているとおりでして,受益者又は受益権の存在を前提とするものは除外し,検査役等の,丸の部分は認め,三角の部分についても平川委員と同様で,これも信託管理人の権限とした方がいいという意見が占めていたと思います。ただ,三角の論点につきましては,どちらかというと第三者機関であったり,委託者あるいは裁判所の関わり方の方に論点として目がいっているところでしたので,後に議論させていただけたらと思います。
  それから,信託行為の定める権限の制限につきましては乙案が賛成です。信託法145条2項以外の権限でも重要なものはそれなりに多いと思っていますので,乙案のとおり,信託行為の定めによっては制限できないとする意見が大半でありました。
  それから,信託管理人の義務につきましても,目的信託と同一ということには賛成で,補足説明の中にあった論点につきましては,信託管理人の任務が終了した場合には,前信託管理人には,新信託管理人が選任されるまでの間には権利義務を有するとする必要はないとの点も賛成ですし,信託法40条の関係の損失填補責任については,弁護士会の議論としては,それを必ずしも負わせる必要はなく,善管注意義務違反による損害賠償で足りるのではないかという議論でした。
○中田部会長 ありがとうございました。
○深山委員 これまでの御発言と基本的には同じ立場ですが,信託管理人の権限も,それから義務も,基本的には目的信託の信託管理人と同一とするものでどうかというゴシックの提案に賛成いたします。基本的に公益信託の内部的なガバナンスの中心的な機関といいますか存在として,信託管理人の立場を位置付け,これに重要な権限と義務を与えるということが,制度全体の設計の基本的な考え方として,それがよろしいと思うところです。そういう観点からしますと,3の信託行為の定めによる権限の制限について,甲案,乙案と二つが提案されていますが,乙案を支持したいと思います。基本的には十分な権限を信託管理人に与えることによって,ガバナンスの中心的役割を果たしてもらうという仕組みがよろしいという趣旨です。
  その上でということなんですが,先ほど能見委員の御発言の中で信託法40条の責任,すなわち,損失填補責任まで結び付けてもいいのではないかという御趣旨の発言をされました。私は,ここについてだけは40条の責任をストレートに当てはめるのは行きすぎなのかなと思います。つまり,受託者は正に直接,事務を行う言わばプレーヤーですから,そこに何か問題があれば損失を填補させるという責任が付いて回るわけですが,信託管理人は重要なガバナンスの役割を負っているとはいえ,あくまで監督責任ですから,プレーヤーと同じ責任をストレートに当てはめるのは行きすぎのような気がして,40条の責任については及ぼさないという方がよろしいと思います。もちろん,著しい判断の誤りとか,監督の懈怠とかがあって損害が発生したということになれば,善管注意義務違反という規律を通じて損害賠償という問題にはなるので,それで,そういう例外的な場合には対応できるので,40条の責任は外してもいいだろうということでございます。
○平川委員 先ほど3と4について意見を述べなかったので,それについて述べたいと思います。
  3については乙案に賛成します。その理由は,ガバナンスにおいては私的自治の観点もさることながら,制度的な担保が必要であり,公益信託においては信託管理人がその中心の一つを占めるべきと考えるため,信託管理人の権限を制限するべきではないと思います。甲案では別表左欄に記載されているもの以外の丸印,三角印のものは信託行為により制限可能となってしまいます。これらの権利のない信託管理人は,受託者を監督する機能が著しく減殺されてしまうことになると思います。したがって,乙案に賛成します。
  4番の「公益信託の信託管理人の義務」についてですが,基本的は賛成しますけれども,再び目的信託の信託管理人の義務と同一とするものとするという必要はなく,公益信託の独自性を検討した結果,信託管理人の義務を検討していただきたいと思います。15ページの3にある信託管理人の任務終了の事態となった場合,旧信託管理人は新信託管理人就任のときまで事務を遂行すべき権利義務があるとすべきであると考えます。その理由は,信託管理人を必ず置くべき信託関係人とし,受託者監督の重要な担い手であると位置付ける以上,係る任務を遂行する者が不存在となる期間があることは不適当であるからです。
  16ページ,4の信託管理人に財産補填義務を負わせるかについてですけれども,私も深山委員と同意見で,信託管理人に損害補填義務まで負わせる必要はないと考えます。善管注意義務違反に基づき信託財産に損害が生じた場合には,義務違反と損害に因果関係があるのであれば,その範囲で信託管理人に債務不履行責任に基づく損害賠償責任が生じますので,信託財産を受託し,信託事務を遂行すべき受託者の場合には,別途,補償義務を負うことは妥当性があると考えますけれども,監督責任にとどまる信託管理人にまで補償責任まで負わせる必要はなく,引き受け手確保の意味からも一般的な義務違反に基づく損害賠償責任で十分であると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,2番につきましては総論賛成です。3番につきましては条件付きで乙案に賛成,4番につきましては賛成です。
  話すことが多くて一遍にしゃべれるかどうか分からないんですけれども,まず,委託者との関係については平川委員と近い立場であると考えました。委託者は財産を出えんする方ですので,興味を持たれるというのはある程度,あってしかるべきかなとは思いますが,過度の介入があると公益性について疑義を持たれる場合があると思いますので,余り過度な権限を持たせるべきではないのではないかと考えております。そうしますと,信託管理人が乙案のような全面的な権限を持つべきであろうと考えます。
  ただ,例えば11ページ辺りから始まる辞任,解任,変更,終了等のところ,後ろの別表でいいますと三角が付いている項目については,全て信託管理人の同意を要件とすると,実務の障害になる可能性があると思われますので,ここについてはまた次回以降に検討されるとは思いますけれども,信託管理人の権限を弱めることがあってもいいのではないかと考えております。例えば変更につきましては,元々,一般的な信託あるいは目的信託におきましても,信託管理人の同意がなくても受託者の意思表示によって変更できる場合というのがございます。目的信託では信託管理人の権限が狭まっておるんですけれども,軽微な事務手続などの変更に係るようなものについては,受託者単独でできるような仕組みを残しておいた方が事務的な手間という点でも軽減できるのではないかと考えております。重要なものについては主務官庁の許可,最も軽微なものについては受託者の意思表示という三つの段階があっていいのではないかと思います。
  それ以外のところで,まず,信託管理人の信託財産のてん補の義務でございますけれども,これは損害賠償請求で足りるのではないかと考えております。受託者,同じ受託者ではなく,資料にありますとおり,後任の受託者ということになると思いますが,後任の受託者が請求するとしたら,別に信託財産へのてん補請求でなくて,損害賠償請求で足りると思いますので,損失てん補をするような場合としては,仮に考えるとしたら後任の信託管理人による請求ぐらいしかないのではないかと思うんですが,そのような場合まで考えて重たい責任にする必要はないのではないかと考えております。
  あと,任務の終了のときに継続すべきかどうかという点につきましては,すべきではないと考えております。そこまでやると,信託管理人にとっては重すぎるのではないかと。なり手の問題もあると思います。ですので,不存在にならないような体制を整備していただく方がむしろいいのではないかと思うところです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  2については三角も含めるという御意見が多かったように思いますが,今,吉谷委員から全てをそうするのではなくて,主務官庁の許可などとの関係で検討すべきだという御指摘を頂きました。それから,3については乙案が多数であったと思います。吉谷委員は条件付きで乙案とおっしゃいましたでしょうか。
○吉谷委員 変更などの場合には弱められるということも定めることはできると。
○中田部会長 分かりました。
  それから,4については任務終了後の継続は不要とされる方が多数でいらっしゃいましたが,必要という平川委員の御意見もありました。それから,信託法40条1項の損失填補責任については,加重はしないという御意見が多くありましたが,能見委員から,これは考えてもいいのではないかという御指摘を頂いたかと存じます。ほかによろしいでしょうか。
  それでは,次に進んでよろしいでしょうか。続きまして,第3の5,信託管理人の資格要件について御意見をお願いいたします。
○平川委員 私は乙1案に乙2案を足したものを信託管理人の資格要件とすべきと考えます。すなわち,信託法124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこと及び公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこと並びに委託者,受託者,これには受託者から信託事務の委任を受けた第三者を含みますけれども,又はその他の信託関係人,後に議論されます運営委員を置く場合など,これらの信託関係人及びこれらの者の関連会社,親族,使用人等の特定関係者に該当しないことを複合的に要件にするという趣旨です。
  理由は,公益法人認定法6条1号の要件をいれることについては,公益法人制度との均衡を図る意味で同様の資格要件を置くことが妥当であると考えますし,また,公益信託のガバナンス確保の観点から,委託者や受託者等の信託関係人及びその特定関係者から独立的地位を確保した者が信託管理人であるべきと考えるからです。
  また,法人が信託管理人になり得るかについては,法人であることも妨げないと考えますが,この場合は特に乙3案に記載されるような役員,重要な使用人に信託事務の管理監督をするにふさわしい経験と信用を有するものを要しているか否かについて,許可又は認定審査基準の一要件として定めるべきであると考えます。信託管理人は受託者の監督,公益性の担保のためのガバナンスの保持という重要な役割を担う者ですが,当該法人が信任を置くにふさわしい法人であるか否かは,結局,その法人内部に信任に置くにふさわしい人物がいるか否かに掛かってきますので,法人が信託管理人となった場合には継続性がある点は利点であるとしても,継続的に経験値,能力,信用が保たれているかは外からは計り知れず,このような実質要件を審査基準に置き,役員や重要な使用人について係る要件が継続的に保たれることを担保することが望ましいと考えます。
  一方,信託管理人が個人である場合については,さきに述べた資格要件が備わってさえいれば,個人という個性に着目して個人的信任により選ばれるものですから,特に審査要件として経験値や能力,信用といった判断に難しい要件を付加する必要はないと考えます。
  次に,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合ですけれども,信託を無効とするのではなく,信託管理人の任務終了事由が生じたとすることに賛成します。また,信託管理人の任期については,任期を4年ないし6年で定めるべきであると考えます。現状ですけれども,本人から辞任を申し出ない限り,言わば永代任期となっています。実際,ほとんど判断能力がなくなっている人に対して辞任を要請したり,又は資格要件を失っているということを告げることが事実上できないため,そのまま職にあるという事例が散見されます。これまでの実務の現状を検討に置きますと,4年から6年程度の任期があった方がよいと思います。
○新井委員 私も平川委員と同じに乙1案と乙2案を合体したような案に賛成します。乙3案ですけれども,学識,経験及び信用を有するものというのは,これは後で議論する運営委員会の任務ではないかと私は考えますので,こちらの機能は運営委員会に譲ったらよろしいのではないでしょうか。乙2案のここに掲げられているものについては,最近,ライフ協会の問題があって,公益認定されていても一定の親族の関与が非常に問題になったということもありますので,ここのところは欠かせないという気がします。
  それと,法人が信託管理人になれるかということですけれども,法人が信託管理人になった場合の意思決定がスムーズにできるのかというところが少し心配です。緊急に対応しなければならないいろいろなことがあったときに,法人の内部で意思決定するというようなことを考えると,その辺りをどう考えたらいいかというのが一つポイントで,質問ですけれども,現行の公益信託の運用の中で法人が信託管理人になっているという例はあるのでしょうか。
○中田部会長 吉谷委員,御存じでしたら。
○吉谷委員 私どもではそういう例は捉えておりません。
○能見委員 信託管理人の資格要件のところですけれども,委託者の問題とも関連するんですが,結論としては私は乙2案でいいと思いますけれども,私自身は委託者についてそれほど否定的なイメージを持っているわけではありませんで,むしろ,委託者は信託管理人以上に信託の目的に関しては,それが遂行されることについて一番利害関係を持っていて,いろいろ,公益信託のガバナンスにおいて役割を果たすことができるのだろうと思うのです。そういう意味で,否定的なイメージを持っているわけではありませんけれども,信託管理人を何人置くかという問題とも関係がありますけれども,場合によっては一人ということもあるかもしれません。そういうときに,委託者が一人の信託管理人になるというのは余り適当ではないとも言えますので,結論としては乙2案でいいのだろうと思います。
  ただ,今も言いましたように委託者についてそれほど否定的なイメージを持つべきでないと思います。公益財団法人では財産を拠出した者が理事になるのは構わないとされていると思うんです。理事の一人として,理事会を構成するメンバーの一人として,公益財団法人が設立目的どおり運営されることについて,意見を述べたり,決議に関わることはむしろ望ましいと思っています,けれども,先ほど言いましたように,信託の場合には信託管理人が一人という場合があるかもしれませんので,人数をどうするかの問題はありますけれども,そういう意味で,結論としては乙2というのでいいのではないかということでございます。
○中田部会長 乙2というのは,委託者,受託者等は除くという案ですね。
○能見委員 そういうことです。
○中田部会長 乙1はいかがですか。有罪判決を受けた人ですとか。
○能見委員 これも同じ並びで。
○中田部会長 そうしますと,今まで出た乙1プラス乙2案というのと大体同じ。
○能見委員 結論は同じなんだと思いますけれども,今,言いましたように委託者が除かれるということの意味について,ほかの方とは違いますということを強調したいと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会での議論としては,乙1,2,3といずれも資格要件としてよいという結論であったと思います。乙1については当然ですし,2については委託者は信託管理人には含めるべきではないということでした。乙3に関しては曖昧さという点もあるのでしょうけれども,この理念というか,内容としては当然のことだとは思いますので,そういう認識においては賛成をします。信託管理人に法人がなれるかというのについても賛成ですし,事後的に資格を失ったときは任務終了事由とする点にも賛成でした。補足説明にもある任期制については,不要という意見でした。
○深山委員 今の意見とほぼ重なってしまいますけれども,資格要件としては乙1案プラス乙2案という何人かの方が発言された消極要件といいますか,欠格事由としてこれを定めることに賛成します。乙3のところも結論としてはあっていいだろうと思いますが,ここは言わば積極要件ですので,性質が違うといえば違う問題だと思います。積極要件として,学識,経験,信用というものを掲げても,どれほど実質的に機能するかと考えると,あるいはどう判断するのかということになると問題なしとはしないんですけれども,考え方,理念としては,そういう学識,経験,信用のある人に資格を与えるという考え方は当然といえば当然ですが,要件として課してよいと思います。
  法人であっても実質的には役員を見ながら,こういうことを判断するということもできますし,法人が信託管理人になることも排除する必要は全くないとは考えていますので,その場合も含めて乙3の要件も積極要件としてあっていいだろうと思います。先ほど新井委員は,そこは運営委員会等の役割ではないかという御意見でしたが,私は運営委員会自体の存在に消極だということもあり,学識,経験,信用というものも信託管理人に期待すべきだと考えております。
○道垣内委員 私は先ほどの深山委員の意見とは違って,新井委員の見解の方が妥当なのではないかと乙3に関して思います。
○中田部会長 運営委員会に委ねる方がよいということで。
○道垣内委員 だから,信託管理人の役目をどう考えるかという話として,こちらよりもこちらに助成すべきだったよねという判断について,信託管理人が受託者を監督すべき立場にはいないのだろうと思います。そこで,乙3は除いた方がいいのではないかと思います。
○中田部会長 乙1と2はあった方がよいという御意見ですか。
○道垣内委員 はい。それは言ってなかっただけです。乙3についてだけ申し上げたわけで,あえて言えとおっしゃられれば,乙1プラス乙2でよろしいのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 私は皆さんが乙3を強く支持されるのかなと思って発言しなかったんですけれども,必ずしもそうではないようなので,発言致します。ただいま道垣内委員が信託管理人の役割という話をされていましたけれども,既に本日の議論のところで必置ということになり,受益者はいませんから,立て付けにおいて信託管理人というのは非常に重要なガバナンスの役割を果たすわけです。その中で犯罪を犯していないとか,ある意味では,それ以外はその辺の人を連れてくればいいという議論で制度を立て付けるよりも,学識,経験,信用というような定性的な要件を加えて,それぞれの信託の公益目的に沿って判断していくと考えるのがふさわしいのではないかと思います。
  立法例でも既に同じような基準として,こういう定性的な要件が入っていると補足説明で書かれておりますし,サービサー法上,同じ文言が扱われております。決してこの表現があるからといって,またこうした規定があるからといって判断が難しいというようなことはないはずです。
  それともう1点,委託者が信託管理人になれるか,なれないか。これも一概にノーというわけではなくて,乙3の要件が入って,委託者が学識,経験,信用においてふさわしいということであれば,委託者はいつまでも口を挟む良からぬ人と性悪説に立つ必要はなくて,この定性的要件に沿って委託者が信託管理人になれるかどうかを判断すればよいわけでして,その意味において乙2が委託者を初めから排除しているというのは必ずしもそうではないのではと。要するに乙3が最も重要な要件であって,それに付随して乙1の部分が加わっていくのではないのかなと考えております。
○山田委員 乙2について発言させてください。能見委員がおっしゃった前半まで私は同意見であります。委託者というのは,その財産がどう公益のために使われるかということについて,ある意味では最も関心のあるものだと思います。ただ,ここで委託者を信託管理人から外すという考え方の背後にあるだろうと私が考えるのは,委託者は外形上,形式的には自分の財産から外に出したけれども,実質的に委託者あるいはその家族の利益のために,信託管理人を通してコントロールしているのではないかという疑いがあるということかなと思います。ただ,そこは受託者がそうしない義務を負っているのかなと思います。
  そうしますと,能見委員がおっしゃった一人しか信託管理人がいないときに,委託者とか,委託者の親族が信託管理人をしていると,受託者も重要なことについては,信託管理人の承諾とか承認とかを経なくてはいけないというところで問題がありそうだというようにも思います。そうすると,制度が細かくなって恐縮なんですが,信託管理人を複数置くときには,そのうちの一部は委託者又は委託者の親族,使用人等,委託者と特別の関係を有する者であっても構わないと,そういうルールがあるといいなと思いました。ただ,信託管理人を複数置いたときに,その意思決定方法をどうするのかという問題が出てきて,まだ,準備をしていないところであるとすると,作業を増やしてしまって申し訳なく,それほど大きな問題ではないかなと思うのですが,一番のスタートライン,ここが能見委員がおっしゃったところですが,委託者が一番,その財産がどう使われるかということについては関心があるだろうなというところは少し重く見たいと思います。
○新井委員 今,山田委員がおっしゃったことを私も言いたかったのです。つまり,信託管理人は複数でも可能なのかということです。実務では私の知っている限り,これは単数だと思います。しかし,ここの議論で複数が可能だとするということになったときに,正に意思決定の問題をどうするのかということがあります。更に法人も可能だとすると,複数の法人になったときの意思決定はもっと複雑になるということで,法律に書く必要はないかもしれませんけれども,何となくある程度の合意みたいなものがこの解釈の背後にはあった方がよろしいのではないかと思います。私は信託管理人は単数でいくべきだと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 乙1,2,3に賛成でございます。根拠は余り付け加えるところはないように思われました。法人を信託管理人にすることについては,認める方が実務上の利益が大きいのではないかと考えました。信託管理人の交代という問題が起きにくいので,能力が維持されるかどうかというような議論はあるのかもしれないですけれども,利益の方が大きいように思われます。あと,資料の中で乙1案,乙3案を信託管理人の任務終了事由とする,信託の終了事由にはしないというようなことが書かれていたと思いますが,その考え方には賛成いたします。
  あと,任期を設けるべきかとどうかというところですが,これもむしろ信託管理人が不適格になったら,今でも解任できるとは思っているんですけれども,それを明確にさえしておけば,任期は設けなくてもよいのではないかと思います。むしろ,ボランティア的な方なのか,職業的な方なのかというところでインセンティブの違いはあるのかもしれないんですけれども,ボランティア的な方に引き続き信託管理人の任務をお願いするという点においては,任期は特に設けない方が引き続きやっていただけるのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○小野委員 単なる質問なんですけれども,イメージとしては当初の信託契約の中で信託管理人の恐らく特定の名前が挙がって,認定のときにこの特定された方が信託管理人としてふわしいかという辺りを審査するのかなと思うんですけれども,いかがでしょうか。その場合,公益信託がどの程度,継続するものかという議論にもよりますし,千差万別かもしれませんけれども,恐らく一つのイメージとしては軽装備のものということで,比較的,数年で終了するというようなものが多いということであれば,それ以上に信託管理人を交代し新たな信託管理人を選任する手続等まで考える必要までないのではないかと思います。何人かの委員の方の御意見で任期を設けるとか,そういう議論もございましたが,その場合に,どういう形で新たな信託管理人を,信託行為から離れて,選任していくのか,どんなイメージでいらっしゃるのか。そこも含めて信託行為の中で,任期満了においてはどうこうするところまで書くというようなイメージなんでしょうか。その辺を教えていただきたいと思います。
○中辻幹事 新たな信託管理人の選任につきまして,現在の主務官庁制のもとでは,継続中の公益信託で信託管理人が欠ける場合には,新たな信託管理人の候補者を,利害関係人,実際には公益信託を運営する受託者の側で探してきて,その新たな信託管理人の選任を主務官庁に請求するという立て付けになっていますが,それが新たな公益信託制度でどのようになるべきであるのかは,次回の部会で本格的に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  乙1案はこれでいいだろうという御意見が多かったように思います。乙2案についても結論としてはこれでいいだろうけれども,しかし,委託者の位置付けについて両様の御意見を頂きました。更に委託者については,乙2から排除すべきであるという御意見も頂きました。乙3については御意見が分かれたと存じます。それから,法人については法人もなり得るという御意見が多くありましたが,法人の場合には意思決定に時間が掛かるという御指摘も頂きました。それから,信託管理人の資格要件の喪失が任務終了事由になるということについては,御意見を頂いた方全て,それに賛成だということでございました。信託管理人の任期制については,平川委員から任期制を設けるべきであるという御意見を頂きましたが,それに対し,不要であるという御意見を複数頂いたと存じます。なお,新しい信託管理人の選任については,次回にまた御審議いただくということでございます。
  それでは,続きまして第3の6,信託管理人の報酬について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 この規定の趣旨で賛成なんですけれども,確認をしたい点としまして信託法は費用と報酬ということを明確に分けております。ただ,一般的な言葉の使い方として費用といったときに報酬も入っていることがありますけれども,飽くまで信託法の議論ですから,ここで言っている報酬というものは報酬であって,費用は別途という理解でよろしいかと思うんですけれども,その辺の確認をさせていただきたいと思います。
○中辻幹事 この部会資料では,費用と報酬の概念について信託法上の概念をそのまま用いております。
○中田部会長 信託法127条に費用と報酬と書いていて,それの使い分けが前提となっているということですね。
○中辻幹事 そのとおりです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成します。公益信託の透明性あるガバナンスを確保するという観点から,信託管理人に報酬を支払う場合には,信託行為に報酬の額又は報酬額を算定し得る算定方法を明示すべきであると考えます。認定基準としては,係る報酬の基準が信託行為に定められていることを要件とすればよく,これが不当に高額かどうかの判断を行政庁に委ねる必要はないものと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,基本的にはこういうことでよいと承ってよろしいでしょうか。それでは,そのようにさせていただきます。
  続きまして,「第4 公益信託の委託者」について御意見を頂きたいと思います。既に何人かの方から御発言いただいておりますけれども,ここでまとめて御議論いただければと存じます。
○平川委員 甲案に賛成します。その理由は,公益財団法人における出えん者との均衡等から考えて,委託者に特別の権限を与えるべきではないと考えるからです。委託者の出えんした信託金は,税法上,寄附金として公益法人への寄附金同様の取扱いをするよう要望するものです。かかる観点からすれば,信託設定後,委託者が信託運営への発言権を保有することは認められないと考えます。公益信託の公平かつ公益的運営を確保する観点から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される事態はできるだけ排除すべきであると考えます。したがって,別表3の利害関係人としての権利のうち,丸印にとどめるべきです。三角印の権利は付与しないという立場を採ります。この点,公益信託は委託者の権利権能を信託法260条1項でむしろ強化している目的信託とは根本的に軸を異にするものであり,この点からも公益信託が目的信託の一類型であるという考え方から決別すべきであると考えます。
○中田部会長 別表3につきまして,甲案のところで三角が付いている部分もありますけれども,先ほど甲案を御支持とおっしゃいましたが,その甲案の中の三角については外すという御意見でございましょうか。
○平川委員 利害関係人としての権利だけ持っているということにするんだけれども,その利害関係人としての権利のうち,三角印の付いているものも与えないという考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 委託者の権限については基本的に乙案がよろしいと思います。公益信託における委託者の立場をどのように捉えるかというのは,既にいろいろ議論が出ておるところで,一方では財産拠出者でもあり,そもそも,公益信託を作る言わば創設者でもある人に,創設後も一定の権限を認めるべきだという考えにも理解ができます。ただ,他方で,目的信託においては,受益者がいないということで,それを補充する意味もあって委託者の権限を強めていますが,普通の目的信託とは違って公益信託の場合に委託者の権限を通常よりも強めるのはふさわしくないだろうと思います。その結果,消去法というわけではないんですが,通常の受益者の定めのある信託の委託者と同様という乙案をベースに考えたらよろしいのではないかなと思います。
  なお,乙案を採った場合でも三角のところが幾つかありますが,ここは一つ一つ個別に考えていく必要があると思います。基本的に裁判所に対する申立権については認めてもいいのかなと思います。それ以外のことについてはなお慎重に考えたらいいかなと考えます。どちらかといえばやや消極に考えてもいいのかなと思っております。
○能見委員 基本的な考え方は先ほど申し上げたとおり,信託財産を拠出した者として,その信託が信託目的どおり,公益の目的ですが,信託が行われることについて一番の利害関係を持っているだろう委託者に,それなりに役割を与えるべきだという考え方に基づいて,こういう問題も考えるべきだと思います。そういう観点からは,甲案のところの利害関係人としてのいろいろな権限,これは最低限,認められるということのようで,それはあえて反対いたしません。
  乙案のところが争点になっているようですけれども,私もここに書いてある乙案で基本的にいいと思いますが,ただ,私の考え方からすると委託者が信託の運営について,それほど細かいことについていろいろな権限を持っている必要は本来ないのだろうと思います。大きなところといいますか,信託の目的のところに関連する,目的が遂行されると全てが関係するのかもしれませんが,目的が遂行される大きなところについての権限があればいいということになるのだろうと思うのです。そういう観点から乙案のところを見ますと,十分,検討していませんけれども,三角のところの信託の併合とか終了とか,そういうところについてはそれなりに財産を拠出した出えんしたものとしての利害関係が大きいだろうと思いますので,こういうところの権限というのは認められるべきかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論としては,要するに委託者は財産を拠出したのだから,それ以上は関与すべきではないというような観点から,甲案に賛成する意見もあったのですが,一方で,公益信託においては,公益信託に最も関心を有する委託者の考え方や意思も一定,反映してさせたほうがよいという観点から,乙案に親和性のある意見もありました。ただ,結局,乙案的に考えるとしても,深山委員も述べたように,結局,個々の条文ごとに一つ一つ検討してどうなるかによるところと思います。辞任とか解任についてはこの後でも議論されるようですので,ここの論点の在り方に従って辞任解任を議論していくのかと思いました。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 私は信託管理人の適格性に関しましては,能見委員の意見に同調しないのですが,この委託者の権利ということに関しては,私は乙案でも丙案でもいいのではないかという気がいたします。と申しますのは,私が前半部分で能見委員の意見に同調しないのは,委託者が,個々の受託者の行為とか,そういうものに対して目を光らせる権限を有しているということにしますと,逆に受託者の権限行使に対して委託者の意向が個々的に反映してしまう可能性があって,それはよくないと思うからです。
  それに対して,今回,問題となっている委託者の権限という問題は,例えば委託者がこのような目的で公益信託を設定したいと考えたときに,その目的を変えてほかのものと併合してしまうのかとか,あるいは分割してしまうのかといった,そういうふうな話であって,委託者がどのような内容の信託を作るかという,その実現に掛かっている問題だろうと思うからです。したがって,能見委員の意見は一体化しているんですが,こっちは分割可能であると考えておりまして,この問題につきましては能見委員がおっしゃったところに賛成いたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 委託者の役割として,余り大きなものを期待するべきではないとまず考えます。個人の委託者の方であったりすると限界があると思いますので,そういう意味では,受託者と信託管理人による内部ガバナンスというものを重視すべきであって,委託者の権限は重視すべきではないと考えます。その上で,甲,乙,丙案につきましては甲案に賛成です。ただ,これは任意規定であると書いてありますので,任意規定であるということについて賛成いたします。ただ,委託者の意向が個々に反映されるようなことは望ましくないと思いますので,任意規定であるとしても過度に強い権限を与えることはよくないと思います。
  甲案と乙案の違いの中で,甲案の方が新任のほうの申立てがあって,乙案の方には解任の方の申立ての権限があるということになっておりますので,甲案だけだと新任はできるけれども,解任はできないということになりますので,解任と新任の申立てはセットになっていてもおかしくはないのかなと思いましたので,そこら辺は甲案と乙案のどちらがいいのかというところの考慮材料になるのではないかと考えました。ただ,一方で様々な合意をするというところの権限を与えるということには疑問を持っておりまして,委託者の合意がないと何らかの変更の認可申請ができないというような事態は避けるべきであると考えております。
○小野委員 先ほど信託管理人の議論がございましたけれども,そのときに次回の審議の課題ということではありますが,関連するので一言述べたいと思います。任期制のときにですが,信託管理人は受託者を監督する立場ですから,先ほど深山委員もおっしゃられたように,裁判所が介在する,裁判所を通して信託管理人の新たな選任とか,そういうことをするときの大事なステークホルダーとして,委託者というものは必要ではないかと思います。結論としては乙案ということになるかと思うんですけれども,ステークホルダーが非常に限られている中で,特に受託者と信託管理人というところで,一応,ガバナンスが成り立つ。その二者が機能しないときに,又はその交代が必要なときに,もう一人,ステークホルダーが必要かと思いますし,そこで委託者が自分が出したお金だからといって何か必要以上に介入するという意味ではなくて,裁判所の発動を促すという意味においては,委託者がいて何ら問題はないのではないかと思います。
○神田委員 何人かの先生方がおっしゃったことと同じ趣旨だとは思うのですけれども,委託者の権利という場合に,機能に応じて考えるべきだと思います。すなわち,信託の運営に参加,参与する権利なのか,それとも受託者を監督する権利なのかで全然違うので。確かに出えんをして財産を拠出したわけですから,前者の運営に参与,参加していくという権利はなくていいと思うのですけれども,受託者を監督する権利というのは専ら信託管理人だけが有するということでいいのかということになれば,委託者も一緒に監督しますということはあっていいように思います。そういうことからいうと,表をきちんと見ていませんけれども,別表1にある信託管理人に与えられる受託者の監督に係る権利というものは,委託者にも付与されてもいいのではないかと思います。
○新井委員 私は甲案を支持します。公益信託というのは委託者が財産を公益目的のために出えんして,自分のコントロールから離れるということがポイントだと思いますので,利害関係人が有する権限を持っていれば,それで十分だと思います。公益信託の場合にも場合によっては税法上の優遇もあるということも考えると,委託者に余り強い権限が与えられるというのは少し問題ではないかと思います。それで,乙案は,公益信託が目的信託だということを非常に強調していながら,ここで受益者の定めのある信託を持ってくるのは私には非常に違和感があるので,これは甲案でいったらいいと私は考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  甲案と乙案とそれぞれ支持される御意見がありました。特に委託者の位置付けについて両様の御意見を頂いたと思いますが,更に一般的に決めるよりも,幾つかの切り口をお示しいただきましたけれども,どういう権能あるいは機能に即して考えるのかという分析がより必要ではないかというご指摘も頂きました。これらを踏まえて更に検討を続けたいと思います。
  ほかに。
○山田委員 甲,乙,丙の具体的にどれを指し示すという意見にならないのですが,第4で委託者の権利を認めますと,相続をするのではないかと思います。公益信託においては公益目的と委託者の相続人というのは,利害が反する場合が想定できるかなと思います。遺産の中から出ていってしまうということです。そうしますと,公益信託の委託者に与えた権限,権利が相続されるということを,すみません,私の理解が十分ではないんですが,仮に前提にすると,余り委託者に与える権利,権限は大きくすべきではないのではないかと思います。そうすると,先ほどの私の信託管理人についての発言とどういう関係になるのかということになりますが,仮に委託者を信託管理人にできるとした場合にも,それは一身専属であって相続はしないだろうと思いますので,今の問題は生じないかと考えるところであります。第4にまた戻りますが,22ページで,そうすると,私が今,考えていることは甲案に近いのかなと思うのですが,そこを十分には点検せずに,今,発言させていただいております。
○中田部会長 ほかに第4,委託者についてありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○能見委員 今の山田委員のご指摘の点が,私も同じことが気にはなっているのですけれども,委託者に与えられる権限の意味,なぜ,委託者に一定の権限が与えられるかという理由から考えると,それは公益信託のための財産を出えんした者として最も利害関係があるということですから,相続人は委託者と必ずしも同じ立場ではないことになります。そこで,私はむしろ委託者にいろいろな権限を認めても,相続人まではいかないように考えるべきだと思います。委託者限りで,そこで切れてしまうというのも一つの考え方かと思います。乙案をとった上で,以上のように考えたいと思います。
○山田委員 実質的には私も同じになります。どう仕組むかというところはよく分かっておりません。
○中田部会長 ありがとうございました。それでは,先に進んでよろしいでしょうか。
  では,続きまして部会資料35の第5と第6について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  「第5 受給権者」について御説明いたします。本文では,「受給権者による監督・ガバナンスに関する規律は設けないものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託における受益者は,当該信託の設定当初から受益権を有することが予定されているのに対し,公益信託の受給権者は,現在の助成型を前提としても,当該信託の設定段階では助成金を支給する権利を有することは確定していないこと,公益信託には様々な類型があり得るのであって,例えば助成型における受託者から一定の期間,奨学金の支給を受けることが確定した学生と事業型における美術館の利用者とでは,その信託への利害の強弱,関心の程度には大きな違いがあると言えますので,これらを受給権者として一律に扱うことは困難ではないかということで,そういった理由から,このような提案をしている次第でございます。
  最後に,「第6 運営委員会等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託をするときは,受託者に対する助言的な役割を果たす運営委員会を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,乙案として,「公益信託をするときは,受託者に対する監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,丙案として,「上記の各規律を設けない。」との提案をしております。
  現行の許可審査基準と同様に,新たな公益信託においても,公益信託の受託者に対する助言的な役割を果たす諮問機関として運営委員会を必置とすべきであるという考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。また,新たな公益信託において公益信託内部の監督・ガバナンスを強化するためには,信託管理人以外の新たな監督の主体の設置を義務付けるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。他方,公益信託において一般の信託と異なる機関の設置を一律に義務付けることは柔軟性を欠き,利用者にとって使いづらい制度となる可能性があること,公益法人制度に比べ,軽量・軽装備であるという公益信託のメリットを生かすのであれば,複数の構成員の選任に伴う時間,費用等のコストを要する会議体の信託管理人を新たに諮問機関又は監督機関として設けることは避けるべきであるという理由から,甲案や乙案のような規律を設けるべきではないという考え方があり得ますので,これを丙案として示しております。これらの点について御審議いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。まず,第5,公益信託の受給権者について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 意見を申し上げる前に確認なんですけれども,第4のところで脚注のところで信託法上の利害関係人ということで,典型的には信託債権者であるという記載がございましたけれども,ということは,受給権者という概念からのガバナンス規律は設けないけれども,第4のところでいう信託の利害関係人には含まれるということになるのかなと思います。その場合,先ほどの第4の補足説明を見ますと閲覧謄写権とか,信託財産管理命令申立権とか,結構,強い権限を持っているようにも思うんですけれども,ということで確認ですが,受給権者は信託債権者ではあるけれども,第4で議論したような権限を持つようなものではないという理解なんでしょうか。飽くまで債権者になる前の受給権者は何も権限を持っていない。とはいっても,恐らく将来債権の債権者であるような気もするんですけれども,何か権限はないと言いながらも,結構,第4のところの甲案ではそれなりの権限があるのがバランスを欠いているのかなと感じたものですから,それについて確認させていただければと思います。
○中辻幹事 私どもとしては,受給権者が全て信託法上の利害関係人に当たるとは考えておりません。受給権者の中にも具体的な受給権が発生している信託債権者のような方と,まだ,研究助成費とか奨学金の支給の対象となっていない不特定多数の段階にある方々も含めて,ここでは受給権者と表現しておりまして,いわゆる事業型における美術館の利用者のような方も受給権者と捉えているわけですけれども,それらが全て公益信託の利害関係人になるというわけではなくて,飽くまで受給権者が信託債権者の地位を取得したような場合に利害関係人に該当するということを考えております。
○小野委員 説明としては理解しましたけれども,受給権者という言葉そのものからして恐らく将来債権的な権利は持っている特定又は場合によっては不特定,不特定だと本人は行使できませんけれども,今の将来債権の非常に幅広い理解からすると該当してしまうのは,それはそれで,整理としてはそういうものだという理解ですか。債権者になれば民法的に,私法的に債権者として観念できれば,それは利害関係者としての権利を持ち得るという理解でよろしいんでしょうか。
○中辻幹事 将来債権を有する者が公益信託の利害関係人としての権利を持ち得るとは余り考えておりませんでした。部会資料では受給権者と表現しておりますが,物の本では「権」を抜かして受給者と表現しているものもございます。後者の表現を採ることも考えたのですが,研究会段階からの継続性ということで受給権者という表現を部会資料で使っているだけで,事務局としては,受託者に対する債権が現実に発生した受給権者が信託債権者になり,その結果公益信託の利害関係人に入ってくるという理解でおります。
○新井委員 今の小野委員の発言と関連します。26ページの説明の中に私としては気になる点があります。下から大体10行目ぐらいでしょうか。「そもそも,助成金の支給先に選定されたことが通知された受給権者と受託者との間の法律関係が贈与契約であるか否かは措くとしても」と書いてあるのですけれども,私としてはこの点は曖昧にしておくことはできません。ここははっきりしてもらわないと困ると思っておりまして,私の見るところ,文献上,贈与契約以外の説明はありません。そうだとすれば,これは受給権者ではなくて受贈者と明確にすべきではないかと思います。
  それで,私の問題意識としては,これからの信託というのは福祉型の公益信託というのが増えてくると思うのです。そうすると,受給者でも受益権者でも意思能力のない方が受益権といいますか,受給するということがあるわけです。何が問題かというと,88条で一般の他益信託であれば受益者と指定されると,当然に受益権が発生するわけです。しかし,こういう構成を採ると,それが全くできなくなるという大きなデメリットを負うわけです。そうすると障害者の権利条約とか,差別解消法の合理的配慮ということを考えると,立法上,合理的配慮を欠いたことになるのではないかという気がします。
  ですから,私は今まですごく精緻な議論をしながら,ここはぽかっと何か理論的な空白状態みたいになっている気がします。もう少しここのところは詰めてきっちりした理論構築をされた方がいいのではないかと私は思います。それで,私は受益債権と考えたらどうかと提案します。共益権的なものがなくても信託法上の受益債権と考えたらどうかと思っていますけれども,それはいろいろな御意見があるので,私の問題意識からすると,ここのところの説明は何か非常に偏っているような感じがします。
○中田部会長 法律関係の契約の性質決定という問題と,それから,更に債権者になるという問題があり,債権者となった場合にどのような監督・ガバナンスに関する規律を与えるのかというのは,最終的な論点であるわけですけれども,最終的な論点について一般に利害関係人に認められているような権能に加えて,更に何かを設けるべきだということも含むのでしょうか。
○新井委員 私は特に規律は必要ないと思います。それ以前のまず性質決定の問題と理論的な中身,そこのところをきっちりしていただきたい。だから,前提の議論かもしれませんけれども。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 受給権者による監督・ガバナンスに関する規律というのは,特に設ける必要はないと思います。公益信託の受給権者は,受給権があると確定して初めて受給を受ける権利を有することとなり,公益信託に対して受給請求債権を行使することができると理解しますが,特に監督・ガバナンスに関する規律は設けなくても,受給権を得た時点以降,信託法上は利害関係として権利,民法上は債権者としての権利を認められれば,それでよいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 結論として全く異存はないのですけれども,中辻幹事がおっしゃったことで若干,気になっていることがございまして,つまり,受給権者という言葉は広い意味で使っているとおっしゃったような気がしまして,つまり,ポテンシャルに受給権を取得する可能性がある人と,確定的に選任されて受給権を債権として取得した人の両方を含んでいるとおっしゃったんですが,私が資料を読んだときにはポテンシャルな人を含んでいるとは読めませんでしたし,それはかなり性質の違う者ですので,もし仮に両方を含んでいるということで書いていらっしゃるのならば,それは言葉を変えられた方がいいのではないかという気がいたします。
○中辻幹事 御指摘ありがとうございます。
○中田部会長 
  それでは,今の御指摘も踏まえまして,更にその概念を明確にしていくということを検討したいと思います。結論的には特別の監督やガバナンスに関する規律は設けないという御意見を頂いたと理解いたしました。
  それでは,最後になりますが,「第6 運営委員会等」についてはいかがでしょうか。
○深山委員 先ほども少し触れましたけれども,甲案は助言的な役割を果たす運営委員会というものを提案し,乙案は監督の役割を果たす主体ということなので,その意味するところは違うんだろうと思いますが,いずれにしろ,いずれも,つまり助言的な役割を果たす主体にしろ,監督の役割を果たす主体にしろ,必置の機関として置く必要はないし,むしろ置くべきではないだろうと考えています。そういう意味で丙案に賛成いたします。
  もちろん,言わずもがなですけれども,必置の機関であることに反対しているのであって,個々の公益信託において必要なときに助言的な役割を果たす機関,それを運営委員会と呼ぶかどうかはともかくとして,そういう主体を設けることや,あるいは監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを否定するつもりは全くございません。それは必要に応じて定めればいいことであって,あくまで必置の機関としては必要ないということです。新しい公益信託制度を,いわゆる軽量・軽装備で,ローコストで可能にするという趣旨からも,最低限必要な機関ではないだろうと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は運営委員会は,委託者の関与を排除して,そこで信託関係人が一人いなくて,受託者と信託管理人しかいない状態では,受託者,信託管理人の選・解任の場面で最低,第三者の信託関係者が必要になるという意味で,運営委員会を,甲案と乙案の複合型として必須の機関とすべきであると考えます。つまり,運営委員会の役割としては受託者に対する助言的な役割を果たすとともに,委託者の関与を排除した結果,権限を行使するものが漏れた権限について,最低,運営委員会に委ねるべきであると考えますので,便宜的に運営委員会と呼びますけれども,名称は実態に合わせて別の名称も考えられると思います。
  運営委員会に与える権能としては,具体的に別表3に記載の利害関係人としての委託者の権能として列記された権能のうち,先ほど三角で記載されたものについて委託者の利害関係人としての関与を排除すべきであると申しましたけれども,その権限については運営委員会に係る権能を与えるということが妥当であると考えます。また,別表3に記載される委託者としての権利の中で,このうち,最低,受託者,信託管理人の選任・解任の合意や同意権が与えられないと,係る事項について公益信託の自律的ガバナンスが保てないことになってしまいます。
  具体的には別表3に挙げる事項のうち,受託者の辞任に対する同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意,信託管理人の辞任に対する同意権,信託管理人の解任,別表3では信託管理人の解任の合意とありますけれども,信託管理人に監督される受託者が信託管理人の解任を申し出ることはできないと考えますので,ここは信託管理人の解任と読み替えます,新受託者の選任の合意,新信託管理人の選任,これらが該当すると考えます。
  また,これらの権利の前提として,運営委員会は信託法36条の信託事務の処理の状況等に関する報告請求権,38条1項の信託財産に係る帳簿等及び信託事務の処理に関する書類等の閲覧謄写請求権,38条6項の財産目録の閲覧等請求権,172条の信託財産の保全処分に関する資料の閲覧等請求権を有するとすることも必要であると考えます。これらの権利は,運営委員会が有する権能の最低ラインとして必要であると考えますが,それ以外にも運営委員会に税制優遇を受けるにふさわしい自律的ガバナンスの確保の観点から,定款変更,信託終了,財産帰属など信託事務の根幹に関わる事項についても,運営委員会の関与が必要と考えますので,何らかの関与を考えていただきたいと考えます。
○能見委員 結論としては深山委員が言われた案に賛成ですが,まず,甲案というのは内容的に矛盾とまでは言いませんけれども,運営委員会が助言的な役割を担うのだとすると,そういう役割の機関を必置とするというのは,十分な説明ができないだろうと思います。そういう揚げ足取りはともかく,助言的な機関というものを必須にするということは,実質的に考えても適当ではないと思います。乙案は,ガバナンスの観点から考えると,この案の前提には,受託者を監督するものとしては信託管理人というものを設けるが,それだけでは不十分であるということを言っていることになると思います。しかし,それならば,信託管理人の制度のところで,ガバナンスの観点から十分となるように,その形を変えるべきなのだろうと思います。
  それは,具体的には先ほどから議論にも出ていますけれども,信託管理人というのは一人ではなくて,複数,設けるという形でガバナンスを強化するというのが一つであります。そうすれば,複数の信託管理人の間で相互の監督ということが生じます。これに対して,信託管理人とは別の機関を設けて,受託者,信託管理人及び第三の機関の間の,ある意味で三つどもえの形にするというのは適当ではないだろうと思います。ガバナンスに関しては,委託者ということも考えられますけれども,私は,財産を拠出した委託者がいるときには,それなりに役割をある程度,求めてもいいと思いますけれども,先ほど言いましたように,委託者が死亡した後に相続人が監督に関わるというのは適当ではないと思いますので,委託者では十分なガバナンスという意味では限度があります。そこで,信託管理人を複数化する形で対応するのがいいのではないかと思います。
○新井委員 深山委員,能見委員のおっしゃったことは,公益信託は軽装備の方が望ましいだろうという観点からはよく分かります。ただ,現実の公益信託の実務を見ていると,信託銀行がいろいろな種類の公益信託を受託しているわけです。公益信託としては信託目的に沿った受給権者を選定しなければいけない。信託銀行は財産管理のプロですけれども,ある特定の公益信託の目的に沿った受給権者を選ぶということのプロではないのです。例えばある特殊な医学研究という目的を達成するための受給権者を選ぶということになったら,信託銀行にノウハウはないと思います。今後,受託者の担い手を拡大して,信託銀行以外の担い手が反復継続して公益信託を行うということを考えても同じだと思います。
  それで,今までの実務の中で運営委員会というのがあって,受給権者を選定するという役割を果たしてきたというのも事実ですので,これをどう位置付けるかは別にして,能見委員の案のように信託管理人という形で機能を与えるというのも一つの案かとは思いますけれども,私としては運営委員会的なものがないと多分,現実の公益信託は機能しないのではないかと思っておりますので,甲案を主体に少し内容を精査していただく辺りが実務的な対応としても妥当ではないかなと考えます。
○能見委員 新井委員のおっしゃることはよく分かるんですが,私の考え方が必ずしも正確に伝わっていなかったので,その点だけ補足したいと思います。甲案というのは,正に新井委員が言われたように,誰に受給するかと,そういうようなところで助言をするために運営委員会が役割を担うということですが,これはガバナンスという意味で関わるというのとは違うのだと思うのです。乙案は正にガバナンスを問題にしていまして,甲と乙というのは全然違う観点に基づく案ということになります。私が複数化など信託管理人の制度自体を強化すべきだというのは,ガバナンスの観点からの話でして,乙案における具体的な対応として,そういう形で対応すべきだと思います。そして,以上は,運営委員会という制度にガバナンスを期待するのは適当ではないだろうという考えに基づいています。助言的な役割についての運営委員会であっても,実際上いろいろ付加的な機能を果たしているし,そういうことがあっていいとは思います。ただ,やはり運営委員会は監督機関としては向いていないし,助言的な機関である運営委員会を必置にすべきかというと,それは適当でない。この点が新井委員と違うんだと思います。
○吉谷委員 結論としては丙案賛成です。運営委員会の位置付けとして,まず,助言をする機関であると考えております。その上で,甲案か,丙案かというところでいいますと,信託銀行が従来,同様の助成を行う場合においては,間違いなく運営委員会というものを設置するということになると思います。しかしながら,信託銀行以外の主体がされる場合,あるいは信託銀行が助成でないことをする場合におきまして,運営委員会が必要でない場合というのも想定できるのではないかなと考えております。そのために丙案がいいと思っております。ただ,本日の冒頭に申し上げましたように,受託者がどのように公益事務というのを運営できるのかと,そして監督してもらえるのかという,このガバナンスの問題については受託者が申請をするときに証明をしなければならないと思いますので,運営委員会というものがないのであれば,運営委員会がなくてもできる能力があるということを証明するべきであると考えます。
○林幹事 先生方と同じになりますが,基本的には丙案です。甲案につきましては,助言的な役割については,確かに実務的にはそういうこともあるのでしょうけれども,これは必ずしもパラレルの論点ではないかもしれませんが,私益信託で指図権者を法に取り込むかという論点があり,今のところは別に必ずしも法に取り込む必要はないという前提だと思いますので,公益信託において,誰にどう助成するのか決められないという場面はありえても,それにおいては必ずしも法に取り込む必要はないと考えます。乙案に関しては,結局,屋上屋のようになって,また,その次の人を誰が監督するのかのような議論をしても意味がないように思いますし,能見委員がおっしゃったように,信託管理人についてしっかり権限を与えてガバナンスできればいいのではないかと考えますので,丙案が妥当と考えます。
○沖野幹事 運営委員会については私も丙案が妥当ではないかと思っております。信託の類型によって例えば環境保全のために土地を保有するとか,そういうようなタイプなども考えられ,助言のための運営委員会を必ずしも必要としないものもあるのではないかと思っています。それはそれとして,むしろ確認させていただきたいんですけれども,ここでの「運営委員会等」というタイトルは,飽くまでガバナンスの問題として,受託者に対して助言をする機関を設けることもある意味,受託者がきちんとやるかということを間接的に適正化するという意味もあるのかと思われますが,そのような観点から,これを取り上げるということなのでしょうか。
  考えておりますのは,必置にする必要はないと思うんですけれども,任意的に置くことができるときのモデルとして用意するということは考えられないのかということです。信託法ですと例えば受益者集会などの規律は,用意はしてあるけれども,使うかどうかはそれぞれ次第というものであり,そのようなものもあり得るかと思います。そういうような規律を置くことは,別途,考えられるのでしょうか。それとも,ここで置かないというのは,およそ何ら規定もどの観点からも置かないということなのでしょうか。
○中辻幹事 事務局の方で部会資料を作っていたときには,受益者集会みたいな制度を作ることまでは考えておりませんで,丙案を採るのであれば,モデルとしても法律には規定を設けないとことになるのかなと考えておりました。もっとも,公益信託の個別の必要に応じて信託行為の中で運営委員会を任意で設置することまで不可能にすべきであるとは全く考えておりません。そして,受益者集会のようにモデル的なものを法律で定めるのか,ガイドラインのような形で定めるのか,いろいろやりようはあると思いますので,御指摘も踏まえて検討させていただきます。
○沖野幹事 ご検討いただければと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。沖野幹事は法律の中で定めるというところまでおっしゃっているわけではない。
○沖野幹事 ガイドラインということは余り念頭には置いていませんでした。選択できるモデルとしてあった方がいいのではないかという感覚を持っていたものですから,申し上げました。更に言えば,甲案で設けることを信託行為で定めなければならないという場合の法律の規定の内容について,設けることだけを定めるのか,それとも法律に運営委員会とはこういうものだというより詳細が示されて,それを定めなければいけないのかという点も甲案については検討課題としてあると思うのですが,任意の機関として設けるというようなときに,法律にある程度,モデルとなる制度の中身を書くのか,それともガイドラインで書くのかというのは,可能性としてはいろいろあるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほども議論しました信託法上の利害関係人,私は丙案に賛成なんですが,運営委員会を設けること自体は反対しません。そこでいずれにしても設けた場合には利害関係人に該当するというような立て付けまで考えていらっしゃるのかどうか。そこまでガバナンスに運営委員会が踏み込む必要はないのではないかというのが私の考えなんですけれども,事務局としてはその辺の,甲案,乙案を採れば利害関係人なんでしょうけれども,という点を確認できればと思います。
○中辻幹事 乙案を採るのであれば,運営委員会の委員は公益信託内部の監督・ガバナンスに直接権利義務を有するという意味で,公益信託の利害関係人に入ってくると思います。甲案を採る場合には,運営委員会の委員は受託者に対し奨学金の支給等について助言的な役割を果たすことになりますが,それを前提として委員が利害関係人に当たる場合もあるかもしれませんし,信託事務の内容に応じて異なってくる場合もあるように思います。
○中田部会長 御質問は,丙案を採ったとして,それで任意に設けた場合に運営委員会に利害関係人としての役割も付与することを考えているかということも含んでいたかと。
○中辻幹事 丙案を採った場合について,任意に設けた場合の運営委員会の委員であれば,基本的には公益信託事務について直接に利害関係を有する利害関係人には入ってこないように思いますが,ガイドラインのように公的な立て付けのもとで運営委員会が設定されるのであれば,それぞれの信託における運営委員会の役割にもよりますが,甲案と同様に運営委員会の委員が公益信託の利害関係人に入ってくる可能性はあり得るように思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  丙案を支持される方がかなり多くいらっしゃいまして,あとは甲案あるいは甲プラス乙案という方がお一人ずついらしたと思います。ただ,丙案にしたとしても任意的な機関である運営委員会というものを何らかの形で位置付けることはできないだろうかという御指摘を頂いたと理解いたしました。
  ほかに第6について。
○平川委員 能見委員のように信託管理人を複数置くという案であれば,例えば信託管理人の選・解任を自薦でやるということが考えられるんですけれども,単独である場合で運営委員会を設けないで選・解任の権限を与えないとすると,誰が信託管理人の選・解任をするということになるのか,何かお考えをお持ちの方がおられたら教えていただきたい。
○中辻幹事 信託管理人の辞任,解任,新選任につきましては,受託者のそれと合わせて次回に御審議いただく予定にしております。
○平川委員 分かりました。了解しました。
○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。
  ございませんようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回は公益信託の監督・ガバナンスの残りの部分,公益信託外部の第三者機関として公益信託の認定を行う行政庁や裁判所による監督について御審議いただくほか,受託者及び信託管理人の辞任・解任・新選任,情報公開を御審議いただく予定です。
  次回の日程は,12月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は現時点では未定ですので,後日,開催通知と共にお知らせいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了いたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第34回会議 議事録





