法制審議会信託法部会第32回会議 議事録

 
 
 
 
 
 
第1 日 時  平成28年7月5日(火)   自 午後1時29分
                       至 午後5時27分
 
第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室
 
第3 議 題  公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第32回会議を開会いたします。本日は御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  初めに,前回の会議から本会議までの間に委員等の交代がありましたので御紹介いたします。まず,総務省の河合前幹事に代わりまして総務省の稲垣幹事が,次に金融庁の佐藤前幹事に代わりまして金融庁の島村幹事が,それぞれ今回から御出席されることになりました。簡単な自己紹介をその場でお願いいたします。お名前と御所属をおっしゃっていただけますでしょうか。
○稲垣幹事 先月17日付で総務省大臣官房総務課管理室長を拝命いたしました稲垣と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○島村幹事 7月1日付で総務企画局企画課信用機構企画室長を拝命いたしました島村でございます。よろしくお願いいたします。
○中田部会長 どうぞよろしくお願いします。
  本日は,小川委員,小幡委員,岡田幹事が御欠席です。また,若干,遅れて見える方がいらっしゃるようです。
  それでは,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。事前に,部会資料32「公益信託法の見直しに関する論点の検討(1)」を送付させていただきました。また,当日配布資料として,吉谷委員から提供いただいた「信託主要法令資料」という緑色の冊子に加え,「公益信託受託状況(主務官庁別)」,「公益信託当初信託財産規模別状況」という受託状況の統計データを机上に置かせていただいております。統計データにつきましては,前回,参考人として御出席された信託協会の方々に対し委員・幹事の皆様から御質問があった事項について,信託協会の統計を資料化していただいたというものです。これらの資料がお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は部会資料32について御審議いただく予定です。具体的には,途中休憩の前までに部会資料32のうち,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」と「第2 信託事務及び信託財産の範囲」を御審議いただきまして,3時半頃をめどにして休憩を入れることを予定しております。その後,「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議いただきたいと思います。
  なお,前回,再開後の信託法部会での審議の対象が話題になりましたが,それについて事務当局の方から補充の説明があるということです。
○中辻幹事 前回,小野委員,道垣内委員及び深山委員から御指摘のありました再開後の信託法部会で御審議いただく事項の範囲について,若干,手続的な面を補足いたします。
  法制審議会では,審議会令の解釈として審議会で一度議決した事項については,それを再度取り上げて審議し,議決してはならないという一事不再議の原則があると考えられております。この原則によれば,旧信託法のうち私益信託に関する部分について議決された信託法改正要綱と同じ事項については,原則的にこの部会で再度取り上げて審議することはできないということになります。
  もっとも,一事不再議の原則は例外的に事情の変更等により,再度議決する必要のある場合に再議することまでも否定するものではないと考えられております。したがって,前回の部会で中田部会長におまとめいただいたとおり,今後の信託法部会で御審議いただく事項は,飽くまで公益信託が中心ではありますが,余り形式的,固定的に考えて現行信託法の規定に関する御審議が一切排除されるということはなく,公益信託制度の改正に必要な範囲で現行信託法の規定の改正の要否についても御審議いただけるということなのだろうと思います。もっとも,それが余りに広がりましては,この部会における御審議の対象が拡散してしまいますし,前回申し上げましたように,公益信託について特則を設けることは可能であることからすれば,現行信託法の規定の改正にまで立ち入らなければならない場面が多数生じることにはならないようにも思います。
  以上,前回私から申し上げましたことの手続面での補足ということになります。
○中田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。まず,前回のフリートーキングとやや重複しますけれども,「第1 公益信託法の見直しの基本的な方向性」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,私,木村の方から資料について説明させていただきます。最初にまず,公益信託法の見直しの基本的な方向性について御説明いたします。
  本文では,公益信託法の見直しを検討するに際しては,公益財団法人,公益信託以外の目的信託等の公益信託と類似の制度との相違,すみ分けに留意しつつ,税法も視野に入れながら,その適正な利用を促進していくために必要十分な仕組みを整えることを基本的な方向性とすることでどうかという提案をしております。
  この提案について補足して説明いたしますと,まず,補足説明の1で記載しているとおり,公益信託制度は個人の篤志家などが自らの財産を公益的な活動に供するための仕組みとして,現在は専ら奨学金の支給や研究助成活動のために用いられております。もっとも,その受託件数及び受託財産額は漸減傾向にあるところです。
  公益信託制度につきましては,平成18年の信託法制定の際,衆参両院の附帯決議で,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点から見直しを行うこととされています。ここで,公益法人制度に関する過去の政策決定について見てみますと,公益法人制度については平成14年及び平成15年の二度にわたる閣議決定において,民間非営利活動を社会経済システムの中に積極的に位置付け,その活用を促進するという方向性が打ち出されているところです。こうした政策決定を踏まえるのであれば,民間の非営利活動である公益信託制度につきましても,その適正な利用を促進するという観点からの検討が必要であると考えているところです。
  続きまして,補足説明の2の公益財団法人との関係について御説明いたします。公益信託と公益財団法人とは類似の社会的機能を果たすものとされており,先ほど触れた国会の附帯決議におきましても,公益法人制度と整合性のとれた制度とする観点からの見直しが必要とされています。もっとも,両制度を比較してみますと,公益財団法人は多様な財産を活用して多様な公益活動に用いることが可能である反面,一から法人組織を立ち上げる必要があるという点で設定コストが高いということができます。一方の公益信託は,信託事務や信託財産の範囲が限定されていますが,受託者の人的,物的資源を利用することで,簡易かつ低コストで設定することが可能であるという軽量・軽装備の制度であるということができます。
  公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような軽量・軽装備という利点を維持するという観点に配慮しながら,両制度間の相違点や適切な活用場面という点を意識して,公益財団法人と整合性のある制度とすることが必要であると考えております。
  補足説明の3の目的信託との関係についてですが,現行の公益信託法は,公益信託を目的信託の一類型と位置付けた上で,目的信託のうち,公益を目的とするものにつきましては,「主務官庁ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定しております。こうした規定の解釈として,主務官庁の許可を受けていない公益目的の目的信託は無効であるという考え方も存在するところです。また,現行の信託法附則第3項は,公益信託以外の目的信託について,その受託者を一定の法人に限定しています。公益信託制度の見直しを行うに当たりましては,以上のような公益信託と目的信託との関係,特に公益信託としての認定,ここでは仮に認定という言葉を使わせていただいておりますけれども,認定を受けていない信託の効力をどのように考えるのかといった点についての検討が必要になると思われます。公益信託と目的信託との関係については,様々な考え方があり得るところだとは思いますが,両者の適切なすみ分けを図るという観点が必要であると考えております。
  最後に,補足説明の4として税法との関係がございます。現行の税法では,特定公益信託及び認定特定公益信託という二つの概念が存在しておりまして,一般の公益信託の要件に加え,これらの要件を満たした場合に初めて寄附金控除等の税法上の優遇措置を受けることができる制度となっております。これに対して,公益法人制度では公益認定を受けた法人は基本的に全て税法上の優遇措置を受けることができます。こうした税法の在り方につきましては,本部会の直接の検討対象ではございませんが,税法上の優遇措置があることは,公益信託の利用者にとって大きなメリットになっていることを考えますと,新たな公益信託制度を検討するに当たっては,税法上の優遇措置を受け得るような認定基準,監督・ガバナンスに関する規律とする必要があると考えられます。
  以上のような観点から本文の提案をしておりますが,こうした公益信託制度の見直しの基本的な方向性について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。どうぞ,御自由に御発言をお願いいたします。
○小野委員 前回も発言したところなんですが,もちろん,全体として賛同いたしますが,非営利性の一般財団法人との比較も,特に目的信託,税法との関係で是非お願いしたいと思います。税法上の優遇措置とは別ですけれども,公益財団法人だけでなく非営利性の一般財団法人についても同じ扱いがされているところが結構ありますので,そういう観点からの検討も特に一般財団法人の設立は準則主義ということも含めましてお願いしたいと思います。
○能見委員 目的信託との関係のところの問題なんですが,もう少しはっきり言えば,許可を受けない目的信託で公益活動していいのかという問題についてです。そちらで提示されたのと言い方は違うかもしれませんが,この問題について,今,すみ分けという観点から御説明があったわけですけれども,そのような観点からの検討は当然必要なんでしょうけれども,もう一つ注意すべき観点は,公益活動を行うことができるのは,事実上の公益活動も含めてですが,どういう団体,あるいは個人なのかという視点です。このような観点から考えた場合に,私益信託でもって実際上の公益活動をすることは,恐らく皆さん,問題はないという前提でお考えなんだと思います。それならば,目的信託であったら,それはどうなのか,という形で問題となります。こういう観点も是非併せて検討する必要があるだろうと思います。
○新井委員 見直しの基本的な方向性については賛成いたします。その上で,目的信託と公益信託の両者については類似性ではなくて,相違点に,より留意すべきであると考えます。目的信託と公益信託に共通するメルクマールというのは,受益者の定めがないという点のみでありまして,公益信託には公益要件というより上位のメルクマールが存在しているように思われます。信託の構造自体が目的信託のそれとは異なります。公益信託においては,受益者の定めがないという要件は,公益性を判断する要素の一つにすぎないように思われます。目的信託の受託者要件,つまり,信託法附則3項と同法施行令3条ですが,この受託者要件については存置すべきだと考えます。つまり,目的信託の濫用的な利用を防止するという趣旨を変更する積極的な立法事実はないと考えます。民事信託,とりわけ,家族信託あるいは自己信託の濫用的な利用が懸念されている状況にあるのではないかと考えます。その一部については既に訴訟も提起されていますので,目的信託の受託者要件は存置でよろしいのではないかと思います。
  それで,部会資料の4ページの4行目ですけれども,「しかし」以下の文章,これについては賛成いたします。「しかし,少なくとも立法論としては,主務官庁又はこれに代わる主体による許可又は認定が認められなくても,信託法附則第3項及び同法施行令第3条の受託者要件を満たす場合には,公益を目的とする一般の目的信託として有効とすべきであるとする考え方が十分あり得る。」,これに基本的に賛成した上で,公益を目的とする一般の目的信託として有効だというのは分かりにくい。特にこれからの立法というのは,一般市民にも分かるようにしないといけないと思うのです。
  それで,他方で公益信託というのがあって,他方では公益を目的とする一般の目的信託がある。この両者の関係については,学術的には非常に興味があるわけですけれども,利用者である国民にとって,両者の理解というのは非常に難しいと思うのです。したがって,私としては「公益信託を目的」とするという部分は削除していいのではないか,つまり,一般の目的信託として有効であると考えればいいのではないかと思います。それともう1点,最初の「少なくとも立法論としては」,これについては解釈論としても可能ではないかと考えますが,より明確にする趣旨で立法論的に解決するのがよりベターだと思います。
○吉谷委員 公益を目的とするものを除くという要件を,目的信託の要件から外してもいいのではないかと考えておるのでございますけど。現在,信託銀行は目的信託の受託者になることができますが,実務での目的信託の利用というのはないという状況になっています。それはなぜかというのを考えますと,残余財産受益者というものを設定することにより,一般の信託で目的信託と類似した経済的な仕組みというのを作ることができるということなんだろうと考えております。実際に利用されているケースもありまして,公益的な目的の信託を設定する場合でも,委託者などを残余財産の受益者と決めて信託期間中は,学術振興事業の目的で信託財産を処分するというような利用がされております。特定寄附信託という制度がありますけれども,これは公益法人などに寄附をする目的の信託が委託者を受益者とする形で利用されています。
  公益信託の場合は,税制上の優遇が得られるということとセットであるべきと考えておるのですけれども,委託者や受給権者から利益を切り離された仕組みとするためには,受益者を定めないということに積極的な意味があるのではないかと考えておるのですが,それ以外の目的信託を無制限に認めるということの意義があるのかというと,そういう意義は実務家の私どもの立場からは提言することは特にないのかなと考えております。
○小野委員 目的信託の議論になったので何点か発言させていただきます。
  まず,新井委員から現在の附則3項は濫用防止のために存続すべきであるという御意見がございましたけれども,法人であることと個人であることが濫用の有無に関わるかというと,どう理屈で考えても要するに信託契約,受託者としての履行能力こそが重要であって,それは法人,個人における差はないと思います。また,恐らく継続性とか永続性で人はいつか亡くなるという観点かもしれませんけれども,受託者の変更,交代手続をとればいいだけでして,あと,もう一つ,言わずもがなですけれども,5,000万円という基準,それが濫用防止につながるかというと,5,000万円を持っていない方や法人は受託者になりませんけれども,理屈上,考えてもつながらないと思います。
  目的信託の事例がほとんどないというお話ですけれども,それもこの要件に関わるところだと思います。より目的信託を積極的に公益法人改革の趣旨にのっとって,社会の国民のために利用できるような制度にすることで,仮に濫用が考えられれば,濫用に対応した適切な措置をとることが重要であり,それが法人である要件,5,000万円の資産要件ということにはロジカルにもつながらないと思います。
  それから,吉谷委員がお話しされた委託者が受益者になる場合,そういうケースもあるかもしれませんけれども,委託者に受益者としての強い権利を与えることが必ずしも適切ではないような状況も恐らくいろいろあるかと思います。前回,新井委員が京町屋とか,トラストの話をしましたけれども,環境とか自然とかいうときに,そこで委託者たる元の所有者を観念して,その方が受益者として強い権限を持つということが適切ではない状況というのも,それなりにあると思います。いろいろなメニューを国民に提示することが,信託制度が有効に活用されるためには必要なことだと思うので,あまり制限的に目的信託を制度設計するという方向での議論は賛成しかねます。
○中田部会長 何人かの方から,公益信託以外の信託における公益目的の活動の在り方について御発言を頂きました。これを否定するという方向の御発言では恐らくなくて,何らかの形でそれを許容する,かつ,そのことをこの部会においても考慮しながら,公益信託制度を設計していくというような御発言かと承りました。更にその先に行って,附則3項についてどう考えるかとか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう考えるのか。これは今後,また,改めて本格的に御議論いただく機会があろうかと存じます。また,冒頭に小野委員から御発言のありましたのは,公益法人法制の改正に伴って,新しくできた一般法人,更にその中の非営利型法人というのでしょうか,一定の範囲で税の手当を受けているというようなものも視野に収めて検討すべきであると,こういう御発言であったかと思います。これらについて何かありますでしょうか。
○中辻幹事 法人税法上,一般社団法人や一般財団法人のうち非営利型法人の要件を満たすものについては,公益社団法人や公益財団法人と完全に同じではないにせよ,それに近い法人税法上の優遇を受けていると存じております。したがって,今回の部会資料では,公益法人との対比を中心に記載しておりますが,小野委員御指摘のとおり,一般社団法人や一般財団法人との対比も考えながら議論していくことが有益ではないかと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 法務省案の公益信託法見直しの基本的な方向性について賛成いたします。が,この検討をずっとしている中で,基本的な考え方としておいた方がいいと思うのは,民間活動をいかに促進していくかという,そういう目的を実行するためにやりやすい制度を作るのだという観点から,今後の全体的な見直しというものの根底にある哲学として,民間公益活動の促進ということを根底に置いていただくようなメッセージもあると,より良いのかなと思った点と,それと,公益信託制度の認定と税制との関係というのは,税制メリットを得られるようなしっかりしたガバナンスを持った信託の仕組みというものを念頭に置いて検討していっていただきたいと。それは税法も視野に入れながらというところに読み込めるんだと理解しております。
  それと,目的信託と公益信託の認定の関係なんですけれども,目的信託というものがあって,その認定を受けると公益信託というものになるんだというような今の一般財団法人法と公益法人法との関係というのではなくて,目的信託があって公益信託というものがあるというのではなくて,公益信託を認定したら公益信託になると,そして,それが認定を受けなかったらば,また,目的信託というもの,私益信託になるというのではなくて,それはそれで終わりということなのではないかなと思うんですけれども,最初の出だしのところは認定を受けなければ,私益信託として存続してもいいのではないかというのは分かるんですけれども,例えば公益信託として認定を受けていたのに,後で要件が不足しているということで認定取消しになったような場合のことを考えると,取消しになったらば普通の目的信託,私益信託として存続するのかというのは,公益信託として認められないような要件を欠くようなものが信託として存続するというのは,何か解せない気がいたします。認定を取り消されたら公益信託は終了して,残余財産が公益に帰属するような形で終わりと。目的信託として更に存続するというのはぴんとこないように思いまして,ですから,公益信託でなければ信託としては終了というような考え方の方が,すっきりするのではないかなと思いました。