 
第1 日 時  平成28年10月4日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時27分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第34回会議を開催いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,小幡委員,松下幹事,岡田幹事,明渡関係官,藤谷関係官が御欠席です。また,多少遅参される方がおられるようです。
  では,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,参考人としての御説明を本日予定しております財務省主税局の田原税制第三課長から,本日の説明に用いられる資料をいただきましたので机上配布しております。
  これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 ただいま,お話がありましたように,本日は参考人として財務省主税局税制第三課の田原芳幸課長にお越しいただいています。第31回会議の際に事務当局から触れられていたところですが,公益信託制度の見直しに当たっては税法の知見を踏まえた上で,検討することが有益であると考えられますことからお越しいただきました。公益信託税制の基礎的な概要について御教示いただけると承っています。
  事務当局から何か補足はありますでしょうか。
○中辻幹事 主税局は現在,大変お忙しい状況にあると聞いており,臨時国会も既に始まっているにもかかわらず,田原課長に本日御説明をいただくことがかないまして,誠に幸いに思っております。田原課長の税制に関する御説明に要する時間は,大体15分程度を目安とされている旨お聞きしておりますが,田原課長には次の所用があることから,今回,質疑応答の時間は特段設けないということになっております。更に税法に関して御関心があるという委員・幹事の方がいらっしゃる場合には,後日,私ども事務当局の方にお伝えいただければ,税法の専門家である渕幹事や藤谷関係官,また,主税局のお力も借りて調査するなどの対応をとらせていただきます。
○中田部会長 ただいまのような事情ですので,本日は御説明を伺うということにさせていただきたいと思います。
  それでは,田原参考人,お願いします。
○田原参考人 ただいま御紹介にあずかりました主税局税制第三課長をしております田原と申します。よろしくお願いいたします。
  本日はお手元の資料に沿って御説明させていただきますが,内容の説明に入る前に税制改正について一言,申し上げたいと思います。毎年の税制改正でございますが,皆さん,御案内かと思いますが,税制改正のプロセスで決定されていくということでございます。新しい制度を税制上,どのように取り扱っていくかということに関しましては,現行税制の考え方を踏まえつつ,政府全体の政策の優先順位でありますとか,あるいは財源でありますとか,そうしたものを総合勘案しつつ,与党等における御議論なども踏まえた上で決定されていくものでございます。そうした意味におきまして,今回の御説明は,今後の税制改正におきます公益信託の税制上の取扱いに何らかの予断を与えるというものではございませんで,あくまで現行の信託税制の解説をさせていただくというものでありますことを御理解いただければと思います。
  早速でございますが,資料の表紙をおめくりいただきまして1ページ目,信託税制の全体像から御説明させていただきます。現行の信託税制でございますが,平成19年度の税制改正におきまして整備されたものでございます。平成18年の新信託法の制定によりまして信託制度が見直されまして,多様な信託の類型を設定することが可能となりました。信託の利用機会が大幅に拡大されることになることを契機といたしまして,平成19年度の税制改正におきまして,一つ目は課税の公平・中立の確保,二つ目は多様な信託の類型への課税上の対応,三つ目は法人税・相続税等の租税回避の防止,こうした観点から信託税制につきまして既存制度の取扱いも含めて見直しを行いまして,信託の性質に応じた課税方法が定められたところでございます。
  現行の信託の課税方法でございますが,こちらの1ページ目にございますように,一つ目は受益者段階で信託収益の発生時に受益者等に課税されるもの,発生時課税をするものでございます。二つ目の類型が受益者段階課税で,受益者が信託収益を現実に受領した段階で課税される受領時課税のもの,三つ目が信託段階法人課税で,信託段階におきまして受託者を納税義務者として法人税が課税されるもの,こうした三つに分類されるわけでございます。
  現行の信託税制におきましては,平成19年度税制改正前の受益者が不特定又は不存在の信託に採られておりました委託者に対する課税につきましては,原則として行われておりません。こうした受益者が不特定又は不存在の信託の取扱いにつきましては,基本的に二つに分かれてございます。
  まず,一つは受益者等に対して課税されるものであります。受益者等課税信託におきます受益者等とは,受益者としての権利を現に有する受益者のみならず,税制上のみなし受益者を含むものでございます。みなし受益者とは,実質的に受益者と同等の地位を有する者をいい,具体的には信託の変更権限を現に有し,かつ,信託財産の給付を受けることとされている者をいうとしております。
  次に,そうしたみなし受益者も存在しないものにつきましては,受益者等が存しない信託といたしまして法人課税信託となります。これには遺言により設定された目的信託などが該当するわけでございます。この類型を法人課税信託として位置付けまして受託者に課税することとしておりますのは,信託の収益の帰属者たる受益者が存在しないため受益者段階で課税できないものの,信託から所得は生じておりますので,これに課税しないことは適当ではないため,一義的な所得の帰属主体であります受託者に課税することとされているものでございます。
  しかしながら,平成19年度税制改正におきましては,一般の公益信託につきましては法人課税信託に該当せず,従前の委託者課税の取扱いを維持することとされてございます。これは新信託法の法案の附帯決議におきまして,公益信託制度については公益法人と社会的に同様の機能を営むものであることに鑑み,先行して行われた公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から,遅滞なく所要の見直しを行うこととされたことから,当分の間の措置といたしまして法人税法の附則において手当てされたものでございます。
  資料の2ページ目を御覧ください。こちらは(認定)特定公益信託制度の概要でございます。現状の公益信託につきましては,税制上,一般の公益信託,特定公益信託,そして,認定特定公益信託の三つに分類されております。一般の公益信託につきましては,公益信託法に基づきまして主務官庁の許可を受けて設定するものであります。
  一般の公益信託のうち,信託終了時に信託財産が国又は地方公共団体に帰属すること,又は同種の公益信託として継続すること,受託者が信託会社等であること,受託者が受け入れる信託財産が金銭に限られることなどが信託行為において定められていることといった税制上の要件を満たすことにつきまして,主務大臣の証明を受けたものが特定公益信託とされるわけでございます。
  さらに,特定公益信託のうち,公益の増進に著しく寄与するものとして,こちらの資料の右の下に①から⑫までございますが,このように列挙されております事務をその目的とする特定公益信託で,相当と認められる業績が持続できることにつきまして,主務大臣の認定を受けたもの,こちらが認定特定公益信託とされるわけでございます。こうした証明あるいは認定の際には,主務大臣は財務大臣と協議することが必要となってございます。
  以降,公益信託の今申し上げました三つの分類ごとに,それぞれ,信託財産の委託時に委託者の所得の計算上どのように取り扱われるか,信託財産の運用により所得が生じた場合に誰にどのように課税されるのかについて御説明させていただきまして,その後に公益信託から給付を受けた場合についての受給者の課税関係,最後に委託者の死亡時に公益信託に関する権利が相続税法上どのように取り扱われるかについて,順次御説明させていただければと思います。
  3ページ目を御覧ください。まず,委託時の取扱いについて御説明する前に,関連する制度といたしまして寄附金税制につきまして簡単に御説明させていただきます。寄附金につきましては,この表は複雑な表ですが,ざっくりと申し上げますと,一つ目は国や地方公共団体などに対する寄附,二つ目が特定公益増進法人などに対する寄附,三つ目が一般の寄附と,このように分類できるわけでございます。原則論で申しますと,法人の支出した寄附金につきましては,事業に関連するものと,要は費用性のあるものとそうでないものがあるわけでございますけれども,そうしたことから一定の基準を定めまして,それによって限度額を定めた上で,その限度額の範囲内の支出額に限り,損金算入を認めるというのが原則論になってございます。
  その上で,一つは国や地方公共団体等,更には特定公益増進法人等に対して寄附金を支出した場合につきましては,法人税法上も所得税法上も公共性などに鑑みまして,一定の税制優遇が行われておると,法人税のところで申しますと,国や地方公共団体についていえば,全額損金算入と,特定公益増進法人につきましては一般の寄附金の損金算入の枠とは別枠で損金算入を認めておると,そういった優遇措置が与えられているところでございます。
  その上で,公益信託に関しまして御説明させていただきます。4ページ目を御覧ください。公益信託に係る税制の概要でございます。まず,①は委託者が個人の場合,②は委託者が法人の場合でそれぞれ表を分けさせていただいた上で,その表の中で横軸が拠出段階と運用段階の2ディメンションになっていて,縦軸が,公益信託,特定公益信託,認定特定公益信託と三つの信託ごとに分けておるわけでございます。
  まず,委託段階,拠出の段階の課税関係について申し上げますと,①と②の表の左側でございますけれども,まず,一般の公益信託について申し上げます。一般の公益信託の委託段階,これにつきましては委託者が個人の場合も法人の場合も寄附金扱いはされないと,すなわち,所得税におきましては寄附金控除の対象とはなりません。また,法人税におきましても損金不算入の扱いとなってございます。
  次に,同じく一般の公益信託の運用段階でございますが,まず,下の②の方でございますけれども,法人税の取扱いにおきましては現行法上,信託財産に属する資産負債を委託者が保有するものとみなしまして,その信託財産に帰せられる収益費用は委託者に帰属するものとして,課税することとしてございます。なお,所得税法上は上の表でございますが,一般の公益信託についても信託財産につき,生ずる所得については所得税を課さないこととされてございます。
  次に,特定公益信託の取扱いでございます。①,②の表の縦軸の真ん中でございますけれども,特定公益信託につきましては,公益信託の信託財産が実質的には委託者の手を離れたものであること,その運営が公正に行われること及び運営の確実性を担保することなどの観点から,税制上の各要件が定められてございます。こうした要件をクリアする公益信託に限りまして,法人税法上は信託財産として拠出された金銭を寄附金とみなすこと,②の表でございますけれども,これは一般寄附金と同じ扱いをすると,かつ委託者課税を運用段階でもしないこととされております。これらの要件を備えました特定公益信託につきましては,委託者が利益を享受することは実際上余り考えられないことなどに鑑みまして,実態に合った取扱いをすることが適当と判断することとされたものでございます。
  また,公益信託の運用時におきます課税に関して御説明することとの関係で,公益法人等の課税対象事業について簡単に御説明させていただきます。5ページ目を御覧ください。法人税法上の公益法人の取扱いでございますが,その行います事業を収益事業とそれ以外に分類いたしまして,営利法人の営む事業と競合関係にある事業であります収益事業を行う場合におきましては,課税の公平性,中立性の確保の観点から,収益事業から生じます所得に対してのみ法人税を課税すると,これを収益事業課税方式と申しておりますが,そうした方式が採られておるところでございます。
  また,4ページに戻っていただきますと,特定公益信託におきましては,そもそも,公益信託は許可審査基準におきまして,その内容は原則として助成金,奨学金,奨励金,寄附金等の支給又は物品の配布であることとされてございます。更に税制上の要件におきまして,受入れ財産が金銭のみであること,更には運用方法も預貯金,公社債などに限定されておりますということでありますことから,収益事業に該当するような信託財産の運用は行われないと,こういう整理になっておるということでございまして,こうしたことを踏まえまして,収益事業課税方式は採られておりませんで,運用時の課税は生じないと,こういう扱いになっておるわけでございます。
  最後に,4ページ目の資料の中で認定特定公益信託の課税関係でございますが,認定特定公益信託につきましては,運用時の課税につきましては特定公益信託と同じ扱いになってございます。他方,委託時につきましては特定公益信託よりも上乗せの優遇措置が講じられております。信託財産として拠出された金銭をまず寄附金とみなした上で,①の表ですが,所得税につきましては寄附金控除の対象となってございます。②の表ですが,法人税につきましては別枠の損金算入の優遇が与えられておるわけでございます。なお,認定特定公益信託の要件は,寄附優遇を認めるには公益目的を限定するとともに,継続性等を担保することが必要となるという考え方から定められているものでございます。
  次に,4ページの2.でございます。受給者の課税関係でございます。公益信託は当初,信託された財産やその運用益などから給付を行うこととなりますが,給付の対象となった者が受けた金銭等につきまして,その者が個人か,法人かによって課税方法が分かれるわけでございます。受給者が個人の場合でございますが,一般の公益信託からの金銭等の受給時に,委託者が個人の場合は贈与税の課税対象となります。委託者が法人の場合,こちらにつきましては一時所得として所得税が課税されることになります。なお,所得税法,相続税法ともに例えば学資に充てるための給付でありますとか,そういった一定の場合には非課税の規定があるわけでございます。
  受給者が法人の場合でございますが,法人の場合は受け取る金額が確定した事業年度の所得として,法人税が課税されることとなると,これが原則でございます。ただ,アスタリスクに書いてございますが,公益信託の給付先につきましては,公益法人等がなることが多いということも考えられるわけでございますが,公益法人等が受給者である場合は,給付された金銭等は通常は公益法人等の課税の対象となります,先ほど申し上げました収益事業から生じた所得には該当しないということでございますので,その場合は非課税となるわけでございます。
  最後になりますが,公益信託につきまして,委託者が死亡した場合の相続税の課税関係について御説明いたします。相続税法におきましても,一般の公益信託につきましては従前の委託者課税の取扱いを維持することとされているところでございます。委託者が死亡した場合には,その相続人等が公益信託に関する権利を委託者から遺贈により取得したものとみなされまして,その権利は相続税の課税対象となるわけでございます。ただしでございますが,公益信託が特定公益信託の要件を満たすものである場合,4ページの表上,①の下の二つ目のアスタリスクに書いてございますが,特定公益信託の要件を満たす公益信託につきましては,その信託に関する権利の価額はゼロとして取り扱うと,このように定められておるわけでございます。
  簡単でございますが,私からの説明は以上でございます。
○中田部会長 田原参考人,どうもありがとうございました。
  頂戴しました御説明をそしゃくして今後の審議の参考にさせていただきます。
  それでは,本日の審議に入ります。本日は部会資料34について御審議いただく予定です。具体的には途中休憩の前までに部会資料34のうち,「第3 公益信託の認定の主体」まで御審議いただき,午後3時半頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定しています。休憩後,「第4 公益信託と目的信託の関係」について御審議いただきたいと思います。
  部会資料34の第1と第2は,前回の審議で受託者に関する認定基準と信託事務に関する認定基準について御審議いただいたのに続くものです。まず,「第1 信託財産に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  まず,「第1 信託財産に関する認定基準」のうち,1の「公益目的の信託事務の遂行見込み」について御説明します。本文では「公益信託の信託財産の運用,追加信託及び寄附金等の計画の内容に照らし,その公益目的の達成に必要な信託事務を遂行できることが見込みがあること(信託財産の取崩しを内容とする場合にはその存続期間を通して信託事務を遂行することができる見込みであること)を認定基準とする規律を設けることでどうか。」という提案をしています。
  公益目的の信託事務を遂行できる見込みがないような信託を公益信託として認定する必要性は認め難いことから,信託財産に関する認定基準として,このような認定基準を設けることを提案しています。なお,信託事務の遂行可能性を検討するに当たっては,設定当初の信託財産に限定することは相当ではないことから,このような限定は付さず,信託財産の運用のほか,追加信託や寄附金等の計画の内容も考慮して判断することとしています。もっとも,信託財産の運用の概念及びその許容される範囲については,特段異論のないものと思われる預貯金や国債などの安定的な運用を超えて,どこまで許容されるか否かなどの論点があります。公益目的の信託事務の範囲の論点とも関連しますが,本論点においても御意見等を頂ければと存じます。
  続いて,第1の「2 遊休財産の保有制限」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益目的の信託事務のために現に使用されておらず,かつ,引き続きそのために使用される見込みのない遊休財産の額が一定の額を上回るものでないことを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,「公益目的の信託事務のために使用しない財産を受託者が当該公益信託の信託財産として保有することを禁止する規律を設ける。」,丙案として,「受託者の遊休財産の保有制限に関する規律は設けない。」という提案としております。
  公益信託の受託者が,委託者から受領した信託財産等を自らの下で蓄積し,長期にわたり公益目的の信託事務の遂行に使用しないと,本来公益目的に使用されるべき財産の死蔵につながり,資金拠出者の意思にも反するため,公益法人認定法の規律を参考に,甲案のような提案をしております。
  これに対し,公益信託の受託者が,公益目的の信託事務のみを行い,それ以外の信託事務を行わないとした場合には,そもそも公益目的の信託事務のために現に使用しない財産を保有する必要はないことから,そのような信託財産の保有を禁止するとの考え方があり得るため,このような考え方を乙案として示しています。もっとも,乙案に対しては,公益信託の事務の円滑な運営・遂行を阻害するとの批判があり得ます。
  以上に対し,そもそも受託者の遊休財産の保有制限に関する認定基準を設けることは不要であるとの考え方があり得るため,丙案を示しております。もっとも,丙案に対しては,収支相償又はペイアウトルールなどのこれに代わる認定基準についての規律や,監督機関等による事後チェックが適切に機能しない限り,信託財産が公益のために使用されず,死蔵されるおそれが残るとの批判があり得るところです。
  なお,公益法人制度における収支相償と遊休財産規制の相違点について補足いたします。部会資料5ページの(注)に記載しておりますが,収支相償はフローの面からの規制であり,遊休財産規制はストックの面からの規制となっているといった違いがあるほか,収支相償については公益目的事業のみが対象となりますが,遊休財産規制については法人全体を対象とするなどの違いがございます。
  また,前回の部会において議論させていただきましたペイアウトルールにつきまして,部会資料7ページ以下にアメリカにおけるペイアウトルールの説明を補足いたしましたので,参考にしていただければと存じます。
  第1の「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと(例外として,当該株式等の財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する)を認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
  まず,公益信託の受託者が,信託財産に含まれる株式等を用いて実質的に営利事業を行うことを防止する必要がある一方,公益信託の信託財産として株式を全く保有できなくなることは相当ではないことから,公益法人認定法の規律を参考にして甲案を提案しております。もっとも,甲案を採用する場合には,公益法人制度とは異なり,受託者は複数の信託を受託できる上,受託者自らの固有財産も保有していることから,例外要件の「実質的に支配するおそれ」の有無の判断に当たり,当該公益信託の信託財産に着目すべきか,あるいは受託者に着目すべきかについて検討する必要があります。この点についても併せて御審議いただければと存じます。
  これに対し,公益信託の信託事務を公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務は行わないとする場合には,収益事業等を行うことが可能な公益法人に比べて,公益信託の受託者が信託財産である株式の議決権を行使するなどして営利法人等を実質的に支配するような事態が生じる可能性は相対的に低くなると考えられることから,甲案のような認定基準は不要であるとの考え方があり得ますので,それを乙案として示しております。
  第1の「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託の受託者が公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産があるときはその旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような規律は設けないという提案をしております。
  公益目的の信託事務を行うために不可欠な特定の信託財産がある場合,その信託財産を受託者が処分してしまうと,公益信託の信託事務の遂行に支障が生じるおそれがある一方,処分を一切禁止するなどの必要以上の規制を及ぼすことは,受託者の行う信託事務を過度に制約することになる懸念もあることから,公益法人認定法の規律を参考に不可欠特定信託財産がある場合には,信託行為にその旨並びにその維持及び処分について必要な事項を定めておくことを認定基準とする規律を設けることを甲案として示しております。
  これに対し,信託法の解釈として公益目的の信託事務の遂行に必要な不可欠特定信託財産を受託者が処分できないことは当然である上,公益信託の認定基準が煩雑になるという懸念から,甲案のような認定基準は不要であるという考え方があり得ますので,乙案のような考え方を示しております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。4点ありますので順にお願いいたします。まず,「1 公益目的の信託事務の遂行見込み」,これについていかがでしょうか。
○道垣内委員 重要な議論がなされる前に形式的な話をしておきたいのですが,これから申し上げること自体は,実は公益信託法改正研究会報告書の中でも同じ言葉が使われており,かつ私もメンバーでありましたので,本当は若干申し上げにくいのですが,追加信託という言葉を用いるとき,その意味について信託法の中で定義されていないことが気になります。恐らくここで書いていらっしゃるのは,信託の設定当時から例えば1年後,半年後にはこういうお金が入ってくるとか,更にこういうふうなことをするとかといった計画がされているという場合を念頭に置かれているのではないかと思うのですが,信託法の実務において追加信託という言葉が用いられるときは,予定されていなくても信託財産を追加的に支出するということを広く含めていますよね。
  そのような財産の追加的支出がどのような法的性質を有しているのかは,実はよく分からないところであり,いろいろ,議論もあり得るところだと思います。したがって,要綱において,財産の追加を意味する言葉を用いなければならないときは,例えば信託設定後における信託財産たる財産の追加予定とか,まあ,この例も「追加」と言ってしまっているので問題があるかもしれませんけれども,少なくとも「追加信託」という言葉を使うことは避けた方がよいのではないかと思います。細かい点なので最初に発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  表現については最終的にまた御検討いただくことにいたしまして,今日,この場では取りあえず,追加信託という言葉もお使いいただいても,最終的にまた調整させていただくということになろうかと存じます。いかがでしょうか。
○小野委員 先ほど運用の話がございましたけれども,前も同じような発言をしましたが,運用という言葉自体が信託業法の適用とか,金商法上も使われている用語でもありますから,後半の金銭を特定の信託財産に変更する場合も,運用という広いくくりの中で議論しない方が,言葉だけの問題ですみませんけれども,よろしいかと思います。業法規制等をかけない場合の弊害等を懸念する議論があるのかも知れませんが,信託行為の中で金銭の使途等明示しておくということで対応できると思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 1の提案には賛成でございますが,ここで公益目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあると書いてある部分の解釈について,少し確認的に議論させていただきたいんですけれども,従来の助成型の公益信託は当初信託財産がほとんど金銭であったというところ,今回の改正で当初の信託財産を株式とするような助成型の公益信託ができるようにしたいと考えていることを従来から申し上げておりました。
  その株式などを当初の信託財産にした場合には,恐らく二つぐらいパターンがあって,株式を売却して助成資金にするという場合と,配当を助成に使うという場合があると考えています。後者の配当を使う場合なんですけれども,株式の配当ですので,当然,0%ということもあると思います。そうすると,その場合には事務遂行の見込みがあると言えるためには,配当のみを原資にするというような形で最初に決めてしまう,事業計画をそういうふうに作ってしまうと,助成できないということが考えられるわけですので,配当が0なのであれば,株式を売却して助成を行うというような事業計画である必要があるのではないかなと考えております。そうでなくて,0のときは助成しなくていいですよとしてしまうと,株式の内容によりましては全く助成をしないままに期間が経過してしまうということもあり得るわけでして,そうしますと,次の遊休財産との関係でも財産が死蔵されてしまうのを認めるようなことにもなりかねないと思いますので,そのように考えた方がいいのではないかと思っております。
  あと,資料の3ページ目の下から3行目辺りのところで,存続期間について記載されております。ここで書いていますように10年未満を予定している公益信託であっても,これを排除する必要はないという点には賛成でございます。その次の「もっとも」以下に書いている部分ですけれども,ここも重要ではないかと考えておりまして,余りその期間が短かすぎるであるとか,財産の金額なのか,あるいは配当が小さすぎるのかですが,公益のために供される信託財産の規模が余りにも小さいというようなものを認めるというようなことがありますと,公益認定自体に社会的なコストが相当掛かるということを考えますと,余り小さなものまで認めてしまうのはいかがなものかとも考えているところです。金額の規模が幾らだったら適切なのかというのは,なかなか,この場で申し上げにくいのですけれども,そういうことも配慮が必要ではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 これから事業型の信託も認められていくということで,例えば美術館だとか,博物館みたいなのを念頭に置いたときに,こういう基準の下でどう判断するのかという点について述べたいと思います。結論を申し上げますと,そういう事業型の場合には恐らく永久に続くといいますか,特に年限を決めないで博物館なんかでしたら続くということを予定するのが一般的だと思いますので,そういう下で信託事務が遂行できることの見込みというのを余り厳格に判断すると,なかなか,クリアするのが厳しいのだろうという観点からの発言です。
  事業型の博物館,美術館なんかを考えますと,恐らく建物であるとか,あるいは絵であるとか,それから,一番問題はそれを運営していく資金というのをどうやって調達するかというところの計画なのだと思います。当初に相当まとまった金額が信託財産として確保できればいいわけですけれども,そう簡単ではないでしょう。博物館とか美術館が年間どのくらいの経費が掛かるのか分かりませんけれども,1億円だとか,そのぐらい掛かるとすると,それを確保していく,そういう仕組みを作れということを要求するのだと思いますけれども,基本財産の運用利益だけでやっていくというのはなかなか難しいでしょう。寄附とかも当てにしなくてはいけない。美術館に関連するものを売ってもその収入はたかが知れている。そういう下で「公益目的の信託事務の遂行見込み」というのをどう判断するのかということが問題です。恐らく寄附というのは相当多く見積もらないとうまくいかないのではないか。
  寄附は,それほど確実に入るものではないわけですけれども,そういうものを当てにして大体年間の運用経費はこんな方法でもって調達することを予定していますというような計画でいいというのであれば,事業型は成り立つと思いますけれども,そうではないと,なかなか,厳しい。従って,事業型も可能なように,そこら辺の運用をそれほど厳しくしないようにするのがいいのではないかと考えます。
○林幹事 日弁連の議論では,この要件については見込みがあることではなくて,消極的要件にして,見込みがない場合に認定から排除すべきというのが一致した意見でした。先ほどの御説明では,見込みがないものは排除すべきであるという趣旨であったと思いますが,端的にその旨を規定した方がいいのではないかと思います。見込みがあることを要件としてしまうと,運用や扱いによっては見込みの精度が相当高くないと,認めない方向に働いてしまうのではないのかと考えられます。先ほどの先生方からの厳格にすぎるとうまくいかないのではないかとの御指摘と問題意識は同じで,排除したいのは明らかに見込みがない場合と考えますので,端的にその旨を規定すべきと考えます。
  この点,民事再生法第25条3号は,民事再生手続の開始申立に対する棄却の要件として,再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるときを棄却事由としていますので,そのような規定の仕方がベターであると思います。この規定は明らかなときという消極的要件としており,弁護士会では,見込みがないことが明らかなときに排除したらよいとの議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほど吉谷委員が発言された信託財産の規模と期間ですけれども,公益信託の目的によって判断すべき事柄であって,一概に小さいからいけないとか,短いから問題だという話では,もちろん,信託銀行が受託者となるときには,営業信託として小さい金額を受託することはできないかもしれませんけれども,それは担い手とかにもよると思います。例えばということで例を挙げると,何か災害だったりすると当初の半年,1年という期間が一番重要で,それが数年たってくると,だんだん,違ってくる状況になりますから,その間に集中して公益信託的な目的で何かをするというのは,誰もが想像し得ることと思います。
○平川委員 御提案の公益信託目的の達成に必要な信託事務を遂行することができる見込みがあることを要件にすることには,基本的には賛成なんですけれども,林委員と軸を同じにするところがあるんですけれども,当初信託財産や信託財産の運用については,基本的には受託者の責任として,受託者の自由な判断に委ねられるべき問題ではないかと思いますので,規律は必要最低限にするというスタンスで臨むべきだと思います。ですから,信託事務を遂行することができないということが,余りにも明らかなものを排除するという程度の規制であるべきだと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 存続期間ということにつきましては,現行の公益信託でも向こう3年とか5年とかの計画をお示ししているとは思うんですけれども,必ずしも何年とか,永久に続くとか,初めから決めているわけではないので,事業型だから永久に続かなければならないということもないと思いますので,ここの期間を通してというところが何か厳密に読まれるので,今のような御議論になっているのではないかなと思いました。当初,数年分の計画を出して,それはまずできるんだというようなことが確認できれば,それでよろしいのではないかなと思います。
○中田部会長 最初の方に道垣内委員から追加信託という用語について,そして,小野委員から運用という概念について,それぞれ,御指摘いただいたわけでございますが,これらについてもしお考えがございましたら,お示しいただければと存じますけれども,いかがでしょうか。
○吉谷委員 運用の考え方については,以前も申し上げたのと同じ内容ではございますが,当初の信託財産を別のものにどんどん変更していくというようなものにつきましては,株式のような投資商品であっても,あるいは不動産のようなものであっても,かなりリスクを伴うことになると思いますので,そのようなリスク判断の難しさというものがあるということを認定においてどう考えるのかということがあるかと思います。専門家の関与というものも必要になってくるかと思いますし,そのような専門家が関与することによって,報酬もかなり上がってくるということもあるかと思いますので,信託協会の議論では余りこのような財産の変更をどんどん行っていくというような運用については,慎重に考えた方がいいのではないかなというような議論が出ておりました。信託銀行自身は運用の専門家ではあるわけですけれども,一方で,業として行う場合には一定程度の財産がなければできないというような問題もあると考えております。
○能見委員 中田部会長の言われた用語についてですが,まず,「追加信託」という用語に関しては道垣内委員のおっしゃるとおりだと思いますけれども,ここで問題となっているのは公益信託における追加信託で,新たに信託財産が追加されても受益者が出てくるわけではないので,問題は比較的単純なのだと思います。要するに信託財産として増えるということなので,したがって追加信託が定義されておらず問題であるというならば,この表現を避けて,信託財産の増加というような言葉に変えればいいのではないかと思います。これが受益者がいるような信託ですと,単に財産が増えるのか,追加信託ということで委託者がいて,また,受益者がいるとかいうことになると,信託の関係当事者が影響を受けますので,追加信託の意味を厳密にしなくてはいけないと思いますけれども,公益信託の場合には,そのような問題がないので,先ほど言いましたようにちょっと言葉を直すことでいいと思います。
  それから,「運用」に関してですが,今議論しているのは,認定の際の基準として考えていると思いますので,その意味では,先ほど吉谷委員が言われたように,公益認定を申請する際には,計画を作るだけなので,公益信託が成立した後に次から次へと財産が変わっていくという意味での運用,そしてどのような運用が許容されるかといったことは,少なくとも最初の段階では問題にする必要がない。ただ,認定の基準だといっても,その後に監督するときの基準でもあるというお話でしたので,ただ,両者は本来,分けて考えるべきだと思いますが,そういう運用の段階での基準として考えたときには,運用という概念についてもう少し厳密に議論し,規制するのかしないのか,そこら辺を検討する必要があるのではないかと考えます。
○小野委員 私の先ほどの発言に関連して,先ほど吉谷委員がおっしゃられた金銭を株式に変えることはいわゆる運用であって,あと,金銭の運用として,例えば,あり得るかどうか分かりませんけれども,不動産投資として,アパートを建てるとか,不動産の賃貸業をする,それも一つの運用だと思いますけれども,私が申し上げた趣旨での信託財産を別のものに変更するというのは,例えば福祉絡みといいますか,社会的な弱者絡みでいえば,子ども食堂とか,例えば運転資金として給与を払うとか,また,場合によっては新たな備品を買う,場合によっては子ども食堂のため新たに不動産を買うとか,いずれにしても当初の公益信託の目的の範囲内において,資金使途がある程度,明確になっているような形での,だから,運用ではないはずですけれども,資金の利用を指しています。ただ,多分,ここでのくくりとしては,そういうのも含めて当初金銭が他の財産に変更することを変更と呼んで運用に含めており,金銭運用業みたいな運用と,資金使途を明確にした形での資金の利用をどちらも変更という形で記述されているのかと私なりに理解して先ほど発言しました。ですから,吉谷委員のおっしゃっていることはちょっとずれがあるかと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 私の発言も誤解を招くかもしれないと思いましたので,私の方はむしろ計画を立てる段階で株式であるとか,不動産とかに変えることによって,そこから収益を大きく得ることを前提としたような計画を立てることには,慎重であるべきではないかというふうな趣旨で申し上げたところです。
○新井委員 追加信託及び寄附金等という用語ですけれども,まず,追加信託という言葉については道垣内委員の指摘があったとおり,私もこれは避けた方がいいのではないかと思います。というのは,追加信託ということになると,特に委託者の地位をどう扱うのか,当初の委託者と追加信託の委託者の地位をどう扱うのかという,また,難しい問題も出てきてしまうからです。両者とも信託目的を設定したものですが,そこに微妙な差異があったらどうするかというようなこともあると思います。寄附というのは,実際の公益信託でも使われて,結構,たくさん例もありますので,せいぜい,寄附金という用語にしておくのが妥当ではないかと考えます。
○中田部会長 この1については様々な御意見を頂きましたが,大体の方向はこういうもので良かろう,しかし,認定基準の設定に当たって過度に厳格なものにならないようにという御意見を何人かの委員・幹事から頂戴しました。また,用語については追加信託という言葉は適切ではないだろうという御指摘,それから,運用という言葉は概念が幾つかあるようですので,今回の部会資料でもかなり整理されてはおりますけれども,更にそれを詰めていく。それから,寄附という言葉についても今,新井委員から御指摘いただいたようなことがあろうかと存じます。1については,大体,この辺りでよろしいでしょうか。
○道垣内委員 運用について概念を詰めるということでおまとめいただいたので,それで結構なのですが,ここの第1の1で出てきているこの文は,公益目的の信託事務を遂行するために必要な資金をどうやって得るか,それが十分にあるかという視点から書かれているわけですよね。そうすると,ここでの運用というのは,恐らくは吉谷委員がおっしゃったように,必要な信託事務を遂行するための原資が十分にありますかという話なのだろうと思います。運用という言葉を詰めるということも必要ですが,第1回目からの審議との関係で申しますと,運用という概念が多義的になる可能性があるのだろう,規律の目的との関係で,活動を制限する,あるいは認めるという意味で運用という言葉を用いることもあるわけで,その規律における意義との関係と意識しながら,概念を整理していただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 手短に言います。追加信託に関して法律上の概念の問題とか,委託者の地位の扱いとか問題点の指摘があり,とすると,信託は1回限りであとは信託財産で取引すればよいという議論かもしれませんけれども,そうすると課税関係も異なる可能性もあるかと思いますし,あと,当初の信託設定行為で足りないものがある,また,委託者が何か当初信託財産である不動産のほかにもう一つ追加するとか,そのときに追加信託が認められたら,メニューとしてはふさわしいように思うので,そういう趣旨で部会長は発言されたと思います。追加信託そのものを法律上の不明確性から排除するということにはならないように,多彩なメニューで対応できるように,なおかつ,税法上もそれで対応できるようにというのが,より公益信託を活性化するために必要ではないかと思います。
○道垣内委員 例えば私が公益信託を設定するが,私の余剰資金は1年間に1億円あるので,10年間,1億円ずつ拠出しますと最初に定まっているということになりますと,10億円の拠出義務を設定したところの信託契約というのが最初から存在していて,それが分割給付になっているわけですよね。追加信託というのが,そのことを指しているのか,それとも,小野委員がおっしゃったような,その後にどうも足りないねとか,あるいはもっとこの公益信託を大きくしたいよねといって追加するというふうな場合を含んでいるのか。後者を含むと,実は公益認定の段階で判断できるような事柄ではないだろうと思います。
  したがって,ここを読んだときには,それは前者の分割給付のようなものだけを含んでいるのだろうと理解した上で,そうならば,それを追加信託と本当に呼ぶことがこれまでの用語法に合っているのでしょうかという問題を立てたわけです。どういったものまで認めるか,そして,認めることと,それを公益認定において考慮するというのはまた別問題です。仮に,今議論している規律において,考慮されないということになったときには,およそ,この公益信託をより大きくしようとするための追加拠出が認められないことになるのか,というと,そうではない。そういったことを踏まえて概念整理をしていただければと思います。
○中田部会長 それでは,今,頂いた御注意を参考にしながら更に詰めていきたいと思います。
 では,続きまして「2 遊休財産の保有制限」について御審議をお願いいたします。
○渕幹事 ここで「使用」ということはどう定義されているのでしょうか。例えば不動産があって,その不動産を学生寮として使うというようなことで,例えば普通に借りたら,毎月10万円ぐらいの学生寮に,学生をただで住まわせるというようなことをした場合,多分,それは不動産自体を「使用」しているということになるというような気がします。他方,10億円ぐらいを普通預金に預けていて,その利子を奨学金にするというような場合,それは10億円を「使用」しているということになるのかというと何か違うような気もいたします。この辺りについて御説明いただければと思います。
○中辻幹事 渕幹事が例として挙げられた信託財産である不動産を学生寮としてそこに学生を無料で住まわせている場合には,信託財産を公益のために使用していますので,遊休財産規制には該当しないことになります。また,奨学金給付のために信託財産として預けた金銭が1億円あって,それが信託設定の段階で手つかずに残っていたからといって直ちに遊休財産の保有制限に違反するということはなく,事業計画に沿って奨学金が配られるのであれば,その信託財産は公益のために使用される見込みがあることから,遊休財産規制には該当しないことになります。
○渕幹事 分かりました。1億円が減っていって,最終的にゼロになるということであれば,もちろん,使用されるということなのかなと思いますが,例えば,1億円の元本が減らないで利子だけをひたすら使っていくというようなことでも,使用されているということになるという理解ですね。
○中辻幹事 1億円の利子を使って公益目的が実現できるのであれば,その1億円は遊んでいるわけではありませんから,遊休財産規制には該当しないということになります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○深山委員 甲案,乙案,丙案とありますので,まず,結論から申し上げると,乙案の言葉の使い方はともかくとして,考え方としては乙案のような考え方をベースにしてよろしいのではないかと思います。前回の議論で収支相償の基準を設けるかどうかという議論の際に,その必要はないということを申し上げ,なおかつ,公益のために提供された財産がいわゆる死蔵されたような状態になることは避けるということについては,別途,遊休財産の保有制限のような規律でということを申し上げました。そういう意味では,前回の発言の延長として,およそ公益目的に使われないような財産を公益信託財産として存在させ続けるのは,考え方としてよろしくないだろうという意味で,乙案のような考え方は一つの認定基準になり得るのかなと思っております。
  ただ,使用という言葉の議論などにも関連するかと思うんですが,何をもって使用している,していないを判断するのか,あるいは遊休財産という評価を与えるのかどうかという,そこが正に重要でありまして,現に使っている場合は問題ないわけですが,現に積極的に使われていないように見えるものであっても,将来,使うことが予定されているとか,そういうものであれば,ここでいう遊休という評価には当たらないのだろうと思います。
  先ほど出た例でいえば,1億の財産のうち,年に1,000万円ずつ使うのだとしたら,残りの9,000万は最初の1年目は使われていない財産ですということは誰も言わないと思うんですが,そういうことから始まって,例えば積極的に今,使っていない不動産があると,土地があるというときに,それはいずれ何らかの目的で使う予定があるとか,あるいはそれを換価して金銭にした上で使う予定があるとか,いろいろな計画がそこに存在すれば,よほど荒唐無稽なものでなければ,直ちに使っていなくても,それは使う予定の財産という意味で遊休財産という評価は与えられないと,こういうような運用といいますか,実務になるのであれば,さほど,規制を設けたからといって不都合はないのではないか。むしろ,公益信託という制度の趣旨,理念からすれば,一つの考え方としてあっていい基準ではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 本件の遊休資産の保有制限等のいわゆる財務基準につきましては,基準の全体並びに基準間の相互の関係が問題となり得ることから,その是非の判断をいずれかの段階でトータルに検討すべき問題ではないかと思いますが,本件の遊休財産の保有制限については,公益信託であれば,まずは自由で在るべき丙案に賛成します。また,公益信託につきましては,受託者は公益信託事務のみを行い,他の信託事務は行わない構成とすべきと考えておりますので,他の信託事務からは遊休財産の発生が想定されないため,この点からも遊休財産の保有制限に関する規制は必要がないと考えています。
  ただし,先ほどトータルに検討すべきと最初に申し上げましたけれども,収支相償について第33回検討案中,第3の「信託事務に関する認定基準」の「4 収支相償」についての規制は入れないという場合を採用する場合には,内部留保を不当に積み立てる弊害を排除するために,収支相償に代わって遊休財産の上限を,例えば年間の公益信託事務の費用の3年分程度を上限とするという規制を設けるということが考えられると思います。公益法人制度の場合には1年分となっておりますが,もう少し融通性を持たせて3年分程度が考えられるのではないかと思います。
  収支相償規制は事業を行っていれば,収支がとんとんでいくということを維持するということは,非常に実務的に難しいところ,これを要求している点で実務的対応がなかなか苦慮しているところなんですけれども,その縛りをなくして内部留保をどの程度規制していくかということについて,その限度は一定程度設けるということは考えられると思います。遊休財産をいたずらに内部留保してはいけないということ自体は分かるんですけれども,公益法人の場合のように遊休財産の1年分というのは余りにも少ないですし,アメリカなんかでは内部留保がある方が信用力のある公益団体であるとも認められているわけですので,そういう点を考慮しても内部留保は全然駄目だとかいうことではなく,収支相償との関係で一定限度の上限を設けるということも考えられるけれども,基本は丙案で自由で在るべきというスタンスをキープするような規制にしていただきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○能見委員 収支相償の話が出たので,前回,一応議論したわけですが,もう1度確認しておきたいと思います。収支相償は,今回の部会資料の説明の中にも出てきますけれども,公益法人の場合には公益目的事業の会計のところでの収支相償であって,収益事業の方については要求されません。収益事業の方については,その50%以上は公益目的事業の方に使わなくてはいけないけれども,その残りは使わなくて良くて,ただ,そこは法人課税が適用される,というものです。
  ただ,この収益事業会計の部分には収支相償原則が掛かりませんので,公益法人の場合には,理論的には財産が増えていく可能性がある。そういう構造に公益法人の場合はなっているわけです。したがって,公益目的事業についての費用が足りないときには,収益事業の方でたまっているものを使えばいいわけですが,公益信託の場合には収益事業は行わない,公益目的事業しかやらない,そういう構図の下で収支相償というルールをかけると,継続的な公益信託を行っていく上でこのルールは,非常に大きな制約となります。非常に公益目的の事務を遂行することを困難にするだろうと思います。そういうことになるということを前回,申し上げました。
  そういう考え方から,収支相償の原則は採用しないのが望ましいと思います。そのうえで,今,平川委員が言われたように,収支相償原則がないことで公益信託の財産が内部留保という形で増えていくことを認めるのも適当でないので,それについては別途何らかの規制が必要なのではないかということであります。私も何か規制があった方がいいと思いますけれども,これも余り厳しい規制ではないのが望ましい。アメリカのペイアウトルールを見ますと,これも厳しいかなという感じがしますので,日本の公益信託にふさわしい何かルールを考えればいいのかと思いました。以上が収支相償との関係での発言です。
  次に,遊休財産の保有制限についての甲,乙,丙案ですが,今の考え方からすると,甲案に類するもので何か緩いものを考えるということなのかもしれません。乙案は,確かに公益目的事業に関係ない財産を保有するということは望ましくないということは一般的には言えます。例えば助成型の公益信託で絵を保有するとか,そんなようなことなんだと思いますけれども,しかし,これも認定基準のところで規制する必要は必ずしもないと思います。不要な財産を保有しているということ自体が恐らく公益信託の受託者にとっての善管注意義務なのか,何かの義務違反になる可能性もありますし,内部的なガバナンスで対応すればいいのであろうと思います。これは駄目で,これはいい財産だということを認定の段階で区分けをすること自体もなかなか難しいと思いますので,内部的なガバナンスで対応すべきなのではないかという感じがいたしました。
  それから,もう1点は,これで最後にしますけれども,ここでの規制といいますか,基準を認定段階での基準として考えるべきなのか,あるいは運用段階の基準にすべきなのかという点を検討した方がいいだろうと思います。遊休財産の保有規制はむしろ公益信託成立後の運営段階の問題ではないかという感じがいたします。そして,公益信託成立後の問題であるとして,そこで仮に何らかの基準を設けて監督するとしても,それに違反した場合に認定取消しになるような問題ではないのではないか。基準を超える財産については,それを使わせればいいことなので,そういう緩い効果を持った基準として考えるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論では,単位会レベルでは丙案の意見がそれなりに多かったかと思いますが,資産を無用にため込んだり,死蔵させることは避けるべきであるので,そのためにはどういうルールがいいのかということと,収支相償については余りよろしくないと考えるので,それに代わるルールは何かとの観点からを考えることになると思います。また,設定当初に,この資産は信託目的に使わないというものを明らかに持っているようなものは認める必要はないので,そうしたものは当然排除するのでしょうけれども,この乙案でも,信託設定後に信託を動かしているときにどう規制するというのも含めたものになると,やや厳しいという気もします。
  それから,一番問題と考えるのは遊休財産というのの概念がそれなりに曖昧である点です。不動産を事実上持っているとか,預金を置いているという,それだけで遊休とされてはならないところであり,そうした認識は一致しているようですが,それを適切に規定することができるかという問題点はあります。
  この論点では,本質的には公益信託の活動をいかに活発にするかというところにもあると考えられるので,その点何らか工夫できないのかということはあります。そう考えたときに,緩やかなペイアウトルール的なものというのは,個人的には考えられるかと思いました。ただ,まだ,具体的な規定のイメージは持てておりません。いずれにしても,これに違反したから取消しではなくて,そこを是正すれば公益信託を続けられるものにすべきだという,能見委員もおっしゃった点は,私も同じ意見です。
  部会資料の7ページ等にアメリカの例とかも頂いていますけれども,ため込みすぎるとペナルティがかかるとかいうようなこともあるかもしれません。場合によっては,そこは課税するというペナルティもあるかもしれません。
○吉谷委員 甲,乙,丙でいいますと甲案には反対です。その趣旨としましては,甲案というのは公益目的の信託事務に使用しない財産を持つということを認めるルールであると理解しました。全ての信託財産を公益目的の信託事務を行うために,使用するのであるということを前提にすべきではないかと考えました。使用するの定義はまた難しいのですが,計画の中で何らかの使用をするということが分かっているかどうかということではないかと理解しております。恐らく助成型と事業型に分けて考えた方が分かりやすいのではないかと思いました。
  まず,助成型は,元々,一時的に金銭が増えることは,それほど問題視されないのではないかとは思うのですが,信託契約や事業計画で計画外に試算の増加が生じた場合には,速やかに換金をして年間の助成額を増加するであるとか,あるいは,元々,10年ぐらいで財産がなくなる予定であったところを信託期間の延長をするとか定めておいて,資産の増加への対応方法をあらかじめ決めておくということとしておけば,資産が増加しても,それは一時的なものにとどまるわけでありまして,余り問題にならないだろうと考えました。
  一方で,事業型につきましては,計画外の資産の増加が生じた場合には,その資産をどのように使うかというのは明らかではないわけですので,その解消のためには事業計画の変更をしなければならないのだということだと思います。そのため,一定の期間内に事業計画を変更して,増加した資産の処分方法を決定するというプロセスが必要なのではないかと。そのような計画が立てられないのであれば,同様の目的の公益法人や国であるとか地方公共団体に寄附をしても,別に構わないのではないかなと思います。
  乙案というのがそのような計画の変更等で対応する,あるいは当初に決めておくことで対応するというような趣旨であるとしましたら,乙案に賛成であるということです。ただ,乙案の場合は計画外の資産の増加があり得るということを認めてないかのようにも読めなくはないので,そこは明確にした方がいいのではないかと。
  それで,丙案につきましては,趣旨としては同じなのですけれども,例えば信託財産の範囲の規律の中で,信託財産は公益目的の信託事務に全て使用するというような趣旨の規律が設けられて対応できるとか,あるいは事後的な監督段階での規律が設けられるということであれば,乙案でなくても丙案でもいいのではないかと考えております。
○小野委員 控除対象財産というものがどういうものかということの質問なんですけれども,財団であれば基本財産が当然ありますし,また,それ自体,存在すること自体に意義があると思います。最終的には公益目的のために利用することになるでしょうが,財団継続中には実質的な意味においての会社における資本金みたいなものであって,取引の安全性とか,また,例えば,そこで働く方々,給与債権とかの引当てに最終的になるわけで,そういう意味において遊休資産がそもそも駄目というのは適切ではないと思います。恐らく私の勝手な想像ですけれども,この規定が入ったのは既存の財団法人の中で,そういう遊休財産を非常にため込んでいるものがあったりして,それが公益認定を受ける際に吐き出すような仕組みを採りましょうという観点から,ある意味では特定の一般法人の公益認定の移行における特殊性から出てきた議論のように感じます。そういう観点も控除対象財産の中に,そういう広い意味での公益目的というんですか,信託自体がよって立つ財産という意味において,そういうのもあってしかるべきではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど平川委員がおっしゃったことと関連して,3年ぐらいの遊休資産というものがいいのではないだろうかというので,いろいろな例を考えていたんですけれども,例えば私が,パラリンピックで頑張った人にとにかく報奨金を出すというようなものを公益信託で作りたい,きっと誰も反対はしないと思うんですけれども,パラリンピックは4年に1度なんだから,3年の間はきっとそのための資産を積み上げということになりますよね,何らかの形で。それを運用というのか,何だか分からないけれども,とにかく,その間は支出しないということになると思うんですけれども,そういう例を考えてもいいかどうかということを思い付いたものだから確かめたいと思いますが。
○中辻幹事 樋口委員御指摘のように,パラリンピックの報奨金の積み上げを3年単位とするということは考え方としてあり得ると思います。公益法人では遊休財産と比較する公益目的事業の費用額を1年分と少な目にしているが,柔軟性を持って3年分程度とすべきではないかという平川委員の意見を,樋口委員も支持されるということで理解しましたけれども,よろしいでしょうか。
○樋口委員 そういうことです。ありがとうございます。
○中田部会長 これは遊休財産あるいは控除対象財産をどのように定義するのかということと,その結果として出た遊休財産を1年分までとするのか,3年分までなのかということの両方の問題があるのだろうと思います。その概念整理が5ページの表で一応されていると思いますけれども,この点も含めて更に検討するということになろうかと存じます。
○新井委員 甲案には認定基準とする規律という文言がありますが,乙案と丙案には認定基準とする規律という文言はないわけですけれども,乙案,丙案もともに認定基準の問題として理解しました。その上で申し上げると,甲案,乙案は事前の認定基準としては厳しすぎるのではないか,結論としては丙案を支持したいと思います。吉谷委員の言葉ですと,計画外の支出ということもあるし,公益信託の内容としては例えば災害に関するような公益信託の場合には,災害が起きたときに突発的な支出,そのためにある程度の蓄えを持っておくということもあるでしょうから,事前の認定のところで,甲案,乙案のように縛るのではなくて,むしろ,これは事後的な監督のレベルで縛ればいいのではないかということで,認定基準としては丙案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  様々な御意見を頂戴しました。甲案,乙案,丙案,それぞれ支持される御意見がありました。いずれにしても収支相償との関係をどうするのかということ,当初の認定基準の問題と事後的な監督の問題と2段階あるのではないかということ,そして,遊休財産あるいは控除対象財産というものの概念について検討する必要があること,という辺りかと存じます。ということでよろしければ先に進ませて……。
○道垣内委員 いつも,議論が終わってから発言して申し訳ないんですが,平川委員がおっしゃったことと樋口委員がおっしゃったことは,結局,同じですねというまとめがされたことが気になっております。樋口委員がおっしゃったのは,1年間ということに着目しない方がよい場合があるということなんだろうと思うんです。例えば4年間が1事業単位みたいになっているときには,4年ということだってあり得るということですね。それに対して,平川委員がおっしゃったのは,1年間という単位は仕方がないよねと前提の下で,それを3年ぐらい認めてもよいではないかという話であり,かなり性格の違う話です。両方とも非常に私は重要な発言だろうと思いますので,気になりましたので一言だけ。
○中田部会長 ありがとうございます。先ほど申し上げた遊休財産あるいは控除対象財産をどのように理解するのかという問題と,それから,結果的に遊休財産とされたものについて,どのくらいを認めるのかという2種類の問題があると申し上げたのはそういうつもりでしたが,今の御指摘も踏まえて更に検討していきたいと存じます。
○能見委員 遊休財産という概念が本当にどういう場面で問題となるか,そこら辺の認識が私自身も曖昧なんですが,1年分,3年分という点も関係しますけれども,仮に1年分の遊休財産を保有するところまで許すという場合に,そもそも,公益信託なので余り収入が予定されていなくて,今,たまっているものを来年とかあるいは2年後とか3年後に使うというのは,そもそも,使用計画の中での使い方の問題であって,そういう場合には貯まっている財産は遊休財産にはならないと考えるべきではないかと思います。したがって,遊休財産になるのは,公益信託でいえば,例えば,普通の事業運営によって来年分も一応,収入がそれなりにあってやっていける,だけれども,それ以外に当面,使う必要はないけれども,事業費1年分に相当するような財産が余っている,こういうときに,初めてこれを遊休財産というのだと思いますが,そういう理解でよろしいのでしょうね。
○中田部会長 恐らくそうだと思います。例えば寄附についても特定の目的を定めた場合と,一般的な場合とで,現行法の基準は違ってきている。その適否ということは,当然,議論の対象になると思うんですけれども,将来の公益目的事業のための基金というのは控除される側に入りますから,そこは遊休財産の方には入らないという整理だと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,続きまして「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」についていかがでしょうか。
○深山委員 ここの規律については,規律を設けないという乙案の方が妥当だろうと考えます。甲案が意図する,その趣旨について全く理解できなくはないんですが,一つは,ここは一応,認定の段階での基準ということですので,なおかつ,信託財産についての認定基準ということですので,およそ株式のようなものが信託財産になること,そのものから直ちにこれを排除しなければならないということにはならないのではないかと思います。要は他の団体の支配権を持つことによって,正に株式であれば株主権を行使して,他の団体を支配するという行為というか,活動が公益信託として望ましくないということであって,そういう使われ方をする可能性はもちろんあり得るので,およそ持たせないことによってそれを封ずるというのは,一つの手段ではあるんでしょうけれども,必ずしもそういう使い方,要するに懸念される使い方がなされるとは限らない。したがって,株式等を保有した瞬間にもうアウトという評価を下すのは,いささか過剰にすぎるだろうと思うのが一つの理由です。
  もう一つは,括弧書きで例外として実質的に支配するおそれがない場合は除くというようなことも書いてありますが,果たしてどの程度の数量といいますか,シェアを保有したら実質的な支配に当たるのか,当たらないのかというのは極めて決め難い問題だろうと思います。団体の性質にもよるでしょう,会社でいえば上場企業なのか,そうでないのかとか,その他,ケース・バイ・ケースであって,過半数を持つ場合であれば比較的明確ですけれども,そこに至らなくても重要な支配を及ぼす場合というのも容易に想定できるということを考えると,この基準は基準として抽象的には立てることはできても,当てはめるところで非常に苦労するような基準にならざるを得ない。そういうやや技術的な観点からも賛成し難いと考える次第であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今,深山委員が言われたことと同じなんですが,仮に設けるとしたら原則と例外が逆になっていた方がいいのだろうと思います。ですから,株式等を持っていても一応,構わないけれども,実質的な支配を及ぼすような場合であれば駄目だとなる。それを証明するのは恐らく受託者の方ではない。また,実質的な支配というのがどのような場合をいうのか,過半数を持っていなければ実質的な支配はないというようなことが,部会資料の中に説明としてありますけれども,それでいいのかどうかも深山委員が言われるように明解でない。そういう概念の曖昧さということもありまして,仮にルールを設けるのであれば,原則と例外を逆にするのがよいと思います。
○小野委員 バックアップチームでの議論を追加しますと,中小企業等の事業承継のときに,こういう公益信託を利用するということは十分考えられます。実質的に過半数を持つこと,それを行使することは性悪的な議論になっていますが,そうではないという考え方もあるのではないかと思います。信託の受託者として善管注意義務を尽くして株主権を行使すればよくて,それは過半数であろうが,少数株式であろうが当然であるというような議論をしました。特に中小企業の事業承継という観点から,公益信託を利用するということもありますね,みたいな議論が結構盛り上がったりしたということがあります。
  それと,金融という観点から参考になるかどうか分かりませんけれども,海外のチャリタブル・トラストの例ですと,株主権を行使するときには,どういう観点で,どういうふうに行使するというようなことを信託契約が規定しております。ですから,それも受託者の義務,責任の範囲内において行使すれば良いのであって,一概に株主権を持つことがどうのという問題ではなく,財産の運用の話なので,適正に行使するということで尽きるのではないかと思います。
○道垣内委員 小野委員にお伺いしたいのですが,中小企業の事業承継のために公益信託を用いるということは,どういうふうなスキームを想定されていらっしゃるのですか。
○小野委員 そこで議論になったのは,余り詰めた議論ではありませんけれども,例えば配当等については公益目的に使ってもよいと,ただし,事業承継に関しては,代々,引き継いでいくというような状況をあえて排斥する必要はないのではないかみたいな議論でした。
○道垣内委員 あえて振興する必要もないのではないかという気が伺っていてするんですが。
○小野委員 事業承継で株がばらばらになったりとか,そういう状況があり得ると思うんです。昨今の議論として中小企業の事業承継の問題としてそういう観点からの議論もあったように思います。詰めた議論ではないので,事業承継にどういう形で使われるかということをもっと検討すべきということであれば,また,持ち帰って検討したいと思います。
○道垣内委員 誤解のないように申し上げておきますと,中小企業の事業承継をスムーズに行うということ自体に私は反対しているわけではもちろんありません。公益信託を使って,その間の配当を公益目的に使うというだけで,いろいろな形の便宜を与える必要があるのかということが私には理解できなかったものですから伺った次第で,中小企業の事業承継自体のスキームの必要性について反対しているわけではございません。
○小野委員 配当が公益目的に利用できる程度あれば,それはそれであり得ると思うんです。中小企業の配当がどの程度かという現実的な議論はあるかもしれませんけれども。
○能見委員 すみません,今の議論に割り込む形になりますが,私も小野委員が想定されているような場面というのは考えていたことがあるのですけれども,中小企業の創業者などが持っている株を公益信託にしたいという話を実際に聞いたことがあります。ただ,そのときに聞いた話では配当は確かに公益に使うとしても,株式がそこで安定的に公益信託によって保有されることで,会社としても安定的に事業を行えると,そういう狙いがあったように感じました。しかし,これは公益目的と言えるか問題です。同様に,公益信託が会社の事業承継に使われている場合には,果たして本当に公益と言えるのか吟味する必要があるというような問題もありそうです。それから,そういう公益信託の使い方の場合には,信託契約の中で基本財産的な株式は売却しないとか,そんな条項が入っていたりします。話がずれてきますけれども,とにかく事業承継の場面での公益信託の利用が適当かどうかは,公益目的といえるかどうか疑問があり,どうも適当ではないのではないかという感じがしました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 甲案か,乙案かという点につきましては甲案に賛成いたします。更に他の団体の意思決定に関与することができるかどうかということの判断につきましては,一つの公益信託で考えるのではなくて,受託者単位で考えるというのがよいのではないかと思われます。受託者が複数の信託であったり,固有財産で株式を持つことも想定されると思いますので,そのように考えます。事例で書いてあるような場合は,該当するのではないかと思います。信託銀行で株式の信託をオーナー企業からお預かりすることが多いのですけれども,それは会社の支配権の安定的な確保目的で使われることが一般的なんです。なので,公益信託で支配的な株を持ったときに,それが公益が目的なのか,株式の支配権の確保が目的なのかというのが疑われるようでは,公益と言っていいのだろうかというところは疑問がありますので,ここの甲案の括弧書きにあるように,例外として当該株式等の財産の保有によって,他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合はいいと思うんですけれども,そうでなければいかがなものかと考える次第です。
○林幹事 私は乙案に賛成です。甲案については,その趣旨は一応理解でき,隠れ蓑的に公益信託を使うということは排除されるべきではありますが,結局,甲案であっても実質的な抽象的な基準しか残せないということがあります。確かに,これは絶対に駄目だというような場合を規則か何かに設けるという方法も考えてはみたのですが,パーセンテージを具体的に設定したときに何%がいいのかというのは決められないところです。上場,非上場でも違うし,会社の規模でも違うので,こういうことを考えると,規定するのは難しいと考えます。
  逆に言えば,一定の規模だったら別に議決権を行使するのも問題ないというところでもあるとは思います。ですから,深山委員の意見と同じですが,結局,それは持っていることが問題なのではなくて,どう行動すべきかが問題だと思うので,それは公益目的とか信託目的から自然と限定されていって,それに反すると善管注意義務違反になる,そういう形で規律できるのではないか,というのが弁護士会でも出たところだったと思います。
○中田部会長 ほかに商法の先生はよろしいでしょうか。
○神作幹事 期待されていることとは違う発言かもしれませんけれども,前提として私的団体を支配することを目的とすることは,そもそも,公益目的ではないから,当然,そのようなことは公益信託の目的を超えており,行うことができないという前提でよろしいでしょうか。そのような前提であるとしますと,その上で,ここの規律で問題となっているのは,実質的に私的団体を支配することは不可であるけれども,実質的に支配するおそれがある場合も認めることは適切でなく,おそれがある場合をどのように画するかという議論が現在なされているという理解でよろしいでしょうか。初めに御質問をさせていただきます。
○中辻幹事 神作幹事の御理解のとおり,まず,公益信託の受託者が株式を過半数以上保有して私的団体を支配する目的を有しているのであれば,その場合には信託の公益性が失われると考えています。そして,そのように公益信託の受託者が私的団体を実質的に支配するおそれが生じることを防ぐために,どのような認定基準が適切かということで,取りあえずここでは公益法人認定法の認定基準を参考として挙げています。
○神作幹事 ありがとうございました。もしそのような前提から出発すると,すなわち公益信託が私的団体を現実に実質的に支配することになったら,これは公益目的を外れてしまうと思いますので,そのような制約は当然かかってくるという前提の下だとすると,私は実質的に支配するおそれというのは,これまでに多くの委員が御指摘されたように,形式的に切るのはなかなか難しい点がありますので,それが反対に過剰な規制となって,むしろ,運用目的で株式を保有することが妨げられたり,株式で運用してその価値を上げるために議決権を行使することが妨げられるというのは,適切ではなく,また,そのような考え方は日本がここ数年,政策として打ち出しているところであると思います。したがって,支配権を行使して実質的に私的法人を支配するという目的ではなくて,正に投資した財産の価値を増やすという目的のために議決権を行使するというのは,むしろ望ましいということのように思われますので,それと実質的支配のおそれがある場合とをどう線引きするのは大変難問だとは思いますけれども,議決権の行使を一律に悪物視しない,そのような基本的な考え方で,しかしながら実際に支配することになったら公益目的からは離れるということを確認した上で,ではどのような規律の在り方が望ましいかを議論していくのがよろしいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○平川委員 甲案の方に賛成します。それは公益法人が他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないことを,公益法人の認定基準と定めていることとのバランスからも言えることですし,あと,潜脱的に公益信託事務以外の事務を間接的に当該株式保有による実質的支配によって,間接的に行うということを防ぐためには,必要な規制なのではないかと思うんですけれども,今,おっしゃったように株式支配を通じて,その株式を発行している会社の事業を運営するということが公益信託の財産の運用に資するものであるから,それは公益なのであるという議論は,公益信託事務以外の事務を間接的に行っているということになってしまうのではないかと思い,疑問に思いました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
○小野委員 他のところで海外の事例が先ほどの論点でも議論されていたと思うんですけれども,ここでは特に米国の事例が紹介されていなくて,米国でも私の認識だと株式を所有するというのはチャリタブル・トラストの一つの社会的機能として存在しているような気がします。論点によって,時に海外の事例を参考にし,時に公益法人の移行のときの議論を参考にするというのはしようがないと思いますが,この議論は議決権行使は公益ではないという一つの価値判断に基づくもので,そうでない考え方もあり得るので,なかなか,理屈では割り切れず,そういう意味において,もし事務局又は専門家であられる樋口委員とか,米国の事例とかを紹介していただければ参考になるかと思います。
○中田部会長 今後,御指摘を踏まえまして,また,小野委員からももし情報提供を頂ければと思います。
○神田委員 私,全然,貢献するような発言ができないのですけれども,何か話が難しくなっているのではないかと思いまして,一言,感想を申し上げたいです。他の団体の意思決定に関与することができるとか,できないというのがなぜいけないというか,公益信託の認定基準に入ってくるべきかという話だと思います。ほかの先生方の御発言はそのとおりだと思うのですけれども,ただ,これがこういう基準で切れるかということがあると思うのです。つまり,例を挙げますと,不動産を信託財産で保有していますと,それを賃貸に出して入ってくる収入で助成事業をしますとかというのは当然ありだと思います。そうだとしますと,例えば株式会社の株式を保有していますと,入ってくる配当金で助成事業をしますというときに,配当を決めるのは株主総会決議ですので,その意思決定に参加できないと配当が決まらないかもしれないわけですよね。
  そういう場合には,画一的に他の意思決定に関与することができるから駄目とはなかなか言いにくい場合が少なくともあり得ると,抽象的には思うわけです。それで,もうちょっと違う言い方をすれば,また,違った局面では団体というのが何をしているかということでして,先ほど御指摘がありましたけれども,その団体が非常に公益的でないことをしているような場合には,先ほど潜脱という言葉がありましたが,そういうことが生じるようなパターンもあるでしょう。
  逆にその団体が非常に公益に近いというか,公益信託との関係でいえば,公益信託と相乗効果が上げられるような,公益信託にとってプラスになるような活動をしている場合には,その団体がしている活動自体は仮に営利活動だとしても,そこの意思決定に参加したとしても,それによって公益信託が公益活動を進めていくことにプラスになる場合もあると思うのです。ですから,物事は実質的に見なければいけないということなのですけれども,他方,認定基準はある程度,形式的に作らないといけないでしょうから,ある程度,形式的に作って外すものを例外とするのかという辺りが悩ましい問題であると思います。多少,先ほどからの御議論とは違う側面で気を付けた方がいいかなと思いましたので発言させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。
○新井委員 先ほど吉谷委員の発言がありまして,甲案を支持したいと述べられました。それは信託銀行の立場としては極めてよく分かります。そういう利益状況だろうということは理解できますが,ここでは今後,公益信託の担い手を拡大していこうということも非常に重要な論点だと思います。そうした場合に,ある委託者がいて,株式を公益信託に拠出して公益活動をやろうというようなときに,信託銀行とまた違った利益状況がありますので,私は乙案の方に少し傾いています。その上で,議決権の行使は受託者が善管注意義務を持って行い,そして,信託管理もチェックするということで,甲案で懸念しているような問題点がクリアできるのではないかと考えています。ですから,委託者が中小企業のオーナーであるかどうかは別にして,もう少し,そこは幅広く,かつ新しい担い手のことも少し考えていいのではないかという感想を持ちました。
○吉谷委員 私どもは信託銀行ですので,銀行法上の株式の保有制限もありますので,支配権うんぬんというようなことに関与できるかどうかというと,そこはむしろ関与できない立場でありまして,新しい担い手の方がこういう信託を受託されることを想定するんだと思うんですけれども,平川委員が先ほどおっしゃったように,潜脱的な使われ方はされるべきではなかろうと思いますので,何らかの形で,そういうような基準というものがあった方がいいのではないかなと考えております。
○中辻幹事 小野委員が先ほど取り上げられた海外のチャリタブル・トラストについて,私どもも,海外の事例は参考になると考えております。チャリタブル・トラストを日本語に訳すと,慈善信託あるいは公益信託になるのかもしれませんが,チャリタブル・トラストと言ってもいろいろな形態の信託があって,その中には資産流動化のためのスキームとして株式を信託財産として目的信託を設定するという私益のスキームに近いものもあると理解しておりまして,そのような違いも含めて,今後も引き続き検討していきたいと思います。
○中田部会長 様々な御意見を頂きました。結局は他の団体の意思決定に関与することがなぜいけないのかという,その本質の問題であり,意思決定に関与することがいけないのか,実質的支配がいけないのかということを突き止めて,その上で,いけないことを防ぐためにはどうするのか,何らかの基準あるいは証明責任というんでしょうか,どちらが証明するか,原則と例外はどうするかという設定,あるいは内部ガバナンスに委ねることで足りるのかどうか,そういった段階に分けて検討すべきだという御指摘を頂いたのではないかと存じます。
  次に進んでよろしいでしょうか。それでは,「4 不可欠特定信託財産の処分制限等」についていかがでしょうか。
○山本委員 議論の前提として教えていただきたいことがあるのですが,甲案は公益法人認定法第5条第16号を参考にした提案になっていると思います。そこでは,「不可欠な特定の信託財産があるときに,その旨並びにその維持及び処分の制限について必要な事項を信託行為で定めているものである」こととされていますが,このうちの「処分の制限について必要な事項を定める」というのは,一体,何を想定しているのか,どのような場合を考えているのか,そして,特に公益法人の認定において,この規定の内容についてどのような運用がされているのかということを,議論の前提としてお教えいただければと思います。
○中辻幹事 公益法人の認定における運用については後で内閣府に確認してお答えしたいと思いますけれども,私どもが甲案で想定している必要な事項の定めといいますのは,例えば芸術文化の振興を目的とし,美術品や美術館の建物を信託財産とする公益信託であれば,再収集が困難な貴重な美術品や文化財的美術館の建物が処分されるとその美術館の運営が不可能になってしまいますので,それらの信託財産は処分してはいけませんよという条項を信託行為の中に入れておくことを意図しているものです。
○山本委員 例えば運用ということでお聞きしたのは,どのような形で内容について介入が行われているかということを確認したかったということですが,それ以外にも,例えば原則として処分をしてはいけないとしても,ただし,やむを得ない事由があるときはこの限りでないとか,あるいは公益目的を達成する上でもはや必要でないと判断されたときにはこの限りでないというような包括的な定め方を許容し,そして,その種の定めを入れるような指導等がされているのかどうかということをお聞きしたかったという趣旨です。
○中辻幹事 わかりました。では,その点を後日内閣府に確認いたします。
○能見委員 結論的には,この規制は設けない方がいいのではないかと思っています。私も余りいろいろな知見があるわけではないのですが,アメリカの美術館の例なのですけれども,美術館として絵を集めてきているわけですが,今,山本委員が言われたのと関係しますけれども,その美術館にとってかなり貴重な絵なのですけれども,もう1ランク上げるというんでしょうか,もう少し別のいい絵が売りに出ていて,それを買いたいので今まで持っていた絵を美術館としては売りたいと考えた,それは適当なのか,法律的に可能なのかが議論されていました。これをどう考えるべきかですが,当初,公益信託を設定した際には,その美術館にとってその絵は必要であると判断されていたとしても,後で売りたいという場合が出てくる可能性があるし,そういうことを許容して柔軟な運営ができるようにしておいた方がいいだろうと思います。そういうことで,それぞれの信託の判断に委ねるのがよく,甲案でない乙案の方がよろしいのではないかということでございます。
○林幹事 弁護士会の議論でも乙案に賛成というのが大半だったと思います。不可欠なものと思っても,状況によっては売却することも選択しないといけない場合があり得るというのは,先ほど能見委員が御指摘されたのと同じです。また,そういう場面ではなくても,処分してしまったら,それこそ信託目的自体が達成できなくなって,信託自体が終了するから,規律としてはそちらに委ねるので足り,あえてこういう硬直的になる可能性のあるルールは設けなくていいという議論でした。
○沖野幹事 重なる点ではあるのですけれども,今,既に御指摘にありましたように,不可欠な財産ですと,そもそも,信託行為に明示しなくても当然処分制限がかかる,あるいは黙示の信託行為の定めというようなことも考えられます。ここでは恐らく定めるというのは明示するということだと思いますけれども,確かに明確にするという意味はありますが,補足説明で書かれておりますように,不可欠の財産を処分してしまえば,目的不達成で信託自体が終わってしまうということにもなります。ですから,それと別に定める必要がどのくらいあるかです。明確にするとか,監督のときのチェックポイントとして,明示するということになりますが,そのことにどのくらいの意義を認めるかということではないのかなと思います。
  それから,最初に現在の運用でしょうか,運営状況についてお尋ねがありましたけれども,例えば例に出ました美術館の絵のような場合,当初は絵が1枚もないと美術館運営はなかなかできませから,建物だけではなくて絵自体も必要であり,例えばこの絵があるということがいわば目玉商品となっているような場合は,当初は不可欠であるけれども,その後の変更によって入れ替えたいというときには,この下で信託行為を変更して不可欠財産の特定のところの記載を変えて,そして別のものにしてやっていくというようなことがこの規律の下で想定されるのでしょうか。民事実体法としての信託法としては,信託行為に明示で書くと,そういうことになるんだと思います。処分できないというような規定になっているところを処分できるようにした上で,運営を続けていくというようなことをすると思うのです。認可の基準においても,そういう対応が可能というか,されているのかどうか,そういうことも運営というか,運用として明らかにしていただければと思いますが。
○中辻幹事 内閣府に確認した上でお答えした方がいいのかもしれませんけれども,今の私どもの理解ですと,公益法人では,定款で法人のこの財産は不可欠特定財産ですよという目録を作ります。美術館を運営する公益法人の所有する美術品であれば,不可欠特定財産が何十点にも及ぶのかもしれませんけれども,それらの目録を定款に定める。その後,状況が変化して不可欠特定財産とする必要がない美術品が出てきた場合には,定款の変更手続によって,その美術品を不可欠特定財産の目録から除外するということになりますので,沖野幹事がおっしゃったとおり,これを公益信託法に持ち込むのであれば,信託行為で不可欠特定財産を定め,その後は,信託の変更手続により増やしたり,減らしたりしていくことになるものと考えておりました。
○沖野幹事 分かりました。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○吉谷委員 どちらかといえば乙案というふうな意見になっております。その理由は何をしなければならないのかがよく分からないというところにあるように思われました。信託目的との関係がよく分からないところもありまして,例えば特定の財産を保存することを信託目的とした場合は,不可欠特定資産として何かをまた定めなければならないのだろうかと,具体的に信託行為に売却してはならないと,仮に債務超過になるような場合には,それよりも前に信託を終了して特定資産は寄附するとか,そういうようなことをしないと信託目的が達成できないのではないかと,売却してしまったのでは信託目的が達成できないのではないかというようなことで,信託行為に何を更に定めるということなんだろうというような疑問が湧いてくるというようなことでした。それと,事後的に計画が変更可能なのかというところもよく分からなかったという意見がありました。
○樋口委員 時間が来ているのでできるだけ短く申し上げます。先ほど来の御意見と重複するんですけれども,これは認定基準であるということです。だから,こういうものを定めておいて,これがなくなったら終了だという話なんですけれども,先回も重ねて申し上げているんですが,とにかく公益信託にするかどうかという話は,結局,公益信託にどういう効果が与えられるかという話で,その効果を悪用することがあるから,認定基準のところを考えているんだと思うんですけれども,とにかく通常の信託と違う効果が与えられるものとして,日本でも多分,そういうのは認められていると思いますが,いわゆるシープレットか,サイプレットというものがあって,初めにこういうような公益目的を設定して,あるいはこの美術品を守るであるとかなんとかというんですけれども,それが達成不可能になったとして,台風で壊れるなり,何でもいいんですけれども,それで終了するかというと,そうではなくて,それと類似の目的で存続させる,公益目的の信託というのは,結局,設定したらできるだけ長く維持するという話に持っていかないといけないので,その話との関係がここでは重要なのかなと感じました。
○小野委員 信託法との関連で,48条の受託者の費用弁済で信託財産を処分して費用を捻出する可能になっていますが,その辺はこの規定を変更するというようなことも含んでいるんでしょうか。終了するにしても費用は受託者持ち切りなのかというと,それはちょっと気の毒のような気もしますし,もちろん,それを悪用するのであれば,それは別の議論ですけれども,この点について信託法との整理も教えていただければと思います。
○中辻幹事 信託法48条については検討をしていませんでしたが,公益信託も受益者の定めのない信託として信託法の規定が原則適用されますので,その例外に当たらないのであれば,48条も適用されるのではないかと思います。
○平川委員 基本的に乙案に賛成で,上記の規律は設けないと。この問題は,基本的に信託行為をする委託者と受託者の間で自由に定めることができる事項であると考えますので,規律は不要と考えます。
○新井委員 なぜ,これが問題になるかというと,従来,助成型が中心であったものを事業型に変えていこうということで,特に事業型の場合には不可欠特定信託財産の処分を認めないようにする必要があると思います。新しい公益信託法において,事業型が全面的に拡大するかというと,私の予想としては拡大してほしいですけれども,基本は助成型にとどまると思います。そうすると,甲案の規定は少し規制が過剰ではないかということで,基本的には乙案でいいのではないか,そして,ここでの論点については事後的な監督の中でチェックしていけば足りるのではないかということで,結論としては乙案を支持したいと思います。
○道垣内委員 先ほど小野委員から御発言があり,中辻幹事がお答えになった点について一言だけ申し上げたいのですが,信託法48条が適用されましても,受託者がその権利を行使するために信託財産を売却するときには49条2項の制限がかかってきて,そこに括弧書きで当該財産を処分することにより,信託の目的を達成することができないこととなるものを除くとなっていますので,48条の権利の行使のために,そういう不可欠特定財産を処分することはできないのだろうと思います。そして,不可欠特定財産しかないがゆえに,48条の権利が実現できないというときには,52条に入って信託を終了させるしかないというのが現在の信託法の立て付けであろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 いろいろな御意見が出て,私もほぼ同感なのですけれども,ここでの問題は当該公益信託を設定するときに,受託者,委託者等が任意にこの財産は必要不可欠だから処分しないようにしようというので,信託行為に書けば,あとは信託法の解釈といいますか,今,道垣内委員が言われたのもそうですけれども,それに従っていくわけですよね。ところが,ここで要求しているのは,そういうものを必ず書かなくてはいけない,それが認定基準だという考え方で,それは行きすぎだと考えるかどうかです。私は行きすぎだと思いますけれども,以上の点がポイントなんだということだけ確認でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  よろしいでしょうか。
○長谷川幹事 確認ですけれども,2ページにございます1の「信託事務の遂行見込み」の話と,今,御議論されている11ページの「不可欠特定信託財産の処分制限等」との関係というのは,どう理解すればよろしいのでしょうか。
○中辻幹事 私どもとしては,これらは両立し得る認定基準であると考えておりますが,認定基準としてだぶってくる可能性があるのではないかという御指摘でしょうか。
○長谷川幹事 2ページの1だけあればいいのではないかという考え方が一つと,もう一つは,両者は両立し得ると考えて,1は財産の規模に着目した規制で,4は財産の質及び信託事務の中身に着目した規制と考えるかということではないかと思います。
○中辻幹事 そのような理解は十分あり得るように思います。第1の1の「信託事務の遂行見込み」は,現在の公益信託の許可審査基準から取ってきたもの,第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」は,公益法人認定法から取ってきたものですので,少し整合性がとれていないのかもしれません。
○長谷川幹事 いずれにしても,規制の趣旨等も含めて整理が必要かどうかも含めて整理しておいた方がいいような気がいたします。
○中辻幹事 承知いたしました。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
  当初,第3まで休憩の前にという予定でいましたが,熱心な御議論を頂きましたので遅れてしまいました。ここで15分間の休憩を挟みたいと思います。再開はあの時計で3時59分ということでお願いします。
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開します。
  部会資料34の「第2 受託者の信託報酬に関する認定基準」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 それでは,私から第2の「受託者の信託報酬に関する認定基準」について御説明させていただきます。
  本文では,「公益信託の受託者に対する信託報酬について,当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額なものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを認定基準とすることでどうか。」との提案をしております。
  現在の許可審査基準では,公益信託の受託者の信託報酬を制限する規定が置かれていますが,これに対しては,①主務官庁及びその担当者によって適用の基準が異なる,②信託事務の難易度や事務負荷等が勘案されない,③人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるなどの問題点が指摘されております。公益信託の受託者に対して正当な報酬額を支給することは,公益信託の担い手となる受託者にインセンティブを与えることとなり,受託者の確保,ひいては民間による公益活動の促進につながるものと考えられます。他方で,公益信託の受託者に対する信託報酬の適正な水準を確保することも必要であると考えられることから,このような提案をしている次第でございます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。
○小野委員 まず,不当という実定法上,よく使われる表現ですけれども,信託法の前回の改正のときも不当な利益という議論をしたときに,それは公序良俗で賄えるという議論だったと思います。そうすると,ここでの議論も本来,既に実定法上,組み込まれている概念であるとも言えますが,ただ,部会資料を読むと,そこまでの不当ではなくて少し多いぐらいの議論でもあるようにも思います。不当という言葉が本来の意味ではない議論をするとしたら,受託者にとって持ち出しで何かをするというわけにもいかないところもあるので,その使われ方が気になったという点と,もう1点,受託者の信託報酬の額の制限規定はないと,補足説明の最初のパラグラフで説明されていますけれども,もちろん,不当が元々組み込まれている趣旨であれば,不当ではいけないというのが入っていると思いますし,なおかつ,善管注意義務もありますし,忠実義務的な観点もありますから,ある意味では,元々,信託法には組み込まれていると思うので,直接的に明文の規定はないかもしれませんけれども,これもやや言いすぎかと思いました。
  あと,もう一つ,表現の中で一定のパーセントならよく,100万が逓減していったら信託報酬も逓減化しなければいけないというような説明もありますが,信託財産が最終的にどんどん減っていった段階で,それが適切かということもあります。いずれにしても結論としては本来の不当という意味において不当が使われているのであれば,それは当然だと思いますけれども,そうではないとすると,人によって判断する基準が違ってくるところがあり,ただ,繰り返しになって申し訳ありませんけれども,受託者が持ち出して何かをしなければいけないというような制度というのは,制度の普及という意味において適切ではないと思います。正当な報酬は本来あってしかるべきだと思います。
○中田部会長 不当という言葉の中身が多義的である,曖昧であるので,基準としては適当ではないという御指摘かと存じますが,そうしますと,実質的な基準を示すという方向なのか,あるいは最後におっしゃった正当なというような概念を使うことを御推奨なのか,どっちなんでしょうか。
○小野委員 認定のところで当然,報酬規定も出てくるかと思うので,そういう全体の中で判断すればよろしいのかなと思います。少なくとも実定法上,やや混乱するような表現ぶりは,留意した方がよろしいかなということで,それ以上に規定が不要とまで断言するほどではないんですけれども。
○中田部会長 適切な言葉が見つかるかどうか分かりませんけれども,更に検討するということになろうかと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 信託報酬は受託者のガバナンス確保及び開示の観点から,信託行為に明示すべきであると考えます。必ずしもただ額や料率についての規制は必要ないと考えておりまして,不当に高額かどうかの判断ができるような算定基準が信託行為に定められているということで足ると思います。
○林幹事 弁護士会の議論では賛成という単位会が多かったと思います。現在の実務における認識では,信託報酬が実費ベースで,かなり低いというようであり,そうすると受託者が安心して受託できないというようなことにもなるかもしれないところです。先ほど御説明があったように公益信託促進,あるいは受託者の担い手も広げるというところであれば,きちんとしたインセンティブが働くような形で規定すべきだというのは,そうだと思います。そういう前提においては賛成です。「不当」という言葉がいいのかどうかも微妙なところでもありますし,問題点としてはあるのでしょうけれども,適正な額を確保されるべきだというところはそのとおりです。適正と条文に書くかどうかもまた問題ですが,取りあえず,そのような議論でした。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 2点,申し上げますけれども,私は前に法曹倫理というアメリカのケースブックを学生と一緒に読んでいたことがあって,弁護士報酬の定め方というところでびっくりしたことがあります。報酬の定め方として,普通は係争額というんですかね,係争額に対して何%という話はアメリカでは駄目なんです。どれだけの,つまり,仕事をしたかで報酬が定まってくるのが当たり前で,係争額が高ければ2日間で和解にいったら,それでも何%か取るなんていうのは法曹倫理に反しているわけです。
  それで,法曹というのはフィデュシャリーであって,本当は受託者もそういう同じような考え方,でも,ただ,日本的なやり方の方が結局,信託財産額の何%かというような話の方が分かりやすくて,しかも,すぐ決まるんです。実際にどれだけの仕事をしたかというのをはかるのは大変なので,だから,正論に持っていくのは大変かもしれませんけれども,そういうことで驚いたことがあるというか,驚いたというか,本当はこっちの方が本筋なんだなと私は感じたというのが一つ。
  二つ目ですけれども,先回もそうなんですけれども,ずっと認定基準でこれだけのことをやっていますね。それで,第2のところも「公益」という言葉を外して,「信託の受託者に対する信託報酬について当該信託事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額のものとならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められている必要がある」というように述べても間違いない。つまり,通常の信託だったとしてもこれは当たり前のことなんです,別に公益信託でなくたって。
  ただ,認定基準にしているところに意味があって,逆に言うと,我々がこういう議論を重ねているというのは,規制当局としては,結局,入口のところでしか規制ができなくて,いったん認定された後からは実際上できない,つまり,入口だけ厳しくてあとはざると言ってはいかんのですけれども,そういうことなのかと感じたりします。今後の議論のところで出てくる公益信託の中身の条項について一定のマニュアルというか,スタンダードが決められるんだと私は思っていますけれども,こういう義務を負うとか,しかし,認定のところでここまでというのは,逆に認定のところしか実は規制しないんだという,憶測で申し上げたので,いやいや,そうではないんですよとおっしゃっていただければ,それはそれで有り難いという2点です。
○中辻幹事 樋口委員が御指摘された,入り口の認定基準だけを規制するのでは不十分というのは,私どももそのとおりと考えておりまして,その後の監督や信託内部のガバナンスの場面でも手当ては必要であると思っています。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現在の許可基準が信託報酬を信託銀行にとって利益の出ない水準とすることを求めておりますが,この改正によって受託者が適正な報酬を受けることも可能になるということはいいことだと考えておりますので,提案に賛成でございます。そして,長期の信託がありますので,今,信託期間中で高すぎるのではないかという話もありましたけれども,逆に受託者側から報酬の水準の変更を求めるようなことも,可能な仕組みにしていただきたいと考えております。ほかにも今回,有価証券であるとか,不動産の管理,売却といったものを行うことを想定しているのであれば,それについては一般の信託と同水準であれば,不当に高額ではないということではないかなと,私どもとしては理解しているところです。
  少し分かりにくいところは,経理の状況等というのが書いてあるところなんですけれども,ここは御説明の中では定率を求める趣旨ではないということであると理解しておりますけれども,逆に言うと,信託報酬の金額が信託財産に対して余りにも大きなものになるような場合は,経理の状況からすると認められないということはあっていいのかなと思います。これは信託財産がすごく小さい場合には,信託報酬の割合が大きくなりすぎてしまうことは余りよろしくないのではないかなという趣旨です。
○深山委員 信託報酬に関する定めを設けることについて,私は結論としては認定基準とすることに一定の意味があるのかなと肯定的に考えております。もちろん,本来はある程度,私的自治というか,委託者の意思に委ねて,あるいは受託者との協議に委ねて決められるべきものだという側面はありますけれども,そこは公益信託という制度の趣旨に照らしてある程度,透明性というか,公正性を表に出して認定を受けると,そこも含めて公益性を判断してもらうという意味合いはあるのかなと。そういう意味で,あってもいい基準だと思います。
  問題は不当に高額なという辺りをどう理解するか。その表現の問題もそうで,恐らく,もちろん,公序良俗に反するようなものは当然に認められないということはありますが,公序良俗と同じようなレベルまで求めないんだとすると,どの辺までが正当で,それを超えると不当なのかというのは確かに難しい。といいますのも,正に当該信託の中身といいますか,あるいは受託者の役割,業務によって,高いか,安いかということを考えなければならないので,それは必ずしも信託財産の規模と,業務の業務量や困難性が正比例するわけでもないので,直ちに信託財産に連動するのがいいということでもないといえます。
  先ほどは樋口委員から弁護士報酬のことについて御指摘を受けましたが,我々の弁護士業務もやってみないとどのぐらい手間が掛かるか分からなかったりして,何が適正な報酬かというのは常に日常的に悩んでいるところですけれども,正に信託業務もそれと比べればまだ定型性があるのかなと,予測可能性が高いかなと思いますが,やってみると想定した以上に手間が掛かるというようなこととかもあるでしょうし,そう簡単に決められないので,認定の基準として考えるのだったら,明らかに公序良俗違反とまでは言えないまでも,明らかに公益性の名にふさわしくないと評価されるほど,高すぎるというようなものだけを排除するという規律として置いておくということで,これが過度の規制になってしまったら,公益の増進に逆行することになって元も子もないので,その定め方は神経を使う必要があると思いますが,基準として設けること自体はあっていいのではないかと思います。
○道垣内委員 ゴシックで書かれた内容自体には,それほどには異論はないのですけれども,何のための認定基準なのかということをもう少し突き詰めて,本来は考えるべきではないかという気がします。と申しますのは,仮に受託者が非常に高額な報酬を受けるということになりましても,高額な報酬を受けるということに対しては課税がされるわけであり,そして,その残りの部分が公益に用いられるのならば,別段,差し支えはないだろうという考え方は十分に可能だろうと思うのです。
  しかし,そうではなくて例えば先ほど税制について御説明いただきましたが,委託者の側が損金算入できるとか,寄附金控除ができるというふうなことを前提とすると,例えば私が10億円の収入を得ているというときに,それをある人に実質的にはあげたいというときに,私のところで10億円の課税がなされた上で,そこからまた取得をした人が収入として課税をされるというのではなくて,私が10億を全部,公益信託の信託財産に属する財産とすることによって,私の方は損金ないしは寄附金として控除を受け,他方,受け取った側にだけ課税がなされるということになると,本来は2回,課税がされるはずだったのに,1回になるのはおかしいではないかというふうな見方というのができるのかもしれません。私はそこら辺がよく分からなくて,何のためにこの規制はあるのだろうかということについて,もう少し突き詰めて考える必要があるのではないかなという気が先ほどからしているのですが。
○新井委員 公益信託の受託件数というのは減ってきています。その理由の一つは,ほとんどの受託例を担っている信託銀行が受託者として適正な報酬を得ることができない,つまり,受託者にインセンティブがないということがあると思います。ですから,現在のようにほとんど利益が上がらないという状況を改善して,ある程度の利益を上げることができるようにすべきだと思います。そして,非常に難易度の高い公益信託については,他の公益信託よりも報酬を取っていいのではないかと考えていますので,そういう形の文言にしていただければと思います。
  それと,もう一つ非常に大きいと思うのは,13ページの補足説明の2に現行の許可審査基準が出ておりまして,その問題点として三つ挙げられています。この3番目です。人件費以外の物件費等が認められず,採算確保が極めて困難であるということですけれども,信託事務に要した費用というのは信託財産から取れるわけです。しかし,なかなか,どこまで取れるかというところが非常に難しくて,実際には信託銀行のインフラの持ち出しになっているという面もあるので,ここのところも報酬の問題と一体としてきちんと解決するということが必要ではないかなと考えています。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○渕幹事 道垣内委員が税法について適確な説明をしてくださったので,付け加えることはないのですけれども,もう少し敷衍して申し上げます。恐らく,例えば委託者が個人の場合であれば,委託者に対して相続税ないし贈与税が一旦掛かった上で,その上で更に所得税が掛からなくてはいけないと判断されるような局面があります。そういうときに公益信託の受託者の報酬というような形で所得税の課税はあるものの,相続税ないし贈与税の課税の部分がないことになってしまうというような問題があり得ます。
  それから,法人の場合でいうと,法人の役員の報酬については,法人税法で正に12ページにあるような不当に高額なものは駄目であるというような規律があるわけですけれども,その脱法というような形がありえます。法人から直接,役員報酬を払ったとしたら,法人税法上,損金算入が認められないのだけれども,一旦,公益信託の資金にして,公益信託の受託者の報酬ということにしてしまうと,法人税法の損金算入制限が回避できてしまうというような問題があり得ます。ただ,そういう税法の脱法について税法でなくて信託法で規制していくことが妥当なのかという問題は別途あろうかと思います。
○山田委員 私は受託者の信託報酬に関する認定基準については,積極で考えたらいいだろうと思います。現在,議論しているのは,信託が公益信託という性格を帯びるためにはどういう要件を満たさなければならないかと,その入口のところで認定という行政行為を経て,公益信託になるということは想定されている一つの主要な例だと思います。そうすると,認定をするための基準というのが,今議論されていて,今日も,それから,前回も認定基準をずっと一つずつ議論してきたわけですが,私が考えるに公益でありますと認めてくださいというときの唯一ではないものの,一つの重要なポイントは受託者が公益信託からたくさんの報酬を得ていないということだと思います。特に税制に関する一番シンプルなものであっても,公益信託で個人が委託者ですと運用段階で信託財産から生ずる所得は非課税という,これはメリットだと思うんですが,これが得られるという扱いを受けるために,この信託は公益ですと,そのためには受託者報酬のところで一定の制約を設けることによって,認定基準段階でそれをクリアするということは重要なポイントではないかなと思います。
  そして,それに加えて一般的なことを申し上げますと,できるだけ信託が公益信託であっても自由な委託者と受託者の合意によって柔軟で創意工夫が凝らされたものが望ましいと思うのですが,収支相償とか,遊休財産規制とか,それらをもう一度,信託報酬の認定基準が認定基準としては最後かもしれませんので,どこかの段階で全体を示していただいて,そして,どの程度の公益であるための要件を課すことによって,この部会としては公益性ありと認め,税制上の,単純に言うと,一番シンプルな今日の財務省の課長の方の御説明だと,4ページの公益信託のところの扱いを受けるに足りるのかというところの議論というか,こちら側からは,この扱いは受けることができると考えるというところをまとめられるといいのではないかなと思います。
  私は,言う場所が違うかもしれませんが,収支相償についてもない方がいいと思いますし,遊休財産の規制もない方がいいなと思っているのですが,それを全部並べていくと,とても公益信託ですと,租税法上の優遇をこれで認めてくれというのは難しいなということになるかもしれないなと感じています。したがって,全体を見た上で考えなければいけないなと私自身,思っているところであります。しかし,最初の話に戻りますが,受託者報酬はその中でもまずはここは基準を設けて取り組んでいいところではないかなと思いますし,一番分かりやすいところではないかなと思います。
  そして,最後に言葉の問題ですので付け加えにすぎませんが,不当に高額がいいか悪いかということですが,私は適正でなければならないよりも不当に高額が駄目だという方がよほどいいのではないかなと思います。基本は受託者と委託者の間の合意でアレンジされるというところから出発すると,適正でなければならないというレンジを決めて,その中に入ってくることを求めるよりは,ここから上は駄目ですよというようなルールの方が望ましいのではないかと思います。
○道垣内委員 私も結論として第2の提案に反対しているわけではないので,これ以上,言う必要もないのですけれども,私が気になったのは受託者の報酬を委託者が信託財産以外から支払うとなっていたならば,それは幾ら高額であったっておかしくないだろうと思うのです。そうすると,つまり,何となくイメージとして,およそ公益信託なんだから,みんな身ぎれいでいようねという感じになりますと,信託財産以外から支払われるときであったって規制が掛かるということになりそうなんですが,そうではなくて,信託財産から支払われるということに対してのみ規制が掛かるということになると,それは身ぎれいでいましょうという話ではなくて,なぜ,公益信託の信託財産に属する財産から報酬が支払われる場合には問題が生じるのだろうかという問題が立ってくるのだろうという気がします。その結論として,公益信託の信託財産であるとされたものの中から非常に多額の報酬を得るというのは妥当でないということになるのは,全然,私も反対するところではないのですけれども,イメージで語るべき問題ではないような気がするということでございます。
○沖野幹事 伺っていて幾つか分からないところもありましたものですから,確認をさせていただきたいという趣旨です。今,最後の道垣内委員の御発言との関係で,受託者に対する信託報酬について,これは信託財産から受け取れる信託報酬のみを考えていたのですが,委託者から払われるというようなものも想定しているのでしょうか。それが1点目です。
  もう1点は,一つ前の項目もそうなんですが,気になっておりますのは,今の実体法としての信託法に何かを付け加えるのか,付け加えないのか,あるいは信託法でいけるのかということです。ここの報酬の規定は明らかに信託法とは違う話になっており,信託法の規律ですと営業信託だと定めがなくても報酬が取れる,また報酬について取れるということさえ信託行為に書いておけば,具体的にどうかというのは書かなくてもよくて,受益者に通知するなどの要件が課されますが,相当な額を取れるという規律になります。ですので,実体法にプラスアルファとして付け加えるということになるかと思います。
  明確性の確保という点から,その点でも意味のあることではないかなと思うんですけれども,先ほど平川委員から範囲の額又は算定方法を定めるというのはやや重すぎて,不当に高額とならない基準でいいのではないかということを言われたかと思います。その額や算定方法と何が違うのかというのが気になっておりまして,信託法の54条ですと額又は算定方法を定めておけば,受益者に通知するという規律が外れるのではないかと思われるのですが,違う定め方の場合には,信託行為の定め方はもうちょっと緩やかというのでしょうか,漠とした形で書けるけれども,そのときは受益者に逐一通知する,この場合は受益者はいないから何かどこか別のところに通知するというような,そんな規律が考えられることになるのかどうか,54条との関係ではどうなるのかというのが一つです。
  三つ目は,この問題について最初から問題になっております不当に高額なものとならないということに関してです。これ以上はアウトだという規律の掛け方は十分あり得ることだと思うんですけれども,他方で,不当に高額とか,不相当に高額だという表現から直ちに連想されますのは消費者契約法などでの更新料とか,敷引きとかで言われるものです。それらの場合は何か,それに名を借りたというような場合に,そのような表現が使われるように思われまして,ここで報酬に名を借りたようなものは駄目だというような基準でよろしいのか,もう少し内容を厳格にしているのかという疑問が生じます。その概念のところは,他で使われる場合からの連想などもありますので,それも勘案しながら言葉遣いがこれでよいのか,他には適切な表現がなくこれしかないということはあるかと思いますが,どの辺りのラインなのかというのは考え方を示す必要があると思っております。
○中辻幹事 沖野幹事の1点目の御質問にお答えしますと,私は,現在の信託法や公益信託の実務を前提として,公益信託の受託者の報酬は原則として委託者が拠出した信託財産の中から支払われることを念頭に置いておりました。例外的に,信託行為の定めにより,信託財産の中からではなく,それとは別に委託者が受託者の報酬を支払うようにすることも信託法の解釈としては可能のように思いますが,実務上,特に公益信託の場合には,委託者がいったん信託財産をまとめて拠出した後の段階で,信託財産とは別途自らの負担で受託者に対し報酬を支払うということはあまり想定されないようにも思います。
  2点目について,信託法54条で商事信託の受託者及び信託報酬の定めのある信託の受託者は報酬を得ることは可能とされており,その額は信託行為の定めに委ねられているので,受託者の報酬を公益信託の認定基準とすることは実体法の規律に上乗せがされることになるのではないかというのは結果的にそのとおりかもしれません。信託法上,先ほど小野委員の指摘された受託者の忠実義務などもあり,その枠組みの中で受託者の報酬が適正な水準となるということもあり得るようにも思いますので,信託報酬の額及びその算定根拠の通知の点も含めて更に検討を深めていきたいと存じます。
  3点目,「不当に高額」という表現に対しては色々な御意見をいただきましたので,その表現が意味するところの具体的な内容についても含めてこちらで引き取って考えてさせていただきます。
  平川委員の御発言に関する部分は,そちらにお譲りいたします。
○平川委員 私が申し上げましたのは,額ということについての規制は開示の観点で,要するに報酬というのは委託者と受託者の間の信託行為で決められることなので,どういう基準で決めたのかという算定方式が開示されて報酬が計算できて,これは高すぎるから,そんなのでは嫌だと自由な契約の自治の範囲で交渉ができたりとか,一方的にこういう金額であるとか,あるいは規制上,こうでなければならないというものではなく,高すぎだろうが低すぎだろうが,自由に決められるべきだと思うというのが基本にあって,でも,どうやって決めるんですかということが信託行為ではっきりされていることというのが認定基準になれば良いという,そういう発言だったんですけれども。
○沖野幹事 そうすると,このゴシックでよろしいという,ゴシックとは違うということなんでしょうか,額又は算定方法というところですが。
○平川委員 額又は算定方法が信託行為で明確に定められていると,不当に高額なものとならないというのは,算定方法にも係っているんですかね。
○沖野幹事 係っていると理解しておりましたが。
○平川委員 不当に高額なものとならないというのは要らなくて,単に算定方法が信託行為で明確になっていればよいという意見です。
○沖野幹事 分かりました。御趣旨を確認したかったということですので,ありがとうございます。
○中田部会長 この点については大体よろしいでしょうか。
  この論点につきましては,何らかの認定基準は置いた方がいいだろうという御意見が多かったように伺いました。その上で,原案のようにするのかどうか,あるいは表現がこれで適切か,更に具体的基準をどのように考えるのか,あるいは認定基準としてだけではなくて,監督基準という面も検討すべきではないかと,こういった御意見を頂いたかと存じます。また,全体を通じまして,一つ一つについてここまで御意見を賜ったわけでございますけれども,平川委員からも前に御指摘がありましたし,それから,山田委員からも御意見を頂きましたように,相関的なところがあるから全体を見回した検討が必要だろうというので,これは恐らく第2ラウンドで,また,その機会があろうかと存じます。その際には,全体のバランスあるいはそれぞれの根拠,表現,具体的基準ということで更に課題はあると思いますが,御議論の結果,問題点が明らかになってきたと思いますので,次の機会にまた御審議いただければと思います。
  それでは,引き続きまして部会資料34の「第3 公益信託の認定の主体」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  「第3 公益信託の認定の主体」のうち,「1 主務官庁による許可制の廃止」について御説明いたします。本文では,「主務官庁による許可制については,廃止することでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託の審査実務に対しても,主務官庁による許可制を採用していた旧公益法人に対して指摘されていた問題点と同様の指摘がありますことから,これらの問題点を解消し,公益信託の適正な利用を促進するために,公益法人と同様に主務官庁による許可制を廃止することが相当であるとして,このような提案をしている次第でございます。
  続いて,第3の「2 新たな公益信託の認定主体」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を行う手続(認定主体を含む)は,次のいずれかとする。」として,甲1案,「特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,甲2案,「民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁(課税庁を除く)が公益信託の認定を行う。」,乙案,「民間団体が公益信託の認定を行う。」との提案をしております。
  公益信託について主務官庁による許可制を廃止する場合には,新たな公益信託に認定主体を検討する必要があります。まず,公益信託の認定の効果として,公益法人と同様の税法上の優遇措置を受けられることを視野に入れた場合には,公益法人と同様に,行政庁が公益性の認定に関与し,一定の監督を受けることが必要になると考えられます。また,現行の公益信託の申請事務において,特に複数の主務官庁にまたがる共同所管の場合に,主務官庁による許可制が障害になっているなどの問題点が指摘されていることからすれば,単一の行政庁が一元的に公益信託の認定を行うことが相当と考えられ,甲1案を提案した次第でございます。もっとも,特定の行政庁が認定を行うこととした場合であっても,不当な裁量権の行使を防止し,判断の客観性や透明性を確保するという観点から,公益法人認定法と同様に民間の有識者から構成される合議制の第三者機関を諮問機関として,特定の行政庁が公益信託を認定する仕組みが考えられ,甲2案を提案しております。
  なお,甲1案及び甲2案を採用する場合であっても,地方分権における国と都道府県の役割分担などを踏まえると,特定の行政庁については国だけでなく,都道府県を含めることが相当と考えられます。ただし,部会資料17ページの3段落目以降に記載しておりますとおり,都道府県知事だけでなく,現在,認められている都道府県の教育委員会を含めるべきか否かや,国と都道府県の所管をどのように分担するかなどについては議論があり得るところですので,併せて御審議いただければと存じます。
  以上に対し,公益信託の認定は民間団体が行うべきであると考えもあり得るところですので,乙案を提示している次第です。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。2は1が前提となっている論点ですので,まず,1について御審議いただきまして,その上で2に進みたいと思います。1についていかがでしょうか。
○平川委員 主務官庁による許可制の廃止に賛成します。主務官庁の所管が異なることにより,公益信託法制の一律的な運用が難しいという弊害が見られたことから,認定主体の一元化が望ましいと考えます。旧公益信託の最大の問題点であったと考えておりまして,所管がまたがった場合に調整ができないなどの問題点があったと理解しております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論でも,主務官庁制は廃止に賛成でした。理由は御説明いただいたところとか,平川委員とも同じですので結論だけ申し上げます。
○中田部会長 今の廃止に賛成の御意見をお二方から頂きましたが,ほかに。特に異論はございませんでしょうか。それでは,1については廃止するということが御意見と承りました。
  では,それを前提といたしまして「2 新たな公益信託の認定主体」について御意見を頂きたいと存じます。
○林幹事 弁護士会の議論では,基本的には甲2案でした。民間の意見を反映させるためという観点からは,甲2案の意見が多かったです。一方,民間団体というのも捨て難いという意見もありまして,甲2案と乙案と併用というような意見もそれなりにありました。ルートとしては複数あっても良いのではということです。例えば建築確認の例もありますし,行政が本来やるべきものも民間に委託する形で開放するというやり方もあります。民間が行うときの規定の仕方も,直接行うというのか,行政から委託を受けるのか,いろいろな形もあり得ると思います。
  それから,現在,公益法人の認定は都道府県単位で行われており,ある県では認められて,ある県では認められないということが実務的に起こり得るところです。そういうことを想定したときに,ルートが複数あれば,結果として平準化されるということもあるのでは,という意見もありましたので,今の時点では,まだ,民間の可能性も残した上で,中間試案なりに向かっていけば良いのではと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 認定基準と運用の一元化の観点から,特定の行政庁のみの所管とし,それを補うものとして民間有識者から構成される合議体の第三者諮問機関を設けることが必要だと考えまして甲2案に賛成します。これは公益法人の公益認定と同様の制度をイメージしておりまして,税制優遇の問題から考えますと,民間だけに委ねるというのも課税庁の方からすると,なかなか,難しいのかなと思いまして甲2案に賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 林幹事が言われたことと関係するのですが,甲2案によるとしましても,特に現在の公益法人については,公益認定の基準について都道府県によってばらつきがかなり見られるのではないかと思います。許可制時代と変わらない運用を前提にしているかのように見えるところもあるとしますと,地域によって非常に不公平が生じる可能性が生じているのではないかと思います。その意味では,林幹事のおっしゃるような併用案がよいのかどうかは別としまして,運用基準の平準化を考える必要がある。そして,そのためにどのような方策を採るべきかということも併せて検討しないと,なかなか実際の実務が変わっていかないのではないかとも思います。その点は,今後の課題として指摘させていただきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
○渕幹事 若干,抽象的な議論で申し訳ないのですが,甲2案で民間の有識者から構成される合議体の第三者機関を諮問機関としてとあるのはどういう趣旨だと理解すればよいのでしょうか。特定の行政庁が恣意的な判断をしないという客観性を確保するため,正しい判断をするためというような面に重きを置いて理解するのでしょうか。それとも,税制優遇を受けた財産が適切に管理され,使われることに対する民主的コントロールないし民主的な参加,すなわち,国民がその判断に参加しているのだというところに重きを置いて理解するという考え方も可能かと思うのですが,どう考えれば良いのでしょうか。
○中辻幹事 甲2案で目的としておりますのは,民間の有識者から構成される合議体の意見を踏まえた行政庁の判断には客観性や透明性が確保されるということで,これが第一次的,本来的な目的です。甲2案を採った結果,税制優遇を受けた財産が適切に管理処分されることを否定するつもりは全くないのですが,甲2案のまずもって意図するところは,公益信託の認定業務を担う行政庁の判断の客観化,明確化にあります。
○渕幹事 どうもありがとうございました。
○長谷川幹事 甲2案はいいようにも思うのですが,私の経験では,公益法人の認定に関して,委員会の下で働いておられる職員の方といろいろ申請に当たって調整する中で,「公益認定等委員会の事務局としてはこう考えますけれども,公益認定等委員会の委員の方がどう判断されるか分かりません」ということを言われてしまうことがありました。要するに,行政庁としては,ある程度独立した機関からのアドバイスをしっかり踏まえてやらなければいけないという判断で,そのような対応をされるのだと思うのですけれども,申請する側からすると予見可能性が非常に低い形になってしまう可能性があるということでございます。その点,今は平準化されているのかもしれないので,知見がある方がいらっしゃれば補足していただければと思いますけれども,申請する側の予測可能性を確保しつつ,行政庁の判断の客観性を確保するのであれば,事後に不服制度等を設けるということでも理屈としては可能であると思いますので,甲2案が絶対的にいいものということでもないかもしれないと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  甲1案の御支持はないようで,甲2案をベースにすることに賛成の方が多いようですが,しかし,このままというわけではなくて,客観性を高める,予見可能性を高める,あるいは地域によるばらつきのないようにするというような御指摘を頂いたかと思います。また,その方法として弁護士会からは甲2案もいいけれども,乙案も捨て難いので,当面は両方を残しておいてはどうかというような御指摘を頂きました。
  ほかにございますでしょうか。
○新井委員 林幹事に質問ですけれども,乙案で考えている民間団体は,具体的にはどういうものをイメージされているか,御説明いただけると大変有り難い。
○林幹事 これといってきちんとイメージしているものではないのですが,一つの具体例としては建築確認について民間に開放されているという例があるというところです。また,弁護士会の議論の中では,これもきちんとしたものかどうか分からないのですが,例えばロースクールの認定は法務研究財団もやっていますから,そういう形で,民間で認定能力のあるところに出していくことはあってもいいのではないかというところです。この件で法務研究財団がやるかどうかは全く分からないのですが,そういう形で民間に出していくことはあってもいいのではないか,という議論でした。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかはございませんでしょうか。
○山田委員 三つある案の中では私も甲2案がよいと思います。独自の理由は特にありませんので,補足説明に書いてある甲2案の説明のようなことを考えます。その上でですが,17ページの中ほどに教育委員会のことが書かれておりますが,ここについては甲2案の方向で議論が進んでいくならば,教育委員会は独立のものとして扱わず,知事部局の下で一元的に扱うというのが良いだろうと思います。それは,今,出てきたお話に便乗するような形になってしまうかもしれませんが,教育という分野についてのみ,認定基準を専門化させるという必要性は大きくなく,かえって基準の違いというんでしょうか,それを生じさせかねないというようなことが考えられると思います。したがって,太字にはなっていないところではございますが,教育委員会を独自のものとはしないということがよいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,第3についてはよろしいでしょうか。
○吉谷委員 2については甲2案に賛成で,特に付け足す理由もないのですけれども,判断の客観性,透明性,統一性について保たれるような仕組みにしていただけたらと考えております。それで,1番で主務官庁の許可制廃止で新たな公益信託の認定主体を設けられるわけなんですけれども,2のところでは認定と監督については,監督は別途,検討する必要があると書いている。認定と監督が一体化されるかもしれないということを踏まえて,一言だけ付言させていただきますと,現行の実務の主務官庁というのは,その後の監督のところについてはほとんど別に3年ごとの立入りとか,そういうことはございませんので,強い権限はお持ちなのかもしれないんですけれども,それを行使されることは余りなかったのです。
  その背景について少し考えたのですけれども,恐らく二つほどあって,公益性の確保という点では,今,信託銀行は助成型しかやっておりませんので,公益事業の認定をしておけば,その後,公益性の確保について,それほど心配する必要はないのだろうと思われているのかなと。もう一つ,信託財産の管理の適切性あるいは不正な使用がなされていないかということにつきましては,信託銀行あるいは信託会社というのは,信託業法の下で規制されているという枠組みがありますので,そういう点についても主務官庁から御信頼いただいているのかなと考えているわけなんですけれども,今後の認定主体あるいは監督される主体というのが認定をする,あるいは監督をするに当たって,公益性という点と信託財産の管理の適切性の確保という両面を見られるのだろうと思うわけです。
  現在の信託業法の下で行う信託会社あるいは信託銀行というのは,今後,信託財産の範囲であるとか,信託事務の範囲が拡大されても,信託財産の管理の適切性は確保されると思うのですけれども,一方で,公益信託の引受けが営業でなくされた場合には,信託業法の適用はないわけでありまして,認定あるいは監督について公益事業の適切性だけではなくて,信託財産の管理の適切性についても認定あるいは監督していただく必要があるということになりますので,それを担う主体として,一体,どういうことを具体的にされるのかということを検討する必要があるのかなと。逆に言えば,新たな公益認定主体や監督主体に誰がなるかによって,また,受託者の範囲というところをどうするかというところにも考えが及ぶのかなと考えましたので,付言をさせていただきます。
○中田部会長 ありがとうございました。今の背景を踏まえて,冒頭におっしゃったところでは,その上で甲2案に賛成するということでございますね。ありがとうございました。
  よろしいでしょうか。それでは,時間があと30分でございますが,第4に入りまして,ひょっとしたら御審議は途中までになるかもしれませんけれども,できるところまでお願いしたいと存じます。「第4 公益信託と目的信託との関係」について事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私から御説明させていただきます。
  「第4 公益信託と目的信託との関係」のうち,「1 公益信託を目的信託の一類型とするか」について御説明いたします。本文では,「公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持することでどうか。」との提案をしております。現行の信託法及び公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型とする構造を採用しておりますが,現時点においてこの整理を不当とするまでの事情の変動は見当たりませんので,本文のような提案をしている次第です。もっとも,表に記載しておりますとおり,公益信託と目的信託については,範囲や効果には相違点がありますので,必要に応じて公益信託について目的信託に関する規律の特則を設けることを考えております。
  続いて,第4の「2 公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力」について御説明いたします。本文では,「公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規律は設けないことでどうか。」との提案をしております。現行の公益信託法第2条第1項の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益を目的とする目的信託は,公益信託としても目的としても無効であると考え方があり得ます。しかし,民間の公益活動の一環として公益信託の適正な利用を促進していくという基本的な方向性からすると,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託であっても,目的信託の要件を満たしている限り,有効とするのが適切と考えられますので,本文のような提案をしております。
  第4の「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御説明いたします。本文では,「公益信託の設定前に目的信託の設定を前置することは不要とする。」との提案をしております。公益法人制度では法人格の取得と公益性の認定が制度的に分離されており,一般社団法人又は一般財団法人を設立した上で公益認定を受けることとなっております。しかし,信託においては公益法人制度のように信託の設定と公益性の認定の分離の要請はなく,また,ある信託が目的信託として事前に設定された上でなければ,公益信託の認定を受けられないとするまでの必要もないことなどから,本文のような提案をしております。
  最後に,第4の「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」について御説明いたします。本文では,甲案として,「既存の公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けることを許容する。」,乙案として,「実質的に公益を目的とする私益信託-ここではこれを公益的私益信託を呼びます-が,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることを許容する。」,丙案として,「甲案及び乙案に掲げた場合をいずれも許容する。」,丁案として,「既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しない。」との提案をしております。
  まず,公益信託を目的信託の一類型とし,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託を有効とする場合には,既に設定されている公益を目的とする目的信託について,公益信託の認定を申請するケースも想定し得ることから,甲案のような提案をしております。次に,実質的には公益を目的としながらも目的信託として設定せずに残余財産受益者を定めるなどして,公益的私益信託として設定する場合も想定できます。このような公益的私益信託について,信託の変更により受益者の定めをなくした上で公益信託の認定を申請するニーズもあり得ると考えられますので,乙案のような提案をしています。更に甲案と乙案は論理的に両立し得ることから,いずれの場合も許容すべきとの考えもあり得るため,丙案を提案しております。
  以上に対し,従来の公益信託は設定時に受託者が引受けの許可を受けることにより成立してきたものであり,この取扱いを変更する必要はないとして,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容しないとの考え方もあり得るため,丁案のような提案をしている次第です。
○中田部会長 ただいま御説明いただきました部分について御審議いただきたいと思います。4項目がございますが,1と2は公益信託と目的信託との関係の全体的な論点であるのに対しまして,3と4はやや具体的な制度設計に関する論点かと存じます。もちろん,相互に関連しておりますので,きっちりと区別できるわけではありませんけれども,まず,1と2について御審議いただきまして,その後,3,そして,4というように進めていきたいと思います。ということで,まず,1と2について御意見を賜りたいと存じます。
○小野委員 では,口火を切らせていただきます。受益者の定めがないという観点からすると,同じ類型であるということにはなる。そこは理屈上の話ですけれども,他方,今まで議論してきたことで公益財団と一般財団,それから,公益信託と目的信託,こういう比較も必要である。なぜ,必要かというと特に課税上の扱いにおいても,デフォルトルールといいますか,その一類型としたときに分類される目的信託と公益信託が余りにも違いすぎるという点です。その観点からすると,後段の方の議論に近付いてしまいますけれども,公益を目的とする目的信託を認めるという議論が出てきますが,目的信託を二つの類型に分けるときに,一般的な目的信託と公益を目的とする目的信託という分類だけでは足りずに,以前の議論ですけれども,非営利型の目的信託というものも観念して,その上で公益信託と非営利型の目的信託が同じ類型であるというような議論をしていかないと,万一,公益信託であったものが認定を取り消され目的信託に落ちたときに制度上のひずみから生ずるいろいろな問題があり,例えば受託者に問題があって認定が取り消されたときに,本来の公益からベネフィットを受ける受給権者も課税上の影響を受けることにもなり得るなど,いろいろなひずみが生じてしまうということもあると思います。また,だからといって,目的信託一般について非営利型の一般財団法人と同じ扱いをするということ自体,適切ではないと思われますので,分類としても,1,2の議論についても公益信託と目的信託という議論は一つの理屈では当てはまりますけれども,更に突っ込んでいくと,目的信託を更に二つに分けるときに,公益目的の目的信託ではない,もうちょっと幅広の非営利型の一般財団法人に匹敵するような非営利型の目的信託というような分類の仕方もあり得るのではないかというのがバックアップチームでの議論でもあり,私の意見でもございます。
○深山委員 1番目の公益信託を目的信託の一類型とするかということについては,結論的には,そのようにした上で公益信託についての特則を設けていけば,法制度としては成り立つのかなと思ってはいます。ただ,これは,これから定まっていく公益信託の規律として,どういう各論的な規律が入って,それが目的信託という土俵の上に乗っかって,その上での特則というような仕組みで説明できるものなのかという問題であり,ここまでいったら,そもそも類型を違うものとして捉えた方が整理としては分かりやすいのではないかということになれば,一類型としない,別類型という選択肢もあり得るようには思うんです。なので,最もここが一番総論的なことなので,最終的にもう少し議論を進めて,公益信託の具体的な各則的なものが定まってきたところを踏まえて,最終的に類型の整理をすればいいのかなとも思います。
  2について申し上げますと,結論としては,現行法の通説的な考え方とは違って,公益を目的とする目的信託は認定を受けていなくても認めるという考え方について賛成をいたします。ただ,ゴシックで書かれているのは,これを無効とする規律は設けないということなので,つまり,規定としては何も置かないということだと思うんです。
  もちろん,現行の公益信託法2条1項がなくなるという意味合いはあるものの,なくなるものの,それ以上に何も有効とも無効とも書かないということになると,なお,解釈に委ねられるという理解も可能なような気がします。今の補足説明なり,事務局の説明によれば,有効なものと考える余地が十分あるので提案しているということからすると,意図しているところは有効だという趣旨なんでしょうが,単に規定を置かないということになると,そこまでいかずに,それが有効か無効かは解釈問題だというような整理をされる懸念があります。もちろん,これは条文ではないので,条文のときにどうなるかというのはまた別なのかもしれませんが,より積極的に公益認定を受けない公益を目的とする,あるいは公益的なと言ってもいいかもしれませんが,そのような目的信託というものの有効性を積極的に肯定する規律を何らかの形で表現すべきではないかという気がいたします。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 小野委員と深山委員に連なるところでもあるんですが,ここで私が気にしているのは,現行の信託法の附則3項と施行令の点です。2であえて無効とはしないということであれば,積極的に有効とすればいいのではないのかと考えられ,公益認定を受けないけれども,公益的な目的信託というのが残っていくということを考えるべきであるのはそのとおりと思います。しかしながら,今の御説明でも現在の目的信託の条文に合致していればというご指摘もありましたから,それは結局,附則3項なり施行令が今のままであれば,その条件に合わない目的信託は目的信託としては生き残れないことになってしまいます。ですから,附則も併せて改正するなり,修正することをここで議論すべきだと思います。先ほどの非営利的な目的信託というのを考えたとき,附則3項以下の制約があるとこうした非営利的な目的信託は残っていかないと思いますから,それも併せて議論すべきところだと思います。
○道垣内委員 深山委員がおっしゃったことで,第4の1については具体的に公益信託というのをどういう規律にするのかが決まらないと,決まらないというのはおっしゃるとおりだろうと思います。しかし,条文の規定の技術として現行信託法258条以下のものを準用する形にするのか,それとも新たにいろいろな内容を書き起こすのかという問題というのはもちろんあろうかと思うのですけれども,しかしながら,2のところで公益を目的とする目的信託の効力について,これを無効とする旨の規定を設けない,ないしはそれを積極的に有効とするというお立場を採られる限りにおいては,それは実は公益信託は目的信託の一類型であると言っているにほかならないのではないかという気がするのです。したがって,私は2のことについて規律を設けないということにすべきなのか,有効だと言うべきなのかはよく分かりません。まあ,本当は有効であるとわざわざ書く必要はないと思いますが,少なくとも有効であるということは全く賛成するところであり,賛成するならば,概念的には目的信託の一類型であるということになるのではないかという気がいたします。
○新井委員 目的信託の考え方については,私の考え方は既に複数回,申し上げてきましたので,余り詳しくは申し上げませんけれども,日本の目的信託というのは非常に幅が広くて,私益,共益,公益の全てを含むものであり,かつ受益者がいないために事実上,委託者が監督するという私益的な側面が非常に強いということで,日本独特の信託制度ではないかと私は考えております。目的信託と公益信託の共通点は,唯一,受益者が存在しないということだけです。ですから,私は公益信託を目的信託の一類型とすることについては反対です。
  しかしながら,前の信託法部会において全会一致で目的信託の導入が決定され,しかも現在においてはそれが実定法化されているという状況の中では,私としては私の意見を申し上げた上で,1の考え方,つまり,公益信託を目的信託の一類型とする現行信託法及び公益信託法の構造は維持するということに反対はしないという立場を採りたいと思います。でも,私の個人的な意見としては先ほど申し上げたとおりです。
  その上で,今度,2ですけれども,そうすると当然の理論的帰結として,許可又は認定を受けていない公益を目的とする目的信託というのは,当然,有効になることは当然の論理的帰結だと私は考えます。これは価値判断の問題ではなくて,1の結論を採れば,当然,そういうことになるかと思います。それを規定するか,有効と書くかどうかは別として,当然に有効だという立場になるので,そこは規定を設けないことでいいと私は思います。
○能見委員 3点ほど申し上げたいのですが,一つは小野委員のおっしゃっていたことと少し重なりますけれども,この資料の中でも公益を目的とする目的信託という言葉が出てきますけれども,こういうコンセプトがあるものではなくて,目的信託というのは公益もできるし,それから,後でいろいろな転換といいますか,公益を目的とする目的信託で公益認定を受けていないで後で公益信託に移行するような場合のことを考えますと,ここでいう公益を目的とする目的信託の公益というのは,必ずしも厳密な意味で後で公益認定を受ける公益そのものではなくて,もうちょっと広いぼやっとしたものだと思います。いずれにせよ,言葉としては注意した方がいいだろうというのが一つです。
  それから,皆さん,おっしゃっていたことと共通しますけれども,そういう意味の言葉遣いを注意した上で,いわゆる公益を目的としている目的信託について,これを無効にするという解釈は封じておいた方がいいということですが,そのためにどの程度の手当をすればいいのかは私もまだよく検討していませんけれども,最低限,これを無効にするという公益信託法2条1項のような規定は,廃止するということなのだろうと思います。
  それから,3点目は今回,公益信託のいろいろな問題をまだこれから検討していくわけですけれども,目的信託の,あるいは本来の目的信託と言ったらいいんでしょうか,そちらの規定にいろいろ影響するところが出てくるかもしれない。それは公益信託における特則だという形で,目的信託の規定に影響させることなく,公益信託だけの規定を作れば,形としては様になるのかもしれませんけれども,目的信託のところの規定もいじった方がいいのが本当はあるのではないかという気がいたします。これは先ほど林幹事が言われた附則3項のところの目的信託の受託者を制限している規定であるとか,あるいは私の個人的な意見ですけれども,信託の変更という形でもって私益信託と目的信託の間の変更を認めるということも,本当はあっていいのかと思います。最後の点はともかく,公益信託の法制を考えていく中で,目的信託の規定の方を修正するということがあってもいいということを申し上げたいと思います。
○平川委員 公益信託を目的信託の一類型とすることには反対します。目的信託は,信託法第258条1項の受益者の定めのない信託のこととされていますけれども,信託銀行等においての受託実績はゼロと理解しておりますし,一般の人の認識も薄く,公益信託をその一部と説明する実益がないと考えます。目的信託という概念自体が浸透していないのに,あえてその一類型と整理する意味はなく,単に公益信託といえばよいのではないかと考えます。仮に公益信託において公益の認定ないし取消しに目的信託を前置するとか,目的信託として存続させる構造を採るならば格別ですけれども,それらに対してはいずれも消極的な意見を持っておりますので,そういう意味でも,目的信託の一類型であるという必要はないと考えます。
  また,新公益信託において受益者の定めのある信託であっても,その背後に不特定多数の受益者の存在が予定されるということもあると思います。例えば公益法人が受益者であるという場合において,その背後に不特定多数の公益的な受益を受ける受益者が存在している場合には,実質的に不特定多数の受益者が存在するものとして,公益認定が得られる場合があるのではないかと思いますので,そういう意味でも,目的信託の一類型とする構造は矛盾することになると考えます。
○新井委員 公益信託を目的信託の一類型としないという平川委員の意見をお聞きしまして,私の意見は必ずしも孤立無援ではないということを感じました。先ほど白旗を上げましたけれども,今の意見がありましたので,一応,白旗を撤回してもう少し,ここのところはきちんと議論していただきたいと思います。
○平川委員 2の方も一緒に述べたほうがよろしいでしょうか。
○中田部会長 是非。
○平川委員 2の方につきましては,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託の効力については,これを無効とする旨の規律を設けないということに賛成します。公益を目的とする目的信託が公益信託の認定を受けないで存在することは,私益信託の問題ですけれども,それを否定する理由に乏しいということから,無効とする旨の規定まで必要はないと考えます。公益信託と公益的目的信託,私益目的信託というんですか,そういうものとの入り繰りの話なんですけれども,結局,入口は自由,公益的目的信託から公益信託に要件を満たせば移行するということは自由で,出口は一旦,公益信託の認定を受ければ,それで生命を全うして,もし要件を欠くことになればシ・プレ原則により,他の公益信託と移行することもあるし,そうでなければ国有財産に召し上げられるという運命をたどるというのが簡潔で,非常に整理ができているのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○島村幹事 先ほども吉谷委員からも御指摘のあった点でございますし,先ほど林幹事の方からも目的信託の附則3項の話でございますとか,信託の受託者の範囲についても幾つか御議論を頂いております。この点につきましては,当然のことながら,現行信託業法では営業目的での信託の受託者については,受益者の保護などの観点から一定の制約を置いておりまして,ここについては現行の制度では少なくとも信託業法での免許なども必要になるというようなことも御留意いただいた上で,御議論いただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 1番,2番ともに賛成というのが結論でございます。御議論をお聞きしていまして,1点,疑問に感じましたのは,公益的目的信託というのは多分,委託者や受託者の方は,これは公益的なんだと思われているのだろうけれども,公益認定は受けていないというものを指しているんだと思うんですけれども,1点,疑問なのはまだ議論されていない公益という名称を使っていいのかどうかというところとの関係で,公益的目的信託は自らを公益的目的信託と名乗っていいのだろうか,そう名乗ると非常に分かりにくくて混乱するのではないかなという危惧を抱きましたというのが御議論をお聞きした感想で,非営利型目的信託と名乗るのはいいのかもしれないけれども,公益的目的信託というのはいかがなものなのだろうと思いました。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。この論点2については原案でよいという御意見を頂戴したかと存じます。1につきましては,理論的な問題と,立法技術の問題と,それから,平川委員から御指摘いただいた実際面での問題と,様々,あろうかと存じますが,1については原案賛成の方が多くいらっしゃったとは思います。新井委員が白旗を撤回とおっしゃいましたが,勝ち負けではありませんので,いろいろな御意見を引き続きお出しいただければと存じます。
  それで,時間が参りましたので,申し訳ございませんが,3と4につきましては次回に積み残しということにさせていただきます。司会の不手際で申し訳ございません。
  それでは,本日の審議はこの程度にいたしまして,次回の議事日程等について事務当局から御説明をお願いします。
○中辻幹事 次回は,本日積み残しになりました第4「公益信託と目的信託の関係」の3と4を御審議いただいた後,公益信託の監督・ガバナンスについて御審議いただくことを予定しております。監督・ガバナンスについての御審議は,まとまりとして次回11月と,次々回12月の2回を予定しております。
  次回の日程は,平成28年11月1日(火曜日),午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第33回会議 議事録









 
第1 日 時  平成28年9月6日(火)   自 午後1時29分
                       至 午後4時49分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第33回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,平川委員と岡田幹事が御欠席です。また,多少遅参される方がいらっしゃるということです。
  前回まで関係官でおられた溜箭調査員が在外研究に出られまして,交代で本日の部会から東京大学の藤谷准教授が加わることになりました。藤谷調査員,簡単に自己紹介をお願いいたします。
○藤谷関係官 法務省民事局調査員の藤谷でございます。租税法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 よろしくお願いします。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。部会資料33「公益信託法の見直しに関する論点の検討(2)」を事前に送付させていただきました。また,当日配布資料として,今回御欠席の平川委員から「『公益信託法の見直しに関する論点の検討(2)』に対する意見書」を頂いております。その内容をご紹介しますと,部会資料33で提案している事項についておおむね賛成とされている部分が多いのですが,何点か御指摘ないし別の御提案をされている部分もありますので,この後の部会資料の説明や御審議の段階で当方から補充の説明を行うことを予定しております。さらに,吉谷委員提供の「信託主要法令資料」平成28年9月版を席上にお配りしております。前回配布したものは平成27年9月版であり,今回改めて最新版をお配りしたということになります。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,ただいまの部会資料33について御審議を頂きます。具体的には,このうちの「第1 公益目的の信託事務の定義等」と「第2 受託者に関する認定基準」をまず御審議いただきまして,午後3時頃を目途に適宜休憩を入れることを予定しております。その後,「第3 信託事務に関する認定基準」について御審議いただきたいと思います。
  それでは早速ですが,「第1 公益目的の信託事務の定義等」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○立川関係官 部会資料33のうち,まず冒頭の(前注)部分について説明いたします。
  (前注)部分では,公益法人制度において,公益法人認定法が規定する各種の認定基準が,公益認定の取消し等の監督上の措置を行う基準となっていることを参考にしまして,今後,公益信託の認定基準を検討するに当たりましては,それが単に公益信託の認定基準となるにとどまらず,認定取消事由となり得ることを前提にすることとしています。
  続きまして,第1の「公益目的の信託事務の定義等」のうち,1の「公益目的の信託事務の定義」について説明いたします。
  まず本文では,公益目的の信託事務の定義に関し,「公益目的の信託事務は,学術,技芸,慈善その他の公益を目的とするものであって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとして,具体的に列挙されたものであるとすることでどうか。」という提案をしています。
  その提案の理由としましては,公益というものの概念につきまして,公益信託と公益法人とで異なるものとする理由はなく,公益目的の信託事務を定義するに際しても,公益目的事業の定義を参考にすべきと考えられることなどを挙げています。
  なお,公益目的の信託事務を提案どおりに定義した場合,不特定かつ多数の利益の増進に寄与するものであるか否かにつきまして,例えば,受給権者が特定の範囲の者に限られる信託について公益性がないとされるなど,認定実務におきまして形式的な判断がされる懸念があるかと思われます。しかし,公益法人の認定実務においては,受益の機会が特定の者に限定される事業であっても,公益目的の実現に直接貢献するといった合理的な理由がある場合には,不特定かつ多数の利益の増進に寄与するものであるとの認定をしているとされているところであります。こうした公益法人の認定実務を踏まえますと,公益目的の信託事務の定義を提案どおりとした場合でも,公益性について形式的な判断がされる懸念はないものと考えております。
  また,提案部分の(注)書きにも記載しましたが,本論点では,これまで説明したとおり,公益性の有無の観点から,公益目的の信託事務の外縁を画する定義について検討することとしております。
  前回第32回部会では,公益信託の受託者が助成事務以外の事務を行うことを許容するかなどといった論点を検討したところですが,これとは別に,公益性の有無の観点から,公益目的の信託事務の定義に関して御議論いただければと存じます。
  なお,平川委員御提出の意見書では,この定義に関しまして,公益法人認定法第2条第4号の定義と比較して,定義の順序が異なることに意味があるのか明かされたいとの指摘がされています。
  確かに,両者の記載内容は多少異なりますが,第1の1は,公益目的の信託事務の定義に関しまして,公益法人認定法第2条第4号の規定を参考に記載したものであり,両者に実質的な差異はなく,表現ぶりの違いがあるにすぎないとお考えいただければと存じます。
  続きまして,第1の2,公益目的の信託事務の種類について説明いたします。
  本文では,「公益目的の信託事務の種類として具体的に列挙するものは,公益法人認定法別表の掲げる公益目的事業の種類と同一とすることでどうか。」という提案をしています。
  第1の1の論点でも説明しましたとおり,公益の概念について,公益信託と公益法人とで別に解すべき理由はないことから,公益信託の公益の概念の明確化に当たっては,公益法人と同様の手法をとることが自然であると考えられることを根拠として,このような提案をしているところであります。
○中田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。1と2は関連いたしますので,特に順番は付けません。どこからでも御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 それでは,ちょっと口火を切らせていただきます。取りあえず2点申し上げたいと思います。
  一つは,限定列挙といいますか,限定列挙して政令指定という形になっていますけれども,公益という概念は,今現在の想像力を超えるところが将来的にもあると思うので,政令となりますと,各関係省庁の合意ということが必要となりますから,やはり限定列挙ではなくてオープンといいますか例示規定という形がふさわしいのではないかと思いますし,そういう形で日弁連のバックアップチームにおいても議論いたしました。
  では,具体的に今現在何が欠けているのかというような観点で検討しましたが,例えば,基本的人権も一部表現の自由とか入っていますけれども,基本的人権絡みのものが決して全部列挙されているわけではないし,例示ということであればここで列挙をわざわざする必要があるのかという議論もあるかと思います。また,仮に9条改正反対とか何か平和運動とかについても,22項目に入っていないのではないかという議論もございました。ですから,そういう項目を入れてほしいというよりも,やはり公益性ということの広がりからすると,限定列挙ではない方がよりふさわしいと思います。また,公益法人改革のときは,既存の公益法人という枠組みといいますか,既存のものがあってその上での改革ということでしたけれども,公益信託の場合は既存のものがあるといっても,今は金銭給付型ですけれども,今後違う形で展開をしようとしているわけですから,新たに制度を構築するという観点から,やはり背景が異なるのではないかと思います。
  2点目は,不特定多数の議論でございまして,補足説明に書かれていることにもちろん賛同いたします。不特定多数については,従前の民法の議論とは違った意味で捉えられるということでふさわしいと思いますけれども,片や,実定法としての信託法を考えたときに,従前の民法の議論と異なる解釈ということをここで議論し,また将来的に一問一答等に入れていただくとかいろいろ進め方はあるかもしれませんけれども,解釈としてそれが将来またかなり限定的になるという懸念もあるのではないかという議論もございまして,ですから,できる限り条文に反映できるようにしていただくか,その他何らかの明文の規定に落としていただくことにより,不特定多数を限定的に解釈しない公益法人法と同じような方向性にしていただきたいと思います。
○能見委員 今の小野委員の御意見と重なるのですが,限定列挙のところについて一言述べたいと思います。
  この限定列挙について,一つは理論的な観点からの問題なのですが,なぜここで限定列挙されているかということの理由が,この文章,説明の中にもありまして,公益法人のときにも言われたことだと思いますけれども,公益性の認定をスムーズというのでしょうか,こういうものは大丈夫だということで明確化するということにあるのだろうと思います。しかし,ここに書いてあるものは,もちろんこれだけでは判断できませんけど,ここに書いてあるものは大丈夫だとしても,それ以外のもので公益性があるものは幾らでも社会の変化に応じて出てくるわけで,限定列挙という考え方がそういうものを排除するという趣旨でないのであれば,ここのは限定列挙ではなくて,先ほどオープンと言われましたが,オープンな形にすべきなのではないかと思います。政令で指定できるとはなっていますけれども,実際に政令指定があるのかどうか知りませんけれども,恐らくなかなか使いにくいのだろうと思うのです。
  もう一つは具体的な運用のレベルの問題ですが,私が前から気になっていたものに,動物愛護という活動があるのですが,動物病院とか,あるいは猫を去勢するとかいろいろな活動をしていると思いますが,これが現在の公益法人のところで限定列挙されている目的の中にうまく入らないのですね。私のうろ覚えですけれども,公益法人の新制度への移行期に,それまでは動物愛護目的が公益法人として認められていたのが,移行する際に公益性認定が難しそうだというので一般法人に移行してしまったものもあったと思います。しかし,他方で実際には動物愛護目的の公益法人もあるのだと思うのです。その場合に,公益性がどういうふうに認定されているか余り詳しく知りませんけれども,恐らく限定列挙されている目的の中のどれかに結びつけるような表現を定款の目的か事業のところに書いているのだと思うのです。それは非常に姑息なやり方だし,本来,望ましくないと思います。そういった意味で,先ほど言った理論的な観点からもおかしいし,また,実際にも不都合もあるので,ここはやはりオープンにいくべきではないかと思います。
  それから,これはむしろ樋口委員の方が詳しいと思いますけど,たしかイギリスのチャリティ法は公益目的として認められる目的を幾つか列挙していますが,イギリスでも何を公益目的とするかについて歴史的に大問題があったわけですが,最終的に2011年のチャリティ法では公益目的を列挙はしていますけれども,その他の目的でも公益目的と認められるようにオープンな形の規定になっていて,このような方式がこれからのあるべき公益信託の在り方ではないかと思います。ただ,公益法人と変わってしまっていいのかというところはやはり気になりますので,この信託法部会で限定列挙方式について問題提起をして,できれば公益法人の方も変えていただけると一番有り難いのですが,最後は余計なことかもしれません。以上です。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 具体的にどのような事業を追加すべきかどうかという議論ではないのですが,ここに書かれていることから少し外れることについてもし御検討されていたら,そこをお伺いしたいということであります。
  「学術,技芸,慈善その他の公益」ということでこのゴシックのところに書かれていまして,それが公益法人認定法に倣っているものであるという御説明はよく分かりました。それは,私は結論としてはそれでいいのだろうと思います。ただ,民法の33条2項というのを見ますと,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益になっています。現在の公益信託法も学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益になっていて,この両者は符合しているのです。そうすると,現在の民法と公益法人認定法との関係では,明確に除外しているかどうかはともかく,祭祀と宗教を民法から公益法人認定法に移すときに落としているのですね。そして,では,信託をどちらで公益を考えたらいいかということが問題になるのだろうと思います。
  そのときに,宗教,祭祀については宗教法人法というのがあるのだろうと思うのです。したがって,公益法人認定法でどういう議論がされたか私調べておりませんし,関与していませんのでよく分かりませんが,個別の法人法があるものについては,排除するかどうかはともかく,正面からは取り込みにいかないというような判断があった可能性があると思うのです。それは恐らく社会福祉法に基づく社会福祉法人とか,更生保護事業法に基づく更生保護法人とか,そういったものについても似たような問題があるかもしれない。あるいは,この別表に社会福祉法人とか更生保護法人は当たるものもあるのかもしれませんが,別表には宗教,祭祀は正面からこれだろうというのがなさそうです。
  そうすると,信託の話ですが,信託については,社会福祉法人とか更生保護法人とか,あるいは宗教法人とかという特別法で法人格を与える分野というか領域がありませんので,法人と並びで考えていいかどうかというところは,やはり実質的に考えないといけないのかなという感じがします。
  そこで,よく分からないのですが,信託で公益信託のものというのは,期間を限って公益事業をすることを限定するわけではありませんが,そういうものができるスキームと考えると,民法33条2項から出発しましたから,そのうちの一定のものについてはそういう期間を限ってのスキームでの公益事業には必ずしもふさわしくない,あるいは,ふさわしくないとまで言うとまたいろいろ語弊があるかもしれませんので,ちょっと言い方は工夫しないといけないのですが,少し距離があるというふうなことで宗教,祭祀というのを今回外すというような議論を一度した方がいいのではないかなと思います。御準備のときにそのことを御検討されていたならば御紹介,御披露いただけると幸いです。
○中田部会長 関連する御意見ございますでしょうか。
○林幹事 基本的には御提案の方向付けには賛成ですが,問題意識として,現在の公益信託においては,公益性の認定が厳しくてなかなか成立し難いというところがあることから,少なくとも公益法人のような柔軟な形で公益性を認定してもらいたいという点があります。それは第1回の法制審でも出たところですので,そういう方向付けで御提案いただいていることには賛成したいですが,部会資料の中でも御説明いただいていることや,公益法人の実務で柔軟に解釈していることについて,そのとおり公益信託法の方で持ってこられるのかという問題があります。御説明では可能であろうとのことでしたが,そうできるか心配はしています。それについて何らか条文に取り込めればいいのですが,そうでなければ何らかの方法でそれを明確にするようにしていただきたいと考えます。公益法人の場合でも一問一答には入っていたようなので,少なくともその程度のそういうことはしていただきたいですし,ここでも議論に残していただきたいというのが1点です。
  それから,先ほど来の2の限定列挙のところです。既に22項目でも,それなりに広くカバーされているという認識もあるものの,先ほどの限定列挙でなくて例示列挙で進むべきだという議論のもそうですが,さらに改めて何かプラスできないのか,すべきものはないのか,あるいは特に今日的な問題についてきちんと22項目でカバーされているのかというのを考えていただけたらと思います。個人的には,例えば,災害の問題は,予防というのはあるのですけれども,災害が起こった後のことについては入っていないようにも,入っているようにも思えます。また,弁護士会の中ではLGBTの問題なども指摘がありましたが,こうした今日的な問題はたくさんあるはずで,そういうものが改めてカバーされているかどうか検討した方がいいと思います。これより狭める必要はないのでしょうけれども,プラスアルファするということを考えたらいいのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小幡委員 公益法人の方の認定に関わっている立場からすると,現在,公益法人の場合には,どこかに引っかかる,引っかける形で非常に広く「公益」を捉えているというのが実態ではないかと思います。
  ここの1回目の議論のところで,むしろ公益信託の方は対象の範囲などで,むしろ狭いような御様子がございましたので,そうであれば,公益法人の方の,せめてそこの広い「公益」とあわせるというのは一つの姿ではないかと思います。
  ただ,やはり公益というのは,確かに本来限定するようなものではなくて,何が公益かというのは画一的に決まってこないし,時代,社会環境等に応じて当然変わるものですので,余り限定列挙にはなじまない,典型的なものの列挙ということはできるとしても,完全な限定列挙というのは実は難しいはずです。先般,内閣府の公益認定の方でも一つ,公益と言えるかどうか難しいということで,排除した例がたしかあったと思いますが,最終的にはここのどこかに引っかけるとしても,本当にそれが公益かという実質的な議論というのは必ず必要になるので,そうすると,結局は公益というものの内容,実質については常に考える必要があると思います。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
 