○道垣内委員 平川委員のおっしゃったことに関しまして,二つを区別して考えなければならないと思います。つまり,受益者の定めのない信託というのを設定したところ,その目的を見るとどう考えても公益であるのだが,しかしながら,本人は公益信託の認定申請をしないで,そのまましているというとき,その信託が無効であるか,それとも,目的信託として有効であるかという問題と,公益認定を受ける公益信託として設定しようと思ったのに,公益認定が受けられなかったという場合です。この二つは違う話であり,後者の問題については平川委員のおっしゃるとおり,本人の信託設定の意思の問題として,公益信託として存続させる,設定するということを望んだわけですから,それが達成できないときには,それは信託の成立というものが失敗に終わるというのはよく分かります。それに対して,受益者の定めのない信託であるというときに,この目的は公益ではないか,公益だったら無効ですとなるのはおかしくて,それはそのまま,目的信託として存続し得るということは十分にあり得ると思います。場面を二つに分けて考える必要があるのではないかと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。先ほど能見委員などからおっしゃっていただいたのは,道垣内委員のおっしゃる第1の問題であり,今,平川委員から御指摘いただいた公益の認定の取消しの場合と,道垣内委員が御指摘になられた認定を受けられなかった場合,これらを合わせて第2グループの問題とし,そこでは本人の意思を尊重しながら,更に考えていくという御指摘を頂いたのだろうと思います。二つの問題があるということがかなりはっきりしてきたと思います。
○林幹事 第1の基本的な方向性については,私も賛成するものですが,簡単に何点か申し上げます。公益信託については,設定コストが低廉で小回りが利く,軽量・軽装なものだという御指摘もあって,そのとおりだと思います。本日,配布いただいた当初信託財産の資料がございまして,これを拝見しますと,今の公益信託でも半分以上が当初財産5,000万円以下ということになっていますので,議論するについてはむしろこういう当初財産の比較的少ないものをイメージしながら議論すべきと思います。それが1点です。
  それから,目的信託については先生方と基本的には同じなのですが,附則3項の規定を所与のものとして議論すべきではないと考えます。それはないものとして議論した上で,最終的にそれは残すべきだとなるのだったら,それも一つなんでしょうけれども,附則3項の規定は所与のものとして議論すべきではないと考えますので,申し上げます。
○山田委員 道垣内委員がおっしゃったことについて,私の意見を追加させていただきたいと思います。多分,道垣内委員の御意見と少し違う意見になるのではないかと思います。二つに分けるというところは,前提として私も分けたらいいのだろうと思うのですが,そのうえで,二つ目の方について,申し上げます。公益という言葉を先に使ってしまうと議論が制約されますので,例えば財産を持っている人が信託という形を使って奨学金の給付に使ってほしいと,こういう希望を持っていたとします。そのときに,公益信託をこれから考えていくわけですが,この要件を満たすならば税法上の優遇を受けられるという場合です。しかし,それは容易でないと思われ,その結果,その要件を満たすことが難しいならば余り無理せずに受益者の定めのない信託として,税法上の優遇を受けずに,この信託を成立させたいと委託者が考えている場合です。そして,受託者もそのことをオーケーしているという場合です。
  こういうときには当初からこのような場合にどうかということもありますが,それとは別に,公益信託として認可なり認定を受けて,ある程度の期間,例えば,5年やっていて,そこまでは税法上の優遇が受けられたところ,しかし,5年たったところで様々な経済状況あるいは信託の状況から見て,要件を満たすのは難しくなったということもあろうかと思います。では,そのときに信託を終了させますかというと,それよりは,委託者の意思から考えて,それは受益者の定めのない信託として,税法上の優遇はそれから将来に向けては受けられなくなります,また,あるいは既に受けていた税法上の優遇のある種の清算は必要かもしれない,しかし,そういった手当てをすることによってさらに何年間か,奨学金を給付するということを信託事務として行う受益者の定めのない信託として効力を持ち続けるということも,あってよいのではないかなと思います。
  ただ,今,私が申し上げた最初の5年間,税法上の優遇を受けていて,それによって得られたプラスの部分というのでしょうか,それを清算するというのが果たして実効性ある制度として付随的な制度として作れるのかどうかという辺りも問題になりまして,それが実際上,困難であるということであれば,私の今の意見は難しいということで,できないということでいいと思います。しかし,基本はできてよいのではないかと思います。そういう委託者の意思で始まった信託についてはできていいのではないかというのが,私の意見です。
  もちろん,最初から税法上の優遇を受けることができるということをある種の条件にして信託を設定した場合には,税法上の優遇が途中でできなくなったということに基づいて終了するという仕組みが働くということは,それはそれでいいのだろうと思います。多分,違う意見だろうと思いますので申し上げた次第です。
○中田部会長 違うかどうかも含めて,どうぞ,道垣内委員。
○道垣内委員 山田委員のおっしゃるところに異存ありません。
○松元関係官 今の点につきまして私も山田委員の御発言に完全に賛成なんですけれども,今回,公益法人あるいは一般法人というのと比較して検討するということで,もちろん,全く同じにする必要はないわけでございますけれども,一般法人で公益認定を受けていた公益法人について,公益認定が取り消された場合にどうなるかというと,それで解散になるというのではなくて,一般法人としてそのまま存続すると,ただ,公益認定を受けていた期間に受けた財産については何からの形で確か清算するというような規定があったように思いますので,それをある意味,パラレルに考えるということも可能なのではないかと考えています。
○中田部会長 ありがとうございました。
  公益信託と目的信託との関係という問題と,委託者の意思をどのように考慮するかという問題と,両方が重なっているところだろうと思います。第1の公益信託と目的信託との関係,あるいは先ほど来,出ております附則3項との関係については,今後,本日,受託者の要件のところでも関連する議論を頂けるかと存じますし,また,後日,公益信託と目的信託との関係についてのまとまった御議論を頂く機会もあろうかと存じます。
○新井委員 目的信託の受託者要件,附則3項と施行令3条については,私は存置という意見ですが,最終的にはこちらの部会で決めていただければいいことであり,結論には私も従います。それで,まず,決める前提として私が前回に申し上げましたように,日本の目的信託は非常に幅の広いもので,比較法的にもこれほど柔軟なものはないのです。一方で,これを導入しながら,他方で,こういう要件で非常にきつく縛った,その辺りについて,一体,前回の信託法部会でどういう議論があったのかという点を私としては明確にしていただいた上で,立法事実があるのか,ないのかというところの議論が必要だと思いますので,しかるべきときに,そんな資料を是非,開示していただいた上で,議論して決着を付ければよいのではないかと考えます。
○中辻幹事 附則3項については,信託法部会の中で議論されたというよりは,むしろ,信託法案の国会提出や国会審議の過程において後から付け加わったという面がございます。なぜこのような規定になったのか,濫用的な目的信託の利用を防止するためと理解しておりますが,もう少し補充して調べてみることも考えられるのではないかという新井委員の御指摘と受けとめましたので,その点についても留意しながら進めていこうと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
○渕幹事 第1の4の税法との関係のところについて,若干細かいのですが,一つだけ発言させてください。第1の4の第2段落「他方,公益法人制度においては」というところの次の段落,「公益信託の利用者にとって,自らの財産を拠出する際に税法上の優遇措置を受けられることは,公益信託を利用する大きな理由となっていると」と書いてあるのですが,ここの記述は若干強いような気がするので,もう少し弱められないでしょうか。
  その理由は,一つには前回もこの会議で指摘がありましたが,実際に設定されている公益信託のうちに特定公益信託でないという意味での一般の公益信託が3分の2ぐらいを占めているというデータが前回,出てまいりました。ということで,ここで言われている優遇措置を実際に利用しているものは3分の1程度であるということです。もう一つは,そもそも,民間の篤志家等によって公益信託が設定される理由は,学術とか技芸とかいった,そういった公益を増進するという目的が第一にあるはずであって,税法上の優遇措置を利用できること,ないしより一般に節税となるということが大きな理由ということであるべきではないということです。
  仮にそういうことがあるとすれば,それは税法上の優遇措置が理由となって,本来,別に適切な投資先がある資金を公益増進のための信託に回しているということで,税制が効率的な市場の形成を阻害しているというようなことになり,否定的に評価されるべきことになりかねません。そこで,税制優遇は,理由の一つであるというぐらいの評価にしていただいた方が無難かなと思う次第です。なお,全体的な方向性,すなわち,税法も視野に入れて検討するということについては大いに賛成でございます。
○中田部会長 関連ですか。
○吉谷委員 今の渕幹事の御意見に反対するものではないのですけれども,前回の信託協会の説明の中で,一般の公益信託がある程度あるという御説明をさせていただいて,そこでは一つには,昔は一般の公益信託しかなかったですというのが半分の説明で,後段の説明の方が今でも実際には一般の公益信託で特定や認定特定の基準を満たしていながらも,そこまで含めて認定を受けようと思うと時間が掛かってしまいますと,であるので,あえて税法上の優遇措置が受けられるのに,それを諦めて一般の公益信託にしてしまっているという例があるのだというのが前回の説明の趣旨です。なので,私の方からは,制度としては一括して公益の認定と税制の認定というのが一本で受けられるようになっていて,それが合わせて迅速に行われるというような制度になるのが望ましいのだろうなと思っているということで,補足をさせていただきます。
○渕幹事 今,おっしゃったことは要件を満たしていても,正に認定を受けないということで,税法上の優遇が理由ではないということをむしろ根拠付けてしまうと思います。これ以上申し上げませんが,おっしゃるように優遇すべきであるということと,実際に今,優遇が目的で人が動いているということは区別すべきであると思います。
  それとあともう1点,最初の方で小野委員が御指摘くださったように,公益法人制度の方でも公益法人制度と別に税法上の非営利型法人というのがありますので,そういう意味でも,公益信託の認定基準を公益法人とそろえるべきであるという御主張と,税法優遇の基準とそもそもの公益信託の認定の基準は一致すべきだという御主張,そこもつながらないのではないかと思う次第です。
○平川委員 税法上の優遇を受けるということが,民間の公益活動をより促進するという意味で,非常に連関させるべきなのではないかと思います。
○中辻幹事 税制の関係について1点,補足しておきますと,研究会の段階でも意外に特定や認定特定を取っていない一般の公益信託の件数は多いではないかという御指摘がありました。それに対する信託銀行の方の御説明では,基本的に個人の委託者が公益信託を設定する場合には,追加の寄附を予定しておらず,自分の死亡時に相続税の負担がなければそれで良いという方が多いということでした。部会資料32の5ページに相続税法基本通達9の2-6という規定が出てきますが,この規定により,一般の公益信託であっても,相続発生時に特定公益信託の所得税法施行令第217条の2第1項各号の要件を満たしてさえいれば,主務大臣の証明が無くても相続税の評価額はゼロになります。手続きが煩瑣になるのを避ける意味もあり,敢えて主務大臣の証明を受けずに一般の公益信託で設定するものも存在するということです。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  そうしますと,第1の基本的な方向性については大筋はこれでよかろうと。ただ,例えばすみ分けに留意しといっても,それによって他の制度を制約するような方向ではなくて,むしろ,その両方を考えていくことが必要ではないかとか,あるいは税法も視野に入れながらというのが,一方で税の優遇によって民間の公益活動の促進という,これは全体の政策決定とも合致しているわけですけれども,他方で,何か節税のツールとしてのみ使われるというようなことがあってはいけないというような御指摘も頂いたかと思います。ほかに目的信託との関係についていうと,特に附則3項をどうするのか。これは先ほど申し上げましたが,受託者要件をどう捉えるのか,あるいは公益信託と目的信託との関係をどう捉えるのかというようなことを今度,更に御議論いただくということになろうかと思います。ということで,基本的な方向性については,大体,こういうことで先に進めさせていただきたいと思います。ありがとうございます。
  それでは,次に「第2 信託事務及び信託財産の範囲」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○木村関係官 それでは,御説明させていただきます。
  まず,第2の1の「助成事務以外の信託事務の許容」について御説明いたします。ここでは,公益信託の受託者が助成事務に加え,助成事務以外の信託事務を行うことを許容するという提案をしております。現在の公益信託制度では,許可審査基準等により,公益信託の授益行為の内容は,資金又は物品の給付といった助成事務に限定されております。もっとも,民間の公益活動を促進するという観点からしますと,助成事務以外の信託事務,例えば美術館の運営ですとか,歴史的建造物の保存といったものが考えられますが,こういった信託事務を受託者が自ら行うという仕組みがあることが望ましいと考えております。こうした考え方について御審議いただければと思います。
  続きまして第2の2の「許容される信託事務の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の受託者が行うことができる信託実務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとするという提案をさせていただいております。少し長い注書きが付いておりますけれども,ここでは本文の公益目的の信託事務について,公益目的の達成のために必要な行為をいうと定義した上で,公益目的の達成のために直接必要な行為のほか,間接的に必要な行為も含まれるとしております。そして,その該当性の判断については公益信託の認定を行う外部の第三者機関が行うことを想定しております。また,この該当性の判断におきましては,信託事務を行う際に収入が生じるかどうかを問わないこととしております。
  以上の提案につきまして補足して説明しますと,まず,8ページの表を御覧ください。ここでは,美術館の運営を行う公益信託と,留学生向けの学生寮の運営を行う公益信託という2種類の公益信託を想定しております。このような信託の受託者が行う信託事務としましては,①の欄に記載した美術品の公開ですとか,留学生への居室の提供といった典型的なもの以外にも,例えば敷地を購入して美術館の建物を建築したり,展示品の入替えのために美術品を売買する,老朽化した学生寮を改築する,そのために敷地の一部を売却するといったものが考えられるところです。これらは,公益目的を達成するために必然的に生じてくるものということができます。
  続きまして,②欄に記載しているとおり,①のような信託事務以外にも美術館の中でミュージアムショップやカフェを営業したり,学生寮でバザーを開催するといった信託事務が想定されますが,これらは,①と比較すると,公益目的の達成のために必ずしも必要ではないものの,公益目的の達成に資するものということができます。
  更に③の欄に記載しているとおり,受託者が公益目的と関連しない書籍の出版をしたり,結婚式の式場として建物を提供したりといったものも想定されるところです。
  以上のように,公益信託の受託者が行う信託事務としましては,大きく分けると①の公益目的の達成のために直接必要である信託事務,②の公益目的の達成のために間接的に必要である信託事務,③の公益目的の達成とは関連しない信託事務という三つの類型があると考えております。本文の提案は,公益信託の受託者が①と②の信託事務を行うことは許容しますが,③の信託事務については許容しないという提案になっております。こうした区別に際しましては,信託事務を行うに当たって収入があるかどうかを考慮しませんが,当該信託事務自体が公益目的の達成に資することが必要であると考えております。例えばですけれども,公益的な活動の資金に充てる目的であったとしても,公益目的と関連なく不動産の賃貸を行うといった信託事務を行う場合には,そういった信託事務は除かれるということになります。
  こうした実質的な考え方を踏まえた上で,①及び②の信託事務と③の信託事務とをどのように区別するのかという点につきましては,例えば付随事務といった中間的な概念を設けるのではなく,①及び②の信託事務を合わせて公益目的の信託事務とした上で,公益信託の認定を行う機関が公益目的の信託事務と認定したものを行うことができるとする一方で,それ以外の信託事務を行うことはできないという仕組みとすることを考えております。以上の点について御審議いただければと思います。
  続きまして,第2の3の「信託財産の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の信託財産の範囲について,金銭に限定しないとすることでどうかという提案をしております。公益信託法上は,公益信託の信託財産の範囲についての限定はありませんが,許可審査基準及び税法では公益信託の引受け当初の信託財産は金銭に限定され,運用も国債等の安定的なものに限定されております。もっとも,先ほど御説明した助成事務以外の信託事務を許容する場合には,美術品等の動産や歴史的建造物等の不動産を信託財産にすることが想定されることから,これらを許容するのが適当ではないかと考えているところです。
  なお,このように金銭以外の財産を信託財産とすることを認めたとしても,「その他の課題」として,公益目的と関連しない信託財産を認めるのか否かですとか,みなし譲渡課税との関係をどのように考えるか,信託財産の運用をどの範囲に認めるのかといった点も問題になってきます。以上の点について御審議いただければと思います。
  最後に,第2の4の「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御説明いたします。本文では,信託事務の内容,信託財産の種類・規模等に応じて,公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないとするという提案をしております。現在の公益信託制度は,先ほども御説明しましたとおり,軽量・軽装備というところに利点があると指摘されていますが,公益信託の信託事務の範囲を広げたり,信託財産の範囲を広げたという場合には,それに伴って認定基準や監督・ガバナンスに関する規律を厳格にせざるを得ないのではないか,そういった懸念が生じるところでございます。
  こうした懸念に対応するために,現在の公益信託のように金銭を信託財産とし,助成事務のみを行うものにつきましては軽い基準とし,それ以外については厳格な基準にするという考え方もあり得るところではございますけれども,類型化が難しいことや,制度が全体として複雑になってしまうという懸念があることから,本文では規律を分けないという提案をしております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして,御審議いただきたいと思います。大まかに分けまして,1と2の信託事務の範囲,3の信託財産,4の類型別の規律の当否という順に進めていきたいと思います。ただ,相互に関連することでもありますので,厳密な区分というわけではございません。自由に御発言いただければと思います。ということで,まず,信託事務の範囲を中心に御審議いただきたいのですが,いかがでしょうか。
○道垣内委員 質問なのですが,言葉の定義の問題として,信託財産の運用という言葉と信託事務という言葉が出てきているのですけれども,信託財産の運用は信託事務に入らないという整理でこの資料は作られているのでしょうか。
○中辻幹事 この部会資料の作りとして,完全にそこが整理しきれているわけではありません。部会資料32の8ページの表でいえば,①の欄の美術館の建築・保存とか,留学生に対する居室・食事の提供などは,事業型の信託事務として想定しやすい具体例として挙げているものですが,その下の③の欄の最後では,投資用不動産の購入・賃貸等というものも信託事務の例として挙げています。投資用不動産の購入・賃貸等については,信託事務に入らない信託財産の運用であると整理する考え方もあると思いますが,信託事務の範囲の論点と信託財産の運用がどこまで認められるかという論点はなかなか分けにくいところがあって,当初の信託財産を用いた受託者による投資用不動産の購入・賃貸等の可否を信託財産の運用の方で考えるとしても,公益信託の受託者が行う信託事務の範囲の論点の中で御議論していただくことも可能なように思いましたことから,このような資料の作りにしております。
○道垣内委員 ということは,③の例として投資用不動産の購入・賃貸というものが書かれているのは,①との若干の類似性があるので,一つの例として書かれているというだけであって,③は信託事務として認めないということになったとしても,例えば12ページに書いてあるような預貯金,国債,地方債……取得によって信託財産を運用することは当然に認められると考えてよいということでしょうか。
○中辻幹事 そのようにお考えいただいて結構です。
○能見委員 実質に入る前に議論の前提といいますか,前提問題のところで明らかにしておきたい点があります。ここで事務の範囲とか,あるいは信託財産の制限とかいうある種の規制が考えられるわけですが,その法的な性質についての問題です。今,ここで考えているのは,受託者の権限としては及んでいるけれども,行政的な規制といいますか,あるいは公益信託法制の中での行政的な規制として,こうした制限を考えるということなのか,それともこの問題は公益信託の目的からくる受託者の権限の範囲の問題にも影響してくるのか,そこが気になっています。私としては権限の問題は後で検討した方がいいと思いますけれども,ここでの議論が権限の範囲を制約するようなことに繋がることがあるのかもしれないとも思っています。しかし,両者は別の問題として区別した上で議論した方がいいと思います。もし,この資料を準備されたときに,以上の点について検討された点があるようでしたら教えてください。ここで出てくる制限の法的な性質は何かということを御説明いただければと思います。
○中辻幹事 今回の部会資料を作成しているときに考えておりましたのは,8頁の表で挙げている信託事務を公益信託の認定申請書に記載した場合に,それが公益信託の認定を受けられるかどうかということでした。公益信託の認定を受けられるかどうか,そして認定を受けた公益信託に行政的な監督等の規制が及ぶかという問題と,公益信託の受託者の権限が私法上どのような範囲で認められるかという問題とは,若干ずれがあり得るところだと考えておりまして,その点については意識して今後検討していきたいと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどから議論されていますように,考え方の基準として公益財団法人,もちろん,非営利型の一般財団法人も含めての議論ということで,単純に単に公益財団法人と言わせていただきますけれども,公益財団法人ができることは公益信託でも十分できるという制度である必要があります。先ほどから公益信託について軽便な制度である必要があると,というのも現状公益信託の受託財産は5,000万円以下が結構多いという話がありましたが,公益財団法人を作るということ自体の重たさからすると,公益財団法人ができることを公益信託を利用してできるというような仕組みを提供することが必要と思います。したがって個々の論点においても公益財団法人ができるか,できないかという観点から考えるべきだと思いますし,そうすると,かなり広がりがあると思います。いろいろな観点から②,③というのは関連していると思いますけれども,さらにこうした観点からも広がりをもって検討すべきかと思います。
  それと関連する論点として,運用のところですが,給付型で金銭を預かる場合には,恐らく何らかの形で厳格な運用というものも必要かと思います。不動産を,美術品でも構いませんけれども,公益信託に付そうとしたときに,一切の金銭の扱いは別ですということになりますと,非常に使い勝手の悪いものになりますし,先ほどの公益財団法人とパラレルに考えるという観点からも不適切といいますか,使い勝手が悪いものになってしまうかと思います。
  ですから,給付型で何か金銭を受託するというものと,美術館の運営とか,弁護士会では子ども食堂というような議論がありましたけれども,いろいろな形で弱者向けに何か不動産を利用して,また,不動産以外のものを利用して,そのときに金銭も一緒に受託者に信託として預ける,受託者は信託目的に沿ってその金銭で場合によっては不動産を購入するとか,子ども食堂であれば,その運営費の足りないところを補充するとか,そういうことも当然といいますか,認めてしかるべきだと思うので,金銭の運用という議論とかなり違う観点の議論も必要かと思います。金銭だから,危険だから制限が掛かるということになると,使い勝手が悪くなってしまうということです。
○松元関係官 すみません,もう1点だけ,先ほどの能見委員のお話との関係で御発言をさせていただきたいんですけれども,能見委員の御指摘はもっともおっしゃるとおりだと私も賛成しておりまして,その関係から③のところに美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのが入っているのは,趣旨が余り定かではないんですけれども,展示するべき美術品を売ってしまうというのは,どちらかというといわゆる目的の範囲外と,受託者の権限の範囲外のウルトラバイリースのような話に近いのではないかというような感じがしておりまして,そうだとすると,ここにこの例がくるのは必ずしも適切なのかということと,もし,ここで言っているのが完全な投資目的で美術品を安く買って高く売るというようなことを想定して,ここに書かれているのだとすると,先ほど道垣内委員がおっしゃったのと全く同じような整理が必要になるのかなという感じがいたしました。
○新井委員 まず,1の「助成事務以外の信託事務の許容」についてです。これについては助成事務に限定する必要はなくて,助成事務以外の信託事務を行うことも認めるということで私は賛成したいと思います。ただ,そのときに公益信託は軽量・軽装備というメリットがあるということに留意する必要があると思います。というのは,受託者が自己執行しないという可能性も考える必要があるからです。それはどういうことかというと,旧信託法では代人使用というのは原則禁止されていたわけですが,現行信託法では原則許容ということで,再委託というのが非常に拡大されました。そうすると,助成事務及び助成事務以外の信託事務を行うということにしておきながら,実は全部,再委託するというようなこともあり得るので,ここの点は監督なり,ガバナンスにおいて少しチェックする必要があるのではないかと思います。
  先ほどの能見委員の観点とは違うのですが,どうして助成事務とか,助成事務以外の信託事務を受託者が行うかといえば,公益という重要な信託目的は,受託者が自ら執行せよという趣旨だと思いますので,自己執行義務と再委託の問題,これも一つの論点としてあっていいと思います。
  それから,2の「許容される信託事務の範囲」についてです。これは部会資料12ページの一番冒頭ですけれども,ここに書いてあることに私は賛成いたします。ここでの表現によると,①と②は一括して理解して③は除外するという理解でよろしいのかと思います。というのは,ここには出ていませんけれども,新しい公益信託の形としては福祉型信託,未成年後見の信託,小野委員のおっしゃった子ども食堂の信託ですか,こういうものがあると思うのです。
  例えば福祉型信託でいうと,ただ単に金銭を助成するだけではなくて,助成した金銭で例えば一定の機能付の車椅子を買うとか,あるいは施設に入居するという判断あるいはそのコーディネート,それが非常に重要です。ですから,助成の部分とそれ以外のところは密接不可分であり,なかなか分けることができないと思います。それから,未成年後見にしても金銭を給付するということと,給付した金銭でその後,どういう未成年の養育をするということは分けられないところがあると思いますので,ここは①と②は一体にして,③は切り分けるという整理でよろしいかなと思って賛成します。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本委員 第2の2の「許容される信託事務の範囲」について意見を述べさせていただきます。正に今,新井委員のおっしゃった点に関わる点です。特に2の点です。部会資料の7ページ以下によりますと,公益信託の受託者が行うことができる信託事務は,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の信託事務を行うことはできないとすることでどうかとされています。これによりますと,公益信託の認定を行う外部の第三者機関は,③の公益目的の達成と関係しない信託事務が少しでも入っていれば認定はできない。認定してほしければ,公益目的の達成と関連しない信託事務は,全て除外して申請しなさいということになるだろうと予想されます。
  この場合に,疑わしきは公益目的の信託事務と見るという実務が定着すればよいのかもしれませんけれども,恐らくはそうではなく,むしろ,逆に疑わしきは除外しなさいということになっていくのではないかと予想します。しかし,そうしますと,実際の公益信託の活動は,かなり縛りの強いものになるのではないかと思います。部会資料の例でいいますと,留学生向けの学生寮の運営によって国際相互理解の促進等を目的とする公益信託で学生寮の建物が信託財産とされた場合に,「運用」がどこまで含むかという問題はあるかもしれませんが,建物を使って一定の収益事業を一部行って得られた収益を利用して,学生寮の賃料を安く抑えるというような工夫をしようとしても,それは③の公益目的達成と関連しない信託事務なので,してはいけないということになりそうです。
  公益目的の事業を継続しようとしますと,現実には様々な工夫が必要になってくるだろうと予想はするのですけれども,このような形で一律に③はいけないという制約を課しますと,なかなかうまくいかなくなるのではないかと思います。確かに軽量・軽装備という公益信託のメリットは維持する必要があることはよく理解することができるのですけれども,例えば公益法人制度のように,公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがない限り,公益目的以外の事業も行うことができるというような何らかの手当をしておく必要があるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の御発言の趣旨と重なるかもしれませんけれども,私もゴシックで書かれている抽象的な規律としては御提案のとおりでよろしいと思います。すなわち,公益目的の信託事務に限定し,それ以外の事務はできないという,抽象レベルの議論としてはそれでよろしいと思います。しかし,それを具体化したときに,正に補足説明の中で言えば,②と③の限界線がどこにあるのかということだろうと思います。ここで山本委員も御指摘になったように,少しでも運営費用を賄うような目的が入っていれば駄目だということになると,これは非常に難しいだろうと思います。
  例えば美術品を入れ替えるために売ったり,買ったりすることは,①のところで直接関わるという分類になっております。他方で,③の方では運営費用捻出のための美術品の売買は③で駄目だと。例えば時価3,000万円の美術品を売却して,2,000万円の別の美術品を購入し,入れ替えて,差額の1,000万円は運営費用に充てるというようなことがあってまずいのだろうかというと,それを禁止する必要はないと思います。
  残りの1,000万円も,別の1,000万円のものを買わなければいけないということでもないでしょうし,他方,運営費用捻出というのは,正に運営できなくなってしまえば,公益目的そのものが達成できなくなってしまうわけですから,どこかで工夫をして費用を捻出しながら運営していかないと,そもそもの公益目的を達成すること自体が難しくなる。ということを考えると,余り近視眼的にといいますか,スポットで見て,この部分は収益的な事務だからいけないということではなくて,全体として見て,そういう収益的な活動も含めて,公益目的を達成するために行われているものという評価ができるのであれば,それは認めるべきであるし,むしろそういうことを当然に予定していかないと,かなり窮屈な制度になってしまうというのは私も同じ意見であります。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 私も先ほどの山本委員なりの意見と基本的には同じですが,弁護士会の議論の中では,①,②とも基本的には賛成で,助成事務以外の信託事務を行うことができることであるとか,あとは信託事務の範囲を御提案のとおり,公益目的で限定していくというようなことについては基本的には賛成でした。ただ,公益目的の判断が難しい場面があるであろうと思われますし,あとは表の②と③の区別もなかなか曖昧で,この表のとおりの指摘が必ずしも正しいとは思えなくて,③の中でも②に入れてもいいと考えられるものが幾つかあると思いました。
  例えば,不動産なりの信託事務をしているけれども,常時利用しているわけではなくて,例えば,子ども食堂のような,夜は使っているけれども,昼は空いているというような場面において,昼に何らか有効活用しようというのは,当然あってしかるべきなのではないのかと思います。結局,それをどのように限定していくかということではあるのですが,後の運用の観点もそうでしょうが,公益目的や当初の信託目的によって,限定されると思います。
  事業とか運用といったときに,根幹的な公益信託の目的となる事務からすごくかけ離れたものが事業なり,③のカテゴリーで認められるということは基本的にないのでしょうから,根幹的な公益信託の目的となる事務にそれなりに近いものでなければ,③に近いものといっても認められないだろうと思います。ですから,それは当初の信託目的なり,公益目的なり,そういうところから,限定されていくというのが一つの考えだと思います。
○沖野幹事 同じ点です。部会資料8ページの表の②と③の切り分け,①と②をセットにした上で③と切り分けるという点ですけれども,②と③の切り分けは山本委員がおっしゃいましたように,疑わしきはどちらにいくかというときには,どちらかというと,①,②の方は比較的広げるというか,緩やかに判断するというような考え方の方がよろしいのではないかと思っております。正に③で一般的な表現としては,公益目的の達成と関連しない信託事務という関連性がないということで切られております。その中に活動維持のために必要性,相当性といった点を加味して考えていき,もう少し緩やかに②と③の切り分けを考えた方がいいのではないかと思っております。
  そうしたときに,ここに挙げられている例として先ほど来,幾つかの御指摘があります美術館の運営費用捻出のための美術品の売却・購入というのは,これだけを見ますと様々な場面があり得るわけで,当初予定したよりもうまくいかないので,少し縮小してというようなときだと,運営費捻出のために売却すると,そして,作品を切り替えていくというようなことも出てくるわけで,そういったものはむしろ①に入ると思います。そうだとすると,美術館としての維持や運営にかかわらず,投資的にやるというような,あるいはブローカー的に行うというようなことはできないということで,その切り分けとして非常に抽象的ではありますけれども,相当性と必要性,関連性といったところから,個別具体的な事業ないしは申請に対して判断していくというのが,適切ではないのかなと思っております。
  それと,もう1点ですけれども,道垣内委員,小野委員がお聞きになったことなのかと思うのですけれども,よく分からなかった点がありますので,改めて質問したいという趣旨です。それは美術館の建築・運営というときに,美術品とともに,しかし,運営資金が必要なので金融商品も託し,その金融商品を運用することで,美術館の運営資金を賄っていくというような計画を立てたときの金融商品の運用というものは,②に入るという理解でよろしいんでしょうか,という質問です。
○中辻幹事 今,沖野幹事が例として挙げられた美術館の運営のために信託財産の金融商品が運用されるケースについては,表の②の欄の信託事務の中に入るかどうかというよりは,公益信託の信託財産の運用として認められるかどうかという面から検討することを予定しておりました。そこで,その金融商品が現在のように国債や預金等の非常に安全な運用を行うものであれば,当然認められることになるでしょうが,新たな公益信託制度では,今のような固い安定的な運用よりはある程度ゆるやかに利ざやの大きい運用を許容することもあり得ると考えておりまして,その論点についてはむしろ信託財産の運用の面から議論していただければと存じます。
○中田部会長 沖野幹事,よろしいでしょうか。
○沖野幹事 ありがとうございます。
○神田委員 既に御議論があった点と重なりますし,今の最後の点とも重なるのですけれども,3点,確認の意味も含めて感想的な意見というか,質問めいたこともあるのですけれども,申し上げます。
  まず,第1点目は,最初,能見委員からの御発言から始まった点なのですけれども,今,ここで議論しているのは認定の基準であって,受託者の権限とか,行為能力ではないと理解しました。その意味は例えば部会資料8ページの表でいうと,①と②はできるけれども,③はできませんというのはあくまで認定の基準であって,もし③がされた場合には,特に対外的な行為の場合には,その効力は有効であると,仮に相手が悪意であってもと,そういうところまで意味しているのか。そういった問題は受託者の権限として後でもう一度議論しますということなのかというのが質問です。確認的な質問です。
  それから,2点目は,①,②にどういう行為が入るかということで,二つ,是非,御検討いただきたいと思うことがあります。一つは新井委員がおっしゃったことなのですけれども,アウトソースというか,委託することができるかということです。確かに原則は,自己執行義務という言葉を使うとすれば,そういうことの方が公益信託には望ましいと思いますけれども,よく挙げられる例で例えば仮に運用として国債を保有することができる,今でもそうだと思いますけれども,そうすると,国債は自分で保有することはできませんで,制度的に金融機関あるいは振替機関である日本銀行を通じてしか保有することはできません。
  こういうものを委託と整理するかどうか自体に争いがあり得るところですけれども,伝統的な一般的な整理は,振替証券と呼んでおきますけれども,振替証券の振替制度を通じての保有は委託だという整理が少なくとも伝統的にはされてきていまして,私は個人的には若干疑問があるのですが,それはともかくとして,もしそうだとしますと,こういう例外的な場合には委託が認められてしかるべきとなるのではないか。今,たまたま,国債の例を挙げましたけれども,より一般的に例外的な場合があるかどうかということになります。
  それから,もう一つは今,最後に御議論があったところなんですけれども,一般には資金が必要になってまずやることは借入れになります。そこで借入れができるのか。もちろん,一般的な長期の借入れというよりも一時的な借入れ,仮に①,②で処分できるとして,ここに書いてある例でいいますと,展示品入替えのための売却とかがありますけれども,なかなか売れないというときに一時的に借入れをしていいか。今あった御質問は金融商品を運用して資金を捻出していいかという御質問だったので,より一般的にいうと,①,②をするために必要な資金をファイナンスしていいかということになると思います。伝統的な言葉でいうと,一番簡単な一時的な借入れをしていいかどうかということを御議論へ加えていただければと思います。
  3点目は道垣内委員が最初におっしゃったことに結局,関連するのですが,信託事務という概念と運用という概念でして,本来,運用のところで申し上げるべきであったことかとは思うのですけれども,仮に例外的な場合に委託,あるいは仮に一時的な借入れとかができるとなると,それは信託事務ですかという問いが概念的には生じるので,運用は信託事務ですかという御質問とかぶってくると思うのです。ですから,概念整理だけの問題だと思うのですけれども,公益信託において受託者ができることは何で,できないことは何か,このできる,できないは,権限ではなくて認定基準の問題として議論しますと,こういう整理なら,そういう整理をしていただきたいと思います。