  あとはどのように書いていくかということだろうと思いますが,少なくとも今の公益信託の実態よりは公益法人制度の方が広い公益ですので,特に不特定多数のところがある意味広くなっている,柔軟になっているという実態があるということです。
○樋口委員 ちょっとこれまでの議論を伺っていて感じたことを三つ,できるだけ手短にしますけれども。
  まず,一番最初に,やはり限定列挙にするかどうかというのは非常に大きな問題だと思います。それで,例えばアメリカの場合,最後のところで,そこの例えば地方自治体というのかな,地方自治体が行うようなものをとにかく代わって行おうとするものは,だから税金でやらないといけないようなものを代わって自分が私的な資金を出してやろうというわけですから,そういうものはそれに当たるというような,これは相当に,つまり概念が広いのですね。だから,その他というのでそういう概念規定をしておくと,例えば一例ですけれども,ほかに書き方はあると思うのです。この23号の書き方で,わざわざ政令と書いてあるものだから,非常に限定という感じがするので,これを何とかするかという課題があると考えます。
  そのときに,私も一方では,公益法人法制というのがあるわけですから,これと並べて一緒にするのが当然かなというようなことにもすごい説得力を感じるのです。しかし,一方で,他方で制度間競争というのか,とにかく,やはり少し変えておくというのが制度的な知恵で,これで何か公益信託の方でこんな話が出てきたよという話が何か見えるような可能性を残しておくと,やはり後で,ああ,それは公益法人だって同じじゃないのという話が出てくるかもしれない。だから,わざとちょっと曖昧な形で,何も全く一緒にするという話にすると,やはり発展性が非常に乏しくなるので,やはり限定列挙ではなくて,これはあえて一つ何か緩めの条項を入れておくというのは一つの考え方として有力なのではないかなと思うのです,わざわざ二つ別の公益のための制度を作るためには。
  二つ目ですけれども,2点目は,今,小幡委員もおっしゃってくれて,ああ,そうだったのかとか,今日の説明でもあった,つまり日本の公益概念の中身のなさです。定義すると必ず,不特定かつ多数の者に利益を与えられるとかというので,この不特定かつ多数の者に,「かつ」ですからね,しかも。これをものすごく厳密に考えると本当に大変なことになって駄目になるわけです。
  昔からの例で言うと,私が知っているのでは,昔だと,例えば会津高校の卒業生に対して,自分は会津高校の出身者なのだという人がいて,会津高校の卒業生が大学へ行くときに,やはり貧しい人もいるから,とにかく奨学金を出したいと言えば,昔は公益性が認められたのです。ところが後になって,これでは「不特定かつ多数」とはいえないという議論が出てきてだめになったのです。ただ,それは完全に教育資金のための援助なので,英米ではそれが公益に反するとか,公益に当たらないなんて,これは誰も言わないのだけれども,日本ではそういう形になっている。そこまで今の公益の法人の方で緩やかにしているのかどうかは分かりませんけれども,先ほど林幹事がおっしゃったように,不特定かつ多数の者の利益と書いてあるけれども,柔軟に解しているのだよということをもう少し強調して明確な形として何とか残せないものかということが第2点です。
  3点目はこの別表,私は,公益法人法制は本当に知らないで言っているからあれなのですけど,3ページ目から4ページ目にかけて,23項目挙がっていますね。これ,公益法人法の解説本というのをきちんと読んでみると,これ一つ一つに例えば具体例があるものなのでしょうか。つまり,例えば21号,これは何でもいいのですけど,国民生活に不可欠な物資,エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業というので公益法人として何かこういうことはあり得るのだよということはきっとあるのだと思うのですけれども,こう書いてあるからには。どんなものがあるのだろうというのが一つ一つについて,ある意味では,抽象的だから,こんなもの本当にあるのだろうかという。しかし,ないようだったら別表にする意味はないわけですよね。何かのイメージ,典型的な例というのはあるはずなので,それは私が知らないだけでこういうのが一つ一つぐらいはみんな挙げられているのですよということなのか,それから,そのときに,やはり先ほどの動物愛護なんかがどうしてもどこにも入ってこないではないかというのでいえば,例えば,私なんかでもすぐ思い付くのは医療の関係で,医療もいろいろな話があって,例えば私ががん患者で,しかし,たまたま大金持ちだったとしますよね。公益信託を作って,同じがん患者のための何とかするというのがどこに入るのだろう。公衆衛生の向上にはちょっと,これががんの研究なら学術とか,もしかしたら公衆衛生の方にも入るかもしれないけれども。いやいや,見落としなのかもしれませんけれども,それは第1点の限定列挙のところへかかってきて,やはりちょっとそういうのだと,どうしても入ってきてしかるべきなのに入ってこないというのがやはり幾つでも出てくるのではないかなという気がしました。結局長くなって申し訳ありません。
○中田部会長 ありがとうございました。まだあると存じますけれども,大分御発言が続きましたので,事務局の方から少しコメントを頂きたいと思います。大きく分けて二つありました。一つは,小野委員,能見委員,林幹事,小幡委員,樋口委員からの御指摘ありました,別表で列挙するという方式をもっと緩めるべきではないか,とりわけ第23号に政令で定めるものとあるのは何とかならないかということ。また,不特定多数というのが現在の公益法人認定の実務では緩やかになっているのだけれども,それを何らかの形で明文に取り込めないだろうか,こういうことがあったと存じます。そのほか,最後に樋口委員から御発言のあった,具体的な例がどんなものがあるのだろうかということもございます。
  それからもう一つは,山田委員から御指摘いただきました点でして,祭祀,宗教をどのように取り扱うのか,規定においてどのように取り扱うのか,こういう御指摘がございました。以上について,今の段階で御説明いただけるところがあったらお願いします。
○中辻幹事 では,部会長におまとめいただいた順番でお答えします。
  1点目の限定列挙か例示列挙かというお話について,基本的には既に旧民法からの改正時に議論された上で出来上がった公益法人認定法における公益性認定の枠組みというのがあるわけで,仮に公益信託についてそれと異なる枠組みにする場合には十分な理由付けが必要であるように思います。ただし,それでは公益信託が利用者にとって使いにくくなる可能性がある,公益目的の信託事務の定義については例示列挙にすることも含めて考えるべきだという御意見をいただきましたので,これまで公益法人認定法2条4号別表23号に基づく政令は制定されていないことも踏まえ,こちらで引き取って検討させていただきます。
  2点目,不特定多数の要件ですけれども,皆様おっしゃっていたとおり,現行の公益法人の認定の実務では,不特定多数の要件について硬直的な運用はされていないと,私どもも理解しており,柔軟な運用が公益信託の認定においても望ましいと考えています。部会資料33における公益目的の信託事務の定義において,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものという表現を使っておりますが,ここでは寄与するという言葉にポイントがあり,公益信託においても,不特定かつ多数の者が受給権者でなければならないということではなく,特定少数の受給権者を通して不特定多数の人々の利益の増進に寄与するものであっても許容される可能性があるということを含意しています。
  3点目,山田委員の御質問について,公益法人認定法における公益の意味は,旧民法における公益の意味と変わっておらず,公益法人認定法2条4号の別表では,認定基準の明確化という要請から,公益法人が行う公益に関する活動を具体的に整理したものが掲げられているものの,旧民法における公益の概念を狭めているというわけではないという説明が公益法人認定法の一問一答に立案担当者の見解として記載されています。したがって,旧民法の公益法人の規定の書きぶりと異なり,公益法人認定法における公益目的事業の定義から祭祀,宗教という文言が外れたことによって,それらが公益の概念から直ちに外れるということにはならないのだろうと思います。ただ,山田委員御指摘のとおり,法人の方では,宗教法人とか社会福祉法人などの別の入れ物が用意されているわけで,それがあるから大丈夫だというふうな説明がつきますが,信託の方ではそのような入れ物がありません。ただし,公益信託の枠組みを使って祭祀,宗教を目的とする信託事務を行うニーズがどれだけあるのかは疑問符が付くところで,あえて公益法人認定法と書きぶりを変える必要はないのかなと考えておりました。
○明渡関係官 この22項目につきまして,具体的な事例があるのかどうかというようなことで御質問がありましたけれども,具体的にどういうものをやっているのかというのは今手元にはございませんが,各公益認定の申請の際には,これのどれに当たるのかというのをお出しいただいております。今手元に件数がありますが,この1号から22号までに該当する法人は全てにございます。非常に多くなっているのは19号の「地域社会の健全な発展を目的とする事業」,あと7号の「児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業」,あと1号の「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」等の運営法人が多くなってございます。
  なお,動物愛護の話も出ましたけれども,動物愛護を目的とするような法人というのはございまして,具体的にどれに当たっているのかというのはもう一度申請資料を見れば分かりますけれども,恐らく16号の「自然環境の保護」のところ等で読んでいるのではないかなという気はいたしております。
○中田部会長 ほかに。
○新井委員 まず最初に,限定列挙か例示列挙かということについて発言をさせていただきます。
  私は,公益法人認定法と同じような形の限定列挙でよろしいのではないかと思います。私が現に今関係している公益信託で,成年後見の分野なのですが,成年後見人とか保佐人とか補助人が専門職であった場合,本人の財産から報酬を払えない場合に,公益信託から報酬を払うというものが公益信託として認可されています。この公益信託では毎年受託件数も増えています。これをどこで読むかというのは非常に難しいのですけど,既にそれが認められて動いているということがあるので,一応限定列挙であっても解釈を柔軟にすればいろいろなものに対応できると思います。例えば,先ほど宗教の問題がありましたけど,これは13の信教の自由というようなことでも読めると思いますので,私はやはり公益法人と公益信託との平仄を合わせるということで限定列挙にした上で,公益認定の解釈は柔軟にしていくということがよろしいのではないかと思いますので,原案を支持いたします。
  それから,不特定多数の問題ですが,これは5ページの一番最後に書いてあるのですが,「不特定多数とするけれども,特定の範囲の少数者に限られていても不特定多数の場合がある」という理解については私は賛成でして,前回,前々回に私なりの受益者の考え方を申し上げましたが,そういう立場からしてもこれは非常に親和的ではないかと思いますので,ここのところも賛成したいと思います。
○小幡委員 今の補足になりますが,新井委員がおっしゃいましたように,要するに,今の公益認定の別表は抽象的な文言がかなり多いので,そのどこかには当てはめられるというところが実態ではないかと思います。そうすると,あえて限定というほどでもないので,書き方が23号があるので逆にそう見えるのですが,実際上は,それほどの限定ではない,ということですね。ただ,最初に申し上げましたように,確かに限定というのは,余り良くないと私自身も思っています。ただ,現実にはほぼ限定ではない形で運用されています。
  それから,樋口委員の御質問にありましたように,例えば病院でも,今公益法人でもやっています。では,医療法人でやればよいのに,なぜ公益法人かということですが,多少特徴づけて,地域の医療に特化したとか,特に何かの専門が強いとか何か理由を付けては申請してきて,公益法人という形で実際上は病院もやっているということはありますし,幼稚園なども学校法人でなくて公益法人の形でやることもあるという実態があります。それから,大学の奨学金をあげるのが不特定かということですが,理屈としては,大学に入るのは誰でも機会は開かれている。したがって,そこに入った人だけに奨学金を与えても,それは不特定多数だというのが理屈かと思います。そこは正確ではありませんが,いずれにしても,奨学金の対象はかなり広く運用されているということだと思います。
○中田部会長 ほかに。
○深山委員 もう議論が尽きているような感じはするのですけど,皆さんおっしゃっている限定列挙かどうかということについては,私もやはり例示列挙という方がいいと思うのですが,若干見られた限定列挙でも不都合はないのではないかという御意見に対しては,むしろ限定列挙にしなければならない積極的な理由であるとか,あるいは逆に例示列挙にすることによる不都合というのがあるのかお聞きしたい。もしそういうことがないのであれば,何とかなるからという消極的な理由で限定列挙にする必要はなかろうというふうな印象を持ちました。
○中田部会長 大体この点についてはよろしいでしょうか。
○長谷川幹事 先ほど樋口委員の方から,この23項目にそれぞれ具体的な例があるのかというご指摘がございました。たしかガイドラインのようなものと公益目的事業のチェックポイントというようなものが作成されていて,それに基づいて実務が動いているのではないかと思っております。もっとお詳しい方おられると思いますので,その点は事実を踏まえて補足していただければと思います。
  その上でなのですけれども,私も深山委員と近い考えを持っておりまして,今でもできているからいいのではないかという消極的な理由というのはいまひとつ説得力がないと思っています。今でもできているのは,多分そういった具体的なマニュアルの蓄積があって,また,それを作る人的な蓄積があって初めて動いているということが実情であると思いますので,それも踏まえて御議論いただければと思います。
○山本委員 すでにほとんど御意見が出ていますので,一言だけ考慮すべき点を申し上げたいと思います。
  公益法人についても,現在のこの別表で問題なく全て対応できているという御意見に対しては,多分それで実際には対応できるのだろうと思いますが,やはりどれかに当てはめないといけないために,申請の際に,本来考えていたものに少し修正を加えたり補正を加えたりして,できる限りそれに近づくような工夫をせざるを得なくなっているのではないかと思います。それは実際に事業を行おうとする人たちからしますと,本来の意図とは少し違うものになってくる面もあるのではないかと思います。広い公益概念からすると,そういったものも当然カバーされるということになりますと,何か余計な工夫を要求していることになっているのではないかという気もします。その意味では,例示列挙の考え方は,そうした余計なコストを削減するという意味合いも持っているのではないかと思いました。考慮すべき点の一つになるかもしれませんので,申し上げておきます。
○吉谷委員 信託協会の議論では特に提案に反対するという意見はなかったのですけれども,今回議論で考慮するに当たって,実際に申請などの事務の余分なコストがかからないようにした方がいいという意見が総論でございました。ですので,ここに列挙されているような項目があるということによって,申請がやりやすくなるのであれば,それは列挙していただくべきだと思いますし,それが限定ではない方が早く審査や書面ができるとかいうような事情があるならば,そういうふうにした方がいいのかなとも思います。もし当てはめにすごく時間がかかって無駄な時間を費やすということであれば,限定されない方がいいと思うのですけれども,そこにそれほど時間がかからないということであれば,別に限定されていてもいいのかなと考えます。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 もしこのテーマが終わっているのならば発言したいのですが。
○中田部会長 今,まとめようかなと思っていたのですけれども。
○道垣内委員 まとめた後でも結構です。
○中田部会長 それでは,今頂きました御意見ですが,限定列挙か例示列挙かというと,ちょっと言葉の方が独り歩きしてしまうかもしれません。もう少し中身を言うと,列挙方式とすることのメリットと課題がテーマだと思います。とりわけ23号にありますようなバスケットクローズを置くということはどうしても必要になると思いますが,その在り方として,政令指定がいいのか,そうでない方がいいのか,それぞれ得失があると思いますので,更に検討するということになると思います。
  それから,それとは別に,22項目について具体的に不足があるのかどうか。もしあるのであれば,またそれも御指摘いただくということになろうかと思います。
  このほか不特定多数の点と祭祀,宗教については,先ほど中辻幹事からお答えいただいたようなことでございますけれども,更に検討を進めるということにしたいと思います。
○道垣内委員 すみません,議論の進め方について一言意見を申し上げたいのですが,先ほども小野委員,林幹事の方から,『一問一答』にこう書いてくれという話がありました。民法(債権関係)部会のときから,私はすごく気になっているのですが,『一問一答』に書かれたからといって,それが法制審議会の部会のコンセンサスであるということにはなりませんし,その叙述がその後の解釈等について拘束力を有しないことはもちろんだろうと思います。したがって,議論をまとめる際に『一問一答』に書くのであればよい,というまとめ方はおかしいのではないかと思います。ただ,たしかに,公益認定といった種類の問題は,裁判所で常に訴訟事件として争われるという性質のものではございませんので,『一問一答』に書かれているガイドラインが非常に強い意味を持つというのはよく分かります。したがって,この論点に関しては,『一問一答』でいかに補足するかが重要であると考えることは,さほどおかしくないのかもしれません。ただ,やはり最終的な要綱の文言として,どのような内容でみんなが納得をするのかということが重要であって,それについて,「これはこういう意味ですよ」と補足すれば納得するというのはおかしいということを,私としては,是非この段階で申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。よろしいでしょうか。
  それでは,次に進ませていただきます。「第2 受託者に関する認定基準」につきまして御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○立川関係官 第2の「受託者に関する認定基準」について説明します。
  本論点では,受託者の欠格事由について検討しておりますところ,本文では,「公益信託の受託者につき,公益法人認定法第6条第1号から第6号までと同様の事由を欠格事由とする規律を設けることでどうか(ただし,信託と法人の相違に応じて必要な修正を加えるものとする。)。」との提案をしております。
  公益法人認定法第6条は,公益認定に伴う法律上の効果を付与するにふさわしくない事由を欠格事由として規定し,これに該当する者を理事等から排除することとしています。このような公益法人認定法の趣旨は,公益信託の受託者にも妥当することから,基本的な考え方として,公益法人認定法第6条所定の事由を,公益信託の受託者の欠格事由とすべきとしています。
  もっとも,信託と法人の制度的な相違から適当な修正が必要なものがあったり,公益信託への援用が困難なものがあったりするため,検討に当たりましては,公益法人認定法上の欠格事由ごとに,公益信託の受託者の欠格事由とすべきか否かなどの判断が必要と考えられます。
  そうした個別の判断をした結果につき,本部会資料の末尾に,別表という形で提示いたしました。
  なお,別表の作成に当たりましては,受託者が自然人となる場合,法人となる場合に分けて欠格事由とすべきかを考え,さらに,法人が受託者となる場合に,当該法人の役員の欠格事由とすべきか否かについても検討し,それぞれ欄を分けてまとめております。別表を参考にされまして,公益法人認定法第6条所定の欠格事由を,公益信託の受託者の欠格事由とすべきか,また,欠格事由とすべきとして,別表記載の修正が適切か否か,更には,別表記載の事由以外に公益信託の受託者の欠格事由とすべき事由がないか否か等について御議論いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議をお願いいたします。御自由に御発言ください。
○吉谷委員 提案に対して基本的な方向感は賛成ですが,細かな点につきまして幾つかコメントをさせていただきます。
  まず,冒頭の(前注)との関係なのですけれども,信託法では,7条で受託者の欠格事由とされている成年後見,保佐の開始の審判というのが,受託者の任務終了事由になっている。ですので,公益信託でも受託者の欠格事由というのは,まずは受託者の交代事由と考えるべきではないか。交代で解決しない場合については,公益認定の取消し又は信託の終了と進んでいくという考え方がよろしいのではないかと考えております。
  あと,別表に関してでございます。別表の1号のイの(注1)のところで,イの公益信託の認定の取消し日から5年未満というのを受託者の欠格事由とするのであれば,受託者に帰責性のある取消しに限定すべきであると書かれておりますけど,少なくとも私どもも受託者に帰責性のある取消しに限定するべきであると考えます。ですので,認定の取消し事由のところについてコンセンサスが得られたところで,またこの論点に戻るということになるのではないかと考えました。信託銀行は,多くの公益信託を受託しておりますので,形式的にこの基準に該当してしまうということを懸念しているという次第です。
  あと(注4)の,別表でいいますと左側の2号の関係ですけれども,ここは(注4)に信託の欠格事由であると記載されておりますが,そうすると,ここの表に出ている受託者の欠格事由に当てはまらない場合や,受託者が交代した場合であるとかに,なお5年以内に公益認定の取消しがされた信託を認めるべきではないというふうな考え方になるのだろうと思います。そういう限定的な場合であることに加えて,信託は法人と異なりまして,清算して再設定するということは容易にできるものでありますので,実務上の意味というのは設けてもちょっと低いのかなとは考えました。これも受託者の欠格事由のところがまとまって,後でまた再度確認すべき事由かなと考えました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 前回も議論させていただきましたように,弁護士,その他専門家たる個人が受託者になる場合の要件と法人が受託者となる場合の役員の要件と一緒に議論することがふさわしいかどうか,もちろん最低限の要件としては,こういう欠格事由に該当する方が受託者となるのはふさわしくはないと思いますが,それ以上に,この補足説明でも議論されているように,個人が受託者になる場合の受託者としての能力,適格性という項目を入れる必要があるのではないだろうか,そうでないと個人は誰でも欠格事由がなければなれますよといったところで,果たしてそれでいいのだろうかという議論につながっていってその結果,個人が受託者となる道が閉ざされてしまうことになるのではないか。今後引き続き検討する必要があると補足説明では述べておりますけれども,議論する余地のない欠格事由の他,個人が受託者の場合には,どういう適格性が必要なのかという辺りも,ここで積極的に議論してもよろしいのではないか,その場合には,別に弁護士に限る必要はありませんけれども,能力,信用力という要件もここで加えておく必要はないか,法人ならば,法人の個々の役員については定期的に変更されていくでしょうからその都度判断すればいいのであって,また,法人の場合には法人としての形とか在り方とか,そういう形の議論になるかと思うのですけど,個人受託者の場合は,積極的要件についても本来ここで議論するのはふさわしいのではないのか,という意見でございます。
○中田部会長 御指摘ありがとうございます。確かに,適格性についても関連するのはおっしゃるとおりだと思いますが,一応,部会資料32の「第3 公益信託の受託者」の範囲のところでその御議論は頂いておりまして,その上で受託者に法人だけではなくて個人も加えるか,あるいは個人だけでもいいのか,こんな議論がありまして,一応そこで御議論いただきました。また御議論いただく機会があろうかと思いますが,今日は欠格事由について取り分け御議論いただければと思います。もちろん排除する趣旨ではございませんけれども。
  ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 細かい資料を丹念に読んでいないので,もしかしたら誤解している点があるかもしれませんけれども,法人が受託者になった場合に,その法人の役員が,公益法人認定法でいえば,禁錮以上の刑に処されるうんぬんとあるわけですが,こういう欠格事由に該当すると,公益法人の場合はもちろんそれでその法人は公益法人としては駄目だということになるのでしょうけど,公益信託の受託者の場合は,法人である受託者の役員の個々のそういう犯罪と,その法人受託者が実際に事務を行っている信託との関連性が公益法人の場合とはちょっと違う感じがするのです。公益法人ではその理事といいますか役員が全面的に責任を持って法人の事業を執行していくわけですけれども,信託の受託者,例えば信託銀行を考えた場合に,信託銀行の取締役などの役員が,公益信託事務と関係のない企業犯罪とかに関わりそれでもって刑に処せられたというときに,信託の事務自体はその役員とは関係なく実際には行われているのだと思います。そこら辺が,何か,公益法人の規律を公益信託に持ってくるときのちょっと違和感を感じるところでして,うまく理論的には説明できないのですけれども,とにかく違和感を感じるところがあります。そういう意味で,基本的な方向は公益法人とそろえるということでいいと思いますけれども,この本文の中にもありますけれども,実際に信託に持ってくるときに本当に同じになるのかどうかというところをもうちょっと詰めていただければと思います。
○樋口委員 今のお二人の意見に関連してですけれども,どこから話せばいいかな。いやいや,もう簡単にするべきですね。これは,つまり,この欠格事由に当たるということに,だから,それが当初の要件成就の話と,それから実際に公益信託が走り出した後で何らかの役員の交代であれ何であれですけれども,自然人の場合だったら,自然人が後で犯罪を犯すことだってあり得るわけだから,欠格事由に当たるということになった場合にどうなるのでしょうという話がやはり問題になると思うのです。
  それで,信託は公益信託に限らない話で,一般的な信託法理ですけれども,受託者は死亡することもあるし,思いがけず亡くなって,そのときに,受託者がいなくなったから信託は終わりですねという話はそもそもないのですね,英米では。裁判所に行ってかわりのきちんとした受託者を任命してもらって,その信託をできるだけ続けていきましょう。いわんや公益信託については,できるだけ永続させようという話になります。永久拘束禁止則も外して,とにかくできるだけ本当に公益信託ならですけれども,長く続けるというのが趣旨なので,その点を確認しておきたい。欠格事由というのに途中で当たるなり何なりというような場合に,それで,無効になってもう信託終わりという話ではない方がいいと思うのです。そういうようなことも考えた上でのここでの議論をしていただけないものかということです。
○中田部会長 それでは,ここら辺でちょっと切りまして,吉谷委員,小野委員,能見委員から頂戴しました御指摘について,もしコメント,御回答があればお願いします。
○中辻幹事 吉谷委員の御指摘は樋口委員の御発言とも共通するように感じておりまして,受託者が認定の後に欠格事由に該当した場合において,公益信託の終了や認定取消しの前に受託者の交代ないし変更によって対処する方法があり得るということは御指摘のとおりかと思います。それを踏まえて,更に詰めた検討をしていきたいと思います。
  それから,能見委員がおっしゃっていた,法人と信託との違いということですが,ここは私どもも悩ましいところだと思っておりまして,仮に公益法人認定法の仕組みを公益信託に持ち込むとしても,信託と法人の相違に応じて必要な修正を加えた上で持ち込むことが肝要であると考えています。
  公益信託の認定基準を検討する上で何が一番大きい違いかといいますと,公益法人の場合には,認定を申請した法人全体にフォーカスを当てて公益法人としての適格性を判断することになるのですが,公益信託の場合には,受託者にフォーカスを当てるのか,それとも信託自体にフォーカスを当てるのかというところで考え方の相違が出てきます。例えば,受託者が信託銀行という法人であれば,信託銀行は公益信託以外にも多様な業務を行っているわけであって,公益信託以外の私益目的の信託事務,銀行業務,さらにはこれら以外の業務まで含めて信託銀行という法人全体を見て公益信託としての適格性を判断すべきであるという考え方が存在し得る一方で,公益信託の信託事務を見て公益信託としての適格性を判断すれば良く,仮に受託者が不適格になればその任務を終了させて新たな受託者のもとで公益信託を継続させるという考え方もあろうかと思います。この点については今後も意識して検討していくつもりです。
○中田部会長 ほかに,この点についていかがでしょうか。
○樋口委員 これに関連して思うのですが,受託者に関する認定基準というときに,私が忘れてしまったのかもしれないのだけれども,やはり単独受託者しか考えていないのですか,公益信託について。例えば,共同受託者という形をとっておいて,片方が欠格事由に急に当たることになった。どうするかというと,普通は,先ほども言ったように,できるだけ公益信託を長く続けたいというのであれば,残りの受託者はいるわけですから,だから,その受託者でとにかく続けていってもらうという話になるので,そういう話なのですけれども,そういう理解でいいのかということです。共同受託ということももちろんあり得るし,だから,そうすると,同じようなことで,単独であっても,後継の受託者を誰かが作るような仕組みを作っておけばいいのですね,欠格事由に当たったとしても。受託者ではなくて,今,中辻幹事がおっしゃったことなのかもしれないのですけど,「公益」信託のところに正に焦点が当たるということであれば,受託者が交代したって構わないわけですから,欠格事由に当たるという話で議論する必要が少なくなるかもしれません。それとの連携で共同受託というような話のこともあるのかどうかみたいなことです。
○中辻幹事 おっしゃるとおり,単独受託者が欠格事由に該当した場合に受託者の交代という形で新たな受託者が引き継ぐという選択肢もあれば,共同受託者の一人が欠格事由に該当した場合に欠格事由に該当しない他の共同受託者が引き継ぐというような選択肢もあってしかるべきだと思います。
○中田部会長 いずれにしましても,当初の認定基準と,それから事後的にそれに当たるようになったときの対応と,この2段階あるのだということは御議論で明確になってきたのだと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 すみません,非常に細かな話で恐縮なのですけれども,別表の(注1)3行目以降に,公益信託の受託者から公益信託の,これは認定の取消しの申請がなされたと思うのですが,それに基づいて公益認定が取り消されたときはうんぬんというような記述がございます。実際公益法人に対する認定の場合に起こっている事例ではあるのですけれども,まず,認定を取り消すべきという勧告が8条機関の方から行政庁の方に出されたというようなことがございました。それから,不利益処分という形になりますので,聴聞等の手続を経なければいけない。その間に法人の方から認定取消しの申請が出てくるというようなことがございます。この場合,形式的に見ると,取消しの申請に基づいて取り消すというような形にはなろうかと思うのですけれども,実態としてはかなり問題のある法人であるということはあり得るかと思います。ここで認定取消しの申請がされて取り消された場合は,除外する必要はないという場合に,こういったケースは割り切ってもう除外とするべきなのか,それとも,何らかの対応を,別途の対応が必要なのかというのが論点の一つとしてあるのではないかと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。また公益法人の例なども伺いながら詰めていく論点かと存じます。
  ほかにはいかがでしょうか。この「第2」についてほかにもしございませんようでしたら,予定した休憩時間までまだございますので,先に進ませていただきたいと存じます。具体的には,次の「第3 信託事務に関する認定基準」についてですが,まず御説明をしていただきまして,そこで休憩に入りたいと存じます。お願いします。
○立川関係官 それでは,第3の1,「当該公益信託の受託者等の関係者に対する特別の利益の供与禁止」について説明します。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,信託事務を行うに当たり,当該公益信託の受託者等の関係者に対し特別の利益を与えないものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人の理事などが自らの地位を利用して不当な利益を得,又は与えるおそれを防止するため,このような基準が設けられていますところ,甲案は,その趣旨が公益信託にも妥当しますことから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案でございます。
  なお,甲案の外縁についてですが,適正な選考をした上で,公益信託の受託者が当該公益信託の関係者に助成する場合などは,この認定基準に反するものではないと考えられます。また,甲案を採用した場合,特別の利益の供与が禁止される関係者の範囲を画する必要がありますが,当然のことながら,公益信託の受託者が関係者として規定されたもの以外の者に対して特別の利益を供与した場合でも,受託者の善管注意義務違反などの問題は生じると考えられるところです。このように,甲案を採用した場合でも,利益供与が禁止される範囲が不当に広がったり,狭まったりすることがないと考えられることに留意した上で御議論いただければと存じます。
  これに対して,公益信託の受託者が関係者に対して特別の利益を供与した場合は,受託者の善管注意義務違反や損失填補責任の追及等により,すなわち公益信託内部の監督,ガバナンスにより対処すれば足り,これを禁止する旨の認定基準は不要という考え方があり,これを乙案として提示しています。
  なお,乙案を採用した場合,公益信託の受託者が関係者に対して特別の利益を供与した場合でも,そのことだけを理由として公益信託の認定監督機関がその監督権限を行使できないことになる可能性があり,この点について留意が必要と考えられます。
  続いて,第3の2,「営利事業を営む者等に対する特別の利益の供与禁止」について御説明いたします。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,信託事務を行うに当たり,株式会社その他の営利事業を営む者等に対し特別の利益を与えないことを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度におきましては,公益法人の財産が営利事業等を行う者のために使用されることが適当でないことなどから,このような基準が設けられていますところ,甲案は,その趣旨が公益信託に妥当するとして同様の認定基準に関する規律を設けるとする案でございます。
  他方,そのような事態に対しては,公益信託内部の監督,ガバナンスによって対処すれば足るとの考えから,このような認定基準を不要とする考え方があり得るところで,これを乙案として提示しています。
  なお,甲案,乙案を採用する場合のそれぞれの留意点は,第3の1の論点で説明したところと同様でございます。
  続いて,第3の3,「社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務及び公の秩序若しくは善良の風俗を害するおそれのある信託事務の禁止」について説明します。
  本文では,甲案として,「公益信託の受託者が,社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務や,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある信託事務を行わないものであることを認定基準とする規律を設ける。」,乙案として,このような基準に関する規律を設けないとの提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人が社会通念上明らかに不適当な事業を行い,公益法人制度全体の信用が失墜するのを防止する観点から,そのような事業を行うのを禁止する旨の認定基準が設けられていますところ,甲案は,この趣旨が公益信託にも妥当することから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案です。
  他方,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を除外するのであれば,収益事業等を行う公益法人と異なり,公益信託の受託者が社会通念上明らかに不適当な信託事務を行うことは想定しがたいことから,このような認定基準は不要とする考え方があり得,これを乙案として提示しております。
  続いて,第3の4,「収支相償」について説明します。
  本文では,甲案として,収支相償を認定基準とする規律を設ける,乙案として,収支相償や信託費用の支出に関する認定基準を設けない,丙案として,収支相償を認定基準とする規律は設けないが,公益目的の信託事務による収益の一定割合以上を信託費用として支出すると見込まれること等を認定基準とする規律を設けるとの提案をしています。
  公益法人制度においては,実費弁償を定めることで,公益法人が行う事業によって利益を享受する者の範囲を可能な限り拡大することを意図して収支相償を認定基準として設けていますところ,甲案は,その考え方が公益信託にも妥当することから,同様の認定基準に関する規律を設けるとする案です。
  なお,甲案を採用した場合,公益目的の信託事務に係る収支として,ゼロか損失を計上しなければならず,公益目的の信託事務を継続的に実施できなくなってしまうのではないかとの懸念があるところと思われます。しかし,収支相償を認定基準とする公益法人の実務では,単年度で必ず収支が均衡することまで求められているわけではなく,例えば,将来の事業の拡充等に充てるためのものとして,一定の要件を満たした資金への積立てをもって費用とみなすことなどにより,中長期では収支が均衡することが確認されれば,収支相償の基準を満たすと解されています。
  甲案を採用した場合でも,公益法人制度においてされているような柔軟な運用がされるのであれば,先ほど説明したような懸念は必ずしも妥当しないのではないかと考えています。
  他方,乙案は,収支相償を認定基準とした場合,公益信託の受託者が数値基準を満たすことのみを考えた結果,信託財産や寄附の受入れを謝絶するなどといった不当な事態が招来されることへの懸念から,収支相償を認定基準とせず,かつ軽量・軽装備であるとの公益信託のメリットをいかすべく,信託費用の支出に関する基準を設けないとする考え方です。もっとも,乙案を採用した場合,信託財産が不当に蓄積されることを防止する規律がなくなります。そのようなものを公益信託として存続させてよいのか,また,そのようなものに税法上の優遇措置が与えられるべきかという問題があるものと考えられます。
  最後に,丙案は,収支相償を認定基準としない一方,信託財産が不当に蓄積されることを防止するため,米国の税法で公益的な組織等に対して適用されているペイアウトルールを認定基準とすべきとの考え方です。
  なお,丙案の検討に当たりましては,ペイアウトルールを採用する米国において,その運用が硬直的になりすぎるなどの批判がされていることに留意すべきと考えられます。
  本論点につきましては,平川委員提出の意見書では,「19頁(注)の米国におけるペイアウトルールの説明中,ペイアウトルールの適用があるのは,Public Charity以外のPrivate Foundationとされているので,特定少数者に支配されている家族財団のみならず,それ以外のものも指すとされているので,それを補足説明されたい。」との指摘がされています。これは,部会資料の該当部分の記載がペイアウトルールの適用があるのは,特定少数者に支配されている家族財団に限定されているかのように読めるが,実際はこれに限定されるわけではないので,その趣旨を明らかにすべきとの指摘であったようです。もっとも部会資料では,ペイアウトルールが適用される飽くまで一例として,家族財団のように特定少数者に支配されているようなものを挙げておるところでございまして,これ以外にもペイアウトルールの適用があることは当然の前提としていますので,平川委員の認識と必ずしも齟齬はないのではないかと考えております。
  続いて,第3の5,「公益目的の信託事務以外の信託事務による公益目的の信託事務の実施への支障がないこと」について御説明いたします。
  本文では,「公益信託の受託者が公益目的の信託事務以外の信託事務を行うことによって公益目的の信託事務の実施に支障を及ぼすおそれがないことを認定基準とする規律は設けないことでどうか。」との提案をしております。
  公益法人制度においては,公益法人が収益事業等を行うことを前提にこのような認定基準が設けられています。そのため,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定するのであれば,こうした基準を設ける必要はないと考えられますので,本文のような考え方を提示しているところでございます。
  最後に,第3の6,「公益目的の信託事務の比率」について御説明します。
  本文では,「公益法人認定法の公益目的事業比率に相当する規律は設けないことでどうか。」との提案をしています。
  公益法人制度においては,公益法人が収益事業等を行うことを前提にこのような認定基準が設けられています。そのため,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務に限定するのであれば,公益目的事業比率の趣旨は,公益信託には当然には妥当しないと考えられますので,本文のような考え方を提示しておるところでございます。
  なお,公益目的事業比率に関する認定基準を設けないとしても,公益信託の信託財産が公益信託の運営に必要な経常的経費のために過大に使用されることが望ましくないとの考慮から,経常的経費の比率が一定割合以下となると見込まれることを認定基準とする考え方があり得るかと思います。もっともこのような考え方に対しては,経常的経費のうち高額となる懸念があるのは受託者,信託管理人等に対する報酬だけであり,これに対しては別途報酬額が過大にならないような規律を設ければ足りるのではないかとの批判があり得るところでありまして,経常的経費としてどのようなものが想定できるかとの点に留意しながら,その採否を検討すべきと考えられます。
○中田部会長 少し早いのですけれども,この後議論に入りますとまた区切りがつきにくいかもしれませんので,一旦ここで休憩を挟ませていただきます。15分間の休憩を挟みまして,3時3分に再開いたします。
 
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,時間が来ましたので再開いたします。
  部会資料33の「第3 信託事務に関する認定基準」について御審議いただきます。先ほど御説明を頂きましたので,1から6まで一つずつ検討したいと思います。
  まず1,「受託者等の関係者に対する特別の利益の供与禁止」について御審議をお願いいたします。
○小野委員 そもそも論のところでちょっとお伺いしたいのですけれども,今日の部会資料の一番初めの(前注)のところで,認定基準のところにも監督の趣旨も入っているのですという前提で議論してほしいというふうに書かれておりますけど,欠格事由,具体的な認定プロセスにおける認定事由,それから監督プロセスにおける監督基準,それから実際に退席を求めるまでのイエローカードを何枚切った後にレッドカードになるのかとか,大分局面は違うように思われますが,やはり今回のこの議論も認定基準イコール監督基準ということでの議論なのかどうかということと,次に認定基準イコール監督基準でも,項目としては少ないというか,特定されすぎているように感じます。恐らく公益法人の認定過程においても,もっといろいろな要素を見て認定し,なおかつ監督する際も,いろいろなポイントから監督をし,いきなり退席ではなくて,いろいろな指導をしたりとか業務改善命令があるか分かりませんけれども,そういうのを発したりとかするのではないかと思います。認定基準としてこれだけの議論なのか,今後ともいろいろな観点から議論していくのか,あともう一つ,法人の場合ですと定款,財団であれば寄附行為ということがあって,それに見合うというか,公益信託ですから信託契約がございます。信託契約に受託者は拘束され信託目的に沿って行動することが求められますが,受託者における信託契約違反の行為を監督上どう対応するのかということもあると思います。ですから,利益相反行為うんぬんというのは,信託法上の忠実義務とか,善管注意義務違反の問題ということで,認定というよりも実際に認定された後の問題なのかと思います。
  また,認定する際に信託契約だけではなくて,恐らく事業計画とかも提出することになるのではと勝手に想像しているところもあるのですが,恐らく公益法人においてもそういう規律があるかと思うのですけれども,認定するときに,その辺も含めて何をもって認定基準としているのかということも検討する必要があるかもしれませんし,あるいは公益信託ということで信託契約に絞って認定をしていくのかどうか,そのあたりについて考え方を教えていただければと思います。
○中辻幹事 今回の部会資料2頁の(前注)の,公益信託の認定基準は監督上の基準として認定取消し等の事由となり得ることを含意するという部分の記載は,仮に認定基準に違反した場合にイエローカードに当たる監督機関による勧告・命令等の事由となり得ることも意味しておりますが,今回の部会資料で取り上げた認定基準に違反したことをもって一発レッドで必ず公益信託の認定が取消されるわけではなくて,認定の取消しは任意とされる可能性もあるほか,その手前の段階で勧告・命令等の措置がされるにとどまる場合もあるでしょうし,そこはグラデーションがついていく話なのだろうと考えています。
○中田部会長 今回6項目挙げられているわけですが,ほかにもあるのではないかということでございますけれども,今の段階で例えばというのがございますか。最後におっしゃった信託契約違反の場合にどうなのか,これは認定基準の問題であり,内部でのコントロールの問題でもあり,そのどちらに振り分けるかということかもしれないのですけれども,ほかに認定基準として特に取り上げるべき項目というのがもしあるようでしたら。
○小野委員 あまり具体性はないのですが,この資料の中に,法人の場合には事業計画書を出すというようなことが書かれていたので,やはり公益法人のときは定款,寄附行為だけではなくて事業計画も出すのだなと,当たり前の議論かもしれませんけど思った次第でして,となると,公益信託の場合も,信託契約書1枚の議論ではなくて,もう少し詳細な内容のものが提出されるのではないかと思った次第です。ですから,認定基準のときには,それを利益相反という切り口だけでチェックしていくのではなくて,また公益という観点もありますけれども,何かもうちょっと幅広であったり,また逆に細かい議論をしていくのかなと思った次第です。特に利益相反だけであれば,信託では受託者に特に忠実義務という重い義務が課せられておりますから,ある意味では初めから利益相反行為はできない立て付けで,それだけではない議論をされようとしているのかなと思ったりしているところでございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
○道垣内委員 第3の1からなのですが,どういうふうにして働くのかなということが気になるのです。監督基準ないしは取消基準として働くときの働き方というのは比較的イメージしやすくて,例えば忠実義務違反となり,監督権限が行使されたり取消権が行使されたりするということになるのだと思うのですが,認定基準として働くときに,例えば,信託財産から関係者に対して非常に多額なお金が渡るという仕組みが作られているというときに,それは公益性が否定され,信託の成立が否定されるのでしょうが,関係者の概念に入らない,第三者たる企業に丸投げをして,それに対して不当に多額な報酬を支払うという仕組みになっていても,それは公益性を認定してよいのかというと,それはよくないだろうと思います。それでは,その場合には,どこで話を切るのだろうか。つまり,公益認定はできないということになるのだろうかというのが,公益認定に関する法律の解釈というものに対しての私の無理解が背後にあるのかもしれませんけれども,よくわかりません。この基準の働き方について御教示いただければと思う次第です。
○中田部会長 今の御指摘は,例えば善管注意義務だとか損失填補責任というレベルにとどめないで,むしろ認定基準の方で論ずるべきではないかという御示唆も含まれているのでしょうか。
○道垣内委員 含めるべきか,含めざるべきかの判断がつかないのです。どうしてかというと,認定基準においては具体的にどういう働き方をするのだろうかということのイメージがわかないからなのです。
○中田部会長 では,今の点も含めていかがでしょうか。
○中辻幹事 認定基準についての働き方としては,第3の1のような要件を満たさない信託は公益信託としての適格性が否定されるということになりますけれども,その効果については先ほど述べたのと同様にグラデーションを付けていくことを考えています。
  なお,公益法人認定法5条には「公益認定の基準」という表題が付けられておりまして,その基準を満たさない場合には,公益性が否定されると読めるように思います。ただし,5条に違反して公益性が否定されるというのと,公益法人としての適格性が否定されるというのは同じことを意味していて表現の違いに過ぎないような気もします。そうすると,第3の1の要件を満たさない関係者への利益供与を行う信託についても,公益信託としての適格性が否定されるのではなく,公益性が否定されるということもでき,関係者の概念に入らない第三者への利益供与の場合には第3の1の要件は満たすが不特定多数の利益の増進に寄与するものではないとして公益性が否定されるのと同じになるのかもしれません。
  それから,小野委員のお話に出てきた事業計画書について少し補足して説明しますと,現在の主務官庁制の下における公益信託の許可及び監督の手続は,許可審査基準のほかに,主務省庁それぞれの府省令で定められています。府省令はどれも同じような内容になっていて,それによれば公益信託の許可を申請する受託者が事業計画書等の書類を主務官庁に提出することが求められており,新たな公益信託の認定主体に対しても,おそらく事業計画書は提出していただくことになると考えています。
○道垣内委員 十分には理解できていないのですが,公益認定のときに働くということになったときに,例えば,当該公益信託の信託行為において,こういった業務はどこそこに委託すると書いているとします。そして,それが受託者の関係企業であり,それに対して支払われる報酬が非常に多額に設定されているとなりますと,これは受託者の関係者に対して特別な利益を与えるということになって,駄目だというのはよく分かります。しかしながら,私は個人的に全く無関係なのだけど,ある企業の窮境を救いたいと思っているところ,ある公益信託を設定する際に,当該企業に対して多額の報酬を与えるという仕組みの信託行為を定めて公益認定申請をしてきたとしますと,やはりこれも駄目なのだろうと思うのです。そうなると,問題は,信託の収入として上がってくるもの,当該信託の信託財産に属する財産の利用の仕方が,公益ではない形に大幅に利用されるという形になっているときには駄目ですよということだけなのであって,ここに関係者概念というものが出てくることの理由がよく分からないのです。
○中田部会長 公益法人の方では,悪い前例があったということを踏まえてそういう規律が設けられているのだと思いますけれども,純粋に理論的に考えた場合に,関係者であろうと第三者であろうと,信託財産の利用の仕方としては適当ではないのではないか,こういう御指摘かと思います。そうしますと,方向としては,公益法人とそろえるような形で第3の1についての規律を置くのか,それとももっと抽象化した形にするのか,あるいは第3の1を置くのに加えて一般的な認定基準を置くのか,こういった選択肢があろうかと思いますけれども,もし道垣内委員の方でこういうのがいいのではないかというのがあれば。
○道垣内委員 例えば監督基準として,悪質性が強い場合に公益認定の取消しを行うのであり,ほかの場合には,例えば損害賠償義務などにとどめる,という効果を措定して,悪質性が強い場合というのはどういう場合なのかというと,関係者に対して利益を流した場合は悪性の度合いが強く,ある企業の利益を図った,ある個人の利益を図ったというときに,その利益享受主体が関係者でないときは,それはいけないことではあるけれども,関係者への利益供与の場合に比べると,悪質性の程度が低いのであり,だから,その場合には公益認定の取消しにまでは至らず,損害賠償に留めるというのは,1つの判断としては理解ができるような気がします。したがって,監督基準ないしは公益認定の取消基準として受託者等の関係者という言葉を使うことには,一定の意味があるのだろうと思います。それに対して,当初の認定基準に関しては,この両者を区別することには基本的には意味がないように思います。したがって,当初の認定基準と後発的な監督基準ないしは取消基準というものとで働き方が随分違うので,統一にすることが本当にできるのだろうかというのが私の根本的な疑問です。
○中田部会長 ありがとうございました。小野委員,道垣内委員とも共通する御指摘があったかと思いますが,その上でそれぞれになるのか,あるいは別々になるか分かりませんけれども,この認定基準として,あるいは監督や取消しの基準として,関係者に対する特別の利益について更に御意見を頂ければと思います。
○林幹事 先生方と疑問は共通していますが,確かに一見当たり前のことのようであって,認定基準にあれば監督の根拠ともできるということは分かるものの,信託と公益法人の違い,特に公益法人認定法の場合は,一般社団法人・一般財団法人として動いているものについて公益認定するというものなので,その違いを理解した上で議論すべきでないかと思います。
  それで,この公益法人認定法の条文を見ますと,「その事業を」としているだけです。だから,「当該公益事業を」とは限定していないように思えます。社団なり財団法人は,いろいろな事業をしていて,公益事業になりたい事業もあれば,それ以外の事業,収益事業もいろいろあります。それの全体を見たときに,これこれこういうような事情があればと読めます。要するに,公益事業以外のところで,この後だと公序良俗とかもありますし,特定の者に利益を与えている,そういう場合はだめだというところまでも読めるはずなのですよね。中辻幹事も先ほど言われたとおり,公益法人の場合は,公益法人全体を見ているから,公益事業以外の部分も見ているはずと思います。これに対して,公益信託の場合は,そもそも委託者と受託者が分かれていて,信託行為があって,信託目的なり公益目的というものがあり,利益相反なりいろいろな制度があるという前提があります。そして,前回の議論で事業の範囲をどこまでと見るかにも関連するのでしょうけれども,公益に関連するものにある程度限定した形で見るとすれば,それ以外のところで何かあるということは基本的には余り想定していないはずです。対象としては公益信託というか公益事業的なものだけを見たときに,これらの提案がどう働くかというのを考えるのだと思います。ですから,そういう観点で見たとき,私としても,これがどう働くのか分かりにくいと思われ,この規定がなくても処理できるものではないか,あるいは当初の認定でなくても事後的な取消し等で対応できるのではないのかと思います。
  それから,公益信託は軽量・軽装備なものを考えていますから,入口に規制が多いと使いにくくなるのではないのかという懸念もあります。また,どの程度のものだったら公益認定を認めて,どの程度のものだったら否定するのかの問題もあり,若干怪しいというのだけで公益認定が否定されてしまうと,やはり入口は狭くなります。そう考えると,この規定がなくても,ほかのところで対応できるのではないのかなという考えに至ります。あえて特別の利益を与えないという基準を設けて,実務的にどういうふうに動くのかというのを考えると,申請のときにこれがためにいろいろなことがあって面倒くさくなると,やはり障害になるだろうと思います。弁護士会で出た意見・議論としては,念書か確認書みたいなもので関係ありませんと一言言えば足りるとか,申請書のどこかにチェックすれば足りるとすることも考えられるとすれば,そういうものであれば設けてもいいという考え方もあるのですが,それであれば意味がないという議論もありました。ですから,公益信託に対するものと理解したときに,この基準が認定の段階で必要なのか検討すべきだし,そうすると,必ずしも必要ではない,ほかのところで手当てすることにして,酷いものは,道垣内委員がご発言されたように,損害賠償だったり取消しであったり,そういうことで対応しても足りるのではないかと考えました。
○小野委員 先ほど信託契約とか信託法の忠実義務では十分賄えるのではないかと申し上げたのですけれども,考えてみれば,任意規定化されているので,信託契約の中で受託者の責任が軽減あるいは免責されていれば,ここでの議論が強行法規的に生きてくるのでは,その意味でもやはり必要なのでは,と思ったのですけれども,他方において,今の信託法は商事,民事,公益,全ての信託が賄える形で出来上がっておりますけれども,今回,公益信託を議論する際に,現在の信託法における任意規定をどこまで許容していいのかという別の議論もあるかと思います。先ほど中田部会長から,ほかに何がありますかという質問がありましたけれども,具体的項目としては,恐らく,信託法に書かれている受託者の義務それぞれについてどれだけ任意規定化が許容されるか,それが契約上そう規定されていれば,それ自体が認定基準としては特に引っかかることはないというような議論でよいかどうか。
  片や,信託業法の適用があれば,信託契約で任意規定化したところで,信託業法が強行法規として適用になりますけれども,一応今までの議論からも,信託業法が適用されない受託者も考えられ,その場合は信託業法の適用がないという前提ですから,そうすると,信託法の受託者の義務の緩和の是非というところに行き着く議論であるのか,任意規定化が許容されて,契約として許容されていても,認定基準でどこまでチェックするのか,認定基準が強行法規として適用されるという議論に行き着くのかなと思った次第です。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに第3の1について。
○樋口委員 この認定基準ということなのですね。今のここでの議論は,きっとそういうのが大半なのだろうと思いますけれども,委託者と受託者が結託して公益信託というツールを使って何かをという,それは認定基準のところで何とかしないといかんねという話を考えていると思うのですけど,シナリオとしては別のものも考えられます。原則として,委託者と受託者は別ですから,委託者は何しろこういう公益のために何とかしたいのだという,それで一族の中でも孤立しているわけですよ。それで,実は反対している人の中の誰か別の人が受託者になって,こういう関係者に利益相反的なことをすると,これがパアになるというのは,何だかやはり筋がおかしいような気がするのです。公益信託として認定しておいて,受託者の罪は罪,罪というのかな,犯罪ではないかもしれないけれども,それについての義務違反とその制裁というのはあってしかるべきなので,別のところで対処すべきものを,認定基準という話にしてしまうというのが何だかおかしいという感じがするということです,そもそも。
  それから,ついでにちょっとあれですが,11ページ目真ん中のところへ,認定基準とすることは,これによって「公益信託の認定・監督を行う外部の第三者機関がこれに違反した公益信託の受託者に対してその監督権限を行使できることを含意する。」。これは認定にしないと監督,つまり監督権限がある第三者機関が何もできないということになるのかというのがちょっと,私のこの文章が本当はよく分からないのですけれども,第三者機関は,もしそういうものがあるとしたら,認定基準にしなくとも,やはり何かはできるのではないだろうか,こういう受託者がいた場合に,と思うのです。
○深山委員 今の樋口委員の話にも通ずるように思うのですが,認定基準としてどういう基準にするのかということと,認定を受けた後の事後的な監督基準なり取消基準というのは,既に何人かから御指摘のあるように,働き方が違うと思います。認定基準違反に抵触することが事後的に発生したときに,当然,取り消したり監督の対象になるというところはいいのですが,その逆は必ずしも言えなくて,やはり分けて考えるべきだろうと思います。認定基準というのは,そもそもそういう構造の公益信託は認めるべきではないというような評価を与えられる場合であって,他方,構造的には必ずしも問題はないのだけど,実際の運用上よろしくないことがあったときに,それをチェックするということが必要になってくるのだと思うのです。そういう意味でも,認定の基準の問題と事後的な監督の対象になるかどうかというのとはやはり区別すべきだろうと思います。そういう目で,ほかの基準にも共通することですけど,今問題にしている1の特別な利益の禁止のところを考えると,実際に公益信託の認定をするときに,どこまで具体的な仕組みを説明するのか,どういう実務になるのか分かりませんが,最初から特定の人に,それが受託者等の関係者であれ,第三者であれ,こういう人に実はこうして,こういう利益を与えるのですと,具体的な利益の中身まで説明をして初めて審査を受けるなどということになるのだろうかと思います。そうではなくて,ある程度のところは説明するとしても,実際にどういうお金のやりとりがあるのかというのは,必ずしも最初の段階でチェックしないのであれば,余り認定基準として特別の利益というものを問題にすること自体が意味がないと思うのです。逆に言えば,最初から不当だと見えるような申請の仕方をする人は多分いないでしょうから。
  そういうふうに考えると,やはり認定基準をそういう意味で設けるのだとしたら,それは構造的に公益信託にふさわしくないというようなものが類型的に括り出せるのであれば,それはそれで基準として立てればいいのでしょうけど,恐らく多くは事後的な監督のところでチェックをきかせるべき事由で,それはやはり別のところで何らかのチェック項目として規定を設ける必要があるのかなという気がします。そこでは先ほど小野委員も指摘したように,一般的な受託者の行為規範的な規定を設けるかどうかとか,それは一般の信託法と違って強行法規にするとか,そういうところでむしろ中心的に議論すべきことなのかなという気がいたしました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 本論に入ります前に,(前注)との関連ですけど,やはり信託事務に関する認定基準に違反した場合も認定の取消しとか受託者の解任とか信託の終了とか,そういう対処がありますということをまず確認しておきたいと思います。
  そして本論なのですけれども,この第3の1の提案に対しては,私どもとしては乙案賛成で,もし入れるのであれば,むしろ異なる基準を入れるべきではないかと思います。認定基準とその後の監督の基準が何らかのリンクをするということ自体は別におかしくないですし,その認定基準のところである程度判断されるということはあってもいいのかなと思います。
  そして,結論に至るまでのこの過程のところについて,ちょっと総論的なものになるのですけれども,お話ししたいと思うのですが,今回は信託事務に関する認定基準として,従来の公益信託よりも様々な規範を設けるという提案がされているということなわけですけれども,公益信託の認定基準が厳格で制限されたものになるということについてはそうなのだろうなと思いますけれども,なぜ厳格にしなければならないのかというところについてもう少し理由を考えた方がいいのかなと考えているところです。
  恐らく二つぐらいの理由がありまして,一つは,公益信託という看板を掲げる。そうすると,財産を拠出する人も安心して公益に貢献しているのだなということが分かるということだと思います。二つ目は,公益認定によって税制上の優遇が与えられているということで,不適切なものを優遇することがないようにと,税制の優遇という社会的なコストを払うだけの価値のあるものなのかというものを検討するということであります。
  ここの認定基準においては,結構税制上の優遇というのが大きな考え方の根拠を示しているのではないかと思いますし,私どもとしては,公益信託という類型を作るのは,やはり税制上の優遇があるというのが大きな要因であろうと考えているというところです。もちろん公益信託法の認定基準と税制上の基準をぴったり合わせることは法制審議会のテーマではないと思っておりますけれども,税の優遇のある制度ですから,範囲を厳格にしなければならないと思っております。
  ただ,もう一ついえるのは,範囲を厳格にすべきということは分かるのですが,軽量・軽装備という信託の特徴は維持するべきであろう。特に公益信託のモデルをどう考えるかというところがあると思うのですけれども,助成型モデルを念頭に置いて考える必要があるのではないかなと思います。
  その上で,この1番のところについて,乙案賛成でありまして,甲案については,公益法人で実際どのような実務が行われているかということがよく分かっておりませんので,その実態を教えていただけたらなと思うのですけれども,甲案の実質というのは,受託者等の関係者に助成し,取引関係に入ることは,受託者が適正な選考をしていれば可能ですということで,原則は禁止ではなくて,原則は可能なのだけれども,適正な選考が行われなくて特別な利益を与えるということになるのは不可というルールですと,これを実現するためには,公益認定監督を行う第三者機関が監督権限もこのルールに基づいて行使するのだという趣旨であると思います。
  よく分からないのは,このルールを具体的に当てはめると一体何をするのかというところでありまして,三つぐらい考えられると思うのですけれども,もっとも穏やかな方法というのは,受託者が申請の際に,信託契約や事業計画で特別の利益は提供しませんというものを記載して宣言して,第三者機関が公益認定のときに受託者が宣言しているということを確認するということです。これは非常に簡単で,どれぐらい抑制効果があるのかよく分からないということだと思うのですけれども,もう少し実効性のあるものを考えるとすると,受託者が信託契約や事業計画で適正な選考が行われるのであるということを証明して,第三者機関が公益認定時に選考方法の適正性を確認して,その後は監督時に選考状況というのを確認するということであろうと思われます。
  更に厳しい基準というのが考えられて,受託者が関係者に対して助成や取引をというのを行うときに,それが関係者に該当するのかどうかというのを逐一洗い出して,個別に,この人は関係者だけれども,特別の利益を与えていないですねということを一個一個確認するというプロセスを導入する。そのようなプロセスというのを第三者機関がまた事後的に行われていることを確認すると,そういう三つぐらいの厳しさの程度があると思うのです。
  何でこんなことを申し上げるかといいますと,信託銀行というのは信託業法の適用があるわけです。資料の12ページにも記載がありますけれども,利害関係人との取引は原則禁止です。まず,信託契約で利害関係人との取引を認めるという説明をして,利害関係人と取引を行うときは,それを洗い出して適正な条件であるかを確認して,実行して,その後でどういう利害関係人との取引があるかということを一覧にして,受益者に,公益信託の場合であれば信託管理人に対して報告を行うというようなことを行うわけです。このようなプロセスを特別の利益の供与の禁止においても行うということが果たして想定されているのかどうかというところが私どもの方の疑問であります。
  これは,恐らく関係者の範囲によって左右されると思うのですけれども,11ページの中段で書かれているような関係者の範囲であるとすると,これはかなり広いのではないか。明確にこれだとされているわけではないのかもしれませんが,委託者であるとか受託者,信託管理人,運営委員の三親等の親族や生計を同じくする者というのがその対象で,それらが法人の場合には,それぞれの役員の三親等の親族の生計を同じくする者というところまで確認をするのか,禁止の対象に入るのかということです。
  私ども信託銀行のような立場から考えると,役員の三親等内の親族が公益信託の助成対象にたまたまなっていたか,なかったかというところまでいちいちチェックするというのはなかなか難しいということなので,そういう点で,もしこれが行為規制というものにもなるということであれば,確認のための事務負荷というのがかなり大変なものになってしまうということでありますので,そこまでいくのであれば,まず賛同はしかねるというところがあります。
  ただ,一方で公益信託の担い手拡大の議論というのが今されているということを考えますと,関係者の数が限定されているものであるとか,委託者と受託者が親密な関係にあるような公益信託であるとか,そういったものが今後認められる可能性があるのであれば,むしろ今お話ししたような三親等の親族とかまで一覧にして洗い出しをするというようなことをしていただいた方がいいのではないかなとも考える次第です。
  そのときには,利害関係人への助成,利害関係人との何らかの取引というものは,むしろ原則禁止というようなルールにして,それを信託契約の中で書いている場合には認定するというようなルールにするということも考えられるのではないかなとも思います。ただ,現時点では,そういう様々な受託者に応じたルールが作れるかどうかということがちょっと疑問でありますので,甲案ではなく乙案賛成で,直ちにこういうルールという特定まではできないというのが現状でございます。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。当初の認定の問題と,それからその後の監督の問題と2段階あるのではないかという御指摘は何人かの方から頂きました。最終的な規律がどうなるかというのはともかくとしまして,というのは,両者リンクしているのだという御発言もあったと思いますけれども,検討段階では一応両方それぞれ考えていくということになるのだろうと思います。
  それを前提としたときに,この第3の1については,当初の段階でこのような規律を基準とすべきかどうかについては実効性がないのではないかという御意見が多かったと思いますが,しかし,後発的なといいますか事後的な段階ではやはりこれは考慮すべきではないかという御意見が多かったように承りました。
  当初の段階で,そうすると乙案にするというのか,あるいはもう少し抽象化したような形で,つまり関係者に限らず,その信託財産の使い道についてこういうふうにしてはいけないというようなことを書くべきなのか,これは両方の御意見があったかと思います。
  それから,監督基準の在り方については,特に今,吉谷委員からるる御説明がありましたけれども,公益法人の場合と公益信託の場合とでは,受託者はほかの仕事でもしているではないか,だから,違いをもっと詰めて考えるべきではないかとの御指摘だったかと存じます。ということで,この第3の1については大体御意見いただけたかと思いますが。どうぞ。
○新井委員 信託の立ち上げのときの認定基準と,信託が動き出した後の監督の場面をきっちり分けるというのはそのとおりでいいと思うのですが,これ見ていると,議論が錯綜しているところがあるので,以後そういうところをきちんと分けて整理していただければ大変有り難いと思います。
  例えば,12ページで信託管理人による差止請求権の行使とありますが,これは事後的な監督の話になるので,やはり認定基準のところとは少し分けた方がいいのではないでしょうか。
  それと,これもやはり12ページでしょうか,なお書きのところで,信託業法29条2項によって,信託会社が利害関係人と信託財産との間における取引を行うということがあります。これはもちろん信託財産との取引,受託者と第三者が信託財産に関して取引を行うことがあるわけですが,もう一つ信託で重要なのは,本来の信託の給付として不当に利益を与えるということもあるので,この取引の場面と助成の対象とする場面とをやはりきっちり分けた方がいいような気がするのです。そこのところも注意していただきたいと思います。
  それで,結論のところで,立ち上げのときの認定基準として入れることかどうかということなのですが,私は甲,乙,丙を設けてもう少し抽象化した形で,やはり立ち上げのときの認定基準があってもいいのではないか。認定基準が事後の監督のところにも影響を及ぼしていくという考え方もあっていいのではないかと考えています。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 すみません,今までの議論の方向は賛成なのですが,ただ,唯一懸念として残るのが,どなたかも言われましたけど,やはり当初の申請の段階で,その信託の仕組みとして,あるいはその信託において構造的に信託財産が特定の関係者の利益として行くような仕組みになっているときどうするかという点が認定基準の段階ではやはり問題になるのだろうと思いました。なかなか私もうまい,これはという解決が思い付かないのですが,ただ,私がそのとき懸念したのは,ここに書いてある基準が適当でないので,もっと抽象的な基準を設けたらどうかという案は必ず出てくるだろうと思ったのですが,それはそれでまた問題がある。抽象的な基準だと,認定の段階で裁量性を多く与えることになって,余り適当ではないということを私は感じていました。そういう意味で,いい代替案がないのですけれども,ただ,抽象的な基準の案を設けることについては,やはり慎重に検討しなくてはいけないということだけ言っておきたいと思います。
○長谷川幹事 改めて申し上げるまでもないのかもしれませんが,認定基準と監督基準で分けて考えるということには賛成です。
  その上で,これを監督基準的なものとして考えるにしても,関係者概念がなぜ出てくるかということについては,道垣内委員が言われた悪質性に加えて,そういう変なことが起こりやすいからという予防的な観点が多分あるのではないかと思っています。吉谷委員のご議論を伺っていると,もう前提のような気はするのですが,そこは明示的に議論されていなかったものですから確認的に申し上げたいと思います。
○中辻幹事 少し遡ってしまって恐縮ですが,道垣内委員からさきほど問題提起いただいた部分について,私自身の理解を整理したいという意味で質問させていただきます。
  道垣内委員が例として挙げられた,受託者等の関係者に対しての利益供与の場合と,関係者に当たらない全くの第三者に対しての利益供与の場合について,それぞれを区別して考えるべきだというのは分かりました。ただ,私の理解では,第3の1の認定基準は,公益信託の適格性に関する基準であると同時に,正に公益性があるか否かということに関する基準で,利益供与の相手方が関係者でも,それが全くの第三者であっても,公益性が失われるということでは一緒です。そうすると,監督の場面に絞って言いますけれども,そのとき採られるべき措置は同じであるべきだと考えられるのではないでしょうか。公益法人認定法29条では,公益法人が同法5条1号や4号の基準に適合しなくなったときには行政庁による任意的取消しの事由になると規定されており,両者の取扱いは変わらないと思われるのですが,そうではなくて,関係者への利益供与の方が第三者への利益供与よりも悪質であって,その場合は絶対的取消し事由として一発退場させるべきであると,他方,全くの第三者への利益供与というのは現実に起こる可能性は低いし,公益性の失われる度合いも少ないから,そこについては取扱いを区別して考えるべきであるとお考えなのか,お聞かせいただければと存じます。
○道垣内委員 私の発言に不文明なところがあったのをお詫びします。まず,次の12ページからの2との関係で,先ほど新井委員がおっしゃったように,取引というのと給付というものとをどこで分けるのかという問題があることとも関係してきまして,1のところに第三者という話を入れ込んでいいのかという問題は前提としてありますから,関係者については1,第三者については2という区分も合理性があります。もっとも,これは適用される条文というか,適用が予定される要綱項目といいますか,そういった問題です。その上で,中辻幹事のお話ですが,私が申し上げたのは,第3の1のように,関係者というのを特に括り出すということに正当化根拠を与えようとするならば,ということです。そして,後発的な場合においても,少なくとも取消しというのは不穏当で,受託者の解任ではないかというような樋口委員のおっしゃるとおりだと私も思いますけれども,いずれにせよ関係者と第三者を区別する必要はないのではないかということにつきましては,そうだろうと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○小幡委員 1点だけ。先ほどから監督という話がよく出てくるのですが,後でまた議論するのですかね,監督というのは誰がどういう形でするのかということにもよると思うので,要するに,事後的にそのように本来の公益信託にそぐわないような場面が出てきたときに,どう監督するか。今の公益法人の監督は,かなりしっかりしたイメージで,3年に1回きちんと立入りを行って,まずいところをピックアップして指摘してと,こういう話になるわけですが,恐らくここではそんなことは考えていない,もっと軽装備と思われます。そうすると,事後的に何か不具合があったときには,ここの内部のガバナンスといいますか信託管理人とかそういうものが出てきて,善管注意義務違反などの話のチェックになるのかと初めは思っていたのですが。先ほどから監督でという話がよく出てくるのですが,イメージとして,どういう形で第三者機関が監督に出てくるのかという疑問があります。私は乙案あるいは基本的にもう少し非常に抽象化した形で,本来こうあるべきだということを示しておく方が良いと思うのですが,余り監督というところに,誰がどのようにするかというのはこれから詰める話だと思いますが,それほど重点を置きすぎない方がよいのではないかと思っています。
○中田部会長 ありがとうございました。監督についてはまた改めて御審議いただくことになろうかと思いますが,その実効性ということもよく考えておくべきだということの御注意をいただいたかと存じます。
  この第3の1についてはよろしいでしょうか。
○山田委員 第3の1も含むのですが,認定基準の位置付けについてお伺いしたいのですが,本日の部会資料33では,第2が「受託者に関する認定基準」で,これは公益法人の公益認定法でいうと欠格事由に当たるような議論でした。第3が「信託事務に関する認定基準」ですが,この後に,何々に関する認定基準というのが更に続くのかどうかというのが質問であります。ここまでで認定基準が終わってしまうと,乙案をずっととっていって,後ろの方は認定基準としないことでどうかというのがありまして,そうすると,公益性認定というのがどうなのかなというのを考え,そうしますと,今ちょっと旗色が悪いけれども,第3の1のところに立ち戻って,やはりこういうところで公益性を確保していくのかなというようなことも思いましたので,更に認定基準というのが法人の方の,公益認定法ではもう少しいろいろありまして,それが法人だから出てきているのか,信託事務に関する認定基準という形でスライドしなかったのか,その辺りの方針というのでしょうか,教えていただければと思います。
○中辻幹事 私どもの方で全体像を先にお示ししておくべきであり,申し訳ありませんでした。
  公益信託の認定基準については,参考資料の公益信託法改正研究会報告書の記載の順で御議論していただくことを予定しており,概ね四つの類型に分けています。一つ目が受託者に関する認定基準,二つ目が信託事務に関する認定基準であり,そこまでを本日の部会資料で取り上げています。さらに,三つ目として信託財産に関する認定基準,四つ目として受託者の報酬に関する認定基準もありまして,それらについては次回の部会資料で取り上げて御審議いただこうと考えています。現在の公益信託の認定基準である許可審査基準の内容を踏まえつつ,公益法人認定法の認定基準も眺めた上で,どのような認定基準が新たな公益信託において適切かを考える上で,この四つの区分けで整理するのが最も分かりやすいのではないかと判断し,このような区分けにしております。
○山田委員 大変よく分かりました。ありがとうございます。
○能見委員 今のことと関係することです。先ほどの発言もそういうことを意図していたのですが,山田委員が言われたように,場合によっては,信託事務に関する認定のところの基準というものは設けないという選択肢もあり得るわけですよね,この後の議論次第では。私は,それはもちろんあり得ると思っていましたけれども,先ほど発言しましたように,最初の申請の段階で,どうもこの信託の仕組みはちょっとおかしいのではないかというときに,それをはねるための基準というのはやはりどこかに必要なのかもしれないと考えます。その場合に,余り抽象的な基準にしておくのはどうも適当ではない。そこで,山田委員が言われたように,私は先ほど余りはっきり言いませんでしたけれども,場合によっては第3の1だけを残すというようなこともあるのかもしれないということを思っていましたので,ここで補足しておきたいと思います。
○中田部会長 それでは,ほかとも関係しますので,またこの第3の1に戻るかもしれませんが,次の2に進みたいと思います。「営利事業を営む者等に対する特別の利益の供与禁止」,これについていかがでしょうか。
○深山委員 今まで大分時間をとって1のところで議論した問題と2の問題というのは,ある意味共通するもので,つまり,公益信託において関係者かどうかはともかく,特定の人に特別の利益を与えることがよろしくないという,そのこと自体は余り異論がないのではないかと思いますけど,そのことを認定基準として設けるかどうかという意味で,同じ土俵の問題ではないかなと思います。なので,今までこの1時間ぐらい議論してきたことも踏まえて,1と2と併せて,幾つか出たように,やや抽象的な何らかの基準を設けるかどうかを中心に今後検討したらいかがかなと思います。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 全体の趣旨としては賛成といいますか,深山委員がおっしゃったことと同じなのですけど,株式会社に対する特別の利益という点については,特別であれば株式会社でなくても問題で,同じ目的の何か給付であっても,相手が株式会社であるといけないというのはなぜか,会社制度の選択というのは法人格の選択の問題であって,公益的目的のために活動していれば問題ないのではないか,会社制度のみをクローズアップしすぎているのではと思いました。ただ,深山委員が発言したように,1と2を含めて特別な利益というところが問題なのですよということにおいては,そのとおりだと思います。
○長谷川幹事 先ほど1のところで発言させていただいたことと共通するのですけれども,特定の人に特別な利益を与える行為というのは問題なのですが,それを特定の類型の人だけ取り上げて何か特別に規制するには多分何か理由が必要なのだと思います。関係者の場合には,多分そういったことが起こりやすいということが理由になるのではないかと思っていますが,それとの並びで,適当なものかどうか,あるいは別に特別な集団を類型化して何か規制する必要があるということを考えるのであれば,それは理由があった方がいいと思います。そういう観点から見ると,1と2が同じ並びで同じように規制されるべきかというのは,小野委員がおっしゃったように,少し疑問を感じます。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 特別の利益の供与をしてはいけないというのは当たり前のことなので,それ自体に反対するということはないのですけれども,そういう認定基準を置いたときに,一体何が起こるのかということが分からなくて,多分助成型であれば助成先を選定するプロセスがきちんとできていますということを認定のときに御説明するのだろうと思うのですけれども,それ以外の場合に一体何をするのだろうということが分からないので,そういうルールを設けることの意味がよく分からないなというのが現時点での印象です。そういう理由で元々協会では乙案ではないかなと思っていたところです。先ほど1のところについては,むしろ積極的に利害関係のある人に対する助成とか利益の供与とかは,直接禁止をするというふうな形であれば実効性があるのかなと思ったのですけれども,この2については,そういうこともできないのかなと思いますので,ルールを設ける意味がよく分からないというところです。
○中田部会長 ほかに,第3の2についてよろしいでしょうか。
  それでは,次に進みたいと思います。次が3,「社会的信用を維持する上でふさわしくない信託事務あるいは公序良俗を害するおそれのある信託事務の禁止」でございます。
○川島委員 1点意見を申し上げます。
  まず,公益信託は,広く社会全体の利益につながるような事業でなくてはならないという観点から,今回示されている中では甲案の方が良いというように考えます。その上で,受託者は信託事務のほかに何かしらの事業や副業を行っていることも想定されます。これらの事業が公の秩序などを害するようなものであってはならないというように考えておりまして,公益信託の受託者としてはふさわしくないと考えます。
  以上のことから,この点について検討する際には,信託事務に限るのではなく,受託者が行っているほかの事業も含めた規律を設けるべきだと考えます。
  今日欠席されていますけれども,平川委員の意見書に記載されております丙案というのが,今申し上げたようなことと問題意識も共通すると思いますので,その点について御検討いただければと思いますし,また,ここの部分で検討するべきものなのか,一つ前の受託者に関する認定基準の中であるいは検討いただけたらというように思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 この3につきましては,信託事務の範囲に関する規定だと思うのですけれども,元々公益で限定するのであれば,乙案ということになろうかと思われます。
○能見委員 私も,今の吉谷委員の御意見と同じですけれども,別な意見が出たので,ちょっとそれに反対するという意味で発言をしておきたいと思います。
  受託者が何をやっているかというのは,また別に受託者の資格のところで考えればいい問題で,ここはやはり信託事務に関する認定要件としてこういう規定を設けるかどうかに限定して考えるべきだろうと思います。そうだとすれば,公益信託としては公益事業しかやらないということにするのであれば,もうその段階で,そこでもって,ここで心配している事態については判断されますので,わざわざ甲案のような規律を設ける必要はなく,乙案でよろしいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 川島委員の方からお話がありましたが,実務をやっていく上で,確かにここの議論でするのか,ほかのところで議論するのかというところはありますけれども,この社会的信用というようなことを考えた場合に,受託者が行っているほかの事務をどのように見ていくのかということは検討しておいていただいた方が良いかと思います。
  変な例かもしれませんけれども,ここに挙がっているような性風俗関連特殊営業を行っている事業者が,例えば特定の病気に対する啓発事業を行うというような公益信託を受託するというのは,実際にあるかどうか分かりませんけれども,そこの事業ということで見ていかないと,こういうものを認めるのか,認めないのかというような問題は出てくるのかなと思います。もちろん能見委員おっしゃるように,ここで議論するのかどうかというような点ではありますけれども,論点として整理しておく方が良いのではないかと思います。
○小幡委員 ここの論点は,公益法人の場合は,公益事業ではない事業をやるので,収益事業をやるときに問題となるのです。そもそもこういうものは公益事業にはなり得ないわけですから,公益事業ではなくてほかの事業をやるときに問題になる話なので,したがって,ここでは信託事務としてこういう縛りをつける必要はないのではないかと思います。したがって,乙案ということになろうかと思います。ここは公益法人の場合と違うのではないかと思います。
○中田部会長 そうしますと,社会的信用の維持あるいは公序良俗というのを信託事務のところで規律する必要はないのではないかという御意見は,むしろ受託者の要件として考えるべきだという方向になっていくのだろうと思います。他方で,受託者の方は,欠格事由あるいは適格性というところで議論した上で,信託事務としてこれを置いておくという御意見と両方出てきたかと思いますが。どうぞ。
○川島委員 先ほど私が発言させていただいた中で,まずはここで挙げられているような課題について議論することが必要だという前提のもとで,そのことを正に今,部会長がおっしゃられたように,信託事務の認定基準で扱うべきなのか,最後に申し上げたのですけれども,そうではなくて受託者の認定基準のところで扱うべきなのか,私自身はこだわっておりませんので,全体の中でひとつ御検討いただけたらという趣旨で発言をさせていただきました。
○道垣内委員 信託事務の話としてここは論ずるべきだというのはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ,受託者の資格要件のところではまた別途検討すべきであるという意見が大勢を占めているようですので,1点だけ申し上げますと,私個人としては,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する性風俗関連特殊営業を行っていても,合法的なものである限りにおいて,そのことを公序良俗に反すると言って受託者の資格要件で外すことに納得がいきません。
○林幹事 こういう内容のものが信託事務としては当然認められないということと,公益信託の受託者についてどう考えるかとの問題があるのはそのとおりなのですが,一方で,甲案では善良の風俗を害する「おそれ」となっています。明確に公序良俗違反でなくても,それに近いと疑うものである場合と規定するという趣旨にも読めます。そうすると,「おそれ」というものをどの程度捉えるかによって違ってくるところで,恣意的な運用がなされてはいけないですし,過剰な規制となってはならないので,こうした問題があることは指摘しておきたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 ほぼ同意見なのですけれども,信託銀行なら引っ掛かることはないでしょうけれども,それ以外の受託者の候補について公序良俗に反しているとか,そのおそれがあるということを,そもそもどうやって認定の段階で判断するのか,後に社会的問題が生じたときに,監督していけばよいように思います。先ほどの欠格事由の方で何か分かりやすいものを提案するということがふさわしいと思います。
○中田部会長 今の御意見は,信託事務として規律することはいいということになりましょうか,それとも,それも良くないという。
○小野委員 そもそも規律しなくても受託者の信託契約違反の問題になると思いますけれども,でも,確認的にそういうことを入れることは問題ないと思います。一方,欠格事由のところで公序良俗に反するおそれがある行為をする受託者はだめですというような一般的な規定の仕方というのは,ちょっと過剰な規制かもしれないし,監督不能,立証不能かもしれませんので,特別な配慮が必要と思います。
○中田部会長 ありがとうございました。信託事務の規律とするか,受託者の規律とするか,それぞれについての注意点を御指摘いただいたかと思います。それを踏まえて更に検討を進めるということにしたいと思います。
  ほかに,第3の3についてよろしいでしょうか。
○中辻幹事 川島委員に御紹介いただきました平川委員の意見書の丙案について若干コメントさせていただこうと思います。
  恐らく丙案の目指すところは,部会資料33の甲案と基本的には同一であるのだろうと思います。そして,先ほど申し上げました公益信託の信託事務に着目するのか,受託者に着目するのかということにも絡みますが,公益法人認定法5条5号は公益法人全体に着目して公序良俗に反する事業をその公益法人が行わないことを認定基準としておりますので,平川委員の丙案は,公益法人認定法の考え方に近いように感じます。もっとも,仮に新たな公益信託の認定機関を設ける場合において,その認定機関が受託者の行っている信託事務以外の業務についてまで審査することが現実的に可能なのか,またそれが仮に可能であるとしても本来的に適切であるか否かということが問題になると思われます。そうすると,甲案が妥当だと言うつもりは全くないのですが,甲案のように,公益信託の受託者が公序良俗に反する信託事務を行なわないことを認定基準とすることで足りるという考え方にもそれなりの合理性はあるようにも思います。この点は,まさに信託と法人の制度的な違いを踏まえて考え込まなければならない問題であり,貴重な御意見ですので,引き取って検討させていただきます。
○小野委員 公益信託事務と捉えて検討する場合ですが,いわゆる受託者による信託取引の議論になって,信託法の適用関係になり,もちろん公序良俗違反であれば無効ですけれども,おそれになると,無効にならなくて,相手方が善意無過失であれば,信託法上は保護されると思います。そうあるべきという議論ではなくて,そういうような信託取引についても今度の制度の中で公益信託の受託者と取引する第三者は,より注意義務を果たすべき,また,そういう取引をすべきではないという観点から検討するというような方向なのでしょうか。
○中辻幹事 第三者にそのような注意義務を課すことが必ず適切であるとまではいえないと思いますが,そこも含めて考えてみたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,4,「収支相償」に進みたいと思います。御意見をお願いいたします。
○小野委員 収支相償という表現については,弁護士会には過剰反応なところがございまして,なぜかといいますと,信託業法で,信託業法の適用対象になる要件として,反復継続性と収支相償性というのが今まで議論されてきて,弁護士など個人が受託者になる場合,少しでも報酬を得れば,それは収支相償性に該当するということで,2回目になると反復継続性に該当しアウトですよという議論であったかと思います。今回は,この収支相償という言葉の甲案の中の定義といいますか捉え方が,そういう趣旨では捉えていないのですけれども,割と頻繁に使われる表現,法律上の概念であるということもありまして,この収支相償という言葉が,二つの意味で信託業法とは違う意味で使われているのだという趣旨を,当たり前ですけれども,確認したいことと,恐らく公益法人認定法でこういう表現を使われたから使っているのかと思うのですけれども,信託業法との整理もしていただければと思います。
○中辻幹事 御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○深山委員 議論の前提として,この資料で挙げている収支相償の意味合いを確認したいのですけれども,ゴシックのところの表現は,公益目的の信託事務に係る収入がうんぬんということで,その信託事務による,言わば信託財産の運用収益的なものを表現しているようにも読めるのですけれども,補足説明を見ますと,18ページ辺りなどでも,収支相償を満たすために収入が増えるのを回避するようになって,その例として信託財産への寄附を拒むみたいなことが挙がっているところを見ると,いわゆる運用益的な収入ではなくて,寄附のような信託財産そのものを受け入れるようなものもここの収入に入っているようにも補足説明の方から読めるわけです。そうすると,同じく収入という言葉でも,運用益的な収入と,正に信託財産の受入れのようなものとは大分意味合いが違うと思います。立派な公益信託を作って賛同する人がどんどん現れて,私もそこに寄附という形で信託財産として拠出したいとなったという話は,これは大いに結構なことで,それを収支相償があるので受けられないなどというのはおかしな話だというのは誰も異論がないと思うのです。しかし,そういうことではなくて,ここで収支相償というのはもうちょっと違う意味なのかなという気もします。
  支出の方も同じなのですけれども,運用上の事務コスト的な費用,経費だけを指しているのか,助成型でいうところの助成金のような支出もこの支出に入るのかによって大分意味合いが違ってくるので,収支相償というものが,この場面で,収入の方も支出の方も,どの範囲を意味して問題にしているのか自体が非常に分かりにくいし,そこが分からないまま,あるいは共通認識のないまま議論すると,議論自体がかみ合わなくなるおそれがあるので,まず冒頭,その辺を整理していただければなと思います。
○中辻幹事 公益法人の認定実務については,明渡関係官の方がお詳しいでしょうが,私どもなりの公益法人制度の理解を前提として,それを公益信託に置き換えた場合の収支相償の認定基準における収入の意味内容について言えば,深山委員がおっしゃったように,公益信託の信託財産の運用益に限られるものではなく,寄附金や追加信託なども含めて収入としてとらえることになるものと考えています。
  また,支出の方についても,受託者が公益目的の信託事務を遂行するのに必要なコストだけではなく,公益目的の信託事務本体である助成金や奨学金の支給に充てられる費用も,収支相償の認定基準における支出に入るという考え方のもとに今回の部会資料は作成しております。
○能見委員 これは,今御説明がありましたように,公益法人のところで行っている収支相償の考え方を信託に当てはめていますので,今おっしゃったようになるのだろうと思います。ただ,いろいろな論点たくさん絡んでいますけど,まず寄附金をどう扱うべきかということに限定して話をしますと,信託だけ別扱いできるのかどうか分かりませんが,公益信託の場合の寄附金については,追加信託みたいな考え方も恐らくできるのだろうと思うのです。いわゆる収入としての寄附ではなくて,追加信託という形で信託財産が増える。したがって,信託においては収支相償のところでは寄附は別扱いにするというような扱い方もできるのではないかと思っています。
  それから,収支相償全体について言いますと,このルールが何を目的としているのかについても微妙に異なるいろいろな考え方があるのかもしれませんが,大ざっぱな言い方をすれば,公益法人なり公益信託なり,その財産がただ増えていくというのは適当ではないから,収入があったら公益目的のためにそれを使っていきなさいという考え方なのだろうと思います。それ自体はそれほどおかしくない考え方なので,何かの形でルール化するとすれば,丙案がいいのかなと思っています。けれども,これに対しては,収支相償原則のもとで単年度扱いではなくて数年度にわたって使うということもできると考えれば,甲案の収支相償の原則でいいではないかという考え方もあり得るとは思いますけれども,単年度ではなくて何年かにわたって使うことを許容するというルールは一方であっていいと思いますけど,やはりこれだけでは根本的な解決にはならない。根本的な解決というのは,やはり公益信託において継続的な事業,継続的な信託を行っていく上で,収支相償原則のもとで収入は寄附も含めて全部基本的に使いなさいというようなことでは,恐らく継続的な事業はできないのだろうと思うのです。単年度扱いではなくて何年かわたって計画を立てればいいというルールを設けたとしても,恐らく非常に苦しい。公益法人で何とかうまくいっているのは,収益事業がもう一方にあるからだと思います。収益事業の収入の半分は公益目的事業に当てる必要があるので,入ってきた分については収支相償原則のルールがかぶっていますが,残りの半分については,これは課税されるということなのですか,ちょっとよく理解していない部分もありますが,収益事業でもって公益事業に使わなかった部分はそのまま普通の収入として法人税がかかるのでしょうね。ただ,その分は,一応収益事業の収入として残りますので,公益法人の場合には,そういう意味では収益事業をうまく使っていくことで継続的に公益事業を行っていく収入を確保することができる。しかし,収益事業をやらない公益信託になりますとその道がないので,ここで収支相償という原則を強く守らなくてはいけないということになると,継続的な公益信託の事務の遂行というのは非常に難しい。どんどん資産が減っていくような公益信託にしかならない。今までの助成型のやり方というのはそれで構わないわけですが,これからは継続的な公益信託の事務として美術館だとか博物館とかそういうものも含めて事業型の公益信託をやっていくということも認めていこうというのであれば,やはりこの原則は適当でないと思います。そういう意味で収支相償原則は外した方がよい。ただ,このルールを外して,むやみに財産が増えるのを防ぐためにどうしたらいいかという問題がありますので,この部分は別の方策を検討した方がいいと思いますが,基本的には,この資料の中であれば丙案がよろしいのかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 公益法人の例で申し上げますと,能見委員は収益事業というふうなことをおっしゃいましたけど,これに加えて公益法人の会計につきましては法人会計という,いわゆる管理費部分というようなものを立てているのが普通でございます。この収支相償と言われるものがかかってくるのは,公益事業会計の部分についてのみということで,それ以外の会計が立っているというのが実態でございます。
  それに加えまして,毎年の収支を単に数字だけで出すというようなものではなくて,特定費用準備資金であったり,資産取得資金というような法人の中に積み立てておくようなものはその年において差し引くというようなこともありますので,単純に支出,収入だけの計算だけではないという形で見ているというものでございます。
○深山委員 先ほど質問させていただいたことを前提に申し上げると,この収支相償の基準を設けるかどうかについては,基本的には設けない方がよろしいのではないかと思います。基本的な考え方は,能見委員が先ほどおっしゃったのと同じような考え方で,継続的に公益信託を維持する場面を考えると,単年度でないにしても,継続的な信託を維持するためには,かえってこれが障害になるという懸念をいたします。
  唯一能見委員も懸念されていた,全く何もなくていいのかという部分について言えば,確かに,せっかく公益のために拠出された財産が当該公益の目的のために支出されずにため込まれてしまってはもちろんよろしくないわけですが,それは,この収支相償という基準ではなくて,後々提案があるかどうかは判りませんけど,遊休財産を持ってはいけないというような,そういう切り口での規制を別のところで設けることによって図る,すなわち,ため込んではいけないというのは,それはそれで別のところで規律を設ける必要もあるのだろうと思います。どうしても支出する方も,収入もそうですけれども,定期的に入ってくるものばかりではないし,支出する方も定期的に支出できるものばかりではないと思いますので,単年度ではなく数年度にしたところで,全て吐き出すというような考え方を強く出すことは,継続的な信託にとっての阻害事由になるのではないかという考え方であります。
○新井委員 前回の部会で議論したところですが,今までの公益信託の在り方というのは助成型ということでした。部会の議論としては,これからは事業型ということに拡張していったらどうかとの見解があります。例えば美術館の運営とか,外国人留学生のための寮を運営しようという議論がありました。それで,従来型の給付助成型については,これは信託財産を受け入れて給付していくだけなので,収支相償という考え方は私は当てはまらない,外していいと思うのです。
  問題は,部会で議論したような事業型の公益信託ということになったときに,これ,収益事業も一部含むということもあり得るので,そうしたときにこの収支相償をどうするかという議論があると思うのです。ですから,事業型の公益信託を入れたときにどうするのか。同じ公益信託であっても,収支相償原則の適用のあるものとないものというのも,いかがなものかという気もします。しかし,類型によって分けるということもあるので,その辺り更に検討していただいたらどうでしょうか。私は,基本的には収支相償を外す,そして,ここにある案でいいますと,丙案に賛成したいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかに。
○吉谷委員 収支相償はやはり年度単位の収支というものを原則にしておりますので,やはり毎年一定の収入があるような事業というのを前提にしているのだろうと思います。新井委員がおっしゃられたように,少なくとも長期にわたって財産を取り崩していたり,助成型であったりというようなものについては,まず当てはまらないのだろうなと思いますし,原則としては,どちらかというと長期的な資金計画というのを今も作って認定していただいているわけでありまして,その資金計画の中で信託財産が信託目的に沿って利用されているということが分かれば,それでいいのではないかなと思います。事業型の方についていろいろな類型が出てくるかもしれないのですけれども,毎年一定の収入があるということは必ずしも言えないのではないのかなと思います。
  また,収支相償原則が採用された場合に,会計や資金計画上の事務手続として申請の段階であるとか信託成立後の事務にどのような負荷が加わるのかというのも明らかでありませんので,そういうことも単年度単位でなくても何らかの新たな事務負荷が加わるのであれば,それは提案されるときには教えていただきたいなと思います。
  事務負荷がかかるとどうしてもそれを回避しようとして,資料で記載されていますような数値基準を満たすために寄附の受入れを謝絶するであるとか,相当性に疑義のある費用に計上するとか,そういうことを誘発する懸念があるということは避けられないと思いますので,合理的な事務に限るべきだと思います。
  では,ペイアウトルールの方はどうかといいますと,これも取り崩し型の公益信託にはまず当てはまらないのだろうなと思いますし,様々な信託の類型に対応するような数値基準というものができるのかどうかということは現時点では疑問であります。ですので,乙案賛成です。
○中田部会長 ほかはいかがでしょうか。
○小幡委員 公益法人においても,収益をやっているようなところはよいのですが,この収支相償原則をなかなか満たしにくい業態があるので,なかなか厳しいところもありますし,今回,収益事業をやる形の公益信託を認めるのかどうか,そこはどうなったのか分かりませんけれども,大体は収益事業ではないと思われますので,不要ではないか。
  丙案は,要するに,余り財産が蓄積されないようにという,遊休財産規制のような感じですかね。もし,縛りがあった方が良いということであれば,丙案があっても良いのかなという程度で,収支相償自身は要らないのではないかと思います。
○中田部会長 一定の公益目的のための信託で,ただ漫然と財産をため込んでいくのは良くないというのは,これは共通の認識で,その上で,それをどうやって規律するか,収支相償原則プラス特定費用準備資金を活用するなどの方法で柔軟に対応するという公益法人と同じようにするのか,あるいは公益信託の特性を考えて,他の方法を考えるのかということだったと思います。他の方法として丙案,あるいは先ほど遊休財産についての御意見もございました。この遊休財産については次回にまた御審議いただくことになります。さらに,取り崩し型の場合には,この基準は及ばないのではないかと,こんな御指摘も頂いたかと存じます。これらを踏まえて更に検討するということで進めたいと思います。
  ほかに,この収支相償についてはよろしいでしょうか。
  それでは,次に進みます。5番,「公益目的の信託事務以外の信託事務による公益目的の信託事務の実施への支障がないこと」,これについて御意見を頂きたいと存じます。
  原案は,規律を設けないということでどうかということですが,むしろ規律を設けた方が良いという御意見があればお出しいただければと思いますけれども。
  特にないということは,設けないということでよろしいでしょうか。それでは,そのようなことで取りまとめたいと思います。
  それでは,最後6番です。公益目的の信託事務の比率について,公益目的事業比率に相当するような基準は設けないということですが,いかがでしょうか。
  これについても特に御意見がないということは,原案のようにこのような規律を設けないということでよろしいと承ってよろしいでしょうか。
○林幹事 原案に賛成ですが,一応,ここでいう信託事務に係る費用に,受益者に対し給付する金銭の支出などは含んでいないと読むのかどうか,確認させてください。この基準は,基本的には公益法人では公益事業とそうではない事業の話をしているのであって,ですから公益信託では不要だと考えていますが,議論の想定というか何と何を比較して50%以下ということを考えていらっしゃるのか,確認させてください。
○中辻幹事 公益法人認定法の仕組みを部会資料33の21ページの上の方に記載しておりますが,公益法人の支出としては,公益目的事業の実施に係る費用,収益事業等の実施に係る費用,公益法人の運営に必要な経常的経費の3つが存在します。これを仮に公益信託の方に置き換えた場合,公益信託の支出としては,公益目的の信託事務の実施に係る費用と公益目的の信託事務の運営に必要な経常的経費が入ってきます。ただし,公益信託の受託者が行う信託事務から収益事務を除いた場合には,公益信託の支出に収益事務の実施に係る費用は入ってきませんので,公益目的の信託事務の実施に係る費用の比率が50%以下となるような不適切な事態は起こらないであろうというのが私どもの考えでございまして,公益目的の信託事務の比率に関する認定基準は不要というご提案をしております。
○林幹事 そのような御説明でしたら,その上で賛成の立場です。
○中田部会長 ほかに,この第3の6について御意見はございますでしょうか。
  それでは,林幹事も含めて,この原案に賛成ということで取りまとめさせていただきます。
  冒頭,小野委員から御指摘がございましたが,信託事務に関する認定基準について,ほかにこういう点を考慮しておくべきではないかということがございましたら,お出しいただければと存じます。ただ,先ほど中辻幹事からお話のございましたように,認定基準というのは,これだけではなくて,また次回に続きますので,どこで取り扱うのが良いかという問題があろうかと思いますが,この段階でこういう点も考えたらどうかということがございましたら,御指摘いただければと存じます。
  特にございませんか。またございましたら,次に,ほかの認定基準のところでもまたお気付きの点がありましたらお出しいただければと存じます。
  ほかに本日の審議事項について補足的な御意見等はございますでしょうか。どうぞ。
○能見委員 まとめで結構なのですけれども,先ほど私は,3の1とか2に関して,余り抽象的な基準で認定の際の規律を設けるのは適当ではないということは申し上げたのですけれども,そして,1を残してもいいとは申し上げましたが,2も深山委員が言われたように同じような問題なので,1と2をまとめた上で,その程度で余り抽象的ではないような規制の認定基準ができるのであれば,御検討いただきたいと思います。これは第2ラウンドになるのでしょうか,それともこの後引き続き議論するのか,それはおまかせいたしますけれども,お願いしたい。
○中田部会長 恐らく第二読会になろうかと思いますが,今の御指摘も踏まえて更に検討することにいたします。
○山田委員 今の御発言にちょっと関連するのですが,今日は前半の方,認定基準とその後の監督あるいは取消しも含めた監督基準とは分けるという話がかなり大勢を占めたかと思います。ですが,それに対してやや慎重に考えたらどうかという発言をさせていただきたいと思います。
  公益法人認定法は全く同じ基準で,前の方に6条に認定基準がずっと並んでいて,そして後半の方に監督のところでそれを引用しながらしています。しかし,今日の議論のようなものは,恐らく公益法人のところにも当てはまるのだと思うのです。公益認定の申請をしたときには,これからどうしますということを事業計画とか,定款とか,収支予算案みたいなものを示して,実際に動き始めたら,現実何をやっているかというのを見て監督する場合によっては認定取消しというのに進むのではないかなと思います。そうだとすると,同じ基準で,同じ文言を使っても,実際に使うのは入口のところと走り始めてからとでは使い方というのでしょうかね,それが違うというか,それぞれの応じた形になっている可能性があろうと思います。ただ,それはやはりやや作為的な工夫をしてそうなっているのであって,そこは公益信託についてはきちんと違うのだから違うふうな書き方をした方がいいだろうという考え方はあろうと思うのですが,公益法人についての今の経験というのでしょうか,それを適切な形で教えていただいて,認定基準のところに書かれているものは,入口のところでどういうふうに,どういう書類でどういうふうに判断されているのかというのが,それぞれ認定庁は分かれていますけれども,国の認定の例などをお話しいただけると,あるいは今日の前半の認定と監督とは分けた方がいいだろうという議論に対して,いやいやそこまでしなくてもいいだろうという議論も出てくるのではないかなと思います。
○中田部会長 認定と監督を分けるということについては,最終的にそれが多数だったかどうかはよく分からないのですが,検討する上でまずは分けて考えた上で,しかし,両者はリンクするのだから,どのようにリンクさせていくかというのは,次の段階で問題になるだろう。山田委員はそれを踏まえた上で,やはり最終的な姿としても,結合した方がいいのではないかということでしょうか。
○山田委員 結合した方がいいと考えるという意見をより確実にするために,現在認定と監督のそれぞれのところでどういうふうにやっているのかということが分かると役に立つのではないかなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○山本委員 今日お話の全般に関わることですので,最後に一言申し上げたいと思います。
  今日の議論で何か決まったというわけではないですけれども,全般について,公益法人認定法で定められているものと少し基準で考えてはどうかということが出ていました。これを仮に実際に法律にしていこうとしますと,公益法人認定法は現状ではこのままになっていますので,両者やはり性格が違うというような説明をどうしても付け加えていくことになりがちではないかと思います。そして,実際に両者の性格は違うので,区別をすべき場合があるのは確かかもしれませんが,今も少し出ていましたように,実は,公益法人認定法の側もこのままで本当に良いのか,ここで議論していることが同様に当てはまるのではないかという面もかなりあるように思われます。ですので,過度に両者の性格の違いを強調して,今回の法律に関する提案を基礎付けるのは,慎重に,よく考えた上でないと問題が残るかもしれないということのみ申し上げておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○吉谷委員 先ほど認定の基準と監督の基準はリンクさせるということはあり得るのではないかということを申し上げたのですけれども,特に,今回,事業型の公益信託みたいなものも考えられているとは思うのですけれども,従来型の簡単な仕組みの信託というものを念頭に置くと,認定のときにこういう形で計画でやりますと言われたものについて,そのとおりにやっているということであれば,監督の段階でそれほど精査する事項もないと思いますので,そこは信託で行う事業によって監督のところについてはまた軽重があってしかるべきなのではないかなと考えます。
○小野委員 吉谷委員が監督の話をされたので,思ったことなのですけれども,信託銀行の場合には公益信託を今現在でも今後行う場合でも銀行法上,兼営法上,金融庁の監督下にあって,それ以外の場合とで区別して考えていくと,こういう理解で私自身いるので,そういうことでよろしいのかどうかということを確認したいと思います。信託銀行が公益信託を行う場合,認定のところは認定機関が行うのかもしれませんけど,監督の方は認定機関から離れて現在の立て付けどおり,金融庁が行っていくということなのかどうかという辺りです。
○中田部会長 監督,ガバナンスについてはまた改めて,どこがどういうふうにするかということは御審議いただく機会があろうかと存じます。今日の段階では認定基準ということで御理解いただいた,今日はそこまでということにさせていただければと思います。
  ほかにはよろしいでしょうか。
  それでは,本日は少し早いですけれども,審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明していただきます。
○中辻幹事 次回は,公益信託の具体的な認定基準のうち,信託財産に関する基準及び受託者の報酬に関する基準を御審議いただくほか,公益信託の認定主体や,公益信託と目的信託の関係について御審議いただくことも予定しております。
  次回の日程は,平成28年10月4日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省20階第1会議室で開催します。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第32回会議 議事録