  そうなると,後で申し上げることかもしれませんが,運用についても運用は当然できますという話ではなくて,今の委託とか,一時的な借入れと同じだと思うのです。原則は例えば100というお金を受け入れて,全部,100を運用していますというのは考えにくいので,すぐに美術品を買おうと思っても,最初に買うのに6か月,1年,かかりますと。これを待機資金と一般には言っているのですけれども,その間,放っておいていいかというと,国債とか預貯金にする,あるいはそれ以外でもいいですかという話。
  あとは与信と言って,100のもので美術館とか美術品を買おうと思ったけれども,80で20が余っているので,次のことをやる間,この例ですと,与信と言っていいのか,それも広い意味での待機資金なのですけれども,それは放っておいたらゼロで,今運用したらマイナスかもしれません,いずれにしても,運用というのも,そういう待機資金とか,与信についてこういうことができますということだと思いますので,委託にせよ,ファイナンス,一時的な借入れにせよ,運用にせよ,そういうことだと思います。それは信託事務の中に概念整理するか,外に概念整理するかはともかくとして,大きな枠組みとして,できること,できないことということで整理していただければ有り難く思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 ただいまの神田委員がまとめられたのとかなり重なるのですけれども,私が最初に申し上げましたように,ここで議論するべきことは認定基準の問題であるという形で,問題が立てられてはいるのですが,実際には公益信託が動き出して運用の段階となったときの,受託者は何ができるのか,できないかという問題にも関連はしています。しかし,両者が混じってしまうと議論の混乱が生じるので,まず,それをきちんと分ける必要があるだろうということで,この点,神田委員が指摘されたとおりであります。
  その区別をした上で,認定の段階の問題として,どういう一般的な原則を立てて,先ほどの①,②,③についてもどんな形のルールにしておくのかという点なんですが,公益認定の基準としては,抽象的な言い方ですが,当該信託が公益目的事業を行う,あるいは公益目的事業に反することはできないという程度の一般的な基準でよいという感じがしました。それを更に具体的な基準にしようとして,①,②,③のような具体的な書きぶりをしたときに,うまくいくのか。特に②,③を区別するような基準がうまく書けるのか,公益性認定の基準として書けるのかというと,なかなか,難しいのかなという感想であります。
  この問題は,受託者が公益信託の引き受け許可を求めるときに,その申請をするときにどこまで詳しく書かなければいけないのかという問題とも関係すると思います。公益信託の許可申請をする段階でも,②とか③のような事業については,②辺りは実際に公益信託が動き出す前に,事前に書けなくはないと思うのですが,②の事業でも後でだんだん拡張するような場合もあるでしょうし,全てが公益性の認定ないし許可を求める段階で書けるとは限らないと思うのです。それから,③は書けない。これはむしろ駄目だという例ですから,一般には,公益信託の引き受け許可申請の段階ではもちろん書かない。いずれにせよ,②や③に関連することを,申請者はどこまで公益性認定のところで書くのかという問題があるような気がいたします。
  認定の段階ではそういう問題があるということですが,②,③の区別が実際上問題となるのは,公益信託が設立された後の実際の運用の段階なのだろうと思います。たとえば,③にあるようなことが実際に行われたけれども,しかし,そこで上がった収益は公益活動の資金として100%使うのだということになると,その場合の③は駄目なのかと言われると,ケース・バイ・ケースであるように思います。要するに,③は,基本的に運用の段階の問題として,ケース・バイ・ケースに判断して処理すればいいのではないかという感じがいたしました。これがまた受託者の権限の範囲内か否か,権限外行為ということで無効になるのか否か,という問題は,後で受託者の権限のところで議論したいと思います。
○道垣内委員 最初に申し上げたことの若干,繰り返しになるのですけれども,少なくとも現行信託法は,信託財産の投資も含めて信託事務という言葉を使っています。だからこそ,信託事務について善管注意義務が掛かるとか,忠実義務が掛かるとかというときには,もちろん,信託財産を運用するということについても,そういう善管注意義務や忠実義務が掛かってくるというわけです。
  しかるに,今回,公益信託の議論をするときに,最終的に条文に落とすときにどうなるかという問題はさておき,信託事務という考え方と信託財産の運用という概念を一応,異なるものとして議論をしていくというわけですが,恐らくそれがこれまでの公益信託法における議論で可能だったのは,信託財産が金銭に限られていたからなのだと思うのです。したがって,金銭の運用方法について国債,地方債,預貯金にしなさいと書いておけば,当該信託財産の運用における権限というのは極めて明確になって,それ以上の議論をする必要はなかった。
  しかるに,仮にこれが今,議論の範囲に入っているかどうかは覚えていないんですが,部会資料の12ページ以下のところにありますように,公益信託の信託財産について金銭に限定しないということになりますと,正に事務局で気付いていらっしゃるように,14ページの3の(1)のところにあるわけですけれども,金銭に限定されない信託財産を使った運用というものが出てきます。遡って投資用不動産をそもそも信託財産とすることを許容しないという考え方もあり得るとも書いてあり,それはそうなのですが,仮に信託財産の範囲を金銭に限定しないということを前提とするならば,受託者が助成事務以外の信託事務を行うが公益目的の信託事務に限定するという言い方の整理に,若干の無理が出てくるのではないかなという気がいたします。
○中田部会長 既に3の「信託財産の範囲」にも入っておりますので,その点も含めて御議論いただければと思います。
○小野委員 運用という言葉の使い方について,昨日の弁護士会のバックアップチームで議論したことをお話しさせていただきますと,信託業法上,管理型と運用型に分かれていて,運用という言葉の使い方によっては信託業法の適用のあるような信託と,場合によっては見られてしまうかもしれませんけれども,今までの議論でもそういう金銭の信託を伴うものであっても,給付型で安全資産において運用といいますか,管理するものばかりではなくて,信託目的,また,信託契約に沿った形で委託された金銭を使用することができるようにする必要があり,それが信託業法の運用型に該当するような議論とならないようにしていただきたく,用語の使い方,言葉だけの問題かもしれませんけれども,今後信託業法の議論というのもあり得ることと思うので,是非,留意していただけると有り難いと思います。
  特に現在の信託財産の運用のところの記述というのは,ざっと見るところ,いわゆる金銭給付型の信託財産の運用又はしばらく金銭として扱っていたときの運用という観点のようですけれども,私の発言でも,また,多くの委員の方々の発言においても,信託された金銭をどう利用するか,公益目的でどう利用するかということだったと思うので,いわゆる運用型の運用とは法律用語として違うのではないかという点でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 今,議論されております三つの課題があると思うんですけれども,公益法人協会で前回の公益信託法改正研究会報告書に関するアンケート調査というのを行いまして,200人余りの個人の有識者に質問を求め,56名の回答を得ております。ほぼ法務省案に賛成という結果でございますが,最初の助成事務以外の信託事務の許容については,56名中52人が賛成,反対が4ございます。収益事務等を除外するという点については,39名が賛成で17名が反対なんですけれども,助成事務以外の信託事務を許容することに反対という理由は,積極的に反対というよりはガバナンスがかなり難しくなっていくのではないかと,そちらの規制の方ががんじがらめになるぐらいであれば,特に非常に収益事業をやるべきということではないというような感じでございました。三つ目の金銭以外のものについては,全員が金銭以外の財産を信託財産とするということに賛成という結果を得ております。
  許容される信託事務の範囲なんですけれども,先ほど道垣内委員がおっしゃったように,公益目的の信託事務という広いくくりで見て,一見,賃貸して収益事業を行うから公益には反するということではなく,それが真に公益目的かどうかというところで見ることができるのではないかと思うんです。それで,例えば一棟建てのマンションを持っているおばあさんが,これでもって助成事業をしたいということで,マンションを信託にして,その収益でもって学生に奨学金を与えるとか,そういうような公益信託があってもいいのではないかなと。そうすると,賃貸収入なのだから公益ではないということにはならないのではないかと思うんです。
  あと,新井委員がおっしゃったように,信託財産の範囲を金銭以外のものも含めるということになると,信託事務の委託というところで,かなりガバナンス的に難しい問題もあるのかとは思うんですけれども,そのことはさておき,信託財産としては金銭以外にも広めるべきであるし,後に出てくる問題の受託者の資格という意味で,委託をする場合には,それを監督することができるような見識や経験のあるというような要件が必要になってくるとか,そういうところにつながってくるんだと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
○明渡関係官 公益法人の実務をやっている観点から若干,補足をしておきたいと思います。部会資料の8ページから9ページにかけまして,①,②,③というふうな形で3種類の信託事務の分類が挙げられております。そこで,9ページの(2)一番最後のなお書きには注意深く書いていただいておりますけれども,「ミュージアムショップやカフェの営業が,公益法人の行う公益目的事業の一部として許容される例が存在している」というような形でお書きいただいております。
  常にミュージアムショップやカフェの営業というようなものが公益目的事業となっているわけではございません。収益事業として立てられている例というようなものも多数あります。単にミュージアムショップ,カフェというようなことだけで見ていくのではなくて,恐らく個別の事情の中で判断しているんだろうと思います。そういった意味では,②と③の区別というようなものもなかなかグレーゾーンがあるかと思いますけれども,②で例が挙がっているからといって,全て同じような形で,現在の公益法人の実務においてとられているかというと,その辺りも個別事情を見ながら判断しているというような実態があるというふうなことを誤解なきよう,お伝えしておきたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。今のお話は認定の基準という趣旨でございますね。
○明渡関係官 認定のときもそうですし,その後の監督もそれに従ってという形になります。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○吉谷委員 まず,信託事務の拡大によりまして,監督・ガバナンスの強化が必要になって,その結果,軽装備を旨とする公益信託の特質が失われないようにすべきであるということを改めて強調しておきたいと思います。それを前提といたしまして,公益目的の達成のために直接,間接に必要である信託事務であれば,それに伴い,一定の収入が発生することも許容されてしかるべきであろうという考え方には賛成いたします。ただ,ここの例で挙がっている美術館の運営などというのは,非常に私などから見ると難易度の高い事例でありまして,恐らく具体例に挙がっているものよりももっと単純で,実現可能性の高いものはいろいろあるのかもしれないなと思っております。
  信託事務でとても複雑な事業をするということがよいのだろうかという論点はあるのかなと思っております。現行の実務よりも受託者の裁量を極端に拡大することを認めることで,ガバナンスに関する規律が拡大されると,現在,行われている助成型のような簡単にできるものについても支障が出るというのでは困りますので,もし,そういうことになるのであれば反対したいと思います。そういう意味で,受託者の裁量を限定するという方法はいろいろあると思っておりまして,例えば運用の観点とも若干関わるのですけれども,事業を継続するために必要な資金の調達というのがあって,そのために計画的に信託財産を売却するというようなことは,公益目的の信託事務に含めていいのではないかと考えております。
  ただ,美術品の売却は,個別のケース・バイ・ケースの是非になるかとは思うのですが,より単純な具体的なニーズということでは,不動産や有価証券等というものを当初の信託財産にしますと,その売却資金を公益目的に使用するということは,十分に考えられるだろうと思っております。そのような事業計画をきちんと立てて,受託者の裁量を適切に限定するということも可能なのではないかなと思います。
  もし,そういうことを認めた場合は,投資用不動産を当初の信託財産とする,例えばマンションであるとか,そういったものを1棟でも1戸でも信託財産として,そうすると売却までの短期間の収益というのは必然的に発生するわけでありますので,そのようなものは許容されていいのではないかと。受託者に別に不動産事業を継続しようという意図があるわけでもありませんので,10ページの第1パラグラフには,悪影響の懸念ということが書かれているんですけれども,そういうものを考えれば悪影響の懸念というのはないのかなと思っているところです。
  あと,公益目的の信託事務という法律の概念を規定して,該当する事務の範囲を公益信託の認定を行う外部の第三者機関の判断に委ねる方法というのに賛成でございます。ただ,部会資料上,気になることが一つございました。11ページの(3)のところの下の方に「もっとも」という箇所がありまして,その下で個別具体的な信託事務の内容を公益信託の申請段階で記載することを要求することは,申請者の負担を増大させることになると,審査も長期化して軽量・軽装備という公益信託のメリットを維持しようとする観点との調整が必要と書かれています。
  考えますところでは,信託は法人組織ではありませんので,受託者の信託事務の範囲というのを信託契約や申請書である程度,具体的に記載して狭めておいた方がやりやすいのではないかなと思うのです。信託で行う事業が複雑なものであればあるほど,審査が長期化することはやむを得ないと思えますので,助成型のような事業についての記載は簡易であってよく,美術館を建築して運営するようなものについては,詳細な運営が求められるということは慎重に審査する必要もあるでしょうから,やむを得ないのではないかと考えます。そういうふうにきっちりとした審査計画書面というものを作ることによって,監督の仕組みを軽装備にすることができるのであれば,そのようにした方がいいと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  吉谷委員の今の御発言は,①と②と③について軽量・軽装備が担保されるということを条件にといいますか,それを前提に,方向としてはこれでいいと承ってよろしいでしょうか。分かりました。
○樋口委員 2点だけ。1点は感想で,もう1点はコメントです。
  今,ずっと御議論を伺って,なかなか,本当に難しいなと思っております。いろいろ,勉強になることばかりだと思っておりますけれども,感想の第1は結局,2ページ目の基本的な方向性というのがこの文章を読んでも私だけでなくて,多分,ここの会議にいる人以外は何を言っているか分からない,結局,一番大事な言葉は(公益法人と公益信託の)「すみ分け」というのがどうもあるらしいというのと,「適正な利用を促進する」という言葉です。しかし,これほど曖昧な言葉はなくて,何を言っているか分からないので,結局,信託事務の範囲とか,それもつまり一番初めのところの大元がはっきり決まっていれば,信託事務の範囲も広げていこうとか,そうではなくて限定しておかないといけないとか,何か方向性が決まるはずなんだけれども,基本的な方向性と書いてあるんだけれども,決まらないから,こういう議論になっているんだなというのが感想です。
  それで,すみ分けに関係して私自身が面白いなと思ったんですけれども,10ページ目の「小括」のところで,つまり,公益法人との比較みたいな話を教えていただいて,本当に有り難いことだと思っているんですが,真ん中辺から「小括」の2段目ですが,なお,公益法人制度では公益目的の達成と関連しない信託事務に相当する収益事業等を公益法人が行うことが許容されているが,しかし,他方では公益信託制度と比較すると認定基準がそもそも厳格なんだということです。そういうことを考えると,最後に,このことからも信託の方はつまり厳格な認定基準ということにきっとならないので,逆に公益目的の③の類型については,許容すべきでないと考えられるかどうかと,こういう形でつまりバランスをとろうとしているんです。
  これは何か理屈が合っているようで,理屈が合っていないような,公益法人の収益事業許容と認定の厳しさでバランスを取っているから,公益信託の方は逆に収益事業は許されない,この議論は極めて説得力があるようで,私にはものすごく疑問符が感じられるような,とにかくバランスをとればいいというだけにしか読めなかったんです。この二つが論理的にすぐ結びつくかは何ともいえないからです。これも感想で余計なことを言ってしまったかもしれませんけれども。
○中田部会長 ありがとうございました。ほかには。
○渕幹事 部会資料12ページの「信託財産の範囲」のところについて少しコメントというか,感想がございます。今のところ,金銭に事実上,限定されているということが議論の出発点になっているのだと思うのですが,本当にそうなのかということについて少し伺いたいのです。というのは,先ほど「みなし譲渡課税」のところで追加して説明してくださったところとも関わるのですけれども,特定公益信託ではない一般の公益信託というのが,実際には余りそれは実務上重要ではないのだとおっしゃる方もいらっしゃるのですが,仮にある程度,使われているとして,その課税関係についてはどうなるかということなのですが,先ほど御説明がありましたとおり,委託者がそのまま財産を持っているとみなして,それで課税するのであるというふうな仕組みになるのかと思います。ということは,仮に金銭以外のキャピタルゲインがあるような財産を信託財産として,公益信託を設定したということがあったとしても,そこでみなし譲渡課税は行われないと思われるわけです。
  問題は,今申し上げたようにキャピタルゲインがある財産を信託財産として,公益信託を設定するという人がいるのかということです。今回の資料では,そういうものはほとんどないのではないかということが暗黙のうちに想定されているのですが,インターネットで調べましたところ,国税庁のホームページに質疑応答事例というのがございます。
  それを見ますと,その中に公益信託の信託財産とするために上場株式を提供した場合というような質問が出ていて,これは要するに公益信託の基本財産として,相続によって取得した上場株式を出捐したいというわけです。その場合にみなし譲渡課税があるのか,ないのかという質問なのですが,これについて国税庁の回答は,法人税法附則19条の2の2項というのがあるので,公益信託は法人課税信託ではないということで,引き続き委託者が信託財産を持っていると税法上はみなされるということで,みなし譲渡課税はないと答えられています。ということで,こういうふうに国税庁が質疑応答を出している以上,もしかしたら使われている例はあるのかもしれないと思われるのです。
  そのことと離れて理屈の上で考えてみますと,みなし譲渡課税がなくて,それで公益信託の信託財産となるとどうなるかというと,所得税法11条の2項でしたか,非課税の扱いになるということで,例えば配当とかを受け取っても非課税というメリットがあるわけです。というようなことで,もしかしたら,そもそも一般の公益信託というものがこういう形で,例えば上場株式などを信託財産とする形で既に使われているという可能性があるのかもしれない。これは分かりませんが,そういう可能性は国税庁が出しているものからするとあるなと思った次第で,そのことがもしかすると,ここでの議論というか,説明の書き方に多少,影響を及ぼす可能性があるかもしれないと思って発言しました。
  それから,長くなってしまって恐縮ですが,もう1点ございます。14ページの(2)のところで,みなし譲渡課税との関係という論点が出てまいります。ここで公益信託の場合は,租税特別措置法40条というのが適用されるということが説明されております。これはここに説明がございますとおり,本来,課税の対象となるべき過去に生じているキャピタルゲイン課税について,課税しないということだと理解しております。
  これについて,公益信託についても同等の扱いをしたらどうかというような考えもあり得ると書いてあって,もちろん,公益法人との関係では同じ扱いをすべきだという意味では,非常にそういう考え方にも説得力があるのかもしれないのです。しかし,この制度では結局,実際に公益目的に使うべしということで出捐した財産の額と課税を免れるといいますか,非課税になる額というのが余り連動しないわけです。たまたま,キャピタルゲインが多い財産を出せば課税が減免されると。しかし,含み益がない,キャピタルゲインがないような財産を出した場合は,そういう便益は及ばないということなので,白地から制度を設計すれば,こういうふうにキャピタルゲインを減免する,課税を減免するというよりは,例えば公益目的に出捐した額の何%の額を一律に税額控除するというような仕組みにした方が,課税の公平という面では賢明かもしれないと,そういう考え方もあり得ると思う次第です。
○中田部会長 今の点について今の段階でよろしいですか。
○中辻幹事 渕幹事が指摘されました,国税庁のホームページの情報を私は存じておりませんでした。ご教示いただき,ありがとうございます。私どもとしては,公益信託で株式も含めて金銭以外の財産を信託財産とした場合には,主務官庁の許可がおりず,財務省の了解も得られないということで,株式が公益信託の信託財産とされている事例は稀なのではないかと考えておりましたが,実際にこのようなホームページがあることからすると,株式が信託財産とされている実例もそれなりにあるのかもしれません。
  もし信託実務の観点から,吉谷委員の方で教えていただけることがあればよろしくお願いいたします。
○吉谷委員 はっきりとした数字ではないんですけれども,私が存じている限りでは,恐らく業界でも10とか20とかぐらいはあるのではないかと思います。ただ,最近,そういうのを受けたかどうかということについては余りよく分からないですね。恐らく助成型しかやっていませんので,株式を当初信託財産にして,その配当を助成に使いますという考え方はあり得るんだと思います。ただ,一方で取り崩していくようなパターンだと,金額が小さくて配当が少ないので,徐々に売却していかないといけませんというようなケースですと,その売却に対してどの程度,課税がされるかということも,信託を設定する上での考慮材料になるのではないかと思われますので,今は期中の売却については普通に委託者に課税されるのではないかと思いますので,そういうところの御配慮が新しい制度であると,当初信託財産として有価証券などを使うという方向性は,考えられるのではないかなと思っております。
○渕幹事 では,株式を売却したりする場合については,今は,所得税法11条2項は適用されていないということですか。
○吉谷委員 売却時にも非課税メリットがあるということですか。
○中田部会長 専門的な話になってしまって難しいんですが,平成19年の税法改正で新しく入ったということとの関係もあるんでしょうか。
○渕幹事 私も余り分かりません,すみません。
○中田部会長 今,吉谷委員がおっしゃいました,期中で売却したときにどうなるかということと,それから,当初にキャピタルゲイン課税が生じるかどうかということと,二つの問題があるのだろうと思います。これは今,中辻幹事からもありましたように,こちらは十分,まだ,よく勉強していないところでしたので,是非,渕幹事にもお教えいただければと思います。とりわけ,平成19年改正で一般の公益信託と特定公益信託との間に違いが出ている,それがなぜなのか。特定の方は金銭だけを念頭に置いているから対象とする必要がなかったにすぎないのか,それとも,もっと大きな何らかの政策的判断があったのか等も含めて,引き続き渕幹事からお教えいただきながら,詰めていければと思います。今日は問題の提起ということでよろしいでしょうか。
○渕幹事 ありがとうございます。
○中田部会長 どうもありがとうございました。
○神作幹事 先生方からいろいろ御議論いただいて,しかし,まだ少し分からないところがあるので御質問させていただければと思いますけれども,8ページの表の読み方なのですが,信託事務の分類というので①から③までございます。ここでの分類というのは,一応,公益目的の達成のために直接必要か,間接的に必要か,達成と関連ないと分かれておりますけれども,先ほどの神田委員の御発言にも関連するかとは思うのですが,例えば③で挙がっている例のうち,美術館の運営費用捻出のためというのがたまたま美術品の売却・購入だけに係っていて,これは確かに目的そのものに反する可能性があると沖野幹事から御指摘があったとおりかと思いますが,例えば美術館の運営費用捻出のため,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸というも,当然,公益目的の達成のために間接的に必要ではないという整理なのか,つまり,③に挙げられている行為というのは,場合によっては公益目的のための正にファンドレイジングだという,そういう可能性もあると思うのですけれども,ここで書いてあるのはむしろ何をするかというのを単に客観的に並べているだけであって,真の目的とは無関係だという理解でよろしいのかというところであります。
  それと同じことは多分,神田委員が先ほど借入れについて書いていないではないかということなのですけれども,これも借入れというのはそれ自体,非常に抽象的,一般的な行為で,恐らく①から③のどれにも入り得ると思うのですけれども,この表の見方がむしろ本当の機能に着目して分類しているのか,それとも,外形に着目して分類しているのかという,そこのところが少し分かりづらかったので,もし御説明いただければというのが第1点です。
  それから,第2点は少し意見になりますけれども,もし外形的に書いてあるんだということだとすると,一つの説明というのは外形的に例えば③のように活動範囲が広がれば,例え目的はファンドレイジングであっても,ガバナンスが大変になるでしょう。これは一つの説明かと思いますけれども,もう一つ,あり得る視点かなと思いましたのは,税法も視野に入れるということになりますと,例えば③のような活動を営利法人がやっているという場合の課税の関係と,そうではなく,これはもちろん公益信託における課税の在り方と連動してくるわけですけれども,課税の在り方によっては非営利の場合,公益の場合とそれ以外の場合との競争上のイコールフッティングというような観点というのも,もしかしたら問題になり得るのかなと思いました。
  すみません,前半の方のご質問についてもし教えていただければ大変有り難いと思います。
○中辻幹事 神作幹事の御質問に対してですけれども,部会資料32の8頁の表に挙げました各種の信託事務が①から③の欄のいずれに位置付けられるかは,外形のみによって判断できず,「公益目的」よりも下のレベルの目的も含めて判断することが必要となる場合がございます。例えば,③の「美術館の運営費用捻出のため」の美術品の売却・購入は,外形的に見れば①の「美術品入替えのため」の美術品の売却・購入と区別できないものがあり,そこは「文化及び芸術の振興」という「公益目的」よりも下のレベルの目的で区別するほかありません。
  なお,私どもとしては,公益法人の世界では,公益目的事業の運営を永続的,継続的にやっていくための費用を捻出することは認められるべきであるという発想から公益法人が収益事業を行うことが認められ,収益事業によって上げられた収益が公益目的事業の運営の方に投入されていくという仕組みがとられていると理解しています。
  しかし,そのような仕組みをとったがゆえに,公益法人については公益目的事業比率などの厳しい認定基準が加わっており,公益法人の現場の方からは批判もあるということも側聞するところです。
  そこで,すみ分けという表現にしておりますけれども,平たく言えば,公益法人でできることの全てを公益信託でもできるようにすべきであるとは考えておりません。投資用不動産を例とするなら,都内の物件であれば高い収益が上がり,それを公益信託事務の運営費用に充てていくのは結構なことではないかという考え方はもちろんあり得ると思います。しかし,それを一旦認めてしまうと,公益目的の信託事務の方に投入されるべき人やお金が収益を上げるための信託事務の方に流れてしまう,あるいは収益事務の運営に失敗し信託財産を毀損するおそれがあることから,それを防ぐために公益法人で不人気の認定基準等の仕組みを公益信託にも持ち込まざるを得ない事態になることも懸念されます。吉谷委員がご指摘されたように,公益信託の受託者が時限的に収益不動産や株式を保有することはあり得るのかもしれませんが,それらを永続的に信託財産として保有するということになってしまうと,かえって望ましくない結果をもたらす可能性があるように考えております。
○中田部会長 神作幹事,よろしいでしょうか。
○神作幹事 1点だけ,そうすると例えば美術館の建物の結婚式とかビジネス会議等への賃貸の前に,美術館の運営費用の捻出のためという言葉が付くと②になるのでしょうか。それとも,それがついても③。
○中辻幹事 運営費用の捻出のためということですか。それが付いてしまうと③の方に入るのかなと思います。
○神作幹事 そうすると,③はこういった事業をする真の目的が①のためであっても,外形的にこのような行為をしたときには,公益目的の達成とは関連しないと見ると,客観的行為から。
○中辻幹事 美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,美術館における美術品の展示等の信託事務と比べると「文化芸術活動の振興」という公益目的からは非常に遠い位置付けにあるものと考えておりました。美術館の建物を美術品の公開のために使っていないときには,別の用途に使っても良いではないかという発想があり得ることを否定するものではありません。けれども,そのような発想を認めてしまうと,今の段階でもなかなか②と③の切り分けは難しいと思っていまして,それが更に不分明になってしまうのではないかという懸念もございます。そうすると,美術館の建物の結婚式やビジネス会議等への賃貸は,それらが運営費用の捻出のためにされるのであれば「文化芸術活動の振興」という公益目的の達成のために直接又は間接的に必要な信託事務とはなりませんし,そもそも外形的に「文化芸術活動の振興」と関連しない範ちゅうの信託事務であると判断することが可能であり,公益信託事務としては許容されないという整理をすべきではないかと考えております。
○中田部会長 資料を御準備された方の理解はそういうことであり,それとは別の基準もあるのではないかという御指摘を頂いたのだろうと思います。
  更に御意見を頂戴いたしますけれども,できましたら3番目のところで,一旦,区切りを入れて,四つ目の項目については休憩後にしたいと思います。そこで,3番目の「信託財産の範囲」のところまで休憩前に御議論いただければと思います。
○吉谷委員 「信託財産の範囲」のところでございますけれども,今のお話でも収益を上げるための財産というのは,恐らく公益目的の信託事務と関連しない信託財産となるかどうかというところが,論点になってくるのではないかとは思いました。ここに書いてある公益目的の信託事務と関連しない信託財産は,公益信託の信託財産として許容しないとすることということについては,この基本的な考え方は賛成いたしますが,(3)の「信託財産の運用について」に関して,特にお話ししたいと思います。
  運用を認めるかどうかということについては二つほどありまして,まずは有価証券の運用で資産の組替えを伴うものであるとか,投資用不動産によって運用するということはリスクが高いわけでありまして,専門家でない人が運用することが妥当なのかということがあると思います。専門家にそれを任せるのかということになると,それを委託するとなると,委託した人をまた監督するのかというような話もありまして,軽量・軽装備を維持できるのかというような点でも問題になると思います。
  ですので,もし有価証券とか不動産であるとか,そういったものでの運用を認めるのであれば,公益認定の審査において,受託者であるとか運用の委託先について,運用の能力であるとか,信託財産が運用報酬を負担してまでリスク資産で運用を行うということが妥当なのかというようなこと,あるいは運用手法とか費用などとかを運用計画できちんと説明できるのかということを,公益事業の必要性との関係で慎重に見極めるべきではないかと思う次第です。
  ただ,今述べたような観点では,受託者の裁量を限定した計画であれば,軽量・軽装備を維持できるのではないかと考えているというわけです。一つは,先ほど申し上げましたけれども,有価証券や不動産を当初信託財産とした上で,計画的に売却するというような場合です。もう一つは,株式などの有価証券を当初信託財産として設定して,配当を公益事業の原資とするというような場合です。このような管理と計画的な処分に限定することによって,受託者の裁量が低くなりまして,それ以外の複雑な運用事務を行う場合よりも,当然,費用,報酬的なものも低くなり,適切性の判断というのも容易にできるのではないかなと思っています。
  例えば不動産を継続保有するなどということについても,私ども信託銀行はそれを業としてやっておりますので,もちろんできるわけですけれども,事業リスクというものが伴います。ですので,そういったものをできるかどうかというところの見極めが,受託者の範囲にも関わってくるのかもしれないのですけれども,なかなか,難しいところであるかなと考えております。
○中田部会長 ほかに,ここまでのところで御意見はございますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  それでは,ここで一旦,休憩を挟みたいと思います。15分程度と考えておりますので,あちらの時計で3時55分まで休憩にいたします。
 
          (休     憩)
○中田部会長 それでは,再開いたします。
  部会資料32の第2の4,「公益信託の類型に応じて複数の規律を設けることの要否」について御意見を頂きたいと思います。
○川島委員 1点,意見を申し上げます。この表題にありますとおり,類型に応じて公益信託の認定基準や監督等の規律を分けないというのがここでの提示であります。このことについては分かりやすさ,使い勝手のよさという点で優れているということは理解ができます。ただ,補足説明の一番最後のところに,「実際の公益信託の認定の実務において,それぞれの公益信託の特性に応じた審査が行われることを否定する趣旨ではない」とございまして,仮に実際の認定段階において,それぞれの特性を見るということであれば,その際の基準などを法令などに明記した方がかえって分かりやすいという,あるいは予見可能性という点で優れているという考えもあるのではないかと感じました。そうした両面で御検討いただけたらと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 基本的には提案に賛成いたします。初めから類型を意識して複数の規律を考えるというのは,複雑になったり,手続が重たくなるという懸念がありますので,基本的にはシンプルな基準を一つ立てるということを基本にしたらいいと思います。ただ,今の御発言とも重なるかもしれませんけれども,今後,いろいろ細かい各論の議論をしていく中で,基本的な規律を定めた上で,ただ,例外的に一定の場合にはもうちょっと簡略化できるというような,その限度での例外則を設ける余地はあってもいいのかなと。今,必ずここはこう軽くしろと考えているわけではないんですが,考え方として軽量・軽装備という公益信託の一つの特徴に着目するのであれば,基本的な規律を定めつつも,一定のより簡略化した例外措置というのを,今の段階で一切認めないと決めてしまうのもどうかなということです。
  例えば今後,規律として提案されるかどうか分かりませんけれども,情報公開などの規律をウェブで設けるというときに,全て一律のレベルの公開を求めるかどうかというようなことなどを考えたときに,一定の規模なり一定の要件に該当するものは,より簡略化した公開で足りるということがあるいはあるかもしれない。これも例えばという例で申し上げているので,それに特にこだわるものではないんですが,いずれにしても,全く一切,一律ということにしてしまうのも,この段階ではやや早いのではないかという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 私も基本的に提案に賛成ではありますが,軽量・軽装備というものを前提とした上での賛成とさせていただきます。ですので,現在行われているような助成型の公益信託を信託銀行がやっているようなものについて,ガバナンスについて加重されて,よりコストが掛かるということは,余り望ましくないのではないかと考えておりまして,もしスタンダードがより重装備なものになるのであれば,現在のような助成型のパターンのものは切り分けるということもあってもいいのかなとは思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 確認とコメント,同じような趣旨なんですけれども,16ページの補足説明の4行目ぐらいですかね,現在の,途中を飛ばして,受託者の監督・ガバナンスと記載されておりますけれども,これは実際として,また,税法上の基準として,今,信託銀行が行っている,信託会社が行う,信託銀行が実際と思いますけれども,そうすると,信託業法,信託銀行ですと兼営法の下で行っている金融庁における監督ということが実際ではありますけれども,ここで記載されている現在の受託者の監督というのは,そういう趣旨ではないという理解でないと,今後の議論が発展しなくなってしまうので,もちろん程度とか,質の議論は別かもしれませんが,そういう点を確認したく,また,そうあってほしいというコメントでございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 私も信託事務の内容とか,信託財産の種類,規模に応じて監督とか規律を分けないということに賛成します。ただ,繰り返し出ていますように,公益信託というのは軽量・軽装備ですので,理念形としては助成型が基本ではないかと思います。例えば先ほど議論がありました美術館とか,学生寮の運営ですけれども,ここで議論しているのは美術館とか,それから,学生寮自体の名義を信託財産に移した上で公益信託を運営するということを考えているわけですけれども,これも助成型でもできるわけです。特定の美術館に金銭給付をする,特定の寮に公益信託から助成することも可能です。国際的な交流の場としてある寮に私の大学の学生がたくさん入っていますので,そこに金銭給付するということがありますので,学生寮の名義を信託財産に移すという類型に反対するものではないのですけれども,理念形としては助成型とした上で規律は分けない,そういう含みを残した上で賛成したいと思います。
○中田部会長 ほかにございますでしょうか。
○明渡関係官 公益法人の実務の方から少し現状を申し上げたいと思います。公益法人は非常に多様な業務を行っているというようなことでございまして,認定の基準としては公益認定法5条ということで十数項目が挙がっておりまして,法令上はそちらの方で規定されているということではございます。一方で,実際に審査をする場合ですと,行っている事業,例えば講座とかセミナーをやっている場合とか,調査的な業務をやっている場合,その他,キャンペーンであったりとか,技術開発であったりと様々なものがございます。それぞれのやっている事業に応じて,それが公益性に当たるのかどうかを見ていくというようなことを実態としての審査業務としては行っております。したがいまして,同じようなことを考えるとすると,公益信託としてどのようなことまでできるのかというようなことによって,その辺りの認定若しくは許可になるのか,その辺りの判断基準というふうなものは,事業によって変わってくるということがあり得べしというようなことではないかと思います。
○中田部会長 そうしますと,規律を分けないということはいいけれども,認定において特性に応じた審査が行われるという(注)のような書き方を重視すべきだということでございましょうか。
○明渡関係官 必要となってくるというふうなことだろうと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○山田委員 細かなことで恐縮ですが,第2の4について,この考え方で私はよいと思いますが,少し注意をとどめておいていただければと思います。それはどういうことかというと,例えば公益社団法人・公益財団法人の認定等に関する法律では会計監査人を置くことが,法人ですので機関設計としてまずデフォルトとして要求されて,ただ,例外で外すというような仕組みがあります。