 
 
 
 
 
 
第1 日 時  平成28年7月5日(火)   自 午後1時29分
                       至 午後5時27分
 
第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室
 
第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第32回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  初めに,前回の会議から本会議までの間に委員等の交代がありましたので御紹介いたします。まず,総務省の河合前幹事に代わりまして総務省の稲垣幹事が,次に金融庁の佐藤前幹事に代わりまして金融庁の島村幹事が,それぞれ今回から御出席されることになりました。簡単な自己紹介をその場でお願いいたします。お名前と御所属をおっしゃっていただけますでしょうか。
○稲垣幹事 先月17日付で総務省大臣官房総務課管理室長を拝命いたしました稲垣と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○島村幹事 7月1日付で総務企画局企画課信用機構企画室長を拝命いたしました島村でございます。よろしくお願いいたします。
○中田部会長 どうぞよろしくお願いします。
  本日は,小川委員,小幡委員,岡田幹事が御欠席です。また,若干,遅れて見える方がいらっしゃるようです。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料32「公益信託法の見直しに関する論点の検討(1)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,吉谷委員から提供いただいた「信託主要法令資料」という緑色の冊子に加え,「公益信託受託状況(主務官庁別)」,「公益信託当初信託財産規模別状況」という受託状況の統計データを机上に置かせていただいております。統計データにつきましては,前回,参考人として御出席された信託協会の方々に対し委員・幹事の皆様から御質問があった事項について,信託協会の統計を資料化していただいたというものです。これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は部会資料32について御審議いただく予定です。具体的には,途中休憩の前までに部会資料32のうち,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」と「第2 信託事務及び信託財産の範囲」を御審議いただきまして,3時半頃をめどにして休憩を入れることを予定しております。その後,「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議いただきたいと思います。
  なお,前回,再開後の信託法部会での審議の対象が話題になりましたが,それについて事務当局の方から補充の説明があるということです。
○中辻幹事 前回,小野委員,道垣内委員及び深山委員から御指摘のありました再開後の信託法部会で御審議いただく事項の範囲について,若干,手続的な面を補足いたします。
  法制審議会では,審議会令の解釈として審議会で一度議決した事項については,それを再度取り上げて審議し,議決してはならないという一事不再議の原則があると考えられております。この原則によれば,旧信託法のうち私益信託に関する部分について議決された信託法改正要綱と同じ事項については,原則的にこの部会で再度取り上げて審議することはできないということになります。
  もっとも,一事不再議の原則は例外的に事情の変更等により,再度議決する必要のある場合に再議することまでも否定するものではないと考えられております。したがって,前回の部会で中田部会長におまとめいただいたとおり,今後の信託法部会で御審議いただく事項は,飽くまで公益信託が中心ではありますが,余り形式的,固定的に考えて現行信託法の規定に関する御審議が一切排除されるということはなく,公益信託制度の改正に必要な範囲で現行信託法の規定の改正の要否についても御審議いただけるということなのだろうと思います。もっとも,それが余りに広がりましては,この部会における御審議の対象が拡散してしまいますし,前回申し上げましたように,公益信託について特則を設けることは可能であることからすれば,現行信託法の規定の改正にまで立ち入らなければならない場面が多数生じることにはならないようにも思います。
  以上,前回私から申し上げましたことの手続面での補足ということになります。
○中田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。まず,前回のフリートーキングとやや重複しますけれども,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,私,木村の方から資料について説明させていただきます。最初にまず,公益信託法の見直しの基本的な方向性について御説明いたします。
  本文では,公益信託法の見直しを検討するに際しては,公益財団法人,公益信託以外の目的信託等の公益信託と類似の制度との相違,すみ分けに留意しつつ,税法も視野に入れながら,その適正な利用を促進していくために必要十分な仕組みを整えることを基本的な方向性とすることでどうかという提案をしております。
  この提案について補足して説明いたしますと,まず,補足説明の1で記載しているとおり,公益信託制度は個人の篤志家などが自らの財産を公益的な活動に供するための仕組みとして,現在は専ら奨学金の支給や研究助成活動のために用いられております。もっとも,その受託件数及び受託財産額は漸減傾向にあるところです。
  公益信託制度につきましては,平成18年の信託法制定の際,衆参両院の附帯決議で,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から見直しを行うこととされています。ここで,公益法人制度に関する過去の政策決定について見てみますと,公益法人制度については平成14年及び平成15年の二度にわたる閣議決定において,民間非営利活動を社会経済システムの中に積極的に位置付け,その活用を促進するという方向性が打ち出されているところです。こうした政策決定を踏まえるのであれば,民間の非営利活動である公益信託制度につきましても,その適正な利用を促進するという観点からの検討が必要であると考えているところです。
  続きまして,補足説明の2の公益財団法人との関係について御説明いたします。公益信託と公益財団法人とは類似の社会的機能を果たすものとされており,先ほど触れた国会の附帯決議におきましても,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点からの見直しが必要とされています。もっとも,両制度を比較してみますと,公益財団法人は多様な財産を活用して多様な公益活動に用いることが可能である反面,一から法人組織を立ち上げる必要があるという点で設定コストが高いということができます。一方の公益信託は,信託事務や信託財産の範囲が限定されていますが,受託者の人的,物的資源を利用することで,簡易かつ低コストで設定することが可能であるという軽量・軽装備の制度であるということができます。
  公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような軽量・軽装備という利点を維持するという観点に配慮しながら,両制度間の相違点や適切な活用場面という点を意識して,公益財団法人と整合性のある制度とすることが必要であると考えております。
  補足説明の3の目的信託との関係についてですが,現行の公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型と位置付けた上で,目的信託のうち,公益を目的とするものにつきましては,「主務官庁ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定しております。こうした規定の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益目的の目的信託は無効であるという考え方も存在するところです。また,現行の信託法附則第3項は,公益信託以外の目的信託について,その受託者を一定の法人に限定しています。公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような公益信託と目的信託との関係,特に公益信託としての認定,ここでは仮に認定という言葉を使わせていただいておりますけれども,認定を受けていない信託の効力をどのように考えるのかといった点についての検討が必要になると思われます。公益信託と目的信託との関係については,様々な考え方があり得るところだとは思いますが,両者の適切なすみ分けを図るという観点が必要であると考えております。
  最後に,補足説明の4として税法との関係がございます。現行の税法では,特定公益信託及び認定特定公益信託という二つの概念が存在しておりまして,一般の公益信託の要件に加え,これらの要件を満たした場合に初めて寄附金控除等の税法上の優遇措置を受けることができる制度となっております。これに対して,公益法人制度では公益認定を受けた法人は基本的に全て税法上の優遇措置を受けることができます。こうした税法の在り方につきましては,本部会の直接の検討対象ではございませんが,税法上の優遇措置があることは,公益信託の利用者にとって大きなメリットになっていることを考えますと,新たな公益信託制度を検討するに当たっては,税法上の優遇措置を受け得るような認定基準,監督・ガバナンスに関する規律とする必要があると考えられます。
  以上のような観点から本文の提案をしておりますが,こうした公益信託制度の見直しの基本的な方向性について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。どうぞ,御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 前回も発言したところなんですが,もちろん,全体として賛同いたしますが,非営利性の一般財団法人との比較も,特に目的信託,税法との関係で是非お願いしたいと思います。税法上の優遇措置とは別ですけれども,公益財団法人だけでなく非営利性の一般財団法人についても同じ扱いがされているところが結構ありますので,そういう観点からの検討も特に一般財団法人の設立は準則主義ということも含めましてお願いしたいと思います。
○能見委員 目的信託との関係のところの問題なんですが,もう少しはっきり言えば,許可を受けない目的信託で公益活動していいのかという問題についてです。そちらで提示されたのと言い方は違うかもしれませんが,この問題について,今,すみ分けという観点から御説明があったわけですけれども,そのような観点からの検討は当然必要なんでしょうけれども,もう一つ注意すべき観点は,公益活動を行うことができるのは,事実上の公益活動も含めてですが,どういう団体,あるいは個人なのかという視点です。このような観点から考えた場合に,私益信託でもって実際上の公益活動をすることは,恐らく皆さん,問題はないという前提でお考えなんだと思います。それならば,目的信託であったら,それはどうなのか,という形で問題となります。こういう観点も是非併せて検討する必要があるだろうと思います。
○新井委員 見直しの基本的な方向性については賛成いたします。その上で,目的信託と公益信託の両者については類似性ではなくて,相違点に,より留意すべきであると考えます。目的信託と公益信託に共通するメルクマールというのは,受益者の定めがないという点のみでありまして,公益信託には公益要件というより上位のメルクマールが存在しているように思われます。信託の構造自体が目的信託のそれとは異なります。公益信託においては,受益者の定めがないという要件は,公益性を判断する要素の一つにすぎないように思われます。目的信託の受託者要件,つまり,信託法附則3項と同法施行令3条ですが,この受託者要件については存置すべきだと考えます。つまり,目的信託の濫用的な利用を防止するという趣旨を変更する積極的な立法事実はないと考えます。民事信託,とりわけ,家族信託あるいは自己信託の濫用的な利用が懸念されている状況にあるのではないかと考えます。その一部については既に訴訟も提起されていますので,目的信託の受託者要件は存置でよろしいのではないかと思います。
  それで,部会資料の4ページの4行目ですけれども,「しかし」以下の文章,これについては賛成いたします。「しかし,少なくとも立法論としては,主務官庁又はこれに代わる主体による許可又は認定が認められなくても,信託法附則第3項及び同法施行令第3条の受託者要件を満たす場合には,公益を目的とする一般の目的信託として有効とすべきであるとする考え方が十分あり得る。」,これに基本的に賛成した上で,公益を目的とする一般の目的信託として有効だというのは分かりにくい。特にこれからの立法というのは,一般市民にも分かるようにしないといけないと思うのです。
  それで,他方で公益信託というのがあって,他方では公益を目的とする一般の目的信託がある。この両者の関係については,学術的には非常に興味があるわけですけれども,利用者である国民にとって,両者の理解というのは非常に難しいと思うのです。したがって,私としては「公益信託を目的」とするという部分は削除していいのではないか,つまり,一般の目的信託として有効であると考えればいいのではないかと思います。それともう1点,最初の「少なくとも立法論としては」,これについては解釈論としても可能ではないかと考えますが,より明確にする趣旨で立法論的に解決するのがよりベターだと思います。
○吉谷委員 公益を目的とするものを除くという要件を,目的信託の要件から外してもいいのではないかと考えておるのでございますけど。現在,信託銀行は目的信託の受託者になることができますが,実務での目的信託の利用というのはないという状況になっています。それはなぜかというのを考えますと,残余財産受益者というものを設定することにより,一般の信託で目的信託と類似した経済的な仕組みというのを作ることができるということなんだろうと考えております。実際に利用されているケースもありまして,公益的な目的の信託を設定する場合でも,委託者などを残余財産の受益者と決めて信託期間中は,学術振興事業の目的で信託財産を処分するというような利用がされております。特定寄附信託という制度がありますけれども,これは公益法人などに寄附をする目的の信託が委託者を受益者とする形で利用されています。
  公益信託の場合は,税制上の優遇が得られるということとセットであるべきと考えておるのですけれども,委託者や受給権者から利益を切り離された仕組みとするためには,受益者を定めないということに積極的な意味があるのではないかと考えておるのですが,それ以外の目的信託を無制限に認めるということの意義があるのかというと,そういう意義は実務家の私どもの立場からは提言することは特にないのかなと考えております。
○小野委員 目的信託の議論になったので何点か発言させていただきます。
  まず,新井委員から現在の附則3項は濫用防止のために存続すべきであるという御意見がございましたけれども,法人であることと個人であることが濫用の有無に関わるかというと,どう理屈で考えても要するに信託契約,受託者としての履行能力こそが重要であって,それは法人,個人における差はないと思います。また,恐らく継続性とか永続性で人はいつか亡くなるという観点かもしれませんけれども,受託者の変更,交代手続をとればいいだけでして,あと,もう一つ,言わずもがなですけれども,5,000万円という基準,それが濫用防止につながるかというと,5,000万円を持っていない方や法人は受託者になりませんけれども,理屈上,考えてもつながらないと思います。
  目的信託の事例がほとんどないというお話ですけれども,それもこの要件に関わるところだと思います。より目的信託を積極的に公益法人改革の趣旨にのっとって,社会の国民のために利用できるような制度にすることで,仮に濫用が考えられれば,濫用に対応した適切な措置をとることが重要であり,それが法人である要件,5,000万円の資産要件ということにはロジカルにもつながらないと思います。
  それから,吉谷委員がお話しされた委託者が受益者になる場合,そういうケースもあるかもしれませんけれども,委託者に受益者としての強い権利を与えることが必ずしも適切ではないような状況も恐らくいろいろあるかと思います。前回,新井委員が京町屋とか,トラストの話をしましたけれども,環境とか自然とかいうときに,そこで委託者たる元の所有者を観念して,その方が受益者として強い権限を持つということが適切ではない状況というのも,それなりにあると思います。いろいろなメニューを国民に提示することが,信託制度が有効に活用されるためには必要なことだと思うので,あまり制限的に目的信託を制度設計するという方向での議論は賛成しかねます。
○中田部会長 何人かの方から,公益信託以外の信託における公益目的の活動の在り方について御発言を頂きました。これを否定するという方向の御発言では恐らくなくて,何らかの形でそれを許容する,かつ,そのことをこの部会においても考慮しながら,公益信託制度を設計していくというような御発言かと承りました。更にその先に行って,附則3項についてどう考えるかとか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう考えるのか。これは今後,また,改めて本格的に御議論いただく機会があろうかと存じます。また,冒頭に小野委員から御発言のありましたのは,公益法人法制の改正に伴って,新しくできた一般法人,更にその中の非営利型法人というのでしょうか,一定の範囲で税の手当を受けているというようなものも視野に収めて検討すべきであると,こういう御発言であったかと思います。これらについて何かありますでしょうか。
○中辻幹事 法人税法上,一般社団法人や一般財団法人のうち非営利型法人の要件を満たすものについては,公益社団法人や公益財団法人と完全に同じではないにせよ,それに近い法人税法上の優遇を受けていると存じております。したがって,今回の部会資料では,公益法人との対比を中心に記載しておりますが,小野委員御指摘のとおり,一般社団法人や一般財団法人との対比も考えながら議論していくことが有益ではないかと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 法務省案の公益信託法見直しの基本的な方向性について賛成いたします。が,この検討をずっとしている中で,基本的な考え方としておいた方がいいと思うのは,民間活動をいかに促進していくかという,そういう目的を実行するためにやりやすい制度を作るのだという観点から,今後の全体的な見直しというものの根底にある哲学として,民間公益活動の促進ということを根底に置いていただくようなメッセージもあると,より良いのかなと思った点と,それと,公益信託制度の認定と税制との関係というのは,税制メリットを得られるようなしっかりしたガバナンスを持った信託の仕組みというものを念頭に置いて検討していっていただきたいと。それは税法も視野に入れながらというところに読み込めるんだと理解しております。
  それと,目的信託と公益信託の認定の関係なんですけれども,目的信託というものがあって,その認定を受けると公益信託というものになるんだというような今の一般財団法人法と公益法人法との関係というのではなくて,目的信託があって公益信託というものがあるというのではなくて,公益信託を認定したら公益信託になると,そして,それが認定を受けなかったらば,また,目的信託というもの,私益信託になるというのではなくて,それはそれで終わりということなのではないかなと思うんですけれども,最初の出だしのところは認定を受けなければ,私益信託として存続してもいいのではないかというのは分かるんですけれども,例えば公益信託として認定を受けていたのに,後で要件が不足しているということで認定取消しになったような場合のことを考えると,取消しになったらば普通の目的信託,私益信託として存続するのかというのは,公益信託として認められないような要件を欠くようなものが信託として存続するというのは,何か解せない気がいたします。認定を取り消されたら公益信託は終了して,残余財産が公益に帰属するような形で終わりと。目的信託として更に存続するというのはぴんとこないように思いまして,ですから,公益信託でなければ信託としては終了というような考え方の方が,すっきりするのではないかなと思いました。
○道垣内委員 平川委員のおっしゃったことに関しまして,二つを区別して考えなければならないと思います。つまり,受益者の定めのない信託というのを設定したところ,その目的を見るとどう考えても公益であるのだが,しかしながら,本人は公益信託の認定申請をしないで,そのまましているというとき,その信託が無効であるか,それとも,目的信託として有効であるかという問題と,公益認定を受ける公益信託として設定しようと思ったのに,公益認定が受けられなかったという場合です。この二つは違う話であり,後者の問題については平川委員のおっしゃるとおり,本人の信託設定の意思の問題として,公益信託として存続させる,設定するということを望んだわけですから,それが達成できないときには,それは信託の成立というものが失敗に終わるというのはよく分かります。それに対して,受益者の定めのない信託であるというときに,この目的は公益ではないか,公益だったら無効ですとなるのはおかしくて,それはそのまま,目的信託として存続し得るということは十分にあり得ると思います。場面を二つに分けて考える必要があるのではないかと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。先ほど能見委員などからおっしゃっていただいたのは,道垣内委員のおっしゃる第1の問題であり,今,平川委員から御指摘いただいた公益の認定の取消しの場合と,道垣内委員が御指摘になられた認定を受けられなかった場合,これらを合わせて第2グループの問題とし,そこでは本人の意思を尊重しながら,更に考えていくという御指摘を頂いたのだろうと思います。二つの問題があるということがかなりはっきりしてきたと思います。
○林幹事 第1の基本的な方向性については,私も賛成するものですが,簡単に何点か申し上げます。公益信託については,設定コストが低廉で小回りが利く,軽量・軽装なものだという御指摘もあって,そのとおりだと思います。本日,配布いただいた当初信託財産の資料がございまして,これを拝見しますと,今の公益信託でも半分以上が当初財産5,000万円以下ということになっていますので,議論するについてはむしろこういう当初財産の比較的少ないものをイメージしながら議論すべきと思います。それが1点です。
  それから,目的信託については先生方と基本的には同じなのですが,附則3項の規定を所与のものとして議論すべきではないと考えます。それはないものとして議論した上で,最終的にそれは残すべきだとなるのだったら,それも一つなんでしょうけれども,附則3項の規定は所与のものとして議論すべきではないと考えますので,申し上げます。
○山田委員 道垣内委員がおっしゃったことについて,私の意見を追加させていただきたいと思います。多分,道垣内委員の御意見と少し違う意見になるのではないかと思います。二つに分けるというところは,前提として私も分けたらいいのだろうと思うのですが,そのうえで,二つ目の方について,申し上げます。公益という言葉を先に使ってしまうと議論が制約されますので,例えば財産を持っている人が信託という形を使って奨学金の給付に使ってほしいと,こういう希望を持っていたとします。そのときに,公益信託をこれから考えていくわけですが,この要件を満たすならば税法上の優遇を受けられるという場合です。しかし,それは容易でないと思われ,その結果,その要件を満たすことが難しいならば余り無理せずに受益者の定めのない信託として,税法上の優遇を受けずに,この信託を成立させたいと委託者が考えている場合です。そして,受託者もそのことをオーケーしているという場合です。
  こういうときには当初からこのような場合にどうかということもありますが,それとは別に,公益信託として認可なり認定を受けて,ある程度の期間,例えば,5年やっていて,そこまでは税法上の優遇が受けられたところ,しかし,5年たったところで様々な経済状況あるいは信託の状況から見て,要件を満たすのは難しくなったということもあろうかと思います。では,そのときに信託を終了させますかというと,それよりは,委託者の意思から考えて,それは受益者の定めのない信託として,税法上の優遇はそれから将来に向けては受けられなくなります,また,あるいは既に受けていた税法上の優遇のある種の清算は必要かもしれない,しかし,そういった手当てをすることによってさらに何年間か,奨学金を給付するということを信託事務として行う受益者の定めのない信託として効力を持ち続けるということも,あってよいのではないかなと思います。
  ただ,今,私が申し上げた最初の5年間,税法上の優遇を受けていて,それによって得られたプラスの部分というのでしょうか,それを清算するというのが果たして実効性ある制度として付随的な制度として作れるのかどうかという辺りも問題になりまして,それが実際上,困難であるということであれば,私の今の意見は難しいということで,できないということでいいと思います。しかし,基本はできてよいのではないかと思います。そういう委託者の意思で始まった信託についてはできていいのではないかというのが,私の意見です。
  もちろん,最初から税法上の優遇を受けることができるということをある種の条件にして信託を設定した場合には,税法上の優遇が途中でできなくなったということに基づいて終了するという仕組みが働くということは,それはそれでいいのだろうと思います。多分,違う意見だろうと思いますので申し上げた次第です。
○中田部会長 違うかどうかも含めて,どうぞ,道垣内委員。
○道垣内委員 山田委員のおっしゃるところに異存ありません。
○松元関係官 今の点につきまして私も山田委員の御発言に完全に賛成なんですけれども,今回,公益法人あるいは一般法人というのと比較して検討するということで,もちろん,全く同じにする必要はないわけでございますけれども,一般法人で公益認定を受けていた公益法人について,公益認定が取り消された場合にどうなるかというと,それで解散になるというのではなくて,一般法人としてそのまま存続すると,ただ,公益認定を受けていた期間に受けた財産については何からの形で確か清算するというような規定があったように思いますので,それをある意味,パラレルに考えるということも可能なのではないかと考えています。
○中田部会長 ありがとうございました。
  公益信託と目的信託との関係という問題と,委託者の意思をどのように考慮するかという問題と,両方が重なっているところだろうと思います。第1の公益信託と目的信託との関係,あるいは先ほど来,出ております附則3項との関係については,今後,本日,受託者の要件のところでも関連する議論を頂けるかと存じますし,また,後日,公益信託と目的信託との関係についてのまとまった御議論を頂く機会もあろうかと存じます。
○新井委員 目的信託の受託者要件,附則3項と施行令3条については,私は存置という意見ですが,最終的にはこちらの部会で決めていただければいいことであり,結論には私も従います。それで,まず,決める前提として私が前回に申し上げましたように,日本の目的信託は非常に幅の広いもので,比較法的にもこれほど柔軟なものはないのです。一方で,これを導入しながら,他方で,こういう要件で非常にきつく縛った,その辺りについて,一体,前回の信託法部会でどういう議論があったのかという点を私としては明確にしていただいた上で,立法事実があるのか,ないのかというところの議論が必要だと思いますので,しかるべきときに,そんな資料を是非,開示していただいた上で,議論して決着を付ければよいのではないかと考えます。
○中辻幹事 附則3項については,信託法部会の中で議論されたというよりは,むしろ,信託法案の国会提出や国会審議の過程において後から付け加わったという面がございます。なぜこのような規定になったのか,濫用的な目的信託の利用を防止するためと理解しておりますが,もう少し補充して調べてみることも考えられるのではないかという新井委員の御指摘と受けとめましたので,その点についても留意しながら進めていこうと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○渕幹事 第1の4の税法との関係のところについて,若干細かいのですが,一つだけ発言させてください。第1の4の第2段落「他方,公益法人制度においては」というところの次の段落,「公益信託の利用者にとって,自らの財産を拠出する際に税法上の優遇措置を受けられることは,公益信託を利用する大きな理由となっていると」と書いてあるのですが,ここの記述は若干強いような気がするので,もう少し弱められないでしょうか。
  その理由は,一つには前回もこの会議で指摘がありましたが,実際に設定されている公益信託のうちに特定公益信託でないという意味での一般の公益信託が3分の2ぐらいを占めているというデータが前回,出てまいりました。ということで,ここで言われている優遇措置を実際に利用しているものは3分の1程度であるということです。もう一つは,そもそも,民間の篤志家等によって公益信託が設定される理由は,学術とか技芸とかいった,そういった公益を増進するという目的が第一にあるはずであって,税法上の優遇措置を利用できること,ないしより一般に節税となるということが大きな理由ということであるべきではないということです。
  仮にそういうことがあるとすれば,それは税法上の優遇措置が理由となって,本来,別に適切な投資先がある資金を公益増進のための信託に回しているということで,税制が効率的な市場の形成を阻害しているというようなことになり,否定的に評価されるべきことになりかねません。そこで,税制優遇は,理由の一つであるというぐらいの評価にしていただいた方が無難かなと思う次第です。なお,全体的な方向性,すなわち,税法も視野に入れて検討するということについては大いに賛成でございます。
○中田部会長 関連ですか。
○吉谷委員 今の渕幹事の御意見に反対するものではないのですけれども,前回の信託協会の説明の中で,一般の公益信託がある程度あるという御説明をさせていただいて,そこでは一つには,昔は一般の公益信託しかなかったですというのが半分の説明で,後段の説明の方が今でも実際には一般の公益信託で特定や認定特定の基準を満たしていながらも,そこまで含めて認定を受けようと思うと時間が掛かってしまいますと,であるので,あえて税法上の優遇措置が受けられるのに,それを諦めて一般の公益信託にしてしまっているという例があるのだというのが前回の説明の趣旨です。なので,私の方からは,制度としては一括して公益の認定と税制の認定というのが一本で受けられるようになっていて,それが合わせて迅速に行われるというような制度になるのが望ましいのだろうなと思っているということで,補足をさせていただきます。
○渕幹事 今,おっしゃったことは要件を満たしていても,正に認定を受けないということで,税法上の優遇が理由ではないということをむしろ根拠付けてしまうと思います。これ以上申し上げませんが,おっしゃるように優遇すべきであるということと,実際に今,優遇が目的で人が動いているということは区別すべきであると思います。
  それとあともう1点,最初の方で小野委員が御指摘くださったように,公益法人制度の方でも公益法人制度と別に税法上の非営利型法人というのがありますので,そういう意味でも,公益信託の認定基準を公益法人とそろえるべきであるという御主張と,税法優遇の基準とそもそもの公益信託の認定の基準は一致すべきだという御主張,そこもつながらないのではないかと思う次第です。
○平川委員 税法上の優遇を受けるということが,民間の公益活動をより促進するという意味で,非常に連関させるべきなのではないかと思います。
○中辻幹事 税制の関係について1点,補足しておきますと,研究会の段階でも意外に特定や認定特定を取っていない一般の公益信託の件数は多いではないかという御指摘がありました。それに対する信託銀行の方の御説明では,基本的に個人の委託者が公益信託を設定する場合には,追加の寄附を予定しておらず,自分の死亡時に相続税の負担がなければそれで良いという方が多いということでした。部会資料32の5ページに相続税法基本通達9の2-6という規定が出てきますが,この規定により,一般の公益信託であっても,相続発生時に特定公益信託の所得税法施行令第217条の2第1項各号の要件を満たしてさえいれば,主務大臣の証明が無くても相続税の評価額はゼロになります。手続きが煩瑣になるのを避ける意味もあり,敢えて主務大臣の証明を受けずに一般の公益信託で設定するものも存在するということです。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  そうしますと,第1の基本的な方向性については大筋はこれでよかろうと。ただ,例えばすみ分けに留意しといっても,それによって他の制度を制約するような方向ではなくて,むしろ,その両方を考えていくことが必要ではないかとか,あるいは税法も視野に入れながらというのが,一方で税の優遇によって民間の公益活動の促進という,これは全体の政策決定とも合致しているわけですけれども,他方で,何か節税のツールとしてのみ使われるというようなことがあってはいけないというような御指摘も頂いたかと思います。ほかに目的信託との関係についていうと,特に附則3項をどうするのか。これは先ほど申し上げましたが,受託者要件をどう捉えるのか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう捉えるのかというようなことを今度,更に御議論いただくということになろうかと思います。ということで,基本的な方向性については,大体,こういうことで先に進めさせていただきたいと思います。ありがとうございます。
  それでは,次に「第2 信託事務及び信託財産の範囲」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○木村関係官 それでは,御説明させていただきます。
  まず,第2の1の「助成事務以外の信託事務の許容」について御説明いたします。ここでは,公益信託の受託者が助成事務に加え,助成事務以外の信託事務を行うことを許容するという提案をしております。現在の公益信託制度では,許可審査基準等により,公益信託の授益行為の内容は,資金又は物品の給付といった助成事務に限定されております。もっとも,民間の公益活動を促進するという観点からしますと,助成事務以外の信託事務,例えば美術館の運営ですとか,歴史的建造物の保存といったものが考えられますが,こういった信託事務を受託者が自ら行うという仕組みがあることが望ましいと考えております。こうした考え方について御審議いただければと思います。
  続きまして第2の2の「許容される信託事務の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の受託者が行うことができる信託実務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとするという提案をさせていただいております。少し長い注書きが付いておりますけれども,ここでは本文の公益目的の信託事務について,公益目的の達成のために必要な行為をいうと定義した上で,公益目的の達成のために直接必要な行為のほか,間接的に必要な行為も含まれるとしております。そして,その該当性の判断については公益信託の認定を行う外部の第三者機関が行うことを想定しております。また,この該当性の判断におきましては,信託事務を行う際に収入が生じるかどうかを問わないこととしております。
  以上の提案につきまして補足して説明しますと,まず,8ページの表を御覧ください。ここでは,美術館の運営を行う公益信託と,留学生向けの学生寮の運営を行う公益信託という2種類の公益信託を想定しております。このような信託の受託者が行う信託事務としましては,①の欄に記載した美術品の公開ですとか,留学生への居室の提供といった典型的なもの以外にも,例えば敷地を購入して美術館の建物を建築したり,展示品の入替えのために美術品を売買する,老朽化した学生寮を改築する,そのために敷地の一部を売却するといったものが考えられるところです。これらは,公益目的を達成するために必然的に生じてくるものということができます。
  続きまして,②欄に記載しているとおり,①のような信託事務以外にも美術館の中でミュージアムショップやカフェを営業したり,学生寮でバザーを開催するといった信託事務が想定されますが,これらは,①と比較すると,公益目的の達成のために必ずしも必要ではないものの,公益目的の達成に資するものということができます。
  更に③の欄に記載しているとおり,受託者が公益目的と関連しない書籍の出版をしたり,結婚式の式場として建物を提供したりといったものも想定されるところです。
  以上のように,公益信託の受託者が行う信託事務としましては,大きく分けると①の公益目的の達成のために直接必要である信託事務,②の公益目的の達成のために間接的に必要である信託事務,③の公益目的の達成とは関連しない信託事務という三つの類型があると考えております。本文の提案は,公益信託の受託者が①と②の信託事務を行うことは許容しますが,③の信託事務については許容しないという提案になっております。こうした区別に際しましては,信託事務を行うに当たって収入があるかどうかを考慮しませんが,当該信託事務自体が公益目的の達成に資することが必要であると考えております。例えばですけれども,公益的な活動の資金に充てる目的であったとしても,公益目的と関連なく不動産の賃貸を行うといった信託事務を行う場合には,そういった信託事務は除かれるということになります。
  こうした実質的な考え方を踏まえた上で,①及び②の信託事務と③の信託事務とをどのように区別するのかという点につきましては,例えば付随事務といった中間的な概念を設けるのではなく,①及び②の信託事務を合わせて公益目的の信託事務とした上で,公益信託の認定を行う機関が公益目的の信託事務と認定したものを行うことができるとする一方で,それ以外の信託事務を行うことはできないという仕組みとすることを考えております。以上の点について御審議いただければと思います。
  続きまして,第2の3の「信託財産の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の信託財産の範囲について,金銭に限定しないとすることでどうかという提案をしております。公益信託法上は,公益信託の信託財産の範囲についての限定はありませんが,許可審査基準及び税法では公益信託の引受け当初の信託財産は金銭に限定され,運用も国債等の安定的なものに限定されております。もっとも,先ほど御説明した助成事務以外の信託事務を許容する場合には,美術品等の動産や歴史的建造物等の不動産を信託財産にすることが想定されることから,これらを許容するのが適当ではないかと考えているところです。
  なお,このように金銭以外の財産を信託財産とすることを認めたとしても,「その他の課題」として,公益目的と関連しない信託財産を認めるのか否かですとか,みなし譲渡課税との関係をどのように考えるか,信託財産の運用をどの範囲に認めるのかといった点も問題になってきます。以上の点について御審議いただければと思います。
  最後に,第2の4の「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御説明いたします。本文では,信託事務の内容,信託財産の種類・規模等に応じて,公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないとするという提案をしております。現在の公益信託制度は,先ほども御説明しましたとおり,軽量・軽装備というところに利点があると指摘されていますが,公益信託の信託事務の範囲を広げたり,信託財産の範囲を広げたという場合には,それに伴って認定基準や監督・ガバナンスに関する規律を厳格にせざるを得ないのではないか,そういった懸念が生じるところでございます。
  こうした懸念に対応するために,現在の公益信託のように金銭を信託財産とし,助成事務のみを行うものにつきましては軽い基準とし,それ以外については厳格な基準にするという考え方もあり得るところではございますけれども,類型化が難しいことや,制度が全体として複雑になってしまうという懸念があることから,本文では規律を分けないという提案をしております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして,御審議いただきたいと思います。大まかに分けまして,1と2の信託事務の範囲,3の信託財産,4の類型別の規律の当否という順に進めていきたいと思います。ただ,相互に関連することでもありますので,厳密な区分というわけではございません。自由に御発言いただければと思います。ということで,まず,信託事務の範囲を中心に御審議いただきたいのですが,いかがでしょうか。
○道垣内委員 質問なのですが,言葉の定義の問題として,信託財産の運用という言葉と信託事務という言葉が出てきているのですけれども,信託財産の運用は信託事務に入らないという整理でこの資料は作られているのでしょうか。
○中辻幹事 この部会資料の作りとして,完全にそこが整理しきれているわけではありません。部会資料32の8ページの表でいえば,①の欄の美術館の建築・保存とか,留学生に対する居室・食事の提供などは,事業型の信託事務として想定しやすい具体例として挙げているものですが,その下の③の欄の最後では,投資用不動産の購入・賃貸等というものも信託事務の例として挙げています。投資用不動産の購入・賃貸等については,信託事務に入らない信託財産の運用であると整理する考え方もあると思いますが,信託事務の範囲の論点と信託財産の運用がどこまで認められるかという論点はなかなか分けにくいところがあって,当初の信託財産を用いた受託者による投資用不動産の購入・賃貸等の可否を信託財産の運用の方で考えるとしても,公益信託の受託者が行う信託事務の範囲の論点の中で御議論していただくことも可能なように思いましたことから,このような資料の作りにしております。
○道垣内委員 ということは,③の例として投資用不動産の購入・賃貸というものが書かれているのは,①との若干の類似性があるので,一つの例として書かれているというだけであって,③は信託事務として認めないということになったとしても,例えば12ページに書いてあるような預貯金,国債,地方債……取得によって信託財産を運用することは当然に認められると考えてよいということでしょうか。
○中辻幹事 そのようにお考えいただいて結構です。
○能見委員 実質に入る前に議論の前提といいますか,前提問題のところで明らかにしておきたい点があります。ここで事務の範囲とか,あるいは信託財産の制限とかいうある種の規制が考えられるわけですが,その法的な性質についての問題です。今,ここで考えているのは,受託者の権限としては及んでいるけれども,行政的な規制といいますか,あるいは公益信託法制の中での行政的な規制として,こうした制限を考えるということなのか,それともこの問題は公益信託の目的からくる受託者の権限の範囲の問題にも影響してくるのか,そこが気になっています。私としては権限の問題は後で検討した方がいいと思いますけれども,ここでの議論が権限の範囲を制約するようなことに繋がることがあるのかもしれないとも思っています。しかし,両者は別の問題として区別した上で議論した方がいいと思います。もし,この資料を準備されたときに,以上の点について検討された点があるようでしたら教えてください。ここで出てくる制限の法的な性質は何かということを御説明いただければと思います。
○中辻幹事 今回の部会資料を作成しているときに考えておりましたのは,8頁の表で挙げている信託事務を公益信託の認定申請書に記載した場合に,それが公益信託の認定を受けられるかどうかということでした。公益信託の認定を受けられるかどうか,そして認定を受けた公益信託に行政的な監督等の規制が及ぶかという問題と,公益信託の受託者の権限が私法上どのような範囲で認められるかという問題とは,若干ずれがあり得るところだと考えておりまして,その点については意識して今後検討していきたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどから議論されていますように,考え方の基準として公益財団法人,もちろん,非営利型の一般財団法人も含めての議論ということで,単純に単に公益財団法人と言わせていただきますけれども,公益財団法人ができることは公益信託でも十分できるという制度である必要があります。先ほどから公益信託について軽便な制度である必要があると,というのも現状公益信託の受託財産は5,000万円以下が結構多いという話がありましたが,公益財団法人を作るということ自体の重たさからすると,公益財団法人ができることを公益信託を利用してできるというような仕組みを提供することが必要と思います。したがって個々の論点においても公益財団法人ができるか,できないかという観点から考えるべきだと思いますし,そうすると,かなり広がりがあると思います。いろいろな観点から②,③というのは関連していると思いますけれども,さらにこうした観点からも広がりをもって検討すべきかと思います。
  それと関連する論点として,運用のところですが,給付型で金銭を預かる場合には,恐らく何らかの形で厳格な運用というものも必要かと思います。不動産を,美術品でも構いませんけれども,公益信託に付そうとしたときに,一切の金銭の扱いは別ですということになりますと,非常に使い勝手の悪いものになりますし,先ほどの公益財団法人とパラレルに考えるという観点からも不適切といいますか,使い勝手が悪いものになってしまうかと思います。
  ですから,給付型で何か金銭を受託するというものと,美術館の運営とか,弁護士会では子ども食堂というような議論がありましたけれども,いろいろな形で弱者向けに何か不動産を利用して,また,不動産以外のものを利用して,そのときに金銭も一緒に受託者に信託として預ける,受託者は信託目的に沿ってその金銭で場合によっては不動産を購入するとか,子ども食堂であれば,その運営費の足りないところを補充するとか,そういうことも当然といいますか,認めてしかるべきだと思うので,金銭の運用という議論とかなり違う観点の議論も必要かと思います。金銭だから,危険だから制限が掛かるということになると,使い勝手が悪くなってしまうということです。
○松元関係官 すみません,もう1点だけ,先ほどの能見委員のお話との関係で御発言をさせていただきたいんですけれども,能見委員の御指摘はもっともおっしゃるとおりだと私も賛成しておりまして,その関係から③のところに美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのが入っているのは,趣旨が余り定かではないんですけれども,展示するべき美術品を売ってしまうというのは,どちらかというといわゆる目的の範囲外と,受託者の権限の範囲外のウルトラバイリースのような話に近いのではないかというような感じがしておりまして,そうだとすると,ここにこの例がくるのは必ずしも適切なのかということと,もし,ここで言っているのが完全な投資目的で美術品を安く買って高く売るというようなことを想定して,ここに書かれているのだとすると,先ほど道垣内委員がおっしゃったのと全く同じような整理が必要になるのかなという感じがいたしました。
○新井委員 まず,1の「助成事務以外の信託事務の許容」についてです。これについては助成事務に限定する必要はなくて,助成事務以外の信託事務を行うことも認めるということで私は賛成したいと思います。ただ,そのときに公益信託は軽量・軽装備というメリットがあるということに留意する必要があると思います。というのは,受託者が自己執行しないという可能性も考える必要があるからです。それはどういうことかというと,旧信託法では代人使用というのは原則禁止されていたわけですが,現行信託法では原則許容ということで,再委託というのが非常に拡大されました。そうすると,助成事務及び助成事務以外の信託事務を行うということにしておきながら,実は全部,再委託するというようなこともあり得るので,ここの点は監督なり,ガバナンスにおいて少しチェックする必要があるのではないかと思います。
  先ほどの能見委員の観点とは違うのですが,どうして助成事務とか,助成事務以外の信託事務を受託者が行うかといえば,公益という重要な信託目的は,受託者が自ら執行せよという趣旨だと思いますので,自己執行義務と再委託の問題,これも一つの論点としてあっていいと思います。
  それから,2の「許容される信託事務の範囲」についてです。これは部会資料12ページの一番冒頭ですけれども,ここに書いてあることに私は賛成いたします。ここでの表現によると,①と②は一括して理解して③は除外するという理解でよろしいのかと思います。というのは,ここには出ていませんけれども,新しい公益信託の形としては福祉型信託,未成年後見の信託,小野委員のおっしゃった子ども食堂の信託ですか,こういうものがあると思うのです。
  例えば福祉型信託でいうと,ただ単に金銭を助成するだけではなくて,助成した金銭で例えば一定の機能付の車椅子を買うとか,あるいは施設に入居するという判断あるいはそのコーディネート,それが非常に重要です。ですから,助成の部分とそれ以外のところは密接不可分であり,なかなか分けることができないと思います。それから,未成年後見にしても金銭を給付するということと,給付した金銭でその後,どういう未成年の養育をするということは分けられないところがあると思いますので,ここは①と②は一体にして,③は切り分けるという整理でよろしいかなと思って賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 第2の2の「許容される信託事務の範囲」について意見を述べさせていただきます。正に今,新井委員のおっしゃった点に関わる点です。特に2の点です。部会資料の7ページ以下によりますと,公益信託の受託者が行うことができる信託事務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとすることでどうかとされています。これによりますと,公益信託の認定を行う外部の第三者機関は,③の公益目的の達成と関係しない信託事務が少しでも入っていれば認定はできない。認定してほしければ,公益目的の達成と関連しない信託事務は,全て除外して申請しなさいということになるだろうと予想されます。
  この場合に,疑わしきは公益目的の信託事務と見るという実務が定着すればよいのかもしれませんけれども,恐らくはそうではなく,むしろ,逆に疑わしきは除外しなさいということになっていくのではないかと予想します。しかし,そうしますと,実際の公益信託の活動は,かなり縛りの強いものになるのではないかと思います。部会資料の例でいいますと,留学生向けの学生寮の運営によって国際相互理解の促進等を目的とする公益信託で学生寮の建物が信託財産とされた場合に,「運用」がどこまで含むかという問題はあるかもしれませんが,建物を使って一定の収益事業を一部行って得られた収益を利用して,学生寮の賃料を安く抑えるというような工夫をしようとしても,それは③の公益目的達成と関連しない信託事務なので,してはいけないということになりそうです。
  公益目的の事業を継続しようとしますと,現実には様々な工夫が必要になってくるだろうと予想はするのですけれども,このような形で一律に③はいけないという制約を課しますと,なかなかうまくいかなくなるのではないかと思います。確かに軽量・軽装備という公益信託のメリットは維持する必要があることはよく理解することができるのですけれども,例えば公益法人制度のように,公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがない限り,公益目的以外の事業も行うことができるというような何らかの手当をしておく必要があるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の御発言の趣旨と重なるかもしれませんけれども,私もゴシックで書かれている抽象的な規律としては御提案のとおりでよろしいと思います。すなわち,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の事務はできないという,抽象レベルの議論としてはそれでよろしいと思います。しかし,それを具体化したときに,正に補足説明の中で言えば,②と③の限界線がどこにあるのかということだろうと思います。ここで山本委員も御指摘になったように,少しでも運営費用を賄うような目的が入っていれば駄目だということになると,これは非常に難しいだろうと思います。
  例えば美術品を入れ替えるために売ったり,買ったりすることは,①のところで直接関わるという分類になっております。他方で,③の方では運営費用捻出のための美術品の売買は③で駄目だと。例えば時価3,000万円の美術品を売却して,2,000万円の別の美術品を購入し,入れ替えて,差額の1,000万円は運営費用に充てるというようなことがあってまずいのだろうかというと,それを禁止する必要はないと思います。
  残りの1,000万円も,別の1,000万円のものを買わなければいけないということでもないでしょうし,他方,運営費用捻出というのは,正に運営できなくなってしまえば,公益目的そのものが達成できなくなってしまうわけですから,どこかで工夫をして費用を捻出しながら運営していかないと,そもそもの公益目的を達成すること自体が難しくなる。ということを考えると,余り近視眼的にといいますか,スポットで見て,この部分は収益的な事務だからいけないということではなくて,全体として見て,そういう収益的な活動も含めて,公益目的を達成するために行われているものという評価ができるのであれば,それは認めるべきであるし,むしろそういうことを当然に予定していかないと,かなり窮屈な制度になってしまうというのは私も同じ意見であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 私も先ほどの山本委員なりの意見と基本的には同じですが,弁護士会の議論の中では,①,②とも基本的には賛成で,助成事務以外の信託事務を行うことができることであるとか,あとは信託事務の範囲を御提案のとおり,公益目的で限定していくというようなことについては基本的には賛成でした。ただ,公益目的の判断が難しい場面があるであろうと思われますし,あとは表の②と③の区別もなかなか曖昧で,この表のとおりの指摘が必ずしも正しいとは思えなくて,③の中でも②に入れてもいいと考えられるものが幾つかあると思いました。
  例えば,不動産なりの信託事務をしているけれども,常時利用しているわけではなくて,例えば,子ども食堂のような,夜は使っているけれども,昼は空いているというような場面において,昼に何らか有効活用しようというのは,当然あってしかるべきなのではないのかと思います。結局,それをどのように限定していくかということではあるのですが,後の運用の観点もそうでしょうが,公益目的や当初の信託目的によって,限定されると思います。
  事業とか運用といったときに,根幹的な公益信託の目的となる事務からすごくかけ離れたものが事業なり,③のカテゴリーで認められるということは基本的にないのでしょうから,根幹的な公益信託の目的となる事務にそれなりに近いものでなければ,③に近いものといっても認められないだろうと思います。ですから,それは当初の信託目的なり,公益目的なり,そういうところから,限定されていくというのが一つの考えだと思います。
○沖野幹事 同じ点です。部会資料8ページの表の②と③の切り分け,①と②をセットにした上で③と切り分けるという点ですけれども,②と③の切り分けは山本委員がおっしゃいましたように,疑わしきはどちらにいくかというときには,どちらかというと,①,②の方は比較的広げるというか,緩やかに判断するというような考え方の方がよろしいのではないかと思っております。正に③で一般的な表現としては,公益目的の達成と関連しない信託事務という関連性がないということで切られております。その中に活動維持のために必要性,相当性といった点を加味して考えていき,もう少し緩やかに②と③の切り分けを考えた方がいいのではないかと思っております。
  そうしたときに,ここに挙げられている例として先ほど来,幾つかの御指摘があります美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのは,これだけを見ますと様々な場面があり得るわけで,当初予定したよりもうまくいかないので,少し縮小してというようなときだと,運営費捻出のために売却すると,そして,作品を切り替えていくというようなことも出てくるわけで,そういったものはむしろ①に入ると思います。そうだとすると,美術館としての維持や運営にかかわらず,投資的にやるというような,あるいはブローカー的に行うというようなことはできないということで,その切り分けとして非常に抽象的ではありますけれども,相当性と必要性,関連性といったところから,個別具体的な事業ないしは申請に対して判断していくというのが,適切ではないのかなと思っております。
  それと,もう1点ですけれども,道垣内委員,小野委員がお聞きになったことなのかと思うのですけれども,よく分からなかった点がありますので,改めて質問したいという趣旨です。それは美術館の建築・運営というときに,美術品とともに,しかし,運営資金が必要なので金融商品も託し,その金融商品を運用することで,美術館の運営資金を賄っていくというような計画を立てたときの金融商品の運用というものは,②に入るという理解でよろしいんでしょうか,という質問です。
○中辻幹事 今,沖野幹事が例として挙げられた美術館の運営のために信託財産の金融商品が運用されるケースについては,表の②の欄の信託事務の中に入るかどうかというよりは,公益信託の信託財産の運用として認められるかどうかという面から検討することを予定しておりました。そこで,その金融商品が現在のように国債や預金等の非常に安全な運用を行うものであれば,当然認められることになるでしょうが,新たな公益信託制度では,今のような固い安定的な運用よりはある程度ゆるやかに利ざやの大きい運用を許容することもあり得ると考えておりまして,その論点についてはむしろ信託財産の運用の面から議論していただければと存じます。
○中田部会長 沖野幹事,よろしいでしょうか。
○沖野幹事 ありがとうございます。
○神田委員 既に御議論があった点と重なりますし,今の最後の点とも重なるのですけれども,3点,確認の意味も含めて感想的な意見というか,質問めいたこともあるのですけれども,申し上げます。
  まず,第1点目は,最初,能見委員からの御発言から始まった点なのですけれども,今,ここで議論しているのは認定の基準であって,受託者の権限とか,行為能力ではないと理解しました。その意味は例えば部会資料8ページの表でいうと,①と②はできるけれども,③はできませんというのはあくまで認定の基準であって,もし③がされた場合には,特に対外的な行為の場合には,その効力は有効であると,仮に相手が悪意であってもと,そういうところまで意味しているのか。そういった問題は受託者の権限として後でもう一度議論しますということなのかというのが質問です。確認的な質問です。
  それから,2点目は,①,②にどういう行為が入るかということで,二つ,是非,御検討いただきたいと思うことがあります。一つは新井委員がおっしゃったことなのですけれども,アウトソースというか,委託することができるかということです。確かに原則は,自己執行義務という言葉を使うとすれば,そういうことの方が公益信託には望ましいと思いますけれども,よく挙げられる例で例えば仮に運用として国債を保有することができる,今でもそうだと思いますけれども,そうすると,国債は自分で保有することはできませんで,制度的に金融機関あるいは振替機関である日本銀行を通じてしか保有することはできません。
  こういうものを委託と整理するかどうか自体に争いがあり得るところですけれども,伝統的な一般的な整理は,振替証券と呼んでおきますけれども,振替証券の振替制度を通じての保有は委託だという整理が少なくとも伝統的にはされてきていまして,私は個人的には若干疑問があるのですが,それはともかくとして,もしそうだとしますと,こういう例外的な場合には委託が認められてしかるべきとなるのではないか。今,たまたま,国債の例を挙げましたけれども,より一般的に例外的な場合があるかどうかということになります。
  それから,もう一つは今,最後に御議論があったところなんですけれども,一般には資金が必要になってまずやることは借入れになります。そこで借入れができるのか。もちろん,一般的な長期の借入れというよりも一時的な借入れ,仮に①,②で処分できるとして,ここに書いてある例でいいますと,展示品入替えのための売却とかがありますけれども,なかなか売れないというときに一時的に借入れをしていいか。今あった御質問は金融商品を運用して資金を捻出していいかという御質問だったので,より一般的にいうと,①,②をするために必要な資金をファイナンスしていいかということになると思います。伝統的な言葉でいうと,一番簡単な一時的な借入れをしていいかどうかということを御議論へ加えていただければと思います。
  3点目は道垣内委員が最初におっしゃったことに結局,関連するのですが,信託事務という概念と運用という概念でして,本来,運用のところで申し上げるべきであったことかとは思うのですけれども,仮に例外的な場合に委託,あるいは仮に一時的な借入れとかができるとなると,それは信託事務ですかという問いが概念的には生じるので,運用は信託事務ですかという御質問とかぶってくると思うのです。ですから,概念整理だけの問題だと思うのですけれども,公益信託において受託者ができることは何で,できないことは何か,このできる,できないは,権限ではなくて認定基準の問題として議論しますと,こういう整理なら,そういう整理をしていただきたいと思います。
  そうなると,後で申し上げることかもしれませんが,運用についても運用は当然できますという話ではなくて,今の委託とか,一時的な借入れと同じだと思うのです。原則は例えば100というお金を受け入れて,全部,100を運用していますというのは考えにくいので,すぐに美術品を買おうと思っても,最初に買うのに6か月,1年,かかりますと。これを待機資金と一般には言っているのですけれども,その間,放っておいていいかというと,国債とか預貯金にする,あるいはそれ以外でもいいですかという話。
  あとは与信と言って,100のもので美術館とか美術品を買おうと思ったけれども,80で20が余っているので,次のことをやる間,この例ですと,与信と言っていいのか,それも広い意味での待機資金なのですけれども,それは放っておいたらゼロで,今運用したらマイナスかもしれません,いずれにしても,運用というのも,そういう待機資金とか,与信についてこういうことができますということだと思いますので,委託にせよ,ファイナンス,一時的な借入れにせよ,運用にせよ,そういうことだと思います。それは信託事務の中に概念整理するか,外に概念整理するかはともかくとして,大きな枠組みとして,できること,できないことということで整理していただければ有り難く思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 ただいまの神田委員がまとめられたのとかなり重なるのですけれども,私が最初に申し上げましたように,ここで議論するべきことは認定基準の問題であるという形で,問題が立てられてはいるのですが,実際には公益信託が動き出して運用の段階となったときの,受託者は何ができるのか,できないかという問題にも関連はしています。しかし,両者が混じってしまうと議論の混乱が生じるので,まず,それをきちんと分ける必要があるだろうということで,この点,神田委員が指摘されたとおりであります。
  その区別をした上で,認定の段階の問題として,どういう一般的な原則を立てて,先ほどの①,②,③についてもどんな形のルールにしておくのかという点なんですが,公益認定の基準としては,抽象的な言い方ですが,当該信託が公益目的事業を行う,あるいは公益目的事業に反することはできないという程度の一般的な基準でよいという感じがしました。それを更に具体的な基準にしようとして,①,②,③のような具体的な書きぶりをしたときに,うまくいくのか。特に②,③を区別するような基準がうまく書けるのか,公益性認定の基準として書けるのかというと,なかなか,難しいのかなという感想であります。
  この問題は,受託者が公益信託の引き受け許可を求めるときに,その申請をするときにどこまで詳しく書かなければいけないのかという問題とも関係すると思います。公益信託の許可申請をする段階でも,②とか③のような事業については,②辺りは実際に公益信託が動き出す前に,事前に書けなくはないと思うのですが,②の事業でも後でだんだん拡張するような場合もあるでしょうし,全てが公益性の認定ないし許可を求める段階で書けるとは限らないと思うのです。それから,③は書けない。これはむしろ駄目だという例ですから,一般には,公益信託の引き受け許可申請の段階ではもちろん書かない。いずれにせよ,②や③に関連することを,申請者はどこまで公益性認定のところで書くのかという問題があるような気がいたします。
  認定の段階ではそういう問題があるということですが,②,③の区別が実際上問題となるのは,公益信託が設立された後の実際の運用の段階なのだろうと思います。たとえば,③にあるようなことが実際に行われたけれども,しかし,そこで上がった収益は公益活動の資金として100%使うのだということになると,その場合の③は駄目なのかと言われると,ケース・バイ・ケースであるように思います。要するに,③は,基本的に運用の段階の問題として,ケース・バイ・ケースに判断して処理すればいいのではないかという感じがいたしました。これがまた受託者の権限の範囲内か否か,権限外行為ということで無効になるのか否か,という問題は,後で受託者の権限のところで議論したいと思います。
○道垣内委員 最初に申し上げたことの若干,繰り返しになるのですけれども,少なくとも現行信託法は,信託財産の投資も含めて信託事務という言葉を使っています。だからこそ,信託事務について善管注意義務が掛かるとか,忠実義務が掛かるとかというときには,もちろん,信託財産を運用するということについても,そういう善管注意義務や忠実義務が掛かってくるというわけです。
  しかるに,今回,公益信託の議論をするときに,最終的に条文に落とすときにどうなるかという問題はさておき,信託事務という考え方と信託財産の運用という概念を一応,異なるものとして議論をしていくというわけですが,恐らくそれがこれまでの公益信託法における議論で可能だったのは,信託財産が金銭に限られていたからなのだと思うのです。したがって,金銭の運用方法について国債,地方債,預貯金にしなさいと書いておけば,当該信託財産の運用における権限というのは極めて明確になって,それ以上の議論をする必要はなかった。
  しかるに,仮にこれが今,議論の範囲に入っているかどうかは覚えていないんですが,部会資料の12ページ以下のところにありますように,公益信託の信託財産について金銭に限定しないということになりますと,正に事務局で気付いていらっしゃるように,14ページの3の(1)のところにあるわけですけれども,金銭に限定されない信託財産を使った運用というものが出てきます。遡って投資用不動産をそもそも信託財産とすることを許容しないという考え方もあり得るとも書いてあり,それはそうなのですが,仮に信託財産の範囲を金銭に限定しないということを前提とするならば,受託者が助成事務以外の信託事務を行うが公益目的の信託事務に限定するという言い方の整理に,若干の無理が出てくるのではないかなという気がいたします。
○中田部会長 既に3の「信託財産の範囲」にも入っておりますので,その点も含めて御議論いただければと思います。
○小野委員 運用という言葉の使い方について,昨日の弁護士会のバックアップチームで議論したことをお話しさせていただきますと,信託業法上,管理型と運用型に分かれていて,運用という言葉の使い方によっては信託業法の適用のあるような信託と,場合によっては見られてしまうかもしれませんけれども,今までの議論でもそういう金銭の信託を伴うものであっても,給付型で安全資産において運用といいますか,管理するものばかりではなくて,信託目的,また,信託契約に沿った形で委託された金銭を使用することができるようにする必要があり,それが信託業法の運用型に該当するような議論とならないようにしていただきたく,用語の使い方,言葉だけの問題かもしれませんけれども,今後信託業法の議論というのもあり得ることと思うので,是非,留意していただけると有り難いと思います。
  特に現在の信託財産の運用のところの記述というのは,ざっと見るところ,いわゆる金銭給付型の信託財産の運用又はしばらく金銭として扱っていたときの運用という観点のようですけれども,私の発言でも,また,多くの委員の方々の発言においても,信託された金銭をどう利用するか,公益目的でどう利用するかということだったと思うので,いわゆる運用型の運用とは法律用語として違うのではないかという点でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 今,議論されております三つの課題があると思うんですけれども,公益法人協会で前回の公益信託法改正研究会報告書に関するアンケート調査というのを行いまして,200人余りの個人の有識者に質問を求め,56名の回答を得ております。ほぼ法務省案に賛成という結果でございますが,最初の助成事務以外の信託事務の許容については,56名中52人が賛成,反対が4ございます。収益事務等を除外するという点については,39名が賛成で17名が反対なんですけれども,助成事務以外の信託事務を許容することに反対という理由は,積極的に反対というよりはガバナンスがかなり難しくなっていくのではないかと,そちらの規制の方ががんじがらめになるぐらいであれば,特に非常に収益事業をやるべきということではないというような感じでございました。三つ目の金銭以外のものについては,全員が金銭以外の財産を信託財産とするということに賛成という結果を得ております。
  許容される信託事務の範囲なんですけれども,先ほど道垣内委員がおっしゃったように,公益目的の信託事務という広いくくりで見て,一見,賃貸して収益事業を行うから公益には反するということではなく,それが真に公益目的かどうかというところで見ることができるのではないかと思うんです。それで,例えば一棟建てのマンションを持っているおばあさんが,これでもって助成事業をしたいということで,マンションを信託にして,その収益でもって学生に奨学金を与えるとか,そういうような公益信託があってもいいのではないかなと。そうすると,賃貸収入なのだから公益ではないということにはならないのではないかと思うんです。
  あと,新井委員がおっしゃったように,信託財産の範囲を金銭以外のものも含めるということになると,信託事務の委託というところで,かなりガバナンス的に難しい問題もあるのかとは思うんですけれども,そのことはさておき,信託財産としては金銭以外にも広めるべきであるし,後に出てくる問題の受託者の資格という意味で,委託をする場合には,それを監督することができるような見識や経験のあるというような要件が必要になってくるとか,そういうところにつながってくるんだと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○明渡関係官 公益法人の実務をやっている観点から若干,補足をしておきたいと思います。部会資料の8ページから9ページにかけまして,①,②,③というふうな形で3種類の信託事務の分類が挙げられております。そこで,9ページの(2)一番最後のなお書きには注意深く書いていただいておりますけれども,「ミュージアムショップやカフェの営業が,公益法人の行う公益目的事業の一部として許容される例が存在している」というような形でお書きいただいております。
  常にミュージアムショップやカフェの営業というようなものが公益目的事業となっているわけではございません。収益事業として立てられている例というようなものも多数あります。単にミュージアムショップ,カフェというようなことだけで見ていくのではなくて,恐らく個別の事情の中で判断しているんだろうと思います。そういった意味では,②と③の区別というようなものもなかなかグレーゾーンがあるかと思いますけれども,②で例が挙がっているからといって,全て同じような形で,現在の公益法人の実務においてとられているかというと,その辺りも個別事情を見ながら判断しているというような実態があるというふうなことを誤解なきよう,お伝えしておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。今のお話は認定の基準という趣旨でございますね。
○明渡関係官 認定のときもそうですし,その後の監督もそれに従ってという形になります。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○吉谷委員 まず,信託事務の拡大によりまして,監督・ガバナンスの強化が必要になって,その結果,軽装備を旨とする公益信託の特質が失われないようにすべきであるということを改めて強調しておきたいと思います。それを前提といたしまして,公益目的の達成のために直接,間接に必要である信託事務であれば,それに伴い,一定の収入が発生することも許容されてしかるべきであろうという考え方には賛成いたします。ただ,ここの例で挙がっている美術館の運営などというのは,非常に私などから見ると難易度の高い事例でありまして,恐らく具体例に挙がっているものよりももっと単純で,実現可能性の高いものはいろいろあるのかもしれないなと思っております。
  信託事務でとても複雑な事業をするということがよいのだろうかという論点はあるのかなと思っております。現行の実務よりも受託者の裁量を極端に拡大することを認めることで,ガバナンスに関する規律が拡大されると,現在,行われている助成型のような簡単にできるものについても支障が出るというのでは困りますので,もし,そういうことになるのであれば反対したいと思います。そういう意味で,受託者の裁量を限定するという方法はいろいろあると思っておりまして,例えば運用の観点とも若干関わるのですけれども,事業を継続するために必要な資金の調達というのがあって,そのために計画的に信託財産を売却するというようなことは,公益目的の信託事務に含めていいのではないかと考えております。
  ただ,美術品の売却は,個別のケース・バイ・ケースの是非になるかとは思うのですが,より単純な具体的なニーズということでは,不動産や有価証券等というものを当初の信託財産にしますと,その売却資金を公益目的に使用するということは,十分に考えられるだろうと思っております。そのような事業計画をきちんと立てて,受託者の裁量を適切に限定するということも可能なのではないかなと思います。
  もし,そういうことを認めた場合は,投資用不動産を当初の信託財産とする,例えばマンションであるとか,そういったものを1棟でも1戸でも信託財産として,そうすると売却までの短期間の収益というのは必然的に発生するわけでありますので,そのようなものは許容されていいのではないかと。受託者に別に不動産事業を継続しようという意図があるわけでもありませんので,10ページの第1パラグラフには,悪影響の懸念ということが書かれているんですけれども,そういうものを考えれば悪影響の懸念というのはないのかなと思っているところです。
  あと,公益目的の信託事務という法律の概念を規定して,該当する事務の範囲を公益信託の認定を行う外部の第三者機関の判断に委ねる方法というのに賛成でございます。ただ,部会資料上,気になることが一つございました。11ページの(3)のところの下の方に「もっとも」という箇所がありまして,その下で個別具体的な信託事務の内容を公益信託の申請段階で記載することを要求することは,申請者の負担を増大させることになると,審査も長期化して軽量・軽装備という公益信託のメリットを維持しようとする観点との調整が必要と書かれています。
  考えますところでは,信託は法人組織ではありませんので,受託者の信託事務の範囲というのを信託契約や申請書である程度,具体的に記載して狭めておいた方がやりやすいのではないかなと思うのです。信託で行う事業が複雑なものであればあるほど,審査が長期化することはやむを得ないと思えますので,助成型のような事業についての記載は簡易であってよく,美術館を建築して運営するようなものについては,詳細な運営が求められるということは慎重に審査する必要もあるでしょうから,やむを得ないのではないかと考えます。そういうふうにきっちりとした審査計画書面というものを作ることによって,監督の仕組みを軽装備にすることができるのであれば,そのようにした方がいいと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  吉谷委員の今の御発言は,①と②と③について軽量・軽装備が担保されるということを条件にといいますか,それを前提に,方向としてはこれでいいと承ってよろしいでしょうか。分かりました。
○樋口委員 2点だけ。1点は感想で,もう1点はコメントです。
  今,ずっと御議論を伺って,なかなか,本当に難しいなと思っております。いろいろ,勉強になることばかりだと思っておりますけれども,感想の第1は結局,2ページ目の基本的な方向性というのがこの文章を読んでも私だけでなくて,多分,ここの会議にいる人以外は何を言っているか分からない,結局,一番大事な言葉は(公益法人と公益信託の)「すみ分け」というのがどうもあるらしいというのと,「適正な利用を促進する」という言葉です。しかし,これほど曖昧な言葉はなくて,何を言っているか分からないので,結局,信託事務の範囲とか,それもつまり一番初めのところの大元がはっきり決まっていれば,信託事務の範囲も広げていこうとか,そうではなくて限定しておかないといけないとか,何か方向性が決まるはずなんだけれども,基本的な方向性と書いてあるんだけれども,決まらないから,こういう議論になっているんだなというのが感想です。
  それで,すみ分けに関係して私自身が面白いなと思ったんですけれども,10ページ目の「小括」のところで,つまり,公益法人との比較みたいな話を教えていただいて,本当に有り難いことだと思っているんですが,真ん中辺から「小括」の2段目ですが,なお,公益法人制度では公益目的の達成と関連しない信託事務に相当する収益事業等を公益法人が行うことが許容されているが,しかし,他方では公益信託制度と比較すると認定基準がそもそも厳格なんだということです。そういうことを考えると,最後に,このことからも信託の方はつまり厳格な認定基準ということにきっとならないので,逆に公益目的の③の類型については,許容すべきでないと考えられるかどうかと,こういう形でつまりバランスをとろうとしているんです。
  これは何か理屈が合っているようで,理屈が合っていないような,公益法人の収益事業許容と認定の厳しさでバランスを取っているから,公益信託の方は逆に収益事業は許されない,この議論は極めて説得力があるようで,私にはものすごく疑問符が感じられるような,とにかくバランスをとればいいというだけにしか読めなかったんです。この二つが論理的にすぐ結びつくかは何ともいえないからです。これも感想で余計なことを言ってしまったかもしれませんけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかには。
○渕幹事 部会資料12ページの「信託財産の範囲」のところについて少しコメントというか,感想がございます。今のところ,金銭に事実上,限定されているということが議論の出発点になっているのだと思うのですが,本当にそうなのかということについて少し伺いたいのです。というのは,先ほど「みなし譲渡課税」のところで追加して説明してくださったところとも関わるのですけれども,特定公益信託ではない一般の公益信託というのが,実際には余りそれは実務上重要ではないのだとおっしゃる方もいらっしゃるのですが,仮にある程度,使われているとして,その課税関係についてはどうなるかということなのですが,先ほど御説明がありましたとおり,委託者がそのまま財産を持っているとみなして,それで課税するのであるというふうな仕組みになるのかと思います。ということは,仮に金銭以外のキャピタルゲインがあるような財産を信託財産として,公益信託を設定したということがあったとしても,そこでみなし譲渡課税は行われないと思われるわけです。
  問題は,今申し上げたようにキャピタルゲインがある財産を信託財産として,公益信託を設定するという人がいるのかということです。今回の資料では,そういうものはほとんどないのではないかということが暗黙のうちに想定されているのですが,インターネットで調べましたところ,国税庁のホームページに質疑応答事例というのがございます。
  それを見ますと,その中に公益信託の信託財産とするために上場株式を提供した場合というような質問が出ていて,これは要するに公益信託の基本財産として,相続によって取得した上場株式を出捐したいというわけです。その場合にみなし譲渡課税があるのか,ないのかという質問なのですが,これについて国税庁の回答は,法人税法附則19条の2の2項というのがあるので,公益信託は法人課税信託ではないということで,引き続き委託者が信託財産を持っていると税法上はみなされるということで,みなし譲渡課税はないと答えられています。ということで,こういうふうに国税庁が質疑応答を出している以上,もしかしたら使われている例はあるのかもしれないと思われるのです。
  そのことと離れて理屈の上で考えてみますと,みなし譲渡課税がなくて,それで公益信託の信託財産となるとどうなるかというと,所得税法11条の2項でしたか,非課税の扱いになるということで,例えば配当とかを受け取っても非課税というメリットがあるわけです。というようなことで,もしかしたら,そもそも一般の公益信託というものがこういう形で,例えば上場株式などを信託財産とする形で既に使われているという可能性があるのかもしれない。これは分かりませんが,そういう可能性は国税庁が出しているものからするとあるなと思った次第で,そのことがもしかすると,ここでの議論というか,説明の書き方に多少,影響を及ぼす可能性があるかもしれないと思って発言しました。
  それから,長くなってしまって恐縮ですが,もう1点ございます。14ページの(2)のところで,みなし譲渡課税との関係という論点が出てまいります。ここで公益信託の場合は,租税特別措置法40条というのが適用されるということが説明されております。これはここに説明がございますとおり,本来,課税の対象となるべき過去に生じているキャピタルゲイン課税について,課税しないということだと理解しております。
  これについて,公益信託についても同等の扱いをしたらどうかというような考えもあり得ると書いてあって,もちろん,公益法人との関係では同じ扱いをすべきだという意味では,非常にそういう考え方にも説得力があるのかもしれないのです。しかし,この制度では結局,実際に公益目的に使うべしということで出捐した財産の額と課税を免れるといいますか,非課税になる額というのが余り連動しないわけです。たまたま,キャピタルゲインが多い財産を出せば課税が減免されると。しかし,含み益がない,キャピタルゲインがないような財産を出した場合は,そういう便益は及ばないということなので,白地から制度を設計すれば,こういうふうにキャピタルゲインを減免する,課税を減免するというよりは,例えば公益目的に出捐した額の何%の額を一律に税額控除するというような仕組みにした方が,課税の公平という面では賢明かもしれないと,そういう考え方もあり得ると思う次第です。
○中田部会長 今の点について今の段階でよろしいですか。
○中辻幹事 渕幹事が指摘されました,国税庁のホームページの情報を私は存じておりませんでした。ご教示いただき,ありがとうございます。私どもとしては,公益信託で株式も含めて金銭以外の財産を信託財産とした場合には,主務官庁の許可がおりず,財務省の了解も得られないということで,株式が公益信託の信託財産とされている事例は稀なのではないかと考えておりましたが,実際にこのようなホームページがあることからすると,株式が信託財産とされている実例もそれなりにあるのかもしれません。
  もし信託実務の観点から,吉谷委員の方で教えていただけることがあればよろしくお願いいたします。
○吉谷委員 はっきりとした数字ではないんですけれども,私が存じている限りでは,恐らく業界でも10とか20とかぐらいはあるのではないかと思います。ただ,最近,そういうのを受けたかどうかということについては余りよく分からないですね。恐らく助成型しかやっていませんので,株式を当初信託財産にして,その配当を助成に使いますという考え方はあり得るんだと思います。ただ,一方で取り崩していくようなパターンだと,金額が小さくて配当が少ないので,徐々に売却していかないといけませんというようなケースですと,その売却に対してどの程度,課税がされるかということも,信託を設定する上での考慮材料になるのではないかと思われますので,今は期中の売却については普通に委託者に課税されるのではないかと思いますので,そういうところの御配慮が新しい制度であると,当初信託財産として有価証券などを使うという方向性は,考えられるのではないかなと思っております。
○渕幹事 では,株式を売却したりする場合については,今は,所得税法11条2項は適用されていないということですか。
○吉谷委員 売却時にも非課税メリットがあるということですか。
○中田部会長 専門的な話になってしまって難しいんですが,平成19年の税法改正で新しく入ったということとの関係もあるんでしょうか。
○渕幹事 私も余り分かりません,すみません。
○中田部会長 今,吉谷委員がおっしゃいました,期中で売却したときにどうなるかということと,それから,当初にキャピタルゲイン課税が生じるかどうかということと,二つの問題があるのだろうと思います。これは今,中辻幹事からもありましたように,こちらは十分,まだ,よく勉強していないところでしたので,是非,渕幹事にもお教えいただければと思います。とりわけ,平成19年改正で一般の公益信託と特定公益信託との間に違いが出ている,それがなぜなのか。特定の方は金銭だけを念頭に置いているから対象とする必要がなかったにすぎないのか,それとも,もっと大きな何らかの政策的判断があったのか等も含めて,引き続き渕幹事からお教えいただきながら,詰めていければと思います。今日は問題の提起ということでよろしいでしょうか。
○渕幹事 ありがとうございます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○神作幹事 先生方からいろいろ御議論いただいて,しかし,まだ少し分からないところがあるので御質問させていただければと思いますけれども,8ページの表の読み方なのですが,信託事務の分類というので①から③までございます。ここでの分類というのは,一応,公益目的の達成のために直接必要か,間接的に必要か,達成と関連ないと分かれておりますけれども,先ほどの神田委員の御発言にも関連するかとは思うのですが,例えば③で挙がっている例のうち,美術館の運営費用捻出のためというのがたまたま美術品の売却・購入だけに係っていて,これは確かに目的そのものに反する可能性があると沖野幹事から御指摘があったとおりかと思いますが,例えば美術館の運営費用捻出のため,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸というも,当然,公益目的の達成のために間接的に必要ではないという整理なのか,つまり,③に挙げられている行為というのは,場合によっては公益目的のための正にファンドレイジングだという,そういう可能性もあると思うのですけれども,ここで書いてあるのはむしろ何をするかというのを単に客観的に並べているだけであって,真の目的とは無関係だという理解でよろしいのかというところであります。
  それと同じことは多分,神田委員が先ほど借入れについて書いていないではないかということなのですけれども,これも借入れというのはそれ自体,非常に抽象的,一般的な行為で,恐らく①から③のどれにも入り得ると思うのですけれども,この表の見方がむしろ本当の機能に着目して分類しているのか,それとも,外形に着目して分類しているのかという,そこのところが少し分かりづらかったので,もし御説明いただければというのが第1点です。
  それから,第2点は少し意見になりますけれども,もし外形的に書いてあるんだということだとすると,一つの説明というのは外形的に例えば③のように活動範囲が広がれば,例え目的はファンドレイジングであっても,ガバナンスが大変になるでしょう。これは一つの説明かと思いますけれども,もう一つ,あり得る視点かなと思いましたのは,税法も視野に入れるということになりますと,例えば③のような活動を営利法人がやっているという場合の課税の関係と,そうではなく,これはもちろん公益信託における課税の在り方と連動してくるわけですけれども,課税の在り方によっては非営利の場合,公益の場合とそれ以外の場合との競争上のイコールフッティングというような観点というのも,もしかしたら問題になり得るのかなと思いました。
  すみません,前半の方のご質問についてもし教えていただければ大変有り難いと思います。
○中辻幹事 神作幹事の御質問に対してですけれども,部会資料32の8頁の表に挙げました各種の信託事務が①から③の欄のいずれに位置付けられるかは,外形のみによって判断できず,「公益目的」よりも下のレベルの目的も含めて判断することが必要となる場合がございます。例えば,③の「美術館の運営費用捻出のため」の美術品の売却・購入は,外形的に見れば①の「美術品入替えのため」の美術品の売却・購入と区別できないものがあり,そこは「文化及び芸術の振興」という「公益目的」よりも下のレベルの目的で区別するほかありません。
  なお,私どもとしては,公益法人の世界では,公益目的事業の運営を永続的,継続的にやっていくための費用を捻出することは認められるべきであるという発想から公益法人が収益事業を行うことが認められ,収益事業によって上げられた収益が公益目的事業の運営の方に投入されていくという仕組みがとられていると理解しています。
  しかし,そのような仕組みをとったがゆえに,公益法人については公益目的事業比率などの厳しい認定基準が加わっており,公益法人の現場の方からは批判もあるということも側聞するところです。
  そこで,すみ分けという表現にしておりますけれども,平たく言えば,公益法人でできることの全てを公益信託でもできるようにすべきであるとは考えておりません。投資用不動産を例とするなら,都内の物件であれば高い収益が上がり,それを公益信託事務の運営費用に充てていくのは結構なことではないかという考え方はもちろんあり得ると思います。しかし,それを一旦認めてしまうと,公益目的の信託事務の方に投入されるべき人やお金が収益を上げるための信託事務の方に流れてしまう,あるいは収益事務の運営に失敗し信託財産を毀損するおそれがあることから,それを防ぐために公益法人で不人気の認定基準等の仕組みを公益信託にも持ち込まざるを得ない事態になることも懸念されます。吉谷委員がご指摘されたように,公益信託の受託者が時限的に収益不動産や株式を保有することはあり得るのかもしれませんが,それらを永続的に信託財産として保有するということになってしまうと,かえって望ましくない結果をもたらす可能性があるように考えております。
○中田部会長 神作幹事,よろしいでしょうか。
○神作幹事 1点だけ,そうすると例えば美術館の建物の結婚式とかビジネス会議等への賃貸の前に,美術館の運営費用の捻出のためという言葉が付くと②になるのでしょうか。それとも,それがついても③。
○中辻幹事 運営費用の捻出のためということですか。それが付いてしまうと③の方に入るのかなと思います。
○神作幹事 そうすると,③はこういった事業をする真の目的が①のためであっても,外形的にこのような行為をしたときには,公益目的の達成とは関連しないと見ると,客観的行為から。
○中辻幹事 美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,美術館における美術品の展示等の信託事務と比べると「文化芸術活動の振興」という公益目的からは非常に遠い位置付けにあるものと考えておりました。美術館の建物を美術品の公開のために使っていないときには,別の用途に使っても良いではないかという発想があり得ることを否定するものではありません。けれども,そのような発想を認めてしまうと,今の段階でもなかなか②と③の切り分けは難しいと思っていまして,それが更に不分明になってしまうのではないかという懸念もございます。そうすると,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,それらが運営費用の捻出のためにされるのであれば「文化芸術活動の振興」という公益目的の達成のために直接又は間接的に必要な信託事務とはなりませんし,そもそも外形的に「文化芸術活動の振興」と関連しない範ちゅうの信託事務であると判断することが可能であり,公益信託事務としては許容されないという整理をすべきではないかと考えております。
○中田部会長 資料を御準備された方の理解はそういうことであり,それとは別の基準もあるのではないかという御指摘を頂いたのだろうと思います。
  更に御意見を頂戴いたしますけれども,できましたら3番目のところで,一旦,区切りを入れて,四つ目の項目については休憩後にしたいと思います。そこで,3番目の「信託財産の範囲」のところまで休憩前に御議論いただければと思います。
○吉谷委員 「信託財産の範囲」のところでございますけれども,今のお話でも収益を上げるための財産というのは,恐らく公益目的の信託事務と関連しない信託財産となるかどうかというところが,論点になってくるのではないかとは思いました。ここに書いてある公益目的の信託事務と関連しない信託財産は,公益信託の信託財産として許容しないとすることということについては,この基本的な考え方は賛成いたしますが,(3)の「信託財産の運用について」に関して,特にお話ししたいと思います。
  運用を認めるかどうかということについては二つほどありまして,まずは有価証券の運用で資産の組替えを伴うものであるとか,投資用不動産によって運用するということはリスクが高いわけでありまして,専門家でない人が運用することが妥当なのかということがあると思います。専門家にそれを任せるのかということになると,それを委託するとなると,委託した人をまた監督するのかというような話もありまして,軽量・軽装備を維持できるのかというような点でも問題になると思います。
  ですので,もし有価証券とか不動産であるとか,そういったものでの運用を認めるのであれば,公益認定の審査において,受託者であるとか運用の委託先について,運用の能力であるとか,信託財産が運用報酬を負担してまでリスク資産で運用を行うということが妥当なのかというようなこと,あるいは運用手法とか費用などとかを運用計画できちんと説明できるのかということを,公益事業の必要性との関係で慎重に見極めるべきではないかと思う次第です。
  ただ,今述べたような観点では,受託者の裁量を限定した計画であれば,軽量・軽装備を維持できるのではないかと考えているというわけです。一つは,先ほど申し上げましたけれども,有価証券や不動産を当初信託財産とした上で,計画的に売却するというような場合です。もう一つは,株式などの有価証券を当初信託財産として設定して,配当を公益事業の原資とするというような場合です。このような管理と計画的な処分に限定することによって,受託者の裁量が低くなりまして,それ以外の複雑な運用事務を行う場合よりも,当然,費用,報酬的なものも低くなり,適切性の判断というのも容易にできるのではないかなと思っています。
  例えば不動産を継続保有するなどということについても,私ども信託銀行はそれを業としてやっておりますので,もちろんできるわけですけれども,事業リスクというものが伴います。ですので,そういったものをできるかどうかというところの見極めが,受託者の範囲にも関わってくるのかもしれないのですけれども,なかなか,難しいところであるかなと考えております。
○中田部会長 ほかに,ここまでのところで御意見はございますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  それでは,ここで一旦,休憩を挟みたいと思います。15分程度と考えておりますので,あちらの時計で3時55分まで休憩にいたします。
 