  それはここで言っている,まず,二つ以上のタイプに分けて,類型に分けてということとは違うのかもしれませんが,規模とかに応じて,法人ではありませんので機関とは言わないのかもしれませんが,ここに書いてある受託者の監督・ガバナンス等,ここに関わるルールが変わることはあってよいと,個別に今後,各論を検討していくときに,今ここで類型を分けないとしたから全部一律で,一律の基準として何がいいかという議論に終始するのではなく,ここはこういうふうに区分して,原則としてはある方法だけれども,例外を満たすときには別のルールというのは,一般的な法制度の作り方であり得るわけですから,それを排除はしないという点は注意しておくのがいいのではないかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。それでは,「第2 信託事務及び信託財産の範囲」については,おおむね御意見を頂戴したということでよろしいでしょうか。
  そうしますと,御議論としては,ここではまず認定基準の問題が検討されているということを確認した上で,具体的にどのような基準を設定することができるのか,基準を設定したとして,その具体的な判定を誰がどのようにしてするのかという問題がある,更にその規準に違反した場合の効果というんでしょうか,これは認定との関係と,私法上の効果と両方があり得ると思われますが,そういったことを更に考えていく必要があるだろうという御指摘を頂いたと思います。更に認定基準以外の問題,例えば受託者の権限との関係ですとか,信託財産の運用と信託事務の執行との関係,更には運用の概念・内容,あるいは委託との関係等々についても,更に検討すべきであるという御指摘を頂きました。
  その上で,全体として第2についてはまず1から3のそれぞれのゴシックで書かれている部分についてですが,1は大体,これでいいだろうという御意見が一般的であったと存じます。2についても,これでいいという御意見を多く頂いたと思いますが,しかし,何ができないと考えるべきなのか,あるいはできることとできないこととの線引きをどのようにするかについては,更に検討すべきではないかという御意見が多かったかと思います。それから,3については金銭に限定しないということで,これは特に御異論はなかったように承りました。
  その上で,全体として軽量・軽装備ということの特性をいかすというのも大方の御意見であったかと思いますが,そもそも,どこまで民間による公益活動というのを広げていくべきなのかについて,更に検討すべきであるという御指摘も頂きましたし,あるいは税との関係についても視野に入れてということですが,更に詰めて検討する必要があるだろうという御指摘も頂きました。
  そして,4については,基本的にはこれでよいという御意見でありましたが,幾つかの御注意も頂きました。4でいいという方の中でも,そのイメージとして,どの辺りを基準にするのかについては若干,それぞれ,ニュアンスの違いがあったのかもしれませんが,これは更に具体的な議論を通じて,だんだん固めていくということになろうかと存じます。
  ということで,第2についてはこの程度にいたしまして,続きまして「第3 公益信託の受託者の範囲」について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明していただきます。
○木村関係官 それでは,第3の「公益信託の受託者の範囲」について御説明いたします。
  まず,本文で甲案から丁2案まで全部で五つの考え方を示しております。これらは,いずれも公益信託の受託者の範囲を限定する提案となっておりますが,まず,そもそもの問題として,公益信託法には受託者の範囲を制限する規定が存在しないにもかかわらず,受託者の範囲を制限するということ自体の要否も検討する必要があるところだと思います。もっとも,事務当局としては,公益信託の適正な運用を確保しつつ,軽量・軽装備というメリットを維持するという観点からしますと,受託者を一定の範囲に限定する必要があるという前提で考えているところです。
  その上で,まず,甲案ですが,甲案は受託者について信託会社であることを必要とするという考え方になります。この考え方は現行の実務運用ですとか,税法上の要件と親和性を有する考え方ということができます。
  続きまして乙案ですが,これは信託法附則第3項等を参考に,受託者は目的信託の受託者となり得る法人でなければならないとする考え方になります。信託法附則第3項及び信託法施行令第3条は,目的信託が脱税などの不法の目的に濫用されることを防止するために,純資産が5,000万円以上であることや,法人の役員に犯罪歴のある者や暴力団関係者がいないことなどを要求しております。乙案は,これを公益信託についても導入するという考え方になります。
  丙案は,公益法人認定法を参考に,受託者は公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有する法人であることを必要とするという考え方になります。公益法人認定法は,公益認定を受ける一般法人に対して,安定的かつ継続的に公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を要求しておりますが,丙案はこれと同様の要件を受託者に要求するという考え方になります。
  ここまでの提案は,全て受託者が法人であることを前提とするものになりますが,丁1案及び丁2案は,自然人が受託者となることを許容するという考え方になります。丁1案は,許可審査基準を参考に,受託者について公益信託の適切な管理運営をなし得る能力を有する者で,社会的な信用を有し,かつ知識及び経験が豊富であることを要件とする考え方になります。一方,丁2案は,自然人が公益信託の受託者となる場合には,一定の法人と共同受託することを必要とする考え方になります。
  丁1案及び丁2案は,いずれも自然人が受託者となることを許容する考え方ですが,丁1案は受託者個人の能力を重視する考え方であるのに対し,丁2案は共同受託によって受託者個人の能力を補うという考え方になります。丁2案を採用する場合には,共同受託さえすれば,どのような自然人や個人であってもよいのかや,共同受託の在り方,相互の監視の在り方といった点について更に検討が必要になると考えられます。
  以上のほか,21ページでは国又は地方公共団体が受託者となることの可否についても検討を加えております。以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 それでは,ただいま説明のありました公益信託の受託者の範囲について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言をお願いいたします。
○吉谷委員 私どもといたしましては,どの案に賛成であるということは特に言い難いのでありますけれども,受託者の監督であるとかガバナンスであるとか,そういったものを余り現在よりも厳格にする必要がない範囲で,受託者の範囲というのを決めていただくのがいいのではないかと考えております。公益信託のガバナンス構造については,今後,議論されるところではあると思いますけれども,従来のように信託管理人を中心としたチェック体制というもので適正性が確保できないような人を受託者にするというのは,そもそも,公益信託の制度としてはいかがなものかと考えるところです。
  それで,個別の案につきまして,丁2案なんですけれども,恐らく丁1案と丁2案は両立しなくて,丁2案というのは丁1案は認めるべきではない,でも,丁2案はいいのではないかということではないかと思います。そういう場合に,やり方としては丁2案でなくても,法人を受託者とするのであれば,受託者から何らかの事務を自然人に委託するというようなやり方でもできるのではないかなと考えました。
  それで,あと,この中で検討するに当たって参考になるのは,丙案ではないかとも考えております。公益財団法人等は,ここの辺の趣旨が異なると御説明されていらっしゃると思うんですけれども,受託者の信用力というものを検証するには,一定の効果があるだろうと考えております。にわか勉強で恐縮なんですけれども,まず,経理的基礎というのは解説書によると財産基盤と経理処理・財産管理能力,外部監査のこの三つになるというわけです。
  最初の財産基盤というのは,受託者に一定の固有財産があることを要件とするかどうかという考え方であろうと思いましたし,権限の濫用であるとか,そういったものに対する事後的な措置などを考えると,あった方が望ましいのだろうなとは思うところです。二つ目の経理能力や財産管理能力があるということは,もちろん,必要なことであろうと思われますし,三つ目の外部監査などを受けているかということは,固有の業務についての監査を受けている方が望ましいのだろうなとは思います。ただ,少なくとも信託事務を行うための内部的な統制というのが,受託者の中になければならないのではないかなと思うところです。
  もう一つの技術的能力というものについては,公益事務を行うことができる能力があるかということですので,これは当然,なくてはならない基準であると思いますが,現行でも運営委員会などを更に受託者の外部機関として設けたりしておりまして,その他の信託事務についても外部委託を含めた形で,能力の証明ができなくてはいけないのではないかなと考えているところです。
○中田部会長 ありがとうございます。そうしますと,丁1案と丁2案については懸念があると,丙案は検討の余地があると,甲案,乙案も検討の余地があると,そういうことでしょうか。
○吉谷委員 丁1案は抽象的なので,参考になるのは,甲,乙,丙で比べれば丙の方が丁よりは参考になるかなと思った次第です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○深山委員 結論的に言うと,この中では丁1案を中心に考えるべきだろうと考えております。言うまでもないことですけれども,甲,乙,丙と丁1,2との違いは,自然人が受託者となることを認めるかどうかということで大きく分かれているわけですが,自然人を形式的に除く合理性はないだろうと思います。
  先ほど前半で議論したように,今後は信託財産についても金銭以外のものも入ってくる,それから,信託事務としても助成事務以外のものも入ってくるわけです。いろいろな多様な公益信託のメニューを作ろうとしているときに,当該公益信託にふさわしい受託者がどういう立場の存在であるのかということを考えると,もちろん,事案によってはきちっとした組織体制を備えた法人が望ましい信託もあるでしょうが,必ずしもそのような必要がない,むしろ,個人的な知識,経験を信頼して委ねるというパターンの信託があってもおかしくはないと思います。要は,個々の公益信託にふさわしい受託者を選ぶという観点からすると,自然人であるということで当然になれないというのは,合理性がないだろうと思います。そういう意味で丁1案というのは,更にまたその要件といいますか,その定め方について検討の余地はあるかもしれませんけれども,自然人を当然には排除しないという意味で支持したいと考えます。
○能見委員 原案を前提にしての議論ではないのですけれども,まずは法人が受託者になる場合の要件というのでしょうか,それを議論して,その上で個人についても認めるかどうか,それぞれについて要件のすり合わせをするという議論の仕方の方が私には分かりやすかったので,そういう観点から議論させていただきたいと思います。
  そうして,法人についての受託者の範囲,あるいはそのための要件についてはどんな考え方があるかということで,甲,乙,丙の3案があるわけですが,ただ,私のような見方をすると丁1案のところに書いてある要件,これは自然人と法人の両方に関わっていますけれども,ここに書いてある法人の要件というのもまた微妙に丙案とは違うので,法人については,結局,四つの考え方があり得るのかなという感じがいたしました。
  それでは,法人についてどの案がいいのかということですが,信託会社に限定するというのは,これからいろいろ行われるであろう事業型といいますか,助成以外のいろいろな事業を行う場合であるとか,あるいは今まで余り議論はされていませんでしたけれども,いわゆるナショナルトラストとか,財産をただ管理保管するというようなタイプの信託を考えると,信託銀行は,信託会社も含めてですが,必ずしも向いていない。そこで,もう少し広い範囲の法人が受託者になれる可能性があった方がいいのではないかと思います。
  乙案と丙案は似ているようですけれども,乙案は一定の財産規模ということを,目的信託に対する懐疑的な立場に基づいて要求していると思いますので,これは公益信託を考える際にはどうも適当ではないのではないかと思います。公益信託の場合にはまた第三者機関による監督というのもありますし,このようなことを考えると,乙案というのは適当でない。そこで,ここに出ている案としては,甲,乙,丙の中では丙案が一番よいと思います。もっとも,丙案も,経理的な基礎というので一定の財産的な規模などを要求するのであれば,丙案にも,乙案に対するコメントとして先ほど私が述べましたのと同じことが当てはまりますので,余り適当でない,少し強すぎる制約ではないかと思います。そういう意味では,丁1案のところに書いてあるようなことが法人である受託者の要件として考えるのがいいのかなという感じがいたします。一番中心になる資格は,公益信託を適切に管理運営し得る能力という部分なのだろうと思います。
  ただ,丁1案のところにも,社会的な信用を有すること,これはある意味で当然のことではありますが,ただ,これを法律的な要件として書くとなると,なかなかこれは微妙な問題があるように思います。たとえば,社会的な信用の意味を一定の実績がなくてはいけないという意味で理解したり,その外にも,その要件がいろいろな変な形で使われる可能性もあるので,そのことを考えると,丁1案についても微調整,もう少し修正の余地があるのだろうという感じがいたしました。ということで,結論的には丙案と丁1案ぐらいを基礎にするのがよいと思うのですが,その立場についても,若干の修正が必要であるという感想であります。
  自然人については,私は基本的には公益信託の受託者になることを認めていいんだろうと思いますけれども,どういう要件で認めるべきかについては,もう少し検討したいので,今は結論を留保させていただきたいと思います。
○林幹事 弁護士会内の議論というか,結論としてはもちろん丁1案でございます。それで,丁1案の基準が若干抽象的ではということもあるのですけれども,弁護士としての結論としては弁護士だけには限りませんけれども,財産管理業務などをしている専門家士業もありますので,そういう者がこれには該当するであろうとは理解します。そういう給源もあるわけですから,そういうものをある程度頭に置きながら,丁1案というのを検討していただきたいと思っています。
  私は弁護士ですので,それしか話せませんからという意味においてですけれども,弁護士のことを専ら話しますが,それ以外の専門家を排除する趣旨では議論しませんので,前提としてはそのように御理解いただいてお聞きください。自然人や個人が受託者となる必要性があるというところがまず理解の大前提ですが,先ほどから御議論いただいているように小規模で軽量化,低コストであるものを公益信託として考えるときには,もちろん,規模が小さいものもあるのでしょうから,例えば資産規模2,000万円で5年でなくなるというようなものを考えたときに,受託者が必ず法人でないといけないのかと,むしろ個人の方が使いやすいのではないのかと思います。
  それから,これは一般的な民事信託のレベルの議論でもありますが,信託会社自体はそれ自体にコストが掛かってしまうので,小規模なものは受けられないというような状況に現にあると思いますから,そういうことを考えたときに,比較的費用の面でも低コストに受託できるものとして,自然人なり,個人というのもメニューの一つとして用意しておく必要性はあると思います。
  特に目的信託の附則3項の規定で,法人に限定していることの根拠としては,詐害的なもの,濫用的なものを防止するためということですが,公益信託では,後でも議論がありますけれども,第三者機関であるとか,信託管理人というのを想定していますので,ある程度,濫用的なものが出る可能性は低く,それを防止する余地もあると考えられますから,先ほど来の御発言と同じく,そういう前提において実体法として自然人ではなくて法人に限定することには合理性がないと考えます。
  あとは,乙案でも丙案でも丁案でもですけれども,受託者となる場合は1件だけやるというのは想定はしていないと思いますので,複数件を受託するとなると,業法との関係ももちろん問題になりますから,それに対する手当も考えるべきこととは思います。
  そういう前提の下に考えたときに,弁護士として我々は財産管理業務をやっていますし,もちろん,弁護士会内の監督も既にあるところですので,要件として抽象的ではありますけれども,要件に該当する給源というのは社会にはあるとは思います。確かに,要件の表現が抽象的だから認定のときにきちんと判断できるかどうか微妙だと言われるのはそのとおりなのですが,そこはいろいろな工夫の仕方があるかと思います。もっと具体化するという方法もあれば,それこそ政令とかそういうところに落として工夫をしていく方法もあると思いますから,そういうことを考えたらいいのではないかと思います。
○平川委員 乙案の場合では,目的信託の受託者となり得る法人というのに地方公共団体,国が入ってくるんですけれども,公益信託制度は,一番最初の公益信託法の見直しの根底にある哲学的なところでも申し上げたんですけれども,民間の公益活動を促進するというところに意味があるので,民の担い手を広げようという制度なので,公益法人,公法人が受託者になって入ってくるというのは,趣旨としておかしいのではないかと思うので,乙案というのはどうかと思いました。そして,丙案の場合でも法人とありますけれども,公法人は除外されるべきであると思います。丁1案においても同じです。
  あと,信託事務を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力と丙案にあり,また,丁1案でも公益信託の適切な管理運営をなし得る能力とあるんですけれども,ここの二つの解釈なんですけれども,要するに信託事務を適切に行える能力があるかということになると思うんですが,この信託事務の意味には二とおりの意味があって,公益目的を追求するのに能力があるかということと,預かった財産を管理することができるかという二つの能力があると思うんです。
  例えば難民救済の公益目的信託において,先ほどの有価証券を預かったとか,商標権を預かったとか,不動産を預かったという場合に公益目的である難民救済,どこの難民が今,ここにあって,どう救済すべきなのかということにたけているようなところが受託者になるのがよいと。例えば難民救済をやっているNPO法人とか,ただ,そのNPO法人が預かった財産をきちんと管理する能力があるかというところでまた試されるので,そういうNPO法人が経理的基礎や,また,第三者に管理を委託するにしても,丸投げにしないで管理監督ができるような人材が備わっているかという二つの視点での経理的基礎,技術的能力というものが必要になるんだと思います。
  そうすると,法人であればいろいろな能力のある人がいるので,そういう組合せで信託事務を行う能力があるというのはあるのかなと思うんですが,個人でそういう二つの能力が備わっている人というのはいるかもしれないけれども,なかなか希有で誰でもなれるというものではないなと思います。だから,個人を別に否定するわけではないんですけれども,信託事務を行うのに必要な経理的基礎,技術的能力又は公益信託の適切な管理をなし得る能力という中には,そういう二つの意味合いのハードルを越えなければならないということを忘れてはならないと思います。
○中田部会長 そうしますと,平川委員としては丙案か丁1案を主として法人について認めるということになりましょうか。
○平川委員 そういう意味では,丙案で言い表されていると思います。
○中田部会長 そうですか。分かりました。
○平川委員 公法人を除くということです。