          (休     憩)
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  部会資料32の第2の4,「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御意見を頂きたいと思います。
○川島委員 1点,意見を申し上げます。この表題にありますとおり,類型に応じて公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないというのがここでの提示であります。このことについては分かりやすさ,使い勝手のよさという点で優れているということは理解ができます。ただ,補足説明の一番最後のところに,「実際の公益信託の認定の実務において,それぞれの公益信託の特性に応じた審査が行われることを否定する趣旨ではない」とございまして,仮に実際の認定段階において,それぞれの特性を見るということであれば,その際の基準などを法令などに明記した方がかえって分かりやすいという,あるいは予見可能性という点で優れているという考えもあるのではないかと感じました。そうした両面で御検討いただけたらと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 基本的には提案に賛成いたします。初めから類型を意識して複数の規律を考えるというのは,複雑になったり,手続が重たくなるという懸念がありますので,基本的にはシンプルな基準を一つ立てるということを基本にしたらいいと思います。ただ,今の御発言とも重なるかもしれませんけれども,今後,いろいろ細かい各論の議論をしていく中で,基本的な規律を定めた上で,ただ,例外的に一定の場合にはもうちょっと簡略化できるというような,その限度での例外則を設ける余地はあってもいいのかなと。今,必ずここはこう軽くしろと考えているわけではないんですが,考え方として軽量・軽装備という公益信託の一つの特徴に着目するのであれば,基本的な規律を定めつつも,一定のより簡略化した例外措置というのを,今の段階で一切認めないと決めてしまうのもどうかなということです。
  例えば今後,規律として提案されるかどうか分かりませんけれども,情報公開などの規律をウェブで設けるというときに,全て一律のレベルの公開を求めるかどうかというようなことなどを考えたときに,一定の規模なり一定の要件に該当するものは,より簡略化した公開で足りるということがあるいはあるかもしれない。これも例えばという例で申し上げているので,それに特にこだわるものではないんですが,いずれにしても,全く一切,一律ということにしてしまうのも,この段階ではやや早いのではないかという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 私も基本的に提案に賛成ではありますが,軽量・軽装備というものを前提とした上での賛成とさせていただきます。ですので,現在行われているような助成型の公益信託を信託銀行がやっているようなものについて,ガバナンスについて加重されて,よりコストが掛かるということは,余り望ましくないのではないかと考えておりまして,もしスタンダードがより重装備なものになるのであれば,現在のような助成型のパターンのものは切り分けるということもあってもいいのかなとは思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 確認とコメント,同じような趣旨なんですけれども,16ページの補足説明の4行目ぐらいですかね,現在の,途中を飛ばして,受託者の監督・ガバナンスと記載されておりますけれども,これは実際として,また,税法上の基準として,今,信託銀行が行っている,信託会社が行う,信託銀行が実際と思いますけれども,そうすると,信託業法,信託銀行ですと兼営法の下で行っている金融庁における監督ということが実際ではありますけれども,ここで記載されている現在の受託者の監督というのは,そういう趣旨ではないという理解でないと,今後の議論が発展しなくなってしまうので,もちろん程度とか,質の議論は別かもしれませんが,そういう点を確認したく,また,そうあってほしいというコメントでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 私も信託事務の内容とか,信託財産の種類,規模に応じて監督とか規律を分けないということに賛成します。ただ,繰り返し出ていますように,公益信託というのは軽量・軽装備ですので,理念形としては助成型が基本ではないかと思います。例えば先ほど議論がありました美術館とか,学生寮の運営ですけれども,ここで議論しているのは美術館とか,それから,学生寮自体の名義を信託財産に移した上で公益信託を運営するということを考えているわけですけれども,これも助成型でもできるわけです。特定の美術館に金銭給付をする,特定の寮に公益信託から助成することも可能です。国際的な交流の場としてある寮に私の大学の学生がたくさん入っていますので,そこに金銭給付するということがありますので,学生寮の名義を信託財産に移すという類型に反対するものではないのですけれども,理念形としては助成型とした上で規律は分けない,そういう含みを残した上で賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○明渡関係官 公益法人の実務の方から少し現状を申し上げたいと思います。公益法人は非常に多様な業務を行っているというようなことでございまして,認定の基準としては公益認定法5条ということで十数項目が挙がっておりまして,法令上はそちらの方で規定されているということではございます。一方で,実際に審査をする場合ですと,行っている事業,例えば講座とかセミナーをやっている場合とか,調査的な業務をやっている場合,その他,キャンペーンであったりとか,技術開発であったりと様々なものがございます。それぞれのやっている事業に応じて,それが公益性に当たるのかどうかを見ていくというようなことを実態としての審査業務としては行っております。したがいまして,同じようなことを考えるとすると,公益信託としてどのようなことまでできるのかというようなことによって,その辺りの認定若しくは許可になるのか,その辺りの判断基準というふうなものは,事業によって変わってくるということがあり得べしというようなことではないかと思います。
○中田部会長 そうしますと,規律を分けないということはいいけれども,認定において特性に応じた審査が行われるという(注)のような書き方を重視すべきだということでございましょうか。
○明渡関係官 必要となってくるというふうなことだろうと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○山田委員 細かなことで恐縮ですが,第2の4について,この考え方で私はよいと思いますが,少し注意をとどめておいていただければと思います。それはどういうことかというと,例えば公益社団法人・公益財団法人の認定等に関する法律では会計監査人を置くことが,法人ですので機関設計としてまずデフォルトとして要求されて,ただ,例外で外すというような仕組みがあります。
  それはここで言っている,まず,二つ以上のタイプに分けて,類型に分けてということとは違うのかもしれませんが,規模とかに応じて,法人ではありませんので機関とは言わないのかもしれませんが,ここに書いてある受託者の監督・ガバナンス等,ここに関わるルールが変わることはあってよいと,個別に今後,各論を検討していくときに,今ここで類型を分けないとしたから全部一律で,一律の基準として何がいいかという議論に終始するのではなく,ここはこういうふうに区分して,原則としてはある方法だけれども,例外を満たすときには別のルールというのは,一般的な法制度の作り方であり得るわけですから,それを排除はしないという点は注意しておくのがいいのではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。それでは,「第2 信託事務及び信託財産の範囲」については,おおむね御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
  そうしますと,御議論としては,ここではまず認定基準の問題が検討されているということを確認した上で,具体的にどのような基準を設定することができるのか,基準を設定したとして,その具体的な判定を誰がどのようにしてするのかという問題がある,更にその規準に違反した場合の効果というんでしょうか,これは認定との関係と,私法上の効果と両方があり得ると思われますが,そういったことを更に考えていく必要があるだろうという御指摘を頂いたと思います。更に認定基準以外の問題,例えば受託者の権限との関係ですとか,信託財産の運用と信託事務の執行との関係,更には運用の概念・内容,あるいは委託との関係等々についても,更に検討すべきであるという御指摘を頂きました。
  その上で,全体として第2についてはまず1から3のそれぞれのゴシックで書かれている部分についてですが,1は大体,これでいいだろうという御意見が一般的であったと存じます。2についても,これでいいという御意見を多く頂いたと思いますが,しかし,何ができないと考えるべきなのか,あるいはできることとできないこととの線引きをどのようにするかについては,更に検討すべきではないかという御意見が多かったかと思います。それから,3については金銭に限定しないということで,これは特に御異論はなかったように承りました。
  その上で,全体として軽量・軽装備ということの特性をいかすというのも大方の御意見であったかと思いますが,そもそも,どこまで民間による公益活動というのを広げていくべきなのかについて,更に検討すべきであるという御指摘も頂きましたし,あるいは税との関係についても視野に入れてということですが,更に詰めて検討する必要があるだろうという御指摘も頂きました。
  そして,4については,基本的にはこれでよいという御意見でありましたが,幾つかの御注意も頂きました。4でいいという方の中でも,そのイメージとして,どの辺りを基準にするのかについては若干,それぞれ,ニュアンスの違いがあったのかもしれませんが,これは更に具体的な議論を通じて,だんだん固めていくということになろうかと存じます。
  ということで,第2についてはこの程度にいたしまして,続きまして「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,第3の「公益信託の受託者の範囲」について御説明いたします。
  まず,本文で甲案から丁2案まで全部で五つの考え方を示しております。これらは,いずれも公益信託の受託者の範囲を限定する提案となっておりますが,まず,そもそもの問題として,公益信託法には受託者の範囲を制限する規定が存在しないにもかかわらず,受託者の範囲を制限するということ自体の要否も検討する必要があるところだと思います。もっとも,事務当局としては,公益信託の適正な運用を確保しつつ,軽量・軽装備というメリットを維持するという観点からしますと,受託者を一定の範囲に限定する必要があるという前提で考えているところです。
  その上で,まず,甲案ですが,甲案は受託者について信託会社であることを必要とするという考え方になります。この考え方は現行の実務運用ですとか,税法上の要件と親和性を有する考え方ということができます。
  続きまして乙案ですが,これは信託法附則第3項等を参考に,受託者は目的信託の受託者となり得る法人でなければならないとする考え方になります。信託法附則第3項及び信託法施行令第3条は,目的信託が脱税などの不法の目的に濫用されることを防止するために,純資産が5,000万円以上であることや,法人の役員に犯罪歴のある者や暴力団関係者がいないことなどを要求しております。乙案は,これを公益信託についても導入するという考え方になります。
  丙案は,公益法人認定法を参考に,受託者は公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有する法人であることを必要とするという考え方になります。公益法人認定法は,公益認定を受ける一般法人に対して,安定的かつ継続的に公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を要求しておりますが,丙案はこれと同様の要件を受託者に要求するという考え方になります。
  ここまでの提案は,全て受託者が法人であることを前提とするものになりますが,丁1案及び丁2案は,自然人が受託者となることを許容するという考え方になります。丁1案は,許可審査基準を参考に,受託者について公益信託の適切な管理運営をなし得る能力を有する者で,社会的な信用を有し,かつ知識及び経験が豊富であることを要件とする考え方になります。一方,丁2案は,自然人が公益信託の受託者となる場合には,一定の法人と共同受託することを必要とする考え方になります。
  丁1案及び丁2案は,いずれも自然人が受託者となることを許容する考え方ですが,丁1案は受託者個人の能力を重視する考え方であるのに対し,丁2案は共同受託によって受託者個人の能力を補うという考え方になります。丁2案を採用する場合には,共同受託さえすれば,どのような自然人や個人であってもよいのかや,共同受託の在り方,相互の監視の在り方といった点について更に検討が必要になると考えられます。
  以上のほか,21ページでは国又は地方公共団体が受託者となることの可否についても検討を加えております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 それでは,ただいま説明のありました公益信託の受託者の範囲について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。
○吉谷委員 私どもといたしましては,どの案に賛成であるということは特に言い難いのでありますけれども,受託者の監督であるとかガバナンスであるとか,そういったものを余り現在よりも厳格にする必要がない範囲で,受託者の範囲というのを決めていただくのがいいのではないかと考えております。公益信託のガバナンス構造については,今後,議論されるところではあると思いますけれども,従来のように信託管理人を中心としたチェック体制というもので適正性が確保できないような人を受託者にするというのは,そもそも,公益信託の制度としてはいかがなものかと考えるところです。
  それで,個別の案につきまして,丁2案なんですけれども,恐らく丁1案と丁2案は両立しなくて,丁2案というのは丁1案は認めるべきではない,でも,丁2案はいいのではないかということではないかと思います。そういう場合に,やり方としては丁2案でなくても,法人を受託者とするのであれば,受託者から何らかの事務を自然人に委託するというようなやり方でもできるのではないかなと考えました。
  それで,あと,この中で検討するに当たって参考になるのは,丙案ではないかとも考えております。公益財団法人等は,ここの辺の趣旨が異なると御説明されていらっしゃると思うんですけれども,受託者の信用力というものを検証するには,一定の効果があるだろうと考えております。にわか勉強で恐縮なんですけれども,まず,経理的基礎というのは解説書によると財産基盤と経理処理・財産管理能力,外部監査のこの三つになるというわけです。
  最初の財産基盤というのは,受託者に一定の固有財産があることを要件とするかどうかという考え方であろうと思いましたし,権限の濫用であるとか,そういったものに対する事後的な措置などを考えると,あった方が望ましいのだろうなとは思うところです。二つ目の経理能力や財産管理能力があるということは,もちろん,必要なことであろうと思われますし,三つ目の外部監査などを受けているかということは,固有の業務についての監査を受けている方が望ましいのだろうなとは思います。ただ,少なくとも信託事務を行うための内部的な統制というのが,受託者の中になければならないのではないかなと思うところです。
  もう一つの技術的能力というものについては,公益事務を行うことができる能力があるかということですので,これは当然,なくてはならない基準であると思いますが,現行でも運営委員会などを更に受託者の外部機関として設けたりしておりまして,その他の信託事務についても外部委託を含めた形で,能力の証明ができなくてはいけないのではないかなと考えているところです。
○中田部会長 ありがとうございます。そうしますと,丁1案と丁2案については懸念があると,丙案は検討の余地があると,甲案,乙案も検討の余地があると,そういうことでしょうか。
○吉谷委員 丁1案は抽象的なので,参考になるのは,甲,乙,丙で比べれば丙の方が丁よりは参考になるかなと思った次第です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○深山委員 結論的に言うと,この中では丁1案を中心に考えるべきだろうと考えております。言うまでもないことですけれども,甲,乙,丙と丁1,2との違いは,自然人が受託者となることを認めるかどうかということで大きく分かれているわけですが,自然人を形式的に除く合理性はないだろうと思います。
  先ほど前半で議論したように,今後は信託財産についても金銭以外のものも入ってくる,それから,信託事務としても助成事務以外のものも入ってくるわけです。いろいろな多様な公益信託のメニューを作ろうとしているときに,当該公益信託にふさわしい受託者がどういう立場の存在であるのかということを考えると,もちろん,事案によってはきちっとした組織体制を備えた法人が望ましい信託もあるでしょうが,必ずしもそのような必要がない,むしろ,個人的な知識,経験を信頼して委ねるというパターンの信託があってもおかしくはないと思います。要は,個々の公益信託にふさわしい受託者を選ぶという観点からすると,自然人であるということで当然になれないというのは,合理性がないだろうと思います。そういう意味で丁1案というのは,更にまたその要件といいますか,その定め方について検討の余地はあるかもしれませんけれども,自然人を当然には排除しないという意味で支持したいと考えます。
○能見委員 原案を前提にしての議論ではないのですけれども,まずは法人が受託者になる場合の要件というのでしょうか,それを議論して,その上で個人についても認めるかどうか,それぞれについて要件のすり合わせをするという議論の仕方の方が私には分かりやすかったので,そういう観点から議論させていただきたいと思います。
  そうして,法人についての受託者の範囲,あるいはそのための要件についてはどんな考え方があるかということで,甲,乙,丙の3案があるわけですが,ただ,私のような見方をすると丁1案のところに書いてある要件,これは自然人と法人の両方に関わっていますけれども,ここに書いてある法人の要件というのもまた微妙に丙案とは違うので,法人については,結局,四つの考え方があり得るのかなという感じがいたしました。
  それでは,法人についてどの案がいいのかということですが,信託会社に限定するというのは,これからいろいろ行われるであろう事業型といいますか,助成以外のいろいろな事業を行う場合であるとか,あるいは今まで余り議論はされていませんでしたけれども,いわゆるナショナルトラストとか,財産をただ管理保管するというようなタイプの信託を考えると,信託銀行は,信託会社も含めてですが,必ずしも向いていない。そこで,もう少し広い範囲の法人が受託者になれる可能性があった方がいいのではないかと思います。
  乙案と丙案は似ているようですけれども,乙案は一定の財産規模ということを,目的信託に対する懐疑的な立場に基づいて要求していると思いますので,これは公益信託を考える際にはどうも適当ではないのではないかと思います。公益信託の場合にはまた第三者機関による監督というのもありますし,このようなことを考えると,乙案というのは適当でない。そこで,ここに出ている案としては,甲,乙,丙の中では丙案が一番よいと思います。もっとも,丙案も,経理的な基礎というので一定の財産的な規模などを要求するのであれば,丙案にも,乙案に対するコメントとして先ほど私が述べましたのと同じことが当てはまりますので,余り適当でない,少し強すぎる制約ではないかと思います。そういう意味では,丁1案のところに書いてあるようなことが法人である受託者の要件として考えるのがいいのかなという感じがいたします。一番中心になる資格は,公益信託を適切に管理運営し得る能力という部分なのだろうと思います。
  ただ,丁1案のところにも,社会的な信用を有すること,これはある意味で当然のことではありますが,ただ,これを法律的な要件として書くとなると,なかなかこれは微妙な問題があるように思います。たとえば,社会的な信用の意味を一定の実績がなくてはいけないという意味で理解したり,その外にも,その要件がいろいろな変な形で使われる可能性もあるので,そのことを考えると,丁1案についても微調整,もう少し修正の余地があるのだろうという感じがいたしました。ということで,結論的には丙案と丁1案ぐらいを基礎にするのがよいと思うのですが,その立場についても,若干の修正が必要であるという感想であります。
  自然人については,私は基本的には公益信託の受託者になることを認めていいんだろうと思いますけれども,どういう要件で認めるべきかについては,もう少し検討したいので,今は結論を留保させていただきたいと思います。
○林幹事 弁護士会内の議論というか,結論としてはもちろん丁1案でございます。それで,丁1案の基準が若干抽象的ではということもあるのですけれども,弁護士としての結論としては弁護士だけには限りませんけれども,財産管理業務などをしている専門家士業もありますので,そういう者がこれには該当するであろうとは理解します。そういう給源もあるわけですから,そういうものをある程度頭に置きながら,丁1案というのを検討していただきたいと思っています。
  私は弁護士ですので,それしか話せませんからという意味においてですけれども,弁護士のことを専ら話しますが,それ以外の専門家を排除する趣旨では議論しませんので,前提としてはそのように御理解いただいてお聞きください。自然人や個人が受託者となる必要性があるというところがまず理解の大前提ですが,先ほどから御議論いただいているように小規模で軽量化,低コストであるものを公益信託として考えるときには,もちろん,規模が小さいものもあるのでしょうから,例えば資産規模2,000万円で5年でなくなるというようなものを考えたときに,受託者が必ず法人でないといけないのかと,むしろ個人の方が使いやすいのではないのかと思います。
  それから,これは一般的な民事信託のレベルの議論でもありますが,信託会社自体はそれ自体にコストが掛かってしまうので,小規模なものは受けられないというような状況に現にあると思いますから,そういうことを考えたときに,比較的費用の面でも低コストに受託できるものとして,自然人なり,個人というのもメニューの一つとして用意しておく必要性はあると思います。
  特に目的信託の附則3項の規定で,法人に限定していることの根拠としては,詐害的なもの,濫用的なものを防止するためということですが,公益信託では,後でも議論がありますけれども,第三者機関であるとか,信託管理人というのを想定していますので,ある程度,濫用的なものが出る可能性は低く,それを防止する余地もあると考えられますから,先ほど来の御発言と同じく,そういう前提において実体法として自然人ではなくて法人に限定することには合理性がないと考えます。
  あとは,乙案でも丙案でも丁案でもですけれども,受託者となる場合は1件だけやるというのは想定はしていないと思いますので,複数件を受託するとなると,業法との関係ももちろん問題になりますから,それに対する手当も考えるべきこととは思います。
  そういう前提の下に考えたときに,弁護士として我々は財産管理業務をやっていますし,もちろん,弁護士会内の監督も既にあるところですので,要件として抽象的ではありますけれども,要件に該当する給源というのは社会にはあるとは思います。確かに,要件の表現が抽象的だから認定のときにきちんと判断できるかどうか微妙だと言われるのはそのとおりなのですが,そこはいろいろな工夫の仕方があるかと思います。もっと具体化するという方法もあれば,それこそ政令とかそういうところに落として工夫をしていく方法もあると思いますから,そういうことを考えたらいいのではないかと思います。
○平川委員 乙案の場合では,目的信託の受託者となり得る法人というのに地方公共団体,国が入ってくるんですけれども,公益信託制度は,一番最初の公益信託法の見直しの根底にある哲学的なところでも申し上げたんですけれども,民間の公益活動を促進するというところに意味があるので,民の担い手を広げようという制度なので,公益法人,公法人が受託者になって入ってくるというのは,趣旨としておかしいのではないかと思うので,乙案というのはどうかと思いました。そして,丙案の場合でも法人とありますけれども,公法人は除外されるべきであると思います。丁1案においても同じです。
  あと,信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力と丙案にあり,また,丁1案でも公益信託の適切な管理運営をなし得る能力とあるんですけれども,ここの二つの解釈なんですけれども,要するに信託事務を適切に行える能力があるかということになると思うんですが,この信託事務の意味には二とおりの意味があって,公益目的を追求するのに能力があるかということと,預かった財産を管理することができるかという二つの能力があると思うんです。
  例えば難民救済の公益目的信託において,先ほどの有価証券を預かったとか,商標権を預かったとか,不動産を預かったという場合に公益目的である難民救済,どこの難民が今,ここにあって,どう救済すべきなのかということにたけているようなところが受託者になるのがよいと。例えば難民救済をやっているNPO法人とか,ただ,そのNPO法人が預かった財産をきちんと管理する能力があるかというところでまた試されるので,そういうNPO法人が経理的基礎や,また,第三者に管理を委託するにしても,丸投げにしないで管理監督ができるような人材が備わっているかという二つの視点での経理的基礎,技術的能力というものが必要になるんだと思います。
  そうすると,法人であればいろいろな能力のある人がいるので,そういう組合せで信託事務を行う能力があるというのはあるのかなと思うんですが,個人でそういう二つの能力が備わっている人というのはいるかもしれないけれども,なかなか希有で誰でもなれるというものではないなと思います。だから,個人を別に否定するわけではないんですけれども,信託事務を行うのに必要な経理的基礎,技術的能力又は公益信託の適切な管理をなし得る能力という中には,そういう二つの意味合いのハードルを越えなければならないということを忘れてはならないと思います。
○中田部会長 そうしますと,平川委員としては丙案か丁1案を主として法人について認めるということになりましょうか。
○平川委員 そういう意味では,丙案で言い表されていると思います。
○中田部会長 そうですか。分かりました。
○平川委員 公法人を除くということです。
○中田部会長 それは最初におっしゃった点ですね。分かりました。ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 質問です。弁護士会の方で丁1案を支持するということですので,それについての質問ですが,丁1案の自然人のところで弁護士を読み込むということです。その場合の前提は,全ての弁護士は自動的にここに書いてある能力,信用,それから,知識,経験を有するということが前提でしょうか。それがまず第1点です。それから,弁護士法人では駄目なのでしょうか。そして,弁護士さんでも財産管理のNPOを作っているところもあるので,そういう弁護士さんの作っているNPO,法人ですけれども,そういうのがより適切なような気もしますが,その点はいかがでしょうか。そして,更に信託業法の関係をどう考えるかということです。個々の弁護士さんが受託者要件に該当するとした場合の解釈はどうなのか,そして,弁護士さんがもし自然人として受託者になったときの監督はどう考えるのか,お考えをお聞かせいただければ有り難いです。
○林幹事 新井委員の御質問はごもっともだと思っていますし,それについては専ら私の個人的な意見になるかもしれませんが,可能性を申し上げたいと思います。NPO法人があるとおっしゃられた件につきましては,それはそれとしてあってもいいとは考えます。弁護士が作ろうが,誰が作ろうがという意味においてです。丁1案であっても丙案自体を否定するものではないと思いますので,それはそれとして認められていいと思います。
  自然人の場合は,平たく言うと,受託者が亡くなったらどうなるのかという問題があろうかと思いますが,例えば信託の設定の際に第一受託者だけではなくて,第二,第三の受託者をあらかじめ設定しておくという方法もあります。また,継続性というものを具体的にどれぐらいの年度でイメージしているかという問題でもあり,10年は10年で長いんでしょうけれども,もちろん5年だってあり得るのだと思います。要するに半永久的なものを常に想定して議論しているのかというと,必ずしもそうではないと考えますので,第二,第三の受託者をあらかじめ決めておくか,それもなければ,裁判所に決めてもらうという方法が信託法上はあるわけですから,それは十分考えられると思います。
  もう1点は,弁護士であれば誰でもいいのかに関しては,立場上はそう言いたいところなのですけれども,信託事務に全ての弁護士が精通しているかというと,事実上は違うかもしれません。それは弁護士に限らず,どの業界も同じかもしれません。ですから,何らかの研修やスクーリング等を経た者がなるべきだということはそうかもしれません。
  先ほど来,技術的能力であるとか,適切な管理運営ができるかということに関していいますと,本来的には弁護士はそういうものを適切に執行していくという能力があるとは考えますが,新井委員のような御指摘に対しては,もちろん,しかるべく研修等するべきだというのは,そのとおりだと思います。弁護士会の監督はどうかというのは非常に悩ましくて,今は事後監督はありますけれども,それだけでいいのかという問題提起は当然あるのだろうなと思います。
  それで,個人的には弁護士会としても信託業務について何らかの監督はすべきだと思っています。現に弁護士会もいろいろな分野でそれに類することをやっていますから,信託業務においても,そういうものが内部で構築できてもいいとは個人的には思いますが,今の時点としてはここではその程度のことを申し上げるほかはないところと思います。
  あとは,それが仮にできたとして,どう立法に組み込んでいくかという問題があると思いまして,それこそ,それを具体的に実体法に書くのかというのもなかなか厳しいんでしょうけれども,それなりに政令等に上手に取り込むということを工夫してもいいのではないのかなとは思っています。
○中田部会長 あと,弁護士法人に限ってはどうかということと,それから,信託業法との関係についてはいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士法人に関しましては,確かに法人のほうがいいというのもありますが,法人の規模は様々ですから,一人法人というのもあるわけですので,それは横に置いておいて自然人たる弁護士というのを専ら議論した方が建設的ではないかというのが私の意見です。
  それから,業法に関しましては先ほども申し上げましたが,丁案に限らず,乙案であっても丙案であっても議論する以上は,業法との抵触というのは当然出てくるものですので,ここでそれを許容するということは業法に対する一定の手当というか,業法には抵触しないものだという前提で議論するか,そうなるような何らかの手当をすると,それは必ず付いて回ってくるのかなと思います。
○深山委員 今の林幹事の発言に少し補足したいと思います。まず,前提として弁護士はどうなんだという新井委員の問題提起はごもっともだと思うんですが,必ずしも自然人について典型的なものとして弁護士を想定しているわけでは私自身は少なくともなくて,もうちょっと広い意味で,正に文字どおり自然人を排除すべきではないという意見を先ほど申し上げました。
  それを一応お断りした上で,例えば弁護士はどうなのかといったときに,もちろん,弁護士の資格があるというだけでふさわしいということにならないのは当然といえば当然です。それはある意味,法人でもどの法人でもいいわけではないというのと同じようなレベルで,弁護士という資格だけでその能力を満たすということにはならないとは思います。それゆえ,ここに書いてある社会的信用だとか,知識・経験が豊富という言葉で表現し尽くされているかどうかについては,十分,検討の余地はあると思いますが,一定の絞りを掛けた上で,それに該当する法人ないし自然人ということを受託者の要件にすればいいと考えます。
  いずれにしろ,制度として信託管理人等のガバナンスがそこにかぶってくるということもありますし,他方で,それとは別に,信託法とは別に,例えば弁護士であれば弁護士会の事後的といえども監視があるというのも,一つの考慮要素にはなり得るのだろうと思います。しかし,それがあるから絶対に大丈夫とまで別に言う気もありません。そういう意味では,総合的に考えて,この信託において,この自然人であればよかろうという場合を形式的に排除する必要はないという限度で御理解いただければと思います。
  最後に,業法との関係なんですが,私は公益信託は文字どおり公益を目的として,営利性はそこでは基本的にはない業務といいますか事務ですので,本来,信託業法が規制しようとしているところが当然にかぶってくるものではないのだろうなと思います。業という定義については,反復継続してというような定義に形式的に当てはめると,複数回やれば当たるということになるのかもしれませんが,公益信託という業務ないし事務に照らして,ここは信託業法の適用除外の分野なんだろうと思います。また,そうでなければいけないのだろうと思います。
  その上で,ただ,そのことを法制度として,明文上,明らかにしておく必要はあるのかなと思いますので,それは信託業法になるのか,公益信託法になるのかという問題はありますが,そこは適用除外になるということはどこかで手当をすべきだろうと思っております。
○中田部会長 ありがとうございます。今の適用除外というのは自然人に限らず,法人であっても適用除外になるという御趣旨でしょうか。
○深山委員 はい。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○樋口委員 二つです。一つはお願いと謝辞ですが,今日のここだけでもないんですけれども,ずっと話を聞いていて,先回,実はお願いしたことなんですけれども,日本に独特の公益信託法を作るんだというのも,それはそれなりの考え方としてあってもいいのかもしれないんだけれども,公益信託なるものはほかの国でも相当の国で存在していて,それがどう機能しているかということを申し訳ないけれども,調べていただいて,この後は謝辞になりますが,21ページのところには,ここにIRSのアメリカのお話が今回は出ているわけですよね。
  ここの使い方は,アメリカの一般ルールはこういう受託者について何の規制もないけれども,実態のところではIRSだって,法人の方をきちんと信用して,免税の利益を与えるような判断には使っていますよということでアメリカの事例を利用しているんですけれども,これに限らず,もう少しつまりほかのところで,こういう公益信託の受託者についてどうなっているんだろうかというようなことを,つまり諸外国の事情の調査報告のようなことを,どこかでやってくださるというきっと予定が入っているんだと思うんですけれども,参考にしながら,それがあって,やや日本はいろいろな事情がありますからという話で,こういう甲案から丁2案ですか,こうやっていろいろ,この中のどれにするかという段階に入るのは何だか早いような気がするんです。2年を掛けてこの検討を行うというのでしたら,もう少し私はお願いでほかの国ではどうなっているんだと,そういうことも参考にはしていますよということを見せてくださると有り難い。
  二つ目です。二つ目もそうなんですけれども,今日,私が理解したのはキーワードは「公益信託の軽量・軽装備」という言葉です。軽量・軽装備という言葉が,例えば17ページなんかでも受託者については軽量・軽装備なんだから,限定しないといけないよという話になるし,戻って恐縮ですが,信託財産の範囲についても金銭には限定しないけれども,どんどん拡大するという話には絶対にいかないよという話と,それから,信託事務の範囲もこういう形で限定せざるを得ないよという,結果的にそういうネガティブな働かせ方をしているんです。公益信託を公益財団法人と比べることによってこういう特色がある,だからという,このレトリックが本当に正しいものなのか,それで,今日の一番初めのところで平川委員もおっしゃってくださったと思いますが,基本的な方向性としてもう少し何か前向きの「民間非営利活動,社会経済システムの中で積極的に位置付ける」と,一番初めにうたっているものと抵触しないのかどうかを考えざるを得ないと感じました。これは感想です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  他の国の調査というのは。
○中辻幹事 引き続き,調査していきたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 林幹事,深山委員が述べたこととほぼ同じ考えで,そこをまず確認させていただきます。さらに重複しない形で1点だけ追加させていただきますと,法人であっても,もちろん,私は自然人,弁護士というものが受託者として能力がある場合には当然になってしかるべきと思いますけれども,必ず公益信託の内容,立て付けにもよりますけれども,第三者委託ということが当然,必要になってくることと思います。
  信託銀行においてもカストディアン信託銀行を設けていて,再信託の形で実質,第三者委託しておりますし,例えば不動産管理信託で多くの義務が第三者委託されておりますから,そういう全体の枠組みの中で受託者の能力というものは,判断されてしかるべきだと思いますし,そのときに受託者がしっかりとした第三者委託先を管理する,監督する能力があるかどうかというと,その辺は法的な力,法的な素養とか,裁判制度に依拠し,利用するとか,そういう意味においては法律が絡むところが多く,弁護士としての能力というものは決して弁護士だからということではなくて,法律専門家として当然尊重されてしかるべきではないかと思います。それは一般人又はNPO法人であっても,そういう能力がある又は第三者委託したときの監督能力があるということであれば,それはそれで認めてしかるべきだと思います。
  また,日本の法制度においては,弁護士というのは御存じのように弁護士会に登録して,それゆえに弁護士として業務ができるわけですが,公益財団法人の場合は認定機関がモニタリング,監督をしていくという立て付けではないかと理解しておりますけれども,そういう監督機関がやるような業務を,受託者が弁護士であれば弁護士会に委任をするとか,民間に依拠しつつガバナンスをいろいろな形で強化していくなど適切な形をとることにより公益信託の利用を図ることができていくのではないかと思います。公益信託がだんだん,民事信託の議論へ広がっていくときに,先ほど新井委員が恐らくそういう趣旨も含めてのコメントだったと思いますが信託業法をどうするんだということに関しては,ここでまず公益信託としての個人の受託者の適正というものをよく検討し,また,それを実際にうまく執行して,その中で更に公益信託の外縁にあるようなもの,更にその外縁にあるようなものに対しても,個人,弁護士でもいいですし,場合によってはほかの業種でも構いませんけれども,適切に運用していくことによって,先ほど樋口委員が述べられたように,元々の公益法人改革,公益信託も含めた上での公益法人改革の趣旨というものにのっとった形での発展ができるのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 受託者の範囲そのものではないのですが,丁2案に関連して考えたことがありますので申し上げたいと思います。法人でも当てはまるかもしれませんが,個人に受託者を広げた場合に特に問題になるだろうと思われるのですが,公益信託の受託者としてどういう人たちがそれを担うのが望ましいだろうかと考えると,信託という仕組みをよく理解していて,それを適切に使える人,これは法人でもいいのですけれども,個人に広げるならば個人とともに公益法人だと公益事業ですが,信託ですので公益目的信託事務ですか,それを適切に執行することができる能力というのがあるといいだろうと思います。そして,今日も何度か,いろいろな局面で話題になりましたが,助成事業というのは余り後者の方は特別な能力は要らないかなと思うのですが,部会資料にあるような美術館の運営とか,留学生向けの学生寮の運営とか,こういうものですと,公益目的のその信託事務について適切にできる力というのが望ましいと思うのです。
  そうすると,受託者が二人いて,あるいは二人に限らないのですが,複数いるというケースを個人が受託者になる場合には容易に想定できるだろう,あるいはそうするとうまくいくだろうと考えられます。そのときに,最後,受託者の範囲に戻りますと,ここに要求されているのをその二人について,どちらについてもそれを要求するとなると,今申し上げた信託について詳しいという人と,美術館運営について詳しいという人がタッグを組んでも,あなたは美術館運営については詳しいが信託について詳しくないではないですかとして,受託者としての要件を欠いてしまうということにならないように,受託者が複数いるときには受託者のチームで,ここに求められている受託者の要件を満たすように,そういうふうな考え方ができるようになると,適正な形で公益信託を広く使えるようになるだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案は一定の法人と自然人が共同受託するというのが原案ですけれども,今のお話ですと,個人が二人でもよいということになるのでしょうか。
○山田委員 丁2案に限ってということではなくて,別の考慮から一人は法人でなくてはいけないという考え方を採るのであれば,それに強く反対するものではないのですが,複数の受託者がいたときには複数の受託者を合計してこの要件を考えて,一人一人についてここで要求している要件をそれぞれが満たさなければいけないという考え方を採らないことができれば,それが望ましいと思うということです。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 また,行政実務の観点からということでありますけれども,今の公益法人の公益認定に当たっては,個人,自然人については理事・監事とありますけれども,これがむしろ欠格条項に当てはまるかどうかというような形でネガの方だけを見ております。ポジとして能力がある,ないというような形の評価というのは,公益認定の中では出てまいりません。ここの20ページの上の方でお書きいただいているんですけれども,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が実質的に認定することといった場合に,個人が能力があるというようなことをその行政手続の中で判定することというふうなことは,かなり具体的な要件というふうなものを定めておかないと,なかなか,実務的には難しいというふうな面が出てくるのではないかとは思います。
  とりわけ,ここでは外部の第三者機関と書いていますけれども,これは必ずしも国だけではなくて,今の実態においても各都道府県がそれぞれ許可していますと。それで,都道府県においては今まで1件もないところもあったんだろうと思います。そういったところが,個人の能力というところをどのように判断できるのかというような実務的な観点というのが,制約要件となってくるのではないかと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 これも念のために確認させていただきたいという趣旨ですが,第3の受託者の範囲というのも認定の基準としての受託者ということであって,公益信託の受託者たる資格ではないという理解でよろしいでしょうか。その資格を欠くということになると,無効になるというような話が出てくるように思われますし,それから,認定ですと,山田委員がおっしゃったようなトータルで受託者が備えているかという判断はなじむと思うのですが,資格というと両者でというのはなかなか判断がしにくいと思いますので,認定の基準と理解しておりますが,それでよろしいのかということが1点目です。
  もう一つは,付随的な公法人の問題なのですけれども,積極的に排除するまでの必要性はないという考え方が資料にも書かれておりまして,私自身も公法人が公益信託であえて認定を受けて,公益信託をするというようなことがあるのだろうかというのがよくは分からないところです。せいぜい,目的信託としてできれば十分ではないかという気もいたします。
  もっとも,目的信託として公益の信託ができるかというのは,最初の方で現行法上は問題があるということですから,その障害が排除されるならば,それで十分かなという気もしておるのですけれども,しかし,一方で受託者になるという点が当初の受託者という場合と,途中のといいますか,暫定的なといいますか,そういう途中から受託者になるという可能性もあるように思われます。そうすると,必ずしも認定という点とは掛かってこないのかもしれませんが,追加の認定を受けるのかもしれませんけれども,例えば公益信託で,しかし,受託者の変更が必要となったようなときに暫定的に受けるとか,そういうようなことがあるのかどうかということも気になっておりまして,そうしたときに,余り考えられないけれども,あえて積極的に排除するという必要性まであるのだろうかという点がなお気になっております。
○中田部会長 第1点についてはいかがですか。
○中辻幹事 沖野幹事の御理解のとおり,部会資料の第3で記載した公益信託の受託者の範囲は,このような認定基準を設けるべきか否かという意味で挙げているものです。認定基準を満たさなかった公益信託の効力について解釈に委ねるのか,あるいは法律上明確にしておくべきなのかは,別途考え込む必要があると思います。
  それから,公法人,国とか地方公共団体の話ですけれども,公益信託法改正研究会でも少し議論になったところですが,国や地方公共団体が永続的に公益信託の受託者になるというのは余り想定し難いのかなと。ただ,まちづくりを目的とする公益信託で,国又は地方公共団体が,当初あるいは途中の受託者として土地を集めて,それを民間に引き渡すようなつなぎの役割を果たす可能性もあり,そういう需要が考えられるのであれば,あえて公法人を公益信託の受託者として否定する必要もないとも考えまして論点として挙げさせていただいているところです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。もし追加がございましたら。
○沖野幹事 では,これも念のための確認ですが,受託者の変更があるような場合には,改めてその段階で追加に認定というか,新規の認定というかを受けるということになるのでしょうか。
○中辻幹事 そのとおりでして,公益信託の認定の際に受託者としての適格性を審査されていない方が変更により途中で受託者として入ってくるということになれば,そのときは追加の認定が必要になってくるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○神田委員 公益信託の場合と,それから,公益信託でない目的信託の場合,一般の民事信託の場合という辺りはバランスをとる必要があると思いますし,他方,業法との関係も考え方を整理する必要があると思うのですけれども,うまく言えないのですけれども,もし自然人が単独でなることはできないというか,そういう方向になっていくのだったら,丁2案というか,そういう人であっても,ありていに言えば,信託銀行と一緒にならいいでしょうという方向はあるように思います。
  なぜなら,信託銀行なのか,信託会社なのかはありますけれども,分かりやすくいえば,信託銀行は今,単独で受託できているわけですから,それに加えて自然人がもう一人加わるということで,共同というか,複数受託というか,言葉の問題はともかくとしまして,財産の管理ですとか,濫用の防止というところは信託銀行が担うわけで,もし,そういうスタイルであれば全く自然人を排除するということは言わなくていいので,セットで認定しますということはあっていい方向だと思います。もちろん,自然人が単独で可能だということでいく場合は,また,話が変わってくると思いますが。それは難しいという線で先に進むのであれば,一緒ならいいのではないでしょうかということは,あっていいという感じを持ちます。
  業法についても1点だけ,この部会の対象ではないと思いますけれども,業法は難しいのでよく整理しないといけないとは思いますけれども,私の無知かもしれませんが,現在,信託銀行がしておられる各種業務のうちの公益信託という業務について,業法の監督の適用除外になっていることはないですよね。ですから,バランスの問題があるので,おそらくどちらへそろえるということでもいいかとは思うのですけれども,一つの考え方としてイメージだけを申し上げますと,例えば自然人が信託銀行と一緒にやる場合には,その自然人について業法上の特別扱いを認めるとか,そういう方向も考えられると思います。単独でできるという方向で進む場合には,余り私が今,言ったようなことを考える必要はないということにはなると思いますけれども,難しいという方向で進む場合に,自然人でニーズがあるということであれば,それは信託銀行と一緒にどうでしょうかという方向は,十分,あり得る考え方だと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案の場合には,法人については甲案から丁1案までの幾つかの可能性があるということですが,もし,これがよかろうという御意見があればお出しいただければと思います。あるいは留保ということでも結構でございますが。
○神田委員 では,一言だけ。私の個人的な感触としては,例えば数年間やってみて様子を見たらどうでしょうかというかという感じがあります。つまり,自然人は駄目だというのは,これも公益信託の場合がどうかというと,先ほどの軽量・何とかというのから必要はないのかもしれませんけれども,そういうニーズがあるとすれば,現在はできないわけですから,できるとするときに,当面,信託銀行と一緒にやるということでどうですかということだとすれば,今の丁2案というのも最初は信託兼営金融機関と限定してでもいいと思います。だんだん,広げていってもいいし,様子を見ながら試行錯誤でやれるという,そういう法制度が作れれば個人的には理想だと思っています。そういういいかげんな法制度は作れませんということだと,どこかに決めるということで,比較的,慎重なところでやるというのが現実的かなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  そのほか,いかがでしょうか。
○新井委員 五つの案が出ていまして,私は個人的には丙案がいいとは思うのですけれども,公益信託の受託者の範囲を論ずる本当の意義としては,公益信託をこれからどう普及させていくかが重要です。それを考えると,従来の金銭給付型ではなくて,新しい公益信託の展開というのを目指さなければいけないと思います。だから,福祉型の公益信託であるとか,後見型公益信託あるいは子ども食堂型公益信託ですか,そういうものを目指さなければいけないと考えると,少し範囲を広げてもいいのかなと思います。
  そうすると,丁1案は法人又は自然人で,丁2案の方は自然人と共同受託を法人ができるということなので,先ほど中辻幹事の方から,これは認定基準だというお話がありましたので,認定基準ということであれば,こういう多様な可能性を残すことも一つ可能ではないでしょうか。自然人の方でどこまで信託の内容をきちんと作り上げて,認定を求めてくるかということで,その法的効果はどうかという問題はあるにしても,そういうことで公益信託普及のインセンティブを与えるというのも,一つの政策的判断なのかなという気もしております。ですから,丙案と丁1案と丁2案,これをミックスすることはできないでしょうか。選択肢として丁2案の共同受託,これも選択肢として入れるということで,丙案と丁1案,2案の合体案,その二つぐらいを残して,更に検討していただくのはどうでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 1点だけ,丁2案に関連するんですが,共同受託者という言葉が受託者の責任という,先ほど神田委員から信託銀行と一緒にという話がありましたけれども,信託銀行は能力が不確かなある自然人と共同受託者になって,その責任を共同で負うというのは,恐らく金融機関としての立場からはなかなか採り難いと思うところもあるのではないかと思います。ですから,共同受託という意味は,もちろん,共同であってもいいですし,私が先ほど述べましたように,特定の業務ということで第三者委託ということでもいいというような丁2の何とか案というんでしょうか,丁2案のままでは共同という言葉が強すぎるのかなと思います。もちろん,山田委員がおっしゃられたように,自然人の場合には恐らく何人かで共同で受託するのがふさわしいのでしょうけれども,その自然人が専門家たるどこかの法人とか機関に頼むというときは,共同ではなくて第三者委託という選択もあるのではないかと思います。丁2案というものを余り硬直的に考えない考え方もあり得るのではないかというような考え方です。
○中田部会長 第三者委託については,吉谷委員から丙案と組み合わせる形の第三者委託という御意見を頂いたんですが,小野委員はむしろ丁1案と組み合わせるということになるんですか。
○小野委員 多様な公益信託がある中で,金額が小規模で別にいろいろな方が関与することによって,いろいろなコストが掛かるかもしれませんから,必ずそうしなければいけないというわけではないという意味においては,丁1案と必ず組み合わせるというわけではありませんけれども,状況によっては丁1案と組み合わせる,状況によっては丙案と組み合わせる。ただし,丙案を採ったとしても別に丁案を排斥する趣旨ではないので,そういう意味においては,丁1案と組み合わせることが適切な状況もあるかもしれないという趣旨です。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 先ほど個人の場合については,意見を留保していたのですけれども,その部分について意見を述べたいと思っています。結論を躊躇していたことについては,いろいろな理由があるのですけれども,本来は,個人について受託者となれるように,受託者の資格要件を広げるのが,望ましいのだろうなと思っております。アメリカのようなやり方というのが望ましいと思っています。しかし,個人について,その者がそれぞれの公益信託の受託者としてふさわしいかどうかの判断基準は,なかなか設けにくい。そこで基準を設けずに,第三者機関が受託者の適否を判断するということになるのも適当でない。基準がないところで第三者機関の裁量的な判断に任せるというのも適当ではない。しかし,客観的な基準が書けるかというと,これもなかなか書きにくい。それから,先ほど委員のどなたかから御意見がありましたように,弁護士などの資格を有することから,公益信託を管理運営する能力がある,という判断の仕方もあるかもしれません。しかし,これも簡単ではない。弁護士はよいとしたら,司法書士はどうなるか税理士はどうか。いろいろな問題が次から次へと出てくる気がしますし,なかなか,意見を決めかねているところであります。
  しかし,現在直ちには難しくても,将来的には自然人についても公益信託の受託者となれるように公益信託の受託者の資格要件を広げるのが望ましいと思っていまして,その観点からすると,先ほど神田委員が言われたように丁2案というのを併用してというのでしょうか,私の場合は法人については一定の基準を設けるわけですが,丁2案というのを併用することで,自然人が受託者となる道を開けておくというのはどうかと考えます。
  丁2案の場合に,この案自体もそうなっていると思いますが,そこでは自然人について何か積極的に管理運営能力であるとか,何か一定の基準を満たすということを積極的に要件として書くのではなくて,欠格事由という形で対応するということでいいのではないかと思います。また,信託銀行と組むということについてですが,これはなかなか難しい点もあると思いますが,別に信託銀行ではなくて構わないわけで,たとえば丙案の下で基準を満たしている法人と自然人が一緒に受託者になるというようなことが可能になる,そういう道を開くのはいいことだと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 自然人と法人を分けて議論することには余り意味がないような気がしています。その上で,甲,乙,丙,丁の各案について,期待される能力といった場合に,適切に信託を管理できるスキルとかという話と,財務能力みたいな話があるのではないかなと思われます。財務能力については,多分,第三者に対する責任とか,そういうのを念頭に置くということなのではないかと思います。甲,乙,丙については,それぞれ,信託を管理できるスキルだけではなく,財務能力というようなものもみている気がするのですが,丁案についてだけは財務能力の要件がない感じがしています。純資産をいくら持っていますとか,あるいは財務能力を開示していますとか,そういう能力が仮に信託受託者に必要ということであれば,丁案についても財務能力の要件が必要なのではないかという気がいたしました。
  甲,乙,丙のいずれの案が良いかというよりも,能力に着目してこのスキルがあるかどうかとか,例えば財務能力があるかどうかというのを見るのがいいと思っているわけですけれども,そのうえで,先ほど能見委員とか,あるいは実務に携わっておられる明渡関係官がおっしゃられたような認定の際に簡単に判断できるかどうかという視点,あと,ガバナンスが簡素なものとなるかどうかという視点が重要になるのではないかなと思います。
○林幹事 繰り返しにはなりますけれども,神田委員もおっしゃられていたところと思いますが,まず,前提として丁1案で制度として耐えうるものができるか,それをまずしっかり検討していただきたいというのが1点です。ですから,丁1案ですと公益法人等,そういう法人も排除しないところですが,丙案は,法人に限るというのが反対するところであって,ただ,法人にせよ,自然人にせよ,何から制限するときに丙案のような制限を入れるのか,丁案のような制限を入れるのかというようなことかと思います。弁護士会の議論でも,自然人なんだけれども,丙案のように公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎とか,技術能力を有することという要件を立てるという意見もありましたので,それは一つの考え方かなと思います。
  いずれにせよ,信託事務を適切に行っていく資質なり能力なり,あるいは経済的な規模かもしれませんけれども,そういうのが必要だというのはそのとおりなので,あとは条文の書き方なのだと思います。丁案は抽象的だと言われますが,丙案も十分に抽象的なのではないかなという気がします。ただ,公益法人において今,現にそれをやっているからできるんだと言われるのかもしれませんが,それは要するにやり方をいかに工夫するか,工夫次第で可能であるという問題と思います。
  あとは,先ほど個人では財産的基盤はどうかという御指摘がありましたが,一面は不祥事問題とか,いろいろ,心配するところはありますけれども,それは自然人なりの在り方にもよるかもしれません。それこそ,複数件を受託するから業法的な手当もするような前提であれば,適切な保険を工夫するとか,やり方はあると思うので,そういうことも頭に入れながら議論していただきたいと思います。
○稲垣幹事 総務省でございます。公益信託の関係で極めて例外的な事例ですけれども,外務省所管の公益法人で受託者が個人となっているものが1件ほどございます。詳細は資料がございませんので,詳しくは申し上げられませんけれども,昭和53年に許可されたものでございます。また,その事業の内容が実は助成事務ではございませんでして,外国との高校生の交換留学事業を行っております。これ1件だけでございますけれども,そういう事例もございますので,一応,御参考までに御紹介させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。今のは外務省所管の公益信託の例でございますね。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○中辻幹事 今,総務省さんの方から御紹介のあった外国の高校生との交流を深める目的の公益信託について,確かに個人を受託者としてはおりますが,実際には一人の個人のみで交換留学事業を運営しているわけではなく,昔でいう権利能力なき社団ではないですけれども,ある程度の規模を持つ運営団体があって,その代表者である個人が名義上公益信託の受託者として設定されているものと記憶しておりますが,そのような理解でよろしかったでしょうか。
○稲垣幹事 その点はご指摘のとおりです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほど丁2案のことについては触れなかったんですが,共同して受託するということも,もちろん,それ自体はあり得ると思います。排除する必要は全くないと思うんですが,丁2案は必ず共同でということで,なおかつ,パートナーが甲,乙,丙ないし丁1案の要件を満たす法人ということなので,そこまで必須の要件としてしまうと,制度として先ほど来,出ております軽量・軽装備という趣旨からは離れてしまって,使いにくくなるのではないかと思います。そういうことがふさわしい事例もあるとは思いますが,必須の要件にするということについては反対したいと思います。
  そういう意味で,例えば先ほど来,出ている美術館の例をとれば,美術品に対する知識であるとか,美術品の保管等に関する知識というものがないときちんとした運営はできないでしょう。そういう人を委託者がこの人なら信用して任せたいという人がいれば,自然人であるからという理由でそれを排除する必要はない。もちろん,第三者委託でも似たようなことはできるのかもしれませんが,そうすると,それはそれで必ず第三者委託とセットとした仕組みになってしまって,より端的にこの人ならという人がいる場合に,あえてそういう構造にする必要はないだろうと思います。
  それは別に美術館の例に限らず助成型の信託であっても,例えば一定の研究助成であっても,どの研究機関でどういう助成をするかについては,恐らく今は運営委員会の意見を踏まえて運用されているんだと思いますし,信託銀行自身は,それは判断できませんということだと思います。しかし,運営委員会という制度を作るのも,私は今後,議論になれば反対したいと思いますし,それを少なくとも必置の機関とすることについては反対したいと思いますが,そういうことを必ずしなければならないとなると,装備としては重くなる。小規模なものでも低コストでできるということからは反していくということです。一定の助成をする先を判断する能力のある人がいるのであれば,その人が受託者になればいいのだろうと思います。第三者委託するまでもなく,受託者本人ができればいいのではないかと。
  要はそういう場合もあるのだろうから,それを排除する必要はないということであって,いろいろなケースがあるし,メニューとしてはいろいろ豊富にそろえたらいいと思うんですが,必ずこうしなければならないということにはすべきではないという意味で,自然人を是非入れるべきだという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現行の実務の話をさせていただくと,この人ならという方がいらっしゃる場合に,今は,その方に運営委員になっていただいていると。運営委員というのも一つの組織として作られていて,運営委員の方ができなくなりましたというような場合には,運営委員会の規則というのもお作りいただいて,後任について決める手順とかもしっかりと決めていくということで,運営委員会であったとしても,そういうガバナンス的な要素というのは非常に重要で,そういうことをあらかじめ信託契約なのか,計画なのかというところできっちりと決めていくというようなことを今でもさせていただいているという意味で,受託者でなければいけないのかというところも反面の議論ではないかなとは思われます。そして,受託者に技術的な能力が必要ですという点もあるのかもしれないのですけれども,反面で,信託は財産管理の仕組みでありますので,財産管理の能力は少なくとも受託者にはなければならないということも言えると思います。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
  この第3については,なかなか,本日の段階では御意見は集約するところまではきておりませんけれども,様々な論点があるという御指摘いただきました。例えば能力といっても2種類あるんだということは,平川委員,山田委員,長谷川幹事から御指摘のあったことですし,認定基準やガバナンスとの関係,その判定の方法という視点が必要ではないかとか,あるいは受託者となる以外の個人の関与の仕方があるのかどうか,あるとしてそれに限るのかどうか,こんな御議論があったと思います。あとは業法との関係や,国や公共団体についてどうするのかについても御議論いただいたと思います。この点については,本日の御議論を踏まえて事務当局の方で更に検討の上,また,次の機会に御提案させていただくということになろうかと思います。
  全体に大体よろしいでしょうか。
○道垣内委員 後で申し上げてもいいんですが,忘れがちなタイプなものですから,一言,言わせてください。12ページの「3 信託財産の範囲」というところがあるのですが,これは当初の信託財産の範囲ですよね。というのは,設定された後に国債に変われば,それは信託財産ですから現在でも金銭に限定されていないわけですね。ゴシックの部分はそう書いた方がいいのではないかと思います。
  補足説明の中の3行目の引受け当初というのが,何か信託銀行が主体になっている言葉なので私は嫌です。設定当初と書くべきではないかなと思います。当初受託財産という言い方も自分勝手な言い方で,あれは当初信託財産というべきだと思っています。
○中田部会長 御指摘をありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
○沖野幹事 公益信託で規律自体は一律だといっても,一方で多様な公益信託ということが言われ,様々なものが例として挙げられているかと思います。そして,今回の資料におきましては従来型の助成型というものと,言わばフルタイプの事業の美術館経営,建物を建てるというところから開始するタイプのもの,それとあと,学生寮の話が事務のところで出てきました。それから,余り具体例は挙げられておりませんけれども,歴史的な建造物の保存・維持というのがありました。
  一方,議論の中では能見委員から出されたナショナルトラスト型の緑地保全とか環境保全とか,そういうものというのは恐らくただ粛々と土地をそれがほかのものに使われないように保存するとか,維持するとか,比較的,事務処理としては薄目の事務処理といいますか,そういうタイプのものが一つ考えられるのではないかと思いますので,事例とか例を出されるときに,一つのタイプとしてナショナルトラスト型,緑地・環境保全型の不動産を保持するというようなタイプのものも,一つ入れておいた方がいいのではないかなと考えております。今後の規律などを考えるに当たって有用かと思いましたので,一言,申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
  それでは,最後に次回の議事・日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回からはいわゆる各論として,公益信託の定義や具体的な認定基準の内容についての御審議に入っていただくことを予定しております。そのため,次回の部会資料では,公益信託の定義と具体的な認定基準の半分くらいまで論点として取り上げます。次回の日程は,平成28年9月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-

法制審議会信託法部会第31回会議 議事録

法制審議会信託法部会
第31回会議 議事録
 
 
 
 
 
 
 
第1 日 時  平成28年6月7日(火)   自 午後1時30分
                       至 午後4時58分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題  1 信託法部会再開の趣旨等について
 
         2 公益信託法の見直しにおける主な検討課題について
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○能見部会長 それでは,予定した時間になりましたので,法制審議会の信託法部会第31回会議を開会したいと思います。
  本日はお忙しいところお集まりいただきまして大変ありがとうございます。
  この信託法部会は実は前回というのが,第30回ということですけれども,もう約10年前ということになります。それ以来公益信託の問題がまだ片付いていなかったのでいずれ再開する予定だったわけですけれども,今日に至ってしまったわけであります。
  いずれにつきましてもこの部会を再開するに当たりまして,その再開の趣旨につきまして事務当局から説明を申し上げます。
○中辻幹事 私は法務省民事局で参事官をしております中辻と申します。
  今回新たに信託法部会の委員・幹事に任命された方も多うございますので,本日の議事に入ります前に,法制審議会及び部会について若干御説明申し上げます。
  法制審議会は法務大臣の諮問機関でございます。その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができるとなっております。信託法部会は平成16年9月8日に開催されました法制審議会総会第143回会議におきまして法務大臣から信託法の見直しに関する諮問第70号がされ,これを受けましてその調査の審議のために設置することが決定されたものでございます。
  法制審議会に諮問された事項は,「現代社会に広く定着しつつある信託について,社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件の下で緩和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価証券化を認めるなど,信託法の現代化を図る必要があると思われるのでその要綱を示されたい。」というものであります。
  これを受け,信託法部会は平成16年10月1日の第1回会議から平成18年1月20日の第30回会議まで約1年4か月にわたる御議論を経て「信託法改正要綱案」を取りまとめ,それが平成18年2月8日に開催された法制審議会総会第148回会議において,「諮問第70号については,現在,信託法部会において審議中であるが,私益信託に関する制度の部分につき,信託法改正要綱のとおり答申する。」として,法務大臣に答申されました。これを受け,信託法案が国会に提出され,平成18年12月8日に新信託法が成立しています。
  ところが,その際,旧信託法第66条以下に規定のあった公益信託に関する制度の部分については実質的な見直しが行われず,新信託法の整備法において旧信託法の題名を「公益信託ニ関スル法律」と改正した上で,旧信託法第66条以下の規定の内容を基本的に維持し,新信託法との調整を図る観点から若干の改正が行われるにとどまりました。
  そのため,通常ですと改正要綱決定の時点で法制審の部会は終了ということになるわけですが,将来の公益信託の見直しに備えて信託法部会は休止という取扱いが例外的にされていたものです。
  このような経緯を踏まえますと,旧信託法のうち私益信託の部分に関する部分は10年前に改正要綱ができておりますが,平成16年の諮問事項は旧信託法のうち公益信託の部分に関する改正も念頭に置いていたものであり,諮問事項の文章の前後に「社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から」,「信託法の現代化を図る必要がある」という文言があることからしても,この度公益信託法制の見直しを行うために信託法部会を再開するに当たって当時の諮問事項はそのまま維持されるものと考えております。
  それでは,本日からの審議に先立ちまして,まず委員の小川民事局長から御挨拶申し上げます
○小川委員 民事局長の小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  信託法部会の第31回会議の開催に当たりまして一言御挨拶を申し上げたいと思います。
  皆様には御多用の中,この度再開されました信託法部会の委員・幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。
  御承知のとおり,公益信託は,個人の篤志家や企業などの委託者がその保有する財産を学術,技芸,慈善等の公益目的のため受託者に信託し,受託者が信託財産を管理,運用して公益目的の信託事務を遂行するものであり,大正11年に制定されました旧信託法にも当初から公益信託に関する条文が設けられておりました。
  そして,平成16年,旧信託法の見直しについて法制審議会への諮問がされました当時におきましては,私益信託の部分のみならず公益信託の部分も含めて旧信託法の全ての現代化が予定されておりましたが,その当時公益信託と社会的に同様な機能を営む公益法人制度について全面的な見直しが進められていたことから,公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,公益法人と公益信託の間で整合性のとれた制度設計をするために,旧信託法のうち公益信託に関する部分については実質的な改正が行われず,結果として「公益信託ニ関スル法律」として片仮名文語体のまま残された状態にございます。
  このように,公益信託法制については,平成18年の新信託法制定のときから将来の見直しが予定されておりました。その後,法務省といたしましても平成20年12月からスタートした新たな公益法人制度の下での公益社団法人,公益財団法人への移行状況を見守ってまいりましたが,新制度への移行期間が平成25年11月に満了したことも受けて,この度信託法部会を再開させていただいたと,こういう経緯でございます。
  公益信託法制の見直しに当たりましては,先ほど申し上げましたとおり,公益法人制度との整合性に留意するほか,他方では,法人と信託の違いを踏まえた上で,公益信託の適正な利用を促進するための新たな認定,監督の仕組みを構築していく必要があると考えられます。また,公益信託が受益者の存在する一般の信託と異なる類型であることから,一般の信託における私法上の法理を公益信託にどこまで適用すべきかという観点も重要になると考えられます。
  そこで,これらの点を中心とし,法制審議会で御検討いただくべく,この度新たなメンバーを含めて皆様に御参集していただくに至った次第でございます。
  私どもといたしましては,新信託法制定の際に宿題として残された課題であります公益信託制度の見直しの審議が充実したものになるよう最大限の努力を致す所存でございますので,委員・幹事の皆様にはより望ましい公益信託法制の構築のために御協力を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。
  私からの挨拶は以上でございます。
○中辻幹事 本日は平成16年10月1日の第1回から通算して第31回目の信託法部会となりますが,再開後第1回目となる会議であり,10年前の会議体と比較して一部の委員・幹事に入れ替わりがあり,関係官は全て新任となっております。そのため,委員・幹事及び関係官の方々には簡単な自己紹介をお願いしたいと存じます。
  あわせて,この機会に関係官について補足して説明しておきますと,法制審議会議事規則により,審議会においてはその調査審議に関係があると認めた者につき,これを関係官として参加させることができる旨定められております。
  それでは,皆様,所属と氏名等の自己紹介をお願いいたします。研究者の委員・幹事の方々には専攻の研究分野もごく簡単に御紹介していただければ幸いです。順序は,能見部会長から順次右回りで着席順にお願いいたします。
○能見部会長 能見でございます。学習院の法科大学院で民法を教えています。それから信託は現在法科大学院では授業を開いておりませんけれども,研究の対象にしております。どうかよろしくお願いいたします。
○小川委員 それでは,改めまして,民事局長の小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○金子委員 民事局担当の審議官をしております金子でございます。よろしくお願いいたします。
○筒井幹事 民事法制管理官の筒井でございます。どうぞよろしくお願いします。
○松元関係官 民事局で調査員をしております松元と申します。よろしくお願いいたします。
○高橋会長 法制審議会の会長をしております高橋宏志でございます。民事訴訟法を専門にしております。
○新井委員 中央大学の新井です。大学では民法と信託法を教えております。よろしくお願いします。
○小野委員 弁護士の小野です。よろしくお願いいたします。
○小幡委員 上智大学の小幡と申します。私専攻は行政法でございまして,今回初めて参加させていただいております。東京都の公益法人等審議会の会長を今はしております。よろしくお願いいたします。
○川島委員 労働組合連合の川島と申します。よろしくお願いします。
○神田委員 学習院大学の神田と申します。商法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○道垣内委員 東京大学の道垣内と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○中田委員 東京大学の中田と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○岡田幹事 内閣法制局の岡田でございます。よろしくお願いいたします。
○沖野幹事 東京大学の沖野でございます。民法を専攻しております。どうかよろしくお願いいたします。
○河合幹事 総務省で管理室長をしております河合と申します。よろしくお願いします。
○神作幹事 東京大学の神作と申します。商法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○佐藤幹事 金融庁総務企画局信用制度参事官の佐藤と申します。銀行法ですとか信託業法などの法制度を担当しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○棚橋幹事 最高裁判所民事局局付の棚橋と申します。よろしくお願いいたします。
○長谷川幹事 経団連の長谷川と申します。よろしくお願いいたします。
○林幹事 大阪弁護士会の弁護士の林邦彦でございます。よろしくお願いいたします。
○渕幹事 神戸大学の渕圭吾と申します。租税法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○松下幹事 東京大学の松下淳一です。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○樋口委員 東京大学の樋口と申します。私は英米法や医事法を教えております。よろしくお願いいたします。
○深山委員 弁護士の深山と申します。今回から参加させていただきます。よろしくお願いします。
○山田委員 神戸大学の山田誠一と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○山本委員 京都大学の山本敬三と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○吉谷委員 三菱UFJ信託銀行の吉谷と申します。よろしくお願いいたします。
○明渡関係官 内閣府の公益法人行政担当室で参事官をしております明渡と申します。よろしくお願いいたします。
○佐藤関係官 法務省民事局の局付の佐藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○木村関係官 法務省民事局で局付をしております木村と申します。よろしくお願いいたします。
○立川関係官 同じく局付をしております立川と申します。よろしくお願いします。
○中辻幹事 改めまして,民事局参事官の中辻でございます。どうぞよろしくお願いいたします。それでは,皆様,自己紹介をどうもありがとうございました。
  本日は委員・幹事の皆様御出席の予定ですけれども,平川委員が遅参される旨伺っております。また,小幡委員,沖野幹事,神作幹事は所用により途中退出される旨伺っております。
  さて,法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。本日の部会は,平成16年10月1日の第1回信託法部会で指名され,30回にわたる御審議を経て私益信託の部分につき信託法改正要綱案を取りまとめられた能見部会長の下に開かれておりますが,能見部会長から,冒頭委員・幹事の皆様に御提案したいことがある旨伺っております。
○能見部会長 ただいま中辻参事官からお話ありましたように,今回の信託法部会はいろいろな争点も相当あり,私としては少し自分,こういうことは余り言いすぎてはいけないのですが,少し自由な立場で発言したいということもありまして,今回は会長を辞して一般の委員として皆さんと一緒に議論に参加させていただければと思います。
  前回の信託法の私法的な部分についてはいろいろな論点,それも相当な争点がありましたけれども,今回は公益性というある意味で一層広く難しい領域の中でどういう活動を公益信託が担うべきかという点が中心的な問題を占めることになるのではないかと思いまして,この問題に関しては私としては個人的な意見を述べたいというふうに思っている次第でございます。そこで部会長としてではなく,一委員として議論に参加させていただきたいということでございます。
  そうしますと,次の部会長を選任していただくことになるわけですけれども,私といたしましては,次の部会長として中田委員を御推薦申し上げたいというふうに考えております。中田委員は,前回の信託法部会の際も,実は私の部会長代理を務めていただきました。それから,御承知の方も多いと思いますけれども,東京都の公益認定等審議会の会長をされておられたこともありますし,今回商事法務研究会でいろいろと公益信託の準備的な研究をしたときもその座長を務めていただきました。そういう意味でも,また,民法や信託法の分野におけるこれまでの業績からしても,最適な方であると思います。かつ,今申し上げましたようにいろいろ争点がある中でこの問題を公平に扱っていただける方だと思いますので,是非中田委員に次の部会長をお願いできればというふうに考える次第であります。
  ということで,皆様の御意見いかがでございましょうか。
○神田委員 新しい部会長に中田委員が適任であるとの能見委員の御意見に賛同いたします。
○能見部会長 ほかの御意見よろしいでしょうか。
○中辻幹事 どうもありがとうございました。
  ただいま能見部会長から信託法部会の部会長をこの度辞され一委員として参加されたい旨のお話があり,誠に残念ですが,次の部会長としては中田委員を推薦するとの御発言がございました。また,神田委員から同様の御発言を頂いております。
  それでは,ほかに御意見がないようですので,新たな部会長には中田委員が互選されたものと認めます。
  その上で,本日は法制審議会の高橋会長に御出席いただいておりますが,高橋会長におかれてはいかがでございましょうか。
○高橋会長 民法や信託法の分野におきまして中田教授の業績が顕著であるという皆様の御認識,私も同様でございます。
  さて,そこで法制審議会会長といたしまして,皆様の互選の結果に基づき,中田委員を新たな部会長に指名したいと思っております。
○中辻幹事 ありがとうございます。
  ただいま,高橋会長から中田委員を新たな部会長に御指名いただきましたので,能見委員と中田委員にはお席を交代していただき,以後,中田部会長に進行をお願いしたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。
○中田部会長 ただいま新たな部会長に指名されました中田でございます。私としましては能見委員に引き続き部会長をお務めいただければと思っておりますが,先ほどのお考えを承り,また皆様から互選いただきましたので,力不足ではございますが,部会長の職責を果たしたいと存じます。議事が公平,かつ円滑に進みますよう,誠心誠意部会を運営してまいりますので,皆様方の御協力のほど何とぞよろしくお願い申し上げます。
  なお,法制審議会令によりますと,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされております。そこで,万一の事態に備えましてこの指名を行っておきたいと思います。
  ここには信託法や公益法人法などの分野における優れた御業績,御経歴をお持ちの方が大勢おいでですが,そのお一人でいらっしゃいます道垣内委員を部会長代理に指名したいと思います。
  道垣内委員,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 指名ですので,お引き受けします。
○中田部会長 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
○中辻幹事 ここで高橋会長は所用のため退席させていただきます。どうもありがとうございました。
○高橋会長 失礼します。
○中田部会長 それでは,まず配布されている資料について事務当局から説明をしていただきます。
○中辻幹事 御説明いたします。
  再開前からの連番で部会資料の番号を付けておりますが,部会資料31を皆様に事前に送付させていただきました。また,参考資料1「公益信託法改正研究会報告書」,参考資料2「公益信託法の見直しの検討状況について」,参考資料3「公益信託に関する従前の部会での議論の経緯」,参考資料4「公益信託の引受け許可審査基準等について」も事前にお届けしております。
  さらに,当日配布資料として,平川委員及び本日参考人としての招致を予定しております一般社団法人信託協会の方々から提供いただいた資料等を配布させていただいております。
  もし本日お手元にないということでございましたら多少の予部は用意しておりますので,お申し付けください。大丈夫でしょうか。
  では,まず部会資料31は「公益信託法の見直しにおける主な検討課題の例」という題名のもので,事務当局において作成したものでございます。今回から信託法部会に参加された方は31という番号を見て少し驚かれたかもしれませんが,10年前の信託法部会では部会資料30として「信託法改正要綱案」が配布された段階で休会となっておりますところ,区切りのよい番号でもありますので,その次の31から今回部会資料の番号を付けさせていただいたということになります。この資料の内容につきましては後ほど説明させていただきます。
  次に,参考資料の説明に移ります。参考資料1は,昨年の平成27年4月から12月まで,公益社団法人商事法務研究会において開催された公益信託法改正研究会の報告書です。
  参考資料2は,研究会報告書が大部にわたるものであることから,その要点を適宜まとめて一般の方々にできるだけ内容を分かりやすく説明しようとしたものです。
  参考資料3は,信託法部会第1回から第30回までの間に公益信託の部分について議論された際の部会資料や議事録を時系列順にまとめて抜粋し資料化したものです。10年前の部会での議論は私益信託に関する部分が中心でしたし,第1回から第30回までの全部の資料を新たな委員・幹事の方々にお渡しするのはかえって御負担になるかと思い,このような取扱いをしております。
  なお,第30回までの議事録を細々見ていきますと,例えば第30回の部会の最後に公益信託の部分については事務当局の側から将来の見直しを予定しているので,その際には御協力をお願いしたい旨の発言があるほか,部会資料2「信託法制研究会報告書」のうちの公益信託に関する部分には,部会資料16のもととなっている文章が記載されていたり,平成17年7月に作成された信託法改正の要綱試案においては,公益信託について主務官庁制を廃止するものとするかどうかについては,公益法人法制の改正の動向を踏まえてなお検討するものとすると記載されていたりするのですが,最終的な要綱に至るまでの議論の経緯をおおむねお分かりいただければ足りると考えたことから,完全に網羅的なものとはしておりません。
  参考資料4は,「公益信託の引受け許可審査基準等について」と題する行政文書であり,現在の各主務官庁における事実上の許可基準となっているものです。
  さらに,委員・幹事・参考人からの提出資料ですが,まず平川委員から「公益法人・一般法人関係法令集」という書籍を御提供いただいております。また,参考人招致を予定しております一般社団法人信託協会の岩田業務部長から,公益信託のパンフレットやアンケート調査結果など,本日の御説明に関連する資料一式を提出していただいております。
  進みまして,これらの資料の公開の関係について御説明いたします。現在法務省ホームページには法制審議会及びその部会の審議の状況等を公開するページがあり,それを見ていただくと分かるのですが,10年前の信託法部会については各回の議事概要が掲載されるとともに議事録が非顕名で掲載されている一方,各回の部会資料は掲載されておりません。だからといって部会資料が非公開だったというわけではなく,当時から部会資料も公文書公開の対象となっていたのですが,信託法部会が休止になった後開催された平成18年11月20日の法制審議会総会第151回会議より以降,会議用資料,すなわち資料番号を付してある審議資料及び審議に直接関係する参考資料は原則として議事録とともに法務省ホームページに記載することとされており,例外として当該資料が配布された会議の会長又は部会長の判断により,その全部又は一部を掲載しないことができるという決定がなされております。
  その時点で,法制審議会総会第151回会議以前の部会資料及び参考資料はホームページでの公開対象外とされていることから,遡及して掲載することにはなりませんが,これから再開する信託法部会については,総会の決定に従い,部会資料及び審議に直接関係するものとして法務省から配布する参考資料はホームページに掲載することを考えております。
  また,部会資料及び参考資料以外の会議用資料の取扱いについては,中田部会長と御相談しつつ決めさせていただきたいと存じますが,各委員・幹事や参考人から御提供いただきました資料については,部会で配布した後,法務省のホームページに部会資料,参考資料及び議事録と併せて公開する可能性があるということになろうかと存じます。
  配布資料の説明は以上でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  配布資料について御不明な点などございませんでしょうか。
  それでは,これから審議に入りますが,その前に再開後の当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと存じます。
  まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法について,事務当局から説明をお願いします。
○中辻幹事 それでは,法制審議会の部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。
  先ほど御説明したとおり,10年前の信託法部会につきましては議事録は非顕名の上で公開されております。その後,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして次のような決定がされています。すなわち,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものです。
  したがいまして,再開後の当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを御検討いただく必要があるものと存じます。
  なお,御参考までに,先ほど申し上げた総会の決定後に設置された部会のうち,民事法の分野に関するものは,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。
○中田部会長 ただいまの事務当局からの御説明につきまして御意見等がございましたら御発言をお願いいたします。
○山本委員 今事務当局から御説明がありましたように,平成20年の法制審議会総会の決定から後,民事法の分野では発言者名を明らかにする議事録が作成されるようになりまして,審議の過程が外からも非常によく分かるようになりましたし,後から議論の流れを検証することも容易になりました。これは,立法に向けてコンセンサスを形成する上でも大変有益であると思います。私自身も,これまでこの発言者名を明らかにする議事録の作成を審議会で経験してきましたが,名前が開示されるからといって発言が妨げられたと感じたことはありませんでした。したがいまして,今回も議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにすることが適当だと考えられます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  ただいま山本委員から議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにすることが望ましいという御意見がありました。部会長の私といたしましても,当部会につきまして審議事項の内容等に鑑みて,発言者名を明らかにした議事録を作成することがよいと思います。
  そのようにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,再開後の当部会につきましては発言者名を明らかにした議事録を作成することといたします。
  それでは,本日の審議に入ります。
  まず,事務当局から今回の部会における検討の対象,審議スケジュール等について説明をしていただきます。
○中辻幹事 それでは,御説明させていただきます。
  今回再開後の信託法部会における検討の対象は,平成18年の信託法改正の際に積み残しの課題とされてしまった公益信託に関する部分であり,私益信託に関する部分は基本的には対象から外れます。したがって,今回の部会では公益信託法に規定されている公益信託の認定や監督に関する信託法の特則の規律の見直しを中心に議論していただくことになると思います。もっとも,新信託法で導入された目的信託の部分など,公益信託に関連する部分につきましては議論の対象となると考えております。
  そして,従前の信託法部会における議論の体制として,主務官庁による許可制は廃止する方向性が示されていたことを踏まえますと,仮に主務官庁制を廃止した場合における新たな公益信託の認定機関についての規律についても検討する必要があると考えられます。
  ただし,法人と信託の制度的な相違や公益財団法人に比べて簡易に設定できるという公益信託のメリットを維持する必要性についても配慮しなければならないことから,新たな公益法人において採用された認定基準や監督の仕組みを単純に公益信託に持ち込めばよいというのではなく,公益信託の特性に応じた仕組みを構築する必要がございます。
  また,公益法人法制など他の類似の制度との整合性も重要ですが,主務官庁制の廃止イコール特定の行政庁が認定監督機関となることが導き出せるわけではありません。そのため,まずは新たな公益信託の認定基準,監督の仕組みをしっかりと部会で御議論いただいた上で,公益信託の認定,監督を行う機関に関する規律については考えていく必要がございます。
  公益信託法の見直しに当たっては,以上申し上げたような留意すべき点を踏まえつつ,実質的な見直しを行うことになろうかと思います。また,現在の公益信託法は題名及び条文が片仮名文語体であることから,現代語化も併せて行うことが適切ではないかと考えております。
  次に,日程等の進行について御説明いたします。私どもとしましては余り先の日程までは見通すことができない一方で,お忙しい皆様にはできる限り先の時期の予定までお分かりになった方が便宜ではないかと考え,具体的な日程として,平成28年度いっぱい,すなわち来年3月までの間の具体的な日時を確保させていただいております。
  会議の場所はこの法務省20階第1会議室で原則として行いたいと考えておりますが,他の会議のために予約されているなど差し支えの場合には法務省内の他の会議室を使用いたします。
  今後の審議の見通しですが,この部会では月1回のペースで御審議いただき,平成29年1月ころにはいわゆる一読を終え,その後議論の分かれた論点につき二読,三読という作業に入っていくことになろうかと思います。その先については現時点で確たる見通しを示すことは困難ですが,この部会での御議論を集約した形で公益信託法改正の中間試案的なものを作成し,それをパブリックコメントに付していくことになろうかと存じます。
  次に,信託というと勢い難しい学説や議論が頭をよぎりますが,私どもとしましては公益信託の実務,実態に即した国民にとって分かりやすい議論が必要であると考えております。そこで,本日は現在の公益信託の受託者の大部分を占める信託銀行が加入する信託協会業務部の岩田部長,同協会の今年度の幹事行である三菱UFJ信託銀行リテール受託業務部の藤原次長及び堤調査役から,参考人という立場で公益信託の現状や課題について御説明いただき,委員・幹事の皆様に公益信託の現状や問題点について共通の認識を持っていただくことを考えております。
  また,税制の知見も重要であることから,本年秋頃に公益信託税制等について所管の財務省主税局の方から参考人として説明していただくことも検討しているところでございます。
  私ども事務当局が現時点で考えております審議の対象や部会の進行はおおむね以上のとおりであり,今後も中田部会長の御指示を仰ぎながら円滑な運営に努めてまいりたいと存じます。
  なお,部会における実質審議は,次回以降に行うこととし,本日はフリートーキングの回として自由な意見交換をお願いしたいと考えております。
○中田部会長 ありがとうございました。
  途中ですけれども,平川委員がお見えになりましたので,御所属,お名前等だけで結構でございますので,自己紹介をお願いいたします。
○平川委員 遅くなりまして申し訳ございません。公益法人協会監事を務めております弁護士の平川純子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田部会長 よろしくお願いいたします。
  ただいま中辻幹事から部会における検討の対象範囲,参考人の招致,審議スケジュール等の御説明を頂きました。ただいまの説明や提案について御質問や御意見などございますでしょうか,お出しください。
○小野委員 フリートーキングということもあって今のお話の関連で口火を切らせていただきます。
  私益信託と公益信託という分類ですけれども,純粋に私益,純粋に公益であれば分かりやすいかもしれませんが,実際には両者間のボーダーは明確ではなくグラデーションの掛かった分野があると思います。
  また,目的信託についての議論は当然されるわけですけれども,目的信託は民事信託の中に位置付けられるので,そうすると公益信託の議論が中心であるとしても,民事信託の議論にもある程度及ばざるを得ないと思います。また,ちょうど今回の信託法学会でも信託法施行から10年ということで,現在の信託法は機能していますが,それでも少し手直しした方がいいところという観点から恐らく学会で発表があるのかと思います。従いまして,必要な限度において信託法自体の見直しの議論も,せっかくの重要な機会なのでしてもよろしいのではないかと思います。もちろん公益信託が中心であるということは分かっていますが,日弁連としても弁護士がどういう形で活躍できるかということ,もちろんそれは弁護士のための話ではなくて国民のためということですけれども,民事信託全体についての考え方も検討したいと昨日の日弁連でのバックアップ会議でも議論させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございます。中身につきましてはまた後ほど御議論いただくことがあろうかと思いますが,今その全体の枠組みについて広い観点から検討すべきであるという御意見を頂戴いたしました。
  ほかにございますでしょうか。
○道垣内委員 小野委員がおっしゃったことに理念的に反対するものではないのですけれども,手続的に可能かどうかということをお教えいただければと思います。と申しますのは,本部会は今回31回目で,公益信託以外の部分について既に要綱案を出したわけですね。それに基づいて制定された法律の改正を,今回のこの部会で要綱案として出すというのは自らの出した要綱案の修正を自らが後発的に行うということになるわけですが,そのようなことが可能なのでしょうか。それとも今回は前回の要綱及び要綱を基にしてなされた法律というものは固定されているものとして考えることになるのか。システムの問題としてどうなのかということを確認できればと思います。
○中田部会長 いかがでしょうか。
○中辻幹事 基本的には私益信託の部分につきましては道垣内委員御指摘のとおり10年前に要綱を頂いておりますので,今回の議論の対象にはならないということでございます。一方で,小野委員が言われましたように,公益信託と私益信託の分類には若干不分明な点もございます。また,目的信託は,新信託法上「受益者の定めのない信託」と定義されておりまして,受益者の定めのない信託の中に公益信託が位置付けられるという構造になっております。
  そうしますと,公益信託と目的信託との関係についてはこの場で議論していただくことになるのだろうと思います。また,飽くまで公益信託が中心ですけれども,私益信託のうち,民事信託の中には例えばいわゆる福祉型信託もあるところ,そのような信託と公益信託との関係性等についても御議論いただけるのではないかと考えております。
○能見委員 既に前の答申で決められたことを言わば覆すような修正するような形の議論をここでしてよいのかどうかは,そのことの是非を議論して,この部会としてのスタンスを決めないとできない感じがします。ただ,前回の信託法の審議の際に議論が不十分であったという点はいろいろあるのだろうと思うのですね。どこが不十分であったか自体も議論しなければなりませんが,例えば,信託管理人などというのは,これから公益信託に関しても議論されると思いますが,私益信託における信託管理人の規定が公益信託のことを考えると,場合によっては修正が必要になるかもしれない。そういう問題は出てくることがあり得るので,最終的にどのような形で対処するかはともかく,そういう意味ではある程度オープンに議論されるというのがよろしいのではないかという感じがいたします。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  飽くまでも公益信託が中心である。それから,既に答申を出しているという枠組みもある。しかし,だからといって非常に固定的に考えるのではなくて,公益信託という観点から更に柔軟に考えていく,という辺りが皆様の大体のお考えかと承りました。
  今の点,あるいはほかの点でも結構ですが,更にございますでしょうか。
○深山委員 今,部会長がまとめていただいたので,それで理解したつもりではあるのですが,若干確認させていただくと,私益信託を視野に入れて議論をするというのは単に議論するということにとどまるのか,その結論として現行の信託法の規律に何らかの修正なり追加なりが立法として可能なのか。もちろん何らかの規律を作るときにどの法律に置くのかというのは技術的な問題もあるのだろうと思うのですが,既に前回の答申に従った信託法というのはもう成立している法律で現行法になっているわけですので,私の理解としては,そこに対する修正なり規律を加えるような規律であっても,そしてそれが現信託法の修正というか一部改正という形であっても,この部会でそういうことを内容とする答申をすることは許されるのではないかという気がいたします。しつこいようですけれども,単なる議論だけではなくて,結論として現行信託法にも手を加えるような答申も可能なのかどうかという辺りについてもう少しお聞かせいただければと思うのですが。
○中辻幹事 繰り返しになりますが,基本的には私益信託の部分については10年前に要綱が出ていますので,それを尊重することになるのだろうと考えます。ただ,時間軸として10年という時間がたっていることも踏まえますと,公益信託の部分の見直しに当たって必要となる限度においては私益信託の部分についても御審議の対象になるのではないかと思います。
  ただし,公益信託については,私益信託に関する現行信託法の規定に関する特則を設ければ,その規定の公益信託への適用はなくなるわけで,それができずに私益信託に関する現行信託法の規定を変えなければならないような事態というのはなかなか考えられないようにも思います。
○中田部会長 深山委員,よろしいでしょうか。
  ほかによろしいでしょうか。
  それでは,ここでの審議対象については今御意見いただいたようなことになろうかと思います。
  さらに,審議スケジュールでございますけれども,事務当局から提案していただきましたように,いわゆる一読として各論点についての議論を一通り行う目標を平成29年1月頃とするということにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,そのようにさせていただきます。
  次に,事務当局から提案がありました参考人の招致につきましては特段の御異論がなかったように思います。そこで,御提案のとおり,まず本日の部会に参考人として信託協会業務部の岩田部長,三菱UFJ信託銀行リテール受託業務部の藤原次長及び堤調査役をお招きすることを決定してよろしいでしょうか。
  それでは,そのように決定させていただきます。
  では,早速ですけれども,参考人の方々から公益信託の現状等について御説明を頂き,その後若干の質疑応答の時間を設けたいと存じます。3人の参考人から続けてお話を伺った後,質疑応答に移ります。参考人の岩田部長,藤原次長,堤調査役,どうぞよろしくお願いいたします。
○岩田参考人 信託協会業務部長をさせていただいております岩田でございます。よろしくお願いいたします。
  それでは,公益信託制度の概要について御報告申し上げたいと思います。お手元に資料として4種類お配りさせていただいております。一つ目は,パンフレット「公益信託-その制度とあらまし-」という冊子です。二つ目ですが,薄い冊子ですが,「あなたの思いが社会に活きる公益信託」というリーフレットをお配りしております。三つ目ですが,ニュースリリース「公益信託の受託状況」,平成28年3月末現在ということでお配りさせていただいております。四つ目ですが,「公益信託事務に関するアンケート調査結果について」,こちら昨年3月に実施させていただいたものですが,こちらをお配りさせていただいております。今後の信託法部会の議論の御参考に御利用いただければと考えております。
  既に御承知の方も多く心苦しいところではございますが,公益信託制度の特徴等につきまして御説明申し上げたいと思います。
  こちらの「公益信託-その制度とあらまし-」を御覧いただければと思います。2ページを御覧いただければと思います。2ページ目,はじめにというところで,1行目にありますとおり,公益信託につきましては委託者である個人,法人が財産を一定の公益目的のために受託者に信託し,受託者がその財産を管理・運用して公益目的を実現するように任務を遂行するものでございます。
  公益法人同様,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とする民間の資金を活用して,公益活動を行う制度として昭和52年の第1号受託以降御利用いただいているところでございます。
  公益信託の特徴ということで,2ページ目から3ページにかけて公益信託の特色を書いておりますが,1.の「設定の手続の煩わしさがありません」,2.の「設定後の運営も受託者が行います」,3.の「運営が効率的,弾力的に行えます」というようなことを記載させていただいておりますけれども,これは公益信託が公益財団法人に比べまして設立コストが低廉にとどまるとの軽量・軽装備の特徴を有している旨の記載でございまして,この特徴につきましては今後維持される方向で審議いただけるようにお願いしたく存じておるところでございます。
  次に,1枚めくっていただきまして4ページ,公益信託の仕組み図を御覧いただければと思います。まず,①コンサルテーションという上の所に記載がありますが,委託者,受託者の間で公益目的の選定,目的達成の方法,公益信託契約書の内容につき打合せがまず行われるところでございます。
  左手を見ていただきますと,②で受託者が公益信託の引受けの許可につきまして主務官庁に申請を行います。③ですが,主務官庁はこれを審査し許可をするということになっております。許可を受けた後,④ですが,委託者と受託者の間で公益信託契約の締結がなされるところでございます。
  ⑤ですが,監督等とございますが,主務官庁は公益信託の事務処理につきまして検査をしたり受託者に対して必要な処分を命ずることができるものとされているところでございます。
  ⑥ですが,信託管理人の所ですが,受託者の職務のうち重要な事項について承認を与えるということとしております。
  右下の⑦ですけれども,運営委員会等ですが,公益目的の円滑な遂行のため受託者の諮問により,助成先の推薦及び公益信託の事業の遂行について助言,勧告を行うということでございます。つまり,助言機関として機能していると認識しております。
  ⑧ですが,受託者運営委員会等の助言,勧告に基づきまして,その公益信託の目的に沿った助成先への助成金の交付を行うところでございます。⑨ですが,受託者は年1回一定の時期に信託財産の状況を信託管理人に報告し,⑩ですが,事業年度終了後3か月以内に事業状況報告書等を主務官庁に提出することにしております。つまり受託者は信託管理人や主務官庁のモニターを受けているというこういう仕組みになっております。
  5ページ目,「公益信託の取扱要項」とございますが,4ページの仕組みの説明で触れなかった点につき若干御説明申し上げます。3.受託者の所ですが,財産管理面での知識と経験を有している信託銀行等が受託者となるという記載がございます。信託銀行等以外の者も受託者とすべきかどうか論点として存在するかと思われますが,ここで列挙しております公益信託独自の事務を受託者が行っているという点についても御認識いただければと考えております。
  4.受給者ですが,通常私益信託では委託者,受託者,受益者の三つの当事者がいると説明がなされているわけですが,公益信託の場合,私益信託の受益者と同じ法的地位を有する者はいないという整理から「受給者」という用語が使われているところでございます。
  5ページ目から6ページにかけまして,5.事業内容について記載がございます。こちらでは助成事業以外の事業を行うことも許容するかどうかということはここでの議論になるかと思われますが,現状では基本的に助成事業のみが行われているというところでございます。
  6.の信託財産の種類ですが,公益信託法などではこの制限に係る規定はございませんが,税制上,金銭による引受けが原則ということになっております。
  次に,ニュースリリースを御覧いただければと思います。こちらのニュースリリースですが,6月6日,昨日公表いたしました本年3月末時点の公益信託のケースに係る資料でございます。3枚目を御覧いただければと思います。こちらにグラフがございますが,横長の所を御覧いただければと思います。平成14年頃ですが,御覧いただきますと約571件,733億円の件数残高であったわけですけれども,その後は徐々に減少し,本年3月末で信託銀行等を受託者とする公益信託の件数は479件,信託財産は624億円となっております。
  続きまして,1枚めくっていただきまして4ページを御覧いただければと思います。昭和52年以降,本年3月末までの累計の助成先数を示させていただいております。約19万件,給付額は799億円というところでございます。
  次に,5ページを御覧いただければと思いますが,信託目的別の件数,残高のリストを掲載しております。件数,残高とも奨学金支給が最も多く,次いで自然科学研究助成が多くなっております。次に件数では教育振興,残高では都市環境の整備・保全が多いということが示されております。
  ニュースリリースにつきましては以上でございます。
  続きまして,四つ目の資料,「公益信託事務に関するアンケート調査結果について」を御覧いただければと思います。当協会では公益信託事務で直面している問題点,つまりどのような要因で事務に手間が掛かっているのか,相談があっても受託に至らないケースとしてどのような要因があるのかということで,信託金融機関各社の公益信託事務担当者を対象に,昨年3月にアンケートを実施いたしました。本資料はその結果をまとめたものでございまして,公益信託研究会報告書にも収録されているものでございますが,改めてポイントを御紹介申し上げます。
  1ページ目,2.ですが,引受申請許可に要する期間でございます。委託者が設定に係る相談をされてから実際に引受許可に至るまでの期間別の件数についてお聞きしております。把握できる件数のうちDの6か月超~1年というところが最も多く,次いでEの1年超~が多いというような現状でございます。
  続きまして,2ページを御覧ください。(2)引受申請許可までの期間が6か月以上掛かる大きな要因についてお聞きしているところでございます。その回答としましては,Aの委託者からの御相談を頂いてから基金の制度骨子を固めるまでの委託者との調整に時間が掛かるというところが最も多く,次いでCの主務官庁とのやり取り関係の回答が多くなっております。
  続きまして,4ページを御覧いただければと思います。基金設定に至らなかったケースとして,相談の段階で公益性の観点から問題ありと判断された具体的なケースを回答いただいております。回答は5類型に分けられると認識しております。①,②ですけれども,受益範囲の問題があったケースが①,②でございます。それから,③ですが,金銭以外の財産拠出を希望されたようなケース。④として,当初財産規模の問題があったケース。⑤がその他のケースとなっております。
  5ページ目の所ですけれども,基金設定に至らなかったケースとして,(3)は主務官庁に事前相談して許可困難とされたケース,(4),(5)につきましては税制上の要件関連で問題になったケースの回答を記載させていただいております。
  6ページを御覧ください。4.公益信託の利用が低調であることの要因について各社担当者はどのように考えているかということを回答いただいております。最も多い回答はAの引受申請手続に時間,費用が掛かっている点。次いで多かった回答としましては,Fの公益信託が一般に知られていないという点が挙げられております。
  最後に,8ページ目を御覧いただければと思います。5.ですが,受託事務に関して制度改善が望まれることについて各社担当者にお聞きしております。回答としましては,税制関連の回答,信託報酬等に関する回答,引受許可申請事務に関する回答の3種類に分類できるかと思われます。引受許可申請事務の関係で指摘があるのは,例えば③の1ポツ目にあるように,主務官庁によって届出事項や様式がまちまちであるというような点。明文の規定はありませんが,主務官庁から10年の事業継続ができるレベルでの基金設定を求められるということがあるようなことが挙げられております。引受許可基準で信託報酬につきましては「人件費その他必要な費用を超えない」という規定がなされていることから,事務コストに見合う水準とすることについて各社担当者苦労されているというようなことも挙げられております。
  以上,公益信託の仕組み,最近の統計,実務者アンケートにつき御紹介申し上げました。今後の議論の参考としていただければ幸いでございます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
  あとのお二方の参考人,今の段階ではよろしいでしょうか。
  それでは,ただいまの御説明につきまして御質問などございましたらお出しくださいますようお願いいたします。
○能見委員 資料に書いてないことを伺って申し訳ないのですけれども,どういうところが主務官庁となるのが多いのか,主務官庁が都道府県である場合と国の諸官庁である場合とがあると思いますけれども,都道府県と国との割合とか,都道府県の中ではどういうところが多いとかいうものの状況が分かると,公益信託と主務官庁の関係についてのイメージが湧きやすいので,わかるようでしたら教えていただきたい。ただ,直ちに議論に何か反映するという問題ではないので,別に今回でなくても結構です。別の機会でも結構です。教えていただければと思います。
  このニュースリリースの5ページ目の所に公益信託受託状況というのがありますが,これの資料からどこが主務官庁であるとか,都道府県は別として,どこが国の場合には主務官庁かというのは大体のことはお分かりになるのだろうと思いますけれども。
○岩田参考人 御指摘のとおり,奨学金支給が全体の件数の3割,4割というところで多くなっておりまして,各地の教育委員会等が主務官庁ではかなり多くなっているということで認識しております。
○能見委員 単なる個人的な関心ですが,ここにある動植物の保護などというのは主務官庁はどこなのですか。あるいは都道府県なのかもしれませんが。
○岩田参考人 ここは少ないので,環境省とかになるのかもしれません,ちょっとそこは分かりません。
○中田部会長 能見委員,よろしいでしょうか。
○能見委員 はい。
○林幹事 能見委員の御質問に関わるところですが,信託協会さんのホームページでは公益信託のデータベースを拝見できますよね。幾らか拝見したら教育委員会とかもありますし,対象について市とか区とかそれなりに限定された地域の方々を対象としたものもあるようです。受託額については,本日の参考資料では1億円とかそういう数字も出ていたと思いますけれども,3,000万円とか4,000万円とか比較的小さなものもデータベースにはあったと思います。その辺りについてもう少し詳しく資料を拝見できたら有り難いです。例えば,どういう地域のどういう規模のどういうものの公益信託が現にあるのか,あとは受託額です。本日の参考資料では総額は書いてあって受託額の大小というのは出ていなかったと思いますので,そういうものも拝見できれば参考になると思いました。
○岩田参考人 御意見としては承りました。ホームページなかなか見づらいという御指摘も受けているところでございまして,ホームページの見直しの中で見やすくする工夫も今後検討させていただきたいと思います。御意見ありがとうございます。
○中田部会長 ほかに。
○小野委員 資料を見て大変関心をもった点として,普通考えると特定,また認定特定公益信託が多いのではと思っていたのですが,一般公益信託の受託もそれなりにあるようで,その場合の税務はどのように扱われているのでしょうか。目的信託としての扱いではないと思うのですけれども,その辺りについて教えていただきたい。
  また,初めから特定を取らないで不動産とか美術品とかそういうものについて一般公益信託としたいとの委託者からの要請があることもあるかと思うのですが,その辺の状況,実態とか,信託銀行としての取組などについてもお知らせいただければと思います。
○堤参考人 三菱UFJ信託の堤です。小野委員の方の御質問にお答えいたします。
  特定認定ではない一般の公益信託,これが件数的には一番多いことになっているかと思います。この一つの要因は,まず過去の古い公益信託につきましては特定認定というものは余り取られていなかったというのが事実かと思っています。最近の公益信託につきましては基本的にほとんど認定特定は取っている,若しくはその要件は全部満たしていますので,ある程度税制上の要件は満たすということでクリアかなりの部分はされているというふうに考えております。
  2点目の不動産とかを信託したいというようなお話があるかという御質問かと思いますけれども,そういった相談ゼロではございませんけれども,基本的にかなり少ないレアなケースですので,御相談が来た時点で難しいと,公益信託では難しいという取扱いになっております。
○小野委員 確認ですが,不動産ですと税務上特定が取れないのではないかと思うのですけれども,それでも一般公益信託を希望するということもあるのではないかと思いますが,そういう場合はいかがでしょうか。
○藤原参考人 三菱UFJ信託の藤原でございます。
  ほかの信託銀行さん,同業他社さんがどういう状況なのかは私も直接存じ上げないのですけれども,少なくとも当社に関しては当初から不動産でというような御要望を承った事例というのは私の知る限りではございません。
○岩田参考人 お聞きする範囲でございますけれども,一般公益信託でも相続税の関係で少なくとも特定の要件は満たすような形でお願いしているというケースはやはり大多数だということでお聞きしております。
○中田部会長 小野委員,よろしいですか。
  ほかに。
○沖野幹事 個別案件で恐縮なのですけれども,こちらのアンケート調査結果の5ページの所です。5ページの一番最初の所に主務官庁に事前相談したところ許可困難との反応があったものに該当した案件についての具体的な内容とあり,東日本大震災の遺児について震災時小中学生を対象としたというものについて相談したところ,未就学児も含むように求められたとあります。これは具体的には認可基準のどれが問題だということなのでしょうか。不特定多数の要件を満たさないということなのでしょうか。助成対象地域が限定されていたというのは地域の限定いかんによってはそうかなというふうにも思うのですけれども,未就学児の方はこれでやはり不特定多数は無理なのかという感じもするものですから,どういうところが問題であったのかということをお聴かせ願えればと思います。
  そして,その後の処理ですが,こういうことがあった場合には求めに応じて拡大してそして信託が設定されてはいるのか,それともそれは委託者の趣旨に沿わないということで断念されるということになったのか,それはお分かりになりますでしょうか。
○岩田参考人 前者の困難という指摘を受けた点なのですけれども,ここは残念ながらヒアリングできてなかったということなのですが,恐らく許可基準の,御指摘のとおり,「積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならない」というところだったのではないかとは想像されます。
  それで,このてん末ですけれども,ちょっとここは分かりません,寄附だけにしたのか断念されたのかというところは,すみません,ちょっとそこは把握できなかったところでございます。
○中田部会長 ほかに。
○小幡委員 私も今の件に関連してでございますが。アンケートのところで受益範囲の問題があると思われたケース,4ページにたくさんございまして。これは感想ですが,公益法人などの方が,例えば特定の大学等についても,大学に入るのは全員に開かれているからというようなことで割と公益性が緩い場合もありますので,それに比べるとかなりきついのかなと。ただ,地域の範囲ぐらいですと普通は大丈夫なのですかね。どこまで求められるのかなという,先ほどのとも関連しますが。
  それからもう1点は,報酬の基準について制度改善が望まれることという8ページの所でかなりいろいろ報酬についての記述がございますが。例えば認定特定の場合には事務量が非常に増えるけれども,それが反映されないというような話,これはただ認定になるから幾らというのはなかなか難しいのかと思うのですが。いずれにしてもこの基準については,一番最初に決めたのが変えられないとかいうのもございますが,この基準について,私分からないので質問ですが,非常に厳しく決められていて,もう契約後は動かせないというような状況になっているのかというのをお伺いできればと思います。
○中田部会長 今の2点についていかがでしょうか。
○堤参考人 それでは,三菱UFJ信託の堤から御回答いたします。
  まず1点目の受益の範囲の件なのですけれども,確かにおっしゃるとおり地域の限定につきましてはある程度認められていると思っております。私どもが回答したアンケートの回答ではない部分ですが,他社さんがそういうふうに思われているということかと思います。
  2点目の報酬につきましては,一般的に公益信託の場合は一応弊社の中では1,000分の15の報酬以内という形でやらせていただいています。ただ,そうは言っても,ここはまたいろいろと内部の規定等ございまして,それ以下のかなり低いレートで実際は引き受けていたというのが事実でございます。そういう状況の中で昨今は弊社だけでなく他社さんにつきましても1,000分の15になるべく近い報酬を頂くということで個別に委託者とあと主務官庁さんと交渉して,できるだけ事務負担のコストに見合う分ということで頂こうと努力はしているのですが,先ほどの引受事務の所にある人件費その他の必要な費用を超えないというここがどうしてもなかなかクリアできなくて,従来の1,000分の15以内というところ,以上はどこの他社さんも頂いていないかと思っています。
  あと,報酬が途中で変えられないかというところにつきましては,これは御存じのとおり昨今の金利の状況が昔と大きく違っておりますので,そこの運用の状況とか,あと助成をしていきますと財産の減り方も変わってきますし,一部の基金につきましては寄附とか委託者からの追加信託があったりして資金の増減がございますので,そういったところの資金の増減と,あと実際の応募件数が急に増えたり急に減ったりというところもございますので,そういったところを反映して運営委員の方々とか信託管理人の意見を聞いて,ちょっと上げることがあったかどうかは知りませんけれども,上がったり下がったりということは絶対できないということではございません。
○中田部会長 ありがとうございました。
  大体よろしいでしょうか。
○山田委員 既に御発言出たところにも重なるのですが,公益信託の件数というのを今日お配りいただいた資料を通して見ながら質問したいのですが。
  一つは,最近増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかということです。この公益信託,その制度のあらましというところの一番後ろの方,43ページを見ますと,資料2の公益信託目的別受託状況というのがありまして,平成26年9月末現在で498件となっています。ニュースリリースが今年の6月6日発行で,そして今年の3月末現在では1ページ目の二つ目の○ですが,479件とありますので,1年半で約20件減少していると。新規に設定されたものもあろうかと思いますが,差引きで少し減っていると,そういう現状かどうかということが一つ目の質問です。
  それから,二つ目の質問は,一番近いところで言うと479ですが,これの内訳なのですが。一般公益信託と特定公益信託と認定特定公益信託と税制上の扱いで3分類されると思うのですが,それがアンケート調査結果についてというのをお配りいただいて,この1ページ目の2の表,AからEまでの合計が出ていないのですが,これ縦に手で足していきますと,一般公益信託が320件程度,特定公益信託が110件程度,認定特定公益信託が40件程度になるのですが。大体そんな数字で,要するに現状の税制上の取扱いの区別で言うと3分類分かれるというのでいいのか。これが二つ目。
  それから,三つ目ですが,ちょっとまたすみません,その制度のあらましに戻りますが,どこかに日本地図が載っているページがあったのではないかと思いますが。別ですかね,日本地図が載っているのは。ニュースリリースですか。失礼しました。ニュースリリースの6ページですね。6ページの上の方に見出しがあって,その下に○全国ベース,○都道府県ベースとありますが,このベースというのが許可をしたのが中央官庁なのか都道府県,知事部局と教育委員会を含むのでしょうか,ということを指していて,そうだとすると中央官庁許可件数が158件で,都道府県が321と。これを足すと479になりますので,ちょうど1ページ目の直近の479にも合うのですが。そういう数字として見てよいのかどうか。
  ちょっと三つ申し上げましたが,お教えいただけると幸いです。
○岩田参考人 まず,日本地図にある全国ベース,都道府県ベース,おっしゃるとおり主務官庁でございまして,9省庁,45都道府県ということで,3分の1が全国ベースで,3分の2が都道府県,地方の主務官庁ということで御理解いただければと思います。
  二つ目の税制上の区分ですが,アンケート調査結果の1ページ目の2.にあるとおり,一般公益信託がやはり多いと。その次に特定,認定に続くということで,税制上の区分の比率は今回3月末の区分をとってはおりませんけれども,大体この比率と同等と見てよろしいかと思います。
  三つ目の減少傾向があるという内容なのですけれども,新規の設定ですが,ここ5年ほどで新規設定については3,4件というのが大体アベレージでございまして,それを上回るペースでの減少というか基金の終了があるということが減少傾向の主因ということで捉えてよろしいかと思います。
○山田委員 ありがとうございます。よく分かりました。
○中田部会長 大体よろしいでしょうか。
  それでは,3人の参考人の皆様には貴重なお話を頂きまして,大変ありがとうございました。
  続きまして,部会資料31を御参考にしていただいた上での意見交換に移りたいと思います。部会資料31について,事務当局から御説明を頂きまして,その後意見交換に入りますが,その途中で一旦休憩を挟む予定でおります。それでは,御説明をお願いします。
○中辻幹事 それでは,部会資料31の内容について御説明いたします。
  本日は公益信託法の見直しについてフリーディスカッションをしていただくという位置付けの会です。そこで,皆様には個々の細かい論点ではなく,全体的な大きな視点から忌憚のない御意見を頂ければ有り難いと考えておりまして,その材料という趣旨で部会資料31は作成しております。
  資料の標題に「主な検討課題の例」とありますとおり,この部会資料に載っている課題は私どもが主な課題と考えているもので,この資料に載っていない課題は今後取り上げないという趣旨ではございません。また,この資料の最後にその他という項目を挙げておりますが,主な検討課題としてこの部会で重点的に取り上げるべき論点とお考えのものがありましたら適宜御教示いただければと存じます。
  今回の資料の構成ですが,まず第1「総論的な事項」で見直しの基本的な方向性等の課題を記載し,その後第2「公益信託の認定に関する事項」,第3「公益信託の監督・ガバナンスに関する事項」,第4「公益信託の終了事由等に関する事項」の各項目で,公益信託の設定から終了までの段階ごとの課題を記載し,最後に第5「その他の事項」として公益信託の名称等の課題を記載しております。
  それらについて一つずつ簡単に触れておきますと,まず第1の1「見直しの基本的な方向性」は,公益信託の見直しに当たっては,公益財団法人と比較してコストが低廉で小回りが利くという公益信託のメリットや,利用者の関心が大きい税制上の優遇措置を視野に入れつつその適正な利用を促進するために必要十分な仕組みを整えることを基本的な方向性とすることが相当ではないかと私どもは考えておりますが,その是非について御意見を頂きたいということです。
  次に,第1の2「信託事務及び信託財産の範囲」は,現在の実務では参考資料4の許可審査基準及び税法の存在により,公益信託の信託事務は奨学金や研究費の支給等の助成事務に限られ,信託財産も金銭に限定されているところ,例えば委託者が土地建物や美術品を信託財産として拠出し,受託者が美術館の運営等の助成事務以外の信託事務ができるようにすることによって利用者の多様なニーズにこたえられるようにすべきであるとの指摘がございます。
  もっとも,公益信託で公益法人と全く同じことができるようにした場合には,軽量・軽装備という公益信託のメリットが失われる可能性があることから,公益信託の受託者が行う事務は公益目的の信託事務及びそれに付随する信託事務に限定すべきであるという御指摘もございまして,これらの点が課題になるということです。
  第1の3「公益信託の受託者の範囲」は,現在は公益信託の受託者が信託会社である場合を除き税制優遇を受けられないことから,公益信託の受託者のほとんどは信託銀行となっておりますが,将来の公益信託の在り方を見据えた場合に,受託者としてどのような範囲のものを認めるかが課題になるということです。
  これら第1で総論的な事項として挙げさせていただいた課題は,公益信託の設定から終了に至るまでの個別の論点を検討するに当たってのバックボーンとなる事項であり,恐らく継続的に考えていくべきものですが,本日御議論していただくテーマとして特にふさわしいのではないかと思います。
  第2から各論的な課題に入ります。第2の1「主務官庁による許可制の廃止」は,現行公益信託法が昔の民法の公益法人と同じく主務官庁による許可制を採用していることの是非について以前の部会での議論をまとめました参考資料3の後ろの方に記載されておりますとおり,10年前の信託法部会ではこの主務官庁制を廃止する意見が多数を占めておりましたが,この度信託法部会の委員・幹事等の一部の交代もありましたので,改めて課題として挙げたということです。
  第2の2「公益信託の認定基準」は,現在の行政実務では法律や政令ではない許可審査基準が許可基準とされているわけですが,行政手続の透明化の要請からは認定の基準は法令上明確化した方がよいのではないか,そしてその際に新たな公益法人の公益認定基準も参考としつつ,公益信託についてどのような認定基準を定めるのかが課題になるということです。
  もっとも,公益信託の認定基準として検討する必要があるものは多数あると考えておりまして,その個別の基準の要否について踏み込んだ議論をするためにはある程度まとまった時間を要します。次回以降にその時間は設けることを予定しておりますので,皆様が特に重要であると考えておられる基準についてこの時点で御意見を述べていただくことは一向に差し支えありませんが,それを深める議論は次回以降に行っていただければと思います。
  第2の3「公益信託の認定の主体」は,仮に主務官庁による引受けの許可制を廃止した場合に新たな認定の主体としてどのような機関が考えられるかが課題になるということです。
  第2の4「公益信託と目的信託の関係」は,新信託法において公益信託は受益者の定めのない信託,すなわち目的信託の一類型として概念的に整理されているわけですが,その関係性等について再度確認しておく必要があるのではないかと考え課題としているものです。
  第3の1「監督・ガバナンスの全体像」ですが,現行公益信託法は公益信託を主務官庁の包括的な監督の下に置いており,言わば受託者の箸の上げ下げまで主務官庁が面倒を見るという構造になっております。けれども,民間を主体とする自律的な公益活動として公益信託をとらえるならば,まずは公益信託内部のガバナンスを充実させ,足りない部分を外部の第三者機関が補うという発想があり得るところ,そのような全体像のとらえ方が課題になるということです。
  第3の2「公益信託の信託管理人」ですが,公益信託事務を行うのは受託者であり,信託法上はそれを監督する主体としてまずは受益者が出てくるのですが,公益信託は受益者の定めのない信託として位置付けられています。そうすると,受益者に代わる公益信託の監督の主体としては,信託法上の信託管理人が中心となるのではないかと考えられるところであり,公益信託を設定する場合に信託管理人を必置とすべきか,またその資格要件や権限の内容が課題になるということです。
  第3の3「公益信託の委託者」ですが,公益信託の適正な運営の確保という観点からは,一旦公益信託を設定した後は委託者がそれに関与することはできるだけ少なくなるよう権限を限定すべきという御指摘がございます。もっとも,新信託法では旧法より委託者のデフォルトの権限を縮小した上で,当事者の合意によりそれを拡大又は縮小することを可能としているところ,信託法第260条により,受益者の定めのない目的信託では受益者の代役として委託者の権限が強化されているということもあり,それらの権限のうち公益信託の性質に適合するものを委託者が行使できるようにすべきであるという指摘もございまして,公益信託の委託者の権限の範囲等をどのように考えるべきかが課題になるということです。
  第3の4「運営委員会等」ですが,これは許可審査基準に定められており,現行実務で奨学金の給付先等を決定することを主な機能としている運営委員会等を新たな公益信託法にどのように位置付けるべきかが課題になるということです。
  第3の5「外部の第三者機関」ですが,仮に公益信託内部の自律的な監督・ガバナンスを充実させることを前提とした場合,外部の第三者機関の監督権限は公益信託の認定基準への適合性を確保するために必要な限度とすべきであるという指摘があることを踏まえて,その監督権限をどのような範囲とすべきかが課題になるということです。
  第3の6「情報公開」ですが,現在は年1回官報に公告されている程度の公益信託の情報公開を,信託と法人との制度の相違により導入できないものは除いて,公益財団法人のように公開度を高めていくことが課題になるということです。
  第4の1「公益信託の終了事由」ですが,四宮教授,能見委員の信託法の教科書にもありますが,旧信託法の当時から公益のために財産を拠出する公益信託では,一般の私益信託とは異なり,当事者の合意による信託の終了は認められないと解釈されてきたところ,そのような特則を含めて公益信託の終了事由をどのようなものとするかが課題になるということです。
  第4の2「公益信託の終了時における信託財産の帰趨」ですが,現行公益信託法第9条は,できるだけ公益目的のための信託は継続させた方がよいという発想の英米法上のシプレ原則を採っているわけですが,これを維持するか否か,またその周辺の話として公益信託終了時の信託財産の帰属先が課題になるということです。
  第4の3「公益信託と私益信託の相互転換の可否」ですが,現在はそのような相互転換は認められていないところ,利用者の便宜の観点からは転換を認めるのが相当であるという御指摘もあり,その是非が課題になるということです。
  第5の1「公益信託の名称」ですが,公益信託法に公益信託という名称を付することを義務付けるべきか否か,また公益法人と同様に公益信託の名称を保護するべきかが課題となるということです。
  第5の2「公益信託法の現代語化」ですが,今回の改正により,現在片仮名文語体の公益信託の規定は全て現代語化することを予定しておりますので,その際特に留意すべき点がないかが課題になるということです。
  第5の3「移行措置等」ですが,現在500件弱の公益信託が信託銀行を受託者とするものを中心に現に運営されているところ,それらを新たな制度の下に移行させる際に,どのような移行措置を採るべきかが課題になるということです。
  第5の4「その他」は,今回再開しました信託法部会において主に検討すべき事項として更に取り上げるべき課題がありましたら御教示願いたいというものです。
  私からの御説明は以上です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  それでは,ただいまの御説明を踏まえまして意見交換に移りたいと思います。ただいま中辻幹事からお話がありましたとおり,本日は細かい論点について踏み込んだ検討をするというのではなく,それはむしろ次回以降に行っていただくということを前提にいたしまして,大きな視点からの御意見,特に重要と考えられる点についての御指摘等々を頂ければと存じます。
  幾つかに分けて御審議いただきますが,休憩前にまずは第1の総論的な事項について御検討いただければと存じます。
○樋口委員 大きな話からというので,これは,また前置きが長くて能見委員に怒られそうですが。本当はあなたがきちんと調べるべきだと言われそうな話なのですけれども。結局これチャリタブルトラストという公益信託というのは一応英米に,イギリスに源を発していてということで,特に信託を公益のために使うという伝統のある国々があるわけですよね。それから,別に英米に限らなくていいと思うのですけれども,やはり私財を公のために,みんなのために使ってもらいたいという立派な心懸けの人はどこの世界にもいて,それを制度の中に組み入れて何とかしているというのはどこの国でもあるはずなんですね,信託だけではなくて。
  そういう中で,日本で行われている公益財団法人と公益信託というまず規模が問題ですよね。どの程度のものなのだろうかと,ほかの国と比べて。先ほど件数の増加とか減少という話もありましたけれども,特に日本の場合公益信託というのは一番初めの説明にもあったように,実際には制度は法律上はずっとあったのですけれども,昭和52年まで使われないという状況でした。その後も細々ととはいえないかもしれない,600億円あるのだから私なんかにはとても言えませんけれども。やはり信託財産の総額から見ればそれほど大きな割合を占めていないように見える。だから,ほかの国々でどういう形にどの程度の規模になっているのかという話を,何らかの形で比較法的な見地から調べて資料としてきっと出してくださるのではないかなと思って期待しているということが第1点です。
  例えば私の感じで言うと,例えばイギリス法以来公益とは何かというのがずっと昔から向こうの国でも議論していて今日先ほど議論もありましたけれども,やはり日本では非常に狭いような感じがするのですよね。不特定多数の利益という定式の「多数」がものすごく多数でないといけないというような感じがする。だから使いにくくしているのだと思いますけれども。
  そういう中で,例えば公益の第1番目にくるのは,これは順不同だと思いますけれども,やはり貧民救済なのですね。歴史的には。だから,最近の子供食堂みたいな話がありますよね,ああいうのは,本当は信託の形でやれるのですね,やろうと思えば。だから,そういうものとか。これはちょっと裏をとっていないので研究者としてはいかんのですけれども,シドニーのオペラハウスに遊びに行ったときにいろいろ案内してくれる案内人の人がいて雑談をしていたのですけれども,一体これらはどういう人たちが運営しているのだ,と尋ねると,これがチャリタブルトラストだと言うのです。だから,ああ,こういうものも信託という形で運営していてやっているのかというようなことも感じましたので。
  ちょっと繰り返しになって恐縮ですけれども,日本とオーストラリアだけでなくていいのですけれども,それ以外の国で私的な財産を公益のところへつなげる仕組みというのがどういう,日本人はなかなかそういうことが国民性でできないのだとは私は思いたくなくて,やはり制度的なものがあって広まっていないということがあれば,それはまさにここで考えるべき問題になるだろうというお話が一つ。
  もう1点だけですけれども。もう一つの興味は,日本では公益財団法人あるいは公益法人というのがずっと根付いているわけで,それに加えてこうやって公益信託というのが並行してあるという面白い状況になっているのですね。そうすると,今日も幾つかの場面では出てきましたけれども,公益財団法人という制度ができて動いているわけですから,それとの関係でまず入り口の公益の認定のところで今度の公益信託というのは全く同じにしていいのだろうかという話があります。マネジメントであれ,何らかの違いがあるか否か。さらに,実際には公益信託は助成事業しかやっていないという,やらないと言うのですかね,そういうようなことをどう考えるか。それは役割分担でほかのところは公益財団法人でやるのですよということなのでしょうか,それが日本のやり方ですという話であればまたそれはそれなりに理解もできますけれども。
  それから,受託者の方も,先ほど聞けばよかったのですけれども,やはり信託銀行でなければいけないのだろうかというのが最大の問題になると思うのですね。多分社会貢献だと思ってやっておられるのでしょうけれども,やはりそれ自体は収益事業では多分ない,報酬も1,000分の15よりもずっと下でやっていますというお話もありましたので,そうするとどういう人たちを受託者として想定して考えるかが重要な課題となります。それでないとこれ結局受託者がいなければ信託はできないので。だから,そういうことが重要になる。
  そのときに,それは受託者というのは公益信託で出てくるので,公益財団法人のガバナンスと比べてどういうことがやはり違いとしてあって,しかも違いとしてあっていいのだという話がどのぐらい出てくるのかということを,私も少し勉強するという約束はしますけれども,議論の中で出てくると有り難いかなと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。各論的な点につきましてはまさにこの審議会でこれから御検討いただくことになろうかと存じます。
  公益財団法人と公益信託との関係についての比較法的な調査というのも,できる範囲でこちらでもしていただくことになると思いますし,また樋口委員その他の皆様からも是非いろいろお教えいただければと存じます。
○吉谷委員 今樋口委員から資産規模はどのぐらいだろうというお話もございましたけれども,先ほどの御説明の中では余り出てこなかったかもしれませんが,私がお聞きしている範囲では1億から,20億とかいうのはそれほどまずなくて10億を超えるような分はまず少ないというふうに聞いています。せいぜい1,2億程度のものがあって,個人の方か企業の方かというのでまた規模も少々変わってくるかとは思いますけれども。やはり余り,ちょっと私は公益法人の方の規模は余り存じておりませんけれども,余り大きな金額のものは実績としてはないということであろうと思います。それが10年とかの間で徐々になくなっていくというようなイメージかと思います。
  私の方からは,この総論的な事項の中では見直しの基本的な方向性の点につきまして2点発言したいというふうに思っております。
  一つ目は,税制上の優遇措置というものであります。これはやはり公益信託を行う委託者にとりましては税制上の優遇措置があるということが公益信託を検討するに際しては前提になっているというふうに考えます。この優遇措置がなければ法改正をしても公益信託の利用促進に資するかどうかというのはちょっと疑問であると思います。利用者の利便性の観点から申し上げますと,公益認定されれば優遇措置が適用されると,このようなセットの仕組みになっていることが望ましいというふうに思われます。ですので,この点を意識した議論が必要ではないかというふうに考える次第です。
  2点目でございますが,これは簡素な仕組みということでございます。公益信託は簡素な仕組みであるということが重要であると考えます。公益法人に比べると軽装備であるということでございまして,今までにつきましては受託者である信託銀行の組織と事務所,従業員によって運営することで低コストなオペレーションというのを行ってきたわけでございます。先ほど御説明にもありましたように,現在はどちらかというとコスト以下の報酬しか得ることができないという実情がありまして,それはともかくとしまして,このような専門の法人組織や専任の人員を持たずに運営できるという特徴があると思います。それがゆえに独立した公益目的のための事業を財産規模が1億円程度でも始められているのだということかと思います。このような特徴を維持することが今回の法改正においても常に意識していただきたいと思います。
  信託の実務では,公益信託に限ったことではありませんけれども,信託契約におきまして信託目的の達成に必要な限度で信託事務処理の範囲というのを限定しております。つまり,受託者の裁量を上手に限定するということによりまして,簡素なガバナンス構造というのを成り立たせていると思います。ですので,公益信託においてもこのような信託の特徴をいかした法制度にするということが望ましいというふうに考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 公益信託と目的信託ですけれども,ここで発言した方がよろしいですか。
○中田部会長 目的信託と公益信託の関係については各論の第2の4でございますので,そちらでお願いできますでしょうか。
○松下幹事 先ほど資料31の説明で,第1の2で,信託事務及び信託財産の範囲が現在の許可審査基準で限定されているという御説明がありましたが,信託事務がその資金又は物品の給付等を行う助成事務に限定され,信託財産が金銭に限定された趣旨というのが一体何だったのかということを,不勉強で承知していないので教えていただければと思います。
  更に言えば,その下の段落の2行目,美術館の運営のような例ですね,こういうものを積極的に排除する趣旨があったかどうか,もし分かれば教えていただければと思います。
○中辻幹事 恐らく,公益法人との対比で公益信託はその実用化の段階から金銭等の助成型が想定されており,また,公益信託の仕組みを使って悪用がされないようにするためには簡素で安定的な仕組みが望ましいという考え方から,許可審査基準において,公益信託の信託事務は,原則として,金銭の給付等を行う助成事務に限定されてきたのではないかと考えています。「原則として」なので,美術館の運営のような例を積極的に排除するまでには至らないものの,事業型の想定はほとんどされておらず実務では認められてこなかったということになろうかと思います。
  なお,税法につきましては審議の冒頭で触れましたとおり,財務省の方から一度御説明の機会を頂くことを検討していますので,その機会に伺えればと思います。
○中田部会長 最後におっしゃった税法との関係で,金銭に限定されていることの趣旨については,専門家の方から更に詳しく御説明いただくということになろうかと存じます。
○平川委員 議論の範囲なのですけれども,信託事務及び信託財産の範囲というのを検討する中で,受託者の自己執行責任という観点から,信託事務の委託ができる範囲とか委託先についての縛り,利益相反とかいろいろ公益信託を使って悪事を働こうというような観点からは,例えば非常にファミリーの企業に丸投げして信託事務をして報酬でガッポリ抜くとか,いろいろな利益相反。また,専門性,今の普通の信託業法における信託でも委託先について専門性とか経験というのを要件にしていると思うのですけれども,委託先についての縛りということも一緒に議論していただければと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。それは各論のところで受託者の義務あるいは公益信託の監督・ガバナンスという辺りで出てくるかと存じます。
○小野委員 見直しの基本的な方向性というところの議論ですが,普通の発想からしますと公益信託と公益財団法人とを比較し整合性を検討するというのが最初にくるというのはもちろん理解するところではありますけれども,財団法人制度に関しては一般財団法人というのももちろんございまして,このうち税務上の扱いで公益財団と重要な点では変わらない非営利型の一般財団法人と公益信託あるいは営利を目的としない,公益的,共益的活動を目的とする目的信託と比べる視点も必要と思います。公益信託なのだけれども許可が取れない,あるいはそもそも取らないというものを考えたときに,こうした一般財団法人との比較において果たして整合性がとれた制度なのかどうか,財団という形で大規模に美術館を運営するということがあるかもしれませんけれども,もうちょっと小規模なコレクターがいたときに公益信託を利用するという選択肢があってよいところ,公益性の有無の判断で不特定多数という要件を満たしていないとか,また税法上の細かい要件を満たしていないということで公益信託としての許認可がとれない,税務上の特定をとれないものでも,誰が見ても公益的なことは疑いようもない例もあると思います。
  言い方を変えると,財団法人においては,社団法人もそうですが,収益事業と非収益事業とを分けて収益事業に課税されているのは御存じのとおりと思うのですけれども,そのときに非収益が全部純粋に公益かというと中間的なものもあるかと思います。先ほど申し上げた公益と私益の境界の話でもあります。
  ということで,公益財団法人との比較というのは当然ですけれども,制度間の整合性を考えるときには非営利型の一般財団法人とか,組合など他の事業体との比較ということも重要かと思います。税法が非常に重要という吉谷委員がおっしゃるとおりですし誰もが認識するところですけれども,一方この場は税法の議論は特にはする場ではないということも認識しておりますけれども,他制度と整合的な議論をすれば税法もついてくるところもあるのではないかと思います。
  あともう一つは,受託者のところですけれども,何か利害関係のある議論ではなくて,公益信託の担い手としてはどういう方が適切かという議論と思います。それが多額の金銭を預かるとかいうことになればそれなりに危険性とかいうことも加味しなければいけませんし,それが美術品とか私の想像力を超えるような公益目的の財産ということであれば,それにふさわしい適格性,またリーガルという観点ですれば,手前みそですけれども弁護士がふさわしく,それぞれ観点が全く違うかと思います。ですから,公益信託の信託財産の種類や信託の目的というところから受託者の適格性についても考えていくことが必要と思います。
  そうすると,その一つの方向性としては,では今の信託業法の建付けである金融庁が監督するということが適切なのかどうかということにもつながると思うのです。
○中田部会長 ありがとうございます。第1点につきましては先ほど新井委員からも御発言していただきかけたところですけれども,また各論の公益信託と目的信託との関係という辺りで更に御議論いただけるかと存じます。
  第2点につきましては,第1の3の受託者の範囲というところについて基本的な考えを示していただいたと存じます。また具体的に受託者の範囲について詳しく御議論いただくことになると存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○小幡委員 今日はフリートーキングということでございますので。先ほどからも御意見も出ておりますが,やはり今回の見直し作業というのは公益財団法人という制度,公益法人制度がいまのように法律が変わりまして,その中で位置付けられている。実は私は中田部会長の後,東京都の方の公益法人等審議会の会長をさせていただいておりますが,奨学金であるとか各種助成金であるとか似たようなものというのは公益財団法人でもたくさん出てまいっております。そういう制度が一方である。そこは法律で決まっておりますので,立入り検査などをしながら今は必死に監督をしている状況でございまして,逆に信託銀行さんのような金銭的な経理管理が完全にできるところとはいえないところでもやっているところも若干ありますので,そういうことも含めて監督しています。ただ,それだけではなくて,いろいろなほかの仕事,業務もやりながら収益事業も含めて活動して,そこで収益を出してそれをまた公益事業に還元すると,そういう少し大きな枠でできているのが公益法人ではないかと思っております。
  その上で,今回もう既に公益信託もそれなりに根付いていて,今先ほど御説明ありましたようにかなりの件数があると。多分今回それを更にできるだけ発展させた方がよいということでの議論なのだろうなと思うのですが,他方で公益法人制度はあり,その上で公益信託を位置付けるときに,もっと活動の範囲を広くしてアクティブに働かせようというために,例えばより監督がきつくなったりとか,そういうことで今までのやり方が逆にやりにくくなるとか,簡素な制度であるということがメリットだったとしたら,それが逆になってしまうというのはこれはまずいのかなと思います。ですから,公益信託なりのよさということをできるだけいかしながら,今先ほどもございましたように,ただ引受け手の信託銀行さんがほぼ全くコスト割れみたいなことでやってくださっているということをそのまま続けていてよいのかということはあろうかと思いますし。そういう手直しをしつつ,金銭だけ,財産もということなのか,ということです。ただ,恐らく収益事業までさせるということになるとこれは大変かと思いますので,これは各論に関わることかと思いますが。そういった観点から簡素さというメリットをいかしながら,多少今までの不具合を直しながら現代の要請に合わせていくという改正の方向ではないかと思っております。
  その中でやはり税法は後でついてくるという話もありましたが,そこら辺は非常に難しいのですが,税法のメリットがないとやはり制度が成り立たないということもございますので,税法の優遇が得られるということを見据えた中での制度設計をしていく必要があるのではないかと思っております。
  ただ,公益の範囲については,先ほどから公益とは何かという話がございましたが,公益法人の方がある程度,「公益」が広がっているという現状がありますので,公益信託の方が今は狭いということがありまして,これを税法上の優遇を取る上でもう少し逆に広げても公益法人がありますので可能かもしれないと思いますので,少しそこは広げる可能性はあると思っております。
○山本委員 2点申し上げたいことがあります。
  1点目は,先ほどから公益信託についての現状について様々な御紹介があり,それはよく分かったのですけれども,例えば公益信託の対象が現状では金銭に限定されているのをそれ以外のものに広げるというようなお話もありましたが,そういったことについての実際のニーズがどれほどあるのかという点については,はっきりとしたデータがあるわけではなく,難しいのですけれども,何らかの調査ができないものかと思いました。ただ,これは非常に難しいことでして,このような制度があれば使いますかといった調査は簡単ではありません。むしろ現状では公益財団法人があるわけですので,あるいは公益財団法人で公益認定を受ける際に様々な障害,支障あるいは問題点等があった,そこからすると,例えば公益信託制度がこういう形であれば魅力があると感じるというようなつながりになるのかもしれません。そういったニーズに当たるような調査がもしできれば,立法を考えるに当たって参考になるのではないかと思います。しかし,これは,問題提起ということにとどめさせていただきます。
  もう1点は,第1の2にある「信託事務及び信託財産の範囲」についてです。ただ,細かい点は次回以降に検討するということですので,その際に御検討いただければということを一つだけ申し上げておきます。第2段落で,考えられる指摘としては,公益信託の受託者が行う信託事務を公益目的の信託事務及びそれに付随する信託事務に限定して,それら以外の信託事務,収益事務等は除外すべきであるという提案があるわけなのですが,これは,それぞれの概念の意味をもう少し明確にしていただけないかと思いました。例えば,参考資料を見ますと,美術館の例を挙げて,公益目的の信託事務とそれに付随する信託事務の中で,例えば美術品のグッズを売ったり,喫茶店を経営したりというものが挙げられていましたけれども,これらと収益事務等との関係がもう少し明確にされる必要があるだろうと思いました。また,例えば留学生向けの学生寮を運営する場合には,公益目的の信託事務と収益事務等が切り分けられるのかというような問題もありそうです。
  その辺りの整理がされないと検討が難しいように思いますので,次回以降に詰めをお願いできればと思います。
○中田部会長 第2点につきましては今の御指摘のとおり,具体的に検討する際に御指摘を踏まえてその概念の明確化を事務当局というよりもここで詰めていくことになろうかと思いますけれども,事務当局の方でも御検討いただくことになろうかと思います。
  第1点につきましては調査といってもなかなか難しいかもしれませんけれども,今日の参考人のお話もその一環かと存じますが,できるだけ資料が集まりやすいようにしていただければと存じます。
○平川委員 またちょっと周辺のことで申し訳ないのですけれども,これ受託者の範囲と関係すると思うのですけれども,受託者の範囲が信託銀行とか信託会社などそういう監督されているところだけではなくてもっと一般に広がるとした場合には必ずしも信託契約に精通した人が受託者になるわけではないので,信託契約締結代理媒介業みたいなことを業にする人が出てくると思うのです。今民事信託の代理媒介については割とガバナンスとかがどこにも属さないのでちょっと野放図な感じになってしまっていると思うのですけれども,この公益信託契約代理媒介業みたいなものについて何かガバナンスを効かせるような規定を入れる必要があるのかないのかとか,そういうことも併せて検討していただければと思います。
○中田部会長 それでは,今の点,今後各論を検討する際に留意して必要に応じて資料なども集めて,あるいは平川委員がもし御存知でしたらいろいろお教えいただければと存じます。
  ほかにございますでしょうか。
○渕幹事 第1の見直しの基本的な方向性についてですが,委員,幹事の方々からの御発言でも度々ございますとおり,税法上の優遇措置が重要であって,かつそのことについてしっかり検討することが必要ということは確かだと思います。
  それに加えて,税法上の優遇措置を利用していない公益信託も実際にあるようですが,第2のところで信託財産の範囲がこの提案どおりいきますと広がるということになりますが,もし信託財産の範囲が広がるということになると,現在あるような意味での税法上の優遇措置以外の税法上のメリットが当然に出てくる可能性があると考えます。
  例えばですが,税法上の優遇措置ということで,基本的には所得課税の世界でいろいろなことをこれまで考えてきて去年の研究会報告書もそういうことについて非常に多く言及されているわけでございますが,税法には所得課税以外にも資産課税ということで相続税もございます。その相続税法上のメリットというか,例えば公益信託に家族が経営している会社の株を持たせて,何代も相続を繰り返すというようなことがうまくできますと,本来何回も掛かるべき相続税が余り掛からないで済むということがもしかしたらあるかもしれません。
  ということで,税法上の優遇措置のみならず,税法全般の公益信託についてどこを変えるとどういう税法上のメリットというか節税に使える可能性が出てきて,ともすれば財務省の方でどういう措置というか規定を適用するということになるのかと。それが翻って我々がここで考えている公益信託について幅広く利用してほしいという方向性について阻害要因にならないかというようなことまで含めてこの部会で検討していただければと思っております。
○中田部会長 ありがとうございました。是非,渕幹事におかれましては広い観点から税についてお教えいただければと思います。
○吉谷委員 私からは先ほど山本委員がおっしゃった2点目と同じような趣旨でございますけれども,公益事業と収益事業で分けるというふうに考えた場合に,その定義あるいは境界を明確にすることがやはり実務上は非常に必要であるというふうに考えております。
  今おっしゃられたところとの関係で言うと,例えば今は金銭を当初信託財産としておるのですけれども,その運用としては預金であるとか国債等の安定的な資産だけに信託銀行は運用しているというのが現状でございます。これは先ほどおっしゃられたような株式であるとか債権であるとか,あるいは組合出資であるとか信託受益権であるとかそういったものにどんどん広げてできるというふうにしてしまいますと収益事業との区分が非常に曖昧になってくるというふうに思われますので,そういうことも検討の視点としては必要なのではないかなと思っております。
  また,先ほどの不動産につきましても,直接公益事業に使わないような不動産を仮に信託できるのだとした場合には,それを売却して金銭化するか,あるいは賃貸借で収益を得て金銭化するかということが考えられるわけではありますけれども,それは一体どこまでなら認められるのか,あるいは認められないのかといったことがはっきりしていないとなかなか受託をする際に考えることができないということでして,後からその認定基準に違反するとか受託者の義務違反になるとかいうことになるのでは困ってしまうというふうに考えているわけであります。例えば不動産は売却はできるけれども,賃貸はできないよとしたときに,賃貸物件を最初信託したというような場合には当面は賃貸収入があってそのうち売却に至るというようなことにもなりますので,そういった具体的なイメージを持って基準というものが作られることが必要なのではないかなというふうに考える次第です。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 私も,私有財産がもっと公益のために用いられて,よりよい社会が実現するということになるととてもよいことだろうというふうに思いますが,意見のバランス上一言だけ申し上げておきたいと思います。
  仮に例えば公益法人に関する現在の法制度のもとでここが使いにくいということがあったとしても,そのことに合理性があるのならば,変える必要はないのだろうと思うのですね。使いやすくするというのがそれ自体でアプリオリに価値があるわけではなく,当然によいことであるということにはならないわけであって,適正な規律というものが必要なのだろうと思うのです。
  したがって,公益信託がより使われるようにしようというふうに部会の目的を措定するということには私は必ずしも賛成できません。また,部会の議論において,これは公益信託ではなくて公益法人に係る法制度をこのように変えるということによってこそ対応すべきであって,公益信託にその部分を任せるべきではないという判断が下されるならば,それは一つの判断だろうと思うのですね。
  民法債権法改正に関する法制審の部会において,2,3回出た発言で私が非常に気になっていることがあります。それは何かというと,仮登記担保法は失敗だった,なぜならば,仮登記担保法を作ったことによって仮登記担保は使われなくなったからだ,というものです。私は,その理解は根本的におかしいと思うのです。あの法律は仮登記担保を適正に規律しようとするものであり,そうなるとうまみがなくなったため,仮登記担保が使われなくなったというのは,大変望ましい結果が出たものだろうと思います。
  仮登記担保法を作るとしても,そのことが仮登記担保がよりたくさん利用されるようにしようということとは当然には結び付かないわけであって,公益信託についても私はしかりだろうと思います。公益信託を使いやすくするということ自体に反対しているわけではないのですけれども,アプリオリに,公益信託がより使いやすくなるように,より使われるようにすべきだと考える必要はないのだろうと思います。
○新井委員 事業執行型の公益信託を認めるかどうかというのは一つ論点だと思います。それで,今まで事業執行型公益信託というと,不動産と絵画などを信託して美術館を経営するという例を出すことが非常に多かったのです。これは山本委員,小野委員の発言に触発されたのですけれども,大々的な調査というのは難しいとしても,既存で行われている類似のものを調査してみることぐらいはやってもいいのではないか。例えば京都の京町屋の信託的保存です。あるいは和歌山県の天神岬のナショナル・トラスト,あるいは斜里町であるとか,柿田川湧水もそうです。これは多分信託ではなくて一般財団法人形式だと思いますけれども,それがどうして信託にいけないのかという辺りぐらいの調査であれば割に簡易にできるので,それぐらいのことは調査した方がいいのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今後議論していく中では,この部会では税法の問題などは少なくとも直接にはそれを念頭に置かないで,信託としては,あるいは公益信託としては,どういうものが望ましいかということをまず議論した上で,公益信託としての姿が固まったら,必要な要望などを税務当局等に出していくという形になるのだと思います。
  信託業法との関係についても似たような問題があります。公益信託の受託者を議論するところで,信託業法との関係が問題となってきます。公益信託と信託業法の問題はまだ決着はついていないのだと思いますが,商事法務研究会で行われた公益信託の研究会の中では信託業法は受益者保護を主たる目的とするものなので,受益者のいない公益信託については信託業法は関わらないという考え方もあり得るという議論がありましたが,恐らくそう簡単ではないでしょうね。かなり議論しなければいけないのだろうと思います。
  しかし,いずれにせよ公益信託の受託者の範囲をどうするかというところで,公益信託の受託者も信託業法の適用を受ける可能性があるのだとすると,信託業法に対する要望というのをまとめると言いますか,考えなければいけないので,それはそれで一つ大きなテーマだと思います。
○小幡委員 先ほどの道垣内委員の御発言に関連して,実は私も公益法人の制度が既にあるので,今回公益信託を考えるに当たって同じようなものを作るという意味はないのではないかと思っております。ただ,今回この公益信託法見直しの検討課題というところで,恐らく目的はより発展させるというところにあるのかなと思って推測して先ほど発言したまででございまして,必ずしもその必要はないということであればできるだけ現状公益信託という形でやるのによりふさわしいものという形にフィックスした上で,それに今の現行制度のまずいところを直していくという作業でもよいのかなと思っております。
○林幹事 先ほどの道垣内委員と小幡委員の御発言にも関わるのですが,確かに適正な法律を検討すべきだというのはもちろんその通りなのですが,お話を伺っていて,適正な法律にすることと事業の範囲を拡大する等ということは,必ずしも矛盾していませんので,ここで出ている論点においてそういう方向に向かって議論できればいいと思いました。
  それから,そういう意味において公益信託の有用性というか公益法人なりとの違いについては,この「公益信託のあらまし」というパンフレットの3ページを見ますと,独自の事務所とか専任の職員を置く必要がないというようなことも書かれていまして,そういう意味のコストも掛からないものとのことです。正にそういうことにおいて軽装備で小規模でできるものであるというところと思います。もちろん,制度として小規模なものに十分耐えられる制度にしながら,結果として大規模な公益信託が利用されることも全く問題ないしウェルカムなわけであって,そういうことを考えながら議論すべきと思います。
  そういう視点をもってすれば,恐らく,受託者がどういうもので在るべきかというのは,規模が小さいもの,法人とかでなくても個人でいいのではないかという発想も出てくると思います。先ほど吉谷さんの御指摘もありましたが,デフォルトとして小規模としてイメージすべき資産の規模はどれぐらいかという問題はあるのかもしれません。1億円とおっしゃったのですけれども,現には数千万円のものもあるので,むしろ小規模と考えるのであれば数千万円のものをデフォルトとして考えた方がよいと思います。信託銀行さんが商品として行うものと,それとは違う担い手が行うものとでは,規模もコストも違うから,そういう観点をもって担い手を広げていくことも十分考えられると思いました。
  ただ,担い手に関しては,担い手に関する監督等,担い手がきちんとしてくれるようにする制度をどう作るかという点もあって,それも議論の対象ですし,だからこそ業法に対してどういう手当をするのか,あるいは何らか立法を考えるのか,そういうことがここで議論されることと思っています。
○深山委員 皆さん方の意見を聞きながら感じているところなのですが,やはり公益信託をどのように制度として作っていくかというときに,当然のことながら適正な制度として設計をするわけで,常に濫用のおそれというのは意識はしつつも,まずは健全な使われ方としてどういうものが望ましいか,あるいは在るべきかというところからスタートするというのは,言わずもがなかもしれませんが,そういうことだと思います。
  日常的に弁護士業務の中でも,一定の資産,ものすごく大きな資産でなくてもお持ちの方で,あまり身近な相続人もいらっしゃらない方が,あまり縁のない方が相続するよりは何か一定の公益的なものに供したいというようなお考えをお持ちの方などがおられます。公益財団を設立するような遺言を作成した経験もありますが,やはり実際やってみると公益財団を作るというのはそれなりに手間ひま掛かります。いろいろな意味で一定の体制を作らなければならない。
  そういう意味で言うと,公益信託の典型的な姿としては,公益財団よりはもっとコストの掛からない簡便な形で財産をそのまま公益に活かせるようなもの,あるいは全くそのままでないにしてもそれほど大きく手を加えなくて活かせるような制度として,それなりにニーズはあるのではないかというふうに感覚的には感じているところです。
  道垣内委員おっしゃるように,ただ数を増やせばいいとは私ももちろん思いませんが,適正な使われ方を増やしていくことは,恐らくここにいらっしゃる方の余り異存もないところだと思いますので,そういう意味で先ほど来いろいろなニーズの調査の話も出ておりますが,そういうこともしていきながら,社会のニーズとしてどういうところにそのニーズがあるのかということを把握し,低コストで小回りが利くということが資料にも書かれていますが,そういう特徴をうまく活かす,適切に活かす部分というのをまずイメージして,ではそのためにはどういう規律を作ったらいいのかとか,信託事務の中身をどこまで認めたらいいのかとか,更にはガバナンスをどうつけたらいいのかということを考えていくということで,まずは在るべき姿,理想的な典型的な姿をイメージしてそこから制度を作っていくことだろうと思います。
  税法の問題も話に出ていますが,これももちろん大事なのですけれども,私に言わせると,税務上のメリットは決してこの制度を使う目的ではなくて,あえて言えば手段。それも積極的な手段というよりは公益に供しようというその活動を阻害しないと言いますか,税金を課すことによってそれを邪魔しないという意味で,税務上のメリットというのは大事だと思うのです。そういう意味では本来の目的を実現するためのそれを邪魔しないものとして位置付けると理解すべきで,税務上のメリットがあるからこういう信託を出すという,もちろんそう考える人も世の中にはいるのかもしれませんが,本来はそうではないのだろうと思います。せっかく公に使おうとしている財産なので,そこから一般の財産と同じような課税をして,それを阻害するようなことはやめましょうと,こういう発想で考えられるべきものだろうと思いますので,税法との関係もそのような理解をして一番望ましい使われ方をイメージして制度設計したらよろしいのではないかと思います。
  今日は総論的なことなのでこの程度の発言にしたいと思いますが,また各論でいろいろ議論したいと思います。
○中田部会長 総論についてまだ御議論おありかと思いますが,そろそろ休憩を一旦挟んで。
○小野委員 ほぼ繰り返しの議論なのですが,一言申し上げたいと思います。
  所有権を公益的目的から制約する制度というものが必要だということについてはそれほど大きな異論はないのではないかと思います。それをまた公益財団制度と比較するというのはもちろん重要ですが,場合によっては公益財団法人が収益事業を活発にやっている場合,その収益事業によって重要な財産が棄損しないように,そこで公益信託を設定するということも選択肢としてはあり得る話ではないかと思います。言い換えると,公益財団制度が先行したから公益信託制度というのは控える必要があるかもしれないというのはちょっと議論としては違うのではないかと思います。
○中田部会長 それでは,総論についての御議論がまだ続くかもしれませんが,一旦ここで休憩を挟ませていただきます。あの時計で4時4分まで休憩といたします。
 