○中田部会長 それは最初におっしゃった点ですね。分かりました。ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 質問です。弁護士会の方で丁1案を支持するということですので,それについての質問ですが,丁1案の自然人のところで弁護士を読み込むということです。その場合の前提は,全ての弁護士は自動的にここに書いてある能力,信用,それから,知識,経験を有するということが前提でしょうか。それがまず第1点です。それから,弁護士法人では駄目なのでしょうか。そして,弁護士さんでも財産管理のNPOを作っているところもあるので,そういう弁護士さんの作っているNPO,法人ですけれども,そういうのがより適切なような気もしますが,その点はいかがでしょうか。そして,更に信託業法の関係をどう考えるかということです。個々の弁護士さんが受託者要件に該当するとした場合の解釈はどうなのか,そして,弁護士さんがもし自然人として受託者になったときの監督はどう考えるのか,お考えをお聞かせいただければ有り難いです。
○林幹事 新井委員の御質問はごもっともだと思っていますし,それについては専ら私の個人的な意見になるかもしれませんが,可能性を申し上げたいと思います。NPO法人があるとおっしゃられた件につきましては,それはそれとしてあってもいいとは考えます。弁護士が作ろうが,誰が作ろうがという意味においてです。丁1案であっても丙案自体を否定するものではないと思いますので,それはそれとして認められていいと思います。
  自然人の場合は,平たく言うと,受託者が亡くなったらどうなるのかという問題があろうかと思いますが,例えば信託の設定の際に第一受託者だけではなくて,第二,第三の受託者をあらかじめ設定しておくという方法もあります。また,継続性というものを具体的にどれぐらいの年度でイメージしているかという問題でもあり,10年は10年で長いんでしょうけれども,もちろん5年だってあり得るのだと思います。要するに半永久的なものを常に想定して議論しているのかというと,必ずしもそうではないと考えますので,第二,第三の受託者をあらかじめ決めておくか,それもなければ,裁判所に決めてもらうという方法が信託法上はあるわけですから,それは十分考えられると思います。
  もう1点は,弁護士であれば誰でもいいのかに関しては,立場上はそう言いたいところなのですけれども,信託事務に全ての弁護士が精通しているかというと,事実上は違うかもしれません。それは弁護士に限らず,どの業界も同じかもしれません。ですから,何らかの研修やスクーリング等を経た者がなるべきだということはそうかもしれません。
  先ほど来,技術的能力であるとか,適切な管理運営ができるかということに関していいますと,本来的には弁護士はそういうものを適切に執行していくという能力があるとは考えますが,新井委員のような御指摘に対しては,もちろん,しかるべく研修等するべきだというのは,そのとおりだと思います。弁護士会の監督はどうかというのは非常に悩ましくて,今は事後監督はありますけれども,それだけでいいのかという問題提起は当然あるのだろうなと思います。
  それで,個人的には弁護士会としても信託業務について何らかの監督はすべきだと思っています。現に弁護士会もいろいろな分野でそれに類することをやっていますから,信託業務においても,そういうものが内部で構築できてもいいとは個人的には思いますが,今の時点としてはここではその程度のことを申し上げるほかはないところと思います。
  あとは,それが仮にできたとして,どう立法に組み込んでいくかという問題があると思いまして,それこそ,それを具体的に実体法に書くのかというのもなかなか厳しいんでしょうけれども,それなりに政令等に上手に取り込むということを工夫してもいいのではないのかなとは思っています。
○中田部会長 あと,弁護士法人に限ってはどうかということと,それから,信託業法との関係についてはいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士法人に関しましては,確かに法人のほうがいいというのもありますが,法人の規模は様々ですから,一人法人というのもあるわけですので,それは横に置いておいて自然人たる弁護士というのを専ら議論した方が建設的ではないかというのが私の意見です。
  それから,業法に関しましては先ほども申し上げましたが,丁案に限らず,乙案であっても丙案であっても議論する以上は,業法との抵触というのは当然出てくるものですので,ここでそれを許容するということは業法に対する一定の手当というか,業法には抵触しないものだという前提で議論するか,そうなるような何らかの手当をすると,それは必ず付いて回ってくるのかなと思います。
○深山委員 今の林幹事の発言に少し補足したいと思います。まず,前提として弁護士はどうなんだという新井委員の問題提起はごもっともだと思うんですが,必ずしも自然人について典型的なものとして弁護士を想定しているわけでは私自身は少なくともなくて,もうちょっと広い意味で,正に文字どおり自然人を排除すべきではないという意見を先ほど申し上げました。
  それを一応お断りした上で,例えば弁護士はどうなのかといったときに,もちろん,弁護士の資格があるというだけでふさわしいということにならないのは当然といえば当然です。それはある意味,法人でもどの法人でもいいわけではないというのと同じようなレベルで,弁護士という資格だけでその能力を満たすということにはならないとは思います。それゆえ,ここに書いてある社会的信用だとか,知識・経験が豊富という言葉で表現し尽くされているかどうかについては,十分,検討の余地はあると思いますが,一定の絞りを掛けた上で,それに該当する法人ないし自然人ということを受託者の要件にすればいいと考えます。
  いずれにしろ,制度として信託管理人等のガバナンスがそこにかぶってくるということもありますし,他方で,それとは別に,信託法とは別に,例えば弁護士であれば弁護士会の事後的といえども監視があるというのも,一つの考慮要素にはなり得るのだろうと思います。しかし,それがあるから絶対に大丈夫とまで別に言う気もありません。そういう意味では,総合的に考えて,この信託において,この自然人であればよかろうという場合を形式的に排除する必要はないという限度で御理解いただければと思います。
  最後に,業法との関係なんですが,私は公益信託は文字どおり公益を目的として,営利性はそこでは基本的にはない業務といいますか事務ですので,本来,信託業法が規制しようとしているところが当然にかぶってくるものではないのだろうなと思います。業という定義については,反復継続してというような定義に形式的に当てはめると,複数回やれば当たるということになるのかもしれませんが,公益信託という業務ないし事務に照らして,ここは信託業法の適用除外の分野なんだろうと思います。また,そうでなければいけないのだろうと思います。
  その上で,ただ,そのことを法制度として,明文上,明らかにしておく必要はあるのかなと思いますので,それは信託業法になるのか,公益信託法になるのかという問題はありますが,そこは適用除外になるということはどこかで手当をすべきだろうと思っております。
○中田部会長 ありがとうございます。今の適用除外というのは自然人に限らず,法人であっても適用除外になるという御趣旨でしょうか。
○深山委員 はい。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
○樋口委員 二つです。一つはお願いと謝辞ですが,今日のここだけでもないんですけれども,ずっと話を聞いていて,先回,実はお願いしたことなんですけれども,日本に独特の公益信託法を作るんだというのも,それはそれなりの考え方としてあってもいいのかもしれないんだけれども,公益信託なるものはほかの国でも相当の国で存在していて,それがどう機能しているかということを申し訳ないけれども,調べていただいて,この後は謝辞になりますが,21ページのところには,ここにIRSのアメリカのお話が今回は出ているわけですよね。
  ここの使い方は,アメリカの一般ルールはこういう受託者について何の規制もないけれども,実態のところではIRSだって,法人の方をきちんと信用して,免税の利益を与えるような判断には使っていますよということでアメリカの事例を利用しているんですけれども,これに限らず,もう少しつまりほかのところで,こういう公益信託の受託者についてどうなっているんだろうかというようなことを,つまり諸外国の事情の調査報告のようなことを,どこかでやってくださるというきっと予定が入っているんだと思うんですけれども,参考にしながら,それがあって,やや日本はいろいろな事情がありますからという話で,こういう甲案から丁2案ですか,こうやっていろいろ,この中のどれにするかという段階に入るのは何だか早いような気がするんです。2年を掛けてこの検討を行うというのでしたら,もう少し私はお願いでほかの国ではどうなっているんだと,そういうことも参考にはしていますよということを見せてくださると有り難い。
  二つ目です。二つ目もそうなんですけれども,今日,私が理解したのはキーワードは「公益信託の軽量・軽装備」という言葉です。軽量・軽装備という言葉が,例えば17ページなんかでも受託者については軽量・軽装備なんだから,限定しないといけないよという話になるし,戻って恐縮ですが,信託財産の範囲についても金銭には限定しないけれども,どんどん拡大するという話には絶対にいかないよという話と,それから,信託事務の範囲もこういう形で限定せざるを得ないよという,結果的にそういうネガティブな働かせ方をしているんです。公益信託を公益財団法人と比べることによってこういう特色がある,だからという,このレトリックが本当に正しいものなのか,それで,今日の一番初めのところで平川委員もおっしゃってくださったと思いますが,基本的な方向性としてもう少し何か前向きの「民間非営利活動,社会経済システムの中で積極的に位置付ける」と,一番初めにうたっているものと抵触しないのかどうかを考えざるを得ないと感じました。これは感想です。
○中田部会長 ありがとうございました。
  他の国の調査というのは。
○中辻幹事 引き続き,調査していきたいと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 林幹事,深山委員が述べたこととほぼ同じ考えで,そこをまず確認させていただきます。さらに重複しない形で1点だけ追加させていただきますと,法人であっても,もちろん,私は自然人,弁護士というものが受託者として能力がある場合には当然になってしかるべきと思いますけれども,必ず公益信託の内容,立て付けにもよりますけれども,第三者委託ということが当然,必要になってくることと思います。
  信託銀行においてもカストディアン信託銀行を設けていて,再信託の形で実質,第三者委託しておりますし,例えば不動産管理信託で多くの義務が第三者委託されておりますから,そういう全体の枠組みの中で受託者の能力というものは,判断されてしかるべきだと思いますし,そのときに受託者がしっかりとした第三者委託先を管理する,監督する能力があるかどうかというと,その辺は法的な力,法的な素養とか,裁判制度に依拠し,利用するとか,そういう意味においては法律が絡むところが多く,弁護士としての能力というものは決して弁護士だからということではなくて,法律専門家として当然尊重されてしかるべきではないかと思います。それは一般人又はNPO法人であっても,そういう能力がある又は第三者委託したときの監督能力があるということであれば,それはそれで認めてしかるべきだと思います。
  また,日本の法制度においては,弁護士というのは御存じのように弁護士会に登録して,それゆえに弁護士として業務ができるわけですが,公益財団法人の場合は認定機関がモニタリング,監督をしていくという立て付けではないかと理解しておりますけれども,そういう監督機関がやるような業務を,受託者が弁護士であれば弁護士会に委任をするとか,民間に依拠しつつガバナンスをいろいろな形で強化していくなど適切な形をとることにより公益信託の利用を図ることができていくのではないかと思います。公益信託がだんだん,民事信託の議論へ広がっていくときに,先ほど新井委員が恐らくそういう趣旨も含めてのコメントだったと思いますが信託業法をどうするんだということに関しては,ここでまず公益信託としての個人の受託者の適正というものをよく検討し,また,それを実際にうまく執行して,その中で更に公益信託の外縁にあるようなもの,更にその外縁にあるようなものに対しても,個人,弁護士でもいいですし,場合によってはほかの業種でも構いませんけれども,適切に運用していくことによって,先ほど樋口委員が述べられたように,元々の公益法人改革,公益信託も含めた上での公益法人改革の趣旨というものにのっとった形での発展ができるのではないかと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山田委員 受託者の範囲そのものではないのですが,丁2案に関連して考えたことがありますので申し上げたいと思います。法人でも当てはまるかもしれませんが,個人に受託者を広げた場合に特に問題になるだろうと思われるのですが,公益信託の受託者としてどういう人たちがそれを担うのが望ましいだろうかと考えると,信託という仕組みをよく理解していて,それを適切に使える人,これは法人でもいいのですけれども,個人に広げるならば個人とともに公益法人だと公益事業ですが,信託ですので公益目的信託事務ですか,それを適切に執行することができる能力というのがあるといいだろうと思います。そして,今日も何度か,いろいろな局面で話題になりましたが,助成事業というのは余り後者の方は特別な能力は要らないかなと思うのですが,部会資料にあるような美術館の運営とか,留学生向けの学生寮の運営とか,こういうものですと,公益目的のその信託事務について適切にできる力というのが望ましいと思うのです。
  そうすると,受託者が二人いて,あるいは二人に限らないのですが,複数いるというケースを個人が受託者になる場合には容易に想定できるだろう,あるいはそうするとうまくいくだろうと考えられます。そのときに,最後,受託者の範囲に戻りますと,ここに要求されているのをその二人について,どちらについてもそれを要求するとなると,今申し上げた信託について詳しいという人と,美術館運営について詳しいという人がタッグを組んでも,あなたは美術館運営については詳しいが信託について詳しくないではないですかとして,受託者としての要件を欠いてしまうということにならないように,受託者が複数いるときには受託者のチームで,ここに求められている受託者の要件を満たすように,そういうふうな考え方ができるようになると,適正な形で公益信託を広く使えるようになるだろうと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案は一定の法人と自然人が共同受託するというのが原案ですけれども,今のお話ですと,個人が二人でもよいということになるのでしょうか。
○山田委員 丁2案に限ってということではなくて,別の考慮から一人は法人でなくてはいけないという考え方を採るのであれば,それに強く反対するものではないのですが,複数の受託者がいたときには複数の受託者を合計してこの要件を考えて,一人一人についてここで要求している要件をそれぞれが満たさなければいけないという考え方を採らないことができれば,それが望ましいと思うということです。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○明渡関係官 また,行政実務の観点からということでありますけれども,今の公益法人の公益認定に当たっては,個人,自然人については理事・監事とありますけれども,これがむしろ欠格条項に当てはまるかどうかというような形でネガの方だけを見ております。ポジとして能力がある,ないというような形の評価というのは,公益認定の中では出てまいりません。ここの20ページの上の方でお書きいただいているんですけれども,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が実質的に認定することといった場合に,個人が能力があるというようなことをその行政手続の中で判定することというふうなことは,かなり具体的な要件というふうなものを定めておかないと,なかなか,実務的には難しいというふうな面が出てくるのではないかとは思います。
  とりわけ,ここでは外部の第三者機関と書いていますけれども,これは必ずしも国だけではなくて,今の実態においても各都道府県がそれぞれ許可していますと。それで,都道府県においては今まで1件もないところもあったんだろうと思います。そういったところが,個人の能力というところをどのように判断できるのかというような実務的な観点というのが,制約要件となってくるのではないかと考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野幹事 これも念のために確認させていただきたいという趣旨ですが,第3の受託者の範囲というのも認定の基準としての受託者ということであって,公益信託の受託者たる資格ではないという理解でよろしいでしょうか。その資格を欠くということになると,無効になるというような話が出てくるように思われますし,それから,認定ですと,山田委員がおっしゃったようなトータルで受託者が備えているかという判断はなじむと思うのですが,資格というと両者でというのはなかなか判断がしにくいと思いますので,認定の基準と理解しておりますが,それでよろしいのかということが1点目です。
  もう一つは,付随的な公法人の問題なのですけれども,積極的に排除するまでの必要性はないという考え方が資料にも書かれておりまして,私自身も公法人が公益信託であえて認定を受けて,公益信託をするというようなことがあるのだろうかというのがよくは分からないところです。せいぜい,目的信託としてできれば十分ではないかという気もいたします。
  もっとも,目的信託として公益の信託ができるかというのは,最初の方で現行法上は問題があるということですから,その障害が排除されるならば,それで十分かなという気もしておるのですけれども,しかし,一方で受託者になるという点が当初の受託者という場合と,途中のといいますか,暫定的なといいますか,そういう途中から受託者になるという可能性もあるように思われます。そうすると,必ずしも認定という点とは掛かってこないのかもしれませんが,追加の認定を受けるのかもしれませんけれども,例えば公益信託で,しかし,受託者の変更が必要となったようなときに暫定的に受けるとか,そういうようなことがあるのかどうかということも気になっておりまして,そうしたときに,余り考えられないけれども,あえて積極的に排除するという必要性まであるのだろうかという点がなお気になっております。
○中田部会長 第1点についてはいかがですか。
○中辻幹事 沖野幹事の御理解のとおり,部会資料の第3で記載した公益信託の受託者の範囲は,このような認定基準を設けるべきか否かという意味で挙げているものです。認定基準を満たさなかった公益信託の効力について解釈に委ねるのか,あるいは法律上明確にしておくべきなのかは,別途考え込む必要があると思います。
  それから,公法人,国とか地方公共団体の話ですけれども,公益信託法改正研究会でも少し議論になったところですが,国や地方公共団体が永続的に公益信託の受託者になるというのは余り想定し難いのかなと。ただ,まちづくりを目的とする公益信託で,国又は地方公共団体が,当初あるいは途中の受託者として土地を集めて,それを民間に引き渡すようなつなぎの役割を果たす可能性もあり,そういう需要が考えられるのであれば,あえて公法人を公益信託の受託者として否定する必要もないとも考えまして論点として挙げさせていただいているところです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。もし追加がございましたら。
○沖野幹事 では,これも念のための確認ですが,受託者の変更があるような場合には,改めてその段階で追加に認定というか,新規の認定というかを受けるということになるのでしょうか。
○中辻幹事 そのとおりでして,公益信託の認定の際に受託者としての適格性を審査されていない方が変更により途中で受託者として入ってくるということになれば,そのときは追加の認定が必要になってくるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○神田委員 公益信託の場合と,それから,公益信託でない目的信託の場合,一般の民事信託の場合という辺りはバランスをとる必要があると思いますし,他方,業法との関係も考え方を整理する必要があると思うのですけれども,うまく言えないのですけれども,もし自然人が単独でなることはできないというか,そういう方向になっていくのだったら,丁2案というか,そういう人であっても,ありていに言えば,信託銀行と一緒にならいいでしょうという方向はあるように思います。