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  総論についての御意見まだまだおありかと存じますが,この先各論に移りまして,その各論の中でまた総論的なことについても適宜お出しいただければと存じます。
  各論は,部会資料31の第2,公益信託の認定に関する事項から,第5その他の事項まで,一括して検討したいと思います。どの点からでも結構でございますので,御意見をお出しください。
○長谷川幹事 総論的なところですが,先ほど言いそびれたので発言させていただきたいと思います。
  既に多くの方が御指摘されたことと同様で,3点が重要だということでございます。
  一つは,税制上の優遇措置というのは必ず必要だろうということでございまして,それを視野に入れた検討をしていただければということでございます。
  2点目として,簡素と言いますか軽装備の仕組みが重要であるということもそのとおりだと思っております。これに関連して,公益性を担保しながらどのようにこのメリットを制度設計の中で検討していくかということが極めて重要だと思っておりまして,是非皆さんで知恵を出していただければというふうに思っているということでございます。
  3点目ですが,道垣内委員から御指摘のあった適正な規律というのは当然必要でありまして,全くそのとおりだろうというふうに思っております。ただ,これに関して2点申しあげたいと思います。
  おそらく適正な規律を考えるにあたっては幾つか留意点があるのだろうと思っています。なかでも,公益信託は長い積み重ねがそれなりにあるわけでございますが,それを踏まえて濫用の事実というのがそれほどないのではないかというふうに思っておりまして,その事実は重いだろうというふうに思っております。
  あと,濫用がないことが適正な制度設計なのかというのは検討の余地があると思っております。つまり,要件がきつすぎて濫用が起こっていないだけかもしれないので,それについても慎重な検討が必要であろうというふうに思っているということでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 では,ここで公益信託と目的信託について私の考えていることを少し発言させていただきたいと思います。ちょっとまとまった話をさせていただくのは,以後もう述べないようにしますので,少し時間を頂ければと思います。
  一つの前提から出発していると思うのです。それは公益信託と目的信託というものを同一のレベルに位置付ける,つまり公益信託を目的信託の中に位置づけているという前提があると思います。その理由は,公益信託にも目的信託にも受益者は存在しない,ですから両者は共通するということでそういう位置付けになっているかと思いますが,私はこれに疑問を持っております。
  まず,目的信託の位置づけですけれども,日本の目的信託というのは私益,共益,公益,全てカバーするのですね。それで比較法的に見てこれだけ広範囲の領域をカバーする目的信託というのは日本だけにしかありません。例えばオフショアのケイマンですら目的信託は私益のみ,つまりプライベート・パーパス・トラストのみです。目的信託には自益的な側面があって,委託者が引き続き監督権を行使するということになるので,いわゆる財産のたまりを作ることになるということで,脱税の懸念から信託財産課税にされている。そんなこともあって,信託法施行以来1件の受託例もないというのが実際かと思います。そして,オフショアと競合関係にある香港とシンガポールにおいてすら目的信託というのは導入されませんでした。昨今「パナマ文書」が問題視されておりますが,そういう中で不透明な資産運用が懸念される状況の下で目的信託というのは果たして維持すべきなのかどうかという考えを私としては持っているわけです。
  前回の信託法部会では全会一致で目的信託の導入が決定されているわけですけれども,その根拠を今一度私としては明らかにしていただきたいと思うわけです。前回の信託法部会の委員も多数ここに参加しているということから是非お願いしたいと思っています。
  私の見るところ,やはり証券化,流動化を促進したいという背景の下に資産流動化法の特定目的信託の要件が厳格すぎるので,もっと簡易に目的信託を設定したいという意図があったのではないかと思われるわけですけれども,それはただ信託法の枠を超えた過剰な対応ではなかったかなと考えております。
  公益信託におけるいわゆる受益者ですけれども,前提として,目的信託にも公益信託にも受益者は存在しないので公益信託は目的信託の一類型である,これが通説であるわけですけれども,これは四宮教授のテキストに端的に出ているわけです。紹介します。「信託の利益の享受主体は公益信託の反射的効果として利益を享有するにすぎず,権利として利益を享有するのではない。公益信託で私益信託の受益者に当たるのは正確にはむしろ一般社会と言うべきである。だが,一般社会は権利の主体たり得ないから,結局私益信託の受益者と同じ法律的地位を有する者,すなわち受益権者は公益信託には原則として存在しないことになる。」。以上が日本の通説,定説でして,異論を述べているのは私だけで,誰にも支持されていない一つの説があるだけで,圧倒的にこれが支持されているわけです。
  ところで,この研究会の前に行われた公益信託法改正研究会報告書というのがありまして,その67ページにこういう記述があります。「助成先として指定された受給権者が公益信託の受託者に対して信託財産に係る給付を請求する債権を有することは当然であり,公益信託の受託者がその債務を履行しない場合には受益権者は受託者に債務不履行責任を追及すれば足りる」という記述がありまして,これは私は非常にリーズナブルな考え方だと思います。しかし,これは四宮説とは大いに異なっているわけですね。例えば信託財産に係る給付を請求する権利というのは,これは正に今度の信託法で言っている受益債権そのものではないかと思うわけです。受益者だから受益者として受益債権を享受する,受給者とすると別の説明が必要です。例えば現に実務家の中には贈与契約として説明する見解もあるわけです。
  それから,もう一つ注目すべきは,受託者に債務不履行責任を追及する,つまり履行強制可能性を認めているということです。エンフォーサブルというわけです。英米における公益信託の受益者には履行可能性がない。つまり,エンフォーサブル・ベネフィシャリーは存在しない。エンフォーサブルではないから受益者ではないというわけです。ところが,これに対して日本における受給権者には受益債権も履行強制可能性も承認されていると解する余地があると私は考えておりまして,それは正に受益者そのものではないかと思うわけです。
  デイビッド・ヘイトンというイギリスの信託法学者は次のように言っています。「受益者の地位は受益権の内容によって極めて強いものからごく弱いものまで様々である。」。共益権の内容・強弱がいろいろなバラエティとして存在するというわけです。
  それから,日本の事例で言いますと御存じのように,投資信託受益権の性質が最近の裁判の争点の一つになっています。受益者にとって投資信託受益権は金銭債権に非常に近く,共益権としての性質は相対的に弱い。しかし,最高裁などはそれでもなお信託受益権の性質を強調しているわけです。
  それから,樋口委員のテキストによりますと,アメリカでは実際に利益を得る集団の中の受益者があらかじめ明確に特定されている場合であっても公益信託としては有効である,と指摘されています。問題は受給者の特定性ではなく,公益性の判断が重要であると述べられています。公益性が強調された信託の一つとしての類型として把握すればよいのであって,目的信託として位置付ける必要はないように私には思われるわけです。
  私は目的信託の規定を全て削除するということを主張するものではなくて,それはそのままで結構なのですけれども,公益信託をあえて目的信託の中に位置づける必要はないのではないかと考える主張です。
  信託法部会では全会一致が原則だということですので私も多数の意見には従いたいとは思っておりますけれども,私のような意見も包摂された新しい判断を示されることを私としては期待しております。
○中田部会長 ありがとうございました。ただいまの点につきましてでも結構ですし,その他の点でも結構ですが,いかがでしょうか。
○小野委員 私は前の部会からの委員ですし,流動化という観点からも今の新井委員のご批判の対象なのかもしれませんので,まずこの観点からのコメントをさせていただきます。
  日本の信託法の公益信託そのものが許可が必要というところで,海外とは違う立て付けと思います。前回の信託法改正の際に目的信託を導入した理由が新井委員によれば流動化のための利用とのご指摘ですが,もちろんそういう利用ができればいろいろな利用方法のメニューの1つとしてふさわしいとは思うのですけれども,本来は許可を取らない,あるいは認可を取ろうとしても取れない公益性の外縁のような信託のため,先ほど地域を限定すると公益ではないとか,未就学児童も含めないと公益ではないという事例の紹介がありましたけれども,そういうものも包摂するような制度として目的信託が導入されたという理解でございます。
  委託者による監督という点で,流動化での利用が難しいのはいろいろ議論されているとおり明らかです。また,実際の例がないではないかというご指摘に対しては課税上法人課税信託になり,なおかつ受託者が法人で確か資産規模5,000万と非常に使いにくい制度として誕生したことによるものです。この点は,批判も多い中,当時の議論としてはまず生むことが大事だということであったと思います。その後に使い勝手を考えて制度の見直しをしていこうみたいな議論もあったかと記憶します。
  ですから,目的信託の導入自体はある意味では公益信託の外縁をとらえるような大きい制度として考えていきましょうということではなかったかと私は理解しています。だからといって,新井委員がおっしゃるように公益信託のデフォルトルールが必ず目的信託になるというように考えるかどうかというのは,まだ十分考えが固まっていませんけれども,別の議論と考えることも可能と思います。一方,だからと言って,目的信託そのものが不適切な欠陥のある制度だということはちょっと違うのではないかと思います。
  不特定多数又は公益という観点からはいろいろ考え方が分かれる事例であっても,先ほども申し上げましたけれども,所有権に一定の縛りを入れるような制度があってもよいのではないか,新井委員もおっしゃったように京都の町屋とかナショナルトラストとかいろいろ考えれば美術館以外にもあるかと思います。そういうものの中で公益信託の外縁として目的信託をとらえていくということは必要だと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 今の小野委員の言われたことと基本的には同じなのですけれども。目的信託自体を見直すということになると,これまたそれ自体相当なエネルギーのいる別な作業になりますので,新井委員の御趣旨は,結局公益信託をどう位置付けて議論するのか,あるいは受益者というものを公益信託にも認めるべきだという観点から議論したいということだと思いますので,そういう意味では目的信託そのものとは一応切り離して公益信託の問題として議論するのがよいのではないかと思います。最終的に公益信託と目的信託との関係,その整理は必要になるとは思いますけれども,目的信託そのものは当面議論の中心にはしないで進めていくということがいいのではないかと思います。
○中田部会長 今御指摘のありましたように,具体的な制度の中で,例えば受給権者の位置付けですとか,あるいは公益法人のように1階建て2階建てとするような仕組みをこちらに持ってくるかというようなときに,多分,具体論として出てくると思います。抽象的に最初にどう考えるのか,今発言されたように二度と発言しないとそうおっしゃらずに,更に具体的な制度の中で御検討いただくのが生産的ではないかなと思います。
  今の点も含めましていかがでしょうか。
○林幹事 感覚的にではあるのですが,公益信託を議論するときに,公益信託というのは目的信託の一類型であるということがデフォルトとしてあるかのように議論してしまうのは,この法制審での議論としてはよくないと思います。そこも含めて今回改めて議論して決めていただいたらというふうに思います。そこにおいて公益性というのが何かについてや,公益性というものから限定していくというのは,考えられる議論であると思っています。
  目的信託に関しましては,結局2階建てかどうかとか,あるいは公益性が認定されなかったりあるいは公益認定を取り消されたときどうなるかという問題があるので,そこにおいて目的信託というものをどういうふうに位置付けるのか,現行法のままであれば現行の目的信託の要件に合わなかったら,それこそ信託たりえないということであって,それでいいのかという観点は必ず必要なのだろうと思います。
  御承知かと思いますけれども,信託法の附則の3項で経過措置として,まず別に法律で定める日まで目的信託の受託者は法人に限定するということがあって,それをうけて更に施行令で法人は5,000万円の資産規模がないといけないということが書かれているのですけれども,附則の4項では別に法律で定める日は公益信託に関する見直しの状況等を踏まえて検討することとなっていますので,こうした要件も公益信託法の議論のときに検討しましょうという趣旨になっていると思います。まさにそれがこの法制審だと思いますから,目的信託を法人に限定していいのかとか,5,000万円の資産の規模というのを限定に加えていることがいいのかというのを改めて検討しなければならないのではないかと思っております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○能見委員 一応そういうことで,先ほど部会長がまとめられたように,公益信託のところの具体的な問題として新井委員の御主張なども議論の対象になるということでいいのだと思います。もっとも,最初から,公益信託であれば必要な許可を求めないで,目的信託を使って公益目的を掲げて活動することができるかという論点は,これは公益信託のところだけ議論していても恐らく出てこない問題かもしれませんので,目的信託そのものの問題としてどこかで整理した上で議論した方がいいかもしれないと思いました。
○中田部会長 それは先ほどの附則との関係ということですか。
○能見委員 そうです。
○中田部会長 ありがとうございます。
○小野委員 今の点ですけれども,もちろん目的信託を公益的目的で利用しようと思えば利用できるようにすると議論する際に問題となるのが税の点です。税法の議論ゆえに不正確なところがあるかもしれませんが,法人課税信託として,資産を譲り受ける側においてその資産を贈与されたということで課税の問題が生じてしまうと思います。これがもし非営利型の一般財団法人であれば違う扱いになるわけでして,その辺も先ほども申しましたけれども,非営利型の一般財団法人とのイコールフッティングというところで,目的信託が,税の議論をする場ではないと思いますけれども,非常に利用しにくいところです。
  他方において,目的信託の法人課税信託自体が税制上大きく変わるということを動かすこと自体がこの場のテーマでもないし,またそれを動かすのは難しいという別の観点からすると,公益信託の幅を広げていくという視点も,ちょっとテクニカルな議論になってしまって恐縮ですけれども,あるのではないかと思います。
○吉谷委員 公益信託と目的信託の関係の所のその他の議論あるいは続きの議論ですけれども,部会資料に書いてあることとの関連でお話をしますと,公益信託の認定の前に目的信託を設定することは不要であるという指摘があると,これについては我々はそうであろうというふうに考えるところであります。一方で,公益信託として認定を受けることができなかったと,でも公益っぽいものについて目的信託として設定したいということはあり得るのかなというふうには思います。
  ただ,私どもで気になるところとしては,では公益信託と目的信託というのは,公益信託だったものが目的信託になったり,目的信託だったものが公益信託になったりということが出てくるのだろうかというのが少し気になるところです。制度としてはかなり複雑になってしまうのでそういうニーズが本当にあるのだろうかというのは疑問なところでありまして,余りそういう複雑な制度というのを設ける必要については余り感じていないというところでございます。
  そこに関連したところですけれども,先ほど公益認定を満たさなくなったような場合にどうなるのかというお話がございまして,目的信託になるのだろうかということのお話がございました。ただ,考え方が三つぐらいあるのですね。公益認定の基準を満たさない事象が起きましたと,取消しになりましたというときに目的信託になるという考え方と,信託が終了するという考え方があるというふうに思うわけです。一方で,公益認定基準を満たさなくなったのだけれども,仮にそれが受託者に原因があるようなものなのだとしたら,受託者を交替させれば済むというようなことも出てくると思います。ここが法人であるところと信託であるというところの仕組みの違いかなというふうには思います。
  今まで公益認定の取消しというようなことが実際に問題になってこなかったので,実務上これはどういうふうに扱われるのだろうかということについてそもそも余り検討したこともないのですけれども,そういったことを念頭に置いて制度設計というのを考えるのがいいのではないかなというふうに思う次第です。
○中田部会長 ありがとうございました。公益信託と目的信託との関係について様々な御意見を頂いておりますが,この点も含めてですけれども,ほかの論点はいかがでしょうか。
○渕幹事 この部会では公益信託をどう見直すかということが課題ですが,私は租税法を専攻しており,一応公法学者のはしくれでありまして,その観点からすると,次のような見方もこの問題に対するアプローチとして可能なのではないかと思うのです。それは,一定の公益的な政策目的,すなわち学術振興あるいは自然保護などのいろいろな政策目的を達成するためにどういう仕組みが適正なのかという視点です。
  例えば,同じ学術振興でも科研費みたいな感じで中央集権的に進めるという方向性もありますし,知的財産権のようなものを信託財産に設定して政策目的を達成するという方向性もあり,今回の公益信託というのは,ある程度プライベートな主体にこういう活動を担わせるということだと思います。そのようなアプローチを採ったから何か結論が出てくるということはもちろんないのですけれども,あくまで公益を達成するための手段として信託という器を使っているのだという発想も今回の議論の中で役に立つことがあるかなと考えております。
○中田部会長 広い意味での公私共働の在り方の中で,公益信託がどのような役割を担うべきか,担い得るかと,こういう御指摘かと存じます。ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 別の論点で,終了時における信託財産の帰趨の関係でございます。日弁連のバックアップ会議での議論では,委託者が支出した限度で委託者に戻るということが場合によってはあってもいいのではないのか,それも議論の対象とすべきではないか,そういうものがあれば利用も進むのではないかという意見がありました。
  今回の部会資料31の方には書かれていないのですけれども,参考資料2の46ページの右の端には,残余財産を公益信託の認定の前後に取得・形成した財産に分けて,認定前の財産については帰属先を限定しないが,認定後の財産には帰属先を限定する,ということも書かれています。これも論点の範囲かとは思いますが,そういう意見があったことを申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。ただいまのお話,部会資料31の第4の終了の中の2がそれに関連することでございましょうか。その際に今のような御指摘も踏まえて更に検討するということでよろしいでしょうか。
○林幹事 よろしくお願いします。
○山田委員 部会資料31の第2を中心に少し意見を申し上げたいと思います。
  1についてですが,公益信託について主務官庁制による弊害というのは,申し訳ありません,私の勉強不足が大きな原因だろうと思いますが,余りはっきり私は認識しておりません。ただ,それは恐らく絶対的な件数が少ないがゆえに,あるいはハードルが高くてある意味ではそれが顕在化しなかったという推論も成り立つかなと思います。ただ,一般的,抽象的に考えますと,公益法人改革のときに議論されていたことになるのですが,この部会資料31の2ページにも書かれているのですけれども,複数の主務官庁の所管にまたがる場合の面倒さ,それから消極的な抵触が一見生じて,最終的にはどこかに引っ掛かるのかもしれませんが,どこが主務官庁かが容易には分からないがために公益法人であるところの財団法人,社団法人の設立が困難であったということは,公益法人改革のときにはそうだろうという認識を私は持っておりました。
  そうするとそのことは信託であるがゆえに今申し上げた問題,複数主務官庁の所管にまたがる,あるいは消極的な抵触でどこの所管が分からないというのが信託であるがゆえに起きないということはないだろうと思いますので。主務官庁による許可制の廃止というのは望ましい方向だろうと思います。
  実際上重要なのはその次の2に公益信託の認定基準かもしれませんが,ここについては申し訳ありません,必ずしもはっきりした意見を持っていませんので飛ばしまして。
  3です,公益信託の認定の主体。これはまさにこの部会で議論していくところかと思いますが,単一の主体で行うのがいいだろうと。今申し上げたところから導かれるのだろうと思います。所管というものが複数あって,それのどれに当てはまるかという作業をせずに,公益信託というものを設定と言ったらいいのでしょうかね,設立しようというふうに考えたときには地方と中央というものはあり得るとしても,その含みは持った上での単一の主体ということが望ましいだろうと思います。
  その上で,今中央と各都道府県にある公益認定等委員会に認定作業をお願いするのがいいのか,それとも別のものがいいのか,ちょっとそこは余りはっきりとした意見は持っておりません。
  その上で,今の1と3については,これを議論してくださいというよりももう私の意見をざっくりとですが申し上げたところなのですが。それを前提にしますと,4の問題ということについて次のような見方が成り立つのではないかなと思います。単一の主体である認定庁,庁とは限らないか,認定機関が認定しなかった場合,あるいは一旦認定したけれども,具体的な認定基準が前提になりますが,その認定基準を事後的に充足しなくなった場合,多分将来に向けて認定の取消しということが生じ得るのだろうと思います。そのときに,信託を終了させるのか,先ほどちょっとお話がありまして二つぐらい考え方がある,あるいは三つとかいう話がありましたが,そこをなぞることになりますが。信託を終了させるのか,それとも公益でない信託,信託としては民事法上と言うのでしょうか,同一性を維持したまま,そうすると信託財産とか信託財産責任負担債務とか等々の信託法上の様々な法律関係が維持されて,あるいは受託者とかについてもその認定基準が受託者の資格問題でなければ維持されたまま公益信託でない信託になるということが考え得るのだと思うのですね。
  認定を受けようと思ったけれども認定が受けられなかった,あるいは一旦認定を受けたけれども,将来に向けて認定が取り消された場合,その信託を信託として維持するのが望ましいか,ここでは望ましいかどうかを議論していただきたい。そして,そのためにどういう方策が可能かということを議論していただくことが望ましいのではないかなと思います。
  そのときに,それが公益信託でない目的信託になるのか,それとも目的信託と公益信託を切り離して考えるとすると,信託として同一性を維持して残すとしても,それはちょっと今我々が知らないものになるのかというような話が出てくるのかなと思います。
  そのことは5ページの第4の3に公益信託と私益信託の相互転換の可否というところで上がっている問題と一部重なるのですが,必ずしも重ならないのかな。私益信託は受益者の定めのある信託と,目的信託,そして公益信託,その関係をおっしゃっていますが,必ずしも受益者の定めのある信託を念頭に置かずに,受益者の定めのない信託のまましかし公益信託でなくなると。そうすると目的信託ではないかということになるのかもしれませんが,目的信託だという今の公益信託法の作りを必ずしも前提にしないならば,そこも議論の中でベストなものを考えていこうとするならばその問題が今のところに関わってくるのではないかなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。主務官庁制をどうするかという問題で,その延長線上で公益信託と目的信託の関係,更に私益信託との相互転換にまで及ぶという御指摘を頂きました。
  前半の部分,主務官庁制については再開前の信託法部会で一定の方向性が出ていたわけですが,その後10年たち,公益法人制度改革が行われたわけですけれども,そういう現在に至ってもやはりこの廃止という方向が望ましいという御意見だったかと存じます。
  この点についていかがでしょうか。
○小野委員 当然ではありますが同意見でございます。ところで,公益の認定の議論の他,その後の監督という議論もあるかと思います。認定する機関が引き続きそれなりの監督をするという立て付けもあるかもしれませんけれども,公益信託を広い意味での民事信託の一環としてとらえたとき,どこかが監督をする必要があるという観点では民事法に絡むという意味においては法務省による監督というのもさらにどうロジカルに結び付けるのか検討する必要がありますが,信託会社や信託銀行が公益信託の受託でない場合には金融庁による監督ともロジカルには結び付かないと思うので,そういう考え方もあるかと思います。認定と監督を同じ機関が担うのか,認定だけを担当し,監督はガバナンスに委ねるのか,また別の機関が担うのかなどの議論とも関係する論点であります。
  平川委員が先ほどおっしゃったように,濫用とかそういう議論が必ず出てくるときに,誰か第三者の目が,信託管理人なのか運営委員なのかそれは仲間ではないかとかそういう議論に対して,何らかの形で,裁判所の関与というのも考え方としてはあると思うのですけれども,裁判所に対してそこまでの後見的機能は期待しない制度にしたいという前提に立つと,法務省という観点もあるのではないかと思います。
  先ほどの山田委員の意見に関連してでありますが,公益信託が目的信託に変わるということは課税関係は全く違うものになってしまい,一体どう考えるのか大混乱になるのではないか,また多額な課税関係が生じるのではないか。そういう観点からすると,やはり公益信託が公益信託ではなくなる,要するに認可が取れない,認可はいらないというときには普通の信託に戻るという観点もあると思います。私益信託への転換というタイトルで述べられていますけれども,非認可,認可を得ない公益目的の普通の信託への切替えという考えです。
  そこで受益者を観念しないと信託に対して贈与したことになるではないかという議論に関しては,先ほど林幹事が述べたように,信託終了時の信託財産は委託者に帰属するような考え方をすることが考えられます。恐らく税の考え方というのは,最終的に委託者に帰属するような考え方をすることによって信託法上の受益者という考えとはまた別に受益者的な地位にある人がいるというような考え方をするのではないかと思われるからです。それを更に制度的に受益者とみなすとしてもよいと思います。
  税に引きずられた議論は好ましくはないとは思うのですけれども,今の目的信託は課税関係が明確になっていますから,目的信託に切り替えるというデフォルトルールを作ってしまうと,吉谷委員が述べられたように大変な混乱になるということ,また,あるべき公益信託制度の議論をしている場でもありますから,認可を取らない公益信託というのも観念できないことはないと思うので,そのときに混乱を来す制度としなくてもよいのではないかと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 主務官庁の認可については新しい制度としてはここに書いてあるとおりだと思います。私どもが実務上気になるところは,仮にそうなったところ,これはこれ以外の論点全てに共通でございますけれども,第5の3の移行措置の所がどうなるのかということでございます。ここでは移行措置として設ける規律の留意点ということで,移行するということが前提であるかのように書かれているわけですけれども,移行しなければならないのかというところも含めて考えるということもあるかなと思います。
  そして,なぜこんなことを申し上げているのかというふうに申し上げますと,先ほど件数の話が出ましたけれども,結局信託銀行数行で四百何件やっていると,当社だけでも130件以上の公益信託を受託しているわけでありまして,金額も様々ですね,古いものについては少額になったりしているということでございます。何らかの移行措置による手続というのが存在するとすれば,それが私ども既存の受託者にとっては百何十倍の負担になるんだということについては御理解いただけないかと思います。それを念頭に置いた上で,移行についてお考えいただけないかと思います。
  今回の法改正につきましては現在運営されている公益信託に問題があるのだということではないというふうにまず理解しておりますので,それが新制度への移行の手間とかコストとかそういう負担によって終了してしまったりとか国庫に帰属するとかそういうことになってしまうと本末転倒ではないかなと思います。
  信託の報酬についてはちょっと今は低すぎるので上げていただけないかという話もあるのですけれども,仮に移行の報酬が頂けるとしても,移行自体に人手が掛かるということになってしまうと,私ども旧来の担い手が新規の公益信託をやるということに対して力を注ぐ余力というのもなくなってしまいますので,そのようなことも御配慮いただきたいというふうに考えている次第です。
○長谷川幹事 2点申し上げたいと思います。
  移行措置については,私どもの会員企業でもまさに公益の目的のために公益信託を利用しているところもございまして,そういった既存の公益信託に過度な負担にならないように是非御配慮をお願いしたいというのが1点でございます。
  2点目は,許認可うんぬんの話なのですけれども,どういった形にしていただいてもいいとは思うのですけれども,検討にあたって一点申しあげたいことがございます。私は公益法人改革のときに,今の部署とは違う業務で公益法人絡みの公益目的支出計画の認定を受けていたことがございまして,そのとき申請数の規模がすごく大量だったということもあり,よく御存じの方もたくさんおられると思いますけれども,内閣府でたくさん司法書士さんなどを雇われて認定するという実務が行われたというふうに理解しております。一元的な判断がなされるという意味ではいいのですけれども,そういう外の人材をたくさん活用されてということなので,比較的一律な判断,柔軟性に欠くような判断がなされたような記憶があります。例えば私が携わっていたケースですと,定款が標準定款に一字一句同じであることを求められ,少しでも違っていたら全部直されるというような,そうしないと認可しないというような運用がなされたことがございました。このことから,制度論とは別にリソースがきちんとあるかどうかとか,そういったソフトの面の観点も重要なのではないかというふうに思った次第でございます。
○中田部会長 移行に関しましてお二方から具体的にあり得る問題の御指摘を頂きました。また移行措置について検討する際に,御意見を踏まえて更に深めていただきたいと思います。
  ほかの点,いかがでしょうか。あるいは今までに出た点でも結構でございますが。
○能見委員 これは言わずもがなですけれども,ここにまとめられている主務官庁制による許可制の廃止とそれから基準等ですけれども。主として1の所は,どちらに重点があるのかな,主務官庁が多くの役所に分かれているところに問題があるというようなニュアンスで書かれていますけれども,恐らく公益法人等で議論されていたのはその問題もありますが,そのほかにも許可制であるということがあったと思います。その許可制というのが主務官庁の裁量を前提としての許可制であるというところが問題として議論されたのだと思います。この部会では,主務官庁制を廃止する方向で議論することになるので,別に私はこの点に異論を唱えているわけではないのですけれども,主務官庁制を見直すのは,裁量性のある許可制ではなくて,きちんと基準を作ってそれを満たせば公益信託として許可するという考え方であるということは,一応強調しておいた方がいいだろうと思います。
○道垣内委員 細かな議論になるので後に譲るべきなのかもしれませんが,山田委員からも小野委員からも,例えば,公益認定受けられなかったときについて,「認可されない公益信託」という概念というものを認める可能性と,目的信託,つまり現在の信託法第258条以下にある「受益者の定めのない信託」とは少し別個のものの概念の存立可能性というものが語られたと思うのです。しかし,そのような概念を入れると,実は公益信託について認可を判断するときに,三つのどれに当たるのかというのを判断しなければならないことになりそうです。すなわち,公益目的ではないから駄目というのと,公益目的なのだけれどもこの要件は充足していないから駄目というのと,公益信託として認可するというのとですね。しかし,審査の仕方として,公益信託としては認定できないけれども,目的は公益であることを認める,という審査手続を観念するというのは,かなり難しいのではないかという気がします。
  そういうことも問題になり得るということだけを述べておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございます。
○能見委員 別に道垣内委員に反対しているわけではないのですけれども,恐らく公益性を認定して公益信託を認可するという制度を作ると,公益性を認定をする場合にだけ積極的な意味で公益であるということを認めるのであって,認可しない場合には,どこが欠けているというのを説明してくれれば制度として丁寧なのかもしれませんけれども,それ以上に積極的に公益性については判断しないという制度になるのだろうと思います。
  それから,それと裏腹と言いますか,先ほどからちょっと出ていた議論との関係ですけれども,認可されないとどうなるか,公益申請をしたけれども,認可されないとその信託はどうなるかという問題の言わばもう一つ前提には,そもそも認可を受けないけれども,公益活動をするという信託があっていいと考えるかどうかという問題があります。この方がむしろある意味で大きな問題です。この点については,賛成,反対いろいろな意見があるのだと思いますけれども,私は,公益活動をするのは別に個人であってもいいし,それから認可を受けないような団体,あるいは私益信託であってもかまわないと考えています。ただ,法の定める基準を満たして認可がされれば,その公益信託に税の優遇措置が付くというだけの話である。公益活動をしたいという者からすれば,どのような団体,仕組みであっても,本来自由に作れて,公益活動の器とすることができる。それによって詐欺だとかが行われる場合にはまた別な対応をすべきだと思いますけれども,そのような心配から公益信託についての規制を考える必要はないのだろうと思います。
○道垣内委員 能見委員がおっしゃるのは,現在の信託法の附則における「受益者の定めない信託に関する経過措置」のところで,「受益者の定めのない信託(学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他公益を目的とするものを除く。)」となっているときに,例えば学術を目的とする信託であるのだけれども,認可を受けないというふうな場合を考えると,それは信託法上の目的信託の方にも該当しないし,公益信託としての認可がされないので公益信託でもなく,存立のしようがないという立て付けになってしまっているというわけですよね。その読み方は,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするが,認可はされていないというものを観念するということにほかならないと思うのですけれども,それは仕組みの作りとしてそうではないのではないでしょうか。
  さらに言えば,今日の参考資料として配られている研究会報告書にも,公益信託の定義というのがあるのですが,この定義が本当にこれでいいのかという問題にもつながってくるところがあります。つまり,定義を置くと,この定義には合致するのだけれども認可されていない状態というのを観念するということが可能になるわけですけれども,個人的には,認可されることによって初めて定義に合致することであるとし,定義に合致するかどうかが認可にあたって判断されるのだとは考えない方が,作りとしてはうまくいくのではないかなと思っております。しかし,これはおいおい後に議論をしていくべき点だと思いますので,私は別の考え方もあり得るというつもりのために申し上げただけです。
○中田部会長 公益信託の制度設計をする際に公益信託だけを考えるのではなく,その周辺にある部分をどのように位置付けるのかという問題があるのだということが,いろいろな形で浮かび上がっているのだろうと思います。
  今日は大きな視点でというように申し上げましたので,各論的なことについてはむしろ次回以降にと考えられた方が多いのかもしれません。まだ時間が少し前ではございますけれども,おおむね論点について御検討いただけたかと存じますので,この辺りでこのテーマについては終わりにしたいと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,次回以降の部会の進行について,事務当局から説明をお願いします。
○中辻幹事 次回からは早速具体的な審議に入ってまいりたいと思いますが,本日の意見交換の結果を踏まえますと,先ほどまでの議論と若干重複する面はありますけれども,まずは総論という形で新たな公益信託の全体像を検討するに当たりキーポイントとなる公益信託の信託事務及び信託財産の範囲や,公益信託の担い手となる受託者の範囲について御審議いただくのがよろしいかと存じます。
  その準備として,できるだけ皆様に部会資料について検討の時間を取っていただけるよう今回と同様に部会の1週間前に文章を郵送する少し前,具体的には部会が開催される週の2週間前の金曜日にはメールで部会資料と参考資料を皆様の下に送付できるように努めてまいりたいと思います。
  なお,本日もありましたけれども,各委員・幹事から資料を提供していただいた場合,公表の有無を含め,その取扱いについては中田部会長と相談の上,対応させていただきますが,ここでの席上配布の可能性があることを考えますと,いかに遅くとも会議前日の17時,午後5時までには事務当局に御提出いただきたいと存じます。
  それから,万が一会議を御欠席される場合にはメールなどの方法で事務当局まで御意見を頂くことも可能です。部会資料等について御意見がある場合,部会当日に御発言いただけるのは当然ですが,事務当局まで事前にお寄せいただくことも可能です。
○中田部会長 ただいまの説明につきまして御質問などございますでしょうか。
  それでは,最後に事務当局から次回の日程等について説明をしていただきます。
○中辻幹事 次回は,平成28年7月5日火曜日の午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省15階,検察ゾーンの第1531会議室という所になります。次回はこの部屋でなく検察ゾーンにある会議室となりますので,お間違えのないよう御注意ください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,本日の審議はこれで終了させていただきます。
  本日は熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。
-了-


 
 
 
 
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