  なぜなら,信託銀行なのか,信託会社なのかはありますけれども,分かりやすくいえば,信託銀行は今,単独で受託できているわけですから,それに加えて自然人がもう一人加わるということで,共同というか,複数受託というか,言葉の問題はともかくとしまして,財産の管理ですとか,濫用の防止というところは信託銀行が担うわけで,もし,そういうスタイルであれば全く自然人を排除するということは言わなくていいので,セットで認定しますということはあっていい方向だと思います。もちろん,自然人が単独で可能だということでいく場合は,また,話が変わってくると思いますが。それは難しいという線で先に進むのであれば,一緒ならいいのではないでしょうかということは,あっていいという感じを持ちます。
  業法についても1点だけ,この部会の対象ではないと思いますけれども,業法は難しいのでよく整理しないといけないとは思いますけれども,私の無知かもしれませんが,現在,信託銀行がしておられる各種業務のうちの公益信託という業務について,業法の監督の適用除外になっていることはないですよね。ですから,バランスの問題があるので,おそらくどちらへそろえるということでもいいかとは思うのですけれども,一つの考え方としてイメージだけを申し上げますと,例えば自然人が信託銀行と一緒にやる場合には,その自然人について業法上の特別扱いを認めるとか,そういう方向も考えられると思います。単独でできるという方向で進む場合には,余り私が今,言ったようなことを考える必要はないということにはなると思いますけれども,難しいという方向で進む場合に,自然人でニーズがあるということであれば,それは信託銀行と一緒にどうでしょうかという方向は,十分,あり得る考え方だと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。丁2案の場合には,法人については甲案から丁1案までの幾つかの可能性があるということですが,もし,これがよかろうという御意見があればお出しいただければと思います。あるいは留保ということでも結構でございますが。
○神田委員 では,一言だけ。私の個人的な感触としては,例えば数年間やってみて様子を見たらどうでしょうかというかという感じがあります。つまり,自然人は駄目だというのは,これも公益信託の場合がどうかというと,先ほどの軽量・何とかというのから必要はないのかもしれませんけれども,そういうニーズがあるとすれば,現在はできないわけですから,できるとするときに,当面,信託銀行と一緒にやるということでどうですかということだとすれば,今の丁2案というのも最初は信託兼営金融機関と限定してでもいいと思います。だんだん,広げていってもいいし,様子を見ながら試行錯誤でやれるという,そういう法制度が作れれば個人的には理想だと思っています。そういういいかげんな法制度は作れませんということだと,どこかに決めるということで,比較的,慎重なところでやるというのが現実的かなと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  そのほか,いかがでしょうか。
○新井委員 五つの案が出ていまして,私は個人的には丙案がいいとは思うのですけれども,公益信託の受託者の範囲を論ずる本当の意義としては,公益信託をこれからどう普及させていくかが重要です。それを考えると,従来の金銭給付型ではなくて,新しい公益信託の展開というのを目指さなければいけないと思います。だから,福祉型の公益信託であるとか,後見型公益信託あるいは子ども食堂型公益信託ですか,そういうものを目指さなければいけないと考えると,少し範囲を広げてもいいのかなと思います。
  そうすると,丁1案は法人又は自然人で,丁2案の方は自然人と共同受託を法人ができるということなので,先ほど中辻幹事の方から,これは認定基準だというお話がありましたので,認定基準ということであれば,こういう多様な可能性を残すことも一つ可能ではないでしょうか。自然人の方でどこまで信託の内容をきちんと作り上げて,認定を求めてくるかということで,その法的効果はどうかという問題はあるにしても,そういうことで公益信託普及のインセンティブを与えるというのも,一つの政策的判断なのかなという気もしております。ですから,丙案と丁1案と丁2案,これをミックスすることはできないでしょうか。選択肢として丁2案の共同受託,これも選択肢として入れるということで,丙案と丁1案,2案の合体案,その二つぐらいを残して,更に検討していただくのはどうでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 1点だけ,丁2案に関連するんですが,共同受託者という言葉が受託者の責任という,先ほど神田委員から信託銀行と一緒にという話がありましたけれども,信託銀行は能力が不確かなある自然人と共同受託者になって,その責任を共同で負うというのは,恐らく金融機関としての立場からはなかなか採り難いと思うところもあるのではないかと思います。ですから,共同受託という意味は,もちろん,共同であってもいいですし,私が先ほど述べましたように,特定の業務ということで第三者委託ということでもいいというような丁2の何とか案というんでしょうか,丁2案のままでは共同という言葉が強すぎるのかなと思います。もちろん,山田委員がおっしゃられたように,自然人の場合には恐らく何人かで共同で受託するのがふさわしいのでしょうけれども,その自然人が専門家たるどこかの法人とか機関に頼むというときは,共同ではなくて第三者委託という選択もあるのではないかと思います。丁2案というものを余り硬直的に考えない考え方もあり得るのではないかというような考え方です。
○中田部会長 第三者委託については,吉谷委員から丙案と組み合わせる形の第三者委託という御意見を頂いたんですが,小野委員はむしろ丁1案と組み合わせるということになるんですか。
○小野委員 多様な公益信託がある中で,金額が小規模で別にいろいろな方が関与することによって,いろいろなコストが掛かるかもしれませんから,必ずそうしなければいけないというわけではないという意味においては,丁1案と必ず組み合わせるというわけではありませんけれども,状況によっては丁1案と組み合わせる,状況によっては丙案と組み合わせる。ただし,丙案を採ったとしても別に丁案を排斥する趣旨ではないので,そういう意味においては,丁1案と組み合わせることが適切な状況もあるかもしれないという趣旨です。
○中田部会長 ありがとうございました。
○能見委員 先ほど個人の場合については,意見を留保していたのですけれども,その部分について意見を述べたいと思っています。結論を躊躇していたことについては,いろいろな理由があるのですけれども,本来は,個人について受託者となれるように,受託者の資格要件を広げるのが,望ましいのだろうなと思っております。アメリカのようなやり方というのが望ましいと思っています。しかし,個人について,その者がそれぞれの公益信託の受託者としてふさわしいかどうかの判断基準は,なかなか設けにくい。そこで基準を設けずに,第三者機関が受託者の適否を判断するということになるのも適当でない。基準がないところで第三者機関の裁量的な判断に任せるというのも適当ではない。しかし,客観的な基準が書けるかというと,これもなかなか書きにくい。それから,先ほど委員のどなたかから御意見がありましたように,弁護士などの資格を有することから,公益信託を管理運営する能力がある,という判断の仕方もあるかもしれません。しかし,これも簡単ではない。弁護士はよいとしたら,司法書士はどうなるか税理士はどうか。いろいろな問題が次から次へと出てくる気がしますし,なかなか,意見を決めかねているところであります。
  しかし,現在直ちには難しくても,将来的には自然人についても公益信託の受託者となれるように公益信託の受託者の資格要件を広げるのが望ましいと思っていまして,その観点からすると,先ほど神田委員が言われたように丁2案というのを併用してというのでしょうか,私の場合は法人については一定の基準を設けるわけですが,丁2案というのを併用することで,自然人が受託者となる道を開けておくというのはどうかと考えます。
  丁2案の場合に,この案自体もそうなっていると思いますが,そこでは自然人について何か積極的に管理運営能力であるとか,何か一定の基準を満たすということを積極的に要件として書くのではなくて,欠格事由という形で対応するということでいいのではないかと思います。また,信託銀行と組むということについてですが,これはなかなか難しい点もあると思いますが,別に信託銀行ではなくて構わないわけで,たとえば丙案の下で基準を満たしている法人と自然人が一緒に受託者になるというようなことが可能になる,そういう道を開くのはいいことだと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○長谷川幹事 自然人と法人を分けて議論することには余り意味がないような気がしています。その上で,甲,乙,丙,丁の各案について,期待される能力といった場合に,適切に信託を管理できるスキルとかという話と,財務能力みたいな話があるのではないかなと思われます。財務能力については,多分,第三者に対する責任とか,そういうのを念頭に置くということなのではないかと思います。甲,乙,丙については,それぞれ,信託を管理できるスキルだけではなく,財務能力というようなものもみている気がするのですが,丁案についてだけは財務能力の要件がない感じがしています。純資産をいくら持っていますとか,あるいは財務能力を開示していますとか,そういう能力が仮に信託受託者に必要ということであれば,丁案についても財務能力の要件が必要なのではないかという気がいたしました。
  甲,乙,丙のいずれの案が良いかというよりも,能力に着目してこのスキルがあるかどうかとか,例えば財務能力があるかどうかというのを見るのがいいと思っているわけですけれども,そのうえで,先ほど能見委員とか,あるいは実務に携わっておられる明渡関係官がおっしゃられたような認定の際に簡単に判断できるかどうかという視点,あと,ガバナンスが簡素なものとなるかどうかという視点が重要になるのではないかなと思います。
○林幹事 繰り返しにはなりますけれども,神田委員もおっしゃられていたところと思いますが,まず,前提として丁1案で制度として耐えうるものができるか,それをまずしっかり検討していただきたいというのが1点です。ですから,丁1案ですと公益法人等,そういう法人も排除しないところですが,丙案は,法人に限るというのが反対するところであって,ただ,法人にせよ,自然人にせよ,何から制限するときに丙案のような制限を入れるのか,丁案のような制限を入れるのかというようなことかと思います。弁護士会の議論でも,自然人なんだけれども,丙案のように公益目的の信託事務を行うのに必要な経理的基礎とか,技術能力を有することという要件を立てるという意見もありましたので,それは一つの考え方かなと思います。
  いずれにせよ,信託事務を適切に行っていく資質なり能力なり,あるいは経済的な規模かもしれませんけれども,そういうのが必要だというのはそのとおりなので,あとは条文の書き方なのだと思います。丁案は抽象的だと言われますが,丙案も十分に抽象的なのではないかなという気がします。ただ,公益法人において今,現にそれをやっているからできるんだと言われるのかもしれませんが,それは要するにやり方をいかに工夫するか,工夫次第で可能であるという問題と思います。
  あとは,先ほど個人では財産的基盤はどうかという御指摘がありましたが,一面は不祥事問題とか,いろいろ,心配するところはありますけれども,それは自然人なりの在り方にもよるかもしれません。それこそ,複数件を受託するから業法的な手当もするような前提であれば,適切な保険を工夫するとか,やり方はあると思うので,そういうことも頭に入れながら議論していただきたいと思います。
○稲垣幹事 総務省でございます。公益信託の関係で極めて例外的な事例ですけれども,外務省所管の公益法人で受託者が個人となっているものが1件ほどございます。詳細は資料がございませんので,詳しくは申し上げられませんけれども,昭和53年に許可されたものでございます。また,その事業の内容が実は助成事務ではございませんでして,外国との高校生の交換留学事業を行っております。これ1件だけでございますけれども,そういう事例もございますので,一応,御参考までに御紹介させていただきました。
○中田部会長 ありがとうございました。今のは外務省所管の公益信託の例でございますね。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○中辻幹事 今,総務省さんの方から御紹介のあった外国の高校生との交流を深める目的の公益信託について,確かに個人を受託者としてはおりますが,実際には一人の個人のみで交換留学事業を運営しているわけではなく,昔でいう権利能力なき社団ではないですけれども,ある程度の規模を持つ運営団体があって,その代表者である個人が名義上公益信託の受託者として設定されているものと記憶しておりますが,そのような理解でよろしかったでしょうか。
○稲垣幹事 その点はご指摘のとおりです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 先ほど丁2案のことについては触れなかったんですが,共同して受託するということも,もちろん,それ自体はあり得ると思います。排除する必要は全くないと思うんですが,丁2案は必ず共同でということで,なおかつ,パートナーが甲,乙,丙ないし丁1案の要件を満たす法人ということなので,そこまで必須の要件としてしまうと,制度として先ほど来,出ております軽量・軽装備という趣旨からは離れてしまって,使いにくくなるのではないかと思います。そういうことがふさわしい事例もあるとは思いますが,必須の要件にするということについては反対したいと思います。
  そういう意味で,例えば先ほど来,出ている美術館の例をとれば,美術品に対する知識であるとか,美術品の保管等に関する知識というものがないときちんとした運営はできないでしょう。そういう人を委託者がこの人なら信用して任せたいという人がいれば,自然人であるからという理由でそれを排除する必要はない。もちろん,第三者委託でも似たようなことはできるのかもしれませんが,そうすると,それはそれで必ず第三者委託とセットとした仕組みになってしまって,より端的にこの人ならという人がいる場合に,あえてそういう構造にする必要はないだろうと思います。
  それは別に美術館の例に限らず助成型の信託であっても,例えば一定の研究助成であっても,どの研究機関でどういう助成をするかについては,恐らく今は運営委員会の意見を踏まえて運用されているんだと思いますし,信託銀行自身は,それは判断できませんということだと思います。しかし,運営委員会という制度を作るのも,私は今後,議論になれば反対したいと思いますし,それを少なくとも必置の機関とすることについては反対したいと思いますが,そういうことを必ずしなければならないとなると,装備としては重くなる。小規模なものでも低コストでできるということからは反していくということです。一定の助成をする先を判断する能力のある人がいるのであれば,その人が受託者になればいいのだろうと思います。第三者委託するまでもなく,受託者本人ができればいいのではないかと。
  要はそういう場合もあるのだろうから,それを排除する必要はないということであって,いろいろなケースがあるし,メニューとしてはいろいろ豊富にそろえたらいいと思うんですが,必ずこうしなければならないということにはすべきではないという意味で,自然人を是非入れるべきだという意見でございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 現行の実務の話をさせていただくと,この人ならという方がいらっしゃる場合に,今は,その方に運営委員になっていただいていると。運営委員というのも一つの組織として作られていて,運営委員の方ができなくなりましたというような場合には,運営委員会の規則というのもお作りいただいて,後任について決める手順とかもしっかりと決めていくということで,運営委員会であったとしても,そういうガバナンス的な要素というのは非常に重要で,そういうことをあらかじめ信託契約なのか,計画なのかというところできっちりと決めていくというようなことを今でもさせていただいているという意味で,受託者でなければいけないのかというところも反面の議論ではないかなとは思われます。そして,受託者に技術的な能力が必要ですという点もあるのかもしれないのですけれども,反面で,信託は財産管理の仕組みでありますので,財産管理の能力は少なくとも受託者にはなければならないということも言えると思います。
○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。
  この第3については,なかなか,本日の段階では御意見は集約するところまではきておりませんけれども,様々な論点があるという御指摘いただきました。例えば能力といっても2種類あるんだということは,平川委員,山田委員,長谷川幹事から御指摘のあったことですし,認定基準やガバナンスとの関係,その判定の方法という視点が必要ではないかとか,あるいは受託者となる以外の個人の関与の仕方があるのかどうか,あるとしてそれに限るのかどうか,こんな御議論があったと思います。あとは業法との関係や,国や公共団体についてどうするのかについても御議論いただいたと思います。この点については,本日の御議論を踏まえて事務当局の方で更に検討の上,また,次の機会に御提案させていただくということになろうかと思います。
  全体に大体よろしいでしょうか。
○道垣内委員 後で申し上げてもいいんですが,忘れがちなタイプなものですから,一言,言わせてください。12ページの「3 信託財産の範囲」というところがあるのですが,これは当初の信託財産の範囲ですよね。というのは,設定された後に国債に変われば,それは信託財産ですから現在でも金銭に限定されていないわけですね。ゴシックの部分はそう書いた方がいいのではないかと思います。
  補足説明の中の3行目の引受け当初というのが,何か信託銀行が主体になっている言葉なので私は嫌です。設定当初と書くべきではないかなと思います。当初受託財産という言い方も自分勝手な言い方で,あれは当初信託財産というべきだと思っています。
○中田部会長 御指摘をありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
○沖野幹事 公益信託で規律自体は一律だといっても,一方で多様な公益信託ということが言われ,様々なものが例として挙げられているかと思います。そして,今回の資料におきましては従来型の助成型というものと,言わばフルタイプの事業の美術館経営,建物を建てるというところから開始するタイプのもの,それとあと,学生寮の話が事務のところで出てきました。それから,余り具体例は挙げられておりませんけれども,歴史的な建造物の保存・維持というのがありました。
  一方,議論の中では能見委員から出されたナショナルトラスト型の緑地保全とか環境保全とか,そういうものというのは恐らくただ粛々と土地をそれがほかのものに使われないように保存するとか,維持するとか,比較的,事務処理としては薄目の事務処理といいますか,そういうタイプのものが一つ考えられるのではないかと思いますので,事例とか例を出されるときに,一つのタイプとしてナショナルトラスト型,緑地・環境保全型の不動産を保持するというようなタイプのものも,一つ入れておいた方がいいのではないかなと考えております。今後の規律などを考えるに当たって有用かと思いましたので,一言,申し上げたいと思います。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかはよろしいでしょうか。
  それでは,最後に次回の議事・日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回からはいわゆる各論として,公益信託の定義や具体的な認定基準の内容についての御審議に入っていただくことを予定しております。そのため,次回の部会資料では,公益信託の定義と具体的な認定基準の半分くらいまで論点として取り上げます。次回の日程は,平成28年9月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省で開催します。具体的な部屋につきましては,事務当局で確保でき次第皆様にお伝えいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-
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